説明

トランスデューサ角度調節機構を有する超音波骨折治療器

【課題】本発明は、超音波骨折治療器を用いた療法を行う場合、患者が医療機関にて処方された角度に超音波トランスデューサを装着し、治療中に角度を保持するのが難しいという問題点を解消するものである。患部へ適切に超音波を照射することにより、効率的に治療を行うことが期待できる。
【解決手段】本発明は、トランスデューサから生体に超音波を照射し患部を治療する超音波治療装置であり、トランスデューサの照射角度を調節、保持できる機構を備えることを特徴とする超音波骨折治療装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波骨折治療器に関し、特に、トランスデューサ角度調節機構を有する超音波骨折治療器に関する。
【背景技術】
【0002】
骨癒合促進のために用いられている超音波骨折治療器は、超音波トランスデューサから均一な超音波を患部へ照射することにより治療を行っている。超音波は、安全で簡便な物理療法として一般的に診断や治療に使用されている。一方で、超音波の照射方向はトランスデューサの装着位置や装着角度により容易に変わってしまうので、この場合には、患部へ適切に超音波を照射できないという問題があった。特にギブス固定を行わない骨折部位への超音波照射の際には、患者が医療機関にて処方されたとおりの位置と角度で超音波トランスデューサを装着することは困難であり、トランスデューサの装着位置や角度にずれが発生する場合があった。例えば、大腿骨や上腕骨では、体の他の部位に比較して軟部組織が厚いため、超音波照射部位と方向が不正確になりやすく、X線単純写真だけで照射部位を決定するのは不十分であるという報告がある(非特許文献1)。
【0003】
したがって、適切な位置で超音波を患部へ照射する方法、さらにはトランスデューサの照射位置ズレを検出すると共に正確な照射位置を可能とする方法の開発が重要な課題であった。
【0004】
非特許文献1では、超音波を患部に正確に照射するために、超音波画像診断装置で体内を観察し、骨折部位に照射できるようトランスデューサの設置位置を変える方法が提案されているが、これは超音波画像診断装置などの高コストで大きい装置が必要な手法であった。
【0005】
特許第2790777号公報(特許文献1)には、生体に対して超音波を照射し、その反射波を受信することにより骨表の深さ位置の検出装置に関する技術が開示されている。しかしこれは、骨表の深さ位置を正確に検出するための方法について記載されたものであって、二次元方向の骨の位置を検出する方法ではない。
【0006】
特表平10−509605号公報(特許文献2)には、治療前に骨へ検査用超音波を照射し、その反射波を受信することによって治療用超音波強度を最適化する超音波治療器が開示されている。この技術により治療場所に応じた治療用超音波の強度変化が可能となったが、トランスデューサの位置ズレ等による治療患部からの超音波照射ズレを検出できない等の問題があった。
【0007】
特開2000−325383号公報(特許文献3)も治療用超音波強度の最適化に関する特許である。この特許では、検査用超音波を用いるのではなく、治療に用いる超音波を照射し、反射波を受信する超音波治療器である。この技術には超音波画像診断装置に用いるようなプローブと大掛かりな装置構成が必要であり、コストや場所について制限が大きかった。
【0008】
特開平10−179575号公報(特許文献4)には、ステッピングモータによりトランスデューサを動かし、エコーを検出し、骨粗鬆症を診断する装置が開示されている。この特許ではエコーの最大点を検出する特許であり、照射した超音波に対して、照射位置や角度によっては骨以外で反射した超音波の信号が強くなる場合もあり、骨に超音波が当たっているかを判断することができない問題があった。
【0009】
このように、従来の技術では、治療用超音波を正確に患部に照射するために必要なトランスデューサの照射位置の正否を簡便な装置で確認すること、さらに適切に患部に照射することが不可能であった。
【0010】
【非特許文献1】第9回 超音波骨折治療研究会 要旨 IV−2、平成18年1月21日開催
【特許文献1】特許第2790777号公報
【特許文献2】特表平10−509605号公報
