説明

トラクタ

【課題】操作性がよいトラクタを提供する。
【解決手段】変速操作具は、一つのペダルとなる変速ペダル10で中立位置から最高速位置まで変速操作可能とされ、前後進切替操作具は、前後方向に回動するレバーとなる前後進切替レバー11で前進位置、後進位置及び中立位置に切替操作可能とされ、ベルト式無段変速装置は、該ベルト式無段変速装置に設けられた速度変更手段となるサーボスプール6の操作により前進速から後進速まで変速可能とされ、前記変速ペダル10と、前記前後進切替レバー11と、前記サーボスプール6とが、それぞれ連結手段を介して前後進切替機構20と連動連結され、該前後進切替機構20は、ミッションケース7の外側に配置されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速装置と、該無段変速装置の出力を変速操作可能な変速操作具と、を備えるトラクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジンの動力を、無段変速装置を介して車輪に伝達して走行するトラクタは公知となっている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載のトラクタは、前進変速ペダル及び後進変速ペダルが設けられ、これら前進変速ペダル及び後進変速ペダルが、HST操作リンクを介して、HSTの出力を変更する調節部材と連結されて、前進変速ペダルを操作することで前進走行を行い、後進変速ペダルを操作することで後進走行を行う構成とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−55281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示すトラクタにおいては、前進変速ペダルと後進変速ペダルの二つの変速ペダルを有する構成であるので、前進または後進するときには各ペダルを踏み替える必要があり、トラクタの操作に不慣れな作業者である場合には、乗用車感覚で操作ができず操作に戸惑うことがあった。
【0005】
本発明は、上記の如き課題を鑑みてなされたものであり、操作性がよいトラクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
請求項1においては、運転操作部に設けられて、変速操作可能な変速操作具と、前記運転操作部に設けられ、機体の進行方向を前後に切り替え操作する前後進切替操作具と、ミッションケースに収容される無段変速装置と、を備えるトラクタであって、前記変速操作具は、一つのペダルで中立位置から最高速位置まで変速操作可能とされ、前記前後進切替操作具は、前後方向に回動するレバーで前進位置、後進位置及び中立位置に切替操作可能とされ、前記無段変速装置は、該無段変速装置に設けられた速度変更手段の操作により前進速から後進速まで変速可能とされ、前記変速操作具と、前記前後進切替操作具と、前記無段変速装置の速度変更手段とが、それぞれ連結手段を介して前後進切替機構と連動連結され、該前後進切替機構は、前記ミッションケースの外側に配置されるものである。
【0008】
請求項2においては、前記前後進切替機構は、前記運転操作部及び前記ミッションケースを支持して前後方向に延設される機体フレームの内側面に取り付けられるとともに、前記機体フレームに支持され、一端に前記変速操作具の回動基部が固定される回動軸と、前記回動軸の他端に固定されて前記変速操作具の操作により回動される支持板体と、前記支持板体に回動自在に支持され、一端が第一連結部材を介して前記前後進切替操作具と連結され、他端が第二連結手段を介して前記無段変速装置の速度変更手段と連結される前後進切替アームと、前記前後進切替アーム及び前記支持板体の間に設けられ、前記前後進切替アームを前進位置、後進位置及び中立位置で保持する保持機構と、を備えるものである。
【0009】
請求項3においては、前記保持機構は、前記前後進切替アームの回動軸と反対側の端面に形成される複数の凹部と、該凹部と対向して配置され、前記支持板体に取り付けられて、前記凹部のいずれかと係合する押圧部材と、から構成されるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、一つのペダルと一つのレバーで、変速操作と前後進切替操作が可能となる。従って、乗用車感覚で運転できて、操作性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】トラクタ1の全体構成を示す側面図。
