説明

トリテルペノイドを有効成分として含有する酸化ストレスが関連する眼疾患の予防又は治療剤

【課題】酸化ストレスが関連する眼疾患の新たな予防又は治療剤を提供すること。
【解決手段】下記一般式(I)で表される化合物又はその塩は、神経網膜、網膜色素上皮、網脈絡膜といった後眼部組織において、優れた異物代謝系第2相酵素の誘導能を発揮するので、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜色素変性症などの酸化ストレスが関連する眼疾患の予防又は治療剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下記一般式(I)で表される化合物又はその塩を有効成分として含む、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜色素変性症、増殖性硝子体網膜症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、レーベル病、未熟児網膜症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、これらの疾患に起因する視神経障害、緑内障に起因する視神経障害、虚血性視神経障害、白内障などの酸化ストレスが関連する眼疾患の予防又は治療剤、に関する。
【化1】

【0002】
[式中、
1、2、3、4、5、及びRは、同一か又は異なって、水素原子又はアルキル基を示し、;
Xはシアノ基又はCO−Yを示し、;
Yは水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、アルキル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、ハロゲノアルキルアミノ基、又はイミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環及びベンゾイミダゾール環からなる群より選択される芳香族複素環基を示し、;
上記で規定した芳香族複素環基はハロゲン原子、アルキル基、フェニル基又はハロゲノフェニル基で置換されていてもよい。]
【背景技術】
【0003】
生体は、酸化−抗酸化のバランスを調節し、細胞内酸化還元状態を一定に維持して機能している。この酸化−抗酸化のバランスが酸化方向に傾いた状態を酸化ストレスという。酸化ストレスは、脂質、DNA、タンパク質などの生体高分子に修飾や障害を与え、細胞機能障害や細胞死を引き起こし、発癌、高血圧、動脈硬化、脳神経変性疾患、炎症、喘息、皮膚疾患、加齢黄斑変性、白内障といった加齢等に伴う慢性疾患の発症や進行に深く関与していることが知られている。そのため、酸化−抗酸化のバランスを一定に維持する防御機構は生体にとって必須の生体防御システムであり、酸化ストレスからの防御能を高めることは、これらの疾患の予防や治療に有用であると考えられている(非特許文献1)。
【0004】
近年、Keap1−Nrf2システムが、哺乳類の酸化ストレス防御機構において中心的な役割を果たすことが明らかになってきた。Nrf2(F−E2 elated actor )は、親電子性物質を直接解毒するグルタチオン−S−トランスフェラーゼ、キノンオキシドレダクターゼといった異物代謝系第2相酵素及びヘムオキシゲナーゼ、ペルオキシレドキシンといった抗酸化酵素等の遺伝子発現を誘導制御している転写因子である。Nrf2は、定常状態(未刺激の状態)では、細胞質中でKeap1(elch−like CH ssociated rotein )と複合体を形成し不活性状態にあるが、親電子性物質や活性酸素種といった酸化ストレスに暴露されると、Keap1との相互作用が減弱し(解離が促進されて)核へ移行する。核に移行したNrf2は、小Maf(usculoponeurotic ibrosarcoma)群因子とヘテロニ量体を形成し、標的配列である抗酸化剤応答配列(ARE:ntioxidant esponsive lement)と呼ばれるプロモーター配列に結合して、上述した酵素群の遺伝子発現を誘導する。このように、Nrf2は、生体の酸化ストレスからの防御や生体異物の解毒排泄を統一的に制御していることが知られている(非特許文献2)。
【0005】
また、Keap1−Nrf2システムが破綻したマウス(Nrf2遺伝子欠損マウス)では、細胞内の酸化−抗酸化のバランスが崩れて、易発ガン性(ベンツピレンによる前胃部発ガン、ニトロサミンによる膀胱発ガン等)、外来異物/酸化ストレスに対する感受性亢進(アセトアミノフェンによる肝障害、高酸素暴露による肺障害等)、炎症・免疫系の異常(糸球体腎炎、全身性自己免疫疾患、タバコ誘導性肺気腫等)を示すことが報告されている。このように、Nrf2の機能欠損は酸化ストレスを引き起こし、癌、高血圧、脳神経変性疾患、炎症といった疾患を誘発することが示唆されている(非特許文献3)。
【0006】
このような知見から、Nrf2の活性化を利用した、酸化ストレスが関連する疾患の予防又は改善への応用が試みられており、いくつかのNrf2活性化物質でその有用性が報告されている。例えば、Nrf2を活性化する物質として知られるオルチプラズやスルフォラファンがベンツピレンによる前胃部発ガンを抑制すること、Nrf2を活性化する物質であるオルチプラズがニトロサミンによる膀胱発ガンを抑制することが報告されている(非特許文献3)。
【0007】
また、酸化ストレスが関連する眼科疾患である加齢黄斑変性や白内障に対するNrf2活性化物質の有用性に関する報告として、非特許文献4〜5及び特許文献1〜3がある。加齢黄斑変性は、黄斑の加齢変化に伴う変性症で、紫外線暴露により蓄積されるレチンアルデヒド(all−trans−retinaldehyde)といった酸化ストレスが網膜色素細胞を障害することが知られているが、非特許文献4及び特許文献1には、Nrf2活性化物質であるスルフォラファンやビス−2−ヒドロキシベンジリデンアセトンがこの細胞障害を抑制することが報告されている。非特許文献5には、Nrf2活性化物質であるクルクミンがガラクトース誘発白内障を抑制することが報告されている。特許文献2及び3には、Nrf2活性化物質であるクエルセチンを用いた加齢黄斑変性のドルーゼン形成、糖尿病性網膜症及び緑内障に伴う網膜症・視神経症の治療方法が記載されている。
【0008】
