説明

ドラムインディスクブレーキ

【課題】車両走行中の振動によってダストカバーが曲げ変形が生じた時にそのダストカバーに繰り返し発生する応力集中を抑制するドラムインディスクブレーキを提供することにある。
【解決手段】取付部材56の取付面56aの外周縁部には、外周縁に向かうにつれてダストカバー54から離間し、取付面56aと滑らかに連続する傾斜面56cを有するため、車両走行中の振動によりダストカバー54が取付部材56側に曲げ変形した時に、ダストカバー54は傾斜面56c側に曲げ変形しその傾斜面56cと圧接するので、取付面56aの外周縁部は従来の取付部材の取付面の外周縁部に比較して、取付部材56からダストカバー54にかかる応力集中を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムインディスクブレーキの耐久性を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドラムインディスクブレーキの一種に、たとえば特許文献1の図4に示すように、(a) ディスクロータの一面を覆うダストカバーと、(b) そのダストカバーを取り付けるための取付面を有する取付部材と、(c) そのダストカバーの中央部をその取付部材の取付面側に面接触させた状態でそのダストカバーをその取付面に圧接状態で締め付ける締付部材とを備えるものがある。
【0003】
上記のようなドラムインディスクブレーキにおいて、一般的に前記取付面の外周縁は、その取付面を前記取付部材の厚み方向に略平行に切断されて形成されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−90535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のようなドラムインディスクブレーキでは、車両走行中の振動により前記ダストカバーの外周部が曲げ変形を繰り返し、そのダストカバーの外周部が前記取付部材側に曲げ変形した時に、前記取付面とその取付面を切断した面とによって形成された前記取付面の外周縁である角に前記ダストカバーが圧接しそのダストカバーのその角に当接する部分に応力が集中してドラムインディスクブレーキ使用期間中の比較的早期にダストカバーに亀裂が入るという場合があった。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、車両走行中の振動によってダストカバーが曲げ変形が生じた時にそのダストカバーに繰り返し発生する応力集中を抑制するドラムインディスクブレーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するための請求項1に係る発明の要旨とするところは、(a) ディスクロータの一面を覆うダストカバーと、(b) そのダストカバーを取り付けるための取付面を有する取付部材と、(c) そのダストカバーの中央部をその取付部材の取付面側に面接触させた状態でそのダストカバーをその取付面に圧接状態で締め付ける締付部材とを備えるドラムインディスクブレーキであって、(d) 前記取付面の外周縁部には、外周縁に向かうにつれて前記ダストカバーから離間し、前記取付面と滑らかに連続する傾斜面を有することにある。
【0008】
また、請求項2に係る発明の要旨とするところは、請求項1に係る発明において、前記傾斜面は、前記ダストカバーが前記傾斜面側に曲げ変形された時に、そのダストカバーと前記取付部材との間の最外周側の接触点が前記取付部材の外周側にさらに移動するように形成されていることにある。
【0009】
また、請求項3に係る発明の要旨とするところは、請求項1または2に係る発明において、(a) 前記傾斜面の断面は、円弧状の曲線に形成されたものであり、(b) 前記取付面の断面は、その円弧状の曲線に接する接線であることにある。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明のドラムインディスクブレーキによれば、(d) 前記取付面の外周縁部には、外周縁に向かうにつれて前記ダストカバーから離間し、前記取付面と滑らかに連続する傾斜面を有するため、車両走行中の振動により前記ダストカバーが前記取付部材側に曲げ変形した時に、前記ダストカバーは前記傾斜面側に曲げ変形しその傾斜面と圧接するので、前記取付面の外周縁部は従来の取付部材の取付面の外周縁部に比較して、前記取付部材から前記ダストカバーにかかる応力集中を抑制することができる。
【0011】
また、請求項2に係る発明のドラムインディスクブレーキによれば、前記傾斜面は、前記ダストカバーが前記傾斜面側に曲げ変形された時に、そのダストカバーと前記取付部材との間の最外周側の接触点が前記取付部材の外周側にさらに移動するように形成されているため、前記ダストカバーと前記取付部材との間の最外周側の接触点が前記取付部材の外周側に移動することによって、応力集中が抑制される。
