説明

ドーム型の射出成形品の射出成形型とそのドーム型射出成形品

【課題】 本発明は、アンダーカット形状が成形品の離型変形へ及ぼす影響を抑えることができ、型開きを行う際に、成形品のトラレを防止でき、精度よく成形品を成形することができるドーム型の射出成形品の射出成形型とそのドーム型射出成形品を提供することである。
【解決手段】 可動入子30の側面に配置され、固定型22と可動型23との型開き方向に対して直交する方向にスライド可能なスライド入子31,32を設け、固定型22と可動型23との型閉め時にドームキャビティ33に連なり、ドームキャビティ33の幅よりも薄い薄肉キャビティ34を規定するとともに、スライド入子31,32は、前記ドームキャビティ33に連通される連通壁部に前記ドームキャビティ33の幅と同等幅のストレート部を構成するストレート部構成部37と、前記ストレート部構成部37に設けられ、前記ドームキャビティ33内に突出する突起形状部38と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ドーム形状の光学素子などの成形品を射出成形するドーム型の射出成形品の射出成形型とそのドーム型射出成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から例えば、カプセル内視鏡のドームカバーのような半球状のドーム型の小型の光学素子を射出成形で成形することが考えられている。ここで、カプセル内視鏡は、カプセル内視鏡の本体の一端部に観察光学系や、照明光学系を保持する光学系保持基板が配置されている。この光学系保持基板をドームカバーで閉塞する状態で、カプセル内視鏡の本体にドームカバーが組み付けられている。
【0003】
このカプセル内視鏡の本体とドームカバーとの組み付け部分では、カプセル内視鏡の本体のケース壁部の一端部内周面にドームカバーの組み付け用凹部が形成され、ドームカバーの開口端の端縁部には、カプセル内視鏡本体の組み付け用凹部に嵌合させるための嵌合リブが形成されている。このドームカバーの端縁部の嵌合リブは、ドームカバーの壁部の厚さ寸法よりも肉厚が薄い薄肉部によって形成されている。これは、ドームカバーとカプセル内視鏡本体との間に、なるべく段差を生じさせないようにする為である。そして、ドームカバーの薄肉の嵌合リブをカプセル内視鏡本体の組み付け用凹部に嵌合させることで、カプセル内視鏡の本体にドームカバーが組み付けられている。
【0004】
上記構成のドームカバーのようなドーム型の小型の精密部品を射出成形で成形する射出成形型は、ドームカバーの開口端の端縁部に嵌合リブを設けた射出成形品の場合、成形品の取り出し時にエジェクターピンを使用できない。そのため、従来の成形型では、固定型に取り付けられる固定入子と、前記固定入子と対向配置される状態で、可動型に取り付けられる可動入子とを備え、固定型と可動型との型閉め時には、前記固定入子と可動入子との間で、ドーム形状部を成形するドームキャビティを規定する。さらに、前記可動入子に対して側面配置されるスライド入子を設けることで、前記ドームキャビティに連なり、少なくとも一部が前記ドームキャビティの幅よりも薄い嵌合リブ用の薄肉キャビティを規定する構成になっている。そして、成形型の型開き時には、(1)固定入子の先抜き、(2)スライド入子を外側にスライド、(3)可動入子の先抜きという手順で成形品の取り出しを行っている。
【0005】
また、レンズ、ミラー等の高精度な光学部品をプラスチックの射出成形で製造する成形装置として例えば特許文献1に示されている装置がある。ここでは、成形型のキャビティ側板部の成形品と接する面の面粗さをあらくしている。さらに、成形型を上下の型閉め方向と直交する方向の両側から締め付ける締め付け機構と、成形型のキャビティ形成部とキャビティ側板部との間に介装される弾性部材とを設けている。そして、成形時には締め付け機構で側面型板を押し、この締め付け機構による締め付け時には、弾性部材が圧縮されて正規のキャビティ形状を保持する。さらに、離型時には、締め付けが解除され、弾性部材の反発力によりキャビティ形成部とキャビティ側板部との間を分離させる。これにより、型開きを行う際に、成形品が上型にトラレてしまったり、成形品が上型に引っ張られてしまったりして、成形品が変形して、最終的な成形品度が悪化してしまうことを防止する構成が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−249874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来のドームカバーのようなドーム型の射出成形品の成形型では、ドームカバーの端縁部の嵌合リブは、ドームカバーの壁部の厚さ寸法よりも肉厚が薄い薄肉部によって形成されている。このように、薄肉部の肉厚が薄い場合、成形品の離型工程においてドームカバーの薄肉部の強度が不足する場合がある。その際、薄肉部は、固定入子の先抜き時に固定側の離型力に負けてしまい、破断してしまう。
