説明

トロンビン医薬製剤

【課題】トロンビンが安定に固定化された医薬製剤を得る。
【解決手段】交互吸着法によってトロンビンを酸性高分子及び/又は塩基性高分子とともに支持体上に交互吸着させて医薬製剤を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトロンビンを支持体上に固定化してなる、創傷治療剤、止血剤などの医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
トロンビンの生理的機能としてはフィブリノゲンをフィブリンに変換することによる止血作用が知られている。さらに、主にトロンビンレセプター(PAR1)を通じたシグナルによる線維芽細胞及び血管平滑筋細胞への増殖促進作用、血管新生促進作用(非特許文献1)及びPAR1に依存しない新たな経路による細胞増殖促進機能を有すること(特許文献1)、且つこれらの機能によって創傷治癒促進効果を有することが報告されている。
【0003】
トロンビンのみでなく種々の支持体を利用した止血剤はこれまで多数の報告がなされている。例えば、アルギン酸とトロンビンをカルボジイミドによって共有結合させた止血剤(特許文献2)、トロンビンとフィブリノゲンからなる止血用包帯(特許文献3)、コラーゲンシート等の生分解性のスポンジ状の支持体にトロンビン、フィブリノゲンを結合させ凍結乾燥させた止血剤、組織シーラント(特許文献4〜7)等が知られている。これらの支持体固定化トロンビンは、全て製造の最終工程で凍結乾燥を行う必要がある。しかしながら、凍結乾燥だけでは支持体に固定化されない、もしくは支持体の柔軟性が損なわれるという問題があった。
【特許文献1】特表2004−502739号公報
【特許文献2】特開平05−163157号公報
【特許文献3】特表2002−515300号公報
【特許文献4】米国特許第4,453,939号
【特許文献5】特表平9−504719号公報
【特許文献6】特表2000−510357号公報
【特許文献7】特表2001−513368号公報
【非特許文献1】血栓・止血・線溶 中外医学会社 松田道生ら編
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はトロンビンが安定に支持体上に固定化され、且つ支持体からのトロンビンの放出速度が使用目的に合わせて制御された、創傷治療剤、止血剤などとして有用な医薬製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、トロンビンと一種又は二種以上の高分子を交互吸着法などのイオン結合によって支持体上に固定化することで安定に固定化されることを見出した。また交互吸着などのイオン結合に用いる電荷を有する高分子、あるいはそれらの組み合わせや積層条件により支持体からのトロンビン放出速度が用途に応じて制御可能なこと、放出速度を制御することで、このような医薬製剤が創傷治療剤、止血剤などとして好適に用いることができることを見出して本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)イオン結合によりトロンビンが固定化用の高分子を介して支持体上に層状に固定化されてなるトロンビン層を有する医薬製剤であって、前記トロンビン層が、さらに、その上にイオン結合によって結合された高分子からなる高分子層を備えるトロンビン医薬製剤

(2)前記固定化用の高分子及び前記イオン結合によって結合された高分子が塩基性高分子及び/又は酸性高分子である(1)のトロンビン医薬製剤。
(3)前記固定化用の高分子が酸性高分子である(1)又は(2)のトロンビン医薬製剤。
(4)酸性高分子が硫酸基を有する多糖類であることを特徴とする(2)又は(3)のトロンビン医薬製剤。
(5)酸性高分子がヘパリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸のいずれかである(2)〜(4)のいずれかのトロンビン医薬製剤。
