説明

データ処理装置

【課題】 処理負荷が絶えず変化する環境の中で、信号処理の規模にふさわしい回路規模を有する、小型軽量化されたデータ処理装置を得る。
【解決手段】 捜索処理及び追尾処理の2種類の信号処理に対応してデータ処理部10及びデータ処理部20を設け、それぞれに単一の信号処理として、データ処理部10には捜索処理を、またデータ処理部20には追尾処理を割り当てるとともに、いずれのデータ処理部も、複数のDSPを用いて信号処理の負荷に応じた規模に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ処理装置に関し、特にDSP(Digital Signal Processor)等の信号処理器を複数個用いてリアルタイムの信号処理を行なうデータ処理装置に係わる。
【背景技術】
【0002】
従来より、デジタル信号処理技術を用いた信号処理が、各種のシステムにおいて実現されている。レーダシステム等においても、信号処理向けの演算を高速で実行可能なDSP等の信号処理器を、様々な形態に複数個組み合わせて、各種の信号処理が行なわれている。例えば、目標を捜索・追尾するパルスレーダシステムでは、送信したレーダパルス波に対する反射波の中から目標を検出してその位置情報を取得する捜索処理や、取得した位置情報に基づいて目標の将来位置を予測する追尾処理を中心に、これらの処理以外にも不要波の検出・除去処理など、多種多様な信号処理が実行されている。
【0003】
これら信号処理では、反射波をデジタルデータに変換した大量のデータを扱う必要がある上に、そのデータ量も、状況によって大きく変化する。さらに、レーダパルス波の送信間隔の時間内に、これらすべての信号処理を完了して処理結果を得なければならない。すなわち、これら多種多様な信号処理に対しては、発生するデータ量が大きく変化する中での高速処理性とともに、安定したリアルタイム性が求められる。このため、これら信号処理を受け持つデータ処理装置では、最大の処理負荷がかかった場合においても、確実に処理結果を得ることができるように、その処理能力が決定される。
【0004】
このような信号処理に適用できるデータ処理装置が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1に開示された手法に基づいて構成された従来のデータ処理装置の一例を図4に示す。この事例におけるデータ処理装置50は、処理対象データ60を処理する複数のデータ処理部として2m個のDSP501〜5(2m)を備え、対象データを第1の基準である処理アルゴリズムで複数Nに分割するとともに、第2の基準であるデータ数で複数に分割して、分割後のそれぞれの処理対象データを2m個のDSP501〜5(2m)で処理することにより、データ処理効率の向上を図っている。
【0005】
また、このデータ処理装置を、例えば目標を捜索・追尾するパルスレーダシステムの信号処理に適用した場合における、各種信号処理のタイミングをモデル化して図5に示す。図5において、このレーダシステムは、捜索パルス及び追尾パルスを繰り返し間隔Tで交互に送信し、リアルタイムの信号処理として、捜索処理及び追尾処理の2種の信号処理を備えている場合を例示している。
【0006】
このときに、データ処理装置の処理能力は、最大負荷、すなわち大量の処理対象データを扱う捜索処理に対して最大量の捜索データが発生した場合においても、送信繰り返し間隔T以内で信号処理を完了できるように決められる。
【特許文献1】特開2001−101150号公報(第5ページ、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、発生するデータ量が絶えず変化することによりその処理負荷も大きく変化する信号処理において、最大負荷を基準にしてデータ処理装置の処理能力を決定した場合には、平均的な負荷に対しては、データ処理装置全体として、また複数備えた各データ処理部のそれぞれも、処理能力にマージンがありすぎる構成になる。すなわち、例えば、図5の事例においては、追尾期間では、過剰な処理能力を持った構成となっていた。このため、対象の信号処理の規模に比べて、データ処理装置の回路規模が増大してしまうという問題があった。また、これに伴って消費電力も増大するとともに発熱量も増え、装置の小型軽量化を困難なものにしていた。
【0008】
