説明

トラクタのリンク機構

【課題】ブレーキ機構とデフロック機構とを、互いの作動を邪魔しないように滑らかに連動させることができるトラクタのリンク機構を提供する。
【解決手段】ブレーキ機構70の作動操作に連動してブレーキ機構70およびデフロック機構60を作動させるトラクタ1のリンク機構100であって、ブレーキ機構70のブレーキ作動軸72に連結されるブレーキ側リンク110と、デフロック機構60のデフロック作動軸64に連結されるデフロック側リンク120と、ブレーキ側リンク110とデフロック側リンク120との間に介在され、ブレーキ側リンク110が作動方向に回動された場合、当該ブレーキ側リンク110の回動量に応じた力でデフロック側リンク120を作動方向に付勢するスプリング130と、を具備した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ機構の作動操作に連動して、ブレーキ機構とともにデフロック機構を作動させるリンク機構の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動力を左右の車輪へとそれぞれ分配する差動機構と、差動機構による差動を停止するデフロック機構と、車輪の回転を制動するブレーキ機構と、を具備するトラクタの技術は公知となっている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0003】
また、差動機構とブレーキ機構とを具備するトラクタにおいて、ブレーキ機構の作動操作に連動して、ブレーキ機構とともにデフロック機構を作動させる技術がある。これによって、ブレーキ機構を作動させた場合には差動機構による差動を停止させ、左右一対の車輪を確実に制動させることができる。
【0004】
上記の如く、ブレーキ機構の作動操作に連動してデフロック機構を作動させるための構成としては、リンク機構によってブレーキ機構とデフロック機構とを連動させる構成がある。
【0005】
ここで、ブレーキ機構においては、作動操作の操作量に応じてその制動力を任意に増減させることができる。
一方、デフロック機構においては、差動機構による差動が可能な状態または不可能な状態(差動を停止させる状態)の、2つの状態を切り換えることができるのみである。
このように、ブレーキ機構とデフロック機構では、作動操作に対する各機構の作動の態様が異なる。したがって、上述の如くリンク機構によってブレーキ機構とデフロック機構とを連動させる場合、当該ブレーキ機構とデフロック機構とが互いの作動を邪魔しないように滑らかに連動させるのは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−127705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上の如き状況を鑑みてなされたものであり、ブレーキ機構とデフロック機構とを、互いの作動を邪魔しないように滑らかに連動させることができるトラクタのリンク機構を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、ブレーキ機構の作動操作に連動して前記ブレーキ機構およびデフロック機構を作動させるトラクタのリンク機構であって、前記ブレーキ機構の作動軸に連結されるブレーキ側リンクと、前記デフロック機構の作動軸に連結されるデフロック側リンクと、前記ブレーキ側リンクと前記デフロック側リンクとの間に介在され、前記ブレーキ側リンクが作動方向に回動された場合、当該ブレーキ側リンクの回動量に応じた力で前記デフロック側リンクを作動方向に付勢する弾性部材と、を具備するものである。
【0010】
請求項2においては、前記ブレーキ側リンクは、前記ブレーキ機構の作動軸に連結されるブレーキ側アームと、前記ブレーキ側アームに回動可能に連結されるブレーキ側受け部と、を具備し、前記デフロック側リンクは、前記デフロック機構の作動軸に連結されるデフロック側アームと、前記デフロック側アームに回動可能に連結されるとともに、前記ブレーキ側受け部に摺動可能に支持されるデフロック側受け部と、を具備し、前記弾性部材は、前記ブレーキ側受け部および前記デフロック側受け部の間に介在されるものである。
【0011】
請求項3においては、前記ブレーキ側リンクまたは前記デフロック側リンクは、前記デフロック機構の作動操作に対して前記ブレーキ機構を作動させない逃げ機構を具備するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0013】
