説明

トナーの製造方法、トナーの製造装置及び樹脂微粒子の製造方法

【課題】粒子径分布が狭いトナーを、連続して安定的に吐き出すことができるトナーの製造方法を提供すること。
【解決手段】トナー材料を有機溶剤に溶解乃至分散させる又はトナー材料を溶融させることにより、トナー組成液を調製する工程と、前記トナー組成液の溶存酸素量を3mg/L以下に脱気する工程と、1つ以上の吐出孔が形成された液柱共鳴液室内で、前記トナー組成液に振動を付与することで液柱共鳴による定在波を形成させ、前記定在波の腹となる領域に配置された前記吐出孔から前記トナー組成液を吐出して液滴を生成する工程と、前記液滴を乾燥させて粒子を固化させる工程と、を含む、トナーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナーの製造方法、トナーの製造装置及び樹脂微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置、静電記録装置等の画像形成装置においては、感光体上に形成された静電潜像を、トナーを含有する現像剤で現像してトナー像とし、形成されたトナー像を、紙等の記録媒体に転写した後、加熱、加圧により定着させて、画像を形成している。
【0003】
近年、より高画質で画像を形成することが要求されており、高画質化へのトナー設計がなされている。高画質化の要求に対応するため、トナーを小粒径化し、潜像を忠実に再現することが検討されている。
【0004】
小粒径のトナーの製造方法としては、重合法と呼ばれる水系媒体中でトナー粒子を形成する工法が広く行なわれている。重合法で得られるトナーは、一般的に、小粒子径の粒子が得易い、粒子径分布が狭い、形状が球形に近いといった特徴を有する。しかしながら、重合法には、多くの時間と、多量の水、エネルギーを必要とするという欠点がある。具体的には、重合過程に長時間を必要とし、さらに固化終了後に溶媒とトナー粒子を分離し、その後トナー粒子の洗浄乾燥を繰り返す必要がある。
【0005】
重合法に代わるトナーの製造方法として、噴射造粒法と呼ばれる方法の開発が進められている(例えば、特許文献1〜4参照)。噴射造粒法とは、トナーの原材料成分を有機溶媒に溶解または分散した液体を、様々なアトマイザを用いて微粒子化した後に乾燥させて、粉体状のトナーを得る方法である。この方法によれば、水を用いる必要が無いため、洗浄や乾燥といった工程を大幅に削減することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜3に示されるトナーの製造方法では、トナー組成液を噴霧した後において、形成された液滴が乾燥する前に液滴同士が合着し、合着状態のまま溶媒が乾燥してトナーが得られることがある。そのため、得られるトナーの粒子径分布が広くなるという問題を有していた。
【0007】
また、特許文献4に示されるトナーの製造方法では、連続的に噴霧工程を実施する際に、一部の吐出孔からの吐出が停止し、その吐出孔からトナー組成液がにじみ出し、他の吐出孔からの吐出を停止することがある。即ち、トナー組成液の吐出効率及び安定性が低いという問題を有していた。
【0008】
そこで、本発明は、粒子径分布が狭いトナーを、連続して安定的に吐き出すことができるトナーの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によると、
トナー材料を有機溶剤に溶解乃至分散させる又はトナー材料を溶融させることにより、トナー組成液を調製する工程と、前記トナー組成液の溶存酸素量を3mg/L以下に脱気する工程と、1つ以上の吐出孔が形成された液柱共鳴液室内で、前記トナー組成液に振動を付与することで液柱共鳴による定在波を形成させ、前記定在波の腹となる領域に配置された前記吐出孔から前記トナー組成液を吐出して液滴を生成する工程と、前記液滴を乾燥させて粒子を固化させる工程と、を含む、トナーの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、粒子径分布が狭いトナーを、連続して安定的に吐き出すことができるトナーの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明のトナーの製造方法における、液柱共鳴液滴形成手段の構成を例示する断面図である。
【図2】図2は、本発明のトナーの製造方法における、液柱共鳴液滴ユニットの構成を例示する断面図である。
【図3】図3は、吐出孔の断面形状の一例を説明するための概略図である。
【図4】図4は、速度及び圧力変動の定在波の一例を示す概略図である。
【図5】図5は、速度及び圧力変動の定在波の一例を示す概略図である。
【図6】図6は、液柱共鳴方式の液滴形成手段の、液柱共鳴流路で生じる液柱共鳴現象の様子を示す概略図である。
【図7】図7は、液柱共鳴液滴形成手段における液滴吐出の様子の一例を示す図である。
【図8】図8は、駆動周波数と液滴吐出速度周波数特性を示す特性図である。
【図9】図9は、本発明のトナーの製造方法を実施する、トナー製造装置の一例を示す断面図である。
【図10】図10は、補助気流による合着防止手段の一例を示す概略図である。
【図11】図11は、合着を防止できた場合の、トナー粒子径分布の一例を示したグラフである。
【図12】図12は、合着を防止できなかった場合の、トナー粒子径分布の一例を示したグラフである。
【図13】図13は、図12で得られたトナーの粒子径分布を説明するための図である。
【図14】図14は、粒子が合着した様子を示す写真の一例である。
【図15】図15は、粒子が結着した様子を示す写真の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図を参照しながら、本発明のトナーの製造方法について詳細に説明する。なお、当業者は、特許請求の範囲内における本発明を変更及び/又は修正して他の実施形態をなすことは容易であり、これらの変更及び/又は修正は、この特許請求の範囲に含まれる。また、以下の説明は、本発明における最良の形態の例であって、本発明を限定するものではない。
【0013】
本発明のトナーの製造方法は、主に、トナー材料を有機溶剤に溶解乃至分散させる又はトナー材料を溶融させることにより、トナー組成液を調製する工程と、前記トナー組成液の溶存酸素量を3mg/L以下に脱気手段により脱気する工程と、溶存酸素量が3mg/L以下であるトナー組成液(噴霧液)を液滴吐出手段により液滴吐出する工程と、吐出された液滴を、液滴乾燥捕集手段により乾燥捕集する工程と、を有する。
【0014】
本発明の液滴の吐出方法は、後に詳細に説明する通り、液柱共鳴室を振動手段により加振させることにより達成される。この時、トナー組成液中に気体(特に酸素)が溶存していると、キャビテーションの発生確率が高くなる。キャビテーションにより気泡が発生、残留すると、振動手段からトナー組成液に力が十分に付与されず、共鳴が発生しないことがある。即ち、気泡が発生、残留した液室からは液滴が吐出しなくなることがある。
【0015】
発明者らは、溶存酸素量を3mg/L以下にすることで、上記不具合が解消されることを見出した。
【0016】
本発明の実施形態においては、まずは、溶存酸素量が3mg/L以下にする脱気手段について説明し、その後、液滴吐出手段及び乾燥捕集手段について説明する。さらにその後、本発明で使用できるトナー組成液について説明する。
【0017】
[脱気手段]
本発明の、トナー組成液(噴霧液)の溶存酸素量を3mg/L以下にする方法の一例を挙げるが、トナー組成液の溶存酸素量を3mg/L以下することができれば良く、本発明はこれに限定されない。
【0018】
トナー組成液(噴霧液)は、下記で説明する脱気法などにより溶存気体を除去し、その後、ガスバリア性が高い材料により密閉包装することでその脱気状態を維持することが好ましい。
【0019】
脱気方法の一例としては、減圧脱気法を使用することができる。減圧脱気法とは、噴霧液を収納する容器内を、吸引ポンプなどの脱気手段により減圧し、溶存気体を排出する方法である。この時、噴霧液を攪拌しながら減圧処理することが好ましい。また、噴霧液に超音波振動を加え、キャビテーションを発生させながら減圧することでも脱気が促進される。
【0020】
脱気方法の他の例としては、中空糸膜により形成されたチューブに噴霧液を通液し、チューブの外周囲を吸引ポンプなどの脱気手段により減圧することで、噴霧液中の気体のみをチューブ外へ排出することができる。
【0021】
脱気方法のさらに他の例としては、ヘリウムなどの噴霧液への溶解度が低いガスで置換する方法が挙げられる。ヘリウム気体を噴霧液へバブリングし、液中の溶存気体をヘリウムに置換する。この方法は、ヘリウムなどの、酸素や窒素と比較して、噴霧液への溶解度が低いガスであれば、他のガスでも使用可能である。
【0022】
上記脱気方法で脱気した後の、溶存酸素量の測定方法は特に限定されない。例えば、溶存酸素測定装置(飯島電子工業製 有機溶媒用DO測定装置B506)を用いて噴霧液中の溶存酸素濃度を測定することができるが、本発明はこれに限定されない。
【0023】
上記脱気方法を連続的に適用し、得られた噴霧液をそのまま下記で説明する液滴吐出工程に供給しても良い。その場合、上記脱気方法を有する脱気手段は、溶存酸素量を測定する手段を有することが好ましい。溶存酸素量を測定する手段は、上述の溶存酸素測定装置などを使用することができる。
【0024】
[液柱共鳴を利用した液滴吐出手段]
上記脱気手段により、溶存酸素量が3mg/L以下となったトナー組成液は、本発明の液滴吐出手段により、液滴として吐出される。本発明の液滴吐出手段は、液柱共鳴方式の吐出手段を使用することができる。液柱共鳴方式とは、吐出孔が形成された液柱共鳴液室内のトナー組成液に振動を付与して、液柱共鳴による定在波を形成させ、該定在波の腹となる領域に形成された吐出孔から液体を吐出方法のことである。
【0025】
図1に、本発明のトナーの製造方法における、液柱共鳴方式の液滴吐出手段11の構成を例示する断面図を示す。また、図2に、本発明のトナーの製造方法における、液柱共鳴液滴ユニットの構成を例示する断面図を示す。液滴吐出ヘッド11は、液共通供給路17及び液柱共鳴液室18を有する。液柱共鳴液室18は、長手方向の両端の壁面のうち片側の壁面に設けられた液共通供給路17と連通されている。また、液柱共鳴液室18は、短手方向の両端の壁面のうち片側の壁面に吐出孔19を有し、該吐出孔よりトナー液滴21が吐出される。
【0026】
