説明

トランス−1−(6−クロロ−3−フェニルインダン−1−イル)−3,3−ジメチルピペラジン

化合物4-((1R,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-イル)-2,2-ジメチルピペラジンおよびその塩、前記化合物および塩を含む医薬調合物、および統合失調症およびその他の精神病性障害の治療のためを含むその薬学的用途。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランス-1-(6-クロロ-3-フェニルインダン-1-イル)-3,3-ジメチルピペラジンおよびその塩、特に統合失調症または精神病の症状を含むその他の疾患を治療するためを含む薬学的用途に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の対象である化合物(化合物I、トランス-1-((1R,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-イル)-3,3-ジメチルピペラジン)は、一般式(I)
【0003】
【化1】

【0004】
を有する。
【0005】
化合物Iと構造的に関連する化合物、すなわちピペラジン環の2-および/または3-位において置換される3-アリール-1-(1-ピペラジニル)インダンのトランス異性体からなる群が特許文献1;非特許文献1および非特許文献2に記載されている。これらの化合物は、ドーパミン(DA)D1およびD2受容体および5-HT2受容体に対して高い親和性を有することが記載されており、統合失調症を含む中枢神経系における種々の疾患の治療に有用であることが指摘されている。
【0006】
ピペラジンの水素の代わりにメチル基を有する点が異なるのを除いて式(I)の化合物と一致するエナンチオマーが非特許文献1に記載されている。表5、化合物(-)-38参照。この刊行物は、化合物38の(-)-エナンチオマーがインビボではD1およびD2アンタゴニストとして同等であるが、インビトロではいくらかのD1選択性を示す強力なD1/D2アンタゴニストであると結論付けている。前記化合物は、α1アドレナリン受容体に対して高い親和性を有する強力な5-HT2アンタゴニストとして記載されている。
【0007】
前記文献のいずれにも上述の特定のエナンチオマーの形態(化合物I)またはその薬学的用途については開示されていない。式Iのラセミ体の形態であるトランス異性体が、非特許文献1における化合物38の合成における中間体として間接的にのみ開示されているが、化合物Iまたはその対応するラセミ体の薬学的用途については記載されていない。
【0008】
統合失調症の病因はわかっていないが、1960年代初期に考案された統合失調症のドーパミン仮説(非特許文献3)が、この疾患の根底にある生物学的なメカニズムを理解するうえでの理論的な枠組みを提供してきた。簡潔に言うと、ドーパミン仮説では統合失調症は高ドーパミン状態に関連すると示されており、この見解は今日の市場における全ての抗精神病薬がいくらかのドーパミンD2受容体拮抗作用を発揮するという事実(非特許文献4)により支持される。しかし、脳の辺縁域におけるドーパミンD2受容体の拮抗作用が統合失調症の陽性症状の治療において重要な役割を果たしているということが一般的に受け入れられているのに対して、脳の線条体領域におけるD2受容体の遮断は錐体外路系症状(EPS)を引き起こす。特許文献1に記載されているように、統合失調症患者の治療において使用されるいくつかのいわゆる「非定型」抗精神病化合物、特にクロザピンで、ドーパミンD1/D2受容体混合阻害が観察される。中枢α1拮抗作用が抗精神病特性の改善に寄与することが提唱されている(非特許文献5)。
【0009】
さらに、選択的D1アンタゴニストは睡眠障害およびアルコール依存症の治療に関連する(非特許文献6)。ドーパミンは情動障害の病因においても重要な役割を果たしている(非特許文献7)。
【特許文献1】欧州特許(EP)第638 073号明細書
【非特許文献1】Bogeso et al. in J. Med. Chem., 1995, 38, 4380-4392
【非特許文献2】Klaus P. Bogeso in "Drug Hunting, the Medicinal Chemistry of 1-Piperazino-3-phenylindans and Related Compounds", 1998, ISBN 87-88085-10-4I
【非特許文献3】Carlsson, Am. J. Psychiatry 1978, 135, 164-173
【非特許文献4】Seeman Science and Medicine 1995, 2, 28-37
【非特許文献5】Millan et al, JPET, 2000, 292, 38-53
【非特許文献6】D.N.Eder, Current Opinion in Investigational Drugs, 2002 3(2):284-288
【非特許文献7】P. Willner, Brain. Res. Rev. 1983, 6, 211-224, 225-236 and 237-246
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1には、統合失調症患者における陰性症状を含む統合失調症、うつ病、不安、睡眠障害、片頭痛発作および精神遮断薬により誘導される振せん麻痺のような種々の疾患を治療することが提唱されている、5-HT2受容体に対する親和性を有する化合物、特に5-HT2受容体アンタゴニストが記載されている。5-HT2受容体拮抗作用はまた、古典的な精神遮断薬により誘導される錐体外路の副作用の発症を減少することが提唱されている(Balsara et al. Psychopharmacology 1979, 62, 67-69)。
【課題を解決するための手段】
【0011】
<本発明の生成物およびその薬学的用途>
本発明者は、化合物IがドーパミンD1受容体、ドーパミンD2受容体およびアルファ1アドレナリン受容体に対して高い親和性を示すことを見出した。さらに化合物IがドーパミンD1およびD2受容体、およびセロトニン5-HT2a受容体におけるアンタゴニストであることが見出された。化合物Iのこれらの受容体に関する薬理活性は、ピペラジンの水素の代わりにメチル基を有する点で化合物Iと構造的に異なる上述の化合物の薬理作用と類似であることが見出された。
【0012】
本発明者はまた、上述の文献に記載されているいくつかの構造的に関連する化合物、ラセミ体およびエナンチオマーの両方が、CYP2D6(シトクロムP450 2D6)阻害剤であるのに対して、化合物Iはハロペリドールおよびリスペリドンのようなその他の抗精神病薬と比較してもCYP2D6の比較的弱い阻害剤であることを見出した。本発明化合物のラセミ体も、本発明のエナンチオマー、すなわち化合物Iと比較すると、CYP2D6酵素においてより強力であると考えられる。
【0013】
CYP2D6酵素は代謝に重要な肝臓の酵素である。CYP2D6は、通常、薬学的化合物の代謝に関連する哺乳類の酵素であり、この薬剤代謝酵素の阻害は臨床的に重要な薬剤-薬剤相互作用を引き起こし、すなわち2つの薬剤が組み合わせて与えられて、同一の酵素により代謝される場合には、代謝の拮抗により血漿濃度が増加し、従って副作用の可能性が増加する(Lin et al, Pharmacological Rev. 1997, 49, 403-449, Bertz RJ and Granneman GR. Clin Pharmacokinet 1997, 32, 210-258参照)。
【0014】
臨床において使用されている80以上の薬剤(そして特に抗精神病薬)がCYP2D6により代謝されるので(Bertz RJ, Granneman GR. Clin Pharmacokin 1997, 32, 210-58, Rendic S, DiCarlo FJ. Drug Metab Rev 1997, 29, 413-580)、薬剤の共投与によるこの酵素の阻害は、よく知られているCYP2D6阻害剤であるフルオキセチンまたはパロキセチンをイミプラミン、デスイミプラミンまたはノルトリプチリンと組み合わせて併用した場合に、これらの三環式抗うつ薬の心毒性が増加するように(Ereshefsky L. el al. J. Clin. Psychiatry 1996, 57(suppl8), 17-25, Shulman RW Can J Psychiatry, Vol 42, Supplement 1, 4S)、暴露レベルを劇的に増加させ、その結果としての毒性を引き起こし得る。
【0015】
化合物Iが肝臓の酵素CYP2D6に対して低い相互作用を有するという事実は、薬剤-薬剤相互作用の可能性が低く、すなわち、患者が主にCYP2D6酵素により代謝されるその他の薬剤と一緒に本発明の化合物で治療される場合に、薬剤-薬剤相互作用がほとんどないということを意味する。このことは特に、しばしば疾患を抑制するためにその他の薬剤で治療されている統合失調症の患者に非常に有利である。
【0016】
本発明者はまた、化合物Iが「アルファ-クロラロースで麻酔したウサギ」の心電図(ECG)中のQT-間隔において、比較的低い延長効果を有することを見出した。心電図(ECG)における薬剤誘導QT-間隔延長および致命的心不整脈、非持続性多形心室頻拍(TdP)の発生は、再分極を遅延させる抗不整脈[C.L. Raehl, A.K. Patel and M. LeRoy, Clin Pharm 4 (1985), 675-690]、種々の抗ヒスタミン[R.L. Woosley, Annu Rev Pharmacol Toxicol 36(1996), 233-252; Y.G. Yap and A.J. Camm, Clin Exp Allergy 29 Suppl 1 (1999), 15-24]、抗精神病[A.H. Glassman and J.T. Bigger, Am J Psychiatry 158(2001), 1774-1782]、抗菌剤 [B. Darpo, Eur Heart J 3 Suppl K (2001), K70-K80]を含む広い領域の薬剤を用いる治療の間の潜在的なリスクとして認識されるようになった。化合物IがウサギのQT間隔において比較的低い影響を有するという事実は、この化合物が種々の市販の抗精神病薬と比較して、薬剤誘導QT-間隔延長の導入、および致命的心不整脈、非持続性多形心室頻拍(TdP)の発生に対する可能性が低いことを意味する。
【0017】
従って1つの態様において、本発明は、式I
【0018】
【化2】