他方で、トリテルペノイドは炭素30個から成るテルペン及びそれから誘導される化合物の総称である。本願発明の一般式(I)で表される化合物はトリテルペノイドの一種であり、五環式構造であるオレアナンの誘導体である。特許文献4及び5には、2−シアノ−3,12−ジオキソオレアナ−1,9(11)−ジエン−28−オイック酸、1−[2−シアノ−3,12−ジオキソオレアナ−1,9(11)−ジエン−28−オイル]ニトリル、1−[2−シアノ−3,12−ジオキソオレアナ−1,9(11)−ジエン−28−オイル]イミダゾールなどが開示され、これらの化合物がマウスマクロファージにおけるインターフェロンγが誘導する一酸化窒素の生成に対して阻害活性を示し、癌、アルツハイマー病、パーキンソン病といった疾患の治療に有用であることが記載されている。また、非特許文献6及び7には、1−[2−シアノ−3,12−ジオキソオレアナ−1,9(11)−ジエン−28−オイル]イミダゾールがNrf2の活性化能を有することが示唆され、該化合物を投与したマウスの器官(胃、肺など)において、抗酸化酵素であるヘムオキシゲナーゼ1の発現を誘導したことが報告されている。
【0009】
しかしながら、一般式(I)で表される化合物に関する報告として、眼組織において、Nrf2の活性化能を検討した報告やNrf2によって誘導制御されている異物代謝系第2相酵素及び抗酸化酵素の発現誘導能を検討した報告はない。また、該化合物の眼疾患に対する薬理作用を検討した報告はなく、特に、酸化ストレスに関連する眼疾患である加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、緑内障に起因する視神経障害、虚血性視神経障害などに対する予防、改善効果について検討した報告はない。
【特許文献1】国際公開03/51313号パンフレット
【特許文献2】国際公開2005/063249号パンフレット
【特許文献3】国際公開2005/063295号パンフレット
【特許文献4】国際公開99/65478号パンフレット
【特許文献5】国際公開2004/064723号パンフレット
【非特許文献1】Biomed. Pharmacother. 57, 251-60(2003)
【非特許文献2】J. Biol. Chem., 278, 14, 12029-38(2003)
【非特許文献3】別冊「医学のあゆみ」レドックス−ストレス防御の医学, 46-9(2005)
【非特許文献4】Proc. Natl. Acad. Sci., 101, 10446-51(2004)
【非特許文献5】Mol. Vis., 9, 223-30(2003)
【非特許文献6】Cancer Res., 65(11), 4789-98(2005)
【非特許文献7】Mol. Cancer Ther., 6(1), 154-62(2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、一般式(I)で表される化合物に関して、新たな医薬用途を探索することは興味深い課題である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、一般式(I)で表される化合物の新たな医薬用途を見出すべく鋭意研究を行ったところ、該化合物が、神経網膜、網膜色素上皮、網脈絡膜といった後眼部組織において、優れた異物代謝系第2相酵素の誘導能を有することを見出し、本発明に至った。なお、該化合物と同様の作用を有する公知化合物についても同様の試験を行ったが、該化合物はこの公知化合物に比べてはるかに高い誘導能を示し、該化合物の優れた有用性を裏付けるものであった。
【0012】
すなわち、本発明は、一般式(I)で表される化合物又はその塩(以下、これらを総称して「本化合物」ともいう)を有効成分として含有する、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜色素変性症、増殖性硝子体網膜症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、レーベル病、未熟児網膜症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、これらの疾患に起因する視神経障害、緑内障に起因する視神経障害、虚血性視神経障害、白内障などの酸化ストレスが関連する眼疾患の予防又は治療剤である。
【化2】

【0013】
[式中、
1、2、3、4、5、及びRは、同一か又は異なって、水素原子又はアルキル基を示し、;
Xはシアノ基又はCO−Yを示し、;
Yは水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、アルキル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、ハロゲノアルキルアミノ基又はイミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環及びベンゾイミダゾール環からなる群より選択される芳香族複素環基を示し、;
上記で規定した芳香族複素環基はハロゲン原子、アルキル基、フェニル基又はハロゲノフェニル基で置換されていてもよい。]
また、本発明は、薬理上有効量の本化合物を有効成分として患者へ投与することを含む、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜色素変性症、増殖性硝子体網膜症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、レーベル病、未熟児網膜症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、これらの疾患に起因する視神経障害、緑内障に起因する視神経障害、虚血性視神経障害、白内障などの酸化ストレスが関連する眼疾患の予防又は治療方法である。
【0014】
また、本発明は、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜色素変性症、増殖性硝子体網膜症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、レーベル病、未熟児網膜症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、これらの疾患に起因する視神経障害、緑内障に起因する視神経障害、虚血性視神経障害、白内障などの酸化ストレスが関連する眼疾患を予防又は治療するための本化合物である。
【0015】
