説明

トレッドゴムの接合強度の促進試験方法

【課題】接合部での剥離損傷を促進せしめ、それ以外の箇所での損傷に先駆けて発生させることにより、接合強度或いは接着剤に対しての評価を正確に行う。
【解決手段】ドラム試験機を用いて空気入りタイヤ1に負荷を与えながら回転させる耐久試験工程に先駆け、トレッドゴム2Gの接合部Jを含む接合領域Yjのみを、トレッド面2S側から加熱する接合領域加熱工程を行う。前記接合領域加熱工程は、加熱温度Tが80〜100℃、かつ加熱時間tが2〜5時間である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッドゴムの接合部を予め加熱することにより接合部の剥離を促進させて、接合強度を評価するトレッドゴムの接合強度の促進試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤでは、一般に、生タイヤを形成する際、図4に例示するように、長さ方向の両端部10Eに切断面Esを有する未加硫の帯状のトレッド用ゴム部材10を、円筒状の成形ドラムD上で周方向に巻回し、前記切断面Es、Es同士を接合することによってトレッド部2をなすトレッドゴム2Gを環状に形成している(例えば特許文献1、2参照。)。そしての工程(トレッドゴム接合工程)では、前記切断面Es、Es間の接合強度を高めるため、前記切断面Esに、例えば有機溶剤中にゴム成分を溶解させたゴム糊等の接着剤が塗布されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−280258号公報
【特許文献2】特願2001−020372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら前記接合部は、加硫成形後においては、非接合部分に比して強度に劣るため、例えば高速走行時に前記接合部で剥離損傷が発生しやすくなるなど、トレッドゴムにおける故障の発生原因となりうる。
【0005】
そこで従来より、接合強度を高めるために接着剤の組成について種々の研究がなされている。特に近年、グリップ性能、転がり抵抗性能、氷雪上性能、耐摩耗性能等の走行性能を向上させるために、タイヤのカテゴリーに応じて種々のゴム組成のトレッドゴムが採用されている。そのため、トレッドゴムのゴム組成に応じた接着剤の開発がより重要となる。
【0006】
しかしながら、開発された接着剤を評価するために、タイヤに対してドラム試験機を用いて耐久試験を行う場合、前記接合部以外の箇所で先に損傷が発生するなど、接合強度或いは接着剤に対して正確な評価が行えないという問題がある。
【0007】
そこで本発明は、耐久試験工程に先駆け、トレッドゴムの接合領域のみを加熱する接合領域加熱工程を行うことを基本として、接合部の剥離を促進させて、それ以外の箇所での損傷に先駆けて接合部の剥離損傷を発生させることが可能となり、接合強度或いは接着剤に対しての評価を正確に行いうるトレッドゴムの接合強度の促進試験方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本願請求項1の発明は、長さ方向の両端部に切断面を有する未加硫の帯状のトレッド用ゴム部材を周方向に巻回しかつ前記切断面同士を接合することによってトレッドゴムを環状に形成するトレッドゴム接合工程を含んで製造された既加硫の空気入りタイヤにおけるトレッドゴムの接合強度の促進試験方法であって、
ドラム試験機を用いて前記空気入りタイヤに負荷を与えながら回転させる耐久試験工程に先駆け、トレッドゴムの前記接合部を含む接合領域のみを、トレッド面側から加熱する接合領域加熱工程を行うとともに、
前記接合領域加熱工程は、加熱温度Tが80〜100℃、かつ加熱時間tが2〜5時間であることを特徴としている。
【0009】
又請求項2の発明では、前記接合領域は、前記接合部の中心位置を中心として、タイヤ赤道上でトレッド面に沿って測定した周方向長さLが150〜300mmの範囲の領域であることを特徴としている。
【0010】
又請求項3の発明では、前記切断面は、トレッド面の法線に対して傾斜するとともに、前記耐久試験工程において、前記空気入りタイヤは、前記切断面のタイヤ半径方向外端が内端よりもタイヤ回転方向後方となる向きで回転されることを特徴としている。
【0011】
