デジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプ
【課題】 ランプ点灯後、長時間にわたって陰極の先端面に凹凸ができるのを防止して、フリッカー現象の発生を長時間抑制した使用寿命の長いキセノンショートアークランプを提供すること。
【解決手段】 デジタルプロジェクター用のキセノンショートアークランプにおいて、陽極と、電子放射性物質を備えたタングステンからなる陰極本体を備えた陰極と、石英ガラス製の発光管とを具備し、前記陰極先端領域を除く前記発光管の内部の金属部位に炭素の供給源を備え、ランプ点灯中、前記陰極先端に気相を介して炭素が供給され、当該陰極の表層が溶融すること、を特徴とするか、若しくは、前記陰極は、先端面における表層に、タングステン(W)の相中にタングステンの炭化物の縞状の相を有してなること、を特徴とする。
【解決手段】 デジタルプロジェクター用のキセノンショートアークランプにおいて、陽極と、電子放射性物質を備えたタングステンからなる陰極本体を備えた陰極と、石英ガラス製の発光管とを具備し、前記陰極先端領域を除く前記発光管の内部の金属部位に炭素の供給源を備え、ランプ点灯中、前記陰極先端に気相を介して炭素が供給され、当該陰極の表層が溶融すること、を特徴とするか、若しくは、前記陰極は、先端面における表層に、タングステン(W)の相中にタングステンの炭化物の縞状の相を有してなること、を特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばDMD(デジタルマイクロミラーデバイス:登録商標)を使用したDLP(デジタルライトプロセッシング:登録商標)技術を利用したデジタルプロジェクターにおいて光源として用いられるデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、映画館での上映システムでは、標準的に35ミリのフィルムをアパーチャーを介して照射し、スクリーン上に投影するフィルムプロジェクターが用いられてきた。図9は、フィルム用のプロジェクターの構成を説明する図である。フィルム71は、連続した内容を表す映像フレーム(以下、単にフレームという)が一定間隔で記録されたものである。このフィルム71は、不図示の走行機構によって搬送され、ピクチャーゲート部72を上部から下部に向かって通過する。光源装置73から集光された光がピクチャーゲート部72に形成されたアパーチャーを通過し、フィルム71に記録されたフレームを照射する。
フィルム71上の1つのフレームの寸法は、例えば約24×18mm、対角約30mmという大きさである。そのため光源装置73は、フィルムの領域を効率よく照射するためにも、直径約30mmの円の大きさとなるよう、光源ランプからの光を効率よく集光できる構成を具備したものでなければならない。
【0003】
従って、光源装置73は、光源ランプとしてのキセノンショートアークランプ73a(以下、キセノンランプともいう。)と、その後部に配置された反射鏡73bとを備えて構成されている。そして、反射鏡73bは、キセノンランプ73aから放射された光を、上述した直径約30mmの円の大きさに集光する回転楕円面からなる反射面を備えて構成される。キセノンランプ73aから放射された光は、同図中に示す光線経路のように、反射鏡73bによって反射され、第二焦点(F2)に集光され、フィルム71を通過し、投影レンズ74で拡大されて、スクリーン75上へ投影される。
【0004】
しかしながら、同図に示す光線経路は理想系であり、実際には、キセノンランプ73aのアークは点光源ではなく、有限の大きさを持つ。このため、アークからの全ての光線が一点に集光されることはなく、第二焦点の位置においても、ある大きさの円内を照射することになる。そして、その第二焦点の位置における照射面積は、楕円鏡が同じであれば、アークの断面積(横から見たときのアークの面積)に概略比例して大きくなることが知られている。
【0005】
このようなことから、フィルムプロジェクター用の光源として、直径約30mmの円内を照射するために、アーク長が約3〜7mmのキセノンランプが用いられている。なお「アーク長」は、ランプの定常点灯時における電極間距離と等しい。
更にこのようなフィルムプロジェクター用のキセノンランプの仕様について数値例を挙げると、例えば定格消費電力が、0.9〜6.0kWであり、陰極の先端径は、0.6〜1mm、封入キセノン圧力は0.6〜0.9MPa、陰極先端における電流密度は76〜110A/mm2であり、管壁負荷は18〜29W/cm2である。
これらの数値例に関し、定格消費電力が4kWのフィルムプロジェクター用キセノンランプを例に具体的数値を列挙すると、アーク長は6mm、陰極の先端径は0.9mm、封入キセノン圧力は0.7MPa、電流密度は108A/mm2であり、管壁負荷は25W/cm2である。
なお、上記において「電流密度」とは、ランプ電流を陰極先端から0.5mmの位置の断面積で除した電流密度であり、「管壁負荷」とは、ランプ電力を発光管部の内表面積で除した単位面積あたりの電力である。
【0006】
キセノンランプは、高輝度の光を放射することから、電極先端温度が極めて高温になる。このため、電子を放射する陰極の先端においては損耗が激しい。電極先端が損耗し、陰極の先端面に凹凸が形成されると、アーク放電の起点が凸部と凸部の間で移動する現象、いわゆるフリッカーが発生する。このフリッカーが発生すると、ランプの輝度分布が変動して、スクリーン上にちらつきとなって現れる。
【0007】
このようなフリッカーの発生を回避するため、すなわち、長時間にわたって安定した放射光を得るため、キセノンランプにおいては改良が重ねられてきた。
例えば、陰極は、電子放射性物質の中でも融点の高いトリア(ThO2)が添加されたタングステンを用い、先端側領域を除いて炭化タングステン(W2C)よりなる炭化層を、例えば8〜30μmという厚みで形成している。この炭化層を形成することで、ランプ点灯中、陰極中に添加された電子放射性物質(例えばトリア(ThO2))が、炭素によって還元されてトリウム(Th)が生成し、陰極の先端面にトリウム(Th)を効率よく供給することができるようになる。
このような技術については、例えば特開平10−283921号公報等に開示されている。
【0008】
なお上記炭化層に関して陰極の先端部に形成しない理由(形成してはならい理由)は、陰極の先端部の領域が約2900℃という高温に到達するため、融点の低い炭化タングステン(W2C)が存在すると、早期に溶融して、電極が損耗したり、発光管が黒化して放射光の強度が低下したりして、早期にランプの寿命が到来するからである。
上述したフィルムプロジェクター用のランプにこのような技術を採用し、最適化したキセノンランプにおいては、ランプの容積あたり炭素量が、0.5〜1.8μmol/cm3という範囲である。
【0009】
また、発光管には通常石英ガラスが使用されており、ランプの点灯に伴い、石英ガラスに含まれるOH基などをもとにランプ内に水が放出されると、始動電圧の上昇や発光管の黒化といった問題が生じることがあるため、標準的にOH基濃度の低い発光管が使用されている。このような発光管は、発光管を膨らませる成形工程において、乾燥した気体(N2)を用いることにより、OH基濃度を成形前の原材料の水準に維持している。
【0010】
こうして改良を重ねたキセノンランプは、フリッカー寿命が3500時間程度であって、十分に長い使用寿命を実現できると共に、始動性がよく、黒化についても改善されたものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−283921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、映画館の上映システムにおいては、近年、映像品質が向上するデジタル技術を用いた高度なCG化が可能になり、フィルム劣化が無く、フィルム作製に伴うコストを削減できる、といった利点から、デジタルシネマが普及し、これにあわせてDLP(デジタルライトプロセッシング:登録商標)技術を利用したデジタルプロジェクターへの置き換えが急速に進んでいる。
【0013】
このようなデジタルプロジェクターの構成例を図10に示す。このデジタルプロジェクター80においては、キセノンランプ81からの光を楕円反射面をもつ反射鏡82によって集光し、カラーフィルタ83、インテグレーターロッド84、および集光レンズ85a,85bを介してDMD(デジタルマイクロミラーデバイス:登録商標)と呼ばれる画像素子を照射する。そして、DMD86によって反射された光を投射レンズ87によってスクリーン88上に投射し、映像を映し出す。
【0014】
このようなデジタルプロジェクター80においては、キセノンランプ81からの光を、高い効率で集光してインテグレーターロッド84の端面に入射させなければならない。このように光を高効率に集光させなければならない理由は、通常インテグレーターロッド84の端面は、DMD86と同程度の寸法であり、対角で0.7〜1インチ(17.8〜25.4mm)程度と小さいため、従来のフィルム用のプロジェクターと同程度の明るさの映像をスクリーンに映し出すには、フィルム用プロジェクターの場合と比較して、面積で35〜70%という小さい範囲に集光させなければならないからである。
【0015】
反射鏡82による照射面積は、アークの断面積に略比例することから、デジタルプロジェクター用のキセノンランプ81は、アーク長を短くし、かつ、アークを細くするため、封入キセノン圧力をいっそう高めたものを用いる必要がある。
この結果、キセノンランプ81のアーク長は約2〜7mmとなり、またそのキセノンガスの封入圧力は、常温換算では1MPa以上、具体的には1〜2MPaの範囲のものが要求される。
そして、ランプ点灯時の高い動作圧力に耐えるため、発光管を従来よりも小型化する必要性が生じ、結果的に、デジタルプロジェクター用のキセノンランプの管壁負荷は、30W/cm2以上にまで高まり、具体的には30〜40W/cm2という範囲のものが要求される。これは、従来のフィルムプロジェクター用のキセノンランプと比較しても、格段に高いものである。
【0016】
なおここで、反射鏡82による照射面積を小さくするための方法として、楕円反射面の焦点間の距離(F1〜F2の距離)を短くすることも考えられる。しかしながらその場合、光軸89に対して大きな角度をもつ光線の割合が増えて、DMD素子に到達しない光線が増え、光の利用率が低下することになり、この方法を採用することができない。言い換えると、照射面積が小さくなった場合に、光学系を工夫するのみでは、集光効率を高めることは難しい。
【0017】
また更に、デジタルプロジェクターにおけるより明るい映像への要求から、キセノンランプ81にはランプの光出力を増やす必要がある。このため、アークからの光線のうち陰極によって遮られるものを減らすという観点から、従来のものより陰極先端径が小さいものが要求され、デジタルプロジェクター用のランプにおける陰極先端径は従来のものよりも小さく、例えば0.35〜0.7mmになっている。
この結果、陰極先端における電流密度もまた高くなり、具体的には119A/mm2以上、実用的な範囲では119〜210A/mm2となっている。
このような仕様に関して、定格消費電力が4kWのデジタルプロジェクター用のキセノンランプを例に具体的な数値を挙げると、アーク長は3.5mm、陰極の先端径は0.6mm、封入キセノン圧力は1.8MPa、電流密度は119A/mm2であり、管壁負荷は37.5W/cm2となっている。
なお、「電流密度」とは、上述したようにランプ電流を陰極先端から0.5mmの位置の断面積で除した電流密度であり、「管壁負荷」とは、ランプ電力を発光管部の内表面積で除した単位面積あたりの電力である。
【0018】
以上のデジタルプロジェクター用のキセノンショートアークランプの特徴を要約すると、封入キセノンガスの圧力が高いこと、高い動作圧力に耐えるため発光管が小型化された結果、管壁負荷(ランプ電力を発光管の膨らんだ部分における内表面積で割った値)が高いこと、陰極先端径を小さくした結果、電流密度が大きくなっていることを挙げることができる。このような事項について、具体的な数値を用いて述べると、キセノンガスの封入圧力が1MPa以上、管壁負荷が30W/cm2以上、陰極の先端面の電流密度が119A/mm2以上という、非常に厳しいスペックが要求される。
そして、上述したような仕様を満足しようとすると、キセノンランプは陰極の先端温度が更に上昇し、陰極先端部の消耗と変形の進行が著しく速く、ランプ点灯後、短時間で陰極の先端面が大きくなって凹凸が形成され、早期にフリッカーが発生してしまう。
そして、従来公知の技術、例えば、炭化層の形成や陰極先端の形状により、キセノンランプのフリッカー寿命の改善を図ったとしても、点灯後わずか200〜350hという極めて短い期間で寿命が到来してしまう。
【0019】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、ランプ点灯後、長時間にわたって陰極の先端面に凹凸ができるのを防止し、フリッカー現象の発生を長時間抑制した使用寿命の長いデジタルプロジェクター用のキセノンショートアークランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
(1)
