説明

トレッド用ゴム組成物及びタイヤ

【課題】 転がり抵抗を抑えつつ優れたグリップ性能を有するタイヤ、即ち、低燃費性と操縦安定性とを高度な次元で両立したタイヤ、及び当該タイヤを実現し得るトレッド用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】 ジエン系ゴムと、硫黄と、コバルト又はコバルト化合物とを含むトレッド用ゴム組成物であって、前記コバルト又はコバルト化合物が前記ジエン系ゴム100質量部に対し0.1〜40質量部配合されることを特徴とするトレッド用ゴム組成物、及び当該トレッド用ゴム組成物をトレッド部に用いてなるタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は転がり抵抗を抑えつつ優れたグリップ性能を有するタイヤ、及び当該タイヤを実現するトレッド用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車タイヤに要求される性能は、耐久性、耐摩耗性、低燃費性(低い転がり抵抗)、操縦安定性(高いグリップ性能)、乗り心地性など多岐にわたり、これらの特性を満足させるべく様々なタイヤ用ゴム組成物が提案されている。例えば特許文献1:特開2001−233998号公報には、主に耐久性の向上(自動車用タイヤに補強材として用いられるスチールコードとゴム部材との間の接着性を維持すること)を目的として、ゴム成分、有機酸のコバルト塩、水酸化コバルトを各々特定量配合したスチールコードコーティング用ゴム組成物が提案されている。
【0003】
一方、低燃費性及び操縦安定性についてはゴムのヒステリシスロスが大きく影響することが知られている。しかし、ヒステリシスロスを大きくするとグリップ性能は向上するが転がり抵抗も増大するため、一般に燃費については悪化する傾向となる。つまり、低燃費性と操縦安定性とは二律背反の関係にあるとされるが、これら両特性を高度な次元で両立したタイヤ用ゴム組成物の開発が望まれていた。
【0004】
【特許文献1】特開2001−233998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、転がり抵抗を抑えつつ優れたグリップ性能を有するタイヤ、即ち、低燃費性と操縦安定性とを高度な次元で両立したタイヤ、及び当該タイヤを実現し得るタイヤ用ゴム組成物(トレッド用ゴム組成物)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために、以下のトレッド用ゴム組成物及びタイヤを提供する。
請求項1:
ジエン系ゴムと、硫黄と、コバルト又はコバルト化合物とを含むトレッド用ゴム組成物であって、前記コバルト又はコバルト化合物が前記ジエン系ゴム100質量部に対し0.1〜40質量部配合されることを特徴とするトレッド用ゴム組成物。
請求項2:
前記コバルト又はコバルト化合物が前記ジエン系ゴム100質量部に対し1〜20質量部配合される請求項1記載のトレッド用ゴム組成物。
請求項3:
前記コバルト化合物が水酸化コバルトである請求項1又は2記載のトレッド用ゴム組成物。
請求項4:
更に脂肪酸が、前記ジエン系ゴム100質量部に対し0.1〜10質量部配合される請求項1,2又は3記載のトレッド用ゴム組成物。
請求項5:
前記脂肪酸が炭素数1〜30の脂肪酸である請求項4記載のトレッド用ゴム組成物。
請求項6:
前記脂肪酸が炭素数15〜30の脂肪酸である請求項5記載のトレッド用ゴム組成物。
請求項7:
前記脂肪酸が飽和脂肪酸である請求項4,5又は6記載のトレッド用ゴム組成物。
請求項8:
請求項1乃至7のいずれかに記載のトレッド用ゴム組成物をトレッド部に用いてなるタイヤ。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低燃費性と操縦安定性とを高度な次元で両立したタイヤ、及び当該タイヤを実現し得るタイヤトレッド用ゴム組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照し、本発明を更に詳しく説明する。
図1は、本発明のタイヤの一例を示すタイヤ10についての、回転軸線を含む平面による左半断面図である。図1において、タイヤ10は一対のビード部11(片側のみ示す)と、一対のサイドウォール部12(片側のみ示す)と、トレッド部13とを有する。また、タイヤ10は、ビード部11内に埋設した一対のビードコア14相互間にわたり各部11、12、13を補強する1プライ以上のラジアルカーカス15と、ラジアルカーカス15の外周でトレッド部13を強化するベルト16とを備える。ラジアルカーカス15の端末部は、対をなすビードコア14の間に係止されている。
【0009】
