説明

トルクリミッタ部品用樹脂組成物、それからなるトルクリミッタ部品

【課題】本発明は、熱伝導性、寸法安定性、真円性、冷熱サイクル特性に優れ、かつ、実使用条件における磁力安定性に優れたトルクリミッタ部品用樹脂組成物およびそれからなるトルクリミッタ部品を得る。
【解決手段】熱可塑性樹脂とフィラーの合計量を100重量%として(A)熱可塑性樹脂5〜50重量%および(B)フィラー95〜50重量%を含有してなり、レーザーフラッシュ法で測定した熱伝導率が1W/mK以上であることを特徴とするトルクリミッタ部品用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性、寸法安定性、真円性、冷熱サイクル特性に優れ、かつ、実使用条件における磁力安定性に優れたトルクリミッタ部品用樹脂組成物およびそれから得られるトルクリミッタ部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで樹脂化が困難とされていた分野への用途開拓も盛んに試みられ、樹脂に対する要求性能は、益々多様化すると共に厳しくなる傾向にある。近年、特に目立つのが、従来板金、アルミダイキャスト、セラミックスが用いられていたOA用途において軽量化、生産性向上によるコスト低減のための樹脂化の検討をすすめる傾向である。例えば、トルクリミッタ部品はプリンタや複写機をはじめとしたOA機器の紙送りの給紙、搬送、排出の部分で使用されており、バネ式と磁気式の2つに大別される。近年、複写機の高速化に伴って、トルクリミッタ部品の高速対応化、長寿命化などが求められている。トルクリミッタ部品を構成しているケース部材として、例えばポリブチレンテレフタレートにガラス繊維を充填したような樹脂組成物を使用しているが、ヒステリシストルクによる磁石からの発熱が起こると、一般的な熱可塑性樹脂は低熱伝導性のためにケース内部に熱がこもり磁力低下の問題があり、高速化によってさらに発熱が大きくなり、磁力安定性が低下する問題がある。また、使用環境によっては、低温環境下で使用する場合があり、ヒステリシストルクによる磁石からの発熱で、急激に温度上昇し、周囲との温度差による寸法変化でケースの破損が起こる可能性があり、特にケースのウエルド部分(樹脂の会合部)が割れやすいことから冷熱サイクル処理後の耐久性の問題もあり、、さらに、使用時に磁石とケース部材が接触して削れるなどの問題などから、これらを改良する方法としていくつか提案されている。
【0003】
例えば、磁石と接触する内側ケース部材にアルミ系金属材料を使用し、外側ケース部材に熱可塑性樹脂を使用するといった二重構造にする方法(特許文献1参照)、ケース部材にオレフィン系ゴムなどの無定形樹脂を使用し、磁石とケース部材との接着性を改良する方法(特許文献2参照)、ゴムなどの弾性部材を磁石のまわりに挿入し弾性力によるトルクを付加する方法(特許文献3参照)などが提案されている。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1は内側に金属を使用することで確かに磁石の熱をとることが可能となるが、外側の樹脂との線膨張率差により界面剥離や割れが生じ、また複合部品のため生産性も十分とはいえない。また、特許文献2または3は、磁石とケースとの密着性は改良されるが熱伝導性が十分ではないため、トルク低下が大きくなる傾向にあり、実用上満足できるものではなかった。
【特許文献1】特開平06−221341号公報(第1〜2項、実施例)
【特許文献2】特開2001−178109号公報(第1〜2項、実施例)
【特許文献3】特開2004−156639号公報(第1〜2項、実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した従来の問題点を解消し、熱可塑性樹脂の特徴である製品設計自由度および生産性を保持しつつ、熱伝導性、寸法安定性、真円性、冷熱サイクル特性に優れ、かつ、実使用条件下における磁力安定性に優れたトルクリミッタ部品用樹脂組成物およびそれから得られるトルクリミッタ部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記問題点を解決するために鋭意検討を重ねた結果、本発明に至った。
【0007】
すなわち本発明は、
(1)熱可塑性樹脂とフィラーの合計量を100重量%として(A)熱可塑性樹脂5〜50重量%および(B)フィラー95〜50重量%を含有してなり、レーザーフラッシュ法で測定した熱伝導率が1W/mK以上であることを特徴とするトルクリミッタ部品用樹脂組成物、
(2)(B)フィラーの少なくとも一部あるいは全部が熱伝導率が20W/mK以上の熱伝導性フィラーであることを特徴とする(1)記載のトルクリミッタ部品用樹脂組成物、
(3)(B)フィラーが、繊維状フィラーと非繊維状フィラーを配合比4/6〜1/9(重量比)で併用することを(1)または(2)記載のトルクリミッタ部品用樹脂組成物、
(4)(A)熱可塑性樹脂がポリアミド、非液晶性ポリエステル、液晶ポリマーおよびポリアリーレンスルフィドから選ばれた少なくとも1種である(1)〜(3)記載のトルクリミッタ部品用樹脂組成物、
(5)ASTM D−696に準拠して測定した線膨張係数が2×10−51/℃以下であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか記載のトルクリミッタ部品用樹脂組成物、および
(6)(1)〜(5)のいずれか記載のトルクリミッタ部品用樹脂組成物からなる部品であって、該部品が磁気式であることを特徴とするトルクリミッタ部品、である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のトルクリミッタ部品用樹脂組成物は、従来の材料では得られなかった熱伝導性、寸法安定性、真円性および冷熱サイクル特性が均衡して優れ、かつ実使用条件下における磁力安定性に優れることから、得られたトルクリミッタ部品は極めて実用的に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。なお本発明において「重量」とは「質量」を意味する。
【0010】
本発明において(A)熱可塑性樹脂は、溶融成形加工できる合成樹脂のことである。
【0011】
その具体例としては、例えば、非液晶性半芳香族ポリエステル、非液晶性全芳香族ポリエステルなどの非液晶性ポリエステル、液晶ポリマー(液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミドなど)、ポリカーボネート、脂肪族ポリアミド、脂肪族−芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミドなどのポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリベンズイミダゾール、ポリケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、変性ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、フェノキシ、ポリアリーレンスルフィド、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのオレフィン系重合体、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1−ブテン共重合体、エチレン/プロピレン/非共役ジエン共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/酢酸ビニル/メタクリル酸グリシジル共重合体およびエチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体などのオレフィン系共重合体、ABS、AS、ポリスチレンなどのスチレン系共重合体、メタクリル樹脂、ポリエステルエーテルエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー等のエラストマーから選ばれる1種または2種以上の混合物が挙げられる(“/”は共重合を表す。以下同じ)。
