説明

トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物

【課題】改善された重油混合性を示すトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】下記の成分を含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物:(a)主要量の、飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含む基油、および(b)少量の、粘度指数が70未満でかつ脂環式炭化水素含量が少なくとも約25質量%の基油。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は総じて、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トランクピストン・エンジンは、様々な種類や品質のディーゼル燃料および重油を用いて作動させられる。これらの燃料は、通常アスファルテンを高濃度で含有し、一般に最も重質で最も極性の強い石油蒸留の留分を含んでいる。アスファルテンは、アルキル側鎖を含む多環芳香族シートからなると考えられている非常に複雑な化合物であり、一般に潤滑油には不溶性である。重油と従来の潤滑油組成物がトランクピストン・エンジンの種々の温度領域で混ざり合うと、黒スラッジ(例えば、アスファルテン堆積物または他の堆積物)や、他のアスファルテン誘導堆積物(例えば、下向き王冠状堆積物)が生成しがちである。黒スラッジ又は堆積物の生成は、潤滑油交換期間そしてトランクピストン・エンジンの維持費に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0003】
今日、世界の種々の地域の産業において、トランクピストン・エンジン油のI種基油をII種基油で置き換えようとする動きがある。II種基油は一般にI種基油よりも芳香族含量が少なく、その結果、I種基油よりむしろII種以上の基油をトランクピストン・エンジン用潤滑油に使用すると、重油(残さ油としても知られている)混合性の減少をもたらす。この重油混合性の減少は、I種基油に比べてII種以上の基油ではアスファルテンの溶解度がずっと低いことによると考えられる。概して重油混合性の減少の問題は、清浄剤含有トランクピストン・エンジン用潤滑油添加剤パッケージの量を増やすことによって、通常は処理されている。
【0004】
特許文献1(「349出願」)には、(a)潤滑粘度の油、(b)少なくとも一種の過塩基性金属清浄剤、および(c)少なくとも一種の置換ジアリール化合物を含有する潤滑油組成物が開示されている。この「349出願」には更に、潤滑油組成物がトランクピストン・ディーゼルエンジン内で、アスファルテン分散性の改善を示すことも開示されている。
【0005】
特許文献2(「387出願」)には、(a)II種基油、および(b)塩基度指数が2未満の中性又は過塩基性金属炭化水素置換ヒドロキシベンゾエート清浄剤を含有する潤滑油組成物が開示されている。この「387出願」には更に、塩基度指数が2未満の中性又は過塩基性金属サリチレート清浄剤が、II種基油のアスファルテン分散性を改善することも開示されている。
【0006】
特許文献3(「114出願」)には、二サイクル舶用ディーゼルエンジン・シリンダ油、二サイクル舶用ディーゼルエンジン・システム油および四サイクル舶用ディーゼルエンジンに使用できる液体潤滑油基油組成物が開示されている。この「114出願」に開示されている潤滑油基油組成物は、(a)飽和炭化水素類を少なくとも95質量%含む基油、および(b)0.2乃至30質量%の芳香族(ブライトストック)抽出物を含有している。ブライトストックは、従来より残さ油又は塔底油から生成して高度に精製および脱ろうされた高粘度の基油である。この「114出願」には更に、II種基油と少量の多環芳香族ブライトストック・エキストラクトとの組合せが、粘度比の改善および酸化及び摩耗性能の改善を示したことも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0039349号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0093387号明細書
【特許文献3】国際公開第2008/102114号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基油を含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物であって、改善された重油混合性を示す潤滑油組成物を開発することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の態様によれば、下記の成分を含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物が提供される:(a)主要量の、飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基油、および(b)少量の、粘度指数(VI)が70未満でかつ脂環式炭化水素含量が少なくとも約25質量%の基油。
【0010】
本発明の第二の態様によれば、下記の成分を含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物が提供される:(a)主要量の、飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基油、および(b)少量の、VIが70未満でかつ脂環式炭化水素含量が少なくとも約25質量%の基油、ただし、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物は、I種基油を実質的に含まない。
【0011】
