説明

トルクレンチ

【課題】 スライダーと取っ手部の内周面との隙間をできるだけ小さくし、この隙間から取っ手部内にゴミが入ることを防止してスライダーの円滑な動作を確保できるようにすると共に、主目盛を正確に且つ楽に読み取ることができ、またスライダーに目盛を簡単、迅速に取り付けることができるようにする。
【解決手段】 締付けトルク設定用の調整ネジ1と、この調整ネジ1の回転操作で軸方向に沿って進退動作する主目盛3付きのスライダー2とを、取っ手部5に収納する。スライダー2の主目盛3を読み取るための覗き窓11を、取っ手部5に形成する。主目盛3をシート片13に付し、このシート片13の厚さと略同じ寸法だけ円筒形スライダー2の周側面を周方向に延びて段差状に凹ませ、この凹段差部14にシート片13を付着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設定トルクを超えると、トルクが解放されるよう形成した手動式のトルクレンチに関し、更に詳しくは設定トルクを表示する目盛板の取り付け状態を改良したトルクレンチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来この種のトルクレンチとしては、例えば締付けトルク設定用の調整ネジと、この調整ネジの回転操作で軸方向に沿って進退動作する主目盛付きのスライダーとが取っ手部に収納され、スライダーの主目盛を読み取るための覗き窓が、取っ手部に形成されているものがある(例えば特許文献1、同2参照)。
【0003】
ところでこの種のトルクレンチは、スライダーの円滑な進退動作を確保できるよう、ゴミが覗き窓から取っ手部内に入ることを防止でき、また使い勝手が良くなるよう、目盛を正確に且つ楽に読み取ることができ、更には目盛をスライダーに簡単、迅速に取り付けることができるよう形成されているのが望ましい。
しかるに従来品の場合は、主目盛の付された目盛板を、例えば金属の薄い方形板で形成し、この目盛板を固定するためのスライダーの外側面を平面状に加工し、この外側面の位置に、目盛板をかしめ加工等によって固定しているのが通例であった。
【0004】
従って従来品によると、スライダーと取っ手部の内周面との間に隙間が大きくでき、この隙間を介してゴミが取っ手部内に入り易い、という問題点があった。また従来品は、上記の通り、スライダーの外側面を平面加工し、この平面部に目盛板をかしめ加工等によって固定しているため、主目盛が覗き窓から離されて配置され、従って主目盛を読み取り難く、また目盛板の固定作業に手間暇がかかるのを避けられなかった。
また特許文献2に記載の従来品では、主目盛の付された目盛板がスライダーの外側面に、凸段差状に形成されていた。従ってこの従来品によると、スライダーの円滑な進退動作を確保するため、取っ手部の内周面とスライダーの外側面との間に、隙間を大きくとる必要があったから、特許文献1の従来品の場合と同様、上記の隙間から取っ手部内にゴミが入り易いものであった。
【特許文献1】特開2000−246661号公報
【特許文献2】特開2000−280184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑み、提案されたものである。
従って本発明の解決しようとする技術的課題は、スライダーと取っ手部の内周面との隙間をできるだけ小さくし、この隙間から取っ手部内にゴミが入ることを防止してスライダーの円滑な動作を確保できるようにすると共に、主目盛を正確に且つ楽に読み取ることができ、またスライダーに目盛を簡単、迅速に取り付けることができるよう形成したトルクレンチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するため、次のような技術的手段を採る。
即ち本発明は、図1等に示されるように、締付けトルク設定用の調整ネジ1と、この調整ネジ1の回転操作で軸方向に沿って進退動作する主目盛3付きのスライダー2とが取っ手部5に収納され、スライダー2の主目盛3を読み取るための覗き窓11が取っ手部5に形成されているトルクレンチであって、上記の主目盛3がシート片13に付され、このシート片13の厚さと略同じ寸法だけ円筒形スライダー2の周側面が周方向に延びて段差状に凹まれ、この凹段差部14に上記のシート片13が付着されていることを特徴とする(請求項1)。
【0007】
本発明の場合、シート片13の厚さ、材質、形状、色等は任意である。シート片13は、例えば粘着シールで形成されているのが好ましい。なぜならこれによると、裏面の剥離紙を剥がして凹段差部14に貼り付けることにより、シート片13を迅速、容易に付着できるからである。またシート片13の大きさは、覗き窓11の開口面積より大きく、且つスライダー2の移動に伴ってシート片13が移動しても、覗き窓11から端部が見えない大きさ(覗き窓11内に端部が臨まない状態)に形成されているのが好ましい。なぜならこれによると、取っ手部5の内周面とシート片13との隙間の発生を極力抑えることができ、その分、ゴミの侵入を防止できるからである。ここで、このシート片13の厚さと略同じ寸法だけ、とはシート片13の表面がスライダー2の進退動作時に取っ手部5の内周面に触れて擦れることがないよう形成されている、ということを意味する。従って本発明は、凹段差部14の深さをシート片13の厚さと同一に選定する場合には限定されない。
【0008】
而して請求項1記載の本発明の場合は、凹段差部14が、スライダー2の周方向の全長にわたって形成されているのが好ましい(請求項2)。
【0009】
なぜならこれによると、凹段差部14の加工工程が連続した一工程で済み、スライダー2の加工時間を短縮化でき、加工コストを低減化できるからである。
【0010】
また請求項1又は2に係る本発明の場合は、図1B、図2に示されるように、軸方向に沿った覗き窓11の両側縁12が、外側方に向かって上り傾斜状に形成されているのが好ましい(請求項3)。
【0011】
なぜならこれによると、作業者は、覗き窓11の真上から主目盛3を見なくても、斜め横から主目盛3を読むことができ、主目盛の読み取りを楽にでき、使い勝手が良くなるからである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のトルクレンチは、このように主目盛をシート片に付し、このシート片の厚さと略同じ寸法だけ円筒形スライダーの周側面を周方向に延びて段差状に凹ませ、この凹段差部に上記のシート片を付着しているものである。