【0012】
上述した熱可塑性樹脂のうち機械的性質、成形性などの点から非液晶性ポリエステル、ポリアミド、液晶性ポリエステル等の液晶ポリマー、ポリカーボネート、ポリアリーレンスルフィド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS、変性ポリフェニレンエーテル、フェノキシから選ばれる1種または2種以上の混合物が好ましく用いられ、なかでもポリアミド、非液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステル等の液晶ポリマー、ポリアリーレンスルフィドが好ましく用いられ、特に液晶ポリマー、ポリアリーレンスルフィドが好ましく用いられる。
【0013】
さらに非液晶性ポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレートおよびポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレートなどのほか、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレートおよびポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート/イソフタレートなどの共重合ポリエステル等が挙げられる。上記のうち機械的性質、成形性などの点からポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートおよびポリエチレンテレフタレートなどを好ましく用いることができ、なかでもポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0014】
また、ポリアミドの具体例としては、例えば環状ラクタムの開環重合物、アミノカルボン酸の重縮合物、ジカルボン酸とジアミンとの重縮合物などが挙げられ、具体的にはナイロン6、ナイロン4・6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン6・12、ナイロン11、ナイロン12などの脂肪族ポリアミド、ポリ(メタキシレンアジパミド)、ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリノナンメチレンテレフタルアミド、ポリ(テトラメチレンイソフタルアミド)、ポリ(メチルペンタメチレンテレフタルアミド)などの脂肪族−芳香族ポリアミド、およびこれらの共重合体が挙げられ、共重合体として例えばナイロン6/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン6・6/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン6/ナイロン6・6/ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン6/ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン12/ポリ(ヘキサメチレンテレフタラミド)、ポリ(メチルペンタメチレンテレフタルアミド)/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)などを挙げることができる。なお、共重合の形態としてはランダム、ブロックいずれでもよいが、ランダムが好ましい。上述したポリアミド樹脂のうち機械的性質、成形性などの点からナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン12、ナイロン4・6、ポリノナンメチレンテレフタルアミド、ナイロン6/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン6・6/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン6/ナイロン6・6/ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン6/ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン12/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ナイロン6/ナイロン6・6/ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリ(メチルペンタメチレンテレフタルアミド)/ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)などのポリアミドを好ましく用いることができ、なかでもナイロン6が好ましい。
【0015】
また、液晶ポリマーとは、異方性溶融相を形成し得る樹脂であり、エステル結合を有するものが好ましい。例えば芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族および/または脂肪族ジカルボニル単位、アルキレンジオキシ単位などから選ばれた構造単位からなり、かつ異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステル樹脂、あるいは、上記構造単位と芳香族イミノカルボニル単位、芳香族ジイミノ単位、芳香族イミノオキシ単位などから選ばれた構造単位からなり、かつ異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルアミドなどが挙げられ、具体的には、p−ヒドロキシ安息香酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物および/または脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸および/またはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、テレフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、テレフタル酸およびイソフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸および/またはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボンから生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステルなど、また液晶性ポリエステルアミド樹脂としては、芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族および/または脂肪族ジカルボニル単位、アルキレンジオキシ単位などから選ばれた構造単位以外にさらにp−アミノフェノールから生成したp−イミノフェノキシ単位を含有した異方性溶融相を形成するポリエステルアミドである。
【0016】
さらにポリアリーレンスルフィドの代表例としては、ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略す場合もある)、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられ、中でもポリフェニレンスルフィドが特に好ましく使用される。かかるポリフェニレンスルフィドは、下記一般式(I)で示される繰り返し単位を好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上含む重合体であり、上記繰り返し単位が70モル%以上の場合には、耐熱性が優れる点で好ましい。
