説明

ドーピング化合物の分析

薬物または薬剤、あるいは(体)液中または(体)組織または(体)試料の抽出物中のそれらの代謝産物の特定方法であって、(i)任意選択で、液または試料抽出物を少なくとも1種の酵素で処理するステップ、(ii)液または抽出物の少なくとも第1部分を、液または抽出物から有機化合物を吸着または吸収することのできる少なくとも1つの第1固相と接触させるステップ、および/または(iii)液または抽出物の少なくとも第2部分を、液または抽出物から有機化合物を抽出または吸着することのできる少なくとも1つの第2相と接触させるステップ、および/または(iv)任意選択で、液または抽出物の少なくとも第3部分を、液または抽出物から有機化合物を抽出することのできる液相と接触させるステップ、および/または(v)第1固相に結合した化合物を、固相を加熱し、かつ/または溶媒抽出を行う(任意選択で、その後に溶媒を少なくとも部分的に蒸発させる)ことにより、脱着させるステップ、(vi)任意選択で、第2相に含まれるかまたは結合した化合物を、加熱し、かつ/または溶媒抽出を行う(任意選択で、その後に溶媒を少なくとも部分的に蒸発させる)ことにより、抽出するかまたは脱着させるステップ、および(vii)ステップ(v)および(vi)の脱着化合物、および任意選択で、ステップ(iv)で抽出された化合物を、多次元ガスクロマトグラフィー(GC)によって、好ましくは包括的多次元GC(GCGC)を好ましくは質量分析法と組み合わせて分析するステップを含む、薬物または薬剤あるいはそれらの代謝産物の特定方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、固相抽出および/または固相微量抽出および/または誘導体化、および包括的多次元ガスクロマトグラフィーを組み合わせて含む、(体)液または組織/試料の抽出物の中の薬物または薬剤またはそれらの代謝産物を特定するための方法に関する。
【0002】
多くの状況において、生体中での薬物または薬剤のどんな使用についても知っておくことは望ましいことである。例えば、薬剤の代謝あるいは生化学的経路の監視は、(例えば、毒物学的な研究において)関心のあることであろう。さらに、幾つかの分野では、薬物および薬剤は、望ましい成果を向上または増大させるために使用され、特にスポーツおよび飼育の分野でそうである。そのような薬物または薬剤は、例えば、運動選手(人間または動物)の能力または耐久力を向上させるために、あるいは飼育過程を支援するため(例えば、動物の成長の促進)に使用できる。
【0003】
薬剤または薬物の使用(または乱用)を判定できるようにするため、任意の(体の)試料中の薬剤または薬物またはそれらに応じた代謝産物を特定するための、迅速かつ信頼性のある実現可能な方法が必要とされている。
【0004】
それゆえに、本発明により、(体)液または組織中または他の生体由来の試料中の、薬物または薬剤またはそれらの代謝産物を特定するための方法が提供され、それは(その方法全体を)2ないし3時間で実施することができ、非常に感度がよく、それゆえに短時間で優れた結果が得られる。
【0005】
本発明の方法は、
(i)任意選択で、(体)液あるいは(体)組織または(体の)試料の抽出物を少なくとも1種の酵素で処理し、かつ/または任意選択で、試料調製を促進するために誘導体化する、例えば、アルキルハロホルメート(alkylhaloformate)(例えば、ECF(エチルクロロホルメート)のようなもの)で誘導体化するステップ、
(ii)液または抽出物の少なくとも第1部分を、液または抽出物から有機化合物を吸着することのできる少なくとも1つの第1固相と接触させるステップ、および/または
(iii)液または抽出物の少なくとも第2部分を、液または抽出物から有機化合物を抽出または吸着することのできる少なくとも1つの第2相と接触させるステップ、および/または
(iv)任意選択で、液または抽出物の少なくとも第3部分を、液または抽出物から有機化合物を抽出することのできる液相と接触させるステップ、
(v)第1固相に結合した化合物を、固相を加熱し、かつ/または溶媒抽出を行う(任意選択で、その後に溶媒を少なくとも部分的に蒸発させる)ことにより、脱着させるステップ、および/または
(vi)任意選択で、第2相に含まれるかまたは結合した化合物を、加熱し、かつ/または溶媒抽出を行う(任意選択で、その後に溶媒を少なくとも部分的に蒸発させる)ことにより、抽出するかまたは脱着させるステップ、
