説明

トンネル覆工コンクリートの保湿養生層取付け構造

【課題】簡易な構成を備え、簡単な作業によって覆工コンクリートの内周面に着脱できる、保湿養生層を覆工コンクリートの内周面に密着配置するための保湿養生層取付け構造を提供する。
【解決手段】アーチ状フレーム構造体11と固定サポート部材12とからなり、アーチ状フレーム構造体11は、上部フレーム構造体11aと一対の側部フレーム構造体11bとからなる。上部フレーム構造体11aと側部フレーム構造体11bとは、ヒンジ連結部15を介して折れ曲がり可能に、且つトンネル20のアーチ形状部分に沿わせて周方向に連設した状態で固定可能に設けられている。ヒンジ連結部15は、上部フレーム構造体11aの下端部及び側部フレーム構造体11bの上端部に各々設けられた、当接面部16a,17aを各々備える上側接合金物16と下側接合金物17とを、アーチ状フレーム構造体11の内側領域において回動可能にピン結合して形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルのアーチ形状部分の内壁面を覆って形成された覆工コンクリートを湿潤状態で養生する保湿養生層を、覆工コンクリートの内周面に密着させて配設するためのトンネル覆工コンクリートの保湿養生層取付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネル等のトンネル工事においては、例えばトンネルを掘削した後のトンネルの内壁面にコンクリートを吹き付けて一次覆工を行った後に、トンネル覆工型枠を設置して、設置したトンネル覆工型枠とトンネルの内壁面との間の空間にコンクリートを打設することで、所定の厚さの覆工コンクリートを形成するのが一般的である。
【0003】
また、トンネルの内壁面を覆って形成された覆工コンクリートは、脱型後にそのまま放置すると乾燥収縮によるひび割れが発生し、品質が低下してしまうため、形成された覆工コンクリートの内周面を湿潤状態に保持して養生を行うことで、覆工コンクリートが乾燥しないようにして、ひび割れを防止できるようにする技術が種々開発されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−19067号公報
【特許文献2】特開2010−180589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の養生装置では、保湿養生層をトンネルのアーチ形状部分の覆工コンクリートの内周面に密着させて配設するための円筒シェル構造は、H形鋼や溝形鋼等からなる重量の大きなものであり、また移動架台に取り付けたジャッキ機構等を用いて、保湿養生層を覆工コンクリートの内周面に押し付けた状態に保持するものであるため、その構成が複雑且つ高価になる。
【0006】
また、特許文献2に記載の養生システムでは、保湿養生層をトンネルのアーチ形状部分の覆工コンクリートの内周面に密着させて配設するための支持フレームは、例えば塩化ビニル製の可撓性パイプを用いて形成されており、トンネルのアーチ形状部分の内周面に沿うように変形自在となっていることから、簡易に且つ軽量に形成できると共に、昇降装置(移動架台)がなくても、保湿養生層を覆工コンクリートの内周面に押し付けた状態に保持することが可能であるが、特許文献2の支持フレームは、可撓性パイプの弾性付勢力によって保湿養生層を覆工コンクリートの内周面に押し付けるものであるため、特に曲率の小さなトンネルのアーチ形状部分の両側部において、支持フレームを湾曲させながら覆工コンクリートの内周面に沿わせて精度良く設置する作業に多くの手間を要すると共に、設置した支持フレームを取り外す際には相当の力を要して、スムーズに取外し作業を行うことが困難である。
【0007】
本発明は、簡易な構成を備えると共に、簡単な作業によって覆工コンクリートの内周面に沿わせて精度良く設置することができ、且つ簡単な作業によって覆工コンクリートの内周面からスムーズ取り外すことのできる、保湿養生層を覆工コンクリートの内周面に密着させて配設するためのトンネル覆工コンクリートの保湿養生層取付け構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、トンネルのアーチ形状部分の内壁面を覆って形成された覆工コンクリートを湿潤状態で養生する保湿養生層を、覆工コンクリートの内周面に密着させて配設するための保湿養生層取付け構造であって、アーチ状フレーム構造体と、該アーチ状フレーム構造体の下端部とトンネルの底盤部との間に介在して設置されて、該アーチ状フレーム構造体を前記覆工コンクリートの内周面に沿わせた状態で固定する固定サポート部材とを含んで構成されており、前記アーチ状フレーム構造体は、トンネルのアーチ形状部分の周方向に延設する複数本の周方向フレーム部材と、これらの周方向フレーム部材をトンネルの延長方向に連結する複数本の連結フレーム部材とを含んで形成されており、前記アーチ状フレーム構造体は、トンネルのアーチ形状部分の上部に配置される上部フレーム構造体と、該上部フレーム構造体の両側に配置される一対の側部フレーム構造体とからなり、前記上部フレーム構造体と前記側部フレーム構造体とは、ヒンジ連結部を介して折れ曲がり可能に、且つ前記トンネルのアーチ形状部分に沿わせて周方向に連設した状態で固定可能に設けられており、前記上部フレーム構造体と前記側部フレーム構造体との間の前記ヒンジ連結部は、複数本の前記周方向フレーム部材の上部フレーム部の下端部をトンネルの延長方向に延設する上側接合金物を介して一体として接合すると共に、複数本の前記周方向フレーム部材の側部フレーム部の上端部をトンネルの延長方向に延設する下側接合金物を介して一体として接合し、前記上側接合金物と前記下側接合金物とを回動可能にピン結合することによって構成されており、前記上側接合金物と前記下側接合金物とは、前記上部フレーム構造体と前記側部フレーム構造体とを前記トンネルのアーチ形状部分に沿わせて周方向に連設させた際の当該周方向に対向して互いに当接する、上側当接面部と下側当接面部とを各々備えると共に、前記上側接合金物及び前記下側接合金物、及び/又はこれらに接合される前記上部フレーム部及び前記側部フレーム部の端部から前記アーチ状フレーム構造体の内側に張り出して設けられた、複数の上側結合片と下側結合片とを各々有していて、該上側結合片と該下側結合片とが、前記アーチ状フレーム構造体の内側領域において回動可能にピン結合されており、前記固定サポート部材を用いて前記アーチ状フレーム構造体を固定した際に、前記上側当接面部と前記下側当接面部とが密着当接することで、前記上部フレーム構造体と前記側部フレーム構造体とが、前記トンネルのアーチ形状部分に沿って周方向に連設した状態となるトンネル覆工コンクリートの保湿養生層取付け構造を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0009】
そして、本発明のトンネル覆工コンクリートの保湿養生層取付け構造は、前記上側当接面部と前記下側当接面部には、互いに合致する位置に位置決め係合穴が各々形成されており、これらの位置決め係合穴を合致させて係合部材を装着することで、前記上側当接面部と前記下側当接面部とが位置合わせされて密着当接するようになっていることが好ましい。
【0010】
また、本発明のトンネル覆工コンクリートの保湿養生層取付け構造は、前記上側当接面部と前記下側当接面部のいずれか一方には、位置決め係合穴が形成されており、前記上側当接面部と前記下側当接面部のいずれか他方には、前記位置決め係合穴と合致する位置に、前記位置決め係合穴に嵌め合わされる位置決め凸部が設けられており、前記位置決め係合穴に前記位置決め凸部が装着されることで、前記上側当接面部と前記下側当接面部とが位置合わせされて密着当接するようになっていることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明のトンネル覆工コンクリートの保湿養生層取付け構造は、複数の前記上側結合片と複数の前記下側結合片とが、前記上側接合金物及び前記下側接合金物と平行に延設する同じ直線棒状のピン部材によって、複数の接合箇所においてピン結合されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の保湿養生層を覆工コンクリートの内周面に密着させて配設するためのトンネル覆工コンクリートの保湿養生層取付け構造によれば、簡易な構成を備えると共に、簡単な作業によって覆工コンクリートの内周面に沿わせて精度良く設置することができ、且つ簡単な作業によって覆工コンクリートの内周面からスムーズ取り外すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の好ましい一実施形態に係るトンネル覆工コンクリートの保湿養生層取付け構造を、覆工コンクリートの内周面に沿わせて固定した状態で示すトンネルの横断面図である。