(6)前記トロンビン層及び前記イオン結合によって結合された高分子層が交互に積層された(1)〜(5)のいずれかのトロンビン医薬製剤。
(7)前記トロンビン医薬製剤が酸性高分子層/トロンビン層/塩基性高分子層の積層構造を一または複数有する、(1)〜(6)のいずれかのトロンビン医薬製剤。
(8)前記トロンビン医薬製剤が酸性高分子層/塩基性高分子層の積層構造を一または複数有する(7)のトロンビン医薬製剤。
(9)前記トロンビン医薬製剤が最表層に前記イオン結合によって結合された高分子層を有する(1)〜(8)のいずれかのトロンビン医薬製剤。
(10)前記トロンビン及び前記イオン結合によって結合された高分子が交互吸着法によって固定化されたものである、(1)〜(9)のいずれかのトロンビン医薬製剤。
(11)支持体が高分子フィルムである(1)〜(10)のいずれかのトロンビン医薬製剤。
(12)支持体が不織布である(1)〜(10)のいずれかのトロンビン医薬製剤。
(13)トロンビン医薬製剤が創傷治療剤または止血剤である、(1)〜(12)のいずれかのトロンビン医薬製剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明の医薬製剤はトロンビンが交互吸着などのイオン結合により結合された高分子層で保護されて安定に固定化されている。したがって、電荷を有する高分子の選択、それらの組み合わせ、積層条件等により支持体からのトロンビンの放出速度が用途に応じて制御可能であるので、創傷治療剤、止血剤などとして好適に用いることができる。
さらに、一般に、トロンビン溶液を常温で乾燥させた場合は、活性は完全に失われるので凍結乾燥が避けられないのに対し、本発明のように交互吸着などのイオン結合によってトロンビンを固定し高分子層で保護した場合は、凍結せずに常温で乾燥させた場合でもトロンビン活性の低下が小さい。交互吸着などのイオン結合によってトロンビンと電荷を有する高分子を適宜回数交互吸着すると所望の固定化量を容易に得られる。しかも、医薬製剤として投与した場合の生体内における溶出量の低下が小さい。したがって、本発明の医薬製剤は製造も容易であり、保存性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の医薬製剤は、イオン結合によりトロンビンが固定化用の高分子を介して支持体上に層状に固定化されてなるトロンビン層を有する医薬製剤であって、前記トロンビン層が、さらに、その上にイオン結合によって結合された高分子からなる高分子層を備えるトロンビン医薬製剤である。トロンビンと高分子をイオン結合によって結合させるためには、トロンビン及び高分子を交互吸着法によって支持体上に固定化することが好ましい。トロンビン及び高分子は交互に層状に固定化されることが好ましい。
交互吸着法とは、正電荷を有する高分子の水溶液と、負電荷を有する高分子の水溶液とを用意し、これらに、被着体を交互に接触させる(浸漬する)ことにより、被着体上に高分子を交互に積層する方法である。交互吸着によるタンパク質の積層に関しては特開平9−107952に開示されている。
【0009】
本発明の医薬製剤の製造において、高分子は酸性高分子、塩基性高分子のいずれか一方又は両方を用いることができる。
酸性高分子としては、トロンビンの等電点であるpH7.4未満のpH、例えば、pH6.0の溶液中で負電荷を有する高分子を用いることができる。具体的には、硫酸基又はカルボキシル基を有する高分子を挙げることができる。硫酸基を有する高分子としては、硫酸基を有する多糖類などが挙げられ、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸などが挙げられる。カルボキシル基を有する高分子としては、アルギン酸、ヒアルロン酸などが挙げられる。