さらに、吐出孔19と対向する壁面に液柱共鳴定在波を形成するために高周波振動を発生する振動発生手段20とを有している。なお、振動発生手段20には、図示していない高周波電源が接続されている。
【0027】
また、液柱共鳴液室毎に、液供給のための流路が液共通供給路17から連通接続されており、液共通供給路17は複数の液柱共鳴液室18と連通している。
【0028】
トナー組成液14は、図示しない液循環ポンプにより液柱共鳴液滴形成ユニット10の液共通供給路17内に流入し、液柱共鳴液室18に供給される。液柱共鳴液室18内には、振動発生手段20によって発生する液柱共鳴定在波により圧力分布が形成される。そして、液柱共鳴定在波において振幅及び圧力変動が大きい、定在波の腹となる領域に配置されている吐出孔19からトナー液滴21が吐出される。
【0029】
吐出孔19は、液柱共鳴定在波の腹となる領域に配置されており、ここから液滴21が吐出される。ここで言う、定在波の腹となる領域とは、液柱共鳴定在波の圧力波において振幅が大きく、かつ液滴を吐出するのに十分な大きさの圧力変動を有する領域である。すなわち、定在波の節以外の領域を意味する。吐出孔が、圧力定在波の腹となる領域に形成されていると、複数の吐出孔が開口されていても、それぞれの吐出孔からほぼ均一な液滴を形成することができる。さらに、効率的に液滴の吐出を行うことができるため、吐出孔の詰まりも生じ難くなる点でも好ましい。より好ましい吐出孔の配置位置としては、圧力定在波の振幅が極大となる位置から極小となる位置に向かって±1/8波長である。
【0030】
液共通供給路17を通過したトナー組成液14は、図示しない液戻り管を流れて図示しない原料収容器に戻される。トナー液滴21の吐出によって液柱共鳴液室18内のトナー組成液14の量が減少すると、液柱共鳴液室18内の液柱共鳴定在波の作用による吸引力が作用する。これにより、液共通供給路17から供給されるトナー組成液14の流量が増加し、液柱共鳴液室18内にトナー組成液14が補充される。液柱共鳴液室18内にトナー組成液14が補充されると、液共通供給路17を通過するトナー組成液14の流量が元に戻り、液供給管16及び液戻り管には装置内を循環するトナー組成液14の流れが再形成された状態となる。
【0031】
液柱共鳴液室18は、後述する振動の駆動周波数においてトナー組成液の共鳴周波数に影響を与えない程度の高い剛性を持つ材質により形成されたフレームがそれぞれ接合されて形成されることが好ましい。具体的には、金属やセラミックス、シリコーンなどが挙げられる。
【0032】
液柱共鳴液室の長手方向の両端の壁面間の長さLとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、後述する液柱共鳴原理に基づいて決定されることが好ましい。また、液柱共鳴液室の幅Wとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、液柱共鳴に余分な周波数を与えないように、前記液柱共鳴液室の長さLの2分の1より小さいことが好ましい。
【0033】
液柱共鳴液室の液共通供給路17側の端部から、端部液共通供給路17側の端部に最も近い吐出孔19までの距離をLeとした時の、LとLeの距離比(Le/L)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.6より大きいことが好ましい。
【0034】
1つの液滴形成ユニットに対して複数の液柱共鳴液室を配置することが、生産性の観点から好ましい。1つの液滴形成ユニットに対して設置される液柱共鳴液室の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。1つの液滴形成ユニットに対して設置される液柱共鳴液室の数が多くなると、生産性が高くなるが、操作性が悪くなる。操作性と生産性が両立できる液柱共鳴液室の数としては、100個〜2,000個が好ましい。また、複数の液柱共鳴液室の各々に、トナー組成液の供給のための流路が液共通供給路17から連通接続されており、液共通供給路17には複数の液柱共鳴液室18と連通している。
【0035】
液柱共鳴液滴吐出手段11における振動発生手段20は、圧電体を弾性板9に貼りあわせた形態で設置されていることが好ましい。また、弾性板9は、前記振動発生手段がトナー組成液と接液しないように、液柱共鳴液室の壁の一部に形成されていることが好ましい。また、振動発生手段20は、1つの液柱共鳴液室毎に個別に制御できるように配置されていることが望ましい。さらに、ブロック状の振動部材を液柱共鳴液室の配置にあわせて一部切断し、弾性板を介してそれぞれの液柱共鳴液室を個別に制御できるように構成されていることが好ましい。
【0036】
圧電体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の圧電セラミックス、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の圧電高分子、水晶、LiNbO、LiTaO、KNbO等の単結晶などの材質から形成された圧電体などが挙げられる。
【0037】
吐出孔19の開口径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1〜40μmであることが好ましい。開口径が、1μm未満の場合、形成される液滴が非常に小さくなるためトナーを得ることができない場合がある。また、トナー組成液の成分として着色剤などの固形微粒子を含有する場合、吐出孔の閉塞が頻繁に発生して生産性が低下することもある。また、40μmを超える場合、トナー液滴の直径が大きいため、乾燥固化後に有機溶剤でトナー組成を希釈する工程が必要となる場合があり、トナーを得るためには大量の乾燥エネルギーが必要となることがある。
【0038】
また、図2に示すように、吐出孔19は液柱共鳴液室18内の幅方向に複数設ける構成とすることが、生産効率が高くなり、好ましい。
【0039】
前記吐出孔19の開口径は、吐出孔19が複数である場合においても、全て同じ開口径であってもよく、また、少なくとも1つの吐出孔の開口径が異なっていてもよい。
【0040】
なお、前記吐出孔19の開口径とは、真円であれば直径を意味し、楕円や、四角形、六角形、八角形等の多角形又は正多角形であれば平均径を意味する。
【0041】
1つの液柱共鳴液室18に対する吐出孔19の数は、1つでも構わないが、複数個配置することが生産性の観点から好ましい。具体的には、2〜100個であることが好ましい。1つの液柱共鳴液室18に対して、吐出孔19の数が100個を超える場合、振動発生手段20に与える電圧を高く設定する必要がある。そのため、振動発生手段20としての圧電体の挙動が不安定となることがある。
【0042】
複数の吐出孔19を開孔する場合、吐出孔間のピッチは20μm以上であることが好ましい。吐出孔間のピッチが20μmより小さい場合、隣あう吐出孔より放出される液滴同士が衝突することがある。
【0043】
図3に吐出孔19の断面形状の一例を示す。図3(a)は吐出孔19の接液面から吐出口に向かってラウンド形状を持ちながら開口径が狭くなるような形状を有している。この形状の場合、薄膜41が振動した際に吐出孔19の出口付近で液にかかる圧力が最大となる。そのため、吐出の安定化の面では、最も好ましい形状である。
【0044】
図3(b)は、吐出孔19の接液面から吐出口に向かって一定の角度で開口径が狭くなるような形状を有している。このノズル角度44は当業者が適宜変更することができる。図3(a)の場合と同様に、このノズル角度により薄膜41が振動したときの吐出孔19の出口付近で液にかかる圧力を高めることができる。ノズル角度44の角度の範囲は60〜90°であることが好ましい。ノズル角度44の角度60°未満の場合、液に圧力がかかりにくく、さらに薄膜41の加工も困難であるため好ましくない。一方、ノズル角度44の角度が90°である場合(図3(c))、液滴吐出の出口付近に圧力がかかりにくくなる。また、ノズル角度44の角度が90°以上の場合、孔12の出口に圧力がかからなくなるため、液滴吐出が非常に不安定化する。図3(d)は、図3(a)の構造と、図3(b)の構造とを組み合わせた形状である。図3(d)のように、段階的に形状を変更しても構わない。
【0045】
[液柱共鳴を利用した液滴形成のメカニズム]
次に、本発明のトナーの製造方法における、液滴形成ユニット10による液滴形成のメカニズムについて説明する。
【0046】
まず、液滴吐出ユニット10内の液柱共鳴液室18において生じる、液柱共鳴現象の原理について説明する。液柱共鳴液室内のトナー組成液の音速をcとし、振動発生手段20から媒質であるトナー組成液に与えられた駆動周波数をfとした場合、トナー組成液の共鳴が発生する波長λは、下記の式1の関係にある。
【0047】
λ=c/f ・・・(式1)
また、図1の液柱共鳴液室18において、固定端側のフレームの端部から液共通供給路17側の端部までの長さをLとし、さらに液共通供給路17側のフレームの端部の高さをh1(例えば80μm)とし、連通口の高さをh2(例えば40μm)とする。
【0048】
液共通供給路17側の端部が閉じている固定端と等価であるとした両側固定端の場合には、長さLが波長λの4分の1の偶数倍に一致する場合に共鳴が最も効率的に形成される。つまり、次の式2で表現される。
【0049】
L=(N/4)λ ・・・(式2)
(但し、Nは偶数を表す。)
また、液柱共鳴液室18の両端が完全に開いている両側自由端の場合、及び、両側自由端と等価である場合にも、上記式2が成立する。
【0050】
同様にして、片方側が圧力の逃げ部がある自由端と等価で、他方側が閉じている(固定端)の場合、つまり片側固定端(=片側自由端)の場合には、上記式2において、長さLが波長λの4分の1の奇数倍に一致する場合に共鳴が最も効率的に形成される。つまり、上記式2のNが奇数で表現される。
【0051】
最も効率の高い駆動周波数fは、上記式1と上記式2より、下記式3が導かれる。
【0052】
f=N×c/(4L) ・・・(式3)
(f:トナー組成液に与えられた駆動周波数、L:液柱共鳴液室の長手方向の長さ、c:トナー組成液の音波の速度、N:整数(偶数;両側固定端および、両側自由端、奇数;片側固定端))
本発明のトナーの製造方法において、トナー組成液に対して、上記式3が成立する周波数fの振動を付与することが好ましい。しかし、実際には、液体はQ値を持ち、共鳴を減衰させる粘性を有するため、実際には無限に振動が増幅されるわけではない。後述する式4、式5に示すように、式3に示す最も効率の高い駆動周波数fの近傍の周波数でも共鳴は発生する。
