説明

トリヒドロキシベンゾフェノンの製造方法

【課題】収率が高く、高品質・高純度の2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノンを、煩雑或いは過酷な製造操作を用いることなく且つ有害で処理の難しい廃棄物を殆ど生成せずに得る、大幅なコストダウンを可能とする工業的製造方法を提供する。
【解決手段】ピロガロールと、ベンゾトリクロライドとを反応させてトリヒドロキシベンゾフェノンを製造する方法において、該ピロガロールとして、ガリック酸の脱炭酸反応によって得られた粗ピロガロール反応液をそのまま用いることを特徴とする2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン(以下、トリヒドロキシベンゾフェノンと略記することがある)の工業的に有利な製造方法に関する。中でも本発明は、ガリック酸の脱炭酸反応液をそのまま利用したトリヒドロキシベンゾフェノンの工業的に有利な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリヒドロキシベンゾフェノンは、従来より紫外線吸収剤、医薬品中間体、農薬中間体等に広く使用されている。また、近年、フォトレジスト等の感光剤原料、フォトレジスト中間体として用いられ、半導体やLCDの発展に伴い、飛躍的に需要が伸びており、極めて重要な化合物となっている。
【0003】
従来から、トリヒドロキシベンゾフェノンの製造方法としては、特許文献1又は特特許文献2などにおいて、強酸性イオン交換樹脂の存在下に、安息香酸類とフェノール類とを縮合させる方法が知られており、また、特許文献3には、フェノール類とカルボン酸類とを触媒の存在下又は不存在下、反応溶媒として、特定のアルキルまたはアリルホスフィンオキサイド類あるいはアルキルまたはアリルホスフィンサルファイド類を用いる方法が知られている。
【0004】
しかしながら、これらの従来の技術はいずれも工業的実施を困難にするいくつかの欠点を有している。例えば、強酸性イオン交換樹脂を用いる場合は、樹脂の価格が高いことから、再使用をする必要があるが、再使用時には、樹脂の活性が落ちるため、最初の量に対して、使用量を増やさなければならない。また、溶媒としてアルキルまたはアリルホスフィンオキサイド類あるいはアルキルまたはアリルホスフィンサルファイド類を用いる方法は、収率的に充分とは言えず、しかも溶媒が比較的高価であり、また溶媒の回収・再利用が煩雑である等々、いずれも工業的製造方法としては充分満足できるものとは云えなかった。
【0005】
一方、レゾルシンとベンゾトリクロリドとの反応によって2,4−ジヒドロキシベンゾフェノンを製造する方法は、例えば特許文献4には、水と乳化剤又は水と乳化剤と水に可溶な塩酸塩類の混合物中で反応させる方法、特許文献5には、水と混和しない有機溶剤中で、低分子量の脂肪族一級アルコールを加えて反応させる方法、特許文献6には、N−メチルピロリドンの水溶液中で反応させて、粗製2,4−ジヒドロキシベンゾフェノンを固形物として得る方法、更に特許文献7には、界面活性化合物、分散剤又は乳化剤を助剤として含有させて反応させる方法が種々知られているが、本発明の目的とするトリヒドロキシベンゾフェノンについては何ら言及がない。
【0006】
また、非特許文献1には、没食子酸に水を加えオートクレーブ中で加熱(200〜210℃/30分)し、これを脱色、濾過蒸発させてピロガロールを製造することが、更に、特許文献8には、タンニン原料より直接にピロガロールを製造する方法が知られている。
【特許文献1】特開昭61−282335号公報
【特許文献2】特開2002-47237号公報
【特許文献3】特開平6−172253号公報
【特許文献4】特公昭48−28431号公報
【特許文献5】特公昭57-45731号公報
【特許文献6】特開昭60−202839号公報
【特許文献7】特開平2-235839号公報
【特許文献8】特許第64240号公報
【非特許文献1】2005年版 14705の化学商品(平成17年1月 化学工業日報社発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、収率が高く、高品質・高純度のトリヒドロキシベンゾフェノンを、ガリック酸からワンポットで直接合成することによって、煩雑或いは過酷な製造操作を用いることなく且つ有害で処理の難しい廃棄物を殆ど生成せずに得るとともに、大幅なコストダウンを可能とする工業的製造方法を提供することをこの発明の課題(目的)とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、ピロガロールとベンゾトリクロライドとを反応させてトリヒドロキシベンゾフェノンを製造する方法において、該ピロガロールとして、ガリック酸の脱炭酸反応によって得られた粗ピロガロール反応液をそのまま用いることを特徴とするトリヒドロキシベンゾフェノンの製造方法(項1)である。