【0017】
【化1】

【0018】
また、かかるポリフェニレンスルフィド樹脂は、その繰り返し単位の30モル%以下を、下記の構造式を有する繰り返し単位などで構成することが可能であり、ランダム共重合体、ブロック共重合体であってもよく、それらの混合物であってもよい。
【0019】
【化2】

【0020】
かかるポリアリーレンスルフィドは、通常公知の方法、つまり特公昭45−3368号公報に記載される比較的分子量の小さな重合体を得る方法あるいは特公昭52−12240号公報や特開昭61−7332号公報に記載される比較的分子量の大きな重合体を得る方法などによって製造することができる。
【0021】
本発明においては、上記のようにして得られたポリアリーレンスルフィドを、空気中加熱による架橋/高分子量化、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下での熱処理、有機溶媒、熱水、酸水溶液などによる洗浄、酸無水物、アミン、イソシアネート、官能基含有ジスルフィド化合物などの官能基含有化合物による活性化などの種々の処理を施した上で使用することも、もちろん可能である。
【0022】
ポリアリーレンスルフィド樹脂を加熱により架橋/高分子量化する場合の具体的方法としては、空気、酸素などの酸化性ガス雰囲気下あるいは前記酸化性ガスと窒素、アルゴンなどの不活性ガスとの混合ガス雰囲気下で、加熱容器中で所定の温度において希望する溶融粘度が得られるまで加熱を行う方法を例示することができる。この場合の加熱処理温度としては、好ましくは150〜280℃、より好ましくは200〜270℃の範囲が選択して使用され、処理時間としては、好ましくは0.5〜100時間、より好ましくは2〜50時間の範囲が選択されるが、この両者をコントロールすることによって、目標とする粘度レベルを得ることができる。かかる加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よくしかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0023】
ポリアリーレンスルフィド樹脂を窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下で熱処理する場合の具体的方法としては、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧(好ましくは7,000Nm−2以下)下で、加熱処理温度150〜280℃、好ましくは200〜270℃、加熱時間0.5〜100時間、好ましくは2〜50時間の条件で加熱処理する方法を例示することができる。かかる加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よくしかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0024】
ポリアリーレンスルフィドを有機溶媒で洗浄する場合に、洗浄に用いる有機溶媒としては、ポリアリーレンスルフィド樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく使用することができる。例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホンなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒、およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが使用される。これらの有機溶媒のなかでも、特にN−メチルピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどが好ましく使用される。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
【0025】
かかる有機溶媒による洗浄の具体的方法としては、有機溶媒中にポリアリーレンスルフィドを浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒でポリアリーレンスルフィドを洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなるほど洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分な効果が得られる。なお、有機溶媒洗浄を施されたポリアリーレンスルフィドは、残留している有機溶媒を除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。上記水洗浄の温度は50〜90℃であることが好ましく、60〜80℃であることが好ましい。
【0026】
ポリアリーレンスルフィドを熱水で処理する場合の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。すなわち、熱水洗浄によるポリアリーレンスルフィドの好ましい化学的変性の効果を発現するために、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作は、通常、所定量の水に所定量のポリアリーレンスルフィドを投入し、常圧であるいは圧力容器内で加熱、撹拌することにより行われる。ポリアリーレンスルフィドと水との割合は、水の多い方がよく、好ましくは水1リットルに対し、ポリアリーレンスルフィド200g以下の浴比で使用される。
【0027】
ポリアリーレンスルフィドを酸処理する場合の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。すなわち、酸または酸の水溶液にポリアリーレンスルフィドを浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。用いられる酸としては、ポリアリーレンスルフィドを分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの脂肪族飽和モノカルボン酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸などのハロ置換脂肪族飽和カルボン酸、アクリル酸、クロトン酸などの脂肪族不飽和モノカルボン酸、安息香酸、サリチル酸などの芳香族カルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸などのジカルボン酸、および硫酸、リン酸、塩酸、炭酸、珪酸などの無機酸性化合物などが用いられる。これらの酸のなかでも、特に酢酸、塩酸がより好ましく用いられる。酸処理を施されたポリアリーレンスルフィドは、残留している酸または塩などを除去するため、水で数回洗浄することが好ましい。上記水洗浄の温度は50〜90℃であることが好ましく、60〜80℃であることが好ましい。また、洗浄に用いる水は、酸処理によるポリアリーレンスルフィドの好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水または脱イオン水であることが好ましい。
【0028】
本発明で用いられるポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量は、フィラー高充填化を可能とするためにポリスチレン換算における重量平均分子量が50000以下であることが好ましく、40000以下がより好ましく、25000以下であることが特に好ましい。重量平均分子量の下限については特に制限はないが、滞留安定性等を考慮した場合、1500以上であることが好ましい。
【0029】
ここで重量平均分子量はGPCにより測定し、ポリスチレン換算で求めた値である。また溶融粘度の異なる2種以上のポリアリーレンスルフィドを併用して用いてもよい。
【0030】