【0053】
図4に、N=1、2、3の場合の速度及び圧力変動の定在波の形状(共鳴モード)を示し、かつ図5にN=4、5の場合の速度及び圧力変動の定在波の形状(共鳴モード)を示す。本来、音波は疎密波(縦波)であるが、図4(a)〜(d)及び図5(a)〜(c)のように横波に変換して表記することが一般的である。実線が速度定在波、点線が圧力定在波である。
【0054】
音響学において、開口端とは長手方向の媒質(液)の移動速度が極大となる端であり、逆に圧力はゼロとなる。固定端においては、逆に媒質の移動速度がゼロとなる端と定義される。この際、固定端は音響的に硬い壁として考え、波の反射が発生する。
【0055】
理想的には、端が完全に閉口若しくは開口している場合は、波の重ね合わせによって図4(a)〜(d)及び図5(a)〜(c)のような形態の共鳴定在波を生じる。具体的には、N=1の片側固定端の場合を示す図4(a)からわかるように、固定端で速度分布の振幅がゼロとなり、開口端で速度分布の振幅が最大となる。
【0056】
しかし、実際には、吐出孔の数や、吐出孔の開口配置位置、吐出孔の断面形状によっても定在波パターンは変動するため、上記式3より求めた位置からずれた位置に共鳴周波数が現れるが、適宜駆動周波数を調整することで安定吐出条件を作り出すことができる。なお、端部の条件は、吐出孔の開口や供給側の開口の状態などに依存する。また、N=1〜5の場合に定在波が最も効率良く発生する。
【0057】
具体的には、吐出孔19の開口数、開口配置位置、吐出孔の断面形状も駆動周波数を決定する因子となり、駆動周波数はこれに応じて適宜決定することができる。
【0058】
例えば、液体の音速cを1,200m/sと、液柱共鳴液室の長さLを1.85mmとして、液柱共鳴液室の両端に壁面が存在して(両側固定端と完全に等価)、N=2の共鳴モードを仮定した場合、上記式3より、最も効率の高い共鳴周波数は324kHzと導かれる。
【0059】
他の例では、液体の音速cが1,200m/s、液柱共鳴液室の長さLが1.85mmと上記と同じ条件を用い、液柱共鳴液室の両端に壁面が存在して(両側固定端と完全に等価)、N=4の共鳴モードを用いた場合、上記式3より、最も効率の高い共鳴周波数は648kHzと導かれる。このため、同じ構造を有する液柱共鳴液室であっても、より高次の共鳴を利用することができる。
【0060】
本発明における液柱共鳴液室は、両端が固定端と等価であるか、吐出孔の開口の影響で、音響的に軟らかい壁として説明できるような端部であることが、周波数を高めるためには好ましい。しかしながら、それに限らず、少なくとも一方が自由端であってもよい。なお、吐出孔の開口の影響とは、音響インピーダンスが小さくなり、特にコンプライアンス成分が大きくなることなどを意味する。図4の(b)及び図5の(a)のような、液柱共鳴液室の長手方向の両端に壁面を形成する構成は、両側固定端の共鳴モード、そして吐出孔側が開口とみなす片側開放端の全ての共鳴モードが利用できるために、好ましい構成である。
【0061】
吐出孔の開口数、開口配置位置、吐出孔の断面形状は、駆動周波数を決定する因子となり、駆動周波数はこれに応じて適宜決定することができる。例えば、吐出孔19の数を多くすると、固定端であった液柱共鳴液室18の先端の拘束が徐々に緩くなり、ほぼ開口端に近い共鳴定在波が発生し、駆動周波数は高くなる。また、吐出孔19の断面形状がラウンド形状となることや、フレームの厚さによる吐出孔の体積が変動することでも、実際上の駆動周波数が変動する。さらに、共鳴定在波が最も効率よく発生する駆動周波数の近傍の周波数でも液柱共鳴定在波は発生する。つまり、液柱共鳴液室の長手方向の両端間の長さL及び、液共通供給路17側の端部に最も近い吐出孔19までの距離Leを用いて、下記式4及び式5で決定される範囲の駆動周波数fを主成分とした駆動波形を用いて振動発生手段を振動させ、液柱共鳴を誘起して液滴を吐出孔から吐出することが可能である。
【0062】
N×c/(4L)≦f≦N×c/(4Le) ・・・(式4)
N×c/(4L)≦f≦(N+1)×c/(4Le) ・・・(式5)
なお、液柱共鳴液室の長手方向の両端間の長さLと、液供給側の端部に最も近い吐出孔までの距離Leの比は、Le/L>0.6であることが好ましい。
【0063】
このように、液柱共鳴液室内には振動発生手段の高周波駆動によって液柱共鳴による定在波が発生し、また圧力が最も大きく変動する位置となる液柱共鳴による定在波の腹の領域に吐出孔19が配置されていることから、当該定在波の周期に応じてトナー液滴21が吐出孔19から連続的に吐出される。
【0064】
次に、液滴形成ユニットにおける液滴吐出ヘッド内の液柱共鳴液室で生じる液柱共鳴現象の様子について、図6を用いて説明する。なお、図6では、液柱共鳴液室内に記した実線は、液柱共鳴液室内の固定端側から液共通供給路側の端部までの各測定位置における速度をプロットした速度分布を示している。この時、液共通供給路側から液柱共鳴液室への方向を+とし、その逆方向を−としている。また、液柱共鳴液室内に記した点線は、液柱共鳴液室内の固定端側から液共通供給路側の端部までの各測定位置における圧力値をプロットした圧力分布を示している。この時、大気圧に対して正圧を+とし、負圧は−としている。また、正圧であれば図中の鉛直下方向に圧力が加わり、負圧であれば図中の鉛直上方向に圧力が加わる。さらに、図6において、上述したように液共通供給路側が開放されているが、液共通供給路17と液柱共鳴液室18とが連通する開口の高さ(図1に示す高さh2)に比して固定端となるフレームの高さ(図1に示す高さh1)が約2倍以上である場合、液柱共鳴液室18はほぼ両側固定端であると近似可能である。そのため、図6では、液柱共鳴液室18はほぼ両側固定端であると近似した条件のもとで、速度分布及び圧力分布の時間変化を示している。
【0065】
図6(a)は、液滴吐出直前の圧力波形と速度波形を示している。液柱共鳴液室18における吐出孔19が設けられている流路内での圧力は徐々に大きくなり、直前の液滴吐出時の液引き込み後において減少したメニスカス圧が、再び増加している。その後、図6(b)に示すように、吐出孔19付近の正の圧力は小さくなり、液滴21が吐出されると共に、負圧の方向へ移行する。
【0066】
そして、図6(c)に示すように、吐出孔19付近の圧力は極小になる。このときから液柱共鳴液室18へのトナー組成液14の充填が始まる。その後、図6(d)に示すように、吐出孔19付近の負の圧力は小さくなり、正圧の方向へ移行する。この時点で、トナー組成液14の充填が終了する。そして、再び、図6(a)に示すように、液柱共鳴液室18の液滴吐出領域の正の圧力が極大となって、吐出孔19から液滴21が吐出される。
【0067】
次に、液柱共鳴現象によって液滴が吐出された構成の一実施形態の例について説明する。この一例は、図1においてLが1.85mmで、N=2の共鳴モードであって、N=2の共鳴モードの圧力定在波の腹の位置に第一から第四の吐出孔を配置されている。また、駆動周波数を340kHzのサイン波で行った。
【0068】
図7に各々の吐出孔からの吐出の様子をレーザーシャドウグラフィ法にて撮影した様子を示す。図7から、非常に液滴の径が揃い、吐出速度もほぼ同じであることがわかる。また、図8は駆動周波数290kHz〜395kHzの同一の振幅を有するサイン波にて駆動した際の、液滴速度周波数特性を示す特性図である。図8からわかるように、第一乃至第四のノズルにおいて、駆動周波数が340kHz付近では、各ノズルからの吐出速度が均一であり、かつ、吐出速度が最大となっている。この特性結果から、液柱共鳴周波数の第二モードである340kHzにおいて、液柱共鳴定在波の腹の位置で均一吐出が実現していることがわかる。また、図8の特性結果から、130kHz付近の第一モードと、340kHz付近の第二モードとの間では、液滴は吐出しないことがわかる。これは、液柱共鳴の特徴的な液柱共鳴定在波の周波数特性によるものである。
【0069】
[液滴乾燥捕集手段]
次に、先に説明した液滴吐出手段からトナー組成液の液滴を、乾燥させた後に捕集する手段について説明する。
【0070】
図9に、本発明のトナーの製造方法を実施する、トナー製造装置の一例を示す断面図を示す。トナー製造装置1は、主に、液滴吐出手段2及び乾燥捕集ユニット60を含んで構成されている。液滴吐出手段2は、前述の液柱共鳴方式の液滴吐出手段を用いることが出来る。
【0071】
液滴吐出手段2には、原料収容器13と液循環ポンプ15とが連結されている。原料収容器13はトナー組成液14を収容している。液循環ポンプ15は、原料収容器13に収容されているトナー組成液14を、液供給管16経由で液滴吐出手段2に供給する。また、液循環ポンプ15は、トナー組成液14を液戻り管22により原料収容器13に戻すために、液供給管16内のトナー組成液14を圧送する。これにより、トナー組成液14を随時液滴吐出手段2に供給することができる。
【0072】
液供給管16にはP1、乾燥捕集ユニットにはP2の圧力測定器が設けられている。液滴吐出手段2への送液圧力および、乾燥捕集ユニット内の圧力は圧力計P1、P2によって管理される。このときに、P1>P2の場合には、トナー組成液1が孔12から染み出す恐れがあり、P1<P2の場合には、吐出手段に気体が入り、吐出が停止する恐れがあるため、P1≒P2があることが望ましい。
【0073】
図9に示す乾燥捕集手段60は、チャンバ61及びトナー捕集手段62、トナー貯留部63を含んで構成される。乾燥工程のメカニズムを以下に示す。トナー組成液14で構成された液滴21は液滴吐出手段2から吐出された直後は液体の状態である。その後、チャンバ内を搬送される間に、トナー組成液中に含まれる揮発溶剤が揮発することで乾燥が進行し、液体から固体に変化する。固体状態では粒子同士が接触しても合着は生じない。そのため、トナー捕集手段62により、トナーは粉体として回収することが可能であり、得られたトナーはトナー貯蔵部63に格納することが出来る。トナー貯蔵部63に格納されたトナーは必要に応じて更に別工程で乾燥される。
【0074】
