説明

トリエチレングリコールジビニルエーテルの製造方法

【課題】 効率的に、かつ、高純度のトリエチレングリコールジビニルエーテルを製造する方法の提供。
【解決手段】 トリエチレングリコールとアセチレンとの反応で得られるトリエチレングリコール5〜20質量%、トリエチレングリコールモノビニルエーテル60〜90質量%及びトリエチレングリコールジビニルエーテル5〜20質量%を含有する生成混合物を、連続反応蒸留し、次いで抽出蒸留することを特徴とするトリエチレングリコールジビニルエーテルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度のトリエチレングリコールジビニルエーテルを効率良く製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ビニルエーテルはアルカリ金属アルコラート触媒の存在下、均質な液相中でアルコールのアセチレンへの付加反応で工業的に製造されている。このビニル化反応は、一般には120〜160℃の温度で、大気圧を超える圧力下で行われる。ジビニルエーテル製造の場合は、アルコールとしてジオールが使用される。このビニル化反応は、2つの連続する工程で行われ、最初に主にジオールのモノビニルエーテルだけが生成され、次いで、このモノビニルエーテルが反応してジビニルエーテルが生成される。
【0003】
ジオールとしてトリエチレングリコールを使用して相応のジビニルエーテルを製造する反応は、定量的なジビニルエーテルが製造される前に中断される。この原因は、反応に伴う粘度上昇であり、この粘度上昇はアセチレンの十分な圧入を次第に困難とする。
通常、トリエチレングリコールのジビニルエーテル製造の際には、過剰量のジビニルエーテルの他に、反応混合量に対して数質量%までの相応するモノビニルエーテルを含有する反応混合物が生成する。
上記生成混合物の中に含まれるトリエチレングリコールモノビニルエーテルは、トリエチレングリコールの片方の水酸基のみがビニル化された化合物であり、両末端の水酸基がビニル化されたトリエチレングリコールジビニルエーテルに近い構造を有することから、蒸留によっても除去は困難である。従って、蒸留原料となる反応終了後の反応液には、トリエチレングリコールモノビニルエーテルの含有量が低いことが望ましく、ビニル化反応を十分に進める必要があるが、一方で、反応終了間際にタール状物質や不純物が生成するという問題がある。
【0004】
また、トリエチレングリコールを原料とするトリエチレングリコールジビニルエーテルの製造においては、反応後半の反応速度上昇時の発熱は非常に大きく、短時間に温度が上昇するため、反応器の加熱冷却装置による冷却では抑制できず、安全上問題がある。この反応速度の上昇は、アセチレンの導入流量を制御することである程度はコントロール可能であって、発熱の制御も若干可能である。しかしながら、反応後期に生成するタール状の物質等の量は変わらず、得られる反応物は黒く変色し、不純物を多量に含むものである。
反応後期に生成するタール状の物質やトリエチレングリコール分解物等の副生物が反応終了間際に急増し、不純物が多量に生成するので問題となっている。対応策として、反応終了間際の不純物の生成を抑制するために、原料の水酸基のビニル化反応率を低く抑えると、蒸留分離が困難なトリエチレングリコールモノビニルエーテルの濃度が増加し、蒸留によって得られる製品の純度が低下する。
【0005】
このように、反応終了後の反応混合物から中間体であるトリエチレングリコールモノビニルエーテルの分離が困難であるので、高純度のトリエチレングリコールジビニルエーテルを得るためには、反応を完結させて、前述のように中間体のトリエチレングリコールモノビニルエーテルを減らす必要があった。このため、従来から製造方法としてはバッチ式反応蒸留方法が使用されている。
しかし、このバッチ式反応蒸留方法により、トリエチレングリコールジビニルエーテルを製造する場合、前述したように、反応が完結し終了する前に反応速度が急激に増加することから、その解決策が望まれていた。
【0006】
この解決策として、反応を円滑に進め、タール、副生物および不純物の生成を抑制するには反応液中の水分量を1〜10重量%とする(特許文献1)ことが知られている。しかし、この方法の場合、水が反応を阻害することから、触媒活性が低下し、反応が長時間必要となり、また、バッチ式反応蒸留方法のため、触媒であるアルカリの廃棄物を発生するという問題がある。
更に、反応混合物であるトリエチレングリコールジビニルエーテルとトリエチレングリコールモノビニルエーテルから、両者を分離させるために、分離すべき混合物に、蒸留による分離の前に金属水酸化物、特に、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウム水溶液を添加して蒸留する方法(特許文献2)が知られているが、バッチ式反応蒸留方法では有効であるものの、連続反応蒸留方法のプロセスに導入することは不可能であり、また、アルカリ触媒の廃棄物が発生するという問題がある。
【特許文献1】特開平10−45653号公報
