説明

トロイダル型無段変速機

【課題】 トロイダル型無段変速機の油圧アクチュエータにOリングを使用することを可能にしてシール性および耐久性を両立させる。
【解決手段】 ピストン33の第1、第2筒状部81,82はトラニオンの軸部31に相対回転可能かつ軸線18方向移動不能にそれぞれ第1、第2ベアリング87,88で支持されているので、軸部31が軸線18方向に移動しながら軸線18まわりに回転しても、ピストン33およびその第1、第2筒状部81,82は軸線18方向に移動するだけで軸線18まわりに回転することはない。従って、第1〜第4Oリング83〜86は、シリンダ32の内周面およびハウジング28,29の第1、第2軸受部29a,28aの内周面に対して軸線18方向に摺動するだけであり、これにより第1〜第4Oリング83〜86の耐久性を確保しながら高いシール性を得ることができ、オイルの漏洩を最小限に抑えることでオイルポンプの小型化や変速比の応答性の向上が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラニオンを油圧アクチュエータで軸線方向に移動させながら軸線まわりに回転させて変速比を無段階に変更するトロイダル型無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載されたトロイダル型無段変速機の油圧アクチュエータは、トラニオンの軸線上に一体に設けられたピストンロッドの外周に円板状のピストンを固定し、このピストンが摺動自在に嵌合するシリンダに形成した一対の油室に選択的に油圧を供給することで、トラニオンを軸線方向に移動させるようになっている。油圧アクチュエータによってトラニオンが軸線方向に移動すると、トラニオンに支持したパワーローラが入・出力ディスクから受ける反力で、トラニオンおよびピストンロッドが軸線まわりに所定角度回転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−11796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで上記特許文献1に記載された発明の油圧アクチュエータは、一対の油室を仕切るためにピストンの外周面に設けられてシリンダの内周面に当接するシール部材と、一対の油室からのオイルの漏洩を阻止するためにピストンロッドの外周面に設けられてハウジングの内周面に当接するシール部材とにシールリングが用いられており、ゴム製のOリングを用いることができなかった。
【0005】
その理由は、ピストンおよびピストンロッドは軸線方向に移動するだけでなく、軸線まわりに回転するため、シール部材がシリンダの内周面およびハウジングの内周面に軸線方向および円周方向の両方向に擦れてしまい、ゴム製のOリングでは充分な耐久性が得られないからである。
【0006】
シールリングを用いる場合には、相手部材に軸線方向および円周方向の両方向に擦れる場合でも必要な耐久性を得ることができるが、シール性の点でゴム製のOリングに劣るためにオイルが若干漏洩することが避けられず、油室のオイル量の増減によって変速比の制御精度に悪影響が及ぶことが懸念される。
【0007】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、トロイダル型無段変速機の油圧アクチュエータにOリングを使用することを可能にしてシール性および耐久性を両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、駆動源により駆動されるインプットシャフトと、前記インプットシャフトと共に回転する入力ディスクと、前記インプットシャフトに相対回転自在に支持された出力ディスクと、前記入力ディスクおよび前記出力ディスク間に揺動自在に配置された一対のパワーローラと、前記一対のパワーローラをそれぞれ支持する一対のトラニオンと、前記一対のトラニオンの軸部をその軸線方向の一方側および他方側に駆動することで、前記入力ディスクの回転数に対する前記出力ディスクの回転数を変化させて変速を行う一対の油圧アクチュエータとを備え、前記油圧アクチュエータは、前記軸部に設けられた環状のピストンと、ハウジングに形成されて前記ピストンが嵌合するシリンダと、前記ハウジングに前記シリンダを挟むように形成されて前記軸部が嵌合する第1、第2軸受部と、前記シリンダ内に前記ピストンを挟むように区画された一対の環状の油室とを備えるトロイダル型無段変速機において、前記ピストンは前記第1、第2軸受部にそれぞれ軸線方向移動可能に嵌合する第1、第2筒状部を備え、前記第1、第2筒状部は前記軸部に相対回転可能かつ軸線方向移動不能にそれぞれ第1、第2ベアリングで支持され、前記ピストンの外周面には前記シリンダの内周面に当接する第1Oリングが設けられるとともに、前記第1、第2筒状部の外周面には前記第1、第2軸受部の内周面にそれぞれ当接する第2、第3Oリングが設けられることを特徴とするトロイダル型無段変速機が提案される。
