説明

トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルの製造方法

【課題】トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルの工業的に有利な製造方法を提供すること。
【解決手段】2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルのトランス体またはトランス体とシス体の混合物を、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属アルコラートからなる群から選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属化合物と反応させ、得られる反応混合物を酸化反応に付し、次いで、得られる反応混合物をアルカリ金属亜硫酸水素塩の水溶液で処理し、得られる水層を酸、塩基または水溶性アルデヒドで処理することによるトランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルは、殺虫剤中間体として有用な化合物である(例えば、非特許文献1参照。)。トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルの製造方法としては、例えば、トランス菊酸をオゾン酸化する方法(例えば、非特許文献1参照。)、トランス−2,2−ジメチル−3−アシルオキシメチルシクロプロパンカルボン酸エステルを塩基処理し、次いでスワン酸化する方法(例えば、非特許文献2参照。)が知られている。しかしながら、前者の方法は、爆発性のオゾニドを中間体とする反応であり、後者の方法では、出発原料を得るために、2,2−ジメチル−3−アシルオキシメチルシクロプロパンカルボン酸エステルのトランス体とシス体の混合物から、シリカゲルカラムを用いて、トランス体のみを単離して用いる必要があり、いずれも工業的に満足できる方法とはいえなかった。
【0003】
【非特許文献1】J. Chem. Soc. (C), 1076, (1970)
【非特許文献2】Tetrahedron,57,6083,(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況のもと、本発明者らは、トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルの工業的な製造方法について鋭意検討したところ、2,2−ジメチル−3−アシルオキシメチルシクロプロパンカルボン酸エステルのトランス体またはトランス体とシス体の混合物を出発原料として、より簡便な反応操作により、トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルが製造できることを見いだし、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明は、2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルのトランス体またはトランス体とシス体の混合物を、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属アルコラートからなる群から選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属化合物と反応させ、得られる反応混合物を酸化反応に付し、次いで、得られる反応混合物をアルカリ金属亜硫酸水素塩の水溶液で処理し、得られる水層を酸、塩基または水溶性アルデヒドで処理することによるトランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、容易に製造できる化合物を出発原料として、簡便な反応操作により、トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルを製造することができるため、工業的に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルにおいて、3位のアシルオキシメチル基のアシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基等のアルキルカルボニル基;ベンゾイル基等のアリールカルボニル基;等の炭素数2〜10の脂肪族または芳香族アシル基が挙げられる。1位のアルコキシカルボニル基のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の直鎖状、分岐状もしくは環状の炭素数1〜6のアルコキシ基が挙げられる。
【0009】
2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルの具体例としては、2,2−ジメチル−3−アセトキシメチルシクロプロパンカルボン酸メチル、2,2−ジメチル−3−ベンゾイルオキシメチルシクロプロパンカルボン酸メチル、2,2−ジメチル−3−アセトキシメチルシクロプロパンカルボン酸エチル、2,2−ジメチル−3−ベンゾイルオキシメチルシクロプロパンカルボン酸エチル、2,2−ジメチル−3−アセトキシメチルシクロプロパンカルボン酸n−プロピル、2,2−ジメチル−3−ベンゾイルオキシメチルシクロプロパンカルボン酸n−プロピル、2,2−ジメチル−3−アセトキシメチルシクロプロパンカルボン酸イソプロピル、2,2−ジメチル−3−ベンゾイルオキシメチルシクロプロパンカルボン酸イソプロピル、2,2−ジメチル−3−アセトキシメチルシクロプロパンカルボン酸n−ブチル、2,2−ジメチル−3−ベンゾイルオキシメチルシクロプロパンカルボン酸n−ブチル、2,2−ジメチル−3−アセトキシメチルシクロプロパンカルボン酸イソブチル、2,2−ジメチル−3−ベンゾイルオキシメチルシクロプロパンカルボン酸イソブチル、2,2−ジメチル−3−アセトキシメチルシクロプロパンカルボン酸tert−ブチル、2,2−ジメチル−3−ベンゾイルオキシメチルシクロプロパンカルボン酸tert−ブチル、2,2−ジメチル−3−アセトキシメチルシクロプロパンカルボン酸n−ペンチル、2,2−ジメチル−3−ベンゾイルオキシメチルシクロプロパンカルボン酸n−ペンチル、2,2−ジメチル−3−アセトキシメチルシクロプロパンカルボン酸n−ヘキシル、2,2−ジメチル−3−ベンゾイルオキシメチルシクロプロパンカルボン酸n−ヘキシル、2,2−ジメチル−3−アセトキシメチルシクロプロパンカルボン酸シクロヘキシル、2,2−ジメチル−3−ベンゾイルオキシメチルシクロプロパンカルボン酸シクロヘキシル等が挙げられる。これらの2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルは、いずれも2つの不斉炭素原子を有しており、4種類の立体異性体が存在するが、本発明には、シクロプロパン環平面に対して、3位のアシルオキシメチル基と1位のアルコキシカルボニル基とが互いに反対側にある異性体を含んでいれば、単独の異性体であっても、任意の割合の異性体混合物であっても用いることができる。好ましくは、トランス体とシス体の混合物が用いられ、より好ましくは、トランス体をシス体よりも多く含む混合物が用いられる。ここで、トランス体とは、シクロプロパン環平面に対して、3位のアシルオキシメチル基と1位のアルコキシカルボニル基とが互いに反対側にある構造を表し、シス体とはシクロプロパン環平面に対して、3位のアシルオキシメチル基と1位のアルコキシカルボニル基とが互いに同じ側にある構造を表す。これら2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルは、任意の公知方法により製造することができる。