【0008】
また、ドームカバーの端縁部の嵌合リブは、薄肉で強度が不足しているので、特許文献1のように、キャビティ側板部の成形品と接する面の面粗さをあらくして型開きを行う際に、成形品が上型にトラレてしまったり、成形品が上型に引っ張られてしまったりして、成形品が変形することを防止する技術は適用できない。
【0009】
カプセル内視鏡のドームカバーでは、成形品が小さいために、ドームカバーの内側から締め付け機構を設けられない。さらに、ドームカバーの端縁部の嵌合リブを成形するスライド入子の側面の面粗さRaは、例えばRa=1μm程度に設けても型開きを行う際の離型力がその抵抗力よりも大きいため、滑って抜けてしまう。そのため、この場合は、型開きを行う際に、成形品が上型にトラレてしまうことを防止できない。
【0010】
本発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的は、アンダーカット形状が成形品の離型変形へ及ぼす影響を抑えることができ、型開きを行う際に、成形品のトラレを防止でき、精度よく成形品を成形することができるドーム型の射出成形品の射出成形型とそのドーム型射出成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一局面の態様は、固定型に取り付けられる固定入子と、前記固定型に対して接離可能な可動型に取り付けられ、前記固定入子と対向配置されることで、ドーム型の射出成形品を成形するドームキャビティを規定する可動入子と、前記可動入子の側面に配置され、前記固定型と前記可動型との型開き方向に対して直交する方向にスライド可能に設けられ、前記固定型と前記可動型との型閉め時に前記ドームキャビティに連なり、前記ドームキャビティの肉厚よりも薄い薄肉キャビティを規定するスライド入子と、を備え、前記スライド入子は、前記ドームキャビティに連通される連通壁部に前記ドームキャビティの肉厚と同等の肉厚のストレート部を構成するストレート部構成部と、前記ストレート部構成部に設けられ、前記ドームキャビティ内に突出するアンダーカット構成部と、を有するドーム型の射出成形品の射出成形型である。
そして、上記構成では、固定入子の離型力に耐えうる手段として、厚肉であるドームカバーの外側のストレート部に離型方向に対する引っかかりとなる形状のアンダーカット部を設けることで、固定型の離型力に耐えうるようにする。このアンダーカット部はスライド入子のスライド動作により離型する。このような成形型構造とすることで、確実に成形品が固定側から確実に離型するようになるため、良好な成形品が得られるようにしたものである。
【0012】
好ましくは、前記アンダーカット構成部は、前記ドームキャビティ内に突出する突起形状部によって前記ドームキャビティに対し、樹脂を射出して成形された前記ドーム型の射出成形品の前記ストレート部に前記突起形状部と嵌合する溝形状のアンダーカット部を形成する。
そして、上記構成では、前記ドーム型の射出成形品の溝形状のアンダーカット部を前記スライド入子の前記アンダーカット構成部の突起形状と嵌合させた状態で保持することにより、ドーム型の射出成形品の成形時に、ドーム型の射出成形品の端縁部の嵌合リブの薄肉部が非常に薄肉であっても、固定入子の先抜きの離型力に負けずに確実に成形品を離型することができる。
【0013】
好ましくは、前記溝形状は、溝縁部が滑らかな曲面形状に形成されている。
そして、上記構成では、アンダーカット部は溝縁部が滑らかな曲面形状の溝形状に形成されており、固定入子先抜き時の成形品への応力集中が緩和できるため、アンダーカット形状が成形品の離型変形へ及ぼす影響を最小限に抑えた離型が可能になる。
【0014】
好ましくは、前記溝形状は、1μm以上の深さの凹凸の連続面である。
そして、上記構成では、アンダーカット部が1μm以上の深さの凹凸の連続面である溝形状にしたものである。
本発明の他の局面の態様は、前記射出成形型が備えるドームキャビティに対し、樹脂を射出して成形されたドーム型射出成形品である。
