説明

デハロコッコイデス属細菌の培養方法

【課題】病原性微生物を増殖させることなく、デハロコッコイデス属細菌を16S rDNAコピー数として10の8乗copies/mL以上に培養することができるデハロコッコイデス属細菌の培養方法を提供する。
【解決手段】塩素化エチレンで汚染された土壌及び/又は地下水のバイオオーグメンテーションに用いるデハロコッコイデス属細菌の培養方法であって、0.1〜1Mのクエン酸塩と0.4mMの硫化ナトリウム9水和物を含むクエン酸塩濃縮液を、クエン酸塩の供給量として0.1〜1mmole/L−培養液/dayとなるように連続供給して嫌気条件下で培養することで、デハロコッコイデス属細菌を活性化し、デハロコッコイデス属細菌を16S rDNAコピー数として10の8乗copies/mL以上に培養する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塩素化エチレンで汚染された土壌及び/又は地下水のバイオオーグメンテーションに用いるデハロコッコイデス属細菌の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオオーグメンテーションでは、培養した(VCで止まるのではなく、VCからエチレンまで浄化する能力を持つ)デハロコッコイデス属細菌を注入して汚染地下水中の初期の菌濃度を高めることが浄化期間短縮のために重要である。予めできるだけ高濃度に培養できれば、注入量も少なくてすみコスト的にも有利になる。
【0003】
デハロコッコイデスは塩素化エチレンと分子状水素を用いて増殖することが知られている。また、分子状水素の添加方法については、水素ガスをそのまま添加する場合と、クエン酸等の有機物を添加して別の微生物(共生微生物)によって水素を生成させる方法がある。
【0004】
特許文献1,2の各実施例には、クエン酸、硫化ナトリウム、酵母エキス等を含む培地を用いてデハロコッコイデス属細菌を培養する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−131879
【特許文献2】特開2009−213427
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2では酵母エキスを培地添加しているが、酵母エキスは病原性微生物を増加させる可能性がある。
【0007】
本発明は、病原性微生物を増殖させることなく、デハロコッコイデス属細菌を16S rDNAコピー数として10の8乗copies/mL以上に培養することができるデハロコッコイデス属細菌の培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1のデハロコッコイデス属細菌の培養方法は、塩素化エチレンで汚染された土壌及び/又は地下水のバイオオーグメンテーションに用いるデハロコッコイデス属細菌の培養方法であって、0.1〜1Mのクエン酸塩、0.1〜1mMの硫化ナトリウム9水和物および3〜30mMのリン酸水素二アンモニウムを含むクエン酸塩濃縮液を、クエン酸塩の供給量として0.1〜1mmole/L−培養液/dayとなるように連続供給して嫌気条件下で培養することにより、デハロコッコイデス属細菌を16S rDNAコピー数として10の8乗copies/mL以上に培養することを特徴とするものである。
【0009】
請求項2のデハロコッコイデス属細菌の培養方法は、請求項1において、塩化ビニル分解能を有しており、かつランダムクローニング法により、病原菌の属する微生物が検出されていない、デハロコッコイデス属細菌を含むコンソーシアを微生物源とすることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3のデハロコッコイデス属細菌の培養方法は、請求項1又は2において、塩素化エチレンが、シス−ジクロロエチレン及び/又は塩化ビニルモノマーであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、クエン酸塩濃縮液を連続添加することにより、水素ガスのような危険物を使用せず、かつ病原性菌を増殖させることなく、デハロコッコイデス属細菌を活性化し、短期間でデハロコッコイデス属細菌を16S rDNAコピー数として10の8乗copies/mL以上に培養することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例に用いた装置のブロック図である。
【図2】実験結果を示すグラフである。
【図3】実験結果を示すグラフである。
