説明

トンネル掘削機およびトンネル掘削方法

【課題】チャンバー内の土圧を均等化させることで、切羽の安定を図ることができる。
【解決手段】水平回転軸の周囲にその軸方向で所定間隔にカッタビット53、54が外方に突出して設けられるとともに、軸方向をトンネル幅方向に向けて配置された掘削カッタ5が、掘削機本体2の前面に沿って上下方向に複数段設けられ、掘削カッタ5の近傍には、掘削土砂を塑性流動化させる作泥土材の吐出口が設けられ、掘削カッタ5後方のチャンバーR1内には、掘削土砂を攪拌して塑性流動化させるパドルスクリュー7が、そのスクリュー回転軸(スクリュー中心軸O2)を掘削カッタ5の回転軸(カッタ中心軸O1)と並行にして設ける構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削土に気泡材やベントナイトなどを添加して掘削するトンネル掘削機およびトンネル掘削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、都市域に設けられる比較的小規模のトンネルの断面形状は円形断面とするよりも矩形断面とすることが合理的である場合が多いことから、矩形断面のトンネル掘削機が採用されている。このようなトンネル掘削機の切削機構としては、掘削方向に直交し略水平方向に配置させるとともに、螺旋状の羽根の外周部に土砂を切削するための切削ビットを配置させたスクリュー形状のカッタ(以下、スクリューカッタという)を、掘削機本体の先端に上下方向に平行に複数配列させたものがある(例えば、特許文献1、2、3参照)。
このようなスクリューカッタによる機構は、油圧モータ等の回転駆動により、螺旋羽根を回転させて土砂を切削しながら、左右方向に切削した土砂を移送し、スクリュー端部付近でスクリューカッタの回転軸方向と直角方向に設置したスクリューコンベヤによりシールド機の後方に掘削土砂を排出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3667717号公報
【特許文献2】特開平11−229774号公報
【特許文献3】特公平7−59878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のトンネル掘削機では以下のような問題があった。
すなわち、特許文献1、2、3で開示されているスクリューカッタ機構は、水平なスクリューカッタにより地山を幅方向に掘削するとともに左右方向(横方向)へ土砂を移送するものであって、その左右方向への移送能力が一定であるため、スクリューカッタの回転軸方向で排土側ほどスクリュー内部の運搬土量が多くなり、スクリュー内圧も高くなる。 そのため、切削する地山の土圧に対応するスクリューカッタの圧力が軸方向(トンネル幅方向)の範囲で一定にならず、圧力差が生じることから、地山の土圧が部分的に低下し、地表面沈下を発生させてしまうおそれがあった。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、チャンバー内の土圧を均等化させることで、切羽の安定を図ることができるトンネル掘削機およびトンネル掘削方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係るトンネル掘削機では、掘削機本体の切羽面側にカッタを備えて掘削するトンネル掘削機であって、水平回転軸の周囲にその軸方向で所定間隔に掘削ビットが外方に突出して設けられるとともに、軸方向をトンネル幅方向に向けて配置された掘削カッタが、掘削機本体の前面に沿って上下方向に複数段設けられ、掘削カッタの近傍には、掘削土砂を塑性流動化させる添加材の吐出口が設けられ、掘削カッタ後方のチャンバー内には、掘削土砂を攪拌して塑性流動化させるパドルスクリューが、そのスクリュー回転軸を掘削カッタの回転軸と並行にして設けられていることを特徴としている。
【0007】
また、本発明に係るトンネル掘削方法では、水平回転軸の周囲にその軸方向で所定間隔に掘削ビットが外方に突出して設けられるとともに、軸方向をトンネル幅方向に向けて配置され、掘削機本体の前面に沿って上下方向に複数段設けられた掘削カッタで切羽を掘削する工程と、掘削土砂に添加材を混合させつつ、その掘削土砂を掘削カッタ後方のチャンバー内でパドルスクリューによって攪拌して塑性流動化させる工程とを有することを特徴としている。
【0008】