【0009】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記第1筒状部の外周面には前記第2Oリングに隣り合う第4Oリングが設けられ、前記ハウジングには前記第2Oリングおよび前記第4Oリング間に開口する第1油路が形成され、前記第1、第2筒状部および前記軸部間にはシールド型の前記第1、第2ベアリングにより閉塞された空間が形成され、前記第1筒状部には前記第1油路を前記空間に連通させる第2油路が形成され、前記軸部には前記空間を被潤滑部に連通させる第3油路が形成されることを特徴とするトロイダル型無段変速機が提案される。
【0010】
尚、実施の形態のエンジンEは本発明の駆動源に対応し、実施の形態のトラニオン軸18は本発明の軸線に対応し、実施の形態の油圧制御ブロック28,29は本発明のハウジングに対応し、実施の形態のピストンロッド31は本発明の軸部に対応し、実施の形態の上部油室34および下部油室35は本発明の油室に対応する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の構成によれば、一対の油圧アクチュエータで一対のトラニオンを軸線方向に相互に逆方向に移動させると、トラニオンに支持したパワーローラが入・出力ディスクから受ける反力荷重で揺動してトラニオンが軸線まわりに回転し、パワーローラが入・出力ディスクに当接する接触点の位置が変化することで変速比が変更される。
【0012】
ピストンの第1、第2筒状部はトラニオンの軸部に相対回転可能かつ軸線方向移動不能にそれぞれ第1、第2ベアリングで支持されているので、トラニオンが軸線方向に移動しながら軸線まわりに回転しても、ピストンおよびその第1、第2筒状部は軸線方向に移動するだけで軸線まわりに回転することはない。従って、ピストンの外周面に設けられた第1Oリングと、第1、第2筒状部の外周面に設けられた第2、第3Oリングとは、シリンダの内周面およびハウジングの第1、第2軸受部の内周面に対して軸線方向に摺動するだけで円周方向に摺動することがなくなり、それら第1〜第3Oリングの耐久性を確保しながら高いシール性を得ることができ、オイルの漏洩を最小限に抑えることでオイルポンプの小型化や変速比の応答性の向上が可能になる。
【0013】
また請求項2の構成によれば、潤滑用のオイルは、ハウジングに形成されて第2Oリングおよび第4Oリング間に開口する第1油路と、第1筒状部に形成された第2油路と、第1、第2筒状部および軸部間に形成されてシールド型の第1、第2ベアリングにより閉塞された空間と、軸部に形成された第3油路とを介してトロイダル型無段変速機の被潤滑部に供給される。このとき、前記潤滑用のオイルは第1筒状部に設けた第2Oリングによってシリンダ内の作動用のオイルと隔絶されるので、潤滑用のオイルと作動用のオイルとが混じり合うことが防止され、これにより潤滑用のオイルおよび作動用のオイルに粘度等が異なる最適のオイルを使用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】トロイダル型無段変速機のスケルトン図。
【図2】トロイダル型無段変速機の縦断面図。
【図3】図2の3−3線断面図。
【図4】図3の4−4線断面図。
【図5】図3の5−5線断面図。
【図6】図3の6部拡大図。
【図7】トラニオンに作用する曲げモーメントの釣り合いを説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図1〜図7に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