【0009】
また、本発明は、ガリック酸の脱炭酸反応を、ガリック酸濃度20〜40重量%の水溶液中で行うことを特徴とする項1に記載のトリヒドロキシベンゾフェノンの製造方法(項2)である。
【0010】
更に本発明は、ガリック酸の脱炭酸反応を、温度160℃〜220℃で行うことを特徴とする項1乃至項2の何れかに記載のトリヒドロキシベンゾフェノンの製造方法(項3)である。
【0011】
更にまた、本発明は、ガリック酸の脱炭酸反応を、不活性ガス封入下で行うことを特徴とする項1乃至項3の何れかに記載のトリヒドロキシベンゾフェノンの製造方法(項4)である。
【0012】
そして、本発明は、粗ピロガロール反応液とベンゾトリクロライドとの反応を、ピロガロール濃度5〜30重量%の水溶液中で行うことを特徴とする項1乃至項4の何れかに記載のトリヒドロキシベンゾフェノンの製造方法(項5)である。
【0013】
そしてまた、本発明は、粗ピロガロール反応液とベンゾトリクロライドとの反応を、低級アルコール溶剤の1〜20重量%の水溶液中で行うことを特徴とする項1乃至項5の何れかに記載のトリヒドロキシベンゾフェノンの製造方法(項6)である。
【0014】
次に、本発明は、本発明は、粗ピロガロール反応液とベンゾトリクロライドとの反応を、温度20〜70℃で行うことを特徴とする項1乃至項6の何れかに記載のトリヒドロキシベンゾフェノンの製造方法(項7)である。
【0015】
次にまた、本発明は、粗ピロガロール反応液とベンゾトリクロライドとの反応で得られたトリヒドロキシベンゾフェノンを、アルカリ溶解、酸析後、晶析処理することを特徴とする項1乃至項7の何れかに記載のトリヒドロキシベンゾフェノンの製造方法(項8)である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、収率が高く、高品質・高純度のトリヒドロキシベンゾフェノンを、ガリック酸からワンポットで直接合成することによって、煩雑或いは過酷な製造操作を用いることなく且つ有害で処理の難しい廃棄物を殆ど生成せず得るとともに、大幅なコストダウンが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の方法を更に詳細に説明する。
本発明は、前述の通り、ピロガロールとベンゾトリクロライドとを反応させてトリヒドロキシベンゾフェノンを製造する方法において、該ピロガロールとして、ガリック酸の脱炭酸反応によって得られた粗ピロガロール反応液をそのまま用いることを特徴とする。
【0018】
ここで、ガリック酸の脱炭酸反応によって得られた粗ピロガロール反応液をそのまま用いるとは、ガリック酸の脱炭酸反応によって得られた粗ピロガロール反応液を反応資材として用いてベンゾトリクロライドとを反応させる意味であり、ピロガロールを結晶として分離(取出し)しない限りにおける意味であり、例えば、必要により、粗ピロガロール反応液に水を加えたり、水を除いたり、粗ピロガロール反応液中に含まれる不純物を分離する操作などを排除する意味ではない。
【0019】
次に本発明は、ガリック酸の脱炭酸反応を、ガリック酸濃度20〜40重量%の水溶液中で行うことを特徴とする。ここで、ガリック酸の脱炭酸反応は、ガリック酸濃度20〜40重量%の水溶液中で行う事が望ましく、好ましくは25〜35重量%の水溶液中で実施される。20重量%以下では生産性を低下させ、また、40重量%以上では濃度が高すぎて製造操作面に支障を来たすので、好ましくない傾向を示す。ガリック酸は、通常含水物(1水塩)の形で用いられる。
【0020】
更に本発明は、ガリック酸の脱炭酸反応を、温度160℃〜220℃で行うことを特徴とする。ここで、ガリック酸の脱炭酸反応温度は、160℃〜220℃、好ましくは165〜195℃、更に好ましくは168℃〜175℃で実施される。ここで、160℃以下では、反応にかなりの時間を要し(例えば、150℃では50時間)、好ましくない。また、220℃以上では、設備面で制約を受けるばかりでなく、品質及び収率の低下となり、好ましくない。
【0021】
次にまた、本発明は、ガリック酸の脱炭酸反応を、不活性ガス封入下で行うことを特徴とする。ここで、不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられる。
