説明

ドア構造

【課題】外観不良を生じることなく、ドアトリムの背面側にドア操作用のケーブルの揺動を抑える突出部を設けたドア構造を提供する。
【解決手段】本発明に係るドア構造の代表的な構成は、ドアパネル102と、車両用ドアの内装としてドアパネル102の内側に取り付けられるドアトリム120と、ドアトリムの意匠面に設けられた装飾用の溝部130と、溝部の背面130a側に設けられたリブ132とを備え、リブ132とドアパネル102との間で、ドアトリム120とドアパネル102との間に配置されたケーブル110d、110eを挟持して固定したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用ドアのドア構造に関し、特に内装材の内部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、車両のドアの内側には、ドアトリムと呼ばれる樹脂製の内装材が取り付けられている。ドアトリムには乗員がドアを開閉操作するためのドアインサイドハンドルが設けられている。
【0003】
ドアロック機構はドアのセンターピラー近傍(ドアの後端)に設けられる。ドアの車外側に配置されたドアアウトサイドハンドルはドアロック機構の近傍に設けられていて、ドアアウトサイドハンドルとドアロック機構は剛体であるロッドによって接続される。しかしドアインサイドハンドルは、ドアロック機構の近傍に設けると乗員の脇に配置されることになり、近すぎて操作しにくいことから、車両前方寄りに配置される。このため、ドアインサイドハンドルとドアロック機構との間には距離があることから、ケーブルで接続されている。
【0004】
車両の振動によってこのケーブルがドアの内部で揺動して周囲に衝突すると、異音が発生する。さほど大きな音にはなり得ないが、それでも乗員の近くで発生することになるため、不快感を与えるおそれがある。したがって、ケーブルの揺動を抑える必要がある。
【0005】
そこで、ドアパネルとドアトリムとによって挟むことによりケーブルを固定し、その揺動を抑えている。しかし、ドアパネルもドアトリムも起伏のある部材であって、ドアパネルは構造上の理由により、ドアトリムは意匠および機能上の理由により、互いのクリアランス(隙間)を確保できない部位が出てくる。このため、ケーブルの全域に亘って適切にケーブルを挟み込むことは難しい。
【0006】
そのため、ドアパネルとドアトリムの間に適切なクリアランスが確保できない部位では、ドアトリムの背面側に突出部を設けて、ケーブルを突出部とドアパネルとの間に挟み込むように構成している。これにより、走行時の振動によるケーブルの揺動を抑制して、異音の発生を防止することができる。
【0007】
特許文献1には、ドアインナパネルに取り付けるための複数のボスをドアトリムに設け、そのうちの一つのボスにドア操作用ケーブルを固定した構造が提案されている。なお特許文献1は異音防止を目的としたものではなく、ドアトリムをドアインナパネルに取り付ける際にボスとケーブルとが干渉するのを抑制することを目的としているが、副次的効果として異音発生も防止できるものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−290256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の構造のように、ケーブルを固定するためには、ドアトリムに突出部を設けて固定するのが簡便である。しかしながら、ケーブルをドアパネルに向かって押さえる為にはある程度高いリブを突出する必要がある。射出成形において背面側にボスのような突出部を設けると、意匠面である表側にヒケやフローマークを生じ、外観を損なうおそれがある。
【0010】
なお、ヒケとは樹脂が冷却硬化する際に収縮して、ボスなどの突起の裏側がへこんでしまう成形不良である。フローマークは、樹脂の流れが不均一になったり滞ったりするために縞模様が発生する成形不良である。いずれも、ボスのような立体的形状の体積(容積)が大きくなるほど発生しやすいという性質を有している。
【0011】
そこで本発明は、外観不良を生じることなく、ドアトリムの背面側にドア操作用のケーブルの揺動を抑える突出部を設けたドア構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係るドア構造の代表的な構成は、ドアパネルと、車両用ドアの内装としてドアパネルの内側に取り付けられるドアトリムと、ドアトリムの意匠面に設けられた装飾用の溝部と、溝部の背面側に設けられた突出部とを備え、突出部とドアパネルとの間で、ドアトリムとドアパネルとの間に配置されたケーブルを挟持して固定したことを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、ケーブルを抑えるための突出部を溝部の背面側に設けたことにより、突出部に起因してヒケやフローマークが発生したとしても、溝部の奥に発生する。このためヒケが意匠面から極めて観察されにくいため、外観不良を生じない。また、溝部の背面側はドアパネルに向かって突出しているため、ケーブルを抑えるための突出部の高さを他の部位に突出部を設ける場合に比して低く抑えることができ、重量増加を大幅に低減させることができる。
【0014】
ケーブルとしては特に、ドアインサイドハンドルからドアロック機構に接続されるケーブルを対象とすることができ、他の例としてはドアミラーウインカーに接続される電気ケーブルや、パワーウインドウの電気ケーブルなどを例示することができる。ただしドアロック機構のケーブルは特に重く異音を生じやすいため、本発明を適用することに利益がある。
