説明

トルク調整機能付回転ダンパ

【課題】回転ダンパに急激に高負荷が加わったとき、超高圧トルクの発生による回転ダンパの各部品の破損の恐れを減ずることができるトルク調整機能付回転ダンパ。
【解決手段】 第1ドラム30と第2ドラム40のいずれか一方を、軸方向に移動可能に構成する。軸方向に移動可能な一方のドラムは、他方のドラムに対して軸方向に対向する対向面33と反対側の反対面35とを有する。反対面35に作用して、移動可能な一方のドラムを、第1ドラム30と第2ドラム40の各抵抗面31,41の対向面積の増大方向に弾性的に付勢する付勢手段60と、対向面33にのみ作用して、移動可能な一方のドラムを、付勢手段60の付勢力に抗して第1及び第2ドラム30,40の各抵抗面31,41の対向面積の減少方向に、又は、付勢手段60の付勢力を利用して各抵抗面31,41の対向面積の増大方向に、移動させるように構成されたトルク調整手段70とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘性流体により回転部材に対して制動力を発揮する回転ダンパに関し、特にトルク調整機能が付された回転ダンパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の回転ダンパは、例えば、特許文献1及び2に記載されているように、高粘度の粘性流体が充填される筒体内部に、筒体の軸心方向に移動可能な可動ドラムと、制動シャフトと共に回転自在な回転ドラムとを有し、可動ドラムを調整ネジと螺合させてシャフトの軸方向に移動させることにより、可動ドラムと回転ドラムとの対向面積を増大又は減少させ、当該回転ダンパの設置場所や使用目的に応じたトルクを得るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭64―736号公報
【特許文献2】特許第3124898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の回転ダンパの場合、回転部材に対して急激に大きな回転駆動力が加わったとき、回転ドラムの回転数が一瞬高くなろうとするが、軸心方向に移動可能な可動ドラムは調整ネジとの螺合状態にあり調整ネジが回転しない限り軸方向へ移動することができないため、筒体内部に充填された粘性流体、特に、回転ドラムと可動ドラムとの対向面間にある粘性流体は、回転ドラムに伝えられた急激で大きな回転力に追従して流動することができず、回転ドラムに対する極めて大きな抵抗力として作用する。このため、筒体内部に急激に回転ダンパを構成する部品の破損を招くような超高圧トルクが発生する恐れがある。特に、上記構成の回転ダンパを高トルクに設定していた場合、即ち、可動ドラムと回転ドラムとを両者の対向面積が大きい位置に保持し、充填する粘性流体に粘度の高いものを使用する場合、回転ダンパの部品が破損する恐れは大きい。
【0005】
そこで、本発明は、斯かる従来の回転ダンパにおける構成部品の破損の恐れを低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のトルク調整機能付回転ダンパは、容器と蓋体とで粘性流体が充填される密閉空間を画成するハウジングと、該ハウジングに対して相対的な回転が自在な軸体と、前記軸体の軸心を中心として配置され、前記ハウジングに対する相対的な回転が規制された状態で前記密閉空間内における粘性流体の流動に対して抵抗力を発生する円筒状の第1の抵抗面を有する第1ドラムと、前記軸体の軸心を中心として配設され、前記ハウジングと前記第1ドラムとに対して相対的な回転が可能なように前記軸体と連結され、前記密閉空間内において、前記第1ドラムの第1の抵抗面と径方向に対向する円筒状の第2の抵抗面を有する第2ドラムと、前記ハウジングと前記軸体との間に相対的な回転を生ぜしめる駆動力伝達手段と、を有する回転ダンパ1において、前記第1ドラムと前記第2ドラムのいずれか一方を、軸方向に移動可能に構成し、前記軸方向に移動可能な一方のドラムは、前記軸体の軸心を横断する面上に、前記他方のドラムと軸方向に対向する対向面と、前記他方のドラムに対して軸方向に反対側の反対面とを有し、前記他方のドラムに対する軸方向の反対面に作用することにより、前記軸方向に移動可能な一方のドラムを、前記第1の抵抗面と前記