説明

デジタル信号生成回路及びデジタルマイク

【課題】入力信号の温度変化をキャンセルするときの増幅利得の歪み及びバラツキを低減する。
【解決手段】デジタル信号生成回路10は、増幅ユニット12と、基準電圧生成回路142と、変調器140と、を備える。増幅ユニット12は、温度Tに線形依存する信号レベルを有するアナログ入力信号Ainを増幅する。基準電圧生成回路142は、温度Tに線形依存させて基準電圧Vrefを生成する。変調器140は、基準電圧Vrefに基づいて、増幅ユニット12が増幅したアナログ入力信号(増幅信号Ain´)をデジタル出力信号Doutに変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、デジタル信号生成回路及びデジタルマイクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のデジタルマイクは、電気信号を出力するマイク素子と、電気信号を温度に応じて増幅する増幅ユニットと、増幅ユニットの出力をデジタル信号に変換するアナログデジタル変換ユニットと、を備える。
【0003】
増幅ユニットは、線形特性を有する抵抗と、非線形特性を有するMOS(Metal Oxide Semiconductor)スイッチと、温度に応じてMOSスイッチのオン及びオフを制御する制御回路と、を備える。制御回路が温度に応じてMOSスイッチのオン及びオフを制御することにより、増幅ユニットの増幅利得が温度に応じて変化する。これにより、電気信号が温度に応じて増幅する。
【0004】
しかしながら、増幅ユニットに、非線形特性を有するMOSスイッチと、MOSスイッチを制御する制御回路と、が設けられるので、増幅ユニットの増幅利得の歪み及びバラツキが大きくなる。即ち、従来のデジタルマイクでは、信号の温度変化をキャンセルするときの増幅利得の歪み及びバラツキが大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−45639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、入力信号の温度変化をキャンセルするときの増幅利得の歪み及びバラツキを低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態のデジタル信号生成回路は、増幅ユニットと、基準電圧生成回路と、変調器と、を備える。増幅ユニットは、温度に線形依存する信号レベルを有するアナログ入力信号を増幅する。基準電圧生成回路は、温度に線形依存させて基準電圧を生成する。変調器は、基準電圧に基づいて、増幅ユニットが増幅したアナログ入力信号をデジタル出力信号に変換する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態のデジタルマイク1の構成を示すブロック図。
【図2】本実施形態の増幅ユニット12の構成を示すブロック図。
【図3】本実施形態のADC14の構成を示すブロック図。
【図4】本実施形態の基準電圧Vrefとアナログ出力信号Aoutの利得Gとの関係を示すグラフ。
【図5】本実施形態の基準電圧生成回路142及び基準電圧調整回路144の構成を示すブロック図。
【図6】本実施形態の第1電圧V1〜第3電圧V3、及び基準電圧Vrefの特性を示すグラフ。
【図7】本実施形態のパラメータテーブルのデータ構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態について、図面を参照して説明する。
【0010】
本実施形態のデジタルマイク1の構成について説明する。図1は、本実施形態のデジタルマイク1の構成を示すブロック図である。
【0011】
図1に示すように、デジタルマイク1は、デジタル信号生成回路10と、マイク素子20と、デジタル信号処理回路(以下「DSP(Digital Signal Processor)」という)30と、を備える。
【0012】
マイク素子20は、静電型マイク素子である。マイク素子20は、入力音圧に応じた容量値の変化に基づいて、電気信号であるアナログ入力信号Ainを生成する。アナログ入力信号Ainは、デジタルマイク1内の温度Tに線形依存する。温度Tが高いほど、アナログ入力信号Ainの信号レベルも大きくなる。
【0013】