(vii)ステップ(v)および/または(vi)の脱着化合物、および任意選択で、ステップ(iv)で抽出された化合物を、多次元ガスクロマトグラフィー(GC)によって、好ましくは包括的多次元GC(GCGC)を好ましくは質量分析法と組み合わせて分析するステップ
を含む。
【0006】
本明細書での使用にかなった化合物は、前記化合物を摂取(注射または軟膏を含む)した後に任意の(体)液または組織に含まれている、任意の薬物または薬剤あるいはその代謝産物(生化学的経路を経た後、好ましくは哺乳動物の生化学的経路を経た後のもの)である。
【0007】
本発明による方法で分析できる(体)液は、例えば血液、尿、糞便、涙管からの液、脊髄液、脳内液(brain liquid)、リンパ腺の液、または他の任意の入手可能な体液でありうる。入手しやすいという理由から、体液は、好ましくは血液または尿である。薬物またはその代謝産物が存在している組織または物質の好適な溶媒による抽出に由来する液の中の、薬物または薬剤の潜在的摂取量(potential intake)も測定できる。この場合、例えば、毛髪または爪、体組織および生物(の残りの部分)の更なる物質での測定を参考にすることができる。その場合、「液」は、前記組織からの抽出物である。固体試料の直接分析も、例えば、熱的脱着または熱分解の後に行うことができる。
【0008】
化合物の分析に多次元ガスクロマトグラフィーを使用すること自体は、当該技術分野において知られている。特に、2種類の異なったパラメーターで任意の化合物を分析するために、包括的二次元ガスクロマトグラフィーを使用することができる。こうした目的のため、2種類の異なる分離カラムを使用する。例えば、第1カラムが非極性物質を含み、第2カラムがより極性のある物質を含むか、またはその逆である。ただし、(例えば、鏡像異性体分離のような)他の組合せを使用することもできる。
【0009】
包括的二次元ガスクロマトグラフィー、ならびに包括的二次元ガスクロマトグラフィーと飛行時間型質量分析法(TOF−MS)との組合せは公知の技法であり、例えば、Lu,X.らによってJournal of Chromatography A,1043(2004),pages 265−273に記載されている。また包括的二次元ガスクロマトグラフィーにおける最近の進歩は、Adahchour,M.らによってTrends in Analytical Chemistry,Vol.25,No.8,2006,pages 821−840に記載されている。
【0010】
ドーピング管理における薬物分析に、包括的二次元ガスクロマトグラフィー(GC×GC)を使用すること自体は、Journal of Chromatography A,1000(2003),pages 109−124のKuchらの記事から知られている。しかし、この記事に記載されている方法は、面倒であり、時間がかかる。しかも、行われた試料調製からは多数の化合物(例えば、利尿剤)が排除されている。
【0011】
「包括的」という用語は、本明細書では、第1クロマトカラムから溶出する基本的にすべての成分が、第2クロマトカラムへ別の画分として投入されることを示すのに用いられている。さらに、この第2カラムから溶出する全構成成分を、好ましくは質量分析法によって、より好ましくはTOF−MSによって検出できる。
【0012】
本発明の任意選択のステップ(それはステップ(i)である)では、「元の」濃い形態、希釈形態またはいずれかの処理がなされた形態の(体)液に、少なくとも1種の酵素を、その酵素が活性を示す条件下で加える。酵素が最高の活性状態を示す(例えば、温度および緩衝系のような)条件は、使用する酵素によって異なり、普通は供給業者によって知らされる。酵素は、好ましくは、グルクロニダーゼ、グリコラーゼ(glycolase)および/またはスルファターゼ/デスルファターゼ(desulfatase)から選択される。酵素を添加すると、化合物の誘導体(例えば、生化学的経路の代謝産物)は分解し、典型的にはグリコシル化またはスルホン化される。必要に応じて、経路代謝産物(pathway metabolite)を分解するため、任意の他の酵素を(体)液に加えることができる。
【0013】
本発明による好ましい実施態様では、任意の(体)液または抽出物を幾つかの部分に分け、その際に、液または抽出物の少なくとも1部分を、ステップ(ii)に従って、少なくとも1つの第1固相と接触させる。前記第1固相は、好ましくは有機物質であり、より好ましくは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリアクリレート、カーボワックス(carbowax)−ジビニルベンゼン(カーボワックス/DVB)、PDMS−DVB、carboxen/PDMS、ジビニルベンゼン−carboxene−ポリジメチルシロキサン(DVB/carboxen/PDMS)、ポリ(メチルヒドロシロキサン)(PMHS)または一般的に知られ使用されている他の相から選択される。