第2の抵抗面との対向面積が増大する方向に弾性的に付勢する付勢手段と、前記他方のドラムに対する軸方向の反対面に作用することなく、前記他方のドラムとの軸方向の対向面にのみ作用することにより、前記軸方向に移動可能な一方のドラムを、前記付勢手段の付勢力に抗して前記第1の抵抗面と前記第2の抵抗面との径方向の対向面積が減少する方向に、又は、前記付勢手段の付勢力を利用して前記第1の抵抗面と前記第2の抵抗面との径方向の対向面積が増大する方向に、移動させるように構成し、前記第1の抵抗面と前記第2の抵抗面との間に発生する流動抵抗を調整するトルク調整手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の上記構成によれば、トルク調整手段は軸方向に移動可能な一方のドラムの他方のドラムとの対向面にのみ作用し、該軸方向に移動可能な一方のドラムの反対側の面には他方のドラムとの対向面積が増大する方向への弾性的な付勢力のみが作用しているので、回転ダンパに急激な負荷が一時的に加わったとき、両ドラム間の流体圧の急激な高まりが移動可能な一方のドラムを弾性的な付勢力に抗して他方のドラムとの対向面積を減少する方向に移動させることが可能である。このようにして、発生トルクを一瞬低下させることにより、回転ダンパの部品の破損を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、トルク調整機能付回転ダンパを高トルクにトルク調整したときの縦断面図である。(実施例1)
【図2】図2は、図1のトルク調整手段を中心とした部分拡大図である。
【図3】図3は、トルク調整機能付回転ダンパを中トルクにトルク調整したときの縦断面図である。(実施例1)
【図4】図4は、トルク調整機能付回転ダンパを低トルクにトルク調整したときの縦断面図である。(実施例1)
【図5】図5は、トルク調整回転体701及び第1ドラム30の拡大斜視図である。(実施例1)
【図6】図6は、図5の第1ドラム30の変形例を示す。(実施例1の変更例)
【図7】図7は、実施例2に係るトルク調整機能付回転ダンパの縦断面図である。(実施例2)
【図8】図8は、図7のトルク調整機構701の変形例を示す。(実施例2の変更例)
【図9】図9は、実施例3に係るトルク調整機能付回転ダンパの縦断面図である。(実施例3)
【図10】図10は、図1、図3乃至9の回転駆動力伝達手段50の変形例を示す図である。(実施例1〜実施例3の変更例)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を実施するための形態は、以下の好ましい実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
図1、図3及び図4は、本発明の実施例1に係るトルク調整機能付回転ダンパを、それぞれ高トルク、中トルク、低トルクにトルク調整したときの縦断面図を示す。
【0011】
図1に示すように、トルク調整機能付回転ダンパ1は、容器2と蓋体3とで粘性流体Fが充填される密閉空間Sを画成するハウジング10と、ハウジング10に対して回転が自在な軸体であるシャフト20とを有する。
【0012】
シャフト20の外端部は、蓋体3を貫通してハウジング外に延び、該外端部において不図示の駆動モータと作動的に連結された駆動力伝達手段50により回転駆動される。駆動力伝達手段50は、例えば、不図示のラックと噛合うピニオンである。
【0013】
ハウジング10内には、第1ドラム30と第2ドラム40とが、それぞれシャフト20の軸心Oを横断するように配置されている。
第1ドラム30は、第2ドラム40に比して容器2の底部21側に配設され、容器2の内周に設けられた軸方向に伸延する凹溝2aと係止することにより、ハウジング10に対する周方向への相対的な回転が規制されると共に、凹溝2aに沿ってシャフト20の軸心O上を軸方向に移動可能に取付けられた可動ドラムである。
第2ドラム40は、第1ドラム30に比して容器2の蓋体3側に配設され、シャフト20と共に、ハウジング10と第1ドラム30とに対する周方向への相対的な回転が可能なようにシャフト20と連結された回転ドラムである。
【0014】
