説明

トリプタン化合物およびキシリトールを含む液体医薬組成物

a)少なくとも1種のトリプタン化合物、その薬学的に許容される塩もしくは水和物、ならびにb)キシリトールを含む、水性液体医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、少なくとも1個のトリプタン化合物およびキシリトールを含む水性液体医薬組成物に関する。該組成物は、トリプタン化合物に特有の苦味を示さず、かつ他の多価アルコールを含む組成物よりも顕著に安定である。本発明はさらに、該組成物の製造方法および組成物の投与による処置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
偏頭痛は、先行して前兆がある場合があり、また悪心、嘔吐、下痢、光に対する過敏症(光恐怖症)、音に対する過敏症(音声恐怖症)、および匂いに対する過敏症(匂い恐怖症);睡眠障害、ならびに鬱病のような神経系および消化器系の両方の症状にしばしば関係する、一過性頭痛の重篤な、重大な消耗性の、かつ単側型の頭痛の1種である。未処置の場合、偏頭痛発作は、4ないし72時間程度続き得る。
【0003】
現在の偏頭痛処置剤は、予防的処置剤または頓挫療法剤に分類される。各クラスの処置剤が、頻繁かつ重篤な頭痛およびその関連症状を有する偏頭痛患者に投与される。非ステロイド系抗炎症剤、アドレナリンベータ遮断剤、カルシウムチャネル遮断剤、三環式抗鬱剤、選択的セロトニン再取り込み阻害剤、または抗けいれん剤を含む予防的処置剤は、偏頭痛の頻度を低下させる。
【0004】
偶発的偏頭痛に関して、頓挫療法剤が用いられる。頓挫療法剤は、頭痛および偏頭痛後に始まるその関連症状を除去するか、またはそれらの重篤度を低下させる。頓挫療法剤には、セロトニン受容体アゴニストまたはエルゴタミンベースの化合物、または鎮痛作用を呈する化合物が含まれる。
【0005】
“トリプタン”または“トリプタン化合物”は、典型的に、偏頭痛の急性発作および群発頭痛の処置における予防薬として用いられるトリプタミン誘導体ファミリーである。概して、それらの作用は、頭蓋内血管におけるセロトニン5−HT1Bおよび5−HT1D受容体への結合(それらの狭窄を誘発する)、ならびにその後の、炎症誘発性神経ペプチド放出の阻害によるものである。
【0006】
経口投与医薬組成物は、(硬および軟)カプセルまたは(非コーティングまたはコーティング)錠剤のような固体形態、ならびに溶液、エマルジョンまたは懸濁液のような液体形態を含む、多くの投与形態で患者に提供される。固体形態で投与される医薬組成物は、通常、咬まずに丸ごと服用されることを意図する。
【0007】
小児、高齢者および障害者または要介護者(incapacitated patient)を含む多くの他の人々は、しばしば、錠剤またはカプセルの嚥下が困難である。これらの状況において、チュアブル固体形態または液体形態の何れかの薬剤の提供が望ましい。小児および高齢患者を含む多くの患者に関して、容易に嚥下され得るために、液体経口投与量形態がチュアブル投与量形態に好ましい。さらに、患者は、投与量の摂取が容易である程、その投薬指示書に従う傾向があり得る。
【0008】
経口液体投与量形態によくある問題は、しばしば、トリプタンの場合のように、そこに含まれる活性医薬成分(API)の悪味である。トリプタンの不快な味または苦味は、これらの投与量形態が口腔内にあるのが短時間であって、該医薬の風味は錠剤を外側からコーティングすることで容易にマスキングされ得るため、内服用錠剤またはカプセルの製剤時には考慮される必要がない。経口液体製剤の場合、トリプタンの悪味は、組成物への甘味剤の添加によりマスキングされる。しかしながら、これらの甘味剤は、APIの不快な味を隠蔽するのに必ずしも完全に効果的であるわけではない。
【0009】
しかしながら、光および/または酸化に対して不安定なトリプタンのようないくつかのAPIは、日米欧医薬品規制調和国際会議(ICH)の安定性ガイドラインにおいて推薦されるような、長期に、かつ温度および湿気の悪条件下で貯蔵される必要がある液体医薬品組成物中に存在するとき、特に不安定である。
【0010】
本発明者らは、驚くことに、キシリトールがトリプタンを含む液体組成物を安定化させ、それ故に、最も好適な甘味料であることを発見した。さらに、キシリトールの存在は、湿潤剤、可溶化剤、濃化剤、着色料、緩衝剤、および特に、防腐剤のような、液体組成物に用いられる通常の賦形剤の何れの使用も不必要にする。このことは、これらの組成物を、経口投与用のみではなく、非経腸投与用にも有用にする。
【0011】
キシリトールは、以下の構造を有する。
【化1】

【0012】
それは、可能な医薬賦形剤として公知である(例えば、WO−A−2007/070504を参照のこと)。
