説明

トレーサ試験装置

【課題】供試体の平均的な物質移行特性を定量的なデータでより正確に把握することにある。
【解決手段】供試体Wの第1平面(第1面)W1に沿って第1チャンバ3aを構成する第1チャンバ構成部材3と、供試体Wの第2平面(第2面)W2に沿って第2チャンバ4aを構成する第2チャンバ構成部材4とを備え、第1チャンバ構成部材3には第1流入ポート32aと、第1流出ポート32bとが設けられ、第2チャンバ構成部材4には第2流入ポート42aと、第2流出ポート42bとが設けられ、第1流出ポート32b側には第1チャンバ3aを通過した後のトレーサ水Bを検知する第1センサ34が設けられ、第2流出ポート42b側には第2チャンバ4aに流出したトレーサ水(トレーサ流体)Bであって第2チャンバ4aを通過する第2フラッシング水(第2フラッシング流体)Dによって搬送されたトレーサ水Bを検知する第2センサ44が設けられた構成になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岩盤等の検査対象物における物質移行特性(検査対象物の例えば亀裂内の物質の移動時間)を検査するためのトレーサ試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のトレーサ試験装置としては、例えば、高レベル放射性廃棄物を地層処分する場合に、その処分場所である岩盤(検査対象物)の物質移行特性を検査するために使用するものが知られている。このトレーサ試験装置は、図3及び図4に示すように、岩盤から切り出された供試体Wの第1平面(第1面)W1に沿って第1チャンバ1aを構成する第1チャンバ構成部材1と、供試体Wにおける第1平面W1に平行な第2平面(第2面)W2に沿って第2チャンバ2aを構成する第2チャンバ構成部材2とを備えている。
【0003】
供試体Wは、六面体状に切り出されたものであり、第1平面W1及び第2平面W2が直角四角形状に形成されている。また、地下水は岩盤の亀裂中を流れることから、その亀裂Waの一端及び他端がそれぞれ第1平面W1及び第2平面W2に現れるように、供試体Wが形成されている。
【0004】
第1チャンバ構成部材1は、第1平面W1に現れた亀裂Waを囲むように長方形状の枠状に形成された第1シール部材11と、一方の面が第1平面W1に密着した状態の第1シール部材11の他方の面に密着して当該第1シール部材11及びその内側の開口部を覆う四角形の平板状の第1カバー部材12とを備えている。そして、第1平面W1と第1カバー部材12で挟まれた第1シール部材11の内側が第1チャンバ1aになっている。
【0005】
第1カバー部材12には、長方形状の第1チャンバ1aの中心に対応する位置に、当該第1チャンバ1aに流体を流入させる流入ポート12aが設けられている。流入ポート12aには、配管を介して第1センサ13が設けられている。また、第1センサ13には、配管を介して三方弁14が設けられている。
【0006】
三方弁14は、脱気された水である脱気水A及びトレーサ水(トレーサ流体)Bの一方を選択して第1センサ13を介して第1チャンバ1aに流入させるべく、流体の流れの方向を切り換えるようになっている。また、三方弁14は、第1センサ13側、脱気水A側及びトレーサ水B側の全てを閉状態に保持することも可能になっている。
【0007】
第1センサ13は、三方弁14から供給されたトレーサ水Bが第1チャンバ1aに流入する際に、当該トレーサ水Bを検知するようになっている。
【0008】
第2チャンバ構成部材2は、第2平面W2に現れた亀裂Waを囲むように長方形状の枠状に形成された第2シール部材21と、一方の面が第2平面W2に密着した状態の第2シール部材21の他方の面に密着して当該第2シール部材21及びその内側の開口部を覆う四角形の平板状の第2カバー部材22とを備えている。そして、第2平面W2と第2カバー部材22で挟まれた第2シール部材21の内側が第2チャンバ2aになっている。また、第2シール部材21は第1シール部材11と同一の大きさに形成されている。
【0009】
第2カバー部材22には、長方形状の第2チャンバ2aの中心に対応する位置に、第2チャンバ2aから流体を流出させる流出ポート22aが設けられている。流出ポート22aには、配管を介して第2センサ23が設けられている。
【0010】
第2センサ23は、第1チャンバ1aから第2チャンバ2aに流出したトレーサ水Bが第2チャンバ2aから排出される際に、当該トレーサ水Bを検知するようになっている。
【0011】
