説明

トンネル内壁面の塗装装置

【課題】トンネル内壁面に対して容易且つ速やかに塗装可能な塗装装置を、簡易な構造で安価に提供する。
【解決手段】トンネル内を移動し乍ら、当該トンネルの内壁面に対して塗料を吹き付けることによって塗装を行うトンネル塗装装置100であって、塗料を貯蔵するタンク部10と、当該タンク部10から塗料を吸引して噴射口30によって前記塗料を高圧噴射する吹付け機20とを有し、前記噴射口30は、断面略弧状のトンネル内壁面と対面可能に配置すべく、当該塗装装置上に立設した台座部40に設けてなる塗装装置100である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル内壁面に対して噴射塗装する塗装装置に関し、特に、当該トンネル内を走行可能な車両に装着する塗装装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高速道路や一般道路のトンネルを実際の使用に供した場合には、該トンネルの内壁面(天井面及び壁面)に対して排気ガスや塵埃等に由来する汚れが付着することとなる。
【0003】
トンネル内壁面を構成するコンクリートの地色は、元々、白色に近い灰色であるが、前記汚れが堆積することによって内壁の表面が著しく黒ずんでしまう。当該壁面が黒ずむことによって該壁面の色彩の明度が低くなることから、当該トンネル内に設置された照明器具から発せられる光は、前記壁面に反射することなく吸収されてしまう。
【0004】
斯様なトンネルを、実際に自動車等にて走行してみると、当該トンネル内が著しく暗く感じられるのみならず、運転者が側方の壁面との距離感の把握が困難な状況となり、路肩への乗り上げや、或いは、壁面との接触等の事故が発生する危険性も否定できない。
【0005】
斯様な問題の所在に鑑みて、トンネル壁面に付着した汚れを除去する必要性から、本出願人は、特願2004-131750号にて「トンネル内壁面の洗浄装置」を提案している。この洗浄装置は、高圧の洗浄水をトンネル内壁面に噴射して該壁面に付着した「汚れ」を剥ぎ取ると共に、当該洗浄によって生じた汚水を回収して、該洗浄に再利用可能とするものである。かかる洗浄装置によれば、トンネル内壁における(地面を除く)全ての壁面に対して洗浄水を高圧で噴射することにより、当該壁面の表面に「排気ガス」や「塵埃」等が積層して付着してなる汚れを容易且つ速やかに除去することができる。即ち、高圧洗浄水が「汚れの層」の下側にまで入り込んで該汚れを剥離し、コンクリート本来の地色を取り戻すことが可能となるのである。
【0006】
ところが上記洗浄を行った後にあっても、当該トンネルを再び使用に供した場合には、壁面に対して再度「汚れ」が付着することとなる。従って、短期のサイクルにて洗浄作業を繰り返して行う必要が生ずるのである。トンネルの多くは自治体が管理するものであり、その洗浄費用には公金が充てられるため、上記洗浄サイクルは成る可くならば長い方がよい。
【0007】
壁面に汚れが付着しやすいのは、コンクリート壁面の全体に微細な凹凸や空隙が多数存在することが主な原因である。即ち、これら微細な凹凸や空隙に「排気ガス」や「塵埃」等が入り込んでしまうのである。
【0008】
かかる問題に対しては、当該壁面を塗装し、上記「微細な凹凸や空隙」を塗料等で被覆して該壁面の表面を平滑にすることにより、解決を図ることが可能ではある。但し、短いトンネルであれば当該トンネル内に足場を組み、其処に塗装工を配置して刷毛塗りや吹き付け塗装することも可能であろうが、公道上に存在するトンネルは長短様々であり、長いものでは数百メートル、更には数キロメートルに及ぶ場合もある。斯様な長距離からなる広大な面積に対する塗装作業を、塗装工の手作業だけに依存していたのでは、施工に長時間を要するのは勿論のこと、塗装作業によって必要となる人件費も嵩むこととなる。
【特許文献1】特願2004−131750号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上の問題点に鑑み、本発明の課題は、トンネル内壁面に対して容易且つ速やかに塗装可能な塗装装置を、簡易な構造で安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく本発明が採った手段は以下の通りである。
【0011】
まず、請求項1に係る発明は、トンネル内を移動し乍ら、当該トンネルの内壁面に対して塗料を吹き付けることによって塗装を行うトンネル塗装装置であって、塗料を貯蔵するタンク部と、当該タンク部から塗料を吸引して噴射口によって前記塗料を高圧噴射する吹付け機とを有し、前記噴射口は、断面略弧状のトンネル内壁面と対面可能に配置すべく、当該塗装装置上に立設した台座部に設けたことを特徴とするものである。