図1中、符号33は、第1ドラム30上で第2ドラム40と軸方向に対向する対向面を示し、符号35は、第1ドラム30上で第2ドラム40に対して軸方向に反対側の反対面を示す。これらの面33と面35はシャフト20の軸心Oを横断する面上にある。
【0015】
第1ドラム30について詳述すると、シャフト20の軸心Oと直交する面上に展延する略円形の基部301と、該基部301から第2ドラム40に向けて軸方向に突出した筒部302とが一体に形成されている。
【0016】
基部301は、その外周縁に容器2の内周に設けられた凹溝2aと係止する凸条301aを有しており、前述のように、第1ドラム30をハウジング10に対して相対的に回転っすることを規制すると共に、凹溝2aに沿って軸方向に移動可能にしている。この第1ドラム30と容器2との係止関係は凹凸が逆であってもよい。
【0017】
基部301は、又、内径方向に突出した内径突出部301bを有する。この内径突出部301bの第2ドラム40との対向面は、第1ドラム30の第2ドラム40との対向面33の一部であり、後述のトルク調整手段70の作用面73aが当接する第1ドラム30の被作用面33aを構成する。第1ドラム30上で容器2の底部21の内面21aと対向する面は、第1ドラム30にとって第2ドラム40に対して軸方向に反対側の反対面35である。
【0018】
筒部302は、最も外側に位置する外筒302a、中間部に位置する中間筒302b、最も内側に位置する内筒302cのような複数の部分筒からなる。内筒302cは厚肉に形成されて後述するにバネ60の内端側を収容する凹部303を備えている。筒部302の各部分筒302a、302b、302cは、その内周面及び又は外周面が、ハウジング10内の密閉空間S内における粘性流体Fの流動に対して抵抗力を発生する第1ドラム30の第1の抵抗面31を構成する。
【0019】
次に、第2ドラム40について詳述すると、第1ドラム30と同様に、シャフト20の軸心Oと直交する面上に展延する略円形の基部401と、該基部401から第1ドラム30に向けて軸方向に突出した筒部402とが一体に形成されている。
【0020】
第2ドラム40の基部401は、中央にシャフト20を囲むボス部401aを有し、ボス部401aから内径方向に突出した内径突起401bを有する。この内径突起401bは、シャフト20の軸方向内端部20aの外周に設けられた凹部20bと係合して第2ドラム40をシャフト20と共に回転するようにしている。第2ドラム40は、シャフト20の軸方向内端部20aに設けられたワッシャ80によりシャフト20からの抜けが防止されている。シャフト20はワッシャ80から先端に延びた延長部20cが、後述するトルク調整用の回転体701に形成された軸受凹部74aにより、シャフト20先端部の径方向のブレが生じないように位置決めされると共に回転自在に保持されている。
【0021】
第2ドラム40の筒部402は、第1ドラム30の外筒302a、中間筒302b及び内筒302cと相互に噛み合うように配置された外筒402a、中間筒402b、内筒402cのような複数の部分筒からなる。筒部402のこれらの部分筒402a、402b、402cの内周面及び又は外周面は第1ドラム30の筒部302の部分筒302a、302b、302cの内周面及び又は外周面と径方向に対向して粘性流体Fの流動に対して抵抗力を発生する第2ドラム40の第2の抵抗面41を構成する。
【0022】
なお、第1ドラム30の筒部302と第2ドラム40の筒部402は、いずれも基部301,401側を若干厚く、先端部を若干薄くしてテーパ−状に形成し、第1ドラム30の第1の抵抗面31と第2ドラム40の第2の抵抗面41とを僅かに傾斜させてもよい。このように構成すると、第1ドラム30と第2ドラム40の軸方向の相対的な移動距離が僅かであっても、その移動により第1ドラム30の第1の抵抗面31と第2ドラム40の第2の抵抗面41との間隔が比較的に大きく変化して抵抗力が大きく変化するため、トルク調整のための第1ドラム30と第2ドラム40の軸方向の相対的な移動距離を少なくすることができる。これによりダンパ装置の軸方向の厚みを小さくすることができ、ひいては装置全体の小型化を図ることができる。
【0023】