【0019】
で表される化合物(化合物I)およびその塩に関する。本発明の塩、すなわち式(I)の化合物は、例えば、化合物Iのフマル酸塩またはマレイン酸塩から選択される。
【0020】
化合物Iの特性により、それが特に医薬として有用であることが示唆される。従って本発明はさらに、本発明の化合物Iまたはその塩の医薬調合物に関する。本発明はまた、前記化合物、塩および調合物の、精神病、特に統合失調症または例えば、統合失調症、分裂病様障害、統合失調性感情障害、 妄想障害、短期精神病性障害、共有精神病障害のような精神病の症状に関連するその他の疾患、ならびに精神病の症状を伴って存在するその他の精神病性疾患または障害、例えば双極性障害における躁病を含む中枢神経系における疾患の治療用のような薬学的用途に関する。
【0021】
さらに、本発明化合物の5-HT2拮抗活性により、前記化合物またはその塩が錐体外路系の副作用に関して比較的低いリスクを有することが示唆される。
【0022】
本発明はまた、本発明の化合物Iまたはその塩を、不安障害、うつ病を含む情動障害、睡眠障害、片頭痛、神経遮断薬によって引き起こされる振せん麻痺、コカイン乱用、ニコチン乱用、アルコール乱用およびその他の乱用障害からなる群から選択される疾患を治療するために使用する方法に関する。
【0023】
好ましい実施態様において、本発明は、治療的有効量の本発明化合物Iまたはその塩を投与することを含む、分裂病様障害、統合失調性感情障害、妄想障害、短期精神病性障害、共有精神病障害または双極性障害における躁病を治療する方法に関する。
【0024】
本発明のさらなる実施態様は、治療的有効量の化合物Iまたはその塩を投与することを含む、統合失調症の陽性症状を治療する方法に関する。
【0025】
本発明のもう1つの実施態様は、治療的有効量の化合物Iまたはその塩を投与することを含む、統合失調症の陰性症状を治療する方法に関する。
【0026】
本発明のさらなる実施態様は、治療的有効量の化合物Iまたはその塩を投与することを含む、統合失調症の抑うつ症状を治療する方法に関する。
【0027】
本発明のさらなる態様は、治療的有効量の化合物Iまたはその塩を投与することを含む、躁病および/または双極性障害の維持を治療する方法に関する。
【0028】
本発明のさらなる態様は、治療的有効量の化合物Iまたはその塩を投与することを含む、神経遮断薬によって引き起こされる振せん麻痺を治療する方法に関する。
【0029】
本発明はさらに、治療的有効量の化合物Iまたはその塩を投与することを含む、物質乱用、例えばニコチン、アルコールまたはコカイン乱用を治療する方法に関する。
【0030】
広い態様において、本発明は薬剤として使用するためのトランス-1-(6-クロロ-3-フェニルインダン-1-イル)-3,3-ジメチルピペラジンまたはその塩に関する。
【0031】
従って、本発明はまた、治療的有効量の化合物トランス-1-(6-クロロ-3-フェニルインダン-1-イル)-3,3-ジメチルピペラジンまたはその塩を投与することを含む、精神病の症状、統合失調症(例えば統合失調症の陽性症状、陰性症状および抑うつ症状のうちの1つまたはそれ以上)、分裂病様障害、統合失調性感情障害、 妄想障害、短期精神病性障害、共有精神病障害、および双極性障害における躁病、不安障害、うつ病を含む情動障害、睡眠障害、片頭痛、神経遮断薬によって引き起こされる振せん麻痺、および物質乱用、例えばコカイン乱用、ニコチン乱用またはアルコール乱用を含む疾患からなる群から選択される疾患を治療する方法に関する。
【0032】
本明細書において使用される語句「トランス-1-(6-クロロ-3-フェニルインダン-1-イル)-3,3-ジメチルピペラジン」、すなわちエナンチオマーの形態に関する特定の指示(例えば(+)および(-)を用いる、またはR/S表記法を用いる)のない語句は、この化合物のいずれか一方のエナンチオマーの形態、すなわち2つのエナンチオマーのうちのいずれか一方、または2つの混合物、例えばラセミ混合物を意味する。しかし、これに関連して、好ましくは化合物Iの含有量に対応するエナンチオマーの含有量は少なくとも50%、すなわち少なくともラセミ混合物と同様であり、好ましくは化合物Iはエナンチオマー過剰である。
【0033】
薬学的な用途に関連して、化合物Iの式(I)のエナンチオマーの形態を指定した場合には、前記化合物は上述のような比較的に立体化学的に純粋なものであり、好ましくはエナンチオマー過剰率が少なくとも70%、そしてより好ましくは80%(80%のエナンチオマー過剰率は、前記混合物中においてIとそのエナンチオマーの比率が90:10である)、少なくとも90%、少なくとも96%、または好ましくは少なくとも98%であることが理解される。好ましい実施態様において、化合物Iのジアステレオマー過剰率は少なくとも90%(90%のジアステレオマー過剰率は、化合物Iとシス-1-((1S,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-イル)-3,3-ジメチルピペラジンとの比が95:5であることを意味する)、少なくとも95%、少なくとも97%または少なくとも98%である。
【0034】
本発明のさらなる態様は、本明細書に記載されるような治療方法であって、化合物Iまたはその塩で治療される患者が少なくとも1種のその他の薬剤でも治療される、前記治療方法に関する。これに関連して、特に適当な実施態様においては、CYP2D6により代謝されるその他の薬剤で治療される。
【0035】
適当な実施態様において、前記その他の薬剤は抗精神病薬である。従って、1つの実施態様は、その他の薬剤でも治療されており、例えば該その他の薬剤が抗精神病薬である、統合失調症またはその他の精神病を患っている患者を治療するために、本発明の化合物、塩または医薬調合物を使用する方法に関する。
【0036】
もう1つの実施態様において、本発明は、例えばアルコールまたは麻薬の物質乱用者である、統合失調症またはその他の精神病を患っている患者を治療するために、本発明の化合物または塩を使用する方法に関する。
【0037】
本発明の化合物、塩または調合物は適当な方法、例えば経口、口腔内、舌下または非経口で投与することができ、前記化合物または塩は前記投与のために適した形態で、例えば錠剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤または溶剤または注射用の分散剤の形態で存在することができる。1つの実施態様において、本発明の化合物または塩は固体の薬剤、適当には錠剤またはカプセル剤の形態で投与される。
【0038】
固体の医薬調合物の製造方法は当業者に公知である。従って、錠剤は活性成分を通常のアジュバント、充填剤および希釈剤と混合し、引き続き前記混合物を慣用の打錠機において圧縮することにより製造することができる。アジュバント、充填剤および希釈剤の例としては、コーンスターチ、ラクトース、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ゼラチン、ラクトース、増粘剤(gums)等が挙げられる。その他のアジュバント、または着色剤、香料、保存料等のような添加剤も、活性成分と適合することを条件として使用することができる。
【0039】
注射用液剤は、本発明の塩および使用可能な添加物を注射用液剤、好ましくは無菌水の一部に溶解させ、液剤を所望の容積に調節し、該液剤を滅菌して適当なアンプルまたはバイアルに充填することにより製造することができる。等張化剤、 保存料、抗酸化剤、可溶化剤等のような本技術分野において一般的に使用される適当な添加剤を添加することができる。
【0040】
前記式(I)の化合物の1日あたりの用量は、遊離塩基として計算して、適当には1.0〜160 mg/日、より適当には1〜100 mg、例えば好ましくは2〜55 mgである。
【0041】
本明細書において疾患または障害に関連して使用される「治療」という語句には、場合によっては予防も含まれる。
【0042】
<製造方法>
ラセミ体の式(I)の化合物は、特許文献1、および非特許文献1に記載されている方法と同様に製造することができ、それに続くラセミ化合物のジアステレオマー塩の結晶化による光学分割によって式(I)のエナンチオマーが得られる。
【0043】
本発明者は、式(I)のエナンチオマーが、エナンチオマー的に純粋なV、すなわち化合物Va((1S,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オール、下記参照)から開始する合成手順を経て得られる合成経路を開発した。従ってこの方法においては、式Vの中間体が例えばキラルクロマトグラフィーにより、または酵素的に分割され、式Vaのエナンチオマーが得られる。この式(I)の化合物を得るための新しい合成経路は、上述の最終生成物Iのジアステレオマー塩の結晶化よりもさらにいっそう効率的であり、例えば最終生成物の代わりに中間体を分割することにより、次の段階において所望のエナンチオマーのみを使用すると例えば高量の収率および試薬消費の減少が得られるように、より効率的な合成が得られる。
【0044】
従って、式(I)のエナンチオマーは以下の段階:
【0045】
【化3】