【発明の概要】
【0013】
発明の概要
驚くべきことに、a)少なくとも1種のトリプタン化合物、またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物、ならびにb)キシリトール、を含む水性液体医薬組成物は、光および/または酸化に対して安定であり、また好ましい風味であって、故に嚥下が容易であることを見いだした。
【0014】
本発明はさらに、以下の工程を含む上記に定義の組成物の製造方法に関する:
a.一定量の少なくとも1種のトリプタン化合物、その薬学的に許容される塩もしくは水和物を、水または基本的に水からなる溶液に溶解し、水性液体トリプタン組成物を形成し、そして
b.キシリトールを該水性液体トリプタン組成物と、ならびに所望により香味剤と合わせて、水性液体医薬組成物を形成する。
【0015】
本発明はさらに、偏頭痛および/または群発頭痛の処置または予防に用いるための、上記の組成物に関する。
【0016】
本発明はさらに、偏頭痛および/または群発頭痛の処置または予防のための医薬の製造のための、上記の組成物の使用に関する。
【0017】
本発明はさらに、偏頭痛および/または群発頭痛を有する対象の処置方法であって、有効量の上記の水性液体医薬組成物を該対象に投与することを含む方法に関する。
【0018】
また、トリプタンの安定性を改善するためのキシリトールの使用も提供する。
【0019】
本発明の詳細な説明
トリプタン化合物
“トリプタン”または“トリプタン化合物”は、偏頭痛および群発頭痛の処置にて予防薬として一般的に用いられるトリプタミン誘導体のファミリーを意味する。通常、それらの作用は、頭蓋内血管におけるセロトニン5−HT1Bおよび5−HT1D受容体への結合(それらの収縮を誘発する)、ならびにその後の、炎症誘発性神経ペプチド放出の阻害によるものである。
【0020】
このように、トリプタン化合物には、上記のかかる効果を提供する如何なるトリプタミン誘導体も包含される。しかしながら、好ましいトリプタン化合物は、スマトリプタン (3−[2−(ジメチルアミノ)エチル]−N−メチル−1H−インドール−5−イルメチルスルホンアミド)、エレトリプタン (5−[2−(ベンゼンスルホニル)エチル]−3−[1−メチルピロリジン−2(R)−イルメチル]−1H−インドール)、リザトリプタン (3−[2−(ジメチルアミノ)エチル]−5−(1,2,4−トリアゾール−1−イルメチル)−1H−インドール)、フロバトリプタン ((R)−(+)−3−(メチルアミノ)−1,2,3,4−テトラヒドロ−9H−カルバゾール−6−カルボキサミド)、アルモトリプタン (3−[2−(ジメチルアミノ)エチル]−5−(ピロリジン−1−イルスルホニルメチル)−1H−インドール)、ゾルミトリプタン (4(S)−[3−[2−(ジメチルアミノ)エチル]−1H−インドール−5−イルメチル]オキサゾリジン−2−オン)、ナラトリプタン (N−メチル−2−[3−(1−メチルピペリジン−4−イル)−1H−インドール−5−イル]エタンスルホンアミド)、それらの薬学的に許容される塩もしくは水和物、ならびにそれらの混合物からなる群から選択され得る。より好ましいトリプタン化合物は、スマトリプタン、アルモトリプタン、それらの薬学的に許容される塩もしくは水和物、ならびにそれらの混合物である。最も好ましい本発明のトリプタン化合物は、アルモトリプタンおよびその薬学的に許容される塩もしくは水和物である。
【0021】
本明細書で用いる用語「薬学的に許容される塩」は、薬学的に許容される酸または塩基との塩を包含する。薬学的に許容される酸は、無機酸、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、二リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸および硝酸、ならびに有機酸、例えば、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、アスコルビン酸、シュウ酸、コハク酸、酒石酸、安息香酸、酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸またはp−トルエンスルホン酸の両方を含む。薬学的に許容される塩基には、アルカリ金属(例えば、ナトリウムまたはカリウム)、およびアルカリ土類金属(例えば、カルシウムまたはマグネシウム)水酸化物、ならびに有機塩基、例えば、アルキルアミン、アリールアルキルアミンおよびヘテロ環式アミンが含まれる。
【0022】