容器2の底部21の内面21aと第1ドラム30の反対面35との間にはバネ60が配置されている。このバネ60は、第1ドラム30を軸方向における第1ドラム30の第1の抵抗面31と第2ドラム40の第2の抵抗面41との対向面積が増大する方向に弾性的に付勢する付勢手段を構成する。バネ60の内端部60bは第1ドラム30の筒部302の厚肉に形成された内筒302cの凹部303内に収容されている。バネ60は、第1ドラム30を軸方向に付勢する付勢力を発揮できる弾力性を有する素材と形態であれば、図示のものに限定されるものではなく、当業者の知識の範囲内にある他の如何なる要素でもよい。
【0024】
容器2の底部21には、この底部21を軸方向に貫通しかつ底部21に対して回転可能に支持された回転体701が設けられている。この回転体701は、回転操作されると、第1ドラム30の第2ドラム40との対向面33の一部33aに作用することにより、第1ドラム30を、バネ60の付勢力に抗して第1ドラム30の第1の抵抗面31と第2ドラム40の第2の抵抗面41との対向面積が減少する方向に、又は、バネ60の付勢力を利用して第1の抵抗面31と第2の抵抗面41との対向面積が増大する方向移動させ、第1の抵抗面31と第2の抵抗面41との間に発生する流動抵抗を調整するトルク調整手段70として機能する。
【0025】
トルク調整手段70を中心とする部分拡大図である図2から分かるように、回転体701は、外端部75と、この外端部75から容器2内方に延出し、容器2の底部21に形成された軸受筒部22により回転自在に軸支された軸状の中間部74と、容器2内部で中間部74から径方向外方に張り出した内端部71とを有する。外端部75には容器2の外部から回転操作可能な操作部77が設けられている。中間部74は、シャフト20の先端延長部20cを回転自在に支承する軸受凹部74aと、中間部74の軸方向内端側から径方向外方に展開して形成された環状板部74bと、この環状板部74bの径方向外端に図中左右の軸方向に延出するように形成された筒体74cとを有する。内端部71は、この筒体74cの軸方向内端からフランジ状に径方向外方に張り出し形成されている。斯かる回転体701は、中間部74の環状板部74bが、軸方向の一方の面において第2ドラム40の抜け止め用のワッシャ80に摺接すると共に、他方の面において容器底部21の軸受筒部22の内端面22aに摺接し、これにより軸方向に移動することなく定位置で回転するように構成されている。
【0026】
図5は、実施例1に係る回転体701と第1ドラム30との拡大斜視図である。
図5に示すように、回転体701の軸方向の内端部71には、シャフト20の軸心0を中心とする円に沿って第1ドラム30の第2ドラム40との対向面33の一部である33aに作用するトルク調整作用部73が設けられている。このトルク調整作用部73は、この実施例においては、シャフト20の軸心0の周りに略半周ずつの対をなすように二つの円弧形状に形成されており、それぞれが螺旋状に伸延し、且つ軸心Oと直交する面Xに対して傾斜した傾斜面73aを有している。
【0027】
なお、傾斜面73aは一つの螺旋として形成してもよいが、半周ずつに二つ形成することにより回転体701の軸方向の厚さを薄くすることができ、かつ傾斜面73aが接する第1ドラム30に傾きが生じないようにすることができる。
【0028】
また、この実施例においては、前記した第1ドラム30の基部301の内径方向への突出部301bは、回転体701の二つの円弧形状のトルク調整作用部73と対応する位置に、第1ドラム基部301の内周面の周方向に沿って、円弧状に二つ設けられている。この突出部301bにおける第1ドラム30の第2ドラム40との対向面33aは、トルク調整作用部73の傾斜面73aが当接してトルク調整作用部73からの調整作用を受ける被作用面である。このトルク調整被作用面33aは、トルク調整作用部73の傾斜面73aと相補的な傾斜角で傾斜させてある。
【0029】
回転体701のトルク調整作用部73と、第1ドラム30の第2ドラム40との対向面33の一部であるトルク調整被作用面33aを上記のように構成することにより、操作部77を介して回転体701を回転させると、トルク調整作用部73の傾斜面73aは、傾斜したトルク調整被作用面33aの上を時計方向A又は反時計方向Bに摺動しつつ、第1ドラム30を、バネ60の付勢力に抗して第1ドラム30の第1の抵抗面31と第2ドラム40の第2の抵抗面41との対向面積が減少する方向に、又は、バネ60の付勢力を利用して第1の抵抗面31と第2の抵抗面41との対向面積が増大する方向に移動させることができる。