チャンバ61内では、搬送気流導入口64から作られる下降気流101が形成されている。液滴吐出手段2から吐出された液滴21は、重力の他に、搬送気流101によっても例えば、鉛直方向下向き搬送される。そのため、噴射されたトナー液滴21が空気抵抗によって減速されることを抑制できる。トナー液滴21を連続的に噴射したときに、前に噴射されたトナー液滴21が乾燥する前に空気抵抗によって減速し、後に噴射されたトナー液滴21と合着し、トナー液滴21の粒子径が大きくなることを抑制できる。図9では液滴吐出手段2は鉛直方向下向きに液滴21を吐出しているが、吐出させる角度は適宜選択できる。気流発生手段としては、チャンバ61上部の搬送気流導入口64に送風機を設けて加圧する方法や、搬送気流排出口65より吸引する方法などを採用することもできる。トナー捕集手段62としては公知の捕集装置を用いることができ、サイクロン捕集機やバックフィルター等を用いることが出来る。
【0075】
搬送気流101の状態は、液滴21同士の合着を抑制することが出来れば特に限定されることは無く、層流や旋回流や乱流などを適宜選択することができる。搬送気流101を構成する気体の種類は特に限定は無く、空気以外にも、窒素等の不燃性気体を用いても良い。前述のように液滴21は、乾燥することで合着しなくなる性質を有するため、液滴21の乾燥を促進できる条件を持つことが好ましい。つまり、搬送気流101は、トナー組成液14に含まれる溶剤の蒸気を含まないことが望ましい。また、搬送気流101の温度は、当業者が適宜調整可能であり、生産時において変動の無いことが望ましい。さらに、チャンバー61内に、搬送気流101の気流状態を変える手段を有する構成として構わない。搬送気流101は液滴21同士の合着を防止するだけでなく、液滴21がチャンバ61に付着することを防止することも可能である。
【0076】
≪合着防止手段≫
液滴の乾燥及び捕集では、液滴の合着を搬送気流によって抑える説明を行った。本発明では、搬送気流の他にも、更なる合着防止手段を取り入れることも出来る。具体的な合着防止手段としては、液滴吐出手段付近での補助搬送気流の導入すること、液滴を同一極性に帯電すること、及び、電界制御すること等が挙げられる。
【0077】
図10は、補助搬送気流を用いた合着防止手段の一例である。液滴吐出手段2の周りにはシュラウド66が配置されており、その一部に補助搬送気流導入口67が配置されている。補助搬送気流導入口67から導入された気体は、シュラウド66によって形成された気流通路12を通り、吐出孔19の周辺に補助搬送気流68が作られる。液滴吐出手段2から吐出された液滴21は、補助搬送気流68により、液滴吐出手段2の近傍においては速度を落とすことなく移動する。そのため、液滴同士の合着の頻度を低く抑えることが出来る。補助搬送気流68の速度は、液滴吐出手段2から吐出された直後の液滴速度に対して、同じ速さか、より早い速さであることが望ましい。補助搬送気流68の速度は、液滴吐出手段2から吐出された直後の液滴速度に対して遅い場合は、逆効果となる場合がある。
【0078】
図10に示すように、補助搬送気流68は液滴21の進行方向と同一であることが望ましいが、合着を防ぐことが出来れば液滴吐出方向と補助搬送気流の方向が同じである必要は無い。
【0079】
シュラウド66の形状としては、図10に示すように液滴吐出手段2の吐出孔19付近で開口部を絞ることによって流速を制御しても良いが、絞りを持たせなくても良い。補助搬送気流68を構成する気体の種類は特に限定は無く、空気であっても窒素等の不燃性気体などを使用することができる。
【0080】
図11に、本発明で捕集したトナーの粒子径分布の一例を示す。粒子径分布測定はフロー式粒子像解析装置(シスメックス社製 FPIA−3000)を用いて行った。図11より、粒子径分布が狭いトナー粒子を得ることができたことがわかる。これは吐出された液滴13が合着することなく、乾燥して得られたためである。
【0081】
図12に、液敵同士が合着した場合の、トナーの粒子径分布を示す。図12は微量の搬送気流101および補助搬送気流102を用いていない以外は、図11と同条件で捕集されたトナーの粒子径分布である。また、図13に、図12で得られたトナーの粒子径分布を説明するための図を示す。ノズル孔19から吐出した液滴21は、自然落下するとともに、空気抵抗を受けて吐出速度が急速に低下する。吐出速度が低下すると液滴間距離が短くなり、液滴間の合着粒子23を生じるようになる。また、合着した粒子はさらに空気抵抗が増し、乾燥も遅れるため、更に別の液滴と合着を引き起こすようになり、数個の液滴が合着する場合もある。これにより、結果として得られるトナーの粒子径分布は広くなる。図12中の基本粒子径と示したピークを構成する乾燥粒子は、合着しなかった液滴21がそのまま乾燥固化したものである。2倍と記載されたピークを形成する乾燥粒子は、液滴21が吐出後に少なくとも1回以上合着した後に乾燥固化して得られたトナー粒子である。同様に3倍、4倍と記載されたピークは、少なくとも2回以上の合着が進行していることが推測することができる。
【0082】
図14に合着した粒子(合着粒子と呼ぶことがある)の写真を示す。また、図15に基本粒子が結着した状態(結着粒子と呼ぶことがある)の写真を示す。結着粒子は、機械的衝撃を与えても結着した粒子がほぐれ無い。その結果、大粒子径を有する粒子と同様に振舞うため、好ましくない。結着粒子は、粒子がある程度乾燥した後、粒子同士が結合することにより得られると考えられる。具体的には、ある程度乾燥が進行した粒子が配管壁面への付着し、やがて別の乾燥が進んでいない粒子が壁面に付着した粒子と結着した後に乾燥が進行し、配管から剥がれて回収されると考えられる。このような粒子の発生を防止するためには、乾燥を早く確実に実施することや、気流制御によって配管内への粒子付着を抑えることで達成できる。
【0083】
粒子径分布としては、体積平均粒子径(Dv)と個数平均粒子径(Dn)との比で比較することができ、Dv/Dnで示すことができる。Dv/Dn値は、最も小さい場合1.0であり、これはすべての粒子径が同一であることを示す。一般的に、Dv/Dnが大きいほど粒子径分布が広いことを示す。一般的な粉砕トナーはDv/Dn=1.15〜1.25程度である。また重合トナーはDv/Dn=1.10〜1.15程度である。本発明のトナーはDv/Dn=1.15以下とすることで印刷品質に効果が確認されており、より好ましくはDv/Dn=1.10以下である。
【0084】
電子写真システムにおいては、粒子径分布が狭いことが現像工程・転写工程・定着工程に求められるため、粒子径分布の広がりは望ましくない。安定的に高精細な画質を得るためにはDv/Dn=1.15以下であることが好ましく、より高精細な画像を得るためにはDv/Dn=1.10以下であることがより好ましい。
【0085】
≪2次乾燥≫
図9で示した乾燥捕集手段によって得られたトナーに対して、残留溶剤量が多い場合はこれを低減するために必要に応じて、二次乾燥が行われる。二次乾燥としては、流動床乾燥や真空乾燥のような一般的な公知の乾燥手段を用いることが出来る。有機溶剤がトナー中に残留すると、耐熱保存性、定着性、帯電特性等のトナー特性が経時で変動する。さらに、加熱による定着時において有機溶剤が揮発し、機器使用者および周辺機器へ悪影響を及ぼす可能性が高まる。そのため、トナー中の残留溶剤量を低く抑えることが望ましい。
【0086】
[トナー組成液(噴霧液)]
本発明のトナーの製造法を実施するための、トナー組成液の成分及び調製方法について説明する。なお、下記で挙げるトナー組成液の材料は一例であり、従来の電子写真用トナーのトナー材料と同じ物を使用することができる。例えば、結着樹脂を各種有機溶媒に溶解し、着色剤を分散し、かつ、離型剤を分散又は溶解し、これを本発明のトナーの製造方法により微小液滴、乾燥固化させることで、目的とするトナー粒子を得ることができる。
【0087】
また、本発明のトナーの製造法は、下記のトナー材料(例えば、着色剤、離型剤、結着樹脂及びその他の成分を含むトナー材料)を溶融したトナー材料溶融液を使用しても良い。
【0088】
さらに、本発明は、下記の樹脂成分を各種有機溶媒に溶解乃至分散させた樹脂微粒子組成液又は樹脂成分を溶融した樹脂微粒子溶融液を使用しても良い。この場合、粒子径分布が狭い樹脂微粒子を、連続して安定的に吐出することができる。
【0089】
≪結着樹脂≫
本発明のトナーの製造方法で製造されるトナーの結着樹脂としては、特に限定されない。例えば、スチレン系単量体、アクリル系単量体、メタクリル系単量体等から成るビニル重合体、これらの単量体の2種類以上から成る共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリオール樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、テルペン樹脂、クマロンインデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、石油系樹脂等が挙げられる。
【0090】
結着樹脂としてスチレン−アクリル系樹脂を使用する場合、THFを溶媒としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される、樹脂成分のテトラヒドロフラン(THF)に可溶分の分子量分布が、分子量3千〜5万(数平均分子量換算)の領域に少なくとも1つのピークが存在し、分子量10万以上の領域に少なくとも1つのピークが存在する樹脂を使用することが、定着性、オフセット性、保存性の点で好ましい。また、THF可溶分のGPCによる分子量分布の、10万以下の成分が、50〜90%である結着樹脂を使用することが好ましく、分子量5千〜3万の領域にメインピークを有する結着樹脂を使用することがより好ましく、5千〜2万の領域にメインピークを有する結着樹脂を使用することがさらに好ましい。
【0091】
結着樹脂としてスチレン−アクリル系樹脂等のビニル重合体を使用する場合、その酸価は、0.1mgKOH/g〜100mgKOH/gであることが好ましく、0.1mgKOH/g〜70mgKOH/gであることがより好ましく、0.1mgKOH/g〜50mgKOH/gであることがさらに好ましい。
【0092】
結着樹脂としてポリエステル系樹脂などのポリエステル系重合体を使用する場合、樹脂成分のTHF可溶成分の分子量分布で、分子量3千〜5万の領域に少なくとも1つのピークが存在する樹脂を使用することが、トナーの定着性、耐オフセット性の点で好ましい。また、THF可溶成分の分子量分布で、分子量10万以下の成分が60〜100(%)となる結着樹脂を使用することがより好ましく、分子量5千〜2万の領域に少なくとも1つのピークが存在する結着樹脂を使用することがより好ましい。
【0093】