また、本発明は、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜色素変性症、増殖性硝子体網膜症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、レーベル病、未熟児網膜症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、これらの疾患に起因する視神経障害、緑内障に起因する視神経障害、虚血性視神経障害、白内障などの酸化ストレスが関連する眼疾患の予防又は治療剤を製造するための、本化合物の使用である。
【0016】
特許請求の範囲及び明細書中で使用される各基は、特許請求の範囲及び明細書全体を通して下記の意味を有するものとする。
【0017】
『ハロゲン原子』とはフッ素、塩素、臭素又はヨウ素を示す。
【0018】
『アルキル』とは炭素原子数1〜6個の、直鎖又は分枝のアルキルを示す。具体例としてメチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、イソペンチル等が挙げられる。
【0019】
『アルコキシ』とは炭素原子数1〜6個の、直鎖又は分枝のアルコキシを示す。具体例としてメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、n−ブトキシ、n−ペントキシ、n−ヘキシルオキシ、イオプロポキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、イソペンチルオキシ等が挙げられる。
【0020】
『アルキルアミノ』とは炭素原子数1〜6個のモノアルキルアミノ又は炭素原子数2〜12個のジアルキルアミノを示す。モノアルキルアミノの具体例としてメチルアミノ、エチルアミノ、プロピルアミノ、ブチルアミノ、ヘキシルアミノ等が、ジアルキルアミノの具体例としてジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジプロピルアミノ、ジブチルアミノ、ジヘキシルアミノ等が挙げられる。
【0021】
『ハロゲノアルキル』とは、1又は同一若しくは異なる複数のハロゲン原子を置換基として有するアルキルを示す。
【0022】
『ハロゲノフェニル』とは、1又は同一若しくは異なる複数のハロゲン原子を置換基として有するフェニルを示す。
【0023】
『ハロゲノアルキルアミノ』とは、1又は同一若しくは異なる複数のハロゲノアルキルを置換基として有するアミノを示す。
【0024】
本化合物が遊離のアミノ基、遊離のアルキルアミノ基又は遊離のハロゲノアルキルアミノ基を置換基として有する場合、それらの置換基は保護基で保護されていてもよい。また、芳香族複素環が遊離の窒素原子を有する場合も、該窒素原子は保護基で保護されていてもよい。
【0025】
『遊離のアミノ基、遊離のアルキルアミノ基、遊離のハロゲノアルキルアミノ基又は遊離の窒素原子を有する芳香族複素環基の保護基』とは、アリル基等の無置換アルケニル基;ホルミル基等のヒドロカルボニル基;アセチル基、トリクロロアセチル基、トリフルオロアセチル基、ベンゾイル基、4−クロロベンゾイル基、ピコリノイル基等の置換若しくは無置換アルキルカルボニル基、置換若しくは無置換アリールカルボニル基、又は無置換芳香族複素環カルボニル基;メトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、ジフェニルメトキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基、m−ニトロフェノキシカルボニル基等の置換若しくは無置換アルキルオキシカルボニル、又は置換若しくは無置換アリールオキシカルボニル基;メチルスルホニル基、ベンジルスルホニル基、フェニルスルホニル基、4−クロロフェニルスルホニル基、トリルスルホニル基、2,4,6−トリメチルフェニルスルホニル基等の置換若しくは無置換アルキルスルホニル基、又は置換若しくは無置換アリールスルホニル基;等の遊離のアミノ基、遊離のアルキルアミノ基、遊離のハロゲノアルキルアミノ基又は遊離の窒素原子を有する芳香族複素環基の保護基として汎用されるものを示す。
【0026】
前記の置換アルキル基、置換アルキルカルボニル基、置換アリールカルボニル基、置換アルキルオキシカルボニル基、置換アリールオキシカルボニル基、置換アルキルスルホニル基又は置換アリールスルホニル基は、それぞれ、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキル基、アリール基、ハロゲノアリール基、アルコキシアリール基及びニトロ基から選択される1又は複数の基で置換された、アルキル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基を示す。
【0027】
本発明でいう『複数の基』は、それぞれの基が同一でも異なっていてもよく、又、好ましくは2又は3の基を、より好ましくは2の基を示す。
【0028】
また、本発明でいう『基』には、水素原子、ハロゲン原子及びオキソ配位子も含まれる。
【0029】
本化合物における『塩』とは、医薬として許容される塩であれば特に制限はなく、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸との塩、酢酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、乳酸、馬尿酸、1,2−エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、硫酸ラウリルエステル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸等の有機酸との塩、臭化メチル、ヨウ化メチル等の四級アンモニウム塩、臭素イオン、塩素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオンとの塩、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、鉄、亜鉛等との金属塩、アンモニアとの塩、トリエチレンジアミン、2−アミノエタノール、2,2−イミノビス(エタノール)、1−デオキシ−1−(メチルアミノ)−2−D−ソルビトール、2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、プロカイン、N,N−ビス(フェニルメチル)−1,2−エタンジアミン等の有機アミンとの塩等が挙げられる。