硫酸基を有する多糖類に対しトロンビンはエクソサイトIIを介した特異的親和性を有し、その親和性はpHにあまり影響されないため、酸性高分子として硫酸化多糖を用いた場合には、より安定で強い交互吸着が達成される。
【0010】
塩基性の高分子としては、トロンビンの等電点であるpH7.4より大きいpHの溶液中で正電荷を有する高分子を用いることができる。具体的には、例えば、キトサン、ポリリジンなどを用いることができる。
【0011】
支持体としては、トロンビンを交互吸着により固定化できるものであれば特に制限されず、例えば、支持体の性状としては、電荷を有していても良いし、有しなくても良い。すなわち、電荷を有しない高分子フィルムや不織布などであっても電荷を有する物質を塗布して電荷を付与して用いることができる。支持体の形状としては、特に制限されないが、例えば、シート状、ビーズ状の形状にすることができる。
高分子フィルムとしては、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、などが挙げられる。
具体的には、これらの高分子フィルムは電荷を有しないか、有していても極めて小さいので、例えば、軟性塩化ビニルなどの高分子フィルムに、電荷を有する物質、例えば、キトサンやアルギン酸などを塗布して電荷を付与したものを用いることが好ましい。軟性塩化ビニルにキトサン又はアルギン酸等を塗布する場合、例えば、中性で不溶性のキトサンを1%程度の酢酸等、酸性条件にて溶かし、その溶液をフィルムに塗り、その後乾燥することによって電荷を付与した支持体を得ることができる。また、高分子フィルムに対しコロナ処理、オゾン処理、プラズマ処理等の表面処理を行うことによって極性の大きな官能基を高分子に導入し、電荷を付与すると共に親水性の向上を図ることができる。そして、電荷を有する物質を塗布する際にも表面処理を行うとより効率的に電荷を有する物質を付着することが出来る。
【0012】
また、不織布を支持体として用いることもできる。不織布としては、アルギン酸などの電荷を有する物質を不織布として用いてもよいし、キチンなどのそれ自体それほど電荷を持たない物質に対しても、対となる正負の電荷を有する高分子同士をその上に塗布や交互吸着などで積層させて表面の電荷を増幅することによってトロンビンを効率的に固定化することができる。不織布としては、そのほかにも、ポリグリコール酸、キトサンなどが挙げられる。
【0013】
電荷を有する支持体を高分子溶液及びトロンビン溶液に交互に浸漬させることで、トロンビンを支持体上に固定化することができる。
交互吸着に用いるトロンビンおよび高分子溶液の濃度は特に制限されないが、標準的には、トロンビン溶液が0.001〜0.01mg/ml、高分子溶液は0.1〜1mg/mlである。また、必要に応じて酸、塩基などの添加あるいは緩衝液の使用によって、タンパク質および高分子が充分に荷電を持つようになるpHに溶液のpHを調整することもできる。
各溶液への浸漬時間は特に制限されないが、通常、それぞれの溶液に1〜30分間浸漬する。なお、各溶液に浸漬したのちには吸着されない高分子やトロンビンの洗浄操作を行う
ことが好ましい。
交互吸着は繰り返し行ってもよい。すなわち、支持体を高分子溶液、トロンビン溶液、さらに、高分子溶液、トロンビン溶液というように浸漬を繰り返し行ってもよい。
交互吸着の回数を調節することで目的のトロンビン固定化量が得られる。
【0014】
浸漬の順序は電荷が交互になるような順序が好ましい。
例えば、酸性高分子又は塩基高分子のいずれか一方とトロンビンを交互吸着させる場合、
(i)酸性高分子→トロンビン(pH7.4未満の溶液)→酸性高分子→トロンビン(pH7.4未満の溶液)の順、又は
(ii)塩基性高分子→トロンビン(pH7.4超の溶液)→塩基性高分子→トロンビン(pH7.4超の溶液)の順で交互吸着させることができる。