【0012】
次に、請求項2に係る発明は、請求項1に記載したトンネル内壁面の塗装装置において、前記台座部は逆U字形状に構成したことを特徴とするものである。
【0013】
また、請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載したトンネル内壁面の塗装装置において、前記台座部は、当該塗装装置上に相互に間隔をおいて2以上立設したことを特徴とするものである。
【0014】
さらに、請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3に記載したトンネル内壁面の塗装装置において、前記噴射口は、台座部に対して進退自在に設けたことを特徴とするものである。
【0015】
さらに、請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4に記載したトンネル内壁面の塗装装置において、
前記台座部は、当該塗装装置上を前後に移動自在に設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
まず、請求項1に係る発明によれば、少人数の作業者により短い作業時間での壁面塗装ができる塗装装置を、安価に提供することが可能となるという効果を奏する。
【0017】
次に、請求項2に係る発明によれば、断面略弧状のトンネル内壁面に対して噴射口対面させることとなり、トンネル内壁における(地面を除く)全ての壁面に対して塗料を吹き付けることができ、壁面塗装を容易且つ速やかに行うことが可能となる。
【0018】
また、請求項3に係る発明によれば、噴射口を設置するための台座部を、当該塗装装置上に相互に間隔をおいて2以上立設しているので、かかる構成を有する塗装装置によってトンネル内を塗装した場合には、トンネル壁面に対して塗料を「重ね塗り」することとなり、塗装面の仕上がりを向上させることが可能となる。
【0019】
さらに、請求項4に係る発明によれば、噴射口の先端位置を進退自在とすることにより、該噴射口の先端が「トンネルの天井」やトンネル内部に設置された「構造物」と干渉する虞が生じた場合にも、該噴射口を引き込むことによってその干渉を防止することが可能となる。
【0020】
さらに、請求項5に係る発明によれば、台座部を前後に移動自在とすることにより、台座部に取り付けられている噴射口を塗装装置に対して移動させることができる。従って、塗装装置を常に移動させることなく、一旦止めた状態で台座部を前後に移動することでトンネル壁面を塗装することが可能になる。また、往復させることで重ね塗りも容易に行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態を好適な実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0022】
図1乃至図3は、実施例1に係るトンネル内壁面の塗装装置100(以下、「塗装装置100」とする。)を示すものである。本実施例に係る塗装装置100は、図1又は図2に示すように、塗料を貯蔵する「タンク部10」と、当該タンク部10から塗料を吸引して高圧にて送出する「吹付け機20」と、当該吹付け機20から送出された塗料を噴射する「噴射口30」と、当該噴射口30を塗装対象物である断面略弧状のトンネル内壁面と対面可能に配置すべく、当該塗装装置100上に立設した「台座部40」とを有するものである。本実施例においては、上記構成を有する塗装装置100を車両の荷台に載置して、トンネル内での走行を可能としている。以下、それぞれの構成について順次説明する。
【0023】
まずタンク部10というのは塗料を貯蔵するものであって、後述する噴射装置に塗料を供給するものである。本実施例においては、このタンク部10としての「500L容量のタンク」をトラックの荷台に搭載することによって構成している。
【0024】
次に、吹付け機20というのは、上記タンク部10から供給された(吸引した)塗料を、噴射口30(後述)へと高圧にて送出するものである。この吹付け機20について、具体的には、エンジン又は電動モータによって駆動する高圧洗浄機を流用することが考えられる。本実施例においては、前記車両の荷台に「精和産業株式会社製 高圧洗浄機(JC-2014GP)」を4台設置する構成を採っている。この吹付け機20は、5つの噴射口30につき1台ずつを宛った構成としたが、勿論、本発明は特段この構成に限定されるものではなく、塗装に必要な条件如何により、任意に変更すべきものである。
【0025】