【0030】
本化合物に幾何異性体又は光学異性体が存在する場合は、それらの異性体も本発明の範囲に含まれる。
【0031】
また、本化合物は水和物又は溶媒和物の形態をとっていてもよい。
【0032】
さらに、本化合物にプロトン互変異性が存在する場合には、それらの互変異性体も本発明の範囲に含まれる。
【0033】
(a)本化合物における好ましい例として、一般式(I)で示される化合物において、各基が下記に示す基である化合物又はその塩が挙げられる。
【0034】
(a1)R1、2、3、4、5、及びRはアルキル基を示し、;及び/又は
(a2)Xはシアノ基又はCO−Yを示し、;及び/又は
(a3)Yは水酸基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、ハロゲノアルキルアミノ基又はイミダゾール環及びピラゾール環からなる群より選択される芳香族複素環基を示し、;及び/又は
(a4)上記で規定した芳香族複素環はアルキル基、フェニル基又はハロゲノフェニル基で置換されていてもよい。
【0035】
すなわち、一般式(I)で示される化合物において、上記(a1)、(a2)、(a3)及び(a4)から選択される1又は2以上の各組合せからなる化合物又はその塩。
【0036】
(b)本化合物におけるより好ましい例として、一般式(I)で示される化合物において、各基が下記に示す基である化合物又はその塩が挙げられる。
【0037】
(b1)R1、2、3、4、5、及びRはアルキル基を示し、;及び/又は
(b2)Xはシアノ基又はCO−Yを示し、;及び/又は
(b3)Yは水酸基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、ハロゲノアルキルアミノ基又はイミダゾール環及びピラゾール環からなる群より選択される芳香族複素環基を示し、;及び/又は
(b4)Yがイミダゾール環の場合、該イミダゾール環はアルキル基、フェニル基又はハロゲノフェニル基で置換されていてもよい。
【0038】
すなわち、一般式(I)で示される化合物において、上記(b1)、(b2)、(b3)及び(b4)から選択される1又は2以上の各組み合わせからなる化合物又はその塩。
【0039】
(c)本化合物におけるさらに好ましい例として、上記のように定義された一般式(I)で示される化合物において、各基が下記に示す基である化合物又はその塩が挙げられる。
【0040】
(c1)R1、2、3、4、5、及びRはメチル基を示し、;及び/又は
(c2)Xはシアノ基、カルボキシル基、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、エチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、2,2,2−トリフルオロエチルアミノカルボニル基、イミダゾール−1−イルカルボニル基、2−メチルイミダゾール−1−イルカルボニル基、2−フェニルイミダゾール−1−イルカルボニル基、2−(4−フルオロフェニル)イミダゾール−1−イルカルボニル基又はピラゾール−1−イル基を示す。
【0041】
すなわち、上記のように定義された一般式(I)で示される化合物において、上記(c1)及び(c2)から選択される1又は2以上の各組み合わせからなる化合物又はその塩。
【0042】
本化合物における最も好ましい例としては、下記式(II)で示される2−シアノ−3,12−ジオキソオレアナ−1,9(11)−ジエン−28−オイック酸、下記式(III)で示される2−シアノ−3,12−ジオキソオレアナ−1,9(11)−ジエン−28−オイック酸メチルエステル、又は、下記式(IV)で示される1−[2−シアノ−3,12−ジオキソオレアナ−1,9(11)−ジエン−28−オイル]イミダゾールが挙げられる。
【化3】

【化4】

【化5】

【0043】
本化合物は、有機合成化学の分野における通常の方法に従って製造でき、WO99/65478又はWO2004/064723に記載された方法に基づいても製造することができる。
【0044】
本発明において、酸化ストレスとは、活性酸素種、紫外線、放射線、金属、化学物質や、細胞内で活性酸素種産生を引き起こす刺激などにより個体や細胞が受けるストレスをいう。また、酸化ストレスが関連する眼疾患とは、このような酸化ストレスに起因する眼疾患をいい、特に、硝子体、網膜、脈絡膜、強膜又は視神経における酸化ストレスに起因する疾患をさし、例えば、加齢黄斑変性(初期加齢黄斑変性におけるドルーゼン形成、萎縮型加齢黄斑変性、滲出型加齢黄斑変性)、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜色素変性症、増殖性硝子体網膜症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、レーベル病、未熟児網膜症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、これらの疾患に起因する視神経障害、緑内障に起因する視神経障害、虚血性視神経障害、白内障といった眼疾患が挙げられる。
【0045】
本化合物は、必要に応じて、医薬として許容される添加剤を加え、単独製剤又は配合製剤として汎用されている技術を用いて製剤化することができる。
【0046】
本化合物は、前述の眼疾患の予防又は治療に使用する場合、患者に対して経口的又は非経口的に投与することができ、投与形態としては、経口投与、眼への局所投与(点眼投与、硝子体内投与、結膜下投与、テノン嚢下投与等)、静脈内投与、経皮投与等が挙げられ、必要に応じて、製薬学的に許容され得る添加剤と共に、投与に適した剤型に製剤化される。経口投与に適した剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等が挙げられ、非経口投与に適した剤型としては、例えば、注射剤、点眼剤、眼軟膏、ゲル、挿入剤等が挙げられる。これらは当該分野で汎用されている通常の技術を用いて調製することができる。また、本化合物はこれらの製剤の他に眼内インプラント用製剤やマイクロスフェアー等のDDS(ドラッグデリバリーシステム)化された製剤にすることもできる。
【0047】
