説明

トロイダル型無段変速機

【課題】コストを増大させることなく、パワーローラを支持するスラスト転がり軸受の外輪側と内輪側とへ潤滑油を確実に振り分けて供給することのできる潤滑油供給構造を備えたトロイダル型無段変速機を提供する。
【解決手段】このトロイダル型無段変速機は、パワーローラ11を支持するスラスト転がり軸受24とシャフト23bとの間にリング形状の油分配部材110を備えている。この油分配部材110に、シャフト23bの油孔23eから供給される潤滑油をスラスト転がり軸受24の方へ分配して送る複数の分配路111,112が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の変速機などに利用可能なトロイダル型無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用変速機として用いるダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、図11および図12に示すように構成されている。図11に示すように、ケーシング50の内側には入力軸1が回転自在に支持されており、この入力軸1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが取り付けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車4が回転自在に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合によって連結されている。
【0003】
入力軸1は、図中左側に位置する入力側ディスク2とカム板7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材の結合によって構成された仕切壁13を介してケーシング50内に支持されており、これにより、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止されている。
【0004】
出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5,5によって、入力軸1の軸線Oを中心に回転自在に支持されている。また、図中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6を介して支持され、図中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、これら入力側ディスク2は入力軸1と共に回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面2a,2aと出力側ディスク3,3の内側面3a,3aとの間には、パワーローラ11(図12参照)が回転自在に挟持されている。
【0005】
図11中右側に位置する入力側ディスク2の内周面2cには、段差部2bが設けられ、この段差部2bに、入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられるとともに、入力側ディスク2の背面(図11の右面)がローディングナット9に突き当てられている。これによって、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が実質的に阻止されている。また、カム板7と入力軸1の鍔部1dとの間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、各ディスク2,2,3,3の内側面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力を付与する。
【0006】
図12は、図11のA−A線に沿う断面図である。図12に示すように、ケーシング50の内側には、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸14,14を中心として揺動する一対のトラニオン15,15が設けられている。なお、図12においては、入力軸1の図示は省略している。各トラニオン15,15は、支持板部16の長手方向(図12の上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
【0007】
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸23の基端部23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることにより、これら各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸23の傾斜角度を調節できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端側のシャフト23bの周囲には、各パワーローラ11が回転自在に支持されており、各パワーローラ11,11は、各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の基端部23aと先端側のシャフト23bとは、互いに偏心している。
【0008】
また、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在および軸方向(図12の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。各ヨーク23A,23Bは鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。各ヨーク23A,23Bの四隅には円形の支持孔18が4つ設けられており、これら支持孔18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受30を介して揺動自在に支持されている。また、ヨーク23A,23Bの幅方向(図11の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、この係止孔19の内周面は円筒面として、球面ポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング50に固定部材52を介して支持されている球面ポスト64によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、球面ポスト68およびこれを支持する駆動シリンダ31の上側シリンダボディ61によって揺動自在に支持されている。
