説明

デジタル制御スイッチング電源装置

【課題】スイッチング周期に応じてA/D変換動作を最適化するA/D変換回路を実現し、当該A/D変換回路を用いて過渡応答特性が良好なデジタル制御スイッチング電源装置を提供する。
【解決手段】入力電圧VinをPWM信号により所望する出力電圧Voutに変換するデジタル制御スイッチング電源装置であって、バイアス電流により遅延時間が制御される遅延素子アレイを有し、信号伝播の遅延時間により電流値をデジタル信号に変換するディレイライン回路1と、スイッチング周期TsとA/D変換周期との位相差を検出する位相差検出回路2と、位相差に応じた制御電圧を生成するチャージポンプ回路3と、チャージポンプ回路3の出力電圧および出力電圧Voutの検出値と基準電圧Vrefとの比較結果よりバイアス電流を決定するバイアス電流指示回路4と、を有するA/D変換回路を備え、A/D変換周期をスイッチング周期Tsに同期するように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス幅変調信号(以下、PWM(Pulse Width Modulation)信号という。)に従いスイッチングをおこない電圧変換をするスイッチング電源装置に関し、特に、デジタル信号による制御に好適となるアナログ/デジタル変換回路(以下、A/D変換回路という。)を有したデジタル制御スイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図12に、従来の一般的なデジタル制御スイッチング電源装置の第1の構成例を示す。図12は、スイッチング素子をPWM信号で制御して入力電圧Vinを出力電圧Voutに変換する電圧モードのデジタル制御スイッチング電源装置の構成例であり、減算回路Subと、A/D変換回路12と、デジタル補償回路22と、デジタルPWM回路32と、駆動回路DRVおよび該駆動回路DRVで制御される一対のスイッチング素子であるPチャンネルMOSFET(以下、PMOSという。)Q1およびNチャンネルMOSFET(以下、NMOSという。)Q2からなるスイッチング回路41と、インダクタLとコンデンサCからなるLC平滑フィルタ51と、から構成されている。また、Vinは入力電圧Vinをデジタル制御スイッチング電源装置に入力する電源(電源とその電圧に同じ符号を付した。)、RLは負荷回路である。
【0003】
図12の構成において、出力電圧Voutの検出値(出力電圧そのもの、出力電圧を分圧したもの、出力電圧をレベルシフトしたものなど。)がフィードバックされ、減算回路Subにより目標値となる基準電圧Vrefとの誤差電圧Ve((Vref−Vout),(Vref−K1・Vout),(Vref−(Vout−K2))など。ここで、K1,K2は正定数。)が生成される。誤差電圧Veは、A/D変換回路12でスイッチング周期Ts毎にサンプリングされ、デジタルエラー信号e[n]に変換される(ここで、[n]はn番目のスイッチング周期における信号であることを示す。)。デジタル補償回路22は、入力されるデジタルエラー信号e[n]にPID(Proportional Integral and Differential)処理を施し、PWM信号のデューティを制御するデューティコマンド信号dc[n]を算出する。デジタルPWM回路32は、算出されたデューティコマンド信号dc[n]に基づきPWM信号を生成する。スイッチング回路41は、スイッチング素子Q1、Q2をPWM信号に従いオン・オフ制御し、LC平滑フィルタ51はスイッチング回路41の出力を平滑して出力電圧Voutを生成し、これを負荷回路RLに供給する。
【0004】
ここで、一般的なスイッチング電源装置の仕様の場合、A/D変換回路の変換範囲や変換結果を表すために必要なビット数は小さくてよいため、デジタル制御スイッチング電源装置には、動作電圧や動作電流に依存して変化する素子の遅延時間を利用したディレイラインADC(A/D Converter)が用いられている。(例えば、特許文献1参照。)
図13に、従来のディレイラインADCの構成例を示す。ディレイラインADCは、遅延時間調整用の遅延素子dmy、n段の遅延素子Dcellが直列接続して構成される遅延素子アレイd1〜d(n)、各遅延素子Dcellの出力をデータ格納信号Sampleの立ち上がりエッジで格納するn個のフリップフロップDFF、および該n個のフリップフロップDFFの出力からデジタルエラー信号e[n]を生成するエンコーダ回路5から構成される。
【0005】
図13において、遅延素子dmyは、遅延素子アレイd1〜d(n)の遅延時間を最適化するために、全体の遅延時間を調整する目的で介挿されている。また、制御信号Dcontは、遅延素子dmyおよび遅延素子Dcellの遅延時間を制御するための信号である。
【0006】
図14に、図13に示したディレイラインADCのタイミングチャートを示す。ディレイラインADCは、スイッチング電源装置のスイッチング周期Ts(基本クロックであるスイッチング・クロックCLK−SWの周期。)毎にA/D変換動作をおこなう。このA/D変換動作は、スイッチング・クロックCLK−SWに同期したA/D変換開始信号Startの立ち上がりで開始し、立ち下がりでリセットされ終了する。
【0007】
図14(A)は、通常の周波数の場合のタイミングチャートを示す。A/D変換開始信号Startが遅延素子dmyに入力すると、すなわち遅延素子dmyの入力がH(ハイ)レベルになると、そのHレベルが遅延素子dmyによる遅延時間tddだけ遅延して遅延素子アレイの初段の遅延素子d1に伝播され、それぞれの遅延素子で一定の遅延時間tdずつ遅延しながら遅延素子アレイd1〜d(n)を順次伝播していく。この各遅延素子Dcellの出力d1〜d(n)(素子とその出力に同じ符号を付した。)を、予めタイミングを設定されたデータ格納信号Sampleの立ち上がりでn個のフリップフロップDFFに格納する。そして、格納されたd1〜d(n)を表すn個のフリップフロップDFFの出力データout1〜out(n)をエンコーダ回路5によりエンコードすることにより、デジタルエラー信号e[n]が得られる。ここで、データout1〜out(n)は、最初のk個のデータd1〜d(k)がHレベルで、残りのデータd(k+1)〜d(n)がL(ロー)レベルの信号となる。そして、制御信号Dcontの値が遅延素子dmyおよび遅延素子Dcellの遅延時間を長くさせるものであればHレベルが伝播される遅延素子の数が少なくなるのでkの値が小さくなり、遅延時間を短くさせるものであればHレベルが伝播される遅延素子の数が多くなるのでkの値が大きくなる。このように、ディレイラインADCは、遅延時間tdd,tdおよびデータ格納信号Samplによる格納タイミングを制御することで、制御信号Dcontに対するA/D変換を実現している。
