説明

ナイロン−11とポリフッ化ビニリデンのブレンドフィルム製造方法

【課題】 ナイロン−11の配向マトリックス中でPVdFを結晶化することにより、PVdFの配向を制御することにより、力学特性の向上したナイロン−11/ポリフッ化ビニリデンブレンドからなる多軸結晶配向材料の製造方法を提供する。
【解決手段】 ナイロン−11とポリフッ化ビニリデン(PVdF)を混練押出機で混練し、その後熱プレスでシート状に成形し、一軸延伸した後、ナイロン−11の融点よりも低く、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)の融点よりも高い温度においてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を融解し、その後80〜135℃に保温してポリフッ化ビニリデン(PVdF)を結晶化することを特徴とする多軸結晶配向材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、ナイロン−11とポリフッ化ビニリデンのブレンド(以下ナイロン−11/ポリフッ化ビニリデンブレンドという)から成る多軸結晶配向材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリフッ化ビニリデンとナイロン12からなり、異方性溶融形態(液晶)を示す成形体でフィブリル化されている、耐薬品性、耐摩耗性、機械的特性に優れた成形体が開示されている。(特許文献1参照)
また、赤外吸収スペクトルのバンドのシフトおよびガラス転移の組成依存性から、ナイロンのアミド基とポリフッ化ビニリデン(以下PVdFという)のCF結合の間に特異的な相互作用があることがわかっている。(非特許文献1参照)
【0003】
【特許文献1】特許第2614649号公報
【非特許文献1】Q.Gao, J. I. Scheibeim,Macromolecules, 33, 7564 (2000) ”Dipolar Intermolecular Interactions,Structural Development, and Electromechanical Properties in FerroelectricPolymer Blends of Nylon-11 and Poly(vinylidene fluoride)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ナイロン−11/ポリフッ化ビニリデンブレンドにおいて、圧電性、耐薬品性、耐摩耗性、耐熱性、強度・弾性率などの優れた物理的特性を有するが、一層の力学特性の向上が必要である。ナイロン−11の配向マトリックス中でPVdFを結晶化することにより、PVdFの配向を制御することにより、ナイロン−11/ポリフッ化ビニリデンブレンドからなる多軸結晶配向材料を作製し、ナイロン−11/ポリフッ化ビニリデンブレンドの力学特性の向上を図る。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ナイロン−11とPVdFからなるブレンドフィルムでナイロン−11の分子鎖方向の結晶軸(c軸)とPVdFの分子鎖と垂直方向の結晶軸(a軸)が共に延伸方向に配向した多軸結晶配向材料を作製する。
すなわち、本発明は、 ナイロン−11/ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を混練押出機で混練し、その後熱プレスでシート状に成形し、一軸延伸した後、ナイロン−11の融点よりも低く、PVdFの融点よりも高い温度においてPVdFを融解し、その後80〜135℃に保温してPVdFを結晶化することを特徴とする多軸結晶配向材料の製造方法である。
また、本発明においては、ナイロン−11とPVdFのブレンドフィルムを、ナイロン−11:ポリフッ化ビニリデン(PVdF)=40〜70:60〜30(質量比)ブレンドフィルムとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の多軸結晶配向材料の製造方法は、ナイロン−11の配向マトリックス中でPVdFを結晶化することにより、PVdFの配向を制御することにより、PVdFの優れた物理的特性(耐薬品性、耐摩耗性、圧電性)などを維持したまま、機械的特性の向上を効率よく作り出すことができた。
【発明の実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において用いるナイロン−11(ポリウンデカンアミド)とポリフッ化ビニリデン(PVdF)からなるブレンドは、どのような配合割合のものでも良いが、ナイロン−11(ポリウンデカンアミド):ポリフッ化ビニリデン=30〜80:70〜20(質量比)、より好ましくはナイロン−11(ポリウンデカンアミド):ポリフッ化ビニリデン=40〜70:60〜30(質量比)のものが良い。
例えば、典型的な一例を示せば、ナイロン−11とPVdFの粉末を混合して(混合質量比:ナイロン-11/PVdF=4/6〜7/3)、混練押出機に導入し、溶融状態で混練して押し出す。入り口、シリンダー、ダイスの温度はそれぞれ、150 − 180 ℃、160 − 190 ℃、195 − 225 ℃(好ましくは、それぞれ160 −170 ℃、170 − 180 ℃、205 − 215 ℃)である。その後、熱プレスで215 ℃において溶融してシート状に成形する。さらに、 20 〜180℃、好ましくは120〜150 ℃において、2倍以上(好ましくは3倍以上)に一軸延伸する。その後、形態を拘束して、ナイロン−11の融点よりも低く、PVdFの融点よりも高い温度(好ましくは165〜175 ℃)においてPVdFを融解した後、80〜135℃(好ましくは110〜125℃)においてPVdFを結晶化することが必要である。
【実施例1】
【0008】
本発明について実施例を用いてさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