【図2】本発明の好ましい一実施形態に係るトンネル覆工コンクリートの保湿養生層取付け構造を、固定した状態で示す側面図である。
【図3】(a)は図2のB部の拡大分解図、(b)は(a)を左側から見た側面図である。
【図4】(a)は図1のA部の拡大正面図、(b)は(a)を右側から見た側面図である。
【図5】上側当接面部と下側当接面部に各々形成した位置決め係合穴を合致させて係合部材を装着した状態を説明する断面図である。
【図6】保湿養生層の構成を説明する拡大略示断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好ましい一実施形態に係るトンネル覆工コンクリートの保湿養生層取付け構造10は、図1に示すように、例えば山岳トンネルを構築するためのトンネル工事において、例えばトンネル20の坑内を移動可能な公知の移動式セントル(図示せず)を用いて設置されたトンネル覆工型枠(図示せず)と、好ましくは吹付けコンクリートによる一次覆工21によって覆われたトンネル20の内壁面20aとの間の空間に、コンクリートを打設することで形成されたトンネル20のアーチ形状部分の覆工コンクリート22を、トンネル覆工型枠を脱型した後に湿潤養生する際に、覆工コンクリート22の内周面22aを覆って取り付けられる保湿養生層26を、当該内周面22aに密着させて配設するための、着脱が容易な簡易な支持構造として採用されたものである。
【0015】
そして、本実施形態のトンネル覆工コンクリートの保湿養生層取付け構造10は、トンネル20のアーチ形状部分の内壁面20aを覆って形成された覆工コンクリート22を湿潤状態で養生する保湿養生層26を、覆工コンクリート22の内周面22aに密着させて配設するための支持構造であって、図1及び図2に示すように、アーチ状フレーム構造体11と、アーチ状フレーム構造体11の下端部とトンネル20の底盤部20bとの間に介在して設置されて、アーチ状フレーム構造体11を覆工コンクリート22の内周面22aに沿わせた状態で固定する固定サポート部材12とを含んで構成されている。
【0016】
アーチ状フレーム構造体11は、トンネル20のアーチ形状部分の周方向に延設する複数本の周方向フレーム部材13と、これらの周方向フレーム部材13をトンネルの延長方向に連結する複数本の連結フレーム部材14とを含んで形成されており、またアーチ状フレーム構造体11は、トンネルのアーチ形状部分の上部に配置される上部フレーム構造体11aと、この上部フレーム構造体11aの両側に配置される一対の側部フレーム構造体11bとからなり、上部フレーム構造体11aと側部フレーム構造体11bとは、ヒンジ連結部15を介して折れ曲がり可能に、且つトンネル20のアーチ形状部分に沿わせて周方向に連設した状態で固定可能に設けられている。
【0017】
上部フレーム構造体11aと側部フレーム構造体11bとの間のヒンジ連結部15は、図3(a)、(b)及び図4(a)〜(c)に示すように、複数本の周方向フレーム部材13の上部フレーム部13aの下端部をトンネルの延長方向に延設する上側接合金物16を介して一体として接合すると共に、複数本の周方向フレーム部材13の側部フレーム部13bの上端部をトンネルの延長方向に延設する下側接合金物17を介して一体として接合し、上側接合金物16と下側接合金物17とを回動可能にピン結合することによって構成されている。
【0018】
上側接合金物16と下側接合金物17とは、上部フレーム構造体11aと側部フレーム構造体11bとをトンネル20のアーチ形状部分に沿わせて周方向に連設させた際の当該周方向に対向して互いに当接する、上側当接面部16aと下側当接面部17aとを各々備えると共に、上側接合金物16及び下側接合金物17に接合される上部フレーム部13a及び側部フレーム部13bの端部からアーチ状フレーム構造体11の内側に張り出して設けられた、複数の上側結合片16bと下側結合片17bとを各々備えていて、上側結合片16bと下側結合片17bとが、アーチ状フレーム構造体11の内側領域において回動可能にピン結合されており(図1参照)、固定サポート部材12を用いてアーチ状フレーム構造体11を固定した際に、上側当接面部16aと下側当接面部17aとが密着当接することで、上部フレーム構造体11aと側部フレーム構造体11bとが、トンネル20のアーチ形状部分に沿って周方向に連設した状態となるように形成されている。
【0019】
また、本実施形態では、複数の上側結合片16bと複数の下側結合片17bとが、上側接合金物16及び下側接合金物17と平行に延設する同じ直線棒状のピン部材18によって、複数の接合箇所においてピン結合されている。