【0014】
Carbowax(商標)およびCarboxen(商標)は、Supelco(Sigma−Aldrich)が提供している市販の固相である。
【0015】
特に好ましい実施態様では、第1固相は有機繊維であって、好ましくは太さが5〜200μm、好ましくは10〜200μm、より好ましくは30〜150μmのものであるか、または第1固相は撹拌子である。
【0016】
そのような繊維は、市販されており、固相微量抽出法(SPME)用に提供されている。使用前に、繊維を好ましくは状態調節する。例えば、使用する物質に応じて、少なくとも200℃、好ましくは少なくとも220℃まで、少なくとも20分間、好ましくは少なくとも30分間、より好ましくは少なくとも1時間加熱する。使用前の繊維の状態調節温度は、製造業者の使用説明書に示されている。他の任意の状態調節を行っても、固相は望ましく処理されるであろう。それには、例えば、有機溶媒でフラッシュすること、または(他の温度または他の脱着時間を含め)他の任意の好適な処理がある。
【0017】
好ましくは、ステップ(ii)に従って液または抽出物の第2部分は、第2相と接触させるが、第2相は液相、気相または固相であってよい。したがって、前記第2相は、(例えば、有機溶媒による)液相抽出、気体抽出(揮発性有機化合物の場合)または固相抽出(SPE)に使用する。第2相が固相である場合、前記第2固相は、SPE法に用いることが知られている任意の物質であってよく、例えば、シリカをベースにした物質、ジルコニアまたは別の、例えば、変性または未変性の高分子材料(例えば、ポリスチレン−ジビニルベンゼンコポリマー(PS−DVB)、またはポリアクリレート)である。変性させる場合、使用する物質は、典型的にはオクタデシル変性であるが、他の変性も使用できる(例えば、フェニル、オクチルまたはさらには官能基化された物質または非官能基化物質)。SPEに使用できる物質は一般に知られている。
【0018】
化合物を含有している液または抽出物は、予め洗浄した/予めフラッシュしたSPEカラムの上部に置くことができ(カラムを通して液体試料を溶出させるだけである)、その後、保持された化合物を脱着させる、例えば、溶媒で溶出させることができる。溶出には、0.1〜20ml、好ましくは1〜20ml、より好ましくは2〜10ml、典型的には5mlの溶媒を使用できるが、それは、SPEカラム、その大きさ、用途、目標などによって大きく左右される。
【0019】
第1固相を液または抽出物の第1部分と接触させ、かつ/または第2相を液または抽出物の第2部分と接触させた後、各相に結合した化合物または各相中に抽出された化合物は、回収され、好ましくは脱着または抽出される。それゆえに、本発明の方法のステップ(v)に従って、第1固相に結合した化合物は、熱的脱着(例えば、固相を加熱する)または液体抽出、あるいはその両方によって脱着させる。第1固相に吸収または吸着された化合物の脱着/抽出を行ったら直ちに、その化合物を(多次元)ガスクロマトグラフィーで分析する。任意選択で、化合物を、脱着の前またはその最中に誘導体化することができる。
【0020】
第2相に固相を使用する場合、ステップ(vi)に従って、第2固相に吸着された化合物は、熱的脱着または溶媒抽出によって前記第2固相から脱着/抽出される。任意選択で、化合物を、脱着の前またはその最中に誘導体化することができる。
【0021】
ステップ(iv)〜(vi)で使用する溶媒は、化合物の分析前に、任意選択で少なくとも部分的に蒸発させてよい。
【0022】
第1固相および/または第2固相に結合した化合物の抽出/脱着に使用できる溶媒は、主に、第1固相および/または第2固相に用いる物質の性質および前記相に結合した化合物の性質によって異なる。ステップ(iv)、(v)および(vi)では、同じかまたは異なる溶媒を使用できる。抽出ステップに適した溶媒は、例えばアセトン、メタノール、エタノール、酢酸メチルなどである。抽出または脱着の後、化合物を直ちにガスクロマトグラフィーにかけることができる。
【0023】
第2相の場合、液体、特に有機溶媒を使用し、抽出物を直ちにガスクロマトグラフィーにかけることができる。
【0024】