ナイロン−11とPVdFの粉末を混合して(混合比:ナイロン-11/PVdF=5/5)、混練押出機に導入し、溶融状態で混練して押し出す。入り口、シリンダー、ダイスの温度はそれぞれ、165℃、185℃、210℃である。その後、熱プレスで215℃において溶融してシート状に成形する。さらに、145℃において、 4倍に一軸延伸する。その後、形態を拘束して、170℃においてPVdFを5分間融解した後、120℃においてPVdFを結晶化した。
フルオレセインで染色して共焦点レーザスキャン顕微鏡観察を行うと、直径 2〜10μm、長さ 10〜50μmのPVdFのドメインがナイロンの配向マトリックス中に配列しているのが観測される。広角X線回折によると、ナイロンについては分子鎖方向の結晶軸(結晶c軸)が延伸方向に配向しているのに対し、PVdFについては、分子鎖と垂直方向の結晶軸である結晶a軸が延伸方向に配向し、多軸結晶配向構造が形成されているのが確認できる。(図2d)
引っ張り試験、動的粘弾性測定によると、破断強度140MPa、破断伸度32.5%、動的貯蔵弾性率 2.1GPaであった。(図3)
【実施例2】
【0009】
実施例1と同様にブレンドシートを作製し、145℃において、4倍に一軸延伸した。その後、形態を拘束して、170℃においてPVdFを5分間融解した後、85℃においてPVdFを結晶化した。広角X線回折によると、ナイロンについては分子鎖方向の結晶軸(結晶c軸)が延伸方向に配向しているのに対し、PVdFについては、分子鎖と垂直方向の結晶軸である結晶a軸が延伸方向に配向し、多軸結晶配向構造が形成されているのが確認できる。(図2c)
【0010】
(比較例1)
実施例と同様にブレンドシートを作製し、145℃において、4倍に一軸延伸した。PVdFの融解・結晶化は行わなかった。
共焦点レーザスキャン顕微鏡観察を行うと、直径 2〜10μm、長さ 10〜50μmのPVdFのドメインがナイロンの配向マトリックス中に配列しているのが観測される。広角X線回折によると、ナイロンについてもPVdFについても分子鎖方向の結晶軸(ナイロンについてもPVdFについても結晶c軸)が延伸方向に配向している。(図1a)
引っ張り試験、動的粘弾性測定によると、破断強度164MPa、破断伸度17%、動的貯蔵弾性率 2.1GPaであった。(図3)
【0011】
(比較例2)
実施例と同様にブレンドシートを作製し、145℃において、4倍に一軸延伸した。170℃においてPVdFを5分間融解した後、氷水中で0℃においてPVdFを結晶化した。
共焦点レーザスキャン顕微鏡観察を行うと、直径 2〜10μm、長さ 10〜50μmのPVdFのドメインがナイロンの配向マトリックス中に配列しているのが観測される。広角X線回折によると、ナイロンについてもPVdFについても分子鎖方向の結晶軸(ナイロンについてもPVdFについても結晶c軸)が延伸方向に配向している。(図2a)
引っ張り試験、動的粘弾性測定によると、破断強度138MPa、破断伸度23%、動的貯蔵弾性率 2.2GPaであった。
【0012】
(比較例3)
ブレンドシート(ナイロン-11/PVdF=5/5)の未延伸膜(無配向膜)の力学物性を評価した。破断強度24MPa、破断伸度4.2%、動的貯蔵弾性率 1.2GPaであった。
【0013】
(比較例4)
実施例と同様にブレンドシートを作製し、145℃において、4倍に一軸延伸した。170℃においてPVdFを5分間融解した後、形態を拘束することなく氷水中で0℃においてPVdFを結晶化した。PVdFの配向が乱れ、無配向の結晶組織が形成された。(図1b)
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明の多軸結晶配向材料の製造方法は、ナイロン−11の配向マトリックス中でPVdFを結晶化することにより、PVdFの配向を制御することにより、PVdFの優れた物理的特性(耐薬品性、耐摩耗性、圧電性)などを維持したまま、機械的特性の向上を図ることができるため、高強度プラスチックフィルムなど各種構造材料として広範な用途に応用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ナイロン-11/PVdFの広角X線回折像図 (a)延伸試料(b)延伸後形態を拘束することなく170℃で5分間熱処理した試料。
【図2】延伸後にPVdFを170℃で5分間溶融後、各温度で結晶化したナイロン-11/PVdFの広角X線回折像の結晶化温度依存性図 (a) 0℃; (b)75℃; (c) 85℃; (d) 120℃
【図3】ナイロン-11/PVdFの延伸試料の応力−ひずみ曲線 (a) 平行方向 (b) 垂直方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイロン−11とポリフッ化ビニリデン(PVdF)を混練押出機で混練し、その後熱プレスでシート状に成形し、一軸延伸した後、ナイロン−11の融点よりも低く、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)の融点よりも高い温度においてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を融解し、その後80〜135℃に保温してポリフッ化ビニリデン(PVdF)を結晶化することを特徴とする多軸結晶配向材料の製造方法。
【請求項2】
ナイロン−11:ポリフッ化ビニリデン(PVdF)=40〜70:60〜30(質量比)からなるブレンドフィルムである請求項1に記載した多軸結晶配向材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−191721(P2007−191721A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60545(P2007−60545)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【分割の表示】特願2003−40535(P2003−40535)の分割
【原出願日】平成15年2月19日(2003.2.19)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】