【特許文献2】特開平11−180922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記のような従来技術の難点を解消し、効率的に、かつ、高純度のトリエチレングリコールジビニルエーテルを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、これらの課題を解決するために鋭意検討を進めたところ、トリエチレングリコールとアセチレンとを反応させて得られる原料、中間体及び目的生成物の特定の混合範囲にある生成混合物を連続反応蒸留し、次いで抽出蒸留することにより、効率的に、かつ、高純度のトリエチレングリコールジビニルエーテルが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、トリエチレングリコールとアセチレンとの反応で得られるトリエチレングリコール5〜20質量%、トリエチレングリコールモノビニルエーテル60〜90質量%及びトリエチレングリコールジビニルエーテル5〜20質量%を含有する生成混合物を、連続反応蒸留し、次いで抽出蒸留することを特徴とするトリエチレングリコールジビニルエーテルの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、効率的、かつ、高純度のトリエチレングリコールジビニルエーテルの製造方法が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のトリエチレングリコールジビニルエーテル(以下、TEG−DVEと記載することがある)の製造方法は、例えば、アルカリ金属アルコラート触媒の存在下で、トリエチレングリコール(以下、TEGと記載することがある)とアセチレンとを反応させることにより行われる。なお、反応は逐次的に進行する。
アルカリ金属アルコラート触媒としては、TEGとアルカリ金属水酸化物(特に、水酸化カリウム)を反応して得られるアルコラートが好ましい。
反応温度は100〜150℃、更に130〜150℃、圧力は常圧〜0.04MPa、更に0.02〜0.04MPaであるのが好ましい。
【0012】
TEGとアセチレンの反応は、場合によってはジグライム、トリグライム、テトラグライム等の溶剤を用いることができる。
TEG及び溶剤は不純物の少ないものが望ましいが、市販のものをそのまま使用することができる。
【0013】
本発明方法においては、反応により得られた生成混合物中の未反応原料TEG、中間体トリエチレングリコールモノビニルエーテル(以下、TEG−MVEと記載することがある)及び生成物TEG−DVEの混合組成が、未反応原料TEGが5〜20質量%、好ましくは10〜15質量%、中間体TEG−MVEが60〜90質量%、好ましくは65〜70質量%及び生成物TEG−DVEが5〜20質量%、好ましくは15〜20質量%であるものを連続反応蒸留に付す。
【0014】
本発明の製造方法の工程は、連続工程又はバッチ工程の何れでもとることができるが、連続工程の方が効率的であり好ましい。従って、上記生成混合物の組成は、予め予備製造反応を行ってこの混合組成条件に合致する生成混合物が得られる製造条件を設定することにより、当該調整工程を必要としない連続工程が採用できる。この場合は、次の連続反応蒸留工程への生成混合物の供給は、反応を進行させながら、連続的に一部を抜き取ることにより行われる。またバッチ工程で行う場合は、反応終了後、必要によりTEG、TEG−MVE又はTEG−DVEの調整を行った生成混合物を、連続反応蒸留塔に添加することにより行う。
ここで、原料であるTEGが5質量%を下回ると、次の連続反応蒸留工程において反応が暴走する危険性があり、また、TEG−DVEが5質量%を下回ると連続反応蒸留工程での留出分の製品純度が急激に低下する。
【0015】
このようにして製造された、原料TEG、中間体TEG−MVE及び生成物TEG−DVEの混合物である生成混合物は、次いで連続反応蒸留工程で反応を更に進行させてTEG−DVEの含有量を高め、引き続き抽出蒸留工程でTEG−DVEの純度アップがなされる。
【0016】
上記生成混合物は、先ず、連続反応蒸留方法によって、TEG−DVEの含有量を更に上昇させる。ここで連続反応蒸留方法は、生成混合物を蒸留塔内に連続的に供給し、同時にTEG−DVEを留去して抜き取る製造工程である。
【0017】
連続反応蒸留に使用する蒸留装置としては特に制限はないが、精留塔の構造を有するものが好ましく、棚段式精留塔、充填精留塔等が挙げられる。精留塔の理論段数は、特に制限されないが、通常は1〜50段、更に10〜20段であるのが好ましい。
【0018】
連続反応蒸留は、生成混合物を反応槽から連続反応蒸留塔に供給し、0.5〜1.5kPa、好ましくは0.66〜1.33kPaで、BTM(ボトム)ヒーター設定温度150〜180℃、好ましくは160〜170℃での蒸留条件で行われる。なお、連続反応蒸留塔には、アルカリ金属アルコラート触媒が含まれていることはいうまでもない。
【0019】
連続反応蒸留して得た留出液中のTEG−DVEの含有量は、85〜89質量%であるのが、次いで行う抽出蒸留工程で得られる最終TEG−DVE純度の点から好ましい。
【0020】
連続反応蒸留工程で得られた留出液は、次いで抽出溶剤を加えて抽出蒸留し、TEG−DVEを分離、回収する。この抽出蒸留を行うことにより、更にTEG−DVE純度を高めることが可能となる。抽出溶剤としてTEGを使用するのが好ましい。