【0030】
次に、実施例1のトルク調整機能付回転ダンパの図1、図3及び図4に示された状態について説明する。
図1は、トルク調整作用部73の傾斜面73aの低い部分73bが第1ドラム30の傾斜したトルク調整被作用傾斜面33aの低い部分33bと接しており、第1ドラム30の第1の抵抗面31と第2ドラム40の第2の抵抗面41との対向面積が最も増大する位置に第1ドラム30を移動させた状態を示す。
【0031】
図1に示す状態にトルク調整し、不図示の駆動モータによりシャフト20を介して第2ドラム40が回転すると、第1の抵抗面31及び第2の抵抗面41の間に発生する粘性流体の流動抵抗は最大となる。これにより、本実施例1のトルク調整機能付回転ダンパは高トルクを発生する。
【0032】
図3は、トルク調整作用部73の傾斜面73aの高低中間部分が第1ドラム30のトルク調整被作用傾斜面33aの低い部分33bと接しており、第1ドラム30の第1の抵抗面31と第2ドラム40の第2の抵抗面41との対向面積が大小中間位置に第1ドラム30を移動させた状態を示す。
【0033】
図3に示す状態にトルク調整して第2ドラム40が回転すると、第1の抵抗面31及び第2の抵抗面41の間に発生する粘性流体の流動抵抗は中位となる。これにより、本実施例1のトルク調整機能付回転ダンパ1は中トルクを発生する。
【0034】
図4は、トルク調整作用部73の傾斜面73aの高い部分が第1ドラム30のトルク調整被作用傾斜面33aの低い部分33bと接しており、第1ドラム30の第1の抵抗面31と第2ドラム40の第2の抵抗面41との対向面積が最も減少した位置に第1ドラム30を移動させた状態を示す。
【0035】
図4に示す状態にトルク調整して第2ドラム40が回転すると、第1の抵抗面31及び第2の抵抗面41の間に発生する粘性流体の流動抵抗は最も少ない状態になる。これにより、本実施例1のトルク調整機能付回転ダンパは低トルクを発生する。
【0036】
図6は、実施例1のトルク調整機能付回転ダンパにおける第1ドラム30の変形例を示す。
この変形例においては、第1ドラム30の基部301の内周面に形成された内径突出部301bは、円周方向への長さが短い突起として形成されており、トルク調整作用部73の傾斜面73aと当接するトルク調整被作用面33aは、シャフト20の軸心0と直交する面上にあって該面に対して傾斜していない。第1ドラム30の内径突出部301bをこのように構成してもトルク調整被作用面33aが回転体701のトルク調整作用部73の傾斜面73a上を摺動することにより第1ドラム30を軸方向に移動させることができる。
【0037】
次に、実施例1のトルク調整機能付回転ダンパの効果について説明する。
本実施例1のトルク調整機能付回転ダンパによれば、トルク調整用の回転体701は、第1ドラム30の第2ドラム40に対して軸方向の反対面35に作用するバネ60の付勢力に抗して、またはその付勢力を利用して、第1ドラム30の第2ドラム40との対向面33にのみ作用し、反対面35には作用しない。即ち、トルク調整作用部73の傾斜面73aを第1ドラム30の被作用面33aに当接させ、傾斜面73aの高低の変化により第1ドラム30を軸方向に移動させてトルク調整を行なう。従って、なんらかの衝撃によりシャフト20を介して回転ダンパに急激な負荷がかかり第2ドラム40に大きな回転力が加わると、第1ドラム30の第1の抵抗面31と第2ドラム40の第2の抵抗面41との間には瞬間的に超高圧トルクが発生するが、第1ドラム30は、バネ60の弾性的な付勢力に抗して第1ドラム30の第1の抵抗面31と第2ドラム40の第2の抵抗面41との対向面積が減少する方向に移動することができ、ダンパトルクを瞬時に低下させることができる。
【0038】
なお、バネ60が第1ドラム30を軸方向に付勢する付勢力を発揮できる弾力性を有するものであれば当業者の知識の範囲内にある他の如何なる要素でもよいことは既に記したが、その付勢力は、回転ダンパ1を構成するハウジング10、シャフト20、第1ドラム30、第2ドラム40、ピニオン50等の構成部品の素材や強度により設定を変える必要がある。要するに、構成部品の素材や強度を考慮し、回転ダンパ内に構成部品が破損する恐れが生じるほどの超高圧が発生ときに、第1ドラム30の軸方向への移動を許容する程度の付勢力とする。