上記課題を解決するため、本発明に係るデジタルプロジェクター用のキセノンショートアークランプは、
陽極と、
電子放射性物質を備えたタングステンからなる陰極本体を備えた陰極と、
石英ガラス製の発光管とを具備してなり、
前記陰極先端領域を除く前記発光管の内部の金属部位に炭素の供給源を備え、
ランプ点灯中、前記陰極先端に気相を介して炭素が供給され、当該陰極の表層が溶融する
ことを特徴とする。
(2)
または、本発明に係るデジタルプロジェクター用のキセノンショートアークランプは、
陽極と、
電子放射性物質を備えたタングステンからなる陰極本体を備えた陰極と、
石英ガラス製の発光管とを具備してなり、
前記陰極は、先端面における表層に、タングステン(W)の相中にタングステンの炭化物の縞状の相を有してなる
ことを特徴とする。
(3)
前記デジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプは、
前記発光管の内部に封入されたキセノンガスの封入圧力が1MPa以上、
管壁負荷が30W/cm2以上、
前記陰極の先端面の電流密度が119A/mm2以上である
ことを特徴とする。
(4)
前記デジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプは、
前記発光管の内部に、炭素(C)に換算して発光管の内容積1cm3あたり2.4μmol/cm3以上の炭素および/または炭化物を備えている
ことを特徴とする。
(5)
前記デジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプは、
前記発光管における内表面のOH基濃度が100wt−ppm以上である
ことを特徴とする。
(6)
前記デジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプは、
前記発光管に含まれるOH基の量は、ランプの内容積1cm3あたり0.15μmol/cm3以上である
ことを特徴とする。
(7)
前記デジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプは、
前記発光管の内部にタンタル若しくはタンタル化合物よりなるゲッターを設けてなり、
前記ゲッターに含まれるタンタルは、前記炭素に対するモル比が11以下である
ことを特徴とする。
(8)
前記デジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプは、
前記発光管の内部にタンタル若しくはタンタル化合物よりなるゲッターを設けてなり、
前記ゲッターは、ランプ点灯中、当該ゲッターの到達温度が1400℃以上になる部位に取り付けられている
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
(1)
本願第1の発明に係るデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプによれば、ランプ点灯中に気相を介して炭素が陰極先端面に供給されることにより、タングステンと反応して表面にタングステンの炭化物を生成させることができ、このタングステンの炭化物が溶融する結果、陰極先端の形状を変えることなく、先端部分のみが溶融し、表面張力によって滑らかな球面を再形成させることができる。この結果、陰極先端に凹凸が形成されにくくなり、アークのチラツキに由来して生じるフリッカー現象の発生が長時間抑制され、使用寿命の長いデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプを提供することができる。
(2)
本願第2の発明に係るデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプによれば、ランプの点灯中、タングステンの炭化物が溶融する結果、陰極先端の形状を変えることなく、先端部分のみが溶融して表面張力によって滑らかな球面を再形成することにより、ランプ消灯後、陰極先端の表層に、タングステン(W)の相に、複数の線状のタングステンの炭化物が縞状の相となって形成されるようになる。このようなキセノンショートアークランプによれば、陰極先端に凹凸が形成されにくく、アークのチラツキに由来して生じるフリッカー現象の発生を長時間抑制することができ、使用寿命の長いデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプとすることができる。
(3)
本願第3の発明によれば、前記発光管の内部に封入されたキセノンガスの封入圧力が1MPa以上であり、管壁負荷が30W/cm2以上、前記陰極の先端面の電流密度が119A/mm2以上であるので、対角で0.7〜1インチ(17.8〜25.4mm)という小さい領域に集光しなければならないような場合でも、光の利用率を高め、スクリーン照度を十分に高く維持することができ、デジタルプロジェクター用として好適なキセノンショートアークランプを提供することができる。
(4)
本願第4の発明に係るデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプによれば、炭素(C)を十分に備えているので、炭素を陰極先端に確実に供給することができるようになるので、長時間にわたって陰極の先端に、タングステンの炭化物を生成させることができるようになる。この結果、陰極先端を大きく溶融させることなく、先端の表層のみを溶融させることができ、表面張力によって滑らかな球面を再整形するため、陰極先端に凹凸が形成されにくくなり、フリッカー現象の発生が長時間抑制され、使用寿命の長いデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプとすることができる。
(5)
本願第5の発明によれば、発光管内表面層に含まれるOH基がランプ点灯中に発光管内表面から水(H2O)として発光管内に放出され、陰極または陽極に配置された炭素または炭素化合物と反応して一酸化炭素ガス(CO)を生成し、COが気相状態で発光管内を拡散するので、アークに到達したCOにより、陰極先端にタングステンの炭化物を生成させることができるようになる。
(6)
本願第6の発明によれば、COを生成するための水(H2O)を十分に備えており、確実にCOを気相状態で供給することができるので、長時間にわたって陰極の先端面における凹凸の発生を防止することができ、フリッカー現象の発生を長時間抑制した使用寿命の長いデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプとすることができる。
(7)
本願第7の発明によれば、タンタルゲッターを備えたデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプにおいて、タンタルゲッターのモル量をランプ内の炭素量に応じて制限することにより、水素ガス(H2)などの不純ガスをタンタルゲッターによって除去できて始動性に優れるという効果を維持しつつ、タンタルゲッターにより吸蔵されるCOの量を制御することができるので、確実にCOを気相状態で供給することができ、長時間にわたって陰極の先端面における凹凸の発生を防止することができ、フリッカー現象の発生を長時間抑制した使用寿命の長いデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプとすることができる。
(8)
本願第8の発明によれば、タンタルゲッターを備えたデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプにおいて、タンタルゲッターは、ランプ点灯中到達温度が1400℃以上になる部位に取り付けられているので、ランプ消灯時に吸蔵したCOをランプ点灯中放出することができ、陰極先端に確実にCOを気相状態で供給することができるようになる。よって、長時間にわたって陰極の先端面における凹凸の発生を防止することができ、フリッカー現象の発生を長時間抑制した使用寿命の長いデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態を説明するデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプの構成を説明する、断面図である。
【図2】本発明に係る陰極構造の先端部分の1実施形態を示す説明図である。
【図3】本発明に係る陰極先端の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図4】本実験例における、実施例、参照例の各ランプの仕様および各ランプのフリッカー寿命をまとめて示す表である。
【図5】参照例2にかかるランプ2の陰極先端形状の変化の様子を示す図である。
【図6】実施例3にかかるランプ6の陰極先端形状の変化の様子を示す図である。
【図7】実施例4にかかるランプ7の陰極先端形状の変化の様子を示す図である。
【図8】本発明の他の実施形態に係るゲッターの別の配置例を示す図である。
【図9】フィルム用プロジェクターの構成を説明する図である。
【図10】DLP用プロジェクターの構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の実施形態を説明するデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプ(以下、「キセノンランプ」または単に「ランプ」ともいう。)の構成を示す、説明用断面図である。
キセノンランプ10は、中央付近に設けられ膨らんだ形状のガラス管よりなる発光管部12およびその両端に連設された封止管部13を備えてなる石英ガラス製の発光管11と、発光管部12の内部において、各々先端が互いに対向するよう設けられた陰極14および陽極15により、構成されている。
陰極14における本体部分14aは、電子放射性物質を備えたタングステンからなり、陽極15における本体部分15aは、タングステンからなる。このように、電極の本体部分14a,15aを構成する材質として、主としてタングステンが採用される理由は、高融点であるという点、蒸気圧が低いという点、熱伝導率が高いという点で、本発明において優位な物質だからである。無論、ここでいう電極陰極本体14a,15aの材質については、各材質成分を100%備えたものに限定されるものではなく、不可避に混入する不純物を含有する場合を含むことはもちろん、陰極本体14aおよび/または陽極本体15aに炭化層や、その他の物質を付加的に設けるような場合をも、含んでいる。
このような陰極本体14a、陽極本体15aは、発光管部12の中央に位置されるよう、それぞれ電極棒14b,15bに装着されて保持されている。
電極棒14b,15bは、各々発光管部12と封止管部13の間の絞込み部13a内に固定された肉厚円筒状の石英ガラス体16の穴に挿通されると共に、封止管部13の両端に形成された段継ぎガラス部13bにおいて気密に封着されて保持されている。この電極棒14b,15bは、発光管11の外方端部から外方に突出して伸びており、当該キセノンランプ10に電力を供給する給電用のリード部分を兼ねている。また、発光管11の内部には、発光物質としてのキセノンガスが封入されている。
【0024】
このような本発明に係るデジタルプロジェクター用のキセノンショートアークランプは、標準的に下記の仕様を満足するものである。
キセノンの封入圧力が1MPa以上、管壁負荷が30W/cm2以上、陰極の先端面の電流密度が119A/mm2以上である。このようなスペック上の要求は、すべてDLP用のデジタルプロジェクターに使用される光源として、DMD素子と同程度の照射エリア、具体的には対角で0.7〜1インチ(17.8〜25.4mm)程度と小さい領域に高効率に光を集光すること、および、スクリーンをいっそう明るく照らすこと、の両方を満足するために、最低限必要になる。
また、上述した大きな電流密度を実現するためにも、陰極14に含まれる電子放射性物質としてはトリア(ThO2)を用いることが望ましく、陰極本体部分14aはトリエーテッドタングステンから構成されることが望ましい。
また、陽極15においても、陽極本体15aはアークを受けると共に、電子を受けとることで高温になることから、陽極本体15aの材質としては高融点のタングステンからなるのが望ましい。
また、このようなキセノンショートアークランプ10は、ランプの始動性を改善する目的で、発光管11の内部にゲッター17を配置することが望ましい。
【0025】
図2は、本発明に係る陰極構造の先端部分の1実施形態を示すものである。陰極本体14aにおける先端部分は、表面のテーパー面(稜線)を仮想的に結んだ先端のコーン角度が60°であり、先端の径が0.35〜1.0mmの範囲であって、太径部の径が4〜12mmである。陰極先端の径をこのように小さく形成することで、アークからの光線のうち陰極自身によって遮られるものを減らしてランプからの光出力を増大することができるようになる。
【0026】
陰極の先端において、アークの内部に取り込まれる部分に炭素(C)を供給するため、このキセノンランプ10には、発光管11内部に炭素が具備される。その一形態として、例えば図2に示すように陰極14aにおける先端の近傍に炭化タングステン(W2C)層141を設けることにより、炭素を配置することができる。
