ドリル
【課題】コンクリート等への穿孔をする際に加振装置を自動的にスタートさせ穿孔機能と操作性とに優れたドリルを提供すること。
【解決手段】ドリルのドリルビット4の軸方向に振動を付与する加振装置Aと、上記ドリルビット4の回転数を検出する検出手段21と、該検出手段21の検出結果に基づいて上記ドリルビット4の回転を制御する制御部20とを備え、上記制御部20は上記ドリルビット4の回転数が上昇した後に発生する回転数の低下が所定時間継続したことを認識したときには上記加振装置Aの作動を開始するようにした。
【解決手段】ドリルのドリルビット4の軸方向に振動を付与する加振装置Aと、上記ドリルビット4の回転数を検出する検出手段21と、該検出手段21の検出結果に基づいて上記ドリルビット4の回転を制御する制御部20とを備え、上記制御部20は上記ドリルビット4の回転数が上昇した後に発生する回転数の低下が所定時間継続したことを認識したときには上記加振装置Aの作動を開始するようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリル、詳しくはコンクリートや岩盤や鋼板等にアンカー等を取り付けるための穴あけを行なう中実又は中空のドリルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートに孔を空けるための道具としてコンクリートドリルが使用されているが、より効率的に穿孔を行なうためのコンクリートドリルが本出願人より提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
このコンクリートドリルは穿孔速度を上げるために、ドリル本体をドリルビットの軸方向に振動させ、この振動をドリルビットに加振力として付与するために加振装置を設けたものであった。
【特許文献1】特開2003−211436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする問題点は、上述のコンクリートドリルでは加振装置を作動させるとドリルビットの軸方向に沿って脈動する加振力が発生するために、コンクリートへの穿孔を行なうためにコンクリートにドリルビットの先端を押し付ける際、ドリルビットの先端が跳ねて位置あわせがしづらく、目的の位置に正しく穿孔しにくいという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決し、コンクリート等への穿孔をする際にある程度穿孔が進んでから加振装置を自動的にスタートさせ、穿孔機能と操作性とに優れたドリルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために本発明に係るドリルは、ドリルのドリルビットの軸方向に振動を付与する加振装置と、上記ドリルビットの回転数を検出する検出手段と、該検出手段の検出結果に基づいて上記ドリルビットの回転を制御する制御部とを備え、上記制御部は上記ドリルビットの回転数が上昇した後に発生する回転数の低下が所定時間継続したことを認識したときには上記加振装置の作動を開始することを特徴とする。
【0007】
なお、前記制御部は2自由度PID制御で前記ドリルビットの回転を制御し、該制御は前記加振装置の作動開始前と作動開始後とで異なるようにし加振装置を作動させるまでは目標値応答をさせ、加振装置が作動した後は外乱応答させることが好ましい。
【0008】
また、前記制御部はマスク設定時間経過後の前記ドリルビットの回転数が上昇した後に発生する回転数の低下が所定時間継続したことを認識したときには前記加振装置の作動を開始するようにし、ドリルビットの先端をコンクリートに当接させた状態で回転を開始した状態でも穿孔が開始したタイミングで加振装置を作動させるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、回転しているドリルビットの先端がコンクリート等に当たって所定時間経過後に加振装置が作動するので、ビットの位置決めがやりやすくなるとともに、加振装置が自動的に動作するので途中で加振装置をスタートさせるための操作を必要とせず、操作性に優れたドリルを実現することができる。
【0010】
請求項2の発明によれば、加振装置をスタートさせるまでは目標応答制御を行い、加振装置が作動して実際に穿孔が始ったならば外乱応答をさせることにより、加振装置作動前にはドリルビットの回転の変化を把握しやすくして加振装置をスタートさせるタイミングを決定することができ、加振装置作動後にはドリルビットの回転数の変動を少なくし効率の良い穿孔を行なうことができる。