本発明は、上述の事情を考慮してなされたものであり、処理負荷が絶えず変化する環境の中で、信号処理の規模にふさわしい回路規模を有する、小型軽量化されたデータ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のデータ処理装置は、複数種類の信号処理をリアルタイムに実行するデータ処理装置であって、前記複数種類の信号処理のそれぞれに対応して設けられ、それぞれに割り当てられた単一種類の前記信号処理を所定の時間内に実行完了する複数のデータ処理部と、処理対象データを受けとり、前記複数のデータ処理部のいずれか1つに切換出力するデータ切換部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、処理負荷が絶えず変化する環境の中で、信号処理の規模にふさわしい回路規模を有する、小型軽量化されたデータ処理装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明に係るデータ処理装置を実施するための最良の形態について、図1乃至図3を参照して説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明に係るデータ処理装置の一実施例を示すブロック図である。本実施例においては、2種類の信号処理をリアルタイムに実行する場合を例示している。図1に示すように、このデータ処理装置1は、複数のデータ処理部として、データ処理部10及びデータ処理部20、ならびに、データ切換部30を備えている。
【0013】
データ処理部10及びデータ処理部20は、2種類の信号処理のそれぞれに対応して設けられ、それぞれに割り当てられた信号処理の処理負荷に応じて、いずれも複数のDSPにより構成されている。ここに、データ処理部10は、例えば、信号処理のアルゴリズム及び取り扱うデータ量に基づいた分割により、m個のDSP101〜1(m)を有しており、データ処理部20は、信号処理のアルゴリズムに沿った分割により、(m/5)個のDSP201〜2(m/5)を有している。そして、後述するデータ切換部30から処理対象データを受けとって、それぞれに割り当てられた単一の信号処理を実行し、所定の時間内に処理を完了して処理結果を出力する。
【0014】
データ切換部30は、処理対象データを受けとり、その中に含まれる制御データに基づいて、受けとった処理対象データをデータ処理部10または20のいずれか一方に切換出力する。
【0015】
次に、前述の図1、ならびに図2のフローチャート、及び図3の説明図を参照して、上述のように構成された本発明に係るデータ処理装置の動作を説明する。以下の説明では、具体的な適用事例として、上述したデータ処理装置1を、例えば、目標を捜索・追尾するパルスレーダシステムの信号処理に適用した場合について記述する。なお、ここでのパルスレーダシステムは、図3に示すように、捜索パルス及び追尾パルスを繰り返し間隔Tで交互に送信し、リアルタイムの信号処理として、捜索処理及び追尾処理の2種類の信号処理を実施するものとしている。また、2種類の信号処理については、捜索処理はデータ処理部10に、追尾処理はデータ処理部20に、それぞれ割り当てているものとしている。
【0016】
まず、パルスレーダシステムの動作に従って所定のタイミングで信号処理の対象となる実データが発生すると、この実データに制御データが付加された処理対象データ40が、データ処理装置1内のデータ切換部30に送られてくる。図3においては、捜索データ、追尾データ(目標1)、及び追尾データ(目標2)が実データに対応する。また、制御データは、これら実データに施すべき信号処理の種類を表している。すなわち、実データが捜索データの場合には捜索処理に対応するコードが、また、追尾データの場合には追尾処理に対応するコードが、それぞれ格納されている(ST1のYES)。
【0017】
データ切換部30は、送られてきた処理対象データ40を受けとる(ST2)。次に、受けとった処理対象データ40中の制御データに基づいて、この処理対象データ中の実データの送出先となるデータ処理部を特定する。すなわち、制御データが捜索処理に対応するコードの場合には、捜索処理が割り当てられているデータ処理部10を、また、追尾処理に対応するコードの場合には、追尾処理が割り当てられているデータ処理部20を、それぞれ実データの送出先として特定する(ST3)。そして、特定したデータ処理部に向けて処理対象データ40を送出する(ST4)。
【0018】
それぞれのデータ処理部10及び20では、処理対象データ40を受けとると、それぞれに信号処理の実行を開始する。このときの信号処理のタイミングについて、図3の説明図を参照して詳細に説明する。
【0019】
まず、捜索処理について説明する。捜索処理では、レーダシステムから送信された捜索パルスに対する反射波情報としての捜索データを処理して、捜索領域内に存在する目標を検出する。このときは、対象とする捜索領域からのすべての反射波情報を処理対象とするため、図3に示すように、捜索データは、反射波が受信される時間範囲内で継続的に発生し、そのデータ量も多くなって、信号処理時の処理負荷は高い。この捜索データは、データ処理部10に送られて捜索処理が施される。そして、次の捜索パルスが送信される2Tまでの時間内に処理を完了し、データ処理部10から捜索処理結果が出力される。
【0020】
次に、追尾処理について説明する。追尾処理では、レーダシステムから送信された追尾パルスに対する、追尾対象目標からの反射波情報としての追尾データを処理して、追尾対象目標の位置情報を更新する。このときは、追尾対象目標の存在予測領域のみの反射波情報を処理対象とするため、図3に示すように、1目標あたりの発生データ量も限られており、信号処理時の処理負荷は軽い。この追尾データは、目標に対応してデータが発生するたび毎にデータ処理部20に送られて追尾処理が施され、その追尾処理結果が出力される。なお、図3には、追尾対象目標を2目標とし、これら目標に対する追尾処理をTの時間内に完了している場合をモデル化して例示しているが、捜索処理と同様に、2Tの時間内で処理することも可能である。