【0008】
このA/D変換時間とデジタル補償回路22でのデューティコマンド信号dc[n]の計算時間の合計時間は、スイッチング周期Ts以下となるように設定されなければならない。(減算回路SubとデジタルPWM回路31の動作時間は無視できるものとする。)
このため、プロセス変動や素子のサイズバラツキの影響でスイッチング周期Tsや遅延時間にバラツキが発生しても、確実にスイッチング周期Ts内でA/D変換とデューティコマンド信号dc[n]の計算を完了させるために、時間的なマージンを確保しておく必要がある。
【0009】
さらに、スイッチング周波数を可変にしてユーザー側でその周波数を設定できるようにする場合には、仕様で規定している最小のスイッチング周期でA/D変換とデューティコマンド信号dc[n]の計算を完了するように設定されなければならない。図14(B)は、2倍のスイッチング周波数まで対応可能なA/D変換とデューティコマンド信号計算のタイミングチャートを示しているが、必要なマージンが非常に大きくなってしまう。
【0010】
デジタル制御スイッチング電源装置は、PID計算等のデジタル信号処理が必要となるため、アナログ制御方式に比べフィードバック制御に時間が掛かり過渡応答特性に課題があることが知られている。このディレイラインADCをスイッチング電源装置に適用した場合、上述したように時間的なマージン確保が必要となり、遅れ時間が更に増大してしまう。この時間的なマージンは、A/D変換結果がPWM信号に反映されるまでの遅れ時間となるため、図14(B)に示したような過大なマージン時間はA/D変換結果の出力へのフィードバックを遅らせることになり、スイッチング電源装置の過渡応答特性を大きく悪化させてしまう。
【0011】
この過渡応答特性を改善するデジタル制御スイッチング電源装置として、通常のデジタル信号処理回路とは別に負荷急変時の過渡変動検出回路を新たに設け、負荷急変時はデジタル信号処理を介さず出力電圧を制御する回路構成が特許文献2で紹介されている。
【0012】
図15に、従来のデジタル制御スイッチング電源装置の第2の構成例として、この特許文献2に記載されているデジタル制御スイッチング電源装置の回路構成を示す。なお、図12に示す従来のデジタル制御スイッチング電源装置の第1の構成例と同じ部位には同じ符号を付して、詳細な説明は省略する。
【0013】
図15に示すデジタル制御スイッチング電源装置は、デジタル信号処理回路部61と、スイッチング回路41と、LC平滑フィルタ51と、2つのコンパレータCP1およびCP2からなる過渡変動検出回路71と、抵抗R2とコンデンサC2からなるCRフィルタ81と、から構成されている。
【0014】
デジタル信号処理回路部61は、A/D変換回路13と、デジタル電圧制御回路23と、デジタルPWM回路33と、基準電圧Vref+△およびVref−△の電圧を出力するVref±△回路62と、通常時あるいは負荷急変時のPWM信号を選択・出力するSEL回路63から構成されている。
【0015】
通常の動作時(Vref+△>Vout>Vref−△)は、A/D変換回路13とデジタル電圧制御回路23とデジタルPWM回路33とでデジタル信号処理をおこないSEL回路63を介してデジタルPWM回路33の出力であるPWM信号を選択してスイッチング回路41に出力する。すなわち、図12に示した従来の第1の構成例と同様のスイッチング制御動作をおこなう。
【0016】
一方、負荷急変時の動作は、CRフィルタ81で検出される負荷急変電圧VoCRと基準となる電圧Vref±△とを過渡変動検出回路71のコンパレータCP1およびCP2で比較し、スイッチング回路41の駆動制御方式を選択する。
【0017】
まず、負荷急減時(Vout>Vref+△)の場合は、コンパレータCP1の検出信号α0でSEL回路63を制御し、0%デューティのPWM信号を選択・出力してスイッチング回路41を駆動する。次に、負荷急増時(Vout<Vref−△)の場合は、コンパレータCP2の検出信号α100でSEL回路63を制御し、100%デューティのPWM信号を選択・出力してスイッチング回路41を駆動する。以上説明した動作により、負荷急変時の出力電圧Voutの過渡応答特性を改善するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特表2005−512493号公報
【特許文献2】特開2008−113542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上述した従来のデジタル制御スイッチング電源装置には、以下のような問題点あった。
まず、図12に示した従来の第1の構成例では、A/D変換周期に時間的なマージンが必要となり、出力電圧Voutと基準電圧Vrefとの誤差電圧をディレイラインADCでA/D変換したデジタルエラー信号e[n]に基づきPWM信号を生成して出力電圧Voutを制御するまでに遅れ時間が発生し、出力の過渡応答特性が悪化してしまうという問題点があった。この過渡応答特性を改善するために、スイッチング周期Tsの高速化も考えられるが、使用する素子も必然的に高速化が要求されて高価な素子が必要となり、高速化に伴い消費電流が増大するという問題点も発生する。
【0020】