また、供試体Wにおける第1平面W1及び第2平面W2以外の外周面は、水の流出を防止するために止水処理が施されている。
【0012】
上記のように構成されたトレーサ試験装置においては、まず一定の圧力の脱気水Aを第1チャンバ1aに供給すべく三方弁14を切り換える。これにより、第1チャンバ1a内が脱気水Aによって満たされると共に、当該脱気水Aが亀裂Wa内を通って第2チャンバ2aに流出し、当該第2チャンバ2aも脱気水Aにより満たされることになる。そして、第2チャンバ2aに充満した脱気水Aは、流出ポート22a及び第2センサ23を通って排出されることになる。
【0013】
そこで、脱気水Aに代えて、一定の圧力のトレーサ水Bを第1チャンバ1aに供給すべく三方弁14を切り換えると、トレーサ水Bが第1チャンバ1aに流入する。この際、トレーサ水Bは、第1センサ13によって検知されると共に、脱気水Aと置き換わるようにして第1平面W1に達し、亀裂Wa内を通って第2チャンバ2aに流出する。そして、第2チャンバ2aに流出したトレーサ水Bは、第2チャンバ2a内の脱気水Aと置き換わるようにして流出ポート22aに達し、第2チャンバ2aから流出した後、第2センサ23によって検知されることになる。
【0014】
以上により、トレーサ水Bを第1センサ13で検知してから第2センサ23で検知するまでの時間を計測することにより、供試体Wの物質移行特性を定量的なデータとして把握することができる。
【0015】
ところが、上記従来のトレーサ試験装置においては、上記時間に、トレーサ水Bが第1センサ13から第1平面W1に達するまでの時間及びトレーサ水Bが第2チャンバ2aに流出してから第2センサ23に達するまでの時間が含まれていることから、供試体Wの亀裂Waを通過する時間を正確に測定できない。即ち、供試体Wの物質移行特性を定量的なデータで正確に把握することができないという問題がある。
【0016】
しかも、流入ポート12aと流出ポート22aを結ぶ線上部分のトレーサ水Bが早めに第1平面W1に達すると共に、第2センサ23にも早めに到達することになるので、亀裂Waにおける上記線状部分を水が流れることによる供試体Wの局部的な物質移行特性は把握できるが、当該亀裂Waの全体を水が流れることによる供試体Wの平均的な物質移行特性は把握できないという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、供試体の平均的な物質移行特性を定量的なデータでより正確に把握することのできるトレーサ試験装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、請求項1に記載のトレーサ試験装置は、検査対象物における物質移行特性を検査するトレーサ試験装置であって、上記検査対象物から切り出された供試体の第1面に沿って第1チャンバを構成する第1チャンバ構成部材と、上記供試体における上記第1面に平行な第2面に沿って第2チャンバを構成する第2チャンバ構成部材とを備えてなり、上記第1チャンバ構成部材には、上記第1チャンバに流体を流入させる第1流入ポートと、この第1流入ポートから流入し上記第1チャンバを通過した後の流体を当該第1チャンバから流出させる第1流出ポートとが設けられ、上記第2チャンバ構成部材には、上記第2チャンバに流体を流入させる第2流入ポートと、この第2流入ポートから流入し上記第2チャンバを通過した後の流体を当該第2チャンバから流出させる第2流出ポートとが設けられ、上記第1流出ポート側には、上記第1流入ポートから流入して上記第1チャンバを通過した後のトレーサ流体を検知する第1センサが設けられ、上記第2流出ポート側には、上記第1チャンバから上記供試体を通って上記第2チャンバに流出した上記トレーサ流体であって、上記第2流入ポートから流入して上記第2チャンバを通過する流体によって搬送され、当該第2チャンバを通過した後の上記トレーサ流体を検知する第2センサが設けられていることを特徴としている。
【0019】
請求項2に記載のトレーサ試験装置は、請求項1に記載の発明において、上記第1流入ポートから流入する流体は、上記トレーサ流体又は第1フラッシング流体であり、上記第2流入ポートから流入する流体は、上記第2チャンバ内に流出した上記トレーサ流体を第2流出ポート側に搬送する第2フラッシング流体であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
