説明

トランスフェクションで使用するためのスフィンゴ脂質ポリアルキルアミン抱合体

本発明は、カルバモイル結合を介して少なくとも一つのポリアルキルアミン鎖を有するスフィンゴイド骨格を含むスフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体の、核酸分子の捕捉剤としての使用に関する。また本発明は、標的細胞への核酸分子のデリバリーのための薬学的組成物を調製するためのスフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体の使用を提供する。更なる側面において、本発明は、標的細胞に核酸をトランスフェクションするための方法であって、前記標的細胞を、核酸分子と会合したスフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体と接触させ、これにより前記標的細胞に前記核酸分子をトランスフェクションすることを含む方法を提供する。本発明の他の側面は、前記抱合体を含む薬学的組成物、前記抱合体を利用した治療方法、並びにキットに関する。本発明の好ましい抱合体は、N−パルミトイル D−エリスロスフィンゴシル−1−カルバモイルスペルミンである。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、生物学的に活性な物質、特にポリおよびオリゴヌクレオチドの標的細胞への効果的なトランスフェクションのための、デリバリー媒体としてのスフィンゴ脂質のポリアルキルアミン抱合体(conjugate)の使用に関する。
【従来技術のリスト】
【0002】
以下は、本発明の分野に属する技術水準を記述するのに適すると考えられる従来技術のリストである。
米国特許第5,334,761号:“Cationic lipids”;
US2001/048939:“Cationic reagents of transfection”;
米国特許第5,659,011号:“Agents having high nitrogen content and high cationic charge based on dicyanimide dicyandiamide or guanidine and inorganic ammonium salts”;
米国特許第5,674,908号:“Highly packed polycationic ammonium, sulfonium and phosphonium lipids”;
米国特許第6,281,371号:“Lipopolyamines, and the preparation and use thereof”;
米国特許第6,075,012号:“Reagents for intracellular delivery of macromolecules”;
米国特許第5,783,565号:“Cationic amphiphiles containing spermine or spermidine cationic
Marc Antoniu Ilies & Alexandru T. Balaban, Expert Opin. Ther. Patents. 11(11): 1729-1752 (2001);
Miller AD. Chem. Int. Ed. Eng. 37: 1768-1785 (1998).
Gao X, Huang L. " A novel cationic liposome reagent for efficient transfection of mammalian cells" Biochim. Biophys. Acta 179: 280-285 (1999).
Max-Delbruck-Centrum fur Molekulare Medizine: WO 98/05,678 (1998).
Miller AD "Cationic liposomes for gene therapy" Angew. Chem. Int. Ed. Eng. 37: 1768-178 (1998).
Ewert K. et. al. "Efficient synthesis and cell-transfection properties of a new multivalent cationic lipid for nonviral gene delivery". J Med Chem.45: 5023-5029 (2000).
【発明の背景】
【0003】
細胞以下又は分子レベルで細胞機能に影響を与えることができる、タンパク質及びポリヌクレオチド、外来物質並びに薬物など、多くの天然の生物分子及びそれらの類縁体は、それらの効果を発揮するために、好ましくは細胞内に取り込まれる。これらの物質に対して、細胞膜は、これらの物質に非透過性である選択的な障壁となる。細胞膜の複雑な組成には、リン脂質、糖脂質及びコレステロール、並びに内在性及び外在性タンパク質が含まれ、その機能は、Ca++及びその他の金属イオン、陰イオン、ATP、微小繊維、微小管、酵素並びにCa++結合タンパク質などの細胞質成分によって影響を受け、細胞外グリコカリックス(プロテオグリカン、グリコースアミノグリカン及び糖タンパク質)によっても影響を受ける。構造的細胞要素と細胞質内細胞要素の間の相互作用及び外部シグナルに対するそれらの応答は、細胞タイプ内及び細胞タイプ間に見られる膜選択性を担う輸送プロセスを構成する。
【0004】
自然の状態では細胞によって取り込まれない物質を細胞内へ上手く送達することも、研究されている。天然の細胞膜の脂質組成に極めてよく似た脂質調合物に、複合体状の物質を会合させることによって、膜障壁を克服することができる。これらの調合物は、接触すると、細胞膜と融合することができ、あるいは、より一般的には、ピノサイトーシス、エンドサイトーシス及び/又はファゴサイトーシスによって取り込まれる。これらの全てのプロセスでは、会合された物質が細胞内へ送達される。
【0005】
脂質複合体は、細胞表面間の電荷的反発(多くの場合、負に帯電している。)を克服することによっても、細胞内輸送を促進することができる。当該調合物の脂質は、細胞膜のリン脂質など両親媒性の脂質を含んでおり、水系中で、様々な層または凝集物、たとえばミセルまたは中空の脂質小胞(リポソーム)を形成する。リポソームは、リポソーム内に送達すべき物質を捕捉するために使用することができ;他の用法では、目的の薬物分子は、中空の水性内部に捕捉されるというよりむしろ、内在性膜成分として脂質小胞中に取り込まれるか、又は凝集物表面に静電的に付着させることができる。しかしながら、使用される多くのリン脂質は、両性イオン(中性)であるか、負に帯電しているかのいずれかである。
【0006】
細胞内送達の分野における進歩は、リポソーム又は小胞の形態の、正に帯電した合成陽イオン性脂質、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウム・クロリド(DOTMA)が、DNAと自発的に相互作用し、脂質−DNA複合体を形成できるという発見であり、この複合体は、細胞膜に吸着して、融合によって、又はおそらくは吸着性エンドサイトーシスによって、細胞に取り込まれ、導入遺伝子の発現をもたらすことができる[Felgner, P. L. et al. Proc. Natl. Acad. Sci., USA 84: 7413-7417 (1987) and U. S. Pat. No. 4,897,355 to Eppstein, D. et al.]。その他、DNA複合体化小胞を形成するために、リン脂質と組み合わせて、DOTMA類縁体である1,2−ビス(オレオイルオキシ)−3−(トリメチルアンモニオ)プロパン(DOTAP)を使用して成功した者もある。LipofectinTM試薬(Bethesda Research Laboratories, Gaithersburg, MD.)は、高度に陰イオン性のポリヌクレオチドを生きた組織培養細胞中に送達するのに有効な物質であり、正に帯電した脂質DOTMAと、ヘルパー脂質と称される中性脂質ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)とから構成される、正に帯電したリポソームを含む。これらのリポソームは、負に帯電した核酸と自発的に相互作用して、リポプレックスと称される複合体を形成する。DNA負電荷に比して正に帯電したリポソームを過剰に使用すると、得られた複合体上の正味電荷も正になる。このようにして調製された正に帯電した複合体は、負に帯電した細胞表面に自発的に付着するか、又は、吸着的エンドサイトーシス若しくは形質膜との融合のうち何れかによって(両プロセスは、機能的ポリヌクレオチドを、例えば、組織培養細胞中に送達する。)、細胞中に導入される。DOTMAとDOTAPは、モノ陽イオン性脂質のよい例である[Illis et al. 2001, ibid.]。
【0007】
多価陽イオン単独(ポリアミン、無機塩及び複合体及び脱水溶媒を含む。)も、巨大分子の細胞内への送達を促進することが示されている。特に、多価の陽イオンは、オリゴ及びポリ陰イオン(核酸分子、アミノ酸分子など)のコンパクトな構造形態への崩壊を誘発し、これらのポリ陰イオンのウイルス中へのパッケージング、リポソーム中へのそれらの取り込み、細胞中への輸送などを促進する[Thomas T. J. et al. Biochemistry 38:3821-3830(1999)]。DNAをコンパクトにすることができる最も小さなポリ陽イオンは、ポリアミンであるスペルミジン及びスペルミンである。リンカーを介して、疎水性アンカーをこれらの分子に付着させることによって、新しいクラスのトランスフェクションベクターであるポリ陽イオン性リポポリマーが開発された。
【0008】
陽イオン性脂質及び陽イオン性ポリマーは、DNA(又は他の任意のポリ陰イオン性巨大分子)の陰イオン基と静電的に相互作用して、DNA−脂質複合体(リポプレックス)又はDNA−ポリ陽イオン複合体(ポリプレックス)を形成する。複合体の形成には、脂質又はポリマーの対イオンの放出を伴い、この放出が、リポプレックス及びポリプレックスの自発的形成のための熱力学的駆動力である。陽イオン性脂質は、4つのクラスに分けられる。(i)四級アンモニウム塩脂質(例えば、DOTMA(LipofectinTM)及びDOTAP)及びホスホニウム/アルソニウム同属体;(ii)リポポリアミン;(iii)四級アンモニウムとポリアミン部分を両方有する陽イオン性脂質;および(iv)アミジニウム、グアニジニウム及び複素環塩脂質。