また、図15に示した従来の第2の構成例では、通常のデジタル信号処理回路とは別に過渡変動検出回路71やCRフィルタ81などを設け、出力電圧Voutの負荷急変時は0%あるいは100%デューティのPWM信号で制御することで過渡応答特性の高速化を実現している。しかし、負荷急変時の専用検出回路や回路部品が新たに必要となり、回路規模が膨大になるという問題点がある。また、通常時の動作と負荷急変時の動作との信号制御が複雑となり、さらに、負荷急変検出電圧と基準となる電圧範囲Vref±△をスイッチング電源装置の仕様に合せて個別に設定が必要になるという問題点があった。
【0021】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、スイッチング周期に応じてA/D変換動作を最適化し定常状態では動作を維持するA/D変換回路を実現し、当該A/D変換回路を適用することにより過渡応答特性が良好なデジタル制御スイッチング電源装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る発明は、入力電圧をパルス幅変調信号により所望する出力電圧に変換するデジタル制御スイッチング電源装置であって、バイアス電流により遅延時間が制御される遅延素子を直列接続した第1の遅延素子アレイを有し、該第1の遅延素子アレイを開始信号が伝播する遅延時間により前記第1の遅延素子アレイの遅延素子に流れるバイアス電流の電流値をデジタル値に変換するディレイライン回路と、前記パルス幅変調信号により定まるスイッチング周期と、前記ディレイライン回路が前記バイアス電流の電流値をデジタル値に変換するアナログ/デジタル変換の変換周期との位相差を検出する位相差検出回路と、該位相差検出回路の出力に応じて前記バイアス電流を生成するためのバイアス制御電圧を生成するチャージポンプ回路と、該チャージポンプ回路の出力、および前記出力電圧の検出値と基準電圧との比較結果に応じて前記バイアス電流を決定するバイアス電流指示回路と、を有するアナログ/デジタル変換回路を備えたことを特徴とする。
【0023】
また、請求項2に係る発明は、前記ディレイライン回路は、バイアス電流として遅延出力電流が流れ、該遅延出力電流により遅延時間が制御される遅延素子を直列接続した前記第1の遅延素子アレイと、タイミング信号により前記第1の遅延素子アレイを構成する遅延素子の出力を格納する記憶回路と、を有する第1のディレイセルアレイと、バイアス電流として遅延基準電流が流れ、該遅延基準電流により遅延時間が制御される遅延素子を直列接続した第2の遅延素子アレイを有し、前記タイミング信号および前記変換周期を示す信号を生成する第2のディレイセルアレイと、前記記憶回路の出力をエンコードするエンコーダ回路と、を備えたことを特徴とする。
【0024】
また、請求項3に係る発明は、前記位相差検出回路は、前記スイッチング周期を基準にして前記変換周期との位相差を検出して、前記スイッチング周期の位相が早い場合に該位相差の期間だけUp信号を出力する回路と、前記スイッチング周期を基準にして前記アナログ/デジタル変換周期との位相差を検出して、前記スイッチング周期の位相が遅い場合に該位相差の期間だけDwn信号を出力する回路と、を備えたことを特徴とする。
【0025】
また、請求項4に係る発明は、前記チャージポンプ回路は、基準電流をコピーして充電電流を生成し、前記Up信号が出力されている期間に前記充電電流でチャージポンプ容量を充電する充電回路と、前記基準電流をコピーして放電電流を生成し、前記Dwn信号が出力されている期間に前記放電電流で前記チャージポンプ容量を放電する放電回路と、前記チャージポンプ容量の充放電電圧に応じて前記バイアス制御電圧を出力する出力回路と、を備えたことを特徴とする。
また、請求項5に係る発明は、前記バイアス電流指示回路は、前記バイアス制御電圧に応じて定電流を生成する定電流回路と、前記定電流をコピーした電流を動作電流とし、前記出力電圧の検出値と前記基準電圧とを入力として、前記遅延出力電流を決める信号を出力する第1の差動回路と、前記定電流をコピーした電流を動作電流とし、同一電位の信号を2つの入力として、前記遅延基準電流を決める信号を出力する第2の差動回路と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るデジタル制御スイッチング電源装置は、A/D変換回路が連続するアナログ信号で制御されスイッチング周期に同期した変換動作をおこなうため、簡単な回路構成と制御方法で過渡応答特性を改善するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るデジタル制御スイッチング電源装置の構成例を示す図である。
【図2】本発明の実施例に係るディレイライン回路の回路構成例を示す図である。
【図3】本発明の実施例に係る遅延素子の回路構成例を示す図である。
【図4】本発明の実施例に係る遅延素子の入出力のタイミングチャートを示す図である。
【図5】本発明の実施例に係る位相差検出回路の回路構成例を示す図である。
【図6】本発明の実施例に係る位相差検出回路のタイミングチャートを示す図である。
【図7】本発明の実施例に係るチャージポンプ回路の回路構成例を示す図である。
【図8】本発明の実施例に係るバイアス電流指示回路の回路構成例を示す図である。
【図9】本発明の実施例に係るバイアス電流指示回路の入出力特性例を示す図である。
【図10】本発明の実施例に係るA/D変換回路の同期をとる動作について説明するための動作波形を示す図である。
【図11】本発明の実施例に係るA/D変換回路のタイミングチャートを示す図である。
【図12】従来のデジタル制御スイッチング電源装置の第1の構成例を示す図である。
【図13】従来のデジタル制御スイッチング電源装置の第1の構成例におけるディレイラインADCの回路構成例を示す図である。
【図14】従来のデジタル制御スイッチング電源装置の第1の構成例におけるディレイラインADCのタイミングチャートを示す図である。
【図15】従来のデジタル制御スイッチング電源の第2の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(実施例1)