上記のように構成された請求項1及び2に記載の発明によれば、第1流入ポートからトレーサ流体を供給することによって、当該トレーサ流体が第1チャンバを通って第1流出ポートから流出することになる。従って、トレーサ流体を第1チャンバに短時間で充満させることができると共に、この充満したことを第1流出ポート側の第1センサで即座に検知することができる。
【0021】
また、トレーサ流体が第1チャンバに短時間で充填することができることから、当該第1チャンバ内のトレーサ流体がほぼ同時に供試体内に浸入することになる。この場合、トレーサ流体は、特に供試体に生じている例えば亀裂内を通って、第2面から第2チャンバに流出することになる。
【0022】
第2チャンバに流出したトレーサ流体は、当該第2チャンバ内を第2流入ポートから第2流出ポートに向かって流れる流体によって短時間で第2センサに送られることになる。従って、トレーサ流体が第2チャンバに流出したことも即座に検知することができる。
【0023】
以上、トレーサ流体を第1チャンバに短時間で充填することができると共に、この充填したことを短時間で検知することができ、かつトレーサ流体が第2チャンバに流出したことも短時間で検知することができるので、トレーサ流体を第1センサで検知してから第2センサで検知するまでの時間を計測することにより、供試体の物質移行特性を定量的なデータでより正確に把握することができる。
【0024】
但し、トレーサ流体が第1流入ポートから第1チャンバに流入し第1センサに達するまでに短時間ではあるが時間の遅れが生じる。また、例えば最初に第1チャンバに流入したトレーサ流体は最も早く第2チャンバに流出することになるが、この第2チャンバに流出したトレーサ流体が第2センサに達するまでにも短時間ではあるが時間の遅れが生じる。このため、第1流入ポートから第1流出ポートに流れるトレーサ流体の方向と、第2流入ポートから第2流出ポートに流れる流体の方向とを同一にすることにより、上述した各時間遅れを相殺することができるので、供試体の物質移行特性をより正確に把握することができる。
【0025】
なお、トレーサ流体が第1流入ポートから第1チャンバに流入して第1センサに達するまでの時間と、第2チャンバに供給される流体が第2流入ポートから第2チャンバに流入して第2センサに達するまでの時間とが等しくなるように、第1チャンバを流れるトレーサ流体及び第2チャンバを流れる流体の流速を調整することにより、上述した各時間遅れによる誤差が零になるように更に相殺することができる。
【0026】
また、第1チャンバ内のトレーサ流体がほぼ同時に供試体内に浸入することになるので、供試体の平均的な物質移行特性を把握することができる。
【0027】
請求項2に記載の発明によれば、トレーサ流体を第1チャンバに供給する前に第1フラッシング流体を第1チャンバに供給することにより、第1チャンバ内及び供試体における物質が移行する部分(例えば亀裂内)に第1フラッシング流体を予め満たしておくことができる。
【0028】
また、第2流入ポートから流入する流体として、第2フラッシング流体を用いているので、第2チャンバに流入したトレーサ流体を第2センサに搬送することができる。従って、トレーサ流体を第2センサに短時間で搬送することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明を実施するための最良の形態としての一実施の形態について図1〜図2を参照しながら説明する。但し、従来例で示した構成要素と共通する要素には同一の符号を付し、その説明を簡略化する。
【0030】
この実施の形態で示すトレーサ試験装置は、図1及び図2に示すように、供試体Wの第1平面W1に沿って第1チャンバ3aを構成する第1チャンバ構成部材3と、供試体Wの第2平面W2に沿って第2チャンバ4aを構成する第2チャンバ構成部材4とを備えている。
【0031】
第1チャンバ構成部材3は、第1平面W1に現れた亀裂Waの一端の全体を囲むと共に、第1平面W1から長手方向の各端部が突出する大きさの長方形状の枠状に形成された第1シール部材31と、一方の面が第1平面W1に密着した状態の第1シール部材31の他方の面に密着して当該第1シール部材31及びその内側の開口部を覆う四角形の平板状の第1カバー部材32とを備えている。第1シール部材31は、ゴム等の弾性を有する材質のもので形成されており、第1カバー部材32は、アクリル等の透明な材質のもので形成されている。
【0032】