例えば、錠剤は、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトール、無水リン酸水素カルシウム、デンプン、ショ糖等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポピドン、デンプン、部分アルファー化デンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤;ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、デンプン、部分アルファー化デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、含水二酸化ケイ素、硬化油等の滑沢剤;精製白糖、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン等のコーティング剤;クエン酸、アスパルテーム、アスコルビン酸、メントール等の矯味剤などを適宜選択して用い、調製することができる。
【0048】
注射剤は、塩化ナトリウム等の等張化剤;リン酸ナトリウム等の緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等の界面活性剤;メチルセルロース等の増粘剤等から必要に応じて選択して用い、調製することができる。
【0049】
点眼剤は、塩化ナトリウム、濃グリセリンなどの等張化剤;リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどの緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の界面活性剤;クエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム等の安定化剤;塩化ベンザルコニウム、パラベン等の防腐剤等から必要に応じて選択して用い、調製することができ、pHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよいが、通常4〜8の範囲内が好ましい。また、眼軟膏は、白色ワセリン、流動パラフィン等の汎用される基剤を用い、調製することができる。
【0050】
眼内インプラント用製剤は、生体分解性ポリマー、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース等の生体分解性ポリマーを用い、調製することができる。
【0051】
本発明はまた、薬理上有効量の本化合物を有効成分として患者(ヒト)へ投与することを含む酸化ストレスが関連する眼疾患の予防又は治療方法に関する。
【0052】
本化合物の投与量は、剤型、投与すべき患者の症状の軽重、年令、体重、医師の判断等に応じて適宜変えるこができるが、経口投与の場合、一般には、成人に対し1日あたり0.01〜5000mg、好ましくは0.1〜2500mg、より好ましくは1〜1000mgを1回又は数回に分けて投与することができ、注射剤の場合、一般には、成人に対し1日あたり0.01〜200mgを1回又は数回に分けて投与することができ、また、点眼剤の場合には、0.000001〜10%(W/V)、好ましくは0.00001〜1%(W/V)、より好ましくは0.0001〜0.1%(W/V)の有効成分濃度のものを1日1回又は数回点眼することができる。さらに、眼内インプラント用製剤の場合は、成人に対し0.01〜2000mg含有する眼内インプラント用製剤を眼内にインプラントすることができる。
【発明の効果】
【0053】
後述の試験を実施したところ、試験1において、本化合物が、Nrf2によって発現制御されている異物代謝系第2相酵素であるNAD(P)Hキノン酸化還元酵素(NAD(P)H quinone oxidoreductase 1:以下、「NQO1」ともいう)を神経系細胞において誘導することが示された。また、試験2において、本化合物が、NQO1を神経網膜及び網膜色素上皮において誘導することが示された。すなわち、本化合物は、神経網膜、網膜色素上皮、網脈絡膜といった後眼部組織において、異物代謝系第2相酵素の遺伝子発現を誘導制御し、酸化ストレスからの防御能を増強し、酸化ストレス状態を予防又は軽減する。さらに、試験3において、本化合物がラット光障害モデルにおいて光障害を改善することが示された。また、試験4において、本化合物がレーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデルにおいて、優れた脈絡膜血管新生阻害作用を有することが示された。以上より、本化合物は、加齢黄斑変性(初期加齢黄斑変性におけるドルーゼン形成、萎縮型加齢黄斑変性、滲出型加齢黄斑変性)、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜色素変性症、増殖性硝子体網膜症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、レーベル病、未熟児網膜症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、これらの疾患に起因する視神経障害、緑内障に起因する視神経障害、虚血性視神経障害、白内障などの酸化ストレスが関連する眼疾患の予防又は治療剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
以下に、試験1〜4及び製剤例の結果を示すが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0055】
試験1.神経系細胞を用いたNQO1誘導能評価試験及び細胞生存率評価試験
神経系細胞を用いて、本化合物及びNrf2活性化能が報告されている化合物のNQO1の誘導能を評価した。併せて、これらの化合物の細胞生存率を評価した。
【0056】
(実験概要)
神経系細胞として汎用されているPC12(ラット副腎褐色細胞種)を用いて、本化合物である2−シアノ−3,12−ジオキソオレアナ−1,9(11)−ジエン−28−オイック酸(以下、「CDDO」ともいう)、2−シアノ−3,12−ジオキソオレアナ−1,9(11)−ジエン−28−オイック酸メチルエステル(以下、「CDDO−Me」ともいう)及び1−[2−シアノ−3,12−ジオキソオレアナ−1,9(11)−ジエン−28−オイル]イミダゾール(以下、「CDDO−Im」ともいう)、並びに、Nrf2活性化能が報告されている化合物であるクエルセチンのNrf2活性化能を評価した。また、併せて、これらの化合物の細胞生存率を評価した。なお、Nrf2活性化の指標として、Nrf2の活性化によって発現増加することが知られているNQO1(異物代謝系第2相酵素)の酵素活性を用いた。