そして、上記構成では、アンダーカット形状が成形品の離型変形へ及ぼす影響を抑えることができ、型開きを行う際に、成形品のトラレを防止でき、精度よく成形することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アンダーカット形状が成形品の離型変形へ及ぼす影響を抑えることができ、型開きを行う際に、成形品のトラレを防止でき、精度よく成形品を成形することができるドーム型の射出成形品の射出成形型とそのドーム型射出成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】カプセル内視鏡の全体の概略構成を示す側面図。
【図2】カプセル内視鏡の光学系保持基板を示す平面図。
【図3】本発明の第1の実施の形態の射出成形型で成形されるドームカバーの縦断面図。
【図4】第1の実施の形態の射出成形型の型閉め状態の要部の概略構成を示す縦断面図。
【図5】第1の実施の形態の射出成形型の型閉め時のドームキャビティの一部を拡大して示す縦断面図。
【図6】第1の実施の形態の射出成形型の型閉め時のスライド入子の動作状態を示す平面図。
【図7】第1の実施の形態の射出成形型の型開き時のスライド入子の動作状態を示す平面図。
【図8】第1の実施の形態の射出成形型によるドームカバーの成形品の成形状態を示す縦断面図。
【図9】第1の実施の形態の射出成形型の型開き動作時に固定入子が成形品から分離された状態を示す縦断面図。
【図10】第1の実施の形態の射出成形型の型開き動作時に可動型全体が離型方向に移動してPL面が開くと同時にスライド入子がドームカバーの成形品から離型した状態を示す縦断面図。
【図11】第1の実施の形態の射出成形型の型開き動作時に状態を示す縦断面図。
【図12】(A)は第1の実施の形態の射出成形型のスライド入子のアンダーカット構成部の第1の変形例を示す縦断面図、(B)は第1の実施の形態の射出成形型のスライド入子のアンダーカット構成部の第2の変形例を示す縦断面図、(C)は第1の実施の形態の射出成形型のスライド入子のアンダーカット構成部の第3の変形例を示す縦断面図。
【図13】第1の実施の形態の射出成形型のスライド入子のアンダーカット構成部の第4の変形例を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1の実施の形態]
(構成)
図1乃至図11は、本発明の第1の実施の形態を示す。図1は、本発明の射出成形型21で成形される対象物のドーム型の射出成形品の一例であるドームカバー1を有するカプセル内視鏡2の全体の概略構成を示す側面図である。
【0018】
カプセル内視鏡2は、カプセル内視鏡2の本体2aの一端部に観察光学系や、照明光学系を保持する円板状の光学系保持基板3が配置されている。光学系保持基板3上には、図2に示すように中央に対物レンズ4がレンズ枠5を介して取り付けられている。この対物レンズ4の内面側にCCDなどの撮像素子6が配設されている。さらに、対物レンズ4の周囲には複数の照明手段7、例えばLEDなどの発光体が配設されている。
【0019】
図1に示すようにこの光学系保持基板3をドームカバー1で閉塞する状態で、カプセル内視鏡2の本体2aにドームカバー1が組み付けられている。ドームカバー1は、例えばポリエチレンなどの透明樹脂によって形成されている。なお、ドームカバー1の透明樹脂としては、これ以外にも、例えばポリプロピレン、ポリエチレンテフタレート、塩化ビニル、ポリスチレン(PS)、ABS樹脂、アクリル(PMMA)、ポリアミド、ポリカーボネイト(PC)、四フッ化エチレン、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマーなどを使用することができる。
【0020】
このカプセル内視鏡2の本体2aとドームカバー1との組み付け部分では、カプセル内視鏡2の本体2aのケース壁部8の一端部内周面にドームカバー1の組み付け用凹部9が形成されている。ドームカバー1の開口端の端縁部には、カプセル内視鏡本体2aの組み付け用凹部9に嵌合させるための嵌合リブ10が形成されている。このドームカバー1の端縁部の嵌合リブ10は、ドームカバー1の壁部11の厚さ寸法よりも肉厚が薄い薄肉部によって形成されている。そして、ドームカバー1の薄肉の嵌合リブ10をカプセル内視鏡本体2aの組み付け用凹部9に嵌合させることで、カプセル内視鏡2の本体2aにドームカバー1が組み付けられている。ドームカバー1は、半球状のドーム部分1aがカプセル内視鏡2の観察用の光学機能面となる。
【0021】