また、台座部40というのは、図1乃至図3に示すように、塗料を噴射する複数の噴射口30(後述)をトンネル壁面に向けて設置するためのものであり、当該塗装装置100の上側に立設してなるものである。本実施例では、高さ約5mのトンネルでの使用を想定しているので、4.5m前後の高さ寸法にて逆U字形状に構成したフレームを、車両荷台の前端と後端に立設している。
【0026】
一般的に、塗装対象物に対して一度に大量の塗料を吹き付けると、塗料が自重によって下方に向けて筋状に垂れる、所謂「タレ」と呼ばれる現象が起きてしまう。従って、この「タレ」を発生させないためには、塗料を複数回に分けて吹き付け塗装(重ね塗り)する必要がある。本実施例における塗装装置100では、1の台座部と他の台座部との間には一定の間隔があるため、1の台座部に配置した噴射口によって塗料が噴射されてから、他の台座部に配置した噴射口によって塗料が噴射されるまでには一定の時間差が生じ、この時間差によって、塗膜を壁面に馴染ませることができる。つまり、本実施例に係る塗装装置100によれば「重ね塗り」を行うことができ、塗装面の仕上がりを向上させることが可能となるのである。
【0027】
さらに、噴射口30というのは、図1乃至図3に示すように、前記台座部40に複数設置されるものであり、吹付け機20から送り出された塗料をトンネル内壁面に対して噴射するものである。本実施例において、前記吹付け機20と当該噴射口30との間は(図示しない)ホースにて接続している。
【0028】
この噴射口30は、台座部40としてのフレームに対して進退自在に設けると一層好適である。即ち、当該噴射口30の先端位置を進退自在とすることにより、該噴射口30の先端が「トンネルの天井」やトンネル内部に設置された「構造物」と干渉する虞が生じた場合にも、該噴射口30を引き込むことによってその干渉を防止することが可能となるのである。
【0029】
尚、当該噴射口30自体や該噴射口30付近にセンサを設置することにより、当該センサが、トンネル内の構造物や内壁面に対する噴射口30の干渉を予期した場合には、当該噴射口30を引き込んで、前記構造物等との干渉を回避する構成を採用してもよい。
【0030】
本実施例においては、トンネル内における路面部と路肩部を除いた、側壁面及び天井面からなる「弧」の寸法が10mの場合には、直径0.9mmの開口部にて直径1,000mmの範囲に塗料を噴射可能な噴射ノズルを、前後にそれぞれ立設したした前記フレームに対してトンネル側壁及び天井に向けて各10本設置し、前記「弧」の全域にわたって塗料を噴射可能としている。即ち、噴射範囲が直径500mmのノズルであれば20本設置することとなる。ここで、当該噴射口30は、ノズル形状のものに限定されず、所謂「噴射チップ」を前記フレームに埋設した構成を採ってもよい。
【0031】
尚、本実施例において前記噴射口30は、図1の鎖線に示すように、その噴射可能範囲の外縁が「前後の台座部40」間の内側となるように配置して、塗料が不必要な範囲に迄飛散してしまうことを防止している。
【0032】
また、図3においては、2車線分の幅を有する車両の荷台上に、トンネル両壁面及び天井面を塗装可能な台座部40を設置した状態を示しているが、本発明は特段この構成に限定されるものではなく、例えば、図4に示す構成を採用してもよい。具体的には、1車線分の幅を有する車両の荷台上に、トンネル片側壁面及び天井面の一部のみを洗浄可能な台座部40を設置し、当該台座部40の上端には回動自在なフラップを設置して、当該台座部40上側から塗装液の飛散を防止可能とした構成である。この図4に示す構成によれば、通行規制が困難な場所にあるトンネルや迂回路が用意できない場所にあるトンネルであっても、塗装作業を行う側の1車線のみを通行規制すれば足りるのである。
【0033】
上記構成を有する実施例に係るトンネル塗装装置100によれば、上記実施例に係る塗装装置100の台座部40としてのフレームには、噴射ノズルがトンネルの天井面及び両壁面に向けて放射状に設置しているため、1人又は2人のオペレータの操作によって、トンネルの天井面及び両壁面若しくは片壁面に対して同時に塗料を噴射することが可能となる。即ち、本実施例に係る塗装装置100によれば、トンネル内壁における(マスキングを施した箇所を除く)全ての壁面に対して塗料を噴射し乍ら当該トンネル内を低速で走行するだけでよいので、少人数の作業者によって長い距離にわたり効率的に内壁面の塗装を行うことが可能となるのである。
【0034】
また、上記塗装を施すことによって、トンネル内壁のコンクリート表面の微細な凹凸を埋めて平滑にし、以後の汚れ付着の防止して洗浄サイクルを伸ばすことができ、或いは、以後の壁面洗浄が容易なものとなる。
【0035】