本発明の他の好ましい塩は、1当量の陰イオン(X)が、N原子の正電荷と結合する第4級アンモニウム化合物である。Xは、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫化物イオン、硝酸イオン、ホスフェートのような種々の金属酸の陰イオン、または、例えば、アセテート、マレアート、フマレート、シトレート、オキサレート、スクシネート、タートレート、マレート、マンデレート、トリフルオロアセテート、ベンゾエート、メタンスルホネートおよびp−トルエンスルホネートのような有機酸の陰イオンであり得る。
【0023】
好ましいトリプタン化合物の好ましい薬学的に許容される塩もしくは水和物は、コハク酸スマトリプタン、ヘミコハク酸エレトリプタン、一臭化水素酸エレトリプタン、モノフマル酸エレトリプタン、モノコハク酸エレトリプタン、リザトリプタン硫酸エステル、リザトリプタンベンゾアート、フロバトリプタンコハク酸エステル、アルモトリプタンリンゴ酸エステル、ゾルミトリプタンモノヒドロクロライド、ナラトリプタンモノヒドロクロライド、またはそれらの混合物からなる群から選択され得る。好ましいトリプタン化合物のより好ましい薬学的に許容される塩もしくは水和物は、スマトリプタンコハク酸エステル、アルモトリプタン D,L水素リンゴ酸エステルおよびそれらの混合物である。アルモトリプタン D,L水素リンゴ酸エステルが、最も好ましい。
【0024】
キシリトール
Pharmaceutical Press編、Handbook of Pharmaceutical Excipients、第5版、2005(ISBN 1582120587)によると、キシリトール(キシロ−ペンタン−1,2,3,4,5−ペントール)は、約0.4−0.6mmの平均直径を有する結晶性の等次元状(equidimensional)粒子を含む、白色の粒状固体として生じる。それは、無臭で、また清涼感を与える甘味を有する。
【0025】
キシリトールは、該結晶の溶解時の明らかな冷却効果と合わせて、スクロースと同程度の甘みを持つため、錠剤およびシロップの風味を増大し、またトリプタンと関連する不快な味または苦味を隠すことに非常に効果的である。
【0026】
本発明によれば、キシリトールは、好ましくは90ないし700μmの範囲、より好ましくは150ないし350μmの範囲の平均粒子サイズを有する。
【0027】
水性液体医薬組成物
本発明は、
a)好ましくは、スマトリプタン、ナラトリプタン、ゾルミトリプタン、リザトリプタン、アルモトリプタン、エレトリプタン、フロバトリプタン、それらの薬学的に許容される塩もしくは水和物(上記の通り)、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される、少なくとも1種のトリプタン化合物、および
b)キシリトール
を含む、水性液体医薬組成物を提供する。
【0028】
本発明によれば、トリプタン化合物は、アルモトリプタン、その薬学的に許容される塩もしくは水和物であることが好ましい。アルモトリプタン D,L 水素リンゴ酸エステルが、特に好ましい。
【0029】
本発明の水性液体医薬組成物において、a)トリプタン化合物の全量は、好ましくは、組成物の全重量の0.01ないし1重量%、より好ましくは、0.05ないし0.5重量%である。
【0030】
b)キシリトールの全量は、好ましくは、組成物の全重量の10ないし60重量%、より好ましくは、25ないし55重量%、最も好ましくは、30ないし50重量%である。
【0031】
本発明の好ましい水性液体医薬組成物は、組成物の全重量の、
i)0.05ないし0.5重量%、好ましくは、0.06ないし0.3重量%のa)少なくとも1種のトリプタン化合物、好ましくは、アルモトリプタン、その薬学的に許容される塩もしくは水和物、より好ましくは、アルモトリプタンリンゴ酸エステル、
ii)25ないし55重量%、好ましくは、30ないし50重量%のb)キシリトール、
iii)全体を100重量%とする量の水
を含む。
【0032】
治療効果を達成するのに必要とされる各トリプタン化合物の量は、もちろん、特定の作用、投与経路および処置される対象によって変わり得る。
【0033】
治療的有効量のトリプタン化合物、好ましくは、(塩形態ではなく)その塩基として表されるアルモトリプタンを提供するため、それは、一般的に、組成物の0.3mg/mLないし15mg/mL、好ましくは、0.35mg/mLないし10mg/mL、より好ましくは、0.4mg/mLないし5mg/mL量で存在する。本明細書に示される濃度は、トリプタン塩基としての当量に基づく。
【0034】
用語“治療的有効量”は、トリプタン化合物、好ましくはアルモトリプタンの量が、偏頭痛および/または群発頭痛、およびそれと関連する全身倦怠感の処置または管理において治療的利益を提供することを意味する。
【0035】