【図4】実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のデハロコッコイデス属細菌の培養方法は、塩素化エチレンで汚染された土壌及び/又は地下水のバイオオーグメンテーションに用いるデハロコッコイデス属細菌の培養方法であって、0.1〜1Mのクエン酸塩、0.1〜1mMの硫化ナトリウム9水和物および3〜30mMのリン酸水素二アンモニウムを含むクエン酸塩濃縮液を、クエン酸塩の供給量として0.1〜1mmole/L−培養液/dayとなるように連続供給して嫌気条件下で培養することにより、デハロコッコイデス属細菌を16S rDNAコピー数として10の8乗copies/mL以上に培養することを特徴とするものであり、具体的には、図1に示す装置を用い、次の(1)〜(6)の手順に従ってデハロコッコイデス属細菌を培養するのが好ましい。
【0014】
図1では、発酵槽1に培養液採取口2、ガス採取・注入口3、撹拌機4及びpH計5が設けられている。この発酵槽1の上部には、発酵槽1内の圧力を調整するためのガスパック6が接続されている。発酵槽1に対し、クエン酸塩濃縮液が容器7からポンプ8を介して供給される。容器7の上部には、圧力調整用のガスパック9が接続されている。ガスパック6,9内にはNガスが充填されている。培養液採取口2は、16S rDNA測定のためのサンプリング口である。ガス採取・注入口3は、塩素化エチレン、VC、エチレンなどの測定のためのサンプリングを行ったり、発酵槽のpH調整のためのガス注入を行ったりするためのものである。pHが設定値より低い場合は、ガス採取・注入口からNガスを注入して液中のCOガスをパージし、pHが設定値より高い場合は、N−COガスを注入する。
【0015】
(1)密閉された発酵槽に培地とデハロコッコイデス属細菌を含むコンソーシアを添加する。培地は塩素化エチレン、クエン酸塩、無機塩(例えば(NHHPO、NaS・9HO、FeCl・4HO)、ビタミンからなる。塩素化エチレンは塩化ビニルモノマー(VC)ガスを0.1mmole/L−培養液の割合で添加する。クエン酸塩は1〜10mmole/L−培養液の割合で添加する。無機塩とビタミンについては一般の嫌気性菌培養用に用いられる組成でよく、例えばメタン菌培養に用いられるWolin培地(Wolinら、1963、Formation of methane by bacterial extracts. The journal of Biological Chemistry, 236. 2882-2886)でも良い。
【0016】
(2)デハロコッコイデス属細菌を含むコンソーシアはVC分解能を有しており、かつランダムクローニング法(少なくとも48クローン)により、病原性菌の属する微生物が検出されていない培養液を使用する。
【0017】
(3)培養開始後は、クエン酸塩濃縮液を一定の割合で添加する。具体的には、0.1〜1Mのクエン酸塩、0.1〜1mMの硫化ナトリウム9水和物および3〜30mMのリン酸水素二アンモニウムを含むクエン酸塩濃縮液を、クエン酸塩として0.1〜1mmole/L−培養液/dayとなるように発酵槽へ連続供給する。例えば10L培養液に0.1Mのクエン酸塩濃縮液を添加する場合、10mL/dayの流量で供給すれば0.1mmole/L−培養液/dayとなる。クエン酸添加量が少ないと、クエン酸からの水素供給が不足して、デハロコッコイデス属細菌を活性化できない。また、クエン酸塩濃縮液を高濃度に添加しすぎると塩阻害が起きると共に、大量に添加すると培地容量が増大するため、1mmole/L−培養液/dayを上限としている。
【0018】
クエン酸塩濃縮液を入れた容器には窒素ガスを封じたガスパックを接続する。ガスパックに封じる窒素ガスの容量は容器と同じ容量で良い。
【0019】
(4)20℃〜30℃で培養する。撹拌速度は50〜500rpm程度で良い。発酵槽にはクエン酸塩濃縮液が流入するので、発酵槽にもガスパックを接続する。このガスパックは窒素ガスで洗浄後、ガスを抜いたものを使用する。ガスパックの容量はクエン酸塩濃縮液の容器容量の2倍程度で良い。
【0020】
(5)培地中のVCガス残量を定期的に計測し、0.01mmole/L−培養液未満であれば、0.1〜1mmole/L−培養液の割合でバッチ添加する。
【0021】
(6)培地のpHを適宜あるいは常時測定し、7.0以下であれば窒素ガスを、8.0以上であれば窒素+炭酸ガス(80:20)を注入してpHを7.0〜8.0に維持する。
【実施例】
【0022】
<実施例1>
次の手順でデハロコッコイデス属細菌を培養した。
【0023】
(1)10Lの発酵槽に無機培地((NHHPO100mg/L,NaS・9HO480mg/L,FeCl・4HO200mg/L)及びビタミン(ビタミンB12)1.5mg/Lと、クエン酸三ナトリウム二水和物を2.5mmole/L−培養液、塩化ビニルモノマーを0.1mmole/L−培養液になるように添加して密閉した。
【0024】
(2)塩化ビニルモノマー分解能を有しており、かつランダムクローニング法(48クローン)により、48クローン全てが非病原性のTrichococcus属細菌で占められている培養液を1%植菌した。
