説明

トロンビン組成物

トロンビンを含む組成物およびそれらを調製する方法を開示する。組成物は、本質的に0.1 mg/mL〜5.0 mg/mlのトロンビン、2%〜4%(w/v)のスクロース、3.5%〜5%(w/v)のマンニトール、50 mM〜300 mMのNaCl、0〜5 mMのCaCl2、0.03%〜1%(w/v)の界面活性剤もしくは高分子量ポリエチレングリコール、および生理的に許容される緩衝液からなる、pH 5.7〜7.4の水溶液の形態であってよく、または凍結乾燥形態であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
薬学的タンパク質の製剤は、大きな課題を提示する。タンパク質は、三次元構造に加えて複数の官能基を有し;従って、分解は化学的(結合形成または切断を含む改変)および物理的(変性、凝集、吸着、沈殿)経路の両方を介して進行する。各タンパク質はアミノ酸配列、等電点、および他の決定因子の固有の組み合わせを体現するため、溶液条件の変化に対するその反応は予測不可能であり、その都度決定されなければならない。分解の一つの形態を阻止する試みは、多くの場合もう一方の割合を増加する。
【0002】
タンパク質の分解は凍結乾燥により非常に低下するか、または回避することができる。しかしながら、凍結乾燥は時間およびコストがかかり、かつ適切な賦形剤が含まれない場合、タンパク質の変性および凝集を引き起こし得る。溶液製剤と同様に、凍結乾燥タンパク質の安定化は、個別的に取扱わなければならない。
【0003】
トロンビンの場合、凝集および沈殿を低下させることによって精製および貯蔵の間の安定性を維持するために、塩化ナトリウムが用いられ得る。しかしながら、ガラス転移温度を低下させ、それによって低い一次温度および長いサイクル時間を必要とするため、塩化ナトリウムは凍結乾燥製剤中では問題のある賦形剤である。さらに、トロンビンは、凍結乾燥組成物中でのアンフォールディングおよび凝集から保護されなければならない。
【0004】
理想的な製剤は、凍結乾燥ならびに長期保管および出荷の間、安定性と取扱いおよび使用の容易さとを兼ね備えると考えられる。
【発明の開示】
【0005】
発明の詳細な説明
本発明の一つの局面において、pH 5.7〜7.4の水溶液中に、本質的に0.1 mg/mL〜5.0 mg/mlのトロンビン、2%〜4%(w/v)のスクロース、3.5%〜5%(w/v)のマンニトール、50 mM〜300 mMのNaCl、0〜5 mMのCaCl2、0.03%〜1%(w/v)の界面活性剤または高分子量ポリエチレングリコール;および生理的に許容される緩衝液からなる組成物であって、外科的状況における組成物の適用時におよそ生理的なpHを提供するように緩衝液の濃度が選択され、かつマンニトール:スクロースの比率が1:1より大きいが2.5:1(w/w)を超えない組成物を提供する。本発明の一つの態様において、マンニトール対スクロースの比率は1.33:1(w/w)である。本発明の他の態様において、スクロース:トロンビンのモル比は少なくとも700:1または少なくとも2000:1である。本発明のさらなる態様において、トロンビンは、例えば組換えヒトトロンビンを含む、ヒトトロンビンである。本発明のさらに他の態様において、トロンビン濃度は0.5〜3.0 mg/mlであるか、またはトロンビン濃度は1 mg/mlである。本発明の他の態様において、スクロース濃度は3%(w/v)であり、かつ/またはマンニトール濃度は4%(w/v)である。さらなる態様において、界面活性剤または高分子量ポリエチレングリコールはPEG 3350である。関連する態様において、界面活性剤または高分子量ポリエチレングリコールは0.1%(w/v)濃度のPEG 3350である。追加の態様において、組成物のpHは6.0である。さらなる態様において、緩衝液はヒスチジン、クエン酸、リン酸、Tris、およびコハク酸緩衝液からなる群より選択される。関連する態様において、緩衝液は、2.0〜10 mMヒスチジン緩衝液または5 mMヒスチジン緩衝液のようなヒスチジン緩衝液である。本発明の一つのそのような組成物は、pH 5.5〜6.5の水溶液中で本質的に0.1 mg/mL〜5.0 mg/mlのトロンビン、2%〜4%(w/v)のスクロース、3.5%〜5%(w/v)のマンニトール、100 mM〜200 mMのNaCl、1 mM〜5 mMのCaCl2、0.03%〜1%(w/v)のPEG 3350、および2 mM〜10 mMのヒスチジンからなり、マンニトール:スクロースの比率は1:1より大きいが2.5:1(w/w)を超えない。本発明の別のそのような組成物は、pH 6.0の水溶液中で本質的に1 mg/mlのトロンビン、3%(w/v)のスクロース、4%(w/v)のマンニトール、4 mMのCaCl2、0.1%(w/v)のPEG 3350、150 mMのNaCl、および5 mMヒスチジンからなる。
【0006】
本発明の第二の局面において、以下の段階を含む、凍結乾燥トロンビン組成物を調製する方法が提供される:(a)上記に開示した水溶性のトロンビン含有組成物を提供する段階;および(b)水溶性組成物を凍結乾燥して凍結乾燥トロンビン組成物を形成する段階。
【0007】
本発明の第三の局面において、上記に開示した方法によって調製された凍結乾燥トロンビン組成物が提供される。本発明の一つの態様において、凍結乾燥組成物は、外面にラベルが貼付された密封容器中に含まれる。本発明の追加の態様において、密封容器中の組成物は、2,500〜20,000 NIH単位のトロンビンを含む。本発明の関連する態様において、組成物は、上記に開示した密封容器および例えば通常の生理的食塩水のような希釈剤を含む別の密封容器を含むキットの形態で提供される。
【0008】
本発明のこれらの局面および他の局面は、以下の発明の詳細な説明および添付図面を参照する際に明らかになるであろう。
【0009】
数値範囲は(例えばXからY)は、特に明記しない限り終点を含む。
【0010】
本発明は、凍結乾燥された組成物を含む安定化トロンビン組成物を提供する。本明細書で使用される「トロンビン」は、プロトロンビン(第II因子)のタンパク分解性切断の結果生じる、α-トロンビンとしても公知の活性化酵素を意味する。下記に開示するように、トロンビンは当技術分野において公知の様々な方法によって調製され得、かつ用語「トロンビン」は特定の生成方法を意味することは意図されない。ヒトトロンビンは、ジスルフィド結合によって接合された2つのポリペプチド鎖で構成される295アミノ酸のタンパク質である。ヒトおよび非ヒトトロンビンの両方が、本発明において用いられ得る。トロンビンは、止血薬としておよび組織接着剤の成分として医学的に用いられる。
【0011】
ヒトおよび非ヒト(例えば、ウシ)トロンビンは、当技術分野において公知の方法に従って調製される。血漿からのトロンビンの精製は、例えばBui-Khac et al., 米国特許第5,981,254号によって開示されている。コーン分画IIIのような血漿分画からのトロンビンの精製は、Fenton et al., J. Biol. Chem. 252:3587-3598, 1977によって開示されている。組換えトロンビンは、米国特許第5,476,777号に開示されているように、ヘビ毒アクチベーターによる活性化によって、プレトロンビン前駆体から調製され得る。適した毒液アクチベーターには、タイパン(Oxyuranus scutellatus)由来のエカリン(ecarin)、およびプロトロンビンアクチベーターが含まれる。
【0012】
本発明において、トロンビンは、スクロース、マンニトール、塩化ナトリウム、界面活性剤または高分子量ポリエチレングリコール(HMW-PEG)、および任意で塩化カルシウムを含む、弱緩衝水溶液中で製剤化される。これらの成分の濃度範囲を表1に示す。パーセントで表される濃度は、重量-体積比に基づく。
【0013】
【表1】