図3は、第1の実施の形態の射出成形型21で成形されるドームカバー1の縦断面図を示す。本実施の形態は、ドームカバー1の開口端の端縁部に配置されたほぼ直線状のストレート壁部(ストレート部構成部)1bの外面部分に内部側に窪んだ凹陥状のアンダーカット溝部(アンダーカット部)1cが形成されている。このアンダーカット溝部1cは、射出成形型21の型開きを行う際に、成形品のトラレを防止する。なお、ストレート壁部1bは、光学機能は持たない部分である。そのため、アンダーカット溝部1cが影となり、ドームカバー1の半球状のドーム部分1aの光学機能を妨げることはない。また、ドームカバー1のアンダーカット溝部1cは、後述する射出成形型21の雄型である可動型23(図4参照)の左右一対のスライド入子31,32の突起形状部38によって形成される。
【0022】
なお、本実施の形態ではドームカバー1の製品寸法は、例えば図3に示すように設定されている。すなわち、ドーム外径D=11mm、ドームカバー1の開口端の端縁部からアンダーカット溝部1cの中心位置までの長さ(溝位置)h=1mm、ドームカバー1の肉厚t=1.1mmである。ドームカバー1の材料は、ポリカーボネイト、シクロオレフィンポリマー、アクリルが使用される。これらの材料の引張弾性率Eは、ポリカーボネイト=2.2(GPa)、シクロオレフィンポリマー=2.5(GPa)、アクリル=3.1(GPa)であり、大きくても3(GPa)程度である。
【0023】
そして、上記条件のドームカバー1のアンダーカット溝部1cの溝深さdは、射出成形型21の型開きを行う際に、成形品のトラレを防止できるように次のとおり、設定されている。すなわち、ドームカバー1のストレート壁部1bの変形量δとアンダーカット溝部1cの溝深さdとの関係がδ<dであればよい。この場合、ストレート壁部1bの変形量δ以上にアンダーカット溝部1cの溝深さdが深ければ射出成形型21の型開きを行う際に、ストレート壁部1bの弾性変形でドームカバー1が抜けることを防止できる。そして、アンダーカット溝部1cの溝深さdは、
d≧Ft/DπhE
と定義される。ここで、圧縮力F=150(N)、応力σ=4(N/mm)、ヤング率E=3000(N/mm=MPa)、変形量δ=0.002mmである。なお、圧縮力Fは、破断実績の半分に設定されている。
【0024】
図4は、第1の実施の形態のドームカバー1を射出成形する射出成形型21を示す縦断面図である。本実施の形態の射出成形型21は、PL面を境に固定型22と可動型23により構成される。固定型22は、図示しない射出成形機の固定プラテンに固定され、可動型23は図示しない射出成形機の可動プラテンに固定されている。そして、図示しない射出成形機の型開き動作により固定型22に対して可動型23が接離可能になっている。
【0025】
固定型22は、固定取付け板24と、固定型板25と、固定先抜き板26と、固定入子27と、固定先抜きバネ28とにより主に構成されている。固定取付け板24は、図示しない射出成形機の固定プラテンに固定されている。この固定取付け板24には、固定先抜き板26が固定され、固定入子27は固定先抜き板26に固定されている。
【0026】
固定型板25には、固定入子27と固定先抜き板26を挿通する穴25aが形成されている。そして、固定型板25の穴25a内に固定入子27と固定先抜き板26が型開き方向に移動可能に挿通されている。固定型板25と固定先抜き板26との間には固定先抜きバネ28が介設されている。固定入子27の下面には、ドームカバー1の外周面側の外郭と同形状の半球状の凹曲面部27aが形成されている。
【0027】
可動型23は、図示しない可動取付け板と、可動型板29と、図示しない可動先抜き板と、可動入子30と、左右一対のスライド入子31,32とにより主に構成されている。可動取付け板は、図示しない射出成形機の可動プラテンに固定されている。この可動取付け板には、図示しない可動先抜き板が固定されている。可動型板29と可動先抜き板との間は図示しないマグネットにより吸着状態で固定可能になっている。
【0028】
可動型板29には、可動入子30と可動先抜き板を挿通する穴29aが形成されている。そして、可動型板29の穴29a内に可動入子30と可動先抜き板が型開き方向に移動可能に挿通されている。可動入子30の上面には、ドームカバー1の内周面側の外郭と同形状の半球状の凸曲面部30aが形成されている。そして、固定型22と可動型23との型閉め時には、固定入子27の凹曲面部27aと、可動入子30の凸曲面部30aとの間でドーム型の射出成形品を成形するドームキャビティ33を規定する。
【0029】
また、左右一対のスライド入子31,32は、図4に示すように可動入子30の側面に配置され、固定型22と可動型23との型開き方向に対して直交する方向にスライド可能に設けられている。ここで、スライド入子31,32の内端部には、図6および図7に示すようにほぼ半円形状に形成され、ドームキャビティ33の肉厚よりも薄い薄肉キャビティ34を規定する薄肉キャビティ規定部34a,34bが形成されている。