【0009】
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力軸1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23のシャフト23bが基端部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,2,3,3の回転方向に対して同方向(図12で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力軸1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力軸1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
【0010】
また、パワーローラ11の外側面とトラニオン15の支持板部16の内側面との間には、パワーローラ11の外側面の側から順に、スラスト玉軸受(スラスト転がり軸受)24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉(以下、転動体という)26,26と、これら各転動体26,26を転動自在に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道は各パワーローラ11の外側面に、外輪軌道は各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
【0011】
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面と外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらパワーローラ11および外輪28が各変位軸23の基端部23aを中心として揺動することを許容する。
【0012】
さらに、各トラニオン15,15の一端部(図12の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン33,33が固設されている。そして、これら各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成された駆動シリンダ31内に油密に嵌装されている。これら各駆動ピストン33,33と駆動シリンダ31とで、各トラニオン15,15を、これらトラニオン15,15の枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
【0013】
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、入力軸1の回転は、押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2に伝えられる。そして、これら入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して各出力側ディスク3,3に伝えられ、更にこれら各出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
【0014】
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位する。例えば、図12の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ変位する。その結果、これら各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の内側面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動(傾転)する。
【0015】
その結果、各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の変速比が変化する。また、これら入力軸1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11およびこれら各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の基端部23a、23aを中心として僅かに回動する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
【0016】
ところで、上記構成のトロイダル型無段変速機においては、パワーローラ11を支持するスラスト玉軸受24に大きなスラスト方向の荷重がかかることから、このスラスト玉軸受24の転動体26,26の周囲に潤滑油を供給する構造を備えている。
【0017】
従来、このスラスト玉軸受24への潤滑油の供給は、スラスト玉軸受24の中央を通るシャフト23bに油孔を形成し、この油孔を介してスラスト玉軸受24の内側から潤滑油を吐出して行われている(例えば特許文献1,2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2010−156399号公報
【特許文献2】特開2005−069355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
潤滑油の過剰な供給は駆動損失を増大させるという一面があるため、潤滑油は各部に適量を供給するのが好ましい。スラスト玉軸受24の内側から潤滑油を供給する場合には、スラスト玉軸受24の内輪側と外輪28側とに潤滑油を適切な割合(例えば均等)に振り分けて供給できると効果的である。
【0020】
しかしながら、シャフト23bの油孔から潤滑油を吐出して内輪側と外輪28側とに適切な割合で振り分けるには、油孔の開口部を適切な位置に高精度に形成する必要がある。このため、シャフト23bの加工コストが増大するという課題が生じる。さらに、シャフト23bとスラスト玉軸受24との間には、比較的に大きな隙間がある。そのため、トロイダル型無段変速機を搭載した装置(自動車など)が移動して、この隙間部分に大きな慣性力が生じた場合、油孔の開口部が適切な位置に形成されていても、潤滑油が適切に振り分けられなくなる。
【0021】