本発明の第三の態様によれば、飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基油を主要量で含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の重油混合性を改善する方法であって、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物に、VIが70未満でかつ脂環式炭化水素含量が少なくとも約25質量%の基油を少量添加することを含む方法が提供される。
【0012】
本発明の第四の態様によれば、トランクピストン・エンジンを作動させる方法であって、(a)主要量の、飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基油、および(b)少量の、VIが70未満でかつ脂環式炭化水素含量が少なくとも約25質量%の基油を含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物を用いて、トランクピストン・エンジンを潤滑にすることを含む方法が提供される。
【0013】
本発明の第五の態様によれば、飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基油を主要量で含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の重油混合性を改善する目的での、VIが70未満でかつ脂環式炭化水素含量が少なくとも約25質量%の基油の使用方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基油を主要量で含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物に、VIが70未満でかつ脂環式炭化水素含量が少なくとも約25質量%の基油を添加することによって、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の重油混合性が改善される。また、本発明のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物は、飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基油しか含まないトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物よりも、黒スラッジ生成が少なくなる。さらに、本発明のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物は、飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基油とブライトストックの組合せを含む本発明のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物よりも、黒スラッジ生成の低減および改善された耐酸化性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、(a)主要量の、飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基油、および(b)少量の、VIが70未満でかつ脂環式炭化水素含量が少なくとも約25質量%の基油を含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物に関する。飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基油は、通常は主要量で存在し、例えば組成物の全質量に基づき50質量%よりも多い量、好ましくは約70質量%よりも多い量、より好ましくは約80乃至約99.5質量%、そして最も好ましくは約85乃至約98質量%の量で存在する。
【0016】
飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基油は、一種以上のII種基油、および/または一種以上のIII種基油、および/またはフィッシャー・トロプシュ法で合成したろう質のパラフィン系炭化水素物質から誘導された基油を含有していてもよい。II種基油および/またはIII種基油は、API公報1509、第14版、補遺I、1998年12月で規定された、任意の石油から誘導された潤滑粘度の基油であってよい。APIガイドラインは基油を、各種の異なる方法を用いて製造することができる潤滑油成分として規定している。II種基油は一般に、全硫黄分が(ASTM D2622、ASTM D4294、ASTM D4297又はASTM D3120で決定して)百万分の300部(ppm)以下、飽和含量が(ASTM D2007で決定して)90質量%以上、かつ粘度指数(VI)が(ASTM D2270で決定して)80から120の間である石油誘導潤滑油基油を意味する。III種基油は一般に、硫黄分が300ppm未満、飽和含量が90質量%より多く、かつVIが120以上である。ある態様では基油は、少なくとも約95質量%の飽和炭化水素類を含有している。別の態様では基油は、少なくとも約99質量%の飽和炭化水素類を含有している。ある好ましい態様では、少なくとも90質量%の飽和炭化水素類又は少なくとも約95質量%の飽和炭化水素類又は少なくとも約99質量%の飽和炭化水素類を含有する基油は、一種以上のII種基油である。
【0017】
本発明のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の第二の成分は、VIが70未満、好ましくは約35未満、最も好ましくは約15未満で、かつ脂環式炭化水素含量が少なくとも約25質量%の基油である。「脂環式炭化水素含量」は本明細書で使用するとき、脂環式炭化水素類の量をASTM D2140標準試験に従って、基油の全炭素含量の百分率で表すと理解されたい。脂環式炭化水素は、ナフテン炭素含量が少なくとも約25質量%のナフテン系基油であることが好ましい、ただし、「ナフテン炭素含量」は、ナフテン炭素の量をASTM D2140標準試験に従って、基油の全炭素含量の百分率で規定している。ある態様では基油の脂環式炭化水素含量は、少なくとも約30質量%である。別の態様では基油の脂環式炭化水素含量は、約25乃至約55質量%である。別の態様では基油の脂環式炭化水素含量は、約30乃至約55質量%である。ある好ましい態様では、本発明のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の(b)成分としての基油は、VIが約35未満で、かつ脂環式炭化水素含量が約30乃至約55質量%である。
