説明

トリス三環性アミン置換アレン誘導体

【課題】有機EL用素子成分、特に正孔輸送材料として優れた新規なトリス三環性アミン置換アレン誘導体を提供すること。
【解決手段】本発明のトリス三環性アミン置換アレン誘導体は、アレンに特定構造の三環性アミン基を3個有する新規なトリス三環性アミン置換アレン誘導体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なトリス三環性アミン置換アレン誘導体に関する。さらに詳しくは有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子成分として用いることにより、有機EL素子の発光寿命を顕著に改良できる新規なトリス三環性アミン置換アレン誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL発光素子については、その原理的な可能性は従来から知られていたものの、実用的な素子の作製が初めて報告されたのは、1987年にコダック社のTangらによるものが最初である。彼らは発光層と正孔輸送層を分離し、薄膜で積層化させることにより有機EL素子の発光効率を向上させ、かつ低電圧での発光を可能にし、発光素子としての可能性を世に示した(例えば、特許文献1参照)。これ以降、多くの研究者によって発光効率や素子寿命の改良のための研究が行われ、素子用材料として数多くの化合物が提案されてきた。その結果、発光特性についても十分な実用性を有する材料が開発されるに至った(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、素子寿命については未だに十分な特性が得られているとは言い難く、素子の駆動時に、時間とともに発光輝度が低下したり、ダークスポットと呼ばれる発光しない部分が現れたりする等の劣化が観測されているが、これらの素子寿命に影響を及ぼす劣化の原因の一つとして、正孔輸送材料の特性が大きくかかわっていることが、最近の研究で明らかになってきた。具体的には、通電により正孔輸送材料が結晶化して薄膜の均一性をゆがめ、素子の短絡をまねいたり、また通電により正孔輸送材料が分解を起こして機能しなくなり、発光を阻害する等である。
【0003】
このような問題を解決すべく、改良された特性を有する化合物(通称:α−NPD)のような正孔輸送材料が用いられている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
【化1】

【0005】
また、さらに最近になって、正孔輸送材料としてより高い融点や高い熱分解点を有するものが、発光や保存の安定性に優れ、また発光寿命が長いことも見出されている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、これまでに開発されている優れた発光材料の特性を生かすに足る、十分な安定性を持った正孔輸送材料については、未だ得られていないのが現状である。
【特許文献1】特開昭63−295695号公報
【特許文献2】特開平4−220995号公報
【特許文献3】特開平5−234681号公報
【特許文献4】特開2004−182740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、熱的特性に優れ、駆動による特性の劣化が改善された、有機EL用正孔輸送材料として優れた特性を有する、新規なトリス三環性アミン置換アレン誘導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、文献に未記載の新規化合物である特定の構造を有するトリス三環性アミン置換アレン誘導体の少なくとも1種を、有機EL素子の構成要素、特に、正孔輸送材料として用いることにより、優れた有機EL素子を得ることが出来た。
【0008】
すなわち、本発明は、一般式(1)で示されるトリス三環性アミン置換アレン誘導体を提供するものである。
【0009】
【化2】

〔一般式(1)において、R1およびR2は、水素原子またはC1〜C4の低級アルキル基を示す。R3は、水素原子、C1〜C4の低級アルキル基、C1〜C4の低級アルコキシ基またはハロゲン原子を示す。Ar1は、置換基を有してもよいアルキル基、アラルキル基、アリール基またはヘテロ環基を示す。Aは、置換または非置換の芳香族環を含む三価の有機基を示す。Zは、チッ素を含む5員環の2つの炭素と共に、5〜8員環の飽和の炭化水素環または複素環を形成するのに必要な原子を示す。また、nは1〜3の整数を示す〕
【発明の効果】
【0010】
本発明のトリス三環性アミン置換アレン誘導体を用いることにより、融点や熱分解点等の熱安定性が十分高く発光寿命の長い、優れた有機EL素子を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
一般式(1)におけるR1とR2の具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、ブチル基等のC1〜C4の低級アルキル基を挙げることが出来る。R3の具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、ブチル基等のC1〜C4の低級アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等のC1〜C4の低級アルコキシ基、または、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子を挙げることが出来る。Ar1の具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、オクチル基、ドデシル基等のアルキル基、ベンジル基、1−ナフチルメチル基等のアラルキル基、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、ビフェニル基、ターフェニル基等のアリール基、フリル基、チエニル基、インドリル基等の複素環基を挙げることが出来る。また、Aの具体例としては、芳香環として置換若しくは非置換のベンゼン環またはナフタレン環から3個の水素を除いて出来る三価の基が挙げられ、より具体的には下記一般式(2)に示す基が挙げられる。
【0012】
【化3】