請求項1においては、ブレーキ機構の作動操作を行った場合、デフロック機構の作動軸が作動方向に回動するまで弾性部材が弾性変形しながらデフロック側リンクを作動方向に付勢する。これによって、ブレーキ機構の作動操作とデフロック機構の作動操作を滑らかに連動させることができる。
【0014】
請求項2においては、ブレーキ機構の作動操作とデフロック機構の作動操作を滑らかに連動させることができる。
【0015】
請求項3においては、デフロック機構が作動操作された場合には、ブレーキ機構を作動させることなく、デフロック機構のみを作動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】トラクタの全体的な構成を示す側面図。
【図2】ミッションケースおよびリンク機構を示す側面図。
【図3】図2におけるA−A断面図。
【図4】図2におけるA−A断面の作動機構部分の拡大図。
【図5】図2におけるB−B断面図。
【図6】作動機構、デフロック機構、ブレーキ機構、およびリンク機構を示す斜視図。
【図7】図2におけるA−A断面のブレーキ機構部分の拡大図。
【図8】ミッションケースおよび右リアアクスルケースの分解斜視図。
【図9】リンク機構を示す斜視図。
【図10】図2におけるC−C断面図。
【図11】図10におけるD−D断面図。
【図12】ブレーキ側アームが回動された状態のリンク機構を示す側面断面図。
【図13】スプリングの付勢力によりデフロック側アームが回動された状態のリンク機構を示す側面断面図。
【図14】デフロックペダルが踏み込み操作された状態のリンク機構を示す側面断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、図1を用いて、トランスミッション10を具備するトラクタ1の全体構成について説明する。
なお、以下では図中の矢印Fの方向を前方向、矢印Lの方向を左方向として説明を行う。
【0018】
トラクタ1においては、左右一対の機体フレーム2・2が長手方向を前後方向として配置され、その前部でフロントアクスルを介して左右一対の前輪4・4に支持されるとともに、その後部でリアアクスル(車軸としての左リアアクスル5Lおよび右リアアクスル5R)を介して左右一対の後輪6・6に支持される。機体フレーム2の前部にはボンネット7で覆われた駆動源としてのエンジン8が設けられ、前記ボンネット7の後方には運転操作部9が設けられ、機体フレーム2の後部には後述するトランスミッション10(図3参照)を収納するミッションケース11が設けられる。また、作業機として、トラクタ1の前部にフロントローダ12が、トラクタ1の前後中央下部にミッドモア13が、それぞれ装着される。
【0019】
以下では、動力伝達装置としてのトランスミッション10について説明する。
【0020】
トランスミッション10は、図3に示すように、左右中央に配置される箱状のミッションケース11、ミッションケース11の左側面を閉塞するように当該ミッションケース11の左側面に固定される左リアアクスルケース14L、およびミッションケース11の右側面を閉塞するように当該ミッションケース11の右側面に固定される右リアアクスルケース14R等に収納される。
【0021】
図3に示すトランスミッション10は、エンジン8からの動力を変速して前輪4・4および後輪6・6へと伝達するものである。トランスミッション10は、図示せぬ変速機構、入力軸20、差動機構30、左伝達軸40、右伝達軸50、デフロック機構60、およびブレーキ機構70等を具備する。
【0022】
駆動源であるエンジン8により発生された動力は、図示せぬ変速機構により変速(減速)され、入力軸20へと伝達される。入力軸20に伝達された動力は、差動機構30によって左伝達軸40および右伝達軸50に分配される。
【0023】
左伝達軸40に伝達された動力は、当該左伝達軸40の左端部に形成されるギヤ部40a、および左リアアクスル5Lにスプライン嵌合される左ファイナルギヤ41を介して、左リアアクスルケース14Lに回動可能に支持された左リアアクスル5Lに減速して伝達される。
【0024】
右伝達軸50に伝達された動力は、当該右伝達軸50の右端部に形成されるギヤ部50a、および右リアアクスル5Rにスプライン嵌合される右ファイナルギヤ51を介して、右リアアクスルケース14Rに回動可能に支持された右リアアクスル5Rに減速して伝達される。
【0025】
以下では、差動機構30、デフロック機構60、およびブレーキ機構70について詳細に説明する。
【0026】
まず、差動機構30の構成および動作態様について説明する。