【0010】
アルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、カリウムエチラート等のアルカリ金属アルコラート;などが挙げられる。好ましくは、アルカリ金属炭酸塩または炭素数1〜6のアルカリ金属アルコラートである。それらは、いずれも市販のものを用いることができる。アルカリ金属アルコラートの場合はアルコール溶液として用いることもできる。塩基の使用量は、2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルに対して、通常0.01〜50重量倍の範囲である。
【0011】
2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルとアルカリ金属化合物との反応は、通常、アルコール溶媒の存在下に実施される。かかるアルコール溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール等の炭素数1〜6のアルコールが挙げられる。
【0012】
アルコールの使用量は、2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルに対し、通常1〜100重量倍、好ましくは2〜50重量倍の範囲である。反応温度は、通常−20℃以上、アルコールの沸点以下の範囲である。反応の進行は、例えばガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、NMR、IR等の通常の分析手段により確認することができる。
【0013】
かくして得られた反応混合物中には、通常、トランス−2,2−ジメチル−3−(ヒドロキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルが含まれている。また、2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルのトランス体とシス体の混合物を用いた場合には、上記反応混合物中に、トランス−2,2−ジメチル−3−(ヒドロキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルに加えて、シス−2,2−ジメチル−3−(ヒドロキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルが含まれていることもあるが、通常、シス−2,2−ジメチル−3−(ヒドロキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルが環化した構造の6,6−ジメチル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキサン−2−オンが含まれている。
【0014】
なお、アルコール溶媒の存在下で本反応を実施する場合は、用いるアルカリ金属化合物の種類により、2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルとアルコール溶媒とが反応し、エステル交換反応が進行する場合があり、2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルとはエステル部位が異なるトランス−2,2−ジメチル−3−(ヒドロキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルを含む反応混合物が得られる。特に、アルカリ金属化合物として、アルカリ金属水酸化物またはアルカリ金属アルコラートを用いた場合には、かかるエステル交換反応が進行しやすく、例えば、2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エチルとナトリウムメチラートとを、メタノール溶媒中で反応させた場合には、トランス−2,2−ジメチル−3−(ヒドロキシメチル)シクロプロパンカルボン酸メチルを含む反応混合物が得られる。
【0015】
かかる反応混合物を、そのまま酸化反応に用いてもよいが、該反応混合物中には、用いたアルカリ金属化合物等も含まれているため、該反応混合物を酸処理した後に、次の酸化反応に用いることが好ましい。また、アルコール溶媒が含まれる場合は、次の酸化反応においてアルコール溶媒が酸化反応を受けてしまうため、アルコールを除去した後、次の酸化反応に用いることが好ましい。アルコール溶媒の除去は、反応混合物を濃縮することにより実施してもよいし、反応混合物に、必要により水に不溶の有機溶媒を加え、水で洗浄することにより実施してもよい。反応混合物を濃縮して、アルコール溶媒を除去する場合、濃縮時のトランス−2,2−ジメチル−3−(ヒドロキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルの安定性の点で、反応混合物を酸処理した後、アルコール溶媒を濃縮により除去することが好ましい。上記酸処理を行なうことにより、シス−2,2−ジメチル−3−(ヒドロキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルが6,6−ジメチル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキサン−2−オンに変換されることもある。後述するように、6,6−ジメチル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキサン−2−オンはアルカリ金属亜硫酸水素塩の水溶液による処理で容易に除去できるため、特に、2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルのトランス体とシス体の混合物を用いた場合には、酸処理を行なうことが好ましい。
【0016】
酸処理は、得られた反応混合物と、酸とを混合することにより実施される。酸としては、通常、例えば塩酸、硫酸等の鉱酸が用いられる。その使用量は、アルカリ金属化合物に対して、通常0.8〜5モル倍の範囲である。
【0017】
処理温度は、通常−20〜70℃の範囲であり、その進行は、例えばpH試験紙、pH計、酸塩基滴定等の通常の分析手段により確認することができる。
【0018】
酸処理後、アルコール溶媒を留去することにより、トランス−2,2−ジメチル−3−(ヒドロキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルを含む混合物が得られる。該混合物は、そのまま、次の酸化反応に供してもよいし、必要により水に不溶の有機溶媒の存在下、水洗処理した後に酸化反応に供してもよい。
【0019】
次に、2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルのトランス体またはトランス体とシス体の混合物とアルカリ金属化合物との反応により得られる反応混合物の酸化反応について説明する。
