説明

ドラムブレーキ

【課題】スプリングの付勢力を高めずにストラット部材が振動してスプリングの線材における一対の対向部の中央部が繰り返し挟まれてもスプリングの線材の摩耗を従来に比較して低減させるスプリングを提供する。
【解決手段】ストラット部材30の側面30f,30gがシューウェブ38の切欠部38aとの間で一対の対向部32a,32bの一方の中央部の線材を挟もうとすると、一対の対向部32a,32bの一方の線材が弾性変形してストラット部材30の端部30bの側面30f,30gはブレーキシュー22のシューウェブ38の切欠部38aから離間する方向に付勢されるので、ストラット部材30の側面30f,30gがシューウェブ38の切欠部38aとで一対の対向部32a,32bの一方の中央部の線材を挟む際の衝撃が緩和する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムブレーキにおいて一対のブレーキシューの一端部間に架け渡されるストラット部材をその一対のブレーキシューの一方側に付勢するスプリングに関し、特にそのスプリングの耐久性を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドラムブレーキには、例えば本願の図8に示すドラムブレーキ100のように、バッキングプレート110上に拡開可能に設けられた一対のブレーキシュー120,130と、その一対のブレーキシュー120,130の一方のブレーキシュー120の一端部において所定の取付軸140まわりに回動可能に配設されるブレーキレバー150と、一対のブレーキシュー120,130の一端部の一部にそれぞれ形成された切欠部120a,130aに両端部160a,160bが支持されることにより一対のブレーキシュー120,130の一端部間に架け渡される長手板状のストラット部材160と、そのストラット部材160の一対のブレーキシュー120,130の他方のブレーキシュー130側の端部160bにおいてその外周上に線材が巻回されて成るスプリング170と、そのスプリング170の一端を受け止めるためにストラット部材160から突出するように設けられたスプリング受け部160cとを備え、ストラット部材160のスプリング受け部160cと一対のブレーキシュー120,130の他方のブレーキシュー130との間に介在させたスプリング170によってストラット部材160を一対のブレーキシュー120,130の一方のブレーキシュー120側に付勢するものがある。また、特許文献1の図4に示されているドラムブレーキも上記ドラムブレーキ100と同様であり、その特許文献1のアンチラトルスプリング14がスプリング170に相当するものである。
【0003】
また、上記ドラムブレーキ100において、図9および図10に示すように、スプリング170を構成する線材は、ストラット部材160のブレーキシュー130の一端側の側面160dとブレーキシュー130の他端側の側面160eとに対向する一対の対向部170a,170bと、その一対の対向部170a,170bの両端を連結する一対の連結部170c,170dとを備えており、前記線材の一対の対向部170a,170bは、ストラット部材160の側面160d,160eよりも長く形成されたものである。
【0004】
また、上記ドラムブレーキ100で使用されるスプリング170は、ストラット部材160のスプリング受け部160cとブレーキシュー130との間に介在されそのスプリング170の弾性復帰力によりそのスプリング170の他端がブレーキシュー130に圧接されており、例えば車両走行時等の振動によってストラット部材160がブレーキシュー120,130の一端側や他端側に振動しようとすると、そのスプリング170の他端とブレーキシュー130との摩擦抵抗およびストラット部材160の一端部160aとブレーキシュー120との摩擦抵抗によってストラット部材160の動きが抑制されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−56889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記ドラムブレーキ100において、例えば悪路走行時等の激しい車両の振動が繰り返し加えられると、例えば、ストラット部材160が図10(a)に示すように上記摩擦抵抗に抗してブレーキシュー120,130の他端側に動くと、図10(b)に示すようにストラット部材160がスプリング170の線材を介してブレーキシュー130の切欠部130aに衝突してスプリング170の線材の対向部170bの中央部がストラット部材160の側面160eとブレーキシュー130の切欠部130aのブレーキシュー130の他端側の切欠面130bとに挟まれる。