【実施例2】
【0039】
次に、実施例2のトルク調整機能付回転ダンパの構成及び動作について説明する。
図7は、実施例2のトルク調整機能付回転ダンパを高トルクにトルク調整したときの縦断面図である。実施例1を示す図1と同一の部材には、共通の符号が付されている。
【0040】
この実施例においては、トルク調整手段70を構成する回転体701が、軸方向の内端部71と外端部75とを別部材710,750で構成されている。
【0041】
外端部材750は、軸方向の定位置で回転可能に容器2に支持されると共に、軸方向に伸延してシャフト20と共通の軸心を有する第1のネジ部752aを有する。図示例では、第1のネジ部752aは、密閉空間Sの内方に向けて伸延した軸部752の外周に形成されている。
【0042】
内端部材710は、容器2に対して回転しないように規制されると共に、外端部材750の第1のネジ部752aと螺合する第2のネジ部712aを有し、トルク調整作用部73はシャフト20の軸心Oと直交する面上に設けられている。図示例では、内端部材710は、外端部材750の軸部752を軸方向に出没自在に収容可能な凹部712を有し、この凹部712の一部の内周に第1のネジ部752aと螺合する第2のネジ部712aが形成されている。
【0043】
操作部77を操作すると、外端部材750が軸方向の定位置で回転すると共に内端部材710が軸方向に移動し、トルク調整作用部73を介して第1ドラム30が軸方向に移動する。
【0044】
なお、図示例では、外端部材750の第1のネジ部752aが軸部752の外周に形成され、内端部材710の第2のネジ部712aが凹部712の一部の内周に形成される構成としたが、軸部と凹部との関係が逆であってもよいことは勿論である。
【0045】
次に、実施例2のトルク調整機能付回転ダンパの変形例について説明する。
図8の変形例では、トルク調整手段70である回転体701を、その回転に伴ない容器2に対して軸方向に移動可能に構成した。内端部71のトルク調整作用部73は、シャフト20の軸心Oと直交する面上にある。そして、操作部77を操作すると、回転体701が軸方向に移動し、トルク調整作用部73を介して第1ドラム30が軸方向に移動するように構成されている。
【0046】
次に、実施例2のトルク調整機能付回転ダンパの効果について説明する。
本実施例2のトルク調整機能付回転ダンパによれば、回転体701が第1ドラム30の第2ドラム40に対して軸方向の反対面35に作用するバネ60の付勢力に抗して、またはその付勢力を利用して、第2ドラム40に対する対向面にのみ作用する点は実施例1と同様である。しかし、実施例2では、回転体701のトルク調整作用面73aをシャフト20に直交する面とし、トルク調整作用部73自体を軸方向に移動させて第1ドラム30の被作用面33aに当接させることにより、第1ドラム30を軸方向に移動させてトルク調整を行なう。これにより、トルク調整作用面73aと被作用面33aのいずれをも傾斜させることがなくトルク調整を行うことができる。この実施例2においても、回転ダンパに急激な衝撃が加わり、第1ドラム30の第1の抵抗面31と第2ドラム40の第2の抵抗面41との間に瞬間的に超高圧トルクが発生すると、第1ドラム30は、バネ60の弾性的な付勢力に抗して第1ドラム30の第1の抵抗面31と第2ドラム40の第2の抵抗面41との対向面積が減少する方向に移動し、ダンパトルクは瞬時に低下する。
【実施例3】
【0047】
次に、実施例3のトルク調整機能付回転ダンパの構成について説明する。
図9は、本発明の実施例3におけるトルク調整機能付回転ダンパの縦断面図である。
本実施例3のトルク調整機能付回転ダンパ1は、実施例1のトルク調整機能付回転ダンパに対して以下の構成が変更されている。実施例1と同一の構成については説明を省略する。
【0048】
第1ドラム30は、基部301がハウジング10の容器2と一体に形成されており、ハウジング10に対する回転が規制されるだけでなく、軸方向への移動も不可能に構成されている。第2ドラム40は、シャフト20と共に回転可能な回転ドラムとして構成されているだけでなく、シャフト20の軸方向に移動可能に構成されている。即ち、シャフト20はその外周に軸方向に伸延する凹溝20bを有し、第2ドラム40はその内周に凹溝20bと係合する凸条401bを有し、この両者20b,401bの係合により、第2ドラム40をシャフト20と共に回転可能で且つシャフト20の軸方向に移動可能としている。