本発明は、上記事情に鑑みて為されたもので、コストを増大させることなく、パワーローラを支持するスラスト転がり軸受の外輪側と内輪側とへ確実に潤滑油を振り分けて供給することのできる潤滑油供給構造を有するトロイダル型無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心に傾転し、かつ、シャフトを中心に前記パワーローラを回転自在に支持するトラニオンと、前記シャフトに通されて前記パワーローラと前記トラニオンとの間に配設され、かつ、前記パワーローラに加わるスラスト方向の荷重を受けつつ前記パワーローラを回転自在に支持するスラスト転がり軸受と、前記シャフトの外周面に開口し前記スラスト転がり軸受に向けて潤滑油を送る油孔とを備え、前記スラスト転がり軸受は、前記パワーローラによって形成される内輪と、外輪と、これらの内輪および外輪との間で転動する複数の転動体と、これら複数の転動体を保持する保持器とを備えるトロイダル型無段変速機において、前記シャフトに通されてこのシャフトと前記スラスト転がり軸受との間に配設されるリング形状の油分配部材を備え、前記油分配部材には、前記油孔から供給される潤滑油を前記スラスト転がり軸受の方へ分配して送る複数の分配路が設けられていることを特徴とする。
【0023】
この請求項1に記載の発明においては、シャフトの油孔から吐出される潤滑油が、先ず、リング形状の油分配部材に送られ、次いで、油分配部材の複数の分配路を通ってスラスト転がり軸受の方へ分配されて供給される。これにより、シャフトの油孔の形成位置に関係なく、潤滑油をスラスト転がり軸受の適切な箇所へ振り分けて供給することができる。また、シャフトとスラスト転がり軸受との間に油分配部材が介在するので、装置全体が移動してこの部分に大きな慣性力が働いた場合でも、この慣性力の影響を余り受けずに潤滑油を適切な箇所へ確実に振り分けて供給することができる。
【0024】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記複数の分配路は、一端側が前記油分配部材の内径側に開口され、他端側が前記油分配部材の前記外輪側に寄った部位と前記内輪側に寄った部位とにそれぞれ開口されていることを特徴とする。
【0025】
この請求項2に記載の発明においては、複数の分配路のうち、油分配部材の外輪側へ寄った部位に開口した分配路によって、スラスト転がり軸受の外輪側へ潤滑油を振り分けて供給することができる。また、油分配部材の内輪側へ寄った部位に開口した分配路によって、スラスト転がり軸受の内輪側へ潤滑油を振り分けて供給することができる。
【0026】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記油分配部材の内径側には、外径側に向かって凹んだ溝が周方向に沿って設けられ、前記複数の分配路の一端側が前記溝内に開口されていることを特徴とする。
【0027】
この請求項3に記載の発明においては、油分配部材の内径側に設けられた溝によって、シャフトの油孔から吐出された潤滑油を複数の分配路へ導くことができる。
【0028】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記複数の分配路は、前記油分配部材の周方向に分散されて設けられていることを特徴する。
【0029】
この請求項4に記載の発明においては、複数の分配路によって、スラスト転がり軸受に対して潤滑油を周方向にも分散させて供給することができる。
【0030】
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の発明において、前記油分配部材が樹脂により構成されていることを特徴とする。
【0031】
この請求項5に記載の発明においては、油分配部材を低コストに製造することができ、また、油分配部材すなわちトロイダル型無段変速機の部品の軽量化を図ることができる。
【0032】
請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の発明において、前記油分配部材に潤滑油中の異物の通過を遮るフィルタが設けられていることを特徴とする。
【0033】
この請求項6に記載の発明においては、フィルタによってスラスト転がり軸受へ異物が混入されてしまうことを防止できる。また、フィルタが油分配部材に設けられているので、トロイダル型無段変速機の組立工程において、油分配部材をフィルタとともに組み付けることができ、フィルタを別途組み付ける場合と比較して、組立工程の単純化を図ることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明のトロイダル型無段変速機によれば、コストの増大を招くことなく、パワーローラを支持するスラスト転がり軸受の外輪側と内輪側とに潤滑油を確実に振り分けて供給することができる。潤滑油が確実に振り分けられることから、この部分の潤滑油の供給量のうち余裕分を減らすことができ、潤滑油の総合的な供給量の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態に係るトロイダル型無段変速機においてパワーローラのスラスト玉軸受の周辺部を示す断面図である。
【図2】図2のA1−A1線に沿う断面図である。
【図3】油分配リングを示す斜視図である。
【図4】シャフトに形成される油孔の加工バラツキに対する油分配リングの作用を説明する図である。
【図5】油分配リングの第1の変形例を示す斜視図である。
【図6】図6の油分配リングの分配路の部分の縦断面図である。
【図7】油分配リングの第2の変形例を示す斜視図である。
【図8】図7の油分配リングの分配路の部分の縦断面図である。
【図9】油分配リングの第3の変形例(a)と第4の変形例(b)とを示す斜視図である。
【図10】油分配リングの第5の変形例(a)と第6の変形例(b)とを示す縦断面図である。
【図11】従来から知られているハーフトロイダル型無段変速機の具体的構造の一例を示す断面図である。
【図12】図11のA−A線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
なお、本発明の特徴は、パワーローラ11のスラスト玉軸受24に対する潤滑油の供給構造にあり、その他の構成および作用は前述した従来の構成および作用と同様である。そのため、以下においては、本発明の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分については、図11および図12と同一の符号を付して簡潔に説明するに留める。