【図2】前後進切替機構20の左前斜視図。
【図3】前後進切替機構20の左後斜視図。
【図4】(a)前後進切替機構20の部品構成を示す側面図。(b)前後進切替機構20の部品構成を示す平面図。
【図5】(a)前後進切替レバー11が「中立位置」で、変速ペダル10が「中立位置」の状態を示す前後進切替機構20の側面図。(b)前後進切替レバー11が「中立位置」で、変速ペダル10が「最高速位置」の状態を示す前後進切替機構20の側面図。
【図6】(a)前後進切替レバー11が「前進位置」で、変速ペダル10が「中立位置」の状態を示す前後進切替機構20の側面図。(b)前後進切替レバー11が「前進位置」で、変速ペダル10が「最高速位置」の状態を示す前後進切替機構20の側面図。
【図7】(a)前後進切替レバー11が「高速前進位置」で、変速ペダル10が「中立位置」の状態を示す前後進切替機構20の側面図。(b)前後進切替レバー11が「高速前進位置」で、変速ペダル10が「最高速位置」の状態を示す前後進切替機構20の側面図。
【図8】(a)前後進切替レバー11が「後進位置」で、変速ペダル10が「中立位置」の状態を示す前後進切替機構20の側面図。(b)前後進切替レバー11が「後進位置」で、変速ペダル10が「最高速位置」の状態を示す前後進切替機構20の側面図。
【図9】ベルト式無段変速装置80の構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、図1を用いて、本発明に係るトラクタの実施の一形態であるトラクタ1の全体構成について説明する。なお、以下の説明において、矢印Fを前方向、矢印Bを後方向、矢印Lを左方向、矢印Rを右方向、矢印Uを上方向、矢印Dを下方向として規定する。
【0013】
図1に示すように、トラクタ1においては、左右一対の機体フレーム2・2が長手方向を前後方向とし左右方向に所定の間隔をとって配置され、その前部でフロントアクスルケースを介して左右一対の前輪3・3に支持されるとともに、その後部でリアアクスルケースを介して左右一対の後輪4・4に支持される。
【0014】
機体フレーム2・2の前部には、エンジン5が載置されて、後部には、無段変速装置を収納するミッションケース7が設けられ、該ミッションケース7の後部両側にリアアクスルケースが設けられる。機体フレーム2・2の前後中途部及び後部には、運転操作部8が配置され、該運転操作部8に、操向ハンドル9や変速ペダル10、前後進切替レバー11等が設けられる。詳しくは、操向ハンドル9のハンドル軸を支持するハンドルコラムの左側から側方に前後進切替レバー11が突出して配置される。変速ペダル10は、機体フレーム2・2の前後中途部上に配置されステップの右側上に配置される。
【0015】
操向ハンドル9は、その回動操作量に応じて左右一対の前輪3・3の操舵角を変更し、トラクタ1を操向できるように構成される。変速ペダル10は、「中立位置」から「最高速位置」まで踏込操作可能に構成され、その操作量に応じてトラクタ1の走行速度を調整することができる。前後進切替レバー11は、前後方向に回動可能に構成されて、「中立位置」から前方向に回動すると作業時等の走行速度として使用する「前進位置」に操作され、さらに前方向に回動すると路上走行等の走行速度として使用する「高速前進位置」に操作される。「中立位置」から後方向に回動すると「後進位置」に操作される。このように前後進切替レバー11の前後方向の操作に応じてトラクタ1の進行方向を切り替えることができる。
【0016】
ミッションケース7の後部には、作業機装着装置12が設けられる。作業機装着装置12は、主としてトップリンク12aと、ロアリンク12b・12bと、リフトロッド12c・12cと、リフトアーム12d・12dと、を備え、リフトロッド12c・12cは、一端がロアリンク12b・12bの前後中途部に回動自在に連結されて、他端が油圧ケースより後方に突出したリフトアーム12d・12dに回動自在に連結される。トップリンク12aおよびロアリンク12b・12bの後端には、図示しないロータリ耕耘装置等の作業機が連結される。
【0017】
そして、エンジン5の動力がミッションケース7内の無段変速装置で変速されたあと、左右一対の前輪3・3および左右一対の後輪4・4に伝達されて回転駆動され、トラクタ1の走行が行われる。さらに、エンジン5の動力がPTO変速装置で変速されたあと、作業機にも伝達可能とされる。