【0027】
図4から図6までに示す差動機構30は、伝達される動力を左伝達軸40および右伝達軸50に分配するものである。差動機構30は、デフケース31、ベベルギヤ32、デフピニオン軸33、一対のデフピニオンギヤ34・34、および一対のデフサイドギヤ35・35等を具備する。
【0028】
デフケース31は箱状の部材であり、デフピニオン軸33、一対のデフピニオンギヤ34・34、および一対のデフサイドギヤ35・35を収納する。デフケース31の左端部および右端部には、左右方向に向けて配置される左伝達軸40および右伝達軸50がそれぞれ回動可能に支持される。右伝達軸50は左伝達軸40に比べてその長手方向長さが長くなるように形成されているため、デフケース31(ひいては、差動機構30)はミッションケース11内の左側に偏って配置されることになる。
【0029】
デフケース31の左端部外周にはベベルギヤ32が固定され、当該ベベルギヤ32は入力軸20の後端部に形成されるベベルギヤ部20aと歯合される。
【0030】
デフピニオン軸33は、デフケース31を直径方向(左伝達軸40および右伝達軸50の直径方向)に貫通するように当該デフケース31に固定される。デフピニオン軸33には、一対のデフピニオンギヤ34・34が互いに対向するようにして回動可能に支持される。
【0031】
デフサイドギヤ35・35のうち一方のデフサイドギヤ35は、左伝達軸40の右端部にスプライン嵌合され、他方のデフサイドギヤ35は、右伝達軸50の左端部にスプライン嵌合される。デフサイドギヤ35・35は、それぞれデフピニオンギヤ34・34と歯合される。
【0032】
このように構成された差動機構30において、入力軸20からの動力はベベルギヤ32を介してデフケース31に伝達され、当該デフケース31が左伝達軸40および右伝達軸50を軸心として回動する。デフケース31が回動すると、デフピニオン軸33を介して一対のデフピニオンギヤ34・34も左伝達軸40および右伝達軸50を軸心として回動する。
【0033】
この際、デフピニオンギヤ34・34とともにデフサイドギヤ35・35も左伝達軸40および右伝達軸50を軸心として回動するが、左伝達軸40に加わる負荷(左の後輪6に加わる負荷)と右伝達軸50に加わる負荷(右の後輪6に加わる負荷)に差が生じている場合、当該差に応じてデフピニオンギヤ34・34がデフピニオン軸33を軸心として回動する。これによって、デフサイドギヤ35・35に回転差が生じ、ひいては左伝達軸40および右伝達軸50に負荷に応じた動力を分配(差動)することができる。
【0034】
次に、デフロック機構60の構成および動作態様について説明する。
【0035】
デフロック機構60は、差動機構30による差動を停止させるものである。デフロック機構60は、デフロックシフタ61、デフロックピン62・62・・・、デフロックシフトフォーク63、デフロック作動軸64、スプリング65、およびスペーサ66等を具備する。
【0036】
デフロックシフタ61は、デフケース31の右端に形成される円筒状の延出部に、右伝達軸50の軸線方向(左右方向)に摺動可能に支持される。デフロックシフタ61には複数のデフロックピン62・62・・・が固定され、当該デフロックピン62・62・・・はデフロックシフタ61の左方に突設される。デフロックピン62・62・・・の左端部はデフケース31の右側面に形成された貫通孔31a・31a・・・に挿通される。
【0037】
デフロックシフトフォーク63は、デフロックシフタ61を左右方向に摺動させるものである。デフロックシフタ61の一端部にはフォーク部63aが形成され、当該フォーク部63aはデフロックシフタ61の外周に係合される。デフロックシフトフォーク63の他端部には略円筒状のカム部63bが形成される。デフロック作動軸64はミッションケース11を左右方向に貫通するように配置され、当該デフロック作動軸64にデフロックシフトフォーク63のカム部63bが摺動可能に支持される。
【0038】
デフロックシフトフォーク63のカム部63bの右端には略V字状のカム溝63cが形成され、デフロック作動軸64にはカム溝63cと係合するようにカムピン64aが固定される。デフロック作動軸64上(詳細には、ミッションケース11内であってデフロックシフトフォーク63のカム部63bの左方)にはスプリング65が配置され、略円筒状のスペーサ66を介してデフロックシフトフォーク63のカム部63bを右方に向かって付勢する。
【0039】