【0046】
を含む工程により得ることができる。
【0047】
ベンジルシアニドを、ジメチルエーテル(DME)のような適当な溶剤下において、塩基、適当にはカリウムtert-ブトキシド(t-BuOK)の存在下で2,5-ジクロロベンゾニトリルと反応させ、さらにメチルクロロアセテート(MCA)と反応させることにより、自発的な閉環および式(II)の化合物のワンポット形成が起こる。
【0048】
式(II)の化合物はその後、適当には酢酸、硫酸および水の混合物中で加熱されることにより酸加水分解に付されて式(III)の化合物を形成し、そしてその後、トルエンのような適当な溶剤下で式(III)の化合物をトリエチルアミンまたはN-メチルピロリドン-2-オン(NMP)と加熱することによる脱炭酸反応により、式(IV)の化合物を形成する。
【0049】
【化4】

【0050】
式(IV)の化合物はその後、アルコール、例えばエタノールまたはイソプロパノールのような溶剤下、適当には水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)で、そして好ましくは-30 ℃〜+30 ℃の範囲、例えば30 ℃以下、20 ℃以下、10 ℃以下、または好ましくは5 ℃以下の温度で還元され、シス構造を有する式(V):
【0051】
【化5】

【0052】
の化合物が生成する。
【0053】
式(V)の化合物が分割され、所望のエナンチオマー(式Va)、すなわちシス構造を有する ((1S,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オール):
【0054】
【化6】

【0055】
が得られる。
【0056】
(V)の(Va)への分割は、例えばキラルクロマトグラフィー、好ましくは液体クロマトグラフィーを用いて、適当にはキラルポリマー、例えば修飾されたアミロースで被覆されたシリカゲル、好ましくはシリカゲルにおいてアミロース・トリス-(3,5-ジメチルフェニルカルバメート) が被覆されたキラルカラムにおいて実施される。キラル液体クロマトグラフィーには、例えばアルコール、ニトリル、エーテルまたはアルカン、またはそれらの混合物、適当にはエタノール、メタノール、イソプロパノール、アセトニトリルまたはメチルtert-ブチルエーテルまたはそれらの混合物、好ましくはメタノールまたはアセトニトリルのような適当な溶剤が使用される。キラル液体クロマトグラフィーは適当な技術、例えば擬似移動床技術(SMB)を用いてスケールアップをすることができる。
【0057】
もう1つの方法として、酵素的分割により式(V)の化合物を分割して化合物Vaが得られる。エナンチオマー的に純粋な化合物Vaまたはそのアシル化誘導体が、高い光学純度で化合物Vaまたはそのアシル化誘導体が得られる、ラセミ体化合物Vのヒドロキシル基の酵素的なエナンチオ選択的アシル化により製造することができることが見出された。もう1つの方法として、エナンチオマー的に純粋な化合物Vaは、ラセミ体化合物Vのヒドロキシ位における対応するエステル誘導体、すなわちエステル基への変換、それに続いての酵素的なエナンチオ選択的脱アシル化を含む方法によっても得ることができる。酵素的なエナンチオ選択的脱アシル化を使用する方法は、その他の化合物に関しても報告されている。
【0058】
従って、化合物Vの化合物Vaへの分割は選択的な酵素的アシル化によって実施することができる。選択的な酵素的アシル化は、以下:
【0059】
【化7】

【0060】
に示されるように、酵素的アシル化が式Vの化合物のシス-エナンチオマーの一方の、対応するアシル化誘導体Vbへの変換に対して優先的に効率的であり、式Vの他方のシス-エナンチオマー、例えば化合物Vaが反応混合物中に変換されないまま残ることを意味し、式中、Rは例えばアセテート、プロピオネート、ブチレート、バレレート、ヘキサノエート、ベンゾエート、ラウレート、イソブチレート、2-メチルブチレート、3-メチルブチレート、ピバレート、2-メチルバレレート、3-メチルバレレートまたは4-メチルバレレートを示す。適当な不可逆アシル供与体は、例えばビニル-エステル、2-プロペニル-エステルまたは2,2,2-トリハライド-エチル-エステル(2,2,2-trihalid-ethyl-esters)である。もう1つの方法として、前記他方のエナンチオマーがアセチル化され(例えば、示さないがアセチル化Vaが生成物である)、その後に、アセチル化Vaの単離およびそれに続くエステル基の除去によりアルコールVaを得ることができる。
【0061】
もう1つの方法として、化合物Vの化合物Vaへの分割は選択的な酵素的脱アシル化によって行うことができる。選択的な酵素的脱アシル化は、酵素的脱アシル化が式Vの化合物の一方のエステル(Vc)の変換に対して優先的に効率的であり、式Vの化合物のエステルの他方のシス-エナンチオマー(Vd)が変換されないまま反応混合物中に残ることを意味する。
【0062】
【化8】