【0020】
酸化反応は、第1級アルコールの水酸基を酸化して、対応するアルデヒドを与える反応であれば、特に限定されない。例えば、ニトロキシラジカル化合物の存在下に酸化剤を作用させる方法(例えば、特開2004−99595号公報参照。)、ジメチルスルホキシドを用いる方法(例えば、Tetrahedron 57, 6083, (2001))、クロム酸ピリジニウムを用いる方法(例えば、HETEROCYCLES、23、2859(1985))等が挙げられる。工業的に好ましくは、ニトロキシラジカル存在下に酸化剤を作用させる方法であり、以下、かかる酸化反応について説明する。
【0021】
ニトロキシラジカル化合物としては、例えば2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−アセトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−プロピオニルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル等が挙げられる。
【0022】
かかるニトロキシラジカル化合物は、市販されているものを用いてもよいし、例えば特開2002−145861公報等の公知の方法に準じて製造したものを用いてもよい。
【0023】
ニトロキシラジカル化合物の使用量は、2,2−ジメチル−3−(ヒドロキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルに対して、通常、0.01〜10モル%、好ましくは、0.1〜1モル%の範囲である。
【0024】
酸化剤としては、次亜ハロゲン酸類、亜ハロゲン酸類、過酸、N−ハロスクシンイミドおよびトリクロロイソシアヌル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種が用いられる。
【0025】
次亜ハロゲン酸類としては、例えば次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜臭素酸ナトリウム等が挙げられる。亜ハロゲン酸類としては、例えば亜塩素酸、亜臭素酸、亜塩素酸ナトリウム等が挙げられる。過酸としては、例えばm−クロロ過安息香酸等が挙げられる。N−ハロスクシンイミドとしては、例えばN−クロロスクシンイミド、N−ブロモスクシンイミド等が挙げられる。
【0026】
酸化剤は、それぞれ単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。また、そのまま用いてもよいし、例えば水溶液として用いてもよい。
【0027】
酸化剤の使用量は、あまり多いと副反応が進行しやすいため、2,2−ジメチル−3−(ヒドロキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルに対して、通常0.5〜2.5モル倍、好ましくは0.75〜1.8モル倍の範囲である。
【0028】
本反応は、通常、上記酸処理後の混合物、ニトロキシラジカル化合物および酸化剤を、接触、混合させることにより実施され、その混合順序は特に制限されない。
【0029】
本反応は、通常は反応系内のpHをpH6〜13、好ましくはpH6〜10、より好ましくはpH8〜10の範囲に保って行われる。反応系内のpHを制御するため、例えば鉱酸、有機酸、炭酸水素塩、リン酸塩等を用いて上記pHに調整しながら反応を実施することが好ましい。鉱酸としては、例えば塩酸、硫酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられ、有機酸としては、例えば酢酸、プロピオン酸、安息香酸、p−トルエンスルホン酸等が挙げられる。炭酸水素塩としては、例えば炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩が挙げられ、リン酸塩としては、例えばリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム等のアルカリ金属リン酸塩が挙げられる。かかる鉱酸、有機酸、炭酸水素塩、リン酸等は、そのまま用いてもよいし、例えば水溶液として用いてもよい。
【0030】
また、本反応はハロゲン化物塩の共存下で行ってもよく、かかるハロゲン化物塩としては、例えば臭化カリウム、臭化ナトリウム等が挙げられる。その使用量は、酸化剤に対して、通常1〜30モル%、好ましくは5〜25モル%である。
【0031】
本反応は、通常、溶媒の存在下で実施される。溶媒としては、反応に不活性な溶媒であれば特に制限されず、例えば、水;トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル等のエーテル溶媒;メチルイソブチルケトン、メチルtert−ブチルケトン等のケトン溶媒;等の単独または混合溶媒が挙げられる。かかる溶媒の使用量は、特に制限されない。
【0032】
反応温度は、通常−5℃〜50℃の範囲である。反応の進行は、例えばガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、NMR、IR等の通常の分析手段により確認することができる。
【0033】
反応終了後、反応液中に残存する酸化剤を、例えばチオ硫酸ナトリウム等の還元剤で分解処理した後、必要に応じて水および/または水に不溶の有機溶媒を加え、抽出処理することにより、目的とするトランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルと6,6−ジメチル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキサン−2−オンとを含む有機層が得られる。次のアルカリ金属亜硫酸水素塩の水溶液で処理する反応に供する反応混合物としては、該有機層をそのまま用いることもできるし、濃縮処理等の通常の単離処理を行った後に用いることもできる。もちろん、蒸留、カラムクロマトグラフィー等の通常の精製手段により、さらに精製して用いてもよい。
【0034】
次に、上記酸化反応後の反応混合物をアルカリ金属亜硫酸水素塩の水溶液で処理し、得られる水層を酸、塩基または水溶性アルデヒドで処理し、トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルを取り出す方法について説明する。
【0035】
アルカリ金属亜硫酸水素塩としては、例えば亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム等が挙げられる。アルカリ金属亜硫酸水素塩の水溶液の濃度は特に限定されないが、通常5〜35重量%の範囲である。アルカリ金属亜硫酸水素塩の水溶液は、アルカリ金属亜硫酸水素塩と水とを予め混合してなる溶液として用いてもよいし、上記酸化反応後の反応混合物と固体のアルカリ金属亜硫酸水素塩と水とを混合することにより、反応系中で調整して用いてもよい。
【0036】
アルカリ金属亜硫酸水素塩の使用量は、通常、2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルに対して0.8モル倍以上であればよく、特に上限はない。
【0037】