【特許文献3】特開2000−325383号公報
【特許文献4】特開平10−179575号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
超音波骨折治療器を用いて治療を行う場合、X線画像等の2次元画像診断によりトランスデューサの装着位置を決定する方法が一般的である。この際、体表面形状や体表面形状の個人差等により、装着時、または治療中にトランスデューサの装着角度にズレが発生して、適切な超音波照射位置に超音波照射できない場合があった。この際には、医療機関で、適切な超音波照射位置を確保するため、体表でのトランスデューサの装着位置を修正する等の処置が必要であった。
【0012】
本発明は、適切な超音波照射位置を確保するのが難しいという問題点を解消するものであり、トランスデューサの照射角度を調節及び/又は保持できる機構を備えることによって、患部の適切な位置へ超音波照射を可能とすることを目的とする。
また、本発明の治療装置を用いることにより、患部へ適切に超音波を照射することが容易となり、効率的に治療を行うことが期待できる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、かかる課題について鋭意検討した結果、トランスデューサを備え、該トランスデューサから生体に超音波を照射し患部を治療する超音波治療装置において、該トランスデューサの超音波照射角度を可変可能な角度調節機構を備えることで上記課題を解決できることを見出したものである。
【0014】
また、本発明は、トランスデューサを備え、該トランスデューサから生体に超音波を照射し患部を治療する超音波治療装置において、該トランスデューサの超音波照射角度を可変可能な角度調節機構を備え、該トランスデューサから照射された超音波の反射波を該トランスデューサで受信し、受信信号に基づいて照射角度を決定する制御手段を備えることを特徴とする超音波治療装置を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、該制御手段が、予め決定された基準信号を記録する記録手段を備え、該トランスデューサの超音波照射角度を可変して超音波照射することにより得られる反射波の受信信号と該記録手段に記録された基準信号とを比較する比較・確認手段を備え、両信号が所定範囲内となるように該トランスデューサの照射角度を決定することを特徴とし、更に、該比較・確認手段が、反射波の受信信号強度、受信信号時間幅、及び受信信号遅延時間の何れか1つ以上の信号に基づいて比較する手段であることを特徴とする超音波治療装置を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、該角度調節機構が、ステッピングモータ、ブレーキモータ、又は変速ギアを有するAC/DCモータを備えた回転調節手段であることを特徴とする超音波治療装置を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、該トランスデューサ及び該角度調節機構の一部を筐体内部に備え、該筐体内に超音波伝播物質が充填されていることを特徴とする超音波治療装置を提供し、更に該超音波伝播物質が水であることを特徴とする超音波治療装置を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、該筐体の体表接触面が超音波を伝播する軟質材で構成されることを特徴とする超音波治療装置を提供し、更に、該軟質材が、シリコンゴム、ラテックスゴム、またはポリウレタンであることを特徴とする超音波治療装置を提供するものである。
【0019】