【0014】
本発明の製剤中のトロンビンの濃度は、目的の用途に応じて多様であり得、再構成された産物の所望の濃度を含む。トロンビンは、0.01〜5.0 mg/mL、より一般に0.1〜5.0 mg/mL、および典型的に0.5〜3.0 mg/mLの濃度で製剤中に含まれる。本発明の特定の態様において、トロンビンの濃度は、1.0 mg/mLである。
【0015】
本発明者らは、マンニトール対スクロースの比率が凍結乾燥の間、タンパク質アンフォールディングに有意に影響を及ぼすことを見出した。マンニトールは、凍結乾燥サイクル効率および凍結乾燥産物の様相を改善するために増量剤として含まれる。スクロースは安定剤(リオプロテクタント(lyoprotectant))として含まれ、凍結乾燥の間および貯蔵時にトロンビンのアンフォールディングを低下させる。フーリエ変換赤外分光法(FTIR)により分析されるように、5:1(w/w)またはそれ以上のマンニトール:スクロース比率を有する製剤は許容されず;2.5:1またはそれ以下の比率を有するものは安定であるようであった。1:1またはそれ以下の比率は、直角光散乱(RALS)によって測定されるように、溶液中に凝集/沈殿を示し(再構成時)、かつ凍結乾燥時に許容されるケーキを形成しなかった。従って、本発明において、マンニトール:スクロースの比率は、1:1より大きいが2.5:1を超えないと考えられる。
【0016】
NaClは、凝集および/または沈殿を低下させるために製剤中に含まれる。上記のように、NaClは、凍結乾燥プロセスにおいて問題があり得る。本発明の製剤中に、NaClは50 mM〜300 mMの濃度で含まれる。本発明の特定の態様において、NaClの濃度は、75 mM〜250 mM、100 mM〜200 mM、または150 mMである。
【0017】
本発明のトロンビン製剤は、製剤化の間、安定性を提供し、かつ再構成時に活性を最適化するために緩衝化される。理論に拘束されたくないが、pHが6.0より上に増加するにつれてトロンビンの自己分解性分解が増加し、かつpHが6.0より下に減少するにつれて沈殿率が増加すると考えられる。従って、自己分解(β−およびγ-トロンビンを含む不活性自己分解性分解産物の形成)による活性の損失を制限する、弱酸性からおよそ中性のpHでトロンビンを調製することが望ましい。しかしながら、最適生物活性を使用時に提供するため、ほぼ生理的なpHが望ましい。本発明は、弱酸性からおよそ中性のpH(すなわちpH 5.7〜7.4)で有効な弱い緩衝液を用いることにより、これらの相反する必要に対処するが、外科的状況においてトロンビンを出血組織に適用した場合、pHをほぼ生理的なpH(すなわち、pH 6.8〜7.5、好ましくはpH 7.0〜7.5、より好ましくはpH 7.35〜7.45)に到達させることができる。本発明において、トロンビン溶液は、pH 5.7〜7.4、一般に6.0〜6.5、および特定の態様において6.0に緩衝化される。適した緩衝液は、ヒスチジンに加えて、言及されたpH範囲中で有効であり、かつ外科的状況における組成物の適用時に、溶液をほぼ生理的なpHに到達させることができる他の生理的に許容される緩衝液を含む。そのような緩衝液の例には、リン酸、クエン酸、Tris(2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール)、およびコハク酸が含まれる。本発明の特定の態様において、ヒスチジン緩衝液は、1〜20 mM、2〜10 mM、または5 mMで含まれる。
【0018】
本発明における他の緩衝液の適した濃度は、当業者によって容易に決定され得る。製剤緩衝液は、血液を添加し、得られた溶液のpHを測定することによって試験することができる。例示的なアッセイにおいて、ウサギ血液のアリコートを段階を追ってさまざまな緩衝液に添加し、pHを各添加の後に測定する。ヒスチジン緩衝液をそのようなアッセイにおいて試験した場合、3.2 mM、5 mM、12.8 mM、および20 mMのヒスチジンが1.0容量を超えない血液の添加によって中和される。対照的に、160 mMのコハク酸緩衝液、および90 mMのリン酸/12.8 mMのヒスチジン緩衝液は、2〜3容量の血液の添加の後でさえ、7.0より高いpHを有する混合物を生成しなかった。