【0018】
以下では、図9を用いて、ミッションケース7に収容される無段変速装置について説明する。
【0019】
本実施形態の無段変速装置は、ベルト式無段変速装置80で構成される。ベルト式無段変速装置80は、変速入力軸81、入力プーリ82、油圧シリンダ83、油圧サーボ機構84、伝達軸85、出力プーリ86、出力部材87、カム機構88、付勢部材89、ベルト90、及び遊星歯車機構91等を具備する。
【0020】
変速入力軸81には、エンジン5の動力が伝達可能とされる。変速入力軸81の中途部には、入力プーリ82が設けられる。入力プーリ82は、変速入力軸81に相対回転不能かつ摺動不能に固定される固定シーブ82a、及び変速入力軸81に相対回転不能かつ摺動可能に支持される可動シーブ82b等を具備する。
【0021】
油圧シリンダ83は、入力プーリ82の可動シーブ82bを前後方向に摺動させ、当該可動シーブ82bと固定シーブ82aとの間の距離を変更するものである。油圧シリンダ83は、可動シーブ82bの前部に設けられる。
【0022】
油圧サーボ機構84は、油圧シリンダ83の動作を制御するものである。油圧サーボ機構84は、フロントケース14、サーボスプール6、及びフィードバックスプール84a等を具備する。
【0023】
フロントケース14内には作動油が流通する油路が適宜形成される。サーボスプール6はフロントケース14内に摺動可能に設けられる。サーボスプール6は、速度変更手段であり、後述する前後進切替機構20を介して変速ペダル10と連動連結されて、変速ペダル10によりサーボスプール6を前後方向に摺動させることで、作動油が流通する油路を切り替えて、作動油を油圧シリンダ83に供給、または油圧シリンダ83から作動油を排出し、油圧シリンダ83の動作を制御することができる。また、サーボスプール6内にはフィードバックスプール84aが摺動可能に設けられる。フィードバックスプール84aの後端は油圧シリンダ83に当接され、当該油圧シリンダ83の動作位置に応じて油路を切り替えることにより、当該油圧シリンダ83に供給される作動油を制御することができる。
【0024】
伝達軸85は、変速入力軸81と平行に配置される。伝達軸85の前端部近傍には、出力プーリ86が設けられる。出力プーリ86は、伝達軸85に相対回転不能かつ摺動不能に固定される固定シーブ86a、および伝達軸85に相対回転不能かつ摺動可能に支持される可動シーブ86b等を具備する。
【0025】
出力部材87は、出力プーリ86の後方において伝達軸85により挿通された状態で配置される。出力プーリ86と出力部材87との間には、互いに対向する前後一対のカム部材からなるカム機構88が設けられる。出力プーリ86の可動シーブ86bおよび出力部材87には、カム機構88のカム部材がそれぞれ固定される。また、可動シーブ86bと出力部材87との間には付勢部材89が配置され、当該付勢部材89の付勢力により可動シーブ86bは前方に付勢される。
【0026】
入力プーリ82と出力プーリ86との間には、ベルト90が巻回される。当該ベルト90を介して、入力プーリ82と出力プーリ86との間で動力が伝達される。
【0027】
出力部材87の後方には、遊星歯車機構91が設けられる。また、遊星歯車機構91は、出力部材87、変速入力ギヤ81a、および出力軸92と連結される。そして、出力部材87からの動力と変速入力ギヤ81aからの動力とは一旦合成され、その後、出力軸92へと出力される。
【0028】
このように構成されたベルト式無段変速装置80において、変速入力軸81の動力は入力プーリ82およびベルト90を介して出力プーリ86に伝達される。出力プーリ86に伝達された動力は、カム機構88および出力部材87を介して遊星歯車機構91に伝達される。また、変速入力軸81の動力は、変速入力ギヤ81aからも遊星歯車機構91に伝達される。遊星歯車機構91に伝達された上記2つの動力は、当該遊星歯車機構91において合成された後、出力軸92へと伝達される。出力軸92に伝達された動力は、リアアクスルケースを介して後輪4・4へと伝達される。また、出力軸92に伝達された動力は、前輪駆動伝達軸93からフロントアクスルケース介して前輪4・4へと伝達される。
【0029】