図1および図2に示すように、本実施の形態のトロイダル型無段変速機Tは自動車用の無段変速装置に設けられるもので、エンジンEのクランクシャフト11にダンパー12を介して接続されたインプットシャフト13には、実質的に同一構造の第1無段変速機構14Fおよび第2無段変速機構14Rが支持される。第1無段変速機構14Fは、インプットシャフト13に固定された概略コーン状の入力ディスク15と、インプットシャフト13に相対回転自在に支持された概略コーン状の出力ディスク16と、ローラ軸17まわりに回転自在に支持されるとともにトラニオン軸18,18まわりに傾転自在に支持されて前記入力ディスク15および出力ディスク16に当接可能な一対のパワーローラ19,19とを備える。入力ディスク15および出力ディスク16の対向面はトロイダル曲面から構成されており、パワーローラ19,19がトラニオン軸18,18まわりに傾転すると、入力ディスク15および出力ディスク16に対するパワーローラ19,19の接触点が変化する。
【0017】
第2無段変速機構14Rは、ドライブギヤ61を挟んで前記第1無段変速機構14Fと実質的に面対称に配置される。
【0018】
しかして、パワーローラ19,19が矢印a方向に傾転すると、入力ディスク15との接触点がインプットシャフト13に対して半径方向外側に移動するとともに、出力ディスク16との接触点がインプットシャフト13に対して半径方向内側に移動するため、入力ディスク15の回転が増速して出力ディスク16に伝達され、トロイダル型無段変速機Tのレシオが連続的にOD側に変化する。一方、パワーローラ19,19が矢印b方向に傾転すると、入力ディスク15との接触点がインプットシャフト13に対して半径方向内側に移動するとともに、出力ディスク16との接触点がインプットシャフト13に対して半径方向外側に移動するため、入力ディスク15の回転が減速して出力ディスク16に伝達され、トロイダル型無段変速機Tのレシオが連続的にLOW側に変化する。
【0019】
次に、図3〜図5を参照しながらトロイダル型無段変速機Tの構造を更に説明する。
【0020】
第1無段変速機構14Fの入力ディスク15は、一対のベアリング21,22でケーシングに支持されたインプットシャフト13と一体に形成される。第1、第2無段変速機構14F,14Rの出力ディスク16,16は一体に形成されており、インプットシャフト13にベアリング23,23を介して相対回転可能かつ軸方向に摺動可能に支持される。第2無段変速機構14Rの入力ディスク15は、インプットシャフト13にローラスプライン24を介して相対回転不能かつ軸方向摺動可能に支持される。インプットシャフト13の左端にシリンダ25が同軸に設けられており、このシリンダ25の内部に摺動自在に嵌合する第2無段変速機構14Rの入力ディスク15との間に油室26が形成される。従って、油室26に油圧を供給すると、第2無段変速機構14Rの入力ディスク15と、第1、第2無段変速機構14F,14Rの出力ディスク16,16とが、第1無段変速機構14Fの入力ディスク15に向けて押圧され、入力ディスク15,15および出力ディスク16,16とパワーローラ19…との間のスリップを抑制する荷重を発生させることができる。
【0021】
一対のパワーローラ19,19を支持する左右のトラニオン27,27がインプットシャフト13を挟むように配置されており、油圧制御ブロック28,29に設けた左右の油圧アクチュエータ30,30のピストンロッド31,31が前記トラニオン27,27の下端にそれぞれ一体に形成される。油圧アクチュエータ30,30は、油圧制御ブロック28に形成されたシリンダ32,32と、このシリンダ32,32に摺動自在に嵌合して前記ピストンロッド31,31の外周に同軸に嵌合してナット38,38で固定されたピストン33,33と、ピストン33,33の上側に区画された上部油室34,34と、ピストン33,33の下側に区画された下部油室35,35とから構成される。
【0022】
ここで、図6に基づいて油圧アクチュエータ30の構造を更に説明する。
【0023】