なお、本発明に係る塗装装置100は、施工現場において短時間での組み立て及び分解が可能となるよう構成すること一層好適である。即ち、施工現場に至るまでは分割された部品として搬入し、当該施工現場において組み立てて、トンネルの塗装作業を行うのである。
【実施例2】
【0036】
図5は、実施例2に係るトンネル内壁面の塗装装置100を示すものである。本実施例に係る塗装装置100が、塗料を貯蔵する「タンク部10」と当該タンク部10から塗料を吸引して高圧にて送出する「吹付け機20」と、当該吹付け機20から送出された塗料を噴射する「噴射口30」と当該噴射口30を塗装装置100上に立設した「台座部40」とを有する点は、実施例1と同様である。
【0037】
本実施例2においては、台座部40が塗装装置上を前後にスライド可能に形成されている点が実施例1と異なる。かかる構成を採用することにより、前記塗装装置100の一端から他端にわたりスライドさせ乍ら(或いは、当該台座部40を往復させ乍ら)、壁面に対し高圧にて塗料の噴射が可能となるため、塗装装置100の略全長分の距離にわたり、トンネル壁面の噴射を一度に完了させることが可能になる。しかる後、塗装装置100をトンネルの長手方向(トンネルの縦断方向)に移動させて上記洗浄作業を繰り返し行うことにより、トンネルの全長にわたって洗浄を完了させることが可能となるのである。勿論、塗装装置100を移動させ乍ら、かつ台座40をスライドさせて塗装しても問題はない。
【0038】
前記台座40をスライドさせるためには、モータ等の動力を用いたり、或いは、作業者が手動でスライドさせるものとしてもよい。本実施例2においては、動力源としてモータを採用すると共に、動力伝達手段として「チェーン及びスプロケット」を採用し、前記モータにおける出力軸の回転を前記チェーンを介して前記台座40に伝達し、前記塗装装置の上側においてスライドさせるものとしている。尚、前記動力伝達手段としては、上記の他に「ウォームギアを用いたシャフト駆動」等の採用も考えられ、さらには油圧シリンダを用いて前記フレームをスライドさせるものとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1に係るトンネル塗装装置100の側方を示す図である。
【図2】図1に示すトンネル塗装装置100を上方から示す図である。
【図3】図1に示すトンネル塗装装置100を後方から示す図である。
【図4】トンネル片側壁面及び天井面の一部のみを洗浄可能なトンネル洗浄装置を後方から示す図である。
【図5】実施例2に係るトンネル塗装装置の側方を示す図である
【符号の説明】
【0040】
10 タンク部
20 吹付け機
30 噴射口
40 台座部
100 塗装装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル内を移動し乍ら、当該トンネルの内壁面に対して塗料を吹き付けることによって塗装を行うトンネル塗装装置であって、
塗料を貯蔵するタンク部と、当該タンク部から塗料を吸引して噴射口によって前記塗料を高圧噴射する吹付け機とを有し、
前記噴射口は、断面略弧状のトンネル内壁面と対面可能に配置すべく、当該塗装装置上に立設した台座部に設けたことを特徴とするトンネル内壁面の塗装装置。
【請求項2】
請求項1に記載したトンネル内壁面の塗装装置において、
前記台座部は逆U字形状に構成したことを特徴とするトンネル内壁面の塗装装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載したトンネル内壁面の塗装装置において、
前記台座部は、当該塗装装置上に相互に間隔をおいて2以上立設したことを特徴とするトンネル内壁面の塗装装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3に記載したトンネル内壁面の塗装装置において、
前記噴射口は、台座部に対して進退自在に設けたことを特徴とするトンネル内壁面の塗装装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4に記載したトンネル内壁面の塗装装置において、
前記台座部は、当該塗装装置上を前後に移動自在に設けたことを特徴とするトンネル内壁面の塗装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−6986(P2006−6986A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−168642(P2004−168642)
【出願日】平成16年6月7日(2004.6.7)
【出願人】(504167193)有限会社三共プランニング (2)
【Fターム(参考)】