【0019】
本発明において、界面活性剤または高分子量ポリエチレングリコール(PEG)は、凍結乾燥の前または凍結乾燥産物の再構成の後、溶液中で吸着性損失および剪断誘導性トロンビン凝集/沈殿を阻止するために含まれる。この点に関して有用な適した界面活性剤は、ポリエチレンオキシド、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸のグリセリド(例えばグリセリルモノオレアートおよびグリセリルモノステアレート)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えばポリソルベート20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)およびポリソルベート80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート))などを含む。高分子量ポリエチレングリコールは、PEG 400、PEG 1000、PEG 3350、PEG 5000、およびPEG 8000のような400〜8000の分子量を有するものを含む。例示的な高分子量ポリエチレングリコールはPEG 3350である。PEG 3350の好ましい濃度は0.1〜1%である。0.03%のPEG 3350が吸着性損失および剪断誘導性凝集/沈殿を効果的に阻害するが、再構成後の希釈の根拠となるよう、いくらか高い濃度が最初の製剤中に一般に使われるであろう。例えば、トロンビンの典型的な単位投与量は、バイアルを1.6 mLの1.0 mg/mL(3200 U/mg)の溶液(約5000 NIH U/バイアル)で充填し、凍結乾燥することによって、調製され得る。5 mLの通常の生理的食塩水によって再構成する場合、凍結乾燥産物は約1000 NIH U/mL(0.32 mg/mL)のトロンビン濃度を提供する。最初の製剤中のPEG 3350の濃度が0.1%である場合、再構成された産物中の濃度は0.03%であろう。
【0020】
本発明の特定の態様において、いくつかの血液凝固因子(例えば第IX因子、第X因子)を活性化することが必要であることから、止血を促進するためにCaCl2が製剤中に含まれる。含まれる場合、製剤中のCaCl2の濃度は最高で5 mM、概して1〜5 mM、一般に4 mMである。塩化カルシウムの含有もまた、トロンビンの物理安定性を改善し得る。
【0021】
長期保管のために、水溶液は、無菌のバイアル、アンプル、または他の容器に等分され、かつ当技術分野において公知の手順に従って凍結乾燥される。凍結乾燥産物は粉末またはケーキとして生じ、ケーキが好ましい形態である。容器は次いで密封される。密封を介して容器中へ希釈剤を後から注入できる密封を使用することが好ましい。容器は、薬学分野において標準的な慣例に従ってラベル表示される。
【0022】
本発明の一つの態様において、容器は、希釈剤を含む第二の容器を有するキット中に提供される。適した希釈剤は、注射用の通常の生理的食塩水および注射用水を含む。キットは、例えば散布器、シリンジ等のような適用装置をさらに含み得る。
【0023】
使用のために、凍結乾燥トロンビン組成物は、適した希釈剤によって所望の濃度、概して約100 NIH U/ml〜約5,000 NIH U/ml、典型的に約1,000 NIH U/mlに再構成されるが、実際の濃度は個々の患者のニーズに従って医師によって決定される。トロンビンは、止血を達成するために多くの場合吸収ゼラチンスポンジと組み合わせて、出血組織に適用され得る。トロンビンはまた、組織接着剤またはフィブリン糊の成分としても用いられ得る。トロンビンのこれらのおよび他の使用は、当技術分野において公知である。
【0024】
本方法は、下記の非限定的な実施例によりさらに説明される。
【0025】
実施例
実施例1
組換えヒトトロンビン(rhトロンビン)は、表2に示すようにマンニトールおよびスクロースの濃度を変化させた、5 mMのヒスチジン、150 mMのNaCl、4 mMのCaCl2、0.1%のPEG 3350、pH 6.0において、1 mg/mlで製剤化した。
【0026】
【表2】