【0030】
左右一対のスライド入子31,32には、例えば固定型板25に固定されたアンギュラピン35と係脱可能に係合する係合穴36が形成されている。アンギュラピン35は、固定型板25に型開き方向に対して斜めに傾斜状態で固定されている。そして、固定型22と可動型23との型開き動作時にはアンギュラピン35の傾斜に沿ってスライド入子31,32が水平移動するようになっている。
【0031】
そして、固定型22と可動型23との型閉め時には図6に示すようにスライド入子31,32は、ドームキャビティ33に連なる。このとき、図4に示すようにスライド入子31,32の薄肉キャビティ規定部34a,34bと可動入子30との間に薄肉キャビティ34が規定される。さらに、固定型22と可動型23との型開き動作時には、PL面が開くと同時にアンギュラピン35の傾斜に沿ってスライド入子31,32が水平移動し、図7に示すようにドームカバー1の成形品から離型するようになっている。
【0032】
また、スライド入子31,32の上部には、ドームキャビティ33に連通される連通壁部にドームキャビティ33の肉厚(幅)と同等の肉厚のストレート壁部1bを構成するストレート部構成部37が形成されている。このストレート部構成部37には、ドームキャビティ33内に突出するR形状を有した突起形状部(アンダーカット構成部)38が設けられている。この突起形状部38は、縁部が滑らかな曲面形状に形成されている。
【0033】
また、固定型22には、図6に示すようにドームカバー1の成形材料である溶融材料を型開き方向に供給するスプルー39と、ドームキャビティ33に樹脂を充填するためのランナー40とが設けられている。
(作用)
次に、上記構成の作用について説明する。本実施の形態の射出成形型21によるドームカバー1の成形時には、図示しない射出成形機の型閉じ動作により図4に示すように固定型22と可動型23とが型閉じ位置に移動される。このとき、固定入子27の凹曲面部27aと、可動入子30の凸曲面部30aとの間でドームカバー1を成形するドームキャビティ33を規定する。同時に、左右一対のスライド入子31,32は、図6に示すようにドームキャビティ33に連なる。このとき、図4に示すようにスライド入子31,32の薄肉キャビティ規定部34a,34bと可動入子30との間に薄肉キャビティ34が規定される。
【0034】
この状態で、図示しない樹脂射出ユニットにて、ドームカバー1の成形材料である透明樹脂の溶融材料が固定型22のスプルー39に供給され、続いてこの溶融材料はさらにスプルー39からランナー40を経てゲートを通過し、図8に示すようにドームキャビティ33内に供給され、充填される。
【0035】
次いで、ドームキャビティ33および薄肉キャビティ34内で充填された樹脂に対し、所定の圧力で所定の時間だけ保圧状態を維持する。続いて、ドームキャビティ33および薄肉キャビティ34内の充填樹脂を冷却することでドームカバー1と嵌合リブ10とが連結されたドーム型の射出成形品1Aが得られる。このとき、成形されるドームカバー1の射出成形品1Aの開口端の端縁部に配置されたほぼ直線状のストレート壁部1bの外周面には、図8に示すように左右一対のスライド入子31,32の突起形状部38と接触する部分に凹部であるアンダーカット溝部1cが成形される。そして、ドームカバー1のストレート壁部1bの外周面はこのアンダーカット溝部1cが左右一対のスライド入子31,32の突起形状部38と凹凸嵌合されたままの状態で保持される。
【0036】
その後、図示しない射出成形機の型開き動作によりドームカバー1の成形品1Aの取り出しが行われる。成形品1Aの取出しは型開きと共に順に次のとおり進行する。この射出成形機の型開き動作時には、まず、固定取付け板24、固定先抜き板26および固定入子27に対し、固定型板25が可動型23と一体的に離型方向に移動する。これにより、図9に示すように固定取付け板24、固定先抜き板26および固定入子27と、固定型板25および可動型23の連結体との間にクリアランスができる。このとき、固定入子27が先抜きにより離型する際、成形品1Aは、スライド入子31,32の突起形状部38と凹凸嵌合されたままの状態で保持される。そのため、成形品1Aのトラレが防止され、成形品1Aが固定入子27の下面の凹曲面部27aから分離される。
【0037】