結着樹脂としてポリエステル系樹脂を使用する場合、その酸価は0.1mgKOH/g〜100mgKOH/gであることが好ましく、0.1mgKOH/g〜70mgKOH/gであることがより好ましく、0.1mgKOH/g〜50mgKOH/gであることがより好ましい。
【0094】
また、結着樹脂として、ビニル重合体成分及びポリエステル系樹脂成分の少なくとも一方の中に、これらの樹脂成分と反応しうるモノマー成分を含む樹脂も使用しても良い。ポリエステル系樹脂成分を構成するモノマーのうち、ビニル重合体と反応し得るものとしては、例えば、フタル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸又はその無水物、などが挙げられる。ビニル重合体成分を構成するモノマーとしては、カルボキシル基又はヒドロキシ基を有する化合物や、アクリル酸若しくはメタクリル酸エステル類が挙げられる。
【0095】
ポリエステル系重合体、ビニル重合体及びその他の結着樹脂を使用する場合、酸価が0.1mgKOH/g〜50mgKOH/gを有する樹脂を60質量%以上有する結着樹脂を使用することが好ましい。
【0096】
なお、本発明における、トナー組成物の結着樹脂成分の酸価は、JIS K−0070に準じ、例えば下記の方法で測定することができる。
【0097】
(1)測定する試料は、予め結着樹脂(重合体成分)以外の添加物を除去して使用する。または、結着樹脂及び架橋された結着樹脂以外の成分の酸価及び含有量を予め求めておく。試料の粉砕品0.5〜2.0gを精秤し、重合体成分の重さをWgとする。例えば、トナーから結着樹脂の酸価を測定する場合は、着色剤又は磁性体等の酸価及び含有量を別途測定しておき、計算により結着樹脂の酸価を求める。
【0098】
(2)300mlのビーカーに試料を入れ、トルエン/エタノール(体積比4/1)の混合液150mlを加え溶解する。
【0099】
(3)濃度が0.1mol/lである、KOHのエタノール溶液を用いて、電位差滴定装置を用いて滴定する。
【0100】
(4)この時のKOH溶液の使用量をSmlとし、同時にブランクを測定し、この時のKOH溶液の使用量をBmlとし、以下の式で算出する。ただしfはKOHのファクターである。
【0101】
酸価(mgKOH/g)=[(S−B)×f×5.61]/W
トナーの結着樹脂及び結着樹脂を含む組成物は、トナー保存性の観点から、ガラス転移温度(Tg)が35〜80℃であることが好ましく、40〜75℃であることがより好ましい。Tgが35℃より低い場合、高温雰囲気下でトナーが劣化しやすく、また定着時にオフセットが発生しやすくなることがある。また、Tgが80℃を超える場合、トナーの定着性が低下することがある。
【0102】
≪磁性体≫
本発明で使用できる磁性体としては、例えば、マグネタイト、マグヘマイト、フェライトの如き磁性酸化鉄、及び他の金属酸化物を含む酸化鉄;鉄、コバルト、ニッケル等の金属、又は、これらの金属とアルミニウム、コバルト、銅、鉛、マグネシウム、錫、亜鉛、アンチモン、ベリリウム、ビスマス、カドミウム、カルシウム、マンガン、セレン、チタン、タングステン、バナジウム等の金属との合金;及びこれらの混合物等を使用することができる。
【0103】
磁性体の具体的としては、Fe、γ−Fe、ZnFe、YFe12、CdFe、GdFe12、CuFe、PbFe12O、NiFe、NdFeO、BaFe1219、MgFe、MnFe、LaFeO、鉄粉、コバルト粉、ニッケル粉等が挙げられる。これらは、1種類を単独で使用しても良く、2種類以上を組みあわせて併用して使用しても良い。上述の例の中でも、Fe、γ−Feの微粉末を使用することが好ましい。
【0104】
他にも、異種元素を含有するマグネタイト、マグヘマイト、フェライト等の磁性酸化鉄、又はその混合物も使用しても良い。異種元素の例としては、例えば、リチウム、ベリリウム、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、ゲルマニウム、ジルコニウム、錫、イオウ、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム等が挙げられる。この中でも好ましい異種元素としては、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン又はジルコニウムが挙げられる。異種元素は、結晶格子の中に取り込まれていてもよいし、酸化物として取り込まれていてもよいし、表面に酸化物又は水酸化物として存在していてもよい。この中でも酸化物として含有されているのが好ましい。
【0105】
異種元素は、磁性体作製時において、各々の異種元素の塩を混在させ、pH調整により粒子中に取り込むことができる。また、磁性体粒子作製後にpH調整又は各々の元素の塩を添加してpH調整することにより、磁性体粒子の表面に析出させることができる。
【0106】
磁性体の使用量としては、結着樹脂100質量部に対して、磁性体10〜200質量部であることが好ましく、20〜150質量部であることより好ましい。また、磁性体の個数平均粒径としては、0.1〜2μmであることが好ましく、0.1〜0.5μmであることがより好ましい。個数平均粒径は、例えば、透過電子顕微鏡を用いて拡大撮影した写真を、デジタイザー等で測定することにより求めることができる。
【0107】
磁性体の磁気特性としては、10Kエルステッド印加時における磁気特性であって、抗磁力が20〜150エルステッド、飽和磁化が50〜200emu/g、残留磁化が2〜20emu/gである磁性体を使用することが好ましい。
【0108】
なお、磁性体は、後述する着色剤としても使用することができる。
【0109】
≪着色剤≫
着色剤は、一般的にトナーに添加し、紙や画像保持体上で発色させるために使用される。ただし、画像の光沢付与、画像保護の目的のために使用されるクリアートナーのように、着色剤を含まないトナーも存在する。本発明のトナーは、通常の黒色トナーに加え、黒以外のカラートナー及びクリアートナーにも使用することができる。
【0110】
着色剤としては、特に限定されず、例えば、カーボンブラック、ニグロシン染料、鉄黒、ナフトールイエローS、ハンザイエロー(10G、5G、G)、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、黄土、黄鉛、チタン黄、ポリアゾイエロー、オイルイエロー、ハンザイエロー(GR、A、RN、R)、ピグメントイエローL、ベンジジンイエロー(G、GR)、パーマネントイエロー(NCG)、バルカンファストイエロー(5G、R)、タートラジンレーキ、キノリンイエローレーキ、アンスラザンイエローBGL、イソインドリノンイエロー、ベンガラ、鉛丹、鉛朱、カドミウムレッド、カドミウムマーキュリレッド、アンチモン朱、パーマネントレッド4R、パラレッド、ファイセーレッド、パラクロルオルトニトロアニリンレッド、リソールファストスカーレットG、ブリリアントファストスカーレット、ブリリアントカーンミンBS、パーマネントレッド(F2R、F4R、FRL、FRLL、F4RH)、ファストスカーレットVD、ベルカンファストルビンB、ブリリアントスカーレットG、リソールルビンGX、パーマネントレッドF5R、ブリリアントカーミン6B、ポグメントスカーレット3B、ボルドー5B、トルイジンマルーン、パーマネントボルドーF2K、ヘリオボルドーBL、ボルドー10B、ボンマルーンライト、ボンマルーンメジアム、エオシンレーキ、ローダミンレーキB、ローダミンレーキY、アリザリンレーキ、チオインジゴレッドB、チオインジゴマルーン、オイルレッド、キナクリドンレッド、ピラゾロンレッド、ポリアゾレッド、クロームバーミリオン、ベンジジンオレンジ、ペリノンオレンジ、オイルオレンジ、コバルトブルー、セルリアンブルー、アルカリブルーレーキ、ピーコックブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、無金属フタロシアニンブルー、フタロシアニンブルー、ファストスカイブルー、インダンスレンブルー(RS、BC)、インジゴ、群青、紺青、アントラキノンブルー、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキ、コバルト紫、マンガン紫、ジオキサンバイオレット、アントラキノンバイオレット、クロムグリーン、ジンクグリーン、酸化クロム、ピリジアン、エメラルドグリーン、ピグメントグリーンB、ナフトールグリーンB、グリーンゴールド、アシッドグリーンレーキ、マラカイトグリーンレーキ、フタロシアニングリーン、アントラキノングリーン、酸化チタン、亜鉛華、リトボン及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0111】
着色剤の含有量としては、トナーに対して1〜15質量%であることが好ましく、3〜10質量%であることがより好ましい。
【0112】
本発明で用いる着色剤は、樹脂と複合化されたマスターバッチとして用いることもできる。混練されるバインダー樹脂としては、ポリエステル樹脂やポリスチレン、ポリp−クロロスチレン、ポリビニルトルエンなどのスチレン及びその置換体の重合体;スチレン−p−クロロスチレン共重合体、スチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ビニルトルエン共重合体、スチレン−ビニルナフタリン共重合体、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリル酸ブチル共重合体、スチレン−アクリル酸オクチル共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−メタクリル酸ブチル共重合体、スチレン−α−クロルメタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ビニルメチルケトン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−アクリロニトリル−インデン共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸エステル共重合体などのスチレン系共重合体;ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、エポキシ樹脂、エポキシポリオール樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸樹脂、ロジン、変性ロジン、テルペン樹脂、脂肪族又は脂環族炭化水素樹脂、芳香族系石油樹脂、塩素化パラフィン、パラフィンワックス等が挙げられる。これらは、1種類を単独で使用しても良く、2種類以上を併用して使用しても良い。