【0011】
請求項3の発明によれば、ドリルビットの先端をコンクリート等に押し当てた状態で、ドリルビットを回転させても初期の不安定な状況を回転の低下と判断することなく、加振装置のスタートのタイミングを正しく決定することができ、穿孔の位置決めをより正確に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は本発明に係るドリルの一例としてコンクリートドリルを示し、このコンクリートドリルは本体1に収容されたビット回転用モータ2によって駆動軸3を回転させ、この駆動軸3に連結されたドリルビット4を回転させ、ドリルビット4の先端をコンクリートに押し付けてコンクリートに穿孔するもので、作業者は本体1の後端に形成されたグリップ6と本体1の側面に設けられた補助グリップ7とを把持し、トリガボタン8を引き操作してビット回転用モータ2を回転させ、ドリルビット4を回転させてその先端をコンクリート面に押し付けて使用するもので、本体1の前端部の上面にはドリルビット4をコンクリート面へ押圧させる押し付け力を補助するための加振装置Aが設けられており、これによって本体1に前後方向の振動を発生させることにより、ドリルビット4に軸方向に振動数50乃至300Hz程度の振動を与えるようになっている。
【0013】
上記加振装置Aは、図2、3に示すように、本体1の前端部に形成されたブラケット部9の上面に枠体10を取り付け、この枠体10にドリルビット4の伸展方向に対して直角の方向に向けて互いに平行に配置された2つの回転軸11を形成し、この回転軸11には、図4に示すように、各々偏心ウエイト12を対称的に取り付け、偏心ウエイト12には互いに噛みあわされたギヤ13を取り付け、このギヤ13によって回転軸11が逆方向に同期して回転するようにしてあり、一方の回転軸11の端部には加振用モータ14の回転軸15がジョイント部材16で連結されており、この加振用モータ14によって逆方向に回転される各回転軸11の回転により対称的に取り付けられた偏心ウエイト12が回転して本体1全体にドリルビット4の軸方向に沿った脈動の加振力が発生し、結果としてドリルビット4に対し軸方向に脈動の加振力が付与されるようになっているものである。
【0014】
図5は、ドリルの電気的な構成を説明するブロック図で、制御部20はビット回転用モータ2と加振用モータ14との2つのモータを制御し、ビット回転用モータ2の回転数を検出する検出手段21の検出結果に基づいて加振用モータ14の作動開始を決定するようになっているもので、この制御を図6のフローチャート図に基づいて説明する。
【0015】
なお、上記検出手段21はホールセンサで構成し、ドリルビット4の回転の変化をビット回転用モータ2の回転数で検出するようにすればよく、ビット回転用モータ2の回転軸15のホールセンサに対応する位置には図示しないマグネットを設け、ホールセンサでビット回転用モータ2の回転の変化を検出するようにすればよい。
【0016】
そして、トリガボタン8を引き操作してトリガスイッチ22をONさせると電源がONし(ステップST1)、制御部20は先ずビット回転用モータ2を回転させる(ステップST2)。このビット回転用モータ2の回転数は検出手段21で検出され、図7(a)のタイムチャート図に示すように、所定回転(本実施例では、毎分8000回転に設定)に到達し(ステップST3)、その後回転数が低下(例えば、毎分7800回転)低下すると、作業者がドリルビット4の先端をコンクリートに押し当てたため回転数が低下したと判断し、この低下が所定時間T(本発明では、20msに設定)継続すると、制御部20はコンクリートにドリルビット4の先端部が没入したと判断し(ステップST5)、ステップST7に進んで加振用モータ14を回転させる。
【0017】
穿孔が完了し、ドリルビット4が回転した状態でドリルビット4を穿孔から引き抜くように本体1を引き戻した後、トリガボタン8を開放してトリガスイッチ22をOFFにすると(ステップST8)、電源はOFFになりビット回転用モータ2と加振用モータ14との2つのモータの回転は停止して(ステップST9)、1回の穿孔作業は終了する。
【0018】