炭化タングステン層141が形成される部分は、例えば陰極14aの先端面から電極の軸Lに沿って少なくとも2mm後退した位置であり、層の厚みとしては30〜100μmである。このように陰極先端に炭化タングステン層141を形成しない(形成してはならない)理由は、融点の低い炭化タングステン(W2C)を、約30μm以上という厚み範囲で形成していた場合には、陰極先端部の溶融量が過大になり、陰極先端径が短時間で大きくなって輝度が低下するという問題や、炭化タングステン(W2C)の蒸発によって発光管内表面が黒化し、放射光の強度が低下することにより、早期にランプの寿命が到来するという問題が引き起こされるからである。
【0027】
発光管11の内部に炭素の供給源としての炭素または炭素を含む化合物を配置する手段としては、上述の形態に限定されるものではなく、発光管の内部における金属部分に取り付ける方法でありさえすればどのよう形態でもよく、例えば陽極本体15aに炭化タングステン(W2C)層を設けてもよいし、電極14,15における軸部14b,15bに炭化物を配置することでも実現できる。なお、陽極本体15aに炭化層を設ける場合には、陰極本体14aに設ける場合と同様、その先端部領域を除いて配置することが望ましい。
【0028】
発光管11の内部に固体状態の炭素または炭素を含む化合物を配置するのみでは、炭素を気相の状態として陰極14aの先端まで安定的に供給することを実現することは難しい。
炭素を、例えば炭酸ガスのような気相状態とする手段としては、種々の方法を検討することができ、その一例としては、発光管11内に酸素(O)を具備させることでCOを生成させることができ、炭素を確実に陰極先端面に供給することができる。
その一形態としては、発光管11を構成する石英ガラスにOH基を多量に含有させることである。その好ましい態様としては、発光管11の内表面に、OH基濃度が100wt−ppm以上である層を形成することである。この内表面層におけるOH基濃度とは、内表面から150μmまでの厚み範囲において、平均の濃度によって定義したものである。
また、更に好ましい形態としては、発光管11に含まれるOH基の量を、ランプの内容積1cm3あたり、0.15μmol以上とすることである。
【0029】
このようなキセノンショートアークランプによれば、発光管11内表面層の石英ガラスに含まれるOH基が、ランプ点灯中に例えば水(H2O)や酸素(O2)として放電空間内に放出され、発光管11の内部に具備された炭素の供給源(すなわち、炭素または炭素化合物)と反応し、一酸化炭素ガス(CO)を生成する。このCOが、発光管11内に気相状態で拡散することにより、その一部がアークの中に入る。COは、アークの中では高温のために分解されて、C+イオンを生成する。このC+イオンはアーク中の電界によって陰極先端面へ運ばれ、そこで陰極14aのタングステンと反応して、W2CやWCなどのタングステンの炭化物を生成する。このタングステンの炭化物は陰極14aの高温に曝され溶融するが、その溶融量はCが気相からもたらされたものであるために極めて少ない。そのため、陰極14a先端が短時間で大きくなって輝度が低下する問題や、タングステンの炭化物の蒸発によって発光管内表面が黒化するといった問題を生じることはない。
【0030】
そして、このような少量の炭素が存在すると、ランプの消灯時には、タングステンの陰極先端面に、複数の線状のタングステンの炭化物が、縞状の模様を形成して生成する。陰極先端面の微小範囲に残留する程度に生成されたタングステンの炭化物が、ランプ点灯中溶融することで、陰極の先端に凹凸が形成されたとしても、陰極の先端が表面張力によって滑らかな球面を成形し、再び滑らかな面を形成する。
【0031】
図3に、陰極先端の表層部を拡大して示す電子顕微鏡写真を示す。ここで、同図(a)は先端部を拡大した写真であり、(b)は同図中、丸Pで囲んだ部分の拡大写真を示している。具体的には、図3に示すように、タングステンの炭化物が、本体部分の主成分であるタングステン(W)相の上に、多数の線状に並んで生成することにより、縞状の相を形成している。この縞状のタングステンの炭化物の相は、幅が約0.1〜0.5μmであり、多数の相が約0.5〜3μmの間隔で形成されている。陰極先端において炭素が占める割合は、約1wt%程度であり、炭素の割合としては陰極先端の表層が最も大きく、先端から後退した位置になるほど小さくなる。これはすなわち、陰極の先端に炭素が気相によって運ばれてきたことを裏付けるものである。
【0032】
このような気相におけるC供給を確実に実現するため、発光管の内部に備わる炭素(C)の量は、発光管の内容積に対し、2.4μmol/cm3以上であることが好ましい。ランプの内容積1cm3あたり、2.4μmol以上の炭素を具備させることで、陰極先端に到達する気相状態の炭素を常に供給することができるようになり、フリッカー寿命を伸ばすことができる。
なおここで言う「炭素量」とは、発光管部及び封止管部を含めた発光管の内部において、金属からなる部材に付着した全ての炭素および炭素化合物から、炭素(C)としての総量を求めてモル量に換算し、発光管の内容積で除した数値である。
【0033】
ところで、上述したように、気相により炭素を陰極先端に供給することを実現するため、発光管を構成する石英ガラスにOH基を多量に含有させた場合には、反応の過程で、OH基に由来してH2が生成し、ランプ点灯中は放電に問題を生じないが、始動時に存在するとランプ始動性を悪くするため、問題になることがある。よって、始動性を良好に維持するため、H2を吸蔵するゲッターを発光管の内部に設けることが望ましい。ゲッターは、H2に対する安定性や発光管内部での安定性などを考慮すると、タンタルを用いることが好ましい。なお、タンタルは、単体の金属よりなるものが一般的であるが、表面に酸化等の反応が生じることがある。このような、酸化物が微少量形成されたようなタンタルの化合物からなるものであっても、ゲッターとしては同様の機能を得ることができる。
ところで、このタンタルゲッターは、始動性を改善できる一方、炭素を気相化する過程で生成した炭酸ガス(主にCOガス)をも吸蔵する特性を有する。このため、陰極先端に気相状態の炭素を供給するという本発明の機構を阻害する可能性がある。従って、このような事態を未然に防止するため、ゲッターに含まれるタンタルの量を、炭素に対するモル比が11以下となるよう規定することが好ましい。無論、タンタルゲッターにH2を吸蔵させて始動安定性を得るため、必要量を発光管内に配置することを前提としており、ここでいう前記モル比の規定に関しては0(ゼロ)を含まない。最適なタンタルの物質量としては、発光管内部の炭素量とOH基量とに基き、始動性とフリッカー寿命とを勘案し、適宜に設定すればよい。
本実施形態のように、発光管11内部に配置されるタンタルの量を制限することで、ランプ点灯中、枯渇させることなくCOを陰極先端に運ぶことができ、フリッカー現象の発生を長時間抑制し、使用寿命の長いランプとなると共に、ランプ消灯中は水素ガス(H2)などの不純ガスがタンタルゲッターによって除去されるので、始動性に優れたランプとすることができる。
ここで、H2などの不純ガスを除去するために、タンタルに代えてジルコニウム(Zr)など他の物質からなるゲッターを用いることもできる。その場合、COの吸蔵量や放出温度から、炭素量とゲッター量の比率や、ゲッターを配置する位置を調節すればよい。
【0034】
また、タンタルゲッターを備えたランプにおいて、ゲッターをランプ点灯中1400℃以上になる位置に配置することによっても、タンタルの炭素に対するモル比を制限したときと同様の効果、つまり、COを陰極先端に運ぶことができ、かつ、始動性を改善できるという効果を得ることができようになる。この実施形態においては、ゲッターを、その全体の到達温度が1400℃以上となるような位置に配置することが望ましい。ここで、ゲッターの位置が1400℃以上と1400℃未満となるような境界付近にまたがって配置する場合には、COの吸蔵量や放出量のバランスをとり、1400℃未満となる位置に配置されるゲッターの量を小さくすることが望ましい。なお、ゲッターの到達温度に関しては、ゲッター内部の温度は表面温度と同等と見なすことができ、放射温度計を用いて測定するのがよい。
【0035】
図8は、上述した本発明の他の実施形態を説明する図であり、タンタルゲッターを陰極本体14aおよび陽極本体15aに配置した例である。
ランプ消灯中、タンタルゲッター17が吸蔵するCOが、ランプ点灯中には温度が1400℃以上に上昇することによって放出されるので、COが不足する心配がなく、フリッカー現象の発生を長時間抑制した使用寿命の長いランプとなると共に、ランプ消灯中には、水素ガス(H2)などの不純ガスがタンタルゲッターによって除去されるので、始動性に優れたランプとなる。
【0036】
以下、本発明について実験例をもとに説明する。
図1で示す基本的な構成に基づいて、それぞれ仕様が異なるキセノンショートアークランプ1〜9を作製した。ランプ1〜9の仕様については図4で示す表1にまとめて示す。
ランプ1は本発明の参照例に係るランプであり、従来のフィルム用プロジェクター用のキセノンランプであった。定格消費電力は3500W、陰極先端径は0.9mm、電流密度は104A/cm2、管壁負荷は20.6A/cm2、陰極先端のコーン角度は40°である。この発光管の内表面積は170cm3、内容積は217cm3であり、キセノンガスの封入圧力は常温(25℃)に換算して0.6MPaであった。
ランプ2〜9は全て、DLP用デジタルプロジェクター用のキセノンランプであり、基本的な仕様は全て同じである。すなわち、定格消費電力は4000W、陰極先端径は0.6mm、電流密度は119A/cm2、管壁負荷は37.5A/cm2、陰極先端のコーン角度は60°であった。この発光管の内表面積は107cm3、内容積は135cm3であり、キセノンガスの封入圧力は常温(25℃)に換算して1.6MPaであった。このような仕様は、対角で0.7〜1インチ(17.8〜25.4mm)という小さい領域に光を効率よく集光することを可能とし、デジタルプロジェクター用の光源として、好適なキセノンショートアークランプを得るために必須の要件となる。
【0037】
また、図4の表における各項目については、下記のように定義する。
「電流密度」とは、ランプ電流を陰極先端から0.5mmの位置の断面積で除した電流密度であり、単位はA/mm2である。
「管壁負荷」とは、ランプ電力を発光管の膨らんだ部分(発光管部)における内表面積で割った値の内表面積で割った値であり、単位はW/cm2である。
「発光管内面OH濃度」とは、発光管内表面から150μmの厚さ範囲における平均のOH基濃度である。
また、「発光管内部のOH濃度」とは、発光管の内外表面の中央(厚みの約1/2部分)におけるOH基濃度である。
このような発光管の石英ガラスにおけるOH基濃度は、発光管の内側をフッ酸エッチングし、エッチングの深さと赤外線の吸光度との関係から算定することができる。
「OH基量/内容積」とは、発光管部(発光管における膨らんだ部分のみ)の内面(150μm)に存在するOH基量を、発光管部及び封止管部を含むランプの全内容積で除した単位体積あたりのモル数である。
「炭素量/内容積」とは、電極の本体部分及び軸部を含めて付着した炭素及び炭素化合物を含む炭素のモル量を、発光管(発光管部及び封止管部)の内容積で除した、単位体積あたりのモル量である。
「タンタル量/炭素量モル比」は、発光管(発光管部及び封止管部)の内部に存在する炭素1モルに対するタンタルのモル数である。
「タンタルゲッターの温度」は、放射温度計を用いて測定したものである。なお、本実験例においてはゲッターとして直径0.5mmのタンタル線を用いており、ゲッターの表面温度と内部温度とを同じと見なすことできる。
また、「フリッカー寿命」は、フリッカーの発生によるランプの輝度分布の変動はランプ電圧の変動と相関があり、ランプ電圧の変動幅が1Vを超えると、スクリーン上のフリッカーとして視認されることから、一律に、ランプ電圧の変動幅が1Vに達した点灯時間として測定した。
【0038】
[参照例1]
ランプ1(参照例1)は、フィルム用プロジェクターの光源に使用されるキセノンショートアークランプである。
発光管は、成形工程において発光管を膨らませる際に乾燥した気体(N2)を用いて製作した。発光管内部のOH濃度と発光管内面のOH濃度がいずれも5wt−ppmと同等であることから分かるように、発光管内表面のOH基の濃度は、成形前の原材料の水準に維持されたものであった。
また、ランプ1の陰極には、本体部分における先端を除くテーパ部分の表面に、従来知られる方法により炭化層を形成し、H2を吸蔵してランプの始動性を改善する目的で、タンタルゲッターを陰極軸部14bと陽極軸部15bの陰極本体14aと陽極本体15aのすぐ後ろの位置に取り付けた。
このランプ1を点灯したところ、フリッカー寿命は3500hであり、長い使用寿命を得ることができた。
更に、ランプ1を分析したところ、発光管の内部には、陰極先端の炭化層を含め、発光管(発光管部と封止管部の両方を含める)の内容積あたり、1.8μmol/cm3の炭素が存在していたことが明らかとなった。
【0039】
[参照例2]
ランプ2(参照例2)は、DLP用のデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプであり、高輝度ランプとするために封入圧力、陰極先端の電流密度、管壁負荷を高く設定したものであった。具体的な仕様については上述した通りである。