【0013】
〔式中、R4〜R13は、それぞれ独立して水素原子、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、オクチル基、ドデシル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、オクチルオキシ基等のアルコキシ基、または、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子が挙げられる。〕
【0014】
また、Zの具体例としては、チッ素を含む5員環の2つの炭素と共に飽和鎖を形成する−(CH23−、−(CH24−、−(CH25−等の炭素鎖や、−CH2−NH−CH2−、−CH2−N(CH3)−CH2−等の含チッ素炭素鎖が挙げられる。また、nは1〜3の整数を示す。
【0015】
次に、上記一般式(1)で示されるトリス三環性アミン置換アレン誘導体の製造方法について説明する。
【0016】
一般式(1)で示されるトリス三環性アミン置換アレン誘導体は、一般式(3)で示されるトリスフォスフォネート誘導体と、一般式(4)で示されるアルデヒドまたはケトン誘導体とを縮合させて合成することが出来る。
【0017】
【化4】

【0018】
〔式中、R1及びAは前記一般式(1)の場合と同じである。また、R14はC1〜C2の低級アルキル基を示す。〕
【0019】
【化5】

【0020】
〔式中、R2、R3及びAr1は前記一般式(1)の場合と同じである。〕
【0021】
また、一般式(3)のトリスフォスフォネート誘導体は、一般式(5)で示されるトリスハライド誘導体を、亜リン酸トリアルキル等と加熱して合成することが出来る。
【0022】
【化6】

【0023】
〔式中、R1及びAは前記一般式(1)の場合と同じである。また、Xはハロゲン原子を示す〕
【0024】
Xの具体例は、上記R3の具体例で記載したハロゲン原子と同じである。
【0025】
また、一般式(4)のアルデヒドまたはケトン誘導体は、一般式(6)の三環性アミンを、ヴィルスマイヤー反応等によるフォルミル化、あるいは、アシルハライドを用いてアシル化することにより得られる。
【0026】
【化7】

【0027】
〔式中、R3及びAr1は前記一般式(1)の場合と同じである。〕
【0028】
一般式(6)の三環性アミンは、特開2000−169446号公報に記載されているような、Nが無置換の三環性アミンをハロゲン化芳香族化合物によりN−アリール化する方法や、1,1−ジアリールヒドラジンとシクロアルカノンを原料とするフィッシャーのインドール合成法等の既知の方法により製造することが出来る。
【0029】
上記一般式(3)で示されるトリスフォスフォネート誘導体の具体例としては、下記式(3−01)〜(3−05)などが挙げられる。
【0030】
【化8】

【0031】
また、一般式(4)で示されるアルデヒドまたはケトン誘導体の具体例としては、下記式(4−01)〜(4−25)などを挙げることが出来る。
【0032】
【化9】

【0033】
【化10】

【0034】
【化11】

【0035】
【化12】

【0036】
【化13】

【0037】
上記のトリスフォスフォネート誘導体とアルデヒドまたはケトン誘導体との反応においては、一般的に縮合剤として塩基が用いられる。塩基の例としては、アルカリ金属やアルカリ土金属の水酸化物、炭酸塩、水素化物、低級アルコールの金属塩、または3級アミン類が用いられる。好ましくはカリウムターシャルブトキシドやナトリウムメチラート等の低級アルコールの金属塩が用いられる。
【0038】
また、反応溶剤としては、ある程度の溶解性を有する、不活性の有機溶剤であればいずれをも用いることが出来る。好ましくは、メタノール、エタノール、1−ブタノール等の低級アルコールや、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類またはN,N−ジメチルホルムアミド等の極性の高い溶剤が用いられる。
【0039】
反応温度は、原料化合物の溶剤に対する溶解度や、反応のし易さ等によっても異なるので、一概には言えないが、通常、氷冷下または水冷下に反応物を混合させ、次いで室温で数時間撹拌して反応を完結させるのが一般的である。但し、反応の進行が遅い場合には、加熱等により反応を促進させる場合もある。
【0040】
次に、本発明の一般式(1)の化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
【化14】