本発明では、複数段の掘削カッタを回転させて掘削した土砂に添加材を添加して、掘削カッタの後方のチャンバーに設けられているパドルスクリューにより十分に攪拌して塑性流動化させて排土することで、チャンバー内の土圧を均等化させることができ、掘削中の切羽を安定した状態で保持することができる。すなわち、掘削カッタとパドルスクリューとがそれぞれの回転軸を並行にし、それら軸方向をトンネル幅方向に向けて配置され、チャンバー内に取り込まれる掘削土量がトンネル幅全体にわたって一定となるので、パドルスクリューの軸方向全体にわたる範囲で掘削土砂が均等に攪拌され、チャンバー内における土圧の圧力差を小さくすることができる。
また、掘削カッタが複数段設けられ、各段の掘削カッタに対応するようにパドルスクリューを配置することで、より効果的な攪拌を行うことができる。
【0009】
また、本発明に係るトンネル掘削機では、掘削カッタの回転軸径は、回転軸方向で変化していることが好ましい。
【0010】
本発明では、回転軸の大径部で切羽の地山を押さえ、小径部で掘削土砂の取り込みを多くすることができる。つまり、回転軸の大径部は、掘削カッタの後方のチャンバーに対して正面からみた開口面積が小さくなるので、チャンバー内への土砂取り込み量が小径部に比べて少なくなり、切羽の安定を図ることができる。
一方、回転軸の小径部は、前記の開口面積が大きいので、掘削土砂の取り込み量を増やし、掘削効率を高めることができる。
【0011】
また、本発明に係るトンネル掘削機では、掘削カッタの回転軸径は、回転軸方向で中央部が両側部より小径であることが好ましい。
【0012】
本発明では、トンネル幅方向の両側部は切羽面が崩壊し易いので、その両端部に掘削カッタの大径部(大径回転軸)を配置することで、この大径回転軸で切羽面を抑える面積を大きくし、回転軸方向で中央部では小径部(小径回転軸)として掘削効率を高めている。つまり、切羽面の崩落防止を図るとともに掘削効率を高めている。
【0013】
また、本発明に係るトンネル掘削機では、掘削カッタは、回転軸方向に複数に分割され、それぞれが単独で回転可能であることが好ましい。
【0014】
本発明では、分割された掘削カッタのそれぞれを種々の掘削方法に適応させて、回転速度を変えて掘削することが可能となり、例えばトンネル幅方向でいずれか一方側だけ回転速度を速くして掘削効率を上げることで、トンネル掘削機の掘進方向を変更することができる。
【0015】
また、本発明に係るトンネル掘削機では、最上段の掘削カッタは、掘削機本体の外筒内で切羽側に向けて突出可能に設けられた内筒に設けられ、内筒の内側のチャンバーにパドルスクリューが設けられていることが好ましい。
【0016】
本発明では、内筒を外筒に対して突出させ、最上段の掘削カッタをその最上段より下側の掘削カッタよりも先行させて掘削することで、地山の崩壊を抑えることができ、切羽の安定化を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のトンネル掘削機およびトンネル掘削方法によれば、パドルスクリューの軸方向全体にわたる範囲で掘削土砂を攪拌して塑性流動化させることで、チャンバー内の土圧を均等化させて圧力差を小さくすることができる。これにより、切羽の安定を図ることができ、土圧の部分的な低下の影響による地表面沈下の発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態によるトンネル掘削機の概略構成を示す側面図である。
【図2】図1に示すトンネル掘削機の上側掘削部を上から見た図である。
【図3】図1に示すトンネル掘削機の正面図である。
【図4】(a)〜(d)はトンネル掘削機による掘削手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態によるトンネル掘削機およびトンネル掘削方法について、図面に基づいて説明する。
【0020】
図1および図2に示すように、本実施の形態によるトンネル掘削機1は、通常のシールド機とほぼ同様に築造すべきトンネルの断面形状に合わせて掘削機本体2の内部にトンネル掘削に必要な各種の機器類のほぼ全てを収容し、地山を掘削しつつその後方において、セグメントを組み立て、そのセグメントから反力をとって掘進していくものである。さらに本トンネル掘削機1は、カッタ(掘削カッタ5)を回転させて掘削し、その掘削土砂に気泡材やベントナイトなどの作泥土材(添加材)を添加して攪拌し、塑性流動化させた掘削土砂を取り込む掘進方法であり、いわゆる「泥土圧シールド掘削機」である。