また、油圧サーボ機構84のサーボスプール6を前後方向に摺動させて、油圧シリンダ83の動作を制御することにより、入力プーリ82の幅(固定シーブ82aと可動シーブ82bとの間の距離)を変更することができる。これによって、入力プーリ82から出力プーリ86に動力が伝達される際の変速比を任意に変更することができ、ひいては出力軸92及び前輪駆動伝達軸93に伝達される動力を任意に変更(変速)することができる。このようにして、トラクタ1が前進速から後進速まで無段階で変速可能とされる。
【0030】
なお、本実施形態の無段変速装置は、ベルト式無段変速装置80とされるが、HST(油圧式無段変速装置)やHMT(油圧機械式無段変速装置)で構成されて、これらHSTやHMTを構成する油圧ポンプ又は油圧モータの可動斜板の角度を変更することで、トラクタ1を前進速から後進速まで変速する構成とすることも可能である。この場合は、可動斜板と連動連結されて、操作することで可動斜板の角度を変更することができる変速アーム等の部材が、無段変速装置の速度変更手段となる。
【0031】
以下では、本発明の要部となる前後進切替機構20について説明する。
【0032】
図1及び図2に示すように、前後進切替機構20は、変速ペダル10と、無段変速装置の速度変更手段となるサーボスプール6と、の間を連動連結する連結機構の間に設けられる。本実施形態では、前後進切替機構20は、ミッションケース7の前端部の右方であって、右側の機体フレーム2の内側面に取り付けられる。
【0033】
次に、前後進切替機構20の具体的構成を説明する。図2及び図3に示すように、前後進切替機構20は、回動軸21と、支持板体22と、前後進切替アーム23と、保持機構40と、を備え、複数のボルトで取付板24を介して、右側の機体フレーム2の内側面に取り付けられる。つまり、取付板24を機体フレーム2に対して着脱可能に構成して、前後進切替機構20をユニットとして機体フレーム2に容易に組み付け可能としている。
【0034】
図1、図3及び図4(b)に示すように、回動軸21の左右中途部は、取付板24に固定された支持ボス51に左右水平方向に回動自在に支持されて、回動軸21の一端(右端)は機体フレーム2よりも外方向に突出されて変速ペダル10の回動基部10aが固定される。回動軸21の他端は、機体フレーム2の内方向に突出されて支持板体22が固定される。
【0035】
支持板体22は、側面視略台形状に形成され、平面視略L字状に折り曲げ形成されて、前板部22aと側板部22bを備え、変速ペダル10とともに回動するように構成される。つまり、支持板体22の側板部22bの前後中途部の下部に軸孔が開口されて、前記回動軸21の他端(左端)が前記軸孔に挿入固定される。こうして、変速ペダル10を踏込み操作すると、支持板体22が回動軸21を中心に左側面視で反時計方向に回動される。
【0036】
図3及び図4(a)に示すように、支持板体22の側板部22bの後部には、前記回動軸21を中心とした円弧状の長孔22cが穿設されている。該長孔22cには、前記取付板24の内側面より突設した掛止ピン25が挿通される。該掛止ピン25には、付勢部材26の一端(後端)が掛止される。また、図2に示すように、前記前板部22aの上下中途部には掛止孔22d・22dが開口され、該掛止孔22d・22dに付勢部材26の他端(前端)が掛止される。
【0037】
こうして、支持板体22は、付勢部材26によって図4(a)の時計方向に回動するように付勢される。なお、支持板体22は前記長孔22cの範囲で回動可能とされる。つまり、変速ペダル10を踏込み操作しない状態では、支持板体22の長孔22cの上端に掛止ピン25が当接し、変速ペダル10を最大踏込み操作すると長孔22cの下端に掛止ピン25が当接し、長孔22cはストッパの役目を果たしている。
【0038】
図3に示すように、前記支持板体22の側板部22bの前後中途部の上部には、掛止孔を開口して掛止部22dが形成され、その前方の機体フレーム2には掛止ステー52が取り付けられて、該掛止ステー52と掛止部22dの間にダンパー27が取り付けられる。つまり、ダンパー27の前端は掛止ステー52に回動自在に掛止され、ダンパー27の後部が支持板体22の上部の掛止部22dに掛止される構成としている。
【0039】
こうして、変速ペダル10を急に踏み込んでも支持板体22は、ダンパー27により回動速度が規制されて、サーボスプール6を急激に操作することがなく、急発進することを防止している。また、変速ペダル10を踏込み操作した位置から急に足を離しても、付勢部材26の付勢力により支持板体22は前記と逆方向に回動しようとするが、ダンパー27により回動速度が規制(緩衝)されて、急減速することがないようにしている。