任意選択ステップとして、但し、本発明の方法による好ましい実施態様として、溶媒は、第1固相および/または第2固相から化合物を抽出するかまたは脱着させた後、または液体抽出で化合物を回収した後に、少なくとも部分的に蒸発させる。更なる処理のために、溶媒を完全に蒸発させる必要はないが、溶媒の少なくとも50%を蒸発させるのが好ましく、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%を蒸発させる。蒸発は、当該技術分野において知られている任意の方法、例えば、加熱、減圧(真空)、凍結乾燥(freeze−drying)、凍結乾燥などで実施できる。
【0025】
さらに、本発明の方法では、ステップ(vi)の後に、特に好ましくは溶媒成分を蒸発させる前に、有機化合物の誘導体化を、好ましくはアルキル化剤および/またはシラン化(silanating)剤および/またはアセチル化剤による処理によって実施するのが好ましい。そのような試剤は、好ましくは、ヨウ化メチルおよび/またはMSTFA(N−メチル−N−(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド)、BSTFA(N,O−ビス−(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド)、BSA(N,O−ビス[トリメチルシリル]アセトアミド)、MTBSTFA(N−メチル−N−[tert−ブチルジメチルシリル]トリフルオロアセトイミド)および類似の化合物/試剤である。そのような化合物/試剤は当業者に知られている。
【0026】
本発明の他の実施態様では、誘導体化のステップは、任意の事前段階で、例えば、ステップ(i)の前または後、ステップ(iii)の前または後、あるいはステップ(vi)の前に実施できる。
【0027】
上に説明した本発明による方法のステップは、「試料調製」のステップであり、ここでは、(体)液または抽出物の化合物を含んでいる試料は、その後、ステップ(vii)に従ってガスクロマトグラフィーで分析される。好ましい実施態様では、化合物は、多次元ガスクロマトグラフィーで、例えば、二次元ガスクロマトグラフィー、より好ましくは包括的多次元ガスクロマトグラフィーで分析し、その場合、前記包括的多次元ガスクロマトグラフィーは、質量分析法(好ましくは、いわゆる飛行時間型質量分析法)および/またはフレームイオン化検出器(FID)または他の検出技法と組み合わせることができる。
【0028】
本発明の特に好ましい実施態様によれば、(体)液または抽出物は幾つかの部分に分けることができ、第1部分は、ステップ(ii)に従って第1固相(好ましくは有機繊維)と接触させ、ステップ(v)に従って前記固相から脱着させて、試料1を得ることができる。
【0029】
(体)液または抽出物の第2部分は、ステップ(iii)に従って第2固相と接触させることができ、第2固相に吸着した化合物は、好ましくは溶媒で脱着され、溶媒はその後好ましくは蒸発させられる。また第2固相から脱着される化合物は、アルキル化剤(好ましくはヨウ化メチル)で処理されてから、ステップ(vi)に従って化合物の誘導体が第2固相から脱着されて、試料2が得られる。
【0030】
(体)液/試料抽出物の第3部分は、(別個に)別の固相または液相と接触させることができる(これは上述の第2相と同じであってよいが、必ずしも同じである必要はない)。この後者の固相に吸着または吸収された化合物は、熱的に脱着されるかまたは溶媒で脱着される。その溶媒は、その後好ましくは蒸発させられ、後者の固相から脱着された化合物は誘導体化剤(例えば、シラン化剤)、例えばMSTFAで処理することができ(但し、他の試薬も使用できるであろう)、試料3が得られる。
【0031】
同じ結果は、(体)液を少なくとも2つの部分に分けることによっても確かに得られる。その場合、液の第1部分を上述のSPME(≒第1固相)で処理し、第2部分を第2固相と接触させ、化合物を溶出させてから、その後に溶出化合物を含んでいる試料を異なる誘導体化のために少なくとも2つの部分に分ける。このようにして同様に3種類の異なる試料が得られる。
【0032】
それゆえに、本発明の特に好ましい上記の実施態様によれば、(体)液または抽出物中に含まれる化合物は、(少なくとも)3つの部分に分けられ、(少なくとも)3つの試料が得られる。それらはすべて異なった仕方で処理される。試料1はSPMEで処理され、試料2はSPEで処理され(ここで化合物は、アルキル化剤で処理して化合物のアルキル化誘導体を得る)、試料3はSPEでの処理およびシラン化剤による処理が行われる(ここで、(体)液または抽出物中に含まれる化合物のシラン化誘導体が得られる)。