又請求項4の発明では、前記耐久試験工程は、前記接合領域加熱工程後、5分以内に開始することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明は叙上の如く、耐久試験工程に先駆け、トレッドゴムの接合領域のみを所定温度で所定時間加熱する接合領域加熱工程を行っている。この接合領域加熱工程により、接着剤の劣化を早めて、接合部の剥離を促進させることができ、耐久試験工程において、それ以外の箇所での損傷に先駆けて前記接合部の剥離損傷を発生させることが可能となり、接合強度或いは接着剤に対しての評価を正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のトレッドゴムの接合強度の促進試験方法が適用される空気入りタイヤの子午断面図である。
【図2】接合領域を説明する断面図である。
【図3】耐久試験工程におけるタイヤの回転方向を説明する側面図である。
【図4】トレッドゴム接合工程を説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1は、本発明のトレッドゴムの接合強度の促進試験方法が適用される空気入りタイヤ1の子午断面図であり、トレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、トレッド部2の内方かつ前記カーカス6の半径方向外側に配されるベルト層7とを具える。
【0015】
前記カーカス6は、カーカスコードをタイヤ周方向に対して例えば75゜〜90゜の角度で配列した1枚以上、本例では1枚のカーカスプライ6Aから形成される。このカーカスプライ6Aは、前記ビードコア5、5間に跨るトロイド状のプライ本体部6aの両端に、前記ビードコア5の廻りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返されるプライ折返し部6bを有する。又該プライ本体部6aとプライ折返し部6bとの間には、前記ビードコア5からタイヤ半径方向外側に先細状にのびるビード補強用のビードエーペックスゴム8が配置されている。
【0016】
又前記ベルト層7は、ベルトコードをタイヤ周方向に対して例えば10〜35゜程度で配列した2枚以上、本例では2枚のベルトプライ7A、7Bから形成され、各ベルトコードがプライ間相互で交差することにより、ベルト剛性を高め、トレッド部2の略全巾をタガ効果を有して強固に補強している。
【0017】
なおベルト層7の半径方向外側には、高速耐久性を高める目的で、バンドコードを周方向に対して5度以下の角度で螺旋状に巻回させたバンド層9を設けることができる。このバンド層9として、前記ベルト層7のタイヤ軸方向外端部のみを被覆する左右一対のエッジバンドプライ、及びベルト層7の略全巾を覆うフルバンドプライが適宜使用でき、本例では、1枚のフルバンドプライとからなるものを例示している。
【0018】
又前記バンド層9の半径方向外側には、外表面がトレッド面2Sをなすトレッドゴム2Gが配される。
【0019】
又この空気入りタイヤ1は、図4に示すように、生タイヤ形成時、長さ方向の両端部10E、10Eに切断面Esを有する未加硫の帯状のトレッド用ゴム部材10を、周方向に巻回し、かつ前記切断面Es同士を接合することによってトレッドゴム2Gを環状に形成するトレッドゴム接合工程を含む周知の製造法によって形成される。従って、加硫済みの前記空気入りタイヤ1のトレッド部2には、図2に示すように、前記切断面Es同士が接合された接合部Jが形成されている。この接合部Jでは、前記切断面Esが、トレッド面2Sの法線Nに対して例えば45〜70°の角度αで傾斜し、その接合面積を高めるとともに、切断面Es、Es間には、ゴム糊等の接着剤の層11が介在し、接合強度が高められる。
【0020】
そして本発明のトレッドゴムの接合強度の促進試験方法(以下、単に促進試験方法と呼ぶ場合がある)では、トレッドゴム2Gの前記接合部Jを含む接合領域Yjのみを、トレッド面2S側から加熱する接合領域加熱工程と、この接合領域加熱工程によって加熱された空気入りタイヤ1に対して耐久試験を行う耐久試験工程とを具える。
【0021】