また、本発明は、該筐体内のトランスデューサの角度が変化するとき、該筐体の上部に設けられた角度センサが具備する導電性材料と該トランスデューサを保持するトランスデューサ保持具の上面との接触面積の変化、又は該導電性材料と該トランスデューサ保持具の上面との接触位置の変化によって起こるインピーダンス、電流、及び電圧の何れかの変化によって該トランスデューサの角度が検出されることを特徴とする超音波治療装置を提供し、更に該導電性材料が二つ以上に分割されている、及び/又は該導電性材料がパターン化されていることを特徴とする超音波治療装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によって、トランスデューサの角度調節が可能になり、治療用超音波を簡便かつ正確に患部に照射することが可能となる。体表に対して水平にトランスデューサを設置して超音波を照射すると、体表の形の影響により、超音波が骨折部位に照射できない場合があるが、本発明の回転機構によって、トランスデューサの角度を体表接触面に対して変化させることができるので、体表に対してあらゆる角度に存在する骨折部位に超音波を照射することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の超音波骨折治療器は、トランスデューサの超音波照射角度を任意に調節できる機構を有したトランスデューサ固定手段で実現する。本発明によるトランスデューサの角度調節は、骨折患部へ超音波を照射した時の反射波を受信することにより照射位置を特定すると共に、その情報を元にトランスデューサの角度を調節及び固定することができる。また、処方時の受信信号を基準信号として記録し、後の治療毎の受信信号と比較することにより、治療毎に患部へ適切に超音波が照射されていることも確認できる。
【0022】
以下、本発明を図面に示す実施例に基づいて説明する。なお、本発明は図示の実施例に限定されるものではない。
図1は、本発明を実現する超音波骨折治療器の適応例を、大腿骨骨折治療を例に示すものであり、また、図2は装置構成要素の一例である。
【0023】
大腿骨2の骨折部位3付近の処方された体表位置に固定手段8を用いてトランスデューサ固定手段16を装着する。トランスデューサ固定手段16の中にトランスデューサ4が設置されている。固定手段8にはトランスデューサ固定手段16が接続されている。固定手段8は、トランスデューサ固定手段16を体表21に固定できるものであればよく、例えばベルト等の手段が挙げられる。このとき、トランスデューサ固定手段16と体表21との間に、超音波伝播物質6を介在させる。ケーブル7はトランスデューサ4と制御装置5の間での電気信号の伝達を行い、角度調節用ケーブル15はトランスデューサ固定手段16と制御装置5の間で電気信号の伝達を行う。
【0024】
制御装置5は、制御手段9、発信回路10、受信回路11、記録手段12、電力供給手段13、表示手段14、角度制御手段33、及び比較・確認手段34を備える。トランスデューサ4の照射する超音波の特性は、発信回路10からケーブル7を通して伝達される電気信号で決定される。トランスデューサ4から照射された超音波は軟部組織1(脂肪、筋肉)を通して骨折部(骨)へ照射されるが、超音波は音響インピーダンスが異なる境界で反射される。この反射された超音波をトランスデューサ4が感知した場合に生じる電気信号は、ケーブル7を通して、受信回路11にて検出し、記録手段12にて保存される。電力供給手段13は内蔵電源もしくは外部の電源供給を受けることが可能で、電力を供給する手段であり、超音波骨折治療器の駆動源となる。表示手段14は、制御装置5の状態、超音波の照射状況等の情報を表示して提供する手段である。角度調節用ケーブル15は、制御装置5とトランスデューサ固定手段16を接続している。角度制御手段33より、角度調節用ケーブル15を通して、トランスデューサ固定手段16内のトランスデューサ4の角度を調節するため、下記記載の駆動機構24へ電気信号を送信する。また、角度制御手段33は、角度調節用ケーブル15を通して、下記記載の角度センサ25からの信号を受信することも可能である。比較・確認手段34はトランスデューサ4から照射した超音波が骨に照射されていることを確認する手段である。以上の要素は、制御手段9によって制御される。例えば、制御手段9や比較・確認手段34はマイコン及び周辺回路を用いて構成できる。記録手段12は半導体メモリが一般的である。表示手段14はLCDを用いる他、より簡単な手段で患者に情報を提供するのであればLEDなどでも構成できる。
【0025】