デフロック作動軸64の左端には、デフロックペダル15の一端が固定され、当該デフロックペダル15の他端は運転操作部9まで延設される。
【0040】
このように構成されたデフロック機構60において、デフロックペダル15が踏み込み操作されるとデフロック作動軸64が回動する。デフロック作動軸64が回動すると、当該デフロック作動軸64に固定されたカムピン64aも回動し、当該カムピン64aと係合するカム溝63cを介してデフロックシフトフォーク63を左方に向かって摺動させる。
【0041】
デフロックシフトフォーク63が左方に摺動すると、デフロックシフタ61およびデフロックピン62・62・・・が左方に摺動する。左方に摺動したデフロックピン62・62・・・の左端は、デフサイドギヤ35・35のうち他方の(右側に配置された)デフサイドギヤ35に形成される複数の切欠部35a・35a・・・と係合する。
【0042】
これによって、デフケース31およびデフサイドギヤ35はデフロックピン62・62・・・を介して一体的に回動することになり、差動機構30による差動が停止される。すなわち、左伝達軸40と右伝達軸50とに回転差は生じず、同一回転数で回動することになる。
【0043】
また、デフロックペダル15の踏み込み操作を解除すると、スプリング65の付勢力によりデフロックシフトフォーク63が右方に摺動し、差動機構30による差動が再び可能となる。
【0044】
次に、ブレーキ機構70の構成および動作態様について説明する。
【0045】
図6から図8までに示すブレーキ機構70は、右伝達軸50を制動するものである。ブレーキ機構70は、ブレーキケース71、ブレーキ作動軸72、カムプレート73、ボール74・74・・・、ブレーキディスク75・75、プレート76・76、およびブレーキカバー77等を具備する。
【0046】
ブレーキケース71は、カムプレート73、ボール74、ブレーキディスク75・75、プレート76・76、およびブレーキカバー77等を支持する部材である。ブレーキケース71は、ミッションケース11側(左方)から右リアアクスルケース14Rに固定されることにより、当該右リアアクスルケース14Rと一体的に構成される(図8参照)。これによって、ブレーキケース71(ひいては、ブレーキ機構70)はミッションケース11内の右側に偏って配置されることになる。ブレーキケース71には右伝達軸50が挿通される。これによって、ブレーキケース71(ひいては、ブレーキ機構70)は右伝達軸50上に設けられることになる。
【0047】
ブレーキ作動軸72は右リアアクスルケース14Rおよびブレーキケース71を左右方向に貫通するように配置される。
【0048】
カムプレート73は、ブレーキケース71の左側面に形成された凹部71a内に配置され、当該カムプレート73には右伝達軸50が挿通される。カムプレート73の外周部には、当該カムプレート73の外周方向に突出するような爪部73aが形成され、当該爪部73aは、ブレーキ作動軸72の左端部に形成されたカム部72aと係合される。
【0049】
ブレーキケース71の凹部71aに形成される半球状の凹部であるボール穴71b・71b・・・と、カムプレート73の右側面に形成されるカム溝73b・73b・・・と、の間には、金属のボール74・74・・・がそれぞれ挟持される。カム溝73bは、カムプレート73の周方向に沿って溝の深さが徐々に浅くなるように形成されている。
【0050】
ブレーキディスク75・75およびプレート76・76は、カムプレート73のすぐ左において左右方向に交互に並ぶように配置される。ブレーキディスク75・75およびプレート76・76には右伝達軸50が挿通され、ブレーキディスク75・75のみが当該右伝達軸50とスプライン嵌合される。プレート76・76は、ブレーキケース71の凹部71aに相対回転不能となるように係合される。ブレーキディスク75・75およびプレート76・76の左方からはブレーキカバー77がブレーキケース71に固定され、当該ブレーキカバー77によってカムプレート73、ボール74・74・・・、ブレーキディスク75・75、およびプレート76・76がブレーキケース71の凹部71aに保持される。
【0051】
ブレーキ作動軸72の右端は、後述するブレーキ側アーム111、ブレーキロッド16等を介して運転操作部9に設けられるブレーキペダル(不図示)に連結される。
【0052】
このように構成されたブレーキ機構70において、前記ブレーキペダルが踏み込み操作されるとブレーキ作動軸72が回動する。ブレーキ作動軸72が回動すると、カム部72aおよび爪部73aを介してカムプレート73が右伝達軸50を軸心として回動する。