そして、第1平面W1と第1カバー部材32で挟まれた第1シール部材31の内側が長方形状の第1チャンバ3aになっている。また、第1シール部材31における一方の面の第1平面W1から突出した部分は、当該突出部分に対応する位置の供試体Wの外周面W3、W3に設けられた止水手段(図示せず)によって覆われている。この止水手段は、外周面W3、W3に露出する亀裂Waからの流体の流出を防止するようになっている。
【0033】
第1カバー部材32には、第1チャンバ3aの第1平面W1から一方に突出する位置に、第1チャンバ3aに流体を流入させる第1流入ポート32aが設けられており、第1チャンバ3aの第1平面W1から他方に突出する位置に、第1流入ポート32aから流入し第1チャンバ3aを通過した後の流体を当該第1チャンバ3aから流出させる第1流出ポート32bが設けられている。
【0034】
第1流入ポート32aには、配管を介して三方弁33が設けられている。三方弁33は、トレーサ水(トレーサ流体)B及び第1フラッシング水(第1フラッシング流体)Cの一方を選択して第1流入ポート32aを介して第1チャンバ3a内に流入させるべく、流体の流れの方向を切り換えるようになっている。また、三方弁33は、第1流入ポート32a側、トレーサ水B側及び第1フラッシング水C側の全てを閉状態に保持することも可能になっている。なお、この三方弁33は電磁弁によって構成されている。
【0035】
第1流出ポート32bには、当該第1流出ポート32bの近傍に配管を介して第1センサ34が設けられている。なお、第1センサ34を第1流出ポート32bに直接取り付けるように構成してもよい。第1センサ34は、第1流入ポート32aから流入して第1チャンバ3aを通過した後のトレーサ水Bを検知するようになっている。
【0036】
第2チャンバ構成部材4は、供試体Wの第2平面W2に現れた亀裂Waの他端の全体を囲むと共に、第2平面W2から長手方向の各端部が突出する大きさの長方形状の枠状に形成された第2シール部材41と、一方の面が第2平面W2に密着した状態の第2シール部材41の他方の面に密着して当該第2シール部材41及びその内側の開口部を覆う四角形の平板状の第2カバー部材42とを備えている。第2シール部材41は、ゴム等の弾性を有する材質のもので形成されており、第2カバー部材42は、アクリル等の透明な材質のもので形成されている。
【0037】
そして、第2平面W2と第2カバー部材42で挟まれた第2シール部材41の内側が長方形状の第2チャンバ4aになっている。また、第2シール部材41における一方の面の第2平面W2から突出した部分は、供試体Wの外周面W3、W3に設けられた止水手段(図示せず)によって覆われている。
【0038】
第2カバー部材42には、第2チャンバ4aの第2平面W2から一方に突出する位置に、第2チャンバ4aに流体を流入させる第2流入ポート42aが設けられており、第2チャンバ4aの第2平面W2から他方に突出する位置に、第2流入ポート42aから流入し第2チャンバ4aを通過した後の流体を当該第2チャンバ4aから流出させる第2流出ポート42bが設けられている。
【0039】
第2流入ポート42aには、配管を介してストップバルブ43が設けられている。ストップバルブ43は、流路を開閉すると共に、第2フラッシング水(第2フラッシング流体)Dの2チャンバ4aに流入する流量を調整することが可能になっている。
【0040】
第2流出ポート42bには、当該第2流出ポート42bの近傍に配管を介して第2センサ44が設けられている。なお、第2センサ44を第2流出ポート42bに直接取り付けるように構成してもよい。第2センサ44は、第1チャンバ3aから供試体Wの亀裂Wa内を通って第2チャンバ4aに流出したトレーサ水Bであって、第2流入ポート42aから流入して第2チャンバ4aを通過する第2フラッシング水Dによって搬送され、当該第2チャンバ4aを通過した後のトレーサ水Bを検知するようになっている。
【0041】
第1フラッシング水C及び第2フラッシング水Dには、脱気水(脱気した水)を用いている。そして、第2フラッシング水Dは、第2チャンバ4a内に流出したトレーサ水Bを第2流出ポート42b側に搬送するのに適したものとなっている。
【0042】
トレーサ水Bは、フラッシング水C、Dと電気伝導度の異なる水が用いられている。そして、第1センサ34及び第2センサ44は、流体の電気伝導度を測定する電気伝導度計によって構成されており、トレーサ水Bの濃度を測定することも可能になっている。
【0043】