【0020】
本実施形態では、アーチ状フレーム構造体11は、図1及び図2に示すように、例えば太さが35mm程度の繊維強化プラスチック(FRP)製のパイプ部材を、トンネル20のアーチ形状部分の覆工コンクリート22の内周面22aに沿った形状に湾曲加工することによって得られた複数本の周方向フレーム部材13と、これらの周方向フレーム部材13をトンネル20の延長方向に連結する、例えば周方向フレーム部材13と同様の太さが35mm程度のFRP製のパイプ部材からなる複数本の連結フレーム部材14とを、これらの交点部分を互いに接着剤や溶接を介して接合することによって形成されている。また、本実施形態では、連結フレーム部材14は、好ましくは周方向フレーム部材13を5〜15本毎に連結一体化するように取り付けることができる。本実施形態では、複数本の周方向フレーム部材13は、トンネル20の延長方向に例えば800〜1000mm程度のピッチで配設されると共に、複数本の連結フレーム部材14は、トンネル20の周方向に例えば1600〜2000mm程度のピッチで配設されており、各アーチ状フレーム構造体10は、全体として、例えば10.5m程度のトンネル20の延長方向の長さを有するように組み立てられている。
【0021】
また、アーチ状フレーム構造体11は、当該アーチ状フレーム構造体11を構成する各周方向フレーム部材13が、上部フレーム部13aと、これの両側の一対の側部フレーム部13bとに3分割されており、複数本の上部フレーム部13aの両側の下端部を、トンネル20の延長方向に延設する例えば幅が60mm程度の軽量溝形鋼からなる上側接合金物16介して一体として接合し(図3(a)、(b)、図4(a)、(b)参照)、複数本の側部フレーム部13bの上端部を、トンネル20の延長方向に延設する例えば幅が60mm程度の軽量溝形鋼からなる下側接合金物17介して一体として接合することで(図3(a)、(b)、図4(a)、(b)参照)、上部フレーム構造体11aと両側の一対の側部フレーム構造体11bとに3分割された構成を備えている(図1参照)。
【0022】
なお、本実施形態では、上側接合金物16や側接合金物17は、図2に示すように、連結フレーム部材14と同様に、好ましくは周方向フレーム部材13の上部フレーム部13aや側部フレーム部13bを、5〜15本毎に接合一体化するように取り付けられている。
【0023】
また、本実施形態では、トンネル20のアーチ形状部分に形成された覆工コンクリート22の内周面22aは、アーチ形状部分の上部と側部でその曲率か変化するように形成されており、アーチ状フレーム構造体11における、上部フレーム構造体11aを構成する上部フレーム部13aと、側部フレーム構造体11bを構成する側部フレーム部13bとは、このような曲率の変化に対応させて湾曲していると共に、好ましくはアーチ形状部分の変曲点部分に、ヒンジ連結部15が配置されている。
【0024】
そして、本実施形態では、上部フレーム構造体11aと側部フレーム構造体11bとは、図3(a)、(b)及び図4(a)、(b)に示すように、ヒンジ連結部15を介して折れ曲がり可能に、且つトンネル20のアーチ形状部分に沿わせて周方向に連設した状態で固定可能に設けられている。
【0025】
すなわち、本実施形態では、上部フレーム構造体10aの両側の下端部に沿って各々配置された上側接合金物16は、コの字断面形状を備える軽量溝形鋼の背面側溝部分に、スリーブ状金物19によって補強された複数本の上部フレーム部13aの下端部を挿入した状態で、接着剤や溶接を介して接合することで、複数本の上部フレーム部13aの下端部を一体として固定すると共に、コの字断面形状の中間辺部を上側当接面部16aとして、トンネル20のアーチ形状部分の周方向に対向させて配置されるようになっている。また、本実施形態では、上部フレーム部13aの下端部の接合箇所を避けた上側接合金物16の上側当接面部16aの適宜の位置に、好ましくは円形の位置決め係合穴16cが、複数開口形成されている。
【0026】