【0007】
このため、ストラット部材160が振動してスプリング170の線材の一対の対向部170a,170bの中央部がストラット部材170とブレーキシュー130の切欠部130aとによって挟まれる状態が繰り返されると、そのスプリング170の線材における一対の対向部170a,170bの中央部が摩耗して耐久性が低下する可能性があり比較的短い使用期間でスプリング170を交換する必要があった。
【0008】
これに対して、スプリング受け部160cとブレーキシュー130との間にスプリング170を組み付ける際のそのスプリング170のセット荷重を必要以上に高くしてスプリング170の付勢力を高めて悪路走行時等の激しい車両の振動によるストラット部材170の振動を抑制するという考えもあるが、上記スプリング170のセット荷重を必要以上に高くするとドラムブレーキ100の非制動時に一対のブレーキシュー120,130が拡開しないように付勢するシューリターンスプリング180の付勢力を高くしなければならないので、ドラムブレーキ100の制動時にブレーキレバー150から入力される操作力がそのシューリターンスプリング180の付勢力を高めた分だけ相殺されてドラムブレーキ100の操作入力の損失が大きくなる。
【0009】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、スプリングの付勢力を高めずにストラット部材が振動してスプリングの線材における一対の対向部の中央部が繰り返し挟まれてもスプリングの線材の摩耗を従来に比較して低減させるスプリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するための請求項1に係る発明の要旨とするところは、(a) バッキングプレート上に拡開可能に設けられた一対のブレーキシューと、その一対のブレーキシューの一方の一端部において所定の取付軸まわりに回動可能に配設されるブレーキレバーと、その一対のブレーキシューの一端部の一部にそれぞれ形成された切欠部に両端部が支持されることによりその一対のブレーキシューの一端部間に架け渡される長手板状のストラット部材と、そのストラット部材のその一対のブレーキシューの他方側の端部においてその外周上に線材が巻回されて成るスプリングと、そのスプリングの一端を受け止めるためにそのストラット部材から突出するように設けられたスプリング受け部とを備え、そのストラット部材のスプリング受け部とその一対のブレーキシューの他方との間に介在させた前記スプリングによってそのストラット部材をその一対のブレーキシューの一方側に付勢するドラムブレーキであって、(b) 前記スプリングを構成する線材は、前記ストラット部材の前記ブレーキシューの一端側の側面と前記ブレーキシューの他端側の側面とに対向する一対の対向部と、その一対の対向部の両端を連結する一対の連結部とを備えており、(c) 前記線材の一対の対向部は、その両端部から中央部に向かうほど前記ストラット部材の側面から離間するように凸状に曲成されていることにある。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明のドラムブレーキによれば、(b) 前記スプリングを構成する線材は、前記ストラット部材の前記ブレーキシューの一端側の側面と前記ブレーキシューの他端側の側面とに対向する一対の対向部と、その一対の対向部の両端を連結する一対の連結部とを備えており、(c) 前記線材の一対の対向部は、その両端部から中央部に向かうほど前記ストラット部材の側面から離間するように凸状に曲成されているので、前記ストラット部材が前記ブレーキシューの一端側や他端側に振動させられると、前記スプリングの線材における前記一対の対向部の一方の両端部が前記ストラット部材の側面に当接され前記一対の対向部の一方の中央部が前記ブレーキシューの切欠部に当接される。このため、前記ストラット部材の側面が前記ブレーキシューの切欠部との間で前記一対の対向部の一方の中央部の線材を挟もうとすると、前記一対の対向部の一方の線材が弾性変形して前記ストラット部材の側面は前記ブレーキシューの切欠部から離間する方向に付勢されるので、前記ストラット部材の側面が前記ブレーキシューの切欠部との間で前記一対の対向部の一方の中央部の線材を挟む際の衝撃が緩和する。これにより、前記スプリングの付勢力を高めずに前記ストラット部材が振動して前記スプリングの線材における前記一対の対向部の中央部が繰り返し挟まれても前記スプリングの線材の摩耗が従来に比較して低減させられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明が適用された一実施例のディオサーボ型ドラムブレーキを示す正面図である。