図3、図4、図5に本発明の一態様であるトランスデューサ固定手段16の横面(2方向)及び上面の概略断面図を示す。トランスデューサ固定手段16は筐体であって、トランスデューサ固定手段16の内部にはトランスデューサ22が設けられている。トランスデューサ22は、トランスデューサ保持具30に、揺動しないように保持されている。本実施例では、トランスデューサ保持具30がトランスデューサ22を筒状に取り囲むように保持する態様を用いた。トランスデューサ22にはケーブル7が接続されている。トランスデューサ保持具30には、トランスデューサ22の角度を変化させることができる回転機構が接続されており、角度調節用ケーブル15が、回転機構と接続されている。回転機構としては、例えば回転軸23に接続した駆動機構24、人工筋肉等が挙げられる。本実施例での最大可変範囲は、トランスデューサの超音波照射面を水平に置いた面に対して回転軸を中心に±30°であり、最小0.5°ずつの可変とした。本実施例で駆動機構24としては、ステッピングモータが好ましい。ステッピングモータは、印加パルスの数により容易に回転と固定、また印加パルス数から角度の検出が可能である。
【0026】
その他の回転機構の例としては電磁ブレーキを利用して安定した固定が可能であるブレーキモータ、変速ギアを有するAC/DCモータなどが挙げられる。モータを用いない回転機構の例は人工筋肉等の電気的な負荷により伸縮可能な素材の利用が挙げられる。人工筋肉を用いた場合、モータよりも小型で軽い回転機構を構築できる利点もある。但し、ブレーキモータや変速ギアを有するAC/DCモータ、又は人工筋肉等を用いた場合、トランスデューサ22の角度調節及び固定は回転機構で行うことが可能だが、角度検出機構が別途必要となる。
【0027】
図6、図7、図8にブレーキモータを回転機構として用いた、トランスデューサ固定手段16の概略断面図を示す。図6、図7は共に横面図(2方向)で、共に体表に対して水平な状態を示しており、図8は図7から角度を変化させた状態を示している。この態様では、角度検出機構として角度センサ25を用いて、角度を確認する。角度センサ25を用いる場合、角度調節用ケーブル15は、駆動機構24のみでなく、角度センサ25にも接続される。角度センサ25の下面は、トランスデューサ保持具30の上面に接触している。角度センサ25は、トランスデューサ固定手段16の上面を覆うセンサ上部35で、トランスデューサ保持具30の上面に対する動きに一定の自由度を保ったまま固定されている。トランスデューサ保持具30が回転すると、角度センサ25はトランスデューサ保持具30の上面との接触を維持しながら、上面を滑るように移動する。このとき、角度センサ25とトランスデューサ保持具30の上面の接触面積、または接触部分が変化する。このときの、角度センサ25とトランスデューサ保持具30の間の電気的インピーダンスからトランスデューサ22の傾き方向と角度を検出することができる。電気的インピーダンスの他にも、同様に電気的特性を用いる方法として、電流や電圧を測定することによっても容易に検出できる。角度センサ25の動作のため、センサ上部35はゴムなどの柔軟性に富んだ材料で構成されていることが好ましい。また、角度センサ25は導電性物質で構成することが可能である。角度センサ25の具体的な使用形態としては、導電性物質をパターン化させた回路36と角度変化測定点37を複数個備える形態(図13)や、導電性物質を複数に分割し、それぞれ面全体を角度変化測定面38として用いる形態(図14)が挙げられる。図13及び図14は、トランスデューサ保持具30の上面と接触する、角度センサ25の接触面を示す。角度変化測定点37や角度変化測定面38をより多く備えることによって、さらに細かいトランスデューサの傾き方向や角度検出が可能となる。最も加工、実現が容易な形態は、角度センサ25の導電性物質(角度変化測定面38)を、回転軸23と平行に二つに分割し、二つの角度変化測定面38のトランスデューサ保持具30上面との接触面積差から電気的インピーダンス、電流、又は電圧の何れかにより、トランスデューサの傾き方向と角度を検出する方法である。その他、角度を検出する方法として視覚的な方法は、トランスデューサ固定手段16に角度メモリ(図示せず)を取り付け、目視で確認できる機構なども挙げられる。また、角度センサ25を備える場合は、角度センサ25によって、モータ等を休止させた状態でも、その時の調節された角度を検出することもできる。
【0028】