【0053】
カムプレート73が回動すると、ボール74・74・・・がカム溝73b・73b・・・の深い部分から浅い部分に移動することになり、結果としてカムプレート73がボール74・74・・・によって左方に向かって押圧されることになる。これによって、ブレーキディスク75・75およびプレート76・76がカムプレート73とブレーキカバー77との間に挟まれることになり、ブレーキディスク75・75の回動が制動され、ひいては右伝達軸50の回動が制動される。
【0054】
この制動力(カムプレート73によりブレーキディスク75・75およびプレート76・76を押圧する力)は、ブレーキ作動軸72の回動量に応じて変化するため、前記ブレーキペダルの踏み込み操作量を調節することで当該制動力を任意に調節することができる。
【0055】
上述の如く構成したトランスミッション10において、デフロック機構60によって差動機構30による差動を停止した状態で、ブレーキ機構70により右伝達軸50を制動することにより、右伝達軸50だけでなく左伝達軸40も同時に制動することができる。
【0056】
以下では、ブレーキ機構70の作動操作に連動してブレーキ機構70およびデフロック機構60を作動させるリンク機構100について説明する。
【0057】
リンク機構100は、図2および図9に示すように、概ねミッションケース11の右方に設けられる。リンク機構100は、ブレーキ側リンク110、デフロック側リンク120、およびスプリング130等を具備する。
【0058】
ブレーキ側リンク110は、ブレーキ側アーム111、ブレーキ側受け部112、および連結ピン113等を具備する。
【0059】
図2、図6、および図9から図11までに示すブレーキ側アーム111は、板材を側面視略V字状に形成された部材である。ブレーキ側アーム111のV字底部は、右リアアクスルケース14Rから突出したブレーキ作動軸72の右端部に固定される。ブレーキ側アーム111の一方(後側)の上端部は、前記ブレーキペダルに連結されたブレーキロッド16に連結される。
【0060】
ブレーキ側受け部112は、板材を折り曲げて形成された部材である。ブレーキ側受け部112は、左右一対の対向する側面と当該一対の側面を連結する底面(後面)とを有し、前方に開放した平面視略U字状となるように形成される。前記一対の側面には、その長手方向と同一方向に長い一対の長孔112a・112aがそれぞれ形成される。
【0061】
ブレーキ側アーム111の他方(前側)の上端部には連結ピン113が挿通される。当該連結ピン113は、ブレーキ側アーム111の左右においてブレーキ側受け部112の長孔112a・112aにそれぞれ挿通され、スナップピンにより当該ブレーキ側受け部112から脱落しないように保持される。このように、連結ピン113によってブレーキ側アーム111の他方の上端部とブレーキ側受け部112とが連結される。
【0062】
なお、この連結ピン113およびブレーキ側受け部112に形成された長孔112a・112aによって、逃げ機構140が構成されている。当該逃げ機構140の動作については後述する。
【0063】
デフロック側リンク120は、デフロック側アーム121、デフロック側受け部122、連結ピン123、および座金124・124等を具備する。
【0064】
デフロック側アーム121は、円筒状の部材の外周上部に略矩形板状の部材を固定して形成された部材である。デフロック側アーム121の円筒部は、ミッションケース11から突出したデフロック作動軸64の右端部に固定される。
【0065】
デフロック側受け部122は、本体部122a、ボルト122b、座金122c、および規制ピン122d等を具備する。
【0066】
本体部122aは略直方体状の部材である。ボルト122bは、座金122c、およびブレーキ側受け部112の底面に、この順に挿通され、本体部122aの一つの面に螺挿される。このようにして、ボルト122bはブレーキ側受け部112に摺動可能に連結される。ボルト122bの中途部(ブレーキ側受け部112の底面よりも後側)には、規制ピン122dが挿嵌され、ブレーキ側受け部112が当該規制ピン122dよりも後方へ摺動しないように規制している。
【0067】
デフロック側アーム121の上端部(矩形板部の上端部)には連結ピン123の一端(左端)が挿通される。当該連結ピン123の他端は、デフロック側受け部122の本体部122aに挿通される。本体部122aの左右両側では、当該本体部122aとともに座金124・124が連結ピン123に挿通され、スナップピンにより当該本体部122aおよび座金124・124が連結ピン123から脱落しないように保持される。