デジタル信号生成回路10は、増幅ユニット12と、アナログデジタル変換ユニット(以下「ADC(Analog Digital Converter)」)14と、増幅ユニット12及びADC14は、電源電圧Vddに基づいて動作する。増幅ユニット12は、温度Tに依存しない増幅率でアナログ入力信号Ainを増幅し、増幅信号Ain´を生成する。ADC14は、増幅信号Ain´をデジタル出力信号Doutに変換する。
【0014】
DSP30は、デジタル出力信号Doutに対して所定のデジタル処理を実行し、アナログ出力信号Aoutを生成する。例えば、DSP30は、ローパスフィルタ又はフーリエ変換器を備える。
【0015】
本実施形態の増幅ユニット12の構成について説明する。図2は、本実施形態の増幅ユニット12の構成を示すブロック図である。
【0016】
図2に示すように、増幅ユニット12は、レベルシフタ120と、入力抵抗122a及び122bと、差動アンプ124と、帰還抵抗126a及び126bと、を備える。
【0017】
レベルシフタ120は、アナログ入力信号Ainのバイアス電位を、グラウンドGNDのグラウンド電位から電源電圧Vddの略半分の電位へシフトする。具体的には、レベルシフタ120は、2つの入力端子(第1入力端子及び第2入力端子)と、2つの出力端子(第1出力端子及び第2出力端子)と、を備える。レベルシフタ120の第1入力端子は、図1のマイク素子20の出力端子に接続され、アナログ入力信号Ainを入力する。レベルシフタ120の第2入力端子は、グラウンドGNDに接続される。即ち、レベルシフタ120の第2入力端子の電位は、グラウンド電位である。その結果、レベルシフタ120の第1入力端子は、極めて高い抵抗素子によってグラウンド電位にバイアスされる。
【0018】
入力抵抗122a及び122bは、それぞれ、レベルシフタ120の第1出力端子及び第2出力端子と、差動アンプ124の第1入力端子及び第2入力端子と、に接続される。入力抵抗122a及び122bの抵抗値は、温度Tに対して線形性を有する。
【0019】
差動アンプ124は、レベルシフタ120の出力信号(即ち、電源電圧の略半分の電位にシフトされたバイアス電位を有するアナログ入力信号Ain)をシングル−差動変換するための変換機能と、レベルシフタ120の出力信号を増幅するための増幅機能と、を備える。具体的には、差動アンプ124は、2つの入力端子(第1入力端子及び第2入力端子)と、2つの出力端子(第1出力端子及び第2出力端子)と、を備える。差動アンプ124の第1入力端子及び第2入力端子には、それぞれ、入力抵抗122a及び122bと、帰還抵抗126a及び126bと、が接続される。差動アンプ124の第1出力端子及び第2出力端子には、それぞれ、帰還抵抗126a及び126bと、図1のADC14と、が接続される。差動アンプ124は、差動アンプ124の第1入力端子及び第2入力端子に供給された2つの入力信号の差に応じた2つの出力信号Ain´1及びAin´2を出力する。なお、差動アンプ124は、レベルシフタ120の出力信号が所定の閾値を超える場合に、レベルシフタ120の出力信号の信号レベルが閾値以下となるように、レベルシフタ120の出力信号の信号レベルを低減するためのリミッタ機能をさらに備えても良い。
【0020】
帰還抵抗126a及び126bは、それぞれ、差動アンプ124の第1入力端子及び第2入力端子と、差動アンプ124の第1出力端子及び第2出力端子と、に接続される。帰還抵抗126a及び126bは、それぞれ、差動アンプ124の出力信号Ain´1及びAin´2を差動アンプ124にフィードバックする。帰還抵抗126a及び126bの抵抗値は、温度Tに対して線形性を有する。
【0021】
本実施形態のADC14の構成について説明する。図3は、本実施形態のADC14の構成を示すブロック図である。図4は、本実施形態の基準電圧Vrefとアナログ出力信号Aoutの利得Gとの関係を示すグラフである。
【0022】
図3に示すように、ADC14は、変調器140と、基準電圧生成回路142と、基準電圧調整回路144と、を備える。
【0023】
変調器140は、基準電圧生成回路142が発生させた基準電圧Vrefの4倍のフルスケール電圧として用いて、差動アンプ124の出力信号Ain´1及びAin´2をデジタル出力信号Doutに変換する。例えば、変調器140は、4次の離散型デルタシグマ変調器であり、デジタル出力信号Doutは、PCM(Pulse Code Modulation)信号である。
【0024】