【0042】
【化15】

【0043】
【化16】

【0044】
【化17】

【0045】
【化18】

【0046】
【化19】

【0047】
【化20】

【0048】
【化21】

【0049】
【化22】

【0050】
【化23】

【0051】
【化24】

【0052】
【化25】

【0053】
【化26】

【0054】
【化27】

【実施例】
【0055】
本発明のトリス三環性アミン置換アレン誘導体について、代表的な合成の実施例を以下に示す。
【0056】
(実施例1)
(1)1,3,5−トリブロモメチルベンゼン9.23g(25.9ミリモル、アルドリッチ社製)とトリエチルフォスファイト15.5g(93.3ミリモル)を、130℃で4時間加熱後、さらに、150℃で2時間加熱して反応を完結させ、次いで、真空ポンプで減圧下200℃まで加熱撹拌して、過剰のトリエチルフォスファイトと副生成物を除き、目的とするトリスフォスフォネート誘導体〔例示化合物(3−01)〕13.31g(収率97.4%)を得た。
【0057】
(2)4−ブロモベンズアルデヒド93.64g(506ミリモル)、ジエチルベンズヒドリルフォスフォネート186.2g(612ミリモル)及びN,N−ジメチルホルムアミド843mlの混合物を、水浴で冷却、撹拌している中へ、カリウムターシャルブトキシド85.78g(764ミリモル)を20分かけて加えた。水冷下1時間撹拌した後、さらに室温で8時間撹拌して反応を完結させた。反応液を水1800ml中に注入し、1時間撹拌の後、酢酸エチル1800mlで抽出、水洗し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、濃縮して酢酸エチルを除去し、残渣をエタノールで再結晶して2−(4−ブロモフェニル)−1,1−ジフェニルエチレン87.46g(収率51.5%)を得た。
【0058】
【化28】

【0059】
(3)上記(2)で得られた2−(4−ブロモフェニル)−1,1−ジフェニルエチレン87.46g(261ミリモル)、1,1a,2,3,4,4a−ヘキサヒドロシクロペント[b]インドール〔上記式(7)の化合物〕39.43g(248ミリモル)、カリウムターシャルブトキシド33.41g(298ミリモル)、酢酸パラジウム0.41g(1.83ミリモル)、トリターシャルブチルフォスフィン1.22g(6.03ミリモル)及びキシレン680mlの混合物を窒素気流下撹拌しながら、110℃で1時間、次いで、120℃で4時間加熱して反応を完結させた。反応液を熱時セライト濾過し、濾液を1規定塩酸、次いで、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥、減圧で溶剤を留去して1−〔4−(2,2−ジフェニルエテニル)フェニル〕−1,1a,2,3,4,4a−ヘキサヒドロシクロペント[b]インドール〔下記式(8)の化合物〕90.72g(収率88.6%)を得た。
【0060】
【化29】