【発明の概要】
【0009】
第一のその側面によれば、本発明は、標的細胞に核酸分子をトランスフェクションするための薬学的組成物を調製するためのスフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体の使用であって、前記スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体が、カルバモイル結合を介して、少なくとも一つのポリアルキルアミン鎖を有するスフィンゴイド骨格を含む使用を提供する。
【0010】
本明細書において使用される「トランスフェクション」の用語は、導入遺伝子の発現(遺伝子(DNA)デリバリー)または遺伝子サイレンシング(siRNAまたはアンチセンスオリゴヌクレオチド(ODN)デリバリー)が起こる生産的方法で、標的細胞に核酸分子を導入することを表す。核酸分子は、(たとえばsiRNAまたはアンチセンスODNのデリバリーの場合)細胞質中に保持されてもよいし、あるいは(遺伝子デリバリーの場合)更に核内へデリバーされ、エピソームにおいて機能するか、または細胞の染色体DNAにその後組み込まれてもよい。
【0011】
本明細書において使用される「標的細胞」は、任意の生物学的細胞であり得るが、好ましくは組織、器官または骨を表す。
本明細書において使用される「スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体」の用語は、スフィンゴイドベース(本明細書においては、「スフィンゴイド骨格」という用語によっても表される。)と少なくとも一つのポリアルキルアミン鎖との間の化学的抱合(連結)を表す。スフィンゴイドベースと少なくとも一つのポリアルキルアミン鎖との間の抱合は、以下にさらに詳述されるように、カルバモイル結合を介して行われる。
【0012】
本明細書において使用される「スフィンゴイドベース/骨格」には、2又は3個のヒドロキシル基を含有する長鎖脂肪族アミンが含まれ、当該脂肪族鎖は、飽和であっても不飽和であってもよい。不飽和スフィンゴイドベースの一例は、4位に特徴的なトランス−二重結合を含有するものである。
一つの特定の態様によれば、スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体は、N−パルミトイル D−エリスロスフィンゴシルカルバモイル−スペルミン(CCS)である。
【0013】
また本発明は、標的細胞に核酸をトランスフェクションするための方法であって、前記標的細胞を、核酸分子とともに、スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体と接触させ、これにより前記標的細胞に核酸分子をトランスフェクションすることを具備し、前記スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体が、カルバモイル結合を介して、少なくとも一つのポリアルキルアミンを有するスフィンゴイド骨格を含む、方法を提供する。
【0014】
更に本発明は、標的細胞に核酸をトランスフェクションするための薬学的組成物であって、(i)カルバモイル結合を介して少なくとも一つのポリアルキルアミン鎖を有するスフィンゴイド骨格を含む少なくとも一つのスフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体;および(ii)前記抱合体と会合した少なくとも一つの核酸分子を含む、組成物を提供する。
【0015】
更に本発明は、疾患または障害を治療するための方法であって、核酸分子とともに、スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体を、前記核酸分子を用いて標的細胞のトランスフェクションを達成し前記標的細胞に対して生化学的効果を達成するのに効果的な量で、前記治療の必要な被検体に与えることを含む、方法を提供する。
【0016】
最後に、本発明は、核酸分子(遺伝子、siRNA、アンチセンスなど)の捕捉剤としての、上述のスフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体の使用を提供する。この文脈において、スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体は、前記抱合体に加えて、核酸分子を捕捉するための前記抱合体の使用説明書を備えたキットの一部を形成してもよい。キット中の抱合体は、乾燥形態であってもよいし(この場合には、キットは、使用前に前記抱合体と混合される適切な液体を更に含んでいてもよく)、あるいは、懸濁液、エマルジョンまたは溶液を形成するために液体の形態であってもよい。キットは、数多くの用法を有し得る。例えば、キットは、様々な核酸分子の機能を調べるために使用することができる。当業者であれば、研究および診断の目的のためにも、このような捕捉剤を利用する方法を知っているであろう。
【0017】
本明細書において使用される「捕捉剤」の用語は、負の電荷、負の双極子または局所的な負の双極子を有する分子と相互作用する本発明の抱合体の特徴をいう。前記相互作用により、本発明の抱合体は、たとえば未知の生物学的試料から核酸分子などの生物学的に活性な分子などを捕捉することにより、たとえば同定および単離を伴う研究において適用可能である。捕捉は、負電荷、負の双極子又は局所的な負電荷を有する捕捉すべき分子と本発明の正電荷の抱合体との間の静電的相互作用を伴う。
【0018】
本発明の抱合体は、上述のとおり生物学的に活性な分子を捕捉することによって、該分子を標的部位/標的細胞に運搬するデリバリー媒体として使用してもよい。
【発明の詳細な説明】
【0019】
本発明を理解し、本発明が実際にどのように実施され得るかを把握するために、ここで、添付の図面を参照しながら、非限定的な例によって幾つかの態様について説明する。
近年、陽イオン性脂質/リポソームを用いた遺伝子の細胞への非ウイルス性デリバリーが、その高いトランスフェクション効率、使用し易さ、および再現性のために、選り抜きの方法として現れた。加えて、リポソームは、合成の非感染性粒子であり、それ自体が有害な毒性も免疫反応も起こさない。その結果、静電的相互作用を介して核酸と複合体を形成することができる陽イオン性脂質が開発され、従来の遺伝子サイズの限界が克服された。得られたリポソーム−DNA複合体は、「リポプレックス(lipoplex)」と称される。
【0020】
本発明は、標的細胞に核酸分子をデリバリー/トランスフェクションするための薬学的組成物を調製するための、スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体の使用であって、前記スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体が、カルバモイル結合を介して、少なくとも一つ、好ましくは一つまたは二つのポリアルキルアミン鎖を有するスフィンゴイド骨格を含む使用に関する。
【0021】
スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体は、脂質様陽イオン性(lipid-like cationic (LLC))化合物であり、以下の方法で合成することができる。N−置換された長鎖ベース、特に、N−置換されたスフィンゴイド又はスフィンゴイドベースを、様々なポリアルキルアミン又はそれらの誘導体と連結して、ポリアルキルアミン−スフィンゴイド体を形成し、これはそのまま使用されるか、又はさらにアルキル化される。形成されたポリアルキルアミン−スフィンゴイド体の適切なpHでのプロトン化又はアルキル化は、標的細胞中に送達すべき生物学的に活性な生物分子との相互作用及び標的とされる細胞との相互作用のために望ましい陽性電荷を脂質様化合物に与える。スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体は、生物学的に活性な分子の陰イオン特性と抱合体のポリアルキルアミン部分との静電的相互作用によって、生物学的に活性な分子と効率的に会合して、複合体(リポプレックス)を形成することができる。
【0022】
あるいは、スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体は、生物学的に活性な分子を負荷した(load)集合物、または生物学的に活性な分子と会合した集合物を形成することができる。集合物が、小胞(たとえばリポソーム)の形態にあるとき、生物学的に活性な分子は、小胞内にカプセル化されてもよいし、その脂質二重層の一部であってもよいし、小胞の表面に吸着されていてもよい(あるいは、これら3つのオプションの任意の組合せであってもよい)。集合物がミセルであるとき、生物学的に活性な分子は、安定な様式で、ミセルを形成する両親媒性物質中に挿入してもよいし、及び/又は静電的にそれと会合させてもよい。
【0023】
このように、以下の本明細書において使用される「中にカプセル化される(encapsulated in)」、「中に含有される(contained in)」、「上に負荷される(loaded onto)」、「と会合される(associated with)」という用語は、抱合体と生物学的に活性な分子との物理的な付着/会合(association)を表す。物理的付着は、抱合体から形成された集合物(例えば小胞)内への分子の封じ込め又は封入;かかる集合物の表面への生物学的分子の非共有結合;又は、かかる集合物(小胞、ミセルまたは他の集合物)を形成するスフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体間への生物学的分子の埋め込みの何れとすることもできる。また相互作用は、集合物の表面への吸着を含んでもよい。生理的条件下でのスフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体の正電荷のために、抱合体と生物学的に活性な物質との間の好ましい会合は、静電的、双極子、酸−塩基および/または疎水的相互作用、またはこれら相互作用の任意の組合せによるものであることに留意すべきである。
