説明

トンネルの構築方法

【課題】 簡単かつ短い工期で実施でき経済的なトンネルの構築方法を提供すること。
【解決手段】 トンネル構築地盤1より上方においてトンネル掘削方向に管材31を推進して上部防護パイプルーフ3を構築し前記上部防護パイプルーフの両端に位置する管材の下方に管材41を推進して側壁防護パイプルーフ4を構築しトンネル構築地盤の下部にトンネル掘削方向にガイド導坑6を掘削しトンネル構築地盤の発進側の外部において外周構造物の後端に外周構造物の上方に突出するように枠材8を取り付け前記上部防護パイプルーフ及び前記ガイド導坑に挿入した緊張材71,72で前記枠材と到達側の固定点91,92とを連結し緊張材の端部に取り付けたジャッキ73を稼動させることによって前記外周構造物をトンネル構築地盤に牽引する方法である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鉄道や道路等の下に建設するトンネルの構築方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】鉄道の下に道路等を建設する場合、又は高速道路等の下に一般道路や歩行者通路を建設する場合などの道路を立体構造にする際に開削を行わずにトンネルを構築する工法がある。その方法の一つに従来からフロンテジャッキング工法がある。
【0003】フロンテジャッキング工法では、既設の道路や鉄道などのサービスを提供しながら、その下に交通施設等を構築することができる。フロンテジャッキング工法では最初にトンネル構築地盤kの上方に上部防護パイプルーフaを構築する。上部防護パイプルーフaはトンネル軸方向に鋼管を推進機fで推進し同様にして略水平方向に複数の鋼管を配置することによってトンネルの屋根となるように構築する。そして上部防護パイプルーフaの両端部に配置した鋼管の下方には略鉛直方向に複数の鋼管を配置することによってトンネルの側壁を防護する側壁防護パイプルーフを構築する。
【0004】従来上部防護パイプルーフaの下方ではPC鋼材eを挿入するための水平ボーリング孔h及びガイド導坑dの掘削を上記作業に続いて行っていた。そして発進立坑gで構築したトンネル躯体cの後端にジャッキiを設置し水平ボーリング孔h及びガイド導坑dにPC鋼材eを挿入して到達立坑j側の固定点mとトンネル躯体cの後端に設置したジャッキiを連結する。
【0005】その後ジャッキiを稼動させることによってトンネル躯体cをトンネル構築地盤kに牽引する。このときトンネル躯体c前面においては掘削機nによるトンネル構築地盤kの掘削もあわせて行う。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】前記した従来のフロンテジャッキング工法によるトンネルの構築方法にあっては、次のような問題点がある。
<イ>トンネル躯体cを牽引するPC鋼線eを配置するために水平ボーリング孔h及びガイド導坑dを掘削する必要がある。
<ロ>水平ボーリング孔hを掘削する箇所に埋設物、支障物が存在する場合には水平ボーリングが施工不可能なために、フロンテジャッキング工法は選定されない。
<ハ>トンネル躯体cの上床部にPC鋼線eを配置するための孔を設ける必要がある。構造体に設けた孔は断面欠損部として構造的弱点部と考えられる。このため牽引後にこの孔に充填材を充填して閉塞するなどの作業が必要となる。
【0007】
【発明の目的】本発明は上記したような従来の問題を解決するためになされたもので、簡単かつ短い工期で実施でき経済的なトンネルの構築方法を提供することを目的とする。特に水平ボーリングを行わなくとも実施可能なトンネルの構築方法を提供することを目的とする。また本発明は地中に埋設物などの障害物が存在する場合でも実施可能なトンネルの構築方法を提供することを目的とする。さらにトンネル躯体の構造的弱点部を最小限に抑えることができるトンネルの構築方法を提供することを目的とする。本発明はこれらの目的の少なくとも一つを達成するものである
【0008】
【課題を解決するための手段】上記のような目的を達成するために、本発明のトンネルの構築方法は、トンネル構築地盤より上方においてトンネル掘削方向に管材を推進して上部防護パイプルーフを構築し前記上部防護パイプルーフの両端に位置する管材の下方に管材を推進して側壁防護パイプルーフを構築しトンネル構築地盤の下部にトンネル掘削方向にガイド導坑を掘削しトンネル構築地盤の発進側の外部において外周構造物の後端に外周構造物の上方に突出するように枠材を取り付け前記上部防護パイプルーフ及び前記ガイド導坑に挿入した緊張材で前記枠材と到達側の固定点とを連結し緊張材の端部に取り付けたジャッキを稼動させることによって前記外周構造物をトンネル構築地盤に牽引する方法である。ここでトンネル構築地盤とは本発明の方法によってトンネルを構築する部分をいう。