また、本発明者らは、該ガリック酸の脱炭酸反応を加圧、例えば、内圧0.6MPa〜2.4MPa、好ましくは内圧0.7MPa〜1.4MPa、特に好ましくは内圧約0.8MPa〜0.9MPaに保つようにすることにより、副生する炭酸ガスをオートクレーブから放出しながら1時間〜10数時間反応させることによって極めて都合よく行われることを見出した。
【0022】
更にまた、本発明は、粗ピロガロール反応液とベンゾトリクロライドとの反応を、ピロガロール濃度5〜30重量%の水溶液中で行うことを特徴とする。ここで、ピロガロール濃度5〜30重量%の水溶液中とは、ガリック酸より生成したピロガロールが水に完全溶解した状態を意味する。ピロガロール濃度を5〜30重量%、好ましくは10〜25重量%、更に好ましくは14〜20重量%となるように調製することにより、本発明の目的とするトリヒドロキシベンゾフェノンを高収率、高品質で得られる事を見出した。ここで、ピロガロール濃度5重量%以下では生産性が悪くなり、好ましくない。また、30重量%以上では該反応で生成したトリヒドロキシベンゾフェノンの結晶のため、反応釜内の攪拌状態が悪くなり、熱伝導に支障をきたし、温度制御面で好ましくない。
【0023】
次に、本発明は、粗ピロガロール反応液とベンゾトリクロライドとの反応を、低級アルコール溶剤の濃度が1〜20重量%の水溶液中で行うことを特徴とする。ここで、低級アルコール溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノールなどから選ばれた低級アルコール溶剤を挙げることが出来る。
【0024】
ここで、低級アルコール溶剤の濃度は重要であり、通常低級アルコール溶剤の濃度が1〜20重量%の水溶液、好ましくは2〜15重量%の水溶液、更に好ましくは3〜7重量%の水溶液である。ここで、1重量%以下では生成したトリヒドロキシベンゾフェノンの結晶が細かくなり濾過性が悪化するとともに純度が低下し、好ましくない。また、20重量%以上では必要以上の溶剤を使用するため生産性を悪化すると同時に、収率低下となり、好ましくない。このように、水と低級アルコール溶剤との混合溶媒を用いることによって生成した結晶の濾過性改善、収率向上、品質の安定化に都合が良い。
【0025】
また、ここで、ベンゾトリクロライドは、上記低級アルコール溶剤の1〜20重量%の水溶液中に滴下することによって特に好ましく行われる。滴下時間は通常1から10時間である。
【0026】
更にまた、本発明は、粗ピロガロール反応液とベンゾトリクロライドとの反応を、温度20〜70℃で行うことを特徴とする。反応温度も、本発明の目的達成に重要であり、該反応温度は通常、温度20℃〜70℃、好ましくは25〜65℃、更に好ましくは30℃〜60℃で実施される。ここで、20℃以下では反応が遅く、生産効率の悪化となり、好ましくない。また、70℃以上では副生成物の増加等が起こり、好ましくない。
【0027】
ここで、粗ピロガロール反応液とベンゾトリクロライドとの反応時間は、通常1乃至数時間かけて反応を完結させる。
また、粗ピロガロール反応液とベンゾトリクロライドとの反応モル比は、制限的ではないが、通常、ベンゾトリクロライドを粗ピロガロールに対して1.0から1.2モル倍用いられる。
【0028】
次にまた、本発明は、粗ピロガロール反応液とベンゾトリクロライドとの反応で得られたトリヒドロキシベンゾフェノンを、アルカリ溶解、酸析後、晶析処理することを特徴とする。ここで、アルカリ溶解とは、例えば、アルカリ、例えば10乃至50重量%の苛性ソーダ水溶液を加えて、pHを7乃至10に調整し、具体的には、好ましくは約30重量%の苛性ソーダ水溶液を加え、pHを8乃至9に調整する。
【0029】
次いで酸析は、同温度で酸、例えば50乃至は80重量%の硫酸を加え、pHを2〜5に調整し、具体的には、好ましくは約70重量%の硫酸を加えてpHを3〜4に調整する。最後に晶析処理は、晶析した結晶をデカント等の固液分離により母液と分離処理される。
【0030】
ここで、晶析溶剤としては、例えば、イソプロパノールのような低級アルコール類と水の混合溶剤、ジオキサンのような極性溶剤類と水の混合溶剤が挙げられる。その使用量は、生成したトリヒドロキシベンゾフェノンに対して、3〜10倍量であり、アルカリとしては、例えば、苛性ソーダ、炭酸ソーダ、苛性カリが挙げられる。その使用量は、ガリック酸(すなわち、粗ピロガロール)に対して等モル以上である。
【0031】
以上の本発明の方法によって得られたトリヒドロキシベンゾフェノンの粗結晶を、再度、アルカリ溶解、酸析、晶析処理を繰り返す(以下、再精製と呼ぶ)ことが好ましい。