また、タイヤ10は、その外側ゴム部材として、ビード部11にチェーファゴム17と、サイドウォール部12にサイドウォールゴム18と、トレッド部13のベルト16の外周側にトレッドゴム19とを有する。
さらに、タイヤ10は、その内側ゴム部材としてインナーライナゴム20を有し、ビード部11からサイドウォール部12の内部補強ゴム部材としてビードフィラゴム21を有する。また、ときに、タイヤ10は、その外側ゴム部材として、サイドウォールゴム18とトレッドゴム19との橋渡し役を果たすミニサイドウォールゴム22を備える。トレッドゴム19は、一般に、ベルト16との接着を確保するためのトレッドアンダークッションゴム23を最内側に、トレッドベースゴム24を中間層に、そしてトレッドキャップゴム25の多層構造を有する。なお、一点鎖線の丸で示すα領域はトウ部、一点鎖線の丸で示すβ,γ領域はタイヤ10の荷重負荷直下で大きな曲げひずみが発生する部位である。
【0010】
本発明のトレッド用ゴム組成物は、タイヤにおけるトレッド部を構成するトレッド用ゴム組成物であり、例えば上記タイヤ10においてはトレッド部13を構成するものであって、より詳しくは、トレッドゴム19を形成するトレッドキャップゴム25、トレッドベースゴム24、及びトレッドアンダークッションゴム23のいずれか又は2以上の組合せを構成するものである。
そして、本発明のトレッド用ゴム組成物は、ジエン系ゴムと、硫黄と、コバルト又はコバルト化合物とを含むゴム組成物であって、前記コバルト又はコバルト化合物が前記ジエン系ゴム100質量部に対し0.1〜40質量部配合されることを特徴とする。
【0011】
従来、低燃費性(小さい転がり抵抗)と操縦安定性(高いグリップ性能)とを両立させるべく様々なゴム組成物が提案されているが、その設計指針としては同じ歪み領域でのヒステリシスロスを適度に調整しようとするものであった。
本発明者は、実走行時においては通常走行時、トレッドに加わる力は小さく低歪み状態であるのに対し、急ブレーキ、コーナーリング時などではトレッドに加わる力が大きいため高歪み状態であることを考慮し、より実走行時のタイヤ挙動に合致した設計指針を採用することとした。即ち、転がり抵抗は低歪み領域での現象であり、グリップ性能は高歪み領域での現象であると捉えることができるため、低歪み領域でのヒステリシスロスを抑制することで転がり抵抗の低減を、高歪み領域でのヒステリシスロスを増加させることでグリップ性能の向上を図ることこそが、低燃費性と操縦安定性とを両立したタイヤを設計するための重要な指針であると考えた。
そして、詳細は詳らかではないが、ジエン系ゴムと硫黄とのゴム組成物系において更にコバルト又はコバルト化合物を特定量配合すると、おそらくは硫黄とコバルト又はコバルト化合物との反応により生成する硫化コバルトがジエン系ゴムに対し上記指針に沿う形で作用し、低歪み領域でのヒステリシスロス抑制と高歪み領域でのヒステリシスロス増加とを両立したゴム組成物が実現され得ることを見出したものである。
【0012】
上記ジエン系ゴムとしては、例えば天然ゴムやエチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM),スチレン・ブタジエン共重合ゴム(SBR),ブタジエンゴム,イソプレンゴム,ブチルゴム,ハロゲン化ブチルゴム、イソブチレンとp−ハロゲン化メチルスチレンとの共重合体,アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム(NBR)などを挙げることができ、これらは1種を単独で、あるいは2種以上を併用してもよい。
【0013】
本発明において上記硫黄の配合量としては、上記ジエン系ゴム100質量部に対し通常1〜5質量部、好ましくは1〜3質量部である。当該配合量が多すぎると弾性率の増加を招く場合があり、少なすぎると耐摩耗性が悪化する場合がある。
【0014】
上記コバルト化合物としては、例えば水酸化コバルト〔Co(OH)2〕、ナフテン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト等を用いることができ、入手容易性の観点から水酸化コバルトを用いることが特に好適である。
また、本発明においてコバルト又は上記のようなコバルト化合物の配合量としては、上記ジエン系ゴム100質量部に対し0.1〜40質量部、好ましくは1〜20質量部である。当該配合量が多すぎると耐磨耗性が悪化し、少なすぎると効果が不十分となって、いずれの場合も本発明の目的が達成されない。
【0015】
本発明のトレッド用ゴム組成物には、上記コバルト又はコバルト化合物と硫黄との反応を促進する観点から、更に脂肪酸を配合することが好適である。
このような脂肪酸としては飽和,不飽和あるいは直鎖状,分岐状のいずれの脂肪酸であってもよく、脂肪酸の炭素数としても特に制限されるものではない。