両側の側部フレーム構造体10bの上端部に沿って各々配置された下側接合金物17は、コの字断面形状を備える軽量溝形鋼の背面側溝部分に、スリーブ状金物19によって補強された複数本の側部フレーム部13bの上端部を挿入した状態で、接着剤や溶接を介して接合することで、複数本の側部フレーム部13bの上端部を一体として固定すると共に、コの字断面形状の中間辺部を下側当接面部17aとして、トンネル20のアーチ形状部分の周方向に対向させて配置されるようになっている。また、本実施形態では、側部フレーム部13bの上端部の接合箇所を避けた下側接合金物17の下側当接面部17aにおける、上側接合金物16の位置決め係合穴16cと合致する位置に、好ましくは円形の位置決め係合穴17cが、複数開口形成されている。
【0027】
上側接合金物16の上側当接面部16aと下側接合金物17の下側当接面部17aとを周方向に対向させつつ当接させて、上部フレーム構造体11aと側部フレーム構造体11bとをトンネル20のアーチ形状部分に沿わせて周方向に連設させた際に、図5に示すように、合致した上側接合金物16の位置決め係合穴16cと、下側接合金物17の位置決め係合穴17cとに跨るようにして、好ましくは上方から係合部材23を装着係止することによって、上側当接面部16aと下側当接面部17aとが位置ずれしないよう精度良く位置合わせして、上側接合金物16と下側接合金物17とをより安定した状態で密着当接させることが可能になる。
【0028】
ここで、係合部材23は、本実施形態では、円形の位置決め係合穴16c,17cの内径と略同様の外径を備える円柱状の部材であり、上端部には外周縁部から外側に張り出して、係止フランジ部23aが設けられている。例えば係合部材23を、係止フランジ部23aが、上側接合金物16の背面側溝部分の内側において位置決め係合穴16cの開口周縁部に係止されるまで、好ましくは上方から合致した位置決め係合穴16c,17cに挿入装着することによって、上側接合金物16と下側接合金物17とを容易に且つ精度良く位置合わせすることが可能になる。
【0029】
上側接合金物16の背面側溝部分の内側、及び下側接合金物17の背面側溝部分の内側には、本実施形態では、位置決め係合穴16c,17cと同様の内径の挿通穴を備える補強座金部材24が、位置決め係合穴16c,17cの開口周縁部を補強するようにして各々設けられている。本実施形態では、合致した位置決め係合穴16c,17c及びこれらを補強する補強座金部材24の挿通穴を連続して貫通させて、係合部材23が、これの係止フランジ部23aが上側接合金物16に設けられた補強座金部材24の挿通孔の開口周縁部に係止されるまで、挿入装着されるようになっている。
【0030】
なお、係合部材23は、合致した位置決め係合穴16c,17cや補強座金部材24の挿通孔に挿入係止される部材である必要は必ずしも無く、例えば位置決め係合穴16c,17cや補強座金部材24の挿通孔に雌ネジを形成して、これらに螺合装着される雄ネジを備える係合部材等であっても良い。
【0031】
また、本実施形態では、上側接合金物16を介して一体として接合された複数本の上部フレーム部13aの下端部のうち、例えば一つ置きの上部フレーム部13aの下端部を補強するスリーブ状金物19に一体として取り付けれて、先端部分にピン挿通穴16dを有する上側結合片16bが、縦方向に延設して設けられている。
【0032】
一方、下側接合金物17を介して一体として接合された複数本の側部フレーム部13bの上端部のうち、例えば一つ置きの側部フレーム部13bの上端部を補強するスリーブ状金物19に一体として取り付けられて、先端部分にピン挿通穴17dを有する下側結合片17bが、横方向に延設して設けられている。
【0033】
これらの複数の上側結合片16bや下側結合片17bは、先端部分に形成されたピン挿通穴16d,17dを、アーチ状フレーム構造体11の内側領域において各々合致させて、ピン部材18を挿通係止することによって、複数本の側部フレーム部13bの上端部を一体として接合した下側接合金物17を、複数本の上部フレーム部13aの下端部を一体として接合した下側接合金物16に対して、回動可能にピン結合することが可能になる。またこれによって、アーチ状フレーム構造体11の側部フレーム構造体11bを、上部フレーム構造体11aに対して、ピン結合によるヒンジ連結部15を介して折れ曲がり可能に、且つトンネル20のアーチ形状部分に沿わせて周方向に連設した状態で固定可能に連結することが可能になる。
【0034】