【0032】
ここで、再精製は、通常、以下の通り行われる。晶析処理で得られた結晶に晶析溶剤(例えば、イソプロパノール)及び水を加え、アルカリ、例えば苛性ソーダを加えてアルカリ性とし、内温50℃乃至80℃、好ましくは例えば約70℃まで加温し、同温度で数時間保温する。その後、必要に応じて例えば50℃に冷却し、同温度で硫酸、例えば70重量%硫酸を加えてpHを2〜4、好ましくは2.5〜3に調整し、次いで下層、中間層を分離する。上層に更に水を加えて加温、冷却晶析し、得られた結晶を遠心分離機などで濾別する。
【0033】
得られた結晶は、必要により更にアルコール及び水の混合溶剤に溶解後、冷却晶析を行い、精製する。また、必要により更にこの再精製処理を繰り返し行うことで高品質の目的とするトリヒドロキシベンゾフェノンを高収率で得ることができる。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例及び比較例によって本発明の製造方法を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0035】
実施例1
攪拌機付き200mlのオートクレーブに、ガリック酸一水塩33.7g(0.179mol)、水72mlを仕込み、ガリック酸濃度を約29%に調整した後、窒素ガスを封入し室温にて30分攪拌混合した。その後、オートクレーブ内温を170℃まで加温し、同温度にて内圧0.8MPa以下に保つように副生する炭酸ガスをオートクレーブから放出しながら10時間反応した。その後、オートクレーブ内温を50℃以下まで冷却し、未反応0.2%以下を確認した。
【0036】
攪拌機付き300mlのフラスコに、この反応液を移し変え、約55mlの水を追加しピロガロール濃度16%に調整した。ついで、イソプロパノール6.3ml(イソプロパノールの対水濃度は約4%)を加えた後、フラスコ内温を50℃に加温した。フラスコ内温50℃から55℃に保った中へ、ベンゾトリクロライド37.0g(0.189mol)を8時間かけて、滴下し、さらに、滴下終了後、同温度にて3時間かけて反応を完結させた。
【0037】
次に、フラスコ内温45℃に冷却した後、30%苛性ソーダ約63mlを加え、フラスコ内液のpHを8から9に調整した。続いて、同温度にて、70%硫酸約2.5mlを加え、フラスコ内液のpHを3から4に調整した後、析出した粗結晶からデカントで母液130mlを抜き取った。
【0038】
粗結晶が残ったフラスコに、イソプロパノール97ml、水77ml、30%苛性ソーダ22mlを加え、内温70℃まで加温後、内温70℃から80℃にて2時間保温し、フラスコ内温50℃に冷却し、同温度にて、70%硫酸約11mlを加え、フラスコ内液のpHを2.5から3に調整し、攪拌を停止し30分間静置した。
【0039】
フラスコ内容物を分液ロートに移し、下層、中間層を完全に分離した後、上層を再度、300mlフラスコに戻し、水130mlを加えた。フラスコ内温50℃から10℃まで冷却晶析し、得られた結晶を遠心分離で濾過した。この結晶を一部乾燥すると、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノンとしての純度は99.8%であった。
【0040】
得られた結晶を、再度、300mlフラスコに仕込み、イソプロパノール74mlを加えた後、55℃から60℃に加温し、結晶が溶解したことを確認し、フラスコ内液を全量濾過し、その後イソプロパノール15mlをフラスコ内に仕込み、50から60℃に加温した後、濾過器へ移し、濾過器内の残渣を洗浄し、濾過した。
【0041】
濾過液と洗浄濾過液を、再度、300mlフラスコに仕込み、水150mlを加え、60℃に加温後、10℃まで冷却晶析し、得られた結晶を遠心分離で濾過し、遠心分離機内の湿結晶を水で洗浄し、取り出し、乾燥した。得量32.6g。収率は、使用したガリック酸に対して、79.4%となった。
【0042】
得られた2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノンは、純度99.9%、融点142.8℃、水分0.1%であった。
【0043】
実施例2
攪拌機付き200mlのオートクレーブに、ガリック酸一水塩33.7g(0.179mol)、水53mlを仕込み、ガリック酸濃度を約35%に調整した後、窒素を封入し室温にて30分攪拌混合した。その後、オートクレーブ内温を175℃まで加温し、同温度にて内圧0.9MPa以下に保つように副生する炭酸ガスをオートクレーブから放出しながら9時間反応した。その後、オートクレーブ内温を50℃以下まで冷却し、未反応0.1%以下を確認した。