上記ドリルによれば、加振用モータ14がビット回転用モータ2と同時に回転していないので、穿孔を開始するまでは本体1が振動していないため、ドリルビット4の先端を目的の場所に位置合わせがしやすく、位置決めした後に加振装置を作動させるので目的の場所に確実にしかも早い穿孔を行なうことができる。
【0019】
なお、制御部20が2自由度PID制御でビット回転用モータ2の回転を制御し、加振装置Aを作動させるまでは回転数変動を大きくして応答性が低い目標値応答をさせ、加振装置Aが作動した後は回転数変動を小さくして応答性が高い外乱応答させるようにしてもよい。
【0020】
この制御を図8のフローチャート図に基づいて説明する。トリガボタン8を引き操作してトリガスイッチ22をONさせると(ステップST10)、制御部20は先ずビット回転用モータ2を回転させる(ステップST11)。このとき、制御部20は目標値応答でビット回転用モータ2をPID制御する。そして、ビット回転用モータ2の回転数を検出手段21で検出し、図7(b)のタイムチャート図に示すように、所定回転(本実施例では、毎分8000回転に設定)に到達し、その後回転数が低下(例えば、毎分7800回転)すると、作業者がドリルビット4の先端をコンクリートに押し当てたため回転数が低下したと判断し、この低下が所定時間T(本発明では、20msに設定)継続すると、コンクリートにドリルビット4の先端部が没入したと判断し、ステップST13に進んで加振用モータ14を回転させるとともに、外乱応答でビット回転用モータをPID制御する。
【0021】
穿孔が完了し、ドリルビット4が回転した状態でドリルビット4を穿孔から引き抜くように本体1を引き戻した後、トリガボタン8を開放してトリガスイッチ22をOFFにすると(ステップST15)、制御部20は穿孔作業が終了したと判断し、ビット回転用モータ2と加振用モータ14との2つのモータの回転を停止し(ステップST16)、1回の穿孔作業は終了する。
【0022】
なお、ビット回転用モータを作動した後、途中でトリガボタンを開放すると、トリガスイッチはOFFになって電源がOFFになるので動作中のビット回転用モータは停止する。
【0023】
この制御によれば、図7(b)に示すように、ドリルビット4の先端をコンクリートに押し当てて穿孔を始めるまでは、設定回転数にスムーズに到達させることができるとともにその回転を維持し、ドリルビット4の先端をコンクリートに押し当てて負荷が発生するとビット回転用モータ2の回転が低下しやすいように目標値応答でビット回転用モータ2をPID制御しておき、ビット回転用モータ2の回転低下が所定時間経過すると穿孔が開始されたと判断し、加振用モータ14を作動させるとともに、穿孔中は負荷が大きくなりビット回転用モータ2の回転が大きく変動するが負荷によるビット回転用モータ2の回転変動を小さくし、より高い回転(例えば、毎分7900回転〜毎分7950回転程度)で穿孔を行なうことができるように制御部20は外乱応答でビット回転用モータをPID制御するので、穿孔効率の向上を図ることができる。
【0024】
上記コンクリートドリルによれば、制御部20は加振用モータ14を回転させると同時に、ビット回転用モータ2のPID制御を目標値応答から外乱応答に切り換えることにより、高い回転数でビットを回転させることができ、穿孔作業の作業効率を高めることができる。
【0025】
また、上述のコンクリートドリルでは、ドリルビットを回転させた状態でドリルビットの先端をコンクリートに押し付けて穿孔する場合について説明したが、例えば、最初にドリル穿孔の位置決め用小穴をドリルビット先端で開けておきたい時に、ドリルビットの先端をコンクリートに押し当てた状態でトリガボタンを引き操作し、ドリルビットを回転させる使用に対応したコンクリートドリルについて説明する。
【0026】
このコンクリートドリルは、図9のフローチャート図に示すように、トリガボタン8を引き操作してトリガスイッチ22をONさせると(ステップST101)、制御部20は先ずビット回転用モータ2を回転させ(ステップST102)、マスク設定時間(例えば、2秒〜4秒程度)が経過するのを待ち(ステップST103)、マスク設定時間が経過すると、ビット回転用モータ2の回転数をチェックし(ステップST104)、図11のタイムチャート図に示すように、所定回転(本実施例では、毎分8000回転に設定)に到達した後、回転数が低下(例えば、毎分7800回転)すると、作業者がドリルビット4の先端をコンクリートに強く押し当て本格的に穿孔を始めた判断し、この低下が所定時間T(本発明では、20msに設定)継続すると、制御部20はコンクリートにドリルビット4の先端部が没入して位置決め用小穴ができたと判断し(ステップST106)、ステップST108に進んで加振用モータ14を回転させるようにプログラミングされているものである。