【0113】
マスターバッチは、マスターバッチ用の樹脂と着色剤とを高せん断力をかけて混合、混練することで製造できる。この際、着色剤と樹脂の相互作用を高めるために、有機溶剤を使用しても良い。また、いわゆるフラッシング法と呼ばれる、水中に着色剤を含んだ水性ペーストを、樹脂と有機溶剤とともに混合混練し、着色剤を樹脂側に移行させ、水分と有機溶剤成分を除去する方法も使用される。この方法では、着色剤のウエットケーキをそのまま使用することができるため、乾燥する必要がない。混合、混練する方法としては、3本ロールミル等の高せん断分散装置が使用できる。
【0114】
マスターバッチの使用量としては、結着樹脂100質量部に対して、0.1〜20質量部であることが好ましい。
【0115】
また、マスターバッチ用の樹脂は、酸価が30mgKOH/g以下、アミン価が1〜100mgKOH/gであり、着色剤を分散させて使用することが好ましい。より好ましくは、酸価が20mgKOH/g以下、アミン価が10〜50mgKOH/gであり、着色剤を分散させて使用することである。酸価が30mgKOH/gを超える場合、高湿環境下での帯電性が低下することがある。また、着色剤の分散性も不十分となることがある。さらに、アミン価が1mgKOH/g未満の場合、及び、アミン価が100mgKOH/gを超える場合も、着色剤の分散性が不十分となることがある。なお、ここで言う酸価とは、JIS K0070に記載の方法により測定することができる。また、アミン価はJIS K7237に記載の方法により測定することができる。
【0116】
着色剤を分散させる場合の分散剤としては、結着樹脂との相溶性が高いものを使用することが好ましい。例えば、市販品として、アジスパーPB821、アジスパーPB822(味の素ファインテクノ株式会社製)、Disperbyk−2001(ビックケミー・ジャパン株式会社製)、EFKA−4010(EFKA社製)等が挙げられる。
【0117】
分散剤は、トナー中に、着色剤に対して0.1〜10質量%の割合で配合することが好ましい。配合割合が0.1質量%未満の場合、顔料分散性が不十分となることがある。一方、配合割合が10質量%を超える場合、高湿下での帯電性が低下することがある。
分散剤の質量平均分子量は500〜100,000であることが好ましく、3,000〜100,000であることがより好ましく、5,000〜50,000であることがさらに好ましく、5,000〜30,000であることが特に好ましい。ここで言う質量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおける、スチレン換算質量でのメインピークの極大値の分子量である。質量平均分子量が500未満の場合、極性が高くなり、着色剤の分散性が低下することがある。一方、質量平均分子量が100,000を超える場合、溶剤との親和性が高くなり、着色剤の分散性が低下することがある。
【0118】
分散剤の添加量としては、着色剤100質量部に対して1〜200質量部であることが好ましく、5〜80質量部であることがより好ましい。分散剤の添加量が1質量部未満の場合、分散能が低くなることがある。一方、分散剤の添加量が200質量部を超える場合、帯電性が低下することがある。
【0119】
≪離型剤(ワックス)≫
本発明のトナーは、離型剤を含むことが好ましい。離型剤を含むことにより、定着時のオフセットを防止することができる。
【0120】
離型剤としては、特に限定されず、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、サゾールワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス、酸化ポリエチレンワックス等の脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物又はそれらのブロック共重合体、キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ホホバろう等の植物系ワックス、みつろう、ラノリン、鯨ろう等の動物系ワックス、オゾケライト、セレシン、ペテロラタム等の鉱物系ワックス、モンタン酸エステルワックス、カスターワックスの等の脂肪酸エステルを主成分とするワックス類、脱酸カルナバワックスの等の脂肪酸エステルを一部又は全部を脱酸化したもの等が挙げられる。ワックス類の例としては、更に、パルミチン酸、ステアリン酸、モンタン酸、あるいは更に直鎖のアルキル基を有する直鎖アルキルカルボン酸類等の飽和直鎖脂肪酸、プランジン酸、エレオステアリン酸、バリナリン酸等の不飽和脂肪酸、ステアリルアルコール、エイコシルアルコール、ベヘニルアルコール、カルナウピルアルコール、セリルアルコール、メシリルアルコール、あるいは長鎖アルキルアルコール等の飽和アルコール、ソルビトール等の多価アルコール、リノール酸アミド、オレフィン酸アミド、ラウリン酸アミド等の脂肪酸アミド、メチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド等の飽和脂肪酸ビスアミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N'−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N'−ジオレイルセパシン酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド類、m−キシレンビスステアリン酸アミド、N,N−ジステアリルイソフタル酸アミド等の芳香族系ビスアミド、ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム等の脂肪酸金属塩、脂肪族炭化水素系ワックスにスチレンやアクリル酸等のビニル系モノマーを用いてグラフト化させたワックス、ベヘニン酸モノグリセリド等の脂肪酸と多価アルコールの部分エステル化合物、植物性油脂を水素添加することによって得られるヒドロキシル基を有するメチルエステル化合物等が挙げられる。
【0121】
他にも、オレフィンを高圧下でラジカル重合したポリオレフィン、高分子量ポリオレフィン重合時に得られる低分子量副生成物を精製したポリオレフィン、低圧下でチーグラー触媒、メタロセン触媒の如き触媒を用いて重合したポリオレフィン、放射線、電磁波又は光を利用して重合したポリオレフィン、高分子量ポリオレフィンを熱分解して得られる低分子量ポリオレフィン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィツシャートロプシュワックス、ジントール法、ヒドロコール法、アーゲ法等により合成される合成炭化水素ワックス、炭素数1個の化合物をモノマーとする合成ワックス、水酸基又はカルボキシル基の如き官能基を有する炭化水素系ワックス、炭化水素系ワックスと官能基を有する炭化水素系ワックスとの混合物、これらのワックスを母体としてスチレン、マレイン酸エステル、アクリレート、メタクリレート、無水マレイン酸の如きビニルモノマーでグラフト変性したワックス等が挙げられ、これらを使用することが好ましい。
【0122】
また、上記の離型剤を、プレス発汗法、溶剤法、再結晶法、真空蒸留法、超臨界ガス抽出法又は溶液晶析法を用いて分子量分布をシャープにしたものや、低分子量固形脂肪酸、低分子量固形アルコール、低分子量固形化合物、その他の不純物を除去したものも、使用することができる。
【0123】
離型剤の融点は、耐ブロッキング性と耐オフセット性を両立する観点から、70〜140℃であることが好ましく、70〜120℃であることがより好ましい。離型剤の融点が70℃未満の場合、得られるトナーの耐ブロッキング性が低下することがある。一方、離型剤の融点が140℃を超える場合、得られるトナーの耐オフセット効果が発現しにくくなることがある。
【0124】
また、2種類以上のワックスを併用することにより、ワックスの作用である可塑化作用と離型作用を同時に発現させることができる。可塑化作用が高いワックスの種類としては、例えば融点の低いワックス、分子の構造上に分岐のあるものや極性基を有する構造のもの、などが挙げられる。一方離型作用が高いワックスとしては、融点の高いワックスが挙げられ、その分子の構造としては、直鎖構造のものや、官能基を有さない無極性のものが挙げられる。使用例としては、2種類以上のワックスの融点の差が10〜100℃であるものの組み合わせや、ポリオレフィンとグラフト変性ポリオレフィンの組み合わせ等が挙げられる。
【0125】
上述のように、2種類以上のワックスを併用する場合には、同様構造のワックスの場合は、相対的に、融点の低いワックスが可塑化作用を発揮し、融点の高いワックスが離型作用を発揮する。融点の差が10〜100℃の場合に、機能分離が効果的に発現する。10℃未満の場合、機能分離効果が表れにくいことがあり、100℃を超える場合、相互作用による機能の強調が行われにくいことがある。この時、機能分離効果を発揮しやすくなる傾向があることから、少なくとも一方のワックスの融点が70〜120℃であることが好ましく、70〜100℃であることがより好ましい。
【0126】
ワックスは、一般的には、枝分かれ構造を有するもの、官能基といった極性基を有するもの、主成分とは異なる成分で変性されたものが可塑作用を発揮する傾向にある。一方、より直鎖構造のもの、官能基を有さない無極性のもの、未変性のものが離型作用を発揮する傾向にある。可塑作用及び離型作用を有するための、好ましいワックスの組み合わせ例としては、エチレンを主成分とするポリエチレンホモポリマー又はコポリマーとエチレン以外のオレフィンを主成分とするポリオレフィンホモポリマー又はコポリマーの組み合わせ、ポリオレフィンとグラフト変成ポリオレフィンの組み合わせ、アルコールワックス、脂肪酸ワックス又はエステルワックスと炭化水素系ワックスの組み合わせ、フイシャートロプシュワックス又はポリオレフィンワックスとパラフィンワックス又はマイクロクリスタルワックスの組み合わせ、フィッシャトロプシュワックスとポルリオレフィンワックスの組み合わせ、パラフィンワックスとマイクロクリスタルワックスの組み合わせ、カルナバワックズ、キャンデリラワックス、ライスワックス又はモンタンワックスと炭化水素系ワックスの組み合わせ等が挙げられる。
【0127】