また、本実施形態では、アーチ状フレーム構造体11の内側領域において、下側接合金物16から下方に向けて縦方向に延設する上側結合片16bと、下側接合金物17からトンネル20の内側に向けて横方向に延設する下側結合片17bとを略L字形状に連結して、ヒンジ連結部15を形成している。これによって、固定サポート部材12を用いてアーチ状フレーム構造体11を固定する際に、上側接合金物16の上側当接面部16aと下側接合金物17の下側当接面部17aとを、これらの略全域に亘って面接触させつつ周方向に対向させて密着当接させることで、アーチ状フレーム構造体11を、トンネル20のアーチ形状部分の覆工コンクリート22の内周面22aに沿わせて、安定した状態で設置することが可能になる。
【0035】
さらに、本実施形態では、複数の上側結合片16bと複数の下側結合片17bとが、合致した各ピン挿通穴16d,17dに、上側接合金物16や下側接合金物17と平行に延設する同じ直線棒状のピン部材18を挿通係止することによって、同時にピン結合されている。これによって、複数の側部フレーム部13bを連結して構成される側部フレーム構造体11bの、複数の上部フレーム部13aを連結して構成される上部フレーム構造体11aに対する回動操作を、より安定した状態で行うことが可能になる。
【0036】
そして、本実施形態では、アーチ状フレーム構造体11の下端部とトンネル20の底盤部20bとの間に介在して設置されて、アーチ状フレーム構造体11を覆工コンクリート22の内周面22aに沿わせた状態で固定する固定サポート部材12として、図1及び図2に示すように、例えば伸縮ジャッキとして公知のパイプサポートに適宜改良を加えたものを用いることができる。固定サポート部材12は、側部フレーム構造体11bの最下端部に取り付けられた連結フレーム部材14と、トンネル20の底盤部20bの両側の側縁部に各々設置された、例えばH形鋼からなる支圧台25との間に介在させて、着脱可能に複数箇所に設置される。
【0037】
複数の固定サポート部材12を用いて、例えばこれらのベースプレート部12aを支圧台25に密着載置すると共に、これらの上端係止部12bに、アーチ状フレーム構造体11の最下端部の連結フレーム部材14を係止した状態で、各固定サポート部材12を伸長させることで、アーチ状フレーム構造体11を、トンネル20のアーチ形状部分の覆工コンクリート20の内周面20aに沿わせて周方向に配設して、容易に固定することができる。
【0038】
すなわち、上部フレーム構造体11aの下端部の上側接合金物16の上側当接面部16aと、側部フレーム構造体11bの上端部の下側接合金物17の下側当接面部17aとを密着当接させると共に、合致した位置決め係合穴16c,17cに係合部材23を挿入係止して、アーチ状フレーム構造体11の上部フレーム構造体11aと側部フレーム構造体11bとを、トンネル20のアーチ形状部分に沿うように周方向に連設させた状態で、各固定サポート部材12を伸長させて、アーチ状フレーム構造体10を押し上げることで、これの外周部分に設けられた保湿養生層26を、覆工コンクリート22の内周面22aに密着させた状態で、アーチ状フレーム構造体11を容易に固定することができる。また、伸長させた各固定サポート部材12を収縮させることで、固定状態を開放させて、固定サポート部材14及びアーチ状フレーム構造体11を容易に取り外すことができる。
【0039】
本実施形態では、覆工コンクリート22の内周面22aに沿って設置されたアーチ状フレーム構造体11によって支持されて、覆工コンクリート22の内周面22aを覆って密着した状態で配設される保湿養生層26は、図6に示すように、保形性を付与するための、好ましくはプラスチックダンボールからなる4mm程度の厚さの基板層26aと、基板層26aの外側に配置される、好ましくは独立気泡や連続気泡等の空隙を内部に有するスポンジ等の発泡部材からなる保温層26bと、保温層26bのさらに外側に配置される保湿マット26cとを含んで形成される。保湿マット26cとしては、水分を吸収可能であり、且つ吸収した水分を保持可能な物性を備える、公知の各種の保湿マットを使用することができる。保温層26bと保湿マット26cとからなる保温保湿層として、好ましくは、市販のコンクリート保温・保湿養生用マットである商品名「うるおんマット」(フジモリ産業株式会社製)を使用することができる。
【0040】
保湿養生層26は、アーチ状フレーム構造体11の外周部分に接着剤等を介して予め取り付けておくことで、アーチ状フレーム構造体11を覆工コンクリート22の内周面22aに沿わせて設置する際に、これと同時に保湿養生層26を覆工コンクリート22の内周面22aを覆って密着させた状態で配設することができる。また、アーチ状フレーム構造体11を覆工コンクリート22の内周面22aに沿って設置した後に、所定の形状に裁断したシート状の保湿養生層26を、設置したアーチ状フレーム構造体11と覆工コンクリート22の内周面22aとの間に差し込んで、縦横に連設配置することで、覆工コンクリート22の内周面22aを覆って密着させた状態で配設することもできる。