【0040】
前記支持板体22の前板部22aの上部には、切欠22eが形成され、後述するアウタワイヤ30bの一端を取付可能としている。前板部22aの下部には取付孔22fが開口され、後述する保持機構40を取付可能としている。
前記側板部22bの後部には支持孔を開口して第一軸部材29の一端を挿通固定し、第一軸部材29の他側に後述する前後進切替アーム23の中途部を回動自在に支持している。
【0041】
図3及び図4(a)に示すように、前記前後進切替アーム23は、側面視略L字状の平板材で構成され、前記支持板体22の左側方(機体フレーム2の内側方)に配置され、前後進切替レバー11と連結されて、前後進切替レバー11の回動操作により回動される。
前後進切替アーム23は、中途部の屈曲部23aから上方へ延設される縦アーム部23bと、屈曲部23aから前方に延設される横アーム部23cとで形成される。図4(b)に示すように、屈曲部23aには、支持孔23dが開口され、前記第一軸部材29の他端に挿入されて回動自在に支持される。なお、前後進切替アーム23は前後進切替操作時に前記付勢部材26が緩衝しないように、平面視で略クランク状に折り曲げられるとともに、前後進切替アーム23と支持板体22との間にスペーサ28が介設される。
【0042】
図3に示すように、前後進切替アーム23の縦アーム部23bの先端23eには、第一連結部材30のインナワイヤ30aの一端が連結され、インナワイヤ30aの他端は前後進切替レバー11と連結される。第一連結部材30は、インナワイヤ30aとアウタワイヤ30bから構成され、アウタワイヤ30bの一端が前記支持板体22の切欠22eに固定され、他端がハンドルコラム等に固定される。アウタワイヤ30b内にインナワイヤ30aが摺動自在に挿入されている。こうして、前後進切替レバー11による前後操作に応じて、インナワイヤ30aが押し引きされて、前後進切替アーム23が、図6(a)に示す矢印β1又は図8(a)に示す矢印β2方向に第一軸部材29を中心に回動するように構成される。
【0043】
前後進切替アーム23の横アーム部23cの先端23fには、連結部と保持部が形成される。連結部には、リンク等により構成した第二連結部材32の一端32aが第二軸部材33を介して回動自在に枢結される。第二連結部材32の他端32bは、速度変更手段と連結される。詳細には、前後進切替アーム23の横アーム部23cの連結部には軸孔が形成されて、該軸孔に第二軸部材33の一端が挿嵌固定されて、第二軸部材33他側に第二連結部材32の一端が回転自在に支持される。該第二軸部材33は前後進切替アーム23が中立位置の状態で前記回動軸21と同一軸心上に配置される。また、前記第二連結部材32の他端32b(後端)には、第三軸部材34が挿嵌されている。なお、第二連結部材32は長さ調節可能としている。
【0044】
第三軸部材34は、無段変速装置の速度変更手段となるサーボスプール6に連結されている。本実施形態では、ミッションケース7に収納された無段変速装置を変速するサーボバルブが、ミッションケース7の前部に設けられ、ミッションケース7の前端よりサーボスプール6が前方に突出して配設される。棒状に構成した該サーボスプール6の前端外周部には係合溝6aがリング状に形成されて、該係合溝6aに第三軸部材34の先端が挿入されて係合されている。
【0045】
そして、第三軸部材34の中途部は、速度変速アーム13の先端(下部)の係合孔に回動自在に挿入されて支持されている。速度変速アーム13の上部は、図2に示すように、ミッションケース7から突出するフロントケース14に設けた支持軸13aに回動自在に支持されている。該支持軸13aには、捩じりバネで構成した中立付勢バネ15の基部が嵌合され、該中立付勢バネ15より突出した二つの先端部は平行に下方に突出され、二つの先端部の間に速度変速アーム13より突出した規制ピン13bと、フロントケース14より突出した規制ピン14aを挿入して、速度変速アーム13を中立に付勢するように構成している。ただし、速度変速アーム13を中立に付勢する構成は限定するものではない。
【0046】