【0068】
弾性部材としてのスプリング130は圧縮コイルばねであり、ボルト122bに挿通された状態で、ブレーキ側受け部112の底面とデフロック側受け部122の座金122cとの間に配置される。このようにして、スプリング130はブレーキ側受け部112の底面とデフロック側受け部122の座金122cとを離間させる方向に付勢している。
【0069】
以下では、運転操作部9のブレーキペダルが踏み込み操作された場合のリンク機構100の動作態様について説明する。
【0070】
運転操作部9のブレーキペダルが踏み込み操作され、ブレーキロッド16(図2参照)が概ね前方に向かって引っ張られると、ブレーキ側アーム111は側面視時計回りに回動する(図12参照)。この際、ブレーキ側アーム111とともにブレーキ作動軸72も回動するため、ブレーキ機構70によって右伝達軸50が制動される(図7参照)。
【0071】
またブレーキ側アーム111が回動すると、連結ピン113を介してブレーキ側受け部112が概ね前方に引っ張られる(図12参照)。
【0072】
ここで、図4に示す前述のデフロック機構60において、デフロックピン62・62・・・の位置がデフサイドギヤ35の切欠部35a・35a・・・の位置とずれている場合、デフロックピン62・62・・・の左端がデフサイドギヤ35の右端面に当接し、当該デフロックピン62・62・・・を切欠部35a・35a・・・に係合させることができないため、デフロックシフタ61を左方に摺動させることができない。すなわち、デフロック作動軸64を回動させることができない(図6参照)。
【0073】
この場合、デフロック作動軸64と連結されたデフロック側アーム121も回動することができないため、ブレーキ側受け部112が前方に引っ張られてもデフロック側受け部122は前方に移動せず、スプリング130がブレーキ側受け部112とデフロック側受け部122の座金122cとの間で圧縮されることになる(図12参照)。この状態においては、スプリング130はブレーキ側受け部112の前方への移動量(ひいては、ブレーキ側アーム111の回動量)に応じた力でデフロック側受け部122の座金122cを前方に向かって付勢することになり、ひいてはデフロック側アーム121を側面視時計回りに付勢することになる。
【0074】
ブレーキ側受け部112が前方に引っ張られた状態で、デフロックピン62・62・・・の位置とデフサイドギヤ35の切欠部35a・35a・・・の位置とが一致した場合、デフロックシフタ61を左方に摺動させることができるようになり、ひいてはデフロック作動軸64を回動させることができるようになる(図4および図6参照)。
【0075】
この場合、スプリング130の付勢力により、デフロック側受け部122の座金122cが概ね前方に向かって付勢されているため、デフロック側受け部122がブレーキ側受け部112に対して前方に摺動することになる(図13参照)。デフロック側受け部122が前方に摺動すると、連結ピン123を介してデフロック側アーム121が側面視時計回りに回動される。この際、デフロック側アーム121とともにデフロック作動軸64も回動するため、デフロック機構60によって差動機構30の差動が停止される。
【0076】
なお、このようにリンク機構100のスプリング130の付勢力によって、デフロック機構60のスプリング65の付勢力に抗してデフロック作動軸64が回動できるように、スプリング130およびスプリング65のばね定数は決定されている。
【0077】
このように、前記ブレーキペダルを踏み込み操作することでブレーキ機構70を作動操作することにより、当該操作に連動してブレーキ機構70とともにデフロック機構60を作動させることができる。
【0078】
また、スプリング130の伸縮によってブレーキ側アーム111とデフロック側アーム121との回動動作に差をつけることができるため、デフロックピン62・62・・・の位置によってデフロック機構60がすぐに作動しない状態であっても、まずブレーキ機構70を作動させることができ、その後に適宜デフロック機構60を作動させることができる。
【0079】
以下では、デフロックペダル15が踏み込み操作された場合のリンク機構100の動作態様について説明する。
【0080】
デフロックペダル15が下方に踏み込み操作されると、デフロック作動軸64が側面視時計回りに回動し、デフロック機構60が作動する(図5および図14参照)。
【0081】