【0057】
(NQO1活性化能の評価試験方法)
PC12を3×10個/ウェルで96ウェルプレートに播種し、37℃、5%CO/95%空気の条件下で24時間培養した。PC12の培養液としては、5%ウシ胎児血清(FBS)及び10%ウマ血清(HS)を含有するRPMI1640を用いた。次に培養液を除去し、CDDO、CDDO−Me、CDDO−Im又はクエルセチンを含有する異なる濃度の培養液(調製法は後述)に交換した。37℃、5%CO/95%空気の条件下で24時間培養した後に各細胞のNQO1活性を測定した。NQO1活性の測定法は、Prochaskaらの方法(Anal Biochem. 1988 Mar;169(2):328−36)を参考にして行った。具体的には、細胞を界面活性剤で溶解して得た細胞抽出液にmenadioneとMTT(methyl thiazole tetrazolium)を含有する反応混合液を添加し、5分間反応させた後、550nmの吸光度を測定することでNQO1活性を算出した。
【0058】
(細胞生存率の評価試験方法)
(NQO1活性化能の評価試験方法)と同様の手順でPC12を培養し、培養液をCDDO、CDDO−Me、CDDO−Im又はクエルセチンを含有する異なる濃度の培養液に交換し、37℃、5%CO/95%空気の条件下で24時間培養した後に細胞の生存率を測定した。測定にはCell Counting Kit−8(同仁化学)を用いた。
【0059】
(データ解析)
後述する基剤培養液で処置した細胞のNQO1活性を100%として、CDDO、CDDO−Me、CDDO−Im及びクエルセチンのNQO1誘導率(%)を表した。NQO1誘導率の最大値をEmaxとし、NQO1活性の50%誘導濃度(EC50)をEXSAS(Ver. 7.1.6;株式会社アーム)にて算出した。また、基剤培養液で処置した細胞の生存率を100%として、CDDO、CDDO−Me、CDDO−Im及びクエルセチンの生存率(%)を表した。50%細胞毒性濃度(LC50)をEXSASにて算出した。
【0060】
(被験化合物を含有する培養液の調製)
各化合物をDMSOに溶解し、これらの溶液を各細胞の培養液で1000倍希釈することにより各化合物の濃度を下記のように調整した。また、DMSOのみを含有する培養液を基剤培養液とした。
【0061】
CDDO:0.3,1,3,10,30,100,300,1000,3000、10000及び30000(nM)
CDDO−Me:0.1,0.3,1,3,10,30,100,300,1000,3000、10000及び30000(nM)
CDDO−Im:0.1,0.3,1,3,10,30,100,300,1000,3000、10000及び30000(nM)
クエルセチン:1.56,3.13,6.25,12.5,25,50,100及び200(μM)
(結果)
PC12における各化合物のEC50、Emax、LC50及びLC50/EC50を表1に示す。
【表1】

【0062】
(考察)
表1から明らかなように、CDDO、CDDO−Me、CDDO−Im及びクエルセチンが、PC12においてNQO1を誘導することが示された。ここで、クエルセチンはPC12においてNQO1の誘導が認められたものの、その誘導能はEC50値=6600nMである。その一方で、CDDO、CDDO−Me及びCDDO−Imは、PC12において優れたNQO1誘導能を有し、特に、CDDO−ImはEC50値=11.4nMという極めて優れたものであったことは驚くべき結果である。
【0063】
以上の結果から、CDDO、CDDO−Me及びCDDO−Imに代表される本化合物が、神経系細胞において優れたNrf2誘導能を有し、酸化ストレスが関与する眼疾患に対して顕著な予防又は改善効果を有することが示された。
【0064】
試験2.ラットを用いたNQO1誘導能評価試験
ラットを用いて、経口投与によるCDDO−Meの神経網膜及び網膜色素上皮を含む網脈絡膜におけるNQO1活性化能を評価した。
【0065】
(実験方法)
6週齢のWistar系雄性ラット(日本チャールスリバー)に対して、基剤としての1%(W/V)メチルセルロース水溶液(メチルセルロースを超純水に溶解させて調製)に懸濁したCDDO−Me溶液を3、10及び30mg/kgの用量で1日1回、5日間反復経口投与した。なお、各投与群の例数は4眼(2匹)である。投与1、3及び5日後に、ラットの神経網膜及び網膜色素上皮を含む網脈絡膜画分を摘出し、ホモジナイズすることにより組織抽出液を得た。抽出液中のNQO1活性は試験1と同様の方法にて測定した。また、抽出液中の総タンパク質濃度を測定し、総タンパク質1mg当りのNQO1活性を算出した。
【0066】
(結果)
各投与群のNQO1活性の経時変化を図1(神経網膜)及び図2(網膜色素上皮を含む網脈絡膜)に示す。
【0067】
(考察)
図1及び図2から明らかなように、神経網膜及び網膜色素上皮を含む網脈絡膜画分のいずれにおいても、CDDO−Meの投与量に依存してNQO1活性が誘導された。この結果より、CDDO−Meは経口投与で神経網膜、網膜色素上皮及び網脈絡膜に到達し、各組織においてNQO1を誘導すること、すなわち、Nrf2を活性化することが示された。ここで、網膜組織には、網膜血管内皮細胞で構成される内側血液網膜関門(inner blood−retinal barrier: inner BRB)及び網膜色素上皮細胞で構成される外側血液網膜関門(outer BRB)が存在し、これらにより膜組織などの後眼部領域への薬物輸送が厳格に制御されていることが知られている。すなわち、本化合物であるトリテルペノイド化合物を全身投与したとしても、実際に神経網膜、網膜色素上皮又は網脈絡膜に到達するか否かは明らかではない。しかしながら、試験2の結果は、本化合物であるCDDO−Meが神経網膜、網膜色素上皮及び網脈絡膜に到達し、かつ、各組織においてNQO1を誘導することを示した。
【0068】
以上の結果から、CDDO−Meに代表される本化合物が、神経網膜、網膜色素上皮及び網脈絡膜において優れたNrf2誘導能を有し、酸化ストレスが関与する眼疾患に対して予防又は改善効果を有することが示された。
【0069】
試験3.ラット光障害モデルを用いた薬理試験
