説明

ナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス

【解決手段】直接火炎加水分解法により得られ、0〜250℃における線熱膨張係数が−300〜300ppb/℃の範囲内であって、25℃における線熱膨張係数分布が100ppb/℃以下であるチタニアドープ石英ガラスを使用することを特徴とするナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
【効果】本発明によれば、微細パターン転写時のモールドの温度変化による変形を抑制することができ、位置精度の高いナノインプリントによる微細パターンの転写が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低熱膨張係数を有するナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、近年の半導体集積回路の高集積化はめざましい。この傾向に伴い、半導体素子製造時のリソグラフィプロセスでの露光光源の短波長化が進み、現在ではArFエキシマレーザ(193nm)を使用する光リソグラフィが主流である。今後、更なる高集積化を実現するために極端紫外光(EUV:Extreme Ultraviolet)を使用した光リソグラフィへの移行が有望視されている。しかし、ハーフピッチ32nm以下の半導体素子の製造にはいわゆる光リソグラフィ技術に併せて、ナノインプリント技術も脚光を浴びている。
【0003】
ナノインプリント技術は、光導波路、バイオチップ、光記憶メディア等の製造への応用も期待でき、多岐にわたる。
【0004】
ナノインプリント技術は、電子線露光技術やエッチング技術により作製した微細パターンを刻印したモールド(金型、スタンパー、テンプレート等と呼称させることもある)を基板上に塗布した樹脂材料に押し付けて微細パターンの形状を転写する手法である。半導体素子製造時には、シリコン等の半導体ウェハー表面に塗布したレジストにモールドを押しつけて微細パターンを転写させる。
【0005】
ナノインプリント技術は、光ナノインプリント方式と熱ナノインプリント方式とに大別される。光ナノインプリントは、樹脂材料に光硬化性樹脂を使用し、モールドをプレスして紫外線を照射することで樹脂を硬化させ、微細パターンを転写する方式である。
一方、熱ナノインプリントは、樹脂材料に熱可塑性樹脂を使用し、ガラス転移温度以上に加熱して軟化した樹脂にモールドを押しつけて微細パターンを転写する、又は熱硬化性樹脂にモールドを押しつけながら硬化温度まで加熱して微細パターンを転写する方式である。
【0006】
ナノインプリントモールドに求められる特性としては、微細パターン転写時にモールドの破損が発生しない機械的強度、樹脂と反応しない化学的安定性がある。
【0007】
熱ナノインプリントにおいては、熱可塑性樹脂を軟化させるため、又は熱硬化性樹脂を硬化させるために加熱する必要がある。使用する樹脂の種類に依存するが、熱ナノインプリントにおいては、室温から200℃程度までの温度変化がモールドにかかる。しかし、モールドに熱膨張を有する材料を使用した場合には、モールドの変形等により位置精度の低下が引き起こされる。よって、熱ナノインプリントに使用するモールドには、室温から200℃程度までの広い温度域で低熱膨張性を有する材料を使用することが望ましい。
【0008】
一方、光ナノインプリントにおいては、熱ナノインプリントほどの温度変化はモールドにかからない。従って、室温レベルにおいてのみ熱膨張性が問題となる。しかし、光ナノインプリントは、高精細な32nm以下の半導体素子製造への応用も期待させるため、より厳格な位置精度が求められる。また、ナノインプリント技術を使用する利点の1つである大面積への一括転写を可能にするためには、室温レベルでの低熱膨張性に加え、均一な熱膨張性を有する材料をモールドに使用する必要がある。
【0009】
特開2006−306674号公報(特許文献1)には、特に光ナノインプリント用モールド材料として低熱膨張材料を使用することが開示されている。しかし、より精密な微細パターンの転写を行うためには、モールド内の線熱膨張係数の分布を抑える必要がある。また、熱ナノインプリント用モールド材料としては、より広温度域での低熱膨張性が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−306674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、ナノインプリント技術において、微細パターン転写時の温度変化による変形を抑制できる材料で形成されたモールド用チタニアドープ石英ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、0〜250℃における線熱膨張係数が−300〜300ppb/℃の範囲にあるチタニアドープ石英ガラスをナノインプリントモールドとして使用することにより、微細パターン転写時のモールドの温度変化による変形を抑制でき、かつ上記チタニアドープ石英ガラスのモールド内での25℃における線熱膨張係数分布が100ppb/℃以下であることにより、位置精度の高い微細パターンの転写が光ナノインプリント、熱ナノインプリント双方で可能になることを見出し、本発明をなすに至った。
【0013】