この場合、デフロック作動軸64と連結されたデフロック側アーム121も側面視時計回りに回動することになり、当該デフロック側アーム121に連結されたデフロック側受け部122は概ね前方に向かって押される(図14参照)。
【0082】
デフロック側受け部122が前方に押されると、規制ピン122dを介してブレーキ側受け部112も概ね前方に向かって押される。
【0083】
ここで、ブレーキ側受け部112とブレーキ側アーム111とは、長孔112a・112aに挿通された連結ピン113を介して連結されている。このため、ブレーキ側受け部112が前方に向かって押されても、連結ピン113が長孔112a・112a内を前端から後端に向かって移動するだけで、ブレーキ側アーム111が回動することはない。すなわち、ブレーキ作動軸72が回動することはなく、ブレーキ機構70は作動しない。
【0084】
このように、デフロックペダル15が踏み込み操作された場合、デフロック機構60は作動するが、逃げ機構140(連結ピン113および長孔112a・112a)によってブレーキ機構70は作動することがない。したがって、デフロックペダル15を踏み込むことでブレーキ機構70を作動させることなくデフロック機構60だけを作動させることができる。
【0085】
以上の如く、本実施形態に係るトラクタ1のトランスミッション10(動力伝達装置)は、エンジン8(駆動源)から伝達される変速後の動力を、左リアアクスル5Lおよび右リアアクスル5R(左右の車軸)にそれぞれ連動連結される一対の左伝達軸40および右伝達軸50(伝達軸)へとそれぞれ分配する差動機構30と、差動機構30による差動を停止させるデフロック機構60と、右伝達軸50にのみ設けられ、当該右伝達軸50を制動するブレーキ機構70と、を具備するものである。
このように構成することで、デフロック機構60を作動させて差動機構30による差動を停止させた状態で、ブレーキ機構70を作動させることにより、一対の左伝達軸40および右伝達軸50を制動させることができる。また、1つのブレーキ機構70で一対の左伝達軸40および右伝達軸50を制動することができ、トランスミッション10の省スペース化およびコンパクト化を図ることができる。
【0086】
また、差動機構30は、ミッションケース11内の左側に配置され、ブレーキ機構70は、ミッションケース11内の右側に配置されるものである。
このように構成することにより、差動機構30およびブレーキ機構70を、ミッションケース11内の相反する位置にそれぞれ配置することで、ミッションケース11のコンパクト化を図ることができる。
【0087】
また、ブレーキ機構70は、ミッションケース11の右側を閉塞する右リアアクスルケース14R(アクスルケース)に固定されるものである。
このように構成することで、ブレーキ機構70を右リアアクスルケース14Rと一体化させることにより、組み立て時の作業性を向上させることができる。
【0088】
また、トランスミッション10を具備するトラクタ1は、ブレーキ機構70の作動操作に連動してブレーキ機構70およびデフロック機構60を作動させるリンク機構100を具備するものである。
このように構成することによって、ブレーキ機構70を作動させた場合、同時にデフロック機構60を作動させることができ、容易に一対の左伝達軸40および右伝達軸50を制動させることができる。
【0089】
なお、ブレーキ機構70は左伝達軸40に設けることも可能である。
また、ブレーキ機構70をミッションケース11内の左側に配置し、差動機構30をミッションケース11内の右側に配置することも可能である。
また、ブレーキ機構70は左リアアクスルケース14Lに固定することも可能である。
また、本実施形態においては差動機構30により左伝達軸40および右伝達軸50に動力を分配するものとしたが、差動機構30から左リアアクスル5Lおよび右リアアクスル5Rに直接動力を分配することも可能である。この場合、ブレーキ機構70は左リアアクスル5Lまたは右リアアクスル5R上に配置される。
【0090】
以上の如く、本実施形態に係るトラクタ1のリンク機構100は、ブレーキ機構70の作動操作に連動してブレーキ機構70およびデフロック機構60を作動させるトラクタ1のリンク機構100であって、ブレーキ機構70のブレーキ作動軸72(作動軸)に連結されるブレーキ側リンク110と、デフロック機構60のデフロック作動軸64(作動軸)に連結されるデフロック側リンク120と、ブレーキ側リンク110とデフロック側リンク120との間に介在され、ブレーキ側リンク110が作動方向に回動された場合、当該ブレーキ側リンク110の回動量に応じた力でデフロック側リンク120を作動方向に付勢するスプリング130(弾性部材)と、を具備するものである。