【0063】
式(V)の化合物の適当なエステル(Vc)は、アセテート、プロピオネート、ブチレート、バレレート、ヘキサノエート、ベンゾエート、ラウレート、イソブチレート、2-メチルブチレート、3-メチルブチレート、ピバレート、2-メチルバレレート、3-メチルバレレート、4-メチルバレレートのようなエステルであり、式中、R1は例えばアセテート、プロピオネート、ブチレート、バレレート、ヘキサノエート、ベンゾエート、ラウレート、イソブチレート、2-メチルブチレート、3-メチルブチレート、ピバレート、2-メチルバレレート、3-メチルバレレートまたは4-メチルバレレートを示す。あるいは、Vaのエステルは反応混合物中において変換されずに残り(すなわち、示さないがアセチル化Vaが生成物)、その後にアセチル化Vaの単離、それに続く標準的な方法によるエステル基の除去によりアルコールVaを得ることができる。
【0064】
従って、エナンチオ選択的な酵素的アシル化は、酵素的アシル化が式(V)の化合物のエナンチオマーの一方の変換に対して優先的に効率的であり、式(V)の化合物の他方のエナンチオマーを変換しないまま反応混合物中に優先的に残すことを意味する。エナンチオ選択的な酵素的脱アシル化は、酵素的脱アシル化が式(Vc)の化合物のエナンチオマーの一方の変換に対して優先的に効率的であり、式(Vc)の化合物の他方のエナンチオマーを変換しないまま反応混合物中に優先的に残すことを意味する。
【0065】
従って、1つの実施態様は、a)ラセミ体化合物Vを、アシル化剤を用いるエナンチオ選択的な酵素的アシル化に付すこと、またはb)ラセミ体化合物Vcを、脱アシル化化合物Vcの混合物の形成のためにエナンチオ選択的な酵素的脱アシル化に付すことを含む式Vの化合物の (S, S)-または(R, R)-エナンチオマー(すなわちシス構造を持つ)の製造方法に関する。
【0066】
酵素的分割により得られる混合物は完全に純粋ではなく、例えばそれらは多量の所望のエナンチオマー(Va)に加えて少量の他方のエナンチオマーを含む。本発明のアシル化または脱アシル化後に得られる組成物混合物は、使用される特定の加水分解酵素および反応が行われる条件に依存する。本発明の酵素的アシル化/脱アシル化の特徴は、相当大部分の一方のエナンチオマーが他方のエナンチオマーよりも変換されることである。従って本発明のエナンチオ選択的アシル化においては、優先的に式(Vb)の化合物を(R, R)-体で、そして式(Va)の化合物を(S, S)-体で含む混合物が得られるか、または優先的に式(Vb)の化合物を(S, S)-体で、そして式(Va)の化合物を(R, R)-体で含む混合物が得られる。同様に、エナンチオ選択的な酵素的脱アシル化においては、優先的に式(Vd)の化合物を(S, S)-体で、そして式(Va)の化合物を(R, R)-体で含む混合物が得られるか、または優先的に式(Vd)の化合物を(R, R)-体で、そして式(Va)の化合物を(S, S)-体で含む混合物が得られる。本発明の光学分割法により得られるVaの光学純度は、通常少なくとも90% ee.であり、好ましくは少なくとも95% ee.、さらに好ましくは少なくとも97% eeおよび最も好ましくは少なくとも98% eeである。しかし、光学純度に関する低い値は許容される。
【0067】
本発明において、エナンチオ選択的な酵素的アシル化は実質的に加水分解を抑制する条件下で実施される。アシル化反応の逆反応である加水分解は、反応系に水が存在する場合に起こる。従って、エナンチオ選択的な酵素的アシル化は好ましくは水を含まない有機溶剤またはほぼ無水の有機溶剤(通常、酵素は活性であるためにいくらかの水の存在を必要とする)中で実施される。適当な溶剤としては、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼンおよびトルエンのような炭化水素;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、tert-ブチルメチルエーテルおよびジメトキシエタンのようなエーテル;アセトン、ジエチルケトン、ブタノンおよびメチルエチルケトンのようなケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、エチルブチレート、ビニルブチレートおよびエチルベンゾエートのようなエステル;塩化メチレン、クロロホルムおよび1,1,1-トリクロロエタンのようなハロゲン化炭化水素;tert-ブタノールのような第2級および第3級アルコール;ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ホルムアミド、アセトニトリルおよびプロピオニトリルのような窒素含有溶剤;およびジメチルスルホキシド、N-メチルピロリジン-2-オンおよびヘキサメチルホスホン酸トリアミドのような非プロトン性極性溶剤が挙げられる。酵素的アシル化のために好ましい有機溶剤は、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、ジオキサンおよびテトラヒドロフラン(THF)のような有機溶剤である。
【0068】
適当な不可逆アシル供与体は、例えばビニル-エステル、2-プロペニル-エステルまたは2,2,2-トリハライド-エチル-エステル(2,2,2-trihalid-ethyl-esters)である。
【0069】
エナンチオ選択的な酵素的脱アシル化は、好ましくは水、または水および有機溶剤の混合物中、適当な緩衝液の存在下で実施される。適当な有機溶剤は、例えばアルコール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、1,4-ジオキサン、DMEおよびジグライムのような水と混和性の溶剤である。
【0070】
本発明の酵素的アシル化はノボザイム435(カンジダアンタルクチカ(Candida Antarctica)リパーゼB、Novozymes A/S, Fluka製、カタログ番号73940)を用いて実施できることが見出された。通常、本発明の酵素的アシル化または脱アシル化は、好ましくはリパーゼ、エステラーゼ、アシラーゼまたはプロテアーゼを用いて実施される。本発明において有用な酵素は、式(V)のラセミ化合物のヒドロキシ基のR-選択的アシル化またはS-選択的アシル化を実施することができる酵素、または式(Vc)のラセミ化合物のアシル基のR-選択的脱アシル化またはS-選択的脱アシル化を実施することができる酵素である。特にCross-Linked Enzyme Crystal(CLEC)を含む固定化型の酵素が本発明において有用である。好ましい実施態様は、化合物Vの酵素的分割を実施するためのリパーゼの使用に関する。最も好ましいリパーゼは、好ましくは固定化型のカンジダアンタルクチカリパーゼ(Fluka製、カタログ番号62299);シュードモナス・セパシアリパーゼ(Fluka製、カタログ番号62309);ノボザイムCALB L (カンジダアンタルクチカリパーゼB) (Novozymes A/S製);ノボザイム435 (カンジダアンタルクチカリパーゼB) (Novozymes A/S製);またはリポザイムTL IM (サーモマイセス・ラヌギノーサス(Thermomyces lanuginosus)リパーゼ)(Novozymes A/S製)である。
【0071】
式(Va)で表されるシス-アルコールのアルコール基は、適当には、不活性溶媒、例えばエーテル、適当にはテトラヒドロフランにおいて、適当には塩化チオニル、塩化メシルまたは塩化トシルのような試薬と反応させることにより、例えばハロゲン、例えばClまたはBr、好ましくはCl、またはスルホネート、例えばメシレートまたはトシレートのような適当な脱離基に変換される。その結果、LGが脱離基である式(VI):
【0072】
【化9】

【0073】
の化合物が得られる。
【0074】
好ましい実施態様において、LGはClであり、すなわち式(VIa):
【0075】
【化10】

【0076】
で表されるシス-クロリドである。
【0077】
例えばクロロのようなLGを有する化合物VIをその後、例えば炭酸カリウムのような塩基の存在下で、適当な溶剤、例えばメチルイソブチルケトンまたはメチルエチルケトン、好ましくはメチルイソブチルケトンのような例えばケトンにおいて、2,2-ジメチルピペラジンと反応させることにより、化合物Iが得られる。
【0078】
さらに、分子のピペラジン部分は、PGが例えばフェニルメトキシカルボニル(しばしばCbzまたはZと呼ばれる)、tert-ブチルオキシカルボニル(しばしばBOCと呼ばれる)、エトキシカルボニルまたはベンジルであるがそれに制限されないような保護基である化合物VIを以下の式(VII)
【0079】
【化11】

【0080】
で表される化合物と反応させることにより導入することができ、それにより以下の式(VII)
【0081】
【化12】

【0082】
で表される化合物が得られる。化合物VIIIはその後化合物Iに脱保護される。
【0083】
合成の間に、化合物Iのシスジアステレオ異性体(すなわち1-((1S,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-イル)- 3,3-ジメチルピペラジン)が最終生成物の不純物としていくらか生成する。この不純物は主に、化合物VIが生成する段階において、いくらかの(VI)のトランス体(例えば、LG がClの場合に(1S,3R)-3,5-ジクロロ -1-フェニルインダン)が生成することによる。従って前記不純物は、式VIの所望のシス体の、トランスおよびシス(VI)の混合物からの結晶化により最小限にすることができ、化合物VIのLGがClである場合には、これは前記混合物と適当な溶剤、例えばヘプタンのようなアルカンを撹拌することにより行うことができ、それによって所望のVIのシス体が沈殿し、不要な化合物VIのトランス体が溶液中に行く。化合物VIの所望のシス体(例えばLGがClの場合)をろ過により単離し、前記溶剤で洗浄して、乾燥させる。
【0084】
化合物Iのシス体は、式Iの化合物の適当な塩、例えば式(I)の化合物の有機二塩基酸のような有機酸の塩、適当にはフマル酸塩またはマレイン酸塩の沈殿、場合によりそれに続く1回またはそれ以上の再結晶化により除去することができる。
【0085】
さらなる態様における本発明はまた、式(I)の化合物の合成に関して本明細書に記載されているような中間体、すなわち特に中間体Va、および化合物VIaを含むVIに関する。このように、立体異性体の形態を指定する場合には、立体異性体が前記化合物の主要な構成要素であることが理解される。特に、エナンチオマーの形態を指定する場合には、前記化合物はエナンチオマー過剰なエナンチオマーを有する。
【0086】
従って、本発明の1つの実施態様は、好ましくは少なくとも60%(60%エナンチオマー過剰率は、前記混合物中のVaとそのエナンチオマーとの比率が80:20であることを意味する)、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも96%、好ましくは少なくとも98%のエナンチオマー過剰率を有する式(Va)の化合物に関する。さらに、前記化合物のジアステレオマー過剰率は好ましくは少なくとも70%(70%ジアステレオマー過剰率は、前記混合物における化合物Vaと(1R,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オールの比率が85:15であることを意味する)、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%である。1つの実施態様は実質的に純粋な化合物Vaに関する。
【0087】
本発明のさらなる実施態様は、好ましくは少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも96%、好ましくは少なくとも98%のエナンチオマー過剰率を有する式(VI)
【0088】
【化13】

【0089】
,
の化合物であって、LGが潜在的な脱離基であり、好ましくは塩化物のようなハロゲンまたはスルホネートからなる群から選択される、前記化合物に関する。1つの実施態様は、化合物VIのジアステレオマー純度;すなわち好ましくは少なくとも10%(10%のジアステレオマー過剰率は、前記混合物中における化合物VIとトランスジアステレオマー(例えばLG=CLの場合に、(1S,3R)-3,5-ジクロロ-1-フェニルインダン)の比率が55:45であることを意味する)、少なくとも25%または少なくとも50%のジアステレオマー過剰率を有する化合物に関する。1つの実施態様は実質的に純粋な化合物VIに関する。
【0090】
従って、本発明はまた、好ましくは少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも96%、好ましくは少なくとも98%のエナンチオマー過剰率を有する、以下の式(VIa)
【0091】
【化14】