【0018】
VIが70未満でかつ脂環式炭化水素含量が少なくとも約25質量%の前記基油は、サン・ホアキン・リファイニング・カンパニー(San Joaquin Refining Company, Inc.)のような発売元から市販されたもの、例えばRAFFENE(商標)750L等であってもよいし、あるいは当該分野で知られている任意の方法、例えば米国特許第7179365号明細書によって製造することもできる。
【0019】
VIが70未満でかつ脂環式炭化水素含量が少なくとも約25質量%の基油は、一般に少量で存在し、例えばトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の全質量に基づき約5乃至約45、好ましくは約10乃至約40質量%の範囲の量で存在する。
【0020】
本発明のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の全塩基価(TBN)は、トランクピストン・エンジンに使用するのに適していれば何れのレベルであってもよい。「全塩基価」又は「TBN」は、試料1グラム中のKOHのミリグラムと等価な塩基の量を意味する。従って、TBN数値が高いほど、生成物のアルカリ性が強いこと、よって保有するアルカリ度が大きいことを反映している。トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物のTBNは、任意の好適な方法により、例えばASTM D2896により測定することができる。一般に、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物のTBNは、少なくとも約12、好ましくは約20乃至約60であり、最も好ましいのは約30乃至約50である。
【0021】
本発明のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の粘度は、トランクピストン・エンジンに使用するのに適していれば何れのレベルであってもよい。一般に、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の粘度は、100℃で約5乃至約25センチストークス(cSt)、好ましくは100℃で約10乃至約20cStの範囲にあってよい。トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の粘度は、任意の好適な方法により、例えばASTM D2270により測定することができる。
【0022】
本発明のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物は、当該分野の熟練者に知られている任意のトランクピストン・エンジン用潤滑油製造方法により製造することができる。成分を任意の順序で、任意の方法で添加することができる。成分をブレンド、混合または可溶化するのに適した任意の混合装置または分散装置を用いることができる。ブレンダ、撹拌器、分散機、混合機(例えば、遊星形ミキサおよび二段遊星形ミキサ)、ホモジナイザ(例えば、ガウリン・ホモジナイザまたはラニー・ホモジナイザ)、微粉砕機(例えば、コロイドミル、ボールミルまたはサンドミル)、もしくは当該分野で知られているその他任意の混合又は分散装置を用いて、ブレンド、混合または可溶化を行うことができる。
【0023】
ある態様では本発明のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物は、I種基油を実質的に含まない。「実質的に含まない」とは本明細書で使用するとき、如何なるI種基油であれその量が相対的に僅かであるか、あるいは全く無いこと、例えばトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の全質量に基づき約5質量%未満、好ましくは1質量%未満、最も好ましくは0.1質量%未満の量を意味すると理解されたい。「I種基油」は本明細書で使用するとき、飽和含量が(ASTM D2007で決定して)90質量%未満、および/または全硫黄分が(ASTM D2622、ASTM D4294、ASTM D4297又はASTM D3120で決定して)300ppmより多く、かつ粘度指数(VI)が(ASTM D2270で決定して)80以上120未満である石油誘導潤滑油基油を意味する。
【0024】
ある好ましい態様では、本発明のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物は、主要量のII種基油と少量のブライトストックを含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物に比べて、アスファルテン含有重油などの重油を使用するエンジンのようなエンジン内で、黒スラッジ(または黒スラッジ堆積物)の生成を、少なくとも約5%、好ましくは少なくとも約10%、より好ましくは少なくとも約20%、最も好ましくは少なくとも約30%低減する。
【0025】
本発明のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物は、補助機能を付与するための従来のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物添加剤も含有していてもよく、これら添加剤が分散または溶解したトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物(最終配合物)をもたらす。例えば、酸化防止剤、耐摩耗性添加剤、金属清浄剤などの清浄剤、さび止め添加剤、曇り除去剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、摩擦緩和剤、流動点降下剤、消泡剤、補助溶媒、パッケージ混合剤、腐食防止剤、無灰分散剤、染料、極圧剤等およびそれらの混合物と、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物をブレンドすることができる。様々な添加剤が知られていて市販もされている。これらの添加剤またはこれらに類似した化合物を通常のブレンド手段によって、本発明のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の製造に用いることができる。