本発明に用いる(B)フィラーとしては、本発明で規定する熱伝導率を有する組成物を与え得るフィラーが選択される。フィラー形状としては繊維状もしくは、非繊維状(板状、鱗片状、粒状、不定形状、破砕品など)のフィラーが挙げられ、具体的には例えば、繊維状フィラーとしてガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ほう酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー等が挙げられ、ガラス繊維あるいは炭素繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものなら特に限定はなく、例えば長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができる。また、上記フィラーはエチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。
【0031】
また、上記金属繊維の金属種の具体例としては、鉄、銅、ステンレス、アルミニウムおよび黄銅などを例示することができる。
【0032】
非繊維状フィラーとしてマイカ、タルク、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属酸化物(アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン等)、カーボン粉末、黒鉛、カーボンフレーク、鱗片状カーボン、カーボンナノチューブなどが挙げられる。また、金属粉、金属フレーク、金属リボンの金属種の具体例としては銀、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、ステンレス、鉄、黄銅、クロム、錫などが例示できる。
【0033】
ここで、上記金属粉、金属フレークおよび金属リボンの金属種の具体例としては、銀、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、ステンレス、鉄、黄銅、クロムおよび錫など、金属酸化物の具体例としては、SnO(アンチモンドープ)、In(アンチモンドープ)およびZnO(アルミニウムドープ)など、窒化物の具体例としては、AlN(窒化アルミニウム)、BN(窒化ホウ素)、Si(窒化珪素)などを例示することができる。
【0034】
本発明において、熱可塑性樹脂との親和性向上により高熱伝導性、真円性などの特性を高効率に発揮させるために、非繊維状フィラーをイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で表面処理することが好ましく、なかでも、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基の中から選ばれた少なくとも1種の官能基を有するアルコキシシラン化合物で表面処理することが好ましい。具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、6−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリクロロシランなどのイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物などが例示できる。
【0035】
上記有機シラン系化合物を非繊維状フィラーの表面処理剤として添加する添加量は、熱伝導性、真円性などの特性の高発現性およびハンドリング性の観点から、フィラー100重量部に対し2〜3重量部が好ましく、0.1〜1重量部がより好ましい。
【0036】
なかでも、本発明で規定する熱伝導率を有するトルクリミッタ部品用樹脂組成物を得るためには、熱伝導率が20W/mK以上の熱伝導性フィラーを(B)成分の少なくとも一部または全部として用いることが好ましい。
【0037】
成形品としたときの熱伝導率を1W/mKとするためには熱伝導率が20W/mK以上の熱伝導性フィラーが(B)成分100重量%に対して30重量%以上とするのが好ましく、さらに好ましくは60重量%以上である。
【0038】
このような熱伝導性フィラーの具体例としては金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属繊維、ベリリア、アルミナ、酸化亜鉛、酸化マグネシウムなどの金属酸化物、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素などの窒化物、熱伝導性物質で被覆された無機フィラー、カーボン粉末、黒鉛、ピッチ系炭素繊維、あるいは黒鉛化度の比較的高いPAN系炭素繊維、鱗片状カーボンおよびカーボンナノチューブなどが挙げられる。なお、フィラーの熱伝導率は、原則レーザーフラッシュ法で測定した値であるが、フィラーが炭素系の材料である場合など、レーザーフラッシュ法により直接測定できない場合には、測定が可能な方法で間接的に測定し、レーザーフラッシュ法に換算した値を使用する。例えばエポキシ系熱硬化性樹脂でフィラーを固めたサンプルを用いて光交流法により熱伝導率を測定して作成したフィラー充填量と熱伝導率の関係を示す検量線よりフィラー100容量%の場合の熱伝導率を算出し、レーザーフラッシュ法の数値に換算した値を使用することができる。さらにかかる方法による測定も適さない場合には、エポキシ系熱硬化性樹脂でフィラー(同様の質を有し、測定可能な形態を有するフィラー)を固めた疑似サンプルを用いて広角X線により測定した黒鉛層間距離(d002)と結晶子径(Lc)から求めたX線パラメータと、レーザーフラッシュ法による熱伝導率から検量線を予め求めておき、広角X線により測定した測定サンプルのd002とLcから、上記検量線を用いてレーザーフラッシュ法の熱伝導率に換算した値などを使用することができる。
【0039】
上記熱伝導性物質で被覆された無機フィラーにおける熱伝導性物質の具体例としては、アルミニウム、ニッケル、銀、カーボン、SnO(アンチモンドープ)およびIn(アンチモンドープ)などを例示することができる。また、被覆される無機フィラーとしては、マイカ、ガラスビーズ、ガラス繊維、炭素繊維、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、および炭化珪素ウィスカーなどを例示することができる。被覆方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、無電解メッキ法および焼き付け法などが挙げられる。そして、これらの熱伝導性物質で被覆された無機フィラーもまた、チタネート系、アルミネート系およびシラン系などの表面処理剤で表面処理を施されていてもよい。
【0040】
本発明においては前記熱伝導性フィラーの中でもトルクリミッタ部品用樹脂組成物の熱伝導性、真円性および軽量性の高位でのバランス化を図る上で、アルミナ、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素、カーボン粉末、黒鉛、PAN系あるいはピッチ系の炭素繊維、カーボンフレーク、鱗片状カーボンおよびカーボンナノチューブなどを用いることが好ましい。
【0041】
さらに本発明においてはさらに剛性を付与するために、用いるフィラーの少なくとも一種に繊維状を用いることが好ましい。例えばPAN系あるいはピッチ系の炭素繊維とグラファイト、アルミナ、カーボンフレーク等の非繊維状の熱伝導性フィラーを組み合わせることが好ましく、なかでも強度が必要な場合、PAN系炭素繊維とグラファイトあるいはピッチ系炭素繊維とアルミナ、高熱伝導率が必要な場合、ピッチ系炭素繊維とグラファイトを組み合わせて用いることが好ましい。
【0042】
また、本発明において冷熱サイクル特性を向上させるために繊維状フィラーと非繊維状フィラーの配合比率を制御することが好ましく、具体的には(B)フィラー中の繊維状フィラーと非繊維状フィラーの配合比が4/6〜1/9(重量比)であることが好ましく、繊維状フィラーと非繊維状フィラーの配合比が3/7〜1/9(重量比)であることがより好ましい。