【0024】
本明細書で使用される「核酸分子」の用語は、少なくとも二つのヌクレオチドを含有するオリゴマーまたはポリマーを表す。好ましくは核酸分子は、生理的pHの下で、正味負の電荷、局所的な負電荷、または正味負の双極子を有する。
「ヌクレオチド」の用語は、デオキシリボース(DNA)またはリボース(RNA)の糖、塩基、およびリン酸基を表すために使用される。ヌクレオチドは、リン酸基を介して数珠つなぎになる。ヌクレオチドは、核酸ポリマーまたはオリゴマーのモノマー単位である。
【0025】
ヌクレオチドと関連する場合、「塩基」の用語は、プリンおよびピリミジンを表し、これは、天然の化合物、アデニン、チミン、グアニン、シトシン、ウラシル、イノシン、および天然の類縁体、およびプリンおよびピリミジンの合成誘導体を更に含み、これは、アミン、アルコール、チオール、カルボキシレート、およびアルキリアリド(alkyllialide)など(これらに限定されない)の新たな反応性基を配置する修飾(これに限定されない)を含む。ヌクレオチドは、核酸ポリマーのモノマー単位である。
【0026】
「ポリヌクレオチド」の用語は、80より多いモノマー単位を含有することにより、本明細書において「オリゴヌクレオチド」とは区別され;オリゴヌクレオチドは、2〜80ヌクレオチドを含有する。核酸の用語は、デオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)を含む。この用語は、DNAおよびRNAの公知の塩基類縁体の任意のものを含む配列を包含する。
【0027】
加えて、DNAは、アンチセンス、オリゴヌクレオチドプラスミドDNA、プラスミドDNAの一部、ポリメラーゼ鎖反応(PCR)の生成物、ベクター(PI、PAC、BAC、YAC、人工染色体)、発現カセット、キメラ配列、染色体DNA、またはこれらグループの誘導体の形態であり得る。RNAは、オリゴヌクレオチドRNA、tRNA(トランスファーRNA)、snRNA(核内低分子RNA)、siRNA(スモールインターフェアランスRNA)、rRNA(リボソームRNA)、mRNA(メッセンジャーRNA)、アンチセンスRNA、リボザイム、キメラ配列、またはこれらグループの誘導体の形態であり得る。これに関連して、「アンチセンス」の用語は、DNAおよび/またはRNAの機能を妨害する核酸分子(ポリまたはオリゴ)を表すために使用される。これにより、発現の抑制という結果に至る。
【0028】
天然の核酸は、リン酸骨格を有し、人工の核酸は、他のタイプの骨格および塩基を含有してもよい。これらには、PNA(ペプチド核酸)、ホスホチオネート、および天然の核酸のリン酸骨格の他の変異体が含まれる。
加えて、DNAおよびRNAは、一本、二本、三本、または四本鎖であり得る。
【0029】
一つの態様に従えば、核酸分子は、オリゴデオキシヌクレオチド(ODN)、より具体的には少なくとも一つのCpGモチーフを含有するODN(CpG−ODN);スモールインターフェアランスRNA(siRNA)、たとえば抗-Bcl-2 siRNA;プラスミドRNA;およびアンチセンスRNAまたはアンチセンスDNAから選択される。
本発明に従って標的細胞は、細胞自体またはその構成成分(たとえば細胞内構成成分)、組織、器官または骨を含む。
【0030】
スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体は、スフィンゴイド骨格と少なくとも一つのポリアルキルアミン鎖との間の連結を含み、該連結は、対応するカルバモイル結合を介する。より好ましくは、スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体は、一般式(I):
【化1】

(式中、
は、水素、分枝又は直鎖のアルキル、アリール、アルキルアミン、又は−C(O)R基を表し;
及びRは、独立に、分枝又は直鎖のC10−C24アルキル、アルケニル又はポリエニル基を表し;
及びRは、独立に、−C(O)−NR基を表し、
及びRは、R及びRについて同一であるか又は異なっており、独立に、水素、又は飽和若しくは不飽和の分枝若しくは直鎖ポリアルキルアミンを表し、前記ポリアルキルアミン中の一以上のアミン単位は第四級アンモニウムであり得る;
又はRは、水素であり;
又はR及びRは、それらが結合している酸素原子とともに、−C(O)−NR−[R−NR−C(O)−を含む複素環を形成し、
は、飽和又は不飽和のC−Cアルキルを表し、Rは、水素又は式−[R−NR−のポリアルキルアミンを表し、前記R又は各アルキルアミン単位RNRは、前記ポリアルキルアミン中において同一であっても異なっていてもよく;
n及びmは、独立に、1から10まで、好ましくは3から6までの整数であり;
Wは、−CH=CH−、−CH−CH(OH)−又は−CH−CH−から選択される基を表す。)
を有し、上記化合物の立体異性体および塩を含む。
【0031】
好ましくは、この具体的な態様に従って、スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体は、Rが−C(O)R基(Rは規定されるとおりである)を表し、R及びRが、独立に、直鎖又は分枝のC12−C18アルキル又はアルケニル基を表し、Wが−CH=CH−を表すものである。
【0032】
本発明のさらに具体的な態様に従って使用され得るスフィンゴイド又はスフィンゴイドベースの非限定的な例には、スフィンゴシン、ジヒドロスフィンゴシン、フィトスフィンゴシン、デヒドロフィトスフィンゴシン、並びにセラミン(N−アルキルスフィンゴシン)及び12−26の炭素数の範囲の任意の鎖長の対応する誘導体(たとえば、ジヒドロセラミン、フィトセラミンなど)及びその誘導体が含まれる。このような誘導体の非限定的な例は、それぞれ、アシル誘導体、たとえばセラミド(N−アシルスフィンゴシン)、ジヒドロセラミド、フィトセラミド及びジヒドロフィトセラミドである。適切にN−置換されたスフィンゴイド又はスフィンゴイドベースは、遊離のヒドロキシル基を有し、これは、活性化された後、ポリアルキルアミンと反応して、ポリアルキルアミン−スフィンゴイド体を形成する。活性化剤の非限定的な例は、N,N’−ジスクシニミジルカーボネート、ジ−若しくはトリ−ホスゲン又はイミダゾール誘導体である。これらの活性化剤をスフィンゴイド又はスフィンゴイドベースと反応させると、それぞれ、一方又は両方のヒドロキシル部分に、スクシニミジルオキシカルボニル、クロロギ酸又はカルバミン酸イミダゾールを生じる。活性化されたスフィンゴイドとポリアルキルアミンとの反応は、図1A−1Dに示されているように、分枝、直鎖(非分枝)又は環状抱合体を得ることができる。好ましいスフィンゴイド骨格はセラミドである。
【0033】
スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体の一部を形成するポリアルキルアミン鎖の好ましい基は、式(I)に関連して、構造的に上に定義されている。より好ましくは、ポリアルキルアミン鎖は、同じ抱合体中において同一であっても異なっていてもよく、スペルミン、スペルミジン、ポリアルキルアミン類縁体又はそれらの組み合わせから選択される。
【0034】
「ポリアルキルアミン類縁体」という用語は、任意のポリアルキル鎖を表すために使用され、一つの態様に従えば、1から10個のアミン基、好ましくは3から6個のアミン基、より好ましくは3−4個のアミン基を含むポリアルキルアミンを表す。ポリアルキルアミン鎖内の各アルキルアミンは、同一であっても異なっていてもよく、第一級、第二級、第三級又は第四級アミンとすることができる。
【0035】
ポリアルキルアミン鎖内で同一であっても異なっていてもよいアルキル部分は、好ましくはC−C脂肪族反復ユニットであり、より好ましくはC−C脂肪族反復ユニットである。ポリアルキルアミンの幾つかの非限定的な例には、スペルミジン、N−(2−アミノエチル)−1,3−プロパン−ジアミン、3,3’−イミノビスプロピルアミン、スペルミン及びスペルミンのビス(エチル)誘導体、ポリエチレンイミンが含まれる。
本発明に従って好ましいポリアルキルアミン鎖はスペルミンである。
【0036】
一つの好ましい態様に従えば、スフィンゴイド骨格は、(たとえば図1Aに示される)1個、又は(たとえば図1B又は1Cに示される)2個のポリアルキルアミン鎖に連結されたセラミド、又は(たとえば図1Dに示される)2個のヒドロキシル部分を介して連結されて環状ポリアルキルアミン部分を形成するセラミドである。
本発明に従って最も好ましいスフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体は、N−パルミトイル D−エリスロスフィンゴシルカルバモイル−スペルミン(CCS)である。この抱合体には、カルバモイル結合を介してスペルミンに連結されたセラミドが含まれる。
【0037】
形成されたスフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体は、第四級アミンを形成させるために、さらにメチル化剤と反応させてもよい。得られた化合物は、形成された抱合体内の第四級、第一級及び/又は第二級アミン間の比に依存して、異なる程度で正に帯電される。このように、スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体は、塩化第四級アンモニウム、ヨウ化第四級アンモニウム、フッ化第四級アンモニウム、臭化第四級アンモニウム、第四級アンモニウムオキシアニオン及びそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない四級化(quaternized)窒素塩として存在する。
【0038】
スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体は、好ましくは、標的細胞への核酸のトランスフェクションのために、核酸分子と会合させて使用される。「会合(association)」の用語は、好ましくは、前記リポプレックスを形成する二つの構成要素の間の静電的、双極子、酸−塩基、並びに疎水−疎水相互作用を表す。しかし、本発明は、スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体とトランスフェクションされる核酸分子との間に形成される特定のタイプの会合によって限定されるべきではない。よって、会合は、リポフェクションを達成することができる、抱合体またはそれから形成される集合物と核酸分子との間の任意の相互作用を意味する。
【0039】
リポプレックスは、当該技術分野において公知の任意の方法により得ることができる。これには、抱合体と核酸分子とのポスト凍結乾燥(post-lyophilization)もしくは同時凍結乾燥(co-lyophilization)、または予め形成されたスフィンゴイド−ポリアミン抱合体集合物と核酸分子との単なる混合が含まれるが、これらに限定されない。同時カプセル化(co-encapsulation)のための方法は、とりわけ米国特許第6,156,337号および第6,066,331号に記載され、ポストカプセル化(post-encapsulation)のための方法は、とりわけWO03/000227に記載され、すべてを参照により本明細書に組み込む。
【0040】
一つの態様に従えば、リポプレックスは、抱合体(脂質集合物の形態であってもよい)を適量の核酸分子とインキュベーションすることにより形成することができる。核酸の量は、かなり変化させてもよいが、通常、35 mmペトリ皿あたり0.05−2μg、または96ウェルプレートのウェルあたり0.1μgである。また、条件を大きく変化させてもよく、各タイプの細胞に対して条件を最適化することは、ルーチンの事柄および標準的プラクティスである。最適化には、典型的に、抱合体と核酸分子との比を変化させることが含まれる。
【0041】
好ましい一つの態様に従えば、スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体は、脂質集合物を形成する。適切な集合物の一例には、ミセルまたは小胞、とりわけリポソームの形成が含まれる。本明細書において使用される脂質集合物は、とりわけミセルおよびリポソームを形成する、脂質分子の組織化された集合物を表す。脂質集合物は、好ましくは、安定な脂質集合物である。本明細書において使用される「安定な脂質集合物」とは、保存条件下(4℃、生理的溶媒中)で、少なくとも一ヶ月間、化学的及び物理的に安定である集合物を表す。
【0042】
集合物には、唯一の脂質様成分として、スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体(非メチル化又はメチル化)を含んでいてもよいし、又は他のヘルパー脂質物質と組み合わせてもよい。このような他のヘルパー脂質物質は、非陽イオン性脂質、たとえばDOPE、DOPC、DMPC、オレイン酸、または低極性脂質、たとえばコレステロールを、脂質様化合物に対して種々のモル比で含んでいてもよい。コレステロールは、インビボ用の好ましい添加物質の一つであるが、インビトロ用には、DOPEが好ましいヘルパー脂質であり得る。この特定の態様において、陽イオン性脂質に対するコレステロールのモル比は、0.01から1.0、好ましくは0.1から0.4の範囲にある。
【0043】
また、集合物は、当該技術分野で知られているとおり、エンハンサー(脂質の性質を示さない、リポプレックスの形態にあるときに脂質様化合物の活性を高める物質)、たとえばCaCl及び可溶性ポリアミンなどを含んでいてもよい。
【0044】
一つの態様に従えば、形成された小胞は、約50−5000nmの直径を有するサイズ不揃いの異種及び異層小胞(UHV;unsized heterogeneous and heterolamellar vesicles)として形づくられてもよい。形成されたUHVは、さらなるプロセシングによって、サイズを小さくして、約50から100nmの直径を有する大きな単層小胞(LUV;large unilamellar vesicle)または100nm未満の小さな単層小胞に変換されてもよい。小胞の構造及び大きさ、例えばそれらの形状及びサイズは、標的細胞への核酸分子のトランスフェクションのための媒体としてその効率性に重大な影響を及ぼすことができ、すなわち、これらは小胞のデリバリー特性を決定する。
【0045】
同様の構造物中に使用することが知られている他の成分、たとえば脂質と典型的に使用される立体安定化物質(steric stabilizer)を脂質集合物中に含めてもよいことに注目すべきである。一般的に使用される立体安定化物質の一例は、リポポリマー、例えばポリエチレングリコール誘導体化脂質(PEG−脂質抱合体)であり、脂質の循環時間を増加させる(延長する)ことが知られている。
【0046】
効率的デリバリーのための別の重要な因子は、脂質様のアミン正電荷の量(L)と、その中で(または脂質様の表面で)複合体化した負電荷のオリゴまたはポリアニオンの量(A)との比である。この比は、荷電した複合体の全体の電荷を決定し、効率的デリバリーのためにその比は、取込まれた部分に依存して、1000<(L/A)<0.1、好ましくは20<(L/A)<1、より好ましくは8<(L/A)<1.5とすることができる。好ましい一つの態様に従えば、核酸のリン酸基に対する抱合体のアミノ基の比(+/−)は、この範囲内である。GFPまたはルシフェラーゼを用いた細胞のトランスフェクションのためには、2.0−8.0の比の範囲が使用される。siRNAトランスフェクションのためには、その範囲は好ましくは2.0−5.0である。
【0047】
本発明は更に、標的細胞に核酸をトランスフェクションする(すなわち、細胞に核酸を導入する)ための方法であって、前記標的細胞を、核酸分子とともに(好ましくは核酸分子と会合させて)、スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体と接触させ、これにより前記細胞に核酸分子をトランスフェクションすることを具備し、前記スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体が、カルバモイル結合を介して、一つまたは二つ(好ましくは一つまたは二つ)のポリアルキルアミンを有するスフィンゴイド骨格を含む、方法を提供する。
【0048】
トランスフェクションのために、スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体(個々の化合物の形態または集合物の形態の何れかである)は、ターゲッティング物質と会合していてもよい。ターゲッティング物質は当該技術分野で公知であり、抗体、抗体の機能的フラグメント、細胞表面認識分子などを含むがこれらに限定されない。ターゲッティング物質は、ポリアルキルアミン鎖に結合してもよいし、または脂質のヘッドグループに直接結合してもよい。たとえば、スフィンゴイドベース/骨格は、上述のとおり親水性ポリマー鎖を用いて誘導体化されてもよく、親水性ポリマーは、その機能化末端に抗体を結合するために末端で機能化されていてもよい。機能化末端基は、アルデヒド基に対して反応性であるヒドラジドまたはヒドラジン基とすることができるが、抗体への結合のために幾つかのPEG−末端反応性基の何れかを使用することができる。また、ヒドラジドは、活性なエステルまたはカルボジイミド活性化カルボキシル基により活性化することもできる。アシル化種として反応性のあるアシルアジド基は、ヒドラジドから容易に得ることができ、アミノ含有分子の結合を可能にする。また、機能化末端基は、ジスルフィド結合を介してリポソームに抗体または他の分子を結合させるために、2−ピリジルジチオ−プロピオンアミドとすることもできる。
【0049】
また本発明は、標的細胞に核酸をトランスフェクションするための薬学的組成物であって、前記組成物が、ある量のリポプレックスを含み、前記リポプレックスが、(i)カルバモイル結合を介して少なくとも一つ(好ましくは一つまたは二つ)のポリアルキルアミン鎖を有するスフィンゴイド骨格を含むスフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体;および(ii)前記抱合体と会合した核酸分子を含む、組成物に関する。
【0050】
本発明に従ってリポプレックスの量は、標的細胞へのリポプレックスのデリバリーを達成し、標的細胞内で治療効果を生じるのに効果的でなければならない。より詳細には、この量は、リポプレックスがデリバーされる生物学的標的部位に対して、測定可能な調節または生化学的効果を達成するのに効果的でなければならない。本発明に従って生物学的効果の一例は、アポトーシスの誘導を含む。
【0051】
また本組成物は、好ましくは、生理的に許容される担体を含む。本発明に従って生理的に許容される担体とは、好ましくは生物学的に活性な分子にも抱合体にも反応せず、かつ生物学的に活性な分子と抱合体の効果的なデリバリーに必要とされる、不活性な無毒の固体又は液体物質を一般に表す。本発明の組成物の一部を形成する集合物は、典型的には懸濁液または分散液の形態である。
【0052】
生理的に許容される担体の非限定的な例には、水、生理的食塩水、5%デキストロース(グルコース)、10%スクロースなどが含まれ、これらは単独であるか、又は微量(10%まで)のアルコール(エタノールなど)を加える。
【0053】
また本発明は、疾患または障害を治療するための方法であって、核酸分子と会合したスフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体を、前記核酸分子を用いて(典型的には疾患または障害と関連のある)標的細胞のトランスフェクションを達成しかつ前記標的細胞に対する所望の生化学的効果を達成するのに効果的な量で、前記治療の必要な被検体に与えることを含む、方法に関する。この方法は、疾患、障害、病的状況、またはDNA欠損に罹患した被検体に、上述のリポプレックスを投与することを含む。
【0054】
所望の生化学的効果とは、疾患と関連した望ましくない症状の改善、疾患の重症度の低下または治癒、生存率の改善または疾患からの急速な回復、または疾患の発症の予防または上記の二つ以上の組合せに至る任意の効果でなければならない。
【0055】