【0033】
元の(体)液または抽出物を3つより多い部分に分けることにより、他の誘導体化を行って化合物の種々の誘導体が得られるであろう。
【0034】
特に好ましい実施態様では、上述の好ましい実施態様で得られる試料の少なくとも1種類、好ましくは2種類、より好ましくは3種類すべてを包括的多次元ガスクロマトグラフィーで分析する。ここで、少なくとも2種類の別個のクロマトグラフィーカラム(例えば、第1の非極性カラムと第2の極性の高いカラム)を連続して使用する。好ましくは、第1カラムは、比較的大きな直径(例えば、50〜500μm)を有する、数メートル(例えば、最高で20〜100メートル)の大きなカラムであるが、第2カラムは、直径の小さい(例えば、50〜150μm)短いカラム(例えば、1〜5メートル、好ましくは1〜2メートル)である。したがって、第1カラムでは、化合物は、例えば、主として化合物の沸点で分離されるが、第2カラムでは、第1カラムから出てくる化合物がその極性に応じて分離される。本発明の特に好ましい実施態様によれば、包括的ガスクロマトグラフィーをさらに質量分析法と組み合わせる。したがって、最初に主に沸点で分離され、2番目に極性で分離された化合物は、さらに3番目のステップで質量によって特定される。1つの好ましい種類の質量分析法は、一般に公知の技法である飛行時間型質量分析法(TOF−MS)である。
【0035】
しかし、種々の調製画分を、別々のクロマトグラフ操作で分析する必要はなく、1回のクロマトグラフ操作ですべてを一緒に分析することができる。好ましい実施態様では、すべての試料を1つのクロマトグラフシステムに(まとめて)注入する。別々に注入する場合、別々の注入を(複数の注入器を用いて)並行して、かつ/または連続して行う。別個の種類の注入技法を使用でき、好ましくはPTV注入技法(プログラム式温度制御気化(Programmed Temperature Vaporization))であるが、他の注入技法(ホットスプリット(hot−split)、スプリットレス、オンカラムなど)も使用できる。注入条件は、注入のタイプ(SPME、ライナー(liner)、温度、体積(大量の注入を含む)、および種々の画分の投入順序など)に合わせて最適化できる。すべての画分を注入した後、ガスクロマトグラフィーを開始すると、2D−GC TOF−MSシステムを用いた場合には1つの「多次元」クロマトグラムが得られる。クロマトグラフィーおよび分光分析の後に得られるその(多次元)データを集めて、評価する。データの評価は、好ましくは、市販されているデータ評価ソフトウェアで行う。
【0036】
元の(体)液または組織/試料抽出物中に存在していた化合物を分析した後、その化合物は、例えば、比較プロセスによって知られている薬物または薬剤あるいはそれらの代謝産物のデータと比較することによって特定できる。好ましくは、またこの比較を簡単にするために、分析者は、データベースの形で存在している公知の薬物または薬剤の分析データの大きな一覧を参照する。好ましくは、そのようなデータベースは、参照用一覧が保管されており、かつ薬剤または薬物あるいはそれらの代謝産物の存在および性質の特定に役立つコンピュータである。但し、データベースが一切なくても同じように分析を行うことができる。MSは、化合物の化学構造を含む固有のm/zパターンを示す。本発明の方法を用いれば、ドーピングクラスS1〜S9(WADA(世界薬物分析協会(world association of drug analysis)によって示されたもの)の薬剤および薬物を特定できる(但し、クラスS2(ペプチド)は別であり、これは、ガスクロマトグラフィーに基づく方法で検出することはできない)。したがって、本発明の方法は、例えば、1人以上の参加者による薬剤の乱用/ドーピング物質の使用についてドーピング管理委員会が判定しなければならない、世界選手権大会または国際オリンピック大会のような公式大会の際に、非常に迅速に情報を提供することができる。
【0037】
特に多次元ガスクロマトグラフィー用の試料調製に用いられる構成要素は、試料調製用の構成要素の少なくとも幾つかを含んでいるキットの形で用意することができる。好ましい実施態様では、そのようなキットは、カラムまたは繊維形態または撹拌子の形の、有機化合物を吸着することができる少なくとも1つの固相(好ましくは、有機固相)、前記第1固相とは異なる少なくとも第2固相、任意選択のものとして少なくとも1種の酵素またはそれを含んでいる液体、任意選択のものとして少なくとも1種のアルキル化剤および/またはシラン化剤および/またはアセチル化剤あるいはそれを含んでいる液体、任意選択のものとして任意の有機溶媒、および任意選択のものとして試料調製用の容器を含む。