【0043】
本発明において繊維状フィラーと非繊維状フィラーの配合比を制御することで冷熱サイクル特性が飛躍的に向上する理由については、繊維状フィラーによるアンカー効果と非繊維状フィラーによる歪み緩和効果が高位でバランス化しているためと推定している。
【0044】
尚、組成物中の繊維状フィラーと非繊維状フィラーを区別する方法として、形状が繊維状(ウィスカー状のものも含む)で繊維長/繊維径比が3以上のものを繊維状フィラーとし、それ以外のものは非繊維状フィラーと定義する。
【0045】
具体的に繊維状フィラーと非繊維状フィラーを区別する方法として、まず、樹脂組成物約5gを灰化させた後、残存したフィラーの内から100mgを採取し、界面活性剤100cc中に分散させ、その分散液をスポイトでスライドガラス上に1〜2滴置き、走査電子顕微鏡(HORIBA製)により観察、写真撮影する。ついで、フィラーの繊維長と繊維径を測定し、繊維長/繊維径比3以上の繊維状フィラーとそれ以外の非繊維状フィラーを各々1000本カウントし、繊維状フィラーと非繊維状フィラーの存在割合を算出する。
【0046】
炭素繊維の繊維長、繊維径を測定する際には灰化条件を誤ると繊維そのものが酸化、燃焼してしまう場合があるので注意が必要であり、窒素雰囲気下で灰化することが望ましい。また、用いる熱可塑性樹脂が可溶の場合には、溶媒を用いて組成物を溶かし繊維状フィラーを取り出して繊維長、繊維径を測定することもできる。
【0047】
本発明においてフィラーの添加量は、本発明で規定する熱伝導率を満たす限り特に制限はなく、また用いるフィラーの種類によっても異なるが、用いるフィラーの特性を発揮し、かつ溶融加工性とのバランスの点から、熱可塑性樹脂(A)とフィラー(B)の合計量100重量%に対し、熱可塑性樹脂(A)5〜50重量%、フィラー(B)95〜50重量%であり、熱可塑性樹脂(A)10〜40重量%、フィラー(B)90〜60重量%であることが好ましく、熱可塑性樹脂(A)15〜25重量%、フィラー(B)85〜75重量%であることがより好ましい。
【0048】
また、本発明には、フィラー界面の接合性および加工時の流動改良性付与の観点から、以下の(C)脂肪酸金属塩、エステル系化合物、アミド基含有化合物、エポキシ系化合物、リン酸エステルのいずれか一種以上の添加剤を添加することが好ましく、添加量は、(A)熱可塑性樹脂と(B)フィラーの合計量100重量部に対し、通常0〜10重量部、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.3〜8重量部、さらに好ましくは0.3〜6重量部の範囲が選択される。
【0049】
(C)添加剤の添加量を10重量部以下とすることで、添加剤が得られた成形品表面にブリードアウトしてくることもなく、熱可塑性樹脂とフィラー界面の剥離を引き起こしたり、機械物性が低下するといった問題がおきることがない。
【0050】
このような添加剤(C)の具体例としては、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸マグネシウム、モンタン酸カリウム、モンタン酸リチウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸バリウム、モンタン酸アルミニウムなどの脂肪酸金属塩、およびその誘導体、ステアリン酸メチル、ステアリン酸ステアレートなどの、ステアリン酸エステル、ミリスチン酸ミリスチルなどのミリスチン酸エステル、モンタン酸エステル、メタクリル酸ベヘニルなどのメタクリル酸エステル、ペンタエリスリトールモノステアレート、2−エチルヘキサン酸セチル、ヤシ脂肪酸メチル、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸2−エチルヘキシル、ステアリン酸イソトリデシル、カプリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、オレイン酸メチル、オレイン酸オクチル、オレイン酸ラウリル、オレイン酸オレイル、オレイン酸2−エチルヘキシル、オレイン酸デシル、オレイン酸オクチドデシル、オレイン酸イソブチルなどの脂肪酸の一価アルコールエステルおよびその誘導体、フタル酸ジステアリル、トリメリット酸ジステアリル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジオレイル、アジピン酸エステル、フタル酸ジトリデシル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジブチルグリコール、フタル酸2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジデシル、トリメリット酸トリ2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリイソデシルなどの多塩基酸の脂肪酸エステル、ステアリン酸モノグリセライド、パルミチン酸・ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノ・ジグリセライド、ステアリン酸・オレイン酸・モノ・ジグリセライド、ベヘニン酸モノグリセライドなどのグリセリンの脂肪酸エステルおよびそれらの誘導体、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリプロピレングリコールモノステアレート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタントリオレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンセキスオレート、ソルビタンモノラウレート、ポリオキシメチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシメチレンソルビタンモノパルミネート、ポリオキシメチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシメチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシメチレンソルビタンテトラオレート、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノオレート、ポリオキシエチレンビスフェノールAラウリン酸エステル、ペンタエリスリトール、ペンタエリスリトールモノオレート等の多価アルコールの脂肪酸エステル、およびそれらの誘導体、エチレンビスステアリルアミド、エチレンビスオレイルアミド、ステアリルエルカミド、エチレンビスオクタミド、エチレンビスデカナミド、およびその混合物などのアミド基含有化合物、ノボラックフェニール型、ビスフェノール型単官能および多官能エポキシ系化合物、トリフェニルホスフェートなどの芳香族リン酸エステル、芳香族縮合リン酸エステルなどのリン酸エステルが挙げられる。
【0051】
本発明におけるトルクリミッタ部品用樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤及び滑剤、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、着色用カーボンブラック等)、染料(ニグロシン等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤、他の重合体を添加することができる。
【0052】
本発明のトルクリミッタ部品用樹脂組成物は、通常公知の方法で製造される。例えば、(A)成分、(B)成分中および、(C)成分などのその他の必要な添加剤を予備混合して、またはせずに押出機などに供給して十分溶融混練することにより調製される。また、(B)フィラーを添加する場合、特に繊維状フィラーの繊維の折損を抑制するために好ましくは、(A)成分およびその他必要な添加剤を押出機の元から投入し、(B)および(C)成分をサイドフィーダーを用いて、押出機へ供給することにより調整される。