【0025】
(3)さらに1L容のガラス瓶に入れたクエン酸塩濃縮液(0.1Mのクエン酸三ナトリウム二水和物、0.4mMの硫化ナトリウム9水和物および3mMのリン酸水素二アンモニウムからなる)を、10mL/dayの流量となるように連続供給した。なお、ガラス瓶には1Lの窒素ガスを封じたガスパックを接続した。
【0026】
(4)培養は30℃、50rpmでおこない、10L発酵槽には2L容の窒素ガスで洗浄したガスパックを接続し、常時密閉条件でおこなった。
【0027】
(5)培養中は、ヘッドスペースのガスを採取してGC−FIDでVC及びエチレン濃度を、培養液を10mL程度採取して定量PCR法によりデハロコッコイデス属細菌の16S rDNA(DHC−16S rDNA)のコピー数を測定した。
【0028】
(6)VCが0.01mmole/L−培養液以下の場合には再度塩化ビニルモノマーを約0.1mmole/L−培養液になるように添加した。
【0029】
(7)DHC−16S rDNAが10の8乗copies/mL以上に到達した時点で、ランダムクローニング法(48クローン)を実施し、病原性菌の有無を評価した。
【0030】
(8)VC、エチレン、及びDHC−16S rDNAの測定結果を図2に示す。VCを2回追加添加した後、培養26日目でDHC−16S rDNAは10の8乗copies/mLに到達した。
【0031】
(9)培養26日目の培養液についてランダムクローニングを実施した結果、1クローンはSedimntbacter属細菌であったが、47クローンはTrichococcus属細菌であり、共に非病原性であった。
【0032】
<比較例1>
クエン酸塩濃縮液を使用しなかったこと以外は実施例と同様に培養おこなった。VC、エチレン、及びDHC−16S rDNAの測定結果を図3に示す。VCを2回追加添加したものの、培養27日目でDHC−16S rDNAは10の7乗copies/mLまでしか増加せず、培養60日目でようやく10の8乗copies/mLに到達した。
【0033】
<比較例2>
クエン酸塩濃縮液を使用しなかったこと及びVCを3回添加したこと以外は実施例と同様に培養おこなった。VC、エチレン、及びDHC−16S rDNAの測定結果を図4に示す。VCを3回追加添加したものの、培養29日目でDHC−16S rDNAは2×10の7乗copies/mLまでしか増加しなかった。
【0034】
そこで、培養30日目に酵母エキスを0.1%(w/v)添加した結果、培養40日目には10の8乗copies/mLに到達した。
【0035】
培養40日目の培養液についてランダムクローニングを実施した結果、12クローンはTrichococcus属細菌であったものの、15クローンは病原性菌が含まれるAlcaligenes属細菌であった。なお、残りの21クローンは非病原性であった。
【0036】
<考察>
実施例1の方法は、比較例1と比較して半分の期間で培養が可能であり、比較例2と比較した場合でも病原性の微生物が検出されないことが確認された。
【符号の説明】
【0037】
1 発酵槽
6,9 ガスパック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素化エチレンで汚染された土壌及び/又は地下水のバイオオーグメンテーションに用いるデハロコッコイデス属細菌の培養方法であって、0.1〜1Mのクエン酸塩、0.1〜1mMの硫化ナトリウム9水和物および3〜30mMのリン酸水素二アンモニウムを含むクエン酸塩濃縮液を、クエン酸塩の供給量として0.1〜1mmole/L−培養液/dayとなるように連続供給して嫌気条件下で培養することにより、デハロコッコイデス属細菌を16S rDNAコピー数として10の8乗copies/mL以上に培養することを特徴とするデハロコッコイデス属細菌の培養方法。
【請求項2】
請求項1において、塩化ビニル分解能を有しており、かつランダムクローニング法により、病原菌の属する微生物が検出されていない、デハロコッコイデス属細菌を含むコンソーシアを微生物源とすることを特徴とするデハロコッコイデス属細菌の培養方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、塩素化エチレンが、シス−ジクロロエチレン及び/又は塩化ビニルモノマーであることを特徴とするデハロコッコイデス属細菌の培養方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−200229(P2012−200229A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69494(P2011−69494)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】