即ち、本発明は、以下のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラスを提供する。
(1)直接火炎加水分解法により得られ、0〜250℃における線熱膨張係数が−300〜300ppb/℃の範囲内であって、25℃における線熱膨張係数分布が100ppb/℃以下であるナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
0〜250℃における線熱膨張係数が−300〜300ppb/℃の範囲内であって、25℃における線熱膨張係数分布が100ppb/℃以下であるナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
(2)チタニアドープ石英ガラスのチタニア含有量が、5〜12質量%であることを特徴とする(1)記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
(3)チタニアドープ石英ガラスのチタニアの濃度分布が、3質量%以下であることを特徴とする(1)又は(2)記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
(4)チタニアドープ石英ガラスが、内包物を含まないことを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
(5)チタニアドープ石英ガラスが、フッ素を含有することを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
(6)チタニアドープ石英ガラスの仮想温度が、1200℃以下であることを特徴とする(1)乃至(5)のいずれかに記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
(7)チタニアドープ石英ガラスの塩素濃度が、500ppm以下であることを特徴とする(1)乃至(6)のいずれかに記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
(8)チタニアドープ石英ガラスのOH基濃度が、1000ppm以下であることを特徴とする(1)乃至(7)のいずれかに記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、微細パターン転写時のモールドの温度変化による変形を抑制することができ、位置精度の高いナノインプリントによる微細パターンの転写が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1、2及び比較例1で得られたインゴットのサンプルを示す断面図である。
【図2】実施例1、2及び比較例1で得られたインゴットのサンプルを示す他の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラスは、0〜250℃における線熱膨張係数が−300〜300ppb/℃の範囲内であって、25℃における線熱膨張係数分布が100ppb/℃以下であり、本発明のチタニアドープ石英ガラスは、位置精度の高い微細パターンを転写するナノインプリントモールド用材料として好適である。より好ましくは、0〜250℃における線熱膨張係数が−200〜200ppb/℃の範囲内であり、更に好ましくは0〜250℃における線熱膨張係数が−100〜100ppb/℃の範囲内である。また、特に20〜200℃における線熱膨張係数が上記範囲内であることが好ましい。線熱膨張係数が上記範囲を外れると熱膨張により安定したナノインプリントが期待できない。
【0017】
25℃における線熱膨張係数分布は、100ppb/℃以下であり、75ppb/℃以下がより好ましく、更に好ましくは50ppb/℃以下である。線熱膨張係数分布が大きすぎるとモールド内での熱膨張の原因となり、安定したナノインプリントが期待できない。線熱膨張係数分布の下限値は特に制限されないが、通常0.5ppb/℃以上、特に1ppb/℃以上である。
【0018】
本発明のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラスは、チタニアを5〜12質量%含有することが好ましい。チタニアを5〜12質量%含有することにより、0〜250℃において−300〜300ppb/℃の線熱膨張係数を有する石英ガラスが得られるからである。より好ましくはチタニア濃度が6〜10質量%である。
【0019】
また、モールド内のチタニア濃度は均一であることが好ましく、チタニア濃度分布が3質量%を超えると、25℃における線熱膨張係数分布を100ppb/℃以内に抑えることが期待できない場合がある。より好ましくはチタニア濃度分布が1.5質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下である。チタニア濃度分布の下限値は特に制限されず、0質量%であることが最も好ましいが、実用上0質量%にするのは困難であり、通常0.01質量%以上である。
【0020】
光ナノインプリントにおいて、モールド内に内包物が存在する場合には適切なナノインプリントが阻害されるおそれがある。内包物によって樹脂を反応させる紫外光が吸収又は散乱されるためである。そこで、本発明のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラスは内包物を含まないものを使用することが好ましい。なお、本発明における内包物とは、チタニアを含有した石英ガラス相以外の例えば気泡、TiO2結晶相、SiO2結晶相といった異物を総称する。