【0053】
樹脂組成物を製造するに際し、例えば“ユニメルト”(R)タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸、三軸押出機およびニーダタイプの混練機などを用いて180〜350℃で溶融混練して組成物とすることができる。
【0054】
また、(B)フィラーを多量に添加する場合、例えば添加量が(A)と(B)の合計量100重量%に対して60重量%を越える(B)フィラーを添加するフィラー高充填樹脂組成物を得る方法として、例えば、特開平8−1663号公報の如く、押出機のヘッド部分をはずして押し出し、粗粉砕、均一ブレンド化する方法、あるいは、原料を圧縮成形して錠剤化する方法が挙げられる。特に原料を圧縮成形して錠剤化する方法が、得られた組成物の品質安定性の点から好ましい。
【0055】
本発明において錠剤は、粉末状の原料を含む原料を固相状態で押し固めた粒状物をいうが、かかる錠剤は、粉末状の原料を含む原料を固相状態で圧縮成形することにより得ることができる。なお、上記において固相状態とは、原料に含まれる熱可塑性樹脂成分が溶融していない状態であることを意味する。圧縮成形には、打錠機(ロータリー、単発式、2連式、3連式)あるいはブリケットマシンなどの圧縮ロールを有する成形機を用いることが好ましい。
【0056】
錠剤化の具体的な手法としては、たとえば熱可塑性樹脂粉末およびフィラーをバンバリーミキサー、ニーダー、ロール、単軸もしくは二軸の押出機などを用い、固相状態で均一ブレンドし、打錠機あるいは圧縮ロールを有する成形機により錠剤(タブレット)化することにより得ることができる。また、熱可塑性の樹脂原料とフィラーとをバンバリーミキサー、ニーダー、ロールを用いて予めドライブレンドし、もしくはドライブレンドしないで、単軸もしくは二軸の押出機などを用い、一度溶融混練し、冷却粉砕して粉末状としたのち、打錠機あるいは圧縮ロールを有する成形機により錠剤(タブレット)化することも可能である。この場合、溶融混練に供する熱可塑性の樹脂成分としては、溶融混練が可能であれば、粉末状でもペレット状でも特に制限はないが、フィラーの分散不良による特性のバラツキを低減する点から粉末状あるいは粉砕品であることが好ましい。また、単軸もしくは2軸押出機を用いて、予め溶融混練した組成物を粉末状とする場合、フィラーの使用量が多いと、流動性が悪化するため、ダイからの押出ができずペレット化が困難になる場合があるが、その場合には、特開平8−1663号公報に記載の如く、押出機のヘッド部を開放した状態で混練・押出すことも可能である。フィラーが多量である場合、フレーク状の組成物が得られることもある。本発明においてはこれらの方法で予め溶融混練して得られたペレットもしくはフレーク状の組成物を必要により、冷却粉砕して粉末状とした後、錠剤化する。また、これらの方法を組み合わせて錠剤化することも可能である。すなわち、下記(イ)〜(ニ)から選択される原料を所望の含有量となるよう調整し、錠剤化することも可能である。
(イ)熱可塑性樹脂
(ロ)フィラー
(ハ)(C)脂肪酸金属塩、エステル系化合物、アミド基含有化合物、エポキシ系化合物、リン酸エステルのいずれか1種以上
(ニ)(A)〜(C)成分から選択される2種以上であって、(A)成分を必須とする成分を溶融混練してなる組成物、好ましくはその塊状物および粉体
上記方法のうち、工程が簡素である点で、上記(イ)、(ロ)の原料および必要に応じて(ハ)の原料を固相状態で均一ブレンドした混合物を打錠機あるいは圧縮ロールを有する成形機により錠剤(タブレット)化する方法が好ましい。
【0057】
上記(A)成分の粉末としては、ポリアリーレンサルファイド樹脂など粉末状で入手できるものはそれを使用してもよい。また、ペレットを常温あるいは冷凍粉砕することによっても得ることができる。冷凍粉砕は、ドライアイスあるいは液体窒素等で凍結させた後、一般的に知られている通常のハンマータイプ粉砕機、カッタータイプ粉砕機あるいは石臼型の粉砕機により行うことができる。本発明において用いる熱可塑性の樹脂粉末としては、得られる錠剤間の組成の均一化および得られた錠剤のハンドリング性を良好にする点から、レーザー回折式粒度分布測定法に基づき測定した場合の粒子の最大長径の数平均粒子径が1000μm以下であることが好ましく、800μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることがさらに好ましい。かかる粒径を有する粉末を得るには、粉砕などにより得られた粉体を適宜所望の大きさの篩を用いてふるい分けすればよい。
【0058】
本発明に用いる樹脂組成物の錠剤形状としては、輸送時の形状保持性と成形時の易圧壊性を考慮した場合、例えば、円柱状、楕円柱状、円錐台形状、球状、楕円球状、鶏卵型形状、マセック型、円盤状、キュービック状、角柱状のものが挙げられる。なかでも加工時の計量安定性の点から円柱状、楕円柱状、円錐台形状、球状、楕円球状、鶏卵型形状、マセック型が好ましい。
【0059】
また、錠剤の錠剤サイズとしては、底面15mm直径以下×長さ20mm以下が好ましく、なかでも底面の直径または長さ(高さ)の最大値が15mm未満であることが好ましく、最小値が1mm以上であることが好ましい。なお、底面が円状でないものに関して、最大径、最小径の規定方法としては、外接円の最大直径で特定する場合、その最大直径が15mm未満、1mm以上であることが好ましく、更に好ましくは12mm以下、1.5mm以上であるのがよい。
【0060】
また、輸送時等の形状を安定に保つために、錠剤における打錠面の側面もしくは圧縮ロールでの圧縮面に対し、垂直に圧力をかけた時の圧縮破壊強度値(圧壊強度値)が、好ましくは5〜100N、より好ましくは15〜80Nである。好ましい圧壊強度値を得るための方法としては、例えば、原料組成によるところが最も大きく、エステル系、アミド系、燐系添加剤を添加することにより、あるいは錠剤化工程において、原料供給ポケットに均一に原料を供給する方法、圧縮ロールの回転数を下げ圧縮ロール上での材料への加圧時間を延ばす方法、ホッパー内にフィードスクリューを用い、そのスクリューによりロール圧縮前において効果的な脱気と予備圧縮する方法などにより、高い錠剤密度が得られ、高い圧壊強度が得られる。なお、圧壊強度値の測定は、ロードセルなどの歪ゲージの上に錠剤を置き、その上から圧子を低速(好ましくは0.1〜2.0mm/sec)で降下させ、錠剤の圧縮破壊時に歪ゲージが示す圧力を測定する方法を用い行うことができる。
【0061】
かかる方法を用いることにより、フィラーを高充填した樹脂組成物を得ることが可能となる。
【0062】
本発明のトルクリミッタ部品用樹脂組成物は、トルクリミッタ部品として使用した場合、ヒステリシストルクによる磁石からの発熱によりケース内部に熱がこもり、磁力が低下することを抑制するためにレーザーフラッシュ法で測定した熱伝導率が1W/mK以上であり、好ましくは、2W/mK以上、さらに好ましくは、3W/mK以上である。上限としては生産性を考慮した場合、150W/mK以下であることが好ましい。なお、上記熱伝導率の測定は、本発明の樹脂組成物を溶融成形して得られる50mm長×50mm幅×3mm厚の角形成形品を成形し、この成形品の両表面を深さ0.5mm切削し、レーザーフラッシュ法定数測定装置により測定される熱伝導率である。
【0063】
また、ヒステリシストルクによる磁石からの発熱による急激な寸法変化によってケースの割れ等の不良を抑制する観点から、ASTM D−696に準拠して測定した線膨張係数が2×10−51/℃以下であることが好ましく、1.5×10−51/℃以下がより好ましく、1×10−51/℃以下がさらに好ましい。上限として生産性を考慮した場合、0.1×10−51/℃以下である。なお、上記線膨張係数の測定は、本発明の樹脂組成物を溶融成形して得られる80mm長×80mm幅×2mm厚の試験片を作成し、成形品の中央部を流れ方向に10mm長×1mm幅×2mm厚の角柱成形品を切り出し、TMA(セイコー電子社製)を用い、30℃〜150℃(5℃/分)で測定した。