トランスデューサ固定手段16と体表21との接触面26は軟素材が好ましく、例えばシリコンゴム、ラテックス、ポリウレタン等を用いることにより、体の形状に対応して固定できる。体表接触面26にはポリウレタンを用いるのが好ましい。ポリウレタンは軟素材であることの他に、材料としての粘着特性があり、トランスデューサ固定手段16を体表に設置する時に超音波伝搬物質6をポリウレタンに塗布すると、容易に、且つ従来の超音波ゲルをトランスデューサに塗布して設置するよりも体表へ強く、柔軟に設置することが可能となる。そのため、治療中に超音波照射位置がずれることを防ぐことができる。但し、ポリウレタンは超音波を吸収する特性があり、骨からの反射信号が微弱なとき、信号が受信できない場合が起こりうる。反射信号が微弱な場合は、体表接触面26にシリコンゴムを用いるのが好ましい。シリコンゴムには粘着特性は無いが、ポリウレタンと比べて超音波透過性が高く、また軟素材であるため、体表への柔軟な設置も可能である。
【0029】
トランスデューサ固定手段16の内部はトランスデューサ22の角度変化を可能とするために、体表接触面26とトランスデューサ22の間に空間を設けているが、この空間には超音波伝搬物質27を注入することにより超音波の伝搬を可能にしている。トランスデューサ固定手段16を傾けても超音波伝搬物質27が漏れないように、トランスデューサ固定手段16は、超音波伝搬物質27を密閉できる構造になっており、また、容易に超音波伝搬物質27を交換できる構造を有している。交換できる構造としては、トランスデューサ固定手段16に超音波伝搬物質27の出入口(図示せず)を設けておけばよい。例えば、出入口としては、トランスデューサ固定手段16の上面28やセンサ上部35がスライドしたり、上下に開く蓋が設けられていたり、トランスデューサ固定手段16の上面28やセンサ上部35、または側面29に孔が設けられる等、トランスデューサ固定手段16の内部と外部で容易に超音波伝搬物質27が交換できるような構造が挙げられる。使用していない間、超音波伝搬物質27を排出しておくことにより、トランスデューサ22の劣化を最小限にすることができる。トランスデューサ固定手段16内に入れる超音波伝搬物質27は、例えば水や超音波ゲル、油等が挙げられるが、粘度が小さい水を用いる方がトランスデューサ22の角度変化をスムーズに行うことが容易となることから、水を選択することが好ましい。また、特に脱気した水であれば気泡による超音波の減衰を抑えることができるため、より好ましい。
【0030】
トランスデューサ固定手段16は、常に水平に使用されるとは限らず、装着する体表の位置によって、上下が逆になる場合や、斜めに傾いた状態で使用される場合がある。このような状態で本発明の治療器を使用する場合にも、トランスデューサの体表側に向いた面と体表接触面との間は、超音波が十分に伝搬するように、超音波伝搬物質27が介在している。トランスデューサ固定手段16の向きにかかわらず、超音波の伝播経路に超音波伝搬物質27の存在を確保すべく、超音波伝搬物質27は、トランスデューサ固定手段16内を満たすように注入しておくことが好ましい。
【0031】
トランスデューサ固定手段16の内部に超音波伝搬物質27を注入したとき、トランスデューサ22表面や接触面26のトランスデューサ側に気泡が付着する場合がある。気泡により超音波が大きく減衰することが予想されるため、トランスデューサ固定手段16内部に気泡を除けるようにへら31を設けておいてもよい。へら31には、例えば回転軸32が取り付けられている。回転軸32をモータ、或いは患者が直接手で回転させることにより、へら30が気泡を除去する。へら31はトランスデューサ22と体表接触面26に接触した場合、柔軟に動く必要があり、ゴム等の軟素材であることが好ましい。図9はへらを取り付けたトランスデューサ固定手段の概略断面図を示している。
【0032】