【0026】
酸化防止剤の例としては、これらに限定されるものではないが、アミン型、例えば、ジフェニルアミン、フェニル−アルファ−ナフチルアミン、N,N−ジ(アルキルフェニル)アミン類、およびアルキル化フェニレンジアミン類;フェノール系、例えばBHT、立体障害のあるアルキルフェノール類、具体的に2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、および2,6−ジ−tert−ブチル−4−(2−オクチル−3−プロパン酸)フェノール;およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0027】
無灰分散剤の例としては、これらに限定されるものではないが、ポリアルキレンコハク酸無水物;ポリアルキレンコハク酸無水物の窒素非含有誘導体;コハク酸イミド類、カルボン酸アミド類、炭化水素モノアミン類、炭化水素ポリアミン類、マンニッヒ塩基類、ホスホノアミド類およびリンアミド類からなる群より選ばれた塩基性窒素化合物;トリアゾール類、例えばアルキルトリアゾール類、およびベンゾトリアゾール類;アミン、アミド、イミン、イミド、ヒドロキシルおよびカルボキシル等を含む一種以上の付加極性官能基を持つカルボン酸エステルを含有する共重合体、例えば長鎖アルキルアクリレート又はメタクリレート類と上記官能基を持つ単量体との共重合により製造された生成物等;およびそれらの混合物を挙げることができる。これら分散剤の誘導体、例えばホウ酸化コハク酸イミド類などのホウ酸化分散剤も使用することができる。
【0028】
耐摩耗性添加剤の例としては、これらに限定されるものではないが、ジアルキルジチオリン酸亜鉛類、およびジアリールジチオリン酸亜鉛類、例えばボーン、外著、「種々の潤滑メカニズムにおける金属ジアルキル及びジアリールジチオリン酸塩の化学構造と有効性の関係」、ルブリケーション・サイエンス(Lubrication Science)、第4−2号、1992年1月に掲載の論文、例えばp.97−100参照に記載されているもの;アリールリン酸エステル及び亜リン酸エステル類、硫黄含有エステル類、リン硫黄化合物、金属又は無灰ジチオカルバメート類、キサントゲン酸エステル類、アルキルスルフィド類等、およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0029】
清浄剤の例としては、これらに限定されるものではないが、スルホネート清浄剤などの過塩基性又は中性清浄剤、例えばアルキルベンゼンと発煙硫酸から製造されたもの;フェネート類(高過塩基性又は低過塩基性)、高過塩基性フェネートステアレート類、フェノレート類、サリチレート類、ホスホネート類、チオホスホネート類、イオン性界面活性剤等、およびそれらの混合物を挙げることができる。低過塩基性金属スルホネート類は、全塩基価(TBN)が一般に約0乃至約30であり、好ましくは約10乃至約25である。低過塩基性金属スルホネート類および中性金属スルホネート類が、当該分野ではよく知られている。
【0030】
ある好ましい態様では、本発明のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物は、TBNが約10乃至約450の過塩基性アルカリ土類金属炭化水素置換ヒドロキシルベンゾエート清浄剤、例えばTBNが約10乃至約450の過塩基性アルカリ土類金属アルキルヒドロキシベンゾエート清浄剤を一種以上含有している。清浄剤は一般に、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物中に、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の全質量に基づき約1乃至約15質量%の量で存在することができる。
【0031】
さび止め添加剤の例としては、これらに限定されるものではないが、非イオン性ポリオキシアルキレン界面活性剤、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、およびポリエチレングリコールモノオレエート;ステアリン酸及び他の脂肪酸類;ジカルボン酸類;金属石鹸類;脂肪酸アミン塩類;重質スルホン酸の金属塩類;多価アルコールの部分カルボン酸エステル;リン酸エステル類;(短鎖)アルケニルコハク酸類;それらの部分エステル類およびそれらの窒素含有誘導体;合成アルカリールスルホネート類、例えば金属ジノニルナフタレンスルホネート類等;およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0032】
摩擦緩和剤の例としては、これらに限定されるものではないが、アルコキシル化脂肪アミン類;ホウ酸化脂肪エポキシド類;脂肪亜リン酸エステル類、脂肪エポキシド類、脂肪アミン類、ホウ酸化アルコキシル化脂肪アミン類、脂肪酸の金属塩類、脂肪酸アミド類、グリセロールエステル類、ホウ酸化グリセロールエステル類;および米国特許第6372696号明細書に開示されている脂肪イミダゾリン類、その開示内容も参照内容として本明細書の記載とする;C4−C75、好ましくはC6−C24、最も好ましくはC6−C20の脂肪酸エステルと、アンモニアおよびアルカノールアミンからなる群より選ばれた窒素含有化合物との反応生成物から得られた摩擦緩和剤等;およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0033】
消泡剤の例としては、これらに限定されるものではないが、アルキルメタクリレートの重合体;ジメチルシリコーンの重合体等;およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0034】