【0049】
第2ドラム40を弾性的に付勢する付勢手段であるバネ60は、蓋体3の内面3aと、第2ドラム40の第1ドラム30に対する軸方向の反対面45との間に配置されている。
【0050】
トルク調整手段70である回転体701は、ハウジング10、即ち、容器2の底部21を軸方向に貫通ると共に、容器2に対して回転可能に支持されている。
また、回転体701の軸方向の内端部71には、第2ドラム40の第1ドラム30との軸方向の対向面43に対して作用するトルク調整作用面73が設けられており、外端部75に、容器2の外部から回転操作可能な操作部77を有する。
【0051】
次に、実施例3のトルク調整機能付回転ダンパの動作について説明する。
図9において、操作部77を介して回転体701を回転させると、トルク調整作用部73の傾斜面73aと第2ドラム40の傾斜したトルク調整被作用面33aとが当接した状態で相対的に回転し、傾斜面73aの高低により、第2ドラム40が、第1ドラム30の第1の抵抗面31と第2ドラム40の第2の抵抗面41との対向面積を増減する方向に移動する。
【0052】
次に、実施例3のトルク調整機能付回転ダンパの効果について説明する。
本実施例3のトルク調整機能付回転ダンパによれば、実施例1と同様の効果があるだけでなく、部品点数が大幅に削減され、製造コストを抑え、より小型化できるという利点がある。
【0053】
次に、実施例1〜3に係るトルク調整機能付回転ダンパの他の変形例について説明する。
(変形例1)
図10は、ハウジング10の外周部に不図示の駆動モータと作動的に連結された駆動力伝達手段50を取付けたトルク調整機能付回転ダンパの縦断面図である。
実施例1、実施例2及び実施例3では、シャフト20に駆動力を伝達してシャフト20を回転可能に構成したが、この変形例のようにハウジング10を回転可能に構成しても良い。
【符号の説明】
【0054】
1 トルク調整機能付回転ダンパ
2 容器
3 蓋体
10 ハウジング
20 シャフト
30 第1ドラム
31 第1の抵抗面
33 対向面
35 反対面
40 第2ドラム
41 第2の抵抗面
43 対向面
45 反対面
60 バネ
70 トルク調整用回転体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器と蓋体とで粘性流体が充填される密閉空間を画成するハウジングと、
該ハウジングに対して相対的な回転が自在な軸体と、
上記軸体の軸心Oを中心として配設され、上記ハウジングに対する相対的な回転が規制された状態で上記密閉空間内における粘性流体の流動に対して抵抗力を発生する円筒状の第1の抵抗面を有する第1ドラムと、
上記軸体を中心として配設され、上記ハウジングと上記第1ドラムに対して相対的な回転が可能なように上記軸体と連結され、上記密閉空間内において、上記第1ドラムの第1の抵抗面と径方向に対向する円筒状の第2の抵抗面を有する第2ドラムと、
上記ハウジングと上記軸体との間に相対的な回転を生ぜしめる駆動力伝達手段と、を有する回転ダンパにおいて、
上記第1ドラムと第2ドラムのいずれか一方を、軸方向に移動可能に構成し、
上記軸方向に移動可能な一方のドラムは、上記軸体の軸心Oを横断する面上に、上記他方のドラムと軸方向に対向する対向面と、上記他方のドラムに対して軸方向に反対側の反対面とを有し、
上記他方のドラムに対する軸方向の反対面に作用することにより、上記軸方向に移動可能な一方のドラムを、上記第1の抵抗面と上記第2の抵抗面との対向面積が増大する方向に弾性的に付勢する付勢手段と、
上記他方のドラムに対する軸方向の反対面に作用することなく、上記他方のドラムとの軸方向の対向面にのみ作用することにより、上記軸方向に移動可能な一方のドラムを、上記付勢手段の付勢力に抗して上記第1の抵抗面と上記第2の抵抗面との径方向の対向面積が減少する方向に、又は、該付勢手段の付勢力を利用して上記第1の抵抗面と上記第2の抵抗面との径方向の対向面積が増大する方向に、移動させるように構成し、上記第1の抵抗面と上記第2の抵抗面間に発生する流動抵抗を調整するトルク調整手段と、を備えたことを特徴とするトルク調整機能付回転ダンパ。