上記脂肪酸としては、例えば炭素数1〜30、好ましくは15〜30の脂肪酸、より具体的にはシクロヘキサン酸(シクロヘキサンカルボン酸),側鎖を有するアルキルシクロペンタンなどのナフテン酸;ヘキサン酸,オクタン酸,デカン酸(ネオデカン酸等の分岐状カルボン酸を含む),ドデカン酸,テトラデカン酸,ヘキサデカン酸,オクタデカン酸(ステアリン酸)などの飽和脂肪酸;メタクリル酸,オレイン酸,リノール酸,リノレン酸などの不飽和脂肪酸;ロジン,トール油酸,アビエチン酸などの樹脂酸などが挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用しても良い。本発明においてはコバルト化合物との反応速度の観点から飽和脂肪酸であることが好適であり、中でもステアリン酸が好適に用いられる。
【0016】
本発明において上記脂肪酸の配合量としては、上記ジエン系ゴム100質量部に対し通常0.1〜10質量部、好ましくは1〜5質量部、より好ましくは1〜3質量部である。当該配合量が多すぎると破壊強力が低下する場合があり、少なすぎると効果が小さい場合がある。
【0017】
本発明のトレッド用ゴム組成物には、更に他の添加剤を配合することも可能である。このような添加剤としては、カーボンブラック、加硫促進剤、老化防止剤、亜鉛華(ZnO)、ワックス類、酸化防止剤、充填剤、発泡剤、可塑剤、滑剤、粘着付与剤、紫外線吸収剤、等を挙げることができる。
【0018】
カーボンブラックとしては、例えば、SRF、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF、FT、MTなどのカーボンブラックを挙げることができ、中でもHAF、ISAFが好適である。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
上記カーボンブラックの配合量としては、上記ジエン系ゴム100質量部に対し通常30〜100質量部、好ましくは50〜80質量部である。カーボンブラックの配合量が30質量部未満では耐磨耗性が悪化する場合があり、一方100質量部を超えると混練作業性が著しく低下する場合がある。
【0019】
加硫促進剤としては、例えばCBS(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)、TBBS(N−t−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)、TBSI(N−t−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンイミド)等のスルフェンアミド系の加硫促進剤、DPG(ジフェニルグアニジン)等のグアニジン系の加硫促進剤、テトラオクチルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド等のチウラム系加硫促進剤、ジアルキルジチオリン酸亜鉛などの加硫促進剤を挙げることができ、中でもTBBS、DPGが好適である。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
その使用量としては上記ジエン系ゴム100質量部に対し、通常1〜3質量部である。
【0020】
充填剤としては、例えばホワイトカーボン、微粒子ケイ酸マグネシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、クレー、タルクなどの無機充填剤;ハイスチレン樹脂、クマロンインデン樹脂、フェノール樹脂、リグニン、変性メラミン樹脂、ロジン誘導体などの有機充填剤を挙げることができ、中でもホワイトカーボンが好適である。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。その使用量としては上記ジエン系ゴム100質量部に対し、通常10〜50質量部である。
【0021】
また、可塑剤としては、例えばゴムに通常用いられるアロマティック油、ナフテニック油、パラフィン油などのプロセスオイル;やし油などの植物油;アルキルベンゼンオイルなどの合成油等を挙げることができ、中でもアロマティック油が好適である。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。その使用量としては上記ジエン系ゴム100質量部に対し、通常10〜40質量部である。
【0022】
本発明のトレッド用ゴム組成物を得る際、上記各成分の配合方法に特に制限は無い。全ての成分原料を一度に配合して混練しても良いし、2段階あるいは3段階に分けて各成分を配合して混練を行ってもよい。なお、混練に際してはロール、インターナルミキサー、バンバリーローター等の公知の混練機を用いることができる。