【図2】図1のII-II視断面図である。
【図3】図1のドラムブレーキに備えられたスプリングを示す斜視図である。
【図4】図2のIV-IV視断面図である。
【図5】例えば悪路走行時等の激しい車両の振動によって、ストラット部材がブレーキシューの一端側や他端側に振動する状態を示す図である。
【図6】図5の一点鎖線で円形に囲んだ部分を拡大すると共に、ストラット部材が振動してそのストラット部材がブレーキシューの切欠部との間でスプリングの線材を挟む状態を示す図である。
【図7】ストラット部材が振動してそのストラット部材がブレーキシューの他端側に動く状態を示す、図6のVII-VII視断面図である。
【図8】従来のスプリングが使用されたディオサーボ型ドラムブレーキを示す正面図である。
【図9】図8のドラムブレーキに備えられた従来のスプリングを示す斜視図である。
【図10】ストラット部材が振動してそのストラット部材がブレーキシューの他端側に動いてブレーキシューの切欠部との間でスプリングの線材を挟む状態を示す、図8のX-X視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明の一実施例のドラムブレーキ10が中央部に備えられたデュオサーボ型のドラムインディスクブレーキ12のハット型ディスクおよびキャリパ等を取り外した正面図である。上記ハット型ディスクは、図に示されていない円板状外周部と有底円筒状中央部とによって構成され、その円板状外周部はディスクブレーキの摩擦板として機能し、有底円筒状中央部はブレーキドラムとして機能している。また、図1の1点鎖線で示す円は、上記ブレーキドラムの内周面14を示している。
【0015】
ドラムブレーキ10には、略円板形状を成し、たとえば図示しない車軸管、アクスルハウジング、サスペンション装置などの車体側部材すなわち非回転部材に一体的に固設されたバッキングプレート16が備えられている。このバッキングプレート16の外周部には、前記ハット型ディスクの円板状外周部を保護するためのディスクカバー18が固定されている。
【0016】
また、ドラムブレーキ10には、バッキングプレート16の左右の外周部に凸側が外側になる姿勢で互いに接近離間可能に略対称的に配設された円弧形状の一対のブレーキシュー20,22と、その一対のブレーキシュー20,22の一端部すなわち図1の上端部の間において位置固定に設けられた略円柱形状のアンカー部材24と、そのアンカー部材24と一対のブレーキシュー20,22の一端部との間に張設され一対のブレーキシュー20,22の一端部を互いに接近する方向に常時付勢する一対のリターンスプリング26,28と、一対のブレーキシュー20,22の上端部間に架け渡された長手板状のストラット部材30と、そのストラット部材30の外周上に圧縮された状態で配設されストラット部材30をブレーキシュー20側に常時付勢するスプリング32と、一対のブレーキシュー20,22の他端部すなわち図1の下端部の間に介在させられて調節ねじ34aの回転に伴って全長が変化させられることによりシュー間隙を調節する間隙調節装置34とが備えられている。また、間隙調節装置34のバッキングプレート16側には、一対のブレーキシュー20,22の他端部間に張設されてそれら下端部を互いに接近する方向に常時付勢してその間隙調節装置34を長手方向に挟圧するための中間部分がコイル状のスプリングが備えられている。
【0017】
一対のブレーキシュー20,22は、何れも、バッキングプレート16の内周部に位置する平坦な平板部16aと略平行な平板状を成し且つ図1に示す正面図において全体が円弧形状に湾曲したシューウェブ36,38と、それらの円弧形状を成すシューウェブ36,38の外周側端縁に沿って断面が略T字状を成すようにそのシューウェブ36,38に一体的に固設された帯板状のシューリム40,42と、それらシューリム40,42の外周面に接着剤などで一体的に固着された摩擦材から成るライニング44,46とを備えてそれぞれ構成されている。
【0018】
また、一対のブレーキシュー20,22は、シューウェブ36およびシューウェブ38にそれぞれ配設されたシューホールドダウン装置48,50によってバッキングプレート16側へ押圧されることによりそのバッキングプレート16に対して面方向の拡開方向の移動可能に保持されている。また、ブレーキシュー20には、平板状のブレーキレバー52が重ねられた状態で配設されており、ブレーキシュー20の一端部とブレーキレバー52の基端部とは、取付軸54によって、その取付軸54まわりに相対回動可能に連結されている。