酸化反応後の反応混合物をアルカリ金属亜硫酸水素塩の水溶液で処理する際には、有機溶媒の非存在下に処理してもよいが、水に不溶の有機溶媒の存在下で処理することが好ましい。かかる水と混和しない有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒;酢酸エチル、安息香酸メチル等のエステル溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化脂肪族炭化水素溶媒;ベンゾニトリル等のニトリル溶媒;ジエチルエーテル等のエーテル溶媒;等の単独もしくは混合溶媒が挙げられる。かかる溶媒の使用量は特に制限されないが、2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルに対して、通常0.5〜10重量倍、好ましくは1〜5重量倍の範囲である。
【0038】
処理温度は、通常0〜80℃、好ましくは10〜50℃の範囲である。
【0039】
かかる処理により、通常、トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルから、2,2−ジメチル−3−[(ヒドロキシ)(スルホ)メチル]シクロプロパンカルボン酸エステルのアルカリ金属塩が生成する。
【0040】
2,2−ジメチル−3−[(ヒドロキシ)(スルホ)メチル]シクロプロパンカルボン酸エステルのアルカリ金属塩は、通常、水溶性であり、処理終了後、分液等の通常の分離操作を施し、処理後の混合物から有機層を分離することにより、水溶液として、2,2−ジメチル−3−[(ヒドロキシ)(スルホ)メチル]シクロプロパンカルボン酸エステルのアルカリ金属塩を得ることができる。必要により、水または有機溶媒を加えて混合した後に、上記分離操作を施してもよい。かかる操作により、通常、6,6−ジメチル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキサン−2−オンやその他の油性不純物は、有機層として除去される。また、得られた水溶液に、水と混和しない有機溶媒を加え、有機層を分離することにより、さらに6,6−ジメチル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキサン−2−オンやその他の油性不純物を除去してもよい。
【0041】
上記各分離操作に用いる有機溶媒としては、処理溶媒として上述した水に不溶の有機溶媒が例示される。
【0042】
得られた2,2−ジメチル−3−[(ヒドロキシ)(スルホ)メチル]シクロプロパンカルボン酸エステルのアルカリ金属塩を含む水層は、通常、そのまま酸、塩基または水溶性アルデヒドによる処理に用いるが、濃縮等の単離操作を施した後に用いてもよい。また、再結晶等の通常の精製操作により、さらに精製して用いてもよい。
【0043】
次に、上述のアルカリ金属亜硫酸水素塩の水溶液で処理して得られる水層の、酸、塩基または水溶性アルデヒドによる処理について説明する。
【0044】
酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸;メタンスルホン酸等のスルホン酸;等が挙げられる。塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;等が挙げられる。水溶性アルデヒドとしては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等が挙げられる。また、これら水溶性アルデヒドの重合物であるトリオキサン、パラホルムアルデヒドやパラアルデヒド等も用いることができる。これらの酸、塩基および水溶性アルデヒドは、いずれもそのまま用いてもよいし、水溶液として用いてもよい。酸、塩基、水溶性アルデヒドのうち、塩基または水溶性アルデヒドを用いることが好ましい。塩基としては、アルカリ金属水酸化物またはアルカリ金属炭酸塩が好ましい。
【0045】
本反応は、通常、水に不溶の有機溶媒と水との2層系で実施する。水の使用量は特に制限されないが、2,2−ジメチル−3−[(ヒドロキシ)(スルホ)メチル]シクロプロパンカルボン酸エステルのアルカリ金属塩に対して、通常0.5〜20重量倍、好ましくは1〜5重量倍の範囲である。水と混和しない有機溶媒としては、アルカリ金属亜硫酸水素塩の水溶液による処理における溶媒として上述した有機溶媒と同様のものが例示され、その使用量は特に制限されない。
【0046】
酸、塩基、水溶性アルデヒドの使用量は、2,2−ジメチル−3−[(ヒドロキシ)(スルホ)メチル]シクロプロパンカルボン酸エステルのアルカリ金属塩1モルに対し、通常0.8〜1.5モル当量である。ここで、モル当量とは、酸のモル数に、その価数を掛けた値を表す。すなわち、2,2−ジメチル−3−[(ヒドロキシ)(スルホ)メチル]シクロプロパンカルボン酸エステルのアルカリ金属塩1モルに対し、例えば、硫酸等の2塩基酸を0.5モル用いた場合の酸のモル当量は1である。
【0047】
処理温度は、通常0〜80℃、好ましくは20〜60℃の範囲である。
【0048】
本処理における混合順序は、特に制限されないが、水に不溶の有機溶媒と、上述のアルカリ金属亜硫酸水素塩の水溶液で処理して得られる水層とを混合し、該混合物を充分に攪拌しながら、酸、塩基および水溶性アルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物を加えていくことが好ましい。塩基を用いる場合には、反応中の水層のpHが11を越えないように塩基を加えていくことが、より好ましい。
【0049】
処理後、分液等の通常の分離操作を施し、反応混合物から水層を分離することにより、有機層として、トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルを得ることができる。必要に応じて、水と混和しない有機溶媒を用いて、さらに水層から、トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルを抽出してもよい。かかる水と混和しない溶媒としては、上述した水に不溶の有機溶媒と同様の有機溶媒が例示される。
【0050】
得られた有機層を濃縮することにより、トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルを単離することができる。また、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の通常の精製手段を用いて、得られたトランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルをさらに精製してもよい。
【0051】