保持機構40は、支持板体22と前後進切替アーム23との位置関係を保持するものである。つまり、前後進切替レバー11の回動操作により前後進切替アーム23が前記支持板体22に対して回動された時の位置を保持するものである。具体的には、前後進切替アーム23の切替位置となる「高速前進位置」、「前進位置」、「中立位置」及び「後進位置」に保持するものである。
【0047】
図3及び図4(a)に示すように、保持機構40は、前記前後進切替アーム23の前端と前記支持板体22との間に設けられ、前後進切替アーム23の保持部に形成される複数(本実施形態では4箇所)の凹部41a・41b・41c・41dと、支持板体22に設けられる押圧部材42と、から構成される。
【0048】
複数の凹部41a・41b・41c・41dは、前後進切替アーム23の横アーム部23cの前端面に形成される。詳細には、前後進切替アーム23の横アーム部23cの前端部は、先端に近づくにつれて上下方向に拡大されて、側面視において第一軸部材29を中心とした略円弧状の辺に形成され、その前側の面(支持板体22の前面と対向する面)に、上下方向に所定間隔をあけて、高速前進位置凹部41a、前進位置凹部41b、中立位置凹部41c、後進位置凹部41dが形成され、上下両端に凸部41e・41eを形成している。本実施形態では、中立位置凹部41cを中立位置とし、上側に前進位置凹部41bが配置されて、該前進位置凹部41bより上側に高速前進位置凹部41aが配置されて、中立位置凹部41cより下側に後進位置凹部41dが配置される。そして、前後進切替レバー11を中立位置に切替操作した状態において、側面視において第一軸部材29と第二軸部材33とを結ぶ線の延長上に中立位置凹部41cと押圧部材42の軸心が配置されるように構成している。
【0049】
押圧部材42は、凹部41a・41b・41c・41dのいずれかと係合可能とし、凸部41e・41eによりそれ以上上下方向に回動しないように規制されている。つまり、凸部41e・41eはストッパーとして形成されている。
押圧部材42は、支持板体22の前板部22aに取り付けられ、前記前後進切替アーム23の複数の凹部41a・41b・41c・41dと対向する位置に設けられる。
押圧部材42は、支持板体22の前板部22aの後面に後方に突出するように固定される円筒体42aと、該円筒体42aに内装されて前記複数の凹部41a・41b・41c・41dと係合する凸体42bと、円筒体42a内に収納されて凸体42bを後方に突出するように付勢する不図示の付勢部材と、該付勢部材の付勢力を調節するボルトナット42cと、で構成される。
【0050】
図5(a)は、前後進切替レバー11が「中立位置」に操作された時の前後進切替機構20の態様を示している。すなわち、前後進切替レバー11が「中立位置」に操作された状態では、支持板体22に設けられた保持機構40の凸体42bが、前後進切替アーム23の他端に設けられた中立位置凹部41cと係合している。この際、第二軸部材33と変速ペダル10の回動軸21とは同軸上に位置している。
【0051】
この状態から、変速ペダル10が踏込操作すると、図5(b)に示すように、支持板体22と前後進切替アーム23とが矢印α1の方向に一体的に回動することとなり、変速ペダル10の踏み込みにより回動軸21、及び、該回動軸21に固定した支持板体22もこの回動軸21を中心として回動する。この際、第二軸部材33と変速ペダル10の回動軸21とは同軸上に位置し、第二連結部材32の一端32a(前側)は、第二軸部材33に対して回動自在に支持されているので、第二連結部材32は変速ペダル10が踏込操作に対して移動することはない。つまり、サーボスプール6は、変速ペダル10の踏込操作に関わらず前後方向に摺動しない。なお、変速ペダル10の踏込操作により前後進切替アーム23も矢印α1の方向に回動するが、第一連結部材30が撓むだけで、前後進切替レバー11は変化することはない。
【0052】
図6(a)は、前後進切替レバー11が「前進位置」に操作された時の前後進切替機構20の態様を示している。すなわち、前後進切替レバー11が「中立位置」から「前進位置」に操作されると、第一連結部材30のインナワイヤ30aが引っ張られ、前後進切替アーム23が第一軸部材29を中心に矢印β1の方向に回動する。そして、この前後進切替アーム23の回動により、支持板体22に設けられた保持機構40の凸体42bが、中立位置凹部41cから前進位置凹部41bと係合される。この時、第二軸部材33は、側面視において変速ペダル10の回動軸21の前下方に位置することとなる。