以下、本発明の実施形態に係るデジタル制御スイッチング電源装置について、図面を参照しながら説明する。
【0029】
図1は、本発明に係るデジタル制御スイッチング電源装置の実施例の構成を示すブロック図である。図12および図15に示す従来のデジタル制御スイッチング電源装置の構成例と同じ部位には同じ符号を付して、詳細な説明は省略する。
【0030】
図1は、スイッチング素子をPWM信号で制御して入力電圧Vinを出力電圧Voutに変換する電圧モードのデジタル制御スイッチング電源装置の構成例であり、A/D変換回路11と、デジタル補償回路21と、デジタルPWM回路31と、スイッチング回路41と、LC平滑フィルタ51と、から構成されている。なお、図1に示すデジタル制御スイッチング電源装置の動作については、図12に示した従来のデジタル制御スイッチング電源装置と同じであり、詳細は省略する。
【0031】
図1に示す本実施例のデジタル制御スイッチング電源装置において、A/D変換回路11は、ディレイライン回路1と、位相差検出回路2と、チャージポンプ回路3と、バイアス電流指示回路4と、を備えている。
【0032】
ディレイライン回路1は、遅延出力電流信号VIb(out)および遅延基準電流信号VIb(ref)からなる遅延制御電流信号により遅延時間を制御される遅延素子アレイを有し、A/D変換開始信号Startが遅延素子アレイを伝播する遅延時間を利用して出力電圧Voutの検出値と目標値となる基準電圧Vrefとの差電圧のA/D変換を行い、誤差電圧に対応するデジタルエラー信号e[n]と、A/D変換周期を示すディレイライン・クロックCLK−DLを出力する。
【0033】
図2は、本実施例のディレイライン回路1の回路構成例である。図2に示すディレイライン回路1は、2つのディレイセルアレイdcA1およびdcA2と、エンコーダ回路5と、を備えている。
【0034】
ディレイセルアレイdcA1は、A/D変換開始信号Startが入力する遅延時間調整用の遅延素子dmyo、n段の遅延素子Dcellが直列接続して構成される遅延素子アレイdo1〜do(n)、および該遅延素子アレイの各出力do1〜do(n)(素子とその出力に同じ符号を付した。)のデータをタイミング信号CLK−SPの立ち上がりエッジで格納するn個のフリップフロップDFF、を備えている。遅延出力電流信号VIb(out)は、A/D変換開始信号Startが遅延素子dmyoおよび遅延素子アレイdo1〜do(n)を伝播する遅延時間tddoおよびtdoを制御する。すなわち、遅延出力電流信号VIb(out)が後述のように遅延出力電流Ib(out)に変換され、当該遅延出力電流Ib(out)が遅延時間tddoおよびtdoに変換される。所定時間後に発生するタイミング信号CLK−SPの立ち上がりで遅延素子アレイの各出力do1〜do(n)をn個のフリップフロップDFFに格納することにより、遅延出力電流信号VIb(out)をデジタル信号に変換したデータ出力out1〜out(n)を得ることができる。すなわち、データ出力out1〜out(n)は最初のk個のデータ出力out1〜out(k)が1となり、残りのデータ出力out(k+1)〜out(n)が0となるが、後述のように、遅延出力電流信号VIb(out)が大きいほどkが小さくなる。
【0035】
エンコーダ回路5は、データ出力out1〜out(n)をエンコードし、デジタルエラー信号e[n]を生成し出力する。
一方、ディレイセルアレイdcA2は、ディレイセルアレイdcA1のデータ格納タイミング信号CLK−SPを生成する回路部と、A/D変換周期を示すディレイライン・クロックCLK−DLを生成する回路部と、を備えている。
【0036】
データ格納タイミング信号CLK−SPを生成する回路部は、A/D変換開始信号Startが入力する遅延時間調整用の遅延素子dmyr、m段の遅延素子Dcellが直列接続して構成される遅延素子アレイdr1〜dr(m)、および該遅延素子アレイの各出力dr1〜dr(m)(素子とその出力に同じ符号を付した。)が入力するm個のフリップフロップDFF、を備えている。遅延基準電流信号VIb(ref)は、A/D変換開始信号Startが遅延素子dmyrおよび遅延素子アレイdr1〜dr(m)を伝播する遅延時間tddrおよびtdrを制御する。すなわち、遅延基準電流信号VIb(ref)が後述のように遅延基準電流Ib(ref)に変換され、当該遅延基準電流Ib(ref)が遅延時間tddrおよびtdrに変換され、出力dr(m)がタイミング信号CLK−SPとなる。
【0037】
ディレイライン・クロックCLK−DLを生成する回路部は、タイミング信号CLK−SPが入力する遅延素子dclおよび該遅延素子dclの出力が入力するフリップフロップDFFを備えている。遅延素子dclの遅延時間tdclは、デジタル補償回路21がデジタルエラー信号e[n]に基づきPWM信号のデューティを制御するデューティコマンド信号dc[n]を算出するための計算時間となる時間であり、遅延素子dclのバイアス電流を指示する遅延算出電流信号VIb(cal)で制御される。なお、遅延算出電流信号VIb(cal)は、スイッチング周期に依存せずに設定が可能なため、バイアス電流指示回路4とは別の回路で生成する。
【0038】
A/D変換開始信号Startが入力されてからディレイライン・クロックCLK−DLが出力されるまでの時間は、ディレイライン回路1でのA/D変換時間とデジタル補償回路21でのデューティコマンド信号dc[n]の計算時間を合計した時間となり、A/D変換周期を示す信号となる。
【0039】
なお、図2に示すディレイライン回路1おいて、ディレイセルアレイdcA1およびdcA2の各遅延素子アレイの遅延時間のバラツキを合せるために、ディレイセルアレイdcA2にも動作しないフリップフロップDFFを接続し、2つのディレイセルアレイの配線抵抗や寄生容量を整合させている。
【0040】