【0038】
そのようなキットは試料の調製に使用でき、試料はその後で多次元ガスクロマトグラフィーによって分析できる。
【0039】
さらに、本発明によれば、本発明の方法の少なくとも幾つかのステップ、好ましくは記載した方法の少なくとも試料調製ステップ(ii)、(iii)、(v)および(vii)を自動的に実施するために用いることができる装置が提供される。
【0040】
記載したすべてのステップを含む本発明の方法全体を実施するための装置、例えば、(体)液試料または抽出物だけが好適な容器または投入装置(input device)に投入され、方法のすべてのステップが装置内で自動的に実施される自動装置(automat)も、本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例1にしたがった手順で得られた典型的なGCGC/MSクロマトグラムを示す。化合物は極性および沸点で分離され、x軸およびy軸はクロマトグラフィーにおける保持時間(x軸は第1保持時間(秒)、y軸は第2保持時間(秒))を示す。
【図2】実施例2にしたがった手順で得られた典型的なGCGC/MSクロマトグラムを示す。化合物は極性および沸点で分離され、x軸およびy軸はクロマトグラフィーにおける保持時間(x軸は第1保持時間(秒)、y軸は第2保持時間(秒))を示す。
【0042】
[実施例]
以下の実施例は、本発明を例示するために示すが、本発明を実施例の実施態様に限定するものではない。
【0043】
[実施例1]
試料=クラスS1、S3〜S9の化合物を含んでいる「スパイク尿」=「スパイク尿」。合計で37.5mlの尿。25mlを酵素処理に使用し、その後でSPEおよび誘導体化を行ったが、12.5mlはSPMEに使用した。
【0044】
【表1】



【0045】
[酵素処理:]
試料1→12.5mlのスパイク尿+850μlの2M NaCl+1.65mlの酢酸ナトリウム(1M pH5)+1.65mlの酵素グルクロニダーゼの溶液(947単位/ml)。
試料2→12.5mlのスパイク尿+850μlの2M NaCl+1.65mlの酢酸ナトリウム(1M pH5)+1.65mlの酵素スルファターゼの溶液(140単位/ml)。
55℃で処理。
【0046】
[SPEおよび誘導体化:]
18時間後に、試料1および2を混合し(混合試料)、その後SPEを行った(SPE Waters(C18)SEP−Pak WAT 020515)。このSPE物質は、5mlのMeOHおよび5mlの水(ミリQ水)による溶出で状態調節した。試料(25ml)をSPE物質上に置き、その後に1.5mlの水を流した。SPE物質を真空状態(20秒間)にして水分を除去した。結合した化合物を4.5mlのMeOHで溶出させた(最初の0.5mlの部分を捨て、4.0mlを回収した)。溶出化合物を含んでいるMeOHの回収液4mlを分けた(画分1および2)。画分1を蒸発させて乾燥させ、1mlのMSTFA+1mlのピリジンを加えた。画分2を蒸発させて乾燥させ、2mlの10%ヨウ化メチル(MeI)/アセトン+KCO±50−100mgを加えた。画分2(MeI、アセトンおよびKCOを含む)を80℃で一晩貯蔵した。
【0047】
[SPME:]
SPME物質(カーボワックス)は、220℃で0.5時間の間状態調節してから、試料と接触させた。SPME抽出は、12.5mlのスパイク尿および10%(w/w)NaClを用いて1時間実施した。
【0048】
[GCGC−TOF−MS分析]
SPME繊維、1μlのMeI溶液(画分2)および1μlのMSTFA−溶液(画分1)を250℃で注入した。注入後にGCGC分析を開始した。使用条件:カラム1=30m(L)0.25mm(ID)0.25μm(df)VF−1MSおよびカラム2=1.0m(L)0.10mm(ID)0.10μm(df)VF−23MS。Heガス、1ml/分(一定)。オーブン:40℃(1分)−10℃/分−280℃(15分)。オーブン2:40℃(1分)−10℃/分−260℃(15分)。モジュレーターのオフセット:+30℃(ホットジェット温度(hot jet temp)、二次元の時間(Sec dim time):4秒、ホットパルス時間(Hot pulse time):0.4秒、MS走査速度:150Hz、走査:20〜550。
【0049】
典型的なGCGC−MSクロマトグラムを図1に示す(スパイク化合物は丸で囲んである)。
【0050】
[実施例2]