【0027】
なお、この制御方法は2自由度PID制御でビット回転用モータ2を制御する場合も同様で、図10に示すように、トリガボタン8を引き操作してトリガスイッチ22をONさせると(ステップST111)、制御部20は先ずビット回転用モータ2を回転させる(ステップST112)。このとき、制御部20は目標値応答でビット回転用モータ2をPID制御する。そして、マスク設定時間が経過するのを待ち(ステップST113)、マスク設定時間が経過すると、ビット回転用モータ2の回転数をチェックし(ステップST114)、所定回転(本実施例では、毎分8000回転に設定)に到達した後、回転数が低下(例えば、毎分7800回転)すると、作業者がドリルビット4の先端をコンクリートに強く押し当て本格的に穿孔を始めた判断し、この低下が所定時間T(本発明では、20msに設定)継続すると、制御部20はコンクリートにドリルビット4の先端部が没入して位置決め用小穴ができたと判断し(ステップST116)、ステップST118に進んで加振用モータ14を回転させるようにプログラミングすればよい。
【0028】
上述のように、最初からドリルビットをコンクリートに押し付けて回転を開始した場合は、最初から負荷が生じて回転が変動し部分的に回転数が低下する現象がありながら所定の回転数に近づいていくが、所定の回転数に到達する前に回転の低下(図11のa点、b点)が発生するため、マスク設定時間内に発生する回転数の低下を無視することにより、その回転数の低下をみて加振装置を作動させることがなくなるので、位置決め用小穴を開けておきたい時は、マスク設定時間を利用してドリルビットの回転だけで確実に位置決め用小穴を作成できる。したがって、加振装置を有効に機能させて穿孔の効率を上げることができるとともに、回転した状態のドリルビットをコンクリートに押し当てる場合に比べドリルビットの磨耗を極力抑えることができる。
【0029】
なお、マスク設定時間を利用する方法は、前述のドリルビットを回転させた状態でドリルビット先端を押し付けて穿孔する場合も利用可能である。
【0030】
また、上述の全ての実施例では加振装置の振動方向をドリルビットの軸方向としたが、これに加えてドリルビットの回転方向にも振動を付与させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係るドリルの一例を示すコンクリートドリルの側面図
【図2】上記コンクリートドリルの斜視図
【図3】加振装置の構成を説明する要部断面図
【図4】上記加振装置の振動発生部分の断面図
【図5】上記コンクリートドリルの電気的構成を説明するブロック図
【図6】上記コンクリートドリルの動作を説明するフローチャート図
【図7】(a)(b)はビット回転用モータの動作を説明するタイムチャート図
【図8】上記コンクリートドリルの他の例の動作を説明するフローチャート図
【図9】上記コンクリートドリルの動作の他の例を説明するフローチャート図
【図10】上記コンクリートドリルの動作の他の例を説明するフローチャート図
【図11】ビット回転用モータの動作の他の例を説明するタイムチャート図
【符号の説明】
【0032】
1 本体
2 ビット回転用モータ
4 ドリルビット
14 加振用モータ
20 制御部
21 検出手段
A 加振装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリル、詳しくはコンクリートや岩盤や鋼板等にアンカー等を取り付けるための穴あけを行なう中実又は中空のドリルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートに孔を空けるための道具としてコンクリートドリルが使用されているが、より効率的に穿孔を行なうためのコンクリートドリルが本出願人より提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
このコンクリートドリルは穿孔速度を上げるために、ドリル本体をドリルビットの軸方向に振動させ、この振動をドリルビットに加振力として付与するために加振装置を設けたものであった。