また、酸性高分子、塩基性高分子の両方とトロンビンを交互吸着させる場合は、
(iii)酸性高分子→トロンビン(pH7.4未満の溶液)→塩基性高分子→酸性高分子→トロンビン(pH7.4超の溶液)→塩基性高分子の順、又は
(iv)塩基性高分子→トロンビン(pH7.4超の溶液)→酸性高分子→塩基性高分子→トロンビン(pH7.4超の溶液)→塩基性高分子の順などの順番により交互吸着させることができる。ただし、交互吸着の順序はこれらに限定されない。
具体例としては、コンドロイチン硫酸→トロンビン(pH6から7)→キトサン(pH7.4超)の順で交互吸着させる場合などが挙げられる。
【0015】
トロンビンの放出速度は使用する高分子の荷電および分子量によっても調整出来る。
すなわち、(I)(II)のように酸性高分子又は塩基高分子のいずれか一方とトロンビンを交互吸着させた場合は、生体内において放出の比較的速いトロンビン含有医薬製剤が得られる。トロンビンの等電点は約7.4であり、血液等生理的pHに近い。よって使用時に血液や体液に接触したトロンビンの電荷はほぼ中性になる。この為電荷を有する高分子とトロンビン間のイオン結合が消失または著しく低下し、すみやかに放出されると思われる。
この場合、ビーズ状の支持体に固定化することで出血性の胃潰瘍などに対する経口用途の止血剤として用いることも可能である。
一方、(III)(IV)のように酸性高分子及び塩基性高分子の両方とトロンビンを交互吸着させ
た場合、すなわち、トロンビンが酸性高分子と塩基性高分子にはさまれるように交互吸着させた場合、特に、はさまれた構造が複数連続している場合は、トロンビンの放出速度が遅くなり、徐放性のトロンビン含有医薬製剤が得られる。この理由は、投与時、生理的条件(例えばpH7.4)においてトロンビン(等電点pH7.4)の電荷は消失して結合は解かれるが、酸性高分子及び塩基性高分子間の結合は保持される為と考えられる。
このような医薬製剤は、長時間治癒効果を発揮する為に効果が長時間持続する必要のある創傷治療剤などとして使用することが出来る。
【0016】
不織布を支持体として用いたものとして、例えば、キチン不織布にコンドロイチン硫酸、キトサンとトロンビンを交互吸着させた医薬製剤が挙げられる。殆ど電荷を有していないキチン不織布上にキトサンやコンドロイチン硫酸等の荷電を有する高分子を塗布や交互吸着によって積層させて、さらにその上にトロンビンとそれらの高分子とを交互吸着させることで本発明の医薬製剤を得ることが出来る。
また、アルギン酸を用いたものとして、アルギン酸不織布にキトサンやコンドロイチン硫酸等の荷電を有する高分子を塗布や交互吸着などで積層させて、さらにその上にトロンビンとそれらの高分子とを交互吸着させて得られる医薬製剤を挙げることが出来る。
一般に、トロンビン溶液に不織布を浸し単純に凍結乾燥した場合にはトロンビンが固定化しない、もしくは、塩、アミノ酸、糖類などを含有する溶液を用いた場合、その組成に
よっては不織布の柔軟性が失われる。一方、上記のような方法にて不織布上で交互吸着を行った場合においては、常温でトロンビンが固定化し、しかも、不織布の柔軟性が損なわれることは無い。
【0017】
高分子フィルムを支持体として用いたものとして、例えば、軟性塩化ビニル上にキトサン又はアルギン酸等を吸着させ、その上にトロンビンを吸着させたものなどが挙げられる。
一般的に塩や高分子等と蛋白質をフィルム上で凍結乾燥した場合は、これらがフィルムに固定化しない、もしくはフィルムに固定化した場合でもフィルムの物理的性質(柔軟性)が失われることが多い。しかしながら、本発明のように交互吸着にてフィルム上にトロンビンを固定化した場合に、フィルムの物理的性質(柔軟性)が損なわれることは殆ど無い。