環状のピストン33の中心部から第1筒状部81および第2筒状部82がそれぞれ下向きおよび上向きに突出しており、第1筒状部81は下側の油圧制御ブロック29に形成した第1軸受部29aに摺動自在に嵌合するとともに、第2筒状部82は上側の油圧制御ブロック28に形成した第2軸受部28aに摺動自在に嵌合する。ピストン33の外周面には、シリンダ32の内周面に当接する第1Oリング83が設けられ、第1筒状部81の外周面には第1軸受部29aの内周面に当接する第2Oリング84および第4Oリング86が設けられ、第2筒状部82の外周面には第2軸受部28aの内周面に当接する第3Oリング85が設けられる。
【0024】
第1、第2筒状部81,82の内部に、シールド型の第1ベアリング87およびシールド型の第2ベアリング88を介してピストンロッド31が回転自在に支持される。下側の第1ベアリング87は、インナーレース87aがピストンロッド31の段部に当接してナット38で締結され、アウターレース87bが第1筒状部81の段部に当接してサークリップ89で係止さる。上側の第2ベアリング88は、インナーレース88aがピストンロッド31の外周面に圧入され、アウターレース88bが第2筒状部82の段部に当接してサークリップ90で係止さる。
【0025】
これにより、ピストンロッド31は、第1、第2筒状部81,82と一体にトラニオン軸18方向に移動可能となり、かつ第1、第2筒状部81,82に対してトラニオン軸18まわりに相対回転可能となる。そしてピストンロッド31の外周面、第1、第2筒状部81,82の内周面およびシールド型の第1、第2ベアリング87,88の間に、密閉された空間91が区画される。
【0026】
第1筒状部81の外周面の第2Oリング84および第4Oリング86に挟まれた位置に、油圧制御ブロック29の内部に形成した第1油路29bに連通する環状溝81aが形成されており、この環状溝81aは第1筒状部81を貫通する第2油路81bを介して空間91に連通する。また空間91はピストンロッド31の内部に形成した第3油路31aを介して被潤滑部であるパワーローラ19側に連通する。またシリンダ32の上部油室34には第4油路28bが連通し、シリンダ32の下部油室35には第5油路29cが連通する。
【0027】
図3および図4から明らかなように、油圧制御ブロック28の上面に概略正方形の下部支持板39がボルト40,40で固定される。下部支持部材39の4個の開口39a…には、断面半円形の下部トラニオン支持部27aと、それにローラ41…を介して対向する断面半円形のスペーサ42…と、下部トラニオン支持部27aおよびスペーサ42を回転自在に支持するベアリング43…とが配置される。
【0028】
図3および図5から明らかなように、上部トラニオン支持部27b…の外周にベアリング44…を介して球面継ぎ手45…が支持されており、概略正方形の上部支持板46の四隅に形成した開口46a…にそれぞれ球面継ぎ手45…が支持される。但し、4個の上部トラニオン支持部27b…のうちの3個は断面円形であるが残りの1個は断面半円形であり、それにローラ47を介して断面半円形のスペーサ48が対向する。そして協働して円形断面を構成する上部トラニオン支持部27bおよびスペーサ48の外周にベアリング44を介して1個の球面継ぎ手45が支持される。
【0029】
上部支持板46に荷重を付与する荷重付与手段70は、シリンダ71と、シリンダ71に摺動自在に嵌合するピストン72とを備えており、連結ロッド73の両端が上部支持板46とピストン72とにそれぞれピン74,75で連結される。そしてシリンダ71の内部のピストン72の両側に第1油室76および第2油室77が区画される。
【0030】
ピストンロッド31,31はトラニオン軸18,18と同軸上に設けられており、従ってトラニオン27,27はピストンロッド31,31を支軸としてトラニオン軸18,18まわりに傾転可能である。また左側の油圧アクチュエータ30の下部油室35に油圧が供給されると、右側の油圧アクチュエータ30の上部油室34に油圧が供給され、逆に左側の油圧アクチュエータ30の上部油室34に油圧が供給されると、右側の油圧アクチュエータ30の下部油室35に油圧が供給される。従って、左右のピストンロッド31,31は相互に逆方向に駆動され、左右のトラニオン27,27は、その一方がトラニオン軸18に沿って上動すると、その他方がトラニオン軸18に沿って下動する。このとき、下部支持板39および上部支持板46の作用で、左右のトラニオン27,27の上下動を同期させることができる。
【0031】