前記接合領域Yjは、前記接合部Jを含み、かつこの接合部Jの中心位置Jcを中心として、タイヤ赤道C上でトレッド面2Sに沿って測定した周方向長さLが150〜300mmの範囲の領域を意味し、又巾方向(タイヤ軸方向)には、前記トレッドゴム2Gの外表面であるトレッド面2Sの全巾が少なくとも含まれる。従って巾方向には、ビード部4、4間の領域範囲も許されるが、好ましくはタイヤ最大幅位置Pmよりも半径方向外側であるのが望ましい。
【0022】
又前記接合領域加熱工程では、前記接合領域Yjを、トレッド面2S側から加熱温度Tが80〜100℃かつ加熱時間tが2〜5時間で加熱を行う。前記加熱温度Tは、加熱されるトレッド面2Sの表面温度であって、又加熱時間tが2〜5時間とは、前記80〜100℃の加熱状態が2〜5時間維持されることを意味する。
【0023】
又前記加熱は、シート状の加熱手段をトレッド面2Sに接触させることによって行われ、この加熱手段としては、例えばタイヤウォーマ等に使用される面状ヒータなどが好適に採用できる。
【0024】
このように接合領域Yjのみを、トレッド面2S側から加熱することにより、接合部J以外の箇所に影響を与えることなく接着剤の劣化を早めて、接合部Jにおける剥離を促進させることが可能となる。本発明者の実験の結果、このような加熱による劣化は、高速走行におけるトレッド部2の発熱による劣化に近似しており、従って、高速走行における接合部Jの剥離損傷を促進させる上で非常に有効であることが判明した。
【0025】
なお前記加熱温度Tが80℃を下回る、及び/又は加熱時間tが2時間を下回ると、接着剤の劣化が促進されなくなるなど、接合部Jの剥離の促進効果が発揮されなくなる。逆に加熱温度Tが100℃を上回る、及び/又は加熱時間tが5時間を上回ると、トレッドゴム2G自体の温度劣化が顕著となり、接合部Jの剥離よりも早期に、接合部J以外の部位にてトレッドゴム2Gの温度劣化による損傷、例えばトレッド面やトレッド溝の溝底における亀裂損傷、およびトレッドゴム2Gとバンド層9(或いはベルト層7)との間の剥離損傷などが発生する傾向を招く。従ってこの場合には、接合強度或いは接着剤の接着強度を正確に評価することができなくなる。このような観点から、加熱温度Tの下限は85℃以上が好ましく、又上限は95℃以下が好ましい。又加熱時間tは下限は2.5時間以上が好ましく、又上限は4.5時間以下が好ましい。
【0026】
次に、前記耐久試験工程では、周知のドラム試験機20を用い、前記接合領域Yjを加熱した空気入りタイヤ1に、負荷を与えながら回転させるドラム耐久試験を行う。
【0027】
このドラム耐久試験としては、特に規定されないが、例えば一定の速度で走行させる所謂一般耐久試験、及び走行速度を所定時間毎にステップアップしていく高速耐久試験が好適に採用でき、特に前記高速耐久試験は、接合強度との相関性が強いため好ましく採用しうる。なお耐久試験工程では、前述の接合領域加熱工程による接合部Jの剥離促進効果を、有効に発揮させるために、前記接合領域Yjの温度ができるだけ冷えないうちに迅速にドラム耐久試験を開始することが好ましい。具体的には、接合領域加熱工程後、5分以内にドラム耐久試験を開始するのが好ましい。なお開始時間が5分を越えるに従い、剥離促進効果が減じて試験結果に影響が現れる。
【0028】
又前記耐久試験工程では、接合部Jの剥離をより促進させるために、図3に示すように、前記切断面Esのタイヤ半径方向外端eoが、半径方向内端eiよりもタイヤ回転方向後方となる向き、即ち、接合部Jに剥がれる向きの力が作用する方向にて空気入りタイヤ1を回転させるのが好ましい。
【0029】
そこで本発明は、耐久試験工程に先駆け、トレッドゴムの接合領域のみを加熱する接合領域加熱工程を行うことを基本として、接合部の剥離を促進させて、それ以外の箇所での損傷に先駆けて接合部の剥離損傷を発生させることが可能となり、接合強度或いは接着剤に対しての評価を正確に行いうるトレッドゴムの接合強度の促進試験方法を提供することを目的としている。
【0030】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0031】
本発明の作用効果を確認するため、タイヤサイズ120/70ZR17の自動二輪車用の空気入りタイヤに対して、トレッドゴムの接合強度をテストした。このテストでは、ドラム耐久試験に先駆けて、接合領域加熱工程を表1に記載の仕様にて実施しており、接合領域加熱工程における加熱温度Tおよび加熱時間t以外は実質的に同一である。又耐久試験工程は、接合領域加熱工程後、5分以内に開始している。