なお、供試体Wにおける外周面W3、W3に直交する外周面W4、W4にも止水手段(図示せず)を設けるように構成してもよい。ただし、検査対象物である亀裂を含む岩体から切り出された供試体Wの亀裂Wa以外の部分にトレーサ水B等を通さない場合には、亀裂Waの露出していない外周面W4、W4には止水手段を設ける必要がない。即ち、供試体Wにおける流体の流出するおそれのない外周面には止水手段を設ける必要がない。
【0044】
上記のように構成されたトレーサ試験装置においては、まず一定の圧力の第1フラッシング水Cを第1チャンバ3aに供給すべく、三方弁33を切り換える。そうすると、第1フラッシング水Cが第1チャンバ3aに充填されると共に、第1流出ポート32bから流出することになる。また、第1フラッシング水Cが亀裂Wa内を通って第2チャンバ4aに流出することになる。
【0045】
一方、ストップバルブ43を開いて、第2フラッシング水Dを第2チャンバ4aに流入させることにより、当該第2フラッシング水Dが第2チャンバ4aに流出した第1フラッシング水Cと共に、第2流出ポート42bから流出することになる。なお、第2チャンバ4aに流入する第2フラッシング水Dの圧力は、第1チャンバ3aに流入する第1フラッシング水Cの圧力より充分低く設定されている。即ち、第1チャンバ3a内の圧力は、第2チャンバ4a内の圧力より充分高く設定されている。
【0046】
そこで、第1フラッシング水Cに代えて、一定の圧力(第1フラッシング水Cと同圧)のトレーサ水Bを第1チャンバ3aに供給すべく三方弁33を切り換えると、この切り換えが電磁弁からなる三方弁33の作用により瞬時になされ、今まで第1チャンバ3a内を流れていた第1フラッシング水Cをそのまま連続的に押し流すようにして、トレーサ水Bが第1チャンバ3a内に流入し、第1流出ポート32bから第1センサ34を通って流出することになる。従って、トレーサ水Bを第1チャンバ3a内に短時間で充満させることができると共に、この充満したことを第1センサ34で即座に検知することができる。また、亀裂Wa内に第1フラッシング水Cに連続してトレーサ水Bを浸入させることができる。
【0047】
そして、トレーサ水Bは、第1センサ34から流出した後、三方弁33を介して再び第1チャンバ3aに流入すべく循環するようになっている。この循環の間、第1チャンバ3a内のトレーサ水Bの圧力は上述の一定の圧力に保たれるようになっている。この場合も、第1チャンバ3a内の圧力は、第2チャンバ4a内の圧力より充分高く設定されている。
【0048】
また、トレーサ水Bが第1フラッシング水Cに代わって第1チャンバ3aに短時間で充填されることから、当該第1チャンバ3a内のトレーサ水Bはほぼ同時に供試体Wの亀裂Wa内に浸入し、第2平面W2から第2チャンバ4a内に流出することになる。
【0049】
第2チャンバ4aに流出したトレーサ水Bは、当該第2チャンバ4a内を第2流入ポート42aから第2流出ポート42bに向かって流れる第2フラッシング水Dによって短時間で第2センサ44に送られることになる。従って、トレーサ水Bが第2チャンバ4aに流出したことも即座に検知することができる。
【0050】
以上、トレーサ水Bを第1チャンバ3aに短時間で充填することができると共に、この充填したことを第1センサ34によって短時間で検知することができ、かつトレーサ水Bが第2チャンバ4aに流出したことも第2センサ44によって短時間で検知することができるので、トレーサ水Bを第1センサ34で検知してから第2センサ44で検知するまでの時間を計測することにより、供試体Wの亀裂Waを通過する時間を正確に測定できる。従って、供試体Wの物質移行特性を定量的なデータでより正確に把握することができる。
【0051】
但し、トレーサ水Bが第1流入ポート32aから第1チャンバ3aに流入し第1センサ34に達するまでに短時間ではあるが時間の遅れが生じる。また、例えば最初に第1チャンバ3aに流入したトレーサ水Bは最も早く第2チャンバ4aに流出することになるが、この第2チャンバ4aに流出したトレーサ水Bが第2センサ44に達するまでにも短時間ではあるが時間の遅れが生じる。
【0052】
しかし、第1流入ポート32aから第1流出ポート32bに流れるトレーサ水Bの方向と、第2流入ポート42aから第2流出ポート42bに流れる第2フラッシング水Dの方向とが同一であるので、上述した各時間遅れが相殺されることになるので、亀裂Waを通過する時間をより正確に測定できる。即ち、供試体Wの物質移行特性をより正確に把握することができる。
【0053】