本発明による薬学的組成物を、治療を必要とする被検体に提供することにより、治療を促進することができる。薬学的組成物は、種々の方法で投与することができる。投与経路の非限定的な例には、経口、皮下(s.c.)、静脈内(i.v.)、動脈内(i.a.)、筋肉内(i.m.)、腹腔内(i.p.)及び鼻内(i.n.)投与を含む非経口、並びに注入技術が含まれる。当業者であれば、上記投与様式の何れかに適用できるように、典型的には懸濁液または分散液の形態に、本発明の組成物を修飾する仕方を理解しているでしょう。
【0056】
インビボトランスフェクション/リポフェクションの幾つかの方法が報告されている [Lasic DD. Liposomes in gene delivery. Boca Raton, FL: CRC Press, 1997; Dass CR. Int J Pharm 241: 1-25 (2002)]。たとえば、リポプレックスは、被検体の血流、標的組織に直接、または腹膜に注入されてもよいし、気管に注入されてもよいし、または被検体が吸うエアロゾルに変換されてもよい。カテーテルを使用して血管壁にリポプレックス集合物を植え付けることもでき、これにより内皮細胞および血管平滑筋細胞など幾つかの細胞タイプの形質転換を成功させることができる。
【0057】
生体外(ex vivo)リポフェクションも、本発明の範囲内に含まれる。典型的にはex vivo治療において、骨髄を患者から取り出し、適切な条件下で本発明によるリポプレックスと培養して処理する。トランスフェクションの後、トランスフェクトされた骨髄を患者の体内に移植して戻す。
【0058】
bcl-2のオープンリーディングフレームの最初の6コドンをターゲットとした18-merアンチセンスホスホロチオエートオリゴヌクレオチド(S−ODN)を設計した(Genta Inc.)。効率的な治療を達成するために、アンチセンスオリゴヌクレオチドを癌細胞に移すべきである。かかるターゲッティングには適切な媒体が必要である。細胞へオリゴヌクレオチドをデリバーする最適なシステムを同定するために、特定の抱合体、D−エリスロ−N−パルミトイルスフィンゴシル−1−カルバモイルスペルミン(本明細書に参照により組み込まれる同時係属中の国際出願第 号に記載されるとおり調製し、以下の記載において略語“CCS”により称される)を、DOTAP、DOPE、DOPC、コレステロールと組み合わせて使用し、リポプレックスおよび脂質集合物(たとえばリポソーム)を形成した。
【0059】
また本発明は、本発明の抱合体の捕捉剤としての使用に関する。本発明の特定の態様に従えば、抱合体は、研究目的のためのキットの一部を形成してもよい。
以下の記載は、本発明の脂質様媒体の幾つかのトランスフェクション適用の非限定的な例を示す。
【0060】
図2は、表示の脂質/DNA電荷比(1,2,4,8,16)の種々のCCS/DOPE(2:1)リポプレックスまたはCCS/DOPE(2:1)集合物のみ(すなわちDNAなし)を用いたNIH 3T3細胞の処理を含む毒性アッセイの結果を示す。この図は、正電荷のアミン基のクロライド形態のCCS/DOPE(2:1)集合物が、後述のとおり遊離の集合物またはルシフェラーゼプラスミドを備えたリポプレックスの形態の何れかで、トランスフェクションで用いられる量でNIH 3T3細胞に添加したときに、毒性を有していないことを明らかに実証する(毒性のないことは100%生細胞により表される)。
【0061】
図3により、NIH 3T3細胞へのルシフェラーゼの効率的なトランスフェクションが実証される。媒体には、表示の比(CCS/DOPE)のCCSと市販のヘルパー脂質DOPEとの混合物から構成されるUHVを使用した。加えて、種々の脂質/DNA電荷比を調査した。図3に示されるとおり、1より大きいCCS/DOPE比は、試験したすべての脂質/DNA電荷比において、DNAトランスフェクション媒体として効果的であった。
CCS媒体を用いたC-26細胞へのトランスフェクションも調査し、トランスフェクション効率を、商業的に入手可能な媒体FuGENE6 (登録商標) (Rocsh Diagnostic GmbH Manheim Germany, 製造者の指示書に従って使用される) を備えた最適な調合物により得られるものと比較した。
【0062】
図4は、CCS/DOPE(2:1)集合物を用いたルシフェラーゼトランスフェクションとFuGENE6 (登録商標) を用いて行ったものとの比較を示す。明らかに示されるとおり、CCS/DOPE(2:1)集合物を用いたトランスフェクションは、市販の媒体と比較して効率的であった。
【0063】
図5は、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするプラスミドpQBI-25(Qbiogene, Montreal, Canada)に複合体化した2:1の比のCCS/DOPE混合物を用いた、NIH 3T3細胞へのpGFPのトランスフェクションの効率を写真で実証する。
更なるアッセイにおいて、下記抗-Bcl-2 siRNAとCCS/DOTAPベースのリポプレックスとの複合体を調製した。
【0064】
【表1】

【0065】
上記結果は、DOTAPリポソームとsiRNAの会合のレベルは、常に完全ではないが、CCSミセルまたはCCS/DOPEもしくはCCS/CHOL集合物は、表示の比において、100%の効率でsiRNAに結合することを示す。
【0066】
図6−8は、表示の陽イオン性脂質集合物または裸の(naked)siRNAで処理したMCF-7細胞の生存%を示す。
とりわけ、図6は、Bcl-2 si-RNA(材料と方法に記載されるsiRNA IまたはsiRNA II)と会合した陽イオン性脂質集合物で処理した細胞の生存%を示す。調査した種々の脂質集合物は、CCS のDOPEとの組合せ(比2:1)、CCSのコレステロールとの組合せ(比2:1)である。その結果は、CCSベースの集合物が、裸のsiRNAと比較して、核酸分子で細胞をトランスフェクトする際に効果的であることを示す。
【0067】
図7は、Bcl-2 siRNA、Bcl-2アンチセンスを含有するCCS/DOPE組合せ(比2:1)(材料と方法に記載される)で72時間処理した細胞の生存%を示す。その結果は、CCSベースの集合物が、非特異的な核酸分子(狂犬病siRNA、Bcl-2 ODNまたはスクランブルODN)で得られた効果と比較して、(MCF-7細胞に特異的であることにより細胞生存率を低減する)抗-Bcl-2 siRNA Iをデリバリーする際に効果的であることを示す。
【0068】
図8は、(材料と方法に記載されるとおり)siRNAと会合した、DOPEと組み合わせたCCSベースの脂質集合物または商業的に入手可能なキャリア(TransIT-TKOまたはsiFect)の何れかで処理されたMCF-7の生存%の比較を示す。その結果は、CCS/DOPE集合物が、細胞へのBcl-2 siRNA I分子のキャリアとして効果的であることを示す。
【具体的な実施例】
【0069】
化学
N−パルミトイル D−エリスロスフィンゴシル−1−カルバモイルスペルミン(CCS)の合成
(i)N−パルミトイルスフィンゴシン(1.61g、3mmol)を、加熱しながら、無水THF(100mL)中に溶解した。透明な溶液を室温とし、N,N’−ジスクシニミジルカーボネート(1.92g、7.5mmol)を添加した。攪拌しながら、DMAP(0.81g、7.5mmol)を添加し、この反応をさらに16時間攪拌した。減圧下で溶媒を除去し、n−ヘプタンから再結晶された残留物から、融点73−76℃の白色粉末として、ジスクシニミジルセラミジルカーボネート1.3g(68%)を得た。
【0070】
(ii)スペルミン(0.5g、2.5mmol)及びジスクシニミジルセラミジルカーボネート(0.39g、0.5mmol)を、攪拌しながら、無水ジクロロメタン中に溶解した後、触媒量の4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)で処理した。室温で16時間、この溶液を攪拌し、溶媒を蒸発させ、残留物を水で処理し、濾過し、真空中で乾燥させると、0.4g(82%)の未精製物質が得られ、60:20:20のブタノール:AcOH:HO溶出液を用いた、シリカゲル上のカラムクロマトグラフィーによって、これをさらに精製した。
【0071】
(iii)前記化合物内の第四級アミンを得るために、DMS又はCHIで工程(ii)の生成物をメチル化することができる。
CCSの構造は、H及び13C−NMR分光法によって確認した(データは示さず。)。分析の詳細な説明は、同時係属の国際特許出願第 号に記載されている。
【0072】
他の合成手順
上記手順と同様に、以下の手順を適用することができる。
図1Aに図示されている直鎖一置換セラミド−スペルミン抱合体の合成
対応する1,3−ジ−O−スクシニミジル誘導体を得るために、DMAPの存在下で、1当量のセラミドを、2.5当量のジスクシニミジルカーボネートと反応させる。
このようにして得られたジスクシニミジル誘導体を、触媒量のDMAPを用いて、室温で、当量のスペルミンと反応させて、図1Bの3−一置換−セラミド−スペルミン抱合体を得る。
【0073】
図1Bに図示されている直鎖二置換セラミド−スペルミン抱合体の合成
上述したように調製された一当量の1,3−ジ−O−スクシニミジルスフィノギド誘導体を、触媒量のDMAPの存在下において、80°で、2.5当量のスペルミンと反応させる。1,3−二置換CCSが、このようにして得られる。
【0074】
図1Cに図示されている直鎖二置換セラミド−分枝スペルミン抱合体の合成
上述のように調製された一当量の1,3−ジ−O−スクシニミジルセラミド誘導体を、触媒量のDMAPの存在下において、80°で、2.5当量のα−ω−ジプロテクトスペルミンと反応させる。
プロテクションを除去し、1,3−「分枝」二置換セラミド−スペルミン抱合体を得る。
【0075】
図1Dに図示されている直鎖二置換セラミド−環状スペルミン抱合体の合成
上述のように調製した一当量の1,3−ジ−O−スクシニミジルセラミド誘導体を、触媒量のDMAPの存在下において、80℃で、0.75当量のスペルミンと反応させる。
【0076】
DOPE