発光管の成形工程において、発光管を膨らませる際、上記ランプ1と同様乾燥した気体(N2)を用いており、発光管内面におけるOH基の濃度は成形前の原材料の水準を維持し、5wt−ppmと低いものであった。また、ランプ1と同様にして、陰極本体のテーパ部分の表面に、従来知られる方法により炭化層を形成すると共に、タンタルゲッターを発光管内部に配置した。
このようなランプ2を点灯したところ、フリッカー寿命は260時間になり、ランプ1と比較して、極めて短寿命であった。
更に、ランプ2を分析したところ、発光管の内部の総炭素量は発光管内容積1cm3あたり2.1μmolであり、なお、ゲッターを構成するタンタルの炭素に対するモル比は31であった。
【0040】
図5に、ランプ2におけるフリッカー現象を観察したときの、陰極先端の変形の様子を模式的に示す。点灯後200hでは滑らかな状態が維持されているが、やがて陰極先端が変形して凹凸が形成されると、凸部と凸部の間を放電起点が移動(アークジャンプ)して、フリッカーが発生し始めることが確認された。
すなわち、陰極先端が消耗して先端面が大きくなっても放電は安定しているが、更に変形が進み、先端面に凹凸ができてしまうと、凸部と凸部の間で放電起点が移動してフリッカーを発生する。本参照例にかかるランプの用に高負荷の仕様のランプでは、陰極先端部の温度が高く、このような変形が速く進むためフリッカー寿命が短いものと考えられる。
【0041】
更に、ランプ2と同じ仕様のランプを複数本点灯し、フリッカーが発生する前のランプの陰極とフリッカー発生後のランプの陰極とをX線光電子分光装置(XPS)によって分析した。この結果、前者のフリッカーが発生する前のランプの陰極先端部にはタングステンの炭化物が存在したが、後者のフリッカー発生後のランプの陰極先端部には存在しなかった。このことから発明者らは、炭素が陰極先端部へ輸送されてタングステンの炭化物が生成すると陰極先端面に凹凸ができないが、タングステンの炭化物が生成されなくなると陰極先端面に凹凸ができて、フリッカーの発生に至る、と推察した。
【0042】
つまりこのような現象についてまとめると、次のようになる。発光管内の水分と発光管内の炭素とが反応してCOが生成し、放電空間内の気相中を拡散して陰極先端部へ輸送される。更に詳細には、COが気中を拡散してアーク内に入ると、高温のために分解と電離が起こり、C+イオンがアーク中の電場によって陰極先端面へ輸送される。したがって、フリッカー寿命を改善するためには、COの生成が長時間にわたって維持されることが必要である。
【0043】
[参照例3]
ランプ3(参照例3)は、長時間にわたる水の供給源として、内表面層のOH基濃度を高くした発光管を用いたランプとしたものである。ランプ3は、このOH基の濃度にかかる構成を除いて、他の構成はランプ2と同様にして製作した。
【0044】
ここで、発光管ガラス内表面にOH基濃度の高い層は、例えば以下のようにして形成することができる。すなわち、発光管を膨らませる発光管成形工程において、作業温度以上に加熱した石英ガラス管内に水蒸気を含む加圧気体を吹き入れることによって、発光管ガラス内表面にOH基濃度の高い層を形成することができる。加圧気体は、水中をくぐらせることによって水蒸気を含ませることができると共に、その水温を調節することによって加圧気体が含む水分量および発光管内表面層のOH基濃度を制御することができる。例えば、25℃の水中をくぐらせた加圧気体(窒素)を用いて、2500℃に加熱した石英ガラス管を膨らませると、約2分間で、約150μmの厚さの平均のOH基濃度を約100wt−ppmに高めた発光管内表面層を形成することができる。また、水温を80℃とすると、他の加工条件は同じ場合、約150μmの厚さの平均のOH基濃度は約350wt−ppmとなる。
【0045】
このような手段により、約150μmの厚さの平均のOH基濃度を発光管のOH基濃度を100wt−ppmまで高めたものを製作した。仕様について詳細を図4の表に示す。
しかしながら、このランプ3においても、フリッカー寿命の改善効果は僅かなものにとどまった。この理由は、COを生成するための水の供給は増加したものの、炭素量が不十分であったためと考えられる。
【0046】
[実施例1]
そこで、発光管内の炭素の量を増やしたランプ4(実施例1)を製作した。
なお、ランプ4(実施例1)においても、長時間にわたる水の供給源として、内表面層のOH基濃度を高くした発光管を用いた点はランプ3(参照例3)と同様である。
ここで、炭素の量を増やすための方法としては種々検討されるが、本実施例では、陰極表面を炭化する面積を増やすことによった。発光管内部に存在する炭素の量、すなわち、陰極先端の炭化層陰極または陽極に配置される炭素の量は、例えば炭化層形成工程において、炭素を含む塗布剤の量、炭化層を形成する領域の面積、高温浸炭処理の温度などによって調節することができる。
このランプ4の点灯試験を実施したところ、フリッカー寿命が470hに伸び、これまでにない改善が認められた。これは、十分な炭素量と発光管内表面から放出される水分によって、COの生成と陰極先端への炭素の供給が長時間にわたって維持されるようになったためと考えられる。
更にランプ4を分析した結果、発光管内部に存在する炭素の量は、発光管の内容積1cm3に対して、2.4μmolであった。
【0047】
[実施例2]
上記ランプ4(実施例1)のランプとは陰極への浸炭の量を更に増やしたことを除いて同様の構成の、ランプ5(実施例2)を、作製した。このランプ5を点灯したところ、フリッカー寿命は540hであり、更に使用寿命を伸ばすことができた。このランプ5における炭素の量を分析したところ、発光管の内容積1cm3に対して、3.0μmolであった。
【0048】
[実施例3]
続いて、上記ランプ5(実施例2)のランプとは発光管内表面層のOH基濃度を更に増やしたことを除いて、同様の構成のランプ6(実施例3)を作製した。ランプ6の発光管内面のOH基濃度は350wt−ppmであった。この図6に、ランプ6(実施例3)の陰極先端形状の変化の様子を示す。
このランプ6のフリッカー寿命は650hであり、更に使用寿命を伸ばすことができた。
このランプ6における炭素の量を分析したところ、発光管の内容積に対して0.54μmol/cm3であった。
【0049】
[実施例4]
上記ランプ6(実施例3)のランプとは陰極への浸炭の量を更に増やしたことを除いて、同様の構成のランプ7(実施例4(6))を作製した。図7に、ランプ7(実施例4)のランプにおける陰極先端形状の変化の様子を示す。
このランプ7のフリッカー寿命は910hであり、更に使用寿命を伸ばすことができた。
このランプ6における炭素の量を分析したところ、発光管の内容積に対して5.2μmol/cm3であった。
【0050】
以上のランプ4〜7(実施例1、2、3、4)について検討すると、炭素の量が多くなるほど、更にOH基濃度が高くなるほど、フリッカー寿命は長くなることが分かる。また、図6,7の比較から参照されるように、炭素量の多いランプ7(実施例4)の方が、陰極先端に凹凸の発生が遅くなっていることが分かる。
【0051】
ところで、上記ランプ1〜ランプ7においては、標準的にタンタルからなるゲッターを備えたものであった。このタンタルゲッターは、ランプ中に水分が存在するとH2が生成して、ランプの始動性が悪くなることから、これを防止するために設けられるが、それ以外のCOも吸蔵するため、陰極先端への炭素の供給を阻害することが考えられる。
そこで、本発明者らは、炭素に対するタンタル量(モル数)を11以下としたランプを製作することにした。
【0052】
[実施例5]
ランプ8(実施例5)は、上述した考察をもとにタンタルゲッターの量を上記ランプ6(実施例3)と比較して半分量にして作製したキセノンショートアークランプである。なおタンタルゲッター以外の基本的仕様は、上記ランプ6と同様であった。
ランプ8(実施例5)を評価したところ、ランプ6と比較するとフリッカー寿命が改善された。これはタンタルゲッターに吸蔵されるCOが減少することで、陰極先端への炭素の供給が更に長時間にわたって維持されるようになったためと考えられる。
【0053】
ところで、上述したランプ2〜ランプ8においては、タンタルゲッターをいずれも図1のように電極の軸部に配置したものである。ランプ点灯中のゲッターの到達温度は1300℃程度であることが放射温度計による測定から分かっている。タンタルは、ランプ消灯中にCOを吸蔵するが、温度1400℃以上に上昇することによって、COを放出する。
よって、本発明者らは、上記ランプ6(実施例3)と比較して、タンタルゲッターの配置箇所のみを変更してその他は同じ仕様のランプ9(実施例6)を製作した。
このランプ9においては、タンタルゲッターを図8で示したように陰極本体および陽極本体に配置したところ、ゲッターの到達温度を1400℃以上とすることができた。
ランプ消灯中、タンタルに吸蔵されたCOは、ランプ点灯中、1400℃以上に加熱されることにより放出され、ランプ点灯中、COが枯渇することなく陰極先端に供給されるようになる。
しかも、ランプ消灯中には、水素ガス(H2)などの不純ガスがタンタルゲッターに吸蔵されて放電空間から除去されるので、始動性に優れたランプとなる。このランプ9のフリッカー寿命は780hであり、タンタルゲッターの到達温度が1300℃程度のランプ6に比較すると、寿命が改善することが確認された。
なお、このランプ9における炭素の量を分析したところ、発光管の内容積に対して3.0μmol/cm3であった。
【0054】
以上の実施例に係るランプ4〜9においては、H2などの不純ガスを除去するためにタンタルゲッターを用いたが、ジルコニウム(Zr)など他のゲッターを用いることもできる。その場合、COの吸蔵量や放出温度から、炭素量とゲッター量の比率やゲッターを設ける位置を適宜に調節すればよい。
【0055】
以上の参照例及び実施例にかかるランプ1〜ランプ9においては、炭素(C)の供給源として、主に陰極の表面層に炭化層を形成することにより設けた。本発明者らは更に、陽極本体、陰極軸部、陽極軸部などの電極部等のランプ内部の金属部分に炭素の供給源を配置し、フリッカー寿命を伸ばせるかどうか検証したところ、いずれも形態によっても、陰極に炭化層を設けた場合と同様の効果が得られると、確認した。
【符号の説明】
【0056】
10 キセノンショートアークランプ
11 発光管
12 発光管部
13a 絞り込み部
13 封止管部
13b シール部
14 陰極
14a 陰極本体
14b 陰極軸部
15 陽極
15a 陽極本体
15b 陽極軸部
16 ガラス体
17 ゲッター
L 電極の軸
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばDMD(デジタルマイクロミラーデバイス:登録商標)を使用したDLP(デジタルライトプロセッシング:登録商標)技術を利用したデジタルプロジェクターにおいて光源として用いられるデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、映画館での上映システムでは、標準的に35ミリのフィルムをアパーチャーを介して照射し、スクリーン上に投影するフィルムプロジェクターが用いられてきた。図9は、フィルム用のプロジェクターの構成を説明する図である。フィルム71は、連続した内容を表す映像フレーム(以下、単にフレームという)が一定間隔で記録されたものである。このフィルム71は、不図示の走行機構によって搬送され、ピクチャーゲート部72を上部から下部に向かって通過する。光源装置73から集光された光がピクチャーゲート部72に形成されたアパーチャーを通過し、フィルム71に記録されたフレームを照射する。
フィルム71上の1つのフレームの寸法は、例えば約24×18mm、対角約30mmという大きさである。そのため光源装置73は、フィルムの領域を効率よく照射するためにも、直径約30mmの円の大きさとなるよう、光源ランプからの光を効率よく集光できる構成を具備したものでなければならない。
【0003】
従って、光源装置73は、光源ランプとしてのキセノンショートアークランプ73a(以下、キセノンランプともいう。)と、その後部に配置された反射鏡73bとを備えて構成されている。そして、反射鏡73bは、キセノンランプ73aから放射された光を、上述した直径約30mmの円の大きさに集光する回転楕円面からなる反射面を備えて構成される。キセノンランプ73aから放射された光は、同図中に示す光線経路のように、反射鏡73bによって反射され、第二焦点(F2)に集光され、フィルム71を通過し、投影レンズ74で拡大されて、スクリーン75上へ投影される。
【0004】
しかしながら、同図に示す光線経路は理想系であり、実際には、キセノンランプ73aのアークは点光源ではなく、有限の大きさを持つ。このため、アークからの全ての光線が一点に集光されることはなく、第二焦点の位置においても、ある大きさの円内を照射することになる。そして、その第二焦点の位置における照射面積は、楕円鏡が同じであれば、アークの断面積(横から見たときのアークの面積)に概略比例して大きくなることが知られている。
【0005】