【0009】
【発明の実施の形態】以下図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0010】<イ>トンネル構築地盤トンネル構築地盤1は本発明の方法によってトンネルを構築する部分をいう。即ち後述する外周構造物5と置き換わる前の地盤やそこに存在する埋設物などを含む部分をいう。
【0011】<ロ>立坑立坑は通常トンネル構築地盤1の前後に設ける作業用の空間で発進立坑21と到達立坑22などがある。発進立坑21は片側からトンネルを構築する場合の出発点となる位置に構築する立坑である。発進立坑21は最初に一度に掘削して構築する必要はなく作業の段階にあわせて構築すればよい。例えば後述する上部防護パイプルーフ3を構築するのに作業がしやすい深さまで一旦立坑を構築し作業が終了した後に残りの掘削を行うなどである。到達立坑22は片側からトンネルを構築する場合の終点となる位置に構築する立坑である。到達立坑22の掘削方法掘削手順も発進立坑21と同様に段階的に行うことができる。
【0012】<ハ>上部防護パイプルーフ上部防護パイプルーフ3はトンネルの上方に屋根のように構築する。本発明を適用するような場合は地表からトンネル上部までの土被りが薄くそのうえ地表には電車や車が走行するために沈下が許されない場合が多い。このため予め上部防護パイプルーフ3を構築してトンネル構築による影響を地表に及ぼさないようにする。上部防護パイプルーフ3の構築ではまずトンネル軸方向(トンネル掘削方向)に管材31を推進機で推進する。管材31は複数の管材31が略水平方向に連続して床版を形成するように配置する。管材31の直径及び肉厚は設計事項であり任意に選択できるが例えば直径80cm以上の人が中に入ることができる大きさの鋼管を使用する。
【0013】<ニ>側壁防護パイプルーフ側壁防護パイプルーフ4は上部防護パイプルーフ3のトンネル軸直交方向の両端部に壁のように設ける。側壁防護パイプルーフ4はトンネルの側壁部を防護するために構築するものでトンネル構築地盤1とその外部地盤との縁を切る役割も果たす。側壁防護パイプルーフ4は上部防護パイプルーフ3と同様にして複数の管材41を略鉛直方向に連続して推進し壁を形成するように構築する。
【0014】<ホ>ガイド導坑ガイド導坑6はトンネルの構築に先駆けてトンネルの底版部となる位置に掘削する小トンネルである。ガイド導坑6の軸方向(掘削方向)は構築するトンネルの軸方向(掘削方向)と一致する。ガイド導坑6は構築するトンネルの大きさ(横幅)にあわせて複数構築するのが好ましい(図2参照)。
【0015】<ヘ>外周構造物外周構造物5はトンネルの外周部となる構造物である。外周構造物5は鉄筋コンクリート鋼材又はこれらを組み合わせて構築する。本発明では外周構造物5をトンネル構築地盤1へ牽引してトンネルを構築するため土圧や水圧だけでなく牽引時に作用する力にも耐えうる構造にする必要がある。
【0016】<ト>枠材枠材8は外周構造物5の後端に取り付ける枠材で外周構造物5を牽引するためのジャッキ73の反力をとるために設置する。枠材8は外周構造物5から上方に突出し上部防護パイプルーフ3に挿入する緊張材71の端部が係留できる高さを有する。枠材8の長さは下端がガイド導坑6に挿入する緊張材72の端部を係留できる長さとする。枠材8間には必要に応じて横枠81を設置する。横枠81は例えばジャキ73と枠材8の間に配置してジャッキ73の反力が枠材8に間接的に伝わるようにする(図3(c)参照)。
【0017】以下図面を参照しながらトンネルの構築方法について説明する。
【0018】<イ>パイプルーフの構築上部防護パイプルーフ3及び側壁防護パイプルーフ4を構築する。上部防護パイプルーフ3を構築する場合は発進立坑21及び到達立坑22を管材31が推進できる深さまで掘削する(従来技術の図5(a)参照)。立坑の掘削をこの高さで一旦停止しておけば上部防護パイプルーフ3を構築するための足場を組む必要がない。次に側壁防護パイプルーフ4を上方から順に構築する。この場合立坑の掘削と管材41の推進を交互に行えば側壁防護パイプルーフ4を構築するための足場を組まなくともよい。
【0019】防護パイプルーフは管材(31、41)の中に人が入ることができるほどの大きさであるため管材(31、41)の推進方向に埋設物などの障害物がある場合でも人力により撤去することができる。このため障害物があるために水平ボーリングを行えないような場合でも本発明のトンネルの構築方法は適用することができる。