ラット光障害モデルを用いてCDDO−Meの薬理効果を評価した。なお、ラット光障害モデルは光暴露により、主に光受容細胞及び網膜色素上皮細胞層に酸化ストレスを誘発させたモデル動物であり、主に網膜変性(例えば、加齢黄斑変性)のモデル動物として汎用されている。
【0070】
(実験方法)
6週齢のWistar系雄性ラット(日本チャールスリバー)に対して、基剤としての1%(W/V)メチルセルロース水溶液(メチルセルロースを超純水に溶解させて調製)に懸濁したCDDO−Me溶液を1、3及び10mg/kgの用量で1日1回、光照射3日前から光照射直後まで計6回反復経口投与した。なお、ラジカルスカベンジャーであるphenyl−N−tert−butylnitrone(PBN)を100mg/kgの用量で1日1回、光照射直前から光照射直後まで計3回反復腹腔内投与し、陽性対照とした。各投与群の例数は8〜10眼(4〜5匹)である。2000luxで48時間光照射することにより、光障害を誘発させた。光照射終了後、4時間の暗順応を暗室にて施し、electroretinogram(ERG)を測定した。得られた波形から a波およびb波の振幅を算出した。
【0071】
(結果)
基剤投与群におけるERGのa波およびb波の振幅をそれぞれ100%として、各投与群の振幅を図3(a波)及び図4(b波)に示す。
【0072】
(考察)
図3及び図4から明らかなように、基剤投与群と比較して、CDDO−MeはERGのa波及びb波の減弱に対する改善作用を有しており、3mg/kgという極めて少ない投与量でも100mg/kgのPBNと同程度の治療効果を有することが示された。以上の結果から、CDDO−Meに代表される本化合物が、酸化ストレスが関与する眼疾患に対して予防又は改善効果を有することが示された。特に加齢黄斑変性に対して顕著な予防又は改善効果を有することが示された。
【0073】
試験4.ラットレーザー誘発脈絡膜血管新生モデルを用いた薬理試験
レーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデルを用いて、CDDO−Meの有用性を評価した。
【0074】
(クリプトンレーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデルの作製方法)
8週齢のBN系雄性ラット(日本チャールスリバー)に5%(W/V)塩酸ケタミン注射液および2%塩酸キシラジン注射液の混合液(7:1)1ml/kgを筋肉内投与して全身麻酔し、0.5%(W/V)トロピカミド−0.5%塩酸フェニレフリン点眼液を点眼して散瞳させた後、クリプトンレーザー光凝固装置により光凝固を行った。光凝固は、眼底後局部において、太い網膜血管を避け、焦点を網膜深層に合わせて1眼につき8ヶ所散在状に実施した(凝固条件:スポットサイズ100μm、出力100mW、凝固時間0.1秒)。光凝固後、眼底撮影を行い、レーザー照射部位を確認した。
【0075】
(薬物投与方法)
CDDO−Meを1%(W/V)メチルセルロース液(メチルセルロースを精製水に溶解させて調製)に2mg/ml又は6mg/mlになるように懸濁させ、それぞれ1回あたり10mg/kg又は30mg/kgの用量で、光凝固手術日の3日前より、手術日を含め10日間1日1回経口投与した(1日あたり10mg/kg又は30mg/kg)。
【0076】
(評価方法)
光凝固後7日目、ラットに5%(W/V)塩酸ケタミン注射液および2%塩酸キシラジン注射液の混合液(7:1)1ml/kgを筋肉内投与して全身麻酔し、0.5%(W/V)トロピカミド−0.5%塩酸フェニレフリン点眼液を点眼して散瞳させた後、10%フルオレセイン溶液0.1mlを尾静脈から注入して、蛍光眼底造影を行った。蛍光眼底造影で、蛍光露出が認められなかったスポットを陰性(血管新生なし)、蛍光露出が認められたスポットを陽性と判断した。また、若干の蛍光露出が認められる光凝固部位は、それが2箇所存在した時に陽性(血管新生あり)と判定した。その後、式1に従い、レーザー照射8ヶ所のスポットに対する陽性スポット数から脈絡膜血管新生発生率(%)を算出し、式2に従い、評価薬物の抑制率(%)を算出した。CDDO−Meの評価結果を表2に示す。なお各投与群の例数は8である。
【0077】
[式1]
脈絡膜血管新生発生率(%)=(陽性スポット数/全光凝固部位数)×100
[式2]
抑制率(%)=(A0−AX)/A0×100
A0:基剤投与群の脈絡膜血管新生発生率
AX:薬物投与群の脈絡膜血管新生発生率
【表2】

【0078】
(考察)
表2から明らかなように、CDDO−Meが、レーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデルにおいて脈絡膜血管新生を阻害することが示された。すなわち、CDDO−Meに代表される本化合物は、脈絡膜において優れた血管新生阻害作用を有し、加齢黄斑変性に対して顕著な予防又は改善効果を有することが示された。
【0079】
[製剤例]
製剤例を挙げて本発明の薬剤をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例にのみ限定されるものではない。
【0080】
処方例1 点眼剤
100ml中
CDDO 10mg
塩化ナトリウム 900mg
ポリソルベート80 適量
リン酸水素二ナトリウム 適量
リン酸二水素ナトリウム 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にCDDO及びそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合して点眼液を調製する。CDDOの添加量を変えることにより、濃度が0.05%(W/V)、0.1%(W/V)、0.5%(W/V)、1%(W/V)の点眼剤を調製できる。
【0081】
処方例2 眼軟膏
100g中
CDDO−Me 0.3g
流動パラフィン 10.0g
白色ワセリン 適量
均一に溶融した白色ワセリン及び流動パラフィンに、CDDO−Meを加え、これらを十分に混合して後に徐々に冷却することで眼軟膏を調製する。CDDO−Meの添加量を変えることにより、濃度が0.05%(W/V)、0.1%(W/V)、0.5%(W/V)、1%(W/W)の眼軟膏を調製できる。
【0082】
処方例3 錠剤
100mg中
CDDO−Im 1mg
乳糖 66.4mg
トウモロコシデンプン 20mg
カルボキシメチルセルロースカルシウム 6mg
ヒドロキシプロピルセルロース 6mg
ステアリン酸マグネシウム 0.6mg