かくして得られるトランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルとしては、例えばトランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸メチル、トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エチル、トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸(n−プロピル)、トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸イソプロピル、トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸(n−ブチル)、トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸イソブチル、トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸(sec−ブチル)、トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸(tert−ブチル)、トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸(n−ペンチル)、トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸(n−ヘキシル)、トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸シクロヘキシル等が挙げられる。なお、上記各化合物においてトランス体とは、シクロプロパン環平面に対して、1位のアルコキシカルボニル基と3位のホルミル基とが互いに反対側にある構造を表す。なお、本発明は、得られる2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルの全てがトランス体である場合に限定されず、2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルとしてトランス体とシス体の混合物を用いたときは、用いた2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルのトランス体/シス体比よりも、得られた2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルのトランス体/シス体比が向上していればよい。
【0052】
2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルのトランス体として、光学活性体を用いた場合には、通常、その立体配置が保持されたトランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルの光学活性体が得られる。
【0053】
ここで、本発明に用いる2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルのトランス体またはトランス体とシス体の混合物を製造するための好ましい態様、すなわち、1−(アシルオキシ)−3−メチル−2−ブテンとジアゾ酢酸エステルとを、金属触媒の存在下に反応させる方法について説明する。(以下、該反応をシクロプロパン化反応と略記する。)
【0054】
金属触媒としては、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸銅(I)、酢酸銅(I)、臭化銅(I)、塩化銅(I)、ヨウ化銅(I)、水酸化銅(I)、トリフルオロメタンスルホン酸銅(II)、酢酸銅(II)、臭化銅(II)、塩化銅(II)、ヨウ化銅(II)、水酸化銅(II)等の1価または2価の銅化合物;酢酸ロジウム(II)、トリフルオロ酢酸ロジウム(II)、トリフェニル酢酸ロジウム(II)等のロジウム化合物;塩化コバルト(II)、臭化コバルト(II)、酢酸コバルト(II)等のコバルト化合物などが挙げられる。好ましくは1価または2価の銅化合物である。
【0055】
また、金属触媒としては、前述の1価または2価の銅化合物と光学活性なビスオキサゾリン化合物とを反応せしめてなる銅錯体(以下、ビスオキサゾリン銅錯体と略記する。)を用いることもできる。かかるビスオキサゾリン銅錯体を用いれば、通常、2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルとして光学活性体が得られる。したがって、トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルを光学活性体として得る目的において、かかるビスオキサゾリン銅錯体を金属触媒として用いてシクロプロパン化反応を実施することが好ましい。
【0056】
光学活性なビスオキサゾリン化合物としては、例えば、ビス[2−[(4S)−tert−ブチルオキサゾリン]]メタン、2,2−ビス[2−[(4S)−tert−ブチルオキサゾリン]]プロパン、1,1−ビス[2−[(4S)−tert−ブチルオキサゾリン]]シクロプロパン、1,1−ビス[2−[(4S)−tert−ブチルオキサゾリン]]シクロヘキサン等の化合物が挙げられる。また、オキサゾリン環の4位の立体配置(4S)が、(4R)に代わった、例えばビス[2−[(4R)−tert−ブチルオキサゾリン]]メタン等の化合物も挙げられる。
【0057】
ビスオキサゾリン銅錯体の調製は、通常、溶媒の存在下、光学活性なビスオキサゾリン化合物と銅化合物とを混合することにより実施される。光学活性なビスオキサゾリン化合物の使用量は、1価または2価の銅化合物に対し、通常0.8〜5モル倍であり、好ましくは0.9〜2モル倍程度の範囲である。
【0058】
また、ビスオキサゾリン銅錯体の調製は、必要により、フッ素化合物の存在下に実施することもできる。より光学活性の高いトランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルを得る目的において、フッ素化合物の存在下に実施することが好ましい。フッ素化合物としては、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム、ヘキサフルオロリン酸カリウム、ヘキサフルオロリン酸銀、ヘキサフルオロリン酸トリチル等のヘキサフルオロリン酸塩;ヘキサフルオロアンチモン酸ナトリウム、ヘキサフルオロアンチモン酸カリウム、ヘキサフルオロアンチモン酸銀、ヘキサフルオロアンチモン酸トリチル等のヘキサフルオロアンチモン酸塩;リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ナトリウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、カリウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、銀テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、リチウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ナトリウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、カリウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、銀テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等のボレート化合物;などが挙げられる。かかるフッ素化合物の使用量は、銅化合物に対して、通常0.8〜5モル倍の範囲である。