このようなことから、フィルムプロジェクター用の光源として、直径約30mmの円内を照射するために、アーク長が約3〜7mmのキセノンランプが用いられている。なお「アーク長」は、ランプの定常点灯時における電極間距離と等しい。
更にこのようなフィルムプロジェクター用のキセノンランプの仕様について数値例を挙げると、例えば定格消費電力が、0.9〜6.0kWであり、陰極の先端径は、0.6〜1mm、封入キセノン圧力は0.6〜0.9MPa、陰極先端における電流密度は76〜110A/mm2であり、管壁負荷は18〜29W/cm2である。
これらの数値例に関し、定格消費電力が4kWのフィルムプロジェクター用キセノンランプを例に具体的数値を列挙すると、アーク長は6mm、陰極の先端径は0.9mm、封入キセノン圧力は0.7MPa、電流密度は108A/mm2であり、管壁負荷は25W/cm2である。
なお、上記において「電流密度」とは、ランプ電流を陰極先端から0.5mmの位置の断面積で除した電流密度であり、「管壁負荷」とは、ランプ電力を発光管部の内表面積で除した単位面積あたりの電力である。
【0006】
キセノンランプは、高輝度の光を放射することから、電極先端温度が極めて高温になる。このため、電子を放射する陰極の先端においては損耗が激しい。電極先端が損耗し、陰極の先端面に凹凸が形成されると、アーク放電の起点が凸部と凸部の間で移動する現象、いわゆるフリッカーが発生する。このフリッカーが発生すると、ランプの輝度分布が変動して、スクリーン上にちらつきとなって現れる。
【0007】
このようなフリッカーの発生を回避するため、すなわち、長時間にわたって安定した放射光を得るため、キセノンランプにおいては改良が重ねられてきた。
例えば、陰極は、電子放射性物質の中でも融点の高いトリア(ThO2)が添加されたタングステンを用い、先端側領域を除いて炭化タングステン(W2C)よりなる炭化層を、例えば8〜30μmという厚みで形成している。この炭化層を形成することで、ランプ点灯中、陰極中に添加された電子放射性物質(例えばトリア(ThO2))が、炭素によって還元されてトリウム(Th)が生成し、陰極の先端面にトリウム(Th)を効率よく供給することができるようになる。
このような技術については、例えば特開平10−283921号公報等に開示されている。
【0008】
なお上記炭化層に関して陰極の先端部に形成しない理由(形成してはならい理由)は、陰極の先端部の領域が約2900℃という高温に到達するため、融点の低い炭化タングステン(W2C)が存在すると、早期に溶融して、電極が損耗したり、発光管が黒化して放射光の強度が低下したりして、早期にランプの寿命が到来するからである。
上述したフィルムプロジェクター用のランプにこのような技術を採用し、最適化したキセノンランプにおいては、ランプの容積あたり炭素量が、0.5〜1.8μmol/cm3という範囲である。
【0009】
また、発光管には通常石英ガラスが使用されており、ランプの点灯に伴い、石英ガラスに含まれるOH基などをもとにランプ内に水が放出されると、始動電圧の上昇や発光管の黒化といった問題が生じることがあるため、標準的にOH基濃度の低い発光管が使用されている。このような発光管は、発光管を膨らませる成形工程において、乾燥した気体(N2)を用いることにより、OH基濃度を成形前の原材料の水準に維持している。
【0010】
こうして改良を重ねたキセノンランプは、フリッカー寿命が3500時間程度であって、十分に長い使用寿命を実現できると共に、始動性がよく、黒化についても改善されたものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−283921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、映画館の上映システムにおいては、近年、映像品質が向上するデジタル技術を用いた高度なCG化が可能になり、フィルム劣化が無く、フィルム作製に伴うコストを削減できる、といった利点から、デジタルシネマが普及し、これにあわせてDLP(デジタルライトプロセッシング:登録商標)技術を利用したデジタルプロジェクターへの置き換えが急速に進んでいる。
【0013】
このようなデジタルプロジェクターの構成例を図10に示す。このデジタルプロジェクター80においては、キセノンランプ81からの光を楕円反射面をもつ反射鏡82によって集光し、カラーフィルタ83、インテグレーターロッド84、および集光レンズ85a,85bを介してDMD(デジタルマイクロミラーデバイス:登録商標)と呼ばれる画像素子を照射する。そして、DMD86によって反射された光を投射レンズ87によってスクリーン88上に投射し、映像を映し出す。
【0014】
このようなデジタルプロジェクター80においては、キセノンランプ81からの光を、高い効率で集光してインテグレーターロッド84の端面に入射させなければならない。このように光を高効率に集光させなければならない理由は、通常インテグレーターロッド84の端面は、DMD86と同程度の寸法であり、対角で0.7〜1インチ(17.8〜25.4mm)程度と小さいため、従来のフィルム用のプロジェクターと同程度の明るさの映像をスクリーンに映し出すには、フィルム用プロジェクターの場合と比較して、面積で35〜70%という小さい範囲に集光させなければならないからである。
【0015】
反射鏡82による照射面積は、アークの断面積に略比例することから、デジタルプロジェクター用のキセノンランプ81は、アーク長を短くし、かつ、アークを細くするため、封入キセノン圧力をいっそう高めたものを用いる必要がある。
この結果、キセノンランプ81のアーク長は約2〜7mmとなり、またそのキセノンガスの封入圧力は、常温換算では1MPa以上、具体的には1〜2MPaの範囲のものが要求される。
そして、ランプ点灯時の高い動作圧力に耐えるため、発光管を従来よりも小型化する必要性が生じ、結果的に、デジタルプロジェクター用のキセノンランプの管壁負荷は、30W/cm2以上にまで高まり、具体的には30〜40W/cm2という範囲のものが要求される。これは、従来のフィルムプロジェクター用のキセノンランプと比較しても、格段に高いものである。
【0016】
なおここで、反射鏡82による照射面積を小さくするための方法として、楕円反射面の焦点間の距離(F1〜F2の距離)を短くすることも考えられる。しかしながらその場合、光軸89に対して大きな角度をもつ光線の割合が増えて、DMD素子に到達しない光線が増え、光の利用率が低下することになり、この方法を採用することができない。言い換えると、照射面積が小さくなった場合に、光学系を工夫するのみでは、集光効率を高めることは難しい。
【0017】
また更に、デジタルプロジェクターにおけるより明るい映像への要求から、キセノンランプ81にはランプの光出力を増やす必要がある。このため、アークからの光線のうち陰極によって遮られるものを減らすという観点から、従来のものより陰極先端径が小さいものが要求され、デジタルプロジェクター用のランプにおける陰極先端径は従来のものよりも小さく、例えば0.35〜0.7mmになっている。
この結果、陰極先端における電流密度もまた高くなり、具体的には119A/mm2以上、実用的な範囲では119〜210A/mm2となっている。
このような仕様に関して、定格消費電力が4kWのデジタルプロジェクター用のキセノンランプを例に具体的な数値を挙げると、アーク長は3.5mm、陰極の先端径は0.6mm、封入キセノン圧力は1.8MPa、電流密度は119A/mm2であり、管壁負荷は37.5W/cm2となっている。
なお、「電流密度」とは、上述したようにランプ電流を陰極先端から0.5mmの位置の断面積で除した電流密度であり、「管壁負荷」とは、ランプ電力を発光管部の内表面積で除した単位面積あたりの電力である。
【0018】
以上のデジタルプロジェクター用のキセノンショートアークランプの特徴を要約すると、封入キセノンガスの圧力が高いこと、高い動作圧力に耐えるため発光管が小型化された結果、管壁負荷(ランプ電力を発光管の膨らんだ部分における内表面積で割った値)が高いこと、陰極先端径を小さくした結果、電流密度が大きくなっていることを挙げることができる。このような事項について、具体的な数値を用いて述べると、キセノンガスの封入圧力が1MPa以上、管壁負荷が30W/cm2以上、陰極の先端面の電流密度が119A/mm2以上という、非常に厳しいスペックが要求される。
そして、上述したような仕様を満足しようとすると、キセノンランプは陰極の先端温度が更に上昇し、陰極先端部の消耗と変形の進行が著しく速く、ランプ点灯後、短時間で陰極の先端面が大きくなって凹凸が形成され、早期にフリッカーが発生してしまう。
そして、従来公知の技術、例えば、炭化層の形成や陰極先端の形状により、キセノンランプのフリッカー寿命の改善を図ったとしても、点灯後わずか200〜350hという極めて短い期間で寿命が到来してしまう。
【0019】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、ランプ点灯後、長時間にわたって陰極の先端面に凹凸ができるのを防止し、フリッカー現象の発生を長時間抑制した使用寿命の長いデジタルプロジェクター用のキセノンショートアークランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
(1)
上記課題を解決するため、本発明に係るデジタルプロジェクター用のキセノンショートアークランプは、
陽極と、
電子放射性物質を備えたタングステンからなる陰極本体を備えた陰極と、
石英ガラス製の発光管とを具備してなり、
前記陰極先端領域を除く前記発光管の内部の金属部位に炭素の供給源を備え、
ランプ点灯中、前記陰極先端に気相を介して炭素が供給され、当該陰極の表層が溶融する
ことを特徴とする。
(2)
または、本発明に係るデジタルプロジェクター用のキセノンショートアークランプは、
陽極と、
電子放射性物質を備えたタングステンからなる陰極本体を備えた陰極と、
石英ガラス製の発光管とを具備してなり、
前記陰極は、先端面における表層に、タングステン(W)の相中にタングステンの炭化物の縞状の相を有してなる
ことを特徴とする。
(3)
前記デジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプは、
前記発光管の内部に封入されたキセノンガスの封入圧力が1MPa以上、
管壁負荷が30W/cm2以上、
前記陰極の先端面の電流密度が119A/mm2以上である
ことを特徴とする。
(4)
前記デジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプは、
前記発光管の内部に、炭素(C)に換算して発光管の内容積1cm3あたり2.4μmol/cm3以上の炭素および/または炭化物を備えている
ことを特徴とする。
(5)
前記デジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプは、
前記発光管における内表面のOH基濃度が100wt−ppm以上である
ことを特徴とする。
(6)
前記デジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプは、
前記発光管に含まれるOH基の量は、ランプの内容積1cm3あたり0.15μmol/cm3以上である
ことを特徴とする。
(7)
前記デジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプは、
前記発光管の内部にタンタル若しくはタンタル化合物よりなるゲッターを設けてなり、
前記ゲッターに含まれるタンタルは、前記炭素に対するモル比が11以下である
ことを特徴とする。
(8)
前記デジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプは、
前記発光管の内部にタンタル若しくはタンタル化合物よりなるゲッターを設けてなり、
前記ゲッターは、ランプ点灯中、当該ゲッターの到達温度が1400℃以上になる部位に取り付けられている
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
(1)
本願第1の発明に係るデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプによれば、ランプ点灯中に気相を介して炭素が陰極先端面に供給されることにより、タングステンと反応して表面にタングステンの炭化物を生成させることができ、このタングステンの炭化物が溶融する結果、陰極先端の形状を変えることなく、先端部分のみが溶融し、表面張力によって滑らかな球面を再形成させることができる。この結果、陰極先端に凹凸が形成されにくくなり、アークのチラツキに由来して生じるフリッカー現象の発生が長時間抑制され、使用寿命の長いデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプを提供することができる。
(2)