【0041】
そして、上述の構成を備える本実施形態のトンネル覆工コンクリートの保湿養生層取付け構造10によれば、簡易な構成を備えると共に、簡単な作業によって覆工コンクリート22の内周面22aに沿わせて精度良く設置することができ、且つ簡単な作業によって覆工コンクリート22の内周面22aからスムーズ取り外すことができる。
【0042】
すなわち、本実施形態の保湿養生層取付け構造10によれば、軽量のFRP製のパイプ部材と軽量溝形鋼とを用いて、上部フレーム構造体11aと一対の側部フレーム構造体11bとからなるアーチ状フレーム構造体11を、簡易に且つ容易に形成できると共に、例えば公知のパイプサポートからなる複数の固定サポート部材12を用いて、簡単な作業によって、アーチ状フレーム構造体11の外周部分に保湿養生層26を配置した状態で、覆工コンクリート22の内周面22aに沿わせて容易に設置することができ、且つ伸長させた固定サポート部材12を収縮させることで、固定状態を開放させて容易に取り外すことが可能になる。
【0043】
また、上部フレーム構造体11aと一対の側部フレーム構造体11bとは、覆工コンクリート22の内周面22aに沿った形状に予め精度良く湾曲加工されており、またアーチ状フレーム構造体11の内側領域においてピン結合されて折れ曲がり可能に形成されているので、上部フレーム構造体11aと一対の側部フレーム構造体11bとを折れ曲がった状態から回動させて、トンネル20のアーチ形状部分に沿わせて周方向に連設した状態で固定することにより、覆工コンクリート22の内周面22aに沿わせて精度良く容易に設置することが可能になる。
【0044】
さらに、上部フレーム構造体11aと一対の側部フレーム構造体11bとは、アーチ状フレーム構造体11の内側領域において回動可能にピン結合されているので、固定サポート部材12を用いてアーチ状フレーム構造体11を固定する際に、上部フレーム構造体11aの下端部の上側接合金物16の上側当接面部16aと、側部フレーム構造体11bの下端部の下側接合金物17の下側当接面部17aとを、これらの略全域に亘って面接触させつつ密着当接させることが可能になり、これによってアーチ状フレーム構造体11を、覆工コンクリート22の内周面22aに沿わせて安定した状態で設置することが可能になる。
【0045】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、アーチ状フレーム構造体を構成する周方向フレーム部材や連結フレーム部材は、FRP製のパイプ部材からなるものである必要は必ずしも無く、塩化ビニル製のパイプ部材や軽量形鋼等の、湾曲加工が容易であると共に軽量の、各種の骨組み部材を用いて形成することができる。また、複数の上側結合片と複数の前記下側結合片とを、同じ直線棒状のピン部材によって複数の接合箇所においてピン結合する必要は必ずしも無く、各々接合箇所において別々のピン部材を用いてピン結合することもできる。さらに、上側結合片や下側結合片は、上側接合金物や下側接合金物に接合される上部フレーム部や側部フレーム部の端部から、アーチ状フレーム構造体の内側に張り出して設ける必要は必ずしも無く、上側接合金物及び下側接合金物から、直接、各々アーチ状フレーム構造体の内側に張り出して設けても良い。
【0046】
さらに、上部フレーム構造体の下端部の上側接合金物の上側当接面部と、側部フレーム構造体の上端部の下側接合金物の下側当接面部のいずれか一方には、位置決め係合穴を形成しておき、上側当接面部と下側当接面部のいずれか他方には、位置決め係合穴と合致する位置に、位置決め係合穴に嵌め合わされる位置決め凸部を設けておき、位置決め係合穴に位置決め凸部が装着されることで、上側当接面部と下側当接面部とが位置合わせされて密着当接するようにすることもできる。
【符号の説明】
【0047】
10 トンネル覆工コンクリートの保湿養生層取付け構造
11 アーチ状フレーム構造体
11a 上部フレーム構造体
11b 側部フレーム構造体
12 固定サポート部材
13 周方向フレーム部材
13a 上部フレーム部
13b 側部フレーム部
14 連結フレーム部材
15 ヒンジ連結部
16 上側接合金物
16a 上側当接面部
16b 上側結合片