また、ここで、トレーサ水Bが第1流入ポート32aから第1チャンバ3aに流入して第1センサ34に達するまでの時間と、第2フラッシング水Dが第2流入ポート42aから第2チャンバ4aに流入して第2センサ44に達するまでの時間とが等しくなるように、トレーサ水B及び第2フラッシング水Dの流速を調整することにより、上述した各時間遅れを更に相殺することができる。即ち、供試体Wの物質移行特性を更に正確に把握することができる。
【0054】
一方、トレーサ水Bが第1チャンバ3a内に短時間で充填されることから、第1チャンバ3a内のトレーサ水Bがほぼ同時に供試体Wの亀裂Wa内に浸入することになる。従って、供試体Wの平均的な物質移行特性を把握することができる。
【0055】
また、トレーサ水Bを第1チャンバ3aに供給する前に第1フラッシング水Cを第1チャンバ3aに供給することにより、第1チャンバ3a内及び供試体Wの亀裂Wa内に第1フラッシング水Cを予め満たしておくことができる。
【0056】
更に、第2流入ポート42aから流入する流体として、第2フラッシング水Dを用いているので、第2チャンバ4aに流入したトレーサ水Bを第2センサ44に搬送することができる。従って、トレーサ水Bを第2センサ44に短時間で搬送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】この発明の一実施の形態としてのトレーサ試験装置を示す断面図である。
【図2】同トレーサ試験装置を示す図であって、図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】従来例として示したトレーサ試験装置の断面図である。
【図4】同トレーサ試験装置を示す図であって、図3のIV−IV線に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0058】
3 第1チャンバ構成部材
3a 第1チャンバ
4 第2チャンバ構成部材
4a 第2チャンバ
32a 第1流入ポート
32b 第1流出ポート
34 第1センサ
42a 第2流入ポート
42b 第2流出ポート
44 第2センサ
B トレーサ水(トレーサ流体)
C 第1フラッシング水(第1フラッシング流体)
D 第2フラッシング水(第2フラッシング流体)
W 供試体
W1 第1平面(第1面)
W2 第2平面(第2面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物における物質移行特性を検査するトレーサ試験装置であって、
上記検査対象物から切り出された供試体の第1面に沿って第1チャンバを構成する第1チャンバ構成部材と、
上記供試体における上記第1面に平行な第2面に沿って第2チャンバを構成する第2チャンバ構成部材とを備えてなり、
上記第1チャンバ構成部材には、上記第1チャンバに流体を流入させる第1流入ポートと、この第1流入ポートから流入し上記第1チャンバを通過した後の流体を当該第1チャンバから流出させる第1流出ポートとが設けられ、
上記第2チャンバ構成部材には、上記第2チャンバに流体を流入させる第2流入ポートと、この第2流入ポートから流入し上記第2チャンバを通過した後の流体を当該第2チャンバから流出させる第2流出ポートとが設けられ、
上記第1流出ポート側には、上記第1流入ポートから流入して上記第1チャンバを通過した後のトレーサ流体を検知する第1センサが設けられ、
上記第2流出ポート側には、上記第1チャンバから上記供試体を通って上記第2チャンバに流出した上記トレーサ流体であって、上記第2流入ポートから流入して上記第2チャンバを通過する流体によって搬送され、当該第2チャンバを通過した後の上記トレーサ流体を検知する第2センサが設けられていることを特徴とするトレーサ試験装置。
【請求項2】
上記第1流入ポートから流入する流体は、上記トレーサ流体又は第1フラッシング流体であり、
上記第2流入ポートから流入する流体は、上記第2チャンバ内に流出した上記トレーサ流体を第2流出ポート側に搬送する第2フラッシング流体であることを特徴とする請求項1に記載のトレーサ試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−58136(P2006−58136A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240297(P2004−240297)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000224754)核燃料サイクル開発機構 (51)
【Fターム(参考)】