ここで、以下の説明では、図1、図2における紙面で左右方向を「前後方向X」とし、切羽側を「前方」とし、その反対側を「後方」として統一して用いる。そして、後方から前方へ向かう方向を「掘進方向X1」とする。
【0021】
具体的には、掘削機本体2は、掘削すべきトンネルの断面形状に合致する矩形筒状のスキンプレートからなる外筒3を備え、その外筒後部3b内には組み立て済みの図示しないセグメントを押圧してそこから反力をとって推進するための複数の推進ジャッキ4、4、…が後述するリングガーダ31に設けられている。本実施の形態による掘削機本体2は、切羽側からみた正面視で略正方形の断面形状となっている。
また、掘削機本体2の内部にはセグメントの組み立てに使用するためのエレクタ装置(図示省略)が備えられている他、トンネル掘削に必要な装置類が備えられており、以下、主要な構成について説明する。
【0022】
外筒3の内側には、外筒胴部3cに設けられるリングガーダ31と、リングガーダ31より前方の外筒3内を上側掘削部M1と下側掘削部M2とに上下に区画する上下仕切壁32とが設けられている。そして、上側掘削部M1および下側掘削部M2のそれぞれの前方には、切羽を矩形断面に掘削するための掘削カッタ5(5A、5B、5C)が設けられている。
【0023】
上側掘削部M1は、外筒3と上下仕切壁32とによって囲まれ、正面視で横長の矩形断面形状をなす内筒6が前後方向Xに進退可能に設けられている。上側掘削部M1は、内筒6の空間の前方に掘削カッタ5(後述する上段カッタ5A)を配置するとともに、その上段カッタ5Aの後方に掘削土砂を攪拌するためのパドルスクリュー7(7A)を備えた構成となっている。また、パドルスクリュー7Aの後方には、隔壁61が設けられている。
【0024】
また、下側掘削部M2は、外筒3と上下仕切壁32とによって囲まれ、後方側には後述する中段カッタ5Bと下段カッタ5Cとを後方から支持する隔壁33が設けられている。この下側掘削部M2は、掘削機本体2の空間の前方に掘削カッタ5(後述する中段カッタ5B、下段カッタ5C)を配置するとともに、その中段カッタ5Bおよび下段カッタ5Cの後方に掘削土砂を攪拌するためのパドルスクリュー7(7B)を備えた構成となっている。
【0025】
ここで、外筒3の外筒前部3aに配置される掘削カッタ5(5A、5B、5C)は、それぞれ周面にカッタビットを備えた円筒形状をなし、カッタ中心軸O1方向をトンネル幅方向に向けた状態で、且つその回転軸がトンネル幅のほぼ全体にわたって延ばされている。そして、掘削カッタ5A、5B、5Cは、それぞれが上下方向に配置されて複数段(本実施の形態では3段)となっており、それら全体で矩形断面のトンネルが掘削される。
また、そのうちの最上段に位置する上段カッタ5A(最上段カッタ)は、内筒6とともに外筒3に対して前後方向Xに進退可能することになる。一方、中段カッタ5Bおよび下段カッタ5Cは、外筒3内の隔壁33に支持アーム12を介して固定され、推進ジャッキ4によって外筒3とともに掘進方向X1に移動する構造となっている。
【0026】
そして、3段の掘削カッタ5(5A、5B、5C)は、上段カッタ5Aほど前後方向Xで前方に位置するように配置、すなわち下段カッタ5C、中段カッタ5B、上段カッタ5Aの順で前方に張出した位置に配置されている。
【0027】
先ず、上段カッタ5Aにより掘削する上側掘削部M1の構成について、図2に基づいて説明する。
上側掘削部M1に設けられる内筒6は、その内側で前後の空間を仕切る隔壁61を備え、その隔壁61とその後方に位置するリングガーダ31との間に進退ジャッキ9が設けられ、この進退ジャッキ9の伸縮によって前後方向Xに1掘進長の長さ以上の範囲内で進退可能となっている。そして、内筒6は、上側掘削部M1を形成する外筒3に対して液密な状態で移動する構成となっている。
【0028】
内筒6は、隔壁61の切羽側の空間が上段カッタ5Aで掘削した土砂を取り込むとともに、パドルスクリュー7(7A)で攪拌して排土するための空間、すなわちチャンバー(第1チャンバーR1)となっている。
この隔壁61のトンネル幅方向で中央下部には、後述する排土スクリュー8Aの取込口8aが配置される開口61aを有している。そして、隔壁61の切羽側の面には、開口61aからトンネル幅方向で両側へ向うにしたがって漸次前方へ延びる斜面61bが形成されている。この隔壁61の斜面61bには、第1チャンバーR1内の土圧を測定するための土圧計11が適宜数設けられている。