その後、固定型22に対し、可動型23全体が離型方向に移動する。これにより、固定型22と可動型23との間のPL面が開く。この離型動作時には、図10中に矢印で示すようにPL面が開くと同時に左右のスライド入子31,32がアンギュラピン35の傾斜に沿って互いに離れる方向に水平移動し、図7に示すようにスライド入子31,32がドームカバー1の成形品1Aから離型する。
【0038】
上記離型動作は、図示しない引張リンクにより規制される範囲で型開きは止まり、同時に可動型板29と可動先抜き板との間のマグネットが離れる。この状態で、更に射出成形機の可動プラテンが後退すると、追随して可動型板29に対して可動先抜き板および可動入子30が離れ、可動入子30が成形品1Aから離型する。その後、ランナー40を突出すことで、図11に示すように成形品1Aが成形型21から離れる。このとき、図示しない取り出しロボットによって成形品1Aがチャックされ、成形品1Aが成形型21から取り出される。
【0039】
(効果)
そこで、上記構成のものにあっては次の効果を奏する。すなわち、本実施の形態のドームカバー1の射出成形型21とそのドームカバー1では、固定入子27の離型力に耐えうる手段として、厚肉であるドームカバー1の外側のストレート壁部1bに離型方向に対する引っかかりとなる形状のアンダーカット溝部1cを設けている。これにより、固定入子27が先抜きにより離型する際、スライド入子31,32の突起形状部38により成形品1Aのアンダーカット溝部1cを保持することができ、成形品1Aのトラレが防止される。さらに、嵌合リブ10のようなドームカバー1の壁部11の厚さ寸法よりも肉厚が薄い薄肉部の面粗さをあらくする場合のように薄肉部が破断してしまうおそれもない。
【0040】
また、ドームカバー1の外側のストレート壁部1bは、光学機能は持たない部分である。そのため、アンダーカット溝部1cが影となり、ドームカバー1の半球状のドーム部分1aの光学機能を妨げることはない。
また、ドームカバー1の成形品1Aのアンダーカット溝部1cは、スライド入子31,32のスライド動作により離型するので、スライド入子31,32がドームカバー1の成形品1Aから離型する際に、ドームカバー1の成形品1Aのアンダーカット溝部1cの部分が破断してしまうおそれもない。その結果、ドームカバー1の成形品1Aのアンダーカット溝部1cのアンダーカット形状が成形品1Aの離型変形へ及ぼす影響を抑えることができ、型開きを行う際に、成形品1Aのトラレを防止でき、精度よく成形品1Aを成形することができる。
【0041】
[変形例]
(構成)
図12(A)〜(C)は、それぞれ第1の実施の形態の射出成形型21のスライド入子31,32の突起形状部38の変形例を示す。図12(A)は、スライド入子31,32の突起形状部38の第1の変形例を示す。本変形例は、スライド入子31,32に断面形状がほぼ半球状の突起形状部38Aを設けたものである。また、図12(B)は、スライド入子31,32の突起形状部38の第2の変形例を示す。本変形例は、第1の変形例のような断面形状がほぼ半球状の突起形状部38Aの角部が滑らかな曲面形状に形成された突起形状部38Bを設けたものである。また、図12(C)は、スライド入子31,32の突起形状部38の第3の変形例を示す。本変形例は、断面形状がほぼ三角形状で頂部の角部が滑らかな曲面形状に形成された突起形状部38Cを設けたものである。
【0042】
上記各変形例では、成形品1Aのアンダーカット溝部1cの溝形状は溝縁部が滑らかな曲面形状(R形状)に形成されるため、固定入子27が先抜きにより離型する際、離型力の応力集中が生じない。そのため、成形品1Aの変形を抑制した離型が可能になるので、一層、確実に固定型22の離型力に耐えうるようにすることができる。
【0043】
図13は、第1の実施の形態の射出成形型のスライド入子31,32の突起形状部38の第4の変形例を示す。本変形例は、ドームカバー1のストレート壁部1bに対応するスライド入子31,32のストレート部構成部37に成形品1Aの内側方向に向かって深さd2が1μm以上の凹凸の連続面の溝形状の突起形状部38Dを設けたものである。
【0044】
本変形例では、スライド入子31,32のストレート部構成部37に深さd2が1μm以上の凹凸形状が複数存在しているために、その一つ一つの形状に作用する離型力が分散される。そのため、離型力により凹凸形状が破壊されたり、圧縮による凹凸形状の寸法以上の弾性変形が生じないため、成形品1Aが滑って抜けない。さらに、複数の凹凸形状により、離型力が分散されるため、より大きな離型力に対しても耐えうることができ、成形品1Aの変形を抑制した離型が可能になる。また、成形品1Aの形状を大きく変更させることがなくなる効果もある。さらに、ドームカバー1のストレート壁部1bに形成される凹凸の連続面の溝は凹形状のため、体内を移動中に消化器などの壁面に引っかかるおそれがない効果もある。