【0021】
本発明のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラスは、フッ素を0.1質量%以上含有するものが望ましい。フッ素を含有することで、より広い温度域でチタニアドープ石英ガラスを低膨張化することができるため、特に熱ナノインプリントモールド用として好適なものとなる。より好ましくはフッ素濃度が0.25質量%以上であり、更に好ましくは0.5質量%以上である。また、フッ素をドープすることで、樹脂とモールドの離型が容易になることにおいても有利である。フッ素濃度の上限値は特に制限されないが、5質量%以下が好ましく、より好ましくは3質量%以下である。
【0022】
更に広い温度域でチタニアドープ石英ガラスの低膨張化を実現できるため、本発明のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラスの仮想温度は、1200℃以下に抑えることが有効である。より好ましくは1150℃以下、更に好ましくは1100℃以下である。仮想温度の下限値も特に制限されないが、一般的には500℃以上、特に600℃以上であることが好ましい。仮想温度が高すぎるとフッ素をドープすることのみでは、所定の温度域で低熱膨張化が期待できない場合がある。
【0023】
チタニアドープ石英ガラスの合成においては、原料として塩素を含有する化合物を使用する場合がある。この場合、合成されたチタニアドープ石英ガラス中に塩素が残留する。塩素は325nm付近に吸収を有するため、モールドにプレスした樹脂を硬化させる光源として、低圧水銀ランプなどの近紫外域の光源を使用する光ナノインプリントにおいては、塩素の存在が問題となる。また、塩素によってモールドに吸収された近紫外光は、熱に転化されるため、モールドの温度を上昇させる。よって、モールドとして使用されるチタニアドープ石英ガラスは、塩素が少ないものが望ましい。本発明のチタニアドープ石英ガラスの塩素濃度は500ppm以下であることが好ましく、より好ましくは250ppm以下である。塩素濃度の下限値は特に制限されないが、一般的な分析方法である蛍光X線分光法の検出限界(10ppm)以下である。

【0024】
更に、本発明のチタニアドープ石英ガラスのOH基濃度は、1000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは700ppm以下である。石英ガラス中のOH基濃度を低減することにより、樹脂とモールドの離型が容易になるからである。OH基濃度の下限値も特に制限されず、通常1ppm以上、特に5ppm以上である。
【0025】
上述した本発明のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラスの特性は、以下の方法で測定することができる。
【0026】
モールド材料の線熱膨張係数の測定は、NETZSCH社製精密熱膨張計を使用することができ、直径4.0mm×長さ25mmの円柱状サンプルで測定することができる。このようなモールド材料から形成されたモールドは、同様の線熱膨張係数を有する。
【0027】
石英ガラス中のチタニア濃度及びフッ素濃度は、EPMA(Electron Probe Micro Analysis)法によって測定できる。
【0028】
石英ガラスの仮想温度は、赤外分光光度計により、Journal of Non−Crystalline Solids 185(1995)191.に記載された方法及び検量線に従い、2260cm-1付近のピークから測定できる。
【0029】
塩素濃度は、蛍光X線分光法よって測定することができる。
【0030】
OH基濃度は、赤外分光光度計で測定することができる。具体的にはフーリエ変換赤外分光光度計にて波数4522cm-1の吸光係数より求めることができ、換算式として
OH基濃度(ppm)={(4522cm-1における吸光係数)/T}×4400
を用いることができる。但し、Tは測定サンプルの厚さ(cm)である。
【0031】
本発明のチタニアドープ石英ガラスの製造方法は、上記特性を備えた石英ガラスが得られる限り特に制限されないが、例えば、四塩化ケイ素やトリクロロメチルシラン、四塩化チタンといった原料を酸水素火炎で加水分解し、直接チタニアドープ石英ガラスを作製する火炎加水分解法又は原料を酸水素炎で加水分解し、チタニアをドープした多孔質シリカ母材を作製した後、ガラス化するVAD法に代表されるスート法、プラズマトーチによる原料ガスを酸化するプラズマトーチ法(ベルヌイ法)を採用することができる。
【0032】
チタニアドープ石英ガラス内のチタニア濃度分布を抑えるため、SiO2の原料ガスとTiO2の原料ガスを混合して同一のバーナーノズルから噴射することができる。この場合、SiO2原料ガスとTiO2原料ガスが反応しない物質を選択することが好ましい。それぞれの原料ガスを別個のバーナーノズルより噴射し、チタニアドープ石英ガラスを作製する場合には、チタニア濃度分布を低減することは困難だからである。
【0033】
また、チタニアドープ石英ガラス中に内包物を含ませないために、原料ガスを噴射するバーナーノズルの線速を50m/sec以上にすることが有効である。特に原料に四塩化チタンを使用した場合、反応性が高いために線速50m/sec以下の場合には、バーナーノズルの先端にチタニアが堆積しやすくなり、堆積したチタニアが飛散すると内包物の一因となりやすい。