上記の添加剤の各々は、その使用によって、機能的に有効な量で使用されて潤滑油に所望の特性を付与する。従って、例えば添加剤が摩擦緩和剤であるなら、この摩擦緩和剤の機能的に有効な量は、潤滑油に所望の摩擦緩和特性を付与するのに充分な量であろう。一般にこれら添加剤が使用される場合の各々の濃度は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.001質量%乃至約20質量%の範囲にあり、ある態様では約0.01質量%乃至約10質量%の範囲にある。
【0035】
所望により、トランクピストン・エンジン用潤滑油添加剤は、実質的に不活性で通常は液体の有機希釈剤、例えば鉱油、ナフサ、ベンゼン、トルエンまたはキシレンに、添加剤を加えて添加剤濃縮物とした、添加剤パッケージ又は濃縮物として供してもよい。これら濃縮物は通常、そのような希釈剤を約20質量%乃至約80質量%含んでいる。一般的には、粘度が100℃で約4乃至約8.5cSt、好ましくは100℃で約4乃至約6cStのニュートラル油が希釈剤として使用されるが、合成油、並びに添加剤や完成潤滑油と混合しうる他の有機液体も使用することができる。添加剤パッケージは一般に、上記に言及した一種以上の種々の添加剤を望ましい量及び比率で含有して、必要な量の、少なくとも90質量%の飽和炭化水素類を含有する基油および粘度指数が70未満でかつ脂環式炭化水素含量が少なくとも約25質量%の基油との直接的な配合を容易にする。
【0036】
本発明のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物は、エンジン速度が毎分約200乃至約2000回転(rpm)、例えば約400乃至約1000rpmで、シリンダ当りの制動馬力(BHP)が約50乃至約5000、好ましくは約100乃至約3000、最も好ましくは約100乃至約2000である四サイクル・トランクピストン・エンジンに使用するのに適していると言える。補助発電用途や陸上発電用途で用いられるエンジンにも適している。
【0037】
以下の限定的ではない実施例は、本発明を説明するものである。
【実施例】
【0038】
[実施例1〜2、および比較例A〜C]
トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物を、下記の第1表に示すように製造した。各トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物は、SAE40粘度グレードで、TBNが40mgKOH/gであった。実施例1及び2(本発明の範囲内)のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物は、II種基油とナフテン系基油の組合せで配合したが、一方、比較例A−C(本発明の範囲外)のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物は、次のように配合した:II種基油のみ(比較例A)、およびII種基油とブライトストックの組合せ(比較例B及びC)。下記の第2表に、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物に使用した種々の基油の説明を示す。
【0039】
実施例1及び2および比較例A−Cのトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物について、黒スラッジ堆積物(BSD)試験にて黒スラッジ生成量の試験を行った。BSD試験では、試験油の試料を重油と混ぜ合わせて試験混合物とした。各試験混合物を規定時間、ポンプで熱した試験板にかけた。試験板を冷却してすすいだ後、乾燥して計量した。各試験鋼板の重さを求め、そして試験鋼板に残った堆積物の重さを、試験鋼板の重さの変化として測定して記録した。下記の第1表に、BSD試験の結果を示す。
【0040】
また、実施例1及び2および比較例A−Cのトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物について、圧力示差走査熱量測定(PDSC)試験にて酸化安定性の試験を行った。PDSC試験(ASTM D6186)では、油が自動酸化に負けたときに生じるエネルギーの発熱放出を検出することによって、油の酸化安定性を測定する。試験油を130℃、酸素圧500psiで維持する。自動酸化に達するのに要した時間の長さが、耐酸化性の尺度であり、酸化誘導時間として知られている。下記の第1表に、PDSC試験の結果を示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
データが示すように、II種基油とナフテン系基油の組合せを含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物(実施例1及び2)は、II種基油とブライトストックの組合せを含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物(比較例B及びC)よりも、黒スラッジ堆積物も少なく、酸化安定性にも優れていることを示した。II種基油のみを含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物(比較例A)は、それ以外の潤滑油組成物全てに比べて、著しい量の黒スラッジ堆積物生成を実証した。
【0044】
【表3】

【0045】
本明細書に開示した態様には様々な変更を成しうることを理解されたい。従って、上記の説明は、限定的なものではなくて、単に好ましい態様の例示であると解釈すべきである。例えば、上述した本発明を実施する最良の形態として遂行した機能は、説明のためでしかない。当該分野の熟練者であれば、本発明の範囲及び真意から逸脱することなく、その他の配合や方法を遂行することができよう。また、当該分野の熟練者であれば、本出願に添付した特許請求の範囲の真意及び範囲内で、他の変更を考慮するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分を含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物:
(a)主要量の、飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含む基油、および