創傷治癒においては、「創傷治療の常識非常識」(三輪書店)、「これからの創傷治療」(医学書院)などにおいて、創傷及び床ずれ等の患部を乾燥させず、湿潤状況下に保つ事で良好な治癒が期待される事が記載されている。即ち、サランラップ(登録商標)等により患部を覆うだけでも良好な治癒が期待される(褥瘡のラップ療法)ことが知られている。
したがって、本発明の高分子フィルムにトロンビンを交互吸着させた医薬製剤のように、柔軟性を保持し、且つトロンビンを除放することのできるフィルム状医薬製剤を用いることで、湿潤療法(ラップ療法)にさらにトロンビンによる創傷治癒促進効果を付与した創傷治療フィルムを容易に得ることができる。
【0018】
本発明の医薬製剤において支持体上に交互吸着させるトロンビンは、血液凝固作用及び/又は細胞増殖促進作用などの薬効を有する限り、特に制限されず、ヒトのトロンビンであってもよいし、非ヒト動物のトロンビンであってもよい。ただし、本発明の医薬製剤を人に適用する場合は、ヒト由来トロンビン又は牛由来トロンビンを用いることが好ましい。野生型ヒトトロンビンのアミノ酸配列は、Swissprotのデータベースにアクセション番号P00734として開示されている。
トロンビンは、例えば、ヒト又は非ヒト動物から精製したものを用いることができる。例えば、ヒト又は非ヒト動物などの血漿から抽出して精製したプロトロンビンにカルシウム塩とトロンボプラスチンを作用させることにより得られるトロンビンを用いることができる。
また、トロンビンは、市販のものを用いてもよいし、化学合成したものを用いてもよい。
さらに、トロンビンは、遺伝子組換えにより得られるトロンビンを用いることもできる。例えば、ヒトや非ヒト動物のトロンビン遺伝子やプロトロンビン遺伝子を、大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞などの宿主で発現させることにより生産される組換えトロンビンを用いてもよい。プロトロンビンを組換え生産する場合は、得られたプロトロンビンをエカリンなどで活性化して用いる。組換えトロンビンの製造方法の詳細については、例えば、国際公開03/004641号パンフレットを参照できる。
【0019】
支持体にトロンビンを固定化し、そのトロンビン上にさらに一回又は複数回の交互吸着によって塩基性高分子または酸性高分子を積層する。この時、最表層を高分子にすることにより、固定化したトロンビンの酵素活性の安定性を飛躍的に増すことが可能である。安定性が増すことで医薬製剤として使用する場合に室温で長期間保存することが可能となる。
通常、トロンビン等の蛋白質を室温下、真空管層または送風等によって乾燥させた場合完全に活性を失うが、交互吸着法によってトロンビンを支持体に固定化した場合、支持体は凍結乾燥せずに室温で真空乾燥または室温で送風等によって乾燥した場合でもトロンビン活性を有する。
真空乾燥又は送風乾燥は凍結乾燥に比較すると簡便な工程で行うことが出来る。
【0020】
本発明の医薬製剤はトロンビンの薬効を利用した医薬製剤として用いることができる。例えば、トロンビンの止血作用を利用した止血剤として用いることができる。トロンビンの細胞増殖促進作用、血管新生促進作用を利用した創傷治療剤として用いることもできる。
本発明の医薬製剤は、例えば、シート状にし、創傷部位や止血部位に貼ることによって用いることができる。
【実施例】
【0021】
[実施例1]
軟性塩化ビニルフィルム(4cm×5cm)(タフ二―ル、100μm、日本ウェーブロック社製)にコロナ処理(SOFTAL社製 electronic GmbH Hamburg Type3003)を行い、1mg/mlのキトサン(和光純薬社製、キトサン1000)0.1%酢酸溶液100mlに浸漬した後、室温にて真空状態で乾燥させた。
乾燥後のフィルムを下記溶液A,B,Cの順を1サイクルとし、それぞれの溶液に順に20分ずつ4回浸漬した。溶液A,B,C浸漬終了時に精製水(100ml)に1分間浸漬して洗浄した。
溶液A;0.01%コンドロイチン硫酸(和光純薬社製)(水酸化ナトリウムでpH8.5に調製)