また、このように各成分を配合して得た上記トレッド用ゴム組成物を加硫する際の条件としては、通常145〜160℃で15〜40分の加硫条件を採用することができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0024】
〔実施例1〜3、比較例1〕
表1に示す配合(各成分の数値は全て質量部を示す)にて各原料成分を配合し、500mlのラボプラストミルおよび3インチロールを使用して混練することにより未加硫のトレッド用ゴム組成物を得た。この未加硫のトレッド用ゴム組成物を金型温度145℃にて成形し、図1におけるトレッドキャップゴム25に相当する断面形状を有するゴム部材を作成した。このゴム部材を用いて図1の構成を有するタイヤ(245/70R22.5)を作成した。得られたタイヤの性能評価を行った。結果を表1に併記した。
【0025】
【表1】

【0026】
NR
RSS#4。
C/B
カーボンブラック。昭和キャボット社製商品名ショウブラックN339。
水酸化コバルト
和光純薬社製。
ステアリン酸
新日本理化社製。
亜鉛華
堺化学社製。
老化防止剤
大内新興化学社製商品名ノクラック6C。
加硫促進剤
大内新興化学社製商品名ノクセラーD。
転がり抵抗
ドラム試験機にてタイヤ転動時の転がり抵抗(RR)値を測定した。比較例1の値を100として指数評価を行った。数値が小さいほど良好な結果である。
ドライグリップ性能
ドライアスファルト路面での制動時のピーク摩擦力を評価した。比較例1の値を100として指数評価を行った。数値が大きいほど良好な結果である。
【0027】
比較例1は一般的なトレッドゴム配合を用いたタイヤであり、実施例1〜3は更に水酸化コバルトを加えた配合を用いたタイヤである。実施例1〜3のタイヤは従来のトレッドゴム配合を用いたタイヤよりも転がり抵抗が小さく、しかもドライグリップ性能に優れるタイヤである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一例を示すタイヤの、回転軸線を含む平面による左半断面図である。
【符号の説明】
【0029】
10 タイヤ
11 ビード部
12 サイドウォール部
13 トレッド部
14 ビードコア
15 ラジアルカーカス
16 ベルト
17 チェーファゴム
18 サイドウォールゴム
19 トレッドゴム
20 インナーライナゴム
21 ビードフィラゴム
22 ミニサイドウォールゴム
23 トレッドアンダークッションゴム
24 トレッドベースゴム
25 トレッドキャップゴム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムと、硫黄と、コバルト又はコバルト化合物とを含むトレッド用ゴム組成物であって、前記コバルト又はコバルト化合物が前記ジエン系ゴム100質量部に対し0.1〜40質量部配合されることを特徴とするトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
前記コバルト又はコバルト化合物が前記ジエン系ゴム100質量部に対し1〜20質量部配合される請求項1記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
前記コバルト化合物が水酸化コバルトである請求項1又は2記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
更に脂肪酸が、前記ジエン系ゴム100質量部に対し0.1〜10質量部配合される請求項1,2又は3記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項5】
前記脂肪酸が炭素数1〜30の脂肪酸である請求項4記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項6】
前記脂肪酸が炭素数15〜30の脂肪酸である請求項5記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項7】
前記脂肪酸が飽和脂肪酸である請求項4,5又は6記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載のトレッド用ゴム組成物をトレッド部に用いてなるタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2006−249361(P2006−249361A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−71024(P2005−71024)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】