【0059】
かかる操作に用いられる溶媒としては、例えばジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル溶媒;などが挙げられる。また、1−(アシルオキシ)−3−メチル−2−ブテンが液体である場合には、1−(アシルオキシ)−3−メチル−2−ブテンを溶媒として用いてもよい。かかる溶媒の使用量は、銅化合物に対して、通常10〜500重量倍の範囲である。
【0060】
ビスオキサゾリン銅錯体の調製操作は、通常、例えばアルゴン、窒素等の不活性ガスの雰囲気下で実施され、その操作温度は、通常−20〜100℃の範囲である。得られたビスオキサゾリン銅錯体は、反応後の溶液をそのまま金属触媒としてシクロプロパン化反応に供することができる。もちろん、反応後の溶液から溶媒を留去した後に用いてもよいし、さらに再結晶等の通常の精製処理により精製した後に用いてもよい。
【0061】
1−(アシルオキシ)−3−メチル−2−ブテンの具体例としては、例えば酢酸3−メチル−2−ブテニル、安息香酸3−メチル−2−ブテニル等が挙げられる。
かかる1−(アシルオキシ)−3−メチル−2−ブテンは、例えばJ.Org.Chem.,55,5312,(1990)等に記載の公知の方法により得られる。
【0062】
ジアゾ酢酸エステルの具体例としては、例えばジアゾ酢酸メチル、ジアゾ酢酸エチル、ジアゾ酢酸n−プロピル、ジアゾ酢酸イソプロピル、ジアゾ酢酸n−ブチル、ジアゾ酢酸イソブチル、ジアゾ酢酸tert−ブチル、ジアゾ酢酸n−ペンチル、ジアゾ酢酸n−ヘキシル、ジアゾ酢酸シクロヘキシル等が挙げられる。
【0063】
ジアゾ酢酸エステルは、例えばOrganic Synthesis Collective Volume 3,P.392等に記載の公知の方法により製造することができる。すなわち、有機溶媒中、グリシンエステル塩酸塩と亜硝酸ナトリウムとを酸触媒の存在下に反応させ、有機層を取得することにより、ジアゾ酢酸エステルの有機溶媒溶液が得られる。有機溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル等のエーテル溶媒;ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒;ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素溶媒;などが挙げられる。また、1−(アシルオキシ)−3−メチル−2−ブテンを有機溶媒として用いてもよい。1−(アシルオキシ)−3−メチル−2−ブテンが常温で液体である場合は、1−(アシルオキシ)−3−メチル−2−ブテンを用いることが好ましい。
【0064】
得られたジアゾ酢酸エステルの有機溶媒溶液は、そのまま後述する1−(アシルオキシ)−3−メチル−2−ブテンとの反応に供してもよいが、脱水処理した後に用いることが好ましい。脱水処理の方法は特に限定されないが、好ましくは共沸脱水である。
【0065】
共沸脱水の条件は、用いる有機溶媒によって異なるが、1−(アシルオキシ)−3−メチル−2−ブテンを有機溶媒として用いる場合の処理温度は、通常−20〜100℃、圧力は、通常0.1〜30kPa程度の範囲である。脱水処理後の混合物に含まれる水分量は、ジアゾ酢酸エステルに対して、通常0.1重量%以下、好ましくは0.05重量%以下である。かかる水分量は、カールフィッシャー水分測定装置を用いる等、通常の水分測定手段により測定することができる。
【0066】
シクロプロパン化反応は、通常、例えばアルゴン、窒素等の不活性ガスの雰囲気下で実施される。混合順序は特に限定されないが、例えば、金属触媒と1−(アシルオキシ)−3−メチル−2−ブテンとの混合物に、上記ジアゾ酢酸エステルの有機溶媒溶液を加えることにより実施される。
【0067】
金属触媒の使用量は、ジアゾ酢酸エステルに対し、金属換算で、通常0.00001〜0.5モル倍、好ましくは0.0001〜0.05モル倍程度の範囲である。
【0068】
1−(アシルオキシ)−3−メチル−2−ブテンの使用量は、ジアゾ酢酸エステルに対し、通常1モル倍以上、好ましくは1.2モル倍以上である。その上限は特になく、例えば1−(アシルオキシ)−3−メチル−2−ブテンが常温で液体である場合には、溶媒をかねて大過剰量用いてもよい。また、例えば、金属触媒として、上記ビスオキサゾリン銅錯体の1−(アシルオキシ)−3−メチル−2−ブテン溶液を用いる場合や、ジアゾ酢酸エステルとして、その1−(アシルオキシ)−3−メチル−2−ブテン溶液を用いる場合には、それらに含まれる1−(アシルオキシ)−3−メチル−2−ブテンも考慮して、適宜、その使用量を決めればよい。
【0069】
反応温度は、特に限定されず、通常0〜120℃、好ましくは5〜100℃の範囲である。
【0070】
シクロプロパン反応後の混合物には、2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルのトランス体またはトランス体とシス体の混合物が含まれており、本発明において、かかる混合物をそのまま塩基との反応に用いてもよいが、蒸留処理等の通常の方法により単離した2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルのトランス体またはトランス体とシス体の混合物を用いることが好ましい。また、精留処理、カラムクロマトグラフィー等の通常の方法により、さらに精製した2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルのトランス体またはトランス体とシス体の混合物を用いることもできる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。なお、各実施例において、ガスクロマトグラフィー内部標準法をGC−IS法と、同じく面積百分率法をGC面百法と、それぞれ略記する。
【0072】
製造例1(ジアゾ酢酸エステルの合成)
窒素置換した反応容器にグリシンエチルエステル塩酸塩340重量部および水566重量部を加え、20℃にて攪拌して完全に溶解させた。次いで酢酸3−メチル−2−ブテニル343重量部を加えた後、8℃まで冷却し、23重量%水酸化ナトリウム溶液6.4重量部を用いてpHを4.7に調整した。その後、内温を8〜12℃、pH4.5〜4.8に保ちながら、35重量%亜硝酸ナトリウム水溶液574重量部と、24重量%クエン酸水溶液37重量部を、同時並行的に10時間かけて滴下した。その後、同温度にて2時間攪拌後、7重量%炭酸ナトリウム水溶液217重量部を滴下し、反応液のpHを9.2とした。トルエン141重量部を加えた後、分液操作で水層を分離することにより、有機層としてジアゾ酢酸エチルを含む溶液735重量部を得た。該溶液をGC−IS法にて分析したところ、ジアゾ酢酸エチルの含量は35.6重量%であった。
得られたジアゾ酢酸エチル溶液をセパラブルフラスコに仕込み、室温にて減圧し、内圧を2kPaとした。内温を徐々に上げていきトルエンを主成分とする留分84重量部を留去した後、窒素にて常圧に戻し、残渣として、ジアゾ酢酸エチルの酢酸3−メチル−2−ブテニル溶液639重量部を得た。該溶液をGC−IS法にて分析したところ、ジアゾ酢酸エチルの含量は35.2重量%であった。ジアゾ酢酸エチルの酢酸3−メチル−2−ブテニル溶液に対する水の含量は0.0064重量%であった。