溶液B;トロンビン溶液(10μg/ml バッファー組成10mM Tris-HCl pH8.5)
溶液C;0.01%キトサン溶液(和光純薬社製、キトサン水溶性)(水酸化ナトリウムでpH8.5に調製)
サンプルとして1サイクル目と4サイクル目の浸漬が終了したフィルムから洗浄時に浸漬した精製水を十分切った後、それぞれ1cm2切り抜き、1M NaCl 50mM NaHCO3 1mlに2時間浸しトロンビンを完全に溶出させた後、溶出したトロンビン活性をchromozyme TH (SIGMA社製)によって測定した。測定に際しては、予めchromozyme THを用いて測定した標準トロンビン活性の検量線から換算した。イオン結合でトロンビンを高分子に結合しただけではトロンビンの活性は殆ど損なわれないので、便宜的にトロンビンの活性が全く損なわれていないものと仮定し、得られたトロンビン活性値から、溶出したトロンビン量を算出し、トロンビンの固定化量とした。結果は、1サイクル目のフィルムからの溶出は0.4μg/cm2、4サイクル目のフィルムからの溶出は1.3μg/cm2であった。
【0022】
[実施例2]
キチン不織布(3cm×3cm;べスキチン、ユニチカ社製)を1mg/mlのキトサン(和光純薬社製、キトサン1000)0.1%酢酸溶液100mlに浸漬した後、室温にて真空状態で乾燥させた。
乾燥後のキチン不織布を溶液A,B,Cの順を1サイクルとし、それぞれの溶液に順に20分ずつ浸漬した。実施例1同様にA,B,C浸漬の終了時に精製水(100ml)に1分間浸漬し洗浄した。
サンプルとして各サイクル終了毎の不織布から洗浄時に浸漬した精製水を十分切った後、1cm2ずつ切り取り、それぞれ1M NaCl 50mM NaHCO3 1mlに浸しトロンビンを完全に溶出させた後、溶出したトロンビン固定化量を実施例1同様に測定した。各サイクルにおけるサンプルのトロンビン固定化量は図1のようになった。
【0023】
[実施例3]
アルギン酸不織布(4×4cm;ソーブサンプラス、アルケア社製)を直接、溶液C、A、Bの順を1サイクルとし、それぞれの溶液に20分ずつ4回浸漬した。実施例1同様にA,B,C浸漬終了時に精製水(100ml)に1分間浸漬し洗浄した。
サンプルとして各サイクル終了毎の不織布から洗浄時に浸漬した精製水を十分切った後
、1cm2ずつ切り取り それぞれ1M NaCl 50mM NaHCO3 1mlに浸しトロンビンを完全に溶出させた後、溶出したトロンビン活性をchromozyme TH (SIGMA社製)によって測定した。各サンプルのトロンビン固定化量を実施例1同様に測定した。各サイクルにおけるサンプルのトロンビン固定化量は図2のようになった。
【0024】
[実施例4]
キチン不織布(3cm×3cm;べスキチン、ユニチカ社製)を直接、溶液A,B,C,Aの順に20分間ずつ浸漬した。浸漬の終了時に精製水(100ml)に1分間浸漬し洗浄した。得られた不織布を凍結乾燥しハイバリア専用保存袋(アズワン社製)にアイディ乾燥剤(アズワン社製)を入れ密閉し、37℃にて2週間保存し、保存前後の固定化トロンビン量を実施例1同様に測定比較した。凍結乾燥前は1.17μg/cm2であったのに対し、凍結乾燥直後は0.873μg/cm2であり、凍結乾燥してもトロンビンの固定化量、活性とも低下は認められなかった。また、1週間保存後は1.01μg/cm2、2週間後は0.926μg/cm2であり、凍結乾燥前に比べ活性低下は認められなかった。
【0025】
[実施例5]
キチン不織布(3cm×3cm;ベスキチン、ユニチカ社製)を直接、溶液A,B,C,A,B,C,A,Bの順に20分間ずつ浸漬した。浸漬の終了時に精製水(100ml)に1分間浸漬し洗浄した。得られた不織布を凍結乾燥しハイバリア専用保存袋(アズワン社製)に アイディ乾燥剤(アズワン社製)を入れ密閉し、37℃にて3週間保存し、保存前後の固定化トロンビン量を実施例1同様に測定比較した。保存前、10日後、17日後のトロンビン活性を図3に示す。17日後も凍結乾燥前と同等の活性を保持していることがわかった。