【0053】
この状態から、変速ペダル10を踏込操作すると、図6(b)に示すように、変速ペダル10の回動軸21と支持板体22とが一体的に回動し、前後進切替アーム23も回動軸21を中心として支持板体22とともに矢印α1の方向に回動する。この際、第二軸部材33が、変速ペダル10の回動軸21より前下方に位置しているので、第二軸部材33は、回動軸21を中心に後側に向けて回動する。この回動により第二連結部材32は後側に移動する。すなわち、第二連結部材32の他端32b(後端)に挿嵌された第三軸部材34が、速度変速アーム13の支持軸13aを中心に矢印γ1の方向へ回動され、同時に、サーボスプール6が後方に摺動する(図2参照)。このサーボスプール6が後方に向けて摺動することにより、無段変速装置が前進側に変速されて、トラクタ1は、その変速ペダル10の操作量に応じて前進走行を行う。
【0054】
前後進切替レバー11を前記「前進位置」から更に前方へ回動すると、前後進切替機構20は図7に示す「高速前進位置」となる。この「高速前進位置」では、前後進切替アーム23が第一軸部材29を中心に更に矢印β1の方向に回動され、保持機構40の凸体42bは高速前進位置凹部41aと係合する。こうして、変速ペダル10の操作により前記と同様にサーボスプール6を摺動させることが可能となる。なおこの時、第二軸部材33は、側面視において変速ペダル10の回動軸21の更に前下方に位置することとなる。つまり、第二軸部材33と回動軸21との距離は「前進位置」よりも長くなるため、同じ変速ペダル10の操作量であってもサーボスプール6を前記よりも大きく摺動させることができ、速く走行することが可能となり、路上走行等での走行が容易となる。
【0055】
図8(a)は、前後進切替レバー11が「後進位置」に操作された時の前後進切替機構20の態様を示している。すなわち、前後進切替レバー11が「中立位置」から「後進位置」に操作されると、第一連結部材30を介して前後進切替アーム23の一端が後側に押されて、前後進切替アーム23が第一軸部材29を中心に矢印β2の方向に回動する。そして、この前後進切替アーム23の回動により、支持板体22に設けられた保持機構40の凸体42bが、中立位置凹部41cから後進位置凹部41dと係合する。この際、第二軸部材33は、変速ペダル10の回動軸21より後上方に位置している。
【0056】
この状態から、変速ペダル10が踏込操作されると、図8(b)に示すように、回動軸21と支持板体22と前後進切替アーム23が一体的に回動され、前後進切替アーム23が矢印α1の方向に回動する。この際、第二軸部材33が、変速ペダル10の回動軸21より後上方に位置しているので、第二軸部材33は、回動軸21を中心に前側に向けて回動する。この回動によって第二連結部材32は、前記前進と逆方向の前方に移動する。すなわち、第二連結部材32の他端32b(後端)に挿嵌された第三軸部材34が、速度変速アーム13の支持軸13aを中心に矢印γ2の方向へ回動され、同時に、サーボスプール6が前方に摺動する(図2参照)。つまり、サーボスプール6の前方への摺動により変速装置は逆方向の後進側に変速され、トラクタ1は、その変速ペダル10の操作量に応じて後進走行を行う。
【0057】
以上のように、本発明の一実施形態に係るトラクタ1においては、運転操作部8に設けられて、変速操作可能な変速操作具と、前記運転操作部8に設けられ、機体の進行方向を前後に切り替え操作する前後進切替操作具と、ミッションケース7に収容されるベルト式無段変速装置80と、を備えるトラクタ1であって、前記変速操作具は、一つのペダルとなる変速ペダル10で中立位置から最高速位置まで変速操作可能とされ、前記前後進切替操作具は、前後方向に回動するレバーとなる前後進切替レバー11で前進位置、後進位置及び中立位置に切替操作可能とされ、前記ベルト式無段変速装置80は、該ベルト式無段変速装置80に設けられた速度変更手段となるサーボスプール6の操作により前進速から後進速まで変速可能とされ、前記変速ペダル10と、前記前後進切替レバー11と、前記無段変速装置のサーボスプール6とが、それぞれ連結手段を介して前後進切替機構20と連動連結され、該前後進切替機構20は、前記ミッションケース7の外側に配置されるものである。これにより、一つのペダルと一つのレバーで、変速操作と前後進切替操作が可能となる。従って、前進ペダルと後進ペダルを踏み替えて操作する必要がなく、乗用車感覚で運転できて、操作性が向上する。また、前後進切替機構20がミッションケース7の外側に配置されるため、メンテナンスが容易に行える。