本願第2の発明に係るデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプによれば、ランプの点灯中、タングステンの炭化物が溶融する結果、陰極先端の形状を変えることなく、先端部分のみが溶融して表面張力によって滑らかな球面を再形成することにより、ランプ消灯後、陰極先端の表層に、タングステン(W)の相に、複数の線状のタングステンの炭化物が縞状の相となって形成されるようになる。このようなキセノンショートアークランプによれば、陰極先端に凹凸が形成されにくく、アークのチラツキに由来して生じるフリッカー現象の発生を長時間抑制することができ、使用寿命の長いデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプとすることができる。
(3)
本願第3の発明によれば、前記発光管の内部に封入されたキセノンガスの封入圧力が1MPa以上であり、管壁負荷が30W/cm2以上、前記陰極の先端面の電流密度が119A/mm2以上であるので、対角で0.7〜1インチ(17.8〜25.4mm)という小さい領域に集光しなければならないような場合でも、光の利用率を高め、スクリーン照度を十分に高く維持することができ、デジタルプロジェクター用として好適なキセノンショートアークランプを提供することができる。
(4)
本願第4の発明に係るデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプによれば、炭素(C)を十分に備えているので、炭素を陰極先端に確実に供給することができるようになるので、長時間にわたって陰極の先端に、タングステンの炭化物を生成させることができるようになる。この結果、陰極先端を大きく溶融させることなく、先端の表層のみを溶融させることができ、表面張力によって滑らかな球面を再整形するため、陰極先端に凹凸が形成されにくくなり、フリッカー現象の発生が長時間抑制され、使用寿命の長いデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプとすることができる。
(5)
本願第5の発明によれば、発光管内表面層に含まれるOH基がランプ点灯中に発光管内表面から水(H2O)として発光管内に放出され、陰極または陽極に配置された炭素または炭素化合物と反応して一酸化炭素ガス(CO)を生成し、COが気相状態で発光管内を拡散するので、アークに到達したCOにより、陰極先端にタングステンの炭化物を生成させることができるようになる。
(6)
本願第6の発明によれば、COを生成するための水(H2O)を十分に備えており、確実にCOを気相状態で供給することができるので、長時間にわたって陰極の先端面における凹凸の発生を防止することができ、フリッカー現象の発生を長時間抑制した使用寿命の長いデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプとすることができる。
(7)
本願第7の発明によれば、タンタルゲッターを備えたデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプにおいて、タンタルゲッターのモル量をランプ内の炭素量に応じて制限することにより、水素ガス(H2)などの不純ガスをタンタルゲッターによって除去できて始動性に優れるという効果を維持しつつ、タンタルゲッターにより吸蔵されるCOの量を制御することができるので、確実にCOを気相状態で供給することができ、長時間にわたって陰極の先端面における凹凸の発生を防止することができ、フリッカー現象の発生を長時間抑制した使用寿命の長いデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプとすることができる。
(8)
本願第8の発明によれば、タンタルゲッターを備えたデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプにおいて、タンタルゲッターは、ランプ点灯中到達温度が1400℃以上になる部位に取り付けられているので、ランプ消灯時に吸蔵したCOをランプ点灯中放出することができ、陰極先端に確実にCOを気相状態で供給することができるようになる。よって、長時間にわたって陰極の先端面における凹凸の発生を防止することができ、フリッカー現象の発生を長時間抑制した使用寿命の長いデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態を説明するデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプの構成を説明する、断面図である。
【図2】本発明に係る陰極構造の先端部分の1実施形態を示す説明図である。
【図3】本発明に係る陰極先端の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図4】本実験例における、実施例、参照例の各ランプの仕様および各ランプのフリッカー寿命をまとめて示す表である。
【図5】参照例2にかかるランプ2の陰極先端形状の変化の様子を示す図である。
【図6】実施例3にかかるランプ6の陰極先端形状の変化の様子を示す図である。
【図7】実施例4にかかるランプ7の陰極先端形状の変化の様子を示す図である。
【図8】本発明の他の実施形態に係るゲッターの別の配置例を示す図である。
【図9】フィルム用プロジェクターの構成を説明する図である。
【図10】DLP用プロジェクターの構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の実施形態を説明するデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプ(以下、「キセノンランプ」または単に「ランプ」ともいう。)の構成を示す、説明用断面図である。
キセノンランプ10は、中央付近に設けられ膨らんだ形状のガラス管よりなる発光管部12およびその両端に連設された封止管部13を備えてなる石英ガラス製の発光管11と、発光管部12の内部において、各々先端が互いに対向するよう設けられた陰極14および陽極15により、構成されている。
陰極14における本体部分14aは、電子放射性物質を備えたタングステンからなり、陽極15における本体部分15aは、タングステンからなる。このように、電極の本体部分14a,15aを構成する材質として、主としてタングステンが採用される理由は、高融点であるという点、蒸気圧が低いという点、熱伝導率が高いという点で、本発明において優位な物質だからである。無論、ここでいう電極陰極本体14a,15aの材質については、各材質成分を100%備えたものに限定されるものではなく、不可避に混入する不純物を含有する場合を含むことはもちろん、陰極本体14aおよび/または陽極本体15aに炭化層や、その他の物質を付加的に設けるような場合をも、含んでいる。
このような陰極本体14a、陽極本体15aは、発光管部12の中央に位置されるよう、それぞれ電極棒14b,15bに装着されて保持されている。
電極棒14b,15bは、各々発光管部12と封止管部13の間の絞込み部13a内に固定された肉厚円筒状の石英ガラス体16の穴に挿通されると共に、封止管部13の両端に形成された段継ぎガラス部13bにおいて気密に封着されて保持されている。この電極棒14b,15bは、発光管11の外方端部から外方に突出して伸びており、当該キセノンランプ10に電力を供給する給電用のリード部分を兼ねている。また、発光管11の内部には、発光物質としてのキセノンガスが封入されている。
【0024】
このような本発明に係るデジタルプロジェクター用のキセノンショートアークランプは、標準的に下記の仕様を満足するものである。
キセノンの封入圧力が1MPa以上、管壁負荷が30W/cm2以上、陰極の先端面の電流密度が119A/mm2以上である。このようなスペック上の要求は、すべてDLP用のデジタルプロジェクターに使用される光源として、DMD素子と同程度の照射エリア、具体的には対角で0.7〜1インチ(17.8〜25.4mm)程度と小さい領域に高効率に光を集光すること、および、スクリーンをいっそう明るく照らすこと、の両方を満足するために、最低限必要になる。
また、上述した大きな電流密度を実現するためにも、陰極14に含まれる電子放射性物質としてはトリア(ThO2)を用いることが望ましく、陰極本体部分14aはトリエーテッドタングステンから構成されることが望ましい。
また、陽極15においても、陽極本体15aはアークを受けると共に、電子を受けとることで高温になることから、陽極本体15aの材質としては高融点のタングステンからなるのが望ましい。
また、このようなキセノンショートアークランプ10は、ランプの始動性を改善する目的で、発光管11の内部にゲッター17を配置することが望ましい。
【0025】
図2は、本発明に係る陰極構造の先端部分の1実施形態を示すものである。陰極本体14aにおける先端部分は、表面のテーパー面(稜線)を仮想的に結んだ先端のコーン角度が60°であり、先端の径が0.35〜1.0mmの範囲であって、太径部の径が4〜12mmである。陰極先端の径をこのように小さく形成することで、アークからの光線のうち陰極自身によって遮られるものを減らしてランプからの光出力を増大することができるようになる。
【0026】
陰極の先端において、アークの内部に取り込まれる部分に炭素(C)を供給するため、このキセノンランプ10には、発光管11内部に炭素が具備される。その一形態として、例えば図2に示すように陰極14aにおける先端の近傍に炭化タングステン(W2C)層141を設けることにより、炭素を配置することができる。
炭化タングステン層141が形成される部分は、例えば陰極14aの先端面から電極の軸Lに沿って少なくとも2mm後退した位置であり、層の厚みとしては30〜100μmである。このように陰極先端に炭化タングステン層141を形成しない(形成してはならない)理由は、融点の低い炭化タングステン(W2C)を、約30μm以上という厚み範囲で形成していた場合には、陰極先端部の溶融量が過大になり、陰極先端径が短時間で大きくなって輝度が低下するという問題や、炭化タングステン(W2C)の蒸発によって発光管内表面が黒化し、放射光の強度が低下することにより、早期にランプの寿命が到来するという問題が引き起こされるからである。
【0027】
発光管11の内部に炭素の供給源としての炭素または炭素を含む化合物を配置する手段としては、上述の形態に限定されるものではなく、発光管の内部における金属部分に取り付ける方法でありさえすればどのよう形態でもよく、例えば陽極本体15aに炭化タングステン(W2C)層を設けてもよいし、電極14,15における軸部14b,15bに炭化物を配置することでも実現できる。なお、陽極本体15aに炭化層を設ける場合には、陰極本体14aに設ける場合と同様、その先端部領域を除いて配置することが望ましい。
【0028】
発光管11の内部に固体状態の炭素または炭素を含む化合物を配置するのみでは、炭素を気相の状態として陰極14aの先端まで安定的に供給することを実現することは難しい。
炭素を、例えば炭酸ガスのような気相状態とする手段としては、種々の方法を検討することができ、その一例としては、発光管11内に酸素(O)を具備させることでCOを生成させることができ、炭素を確実に陰極先端面に供給することができる。
その一形態としては、発光管11を構成する石英ガラスにOH基を多量に含有させることである。その好ましい態様としては、発光管11の内表面に、OH基濃度が100wt−ppm以上である層を形成することである。この内表面層におけるOH基濃度とは、内表面から150μmまでの厚み範囲において、平均の濃度によって定義したものである。
また、更に好ましい形態としては、発光管11に含まれるOH基の量を、ランプの内容積1cm3あたり、0.15μmol以上とすることである。
【0029】
このようなキセノンショートアークランプによれば、発光管11内表面層の石英ガラスに含まれるOH基が、ランプ点灯中に例えば水(H2O)や酸素(O2)として放電空間内に放出され、発光管11の内部に具備された炭素の供給源(すなわち、炭素または炭素化合物)と反応し、一酸化炭素ガス(CO)を生成する。このCOが、発光管11内に気相状態で拡散することにより、その一部がアークの中に入る。COは、アークの中では高温のために分解されて、C+イオンを生成する。このC+イオンはアーク中の電界によって陰極先端面へ運ばれ、そこで陰極14aのタングステンと反応して、W2CやWCなどのタングステンの炭化物を生成する。このタングステンの炭化物は陰極14aの高温に曝され溶融するが、その溶融量はCが気相からもたらされたものであるために極めて少ない。そのため、陰極14a先端が短時間で大きくなって輝度が低下する問題や、タングステンの炭化物の蒸発によって発光管内表面が黒化するといった問題を生じることはない。
【0030】
そして、このような少量の炭素が存在すると、ランプの消灯時には、タングステンの陰極先端面に、複数の線状のタングステンの炭化物が、縞状の模様を形成して生成する。陰極先端面の微小範囲に残留する程度に生成されたタングステンの炭化物が、ランプ点灯中溶融することで、陰極の先端に凹凸が形成されたとしても、陰極の先端が表面張力によって滑らかな球面を成形し、再び滑らかな面を形成する。
【0031】