【0029】
そして、内筒6の前方上端には、切羽側に延びるとともに、上段カッタ5Aの上方を覆うフード62を備えている。このフード62には、切羽側の先端に刃先62aが設けられている。
【0030】
上段カッタ5Aは、内筒6よりも切羽側に突出した状態で配置され、隔壁61から切羽側に向けて延びる一対の支持アーム10、10によってカッタ中心軸O1を中心にして回転可能に支持されている。各支持アーム10は、後述する小径回転軸52の軸方向両側に配置される一対の大径回転軸52どうしの間の位置を軸支し、パドルスクリュー7Aに干渉しないように設けられている。
【0031】
図3に示すように、支持アーム10は、その内部に掘削土砂に添加させるための作泥土材の通路(図示省略)が設けられていて、切羽側のカッタ回転軸支持部付近に設けられている吐出口13から切羽に向けて気泡材やベントナイト等の作泥土材を吐出させる構造となっている。
【0032】
上段カッタ5Aは、図2および図3に示すように、中心軸O1方向をトンネル幅方向(切羽面に沿う方向)で、且つ水平方向に向けて配置されている。そして、掘削カッタ5は、軸方向の両側に大径回転軸51が配置されるとともに、軸方向中央部に大径回転軸51より小径の小径回転軸52が同軸に配列された構成となっている。具体的には、回転軸方向で小径回転軸52を挟んだ両側にそれぞれ2つの大径回転軸51、51が配置され、さらに大径回転軸51、51同士の間で上述した支持アーム10によって回転自在に支持されている。なお、上段カッタ5Aは、軸方向全部にわたって大径回転軸としてもよい。
【0033】
各回転軸51、52の周面には、それぞれ回転軸の径方向に突出する複数のカッタビット53、54(掘削ビット)が設けられており、回転軸に直交する平面においてすべてのカッタビット53、54の先端の回転軌跡がほぼ同じになっている。つまり、大径回転軸51に設けられているカッタビット53は、小径回転軸52のカッタビット54よりも高さ寸法が小さくなっている。
【0034】
各大径回転軸51の内部には駆動モータ(図示省略)が組み込まれており、それぞれの回転軸51が単独で回転する構造となっている。中央の小径回転軸52においては、隣接する一方の大径回転軸51に連結され、その大径回転軸51とともに回転する。これにより、各大径回転軸51を種々の掘削方法に適応させて、回転速度を変えて掘削することが可能となり、例えば、トンネル幅方向でいずれか一方側だけ回転速度を速くして掘削効率を上げることで、掘削機本体2の方向を変更することができる。
なお、4台の大径回転軸51のうち1台に駆動モータを設け、大径回転軸51と小径回転軸52を連結固定しておくことで、1段の掘削カッタの全ての回転軸51、52を回転させることも可能である。
【0035】
また、上段カッタ5Aは切羽面に対して上から下へ掻き下ろす方向(図1で矢印E1方向)の回転であり、そのためカッタビット53、54の向きは切羽面に接する位置で爪の向きが下向きとなるようにして回転軸51、52に固定されている。
【0036】
次に、図2に示すように、上段カッタ5Aの後方のチャンバーR1内に配置されたパドルスクリュー7Aは、掘削カッタ5Aで掘削した土砂に作泥土材を加えて攪拌するものであり、スクリュー回転軸71の中心軸O2が上段カッタ5Aの回転軸51、52の中心軸O1と並行(本実施の形態では平行でもある)に配置されている。スクリュー回転軸71は、軸方向両端の支持部71a、71aが内筒6の側壁部63に回転可能に支持されるとともに、回転軸71の周面の適宜な位置に所定形状をなす複数の攪拌翼72、72、…が配置されている。
【0037】
ここで、側壁部63には、隔壁61より後方側に駆動モータ73が設けられている。そして、スクリュー回転軸71の支持部71aは、側壁部63の内部に設けられた駆動チェーン74の伝達手段を介して駆動モータ73によって回転駆動されている。
【0038】
さらに、隔壁61の開口61aには、取込口8aを第1チャンバーR1内に配置させた状態で排土スクリュー8(8A)が設けられている。つまり、パドルスクリュー7Aで攪拌された掘削土砂は、排土スクリュー8Aによって掘削機本体2の後方へ排出されることになる。
【0039】
次に、中段カッタ5Bおよび下段カッタ5Cにより掘削する下側掘削部M2について、図1などを用いて説明する。なお、上述した上側掘削部M1の構成と同様のものは、図2を用いて説明する。