ここで、アナログ出力信号Aoutは、差動アンプ124の出力信号Ain´1及びAin´2の信号レベルVin´を用いて、式1のように表される。式1より、フルスケール電圧が1.1倍になると、アナログ出力信号Aoutは、約−0.8dBだけ小さくなる。即ち、式1より、基準電圧Vrefが高くなると、アナログ入力信号Ainに対するアナログ出力信号Aoutの利得(即ち、デジタルマイク1の利得)Gが線形的に低下する(図4を参照)。
【数1】

【0025】
基準電圧生成回路142は、図4の特性を満たすように、基準電圧Vrefを発生させる。即ち、基準電圧生成回路142は、変調器140のフルスケール電圧を規定する。基準電圧調整回路144は、温度Tに応じて基準電圧Vrefを調整するように、基準電圧生成回路142を制御する。
【0026】
本実施形態の基準電圧生成回路142及び基準電圧調整回路144の構成について説明する。図5は、本実施形態の基準電圧生成回路142及び基準電圧調整回路144の構成を示すブロック図である。図6は、本実施形態の第1電圧V1〜第3電圧V3、及び基準電圧Vrefの特性を示すグラフである。図7は、本実施形態のパラメータテーブルのデータ構造を示す図である。
【0027】
図5に示すように、基準電圧生成回路142は、定電流源142a及び142bと、温度センサ142cと、基準電圧発生源142dと、を備える。基準電圧調整回路144は、基準電圧Vrefの温度変化ΔVrefを調整する回路であり、ロジック回路144aと、レジスタ144bと、を備える。
【0028】
定電流源142a及び142bは、電源電圧Vddに依存しない一定の電流を発生させる。基準電圧発生源142dの正端子には、定電流源142aが発生させた定電流と、抵抗R1の抵抗値と、に応じた第1電圧V1が印加される。図6に示すように、温度Tにかかわらず、第1電圧V1は例えばVdd/2に固定される。基準電圧発生源142dの負端子には、定電流源142bが発生させた定電流と、温度センサ142cの出力信号の第3電圧V3(即ち、温度Tに応じた電圧)と、抵抗R2の抵抗値と、に応じた第2電圧V2が印加される。図6に示すように、温度Tが高くなるほど、第3電圧V3は線形的に低くなる。温度センサ142cは、デジタルマイク1内の任意の場所に設けられ、温度Tに応じた電流を生成する。温度センサ142cは、例えば感熱性のダイオードである。
【0029】
可変抵抗Rvは、複数の抵抗と、複数の抵抗のオン及びオフを切り替える複数のスイッチと、から構成される。各抵抗の抵抗値は、均等でも良いし、互いに異なっても良い。レジスタ144bには、パラメータテーブルが格納される。図7のパラメータテーブルは、アナログ入力信号Ainの温度変化ΔAin[dB/℃]と、可変抵抗Rvの抵抗値[kΩ]及び抵抗R2の抵抗値[kΩ]との関係を示している。アナログ入力信号Ainの温度変化ΔAinは、マイク素子の種類に応じて決まる。ロジック回路144aは、レジスタ144bに格納されたパラメータテーブルに基づいて、可変抵抗Rv内の複数のスイッチのオン及びオフを切り替える。これにより、アナログ入力信号Ainの温度変化ΔAin(即ち、マイク素子の種類)に応じて、可変抵抗Rvの抵抗値[kΩ]及び抵抗R2の抵抗値[kΩ]の組み合わせを変更できる。なお、パラメータテーブルは、書き換え可能である。
【0030】
基準電圧発生源142dは、第1電圧V1と、第2電圧V2と、可変抵抗Rvの抵抗値と、に応じた基準電圧Vrefを生成する。図6に示すように、温度Tが高くなるほど、基準電圧Vrefは線形的に大きくなる。即ち、基準電圧発生源142dは、温度Tに応じた基準電圧Vrefを発生させる。なお、第1電圧V1〜第3電圧V3、及び基準電圧Vrefは、所定の温度Tx(例えば、25℃)において、互いに等しい値(Vdd/2)となる。
【0031】
本実施形態の具体例について説明する。
【0032】
例えば、アナログ入力信号Ainの温度変化ΔAinが+0.04dB/℃である場合には、アナログ入力信号Ainの温度変化ΔAinをキャンセルするのに必要な変調器140の利得Gの温度変化ΔGは、−0.04dB/℃である。1℃当たりの基準電圧Vrefの温度変化ΔVrefと、アナログ出力信号Aoutの変化率(以下「アナログ出力変化率」という)ΔAoutと、式1と、を用いると、式2が成立する。式2より、基準電圧Vrefの温度変化ΔVrefは、約0.0046である。即ち、基準電圧Vrefを1℃当たり約0.46%だけ変化させると、アナログ入力信号Ainの温度変化ΔAinがキャンセルされる。
【数2】

【0033】