図3に、陰極先端の表層部を拡大して示す電子顕微鏡写真を示す。ここで、同図(a)は先端部を拡大した写真であり、(b)は同図中、丸Pで囲んだ部分の拡大写真を示している。具体的には、図3に示すように、タングステンの炭化物が、本体部分の主成分であるタングステン(W)相の上に、多数の線状に並んで生成することにより、縞状の相を形成している。この縞状のタングステンの炭化物の相は、幅が約0.1〜0.5μmであり、多数の相が約0.5〜3μmの間隔で形成されている。陰極先端において炭素が占める割合は、約1wt%程度であり、炭素の割合としては陰極先端の表層が最も大きく、先端から後退した位置になるほど小さくなる。これはすなわち、陰極の先端に炭素が気相によって運ばれてきたことを裏付けるものである。
【0032】
このような気相におけるC供給を確実に実現するため、発光管の内部に備わる炭素(C)の量は、発光管の内容積に対し、2.4μmol/cm3以上であることが好ましい。ランプの内容積1cm3あたり、2.4μmol以上の炭素を具備させることで、陰極先端に到達する気相状態の炭素を常に供給することができるようになり、フリッカー寿命を伸ばすことができる。
なおここで言う「炭素量」とは、発光管部及び封止管部を含めた発光管の内部において、金属からなる部材に付着した全ての炭素および炭素化合物から、炭素(C)としての総量を求めてモル量に換算し、発光管の内容積で除した数値である。
【0033】
ところで、上述したように、気相により炭素を陰極先端に供給することを実現するため、発光管を構成する石英ガラスにOH基を多量に含有させた場合には、反応の過程で、OH基に由来してH2が生成し、ランプ点灯中は放電に問題を生じないが、始動時に存在するとランプ始動性を悪くするため、問題になることがある。よって、始動性を良好に維持するため、H2を吸蔵するゲッターを発光管の内部に設けることが望ましい。ゲッターは、H2に対する安定性や発光管内部での安定性などを考慮すると、タンタルを用いることが好ましい。なお、タンタルは、単体の金属よりなるものが一般的であるが、表面に酸化等の反応が生じることがある。このような、酸化物が微少量形成されたようなタンタルの化合物からなるものであっても、ゲッターとしては同様の機能を得ることができる。
ところで、このタンタルゲッターは、始動性を改善できる一方、炭素を気相化する過程で生成した炭酸ガス(主にCOガス)をも吸蔵する特性を有する。このため、陰極先端に気相状態の炭素を供給するという本発明の機構を阻害する可能性がある。従って、このような事態を未然に防止するため、ゲッターに含まれるタンタルの量を、炭素に対するモル比が11以下となるよう規定することが好ましい。無論、タンタルゲッターにH2を吸蔵させて始動安定性を得るため、必要量を発光管内に配置することを前提としており、ここでいう前記モル比の規定に関しては0(ゼロ)を含まない。最適なタンタルの物質量としては、発光管内部の炭素量とOH基量とに基き、始動性とフリッカー寿命とを勘案し、適宜に設定すればよい。
本実施形態のように、発光管11内部に配置されるタンタルの量を制限することで、ランプ点灯中、枯渇させることなくCOを陰極先端に運ぶことができ、フリッカー現象の発生を長時間抑制し、使用寿命の長いランプとなると共に、ランプ消灯中は水素ガス(H2)などの不純ガスがタンタルゲッターによって除去されるので、始動性に優れたランプとすることができる。
ここで、H2などの不純ガスを除去するために、タンタルに代えてジルコニウム(Zr)など他の物質からなるゲッターを用いることもできる。その場合、COの吸蔵量や放出温度から、炭素量とゲッター量の比率や、ゲッターを配置する位置を調節すればよい。
【0034】
また、タンタルゲッターを備えたランプにおいて、ゲッターをランプ点灯中1400℃以上になる位置に配置することによっても、タンタルの炭素に対するモル比を制限したときと同様の効果、つまり、COを陰極先端に運ぶことができ、かつ、始動性を改善できるという効果を得ることができようになる。この実施形態においては、ゲッターを、その全体の到達温度が1400℃以上となるような位置に配置することが望ましい。ここで、ゲッターの位置が1400℃以上と1400℃未満となるような境界付近にまたがって配置する場合には、COの吸蔵量や放出量のバランスをとり、1400℃未満となる位置に配置されるゲッターの量を小さくすることが望ましい。なお、ゲッターの到達温度に関しては、ゲッター内部の温度は表面温度と同等と見なすことができ、放射温度計を用いて測定するのがよい。
【0035】
図8は、上述した本発明の他の実施形態を説明する図であり、タンタルゲッターを陰極本体14aおよび陽極本体15aに配置した例である。
ランプ消灯中、タンタルゲッター17が吸蔵するCOが、ランプ点灯中には温度が1400℃以上に上昇することによって放出されるので、COが不足する心配がなく、フリッカー現象の発生を長時間抑制した使用寿命の長いランプとなると共に、ランプ消灯中には、水素ガス(H2)などの不純ガスがタンタルゲッターによって除去されるので、始動性に優れたランプとなる。
【0036】
以下、本発明について実験例をもとに説明する。
図1で示す基本的な構成に基づいて、それぞれ仕様が異なるキセノンショートアークランプ1〜9を作製した。ランプ1〜9の仕様については図4で示す表1にまとめて示す。
ランプ1は本発明の参照例に係るランプであり、従来のフィルム用プロジェクター用のキセノンランプであった。定格消費電力は3500W、陰極先端径は0.9mm、電流密度は104A/cm2、管壁負荷は20.6A/cm2、陰極先端のコーン角度は40°である。この発光管の内表面積は170cm3、内容積は217cm3であり、キセノンガスの封入圧力は常温(25℃)に換算して0.6MPaであった。
ランプ2〜9は全て、DLP用デジタルプロジェクター用のキセノンランプであり、基本的な仕様は全て同じである。すなわち、定格消費電力は4000W、陰極先端径は0.6mm、電流密度は119A/cm2、管壁負荷は37.5A/cm2、陰極先端のコーン角度は60°であった。この発光管の内表面積は107cm3、内容積は135cm3であり、キセノンガスの封入圧力は常温(25℃)に換算して1.6MPaであった。このような仕様は、対角で0.7〜1インチ(17.8〜25.4mm)という小さい領域に光を効率よく集光することを可能とし、デジタルプロジェクター用の光源として、好適なキセノンショートアークランプを得るために必須の要件となる。
【0037】
また、図4の表における各項目については、下記のように定義する。
「電流密度」とは、ランプ電流を陰極先端から0.5mmの位置の断面積で除した電流密度であり、単位はA/mm2である。
「管壁負荷」とは、ランプ電力を発光管の膨らんだ部分(発光管部)における内表面積で割った値の内表面積で割った値であり、単位はW/cm2である。
「発光管内面OH濃度」とは、発光管内表面から150μmの厚さ範囲における平均のOH基濃度である。
また、「発光管内部のOH濃度」とは、発光管の内外表面の中央(厚みの約1/2部分)におけるOH基濃度である。
このような発光管の石英ガラスにおけるOH基濃度は、発光管の内側をフッ酸エッチングし、エッチングの深さと赤外線の吸光度との関係から算定することができる。
「OH基量/内容積」とは、発光管部(発光管における膨らんだ部分のみ)の内面(150μm)に存在するOH基量を、発光管部及び封止管部を含むランプの全内容積で除した単位体積あたりのモル数である。
「炭素量/内容積」とは、電極の本体部分及び軸部を含めて付着した炭素及び炭素化合物を含む炭素のモル量を、発光管(発光管部及び封止管部)の内容積で除した、単位体積あたりのモル量である。
「タンタル量/炭素量モル比」は、発光管(発光管部及び封止管部)の内部に存在する炭素1モルに対するタンタルのモル数である。
「タンタルゲッターの温度」は、放射温度計を用いて測定したものである。なお、本実験例においてはゲッターとして直径0.5mmのタンタル線を用いており、ゲッターの表面温度と内部温度とを同じと見なすことできる。
また、「フリッカー寿命」は、フリッカーの発生によるランプの輝度分布の変動はランプ電圧の変動と相関があり、ランプ電圧の変動幅が1Vを超えると、スクリーン上のフリッカーとして視認されることから、一律に、ランプ電圧の変動幅が1Vに達した点灯時間として測定した。
【0038】
[参照例1]
ランプ1(参照例1)は、フィルム用プロジェクターの光源に使用されるキセノンショートアークランプである。
発光管は、成形工程において発光管を膨らませる際に乾燥した気体(N2)を用いて製作した。発光管内部のOH濃度と発光管内面のOH濃度がいずれも5wt−ppmと同等であることから分かるように、発光管内表面のOH基の濃度は、成形前の原材料の水準に維持されたものであった。
また、ランプ1の陰極には、本体部分における先端を除くテーパ部分の表面に、従来知られる方法により炭化層を形成し、H2を吸蔵してランプの始動性を改善する目的で、タンタルゲッターを陰極軸部14bと陽極軸部15bの陰極本体14aと陽極本体15aのすぐ後ろの位置に取り付けた。
このランプ1を点灯したところ、フリッカー寿命は3500hであり、長い使用寿命を得ることができた。
更に、ランプ1を分析したところ、発光管の内部には、陰極先端の炭化層を含め、発光管(発光管部と封止管部の両方を含める)の内容積あたり、1.8μmol/cm3の炭素が存在していたことが明らかとなった。
【0039】
[参照例2]
ランプ2(参照例2)は、DLP用のデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプであり、高輝度ランプとするために封入圧力、陰極先端の電流密度、管壁負荷を高く設定したものであった。具体的な仕様については上述した通りである。
発光管の成形工程において、発光管を膨らませる際、上記ランプ1と同様乾燥した気体(N2)を用いており、発光管内面におけるOH基の濃度は成形前の原材料の水準を維持し、5wt−ppmと低いものであった。また、ランプ1と同様にして、陰極本体のテーパ部分の表面に、従来知られる方法により炭化層を形成すると共に、タンタルゲッターを発光管内部に配置した。
このようなランプ2を点灯したところ、フリッカー寿命は260時間になり、ランプ1と比較して、極めて短寿命であった。
更に、ランプ2を分析したところ、発光管の内部の総炭素量は発光管内容積1cm3あたり2.1μmolであり、なお、ゲッターを構成するタンタルの炭素に対するモル比は31であった。
【0040】
図5に、ランプ2におけるフリッカー現象を観察したときの、陰極先端の変形の様子を模式的に示す。点灯後200hでは滑らかな状態が維持されているが、やがて陰極先端が変形して凹凸が形成されると、凸部と凸部の間を放電起点が移動(アークジャンプ)して、フリッカーが発生し始めることが確認された。
すなわち、陰極先端が消耗して先端面が大きくなっても放電は安定しているが、更に変形が進み、先端面に凹凸ができてしまうと、凸部と凸部の間で放電起点が移動してフリッカーを発生する。本参照例にかかるランプの用に高負荷の仕様のランプでは、陰極先端部の温度が高く、このような変形が速く進むためフリッカー寿命が短いものと考えられる。
【0041】
更に、ランプ2と同じ仕様のランプを複数本点灯し、フリッカーが発生する前のランプの陰極とフリッカー発生後のランプの陰極とをX線光電子分光装置(XPS)によって分析した。この結果、前者のフリッカーが発生する前のランプの陰極先端部にはタングステンの炭化物が存在したが、後者のフリッカー発生後のランプの陰極先端部には存在しなかった。このことから発明者らは、炭素が陰極先端部へ輸送されてタングステンの炭化物が生成すると陰極先端面に凹凸ができないが、タングステンの炭化物が生成されなくなると陰極先端面に凹凸ができて、フリッカーの発生に至る、と推察した。
【0042】
つまりこのような現象についてまとめると、次のようになる。発光管内の水分と発光管内の炭素とが反応してCOが生成し、放電空間内の気相中を拡散して陰極先端部へ輸送される。更に詳細には、COが気中を拡散してアーク内に入ると、高温のために分解と電離が起こり、C+イオンがアーク中の電場によって陰極先端面へ輸送される。したがって、フリッカー寿命を改善するためには、COの生成が長時間にわたって維持されることが必要である。
【0043】
[参照例3]
ランプ3(参照例3)は、長時間にわたる水の供給源として、内表面層のOH基濃度を高くした発光管を用いたランプとしたものである。ランプ3は、このOH基の濃度にかかる構成を除いて、他の構成はランプ2と同様にして製作した。
【0044】
ここで、発光管ガラス内表面にOH基濃度の高い層は、例えば以下のようにして形成することができる。すなわち、発光管を膨らませる発光管成形工程において、作業温度以上に加熱した石英ガラス管内に水蒸気を含む加圧気体を吹き入れることによって、発光管ガラス内表面にOH基濃度の高い層を形成することができる。加圧気体は、水中をくぐらせることによって水蒸気を含ませることができると共に、その水温を調節することによって加圧気体が含む水分量および発光管内表面層のOH基濃度を制御することができる。例えば、25℃の水中をくぐらせた加圧気体(窒素)を用いて、2500℃に加熱した石英ガラス管を膨らませると、約2分間で、約150μmの厚さの平均のOH基濃度を約100wt−ppmに高めた発光管内表面層を形成することができる。また、水温を80℃とすると、他の加工条件は同じ場合、約150μmの厚さの平均のOH基濃度は約350wt−ppmとなる。
【0045】