【0045】
さらに、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施できることは勿論である。
次に、本出願の他の特徴的な技術事項を下記の通り付記する。

(付記項1) 固定側入子と、前記固定側入子と対向配置されることで、ドーム形状部を成形するドームキャビティを規定する可動側入子と、前記可動側入子と側面配置されることで、前記ドームキャビティに連なり、少なくとも1部が前記ドームキャビティの幅よりも薄い薄肉キャビティを規定するスライド入子と、を備え、前記薄肉キャビティは、少なくとも1部に前記ドームキャビティの幅と同等幅を有するストレート部と、当該ストレート部に前記スライド入子とのアンダーカット部と、を有する射出成形用金型。
【0046】
(付記項2) 前記アンダーカット部は、前記スライドコアが有する突起形状を嵌合する溝形状であることを特徴とする付記項1に記載の射出成形用金型。
(付記項3) 前記溝形状は、曲面を有するR形状の溝であることを特徴とする付記項2に記載の射出成形用金型。
【0047】
(付記項4) 前記溝形状は、1μm以上の深さで、凹凸の連続面であることを特徴とする付記項2に記載の射出成形用金型。
(付記項5) 前記付記項1乃至4のいずれかに記載の射出成形用金型が備えるキャビティに対し、樹脂を射出して成形された光学素子。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、例えば、ドーム形状の光学素子などの成形品を射出成形するドーム型の射出成形品の射出成形型とそのドーム型射出成形品を使用する技術分野や、これを製造する技術分野に有効である。
【符号の説明】
【0049】
1…ドームカバー(ドーム型の射出成形品)、1b…ストレート壁部、1c…アンダーカット溝部(アンダーカット部)、22…固定型、23…可動型、27…固定入子、30…可動入子、31,32…スライド入子、33…ドームキャビティ、34…薄肉キャビティ、37…ストレート部構成部、38…突起形状部(アンダーカット構成部)、40…ランナ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定型に取り付けられる固定入子と、
前記固定型に対して接離可能な可動型に取り付けられ、前記固定入子と対向配置されることで、ドーム型の射出成形品を成形するドームキャビティを規定する可動入子と、
前記可動入子の側面に配置され、前記固定型と前記可動型との型開き方向に対して直交する方向にスライド可能に設けられ、前記固定型と前記可動型との型閉め時に前記ドームキャビティに連なり、前記ドームキャビティの肉厚よりも薄い薄肉キャビティを規定するスライド入子と、を備え、
前記スライド入子は、
前記ドームキャビティに連通される連通壁部に前記ドームキャビティの肉厚と同等の肉厚のストレート部を構成するストレート部構成部と、
前記ストレート部構成部に設けられ、前記ドームキャビティ内に突出するアンダーカット構成部と、
を有するドーム型の射出成形品の射出成形型。
【請求項2】
前記アンダーカット構成部は、前記ドームキャビティ内に突出する突起形状部によって前記ドームキャビティに対し、樹脂を射出して成形された前記ドーム型の射出成形品の前記ストレート部に前記突起形状部と嵌合する溝形状のアンダーカット部を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載のドーム型の射出成形品の射出成形型。
【請求項3】
前記溝形状は、溝縁部が滑らかな曲面形状に形成されている
ことを特徴とする請求項2に記載のドーム型の射出成形品の射出成形型。
【請求項4】
前記溝形状は、1μm以上の深さの凹凸の連続面である
ことを特徴とする請求項2に記載のドーム型の射出成形品の射出成形型。
【請求項5】
前記請求項1乃至4のいずれかに記載の射出成形型が備えるドームキャビティに対し、樹脂を射出して成形されたドーム型射出成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−223988(P2012−223988A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93876(P2011−93876)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】