【0044】
攪拌機付き300mlのフラスコに、この反応液を移し変え、約16mlの水を追加しピロガロール濃度25%に調整した。ついで、イソプロパノール5ml(イソプロパノールの対水濃度は約5.5%)を加えた後、フラスコ内温を55℃に加温した。フラスコ内温55℃から60℃に保った中へ、ベンゾトリクロライド37.0g(0.189mol)を6時間かけて、滴下し、さらに、滴下終了後、同温度にて2時間かけて反応を完結させた。
【0045】
次に、フラスコ内温45℃に冷却した後、30%苛性ソーダ約60mlを加え、フラスコ内液のpHを8から9に調整した。続いて、同温度にて、70%硫酸約2mlを加え、フラスコ内液のpHを3から4に調整した後、析出した粗結晶からデカントで母液90mlを抜き取った。
【0046】
粗結晶が残ったフラスコに、イソプロパノール100ml、水75ml、30%苛性ソーダ22mlを加え、内温70℃まで加温後、内温70℃から80℃にて2時間保温し、フラスコ内温50℃に冷却し、同温度にて、70%硫酸約11mlを加え、フラスコ内液のpHを2.5から3に調整し、攪拌を停止し30分間静置した。
【0047】
フラスコ内容物を分液ロートに移し、下層、中間層を完全に分離した後、上層を再度、300mlフラスコに戻し、水150mlを加えた。フラスコ内温50℃から10℃まで冷却晶析し、得られた結晶を遠心分離で濾過した。この結晶を一部乾燥すると、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノンとしての純度は99.7%であった。
【0048】
得られた結晶を、実施例−1同様に、再度、イソプロパノールで精製処理を実施し乾燥結晶32.7gを得た。収率は使用したガリック酸に対して、79.5%であった。得られた2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノンは、純度99.9%、融点142.8℃、水分0.1%であった。
【0049】
実施例3
攪拌機付き200mlのオートクレーブに、ガリック酸一水塩33.7g(0.179mol)、水53mlを仕込み、ガリック酸濃度を約35%に調整した後、窒素を封入し室温にて30分攪拌混合した。その後、オートクレーブ内温を195℃まで加温し、同温度にて内圧1.4MPa以下に保つように副生する炭酸ガスをオートクレーブから放出しながら4時間反応した。その後、オートクレーブ内温を50℃以下まで冷却し、未反応0.1%以下を確認した。
【0050】
以下、実施例−1と同様の操作を行い、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン31.9gを得た。(収率は、使用したガリック酸に対して、77.7%)
得られた2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノンは、純度99.8%、融点142.5℃、水分0.1%以下であった。
【0051】
実施例4
攪拌機付き200mlのオートクレーブに、ガリック酸一水塩56.1g(0.3mol)、水120mlを仕込み、ガリック酸濃度を約30%に調整した後、窒素を封入し室温にて30分攪拌混合した。その後、オートクレーブ内温を175℃まで加温し、同温度にて内圧0.9MPa以下に保つように副生する炭酸ガスをオートクレーブから放出しながら8時間反応した。その後、オートクレーブ内温を50℃以下まで冷却し、未反応0.1%以下を確認した。
【0052】
攪拌機付き500mlのフラスコに、この反応液を移し変え、約70mlの水を追加しピロガロール濃度18%に調整した。ついで、メタノール約24ml(メタノールの対水濃度は約10%)を加えた後、フラスコ内温を50℃に加温した。フラスコ内温50℃から55℃に保った中へ、ベンゾトリクロライド61.7g(0.315mol)を8時間かけて、滴下し、さらに、滴下終了後、同温度にて2時間かけて反応を完結させた。
【0053】
反応完結後、実施例1と同様の方法にて、粗結晶をデカント分離した後、精製処理を実施し、乾燥結晶54.5gを得た。収率は、使用したガリック酸に対して79.7%であった。得られた2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノンは、純度99.9%、融点142.7℃、水分0.1%であった。
【0054】
実施例5