【請求項2】
上記第1ドラムを上記軸方向に移動可能な一方のドラム、上記第2ドラムを上記他方のドラムとして構成し、上記付勢手段を上記ハウジングの底部の内面と該第1ドラムの上記第2ドラムに対する軸方向の反対面との間に配置し、上記トルク調整手段を、前記ハウジングの底部を軸方向に貫通しかつ該ハウジングの底部に対して回転可能に支持せしめた回転体で構成し、該回転体の軸方向の内端部に上記第1ドラムの上記第2ドラムとの軸方向の対向面に対して作用する作用面を設け、上記回転体701の外端部に上記ハウジングの外部から回転操作可能な操作部を設けたことを特徴とする請求項1に記載のトルク調整機能付回転ダンパ。
【請求項3】
上記第2ドラムを上記軸方向に移動可能な一方のドラム、上記第1ドラムを上記他方のドラムとして構成し、上記付勢手段を上記ハウジングの内面と上記第2ドラムの上記第1ドラムに対する軸方向の反対面との間に配置し、上記トルク調整手段を、前記ハウジングの底部を軸方向に貫通しかつ該ハウジングの底部に対して回転可能に支持せしめた回転体で構成し、該回転体の軸方向の内端部に上記第2ドラムの上記第1ドラムとの軸方向の対向面に対して作用する作用面を設け、該回転体の外端部に上記ハウジングの外部から回転操作可能な操作部を設けたことを特徴とする請求項1に記載のトルク調整機能付回転ダンパ。
【請求項4】
上記トルク調整手段は、上記回転体を上記ハウジングに対して軸方向の定位置で回転自在に構成し、上記内端部の作用面を、上記軸体の軸心の周りに螺旋状に伸延して上記軸体の軸心と直交する面に対して傾斜した傾斜面としたことを特徴とする請求項2又は3に記載のトルク調整機能付回転ダンパ。
【請求項5】
上記軸方向に移動可能な一方のドラムは、上記他方のドラムとの軸方向の対向面に上記トルク調整手段の上記作用面と当接する被作用面を有し、該被作用面は上記トルク調整手段の上記傾斜面と相補的な傾斜角で傾斜していることを特徴とする請求項2、3又は4に記載のトルク調整機能付回転ダンパ。
【請求項6】
上記軸方向に移動可能な一方のドラムは、上記他方のドラムとの軸方向の対向面に上記トルク調整手段の上記作用面と当接する被作用面を有し、該被作用面は上記軸体の軸心と直交する面上に、軸方向に突出し、先端面が上記トルク調整手段の上記傾斜面に当接する突起上に設けられていることを特徴とする請求項4に記載のトルク調整機能付回転ダンパ。
【請求項7】
上記トルク調整手段は、上記回転体の軸方向の内端部と外端部とを別部材で構成し、
外端部材を軸方向の定位置で回転可能に前記ハウジングに支持せしめると共に、該外端部材に軸方向に伸延する軸心を有する第1のネジ部を設け、
内端部材を前記ハウジングに対して回転しないように規制すると共に、該内端部材に上記外端部材の第1のネジ部と螺合する第2のネジ部を設け、上記作用面を上記軸体の軸心と直交する面上に設け、
上記操作部を操作すると、上記外端部材が軸方向の定位置で回転すると共に上記内端部材が軸方向に移動し、上記作用面を介して上記一方のドラムが軸方向に移動する構成としたことを特徴とする請求項2又は3に記載のトルク調整機能付回転ダンパ。
【請求項8】
上記トルク調整手段は、上記回転体をその回転に伴い上記ハウジングに対して軸方向に移動可能に構成し、上記内端部の作用面を上記軸体の軸心と直交する面上に設け、
上記操作部を操作すると上記回転体が軸方向に移動し、上記作用面を介して上記軸方向に移動可能な一方のドラムが移動する構成としたことを特徴とする請求項2又は3に記載のトルク調整機能付回転ダンパ。
【請求項9】
上記駆動力伝達手段は、上記軸体に駆動力を伝達して該軸体を回転させることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載のトルク調整機能付回転ダンパ。
【請求項10】
上記駆動力伝達手段は、上記ハウジングに駆動力を伝達して該ハウジングを回転させることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載のトルク調整機能付回転ダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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