【0019】
図1に示すように、一対のブレーキシュー20,22は、それらのシューウェブ36,38の一端部の一部が切り欠かれることによってそれぞれ形成された切欠部36a,38aを備えており、ストラット部材30の両端部30a,30bがそのシューウェブ36,38の切欠部36a,38aにそれぞれ支持されることによって、ストラット部材30は一対のブレーキシュー20,22の一端部間に架け渡されている。
【0020】
図2に示すように、ストラット部材30は、その両端部30a,30bにその両端の一部が切り欠かれることによってそれぞれ形成された切欠部30c,30dを備えており、ストラット部材30のブレーキシュー20側の端部30aにおける切欠部30cには、シューウェブ36の一端部およびブレーキレバー52の基端部が係合させられ、ストラット部材30のブレーキシュー22側の端部30bにおける切欠部30dには、シューウェブ38の一端部が係合させられている。
【0021】
また、図2に示すように、ストラット部材30の端部30bには、その端部30bの外周上をばね材から成る断面円形の線材が図3に示すように複数回本実施例では4回程度巻回されることにより構成されたスプリング32が備えられている。また、図2に示すように、ストラット部材30の端部30bには、スプリング32の一端を受け止めるためにストラット部材30の幅方向に一体に突出するスプリング受け部30eが備えられており、スプリング32はそのスプリング受け部30eとブレーキシュー22のシューウェブ38との間に圧縮された状態で介在されそのスプリング32の弾性復帰力によってストラット部材30をブレーキシュー20側に常時付勢するものである。また、スプリング32の付勢力は例えば本願の図8乃至図10に示す従来のスプリング170の付勢力と略同等のものであり、リターンスプリング26,28の付勢力は例えば本願の図8乃至図10に示す従来のスプリング180の付勢力と略同等のものである。
【0022】
図2乃至図4に示すように、スプリング32においてストラット部材30の端部30bの外周上を巻回させられた線材は、ストラット部材30のブレーキシュー20,22の一端側の側面30fとブレーキシュー20,22の他端側の側面30gとに対向する一対の対向部32a,32bと、その一対の対向部32a,32bの両端を連結する一対の連結部32c,32dとを備えており、その線材の一対の対向部32a,32bは、その両端部から中央部に向かうほどストラット部材30の側面30f,30gから離間するように凸状に曲成されている。すなわち、スプリング32の線材の対向部32aは、その両端部から中央部に向かうほどシューウェブ38の切欠部38aのブレーキシュー22の一端側の切欠面38bに接近するように凸状に曲成されており、スプリング32の線材の対向部32bは、その両端部から中央部に向かうほどシューウェブ38の切欠部38aのブレーキシュー22の他端側の切欠面38cに接近するように凸状に曲成されている。
【0023】
図4に示すように、ストラット部材30の厚み方向において一対の対向部32a,32bのバッキングプレート16側の端部の間の距離およびその一対の対向部32a,32bのバッキングプレート16側とは反対側の端部の間の距離は、ストラット部材30の厚みTと略同じに設定されており、ストラット部材30の幅方向において対向部32aの両端部の間の距離および対向部32bの両端部の間の距離は、ストラット部材30の幅寸法Wと略同じに設定されているため、ストラット部材30がブレーキシュー20,22の一端側や他端側に移動するとそのストラット部材30の一対の側面30f,30gの一方の両端部が一対の対向部32a,32bのうちの一方の両端部に当接するようになっている。
【0024】
図5は、例えば悪路走行時等の激しい車両の振動によってストラット部材30がブレーキシュー20,22の一端側や他端側に振動する状態を示すものである。また、図6は、その図5において一点鎖線で円形に囲んだ部分を拡大する拡大図である。その図6によれば、ストラット部材30が振動させられてそのストラット部材30の端部30bがブレーキシュー22の他端側に動くと、ストラット部材30の端部30bがスプリング32の線材を介してブレーキシュー22のシューウェブ38の切欠部38aに衝突してスプリング32の対向部32bの中央部がストラット部材30の側面30gとシューウェブ38の切欠面38cとに挟まれる。また、図示されていないが、ストラット部材30が振動させられてそのストラット部材30の端部30bがブレーキシュー22の一端側に動くと、ストラット部材30の端部30bがスプリング32の線材を介してブレーキシュー22のシューウェブ38の切欠部38aに衝突してスプリング32の対向部32aの中央部がストラット部材30の側面30fとシューウェブ38の切欠面38bとに挟まれる。