本発明の治療器を用いて治療を開始する際は、次の手順によって行う。予め医療機関等での処方設定時、本発明の超音波骨折治療器のトランスデューサ4から、検査用超音波を照射し、皮膚、筋肉、及び/又は骨等の各組織で反射される超音波を同トランスデューサ4により受信する。骨からの反射波が得られ、かつ表示手段14に示された解析結果より、医療従事者が適切な結果、すなわちX線写真と比較して目的の治療部位で反射された超音波を検出できたと判断した場合、各組織で反射された超音波を記録手段12に記録し、基準信号として扱う。また、この時のトランスデューサの角度情報も記録手段12に記録される。骨からの反射波が得られない場合や、医療従事者が適切な結果ではないと判断した場合、トランスデューサの角度を調節して再度検査用超音波を照射する。以上の初期設定については、図10にフローチャートとして示す。患者は信号を記録した装置を用いて治療を行う。または記録メディア(図示せず)を用いて、前記基準信号及び/又は角度情報を患者が用いる装置へコピーして治療に用いることも可能である。
【0033】
検査用超音波は、超音波の周波数1−3MHz、バースト幅は5−200μs、繰り返し周波数は10Hz−10kHz、超音波出力の時間平均と空間平均は、トランスデューサ固定手段を通して0.5−100mW/cmで調整可能である。本実施例では、1.5MHzの周波数の超音波で、バースト幅は20μs、繰り返し周波数は1kHz、超音波の時間平均と空間平均は3mW/cmを用いた。
【0034】
検査用超音波は、人体を減衰が少なく深部まで伝播する超音波の周波数を用いるのがよい。超音波の周波数が小さいほど減衰が少なく、深部まで伝搬するが、周波数が小さすぎると体内でキャビテーションが発生する閾値が低くなり、体内に損傷を与える危険性もあるため、前記範囲で用いることが好ましい。バースト幅は、例えば、一般に普及している超音波画像診断装置では、画像分解能を向上させるために、超音波の信号は1μs、もしくはそれ以下の短パルス波を用いているが、この場合には体の動きや電場、磁場等の様々な外的要因によるノイズの影響を受けやすく、本発明が解決しようとしている課題であるトランスデューサの照射位置を正確に把握することが困難である。つまり、画像診断検査の際には、リアルタイムで常に信号を受信して画像として可視化することが目的であるため、受信信号にノイズが混入した際にも大きな問題にはならない。一方で本発明が解決しようとしている課題である治療用超音波照射装置のトランスデューサの照射位置を正確に把握するという目的においては、照射位置における受信信号を比較することが重要であるため、その信号精度の向上が重要であって極力ノイズ信号を除去する必要がある。本発明でも、分解能を向上させるため、短くするする必要があるが、一定幅、例えば20μsのパルス幅を有した信号を発信することにより、ノイズ信号の影響を除去して対象物からの反射信号を検出する精度を向上させることができる。繰り返し周波数は、用いるマイコン等の性能に応じて調節すれば良いが、周波数を1Hzとし、1°の変化ごとに10回のバースト波の受信信号を取得し、±15°の範囲で反射波を検出した場合、検査終了まで5分以上かかる。患者の患部の体勢が変われば、超音波の照射方向などが変わるため、検査中及び治療中、患者は患部の体勢を極力維持することが好ましいが、検査時間が長くなれば体勢を維持することは困難であるため、検査精度に影響する可能性が懸念されるので、検査時間を短くするためにも検査用超音波の繰り返し周波数は高くすべきである。一方で過度に高速にすると信号処理を行う負荷が大きくなり、制御手段9を構成する演算装置等が大きくなることや高コスト化してしまう。そのため、前記範囲の繰り返し周波数を用いることが好ましい。検査用超音波を照射するときの、トランスデューサの角度は、例えばトランスデューサを0.5°ずつ変化させ、各角度で最大10秒の検査用超音波の照射と検出を行うことが好ましい。検査の状況に応じて検査時の角度変化範囲等は調整すれば良いが、前記理由などにより、例えば、繰り返し周波数を2倍にして、検査用超音波を照射する時間を半分にすることや、角度変化幅を2°ずつにして、総検査時間を1/4にするなどの調節を行うことも可能である。
【0035】