本発明の水性液体医薬組成物は、所望によりc)香味剤をさらに含んでいてよい。本明細書で用いる“香味剤”は、本発明の水性液体医薬組成物の味覚または香りを増強し、より清涼にし得る物質である。好適な香味剤は、標準的な参考図書、例えばFenaroli's Handbook of Flavor Ingredients、第5版(2004)から選択され得る。
【0036】
香味剤には、天然の香味剤、天然と同一の香味剤、人工香味剤、またはそれらの混合物が含まれ得る。
【0037】
天然の香味物質は、物理的、微生物学的または酵素的処理工程により、植物または動物原料から得られる香味物質である。それらは、天然の状態で、またはヒトの消費用に処理されて用いられ得る。天然香味剤には、ペパーミント油、スペアミント油、ハッカ油、アニス油、クローブ油、柑橘油、桂皮油、イチゴ油、タンジェリン油、オレンジ油、ウィンターグリーン油、カッシア油、ダバナ油、松葉油、ユーカリ油、ウイキョウ油、ガルバヌム油、ジンジャー油、カモミール油、クミン油、薔薇油、ゼラニウム油、セージ油、ノコギリソウ油(yarrow oil)、スター・アニス油、タイム油、ビャクシン・ベリー油、ローズマリー油、アンゼリカ根油、およびこれらの油状物画分のような植物および果実由来の油状物が含まれるが、これらに限定されない。天然香味剤のうち、それは、アネトール、キャラウェー、カルダモン種、チェリージュース、チェリーシロップ、シナモン、クエン酸、ココア、ジンジャー、甘草、蜂蜜、オレンジ・シロップ、ペパーミント、キイチゴ・ジュース、スペアミント、バニラ、およびバニリンであってもよい。
【0038】
天然と同一の香味剤は、化学的処理による合成または単離により得られる香味物質であって、それらは、ヒトの消費用に製品中に天然に存在する香味物質と化学的に同一である。人工香味剤は、ヒトの消費用の天然製品中に、該製品が処理されようが、処理されまいが、同定されない香味物質である。
【0039】
香味剤は、単独で用いられても、または2個以上が組み合わせて用いられてもよい。さらに、天然の、天然と同一の、および人工の香味剤は、何れかの感覚的に許容される方法で組み合わされ得る。
【0040】
香味剤は、懸濁液、該香味剤を含む、粉末形態、液体製剤形態、懸濁液形態、エリキシル形態またはシロップ形態で用いられ得る。
【0041】
香味剤は、芳香物質と組み合わせることができる。均質な芳香物質の例は、例えば以下の通りである:アネトール、メントール、メントン、イソメントン、酢酸メンチル、メントフラン、ミントラクトン、オイカリプトール、リモネン、オイゲノール、ピネン、サビンネン水和物、3−オクタノール、カルボン、ガンマ−オクタラクトン、ガンマ−ノナラクトン、ゲルマクレン−D、ヴィリディフローラ(viridiflorol)、1,3E,5Z−ウンデカトリエン、イソプレゴール、ピペリトン、2−ブタノン、ギ酸エチル、酢酸3−オクチル、イソ吉草酸イソアミル、ヘキサノール、ヘキサナール、シス−3−ヘキセノール、リナロール、アルファ−テルピネオール、シスおよびトランス 酢酸カルビン、p−シモール、ダマセノン、ダマスコン、ローズオキシド、硫化ジメチル、フェンコール、アセトアルデヒドジエチルアセタール、シス−4−ヘプタナール、イソブチルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、シス−ジャスモン、アニスアルデヒド、サリチル酸メチル、ミルテニルアセタート、2−フェニルエチルアルコール、イソ酪酸2−フェニルエチル、イソ吉草酸2−フェニルエチル、シンナムアルデヒド、ゲラニオール、ネロール。キラル化合物の場合、芳香物質は、ラセミ体または個々のエナンチオマーとして、または、エナンチオマーに富む混合物として存在し得る。
【0042】
香味剤には、風味を高めるために冷却剤を含んでいてよく、そして製品の口臭予防性を認識され得る。冷却剤には、メントール、エチル p−メンタンカルボキサミド、N,2,3−トリメチル−2−イソプリル−ブタナミド、グルタル酸メチル、コハク酸メンチル、メントールPGカーボネート、メントールEGカーボネート、乳酸メンチル、メントングリセロールケタール、メントールグリセリルエーテル、N−tertブチル−p−メンタン−3−カルボキサミド、p−メンタン−3−カルボン酸グリセロールエステル、メチル−2−イソプリル−ビシクロ、ヘプタン−2−カルボキサミド、メントールメチルエーテル、ならびにそれらの組合せが含まれる。
【0043】
本発明の水性液体医薬組成物のpH値は、典型的に、生理的投与に許容される範囲内であって、好ましくは、3.0ないし7.0の範囲、より好ましくは4ないし6の範囲である。
【0044】
本発明の水性液体医薬組成物は、所望によりキシリトール以外の甘味剤、湿潤剤、可溶化剤、濃化剤、着色剤、防腐剤、緩衝剤またはそれらの混合物をさらに含んでいてよい。
【0045】