【0032】
前記接合領域加熱工程では、面状ヒータ内蔵の市販のタイヤウォーマを用いて、接合領域Yjのみを表1の加熱温度Tおよび加熱時間tにて加熱した。又接合領域Yjとして、周方向長さLが200mmかつトレッド面2Sの全巾が設定される。
【0033】
又ドラム耐久試験として、高速耐久試験が行われた。具体的には、リム(タイヤを適用サイズの標準リム)、内圧(適用サイズの最大負荷能力に対応する空気圧の125%)、縦加重(適用サイズの最大負荷能力の65%相当の加重)の条件にて、スムースなドラム表面を有するドラム上で、走行速度を、40km/hからスタートして10分毎に10km/hづつステップアップさせ、タイヤに損傷が生じた時の速度と時間(分)を測定した。
【0034】
表1中の損傷状態の※1〜※7を、下記に示す。
※1 接合部から120°離れた位置で、トレッドゴム内でポーラスが発生し、接合部の剥離損傷が再現できない。
※2 接合部から150°離れた位置でトレッドゴム内でポーラスが発生し、接合部の剥離損傷が再現できない。
※3 接合部ではあるが、トレッドゴムの熱硬化により、トレッド表面に亀裂損傷が発生し、接合部の剥離損傷が再現できない。
※4 接合部から150°離れた位置でトレッドゴム内でポーラスが発生し、接合部の剥離損傷が再現できない。
※5 接合部ではあるが、トレッドゴムの熱硬化により、トレッド表面に亀裂損傷が発生し、接合部の剥離損傷が再現できない。
※6 接合部から120°離れた位置でトレッドゴム内でポーラスが発生し、接合部の剥離損傷が再現できない。
※7 接合部ではあるが、トレッドゴムの熱硬化により、トレッド表面に亀裂損傷が発生し、接合部の剥離損傷が再現できない。
【0035】
【表1】

【0036】
実施例の如く、所定温度かつ所定時間の接合領域加熱工程を行うことにより、接合部での剥離損傷を、以外の箇所での損傷に先駆けて発生させうるのが確認できる。
【符号の説明】
【0037】
2G トレッドゴム
2S トレッド面
10 トレッド用ゴム部材
10E 両端部
Es 切断面
eo 切断面の半径方向外端
ei 切断面の半径方向内端
J 接合部
Jc 中心位置
N 法線
Yj 接合領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ方向の両端部に切断面を有する未加硫の帯状のトレッド用ゴム部材を周方向に巻回しかつ前記切断面同士を接合することによってトレッドゴムを環状に形成するトレッドゴム接合工程を含んで製造された既加硫の空気入りタイヤにおけるトレッドゴムの接合強度の促進試験方法であって、
ドラム試験機を用いて前記空気入りタイヤに負荷を与えながら回転させる耐久試験工程に先駆け、トレッドゴムの前記接合部を含む接合領域のみを、トレッド面側から加熱する接合領域加熱工程を行うとともに、
前記接合領域加熱工程は、加熱温度Tが80〜100℃、かつ加熱時間tが2〜5時間であることを特徴とするトレッドゴムの接合強度の促進試験方法。
【請求項2】
前記接合領域は、前記接合部の中心位置を中心として、タイヤ赤道上でトレッド面に沿って測定した周方向長さLが150〜300mmの範囲の領域であることを特徴とする請求項1記載のトレッドゴムの接合強度の促進試験方法。
【請求項3】
前記切断面は、トレッド面の法線に対して傾斜するとともに、前記耐久試験工程において、前記空気入りタイヤは、前記切断面のタイヤ半径方向外端が内端よりもタイヤ回転方向後方となる向きで回転されることを特徴とする請求項1又は2記載のトレッドゴムの接合強度の促進試験方法。
【請求項4】
前記耐久試験工程は、前記接合領域加熱工程後、5分以内に開始することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のトレッドゴムの接合強度の促進試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−95097(P2011−95097A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249222(P2009−249222)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】