下側掘削部M2は、上述したように外筒前部3aの上下仕切壁32の下側に位置し、リングガーダ31の前方側に隔壁33が設けられ、その隔壁33の切羽側の空間が中段カッタ5Bおよび下段カッタ5Cで掘削した土砂を取り込むとともに、攪拌して排土するための空間、すなわちチャンバー(第2チャンバーR2)となっている。
【0040】
隔壁33の切羽側から見てトンネル幅方向中央下部には、後述する排土スクリュー8Bの取込口8aが配置される開口33aを有している。また、隔壁33の切羽側の面には、開口33aからトンネル幅方向で両側へ向うにしたがって漸次前方へ延びる図示しない斜面(図2に示す上側掘削部M1の斜面61bと同様)が形成されている。なお、隔壁33の斜面にも、第2チャンバーR2内の土圧を測定するための土圧計(図示省略)が適宜数設けられている。
【0041】
中段カッタ5Bおよび下段カッタ5Cは、それぞれ隔壁33から切羽側に向けて延びる一対の支持アーム12、12によってカッタ中心軸O1を中心にして回転可能に支持されている。各支持アーム12は、図2に示すように、小径回転軸52の軸方向両側に配置される一対の大径回転軸52どうしの間の位置を軸支し、後述の中段カッタ5Bおよび下段カッタ5Cとの後方に位置するパドルスクリュー7Bに干渉しないようアーム部分に開口を設け、パドルスクリュー7Bの回転軸を貫通させている。
【0042】
また、図3に示すように、支持アーム12、12は、その内部に掘削土砂に添加させるための作泥土材の通路(図示省略)が設けられていて、切羽側のカッタ回転軸支持部付近に設けられている吐出口13から切羽に向けて作泥土材を吐出させる構造となっている。
【0043】
中段カッタ5Bおよび下段カッタ5Cは、一部(回転方向、カッタビットの向き)の構成を除いて上述した上段カッタ5Aと同様の構成であるため、上段カッタ5Aと異なる構成について説明する。すなわち、中段カッタ5Bと下段カッタ5Cは、切羽面に対して下から上へ掻き上げる方向(図1で矢印E2方向、E3方向)の回転であり、そのためカッタビット53、54の向きは切羽面に接する位置で爪の向きが上向きとなるようにして回転軸51、52に固定されている。
【0044】
そして、中段カッタ5Bおよび下段カッタ5Cの上下二つのカッタ後方の第2チャンバーR2内には、スクリュー中心軸O2を両カッタ5B、5Cの中心軸O1に並行(本実施の形態では平行でもある)に向けたパドルスクリュー7(7B)が外筒3の側部に回転可能に支持されている。
パドルスクリュー7Bの構成は、図2に示した上側掘削部M1のパドルスクリュー7Aと同一の構成であるので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0045】
さらに、隔壁33の開口33aには、取込口8aを第2チャンバーR2内に配置させた状態で排土スクリュー8(8B)が設けられている。つまり、パドルスクリュー7Aで攪拌された掘削土砂は、排土スクリュー8Bによって掘削機本体2の後方へ排出されることになる。
【0046】
次に、上述したトンネル掘削機1によるトンネル掘削方法について、図4などに基づいて説明する。なお、図4は、見易くするために各部の構成を部分的に示すとともに、簡略化している。
先ず、図4(a)に示すように、上側掘削部M1において上段カッタ5Aを切羽側(掘進方向X1)に突出させつつ掘進する。具体的には、隔壁61とリングガーダ31との間の進退ジャッキ9を伸長させて内筒6を推進させながら、上段カッタ5Aの回転により切羽の地山を掘削する。このとき、図3に示す支持アーム10の先端に設けられる吐出口13から注入される作泥土材を掘削土砂に添加させ、その掘削土砂を第1チャンバーR1内でパドルスクリュー7Aによって十分に攪拌させたのち、排土スクリュー8Aから掘削機本体2の後方へ搬出する。
なお、内筒6の推進時には、外筒3は固定位置のまま移動させず、中段カッタ5Bと下段カッタ5Cも回転を停止させた状態である。
【0047】
次に、上段カッタ5Aで所定の掘削長の掘進が完了したら、図4(b)、(c)に示すように、下側掘削部M2において、中段カッタ5Bと下段カッタ5Cを回転させながら、リングガーダ31とセグメントSとの間の推進ジャッキ4を伸長させて外筒3を掘進方向X1に前進させて掘進する。このとき、図3に示す支持アーム12の先端に設けられる吐出口13から注入される作泥土材が掘削土砂に添加され、その掘削土砂を第2チャンバーR2内でパドルスクリュー7Bによって十分に攪拌させたのち、排土スクリュー8Bから掘削機本体2の後方へ搬出する。