キシリトール以外の甘味剤の例は、単糖類、二糖類および多糖類(キシロース、リボース、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、デキストロース、スクロース、マルトース、部分的に加水分解されたデンプン(マルチトールシロップなど)またはコーンシロップ固体);糖アルコール(ソルビトール、マンニトール);所望により酸化エチレンまたは酸化プロピレンでアルコキシル化されていてよい他のポリオール(グリセリン、プロピレングリコール);可溶性サッカリン塩、すなわちサッカリンナトリウム塩またはサッカリンカルシウム塩、サイクラミン酸塩、アセサルフェーム−K、グリチルリチン酸アンモニウム、グリチルリチン酸二カリウムなど、およびサッカリンの遊離酸形態のような人工甘味剤;ならびに、L−アスパルチルフェニルアラニンメチルエステルのようなジペプチドベースの甘味剤、のような糖類甘味剤である。
【0046】
湿潤剤(その表面張力を低下することにより液体の拡散および浸透特性を増大する化学物質)の例には、塩化ベンザルコニウム;ポリオキシエチレンおよびポリオキシプロピレンブロック共重合体;ポリオキシエチレン脂肪酸グリセリドおよび油状物(ポリオキシエチレン(6)カプリル/カプリン酸モノ−およびジグリセリド)、ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油のような非イオン性界面活性剤;ポリソルベート20およびポリソルベート80のようなポリオキシエチレンソルビタンエステル;プロピレングリコールラウレートのようなプロピレングリコール脂肪酸エステル;モノステアリン酸グリセリンのようなグリセリル脂肪酸エステル;ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノパルミテートおよびソルビタンモノステアレートのようなソルビタンエステル;グリセリル脂肪酸エステル、例えばモノステアリン酸グリセリルのような1種以上の陽イオン性界面活性剤;または、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルエーテル硫酸ナトリウム;オレイン酸、オレイン酸ナトリウムおよびオレイン酸トリエタノールアミンのような、それらの脂肪酸および塩のような陰イオン性界面活性剤が含まれる。
【0047】
可溶化剤の例には、例えば、以下の群から選択される少なくとも1種の非イオン性界面活性剤が含まれる:アルキル基における、8ないし15個の炭素を含む直鎖C−C22脂肪アルコール、C12−C22脂肪酸およびアルキルフェノール上への1ないし30モルの酸化エチレンおよび/または0ないし5モルの酸化プロピレンを付加した製品;アルキル基およびそのエトキシ化類似体における、8ないし22個の炭素を含むアルキルおよび/またはアルケニルオリゴグリコシド;1ないし15モルのエチレンオキシドとヒマシ油および/または硬化ヒマシ油の付加製品;15ないし60モルのエチレンオキシドとヒマシ油および/または硬化ヒマシ油の付加製品;グリセロールおよび/またはソルビタンの部分的エステルと、12ないし22個の炭素を含む不飽和または飽和の、直鎖または分枝鎖脂肪酸、および/または3ないし18個の炭素原子を含むヒドロキシカルボン酸、ならびに1ないし30モルのエチレンオキシドとのその付加製品;アルコキシル化グリセリドおよびアルコキシル化グリセリン、ポリグリセロールの部分的エステル(平均自己重合度2ないし8)、ポリエチレングリコール(平均分子量400ないし5000)、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、糖アルコール(例えば、ソルビトール)、アルキルグルコシド(例えば、メチルグルコシド、ブチルグルコシド、ラウリルグルコシド)およびポリグルコシド(例えば、セルロース)と、12ないし22個の炭素を含む飽和および/または不飽和の、直鎖または分枝鎖脂肪酸、および/または3ないし18個の炭素を含むヒドロキシカルボン酸の混合物、ならびに1ないし30モルのエチレンオキシドとのその付加製品;ペンタエリトリトール、脂肪酸、クエン酸および脂肪アルコールの混合エステル、および/または6ないし22個の炭素を含む脂肪酸、メチルグルコースおよびポリオール、好ましくはグリセロールまたはポリグリセロールの混合エステル;モノ−、ジ−およびトリアルキルホスフェートおよびモノ−、ジ−および/またはトリ−PEG−アルキルホスフェート、ならびにその塩;ブロック共重合体、例えば、ポリエチレングリコール−30ジポリヒドロキシステアレート;ポリマー乳化剤;ポリアルキレングリコールおよびアルキルグリセリルエーテル。
【0048】