従って本発明によると、スライダーと取っ手部の内周面との隙間を極力小さくできるから、これによれば、この隙間から取っ手部内にゴミが入ることを防止でき、スライダーの円滑な動作を長期間にわたって確保できる。
また本発明の場合は、凸湾曲状を呈する主目盛により、覗き窓と主目盛との距離が近くなる。従ってこれによると、作業者は、主目盛を正確に且つ楽に読み取ることができる。
また本発明は、凹段差部に沿ってシート片を例えば貼り付けることでスライダーに主目盛を形成できる。従ってこれによると、主目盛の付着作業を簡単化、迅速化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1等において、1は締付けトルク設定用の調整ネジである。2は、この調整ネジ1の回転操作で軸方向に沿って進退動作する主目盛3付きの円筒形のスライダーである。調整ネジ1は、スライダー2の軸心部の雌ネジ4に螺合され、スライダー2は調整ネジ1に外装され、取っ手部5に収納されている。6は、スライダー2が周方向に回転するのを防止し、軸方向に案内するためのガイド部材である。このガイド部材6は、ネジ7で取っ手部5に固定されている。
【0014】
取っ手部5は、金属製のレバー本体8の基端部8aの側が所定の長さだけ、円筒形に且つ表面が滑り止め加工されることにより形成されている。9はコイルバネであり、このコイルバネ9の後端はスライダー2で受け止められている。10は、レバー本体8の基端部8aに設けられているトルク設定用の摘みである。この摘み10と調整ネジ1とは一体状に連結されている。従って本発明は、作業者が摘み10を手動で正逆方向に回すと、スライダー2が調整ネジ1に沿って軸方向に進退動作し、コイルバネ9の弾発力が調節され、トルク値が設定されるものである。
【0015】
11は、スライダー2の主目盛3(図2、図3参照)を読み取るための覗き窓である。この覗き窓11は、取っ手部5に方形の小窓状に開口されている。この覗き窓11は、取っ手部5の軸方向に沿った両側縁12が、図1Bに示されるように、外側方に向かって上り傾斜状、換言すると取っ手部5の長手方向と直交する方向の断面が外側方に向かって末広がりの略逆ハの字形に形成されている。
【0016】
而して主目盛3は、シート片13に例えば印刷され、シート片13はこの実施形態では粘着シールで形成されている。14は、スライダー2の周側面が、周方向に延びて段差状に凹まれて形成された凹段差部である。この凹段差部14の深さ(段差)は、この実施形態ではシート片13の厚さと同一に選定されている。シート片13は、その裏面の剥離紙が剥がされ、この凹段差部14の湾曲に沿って貼り付けられている。
【0017】
次に本発明の使い方を説明する。
本発明は、作業者が摘み10を手指で回転すると、調整ネジ1が摘み10と一緒に回転し、スライダー2が調整ネジ1に沿って軸方向に移動する。従って主目盛3がスライダー2と一緒に軸方向に移動するため、作業者は覗き窓11からこの主目盛3と、また基端部8aの側に形成される副目盛(図示せず)を見ながら、トルク値を設定する。
【0018】
本発明の場合、主目盛3は、スライダー2の凹段差部14の周側面に沿って上側に凸湾曲の状態で覗き窓11に配置されている。即ち本発明によると、主目盛3が覗き窓11の開口に、上方に突き出されるように臨まれるから、作業者は主目盛3を容易に読み取ることができる。しかもこの実施形態では、覗き窓11の両側縁12が外側方に向かって上り傾斜状に形成されている。従って作業者は、覗き窓11の真上から見なくても、斜めから主目盛3を容易に読み取ることができる。また本発明の場合、取っ手部5の内周面とスライダー2との隙間は、スライダー2が移動可能な必要最低限の距離であれば良い。従ってこれによると、取っ手部5の内周面とスライダー2の周側面との隙間を極力小さくできるから、ゴミが取っ手部5内に入り難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のトルクレンチの好適な一実施形態を示し、Aは一部を切欠した要部縦断面図、BはAのB−B線拡大断面図、Cは主目盛が表示されたシート片の平面図である。
【図2】同上トルクレンチの一部を切欠した要部拡大平面図である。
【図3】主目盛を付着したスライダーを示し、Aは平面図、BはAのB−B線断面図である。
【図4】主目盛を付着する前のスライダーを示し、Aは正面図、BはAのB−B線断面図である。
【符号の説明】
【0020】
1 調整ネジ
2 スライダー
3 主目盛
5 取っ手部
11 覗き窓
13 シート片
14 凹段差部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
締付けトルク設定用の調整ネジと、この調整ネジの回転操作で軸方向に沿って進退動作する主目盛付きのスライダーとが取っ手部に収納され、スライダーの主目盛を読み取るための覗き窓が取っ手部に形成されているトルクレンチであって、上記の主目盛がシート片に付され、このシート片の厚さと略同じ寸法だけ円筒形スライダーの周側面が周方向に延びて段差状に凹まれ、この凹段差部に上記のシート片が付着されていることを特徴とするトルクレンチ。
【請求項2】
請求項1記載のトルクレンチであって、凹段差部が、スライダーの周方向の全長にわたって形成されていることを特徴とするトルクレンチ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のトルクレンチであって、軸方向に沿った覗き窓の両側縁が、外側方に向かって上り傾斜状に形成されていることを特徴とするトルクレンチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−15466(P2006−15466A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−197663(P2004−197663)
【出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【出願人】(599143885)株式会社中村製作所 (9)
【Fターム(参考)】