【0026】
[比較例1]
キチン不織布(3cm×3cm;べスキチン、ユニチカ社製)を溶液A,Bの順に20分間ずつ浸漬した。溶液A,Bの浸漬終了時にそれぞれ精製水100mlに1分間浸漬し洗浄した。得られた不織布を凍結乾燥しハイバリア専用保存袋(アズワン社製)にアイディ乾燥剤(アズワン社製)に入れ密閉し、37℃にて1週間保存し、保存前後の固定化トロンビン量を実施例1同様に測定した。凍結乾燥前は1.2μg/cm2であったのに対し1週間保存後は0.60μg/cm2でありトロンビンの固定化量および活性は半分に低下した。
【0027】
[実施例6]
実施例1記載の方法で軟性塩化ビニル上に溶液A,B,Cの順に20分間ずつ2サイクル浸漬して固定化した後、25℃にて真空状態で3時間乾燥した。
実施例1の方法に従い活性を測定したところ、乾燥前のトロンビン固定化量は0.037μg/mlであり乾燥後のトロンビン固定化量は0.024μg/mlであった。交互吸着によってトロンビンを固定化した場合、常温にて真空乾燥した場合でも60%以上の活性が保存されることがわかった。
【0028】
[実施例7]
キチン不織布(3cm×3cm;べスキチン、ユニチカ)を1mg/mlのキトサン(和光純薬社製、キトサン1000)0.1%酢酸溶液100mlに浸漬後、室温にて真空状態で乾燥させた。
乾燥後のキチン不織布を溶液B,C,B,C,B,C,Bの順に20分間ずつ浸した。溶液B,Cの浸漬終了時にそれぞれ精製水100mlに1分間浸漬し洗浄した。
不織布から洗浄時に浸漬した精製水を十分切った後、得られたトロンビン固定化キチン不織布をPBS(リン酸緩衝化生理食塩水 pH7.4)に浸し15分、30分、45分、1200分後のサンプルを作成し、活性測定を実施例1と同様に行った。得られた活性の結果を図4に示す。図4の縦軸は、トロンビン固定化キチン不織布を1cm2数箇所切り抜き、50mM NaHCO3 と1M
NaCl 1mlとの混合液に2時間浸漬し、トロンビンを完全に溶出させて求めた吸着量に対する各サンプルの溶出量の百分比である。この結果、キトサンとトロンビンによる交互吸着
体はPBS中において15分以内にほぼ全てのトロンビンが不織布より溶出されたことが判った。
【0029】
[実施例8]
キチン不織布(3cm×3cm;べスキチン、ユニチカ社製)を溶液A,B,C,A,B,C,A,B,C,A,Bの順に20分間ずつ浸した。溶液A,B,Cの浸漬終了時にそれぞれ精製水100mlに1分間浸漬し洗浄した。
洗浄時に浸漬した精製水を十分切った後、得られたトロンビン固定化キチン不織布をPBS(pH7.4)に浸し、30分、45分、60分、120分、210分、360分後のサンプルを作成し、活性測定を実施例1と同様に行った。得られた活性を図5に示す。縦軸は図4と同じである。この結果より、コンドロイチン硫酸、トロンビン、キトサンの交互吸着体はPBS中において、6時間にわたり徐々にトロンビンが不織布より溶出することが判る。また、実施例7のキトサン、トロンビンにより交互吸着法で固定化された場合に比較し、より、ゆっくり溶出されることが判った。
【0030】
[実施例9]
キチン不織布(4×4cm、ベスキチン、ユニチカ社製)を下記の溶液D,E,D,E, D,E,D,Eの順にそれぞれ20分間浸漬した。溶液D,Eの浸漬終了時にそれぞれ精製水100mlに1分間浸漬し洗浄した。
不織布から洗浄時に浸漬した精製水を十分切った後、得られたトロンビン固定化キチン不織布をPBS(pH7.4)に浸し、3分、5分、15分、120分後のサンプルを作成し、活性測定を実施例1と同様に行った。得られた活性を図6に示す。縦軸は図4と同じである。この結果、アルギン酸、トロンビンの交互吸着体はPBS中において、3分後に約80%のトロンビンが溶出されることが判った。