濃化剤または粘度増強剤は、一般的に、液体医薬組成物を厚くするために含まれ得る。何れかの好適な濃化剤が本発明の組成物に含まれ得るとき、用いられるときは、好ましい濃化剤には、アカシア、アルギン酸ベントナイト、カルボマー、カルボキシメチルセルロースカルシウムまたはナトリウム、セトステアリルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、グリセリン、ゼラチングアーガム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、マルトデキストリン、ポリビニルアルコール、ポビドン、プロピレンカーボネート、アルギン酸プロピレングリコール、アルギン酸ナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプントラガカント、およびキサンタンガム、ならびにそれらの組合せの1種以上が含まれる。より好ましい濃化剤は、グリセリン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびキサンタンガム、ならびに何れかのそれらの組合せである。
【0049】
要すれば、本発明の水性液体医薬組成物はさらに、着色剤を含んでいてよい。好ましい着色剤は、例えば、FD & C 赤色3号、FD & C 赤色20号、FD & C 赤色40号、FD & C 黄色6号、FD & C 青色2号、D & C 緑色5号、D & C 橙色5号が挙げられる。全てのFD & CおよびD & Cならびにそれらの対応する化学構造の完全な記載は、Kirk Othmer Encyclopedia of Chemical Technologyに見いだされ得る。
【0050】
微生物汚染を防止するための好適な防腐剤の例は、アルキルパラベン、特にメチルパラベン、プロピルパラベンおよびブチルパラベン;安息香酸ナトリウム;ブチル化ヒドロキシトルエン;ブチル化ヒドロキシアニソール;エチレンジアミンテトラ酢酸;クロロブタノール;ベンジルアルコール;フェニルエチルアルコール;デヒドロ酢酸;ソルビン酸;ソルビン酸カリウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンズベンゼトニウム;および、それらの混合物である。利用される防腐剤の量は、一般的に、選択される防腐剤によって変わり得る。
【0051】
好ましくは、本発明の水性液体医薬品組成物は、微生物汚染を防止するために何れの防腐剤も必要とせず、すなわち防腐剤を含まない。
【0052】
本発明の水性液体医薬組成物のpHを生理的投与に許容される範囲内、好ましくは3.0ないし7.0、より好ましくは4ないし6に調節するための薬学的に許容される緩衝剤が用いられ得る。例えば、酢酸、クエン酸、フマル酸、リン酸、塩酸、乳酸または硝酸など、またはそれらの混合物のような薬学的に許容される酸が組成物中に包含される。本発明の任意の組成物は、その目的のために特にpHを調節する薬剤を含まないで所望の範囲にpHを有し得ることも理解され得る。しかしながら、典型的に、酸性の緩衝系が、望ましいpHを達成するために組成物中に存在する。酸性緩衝系は、酸味料および緩衝剤を含む。好適な酸味料は当業者に公知であり、酢酸、クエン酸、フマル酸、塩酸、リン酸、乳酸および硝酸など、ならびにそれらの混合物が例示される。好適な緩衝剤は同様に当業者に公知であり、メタリン酸カリウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなど、ならびにそれらの混合物が例示される。
【0053】
本発明によれば、本発明の液体医薬組成物への、安定性を改善するための緩衝剤の添加は不要である。
【0054】
本発明は、上記の水性液体医薬組成物の製造方法も目的とし、以下:
a.一定量の少なくとも1種のトリプタン化合物(好ましくは、アルモトリプタン)、その薬学的に許容される塩もしくは水和物を、水または基本的に水からなる溶液に溶解し、水性液体トリプタン組成物を形成し、そして
b.キシリトールを水性液体トリプタン組成物と、ならびに所望により香味剤と合わせて、水性液体医薬組成物を形成する工程
を含む。
【0055】
香味剤が存在するとき、それは、キシリトールと水性液体トリプタン組成物を混合物前または後に添加され得る。
本発明によれば、キシリトールは、固体形態または溶液形態の何れかで用いられ得る。
【0056】
工程a)における用語“基本的に水からなる溶液”は、水が該溶液の必須成分であることを意味するが、それは、要すれば、当業者によく知られている成分から選択される、本発明の目的のための他の非必須成分を含んでいてよい。
【0057】
偏頭痛および/または群発頭痛を有する対象の処置方法であって、該対象に有効量の本発明の水性液体医薬組成物を投与することを含む方法もまた、本発明の目的の一形態である。
【0058】
本明細書で用いる用語“対象”は、本発明の医薬組成物の投与または方法により利益を得うる哺乳動物を意味する。好ましくは、対象はヒトである。