このとき、下部支持板39を油圧制御ブロック28にボルト40,40で固定しているので、それをボールジョイントで揺動自在に支持する場合に比べて組付性が大幅に向上する。しかも下部支持板39の四隅にそれぞれ支持される下部トラニオン支持部27aは、断面半円形のスペーサ42との間に配置したローラ41…によって自由に上下動することができ、かつ下部トラニオン支持部27aおよびスペーサ42の外周に配置したベアリング43によって自由に回転することができるので、下部支持板39を固定しても4本のトラニオン37の上下動および回転が阻害されることはない。
【0032】
また上部支持板46は4本のトラニオン27…の上端に支持されているだけなので、それをボールジョイントでケーシングに揺動自在に支持する場合に比べて組付性が大幅に向上する。しかも4本のトラニオン27…のうちの1本が、断面半円形の上部トラニオン支持部27bと断面半円形のスペーサ48との間に配置したローラ47…によって自由に上下動することができるので、トラニオン27…のスムーズな上下動が可能になる。なぜならば、上部支持板46の傾斜姿勢は3本のトラニオン27…の上端の位置によって一義的に決まるため、残りの1本のトラニオン27の上端の上下位置が少しでもずれると、上部支持板46に無理な荷重が加わることになるが、残りの1本のトラニオン27の上端を上部支持板46に対して上下動可能にすることで、上記無理な荷重の発生を防止することができるからである。
【0033】
図2および図3に示すように、トラニオン27,27にパワーローラ19,19を支持するピボットシャフト51,51は、トラニオン27,27にベアリング52,52を介して回転自在に支持されたトラニオン支持部53,53と、パワーローラ19,19をベアリング54,54を介して回転自在に支持するパワーローラ支持部55,55とを備えており、一方のピボットシャフト51はパワーローラ支持部55に対してトラニオン支持部53が下方に偏心しており、他方のピボットシャフト51はパワーローラ支持部55に対してトラニオン支持部53が上方に偏心している。そしてパワーローラ19,19とトラニオン27,27との間に、トラニオン27,27に対するパワーローラ19,19のスムーズな相対移動を許容すべくベアリング56,56が配置される。しかして、左右のトラニオン27,27が相互に逆方向に移動すると、入力ディスク15および出力ディスク16から受ける反力によってパワーローラ19,19がトラニオン27,27と共にトラニオン軸18,18まわりに図1に矢印a,bで示す方向に傾転し、第1、第2無段変速機構14F,14Rのレシオが相互に同期して連続的に変化する。
【0034】
図1および図2に示すように、ケーシングに一対のベアリング57,58を介してミッションシャフト59が回転自在に支持されており、このミッションシャフト59に設けたドリブンギヤ60が出力ディスク16,16と一体に設けたドライブギヤ61に噛合する。またインプットシャフト13に設けたドライブスプロケット62とオイルポンプ63に設けたドリブンスプロケット64とが無端チェーン65で接続され、インプットシャフト13に設けたドライブスプロケット66と図示せぬミッションシャフトに設けたドリブンスプロケットとが無端チェーン67で接続される。
【0035】
次に、上記構成を備えた実施の形態の作用について説明する。
【0036】
図7に示すように、パワーローラ19,19が傾転していないレシオ=1のとき、左側のトラニオン27のシリンダ32の下部油室35と、右側のトラニオン27のシリンダ32の上部油室34とに高圧PHが作用し、左側のトラニオン27のシリンダ32の上部油室34と、右側のトラニオン27のシリンダ32の下部油室35とに低圧PLが作用すると、左側のピストン33が上向きに付勢され(矢印A参照)、右側のピストン33が下向きに付勢される(矢印B参照)。
【0037】
その結果、左側のピストン33に上向きの荷重Fpが作用し、その反力荷重である同じ大きさの下向きの荷重Fpが入・出力ディスク15,16からパワーローラ19に作用する。入・出力ディスク15,16およびパワーローラ19の当接点からトラニオン軸18までの距離をmとすると、トラニオン27を下部支持板39に支持する支点Oまわりに時計方向の曲げモーメントFp×mが作用する。
【0038】