【0021】
抽出蒸留工程は、連続反応蒸留装置から連続的に供給される留出液を抽出蒸留装置の中段より連続的に供給し、抽出溶剤を、好ましくは抽出蒸留装置の蒸留塔の頂部から加えながら蒸留することによって行われる。ここで添加する抽出溶剤量は、供給する反応原料の20〜100質量%、更に50〜90質量%相当量であるのが好ましい。
抽出蒸留は、0.50〜1.50kPa、好ましくは0.66〜1.33kPaで、BTM(ボトム)ヒーター設定温度130〜170℃、好ましくは140〜150℃の蒸留条件で抽出蒸留される。
【0022】
かくして得られた留出液中のTEG−DVEの含有量は、極めて純度の高いTEG−DVEが得られる。また、中間体であるTEG−MVEの含有量も少ない。
【0023】
抽出蒸留装置としては、特に制限されないが、連続反応蒸留装置と同様の精留塔を使用するのが好ましい。
【0024】
本発明のTEG−DVEの製造方法では、抽出蒸留後に、更に反応時の副生物、原料中のキャリーオーバーされた不純物等が混在している等、必要により精製のためのバッチ蒸留等の蒸留を行ってもよく、更に高純度のTEG−DVEが得られる。
この蒸留としては、バッチ蒸留が好ましい。バッチ蒸留は、圧力0.97kPa、BTM設定温度146℃の条件で行うのが、高純度のTEG−DVEを得る点で好ましい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例に基づき発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
実施例1
10Lの減圧対応反応容器に、TEG7500g、水酸化カリウム315gを入れ、1.3kPa、170℃で1時間反応させた後、TEG500gを留去して脱水調製を行った
。得られた触媒調製液を反応槽に窒素加圧移送し、気相部をアセチレンで置換した。そして、反応温度145℃、圧力(アセチレン加圧)0.03MPaで反応を行った。反応槽から連続反応蒸留装置へ循環させながら(図1の太い実線部分)反応を続け、反応開始から21時間後、反応槽から連続反応蒸留装置へ移送される生成混合物の組成が、TEG/TEG−MVE/TEG−DVE=15/66/19質量%であることを、ガスクロ(GC)で確認した。次いで、連続反応蒸留装置へ、次工程に必要な上記組成の生成混合物の移送を開始した。更に、以降の連続合成反応に必要なTEG110g/hを反応槽に連続的に加えた。
【0027】
12段相当充填塔を有する連続反応蒸留装置において、圧力0.97kPa、BTM(ボトム)設定温度170℃にて連続反応蒸留し、留出液組成が安定してから、抽出蒸留装置にフィード量148g/hとなる量の留出液を次の抽出蒸留装置に供給した。この留出液中のTEG−DVEの含有量は、GC法で測定した結果、87%であった。
【0028】
連続反応蒸留して得られた留出液に、反応槽における連続合成反応に必要な原料TEGの一部のTEGを、50〜100g/hの添加量で加えて、圧力0.97kPa、BTM(ボトム)設定温度146℃にて抽出蒸留した結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
TEGを20〜100g/hの割合で添加して抽出蒸留を行ったものは、何れもTEG−DVEの含有量の増加が認められた。また、中間体TEG−MVEの含有量は、TEGを加えないで単なる蒸留を行った場合は4.7質量%であったのに対し、TEGを50g/hで添加して抽出蒸留を行った場合は1.7質量%であって、中間体の除去においても優れた製造方法であった。
【0031】
更に、このものを圧力0.97kPa、BTM設定温度146℃の条件下でバッチ蒸留を行ったところ、TEG添加量0、20、50、100g/hの場合、それぞれTEG−DVE含有量が96、98、99、99質量%であった。本発明の製造方法で製造したTEG−DVEは高純度であった。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】製造工程の一例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリエチレングリコールとアセチレンとの反応で得られるトリエチレングリコール5〜20質量%、トリエチレングリコールモノビニルエーテル60〜90質量%及びトリエチレングリコールジビニルエーテル5〜20質量%を含有する生成混合物を、連続反応蒸留し、次いで抽出蒸留することを特徴とするトリエチレングリコールジビニルエーテルの製造方法。
【請求項2】
連続反応蒸留の留出液を連続的に抽出蒸留塔の中段より供給し、トリエチレングリコールを抽出蒸留塔の頂部より加えて抽出蒸留する請求項1記載の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2006−8519(P2006−8519A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183216(P2004−183216)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000157603)丸善石油化学株式会社 (84)
【Fターム(参考)】