ジオレオイルホスファチジルエタノール−アミン(DOPE)は、Lipoid, (Ludwigshafen, Germany) またはAvanti polar lipids (ALABASTER USA) から購入した。
DOTAPは、Avanti polar lipids (ALABASTER USA) から購入した。
コレステロールは、Sigmaから購入した。
【0077】
S−ODN
ホスホロチオエートアンチセンス18-mer G3139 [S-d-5’-(TCT CCC AGC GTG CGC CAT)] は、Genta Inc. Lexington, MAから入手した。その純度は、陰イオン交換カラムを組込んだHPLC (Merck Hitachi D-7000) により評価した。50% イソプロパノール中の酢酸アンモニウムのpH 8バッファーの勾配を採用した。
【0078】
細胞培養
細胞培養中のsiRNA効率およびトランスフェクション効率については、MCF-7細胞、NIH 3T3細胞をそれぞれ、75-ml細胞培養フラスコ (NalgeNunc, Rochester, NY) において、2mM L-グルタミン、100 IU/ml ペニシリン−ストレプトマイシン、4.5g/L D-グルコース、1mM ピルビン酸ナトリウムおよび10% v/v ウシ胎仔血清を添加したDMEM中で増殖させた。リポプレックス研究については、MCF-7細胞を、ピルビン酸塩を組み込まなかったことを除いて上述のとおり培養した。細胞は、75 cm2フラスコにおいて〜90%集密度まで増殖させた。細胞は定期的に分配し、80%集密度を超えるまで増殖させなかった。25継代より少ない細胞のみを、トランスフェクションのために使用した。細胞培地は、0.2 mM L-グルタミン、10% (w/w) ウシ胎仔血清、1 mg/ml ペニシリン、および100 U/ml ストレプトマイシン (Biological Industries, Beth Haemek, Israel) を添加したDMEM (NIH 3T3) またはRPMI (C-26, MCF-7) から構成された。細胞培地の構成成分はすべて、Biological Industries (Kibbutz Beit Haemek, Israel) から入手した。
【0079】
ルシフェラーゼアッセイ
ルシフェラーゼ活性は、Bright-GloTM ルシフェラーゼアッセイシステム (Promega, Madison WI) を用いて細胞抽出物についてアッセイした。すなわち、細胞を冷却PBS×1で2回洗浄し、細胞培養溶解バッファー(Promega)を用いて10分間溶解させた。その後、細胞を回収し、5分間遠心分離し、細胞破砕物を除去した。プレートリーディング照度計Mithras LB 940 (Berthold Technologies, Bad Wildbad, Germany) により、Bright-Glo ルシフェラーゼアッセイシステム (Promega, Madison, WI) (30μl ルシフェラーゼ基質につき10μl細胞抽出物) を用いて、相対的光単位におけるルシフェラーゼ活性を、細胞抽出物についてアッセイした。ルシフェラーゼの量は、溶解物における総タンパク質量に標準化し、Lowry法により決定した。
同様のアッセイにおいて、CCS(クロライド塩)/DOPE(2:1)のサイズ不揃いの(押出し成形されていない)集合物およびCMVプロモーター下のルシフェラーゼ遺伝子をコードするプラスミドから調製したリポプレックスを用いてトランスフェクションを行い、FuGENE6 トランスフェクション試薬 (ROCHE, Mannheim, Germany) に由来するリポプレックスと比較した。
【0080】
細胞生存のメチレンブルーアッセイ
メチレンブルー(MB)染色アッセイにより細胞毒性を試験した [Elliott WM and Auersperg N. Biotech Histochem 68: 29-35 (1993)]。一般に、200μLの培地で指数関数的に増殖する既知の数の細胞を、96-マイクロウェルの平底プレートに播いた。試験したリポプレックスの各々について、3ウェルを使用した。培養インキュベーションの24時間後、様々な濃度の種々のリポプレックス20μLを、未処理の細胞を含有する各ウェルに添加した。コントロールには正常食塩溶液を添加した。細胞を24時間リポプレックスに露出した。露出の終了時に、処理細胞および対応のコントロール細胞を洗浄し、50μLの2.5%グルタルアルデヒドを各ウェルに15分間添加することにより固定した。固定された細胞を脱イオン水で10回すすぎ、ホウ酸バッファー(0.1 M, pH 8.5)で1回すすぎ、乾燥させ、MB(0.1 Mホウ酸バッファー、pH 8.5中の1% 溶液100μL)で、室温で1時間染色した。染色した細胞を脱イオン水で完全にすすぎ、細胞に結合しなかった色素を除去し、その後乾燥させた。固定された細胞に結合したMBは、200μLの0.1 N HClを用いて37℃で1時間インキュベーションすることにより抽出し、各ウェルにおける色素の正味の光学密度を、プレート分光光度計 (Labsystems Multyskan Bichromatic, Finland) により620 nmで測定した。
【0081】
陽イオン性脂質に由来する集合物の調製
すべての調製物について、WaterPro PS HPLC/UV Ultrafilter Hybrid model (LABCONCO, Kansas City, MO) を用いて精製された水を使用し、これは、Type I, 18.2 megaohm/cm, 滅菌 (パイロジェンフリーから0.06 e.u./ml) 水をデリバーする。すなわち、脂質ストックを一般的な溶媒(通常tert-ブタノールまたはtert-ブタノール/水(1:1 v/v)の混合液)中に室温において混合した。この脂質混合物をtert-ブタノール中で一晩凍結乾燥させ、乾燥脂質「ケーキ」を得た。このケーキを水性媒体、通常20 mM Hepesバッファー, pH7.4、またはDDW、または5%デキストロースの添加により水和させ、その分散液を5分間ボルテクスにかけた。この手順により、サイズ不揃いの異種小胞(UHV)を作成した。水和ステップの体積は、脂質陽イオン電荷の最終濃度を通常1 mM〜20 mMにコントロールするように調整した。
【0082】
ダウンサイズのために、望まれるときには、水性液体分散液を、LiposoFast押出し成形機 (Avestin, Ottawa, Canada) を用いて、ポリカーボネートフィルターを通して、400 nmの孔サイズから始まって100、50または30 nm押出し成形ステップにより段階的に押出し成形した。ある調合物については、溶液が透明になるまでバス超音波処理機で脂質分散液を超音波処理することによりダウンサイズを行った。
【0083】
脂質集合物およびリポソームは、以下の陽イオン性脂質の一つをtert-ブタノール中に溶解することにより調製した:DOTAP: 1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン、N-パルミトイル D-エリスロスフィンゴシルカルバモイル-スペルミン (CCS、同時係属中の国際出願第 号に記載されるとおり調製)、または中性の共同脂質 (DOPC-1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3 ホスファチジル-コリン、DOPE-ジオレオイルホスファチジルエタノール-アミン)またはコレステロールと陽イオン性脂質との1:1のモル比の混合物。すべてのケースにおいて、調製した集合物は4℃に保存した。
【0084】
適量の陽イオン性脂質を含有するアリコートを作成するために、細胞に添加する直前に、小体積の集合物の分散液を、予め計算した量の20 mM Hepesバッファー(pH 7.4)で希釈した。
【0085】
オリゴヌクレオチド(ODN)を含有するリポプレックスの調製
リポプレックスの調製のために、上述のとおり得られた希釈された集合物分散液(UHVまたはLUVの何れか)を、18-merアンチセンスホルホロチオエートオリゴヌクレオチドを含む溶液(S-ODN)に添加し、適切なL+/ODNP-のモル比で、ガラスバイアルにおいて20 mM Hepesバッファー中に適宜希釈した。この手順は、(以下の)プラスミドリポプレックスの調製と同じであった。
CCS抱合体が、一の正電荷と三の正電荷との間に相当するものを示すため、これをL+を計算するために考慮に入れたことに注意すべきである。
【0086】
プラスミドDNAを含有するリポプレックスの調製
細胞培養トランスフェクションおよび多くの生物物理学的研究のために、リポプレックスを以下のとおり調製した:DNAを0.2 mMリン酸塩の濃度にHEPESバッファー中で希釈し、陽イオン性脂質を0.2-2 mM正電荷の濃度に別のチューブで希釈した。脂質の最終濃度は、DNAと等しい体積となるように調整した。リポプレックスを調製するために、DNAを脂質に滴下し、所望の陽イオン性脂質/DNAの電荷比を達成した。たとえば、+/-比2.0のリポプレックスを調製するために、90μL体積の1.65μg DNA(5 nmol)を、同体積の陽イオン性脂質10 nmolに添加した。得られたリポプレックスを、攪拌することなく15-20分間インキュベートした。調合物中の核酸の最終濃度(細胞培地に添加する前)は、0.01 mg/mLであった。
【0087】
siRNAを含有するリポプレックスの調製
siRNAを含有するリポプレックスを調製するために、20μM(822μMの負電荷のリン酸塩(P-)と等価)のsiRNAのストック溶液を、5%デキストロースを含有する100μLのDDWで希釈した(siRNA P- 82μMの最終濃度)。
凍結乾燥された陽イオン性脂質を、5%デキストロースを含有する100μLのDDWで水和させた(164μM総脂質の最終濃度)。
siRNA(100μL)を100μLの脂質溶液に滴下し、10分間インキュベートした(siRNA P- 41μMおよび脂質82μMの最終濃度)。siRNA(25、50および100 nM)を、2、4、8μM脂質と並行して複合体化し、48-72時間インキュベートした。
【0088】
リポフェクション
プラスミドDNAのリポフェクション