【0061】
(4)N,N−ジメチルホルムアミド80.3g(1098ミリモル)を氷冷下、冷却撹拌している中へ、オキシ三塩化リン67.3g(439ミリモル)を75分かけて滴下した。さらに、氷冷下1時間撹拌してヴィルスマイヤー試薬を調製した後、上記(3)で得られた1−〔4−(2,2−ジフェニルエテニル)フェニル〕−1,1a,2,3,4,4a−ヘキサヒドロシクロペント[b]インドール90.72g(219ミリモル)をN,N−ジメチルホルムアミド70mlに溶かした溶液を、氷冷下1.5時間かけて滴下した。さらに室温で4時間撹拌して反応を完結させた後、氷水1200mlに注入、水酸化ナトリウム63.4gを610mlの水に溶かした水溶液を加えて中和した後、トルエン1200mlで抽出、飽和食塩水1200mlで洗浄後無水硫酸マグネシウムで乾燥、減圧で溶剤を留去して粗生成物101gを得た。これをトルエン−エタノール(1:1)を溶剤として3回再結晶し、1−〔4−(2,2−ジフェニルエテニル)フェニル〕−1,1a,2,3,4,4a−ヘキサヒドロシクロペント[b]インドール−6−カルボアルデヒド〔例示化合物(4−01)〕35.13g(収率36.4%)を得た。
【0062】
(5)上記(1)で得られたトリスフォスフォネート誘導体〔例示化合物(3−01)〕2.64g(5.0ミリモル)、上記(4)で得られたアルデヒド体〔例示化合物(4−01)〕6.62g(15.0ミリモル)及びN,N−ジメチルホルムアミド50mlを水冷下撹拌している中へ、カリウムターシャルブトキシド2.02g(18ミリモル)を加えた。水冷下10分撹拌した後、さらに室温で一晩撹拌して反応を完結させた。反応液を250ml氷水に注入して、析出結晶を濾取、メタノールで分散洗浄した後、乾燥させて組成生物6.81gを得た。これをクロマト精製して目的とするトリス三環性アミン置換アレン誘導体〔例示化合物(1−01)〕5.99g(収率86.2%)を得た。融点は151.5〜153.7℃であった。
【0063】
このものは、1H−NMR(δ,ppm,CDCl3)において、7.44(s,3H)、7.25〜7.42(m,30H)、7.11〜7.24(m,12H)、7.03〜7.10(m,6H)、6.96〜7.02(m,9H)、6.94(s,3H)、4.70(t,3H)、3.83(t,3H)、2.00〜2.10(m,3H)、1.82〜1.93(m,9H)、1.63〜1.65(m,3H)、1.48〜1.54(m,3H)のピークを示していることから、その構造が確認された。
【0064】
このものについて、熱分析による分解点の測定を行った所、熱分解温度は350℃以上という結果が得られた。
【0065】
(実施例2)
(1)実施例1の(3)の方法と同様にして、4−ブロモビフェニル21.9g(94ミリモル)と1,1a,2,3,4,4a−ヘキサヒドロシクロペント[b]インドール14.2g(89ミリモル)から、1−(4−ビフェニル)−1,1a,2,3,4,4a−ヘキサヒドロシクロペント[b]インドール〔下記式(9)の化合物〕25.4g(収率87.2%)を得た。
【0066】
【化30】