【0059】
本発明はさらに、ヒトまたは動物体の処置に用いるための、好ましくは偏頭痛および/または群発頭痛の処置または予防に用いるための、本発明の組成物に関する。故に、本発明はさらに、偏頭痛および/または群発頭痛の処置または予防のための医薬の製造のための上記の組成物の使用に関する。
【0060】
本発明はまた、トリプタン、特にアルモトリプタンの安定性を改善するためのキシリトールの使用を提供する。好ましくは、キシリトールは、熱および/または光によるトリプタンの酸化を低下させるために用いられる。典型的に、キシリトールは、上記の水性液体医薬組成物におけるトリプタンの安定性の改善のために用いられる。
【0061】
本発明の水性液体医薬組成物は、何れかの好適な経路で投与され、例えば、経口投与(溶液、懸濁液およびエマルジョン等として);または、非経腸投与(皮下、皮内、筋肉内、静脈内など)され得る。非経腸投与に関して、水性液体医薬組成物は、ポリエチレングリコールと共に製剤され得る。しかしながら、本発明の水性液体医薬組成物の好ましい投与経路は、経口投与である。
【0062】
本発明の水性液体医薬組成物は、HDPEボトルパック、PET、または琥珀色ガラスボトルパック、ガラスチューブ、管状バイアル、ガラスアンプル、熱形成包装、ポーチ、サシェおよびスティックパックのような何れかの好適な容器に包装され得る。
【0063】
医薬組成物は、都合よく、患者が、単回用量を投与することが可能であるように単位投与量形態で存在し、当業者によく知られている何れかの方法で製造され得る。好ましくは、該単位投与量形態は、3ないし25mL、より好ましくは5ないし20mL、さらにより好ましくは、6ないし15mLの範囲である。
【0064】
以下の実施例は、当業者に、本発明の十分に明確かつ完全な説明を提供するために記載されるが、本明細書の上記に記載の、その主題の重要な局面を限定するものと理解されるべきではない。
【実施例】
【0065】
実施例
実施例1−1週間のストレス安定性試験
異なる甘味剤(表1)と組み合わせたリンゴ酸アルモトリプタンの水性液体組成物の物理的および化学的安定性を、50℃で1週間、安定性試験スクリーニング試験を用いて評価した。
各組成物の製造のために、17.5mgのアルモトリプタン D,L 水素マレートを量りとり、10mLの管状琥珀色バイアル中、純水に溶解した。該混合物に、甘味剤または甘味剤の混合物を添加した。均質化後、該組成物を50℃で1週間貯蔵した。
次いで、アルモトリプタン酸化不純物の存在を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定した。結果を表1に示す。
【0066】
酸化不純物の全量は、できるだけ低く、好ましくは、アルモトリプタンの量に対して0.1重量%よりも低くなければならない。さらに、個々の不純物(不純物1および不純物2)の量は、可能な限り低くなければならない。
【0067】
組成物1および2は、本発明の組成物であって、組成物C1−C5は、比較実験の組成物である。
【0068】
【表1】

【0069】
実験結果から、本発明の水性液体医薬組成物(組成物1および2)が、トリプタン化合物、特にアルモトリプタンの酸化に対して改善された化学的安定性を提供することが結論づけられる。さらに、組成物C1−C5は、1週間の安定性試験後に褐色となった。
【0070】
特に良好な結果が、キシリトール含有量が水性液体医薬品組成物の全量の50重量%(組成物2)であるときに得られた。
【0071】
さらに、組成物1および2の微生物安定性を調べた。該溶液、とりわけ組成物2は、固有の貯蔵特性を有しており、故に、微生物汚染を防止するために防腐剤が必要ない。
【0072】
キシリトールが、トリプタン、特にアルモトリプタンの安定性を改善することに有効であることが、本発明で見いだされている。発明の好ましい組成物は、50℃で1週間貯蔵したとき、トリプタンの量に対して、酸化不純物の全量が0.1重量%未満である(高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により決定される通り)組成物である。
【0073】
実施例2−6ヶ月の加速安定性試験
以下の組成の組成物3(9.5g)を製造し、スティックパックに入れる(ポリエステル 12μm−Al 9μm−ポリエチレン 50μm)。
−アルモトリプタン D,L 水素マレート 17.5mg
−キシリトール 4750mg
−香味剤 適当量
−純水 100%までの量
【0074】
組成物の製造のために、17.5mgのアルモトリプタン D,L 水素マレートを量りとり、純水に溶解した。該混合物に、甘味剤または甘味剤の混合物を添加した。均質化後、キシリトールを添加した。最後に、均質化後、該組成物を、40℃および75%RHで6ヶ月貯蔵した。