【0012】
また、請求項3に係る発明のドラムインディスクブレーキによれば、(a) 前記傾斜面の断面は、円弧状の曲線に形成されたものであり、(b) 前記取付面の断面は、その円弧状の曲線に接する接線であるため、好適に前記取付面と前記傾斜面とを滑らかに連続させることができ応力集中が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例のデュオサーボ型ドラムインディスクブレーキを示す正面図である。
【図2】一対のブレーキシュー、シューホールドダウン装置、ストラット、間隙調節装置、ブレーキレバー等を取り外した図1のドラムインディスクブレーキの正面図である。
【図3】図2のIII-III視断面図である。
【図4】図3に備えられた取付部材を説明する図である。
【図5】取付部材の傾斜面を説明する図3の拡大図である。
【図6】車両走行中の振動によってダストカバーが傾斜面側に曲げ変形した状態を示す図5の拡大図である。
【図7】本発明の他の実施例の取付部材の断面形状を説明する図であって、図5に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は簡略化されており、それら各部の寸法等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0015】
図1は、パーキングブレーキ用ドラムブレーキ10が中央部に備えられた本発明の一実施例のドラムインディスクブレーキ12のハット型ディスク(ディスクロータ)14およびキャリパ等を取り外した正面図である。上記ハット型ディスク14は、図3の一点鎖線に示すように、円板状外周部14aと有底円筒状中央部14bとによって構成され、円板状外周部14aはディスクブレーキの摩擦板として機能し、有底円筒状中央部14bはブレーキドラムとして機能している。
【0016】
ドラムブレーキ10には、略円板形状を成すバッキングプレート16と、そのバッキングプレート16の左右の外周部に凸側が外側になる姿勢で互いに接近離間可能に略対称的に配設された円弧形状の一対のブレーキシュー18,20と、その一対のブレーキシュー18,20の一端部すなわち図1の上端部の間において位置固定に設けられたアンカー22と、そのアンカー22と一対のブレーキシュー18,20との間に張設され一対のブレーキシュー18,20の一端部を互いに接近する方向に常時付勢する一対のリターンスプリング24,26と、一対のブレーキシュー18、20の上端部間に架け渡された長手板状のストラット28と、一対のブレーキシュー18,20の他端部すなわち図1の下端部の間に介在させられてアジャストホイール30aの回転に伴って全長が変化させられることによりシュー間隙を調節する間隙調節装置30と、それら下端部間に張設されてそれら下端部を互いに接近する方向に常時付勢して間隙調節装置30を長手方向に挟圧するための中間部分がコイル状のスプリング32とが備えられている。また、ストラット28には、ストラット28をブレーキシュー18側に常時付勢させるコイル状のスプリング34が配設されている。
【0017】
スプリング32の中間部分は間隙調節装置30のアジャストホイール30aに接触されており、アジャストホイール30aが振動等によって回転しないようになっている。それら間隙調節装置30およびスプリング32は、一対のブレーキシュー18,20の他端部間を相対回転可能に連結するものであるので、間隙調節機能を備えた連結部材36として機能している。
【0018】
一対のブレーキシュー18,20は、何れも、バッキングプレート16の板面と略平行な平板状を成し且つ図1に示す正面図において全体が円弧形状に湾曲したシューウェブ38,40と、それらの円弧形状を成す外周側端縁に沿って断面が略T字状を成すように一体的に固設された帯板状のシューリム42,44と、それらシューリム42,44の外周面に接着剤などで一体的に固着された摩擦材から成るライニング46,48とを備えてそれぞれ構成されている。バッキングプレート16、シューウェブ38,40、シューリム42,44は、いずれも鋼板から打ち抜かれかつ所定の曲げ成形が施されたプレス部品である。また、ブレーキシュー18および20には、ストラット28を支持するために相手に向かって支持突起18aおよび20aがそれぞれ形成されている。また、一対のブレーキシュー18,20は、シューウェブ38、40の長手方向の中央付近にそれぞれ配設されたシューホールドダウン装置50,52によって拡開可能にバッキングプレート16に設けられている。
【0019】