トランスフェクションの24時間前に、細胞を入れた各フラスコをPBSで一回洗浄し、細胞を5 mLトリプシンで3分間剥離させ、20 mLの新鮮な培地で希釈し、96ウェルプレートに7×103細胞/ウェルの密度で、または35 mmペトリ皿に1.3×105細胞/ウェルの密度で播いた。トランスフェクションの日に、古い培地を新鮮な培地に置き換え、リポプレックスを、96ウェルプレートのウェルあたり0.2μg DNA(10μLリポプレックス)、または35-mmプレートあたり1μg(50μL)で、ウェルに均一に添加した。トランスフェクション効率をレポーター遺伝子により、通常トランスフェクションから24-48時間後に測定した。
【0089】
S−ODN
S−ODNのリポフェクションは、以下の違いはあるが、プラスミドDNAについて記載したのと同様の方法で行った。
処理溶液は、S−ODN(別途記載がなければ一般に0.005 nmol)を、遊離または新たに調製されたリポプレックスとして含有していた。あるいは、コントロールリポソーム溶液は、等量の陽イオン性脂質を含有していた。
すべてのケースにおいて、細胞は、37℃、90%相対湿度、5%CO2で、96時間インキュベートした。
各々の特定の処理溶液は、3つの異なるウェルに添加し、全ての実験を3回行った。
【0090】
siRNA
MCF-7細胞を、96ウェルプレートに4×103細胞/ウェルの密度で播き、24時間増殖させた。表示の時間後に、陽イオン性脂質/siRNA P-の比2:1の種々のリポプレックスを細胞に添加し、72時間インキュベートした。
2つの異なるタイプのsiRNA(Dharmacon, USA)を使用した。
- siRNA I (19ヌクレオチド, MW=13.600)
- siRNA II (22ヌクレオチド, MW=14.025)
追加のコントロールは以下のものを含む:
- キャリアTransIT-TKO (Mirus, USA) およびsiFecttm (Promega, USA) 市販のキットとの比較
- 18 mer G3139 Bcl-2 ODN アンチセンス (Genta, Lexington, Ma)
- スクランブルアンチセンス (Genta Lexington, Ma).
- ウサギウイルス siRNA (Mirus, USA or Promega, USA)
72時間の増殖の後、細胞を2.5%グルタルアルデヒドにより固定し、MBで染色した。固定された細胞に結合したMBを0.1 N HClにより抽出し、各ウェルにおける色素の正味の光学密度をプレート分光光度計(Labsystems Multyskan Bichromatic, Finland)により620 nmで測定した。
【0091】
陽イオン性脂質集合物とsiRNAの複合体化の定量
様々な量の陽イオン性LUV(16.4-41 nmole脂質)を、8.2 nmoleのsiRNA P-と混合し、種々のsiRNA P-/脂質/モル比を達成した。遊離のsiRNA(8.2 nmole)をコントロールとして使用した。室温で10分間インキュベートした後、2.5 nmoleのエチジウムブロマイド(EtBr)を各サンプルに添加し、その後更に10分間インキュベートした。
EtBrの蛍光強度を、260nmの励起波長および591nmの放射波長を用い、515 nmのカットオフフィルターを用いて測定した。
【0092】
各サンプルを、siRNAの非存在下におけるEtBrのバックグラウンド蛍光について修正した。蛍光強度は、同じ濃度(8.2 nmole)の遊離のsiRNA P-について得た最大蛍光シグナルの%として表した。
本発明は、添付の特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲の内容は、本明細書の開示の中に含まれるものとして読まなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1A−1Dは、式(I)のスフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体の一般的な定義に包含される、複数の可能な化学構造、「直鎖」、「分枝」又は「環状」を示す。図1Aは、単一のポリアルキルアミン鎖に連結されたスフィンゴイド骨格(セラミド)を示し、図1B及び図1Cは、2つのポリアルキルアミン鎖に連結された同一のスフィンゴイド骨格を示し、図1Dは、同一の骨格を示すが、2つのヒドロキシル部分を介して、単一のポリアルキルアミン鎖が連結されて、環状ポリアルキルアミン抱合体を形成している。
【図2】図2は、NIH 3T3細胞についての毒性研究を示し、CCS媒体が細胞に対して非毒性であることを明らかにしている。
【図3】図3は、NIH 3T3細胞へのルシフェラーゼプラスミドの遺伝子トランスフェクションを示す。トランスフェクションは、CCS/DOPE媒体により行われた。
【図4】図4は、本明細書に記載される方法によるルシフェラーゼを用いたC-26細胞のトランスフェクションと、最適な調合物のFuGENE6(登録商標)を用いたトランスフェクションとの比較を示す。
【図5】図5は、緑色蛍光タンパク質 (GFP) をコードするプラスミドpQBI-25 (Qbiogene, Montreal, Canada) に複合体化された2:1の比のLLC媒体CCS/DOPEの混合物を用いた、NIH 3T3細胞へのpGFP(白スポット)のトランスフェクションの効率を表す。この図は、細胞集団にGFP発現細胞が高いパーセンテージで存在することを示す。
【図6】図6は、Bcl-2 siRNA I/IIを含有するCCSリポソーム、CCS/DOPE(2:1)またはCCS/コレステロール(2:1)と、あるいは裸のBcl-2 siRNA I/IIと72時間インキュベートしたMCF-7細胞の%生存を示す。
【図7】図7は、2:1の電荷比の、+/-アンチセンスBcl-2 siRNA I、狂犬病siRNA、Bcl-2 ODNアンチセンス、またはスクランブルODNの一つと複合体化した陽イオン性リポソーム:CCS/DOPE(2:1)と72時間インキュベートしたMCF-7細胞の%生存を示す。
【図8】図8は、siRNA(Bcl-2)と複合体化した、CCS/DOPE(2:1)、または商業的に入手可能なキットTransIT-TKO(Mirus, Madison, WI)もしくはsiFECT(Promega, Madison WI)の何れかと72時間インキュベートしたMCF-7細胞の%生存を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的細胞に核酸分子をデリバリーするための薬学的組成物を調製するためのスフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体の使用であって、前記スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体が、カルバモイル結合を介して、少なくとも一つのポリアルキルアミン鎖を有するスフィンゴイド骨格を含む、使用。
【請求項2】
前記核酸分子が、生理的pHにおいて、正味負の双極子モーメント、負の電荷を有する少なくとも一つの領域、又は正味負の電荷を有する、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記核酸分子が、プラスミドDNAである、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記核酸分子が、スモールインターフェアランスRNA(siRNA)である、請求項2に記載の使用。
【請求項5】
前記核酸分子が、オリゴデオキシヌクレオチド(ODN)である、請求項2に記載の使用。
【請求項6】
前記ODNが、少なくとも一つのCpGモチーフを含有する(CpG−ODN)、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体が脂質集合物を形成する、請求項1から6の何れか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体が、ミセル及び/又は小胞を形成する、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記スフィンゴイド骨格が、セラミド、ジヒドロセラミド、フィトセラミド、ジヒドロフィトセラミド、セラミン、ジヒドロセラミン、フィトセラミン、ジヒドロフィトセラミンから選択される、請求項1から8の何れか1項に記載の使用。
【請求項10】
前記スフィンゴイドがセラミドである、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記一つ以上のポリアルキルアミン鎖が、スペルミン、スペルミジン、ポリアルキルアミン類縁体又はそれらの組み合わせから独立して選択される、請求項1から10の何れか1項に記載の使用。
【請求項12】
前記標的細胞が組織である、請求項1から11の何れか1項に記載の使用。
【請求項13】
一つ以上のターゲッティング物質と併用した、請求項1から12の何れか1項に記載の使用。
【請求項14】
前記スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体が、N−パルミトイル D−エリスロスフィンゴシルカルバモイル−スペルミン(CCS)である、請求項1から13の何れか1項に記載の使用。
【請求項15】
標的細胞に核酸をトランスフェクションするための方法であって、前記方法が、前記標的細胞を、核酸分子とともに、スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体と接触させ、これにより前記標的細胞に核酸分子をトランスフェクションすることを具備し、前記スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体が、カルバモイル結合を介して、少なくとも一つのポリアルキルアミンを有するスフィンゴイド骨格を含む、方法。
【請求項16】