次いで、アルモトリプタン酸化不純物の存在を、HPLCにより測定した。結果を表2に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
実験結果から、本発明の水性液体医薬組成物(組成物3)が、長期貯蔵条件でさえ、トリプタン化合物の酸化に対して良好な化学的安定性を提供することが結論づけられ得る。
【0077】
該組成物の微生物安定性および感覚刺激特性も、明細書に記載の通りに調べた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1種のトリプタン化合物、またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物、ならびにb)キシリトールを含む、水性液体医薬組成物。
【請求項2】
トリプタン化合物が、スマトリプタン、ナラトリプタン、ゾルミトリプタン、リザトリプタン、アルモトリプタン、エレトリプタン、フロバトリプタン、それらの薬学的に許容される塩もしくは水和物、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
トリプタン化合物が、アルモトリプタン、その薬学的に許容される塩もしくは水和物である、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
a)トリプタン化合物の全量が、組成物の全重量の0.01ないし1重量%の範囲である、請求項1ないし3のいずれか一項記載の組成物。
【請求項5】
a)トリプタン化合物の全量が、組成物の全重量の0.05ないし0.5重量%の範囲である、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
b)キシリトールの全量が、組成物の全重量の10ないし60重量%の範囲である、請求項1ないし5のいずれか一項記載の組成物。
【請求項7】
b)キシリトールの全量が、組成物の全重量の25ないし55重量%の範囲である、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
組成物の全重量の、
i)0.05ないし0.5重量%のa)少なくとも1種のトリプタン化合物、
ii)25ないし55重量%のb)キシリトール、
iii)全重量を100重量%とする量の水
を含む、請求項1ないし7のいずれか一項記載の組成物。
【請求項9】
組成物の全重量の、
i)0.05ないし0.5重量%のアルモトリプタン、その薬学的に許容される塩もしくは水和物、
ii)25ないし55重量%のb)キシリトール、
iii)全重量を100重量%とする量の水
を含む、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
c)香味剤をさらに含む、請求項1ないし9のいずれか一項記載の組成物。
【請求項11】
組成物が、3.0ないし7.0の範囲のpH値を有する、請求項1ないし10のいずれか一項記載の組成物。
【請求項12】
a.一定量の少なくとも1種のトリプタン化合物、その薬学的に許容される塩もしくは水和物を、水または基本的に水からなる溶液に溶解し、水性液体トリプタン組成物を形成し、そして
b.キシリトールを該水性液体トリプタン組成物と、ならびに所望により香味剤と合わせて、水性液体医薬組成物を形成する工程
を含む、請求項1ないし11のいずれか一項記載の組成物の製造方法。
【請求項13】
偏頭痛および/または群発頭痛の処置または予防に用いるための、請求項1ないし11のいずれか一項記載の組成物。
【請求項14】
偏頭痛および/または群発頭痛の処置または予防のための医薬の製造のための、請求項1ないし11のいずれか一項記載の組成物の使用。
【請求項15】
有効量の請求項1ないし11のいずれか一項記載の組成物を対象に投与することを含む、偏頭痛および/または群発頭痛を有する対象の処置方法。
【請求項16】
トリプタンの安定性を改善するためのキシリトールの使用。

【公表番号】特表2012−513423(P2012−513423A)
【公表日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542703(P2011−542703)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【国際出願番号】PCT/EP2009/008969
【国際公開番号】WO2010/072353
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(598032139)アルミラル・ソシエダッド・アノニマ (69)
【氏名又は名称原語表記】Almirall, S.A.
【Fターム(参考)】