図3は、本実施例のディレイセルアレイdcA1およびdcA2に用いる遅延素子Dcellの基本構成の一例を示す図である。遅延素子Dcellは、電源電位VDDと基準電位GND間で一対のPMOSおよびNMOSからなるインバータを2段直列に接続したバッファ回路で構成され、初段インバータのNMOS(M2)と基準電位GND間には遅延制御電流信号VIb(x)で制御されるNMOS(M5)が挿入されている。この遅延制御電流信号VIb(x)でNMOS(M2)に流れる電流を制御して定電流I(x)とすることにより、入力信号inに対する出力信号outの遅延時間を規定する。ディレイセルアレイdcA1,dcA2の遅延素子Dcellには、それぞれ遅延制御電流信号VIb(x)として遅延出力電流信号VIb(out)、遅延基準電流信号VIb(ref)が与えられ、これによりディレイセルアレイdcA1,dcA2の遅延素子Dcellに流れる遅延出力電流Ib(out)および遅延基準電流Ib(ref)の値が指示される。
【0041】
図4に、図3に示す遅延素子Dcellのタイミングチャートを示す。初段インバータの出力信号o1は、入力信号inを反転した信号となり、出力信号o1の立ち下がりはNMOS(M2)が遅延制御電流信号VIb(x)で制御される遅延時間tdだけ遅延し、立ち上がりの遅延はPMOS(M1)のスイッチング遅延時間tpとなる。遅延時間tdは、定電流I(x)によるPMOS(M3)およびNMOS(M4)のゲート容量の電荷の放電を開始してから、この放電によりPMOS(M3)およびNMOS(M4)のゲート電位が低下してPMOS(M3)およびNMOS(M4)からなるインバータのしきい値電圧に達するまでの時間である。出力信号outは、初段インバータの出力信号o1を反転した信号となり、出力信号outの立ち上がりおよび立ち下がりの遅延はPMOS(M3)およびNMOS(M4)のスイッチング遅延時間tpおよびtnとなる。すなわち、出力信号outは、入力信号inの立ち上がりが遅延時間tdx(td+tp)だけ遅延し、立ち下がりはスイッチング遅延時間ts(tp+tn)の遅延となる。ここで、スイッチング遅延時間ts(tpおよびtn)は、トランジスタのオン抵抗やゲート容量および寄生容量等で決まるため、電源電位VDDを固定すると、遅延制御電流信号VIb(x)により所定の遅延時間tdxを設定することが可能となる。
【0042】
図1に示す位相差検出回路2は、スイッチング電源装置の基本クロックとなるスイッチング・クロックCLK−SWに対するA/D変換周期を示すディレイライン・クロックCLK−DLとの位相差、より正確には両者の立ち上がりエッジの位相差を検出し、スイッチング・クロックCLK−SWの位相が早い場合には位相差の期間だけUp信号を出力し、スイッチング・クロックCLK−SWの位相が遅い場合には位相差の期間だけDwn信号を出力する。
【0043】
図5は、本実施例の位相差検出回路2の回路構成例である。図5に示す位相差検出回路2は、インバータIV1〜IV4と、バッファBF1と、NAND回路ND1,ND2と、NOR回路NR1,NR2と、マルチプレクサ回路MX1,MX2と、を備えており、CLK−SW信号とCLK−DLの反転信号との論理積の反転信号でUp信号(Up時はLレベル、定常時はHレベル)が出力され、CLK−SWの反転信号とCLK−DL信号との論理積信号でDwn信号(Dwn時はHレベル、定常時はLレベル)が出力される。
【0044】
なお、Rst信号は、外部リセット信号である。また、Mup信号およびMdwn信号は、外部からマニュアルでUp信号およびDwn信号を設定する場合に用い、マルチプレクサ回路MX1〜MX2をMode信号で切り換えて使用する。いずれもテスト用の信号であり通常の動作時では使用しない。
【0045】
図6に、図5に示した位相差検出回路2のタイミングチャートを示す。まず、図6(A)に示すように、CLK−SW信号の立ち上がりエッジがCLK−DL信号の立ち上がりエッジより位相が遅れている場合は、その遅れている位相の期間だけDwn信号がHレベルを出力する。また、図6(B)に示すように、CLK−SW信号とCLK−DL信号の位相が同じ場合は、Up信号およびDwn信号は変化しない。さらに、図6(C)に示すように、CLK−SW信号の立ち上がりエッジがCLK−DL信号の立ち上がりエッジより位相が早い場合は、その早い位相の期間だけUp信号がLレベルを出力する。
【0046】
図1に示すチャージポンプ回路3は、入力信号Biasおよび位相差検出回路2から出力されるUp信号およびDwn信号により、バイアス電流指示回路4に流れるバイアス電流Ibiasを決めるアナログ電圧Bcnt信号を生成し出力する。なお、入力信号Biasは図示しない定電流回路により生成される電圧信号である。
【0047】
図7は、本実施例のチャージポンプ回路3の回路構成例である。図7に示すチャージポンプ回路3は、入力信号Biasより基準電流を生成するPMOS(M10,M11)とNMOS(M14,M15)が直列接続された定電流回路と、該基準電流をコピーして充電電流Ichargeを生成するとともにUp信号で動作のオン・オフが制御される充電回路を構成するPMOS(M12,M13)と、入力信号Biasより基準電流を生成する定電流回路を構成するNMOS(M16)と、該基準電流をコピーして放電電流Idischargeを生成するとともにDwn信号で動作のオン・オフが制御される放電回路を構成するNMOS(M17,M18)と、チャージポンプ容量Ccpと、ゲートがPMOS(M13)のゲートに接続されたPMOS(M19)とチャージポンプ容量Ccpの電位Ncpで制御されるPMOS(M20)が直列接続された出力回路と、を備えている。PMOS(M20)のゲートがチャージポンプ容量Ccpに接続されていて、当該出力回路はチャージポンプ容量Ccpの電位(容量Ccpの積分電圧)Ncpに対するソースフォロワ回路を構成している。なお、容量ChsおよびClsは、充電回路および放電回路のゲート電位を安定させるための容量である。
【0048】