【0048】
なお、この下側掘削部M2における掘進時において、上段カッタ5Aでの掘削は停止され、内筒6も位置が固定されている。ただし、下側掘削部M2による掘削時には、外筒3が推進ジャッキ4により前進するので、進退ジャッキ9を縮めて外筒3の前進移動に同調させる。
【0049】
そして、図4(d)に示すように、3段の掘削カッタ5A、5B、5Cにより1サイクル分の掘削が完了したら、セグメントSを組立てつつ伸長させた推進ジャッキ4を戻して、1サイクルの掘進が完了する。このように、本トンネル掘削方法では、内筒6を外筒3に対して突出させ、上段カッタ5Aを中段カッタ5Bや下段カッタ5Cよりも先行させて掘削することで、地山の崩壊を抑えることができ、切羽の安定化を図ることができる。
【0050】
次に、上述したトンネル掘削機1の作用について、図面に基づいて説明する。
先ず、図1乃至図3に示すように、本トンネル掘削機1では、複数段の掘削カッタ5(5A、5B、5C)を回転させて掘削した土砂に作泥土材を添加して、掘削カッタ5の後方のチャンバーR1、R2に設けられているパドルスクリュー7A、7Bにより十分に攪拌して塑性流動化させて排土することで、チャンバーR1、R2内の土圧を均等化させることができ、掘削中の切羽を安定した状態で保持することができる。
【0051】
すなわち、掘削カッタ5とパドルスクリュー7とがそれぞれの回転軸(カッタ中心軸O1とスクリュー中心軸O2)を並行にし、それら軸方向をトンネル幅方向に向けて配置され、チャンバーR1、R2内に取り込まれる掘削土量がトンネル幅全体にわたって一定となるので、パドルスクリュー7の軸方向全体にわたる範囲で掘削土砂が均等に攪拌され、チャンバーR1、R2内における土圧の圧力差を小さくすることができる。
また、本トンネル掘削機1では、複数段の掘削カッタ5A、5B、5Cに対応するようにパドルスクリュー7A、7Bを配置することで、より効果的な攪拌を行うことができる。
【0052】
また、本発明に係るトンネル掘削機1では、掘削カッタ5の回転軸径が回転軸方向で変化しており、切羽面が崩壊し易いトンネル幅方向の両側部に掘削カッタ5の大径回転軸51を配置することで、この大径回転軸51で切羽面を抑える面積が大きくなることから、回転軸方向で中央部に配置される小径回転軸52に比べて、その両側部の切羽面の崩壊を抑制することができる。
【0053】
上述のように本実施の形態によるトンネル掘削機およびトンネル掘削方法では、パドルスクリュー7の軸方向全体にわたる範囲で掘削土砂を攪拌して塑性流動化させることで、チャンバーR1、R2内の土圧を均等化させて圧力差を小さくすることができる。これにより、切羽の安定を図ることができ、土圧の部分的な低下の影響による地表面沈下の発生を抑えることができる。
【0054】
以上、本発明によるトンネル掘削機およびトンネル掘削方法の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では上段カッタ5Aが進退可能な内筒6に設けられた構成であり、この上段カッタ5Aを先行して突出させることで、上側掘削部M1の小断面の掘削を先に行う掘進手順としたが、このようなトンネル掘削方法に限定されることはない。例えば、地山が崩壊性地山ではなければ、上側掘削部M1と下側掘削部M2とを同時に掘進させるようにしてもかまわない。つまり、トンネル掘削機1として、内筒6を設けない構成であってもかまわない。この場合、外筒3の上下仕切壁32を省略し、1つのチャンバーを構成するものであってもよい。
そして、掘削カッタ5の段数も本実施の形態のように3段であることに限定されることはない。要は、2段以上の複数段の掘削カッタが設けられていれば良いのであって、トンネル掘削断面の大きさ、形状に合わせて任意に設定することが可能である。
【0055】
また、本実施の形態では掘削カッタ5の構造として、軸方向に沿って複数に分割し、回転軸方向で両側に大径回転軸51を配置し、軸方向中央部に小径回転軸52を配置した構成としているが、このような構造に限定されることはない。