【0067】
(2)上記(1)で得られた式(9)の化合物をN,N−ジメチルホルムアミド57mlに溶かした溶液を、これも実施例1の(4)の方法と同様にして、N,N−ジメチルホルムアミド26.9g(368ミリモル)とオキシ三塩化リン23.0g(150ミリモル)から調製したヴィルスマイヤー試薬の中へ、室温で10分かけて滴下した。室温で7時間撹拌して反応を完結させた後、氷水850mlへ注入して反応を停止し、10質量%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、トルエン400mlで抽出した。飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥、減圧で溶剤を留去して粗生成物17.3gを得た。これを酢酸エチル−エタノール(1:2)を溶剤として再結晶し、1−(4−ビフェニル)−1,1a,2,3,4,4a−ヘキサヒドロシクロペント[b]インドール−6−カルボアルデヒド〔例示化合物(4−06)〕11.8g(収率69.4%)を得た。
【0068】
(3)実施例1の(1)で得られたトリスフォスフォネート誘導体〔例示化合物(3−01)〕2.64g(5.0ミリモル)、上記(2)で得られた例示化合物(4−06)のアルデヒド体5.10g(15.0ミリモル)、及びN,N−ジメチルホルムアミド80mlを水冷下撹拌している中へ、カリウムターシャルブトキシド2.02g(18ミリモル)を加えた。室温で一晩撹拌して反応を完結させた後、反応液を300ml氷水に注入して、析出結晶を濾取、メタノールで分散洗浄した後、乾燥させて組成生物5.33gを得た。これをクロマト精製して目的とするトリス三環性アミン置換アレン誘導体〔例示化合物(1−06)〕4.00g(収率73.8%)を得た。融点は179.9〜181.5℃であった。
【0069】
このものは、1H−NMR(δ,ppm,CDCl3)において、7.46(s,3H)、7.28〜7.38(m,15H)、7.17〜7.26(m,3H)、7.14(d,3H)、6.94〜7.02(m,9H)、4.81(t,3H)、3.86(t,3H)、2.05〜2.10(m,3H)、1.93〜1.97(m,6H)、1.81〜1.88(m,3H)、1.65〜1.70(m,3H)、1.53〜1.58(m,3H)のピークを示していることから、その構造が確認された。
【0070】
このものについて、熱分析による分解点の測定を行った所、熱分解温度は350℃以上という結果が得られた。
【0071】
(実施例3)
(1)ブロモベンゼンと1,1a,2,3,4,4a−ヘキサヒドロシクロペント[b]インドール(6)から、実施例1の(3)及び(4)の方法と同様にして得られた例示化合物(4−02)のアルデヒド体3.95g(15.0ミリモル)、実施例1の(1)で得られたトリスフォスフォネート誘導体〔例示化合物(3−01)〕2.64g(5.0ミリモル)、及びN,N−ジメチルホルムアミド50mlを水冷下撹拌している中へ、カリウムターシャルブトキシド2.02g(18ミリモル)を加えた。水冷下10分撹拌した後、さらに室温で一晩撹拌して反応を完結させた。反応液を250ml氷水に注入して、析出結晶を濾取、メタノールで分散洗浄した後、乾燥させて組成生物4.07gを得た。これをクロマト精製して目的とするトリス三環性アミン置換アレン誘導体〔例示化合物(1−02)〕3.51g(収率82.0%)を得た。融点は236.5〜237.8℃であった。
【0072】
このものは、1H−NMR(δ,ppm,CDCl3)において、7.57〜7.62(m,12H)、7.48(s,3H)、7.40〜7.46(m,9H)、7.35〜7.39(m,6H)、7.23〜7.34(m,6H)、7.13〜7.19(m,3H)、7.08(d,3H)、6.99(d,3H)、4.84(t,3H)、3.89(t,3H)、2.05〜2.15(m,3H)、1.83〜2.03(m,9H)、1.65〜1.76(m,3H)、1.50〜1.62(m,3H)のピークを示していることから、その構造が確認された。
【0073】
このものについて、熱分析による分解点の測定を行った所、熱分解温度は350℃以上という結果が得られた。
【0074】
(応用例)
以上の実施例1〜3で得られた例示化合物(1−01)、(1−06)、(1−02)及び同様の方法で合成して得られた例示化合物(1−03)、(1−04)、(1−05)、(1−07)、(1−12)、(1−15)、(1−17)、(1−20)を用いて、有機EL素子を作製し、その正孔輸送材料としての機能を確認した。有機EL素子は、ガラス基板上にITO電極を予め形成してある透明電極の上に、正孔輸送材料として本発明化合物の薄膜を形成し、その上に発光層および電子輸送層としてアルミキノリン3量体の薄膜を形成、その上にMg/Al電極薄膜をさらに形成することにより作製した。
【0075】
以上の様にして作製した有機EL素子について、定電流装置を用いて100mA/cm2の電流を印加した所、十分な発光輝度で連続して発光することが確認された。いずれの例示化合物を用いた場合も、初期感度が半減するまでの発光寿命は100時間以上であった。
【0076】
(比較例)
これに対し、比較化合物としてα−NPDを用いて、同様の有機EL素子を作製し、同様の定電流装置を用いて100mA/cm2の電流を印加した所、最初は十分な発光輝度で発光したが、発光寿命が例示化合物に比較して短く、約50時間であった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の活用例として、特に熱安定性が高い、発光寿命に優れた有機EL用素子を実現することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示されるトリス三環性アミン置換アレン誘導体。
【化1】

〔一般式(1)において、R1およびR2は、水素原子またはC1〜C4の低級アルキル基を示す。R3は、水素原子、C1〜C4の低級アルキル基、C1〜C4の低級アルコキシ基またはハロゲン原子を示す。Ar1は、置換基を有してもよいアルキル基、アラルキル基、アリール基またはヘテロ環基を示す。Aは、置換または非置換の芳香族環を含む三価の有機基を示す。Zは、チッ素を含む5員環の2つの炭素と共に、5〜8員環の飽和の炭化水素環または複素環を形成するのに必要な原子を示す。また、nは1〜3の整数を示す〕

【公開番号】特開2009−298703(P2009−298703A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151890(P2008−151890)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】