試料=クラスS1、S3〜S9の化合物を含んでいる「スパイク尿」=「スパイク尿」。合計で30mlの尿。25mlを酵素処理に使用し、その後でSPEおよび誘導体化を行ったが、5mlはSPMEに使用した。
【0051】
【表2】



【0052】
[酵素処理:]
試料3→12.5mlのスパイク尿+850μlの2M NaCl+3.3mlのグルクロニダーゼ溶液(947単位の酵素/ml(pH5の1M酢酸ナトリウム))。
試料4→12.5mlのスパイク尿+850μlの2M NaCl+3.3mlのスルフェート溶液(140単位の酵素/ml(pH5の1M酢酸ナトリウム))。
【0053】
[SPEおよび誘導体化:]
37℃での18時間の酵素反応の後、試料3および4を混合し(混合試料)、その後で固体相抽出を行った(SPE、Waters(C18)SEP−Pak WAT 020515)。SPE物質は、5mlのメタノール(MeOH)および5mlの水(超純水、ミリQ水)による溶出で状態調節した。試料(総量がおよそ33ml)をSPE物質上に置き、その後で1.5mlの水で溶出させた。真空(20秒間)にして、SPE物質の水分を除去した。結合した化合物を4.5mlのMeOHで溶出させた(最初の0.5mlの溶出液は捨て、その後の4.0mlを回収した)。回収した4mlは、溶出化合物を含んでおり、これを画分1および2に分けた。画分1を蒸発させて乾燥させ、0.5mlのN−メチル−N−(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(MSTFA)+0.5mlのピリジンを加えた。シリル化反応を室温において1時間以内で行わせた。画分2を蒸発させて乾燥させ、1mlの10%ヨウ化メチル(MeI)/アセトンおよびおよそ50〜100mgのKCOを加えた。画分2(MeI、アセトンおよびKCOを含んでいる)を80℃で一晩貯蔵して、メチル化反応を進行させた。
【0054】
[SPME:]
試料と接触させる前に、SPME物質(カーボワックス、膜の厚さ65μm、Supleco)を220℃で0.5時間の間状態調節した。5mlのスパイク尿およびその尿に加えられた0.5gのNaCl(10%、w/w)を用いて、1時間の間SPME抽出を実施した。
【0055】
[GCGC−TOF−MS分析]
SPME繊維、1μlのMeI溶液(画分2)および1μlのMSTFA溶液(画分1)を、最適化連続注入手順(スプリットレス)を用いて250℃で注入した。SPMEおよび個別の画分を注入した後、GCGC分析を開始した。使用したGCGC−TOF−MSの条件は次のとおりである:カラム1=30m(長さ)0.25mm(内径)0.25μm(膜の厚さ)VF−1MS(Varian)およびカラム2=1.0m(長さ)0.10mm(内径)0.10μm(膜の厚さ)VF−17MS(Varian)。Heガス、1ml/分(一定流量)。第1オーブン(一次元分離):40℃(1分間等温)−10℃/分−280℃(15分間等温)、第2オーブン(二次元分離):40℃(1分間等温)−10℃/分−260℃(15分間等温)。モジュレーターのオフセット:+30℃(ホットジェット温度)、二次元の時間:4秒、ホットパルス時間:0.4秒、MS走査速度:150Hz、走査範囲MS:20〜550。
【0056】
典型的なGCGC−MSクロマトグラムを図2に示す(スパイク化合物は丸で囲んである)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物または薬剤、あるいは(体)液中または(体)組織または(体)試料の抽出物中のそれらの代謝産物の特定方法であって、
(i)任意選択で、前記液または抽出物を少なくとも1種の酵素で処理するステップと、
(ii)前記液または抽出物の少なくとも第1部分を、前記液または抽出物から有機化合物を吸着または吸収することのできる少なくとも1つの第1固相と接触させるステップと、
(iii)前記液または抽出物の少なくとも第2部分を、前記液または抽出物から有機化合物を抽出または吸着することのできる少なくとも1つの第2相と接触させるステップと、
(iv)任意選択で、前記液または抽出物の少なくとも第3部分を、前記液または抽出物から有機化合物を抽出することのできる液相と接触させるステップと、
(v)前記第1固相に結合した化合物を、前記固相を加熱し、かつ/または溶媒抽出を行う(任意選択で、その後に前記溶媒を少なくとも部分的に蒸発させる)ことにより、脱着させるステップと、
(vi)前記第2相に含まれるかまたは結合した前記化合物を、加熱により、および/または溶媒抽出を行う(任意選択で、その後に前記溶媒を少なくとも部分的に蒸発させる)ことにより、抽出するかまたは脱着させるステップと、