攪拌機付き200mlのオートクレーブに、ガリック酸一水塩33.7g(0.179mol)、水73mlを仕込み、ガリック酸濃度を約30%に調整した後、窒素ガスを封入し室温にて30分攪拌混合した。その後、オートクレーブ内温を170℃まで加温し、同温度にて内圧0.8MPa以下に保つように副生する炭酸ガスをオートクレーブから放出しながら10時間反応した。その後、オートクレーブ内温を50℃以下まで冷却し、未反応0.1%以下を確認した。
【0055】
攪拌機付き300mlのフラスコに、この反応液を移し変え、約50mlの水を追加しピロガロール濃度20%に調整した。ついで、イソプロパノール6ml(イソプロパノールの対水濃度は約5%)を加えた後、フラスコ内温を40℃に加温した。フラスコ内温40℃から45℃に保った中へ、ベンゾトリクロライド37.0g(0.189mol)を12時間かけて、滴下し、さらに、滴下終了後、同温度にて5時間かけて反応を完結させた。
【0056】
反応完結後、実施例1と同様の方法にて、粗結晶をデカント分離した後、精製処理を実施し、乾燥結晶32.8gを得た。収率は、使用したガリック酸に対して79.9%であった。得られた2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノンは、純度99.9%、融点142.8℃、水分0.1%であった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
トリヒドロキシベンゾフェノンは、従来より紫外線吸収剤、医薬品中間体、農薬中間体等に広く使用されている。また、近年、フォトレジスト等の感光剤原料、フォトレジスト中間体として用いられ、半導体やLCDの発展に伴い、飛躍的に需要が伸びており、極めて重要な化合物となっている。本発明により、収率が高く、高品質・高純度のトリヒドロキシベンゾフェノンを、ガリック酸からワンポットで直接合成することによって、煩雑或いは過酷な製造操作を用いることなく且つ有害で処理の難しい廃棄物を殆ど生成せず得るとともに、大幅なコストダウンが可能となる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピロガロールと、ベンゾトリクロライドとを反応させてトリヒドロキシベンゾフェノンを製造する方法において、該ピロガロールとして、ガリック酸の脱炭酸反応によって得られた粗ピロガロール反応液をそのまま用いることを特徴とするトリヒドロキシベンゾフェノンの製造方法。
【請求項2】
ガリック酸の脱炭酸反応を、ガリック酸濃度20〜40重量%の水溶液中で行うことを特徴とする請求項1に記載のトリヒドロキシベンゾフェノンの製造方法。
【請求項3】
ガリック酸の脱炭酸反応を、温度160℃〜220℃で行うことを特徴とする請求項1乃至請求項2の何れかに記載のトリヒドロキシベンゾフェノンの製造方法。
【請求項4】
ガリック酸の脱炭酸反応を、不活性ガス封入下で行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載のトリヒドロキシベンゾフェノンの製造方法。
【請求項5】
粗ピロガロール反応液とベンゾトリクロライドとの反応を、ピロガロール濃度5〜30重量%の水溶液中で行うことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載のトリヒドロキシベンゾフェノンの製造方法。
【請求項6】
粗ピロガロール反応液とベンゾトリクロライドとの反応を、低級アルコール溶剤の1〜20重量%の水溶液中で行うことを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れかに記載のトリヒドロキシベンゾフェノンの製造方法。
【請求項7】
粗ピロガロール反応液とベンゾトリクロライドとの反応を、温度20〜70℃で行うことを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れかに記載のトリヒドロキシベンゾフェノンの製造方法。
【請求項8】
粗ピロガロール反応液とベンゾトリクロライドとの反応で得られたトリヒドロキシベンゾフェノンを、アルカリ溶解、酸析後、晶析処理することを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れかに記載のトリヒドロキシベンゾフェノンの製造方法。


【公開番号】特開2009−1506(P2009−1506A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−161458(P2007−161458)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(000175618)三協化成株式会社 (10)
【Fターム(参考)】