【0064】
本発明のトルクリミッタ部品用樹脂組成物を成形するにあたっての成形方法は、通常の成形方法(射出成形、プレス成形、インジェクションプレス成形など)により、溶融成形することが可能であるが、なかでも量産性の点から射出成形、インジェクションプレス成形が好ましい。
【0065】
本発明のトルクリミッタ部品用樹脂組成物は、トルクリミッタ部品、特に高熱伝導性、高寸法安定性および真円性が必要とされる磁気式のトルクリミッタ部品等に好適に用いられる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の骨子は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0067】
参考例1 熱可塑性樹脂
PPSの調製
撹拌機および底に弁の付いた20リットルオートクレーブに、47%水硫化ナトリウム(三協化成)2383g(20.0モル)、96%水酸化ナトリウム831g(19.9モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)3960g(40.0モル)、およびイオン交換水3000gを仕込み、常圧で窒素を通じながら225℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水4200gおよびNMP80gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は0.17モルであった。また、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの硫化水素の飛散量は0.021モルであった。
【0068】
次に、p−ジクロロベンゼン(シグマアルドリッチ)2942g(20.0モル)、NMP1515g(15.3モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封した。その後、400rpmで撹拌しながら、200℃から227℃まで0.8℃/分の速度で昇温し、次いで274℃まで0.6℃/分の速度で昇温し、274℃で50分保持した後、282℃まで昇温した。オートクレーブ底部の抜き出しバルブを開放し、窒素で加圧しながら、内容物を撹拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく撹拌して大半のNMPを除去し、ポリフェニレンスルフィド(PPS)と塩類を含む固形物を回収した。
【0069】
得られた固形物およびイオン交換水15120gを撹拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した17280gのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。
【0070】
得られたケークおよびイオン交換水11880gを、撹拌機付きオートクレーブに仕込み、オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持した。その後オートクレーブを冷却して内容物を取り出した。
【0071】
内容物をガラスフィルターで吸引濾過した後、これに70℃のイオン交換水17280gを注ぎ込み吸引濾過してケークを得た。得られたケークを80℃で熱風乾燥し、さらに120℃で24時間で真空乾燥することにより、乾燥PPSを得た。得られたPPSは、ポリスチレン換算の重量平均分子量が20000であった。
【0072】
なお、重量平均分子量は以下の方法で測定した。
ポリマー5mg、1−クロロナフタレン5gをサンプル瓶に計り取り、210℃に設定した高温濾過装置(センシュー科学製SSC−9300)に入れ、5分間(1分間予備加熱、4分間攪拌)加熱した後、高温濾過装置から取り出し、室温になるまで放置し、サンプル調整を行った。ついで以下の測定条件で重量平均分子量を測定した。
・GPC測定条件
装置 : センシュー科学 SSC−7100
カラム名 : センシュー科学 GPC3506×1
溶離液 : 1−クロロナフタレン(1−CN)
検出器 : 示差屈折率検出器
検出器感度 : Range 8
検出器極性 : +
カラム温度 : 210℃
プレ恒温槽温度 : 250℃
ポンプ恒温槽温度 : 50℃
検出器温度 : 210℃
サンプル側流量 : 1.0mL/min
リファレンス側流量 : 1.0mL/min
試料注入量 : 300μL
検量線作成試料 : ポリスチレン。
【0073】
PA6(ナイロン6):CM1001(東レ社製)を液体窒素に浸し、サンプルミル(協立理工社製SK−M型)にて粉砕し、篩にて42メッシュパス、80メッシュオンで分級して数平均粒子径300μmのものを得た。
【0074】
LCP(液晶ポリエステル樹脂):“シベラス”L201E(東レ社製)を液体窒素に浸し、サンプルミル(協立理工社製SK−M型)にて粉砕し、篩にて80メッシュパス、150メッシュオンで分級して数平均粒子径150μmのものを得た。
【0075】
PBT(ポリブチレンテレフタレート):1100S(東レ社製)を液体窒素に浸し、サンプルミル(協立理工社製SK−M型)にて粉砕し、篩にて42メッシュパス、80メッシュオンで分級して数平均粒子径300μmのものを得た。
【0076】
参考例2 フィラー
B−1:炭素繊維(CF)、MLD1000(繊維状フィラー、PAN系、平均繊維長150μm、東レ社製)、熱伝導率3W/mK
熱伝導率は、フィラーをエポキシ系熱硬化性樹脂で固めたサンプルを用い、光交流法により熱伝導率を測定して作成したフィラーを充填量と熱伝導率の関係を示す検量線よりフィラー容量100%の場合の熱伝導率を算出し、レーザーフラッシュ法の数値に換算した値である。
【0077】
B−2:炭素繊維(CF)、XN−100−01Z(繊維状フィラー、ピッチ系、繊維長1000μm、日本グラファイトファイバー社製)、熱伝導率900W/mK
熱伝導率は、フィラーをエポキシ系熱硬化性樹脂で固め、レーザーフラッシュ法により熱伝導率を測定し、また広角X線により測定したd002、Lcから求めたX線パラメータから検量線を求めておき、広角X線により測定した測定サンプルのd002とLcから上記検量線を用いてレーザーフラッシュ法の熱伝導率に換算した値である。
【0078】
B−3:グラファイト(CFW)、CFW50A(鱗片状フィラー、平均粒径50μm、中越黒鉛社製)200W/mK
熱伝導率は、フィラーをエポキシ系熱硬化性樹脂で固めたサンプルを用い、光交流法により熱伝導率を測定し、フィラー充填量と熱伝導率との関係を示す検量線よりフィラー100容量%の場合の熱伝導率を算出し、レーザーフラッシュ法の数値に換算した値である。
【0079】
B−4:B−3のフィラー3000gを、20Lのヘンシェルミキサー(三井鉱山社製)に投入し撹拌しながら、イソプロピルアルコールで希釈した50%の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン溶液60gをスプレーガンで噴霧処理を行った後、100℃の熱風乾燥機にて15分間熱処理を行った。
【0080】
B−5:アルミナ、Al−32B(破砕状アルミナ、平均粒径2μm、表面処理品、住友化学工業社製)26W/mK
表面処理方法としては、上記アルミナ3000gを、20Lのヘンシェルミキサー(三井鉱山社製)に投入し撹拌しながら、イソプロピルアルコールで希釈した50%の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン溶液60gをスプレーガンで噴霧処理を行った後、100℃の熱風乾燥機にて15分間熱処理を行った。
【0081】