次に、図7に示すチャージポンプ回路3の動作について説明する。まず、位相差検出回路2よりUp信号(Lレベル)が出力されると、充電回路のスイッチPMOS(M12)がオンとなり、チャージポンプ容量CcpをこのLレベルの期間、充電電流Ichargeで充電する。これにより、チャージポンプ容量Ccpの電位Ncpが上昇し、該電位Ncpに対するソースフォロワ回路である出力回路から出力される電圧Bcntも上昇する。一方、位相差検出回路2よりDwn信号(Hレベル)が出力されると、放電回路のスイッチNMOS(M18)がオンとなり、チャージポンプ容量CcpをこのHレベルの期間、放電電流Idischargeで放電する。これにより、チャージポンプ容量Ccpに対するソースフォロワ回路である出力回路から出力される電圧Bcntも下降する。このように、チャージポンプ回路3の出力電圧Bcntは、位相差検出回路2のUp信号あるいはDwn信号に応じて位相差の期間だけ上昇あるいは下降することで出力電圧Bcntを生成して出力する。
【0049】
図1に示すバイアス電流指示回路4は、チャージポンプ回路3の出力電圧Bcntに応じてバイアス電流Ibiasを生成し、該バイアス電流Ibiasおよび出力電圧Voutの検出値と基準電圧Vrefとの比較結果により、遅延出力電流信号VIb(out)および遅延基準電流信号VIb(ref)を生成し出力する。
【0050】
図8は、バイアス電流指示回路4の回路構成例である。図8に示すバイアス電流指示回路4は、バイアス電流Ibiasを生成する定電流回路と、遅延出力電流信号VIb(out)を生成する差動回路DIF1と、遅延基準電流VIb(ref)を生成する差動回路DIF2と、を備えている。
【0051】
定電流回路は、チャージポンプ回路3の出力電圧Bcntでゲートが制御されるNMOS(M30)およびゲートとドレインが共通接続されるPMOS(M31)を備え、出力電圧Bcntをバイアス電流Ibiasに変換する。
【0052】
2つの差動回路DIF1およびDIF2の動作電流は、バイアス電流IbiasをPMOS(M31)とPMOS(M32,M37)からなるカレントミラー回路でコピーして生成され、差動部は1対の直列接続されるPMOSおよびNMOSが2対並列に接続され、差動入力が接続されるPMOS(M33およびM34,M38およびM39)とゲートとドレインを共通接続されるNMOS(M35およびM36,M40およびM41)を備えている。
【0053】
図8において、差動回路DIF2は、基準電圧Vrefが2つの差動入力に共通に接続されているため、すなわち2つの差動入力が等しくなっているため、その出力である遅延基準電流信号VIb(ref)が指示する電流値は、Ibias/2となる。すなわち、遅延基準電流信号VIb(ref)をNMOS(M41)と同じサイズのNMOSのゲートに入力して当該NMOSとNMOS(M41)とでカレントミラー回路を構成したときに、当該NMOSに流れる電流がIbias/2となる。遅延基準電流信号VIb(ref)はディレイセルアレイdcA2に入力されて、ディレイセルアレイdcA2の遅延素子dmyrおよびdr1〜dr(m)に流れる遅延基準電流Ib(ref)の値を指示することにより、これらの遅延素子の遅延時間を制御する。
【0054】
一方、差動回路DIF1は、出力電圧Voutと基準電圧Vrefが2つの差動入力に接続されているため、その出力である遅延出力電流信号VIb(out)が指示する電流Ib(out)の電流値は、図9に示すような入出力特性となる。すなわち、遅延出力電流Ib(out)は、以下に示すように、出力電圧Voutと基準電圧Vrefとの電位関係に応じて、Ibias/2を中心に増減する。ここで電流Ib(out)は、遅延出力電流信号VIb(out)をNMOS(M35)と同じサイズのNMOSのゲートに入力して当該NMOSとNMOS(M35)とでカレントミラー回路を構成したときに、当該NMOSに流れる電流である。遅延出力電流信号VIb(out)はディレイセルアレイdcA1に入力されて、ディレイセルアレイdcA1の遅延素子dmyoおよびdo1〜do(n)に流れる遅延出力電流Ib(out)の値を指示することにより、これらの遅延素子の遅延時間を制御する。
【0055】
(1)Vref<Voutの場合 Ib(out)<Ibias/2
(2)Vref=Voutの場合 Ib(out)=Ibias/2
(3)Vref>Voutの場合 Ib(out)>Ibias/2
このように、出力電圧Voutと基準電圧Vrefより遅延制御電流および遅延基準電流を生成することで、ディレイセルアレイdcA1およびdcA2の遅延時間を制御することが可能となる。
【0056】
ここで、本実施例に係るA/D変換回路の動作について説明する。
まず、図10に、スイッチング・クロックCLK−SW,ディレイライン・クロックCLK−DL,並びに両者の立ち上がりの位相差に応じた、位相差検出回路2,チャージポンプ回路3,および,バイアス電流指示回路4の動作波形を示す。
【0057】
図10(A)に示すように、スイッチング・クロックCLK−SWの立ち上がりがディレイライン・クロックCLK−DLの立ち上がりより位相が遅れている場合、その遅れている位相の期間中、位相差検出回路2はHレベルのDwn信号を出力する。チャージポンプ回路3は、Dwn信号の期間、チャージポンプ容量の放電を続け、出力電圧Bcntは低下する。バイアス電流指示回路4では、電圧Bcntが低下するためバイアス電流Ibiasが減少し、遅延出力電流信号VIb(out)および遅延基準電流信号VIb(ref)の電位も低下する。これにより、ディレイセルアレイdcA1およびdcA2を構成する遅延素子Dcellの遅延時間が大きくなり、A/D変換周期が遅くなるように動作する。
【0058】
また、図10(B)に示すように、スイッチング・クロックCLK−SWとディレイライン・クロックCLK−DLの位相が一致している場合は、位相差検出回路2のUp信号およびDwn信号は変化せず、チャージポンプ回路3の出力電圧Bcntおよびバイアス電流指示回路4のバイアス電流Ibiasも状態を維持する。そして、ディレイセルアレイdcA1およびdcA2を構成する遅延素子Dcellの遅延時間も変化しないため、A/D変換周期も維持される。