このような手段により、約150μmの厚さの平均のOH基濃度を発光管のOH基濃度を100wt−ppmまで高めたものを製作した。仕様について詳細を図4の表に示す。
しかしながら、このランプ3においても、フリッカー寿命の改善効果は僅かなものにとどまった。この理由は、COを生成するための水の供給は増加したものの、炭素量が不十分であったためと考えられる。
【0046】
[実施例1]
そこで、発光管内の炭素の量を増やしたランプ4(実施例1)を製作した。
なお、ランプ4(実施例1)においても、長時間にわたる水の供給源として、内表面層のOH基濃度を高くした発光管を用いた点はランプ3(参照例3)と同様である。
ここで、炭素の量を増やすための方法としては種々検討されるが、本実施例では、陰極表面を炭化する面積を増やすことによった。発光管内部に存在する炭素の量、すなわち、陰極先端の炭化層陰極または陽極に配置される炭素の量は、例えば炭化層形成工程において、炭素を含む塗布剤の量、炭化層を形成する領域の面積、高温浸炭処理の温度などによって調節することができる。
このランプ4の点灯試験を実施したところ、フリッカー寿命が470hに伸び、これまでにない改善が認められた。これは、十分な炭素量と発光管内表面から放出される水分によって、COの生成と陰極先端への炭素の供給が長時間にわたって維持されるようになったためと考えられる。
更にランプ4を分析した結果、発光管内部に存在する炭素の量は、発光管の内容積1cm3に対して、2.4μmolであった。
【0047】
[実施例2]
上記ランプ4(実施例1)のランプとは陰極への浸炭の量を更に増やしたことを除いて同様の構成の、ランプ5(実施例2)を、作製した。このランプ5を点灯したところ、フリッカー寿命は540hであり、更に使用寿命を伸ばすことができた。このランプ5における炭素の量を分析したところ、発光管の内容積1cm3に対して、3.0μmolであった。
【0048】
[実施例3]
続いて、上記ランプ5(実施例2)のランプとは発光管内表面層のOH基濃度を更に増やしたことを除いて、同様の構成のランプ6(実施例3)を作製した。ランプ6の発光管内面のOH基濃度は350wt−ppmであった。この図6に、ランプ6(実施例3)の陰極先端形状の変化の様子を示す。
このランプ6のフリッカー寿命は650hであり、更に使用寿命を伸ばすことができた。
このランプ6における炭素の量を分析したところ、発光管の内容積に対して0.54μmol/cm3であった。
【0049】
[実施例4]
上記ランプ6(実施例3)のランプとは陰極への浸炭の量を更に増やしたことを除いて、同様の構成のランプ7(実施例4(6))を作製した。図7に、ランプ7(実施例4)のランプにおける陰極先端形状の変化の様子を示す。
このランプ7のフリッカー寿命は910hであり、更に使用寿命を伸ばすことができた。
このランプ6における炭素の量を分析したところ、発光管の内容積に対して5.2μmol/cm3であった。
【0050】
以上のランプ4〜7(実施例1、2、3、4)について検討すると、炭素の量が多くなるほど、更にOH基濃度が高くなるほど、フリッカー寿命は長くなることが分かる。また、図6,7の比較から参照されるように、炭素量の多いランプ7(実施例4)の方が、陰極先端に凹凸の発生が遅くなっていることが分かる。
【0051】
ところで、上記ランプ1〜ランプ7においては、標準的にタンタルからなるゲッターを備えたものであった。このタンタルゲッターは、ランプ中に水分が存在するとH2が生成して、ランプの始動性が悪くなることから、これを防止するために設けられるが、それ以外のCOも吸蔵するため、陰極先端への炭素の供給を阻害することが考えられる。
そこで、本発明者らは、炭素に対するタンタル量(モル数)を11以下としたランプを製作することにした。
【0052】
[実施例5]
ランプ8(実施例5)は、上述した考察をもとにタンタルゲッターの量を上記ランプ6(実施例3)と比較して半分量にして作製したキセノンショートアークランプである。なおタンタルゲッター以外の基本的仕様は、上記ランプ6と同様であった。
ランプ8(実施例5)を評価したところ、ランプ6と比較するとフリッカー寿命が改善された。これはタンタルゲッターに吸蔵されるCOが減少することで、陰極先端への炭素の供給が更に長時間にわたって維持されるようになったためと考えられる。
【0053】
ところで、上述したランプ2〜ランプ8においては、タンタルゲッターをいずれも図1のように電極の軸部に配置したものである。ランプ点灯中のゲッターの到達温度は1300℃程度であることが放射温度計による測定から分かっている。タンタルは、ランプ消灯中にCOを吸蔵するが、温度1400℃以上に上昇することによって、COを放出する。
よって、本発明者らは、上記ランプ6(実施例3)と比較して、タンタルゲッターの配置箇所のみを変更してその他は同じ仕様のランプ9(実施例6)を製作した。
このランプ9においては、タンタルゲッターを図8で示したように陰極本体および陽極本体に配置したところ、ゲッターの到達温度を1400℃以上とすることができた。
ランプ消灯中、タンタルに吸蔵されたCOは、ランプ点灯中、1400℃以上に加熱されることにより放出され、ランプ点灯中、COが枯渇することなく陰極先端に供給されるようになる。
しかも、ランプ消灯中には、水素ガス(H2)などの不純ガスがタンタルゲッターに吸蔵されて放電空間から除去されるので、始動性に優れたランプとなる。このランプ9のフリッカー寿命は780hであり、タンタルゲッターの到達温度が1300℃程度のランプ6に比較すると、寿命が改善することが確認された。
なお、このランプ9における炭素の量を分析したところ、発光管の内容積に対して3.0μmol/cm3であった。
【0054】
以上の実施例に係るランプ4〜9においては、H2などの不純ガスを除去するためにタンタルゲッターを用いたが、ジルコニウム(Zr)など他のゲッターを用いることもできる。その場合、COの吸蔵量や放出温度から、炭素量とゲッター量の比率やゲッターを設ける位置を適宜に調節すればよい。
【0055】
以上の参照例及び実施例にかかるランプ1〜ランプ9においては、炭素(C)の供給源として、主に陰極の表面層に炭化層を形成することにより設けた。本発明者らは更に、陽極本体、陰極軸部、陽極軸部などの電極部等のランプ内部の金属部分に炭素の供給源を配置し、フリッカー寿命を伸ばせるかどうか検証したところ、いずれも形態によっても、陰極に炭化層を設けた場合と同様の効果が得られると、確認した。
【符号の説明】
【0056】
10 キセノンショートアークランプ
11 発光管
12 発光管部
13a 絞り込み部
13 封止管部
13b シール部
14 陰極
14a 陰極本体
14b 陰極軸部
15 陽極
15a 陽極本体
15b 陽極軸部
16 ガラス体
17 ゲッター
L 電極の軸
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタルプロジェクター用のキセノンショートアークランプにおいて、
陽極と、
電子放射性物質を備えたタングステンからなる陰極本体を備えた陰極と、
石英ガラス製の発光管とを具備してなり、
前記陰極先端領域を除く前記発光管の内部の金属部位に炭素の供給源を備え、
ランプ点灯中、前記陰極先端に気相を介して炭素が供給され、当該陰極の表層が溶融する
ことを特徴とするデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプ。
【請求項2】
デジタルプロジェクター用のキセノンショートアークランプにおいて、
陽極と、
電子放射性物質を備えたタングステンからなる陰極本体を備えた陰極と、
石英ガラス製の発光管とを具備してなり、
前記陰極は、先端面における表層に、タングステン(W)の相中にタングステンの炭化物の縞状の相を有してなる
ことを特徴とするデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプにおいて、
前記発光管の内部に封入されたキセノンガスの封入圧力が1MPa以上、
管壁負荷が30W/cm2以上、
前記陰極の先端面の電流密度が119A/mm2以上である
ことを特徴とする請求項1または2に記載のデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプ。
【請求項4】
前記発光管の内部に、炭素(C)に換算して発光管の内容積1cm3あたり2.4μmol/cm3以上の炭素および/または炭化物を備えている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプ。
【請求項5】
前記発光管における内表面のOH基濃度が100wt−ppm以上である
ことを特徴とする請求項4に記載のデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプ。
【請求項6】
前記発光管に含まれるOH基の量は、ランプの内容積1cm3あたり0.15μmol/cm3以上である
ことを特徴とする請求項4に記載のデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプ。
【請求項7】
前記発光管の内部にタンタル若しくはタンタル化合物よりなるゲッターを設けてなり、
前記ゲッターに含まれるタンタルは、前記炭素に対するモル比が11以下である
ことを特徴とする請求項4に記載のデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプ。
【請求項8】
前記発光管の内部にタンタル若しくはタンタル化合物よりなるゲッターを設けてなり、
前記ゲッターは、ランプ点灯中、当該ゲッターの到達温度が1400℃以上になる部位に取り付けられている
ことを特徴とする請求項4に記載のデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプ。
【請求項1】
デジタルプロジェクター用のキセノンショートアークランプにおいて、
陽極と、
電子放射性物質を備えたタングステンからなる陰極本体を備えた陰極と、
石英ガラス製の発光管とを具備してなり、
前記陰極先端領域を除く前記発光管の内部の金属部位に炭素の供給源を備え、
ランプ点灯中、前記陰極先端に気相を介して炭素が供給され、当該陰極の表層が溶融する
ことを特徴とするデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプ。
【請求項2】
デジタルプロジェクター用のキセノンショートアークランプにおいて、
陽極と、
電子放射性物質を備えたタングステンからなる陰極本体を備えた陰極と、
石英ガラス製の発光管とを具備してなり、
前記陰極は、先端面における表層に、タングステン(W)の相中にタングステンの炭化物の縞状の相を有してなる
ことを特徴とするデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプにおいて、
前記発光管の内部に封入されたキセノンガスの封入圧力が1MPa以上、
管壁負荷が30W/cm2以上、
前記陰極の先端面の電流密度が119A/mm2以上である
ことを特徴とする請求項1または2に記載のデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプ。
【請求項4】
前記発光管の内部に、炭素(C)に換算して発光管の内容積1cm3あたり2.4μmol/cm3以上の炭素および/または炭化物を備えている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプ。
【請求項5】
前記発光管における内表面のOH基濃度が100wt−ppm以上である
ことを特徴とする請求項4に記載のデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプ。
【請求項6】
前記発光管に含まれるOH基の量は、ランプの内容積1cm3あたり0.15μmol/cm3以上である
ことを特徴とする請求項4に記載のデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプ。
【請求項7】
前記発光管の内部にタンタル若しくはタンタル化合物よりなるゲッターを設けてなり、
前記ゲッターに含まれるタンタルは、前記炭素に対するモル比が11以下である
ことを特徴とする請求項4に記載のデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプ。
【請求項8】
前記発光管の内部にタンタル若しくはタンタル化合物よりなるゲッターを設けてなり、
前記ゲッターは、ランプ点灯中、当該ゲッターの到達温度が1400℃以上になる部位に取り付けられている
ことを特徴とする請求項4に記載のデジタルプロジェクター用キセノンショートアークランプ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−18472(P2011−18472A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160924(P2009−160924)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】
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