【0027】
溶液の1.6 mlのアリコートをバイアル中に配置し、かつ表3に示す条件下で凍結乾燥した。以降の解析のために、凍結乾燥試料は、必要な場合、水で再構成した。凍結乾燥し、かつ再構成した試料の目視観察を、表4に示す。
【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【0030】
実施例2
rhトロンビンの製剤A、B、C、D、E、およびFを、溶液中の凝集体/沈殿体の存在について分析した。凍結乾燥前および後の試料は、連続蛍光光度計(QUANTAMASTER QM4, Photon Technology International, Inc., Lawrenceville, NJ)を使用して、直角光散乱(RALS)により分析した。励起および放出波長は、両方とも320 nmにセットした。試料は、1 cm通路長の石英バイアル中にロードした。スリット幅は2 nmに調整され、かつシグナルを1ポイント/秒で60秒間収集した。印加電流は、75ワットであった。報告値(図1を参照されたい)は、60秒間にわたり記録された平均計数であった。再構成後の凝集/沈殿と一致する有意な光散乱が、製剤Aにおいて見出された。製剤EおよびFは、凍結乾燥時に許容されるケーキを生じなかった。
【0031】
実施例3
凍結乾燥後のrhトロンビンの回収を、逆相クロマトグラフィ(RP-HPLC)を使用して測定した。被験試料において可溶性凝集体のパーセンテージを決定するためにサイズ排除クロマトグラフィ(SE-HPLC)を用いた。製剤A、B、C、D、E、およびFを、凍結乾燥の前ならびに凍結乾燥および再構成の後、分析した。
【0032】
RP-HPLCのために、被験試料および標準試料(rhトロンビン、希釈緩衝液(20 mMのリン酸ナトリウム、140 mMのNaCl、pH 7.0)中1 mg/mL)を、遠心濾過ユニット(0.22 μm)(SPIN-X;Corning Life Sciences, Action, Mass.)を使用して、14,000 RPM(20,800 RCF)で濾過した。5〜40 μgの標準曲線範囲を、定量上限のおよそ90%で注入した試料と共に使用した。純度値は、総積分ピーク面積に対する主要ピークの領域に基づいて決定した。解析は、以下で構成されたHPLCシステム(1100シリーズ;Agilent Technologies, Palo Alto、カリフォルニア)を使用して実施した。
・密封洗浄キットを有するバイナリポンプ(G1312A)
・4チャンネル溶剤脱ガス器(G1322A)
・サーモスタット自動サンプラー(Thermostatted autosampler)(G1329A/G1330A)
・900 μLシリンジを利用した拡張容量アップグレードキット(G1363A)
・2つの熱交換器を有するサーモスタットカラムコンパートメント(G1316A)
・カラム切換アップグレードキット(G1353A)
・10 mm/13 μLフローセルを有するダイオードアレイ検出器(G1315B)
・Agilent CHEMSTATION ソフトウェア(Revision A.08.03)
【0033】
SE-HPLCのために、被験試料および標準試料を、遠心濾過ユニット(0.22 μm)を使用して、14,000 RPM(20,800 RCF)で濾過した。5.1〜102 μgの標準曲線範囲を、定量上限のおよそ90%で注入した試料と共に使用した。凝集体のパーセンテージは、総積分ピーク面積に対する主要rhトロンビンピークに先行した検出ピークの領域に基づいて決定した。解析は、上記に開示したようにHPLCシステムを使用して実施した。
【0034】
これらの解析は、表5および6に示すように、凍結乾燥後、スクロース含有量の増加(≧3%)と共に、rhトロンビンの回収の増加を示した。データは、rhトロンビン濃度(mg/ml)として示す。可溶性凝集体の増加が必ずしもより低い回収と相関しなかったという観察は、凍結乾燥中の不溶性rhトロンビン凝集体の形成と一致している。
【0035】
【表5】