【0021】
このように、データ処理部10では捜索処理が、またデータ処理部20では追尾処理がそれぞれリアルタイムに実行される(ST5)。
【0022】
この後、それぞれのデータ処理部10及び20での信号処理が完了すると(ST6のYES)、それぞれのデータ処理部から処理結果が出力される。すなわち、データ処理部10からは捜索処理結果が、また、データ処理部20からは目標毎に追尾処理結果がそれぞれ出力され、後段の処理に供される(ST7)。そして、データ処理装置の動作の終了が指示されるまで、これらST1〜ST7までのステップが繰り返される(ST8)。
【0023】
以上説明したように、本実施例においては、捜索処理及び追尾処理の2種類の信号処理に対応してデータ処理部10及びデータ処理部20を設け、それぞれに単一の信号処理として、データ処理部10には捜索処理を、またデータ処理部20には追尾処理を割り当てるとともに、いずれのデータ処理部も、複数のDSPを用いて信号処理の負荷に応じた規模の構成としている。
【0024】
すなわち、捜索処理を割り当てられたデータ処理部10は、図3に示すように、従来と同じ捜索データの発生負荷に対して従来の2倍である2Tの時間内に処理を完了すればよく、図4に例示した2m個のDSPで構成された従来のデータ処理装置と比較すると、その半分のm個のDSP101〜1(m)で構成することができる。一方、追尾処理を割り当てられたデータ処理部20は、データ量の発生負荷及び処理アルゴリズム負荷ともに少なく、通常は捜索処理の1/10以下であることから、図4の従来のデータ処理装置と比較すると、その1/10程度の(m/5)個のDSP201〜2(m/5)で構成することができる。
【0025】
これにより、各データ処理部をそれぞれに割り当てられた信号処理に適した規模に構成することができ、実行すべき信号処理全体の規模にふさわしい回路規模を有するデータ処理装置を得ることができる。
【0026】
また、回路規模が適切になることにより、電力消費及び発熱等を減らすことができ、データ処理装置全体を小型・軽量化することができる。
【0027】
さらに、実行すべき信号処理の種類を増減させるには、対応するデータ処理部の数を増減させることによって実現でき、運用に対する要求や運用状況に即した信号処理を実行可能なデータ処理装置を、容易に構成することができる。
【0028】
なお、本実施例においては、このデータ処理装置1をレーダシステムに適用した事例について説明したが、これに限定されるものではなく、様々なリアルタイム信号処理の分野に適用することができる。また、信号処理の種類も2種類としたが、3種類以上として構成するなど、種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るデータ処理装置の一実施例を示すブロック図。
【図2】図1のデータ処理装置の動作を説明するためのフローチャート。
【図3】本発明に係るデータ処理装置における各種信号処理のタイミングをモデル化して示す説明図。
【図4】従来のデータ処理装置の一例を示すブロック図。
【図5】従来の信号処理装置における各種信号処理のタイミングをモデル化して示す説明図。
【符号の説明】
【0030】
1、50 データ処理装置
10、20 データ処理部
30 データ切換部
40、60 処理対象データ
102〜1(m)、201〜2(m/5)、501〜5(2m) DSP

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の信号処理をリアルタイムに実行するデータ処理装置であって、
前記複数種類の信号処理のそれぞれに対応して設けられ、それぞれに割り当てられた単一種類の前記信号処理を所定の時間内に実行完了する複数のデータ処理部と、
処理対象データを受けとり、前記複数のデータ処理部のいずれか1つに切換出力するデータ切換部とを有することを特徴とするデータ処理装置。
【請求項2】
前記複数のデータ処理部のそれぞれは、前記割り当てられた信号処理の処理負荷に応じて複数のDSP(Digital Signal Processor)により構成したことを特徴とする請求項1に記載のデータ処理装置。
【請求項3】
前記データ切換部は、前記処理対象データ内の制御データに基づいて前記処理対象データの切換出力先を制御することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のデータ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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