同様に、右側のトラニオン27については、右側のピストン33に下向きの荷重Fpが作用し、その反力荷重である同じ大きさの上向きの荷重Fpが入・出力ディスク15,16からパワーローラ19に作用する。入・出力ディスク15,16およびパワーローラ19の当接点からトラニオン軸18までの距離をmとすると、トラニオン27を下部支持板39に支持する支点Oまわりに時計方向の曲げモーメントFp×mが作用する。
【0039】
以上のように合計4本のトラニオン27の各々に時計方向の曲げモーメントFp×mが作用すると、そのトータルの曲げモーメントは4×Fp×mとなる。このとき、上部支持板46に連結された荷重付与手段70の第1油室76に高圧PHが作用して第2油室77に低圧PLが作用するため、ピストン72が荷重Frを発生して上部支持板46を左向きに付勢する。トラニオン27…を下部支持板39に支持する支点Oと上部支持板46との距離をLとすると、反時計方向の曲げモーメントFr×Lが時計方向の曲げモーメント4×Fp×mと釣り合うように荷重付与手段70が発生する荷重Frを決定すれば、即ち、Fr=4×Fp×(m/L)に設定すればトラニオン27…に曲げモーメントが作用しなくなるので、トラニオン27…の上端を支持する上部支持板46をケーシングに拘束しなくても、トラニオン27…の撓みを防止することができる。その結果、左右のパワーローラ19,19と入・出力ディスク15,16との面圧を均一化し、トロイダル型無段変速機Tのトルク伝達容量を増加させることができる。
【0040】
特に、トラニオン27,27のピストン33,33を駆動する油圧と荷重付与手段70を駆動する油圧とを共用化したので、油圧回路の構造を簡素化することができ、また荷重付与手段70のピストン72の受圧面積を変更するだけで荷重Frの大きさを容易に調整することができる。
【0041】
以上、トロイダル型無段変速機Tのレシオ=1の場合について説明したが、パワーローラ19,19は変速により傾転するので、特に荷重条件が厳しくなるLOW端の近傍で曲げモーメントを打ち消すように荷重付与手段70が発生する荷重Frを設定すれば、トロイダル型無段変速機Tのトルク伝達容量を更に効果的に増加させることができる。
【0042】
ところで、図6から明らかなように、本実施の形態の油圧アクチュエータ30によれば、ピストン33および第1、第2筒状部81,82は、トラニオン27と一体のピストンロッド31に相対回転可能かつトラニオン軸18方向に移動不能にそれぞれ第1、第2ベアリング87,88で支持されているので、トラニオン27がトラニオン軸18方向に移動しながらトラニオン軸18まわりに回転しても、ピストン33および第1、第2筒状部81,82はトラニオン軸18方向移動するだけでトラニオン軸18まわりに回転することはない。
【0043】
従って、ピストン33の外周面に設けられた第1Oリング83と、第1、第2筒状部81,82の外周面に設けられた第2〜第4Oリング84,85,86とは、シリンダ32の内周面および第1、第2軸受部29a,28aの内周面に対してトラニオン軸18方向に摺動するだけで円周方向に摺動することがないため、それら第1〜第4Oリング83,84,85,86の耐久性を確保しながら高いシール性を得ることができ、オイルの漏洩を最小限に抑えることでオイルポンプの小型化や変速比の応答性の向上が可能になる。
【0044】
またパワーローラ19を潤滑する潤滑用(トラクション用)のオイルは、油圧制御ブロック28,29に形成されて第2Oリング84および第4Oリング86間に開口する第1油路29bと、第1筒状部81に形成された環状溝81aおよび第2油路81bと、第1、第2筒状部81,82およびピストンロッド31間に形成されてシールド型の第1、第2ベアリング87,88により閉塞された空間91と、ピストンロッド31に形成された第3油路31aとを介して被潤滑部であるパワーローラ19に供給される。
【0045】
このとき、前記潤滑用のオイルは第1筒状部81に設けた第2Oリング84によってシリンダ32の下部油室35内の作動用のオイルと隔絶されるので、潤滑用(トラクション用)のオイルと作動用のオイルとが混じり合うことが防止される。これにより潤滑用のオイルおよび作動用のオイルに粘度等が異なる最適のオイルを使用することができる。
【0046】
以上、本発明の実施の形態を詳述したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0047】