図2乃至図4に示すように、ドラムインディスクブレーキ12には、ハット型ディスク14の円板状外周部14aのバッキングプレート16側の側面14cを覆いドラムインディスクブレーキ12内への異物例えば泥水の侵入を防ぐ略円板状の薄板であるダストカバー54と、そのダストカバー54を取り付ける取付面56aと円板状外周部14aの両側面に摩擦材を押し付けるための図示されていないキャリパを支持する支持部56bと有する略平板状の取付部材56と、ダストカバー54の中央部を取付部材56の取付面56a側に面接触させた状態でダストカバー54を取付面56aに圧接状態で締め付ける4本のボルト(締付部材)58とが備えられている。また、上記取付部材56、ダストカバー54、バッキングプレート16は、上記4本のボルト58によって図示されていない車軸管、アクスルハウジング、サスペンション装置などの車体側部材すなわち非回転部材に一体的に固定されるものである。
【0020】
図1に戻り、ブレーキシュー18の一端部には、平板状のブレーキレバー58の基端部58aがピン60により回動可能に連結されており、ブレーキレバー58の中間部であってピン60に近い部分は、ストラット28のブレーキシュー18側の端部に切り欠かれた切欠面28aにシューウェブ38と共に係合させられている。また、ブレーキレバー58の先端部58bには、図示されていないパーキングブレーキケーブルが連結されている。
【0021】
以上のよう構成されたドラムインディスクブレーキ12は、パーキングブレーキペダル、パーキングブレーキレバー等の図示されていないパーキングブレーキ操作装置が操作されることによって発生するパーキングブレーキ操作力によって、前記パーキングブレーキケーブルを介してブレーキレバー58の先端部58bが図1の矢印B方向に引っ張られブレーキレバー58が回動すると、ブレーキシュー20がストラット28に押されると共にブレーキシュー18がピン60に押されて一対のブレーキシュー18,20の一端部間が拡開し一対のブレーキシュー18,20のライニング46,48がブレーキドラムである有底円筒状中央部14bの内周面に当接する。
【0022】
上記パーキングブレーキ操作装置の操作時に、車輪が回転すなわちハット型ディスク14が回転しようとするとその有底円筒状中央部14bの内周面16と当接しているブレーキシュー18および20は、ハット型ディスク14のその回転方向に連れ回されるので、一対のブレーキシュー18,20のどちらか一方がアンカー22に受け止められ、ブレーキシュー18および20のライニング46および48が有底円筒状中央部14bの内周面に強く押し付けられるので、ハット型ディスク14の回転すなわち車輪の回転が制動される。
【0023】
そして、パーキングブレーキ操作力が解除されると一対のブレーキシュー18,20の一端部間はリターンスプリング24,26の付勢力によって接近し、有底円筒状中央部14bの内周面と一対のブレーキシュー18,20のライニング46,48とが離間させられドラムブレーキ10の制動力は解除される。
【0024】
また、図示されていないブレーキペダルが操作されることによって発生する油圧によって、前記キャリパに備えられた図示されていないインナパッドおよびアウタパッドが円板状外周部14aの両側面を押圧しドラムインディスクブレーキ12に制動力が発生する。
【0025】
上記ブレーキペダルの操作が解除されると前記インナパッドおよびアウタパッドがハット型ディスク14の円板状外周部14aから離れてディスクブレーキの制動状態が解除される。
【0026】
図4および図5に示すように、取付部材56の取付面56aの外周縁部には、外周縁に向かうにつれてダストカバー54から離間するようにすなわち取付部材56の厚みが薄くするように、断面において取付面56aと滑らかに連続する傾斜面56cが備えられている。取付部材56は、比較的厚い平板状の綱板から打ち抜かれ傾斜面56cをたとえばコイニングによって成形させたプレス部品である。また、ダストカバー54は、比較的薄い綱板からプレス成形されたものである。
【0027】
図6に示すように、ダストカバー54が車両走行中の振動によって傾斜面56c側に曲げ変形すると、ダストカバー54と取付部材56との間の最外周側の接触点Aが取付部材56の外周側にさらに移動するので、取付面56aの外周縁部は従来の取付面とその取付面を取付部材の厚み方向に略平行に切断する切断面とによって成形される角を備える取付面の外周縁部に比較して、取付部材56の外周縁からダストカバー54にかかる応力集中を拡散することができ、車両走行中の振動によって繰り返しダストカバー54に曲げ変形が生じてもダストカバー54に亀裂が入りにくくなる。また、図6の一点鎖線で示すダストカバー54は、車両走行中の振動によって傾斜面56c側に曲げ変形されたものである。
【0028】
本実施例のドラムインディスクブレーキ12によれば、取付部材56の取付面56aの外周縁部には、外周縁に向かうにつれてダストカバー54から離間し、取付面56aと滑らかに連続する傾斜面56cを有するため、車両走行中の振動によりダストカバー54が取付部材56側に曲げ変形した時に、ダストカバー54は傾斜面56c側に曲げ変形しその傾斜面56cと圧接するので、取付面56aの外周縁部は従来の取付部材の取付面の外周縁部に比較して、取付部材56からダストカバー54にかかる応力集中を抑制することができる。