治療を行う際には、医療機関で処方された装着位置にトランスデューサを、トランスデューサ固定手段16を用いて取り付け、トランスデューサ22を記録手段12に記録された角度に設定して検査用超音波を照射し、比較・確認手段34が、得られた反射波を下記記載の方法で解析し、医療機関で定められた基準信号とで比較を行うことにより、照射位置が正しいことを確認する。基準信号との比較の結果、適切な位置への照射であると比較・確認手段34にて判断したとき、表示手段14にその旨を患者に提示し、治療を開始する。一方、不適切な位置への照射であると比較・確認手段34にて判断したとき、表示手段14によって患者に装着位置の確認と再装着を促す。あるいは記録された角度を中心に、検査用超音波の照射を行いながらトランスデューサ22の角度を変化させることで、基準信号が得られる位置を確認し、治療毎に角度補正を行うことも可能であり、適切な受信信号が得られ、且つその角度が、下記記載の設定誤差範囲内であった場合、補正された角度として記録手段12に記録される。この補正された角度は、次に治療を行う際に、前回の記録角度としてトランスデューサの角度を設定するときに使用することも可能である。治療前の検査では、予め記録された角度を中心に角度変化させることにより、初期設定時よりも短時間でのスキャンが可能となる。角度を変化させた検査で適切な位置への照射であると判断できないときは、表示手段14によって患者に装着位置の確認と再装着を促し、再度照射位置の検査を行う。検出された信号が基準信号の誤差範囲内であった場合、治療に移り、検査用超音波から治療用超音波に変更する。治療用超音波の特性としては骨折治療に適切な超音波であれば良い。例えば適切な超音波条件の一つとして、1.5MHzの周波数、200μsのバースト幅、1kHzの繰り返し周期、トランスデューサ固定手段を通して超音波出力の時間平均と空間平均が30mW/cmの超音波が好ましい。以上の治療時の工程について、図11にフローチャートとして示した。体内で反射される超音波の基準信号や設定角度は、医療機関にて治癒過程の検査毎に照射位置と角度の再確認を行い、必要に応じて再設定することで、最適な超音波照射を続けることができる。
【0036】
基準信号と治療前に得られる検査結果との比較について図12に示す。比較は、受信信号強度18、受信信号時間幅19及び受信信号遅延時間20を用いて自動で実施される。図12に示すtは検査用超音波照射終了時間、つまり本実施例では検査用超音波を照射して20μs後である。照射部位における反射信号の受信強度18と受信信号時間幅19から、信号の減衰率と伝達速度及び信号持続時間を計算することにより、脂肪、筋膜、筋肉、骨といった体の組織とそれぞれの厚みを判断し、さらに受信信号強度18と受信遅延時間20とから、信号の減衰率と検出までの時間を求めることにより、照射位置からのそれぞれの距離と、お互いの相対位置を判断して記録する。
【0037】
こうして求めた照射位置での体の組織とそれぞれの厚み、位置関係、及び皮膚からの距離を比較することにより、照射位置が処方された正しい位置であるかどうかの判断を行う。この際、どの程度の差異が発生した場合に、位置ズレと判断するかについては、医療機関で適宜設定が可能であるが、本実施例では、増幅前の信号強度として±50%、到達時間は±20%を誤差範囲と判断するように設定した。基準信号からのズレが、設定した誤差範囲から逸脱した反射波信号であった場合には、表示手段14に、治療位置が初期に設定を行った位置とは異なっていることが表示され、患者はこの表示を見ることによって治療位置が初期設定とは異なっていることを知る。また、記録角度と比較して医療機関により設定された角度の範囲外で上記の適切な受信信号を検出した場合にも、表示手段14に、初期に設定を行った位置とは異なっていることが表示され、患者はこれを知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】骨折治療器の実施形態の概略図である。
【図2】装置の構成要素の概略図である。
【図3】トランスデューサ固定手段の概略断面図(横)である。
【図4】トランスデューサ固定手段の概略断面図(正面)である。
【図5】トランスデューサ固定手段の概略断面図(上)である。
【図6】別の実施態様であるトランスデューサ固定手段の概略断面図(横)である。
【図7】別の実施態様であるトランスデューサ固定手段の概略断面図(正面)である。
【図8】図7のトランスデューサ固定手段の角度を変化させた概略断面図(正面)である。
【図9】へらを設けたトランスデューサ固定手段の概略断面図である。
【図10】初期設定時のフローチャートである。
【図11】治療開始前設定時のフローチャートである。
【図12】受信信号解析例である。
【図13】角度センサの形態(パターン化)の図である。