上記水分量の測定は、平沼産業株式会社製カールフィッシャー電量滴定式水分測定装置AQ−7(発生液:リーデルデハーン社製ハイドラナールクローマットAK、対極液:リーデルデハーン社製ハイドラナールクローマットCG)を用いて行った。
【0073】
製造例2(2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルのトランス体とシス体の混合物の合成)
窒素置換した反応容器に塩化銅(I)0.0957重量部、1,1−ビス[2−[(4S)−(tert−ブチル)−オキサゾリン]]シクロプロパン0.269重量部およびトリチルテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート0.847重量部を加えた後、酢酸3−メチル−2−ブテニル542重量部を加え、20℃にて30分攪拌した。その後、内温を28℃に調整し、製造例1で得られた35.2重量%ジアゾ酢酸エチル溶液1.1重量部を加えて窒素ガスの発生を確認した後、内温を22℃とし、上記ジアゾ酢酸エチル溶液495重量部を6時間かけて滴下した。同温度で30分間攪拌、2,2−ジメチル−3−(アセトキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エチルを含む反応溶液997重量部を得た。該反応溶液をGC−IS法にて分析したところ、2,2−ジメチル−3−(アセトキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エチルの含量は25.6重量%(純分:255重量部)であった。
収率:78%(ジアゾ酢酸エチル基準)
トランス体/シス体比(GC面百法):87/13
光学純度(液体クロマトグラフィー面積比):
トランス体96%e.e.(+体)、シス体33%e.e.(+体)
【0074】
上記反応溶液を5重量%炭酸水素ナトリウム溶液128重量部で3回洗浄後、得られた有機層を1kPaにて蒸留し、117〜120℃の留分のオイル264重量部を取得した。該オイルをGC−IS法にて分析したところ、2,2−ジメチル−3−(アセトキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エチルの含量は91.0重量%であった。
トランス体/シス体比(GC面百法):87/13
光学純度(液体クロマトグラフィー面積比):
トランス体96%e.e.(+体)、シス体33%e.e.(+体)
【0075】
実施例1(2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルのトランス体とシス体の混合物とアルカリ金属化合物との反応および酸処理)
窒素置換した反応容器に、製造例2と同様にして得られた2,2−ジメチル−3−(アセトキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エチルを主成分とするオイル51.6重量部(含量89.2重量%、トランス体/シス体比=87/13)およびメタノール315重量部を加え25℃にて攪拌後、65℃に昇温し、24%ナトリウムメチラートメタノール溶液9.7重量部を添加した。同温にて3時間攪拌した後、20℃まで冷却し、35重量%塩酸4.5重量部を加えた。その後内温66〜80℃にて、メタノールを主成分とする留分324重量部を留去した。得られた残渣にトルエン63重量部、水22重量部を加え、内温85〜110℃にて内容物を還流させた。この際、還流液を水と接触させ、トルエン層のみを反応器へ戻した。得られた内容物をGC−IS法により分析したところ、メタノールの含量は、液量全体に対して0.03重量%であった。
20℃に冷却後、得られた内容物に12.3重量部の水を加え、分液処理後、得られた有機層を20kPa、内温66〜68℃にて還流させた。この際、還流液は水層とトルエン層とに分離したので、水を除去し、トルエン層のみを反応器へ戻した。還流液から水が分離しなくなったことを確認した後、常圧に戻すことにより還流を停止させ、トランス−2,2−ジメチル−3−ヒドロキシメチルシクロプロパンカルボン酸メチルを含むトルエン溶液93.7重量部を取得した。該トルエン溶液をGC−IS法により分析したところ、各成分の含量は以下のとおりであった。
【0076】
トランス−2,2−ジメチル−3−ヒドロキシメチルシクロプロパンカルボン酸メチル:30.7重量%(純分:28.8重量部)、収率97.8%(トランス−2,2−ジメチル−3−(アセトキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エチル基準)
6,6−ジメチル−3−オキサビシクロ[3.1.0]ヘキサン−2−オン:3.6重量%
シス−2,2−ジメチルー3−ヒドロキシメチルシクロプロパンカルボン酸メチル:0.4重量%。
【0077】
実施例2(実施例1で得られた反応混合物の酸化反応)
窒素置換した反応容器に、実施例1で得たトランス−2,2−ジメチル−3−ヒドロキシメチルシクロプロパンカルボン酸メチルを含むトルエン溶液86.7重量部(純分:26.6重量部)、50重量%2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルのトルエン溶液0.0534重量部、5重量%炭酸水素ナトリウム水溶液17.8重量部を加え、攪拌しながら、内温0℃に冷却した。ここに、気層部に窒素ガスを通気させながら、12重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液134.7重量部をpH9〜10の範囲で20時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で3.5時間攪拌した。得られた反応液に、20重量%チオ硫酸ナトリウム水溶液4.8重量部を加え、1時間攪拌した。静置後、分液処理し、トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸メチルを含むトルエン溶液89.3重量部を得た。該トルエン溶液をGC−IS法により分析したところ、各成分の含量は以下のとおりであった。
【0078】
トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸メチル:28.1重量%(純分:25.1重量部)、収率93.7%
6,6−ジメチル−3−オキサ−2−オキソビシクロ[3.1.0]ヘキサン:3.5重量%
シス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸メチル:0.2重量%
【0079】
実施例3(実施例2と同様にして得られた反応混合物のアルカリ金属亜硫酸水素塩水溶液処理および塩基処理)