【0092】
を有する化合物に関する。 1つの実施態様は、前記化合物のジアステレオマー純度、すなわち好ましくは少なくとも10%(10%のジアステレオマー過剰率は、前記混合物中における前記化合物とトランスジアステレオ異性体である(1S,3R)-3,5-ジクロロ-1-フェニルインダンとの比率が55:45であることを意味する)、少なくとも25%、または少なくとも50%のジアステレオマー過剰率を有する化合物に関する。1つの実施態様は、LGがClである実質的に純粋な化合物VIに関する。
【0093】
上述のように、特に興味深い実施態様における本発明は、化合物Iが少なくとも60%(60%エナンチオマー過剰率は、前記混合物中の化合物Iとそのエナンチオマーとの比率が80:20であることを意味する)、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも96%、好ましくは少なくとも98%のエナンチオマー過剰率を有する、
- 化合物Iまたはその塩、
- 化合物Iまたはその塩を含む、本明細書に記載される医薬調合物、
- 化合物Iまたはその塩に関する本明細書に記載される薬学的用途
に関する。
【0094】
1つの実施態様は、化合物Iが少なくとも10%(10%のジアステレオマー過剰率は、前記混合物中における化合物Iとシス-(1S,3S)ジアステレオ異性体との比率が55:45であることを意味する)、少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、好ましくは少なくとも98%のジアステレオマー過剰率を有する、化合物Iまたはその塩および本明細書に記載される使用方法に関する。
【0095】
1つの実施態様は、本明細書に記載される薬学的用途のための実質的に純粋な化合物Iまたはその塩に関する。
【0096】
さらなる態様は、本明細書に記載される薬学的用途のための化合物Iまたはその塩、特に本明細書に記載されるような本発明の方法により得られる、特にフマル酸塩またはマレイン酸塩に関する。
【0097】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれにより何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0098】
薬理学
<結合試験>
全ての試験において、結果はコントロールの特異的結合の阻害パーセントとして表され、IC50値(コントロールの特異的結合の最大値の50%の阻害を引き起こす濃度)はHill方程式の曲線適合を用いる非線形回帰解析により決定する。阻害定数(Ki)はCheng Prusoff方程式(Ki = IC50/(1+(L/KD))、式中、Lは試験における放射性リガンドの濃度と等しい)から計算され、KDは受容体に対する放射性リガンドの親和性と等しい。
【0099】
アルファ-1 アドレナリン受容体サブタイプ
ラットアルファ1dを発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株およびウシアルファ1aを発現する幼若ハムスター腎臓(Baby hamster Kidney)(BHK)細胞を標準的な安定トランスフェクション技術を用いて作製した。ハムスターアルファ1b受容体を発現するラット-1細胞株はユタ州、ソルトレークシティーのユタ大学から得た。適当な(アルファ1a、アルファ1b、アルファ1d)受容体を発現する細胞株を回収し、ウルトラ-タラックスホモジナイザーを用いて、氷冷した50 mMのTris(pH 7.7)において均質化して、使用するまでそれぞれを氷上において-80 ℃で保存した。[3H]プラゾシン(0.3〜0.5 nM)を、アルファ1受容体のサブタイプの親和性を評価する放射性リガンドとして使用した。全結合を試験用緩衝液を用いて測定し、非特異的結合を1 μMのWB-4101の存在下でアルファ1受容体の全てのサブタイプに対して決定した。アリコート(Aliquots)を25 ℃で20分間インキュベートした。すべての試験において、結合および遊離した放射活性をポリエチレンイミン(PEI)で前処理を施したGF/Bフィルターによる真空ろ過によって分離し、シンチレーションカウンターで計測した。
【0100】
アルファ-1アドレナリン受容体(ラットアルファ-1-受容体に対する[3H]プラゾシンの結合の阻害)
この方法により、[3H]プラゾシン(0.25 nM)のラット脳由来の膜におけるアルファ-1受容体に対する結合の薬剤による阻害をインビトロで測定した。方法は「Hyttel et al. J. Neurochem. 1985, 44, 1615-1622」を改変した。
【0101】
DA D1受容体:
ヒトD1受容体に対する親和性は、契約研究所であるCerep社において、カタログ参照番号803-1hの試験を用いて測定した。ヒト組換えD1受容体を発現するCHO細胞由来の膜を使用した。0.3 nMの[3H]-SCH23390を放射性リガンドとして使用し、試験の適合性を評価するためにリファレンス化合物SCH23390と同時に段階希釈して、化合物の試験を行った。アリコートを22 ℃で60分間インキュベートして、結合した放射活性を液体シンチレーションカウンターで測定した。
【0102】
D1受容体に対する特異的なコントロール結合を、化合物なしで測定した全結合と、1 μMのSCH 23390の存在下で測定された非特異的結合との間の差として決定した。
【0103】
DA D2受容体:
約800 fmol/mgのヒト組換えD2受容体を発現するCHO細胞を標準的な安定トランスフェクション技術により作製した。膜を標準的なプロトコールを用いて回収し、段階希釈した化合物を50 mMのTris-HCl、120 mMのNaCl、4 mMのMgCl2の混合物において、膜調製物に添加することにより親和性を測定した。0.1 nMの3[H]-スピペロン をヒトD2受容体に対する親和性を評価するための放射性リガンドとして使用した。全結合を緩衝液の存在下で測定し、非特異的結合を10 mMのハロペリドールの存在下で測定した。混合物を37 ℃で30分間インキュベートし、短時間氷上で冷却した。結合および遊離した放射活性を0,1 %のポリエチレンイミン(PEI)で前処理を施したGF/Cフィルターによる真空ろ過によって分離し、フィルターをシンチレーションカウンターで計測した。
【0104】
<有効性試験>
DA D1受容体:
化合物の、ヒト組換えD1受容体を安定して発現する自家製のCHO細胞株における、D1受容体を介するcAMP生成を阻害する能力を以下のように測定した。細胞は実験の3日前に11000細胞/ウェルの濃度で96ウェルプレートに播種した。実験当日に、前記細胞を予め加熱したG緩衝液(PBSにおける1 mMのMgCl2、0.9 mMのCaCl2、1 mMのIBMX)で1回洗浄し、G 緩衝液中の30 nMのA68930および試験化合物の混合物を100 ml添加することにより試験を開始した。前記細胞を37 °Cで20分間インキュベートし、100 mlのS緩衝液(0.1 MのHClおよび0.1 mMのCaCl2)の添加により反応を停止して、プレートを4 ℃で1時間置いた。68 μlのN緩衝液(0.15 MのNaOHおよび60 mMのNaAc)を添加して、プレートを10分間振とうした。60 μlの反応液を、60 mMのNaAc(pH 6.2)を40 μl含むcAMPフラッシュプレート(DuPont NEN製)に移し、100 μlのICミックス(50 mMのNaAc pH 6.2、0.1 %のNaAzid、12 mMのCaCl2、1%のBSAおよび0.15 μCi/mlの125I-cAMP)を添加した。4 ℃で18時間インキュベートした後に、プレートを1回洗浄し、Wallac製TriLuxカウンターにおいて計測を行った。
【0105】
DA D2受容体:
化合物の、ヒトD2受容体で形質転換を行ったCHO細胞における、D2受容体を介するcAMP生成を阻害する能力を以下のように測定した。細胞は実験の3日前に8000細胞/ウェルの濃度で96ウェルプレートに播種した。実験当日に、前記細胞を予め加熱したG緩衝液(PBSにおける1 mMのMgCl2、0.9 mMのCaCl2、1 mMのIBMX)で1回洗浄し、G 緩衝液中の1 μMのキンピロール、10 μMのホルスコリンおよび試験化合物の混合物を100 μl添加することにより試験を開始した。前記細胞を37 ℃で20分間インキュベートし、100 μlのS緩衝液(0.1 MのHClおよび0.1 mMのCaCl2)の添加により反応を停止して、プレートを4 ℃で1時間置いた。68 μlのN緩衝液(0.15 MのNaOHおよび60 mMのNaAc)を添加して、プレートを10分間振とうした。60 μlの反応液を、60 mMのNaAc(pH 6.2)を40 μl含むcAMPフラッシュプレート(DuPont NEN製)に移し、100 μlのICミックス(50 mMのNaAc pH 6.2、0.1 %のNaAzid、12 mMのCaCl2、1%のBSAおよび0.15 μCi/mlの125I-cAMP)を添加した。4 ℃で18時間インキュベートした後に、プレートを1回洗浄し、Wallac製TriLuxカウンターにおいて計測を行った。
【0106】
<セロトニン5-HT2A受容体>
実験の2または3日前に、250 fmol/mgの5-HT2A受容体を発現するCHO細胞を、実験当日に単一のコンフルエントな層を得るために十分な密度で播種した。95%湿度の5% CO2インキュベーター中、37 ℃において60分間、該細胞に色素をロードした(dye loaded)(Molecular Devices製のCa2+-キット、および試験用緩衝液として20mMのHEPESを添加し2MのNaOHでpHを7.4に調節したフェノールレッド不含のハンクス平衡塩を用いる)。レーザー強度を、約8000〜10000蛍光単位の基底値が得られる適当なレベルに設定した。基底の蛍光における変動は10%未満である。少なくとも30段階にわたって濃度を増加させた試験化合物を用いてEC50 値の評価を行った。5-HTのEC85と同一の範囲の試験物質濃度を調べることによりIC50値の評価を行った。試験物質を5-HTの5分前に細胞に添加する。Ki値をCheng-Prusoff方程式を用いて計算した。試験化合物の濃度の刺激%を5-HT(100%)の最大濃度に対して測定する。試験化合物の濃度の阻害%をEC85の5-HTの応答を低下させる割合として測定する。最大阻害は曲線が到達する阻害レベルである。それはそのレベルにおける阻害割合として表され、フルとパーシャルアンタゴニストとを区別するために使用される。
【0107】
<インビトロにおける化合物のCYP2D6との相互作用の測定(CYP2D6阻害アッセイ)>
原理:ヒトCYP2D6の阻害は、酵素源としての、cDNAを導入したCYP2D6を発現するバキュロウイルス/昆虫細胞から調製したミクロソーム、および特異的CYP2D6基質AMMC (3-[2-(N,N-ジエチル-N-メチルアンモニウム)-エチル]-7-メトキシ-4-メチルクマリン)を使用して評価した。AMMCは蛍光の出現を測定することにより検出されるAHMC (3-[2-(N,N-ジエチルアミノ)エチル]-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン) へO-脱メチル化される。本発明の好ましい化合物はCYP2D6活性に対して5マイクロモーラー以上のIC50を示す。前記IC50はCYP2D6活性の50%を阻害する化合物の濃度である。
【0108】
材料および方法
cDNAを導入したCYP2D6を発現するバキュロウイルス/昆虫細胞から調製したミクロソームをBD Biosciences社から購入した(Gentest 456217)。蛍光は SpectroFluor Plusプレートリーダー(Tecan Nordic製)によりEx. (405 nm) Em. (465nm)を測定した。組換えCYP2D6ミクロソームとのインキュベーションは、全容量が0.2 mlのpH 7.4 で1.5 AMMC (3-[2-(N,N-ジエチル-N-メチルアンモニウム)-エチル]-7-メトキシ-4-メチルクマリン)を含む100 mMのリン酸緩衝液における1.5 pmolの組換えCYP2D6と、0.0082 mMのNADP+、0.41 mMのグルコース6-リン酸、0.41 mMの塩化マグネシウムおよび0.4 units/mlのグルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼからなる低NADPH-再生系とを含む。インキュベーション時間は45分間であり、インキュベーションは0.075 mlの80 %アセトニトリル、20 % 0.5 M Tris塩基の添加によりクエンチした。全ての化学製品はシグマ社(セントルイス、ミズーリ州)の分析用グレードである。IC50曲線は、DMSO(ジメチルスルホキシド)―インキュベーションにおける最終濃度は1.0%以下である―に溶解した試験化合物の40〜0.02マイクロモーラーの間の8つの濃度を用いて作成した(「N. Chauret et. al. DMD Vol. 29, Issue 9, 1196-1200, 2001」の変法)。IC50値を線形補間により計算した。
【0109】
<QT-間隔>
ウサギの麻酔:
以下に記載されるモデルは、元々はCarlsson等(J Cardiovasc Pharmacol. 1990;16:276-85.)により不整脈モデルとして作製され、下記の「動物の前処置」に記載されるようなスクリーニングの構成に適合するように改変を施した。
【0110】
動物の前処置
体重が2.0〜2.8 kgである雄のウサギ(HsdIf:NZW、異系交配)をHarlan社(オランダ)から購入した。実験当日に個々の体重を測定し記録した。全身麻酔をペントバルビタール(10 mg/ml, 18 mg/kg)、それに続くアルファ-クロラロース(100 mg/kg、注入容量4 ml/kgで20分かけて投与)の静脈内注射により辺縁耳静脈を通して行った。ウサギの気管にカニューレを挿入し、1分あたり45回および1回あたり6 ml/kgの換気量で空気を通気した。試験化合物の投与のために血管カテーテルを頚静脈に挿入した。さらに血液のサンプリングおよび血圧のモニタリングのために左頚動脈にカテーテルを挿入した。針電極を標準双極誘導IIを記録するために皮下に設置し:陰極を右肩の前に設置し、陽極を左腹部付近に設置した。
【0111】
実験プロトコール
短時間の平衡の後、投与前の値をビヒクル(vehicle)または試験化合物のIVボーラス投与前、-20、-10および0分に得た。ボーラス投与の効果は40分の間続いた。
【0112】
データのサンプリングおよび計算
ECG、血圧およびHRをマッキントッシュコンピューター用のチャートソフトウェアを用いるMaclab 8/sに継続的に記録した。サンプリング周波数は1000 Hzであった。心電図における効果(PQ-, QRS-, QT-, QTc-間隔および心拍数)および平均動脈圧(MAP)を電子的に記録し測定した。
【0113】
<解析方法>
実施例1aにおける化合物(Va)のエナンチオマー過剰率は、40 ℃でCHIRALCEL(R) ODカラム、0.46cm ID X 25 cm L、10μmを用いるキラルHPLCにより測定した。n-ヘキサン/エタノール 95:5 (vol/vol)を1.0 ml/minの流速で移動相として使用し、検出を220nm でUV検出器を用いて行った。
【0114】
実施例1bに使用される変換率のHPLC解析:
カラム:Lichrospher RP-8カラム、250 x 4 mm (5 μmの粒度)。
【0115】
溶出液:1.1 mlのEt3Nを150 mlの水に添加し、10% H3PO4(水溶液)をpH=7まで添加し、そして全体が200 mlとなるまで水を添加する。この混合物に1.8 LのMeOHを添加して調製した緩衝MeOH/水を使用。
【0116】
実施例1bにおける化合物(Va)のエナンチオマー過剰率は、21 ℃でCHIRALPAK (R) ADカラム、0.46cm ID X 25 cm L、10μmを用いるキラルHPLCにより測定した。ヘプタン/エタノール/ジエチルアミン89.9:10:0.1 (vol/vol/vol)を1.0 ml/minの流速で移動相として使用し、検出を220nm でUV検出器を用いて行った。
【0117】
化合物(I)のエナンチオマー過剰率は、以下の条件:キャピラリー:50μm ID X 48.5 cm L、泳動用緩衝液:25mMのリン酸二水素ナトリウムにおける1.25mMのβシクロデキストリン(pH 1.5)、電圧:16kV、温度:22℃、注入:40mbarで4秒間、検出:195nmでのカラムダイオードアレイ検出、サンプル濃度:500μg/mlを用いて石英ガラスキャピラリー電気泳動(CE)により測定した。この系において、化合物Iは約10分の保持時間を有し、他方のエナンチオマーは約11分の保持時間を有する。
【0118】
1H NMRスペクトルは、Bruker製Avance DRX500装置における500.13 MHzで、またはBruker製AC 250装置における250.13 MHzで記録した。クロロホルム(99.8%D)またはジメチルスルホキシド(99.8%D)を溶剤として使用し、テトラメチルシラン(TMS)を内部標準として使用した。
【0119】
化合物Iのシス/トランス比は、1H NMRを用いて非特許文献1 (4388ページ、右の段)に記載されているように測定した。化合物VIのシス/トランス比は、シス異性体に対する5.3 ppmのシグナルおよびトランス異性体に対する5.5 ppmのシグナルの積分を用いて、クロロホルムにおける1H NMRにより測定した。一般に、NMRにより約1%の含有量の不要な異性体を検出することができる。
【0120】
融点は、示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定した。装置は、融点が開始値(onset value)となるように5°/分でキャリブレーションを行ったTA-Instruments社製の DSC-2920である。
【0121】
<合成>
主要な開始物質の合成
化合物Vは「Bogeso J. Med. Chem. 1983, 26, 935」に記載される方法に従って、溶剤としてエタノールを使用し、反応を約0 ℃で行う、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を用いた還元によりIVから合成した。両化合物とも非特許文献1に記載されている。化合物IVは、IIおよびその合成についても記載されている「Sommer et al., J. Org. Chem. 1990, 55, 4822」に記載されている一般的な方法を用いてIIから合成した。
【0122】
(実施例1a キラルクロマトグラフィーを用いた(1S,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オール (Va)の合成)
ラセミ体のシス-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オール (V) (492グラム)を40 ℃で、CHIRALPAK(R) ADカラム、10cm ID X 50cm L、10μmを用いる分取クロマトグラフィーにより分割した。メタノールを流速190 ml/minで移動相として使用し、UV検出器を用いて287nmで検出を行った。前記ラセミアルコール(V)を50,000 ppmのメタノール溶液として注入し、28分の間隔で90 mlを注入した。表題化合物を98%以上のエナンチオマー過剰率で含む全ての画分を合わせ、ロータリーエバポレータを用いて乾燥のために留去して、引き続き「減圧下において」40℃で乾燥した。収量は固体として220グラムである。元素分析およびNMRにおいて構造が一致し、キラルHPLCによるエナンチオマー過剰率は98%よりも高かった。[α]D20 +44.5° (c=1.0, メタノール)。
【0123】
(実施例1b 酵素的分割の使用による(1S,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オール (Va)の合成)
【0124】
【化15】