【0058】
また、前記前後進切替機構20は、前記運転操作部8及び前記ミッションケース7を支持して前後方向に延設される機体フレーム2の内側面に取り付けられるとともに、前記機体フレーム2に支持され、一端に前記変速ペダル10の回動基部10aが固定される回動軸21と、前記回動軸21の他端に固定されて前記変速ペダル10の操作により回動される支持板体22と、前記支持板体22に回動自在に支持され、一端が、第一連結部材30を介して前記前後進切替レバー11と連結され、他端が、第二連結部材32を介して前記無段変速装置のサーボスプール6と連結される前後進切替アーム23と、前記前後進切替アーム23及び前記支持板体22の間に設けられ、前記前後進切替アーム23を前進位置、後進位置及び中立位置で保持する保持機構40と、を備えるものである。これにより、前後進切替機構20を簡易な構造とすることができ、コストを低減できる。
【0059】
また、前記保持機構40は、前記前後進切替アーム23の回動軸となる第一軸部材29と反対側の端面に形成される複数の凹部41a・41b・41c・41dと、該凹部41a・41b・41c・41dと対向して配置され、前記支持板体に取り付けられて、前記凹部のいずれかと係合する押圧部材42と、から構成されるものである。これにより、簡単な構成で、前後進切替アーム23を前進位置、後進位置及び中立位置で保持することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 トラクタ
2 機体フレーム
6 サーボスプール(速度変更手段)
7 ミッションケース
8 運転操作部
10 変速ペダル(変速操作具)
10a 回動基部
11 前後進切替レバー(前後進切替操作具)
20 前後進切替機構
21 回動軸
22 支持板体
23 前後進切替アーム
30 第一連結部材
32 第二連結部材
40 保持機構
80 ベルト式無段変速装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転操作部に設けられて、変速操作可能な変速操作具と、
前記運転操作部に設けられ、機体の進行方向を前後に切り替え操作する前後進切替操作具と、
ミッションケースに収容される無段変速装置と、を備えるトラクタであって、
前記変速操作具は、一つのペダルで中立位置から最高速位置まで変速操作可能とされ、
前記前後進切替操作具は、前後方向に回動するレバーで前進位置、後進位置及び中立位置に切替操作可能とされ、
前記無段変速装置は、該無段変速装置に設けられた速度変更手段の操作により前進速から後進速まで変速可能とされ、
前記変速操作具と、前記前後進切替操作具と、前記無段変速装置の速度変更手段とが、それぞれ連結手段を介して前後進切替機構と連動連結され、該前後進切替機構は、前記ミッションケースの外側に配置されることを特徴とするトラクタ。
【請求項2】
前記前後進切替機構は、前記運転操作部及び前記ミッションケースを支持して前後方向に延設される機体フレームの内側面に取り付けられるとともに、
前記機体フレームに支持され、一端に前記変速操作具の回動基部が固定される回動軸と、
前記回動軸の他端に固定されて前記変速操作具の操作により回動される支持板体と、
前記支持板体に回動自在に支持され、一端が第一連結部材を介して前記前後進切替操作具と連結され、他端が第二連結手段を介して前記無段変速装置の速度変更手段と連結される前後進切替アームと、
前記前後進切替アーム及び前記支持板体の間に設けられ、前記前後進切替アームを前進位置、後進位置及び中立位置で保持する保持機構と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のトラクタ。
【請求項3】
前記保持機構は、
前記前後進切替アームの回動軸と反対側の端面に形成される複数の凹部と、
該凹部と対向して配置され、前記支持板体に取り付けられて、前記凹部のいずれかと係合する押圧部材と、
から構成されることを特徴とする請求項2に記載のトラクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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