(vii)ステップ(v)および(vi)の前記脱着化合物、および任意選択で、ステップ(iv)で抽出された前記化合物を、多次元ガスクロマトグラフィー(GC)によって、好ましくは包括的多次元GC(GCGC)を好ましくは質量分析法と組み合わせて分析するステップと
を含む、薬物または薬剤あるいはそれらの代謝産物の特定方法。
【請求項2】
ステップ(ii)の前記第1固相が有機物質である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(ii)の前記第1固相が、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリアクリレート、カーボワックス−ジビニルベンゼン(カーボワックス/DVB)、PDMS−DVB、carboxen/PDMS、ジビニルベンゼン−carboxene−ポリジメチルシロキサン(DVB/carboxen/PDMS)、ポリ(メチルヒドロシロキサン)(PMHS)から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1固相が繊維形態または撹拌子である、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(iii)の前記第2相が、固相、好ましくはシリカ含有物質、または変性または未変性の高分子材料、あるいは液相である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(iii)の前記第2固相の物質が、シリカをベースにした固定相、またはジルコニア、PS−DVBコポリマーまたはポリアクリレートから選択されるか、あるいは前記液相が前記試料液とも試料溶液とも混和性でないという条件を有する溶媒である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記有機化合物を誘導体化するステップをさらに含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
アルキル化剤および/またはシラン化剤および/またはアセチル化剤による処理によって前記誘導体化を達成する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記体液が哺乳動物の血液または尿である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
任意選択のステップ(i)における前記酵素が、グルクロニダーゼ、グリコラーゼおよび/またはデスルファターゼから選択される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ステップ(i)〜(vii)の少なくとも幾つかが自動的に実施される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法の少なくともステップ(ii)、(iii)、(v)および(vii)を自動的に実施するための装置。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法の試料調製ステップ(i)〜(vi)を実施するためのキットまたは装置であって、
− 有機化合物を吸着することのできる少なくとも第1固相と、
− 前記第1固相とは異なる少なくとも第2相と、
− 任意選択で、グルクロニダーゼ、グリコラーゼおよび/またはデスルファターゼから選択される少なくとも1種の酵素、あるいはそれを含む溶液と、
− 任意選択で、任意の有機溶媒と、
− 任意選択で、アルキル化剤、シラン化剤および/またはアセチル化剤あるいはそれを含む溶液と、
− 任意選択で、試料調製用の容器と
を含む、キットまたは装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−533283(P2010−533283A)
【公表日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515424(P2010−515424)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【国際出願番号】PCT/EP2008/005684
【国際公開番号】WO2009/010240
【国際公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】