【0020】<ロ>ガイド導坑の掘削トンネルの底版部となる位置にガイド導坑6を掘削する。ガイド導坑6は公知のトンネル掘削方法により構築できる。例えば掘削したトンネルの内面にコンクリートの吹き付け及び鋼製支保工の建てこみをおこないながらトンネルを構築する方法が採用できる。
【0021】<ハ>外周構造物の構築外周構造物5を発進立坑21の内部で構築する。また地上で構築した外周構造物5を発進立坑21内に吊り下ろしてもよい。発進立坑21が狭い場合は所定の長さに構築した外周構造物5を最初に吊り下ろしてトンネル構築地盤1内に推進し発進立坑21内に空間ができたら次の外周構造物5を吊り下ろしてトンネル構築地盤1に貫入した外周構造物5の後端に接続するという方法を採用してもよい。
【0022】<ニ>枠材及び緊張材の配置外周構造物5の掘削方向と反対側の端部即ち後端に枠材8を取り付ける。枠材8は横枠81で連結するのが好ましい。外周構造物5の後端付近の断面図を図3に示す。トンネルの上方に設置する緊張材71は上部防護パイプルーフ3を構成する管材31の一部に挿入する。緊張材71の一端は例えば到達立坑22側に設けた固定点91に固定し他端はジャッキ73を介して枠材8又は横枠81に取り付ける。ここで枠材8側を固定し固定点91側にジャッキを設置してもよい。トンネルの下方に設置する緊張材72はガイド導坑6に挿入する。下方に設置する緊張材72は上方に設置する緊張材71と同様にその一端は固定点92に固定し他端はジャッキ73を介して枠材8又は横枠81に取り付ける。
【0023】<ホ>外周構造物の牽引外周構造物5をトンネル構築地盤1に牽引する。外周構造物5の牽引は外周構造物5の前面(地盤と接する面)での掘削機等による掘削とジャッキ73を稼動しての外周構造物5の牽引とを併用しておこなう。
【0024】
【発明の効果】本発明のトンネルの構築方法は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。
<イ>従来の方法に比べて水平ボーリング孔を構築しなくてもよい。このため簡単かつ短い工期で実施でき経済的なトンネルの構築方法といえる。
<ロ>支障物が存在する場合には施工できない水平ボーリングを行う必要がない。このため地中に埋設物などの障害物が存在する地盤においてもトンネルを構築できる。
<ハ>外周構造物の上床版には緊張材を挿入するための孔を設ける必要がない。このため牽引後に孔を閉塞するなどの作業が不要である。また構造的弱点部となり得る上床版の孔が存在しない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のトンネルの構築方法の実施例の縦断面図。
【図2】トンネルの構築方法の実施例の横断面図。
【図3】外周構造物の付近の拡大断面図。
【図4】従来のフロンテジャッキング工法の横断面図。
【図5】従来のフロンテジャッキング工法の施工手順図。
【符号の説明】
1・・・トンネル構築地盤
3・・・上部防護パイプルーフ
31・・管材
4・・・側壁防護パイプルーフ
41・・管材
5・・・外周構造物
6・・・ガイド導坑
71・・緊張材
72・・緊張材
73・・ジャッキ
8・・・枠材
91・・固定点
92・・固定点

【特許請求の範囲】
【請求項1】トンネル構築地盤より上方においてトンネル掘削方向に管材を推進して上部防護パイプルーフを構築し前記上部防護パイプルーフの両端に位置する管材の下方に管材を推進して側壁防護パイプルーフを構築しトンネル構築地盤の下部にトンネル掘削方向にガイド導坑を掘削しトンネル構築地盤の発進側の外部において外周構造物の後端に外周構造物の上方に突出するように枠材を取り付け前記上部防護パイプルーフ及び前記ガイド導坑に挿入した緊張材で前記枠材と到達側の固定点とを連結し緊張材の端部に取り付けたジャッキを稼動させることによって前記外周構造物をトンネル構築地盤に牽引するトンネルの構築方法。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【公開番号】特開2002−242582(P2002−242582A)
【公開日】平成14年8月28日(2002.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−45035(P2001−45035)
【出願日】平成13年2月21日(2001.2.21)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(592069137)植村技研工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】