【0015】
ドアトリムの意匠面に貼り付けられた装飾用の表地を更に備え、表地の端を溝部に埋め込んでいることが好ましい。これにより、溝部の中は表地の端で埋められる。したがって溝部の奥にヒケが発生していても全く観察されなくなるため、より外観不良を生じるおそれがなくなる。また、表地の端の処理も同時に行うことができ、簡易に外観の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、外観不良を生じることなく、ドアトリムの背面側にドア操作用のケーブルの揺動を抑える突出部を設けたドア構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】車両用ドアのドア構造の分解斜視図である。
【図2】後退部の近傍を説明する図である。
【図3】ドアトリムの背面側を示す図である。
【図4】第2実施形態にかかる後退部の近傍を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0019】
[第1実施形態]
図1は車両用ドアのドア構造の分解斜視図である。図1において左側が車両前方である。車両用ドア100は、鋼板からなるドアパネル102と、樹脂製のドアトリム120とから構成されている。ドアパネル102は、車両の外板をなすドアアウタパネル104と、ドアアウタパネル104と組み合わされて強度を向上させるドアインナパネル106とから構成されている。
【0020】
ドアアウタパネル104とドアインナパネル106の間には、ドアロック機構110が取り付けられる。ドアロック機構110はラッチ110aをドアパネル102の端面に露出させ、センターピラーに設けられたストライカ(不図示)と係合するように構成されている。
【0021】
ドアアウタパネル104の外側には、ドアアウトサイドハンドル112が取り付けられる。ドアアウトサイドハンドル112はドアロック機構110の近傍かつほぼ上方に配置されており、ドアアウトサイドハンドル112とドアロック機構110とは、ドア開閉用のロッド110bおよび施錠操作用のロッド110cによって接続されている。
【0022】
ドアインナパネル106の内側には、ドアインサイドハンドル114が取り付けられる。ドアインサイドハンドル114は、乗員が操作しやすいようにドアロック機構110よりも車両前方寄りに配置される。図1の例では、ドアインサイドハンドル114はドアパネル102の上縁近傍のほぼ中央に固定される。このようにドアインサイドハンドル114とドアロック機構110とは距離があることから、ドア開閉用のケーブル110d、施錠操作用のケーブル110eによって接続される。ケーブル110d、110eはアウタケーブルの中にインナーワイヤを通した2重構造をしており、押し引きの両方ができるようになっている。
【0023】
ケーブル110d、110eは、図1に破線にて示すように、ドアアウタパネル104とドアインナパネル106の間にあるドアロック機構110から、ドアインナパネル106に設けられた開口部106aを通って、ドアインナパネル106の車内側に取り付けられたドアインサイドハンドル114に接続される。そこでケーブル110d、110eは、開口部106aの縁近傍をドアトリム120とドアインナパネル106とによって固定すればその揺動を抑制できる。
【0024】
ドアトリム120は車両用ドア100の内装であって、ドアパネル102の内側に取り付けられる。ドアトリム120は樹脂製であって、射出成型によって製造される。ドアトリム120には、ドアインサイドハンドル114を露出させるためのハンドル用開口部122、肘掛け124、ポケット126などの立体的な構造が設けられている。肘掛け124は車内側に隆起していて、肘掛け124の上側には車外側に陥没する後退部128を設けている。
【0025】
図2は後退部128の近傍を説明する図である。図2(a)に示すように、後退部128は、乗員がその後退した空間に上腕を収めることによって肘掛け124を利用しやすいように設けられている。したがって、後退部128の周囲はおおむね凸面の湾曲であるのに対し、後退部128は凹面の湾曲となっている。そして本実施形態においては、この後退部128の境界に溝部130を形成する。
【0026】
図2(b)は図2(a)のA−A断面図である。溝部130はドアトリム120の意匠面に装飾用として設けられる。溝部130が設けられると、溝部130の背面側はドアインナパネル106に向かって突出する。
【0027】
さらに、溝部の背面130aの頂点には、リブ132を形成する。リブ132は溝部の背面130aの稜線に沿って起立する突出部である。このリブ132によって、ドアトリム120とドアインナパネル106との間のクリアランス(隙間)を確保(調整)することができる。これにより、ケーブル110d、110eを適切に挟んで固定することができる。
【0028】
図3はドアトリム120の背面側を示す図であって、図3(a)はドアトリム120全体を示す図、図3(b)は図3(a)の破線で囲った部分の拡大図である。リブ132は溝部の背面130aに設けられているが、全長に亘って設ける必要はなく、ケーブルを固定するために十分な長さがあればよい。したがって本実施形態では、図1にて破線で示したケーブル110d、110eが通過する位置に対応した部位にのみリブ132を設けている。
【0029】