16c 位置決め係合穴
16d ピン挿通穴
17 下側接合金物
17a 下側当接面部
17b 下側結合片
17c 位置決め係合穴
17d ピン挿通穴
18 ピン部材
19 スリーブ状金物
20 トンネル
20a トンネルの内壁面
20b トンネルの底盤部
22 覆工コンクリート
22a 覆工コンクリートの内周面
23 係合部材
25 支圧台
26 保湿養生層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルのアーチ形状部分の内壁面を覆って形成された覆工コンクリートを湿潤状態で養生する保湿養生層を、覆工コンクリートの内周面に密着させて配設するための保湿養生層取付け構造であって、
アーチ状フレーム構造体と、該アーチ状フレーム構造体の下端部とトンネルの底盤部との間に介在して設置されて、該アーチ状フレーム構造体を前記覆工コンクリートの内周面に沿わせた状態で固定する固定サポート部材とを含んで構成されており、
前記アーチ状フレーム構造体は、トンネルのアーチ形状部分の周方向に延設する複数本の周方向フレーム部材と、これらの周方向フレーム部材をトンネルの延長方向に連結する複数本の連結フレーム部材とを含んで形成されており、
前記アーチ状フレーム構造体は、トンネルのアーチ形状部分の上部に配置される上部フレーム構造体と、該上部フレーム構造体の両側に配置される一対の側部フレーム構造体とからなり、前記上部フレーム構造体と前記側部フレーム構造体とは、ヒンジ連結部を介して折れ曲がり可能に、且つ前記トンネルのアーチ形状部分に沿わせて周方向に連設した状態で固定可能に設けられており、
前記上部フレーム構造体と前記側部フレーム構造体との間の前記ヒンジ連結部は、複数本の前記周方向フレーム部材の上部フレーム部の下端部をトンネルの延長方向に延設する上側接合金物を介して一体として接合すると共に、複数本の前記周方向フレーム部材の側部フレーム部の上端部をトンネルの延長方向に延設する下側接合金物を介して一体として接合し、前記上側接合金物と前記下側接合金物とを回動可能にピン結合することによって構成されており、
前記上側接合金物と前記下側接合金物とは、前記上部フレーム構造体と前記側部フレーム構造体とを前記トンネルのアーチ形状部分に沿わせて周方向に連設させた際の当該周方向に対向して互いに当接する、上側当接面部と下側当接面部とを各々備えると共に、前記上側接合金物及び前記下側接合金物、及び/又はこれらに接合される前記上部フレーム部及び前記側部フレーム部の端部から前記アーチ状フレーム構造体の内側に張り出して設けられた、複数の上側結合片と下側結合片とを各々有していて、該上側結合片と該下側結合片とが、前記アーチ状フレーム構造体の内側領域において回動可能にピン結合されており、
前記固定サポート部材を用いて前記アーチ状フレーム構造体を固定した際に、前記上側当接面部と前記下側当接面部とが密着当接することで、前記上部フレーム構造体と前記側部フレーム構造体とが、前記トンネルのアーチ形状部分に沿って周方向に連設した状態となるトンネル覆工コンクリートの保湿養生層取付け構造。
【請求項2】
前記上側当接面部と前記下側当接面部には、互いに合致する位置に位置決め係合穴が各々形成されており、これらの位置決め係合穴を合致させて係合部材を装着することで、前記上側当接面部と前記下側当接面部とが位置合わせされて密着当接する請求項1記載のトンネル覆工コンクリートの保湿養生層取付け構造。
【請求項3】
前記上側当接面部と前記下側当接面部のいずれか一方には、位置決め係合穴が形成されており、前記上側当接面部と前記下側当接面部のいずれか他方には、前記位置決め係合穴と合致する位置に、前記位置決め係合穴に嵌め合わされる位置決め凸部が設けられており、前記位置決め係合穴に前記位置決め凸部が装着されることで、前記上側当接面部と前記下側当接面部とが位置合わせされて密着当接する請求項1記載のトンネル覆工コンクリートの保湿養生層取付け構造。
【請求項4】
複数の前記上側結合片と複数の前記下側結合片とが、前記上側接合金物及び前記下側接合金物と平行に延設する同じ直線棒状のピン部材によって、複数の接合箇所においてピン結合されている請求項1〜3のいずれか1項記載のトンネル覆工コンクリートの保湿養生層取付け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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