(b)相対的に少量の、粘度指数(VI)が70未満でかつ脂環式炭化水素含量が少なくとも25質量%の基油。
【請求項2】
飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含む基油が、II種基油、III種基油、またはフィッシャー・トロプシュ法で合成したろう質のパラフィン系炭化水素物質から誘導された基油のうちの少なくとも一種を含んでいる請求項1に記載のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物。
【請求項3】
飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含む基油がII種基油を含み、そしてVIが70未満でかつ脂環式炭化水素含量が少なくとも25質量%の基油が、VIが70未満でかつナフテン炭素含量が少なくとも25質量%の基油である請求項1に記載のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物。
【請求項4】
I種基油を実質的に含まない請求項1乃至3のいずれか1項に記載のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物。
【請求項5】
VIが70未満でかつ脂環式炭化水素含量が少なくとも25質量%の基油が、VIが35未満でかつナフテン炭素含量が少なくとも25質量%の基油である請求項1に記載のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物。
【請求項6】
VIが70未満でかつ脂環式炭化水素含量が少なくとも25質量%の基油が、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の全質量に基づき5乃至45質量%である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物。
【請求項7】
さらに、酸化防止剤、耐摩耗性添加剤、清浄剤、さび止め添加剤、曇り除去剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、摩擦緩和剤、流動点降下剤、消泡剤、補助溶媒、パッケージ混合剤、腐食防止剤、無灰分散剤、染料、極圧剤およびそれらの混合物からなる群より選ばれた一種以上のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物添加剤を含んでいる請求項1乃至6のいずれか1項に記載のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物。
【請求項8】
さらに、全塩基価(TBN)が10乃至450の過塩基性アルカリ土類金属アルキルヒドロキシベンゾエート清浄剤を含む請求項1乃至7のいずれか1項に記載のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物。
【請求項9】
飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含有する基油を主要量で含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の重油混合性を改善する方法であって、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物に、VIが70未満でかつ脂環式炭化水素含量が少なくとも25質量%の基油を少量添加することを含む方法。
【請求項10】
飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含む基油が、II種基油、III種基油、またはフィッシャー・トロプシュ法で合成したろう質のパラフィン系炭化水素物質から誘導された基油のうちの少なくとも一種を含んでいる請求項9に記載の方法。
【請求項11】
飽和炭化水素類を少なくとも90質量%含む基油がII種基油を含み、そして、VIが70未満でかつ脂環式炭化水素含量が少なくとも25質量%の基油が、VIが35未満でかつナフテン炭素含量が少なくとも25質量%の基油である請求項9に記載の方法。
【請求項12】
I種基油を実質的に含まない請求項9乃至11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
VIが70未満でかつ脂環式炭化水素含量が少なくとも25質量%の基油が、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の全質量に基づき5乃至45質量%である請求項9乃至12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物が更に、酸化防止剤、耐摩耗性添加剤、清浄剤、さび止め添加剤、曇り除去剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、摩擦緩和剤、流動点降下剤、消泡剤、補助溶媒、パッケージ混合剤、腐食防止剤、無灰分散剤、染料、極圧剤およびそれらの混合物からなる群より選ばれた一種以上のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物添加剤を含んでいる請求項9乃至13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
トランクピストン・エンジンを作動させる方法であって、請求項1乃至8のいずれか1項に記載のトランクピストン・エンジン用潤滑油を用いて、トランクピストン・エンジンを潤滑にすることを含む方法。

【公開番号】特開2011−26596(P2011−26596A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166183(P2010−166183)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(501381217)シェブロン・オロナイト・テクノロジー・ビー.ブイ. (11)
【Fターム(参考)】