上記構成によれば、ケーブル110d、110eを抑えるためのリブ132を溝部の背面130aに設けたことにより、リブ132に起因してヒケやフローマークが発生したとしても、溝部130の奥に発生する。このためヒケが意匠面から極めて観察されにくいため、外観不良を生じない。また、溝部の背面130aはドアパネル102(ドアインナパネル106)に向かって突出しているため、ケーブル110d、110eを抑えるためのリブ132の高さを他の部位にリブ132を設ける場合に比して低く抑えることができ、重量増加を大幅に低減させることができる。
【0030】
なお上記第1実施形態においては、溝部130は装飾用とはいえ、機能的な形状である後退部128の境界に設けるように説明した。しかし本発明はこれに限定するものではなく、機能的な形状に依拠することなく装飾用のためだけに溝部を配置してもよい。この場合、ケーブル110d、110eを固定する必要のある部位を溝部130が通るようにデザインすることは、機能的な形状の境界をその部位に配置するよりも自由度が高いため、より適切な部位で固定することが可能である。
【0031】
また上記実施形態においてはドアインサイドハンドルからドアロック機構に接続されるケーブルを突出部によって固定するように説明したが、さらにドアミラーウインカーに接続される電気ケーブルや、パワーウインドウの電気ケーブルなどを、同様に突出部によって固定してもよい。この場合の突出部の位置は、ケーブルや配線が通る位置に応じて適宜設定することができる。
【0032】
[第2実施形態]
本発明に係るドア構造の第2実施形態について説明する。図4は第2実施形態にかかる後退部128の近傍を説明する図であって、図4(a)は部分斜視図、図4(b)は図4(a)のB−B断面図である。上記第1実施形態と説明の重複する部分については同一の符号を付して説明を省略する。
【0033】
従来から、車両の内装に布や革などの表地(ファブリック)を貼り付けて外観や触感を向上することがなされている。さらに近年では、ドアトリム120の一部のみに表地を配置することも行われている。
【0034】
本実施形態は、上記第1実施形態に加え、布や革などの表地140を貼って加飾する。加飾する領域は任意に定めることができるが、本実施形態では後退部128を、すなわち溝部130によって囲まれた領域(図4(a)でハッチングを施した領域)に表地140を貼り付けて加飾部とする。図4(a)では後退部128と表地140が重なってしまっているため、その構造については図4(b)を参照されたい。
【0035】
そして特徴的な点として、表地の端140aを溝部130に埋め込んで処理をする。表地140は後退部128および溝部130の内部に接着する。このような、いわゆる木目込み工法によって、表地の端140aを隠すことができ、外観のさらなる向上を図ることができる。
【0036】
さらに、溝部130の中が表地の端140aによって覆い隠されるため、もし溝部130の奥にリブ132によるヒケやフローマークが発生していても、全く観察されなくなる。これにより、さらに外観不良を生じるおそれがなくなる。
【0037】
なお、必ずしも表地140を貼り付ける領域の境界の溝部130の背面側にリブ132を設けなくてもよく、表地140を貼り付ける領域の外に装飾のための溝部を設け、その背面側にリブ(突出部)を設けてもよい。
【0038】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は車両用ドアのドア構造、特に内装材の内部構造として利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
100…車両用ドア、102…ドアパネル、104…ドアアウタパネル、106…ドアインナパネル、106a…開口部、110…ドアロック機構、110a…ラッチ、110b…ロッド、110c…ロッド、110d…ケーブル、110e…ケーブル、112…ドアアウトサイドハンドル、114…ドアインサイドハンドル、120…ドアトリム、122…ハンドル用開口、124…肘掛け、126…ポケット、128…後退部、130…溝部、130a…溝部の背面、132…リブ、140…表地、140a…表地の端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドアパネルと、
車両用ドアの内装として前記ドアパネルの内側に取り付けられるドアトリムと、
前記ドアトリムの意匠面に設けられた装飾用の溝部と、
前記溝部の背面側に設けられた突出部とを備え、
前記突出部と前記ドアパネルとの間で、前記ドアトリムと前記ドアパネルとの間に配置されたケーブルを挟持して固定したことを特徴とするドア構造。
【請求項2】
前記ケーブルは、ドアインサイドハンドルからドアロック機構に接続されるケーブルであることを特徴とする請求項1に記載のドア構造。
【請求項3】
前記ドアトリムの意匠面に貼り付けられた装飾用の表地を更に備え、
前記表地の端を前記溝部に埋め込んでいることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のドア構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−111442(P2012−111442A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264107(P2010−264107)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】