【0037】
図1は、本発明の実施形態に係るパワーローラ11のスラスト玉軸受24の周辺部の断面図、図2は、図1のA1−A1線に沿う断面図である。なお、図2においては転動体26,26の中心から外れた断面を示しているため、転動体26,26の上下に隙間がある図となっている。図1および図2に示すように、スラスト玉軸受24の保持器27とシャフト23bとの間には油分配リング110が配設されている。この油分配リング110は、その中央を通るシャフト23bの油孔23eから吐出される潤滑油を適宜分配してスラスト玉軸受24へ送るためのものである。
【0038】
シャフト23bの内部には、軸方向に沿って伸びる油供給路23dと、この油供給路23dと交差してシャフト23bの外周面に開口する油孔23e,23fとが形成されている。このうち一方の油孔23eが、スラスト玉軸受24に対向する位置に設けられている。シャフト23bの油供給路23dには、トラニオン15の油孔16a〜16cと駆動ロッド29の油孔29a,29bとが連結され、これらの油孔29a,29b,16a〜16c,29を介して潤滑油が送られてくる。なお、シャフト23bの油孔23eまで潤滑油を導く構成は、上記の構成に制限されるものではなく、様々な構成を適用可能である。
【0039】
図3は、スラスト玉軸受24の内径側に隣接して配設される油分配リング110を示している。油分配リング110は、図3に示すように、中央にシャフト23bが通される円孔を有するリング形状であり、樹脂(例えばフッ素樹脂)によって成型されている。油分配リング110には、内径側から外径側へ通じる複数の分配路111,112が形成されている。
【0040】
複数の分配路111,112は、図2にも示されるように、潤滑油を送り出す開口部がスラスト玉軸受24の外輪28に近い側に配置された分配路112,112…と、内輪(パワーローラ11)に近い側に配置された分配路111,111…とを含んでいる。このような2系統の分配路111,112を有することで、シャフト23bの油孔23eから吐出される潤滑油がスラスト玉軸受24の内輪側と外輪28側とに適宜振り分けられる。また、これら複数の分配路111,112は、油分配リング110の周方向にも分散させて所定間隔ごとに設けられている。なお、周方向へは4つ以上の角度範囲に分散させて設けるとよい。
【0041】
油分配リング110の内径側には、外径側へ向かってくぼむV溝116が周方向に沿って、周方向の全周にわたって形成されている。各分配路111,112の一端側はこのV溝116内に面するように開口され、シャフト23bの油孔23eもこのV溝116に臨むように開口されている。
【0042】
このようなトロイダル型無段変速機においては、シャフト23bの油孔23eから吐出された潤滑油が、一旦、油分配リング110のV溝116に送られ、続いて、V溝116に沿って各分配路111,112へ送られる。そして、一方の分配路111,111…へ進入した潤滑油はスラスト玉軸受24の内輪(パワーローラ11)側へ、他方の分配路112…へ進入した潤滑油はその外輪28側へと振り分けられて供給される。
【0043】
したがって、本実施形態のトロイダル型無段変速機にあっては、シャフト23bの油孔23eから供給された潤滑油を、スラスト玉軸受24の内輪側と外輪28側とに確実に振り分けて供給することができる。潤滑油が確実に振り分けられることから、この部分に供給される潤滑油の余裕分を減らすことができ、潤滑油の総合的な供給量の低減を図ることができる。また、油分配リング110は樹脂により成型されているので、部品コストの低減および部品の軽量化を図ることができる。
【0044】
また、本実施形態のトロイダル型無段変速機にあっては、シャフト23bとスラスト玉軸受24との隙間を埋めるように油分配リング110が設けられている。そのため、装置全体が移動してこの隙間の部分に大きな慣性力が生じた場合でも、シャフト23bの油孔23eから吐出される潤滑油がスラスト玉軸受24の内輪側のみあるいは外輪28側のみへ偏って供給されてしまうといった現象が生じにくく、潤滑油を確実に両方へ振り分けて供給することができる。
【0045】
なお、油分配リング110において、スラスト玉軸受24の内輪に近い分配路111,111…と、外輪28に近い分配路112,112…とを、非対称に形成するようにしてもよい。例えば、図2に示されるように、内輪に近い分配路111の油導入側の開口をV溝116の端に近い箇所に設け、外輪28に近い分配路112の油導入側の開口をV溝116の中央に近い箇所に設けるようにしたり、あるいは、これらの逆の箇所にそれぞれ設けるようにしてもよい。このように、非対称に形成することで、V溝116に沿って移動する潤滑油の抵抗差に基づき、内輪側に送られる潤滑油と、外輪28側へ送られる潤滑油との割合を所望の割合に調整したり、あるいは、両者を均等にしたりすることができる。
【0046】
図4は、シャフト23bの油孔23eの加工バラツキに対する油分配リング110の作用を表している。本実施形態のトロイダル無段変速機にあっては、図4(a)〜(c)に示すように、シャフト23bの油孔23eの大きさや形成位置にバラツキが生じた場合でも、油孔23eから吐出される潤滑油は、一旦、油分配リング110の内径側で受け止められる。続いて、同様に油分配リング110のV溝116に沿って複数の分配路111,112へ送られて、スラスト玉軸受24へ振り分けられて供給される。したがって、シャフト23bの油孔23eの加工精度を高くする必要がなくなり、油孔23eの加工コストの低減を図ることができる。なお、このような作用を確実に得られるようにするため、油分配リング110はシャフト23bに圧入されるように構成するとよい。そして、シャフト23bの油孔23eの開口部が油分配リング110のV溝116内に収まる配置で固定されるようにするとよい。
【0047】
図5は、第1の変形例の油分配リング110Aを示している。図6は、この油分配リング110Aの分配路112の部分の縦断面図である。この変形例は、油分配リング110Aの内輪側の分配路111,111…と、外輪28側の分配路112,112…との形成位置を、リングの周方向に互い違いにずらしたものである。図6の縦断面図に示されるように、各分配路111,112はリングの中心を通る垂直な断面に沿って形成されている。このような構成にあっては、分配路111,112の個数を増やすことなく、潤滑油をスラスト玉軸受24の周方向により分散させて供給することが可能となる。