D:0.01%アルギン酸(和光純薬社製、アルギン酸、非膨潤性)水溶液を水酸化ナトリウムでpH6に調製。
E:10μg/mlトロンビン溶液(10mM リン酸バッファー、pH6)
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】キチン不織布に固定化されたトロンビンの量を示す図。
【図2】アルギン酸不織布に固定化されたトロンビンの量を示す図。
【図3】キチン不織布に固定化されたトロンビンを37℃で保持したときのトロンビン活性を示す図。
【図4】キチン不織布にトロンビンとキトサンを固定化したときのトロンビンの溶出速度を示す図。
【図5】キチン不織布にコンドロイチン硫酸、トロンビン、キトサンを固定化したときのトロンビンの溶出速度を示す図。
【図6】キチン不織布にアルギン酸、トロンビンを固定化したときのトロンビンの溶出速度を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン結合によりトロンビンが固定化用の高分子を介して支持体上に層状に固定化されてなるトロンビン層を有する医薬製剤であって、前記トロンビン層が、さらに、その上にイオン結合によって結合された高分子からなる高分子層を備えるトロンビン医薬製剤。
【請求項2】
前記固定化用の高分子及び前記イオン結合によって結合された高分子が塩基性高分子及び/又は酸性高分子である請求項1記載のトロンビン医薬製剤。
【請求項3】
前記固定化用の高分子が酸性高分子である請求項1又は2に記載のトロンビン医薬製剤。
【請求項4】
酸性高分子が硫酸基を有する多糖類であることを特徴とする請求項2又は3に記載のトロンビン医薬製剤。
【請求項5】
酸性高分子がヘパリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸のいずれかである請求項2〜4のいずれか一項に記載のトロンビン医薬製剤。
【請求項6】
前記トロンビン層及び前記イオン結合によって結合された高分子層が交互に積層された請求項1〜5のいずれか一項に記載のトロンビン医薬製剤。
【請求項7】
前記トロンビン医薬製剤が酸性高分子層/トロンビン層/塩基性高分子層の積層構造を一または複数有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載のトロンビン医薬製剤。
【請求項8】
前記トロンビン医薬製剤が酸性高分子層/塩基性高分子層の積層構造を一または複数有する請求項7に記載のトロンビン医薬製剤。
【請求項9】
前記トロンビン医薬製剤が最表層に前記イオン結合によって結合された高分子層を有する請求項1〜8のいずれか一項に記載のトロンビン医薬製剤。
【請求項10】
前記トロンビン及び前記イオン結合によって結合された高分子が交互吸着法によって固定化されたものである、請求項1〜9のいずれか一項に記載のトロンビン医薬製剤。
【請求項11】
支持体が高分子フィルムである請求項1〜10のいずれか一項に記載のトロンビン医薬製剤。
【請求項12】
支持体が不織布である請求項1〜10のいずれか一項に記載のトロンビン医薬製剤。
【請求項13】
トロンビン医薬製剤が創傷治療剤または止血剤である、請求項1〜12のいずれか一項に記載のトロンビン医薬製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−306759(P2006−306759A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−129567(P2005−129567)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(000224101)藤森工業株式会社 (292)
【Fターム(参考)】