【0036】
【表6】

【0037】
実施例4
rhトロンビン製剤の保存安定性を、6ヵ月の期間にわたって研究した。製剤A、B、C、D、E、およびFの凍結乾燥試料を、40℃および25℃で保存し、かつ上記に開示したようにRP-HPLCによって0、1、2、3、および6ヶ月で含有量(トロンビン濃度)について分析した。両方の温度で、2ヵ月後、製剤Aは再構成の際に混濁した(表7)。製剤EおよびFは、許容されないケーキを生じ、0ヵ月の時点の後は分析しなかった。回収率(%)で表された安定性を、表8および9に示す。
【0038】
【表7】

【0039】
【表8】

n.t.=試験せず。
【0040】
【表9】

n.t.=試験せず。
【0041】
実施例5
製剤A、B、C、D、E、およびFの凍結乾燥試料を、40℃および25℃で保存し、かつ上記に開示したようにSE-HPLCによって0、1、2、3、および6ヶ月で高分子量不純物(可溶性凝集体)の存在について分析した。表10に示す結果は、製剤T(最少量のスクロースを含む)中で可溶性凝集体の増加が一週間後に検出されたことを示した。しかしながら、1%またはそれ以上のスクロースを含む製剤においては、有意な増加が6ヵ月後には見出されなかった。製剤EおよびFは、許容されないケーキを生じ、0ヵ月の時点の後は分析しなかった。
【0042】
【表10】