【0029】
また、本実施例のドラムインディスクブレーキ12によれば、取付部材56の傾斜面56cは、ダストカバー54が傾斜面56c側に曲げ変形された時に、そのダストカバー54と取付部材56との間の最外周側の接触点Aが取付部材56の外周側にさらに移動するように形成されているため、ダストカバー54と取付部材56との間の最外周側の接触点Aが取付部材56の外周側に移動することによって応力集中が抑制される。
【実施例2】
【0030】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の他の実施例において実施例相互間で共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0031】
本実施例のドラムインディスクブレーキは、異なる断面形状を有する取付部材62を備える以外は実施例1のドラムインディスクブレーキ12と略同様であって、図7はその取付部材62の断面形状を説明する図であり、前述の実施例1の図5に略対応するものである。また、取付部材62は、前述の実施例1の取付部材56と略同様にダストカバー54を取り付ける取付面62aと円板状外周部14aの両側面に摩擦材を押し付ける前記キャリパを支持する図示されていない支持部とを有するものである。
【0032】
図7に示すように、取付部材62の取付面62aの外周縁部には、外周縁に向かうにつれてダストカバー54から離間し、取付面62aと滑らかに連続する傾斜面62cが備えられており、その傾斜面62cは前述の実施例1と同様に例えばコイニングで成形される。
【0033】
また、図7に示すように、傾斜面62cの断面は円弧状の曲線に形成されたものであり、取付面62aの断面はその円弧状の曲線に接する接線であるため、取付面62aとその取付面62aをその取付面62aに垂直に切断した切断面とによって成形された角を所定の半径Rで丸めることによって好適に取付面62aと傾斜面62cとを滑らかに連続させることができる。また、本実施例の取付部材62は、前述の実施例の取付部材56と断面形状が異なるだけで前述の実施例の取付部材56と略同様の効果を備えるものである。
【0034】
本実施例のドラムインディスクブレーキによれば、取付部材62の傾斜面62cの断面は、円弧状の曲線に形成されたものであり、取付部材62の取付面62aの断面は、その円弧状の曲線に接する接線であるため、好適に取付面62aと傾斜面62cとを滑らかに連続させることができ応力集中が抑制される。
【0035】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適応される。
【0036】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0037】
12:ドラムインディスクブレーキ
14:ハット型ディスク(ディスクロータ)
54:ダストカバー
56:取付部材
56a:取付面
56c:傾斜面
58:ボルト(締付部材)
62:取付部材
62a:取付面
62c:傾斜面
A:ダストカバーと取付部材との間の最外周側の接触点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクロータの一面を覆うダストカバーと、該ダストカバーを取り付けるための取付面を有する取付部材と、該ダストカバーの中央部を該取付部材の取付面側に面接触させた状態で該ダストカバーを該取付面に圧接状態で締め付ける締付部材とを備えるドラムインディスクブレーキであって、
前記取付面の外周縁部には、外周縁に向かうにつれて前記ダストカバーから離間し、前記取付面と滑らかに連続する傾斜面を有することを特徴とするドラムインディスクブレーキ。
【請求項2】
前記傾斜面は、前記ダストカバーが前記傾斜面側に曲げ変形された時に、該ダストカバーと前記取付部材との間の最外周側の接触点が前記取付部材の外周側にさらに移動するように形成されていることを特徴とする請求項1のドラムインディスクブレーキ。
【請求項3】
前記傾斜面の断面は、円弧状の曲線に形成されたものであり、
前記取付面の断面は、該円弧状の曲線に接する接線であることを特徴とする請求項1または2のドラムインディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−127363(P2012−127363A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276435(P2010−276435)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(390005670)豊生ブレーキ工業株式会社 (104)
【Fターム(参考)】