すなわち、掘削カッタ5の回転軸径が回転軸方向で変化する構成であれば良く、この場合、掘削対象の地山に対応させて、掘削カッタ5の回転軸径の寸法を変更することが可能であり、回転軸の大径部で切羽の地山を押さえ、小径部で掘削土砂の取り込みを多くすることができる。例えば、本実施の形態のように、掘削土砂の取り込み量を抑えたい地山の場合には、回転軸の大径部(大径回転軸51)の軸方向に占める割合を小径部(小径回転軸52)よりも大きくすることで、掘削カッタ5の後方のチャンバーに対して正面からみた開口面積が小さくなるので、チャンバー内への土砂取り込み量が小径部に比べて少なくなり、切羽の安定を図ることができる。一方、粘性土のように自立性地山の場合には、回転軸の小径部の割合を大きくすることで、掘削土砂の取り込み量を増やし、掘削効率を高めることができる。
【0056】
また、掘削カッタ5の回転軸径も本実施の形態のように軸方向にわたって2つの径寸法(大径回転軸51と小径回転軸52)である他に、1段の掘削カッタにおいて3つ以上の径寸法の回転軸を段階的に漸次変化させる構成とすることも可能である。
さらに、本実施の形態のように小径回転軸52を回転軸方向中央部に配置することにも制限されることはない。
さらにまた、1段の掘削カッタ5の軸方向分割数もまた任意に設定することが可能であり、分割しないカッタであってもかまわない。
【0057】
また、掘削カッタ5、パドルスクリュー7の外径寸法、軸方向の長さ寸法、取り付け位置、数量などの構成は、本実施の形態に限定されることはなく、掘削対象の地山条件やトンネル断面の大きさなどの条件に応じて適宜設定することができる。
【0058】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 トンネル掘削機
2 掘削機本体
3 外筒
4 推進ジャッキ
5 掘削カッタ
5A 上段カッタ(最上段の掘削カッタ)
5B 中段カッタ
5C 下段カッタ
6 内筒
7、7A、7B パドルスクリュー
8、8A、8B 排土スクリュー
9 進退ジャッキ
10、12 支持アーム
13 吐出口
51 大径回転軸
52 小径回転軸
53、54 カッタビット(掘削ビット)
M1 上側掘削部
M2 下側掘削部
O1 カッタ中心軸
O2 スクリュー中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削機本体の切羽面側にカッタを備えて掘削するトンネル掘削機であって、
水平回転軸の周囲にその軸方向で所定間隔に掘削ビットが外方に突出して設けられるとともに、軸方向をトンネル幅方向に向けて配置された掘削カッタが、前記掘削機本体の前面に沿って上下方向に複数段設けられ、
前記掘削カッタの近傍には、掘削土砂を塑性流動化させる添加材の吐出口が設けられ、
前記掘削カッタ後方のチャンバー内には、掘削土砂を攪拌して塑性流動化させるパドルスクリューが、そのスクリュー回転軸を前記掘削カッタの回転軸と並行にして設けられていることを特徴とするトンネル掘削機。
【請求項2】
前記掘削カッタの回転軸径は、回転軸方向で変化していることを特徴とする請求項1に記載のトンネル掘削機。
【請求項3】
前記掘削カッタの回転軸径は、回転軸方向で中央部が両側部より小径であることを特徴とする請求項2に記載のトンネル掘削機。
【請求項4】
前記掘削カッタは、前記回転軸方向に複数に分割され、それぞれが単独で回転可能であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のトンネル掘削機。
【請求項5】
最上段の前記掘削カッタは、前記掘削機本体の外筒内で切羽側に向けて突出可能に設けられた内筒に設けられ、
該内筒の内側のチャンバーに前記パドルスクリューが設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のトンネル掘削機。
【請求項6】
水平回転軸の周囲にその軸方向で所定間隔に掘削ビットが外方に突出して設けられるとともに、軸方向をトンネル幅方向に向けて配置され、前記掘削機本体の前面に沿って上下方向に複数段設けられた掘削カッタで切羽を掘削する工程と、
掘削土砂に添加材を添加させつつ、その掘削土砂を前記掘削カッタ後方のチャンバー内でパドルスクリューによって攪拌して塑性流動化させる工程と、
を有することを特徴とするトンネル掘削方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−202349(P2011−202349A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67628(P2010−67628)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】