本実施形態のデジタル信号生成回路10は、温度Tに線形依存する信号レベルを有するアナログ入力信号Ainを増幅する増幅ユニット12と、温度Tに線形依存させて基準電圧Vrefを生成する基準電圧生成回路142と、基準電圧Vrefに基づいて、増幅ユニット12が増幅したアナログ入力信号(増幅信号Ain´)をデジタル出力信号Doutに変換する変調器140と、を備える。特に、基準電圧生成回路142は、温度Tを検出する温度センサ142cと、温度センサ142cの出力に応じた基準電圧Vrefを発生させる基準電圧源142dと、を備える。本実施形態によれば、変調器140のフルスケール電圧を規定する基準電圧Vrefが、温度Tに応じて制御される。その結果、アナログ入力信号Ainの温度変化ΔAinをキャンセルするときの増幅利得の歪み及びバラツキを低減できる。
【0034】
また、本実施形態によれば、温度Tに基づいて、基準電圧生成回路142の利得を調整する基準電圧調整部144をさらに備える。特に、基準電圧調整部144は、可変抵抗Rvと、パラメータテーブルを記憶するレジスタ144bと、パラメータテーブルに基づいて可変抵抗Rvの抵抗値を制御するロジック回路144aと、を備える。パラメータテーブルは、アナログ入力信号の温度変化Ainと、可変抵抗Rvの抵抗値及び抵抗R2の抵抗値との関係を示す。本実施形態によれば、基準電圧Vrefの温度変化ΔVrefを調整可能である。特に、パラメータテーブルを書き換えることにより、アナログ入力信号の温度変化Ain(即ち、マイク素子の種類)に応じて基準電圧Vrefの温度変化ΔVrefを調整できる。これにより、デジタル信号生成回路10の回路構成を変えることなく、種々のマイク素子20及びDSP30にデジタル信号生成回路10を容易に適用できる。
【0035】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化される。また、上述した実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明が形成可能である。例えば、上述した実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 デジタルマイク
10 デジタル信号生成回路
12 増幅ユニット
120 レベルシフタ
122a及び122b 入力抵抗
124 差動アンプ
126a及び126b 帰還抵抗
14 ADC
140 変調器
142 基準電圧生成回路
142a及び142b 定電流源
142c 温度センサ
142d 基準電圧発生源
144 基準電圧調整回路
144a ロジック回路
144b レジスタ
20 マイク素子
30 DSP

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度に線形依存する信号レベルを有するアナログ入力信号を増幅する増幅ユニットと、
前記温度に線形依存させて基準電圧を生成する基準電圧生成回路と、
前記基準電圧に基づいて、前記増幅ユニットが増幅したアナログ入力信号をデジタル出力信号に変換する変調器と、を備えることを特徴とするデジタル信号生成回路。
【請求項2】
前記基準電圧生成回路は、
前記温度を検出する温度センサと、
前記温度センサの出力に応じた前記基準電圧を発生させる基準電圧源と、を備える、請求項1に記載のデジタル信号生成回路。
【請求項3】
前記温度に基づいて、前記基準電圧生成回路の利得を調整する基準電圧調整部をさらに備える、請求項1又は2に記載のデジタル信号生成回路。
【請求項4】
前記基準電圧調整部は、
可変抵抗と、
前記可変抵抗の抵抗値と前記温度との関係を示すパラメータテーブルを記憶するレジスタと、
前記パラメータテーブルに基づいて前記可変抵抗の抵抗値を制御するロジック回路と、を備える、請求項3に記載のデジタル信号生成回路。
【請求項5】
温度に線形依存する信号レベルを有するアナログ入力信号を生成するマイク素子と、
前記アナログ入力信号を増幅する増幅ユニットと、
前記温度に線形依存させて基準電圧を生成する基準電圧生成回路と、
前記基準電圧に基づいて、前記増幅ユニットが増幅したアナログ入力信号をデジタル出力信号に変換する変調器と、
前記デジタル出力信号に対して所定のデジタル処理を実行するデジタル信号処理回路と、を備えることを特徴とするデジタルマイク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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