【0125】
化合物V(5g, 20.4 mmol)を150 mlの無水トルエンに溶解させる。0.5 gのノボザイム435 (カンジダアンタルクチカリパーゼB) (Novozymes A/S, Fluka製、カタログ番号73940)を添加し、引き続きビニルブチレート(13 ml, 102.2 mmol)を添加する。該混合物をメカニカルスターラーを用いて21 ℃で撹拌する。1日後、追加で0.5 gのノボザイム435を添加する。4日後、54%の変換において前記混合物をろ過し、減圧下で濃縮することにより、(1R, 3R)-シス-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オール-ブチレートエステルおよび99.2%のエナンチオマー過剰率を有する所望の化合物Vaの混合物を含む油状物を得る(99.6%の化合物Vaおよび0.4%の(1R, 3R)- シス-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オール)。
【0126】
(実施例2 (1S,3S)-3,5-ジクロロ-1-フェニルインダン (VI, LG=Cl)の合成)
実施例1aの記載のようにして得られたシス-(1S,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-オール (Va) (204グラム)をTHF(1500ml)に溶解させ、-5℃に冷却する。1時間かけて塩化チオニル(119グラム)をTHF(500 ml)溶液として滴加する。該混合物を室温で一晩撹拌する。氷(100 g)を前記反応混合物に添加する。氷が溶けたら水相(A)および有機相(B)を分離し、前記有機相Bを飽和重炭酸ナトリウム(200 ml)で2回洗浄する。重炭酸ナトリウム相を水相Aと合わせ、水酸化ナトリウム(28%)でpH9に調節し、再度有機相Bを洗浄するために使用する。その結果得られる水相(C)および有機相Bを分離し、水相Cを酢酸エチルで抽出する。酢酸エチル相を前記有機相Bと合わせ、硫酸マグネシウムで乾燥し、ロータリーエバポレータを用いて乾燥のために留去して、油状物として表題化合物を得る。収量は240グラムであり、これを実施例5に直接使用する。NMRにおけるシス/トランス比は77:23である。
【0127】
(実施例3 3,3-ジメチルピペラジン-2-オンの合成)
炭酸カリウム(390グラム)およびエチレンジアミン(1001グラム)をトルエン(1.50 L)とともに撹拌する。エチル 2-ブロモイソブチレート(500グラム)のトルエン(750 ml)溶液を添加する。該懸濁液を一晩加熱環流し、そしてろ過する。ろ過ケーキをトルエン(500 ml)で洗浄する。合わせたろ液(容積4.0L)を水浴で加熱し、クライゼン装置を用いて0.3気圧で蒸留して;最初の1200 mlの蒸留液を35 ℃(混合物中における温度は75 ℃)で回収する。さらにトルエン(600 ml)を添加し、新たに1200 mlの蒸留液を76 ℃(混合物中における温度は80 ℃)で回収する。トルエン(750 ml)を再度添加し、1100 mlの蒸留液を66 ℃(混合物中における温度は71 ℃)で回収する。混合物を氷浴上で撹拌し、注入することにより生成物が沈殿する。前記生成物をろ過により単離し、トルエンで洗浄して、真空オーブン中において50 ℃で一晩乾燥する。3,3-ジメチルピペラジン-2-オンの収量は171 g(52%)である。NMRは構造と一致した。
【0128】
(実施例4 2,2-ジメチルピペラジンの合成)
3,3-ジメチルピペラジン-2-オン(8.28 kg, 64.6 mol)およびテトラヒドロフラン(THF)(60 kg)の混合物を50〜60 ℃に加熱し、わずかに不透明な溶液を得る。THF(50 kg)を窒素下で撹拌し、そしてLiAlH4(250 g、溶解性プラスチックバッグ中、Chemetall製)を添加することにより気体がゆっくりと発生する。気体の発生が終わった後に、さらにLiAlH4を添加すると(全体で3.0 kg、79.1 molを使用)、発熱(exoterm)のために温度が22 ℃から50 ℃まで上昇する。3,3-ジメチルピペラジン-2-オンの溶液を41〜59 ℃で2時間かけてゆっくりと添加する。該懸濁液を59 ℃(ジャケット温度60 ℃)でもう1時間撹拌する。該混合物を冷却し、温度を25 ℃以下(0 ℃のジャケット温度で冷却する必要がある)に保ちながら水(3 L)を2時間かけて添加する。その後、水酸化ナトリウム(15%, 3.50 kg)を必要な場合は冷却しながら23 ℃で20分かけて添加する。さらに水(9 L)を30分かけて添加し(必要な場合は冷却しながら)、該混合物を窒素下で一晩撹拌する。ろ過剤のセリット(Celit)(4 kg)を添加し、前記混合物をろ過する。ろ過ケーキをTHF(40 kg)で洗浄する。合わせたろ液を、リアクターの温度が800 mbarで70 ℃(蒸留温度66 ℃)になるまでリアクターにおいて濃縮する。残留物(remanence)(12.8 kg)をさらにロータリーエバポレータ(rotavapor)で約10 Lまで濃縮する。最後に該混合物を大気圧で分留し(fractionally distilled)、生成物を163〜164 ℃で回収する。収量5.3 kg (72%)。NMRは構造と一致する。
【0129】
(実施例5 トランス-1-((1R,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-イル)-3,3-ジメチルピペラジニウム (化合物I)マレイン酸水素塩の合成)
シス-(1S,3S)-3,5-ジクロロ-1-フェニルインダン (VI, LG=Cl) (240 g)をブタン-2-オン(1800 ml)に溶解させる。炭酸カリウム(272 g)および2,2-ジメチルピペラジン(実施例4で製造)(113 g)を添加し、該混合物を環流温度で40時間加熱する。反応混合物にジエチルエーテル(2 L)および塩酸(1M, 6 L)を直接添加する。相を分離し、水相のpHを濃塩酸で8から1まで下げる。前記水相を、全ての生成物が水相にあることを確実にするために再度有機相を洗浄するのに使用する。水酸化ナトリウム(28%)をpHが10になるまで前記水相に添加し、前記水相をジエチルエーテル(2 L)で2回抽出する。該ジエチルエーテル抽出物を合わせ、硫酸ナトリウムで乾燥し、そして乾燥のためにロータリーエバポレータを用いて留去する。油状物として251グラムの表題化合物が得られる。NMRにおけるシス/トランス比は82:18である。粗油状物(約20グラム)をさらにシリカゲルにおけるフラッシュクロマトグラフィー(溶出液:酢酸エチル/エタノール/トリエチルアミン 90:5:5)により精製し、その後にロータリーエバポレーターでの留去により乾燥した。12グラムの表題化合物を油状物として得る(シス/トランス比、NMRにおいて90:10)。前記油状物をエタノール(100 ml)に溶解させ、この溶液にマレイン酸のエタノール溶液をpH 3になるまで添加する。得られた混合物を室温で16時間撹拌し、生成した沈殿物をろ過により回収する。エタノールの容量を減少させ、もう1回分の沈殿物を回収する。3.5グラムの固体の表題化合物を得る(NMRにおいてシス異性体は検出されず)。エナンチオマー過剰率は>99%である。融点は175〜178 ℃。NMRは構造と一致する。
【0130】
(実施例6 化合物Iの合成)
トランス-1-((1R,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-イル)-3,3-ジメチルピペラジニウムマレイン酸水素塩 (I)(9.9グラム)、濃アンモニア水(100 ml)、ブライン(150 ml)および酢酸エチル(250 ml)の混合物を室温で30分間撹拌する。相を分離し、水相を酢酸エチルで1回以上抽出する。合わせた有機相をブラインで洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過して、乾燥のために減圧下で留去する。7.5グラムの油状物を得る。NMRは構造と一致する。
【0131】
(実施例7 トランス-1-((1R,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-イル)-3,3-ジメチルピペラジニウム (化合物 I)フマル酸塩の合成)
トランス-1-((1R,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-イル)-3,3-ジメチルピペラジン(実施例6の記載のようにして得られる)(1 g)の溶液をアセトン(100 ml)に溶解させる。この溶液に、溶液のpHが4になるまでフマル酸のエタノール溶液を添加する。得られた混合物を氷浴中で1.5時間冷却すると、沈殿物が生成する。固体化合物をろ過により回収する。前記化合物を減圧下で乾燥することにより白色の固体化合物(1.0 g)を得る。エナンチオマー過剰率は>99%である。融点193〜196 ℃。NMRは構造と一致する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式:
【化1】