また熱伝導率は、フィラーをエポキシ系熱硬化性樹脂で固めたサンプルを用い、光交流法により熱伝導率を測定し、フィラー充填量と熱伝導率との関係を示す検量線よりフィラー100容量%の場合の熱伝導率を算出し、レーザーフラッシュ法の数値に換算した値である。
【0082】
なお、平均粒径はJIS−K0069に基づく篩分け試験法により測定した数平均である。
【0083】
参考例3 添加剤(篩にて42メッシュパスしたものを使用)
C−1:“PX−200”(大八化学工業社製粉末状芳香族縮合リン酸エステル、CAS No.139189−30−3)。
【0084】
実施例1〜5、 比較例1〜7
参考例1の熱可塑性樹脂、参考例2に示したフィラーをリボンブレンダーで表1に示す量でブレンドし、3ホールストランドダイヘッド付きPCM30(2軸押出機;池貝鉄工社製)にて表1に示す樹脂温度で溶融混練を行い、ペレットを得た。ついで130℃の熱風乾燥機で4時間乾燥した後、後述する評価を行った。
【0085】
実施例6〜14
参考例1の熱可塑性樹脂、参考例2に示したフィラーおよび参考例3の添加剤を表1に示す量でヘンシェルミキサーでブレンドし、自動原料供給フィーダーを備えた月島機械社製ロータリー打錠機を用いて常温タブレット化により、6mm直径×3mm長の円柱状のタブレット(錠剤型樹脂組成物)(最大値6mm、最小値3mm)を得た。ついで130℃の熱風乾燥機で3時間乾燥した後、以下に示す評価を行った。
【0086】
(1)熱伝導率
射出成形機UH1000(80t)(日精樹脂工業社製)を用い、表1の樹脂温度、金型温度の温度条件で、50mm長×50mm幅×3mm厚の角形成形品(フィルムゲート)を成形し、この成形品の両表面を深さ0.5mm切削して厚さ2mmの試験片としたものを用いてレーザーフラッシュ法定数測定装置(リガク社製LF/TCM−FA8510B)により熱伝導率を測定した。この値が大きいほど熱伝導性が優れているといえる。
【0087】
(2)線膨張係数
射出成形機UH1000(80t)(日精樹脂工業社製)を用い、表1の樹脂温度、金型温度の温度条件で、80mm長×80mm幅×2mm厚の試験片を作成し、成形品の中央部を流れ方向に10mm長×1mm幅×2mm厚の角柱成形品を切り出し、TMA(セイコー電子社製)を用い、30℃〜150℃(5℃/分)でASTM D−696に準拠して測定した。この値が小さいほど寸法安定性に優れているといえる。
【0088】
(3)真円度
射出成形機UH1000(80t)(日精樹脂工業社製)を用い、外径20mmφ×内径16mmφ×長さ30mmの円筒型成形品を成形し、三次元測定器(ミツトヨ製)により真円度を測定した。真円度は端から10mmの位置の断面の内円および外円を測定することにより代表し、測定点数は24点とした。すなわち実測円上の24点を真円で近似し、その真円からの外側への最大偏差および内側への最大偏差の和を真円度とした。この値が小さいほど真円性が良好であるといえる。
【0089】
(4)冷熱サイクル試験(成形品ウエルド部でのヒートショック性不良数)
射出成形機UH1000(80t)(日精樹脂工業社製)を用い、表1の樹脂温度、金型温度の温度条件で、50mm長×50mm幅×3mm厚角形形状(フィルムゲート)を有する金型内に、20mmφのSUS420の材質でできた金属棒を挿入してインサート成形し、ゲート部から樹脂を流すことで成形品末端部にウエルド部ができる金属棒と一体化した角形成形品を得た。そして、得られた角形成形品を冷熱衝撃器(ESPEC社製TSA−70L)にてヒートサイクル試験を行った。
【0090】
なお、試験条件は、常温(23℃)→5分で降温→−40℃で30分保持→5分で昇温→120℃で30分保持を1サイクルとして1000サイクルの試験を行い、成形品のウエルド部でクラックが発生する不良品個数を測った。
【0091】
(5)耐久試験(表面温度、トルク低下率)
射出成形機UH1000(日精樹脂工業社製)を用いて、表1に示す樹脂温度、金型温度で、図1(図中の数字はサイズ(mm)を示す。以下同様)に示す形状、サイズのトルクリミッタ部品1を得た。まず、図1に示す形状のトルクリミッタ部品1のイ方向から、図2に示す硬質リング2、図3に示すネオジウムボンド磁石3の順に挿入した。さらに、このトルクリミッタ部品1の金属製シャフト挿入軸穴部4に9.5mmφのSUS420の材質でできた金属製シャフトを挿入した後、給紙用摩擦ローラーに組み込み、回転速度2000rpm、試験時間90分の条件で運転し、トルクリミッタ部品1の表面温度およびトルク低下率を測定した。表面温度が低くて、トルク低下率が小さいほど成形品内部に熱がこもらず、磁力安定性に優れているといえる。以下式により、トルク低下率を算出した。
トルク低下率(%)=〔初期(0分)のトルク値−90分後のトルク値〕/(初期のトルク値)×100
【0092】
なお、表面温度は、90分後の表面温度を赤外線温度計(HORIBA製)を
用いて測定した。またトルク値は、デジタルフォースゲージ(モデル:PGD、
丸菱科学機械製作所製)を用いて測定した。
【0093】
【表1】

【0094】
表1の結果から明らかなように本発明の樹脂組成物から得られた成形品は、実使用条件における磁力安定性に優れ、かつ従来得られなかった高熱伝導性、高寸法安定性、真円性および冷熱サイクル特性を高位でバランス化することが可能であることがわかる。また、溶融成形可能であり、これによれば生産性を大幅に向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】図1aは実施例で製造したトルクリミッタ部品の斜視図であり、図1bはトルクリミッタ部品の底面図である。
【図2】図2aは実施例において耐久試験に用いた硬質リングの斜視図であり、図2bは硬質リングの底面図である。
【図3】図3aは実施例において耐久試験に用いたネオジウムボンド磁石の斜視図であり、図3bはネオジウムボンド磁石の底面図である。
【符号の説明】
【0096】
1.トルクリミッタ部品
2.硬質リング
3.ネオジウムボンド磁石
4.金属製シャフト挿入軸穴部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂とフィラーの合計量を100重量%として(A)熱可塑性樹脂5〜50重量%および(B)フィラー95〜50重量%を含有してなり、レーザーフラッシュ法で測定した熱伝導率が1W/mK以上であることを特徴とするトルクリミッタ部品用樹脂組成物。
【請求項2】
(B)フィラーの少なくとも一部あるいは全部が熱伝導率が20W/mK以上の熱伝導性フィラーであることを特徴とする請求項1記載のトルクリミッタ部品用樹脂組成物。
【請求項3】
(B)フィラーが、繊維状フィラーと非繊維状フィラーを配合比4/6〜1/9(重量比)で併用することを特徴とする請求項1または2記載のトルクリミッタ部品用樹脂組成物。
【請求項4】
(A)熱可塑性樹脂がポリアミド、非液晶性ポリエステル、液晶ポリマーおよびポリアリーレンスルフィドから選ばれた少なくとも1種である請求項1〜3記載のトルクリミッタ部品用樹脂組成物。
【請求項5】
ASTM D−696に準拠して測定した線膨張係数が2×10−51/℃以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のトルクリミッタ部品用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載のトルクリミッタ部品用樹脂組成物からなる部品であって、該部品が磁気式であることを特徴とするトルクリミッタ部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−182990(P2007−182990A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320570(P2006−320570)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】