【特許文献1】特開2003−211436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする問題点は、上述のコンクリートドリルでは加振装置を作動させるとドリルビットの軸方向に沿って脈動する加振力が発生するために、コンクリートへの穿孔を行なうためにコンクリートにドリルビットの先端を押し付ける際、ドリルビットの先端が跳ねて位置あわせがしづらく、目的の位置に正しく穿孔しにくいという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決し、コンクリート等への穿孔をする際にある程度穿孔が進んでから加振装置を自動的にスタートさせ、穿孔機能と操作性とに優れたドリルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために本発明に係るドリルは、ドリルのドリルビットの軸方向に振動を付与する加振装置と、上記ドリルビットの回転数を検出する検出手段と、該検出手段の検出結果に基づいて上記ドリルビットの回転を制御する制御部とを備え、上記制御部は上記ドリルビットの回転数が上昇した後に発生する回転数の低下が所定時間継続したことを認識したときには上記加振装置の作動を開始することを特徴とする。
【0007】
なお、前記制御部は2自由度PID制御で前記ドリルビットの回転を制御し、該制御は前記加振装置の作動開始前と作動開始後とで異なるようにし加振装置を作動させるまでは目標値応答をさせ、加振装置が作動した後は外乱応答させることが好ましい。
【0008】
また、前記制御部はマスク設定時間経過後の前記ドリルビットの回転数が上昇した後に発生する回転数の低下が所定時間継続したことを認識したときには前記加振装置の作動を開始するようにし、ドリルビットの先端をコンクリートに当接させた状態で回転を開始した状態でも穿孔が開始したタイミングで加振装置を作動させるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、回転しているドリルビットの先端がコンクリート等に当たって所定時間経過後に加振装置が作動するので、ビットの位置決めがやりやすくなるとともに、加振装置が自動的に動作するので途中で加振装置をスタートさせるための操作を必要とせず、操作性に優れたドリルを実現することができる。
【0010】
請求項2の発明によれば、加振装置をスタートさせるまでは目標応答制御を行い、加振装置が作動して実際に穿孔が始ったならば外乱応答をさせることにより、加振装置作動前にはドリルビットの回転の変化を把握しやすくして加振装置をスタートさせるタイミングを決定することができ、加振装置作動後にはドリルビットの回転数の変動を少なくし効率の良い穿孔を行なうことができる。
【0011】
請求項3の発明によれば、ドリルビットの先端をコンクリート等に押し当てた状態で、ドリルビットを回転させても初期の不安定な状況を回転の低下と判断することなく、加振装置のスタートのタイミングを正しく決定することができ、穿孔の位置決めをより正確に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は本発明に係るドリルの一例としてコンクリートドリルを示し、このコンクリートドリルは本体1に収容されたビット回転用モータ2によって駆動軸3を回転させ、この駆動軸3に連結されたドリルビット4を回転させ、ドリルビット4の先端をコンクリートに押し付けてコンクリートに穿孔するもので、作業者は本体1の後端に形成されたグリップ6と本体1の側面に設けられた補助グリップ7とを把持し、トリガボタン8を引き操作してビット回転用モータ2を回転させ、ドリルビット4を回転させてその先端をコンクリート面に押し付けて使用するもので、本体1の前端部の上面にはドリルビット4をコンクリート面へ押圧させる押し付け力を補助するための加振装置Aが設けられており、これによって本体1に前後方向の振動を発生させることにより、ドリルビット4に軸方向に振動数50乃至300Hz程度の振動を与えるようになっている。
【0013】