前記核酸が、前記スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体と会合している、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記核酸分子が、プラスミドDNAである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記核酸分子が、スモールインターフェアランスRNA(siRNA)である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記核酸分子が、オリゴデオキシヌクレオチド(ODN)である、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記ODNが、少なくとも一つのCpGモチーフを含有する(CpG−ODN)、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体が脂質集合物を形成する、請求項15から20の何れか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体が、小胞及び/又はミセルを形成する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記スフィンゴイド骨格が、セラミド、ジヒドロセラミド、フィトセラミド、ジヒドロフィトセラミド、セラミン、ジヒドロセラミン、フィトセラミン、ジヒドロフィトセラミンから選択される、請求項15から22の何れか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記スフィンゴイドがセラミドである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記一つ以上のポリアルキルアミン鎖が、スペルミン、スペルミジン、ポリアルキルアミン類縁体又はそれらの組み合わせから独立して選択される、請求項15から24の何れか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記標的細胞が組織である、請求項15から25の何れか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記核酸分子と会合した前記スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体が、一つ以上のターゲッティング物質と更に会合している、請求項15から26の何れか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体が、N−パルミトイル D−エリスロスフィンゴシルカルバモイル−スペルミン(CCS)である、請求項15から27の何れか1項に記載の方法。
【請求項29】
標的細胞に核酸をトランスフェクションするための薬学的組成物であって、(i)カルバモイル結合を介して少なくとも一つのポリアルキルアミン鎖を有するスフィンゴイド骨格を含む少なくとも一つのスフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体;および(ii)前記抱合体と会合した少なくとも一つの核酸分子を含む、組成物。
【請求項30】
生理的に許容される担体を含む、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
前記核酸分子が、生理的pHにおいて、正味負の双極子モーメント、負の電荷を有する少なくとも一つの領域、又は正味負の電荷を有する、請求項29または30に記載の組成物。
【請求項32】
前記核酸分子が、プラスミドDNAである、請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
前記核酸分子が、スモールインターフェアランスRNA(siRNA)である、請求項31に記載の組成物。
【請求項34】
前記核酸分子が、オリゴデオキシヌクレオチド(ODN)である、請求項31に記載の組成物。
【請求項35】
前記ODNが、少なくとも一つのCpGモチーフを含有する(CpG−ODN)、請求項34に記載の組成物。
【請求項36】
前記スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体が脂質集合物を形成する、請求項29から35の何れか1項に記載の組成物。
【請求項37】
前記スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体が、小胞及び/又はミセルを形成する、請求項36に記載の組成物。
【請求項38】
前記スフィンゴイド骨格が、セラミド、ジヒドロセラミド、フィトセラミド、ジヒドロフィトセラミド、セラミン、ジヒドロセラミン、フィトセラミン、ジヒドロフィトセラミンから選択される、請求項29から37の何れか1項に記載の組成物。
【請求項39】
前記スフィンゴイドがセラミドである、請求項38に記載の組成物。
【請求項40】
前記一つ以上のポリアルキルアミン鎖が、スペルミン、スペルミジン、ポリアルキルアミン類縁体又はそれらの組み合わせから独立して選択される、請求項29から38の何れか1項に記載の組成物。
【請求項41】
前記標的細胞が組織である、請求項29から40の何れか1項に記載の組成物。
【請求項42】
一つ以上のターゲッティング物質を含む、請求項29から41の何れか1項に記載の組成物。
【請求項43】
前記スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体が、N−パルミトイル D−エリスロスフィンゴシルカルバモイル−スペルミン(CCS)である、請求項29から42の何れか1項に記載の組成物。
【請求項44】
疾患または障害を治療するための方法であって、核酸分子と会合したスフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体を、前記核酸分子を用いて標的細胞のトランスフェクションを達成しかつ前記標的細胞に対して所望の生化学的効果を達成するのに効果的な量で、前記治療の必要な被検体に与えることを含む、方法。
【請求項45】
前記核酸が、前記スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体と会合している、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記核酸分子が、プラスミドDNAである、請求項44または45に記載の方法。
【請求項47】
前記核酸分子が、スモールインターフェアランスRNA(siRNA)である、請求項44または45に記載の方法。
【請求項48】
前記核酸分子が、オリゴデオキシヌクレオチド(ODN)である、請求項44または45に記載の方法。
【請求項49】
前記ODNが、少なくとも一つのCpGモチーフを含有する(CpG−ODN)、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体が脂質集合物を形成する、請求項44から49の何れか1項に記載の方法。
【請求項51】
前記スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体が、小胞及び/又はミセルを形成する、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記スフィンゴイド骨格が、セラミド、ジヒドロセラミド、フィトセラミド、ジヒドロフィトセラミドから選択される、請求項44から51の何れか1項に記載の方法。
【請求項53】
前記スフィンゴイドがセラミドである、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記一つ以上のポリアルキルアミン鎖が、スペルミン、スペルミジン、ポリアルキルアミン類縁体又はそれらの組み合わせから独立して選択される、請求項44から53の何れか1項に記載の方法。
【請求項55】
前記標的細胞が組織である、請求項44から54の何れか1項に記載の方法。
【請求項56】
前記治療が、核酸分子と会合した前記スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体による標的細胞の生体外(ex vivo)治療を含み、ここで前記標的細胞は、被検体の体から取り出されており、核酸分子と会合した前記スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体による治療の後に、治療された標的細胞を被検体の体に戻す、請求項44から55の何れか1項に記載の方法。
【請求項57】
前記標的細胞が骨髄細胞である、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記核酸分子と会合した前記スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体が、一つ以上のターゲッティング物質と会合している、請求項44から57の何れか1項に記載の方法。
【請求項59】
前記スフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体が、N−パルミトイル D−エリスロスフィンゴシルカルバモイル−スペルミン(CCS)である、請求項44から58の何れか1項に記載の方法。
【請求項60】
請求項1から14の何れか1項に記載のスフィンゴイド−ポリアルキルアミン抱合体と、核酸分子の捕捉剤としての前記抱合体の使用説明書とを備えたキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2006−527761(P2006−527761A)
【公表日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516806(P2006−516806)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【国際出願番号】PCT/IL2004/000533
【国際公開番号】WO2004/110499
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【出願人】(399042546)イッスム・リサーチ・ディベロップメント・カンパニー・オブ・ザ・ヘブルー・ユニバーシティ・オブ・エルサレム (10)
【出願人】(505467904)バイオラブ・リミテッド (4)
【Fターム(参考)】