【0059】
さらに、図10(C)に示すように、スイッチング・クロックCLK−SWの立ち上がりがディレイライン・クロックCLK−DLの立ち上がりより位相が早い場合は、その早い位相期間中、位相差検出回路2はLレベルのUp信号を出力する。チャージポンプ回路3は、Up信号の期間、チャージポンプ容量の充電を続け、出力電圧Bcntは上昇する。バイアス電流指示回路4では、電圧Bcntが上昇するためバイアス電流Ibiasが増加し、遅延出力電流信号VIb(out)および遅延基準電流信号VIb(ref)の電位も上昇する。これにより、ディレイセルアレイdcA1およびdcA2を構成する遅延素子Dcellの遅延時間が小さくなるため、A/D変換周期が早くなるように動作する。
【0060】
このように、位相差検出回路2、チャージポンプ回路3、バイアス電流指示回路4は、スイッチング・クロックCLK−SWの立ち上がりとディレイライン・クロックCLK−DLの立ち上がりの位相が一致するまでディレイライン回路1を連続的なアナログ信号で制御し続け、位相が一致するとその状態を維持するように動作を行う。
【0061】
次に、図11に、本発明に係るA/D変換回路11のタイミングチャートを示す。スイッチング・クロックCLK−SWとA/D変換開始信号Startは、図示しない制御回路から同期した信号として出力される。A/D変換動作はA/D変換開始信号Startの立ち上がりで開始し、立ち下がりで終了する。A/D変換開始信号Startは、ディレイセルアレイdcA1およびdcA2に共通に入力され、遅延素子アレイ内を伝播していく。
【0062】
まず、ディレイセルアレイdcA1は、遅延出力電流信号VIb(out)により遅延素子の遅延時間が制御されており、A/D変換開始信号Startの立ち上がりが遅延素子dmyoに入力すると、遅延素子dmyoで遅延時間tddoだけ遅延して遅延素子アレイの初段の遅延素子do1へ伝播され、それぞれの遅延素子で遅延時間tdoずつ遅延しながら遅延素子アレイ内do1〜do(n)を順次伝播していく。
【0063】
また、ディレイセルアレイdcA2は、遅延基準電流信号VIb(ref)により遅延素子の遅延時間が制御されており、A/D変換開始信号Startの立ち上がりが遅延素子dmyrに入力すると、遅延素子dmyrで遅延時間tddrずつ遅延して遅延素子アレイの初段の遅延素子dr1へ伝播され、それぞれの遅延素子で遅延時間tdrだけ遅延しながら遅延素子アレイ内dr1〜dr(m)を順次伝播していく。そして、A/D変換開始信号Startの立ち上がりが遅延素子dr(m)に伝播して遅延素子dr(m)の出力が立ち上がるタイミング、すなわち、データを格納するタイミング信号CLK−SPの立ち上がりのタイミングで、ディレイセルアレイdcA1の遅延素子アレイdo1〜do(n)の出力データはそれぞれ対応するフリップフロップDFFに格納される。さらに、遅延素子dr(m)の出力であるタイミング信号CLK−SPは、遅延素子dclへ伝播され、遅延素子dclで遅延時間tdclだけ遅延されてディレイライン・クロックCLK−DLが出力される。
【0064】
次に、A/D変換開始信号Startが立ち下がると、その情報でディレイセルアレイdcA1およびdcA2の遅延素子アレイは、それぞれの遅延素子で遅延時間tsだけ遅延しながら順次伝播してそれぞれの遅延素子の出力が立ち下がり、A/D変換動作の1周期を完了する。
【0065】
ここで、A/D変換開始信号Startの立ち上がりからタイミング信号CLK−SPの立ち上がりまでをA/D変換時間とし、タイミング信号CLK−SPの立ち上がりからディレイライン・クロックCLK−DLの立ち上がりまでをデューティコマンド信号dc[n]の計算時間とする。本実施例では、このA/D変換時間とデューティコマンド信号dc[n]の計算時間の合計時間であるA/D変換周期の終了を示すディレイライン・クロックCLK−DLの立ち上がりと、スイッチング周期Tsの基本クロックであるスイッチング・クロックCLK−DLの立ち上がりを同期させることで、変換時間に対する時間的なマージンの確保を不要とし、最適なA/D変換動作を実現する。すなわち、図11は同期が取れている状態を示すが、スイッチング電源装置の立ち上がり時や何らかの授乱の影響を受けた時などの同期がはずれた状態であっても、本実施例のデジタル制御スイッチング電源装置は図10で示したように両者が一致するように動作して図11の状態に戻すので、上記マージンを必要としない。
【0066】
以上説明したように、本発明のデジタル制御スイッチング電源装置によれば、A/D変換回路がA/D変換周期をスイッチング周期Tsに同期するように動作するため、プロセス変動に伴う周波数バラツキや周波数を可変設定する場合などでも時間的なマージン確保が不要となり、過渡応答特性を改善する。さらに、A/D変換周期とスイッチング周期が一致した定常状態では、チャージポンプ回路は動作せず状態を維持するため、消費電流の増加も抑制できるという効果も奏する。
【0067】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良や変更が可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 ディレイライン回路
2 位相差検出回路
3 チャージポンプ回路
4 バイアス電流指示回路
5 エンコーダ回路
11〜13 A/D変換回路
21,22 デジタル補償回路
23 デジタル電圧制御回路
31〜33 デジタルPWM回路
41 スイッチング回路
51 LC平滑フィルタ
61 デジタル信号処理回路部
62 Vref±△回路
63 SEL回路(選択回路)
71 過渡変動検出回路
81 CRフィルタ
Bcont[n] バイアス電流指示値
Bcnt チャージポンプ回路出力電圧
BF1 バッファ
Bias チャージポンプ回路入力信号
C,C2,Ccp,Chs,Cls コンデンサ(容量)
CLK−DL ディレイライン・クロック
CLK−SP データ格納タイミング信号
CLK−SW スイッチング・クロック