上記加振装置Aは、図2、3に示すように、本体1の前端部に形成されたブラケット部9の上面に枠体10を取り付け、この枠体10にドリルビット4の伸展方向に対して直角の方向に向けて互いに平行に配置された2つの回転軸11を形成し、この回転軸11には、図4に示すように、各々偏心ウエイト12を対称的に取り付け、偏心ウエイト12には互いに噛みあわされたギヤ13を取り付け、このギヤ13によって回転軸11が逆方向に同期して回転するようにしてあり、一方の回転軸11の端部には加振用モータ14の回転軸15がジョイント部材16で連結されており、この加振用モータ14によって逆方向に回転される各回転軸11の回転により対称的に取り付けられた偏心ウエイト12が回転して本体1全体にドリルビット4の軸方向に沿った脈動の加振力が発生し、結果としてドリルビット4に対し軸方向に脈動の加振力が付与されるようになっているものである。
【0014】
図5は、ドリルの電気的な構成を説明するブロック図で、制御部20はビット回転用モータ2と加振用モータ14との2つのモータを制御し、ビット回転用モータ2の回転数を検出する検出手段21の検出結果に基づいて加振用モータ14の作動開始を決定するようになっているもので、この制御を図6のフローチャート図に基づいて説明する。
【0015】
なお、上記検出手段21はホールセンサで構成し、ドリルビット4の回転の変化をビット回転用モータ2の回転数で検出するようにすればよく、ビット回転用モータ2の回転軸15のホールセンサに対応する位置には図示しないマグネットを設け、ホールセンサでビット回転用モータ2の回転の変化を検出するようにすればよい。
【0016】
そして、トリガボタン8を引き操作してトリガスイッチ22をONさせると電源がONし(ステップST1)、制御部20は先ずビット回転用モータ2を回転させる(ステップST2)。このビット回転用モータ2の回転数は検出手段21で検出され、図7(a)のタイムチャート図に示すように、所定回転(本実施例では、毎分8000回転に設定)に到達し(ステップST3)、その後回転数が低下(例えば、毎分7800回転)低下すると、作業者がドリルビット4の先端をコンクリートに押し当てたため回転数が低下したと判断し、この低下が所定時間T(本発明では、20msに設定)継続すると、制御部20はコンクリートにドリルビット4の先端部が没入したと判断し(ステップST5)、ステップST7に進んで加振用モータ14を回転させる。
【0017】
穿孔が完了し、ドリルビット4が回転した状態でドリルビット4を穿孔から引き抜くように本体1を引き戻した後、トリガボタン8を開放してトリガスイッチ22をOFFにすると(ステップST8)、電源はOFFになりビット回転用モータ2と加振用モータ14との2つのモータの回転は停止して(ステップST9)、1回の穿孔作業は終了する。
【0018】
上記ドリルによれば、加振用モータ14がビット回転用モータ2と同時に回転していないので、穿孔を開始するまでは本体1が振動していないため、ドリルビット4の先端を目的の場所に位置合わせがしやすく、位置決めした後に加振装置を作動させるので目的の場所に確実にしかも早い穿孔を行なうことができる。
【0019】
なお、制御部20が2自由度PID制御でビット回転用モータ2の回転を制御し、加振装置Aを作動させるまでは回転数変動を大きくして応答性が低い目標値応答をさせ、加振装置Aが作動した後は回転数変動を小さくして応答性が高い外乱応答させるようにしてもよい。
【0020】
この制御を図8のフローチャート図に基づいて説明する。トリガボタン8を引き操作してトリガスイッチ22をONさせると(ステップST10)、制御部20は先ずビット回転用モータ2を回転させる(ステップST11)。このとき、制御部20は目標値応答でビット回転用モータ2をPID制御する。そして、ビット回転用モータ2の回転数を検出手段21で検出し、図7(b)のタイムチャート図に示すように、所定回転(本実施例では、毎分8000回転に設定)に到達し、その後回転数が低下(例えば、毎分7800回転)すると、作業者がドリルビット4の先端をコンクリートに押し当てたため回転数が低下したと判断し、この低下が所定時間T(本発明では、20msに設定)継続すると、コンクリートにドリルビット4の先端部が没入したと判断し、ステップST13に進んで加振用モータ14を回転させるとともに、外乱応答でビット回転用モータをPID制御する。
【0021】
穿孔が完了し、ドリルビット4が回転した状態でドリルビット4を穿孔から引き抜くように本体1を引き戻した後、トリガボタン8を開放してトリガスイッチ22をOFFにすると(ステップST15)、制御部20は穿孔作業が終了したと判断し、ビット回転用モータ2と加振用モータ14との2つのモータの回転を停止し(ステップST16)、1回の穿孔作業は終了する。