n.t.=試験せず。
【0043】
【表11】

【0044】
実施例6
製剤A、B、C、およびDの凍結乾燥試料を、-20℃、5℃、25℃、および40℃で13週および6ヶ月間保存し、次いで上記実施例2に開示したようにRALSについて分析した。RALSによって測定される光散乱の増加は、不溶物および/または可溶性凝集体の存在と関連している。表12、および13に示し(計数/秒として)、かつ図表を用いて図2および3に示した結果は、全ての試験条件下の貯蔵中の凝集に関して、製剤B、C、およびDが製剤Aより安定なことを示した。13週と6ヵ月の時点の間の軽微な計測器変動のため、2つの時点の絶対数は、比較すべきでない;RALSデータは、同じ時間に試験した製剤の間のみで比較するべきである。
【0045】
【表12】

【0046】
【表13】

【0047】
実施例7
凍結乾燥状態におけるrhトロンビンの二次構造を比較するため、製剤A、B、C、およびDの凍結乾燥試料を、フーリエ変換赤外線分光法(FTIR)により分析した。赤外線スペクトルを、FTIR分光計(FTLA2000-104、ABB Inc., Norwalk, Conn.)を用いて得た。凍結乾燥試料を臭化カリウム(KBr)と混合し(rhトロンビン:KBrの近似比は1:100)、圧縮してペレットを形成した。スペクトルは、単一ビーム透過モードで収集した。賦形剤および水蒸気からの干渉を減少させるため、分析ソフトウェア(BOMEN-GRAMS/32 AI(バージョン6.01);ABB Inc.)を用いて、プラシーボおよび水蒸気のスペクトルをタンパク質スペクトルから減算した。二次微分スペクトルは、二次のSavitzky-Golay機能を使用して作製した。rhトロンビン製剤は、アミドI領域(1700〜1600 cm-1)において比較した。図4に示すように、類似のスペクトルが製剤B、C、およびDについて得られ、製剤Aは異なるスペクトルを与えた。
【0048】
次いで製剤Aの3つの複製を、上記に開示したようにFTIRによって試験した。得られたスペクトルは、本質的に同一であった。
【0049】
次に製剤A、B、C、およびDを、5%のマンニトール、および0.5%のスクロースを含む製剤(製剤T)と比較した。上記に開示したようにFTIRを行った。図5に示すように、製剤B、C、およびDは類似のスペクトルを与える一方、5%のマンニトール、および1%のスクロースまたは0.5%のスクロースのいずれかを含む製剤のスペクトルは異なるスペクトルを示した。≦1%のスクロースを含む製剤を≧2%のスクロースを含む製剤と比較した際の凍結乾燥後に観察されたRALSの増加は、これらの知見(実施例6)と一致する。これらのデータは、トロンビンが≦1%のスクロースを含む製剤(再構成時に不溶物の増加をもたらす)中で部分的にアンフォールディングされる一方、トロンビンの二次構造は、凍結乾燥の間≧2%のスクロースの存在下で安定化されることを示唆する。
【0050】
上記から、本発明の具体的な態様が例示の目的のために本明細書に記載されているが、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく種々の改変を加えてもよいことが理解される。従って、本発明は、添付の特許請求の範囲による事項を除き、制限されない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】特定のトロンビン製剤の凍結乾燥前および後の試料の、直角光散乱(Right Angle Light Scattering(RALS))による解析を示す。
【図2】特定のトロンビン製剤の13週間の貯蔵後のRALSによる解析を示す。
【図3】特定のトロンビン製剤の6ヶ月の貯蔵後のRALSによる解析を示す。
【図4】組換えヒトトロンビンの4つの製剤(A、B、C、およびDと表記)を用いたフーリエ変換赤外分光法によるトロンビン2次構造の解析を示す。
【図5】組換えヒトトロンビンの5つの製剤(T、A、B、C、およびDと表記)を用いたフーリエ変換赤外分光法によるトロンビン2次構造の解析を図示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH 5.7〜7.4の水溶液中で、本質的に
0.1 mg/mL〜5.0 mg/mlのトロンビン;
2%〜4%(w/v)のスクロース;
3.5%〜5%(w/v)のマンニトール;
50 mM〜300 mMのNaCl;
0〜5 mMのCaCl2
0.03%〜1%(w/v)の界面活性剤または高分子量ポリエチレングリコール;および
生理的に許容される緩衝液
からなる組成物であって、外科的状況における組成物の適用時にほぼ生理的なpHを提供するように緩衝液の濃度が選択され、かつマンニトール:スクロースの比率が1:1より大きいが2.5:1(w/w)を超えない、組成物。
【請求項2】
マンニトール対スクロースの比率が1.33:1(w/w)である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
スクロース:トロンビンのモル比が少なくとも700:1である、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