【図14】角度センサの形態(分割)の図である。
【符号の説明】
【0039】
1. 軟部組織
2. 大腿骨
3. 骨折部位
4. トランスデューサ
5. 制御装置
6. 超音波伝播物質
7. ケーブル
8. 固定手段
9. 制御手段
10. 発信回路
11. 受信回路
12. 記録手段
13. 電力供給手段
14. 表示手段
15. 角度調節用ケーブル
16. トランスデューサ固定手段
18. 受信信号強度
19. 受信信号時間幅
20. 受信信号遅延時間
21. 体表
22. トランスデューサ
23. 回転軸
24. 駆動機構
25. 角度センサ
26. 体表接触面
27. 超音波伝搬物質
28. 上面
29. 側面
30. トランスデューサ保持具
31. へら
32. 回転軸
33. 角度制御手段
34. 比較・確認手段
35. センサ上部
36. パターン化させた回路
37. 角度変化測定点
38. 角度変化測定面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスデューサを備え、該トランスデューサから生体に超音波を照射し患部を治療する超音波治療装置において、該トランスデューサの超音波照射角度を可変可能な角度調節機構を備えることを特徴とする超音波骨折治療装置。
【請求項2】
トランスデューサを備え、該トランスデューサから生体に超音波を照射し患部を治療する超音波治療装置において、該トランスデューサの超音波照射角度を可変可能な角度調節機構を備え、該トランスデューサから照射された超音波の反射波を該トランスデューサで受信し、受信信号に基づいて照射角度を決定する制御手段を備えることを特徴とする請求項1記載の超音波治療装置。
【請求項3】
該制御手段が、予め決定された基準信号を記録する記録手段を備え、該トランスデューサの超音波照射角度を可変して超音波照射することにより得られる反射波の受信信号と該記録手段に記録された基準信号とを比較する比較・確認手段を備え、両信号が所定範囲内となるように該トランスデューサの照射角度を決定することを特徴とする請求項2記載の超音波治療装置。
【請求項4】
該比較・確認手段が、反射波の受信信号強度、受信信号時間幅、及び受信信号遅延時間の何れか1つ以上の信号に基づいて比較する手段であることを特徴とする請求項3記載の超音波治療装置。
【請求項5】
該角度調節機構が、ステッピングモータ、ブレーキモータ又は変速ギアを有するAC/DCモータを備えた回転調節手段であることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の超音波治療装置。
【請求項6】
該筐体に該角度調節機構を備え、該筐体内部に該トランスデューサを備え、該筐体内に超音波伝播物質が充填されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の超音波治療装置。
【請求項7】
該超音波伝播物質が水であることを特徴とする請求項6記載の超音波治療装置。
【請求項8】
該筐体の体表接触面が超音波を伝播する軟質材で構成されることを特徴とする請求項6記載の超音波治療装置。
【請求項9】
該軟質材が、シリコンゴム、ラテックスゴム、またはポリウレタンであることを特徴とする請求項8記載の超音波治療装置。
【請求項10】
該筐体内のトランスデューサの角度が変化するとき、該筐体の上部に設けられた角度センサが具備する導電性材料と該トランスデューサを保持するトランスデューサ保持具の上面との接触面積の変化、又は該導電性材料と該トランスデューサ保持具の上面との接触位置の変化によって起こるインピーダンス、電流、及び電圧の何れかの変化によって該トランスデューサの角度が検出されることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の超音波治療装置。
【請求項11】
該導電性材料が二つ以上に分割されている、及び/又は該導電性材料がパターン化されていることを特徴とする請求項10に記載の超音波治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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