CDDO−Im、乳糖を混合機中で混合し、その混合物にカルボキシメチルセルロースカルシウム及びヒドロキシプロピルセルロースを加えて造粒し、得られた顆粒を乾燥後整粒し、その整粒顆粒にステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、打錠機で打錠する。また、CDDO−Imの添加量を変えることにより、100mg中の含有量が0.1mg、10mg、50mgの錠剤を調製できる。
【0083】
処方例4 注射剤
10ml中
CDDO−Im 10mg
塩化ナトリウム 90mg
ポリソルベート80 適量
滅菌精製水 適量
CDDO−Im及び塩化ナトリウムを滅菌精製水に溶解して注射剤を調製する。CDDO−Imの添加量を変えることにより、10ml中の含有量が0.1mg、10mg、50mgの錠剤を調製できる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】各投与群の神経網膜におけるNQO1活性の経時変化を示すグラフである。
【図2】各投与群の網膜色素上皮を含む網脈絡膜におけるNQO1活性の経時変化を示すグラフである。
【図3】基剤投与群におけるERGのa波の振幅をそれぞれ100%として、各投与群の振幅を示すグラフである。
【図4】基剤投与群におけるERGのb波の振幅をそれぞれ100%として、各投与群の振幅を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物又はその塩を有効成分として含有する酸化ストレスが関連する眼疾患の予防又は治療剤。
【化1】

[式中、
1、2、3、4、5、及びRは、同一か又は異なって、水素原子又はアルキル基を示し、;
Xはシアノ基又はCO−Yを示し、;
Yは水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、アルキル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、ハロゲノアルキルアミノ基、又はイミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環及びベンゾイミダゾール環からなる群より選択される芳香族複素環基を示し、;
上記で規定した芳香族複素環基はハロゲン原子、アルキル基、フェニル基又はハロゲノフェニル基で置換されていてもよい。]
【請求項2】
一般式(I)において、
1、2、3、4、5、及びRはアルキル基を示し、;
Xはシアノ基又はCO−Yを示し、;
Yは水酸基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、ハロゲノアルキルアミノ基、又はイミダゾール環及びピラゾール環からなる群より選択される芳香族複素環基を示し、;
上記で規定した芳香族複素環はアルキル基、フェニル基又はハロゲノフェニル基で置換されていてもよい、請求項1記載の予防又は治療剤。
【請求項3】
一般式(I)において、
1、2、3、4、5、及びRはアルキル基を示し、;
Xはシアノ基又はCO−Yを示し、;
Yは水酸基、アミノ基、アルコキシ基、アルキルアミノ基、ハロゲノアルキルアミノ基、又はイミダゾール環及びピラゾール環からなる群より選択される芳香族複素環基を示し、;
Yがイミダゾール環の場合、該イミダゾール環はアルキル基、フェニル基又はハロゲノフェニル基で置換されていてもよい、請求項1記載の予防又は治療剤。
【請求項4】
一般式(I)において、
1、2、3、4、5、及びRはメチル基を示し、;
Xはシアノ基、カルボキシル基、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、エチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、2,2,2−トリフルオロエチルアミノカルボニル基、イミダゾール−1−イルカルボニル基、2−メチルイミダゾール−1−イルカルボニル基、2−フェニルイミダゾール−1−イルカルボニル基、2−(4−フルオロフェニル)イミダゾール−1−イルカルボニル基又はピラゾール−1−イル基を示す、請求項1記載の予防又は治療剤。
【請求項5】
一般式[I]で表される化合物が2−シアノ−3,12−ジオキソオレアナ−1,9(11)−ジエン−28−オイック酸、2−シアノ−3,12−ジオキソオレアナ−1,9(11)−ジエン−28−オイック酸メチルエステル又は1−[2−シアノ−3,12−ジオキソオレアナ−1,9(11)−ジエン−28−オイル]イミダゾールである請求項1記載の予防又は治療剤。
【請求項6】
酸化ストレスが関連する眼疾患が、硝子体、網膜、脈絡膜、強膜又は視神経における疾患である請求項1〜5のいずれか1記載の予防又は治療剤。
【請求項7】
酸化ストレスが関連する眼疾患が、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜色素変性症、増殖性硝子体網膜症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、レーベル病、未熟児網膜症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、これらの疾患に起因する視神経障害、緑内障に起因する視神経障害、虚血性視神経障害又は白内障である請求項1〜5のいずれか1記載の予防又は治療剤。
【請求項8】
酸化ストレスが関連する眼疾患が、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症又は緑内障に伴う視神経障害である請求項1〜5のいずれか1記載の予防又は治療剤。
【請求項9】
投与形態が点眼投与、硝子体内投与、結膜下投与、テノン嚢下投与又は経口投与である請求項7記載の予防又は治療剤。
【請求項10】
剤型が、点眼剤、眼軟膏、注射剤、錠剤、細粒剤又はカプセル剤である請求項7記載の予防又は治療剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−247898(P2008−247898A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57238(P2008−57238)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000177634)参天製薬株式会社 (177)
【Fターム(参考)】