で表される化合物(化合物I、トランス-1-((1R,3S)-6-クロロ-3-フェニルインダン-1-イル)-3,3-ジメチルピペラジン)またはその塩。
【請求項2】
実質的に純粋である、請求項1記載の化合物または塩。
【請求項3】
少なくとも1種の薬学的に許容されるキャリアー、充填剤または希釈剤と一緒に、請求項1または2のいずれか1つに記載の化合物または塩を含む医薬調合物。
【請求項4】
化合物Iのエナンチオマー過剰率が少なくとも90%、少なくとも96%または少なくとも98%である、請求項3記載の医薬調合物。
【請求項5】
薬剤において使用するための請求項1または2のいずれか1つに記載の化合物または塩。
【請求項6】
精神病の症状、統合失調症、不安障害、うつ病を含む情動障害、睡眠障害、片頭痛、神経遮断薬によって引き起こされる振せん麻痺および乱用障害、例えばコカイン乱用、ニコチン乱用またはアルコール乱用を含む疾患からなる群から選択される疾患治療用薬剤の製造において、請求項1または2のいずれか1つに記載の化合物または塩を使用する方法。
【請求項7】
統合失調症またはその他の精神病性障害治療用の薬剤の製造における請求項6記載の方法。
【請求項8】
統合失調症の陽性症状、陰性症状および抑うつ症状のうちの1つまたはそれ以上を治療するための薬剤の製造における請求項7記載の方法。
【請求項9】
統合失調症、分裂病様障害、統合失調性感情障害、妄想障害、短期精神病性障害、共有精神病障害および双極性障害における躁病からなる群から選択される疾患治療用薬剤の製造において、請求項1または2のいずれか1つに記載の化合物または塩を使用する方法。
【請求項10】
前記化合物またはその塩が請求項4に記載される医薬調合物の形態である、請求項6〜9のいずれか1つに記載の使用方法。
【請求項11】
治療的有効量の請求項1または2のいずれか1つに記載の化合物または塩を投与することを含む、精神病の症状, 統合失調症、不安障害、うつ病を含む情動障害、睡眠障害、片頭痛、神経遮断薬によって引き起こされる振せん麻痺または乱用障害、例えばコカイン乱用、ニコチン乱用またはアルコール乱用を含む疾患からなる群から選択される疾患を治療する方法。
【請求項12】
統合失調症またはその他の精神病性障害を治療するための請求項11記載の方法。
【請求項13】
統合失調症の陽性症状、陰性症状および抑うつ症状のうちの1つまたはそれ以上を治療するための請求項12記載の方法。
【請求項14】
治療的有効量の請求項1または2のいずれか1つに記載の化合物または塩を投与することを含む、統合失調症、分裂病様障害、統合失調性感情障害、妄想障害、短期精神病性障害、共有精神病障害および双極性障害における躁病からなる群から選択される疾患の治療方法。
【請求項15】
化合物Iまたはその塩で治療される患者がその他の薬剤でも治療されている、請求項11〜14のいずれか1つに記載の方法。
【請求項16】
化合物Iまたはその塩で治療される患者がその他の少なくとも1種の薬剤でも治療されている、請求項12記載の方法。
【請求項17】
前記化合物またはその塩が請求項4に記載される医薬調合物の形態である、請求項11〜16のいずれか1つに記載の方法。
【請求項18】
薬剤において使用される化合物トランス-1-(6-クロロ-3-フェニルインダン-1-イル)-3,3-ジメチルピペラジンまたはその塩。
【請求項19】
少なくとも1種の薬学的に許容されるキャリアー、充填剤または希釈剤と一緒に、請求項18記載の化合物または塩を含む医薬調合物。
【請求項20】
精神病の症状、統合失調症(例えば、統合失調症の陽性症状、陰性症状および抑うつ症状のうちの1つまたはそれ以上)、分裂病様障害、統合失調性感情障害、妄想障害、短期精神病性障害、共有精神病障害、双極性障害における躁病、不安障害、うつ病を含む情動障害、睡眠障害、片頭痛、神経遮断薬によって引き起こされる振せん麻痺、乱用障害、例えばコカイン乱用、ニコチン乱用またはアルコール乱用を含む疾患からなる群から選択される疾患治療用薬剤の製造において、請求項18記載の化合物または塩を使用する方法。
【請求項21】
治療的有効量の請求項18記載の化合物または塩を投与することを含む、精神病の症状、統合失調症(例えば、統合失調症の陽性症状、陰性症状および抑うつ症状のうちの1つまたはそれ以上)、分裂病様障害、統合失調性感情障害、妄想障害、短期精神病性障害、共有精神病障害、双極性障害における躁病、不安障害、うつ病を含む情動障害、睡眠障害、片頭痛、神経遮断薬によって引き起こされる振せん麻痺、乱用障害、例えばコカイン乱用、ニコチン乱用またはアルコール乱用を含む疾患からなる群から選択される疾患の治療方法。
【請求項22】
式Iの化合物(化合物I)またはその塩を製造する方法であって、この方法がシス構造の式Vaの化合物(化合物Va)を式Iの化合物に変換することを含み、そしてIおよびVaが以下:
【化2】