【0048】
図7は、第2の変形例の油分配リング110Bを示している。図8は、この油分配リング110Bの分配路111,112の部分の縦断面図である。この変形例は、油分配リング110Bの内輪側の分配路111,111…と、外輪28側の分配路112,112…とで、潤滑油を導き入れる開口部113,113…を共通にしたものである。各開口部113は、V溝116の最深部に配置されている。このような構成にあっては、スラスト玉軸受24の内輪側と外輪28側とに均等に潤滑油を供給することが可能となる。
【0049】
図9(a),(b)は、第3と第4の変形例の油分配リング110C,110Dをそれぞれ示している。これらの変形例は、油分配リング110C,110Dの分配路111,112の孔径をリングの周方向に長く形成したものである。図9(a)の油分配リング110Cは、内輪側の分配路111,111…と、外輪28側の分配路112,112…とを、リングの周方向の同一の角度位置に形成したものである。また、図9(b)の油分配リング110Dは、両者をリングの周方向に互い違いにずらして形成したものである。このような構成にあっては、スラスト玉軸受24に多量の潤滑油を供給する場合に潤滑油に及ぼされる抵抗を減らすことができる。
【0050】
図10(a),(b)は、第5と第6の変形例の油分配リング110E,110Fをそれぞれ示している。このうち図10(a)の変形例は、油分配リング110Eの全ての分配路111,112内に異物(コンタミ)の通過を遮るフィルタ118を配設したものである。また、図10(b)の変形例は、全ての分配路111,112の油導入側の開口を覆うように油分配リング110FのV溝116内にフィルタ118を配設したものである。これらのフィルタ118は、油分配リング110E,110Fの製造段階で、油分配リング110E,110Fに固着される。それにより、トロイダル型無段変速機の組立工程において、フィルタを別途組み付ける工程を省くことができる。
【0051】
なお、上述の実施の形態の油分配リング110,110A〜110Fにおいては、スラスト玉軸受24の内輪側へ潤滑油を送る分配路111,111…と外輪28側へ潤滑油を送る分配路112,112…との個数および孔径がそれぞれ同一になっている。しかしながら、これらの個数や孔径を異ならせて、内輪側と外輪28側とに供給される潤滑油の割合を所望の割合に調整するようにしてもよい。また、上述の実施の形態では、各分配路111,112における潤滑油を送り出す開口部が、油分配リング110,110A〜110Fの外径面に設けられているが、この開口部をリングの軸方向の両側面に設けるようにしてもよい。また、油分配リングの内径側に設けたV溝は、U字状や矩形状の溝としてもよい。さらに、油分配リングの内径側に溝を設けず、シャフト23bの外周面に油分配リングに沿った溝を設けて、この溝を介して油分配リングの複数の分配路へ潤滑油を導くように構成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、シングルキャビティ型やダブルキャビティ型などの様々なハーフトロイダル型無段変速機に適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
2 入力側ディスク
3 出力側ディスク
11 パワーローラ(内輪)
15 トラニオン
16 支持板部
23 変位軸
23b シャフト
23d 油供給路
23e 油孔
24 スラスト玉軸受
26 転動体
27 保持器
28 外輪
110 油分配リング(油分配部材)
110A〜110F 油分配リング(油分配部材)
111,112 分配路
116 V溝(溝)
118 フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心に傾転し、かつ、シャフトを中心に前記パワーローラを回転自在に支持するトラニオンと、前記シャフトに通されて前記パワーローラと前記トラニオンとの間に配設され、かつ、前記パワーローラに加わるスラスト方向の荷重を受けつつ前記パワーローラを回転自在に支持するスラスト転がり軸受と、前記シャフトの外周面に開口し前記スラスト転がり軸受に向けて潤滑油を送る油孔とを備え、
前記スラスト転がり軸受は、前記パワーローラによって形成される内輪と、外輪と、これらの内輪および外輪との間で転動する複数の転動体と、これら複数の転動体を保持する保持器とを備えるトロイダル型無段変速機において、
前記シャフトに通されてこのシャフトと前記スラスト転がり軸受との間に配設されるリング形状の油分配部材を備え、
前記油分配部材には、前記油孔から供給される潤滑油を前記スラスト転がり軸受の方へ分配して送る複数の分配路が設けられていることを特徴とするトロイダル型無段変速機。
【請求項2】
前記複数の分配路は、一端側が前記油分配部材の内径側に開口され、他端側が前記油分配部材の前記外輪側に寄った部位と前記内輪側に寄った部位とにそれぞれ開口されていることを特徴とする請求項1記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項3】
前記油分配部材の内径側には、外径側に向かって凹んだ溝が周方向に沿って設けられ、前記複数の分配路の一端側が前記溝内に開口されていることを特徴とする請求項2記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項4】
前記複数の分配路は、前記油分配部材の周方向に分散されて設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項5】
前記油分配部材は、樹脂により構成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項6】
前記油分配部材に、潤滑油中の異物の通過を遮るフィルタが設けられていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のトロイダル型無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−225479(P2012−225479A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95880(P2011−95880)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】