【0025】
以上のよう構成されたドラムブレーキ10によれば、ストラット部材30が振動させられて例えばそのストラット部材30の端部30bが図7の上段図に示すようにブレーキシュー22の他端側に動くすなわちストラット部材30の端部30bがシューウェブ38の切欠面38cに接近しようとすると、図7の中段図および図7の下段図に示すように、ストラット部材30の側面30gの両端部がスプリング32の線材における対向部32bの両端部に当接し、その対向部32bの中央部がシューウェブ38の切欠面38cに当接する。このため、ストラット部材30の端部30bが図7の下段図の状態からさらにシューウェブ38の切欠面38c側に接近させられてそのストラット部材30の側面30gがシューウェブ38の切欠面38cとの間で対向部32bの中央部を挟もうとすると、その対向部32bの両端部がストラット部材30の側面30gによってブレーキシュー22の他端側に曲げられて線材が弾性変形すると共にその線材の弾性復帰力によってそのストラット部材30の側面30gがブレーキシュー22の一端側すなわちシューウェブ38の切欠面38cから離間する側に付勢されるので、ストラット部材30の側面30gがシューウェブ38の切欠面38cとで対向部32bの中央部を挟む際の衝撃が緩和する。
【0026】
また、図示されていないが、ストラット部材30が振動させられて例えばそのストラット部材30の端部30bがブレーキシュー22の一端側に動くすなわちストラット部材30の端部30bがシューウェブ38の切欠面38bに接近しようとすると、ストラット部材30の側面30fの両端部がスプリング32の線材における対向部32aの両端部に当接され、その対向部32aの中央部がシューウェブ38の切欠面38bに当接する。このため、ストラット部材30の端部30bが上記状態からさらにシューウェブ38の切欠面38b側に接近させられてそのストラット部材30の側面30fがシューウェブ38の切欠面38bとの間で対向部32aの中央部を挟もうとすると、その対向部32aの両端部がストラット部材30の側面30fによってブレーキシュー22の一端側に曲げられて線材が弾性変形すると共にその線材の弾性復帰力によってそのストラット部材30の側面30fがブレーキシュー22の他端側すなわちシューウェブ38の切欠面38bから離間する側に付勢されるので、ストラット部材30の側面30fがシューウェブ38の切欠面38bとで対向部32aの中央部を挟む際の衝撃が緩和する。
【0027】
本実施例のドラムブレーキ10によれば、スプリング32を構成する線材は、ストラット部材30のブレーキシュー22の一端側の側面30fとブレーキシュー22の他端側の側面30gとに対向する一対の対向部32a,32bと、その一対の対向部32a,32bの両端を連結する一対の連結部32c,32dとを備えており、その線材の一対の対向部32a,32bは、その両端部から中央部に向かうほどストラット部材30の側面30f,30gから離間するように凸状に曲成されているので、ストラット部材30がブレーキシュー20,22の一端側や他端側に振動させられると、スプリング32の線材における一対の対向部32a,32bの一方の両端部がストラット部材30の側面30f,30gに当接され一対の対向部32a,32bの一方の中央部がブレーキシュー22のシューウェブ38の切欠部38aに当接される。このため、ストラット部材30の側面30f,30gがシューウェブ38の切欠部38aとの間で一対の対向部32a,32bの一方の中央部の線材を挟もうとすると、一対の対向部32a,32bの一方の線材が弾性変形してストラット部材30の端部30bの側面30f,30gはブレーキシュー22のシューウェブ38の切欠部38aから離間する方向に付勢されるので、ストラット部材30の側面30f,30gがシューウェブ38の切欠部38aとで一対の対向部32a,32bの一方の中央部の線材を挟む際の衝撃が緩和する。これにより、スプリング32の付勢力を従来のスプリング170の付勢力より高めずにストラット部材30が振動してスプリング32の線材における一対の対向部32a,32bの中央部が繰り返し挟まれてもスプリング32の線材の摩耗が従来のスプリング170に比較して低減させられる。
【0028】