【0022】
なお、ビット回転用モータを作動した後、途中でトリガボタンを開放すると、トリガスイッチはOFFになって電源がOFFになるので動作中のビット回転用モータは停止する。
【0023】
この制御によれば、図7(b)に示すように、ドリルビット4の先端をコンクリートに押し当てて穿孔を始めるまでは、設定回転数にスムーズに到達させることができるとともにその回転を維持し、ドリルビット4の先端をコンクリートに押し当てて負荷が発生するとビット回転用モータ2の回転が低下しやすいように目標値応答でビット回転用モータ2をPID制御しておき、ビット回転用モータ2の回転低下が所定時間経過すると穿孔が開始されたと判断し、加振用モータ14を作動させるとともに、穿孔中は負荷が大きくなりビット回転用モータ2の回転が大きく変動するが負荷によるビット回転用モータ2の回転変動を小さくし、より高い回転(例えば、毎分7900回転〜毎分7950回転程度)で穿孔を行なうことができるように制御部20は外乱応答でビット回転用モータをPID制御するので、穿孔効率の向上を図ることができる。
【0024】
上記コンクリートドリルによれば、制御部20は加振用モータ14を回転させると同時に、ビット回転用モータ2のPID制御を目標値応答から外乱応答に切り換えることにより、高い回転数でビットを回転させることができ、穿孔作業の作業効率を高めることができる。
【0025】
また、上述のコンクリートドリルでは、ドリルビットを回転させた状態でドリルビットの先端をコンクリートに押し付けて穿孔する場合について説明したが、例えば、最初にドリル穿孔の位置決め用小穴をドリルビット先端で開けておきたい時に、ドリルビットの先端をコンクリートに押し当てた状態でトリガボタンを引き操作し、ドリルビットを回転させる使用に対応したコンクリートドリルについて説明する。
【0026】
このコンクリートドリルは、図9のフローチャート図に示すように、トリガボタン8を引き操作してトリガスイッチ22をONさせると(ステップST101)、制御部20は先ずビット回転用モータ2を回転させ(ステップST102)、マスク設定時間(例えば、2秒〜4秒程度)が経過するのを待ち(ステップST103)、マスク設定時間が経過すると、ビット回転用モータ2の回転数をチェックし(ステップST104)、図11のタイムチャート図に示すように、所定回転(本実施例では、毎分8000回転に設定)に到達した後、回転数が低下(例えば、毎分7800回転)すると、作業者がドリルビット4の先端をコンクリートに強く押し当て本格的に穿孔を始めた判断し、この低下が所定時間T(本発明では、20msに設定)継続すると、制御部20はコンクリートにドリルビット4の先端部が没入して位置決め用小穴ができたと判断し(ステップST106)、ステップST108に進んで加振用モータ14を回転させるようにプログラミングされているものである。
【0027】
なお、この制御方法は2自由度PID制御でビット回転用モータ2を制御する場合も同様で、図10に示すように、トリガボタン8を引き操作してトリガスイッチ22をONさせると(ステップST111)、制御部20は先ずビット回転用モータ2を回転させる(ステップST112)。このとき、制御部20は目標値応答でビット回転用モータ2をPID制御する。そして、マスク設定時間が経過するのを待ち(ステップST113)、マスク設定時間が経過すると、ビット回転用モータ2の回転数をチェックし(ステップST114)、所定回転(本実施例では、毎分8000回転に設定)に到達した後、回転数が低下(例えば、毎分7800回転)すると、作業者がドリルビット4の先端をコンクリートに強く押し当て本格的に穿孔を始めた判断し、この低下が所定時間T(本発明では、20msに設定)継続すると、制御部20はコンクリートにドリルビット4の先端部が没入して位置決め用小穴ができたと判断し(ステップST116)、ステップST118に進んで加振用モータ14を回転させるようにプログラミングすればよい。
【0028】