このように構成することにより、ブレーキ機構70の作動操作を行った場合、デフロック機構60のデフロック作動軸64が作動方向に回動するまでスプリング130が弾性変形しながらデフロック側リンク120を作動方向に付勢する。これによって、ブレーキ機構70の作動操作とデフロック機構60の作動操作を滑らかに連動させることができる。
【0091】
また、ブレーキ側リンク110は、ブレーキ機構70のブレーキ作動軸72に連結されるブレーキ側アーム111と、ブレーキ側アーム111に回動可能に連結されるブレーキ側受け部112と、を具備し、デフロック側リンク120は、デフロック機構60のデフロック作動軸64に連結されるデフロック側アーム121と、デフロック側アーム121に回動可能に連結されるとともに、ブレーキ側受け部112に摺動可能に支持されるデフロック側受け部122と、を具備し、スプリング130は、ブレーキ側受け部112およびデフロック側受け部122の間に介在されるものである。
【0092】
また、ブレーキ側リンク110は、デフロック機構60の作動操作に対してブレーキ機構70を作動させない逃げ機構140を具備するものである。
このように構成することにより、デフロック機構60が作動操作された場合には、ブレーキ機構70を作動させることなく、デフロック機構60のみを作動させることができる。
【0093】
なお、スプリング130は圧縮コイルばねであるものとしたが、ブレーキ側リンク110が作動方向に回動された場合、当該ブレーキ側リンク110の回動量に応じた力でデフロック側リンク120を作動方向に付勢することができるものであれば、引っ張りコイルばねや、皿ばね、板ばね等であってもよい。
また、逃げ機構140はブレーキ側リンク110の連結ピン113およびブレーキ側受け部112に形成された長孔112a・112aによって構成される、すなわちブレーキ側リンク110に設けられるものとしたが、デフロック側リンク120に設けることも可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 トラクタ
60 デフロック機構
64 デフロック作動軸(作動軸)
70 ブレーキ機構
72 ブレーキ作動軸(作動軸)
100 リンク機構
110 ブレーキ側リンク
111 ブレーキ側アーム
112 ブレーキ側受け部
120 デフロック側リンク
121 デフロック側アーム
122 デフロック側受け部
130 スプリング(弾性部材)
140 逃げ機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ機構の作動操作に連動して前記ブレーキ機構およびデフロック機構を作動させるトラクタのリンク機構であって、
前記ブレーキ機構の作動軸に連結されるブレーキ側リンクと、
前記デフロック機構の作動軸に連結されるデフロック側リンクと、
前記ブレーキ側リンクと前記デフロック側リンクとの間に介在され、前記ブレーキ側リンクが作動方向に回動された場合、当該ブレーキ側リンクの回動量に応じた力で前記デフロック側リンクを作動方向に付勢する弾性部材と、
を具備する、
トラクタのリンク機構。
【請求項2】
前記ブレーキ側リンクは、
前記ブレーキ機構の作動軸に連結されるブレーキ側アームと、
前記ブレーキ側アームに回動可能に連結されるブレーキ側受け部と、
を具備し、
前記デフロック側リンクは、
前記デフロック機構の作動軸に連結されるデフロック側アームと、
前記デフロック側アームに回動可能に連結されるとともに、前記ブレーキ側受け部に摺動可能に支持されるデフロック側受け部と、
を具備し、
前記弾性部材は、
前記ブレーキ側受け部および前記デフロック側受け部の間に介在される、
請求項1に記載のトラクタのリンク機構。
【請求項3】
前記ブレーキ側リンクまたは前記デフロック側リンクは、前記デフロック機構の作動操作に対して前記ブレーキ機構を作動させない逃げ機構を具備する、
請求項1または請求項2に記載のトラクタのリンク機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−116318(P2012−116318A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267467(P2010−267467)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】