例えば、実施の形態ではダブルキャビティのトロイダル型無段変速機Tを例示したが、本発明はシングルキャビティのトロイダル型無段変速機に対しても適用することができる。
【0048】
また実施の形態ではピストン33の下側および上側にそれぞれ第1筒状部81および第2筒状部82に設けているが、第1筒状部81および第2筒状部82の位置関係を逆にしても良い。
【符号の説明】
【0049】
E エンジン(駆動源)
13 インプットシャフト
15 入力ディスク
16 出力ディスク
18 トラニオン軸(軸線)
19 パワーローラ
27 トラニオン
28 油圧制御ブロック(ハウジング)
28a 第2軸受部
29 油圧制御ブロック(ハウジング)
29a 第1軸受部
29b 第1油路
30 油圧アクチュエータ
31 ピストンロッド(軸部)
31a 第3油路
32 シリンダ
33 ピストン
34 上部油室(油室)
35 下部油室(油室)
81 第1筒状部
81b 第2油路
82 第2筒状部
83 第1Oリング
84 第2Oリング
85 第3Oリング
86 第4Oリング
87 第1ベアリング
88 第2ベアリング
91 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源(E)により駆動されるインプットシャフト(13)と、
前記インプットシャフト(13)と共に回転する入力ディスク(15)と、
前記インプットシャフト(13)に相対回転自在に支持された出力ディスク(16)と、
前記入力ディスク(15)および前記出力ディスク(16)間に揺動自在に配置された一対のパワーローラ(19)と、
前記一対のパワーローラ(19)をそれぞれ支持する一対のトラニオン(27)と、
前記一対のトラニオン(27)の軸部(31)をその軸線(18)方向の一方側および他方側に駆動することで、前記入力ディスク(15)の回転数に対する前記出力ディスク(16)の回転数を変化させて変速を行う一対の油圧アクチュエータ(30)とを備え、 前記油圧アクチュエータ(30)は、前記軸部(31)に設けられた環状のピストン(33)と、ハウジング(28,29)に形成されて前記ピストン(33)が嵌合するシリンダ(32)と、前記ハウジング(28,29)に前記シリンダ(32)を挟むように形成されて前記軸部(31)が嵌合する第1、第2軸受部(29a,28a)と、前記シリンダ(32)内に前記ピストン(33)を挟むように区画された一対の環状の油室(34,35)とを備えるトロイダル型無段変速機において、
前記ピストン(33)は前記第1、第2軸受部(29a,28a)にそれぞれ軸線(18)方向移動可能に嵌合する第1、第2筒状部(81,82)を備え、前記第1、第2筒状部(81,82)は前記軸部(31)に相対回転可能かつ軸線(18)方向移動不能にそれぞれ第1、第2ベアリング(87,88)で支持され、前記ピストン(33)の外周面には前記シリンダ(32)の内周面に当接する第1Oリング(83)が設けられるとともに、前記第1、第2筒状部(81,82)の外周面には前記第1、第2軸受部(29a,28a)の内周面にそれぞれ当接する第2、第3Oリング(84,85)が設けられることを特徴とするトロイダル型無段変速機。
【請求項2】
前記第1筒状部(81)の外周面には前記第2Oリング(84)に隣り合う第4Oリング(86)が設けられ、
前記ハウジング(28,29)には前記第2Oリング(84)および前記第4Oリング(86)間に開口する第1油路(29b)が形成され、
前記第1、第2筒状部(81,82)および前記軸部(31)間にはシールド型の前記第1、第2ベアリング(87,88)により閉塞された空間(91)が形成され、
前記第1筒状部(81)には前記第1油路(29b)を前記空間(91)に連通させる第2油路(81b)が形成され、
前記軸部(31)には前記空間(91)を被潤滑部に連通させる第3油路(31a)が形成されることを特徴とする、請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−2536(P2013−2536A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133518(P2011−133518)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】