スクロース:トロンビンのモル比が少なくとも2000:1である、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
トロンビンがヒトトロンビンである、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
トロンビンが組換えヒトトロンビンである、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
トロンビン濃度が0.5〜3.0 mg/mlである、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
トロンビン濃度が1 mg/mlである、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
スクロース濃度が3%(w/v)である、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
マンニトール濃度が4%(w/v)である、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
スクロース濃度が3%(w/v)であり、かつマンニトール濃度が4%(w/v)である、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
界面活性剤または高分子量ポリエチレングリコールがPEG 3350である、請求項1記載の組成物。
【請求項13】
PEG 3350の濃度が0.1%(w/v)である、請求項12記載の組成物。
【請求項14】
pHが6.0である、請求項1記載の組成物。
【請求項15】
緩衝液がヒスチジン、クエン酸、リン酸、Tris、およびコハク酸緩衝液からなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項16】
緩衝液がヒスチジン緩衝液である、請求項1記載の組成物。
【請求項17】
ヒスチジン緩衝液濃度が2.0〜10 mMである、請求項16記載の組成物。
【請求項18】
緩衝液が5 mMヒスチジンpH 6.0である、請求項1記載の組成物。
【請求項19】
pH 5.5〜6.5の水溶液中で、本質的に
0.1 mg/mL〜5.0 mg/mlのトロンビン;
2%〜4%(w/v)のスクロース;
3.5%〜5%(w/v)のマンニトール;
100 mM〜200 mMのNaCl;
1 mM〜5 mMのCaCl2
0.03%〜1%(w/v)のPEG 3350;および
2 mM〜10 mMのヒスチジン
からなり、マンニトール:スクロースの比率が1:1より大きいが2.5:1(w/w)を超えない、請求項1記載のトロンビン組成物。
【請求項20】
pH 6.0の水溶液中で、本質的に
1 mg/mlのトロンビン;
3%(w/v)のスクロース;
4%(w/v)のマンニトール;
4 mMのCaCl2
0.1%(w/v)のPEG 3350;
150 mMのNaCl;および
5 mMのヒスチジン
からなる、請求項19記載のトロンビン組成物。
【請求項21】
請求項1記載の組成物を提供する段階;および
水溶液を凍結乾燥して凍結乾燥トロンビン組成物を形成する段階
を含む、凍結乾燥トロンビン組成物を調製する方法。
【請求項22】
提供する段階において、組成物が、pH 5.5〜6.5の水溶液中で本質的に
0.1 mg/mL〜5.0 mg/mlのトロンビン;
2%〜4%(w/v)のスクロース;
3.5%〜5%(w/v)のマンニトール;
100 mM〜200 mMのNaCl;
1 mM〜5 mMのCaCl2
0.03%〜1%(w/v)のPEG 3350;および
2 mM〜10 mMのヒスチジン
からなり、マンニトール:スクロースの比率が1:1より大きいが2.5:1(w/w)を超えない、請求項21記載の方法。
【請求項23】
請求項21記載の方法によって調製された凍結乾燥トロンビン組成物。
【請求項24】
外面に貼付されたラベルを有する密封容器中に含まれる、請求項23記載の組成物。
【請求項25】
2,500〜20,000 NIH単位のトロンビンを含む、請求項24記載の組成物。
【請求項26】
請求項24記載の組成物、および希釈剤を含む第2の密封容器を含むキット。
【請求項27】
希釈剤が通常の生理的食塩水である、請求項26記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−503240(P2008−503240A)
【公表日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−518171(P2007−518171)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【国際出願番号】PCT/US2005/021743
【国際公開番号】WO2006/009989
【国際公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(505222646)ザイモジェネティクス, インコーポレイテッド (72)
【Fターム(参考)】