上記いずれの組み合わせの場合においても、トナー保存性と定着性を両立させるために、トナーのDSC測定において観測される吸熱ピークにおいて、70〜110℃の領域に最大ピークのピークトップ温度があることが好ましく、70〜110℃の領域に最大ピークを有しているのがより好ましい。
【0128】
ワックスの含有量としては、結着樹脂100質量部に対し0.2〜20質量部であることが好ましく、0.5〜10質量部であることがより好ましい。
【0129】
本発明では、DSCにおいて測定されるワックスの吸熱ピークの最大ピークのピークトップの温度をもってワックスの融点とする。
【0130】
ワックス又はトナーのDSC測定機器としては、高精度の内熱式入力補償型の示差走査熱量計で測定することが好ましい。測定方法としては、ASTM D3418−82に準じて行う。本発明に用いられるDSC曲線は、1回昇温、降温させ前履歴を取った後、温度速度10℃/minで、昇温させた時に測定されるものを用いる。
【0131】
[流動性向上剤]
本発明のトナーは、流動性向上剤を添加して使用してもよい。流動性向上剤は、噴射乾燥して得られたトナー粒子表面に添加することにより、トナーの流動性を改善するものである。
【0132】
前記流動性向上剤としては、例えば、カーボンブラック、フッ化ビニリデン微粉末、ポリテトラフルオロエチレン微粉末の如きフッ素系樹脂粉末、湿式製法シリカ、乾式製法シリカの如き微粉末シリカ、微粉未酸化チタン、微粉未アルミナ、それらをシランカップリング剤、チタンカップリング剤若しくはシリコーンオイルにより表面処理を施した処理シリカ,処理酸化チタン,処理アルミナ等が挙げられる。これらの中でも、微粉末シリカ、微粉未酸化チタン、微粉未アルミナを使用することが好ましく、また、これらをシランカップリング剤やシリコーンオイルにより表面処理を施した処理シリカを使用することがさらに好ましい。なお、微粉末シリカとは、ケイ素ハロゲン化含物の気相酸化により生成されるシリカの微粉体であり、通常、乾式法シリカ又はヒュームドシリカとも称される。
【0133】
ケイ素ハロゲン化合物の気相酸化により生成される市販のシリカ微粉体としては、例えば、AEROSIL(日本アエロジル社商品名、以下同じ)−130、−300、−380、−TT600、−MOX170、−MOX80、−COK84:Ca−O−SiL(CABOT社商品名)−M−5、−MS−7、−MS−75、−HS−5、−EH−5、Wacker HDK(WACKER−CHEMIEGMBH社商品名)−N20 V15、−N20E、−T30、−T40:D−CFineSi1ica(ダウコーニング社製):Franso1(Fransi1社製)等が挙げられる。
【0134】
さらに、ケイ素ハロゲン化合物の気相酸化により生成されたシリカ微粉体を疎水化処理した処理シリカ微粉体において、メタノール滴定試験によって測定される疎水化度が30〜80%であることが好ましい。疎水化は、シリカ微粉体と反応又は物理吸着する有機ケイ素化合物等で化学的又は物理的に処理することによって付与される。ケイ素ハロゲン化合物の気相酸化により生成されたシリカ微粉体を有機ケイ素化合物で処理する方法が好ましい。
【0135】
シリカ微粉体を処理する有機ケイ素化合物としては、ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、n−ヘキサデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン、ビニルメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ジメチルビニルクロロシラン、ジビニルクロロシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、へキサメチルジシラン、トリメチルシラン、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、アリルジメチルクロロシラン、アリルフェニルジクロロシラン、ベンジルジメチルクロロシラン、ブロモメチルジメチルクロロシラン、α−クロルエチルトリクロロシラン、β−クロロエチルトリクロロシラン、クロロメチルジメチルクロロシラン、トリオルガノシリルメルカプタン、トリメチルシリルメルカプタン、トリオルガノシリルアクリレート、ビニルジメチルアセトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、へキサメチルジシロキサン、1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン、1,3−ジフエニルテトラメチルジシロキサン及び1分子当り2〜12個のシロキサン単位を有し、未端に位置する単位にそれぞれSiに結合した水酸基を0〜1個含有するジメチルポリシロキサン等がある。更に、ジメチルシリコーンオイルといった、シリコーンオイルも使用できる。これらは1種類を単独で使用しても良く、2種類以上を併用して使用しても良い。
【0136】
流動性向上剤の粒径としては、平均一次粒径として、0.001〜2μmであることが好ましく、0.002〜0.2μmであることがより好ましい。また、流動性向上剤の個数平均粒径としては、5〜100nmになるものが好ましく、5〜50nmになるものがより好ましい。
【0137】
流動性向上剤のBET法で測定した窒素吸着による比表面積としては、30m/g以上であることが好ましく、60〜400m/gであることがより好ましい。一方、表面処理された微粉体を使用する場合は、上記方法による比表面積としては、20m/g以上であることが好ましく、40〜300m/gであることがより好ましい。
【0138】
流動性向上剤の含有量としては、トナー粒子100質量部に対して0.03〜8質量部であることが好ましい。
【0139】
≪その他の成分≫
本発明のトナー製造方法で得られたトナー母体粒子は、その他の成分を含んでも良い。その他の成分としては、静電潜像担持体・キャリアの保護、クリーニング性の向上、熱特性・電気特性・物理特性の調整、抵抗調整、軟化点調整、定着率向上等を目的として、各種金属石けん、フッ素系界面活性剤、フタル酸ジオクチルや、導電性付与剤として酸化スズ、酸化亜鉛、カーボンブラック、酸化アンチモン等や、酸化チタン、酸化アルミニウム、アルミナ等の無機微粉体等を必要に応じて添加することが好ましい。
【0140】
また、これらの無機微粉体は、必要に応じて疎水化してもよい。また、ポリテトラフルオロエチレン、ステアリン酸亜鉛、ポリフッ化ビニリデン等の滑剤、酸化セシウム、炭化ケイ素、チタン酸ストロンチウム等の研磨剤、ケーキング防止剤、更に、トナー粒子と逆極性の白色微粒子及び黒色微粒子とを、現像性向上剤として少量用いることも好ましい。
【0141】
上述の添加剤は、帯電量をコントロールする目的などで、シリコーンワニス、各種変性シリコーンワニス、シリコーンオイル、各種変性シリコーンオイル、シランカップリング剤、官能基を有するシランカップリング剤、その他の有機ケイ素化合物等の処理剤、又は種々の処理剤で処理して使用することも好ましい。
【0142】
本発明のトナー製造方法で得られたトナー母体粒子から現像剤を調製する場合、現像剤の流動性、保存性、現像性及び転写性等を向上させるために、先述の疎水性シリカ微粉末等の無機微粒子を添加混合しても良い。外添剤の混合は、一般の粉体の混合機を適宜選択して使用することができるが、ジャケット等を装備して、内部の温度を調節できることが好ましい。外添剤に与える負荷の履歴を変えるには、途中または漸次外添剤を加えていけばよく、混合機の回転数、転動速度、時間、温度などは当業者が適宜選択することができる。例えば、はじめに強い負荷を、次に比較的弱い負荷を与えても良いし、その逆でも良い。使用できる混合機の例としては、例えば、V型混合機、ロッキングミキサー、レーディゲミキサー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、などが挙げられる。
【0143】
外添剤としては、無機微粒子を好ましく用いることができる。無機微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ケイ砂、クレー、雲母、ケイ灰石、ケイソウ土、酸化クロム、酸化セリウム、ペンガラ、三酸化アンチモン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素などを使用することができる。無機微粒子の一次粒子径は、5μm〜2000μmであることが好ましく、5μm〜500μmであることがより好ましい。
【0144】
無機微粒子のBET法による比表面積は、20〜500m/gであることが好ましい。また、無機微粒子の含有量は、トナーの0.01〜5質量%であることが好ましく、0.01〜2質量%であることがより好ましい。
【0145】
その他の外添剤としては、高分子系微粒子、例えば、ソープフリー乳化重合や懸濁重合、分散重合によって得られるポリスチレン、メタクリル酸エステルやアクリル酸エステル共重合体やシリコーン、ベンゾグアナミン、ナイロンなどの重縮合系、熱硬化性樹脂による重合体粒子を使用することができる。
【0146】
このような外添剤は、表面処理剤により、疎水性を上げ、高湿度下においても外添剤自身の劣化を防止することができる。前記表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、シリル化剤、フッ化アルキル基を有するシランカップリング剤、有機チタネート系カップリング剤、アルミニウム系のカップリング剤、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル等が好適に挙げられる。
【0147】
静電潜像担持体や一次転写媒体に残存する転写後の現像剤を除去するためのクリーニング性向上剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸等の脂肪酸金属塩、ポリメチルメタクリレート微粒子、ポリスチレン微粒子等のソープフリー乳化重合によって製造されたポリマー微粒子等を挙げることかできる。ポリマー微粒子は比較的粒度分布が狭く、体積平均粒径が0.01〜1μmのものを使用することが好ましい。
【実施例】
【0148】
次に、実施例を参照することにより、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0149】
[着色剤分散液の調製]