上述のように、最初からドリルビットをコンクリートに押し付けて回転を開始した場合は、最初から負荷が生じて回転が変動し部分的に回転数が低下する現象がありながら所定の回転数に近づいていくが、所定の回転数に到達する前に回転の低下(図11のa点、b点)が発生するため、マスク設定時間内に発生する回転数の低下を無視することにより、その回転数の低下をみて加振装置を作動させることがなくなるので、位置決め用小穴を開けておきたい時は、マスク設定時間を利用してドリルビットの回転だけで確実に位置決め用小穴を作成できる。したがって、加振装置を有効に機能させて穿孔の効率を上げることができるとともに、回転した状態のドリルビットをコンクリートに押し当てる場合に比べドリルビットの磨耗を極力抑えることができる。
【0029】
なお、マスク設定時間を利用する方法は、前述のドリルビットを回転させた状態でドリルビット先端を押し付けて穿孔する場合も利用可能である。
【0030】
また、上述の全ての実施例では加振装置の振動方向をドリルビットの軸方向としたが、これに加えてドリルビットの回転方向にも振動を付与させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係るドリルの一例を示すコンクリートドリルの側面図
【図2】上記コンクリートドリルの斜視図
【図3】加振装置の構成を説明する要部断面図
【図4】上記加振装置の振動発生部分の断面図
【図5】上記コンクリートドリルの電気的構成を説明するブロック図
【図6】上記コンクリートドリルの動作を説明するフローチャート図
【図7】(a)(b)はビット回転用モータの動作を説明するタイムチャート図
【図8】上記コンクリートドリルの他の例の動作を説明するフローチャート図
【図9】上記コンクリートドリルの動作の他の例を説明するフローチャート図
【図10】上記コンクリートドリルの動作の他の例を説明するフローチャート図
【図11】ビット回転用モータの動作の他の例を説明するタイムチャート図
【符号の説明】
【0032】
1 本体
2 ビット回転用モータ
4 ドリルビット
14 加振用モータ
20 制御部
21 検出手段
A 加振装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリルのドリルビットの軸方向に振動を付与する加振装置と、上記ドリルビットの回転数を検出する検出手段と、該検出手段の検出結果に基づいて上記ドリルビットの回転を制御する制御部とを備え、上記制御部は上記ドリルビットの回転数が上昇した後に発生する回転数の低下が所定時間継続したことを認識したときには上記加振装置の作動を開始することを特徴とするドリル。
【請求項2】
前記制御部は2自由度PID制御で前記ドリルビットの回転を制御し、該制御は前記加振装置の作動開始前と作動開始後とで異なるようにした、請求項1記載のドリル。
【請求項3】
前記制御部はマスク設定時間経過後の前記ドリルビットの回転数が上昇した後に発生する回転数の低下が所定時間継続したことを認識したときには前記加振装置の作動を開始する、請求項1又は2記載のドリル。
【請求項1】
ドリルのドリルビットの軸方向に振動を付与する加振装置と、上記ドリルビットの回転数を検出する検出手段と、該検出手段の検出結果に基づいて上記ドリルビットの回転を制御する制御部とを備え、上記制御部は上記ドリルビットの回転数が上昇した後に発生する回転数の低下が所定時間継続したことを認識したときには上記加振装置の作動を開始することを特徴とするドリル。
【請求項2】
前記制御部は2自由度PID制御で前記ドリルビットの回転を制御し、該制御は前記加振装置の作動開始前と作動開始後とで異なるようにした、請求項1記載のドリル。
【請求項3】
前記制御部はマスク設定時間経過後の前記ドリルビットの回転数が上昇した後に発生する回転数の低下が所定時間継続したことを認識したときには前記加振装置の作動を開始する、請求項1又は2記載のドリル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−301820(P2007−301820A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−131905(P2006−131905)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(000006301)マックス株式会社 (1,275)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(000006301)マックス株式会社 (1,275)
【Fターム(参考)】
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