CP1,CP2 コンパレータ
dcA1,dcA2 ディレイセルアレイ
DIF1,DIF2 差動回路
Dcell,dcl,do1〜do(n),dr1〜dr(m),dmy,dmyo,dmyr,d1〜d(n) 遅延素子もしくはその出力信号
dc[n] デューティコマンド信号
DFF フリップフロップ
DRV 駆動回路
Dwn 位相差検出回路出力(ダウン信号)
e[n] デジタルエラー信号
GND 基準端子もしくはその電位
I,I(x) 定電流
Ibias バイアス電流
Ib(out) 遅延出力電流
Ib(ref) 遅延基準電流
Ib(x) 遅延制御電流
Icharge 充電電流
Idischarge 放電電流
IN1〜IN4 インバータ
L インダクタ
M1,M3,M10〜M13,M19,M20,M31〜M34,M37〜M39,Q1 PチャンネルMOSFET
M2,M4,M5,M14〜M18,M30,M35,M36,M40,M41,Q2 NチャンネルMOSFET
Mdwn 外部入力ダウン信号
Mode 外部入力マルチプレクサ切り換え信号
Mup 外部入力アップ信号
MX1,MX2 マルチプレクサ回路
Ncp チャージポンプ容量の電位
ND1,ND2 NAND回路
NR1,NR2 NOR回路
out1〜out(n) DFF出力データ
R2 抵抗
RL 負荷回路
Rst 外部入力リセット信号
Sample データ格納信号
Start A/D変換開始信号
Sub 減算回路
td,tdd,tddo,tddr,tdo,tdr,tdcl,tp,tn,ts 遅延時間
Ts スイッチング周期
Up 位相差検出回路出力(アップ信号)
VDD 電源端子もしくはその電位
Ve 誤差電圧
VIb(cal) 遅延算出電流信号(遅延制御電流信号)
VIb(out) 遅延出力電流信号(遅延制御電流信号)
VIb(ref) 遅延基準電流(遅延制御電流信号)
VIb(x) 遅延制御電流信号
Vin 入力電源もしくはその電圧
VoCR 負荷急変電圧
Vout 出力電圧
Vref 基準電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力電圧をパルス幅変調信号により所望する出力電圧に変換するデジタル制御スイッチング電源装置であって、
バイアス電流により遅延時間が制御される遅延素子を直列接続した第1の遅延素子アレイを有し、該第1の遅延素子アレイを開始信号が伝播する遅延時間により前記第1の遅延素子アレイの遅延素子に流れるバイアス電流の電流値をデジタル値に変換するディレイライン回路と、
前記パルス幅変調信号により定まるスイッチング周期と、前記ディレイライン回路が前記バイアス電流の電流値をデジタル値に変換するアナログ/デジタル変換の変換周期との位相差を検出する位相差検出回路と、
該位相差検出回路の出力に応じて前記バイアス電流を生成するためのバイアス制御電圧を生成するチャージポンプ回路と、
該チャージポンプ回路の出力、および前記出力電圧の検出値と基準電圧との比較結果に応じて前記バイアス電流を決めるバイアス電流指示回路と、
を有するアナログ/デジタル変換回路を備えたことを特徴とするデジタル制御スイッチング電源装置。
【請求項2】
前記ディレイライン回路は、
バイアス電流として遅延出力電流が流れ、該遅延出力電流により遅延時間が制御される遅延素子を直列接続した前記第1の遅延素子アレイと、タイミング信号により前記第1の遅延素子アレイを構成する遅延素子の出力を格納する記憶回路と、を有する第1のディレイセルアレイと、
バイアス電流として遅延基準電流が流れ、該遅延基準電流により遅延時間が制御される遅延素子を直列接続した第2の遅延素子アレイを有し、前記タイミング信号および前記変換周期を示す信号を生成する第2のディレイセルアレイと、
前記記憶回路の出力をエンコードするエンコーダ回路と、
を備えたことを特徴とする請求項1記載のデジタル制御スイッチング装置。
【請求項3】
前記位相差検出回路は、
前記スイッチング周期を基準にして前記変換周期との位相差を検出して、前記スイッチング周期の位相が早い場合に該位相差の期間だけUp信号を出力する回路と、
前記スイッチング周期を基準にして前記アナログ/デジタル変換周期との位相差を検出して、前記スイッチング周期の位相が遅い場合に該位相差の期間だけDwn信号を出力する回路と、
を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のデジタル制御スイッチング電源装置。
【請求項4】
前記チャージポンプ回路は、
基準電流をコピーして充電電流を生成し、前記Up信号が出力されている期間に前記充電電流でチャージポンプ容量を充電する充電回路と、
前記基準電流をコピーして放電電流を生成し、前記Dwn信号が出力されている期間に前記放電電流で前記チャージポンプ容量を放電する放電回路と、
前記チャージポンプ容量の充放電電圧に応じて前記バイアス制御電圧を出力する出力回路と、
を備えたことを特徴とする請求項3に記載のデジタル制御スイッチング電源装置。
【請求項5】
前記バイアス電流指示回路は、
前記バイアス制御電圧に応じて定電流を生成する定電流回路と、
前記定電流をコピーした電流を動作電流とし、前記出力電圧の検出値と前記基準電圧とを入力として、前記遅延出力電流を決める信号を出力する第1の差動回路と、
前記定電流をコピーした電流を動作電流とし、同一電位の信号を2つの入力として、前記遅延基準電流を決める信号を出力する第2の差動回路と、
を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のデジタル制御スイッチング電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−125087(P2011−125087A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278682(P2009−278682)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】