本実施例では、着色剤としてカーボンブラックを選択した。カーボンブラック(Regal400;Cabot社製)17質量部、顔料分散剤(アジスパーPB821;味の素ファインテクノ社製)3質量部を、酢酸エチル80質量部中に一次分散させた。分散は、攪拌羽を有するミキサーを使用した。
【0150】
得られた一次分散液を、ビーズミル(アシザワファインテック社製LMZ型、ジルコニアビーズ径0.3mm)を用いて細かく分散し、5μm以上の凝集体を完全に除去した二次分散液を調製した。
【0151】
[ワックス分散液の調製]
カルナバワックス18質量部、ワックス分散剤2質量部を、酢酸エチル80質量部中に一次分散させた。分散は、攪拌羽を有するミキサーを使用した。
【0152】
得られた一次分散液を、攪拌しながら80℃まで昇温し、カルナバワックスを溶解した後、室温まで液温を下げ、最大径が3μm以下となるようワックス粒子を析出させた。
【0153】
なお、ワックス分散剤としては、ポリエチレンワックスにスチレン−アクリル酸ブチル共重合体をグラフト化したものを使用した。得られた分散液を、更にビーズミル(アシザワファインテック社製LMZ型、ジルコニアビーズ径0.3mm)を用いて、より細かく分散し、ワックス粒子の最大径が1μm以下なるように調製し、ワックス分散液を得た。
【0154】
[溶解乃至分散液の調製]
結着樹脂としてポリエステル樹脂100質量部と、前記着色剤の二次分散液30質量部と、前記ワックス分散液30質量部と、酢酸エチル840質量部とを、攪拌羽を有するミキサーを使用して10分間攪拌を行い、均一に分散させ、(トナー組成液1)を得た。溶媒希釈によるショックで着色剤粒子やワックス粒子が凝集することはなかった。
【0155】
[実施例1]
実施例1では、脱気手段として減圧脱気法を選択した。(トナー組成液1)を、攪拌しながら、吸引ポンプにより−60kPaにて20分間減圧処理した。
【0156】
減圧処理後のトナー組成液の溶存酸素量は、溶存酸素測定装置(飯島電子工業製 有機溶媒用DO測定装置B506)を用いて測定した。この時、溶存酸素量は2.8mg/Lであった。
【0157】
減圧処理後のトナー組成液(噴霧液)は、図14に示す微粒子製造装置(液滴吐出装置)を用いて噴霧試験を実施した。なお、液滴吐出手段としては、図1に示す液滴吐出手段を用いた。1つの液柱共鳴室には4つの吐出孔が配置され、液柱共鳴室を400室設けた構成(即ち、1,600つの吐出孔を有する)のものを1つの吐出手段とした。
【0158】
図14の微粒子製造装置において、液柱共鳴液室18の長手方向の両端間の長さLは1.85mm、N=2の共鳴モードを使用し、4つの吐出孔がN=2モードの圧力定在波の腹の位置に吐出孔を配置したものを用いた。
【0159】
駆動信号発生源はNF社ファンクションジェネレーターWF1973を用い、ポリエチレン被覆のリード線で振動発生手段に接続した。振動部材には、駆動信号として330kHz、波高値9.0Vのサイン波形電圧信号を入力した。この時の駆動周波数は液共鳴周波数に合わせて340(kHz)となる。
【0160】
全てのノズルを観察し、1時間駆動の間に、噴霧液が安定的に吐出している吐出孔の数をモニターした。その結果、全1,600の吐出孔のうち、1,590個が1時間後まで安定的に吐出し続けたことを確認した。
【0161】
なお、微粒子捕集部としては、円筒状シュラウド66の径は50mmのものを使用し、開口部の径はφ10mmとした。チャンバ61の内径はφ400mm、高さは2000mmの円筒形で垂直に固定した。チャンバ61の上端部と下端部は絞られており、搬送気流導入口の径はφ50mm、搬送気流出口の径はφ50mmとなるようにした。液滴吐出手段2はチャンバ61内上端より300mmの高さでチャンバ61の中央に配置した。搬送気流は10.0m/s、40℃の窒素を用いた。
【0162】
[実施例2]
実施例2でも、実施例1と同様に、(トナー組成液1)を、攪拌しながら、吸引ポンプにより−80kPaにて5分間減圧処理した。
【0163】
減圧処理後のトナー組成液の溶存酸素量は、溶存酸素測定装置(飯島電子工業製 有機溶媒用DO測定装置B506)を用いて測定した。得られたトナー組成液の溶存酸素量は2.0mg/Lであった。
【0164】
得られたトナー組成液(噴霧液)は実施例1と同様の方法で液滴を吐出させた。
【0165】
1時間駆動の間に、噴霧液が安定的に吐出している吐出孔の数は、1,596個であった。
【0166】
[実施例3]
脱気条件として、−60kPaにて2分間減圧し、その間、28kHz、40Wの条件で超音波洗浄器を用いて超音波振動を行った。得られたトナー組成液の溶存酸素量は、1.8mg/Lであった。
【0167】
得られたトナー組成液(噴霧液)は実施例1と同様の方法で液滴を吐出させた。
【0168】
1時間駆動の間に、噴霧液が安定的に吐出している吐出孔の数は、1,595個であった。
【0169】
[実施例4]
脱気条件として、中空糸膜を用いた脱気装置(DIC社製 脱気モジュールSEPAREL PF03DG)を用いて、−90kPaにて減圧、20mL/分の量を送液して脱気処理した。得られたトナー組成液の溶存酸素量は、2.9mg/Lであった。
【0170】
得られたトナー組成液(噴霧液)は実施例1と同様の方法で液滴を吐出させた。
【0171】
1時間駆動の間に、噴霧液が安定的に吐出している吐出孔の数は、1,522個であった。
【0172】
[比較例1]
脱気条件として、中空糸膜を用いた脱気装置(DIC社製 脱気モジュールSEPAREL PF03DG)を用いて、−90kPaにて減圧、200mL/分の量を送液して脱気処理した。得られたトナー組成液の溶存酸素量は、3.1mg/Lであった。
【0173】
得られたトナー組成液(噴霧液)は実施例1と同様の方法で液滴を吐出させた。
【0174】
1時間駆動の間に、噴霧液が安定的に吐出している吐出孔の数は、613個であった。駆動途中、幾つかの吐出孔から噴霧液が滲み出し、周辺の吐出孔まで閉塞させてしまい、吐出し続ける吐出孔の数が減少した。
【0175】
[比較例2]
脱気処理をしていないトナー組成液(噴霧液)を、実施例1と同様の方法で液滴を吐出させた。なお、噴霧液の溶存酸素量6.8mg/Lであった。
【0176】
1時間後駆動の間に、噴霧液が安定的に吐出している吐出孔の数は、220個であった。
【0177】
[比較例3]
脱気処理を行うことなく、トナー組成液にバブリング処理して空気を送り込んだ噴霧液を用いて、実施例1と同様の方法で液滴を吐出させた。なお、噴霧液の溶存酸素量は7.5mg/Lであった。
【0178】
1時間駆動の間に、噴霧液が安定的に吐出している吐出孔の数は、135個であった。
【0179】
以上のように、噴霧液を脱気処理して溶存酸素量を3.0mg/L以下とした噴霧液を使用することで、不吐出となる吐出孔の数が減少する。即ち、粒子径分布が狭いトナーを、連続して安定的に吐き出すことができる。
【符号の説明】
【0180】
1 トナー製造装置
2 液滴吐出手段
9 弾性板
10 液滴形成ユニット
11 液柱共鳴液滴吐出手段
12 気流通路
13 原料収容器
14 トナー組成液
15 液循環ポンプ
16 液供給管
17 液共通供給路
18 液柱共鳴液室
19 吐出孔
20 振動発生手段
21 液滴
【先行技術文献】
【特許文献】
【0181】
【特許文献1】特許第3786034号公報
【特許文献2】特許第3786035号公報
【特許文献3】特開昭57−201248号公報
【特許文献4】特開2006−293320号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トナー材料を有機溶剤に溶解乃至分散させる又はトナー材料を溶融させることにより、トナー組成液を調製する工程と、
前記トナー組成液の溶存酸素量を3mg/L以下に脱気する工程と、
1つ以上の吐出孔が形成された液柱共鳴液室内で、前記トナー組成液に振動を付与することで液柱共鳴による定在波を形成させ、前記定在波の腹となる領域に配置された前記吐出孔から前記トナー組成液を吐出して液滴を生成する工程と、
前記液滴を乾燥させて粒子を固化させる工程と、
を含む、トナーの製造方法。
【請求項2】
前記脱気する工程は、前記トナー組成液を収納した容器内を減圧に維持する工程を含む、請求項1に記載のトナーの製造方法。
【請求項3】
前記脱気する工程は、中空糸膜の内側で前記トナー組成液を通液し、前記中空糸膜の外側を減圧に維持する工程を含む、請求項1に記載のトナーの製造方法。
【請求項4】
トナー材料を有機溶剤に溶解乃至分散させてトナー組成液を液滴化し、乾燥固体する、トナーの製造装置であって、
前記トナー組成液の溶存酸素量を3mg/L以下に脱気する手段と、
1つ以上の吐出孔が形成された液柱共鳴液室内で、前記トナー組成液に振動を付与することで液柱共鳴による定在波を形成させ、前記定在波の腹となる領域に配置された前記吐出孔から前記トナー組成液を吐出して液滴を生成する手段と、
前記液滴中の前記有機溶剤を乾燥させて粒子を固化させる手段と、
を含む、トナーの製造装置。
【請求項5】
前記脱気する手段は、前記トナー組成液の溶存酸素量を測定する手段を有する、請求項4に記載のトナーの製造装置。
【請求項6】
前記脱気する手段は、前記トナー組成液を収納した容器内を減圧に維持する手段を有する、請求項4又は5に記載のトナーの製造装置。
【請求項7】
前記脱気する手段は、中空糸膜の内側で前記トナー組成液を通液し、前記中空糸膜の外側を減圧に維持する手段を有する、請求項4又は5に記載のトナーの製造装置。
【請求項8】
樹脂を有機溶剤に溶解乃至分散させる又は樹脂を溶融させることにより、樹脂微粒子組成液を調製する工程と、
前記樹脂微粒子組成液の溶存酸素量を3mg/L以下に脱気する工程と、
1つ以上の吐出孔が形成された液柱共鳴液室内で、前記樹脂微粒子組成液に振動を付与することで液柱共鳴による定在波を形成させ、前記定在波の腹となる領域に配置された前記吐出孔から前記樹脂微粒子組成液を吐出して液滴を生成する工程と、
前記液滴を乾燥させて粒子を固化させる工程と、
を含む、樹脂微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図7】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−33145(P2013−33145A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169364(P2011−169364)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】