窒素置換した反応容器にトランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸メチル45.0重量部を含むトルエン溶液161.6重量部(不純物として、6,6−ジメチル−3−オキサ−2−オキソビシクロ[3.1.0]ヘキサンを3.5重量%含む。)と水50.3重量部とを混合し、内温25℃で、35重量%亜硫酸水素ナトリウム水溶液102.8重量部を6時間かけて滴下し、同温度にて1時間攪拌した。有機層と水層を分離し、得られた水層にトルエン67.5重量部を加え、50℃に昇温した。その後、23重量%水酸化ナトリウム溶液56.2重量部を2時間かけて滴下し、同温度で0.5時間攪拌した。滴下終了後の水層のpHは9.8であった。有機層と水層とを分離した後、得られた水層にトルエン22.5重量部、23重量%水酸化ナトリウム水溶液2.0重量部を加えて、50℃でpH10.0に調整し、0.5時間攪拌した。有機層と水層とを分離した。pH9.8で分取した有機層と、pH10.0で分取した有機層とを合一し、水11.3重量部、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール0.045重量部を加えて洗浄した。分液処理後、トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸メチルを含むトルエン溶液136.7重量部を得た。
<GC−IS分析>
トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸メチルの含量は、31.8重量%であり、その回収率は96.6%であった。
6,6−ジメチル−3−オキサ−2−オキソビシクロ[3.1.0]ヘキサンの含量は、0.65重量%であり、その除去率は85%であった。
<GC面百>
トランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸メチル:
(処理前)80.7% (処理後)93.6%
【0080】
なお、上述した回収率および除去率とは、それぞれ、以下の式により定義される値である。
【0081】
回収率(%)=塩基処理後混合物中のトランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルの重量÷アルカリ金属亜硫酸水素塩水溶液処理前混合物中のトランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルの重量×100
【0082】
除去率(%)=100−(塩基処理後混合物中の6,6−ジメチル−3−オキサ−2−オキソビシクロ[3.1.0]ヘキサン重量÷アルカリ金属亜硫酸水素塩水溶液処理前混合物中の6,6−ジメチル−3−オキサ−2−オキソビシクロ[3.1.0]ヘキサンの重量×100)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルのトランス体またはトランス体とシス体の混合物を、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属アルコラートからなる群から選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属化合物と反応させ、得られる反応混合物を酸化反応に付し、次いで、得られる反応混合物をアルカリ金属亜硫酸水素塩の水溶液で処理し、得られる水層を酸、塩基または水溶性アルデヒドで処理することによるトランス−2,2−ジメチル−3−ホルミルシクロプロパンカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項2】
アルカリ金属化合物が、炭素数1〜6のアルカリ金属アルコラートまたはアルカリ金属炭酸塩である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
酸化反応が、ニトロキシラジカル化合物の存在下で反応混合物に酸化剤を作用させる反応である請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
酸化剤が、次亜ハロゲン酸塩、N−ハロスクシンイミド、トリクロロイソシアヌル酸およびヨウ素からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルのトランス体またはトランス体とシス体の混合物が、1−(アシルオキシ)−3−メチル−2−ブテンとジアゾ酢酸エステルとを金属触媒の存在下に反応させて得られる化合物である請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
ジアゾ酢酸エステルに対して水分量が0.1重量%以下の条件下、1−(アシルオキシ)−3−メチル−2−ブテンとジアゾ酢酸エステルとの反応を実施する請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルのトランス体またはトランス体とシス体の混合物が、1−(アシルオキシ)−3−メチル−2−ブテンとジアゾ酢酸エステルとを含んでなる組成物と金属触媒とを作用させて得られる化合物である請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
1−(アシルオキシ)−3−メチル−2−ブテンとジアゾ酢酸エステルとを含んでなる組成物に含まれる水分量が、式(5)で示されるジアゾ酢酸エステルに対して0.1重量%以下である請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
1−(アシルオキシ)−3−メチル−2−ブテンとジアゾ酢酸エステルとを含んでなる組成物が、1−(アシルオキシ)−3−メチル−2−ブテン中、グリシンエステル塩酸塩と亜硝酸ナトリウムとを酸触媒の存在下に反応させ、得られる有機層を脱水処理してなる組成物である請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
脱水処理が、共沸脱水である請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
1−(アシルオキシ)−3−メチル−2−ブテンとジアゾ酢酸エステルとを含んでなり、ジアゾ酢酸エステルに対して水分量が0.1重量%以下である組成物。
【請求項12】
1−(アシルオキシ)−3−メチル−2−ブテン中、グリシンエステル塩酸塩と亜硝酸ナトリウムとを酸触媒の存在下に反応させ、得られる有機層を脱水処理してなる請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
脱水処理が、共沸脱水である請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
2,2−ジメチル−3−(アシルオキシメチル)シクロプロパンカルボン酸エステルのトランス体またはトランス体とシス体の混合物を、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属アルコラートからなる群から選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属化合物と反応させて得られる反応混合物を、酸処理した後に酸化反応に付す請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−69145(P2008−69145A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−212731(P2007−212731)
【出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】