また、本実施例のドラムブレーキ10によれば、一対の対向部32a,32bの弾性変形によってストラット部材30の側面30f,30gがシューウェブ38の切欠部38aとで一対の対向部32a,32bの一方の中央部の線材を挟む際の衝撃が緩和されるので、ストラット部材30の側面30f,30gがシューウェブ38の切欠部38aとで一対の対向部32a,32bの一方の中央部の線材を挟む際の打撃音を低減させられる。
【0029】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0030】
たとえば、本実施例のドラムブレーキ10において、ストラット部材30には、スプリング32の一端を受け止めるためにそのストラット部材30の幅方向に一体に突出されたスプリング受け部30eが備えられていたが、スプリング受け部30eは必ずしもストラット部材30と一体に成形される必要はなく、例えば溶接等によってストラット部材30にスプリング32の一端を受け止める部品が取り付けられても良い。
【0031】
また、本実施例のドラムブレーキ10は、デュオサーボ型のドラムブレーキであったが、一対のブレーキシュー20,22の一端部間にストラット部材30が架け渡されそのストラット部材30をその一対のブレーキシュー20,22の一方側に付勢するスプリング32を備える型式のドラムブレーキであれば種々の態様が可能である。また、本実施例のドラムブレーキ10は、ドラムインディスクブレーキ12の中央部に設けられたものであったが、単独で用いられるものでも良い。
【0032】
また、本実施例のドラムブレーキ10において、ストラット部材30の外周上を複数回巻回されたスプリング32の線材は、図3、図4に示すように、それらすべての一対の対向部32a,32bおよび一対の連結部32c,32dが同じ形状に成形されるように巻回されていたが、必ずしもそれらすべての一対の対向部32a,32bおよび一対の連結部32c,32dが同形状に複数回巻回される必要はなく、ストラット部材30の外周上を複数回巻回された線材うち一部の一対の対向部32a,32bの形状がその一対の対向部32a,32bの両端部から中央部に向かうほどストラット部材30の側面30f,30gから離間するように凸状に形成させていれば本発明の効果を得ることができる。
【0033】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0034】
10:ドラムブレーキ
16:バッキングプレート
20,22:一対のブレーキシュー
30:ストラット部材
30a,30b:両端部
30e:スプリング受け部
30f,30g:側面
32:スプリング
32a,32b:一対の対向部
32c,32d:一対の連結部
38a:切欠部
52:ブレーキレバー
54:取付軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッキングプレート上に拡開可能に設けられた一対のブレーキシューと、該一対のブレーキシューの一方の一端部において所定の取付軸まわりに回動可能に配設されるブレーキレバーと、該一対のブレーキシューの一端部の一部にそれぞれ形成された切欠部に両端部が支持されることにより該一対のブレーキシューの一端部間に架け渡される長手板状のストラット部材と、該ストラット部材の該一対のブレーキシューの他方側の端部においてその外周上に線材が巻回されて成るスプリングと、該スプリングの一端を受け止めるために該ストラット部材から突出するように設けられたスプリング受け部とを備え、該ストラット部材のスプリング受け部と該一対のブレーキシューの他方との間に介在させた前記スプリングによって該ストラット部材を該一対のブレーキシューの一方側に付勢するドラムブレーキであって、
前記スプリングを構成する線材は、前記ストラット部材の前記ブレーキシューの一端側の側面と前記ブレーキシューの他端側の側面とに対向する一対の対向部と、該一対の対向部の両端を連結する一対の連結部とを備えており、
前記線材の一対の対向部は、その両端部から中央部に向かうほど前記ストラット部材の側面から離間するように凸状に曲成されていることを特徴とするドラムブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−122570(P2012−122570A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275134(P2010−275134)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(390005670)豊生ブレーキ工業株式会社 (104)
【Fターム(参考)】