で表される、前記製造方法。
【請求項23】
式Vaで表されるシス-アルコールのアルコール基を適当な脱離基LGに変換することを含み、その結果、式VI
【化3】


で表される化合物が得られる、請求項22記載の方法。
【請求項24】
LGがハロゲン、例えばClまたはBr、好ましくはCl、またはスルホネートである、請求項23記載の方法。
【請求項25】
化合物VIを適当な溶剤から沈殿させる、請求項22〜24のいずれか1つに記載の方法。
【請求項26】
LGがハロゲン、好ましくはClであり、そして前記溶剤がアルカン、例えばヘプタンである、請求項25記載の方法。
【請求項27】
化合物VIを2,2-ジメチルピペラジンと反応させることにより化合物Iを得る、請求項22〜26のいずれか1つに記載の方法。
【請求項28】
化合物Iを適当な塩、例えば有機二塩基酸のような有機酸の塩として沈殿させる、請求項27記載の方法。
【請求項29】
生成する塩が化合物Iのフマル酸塩またはマレイン酸塩である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
化合物VIを、例えばフェニルメトキシカルボニル、tert-ブチルオキシカルボニル、エトキシカルボニルおよびベンジルからなる群から選択される保護基であるPGで1位が保護された2,2-ジメチルピペラジン (VII)と反応させ、それによって式VIIIの化合物を得ること;および化合物VIIIの脱保護により化合物Iを得ることを含み、そして化合物VIIおよびVIIIが以下の式:
【化4】



で表される、請求項20〜26のいずれか1つに記載の方法。
【請求項31】
式VIaの化合物(すなわちLGがClである化合物VI)を2,2-ジメチルピペラジンと反応させることを含む、前記化合物Iまたはその塩の製造方法。
【請求項32】
式VIa
【化5】


で表される化合物を塩基の存在下で2,2-ジメチルピペラジンと反応させることを含む、化合物Iまたはその塩の製造方法。
【請求項33】
化合物Vaが化合物Vの酵素的分割により得られる、請求項22〜32のいずれか1つに記載の方法。

【公表番号】特表2007−502784(P2007−502784A)
【公表日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523529(P2006−523529)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【国際出願番号】PCT/DK2004/000546
【国際公開番号】WO2005/016901
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.マッキントッシュ
【出願人】(591143065)ハー・ルンドベック・アクチエゼルスカベット (129)
【Fターム(参考)】