【0034】
チタニアドープ石英ガラスを1200〜500℃まで徐冷することによって仮想温度を低減することができる。
【0035】
チタニアドープ石英ガラス中の塩素濃度を抑える観点から、スート法を採用することが好ましい。しかし、火炎加水分解法でも原料に塩素を含まない化合物又は塩素の含有量が少ない化合物を使用することが可能である。
【0036】
OH基濃度の少ないチタニアドープ石英ガラスを製造するためには、スート法又はプラズマトーチ法を採用することが好ましい。プラズマトーチ法は火炎加水分解法又はスート法と異なり、酸水素炎を使用しないため、OH基濃度の低い石英ガラスを製造することができる。一方、スート法でも多孔質シリカ母材をガラス化するときの加熱条件によって、OH基濃度を低減することができる。火炎加水分解法によりチタニアドープ石英ガラスを製造する場合には、原料フィード量1mol/hrあたり、2500kcal/hr以下の熱量に抑えることが好ましい(但し、化合物1分子中にそれぞれシリコン、チタン原子を1個含む原料を使用した場合である)。これ以上の熱量でチタニアドープ石英ガラスを製造すると多量のOH基濃度を含有してしまうからである。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0038】
[実施例1]
水素ガス31m3/hr、酸素ガス15m3/hrを石英製バーナーに供給した。原料としてのトリクロロメチルシラン及び四塩化チタンを加熱してそれぞれトリクロロメチルシラン1000g/hr、四塩化チタン100g/hrの速度で気化させて、混合した後に石英製バーナーに供給した。酸水素炎によるトリクロロメチルシラン、四塩化チタンの加水分解反応により生成したSiO2及びTiO2微粒子を、石英製バーナーの先方に設置した50rpmで回転しながら10mm/hrで後退するターゲット材に付着させることで、直径150mm、成長方向の長さ1000mmのチタニアドープ石英ガラスを製造した。この時、原料を噴射するバーナーノズルの線速は80m/sec、1時間当たりの熱量は11600kcal/molであった。
【0039】
得られたチタニアドープ石英ガラスを、電気炉にて155mm×155mm角柱状に1700℃で6時間加熱することにより熱間成型した。その後、大気中で1200℃、10時間保持してアニール後、700℃まで5℃/hrの速度で徐冷した。
【0040】
アニール−徐冷後のチタニアドープ石英ガラスを152.4mm×152.4mm角、厚さ100mm(インゴットA)に研削した。インゴットAの6面を研磨剤として酸化セリウムを使用して鏡面研磨した。20万ルクスの白色光源を使用して、鏡面研磨したチタニアドープ石英ガラス内を観察したが、内包物は見られなかった。
【0041】
次に、インゴットAの両端より図1に示した25点から線熱膨張係数測定用サンプル(4mmφ×25mm)を作製し、0〜250℃における線熱膨張係数を測定した。計50点の測定結果のうち、0〜250℃における線熱膨張係数の最大値と最小値を表1に示す。また、当該50点の25℃における線熱膨張係数の最大値と最小値も表1に示す。
【0042】
更に、残りのインゴットAの両端より152.4mm×152.4mm角、厚さ10mmで切り出し、チタニア濃度、フッ素濃度、仮想温度、OH基濃度及び塩素濃度を図2に示した25点においてそれぞれ測定した。測定した結果を表2に示す。
【0043】
得られたチタニアドープ石英ガラスは、0〜250℃における線熱膨張係数、25℃における線熱膨張係数分布、チタニア濃度、チタニア濃度分布、仮想温度とも良好であった。
【0044】
[実施例2]
水素ガス5.6m3/hr、酸素ガス8m3/hrを石英製バーナーに供給した。原料としての四塩化ケイ素及び四塩化チタンを加熱してそれぞれ四塩化ケイ素1000g/hr、四塩化チタン90g/hrの速度で気化させて、混合した後に石英製バーナーに供給し、酸水素炎による四塩化ケイ素、四塩化チタンの加水分解反応により生成したSiO2及びTiO2の微粒子を、石英製バーナーの先方に設置した50rpmで回転しながら10mm/hrで後退するターゲット材に付着させることで、チタニアドープの多孔質シリカ母材を製造した。
【0045】
当該チタニアドープの多孔質シリカ母材をヘリウムガス及び四フッ化ケイ素ガスからなる混合雰囲気下で1520℃に加熱により、透明ガラス化して直径150mm、成長方向の長さ1000mmのチタニアドープ石英ガラスを得た。
【0046】
得られたチタニアドープ石英ガラスを、電気炉にて155mm×155mm角柱状に1700℃で6時間加熱することにより熱間成型した。その後、大気中で1300℃、10時間保持してアニール後、700℃まで5℃/hrの速度で徐冷した。
【0047】
アニール−徐冷後のチタニアドープ石英ガラスを152.4mm×152.4mm角、厚さ100mm(インゴットB)に研削した。インゴットBの6面を研磨剤として酸化セリウムを使用して鏡面研磨した。20万ルクスの白色光源を使用して、鏡面研磨したチタニアドープ石英ガラス内を観察したが、内包物は見られなかった。
【0048】
次に、インゴットBの両端より図1に示した25点から線熱膨張係数測定用サンプル(4mmφ×25mm)を作製し、0〜250℃における線熱膨張係数を測定した。計50点の測定結果のうち、0〜250℃における線熱膨張係数の最大値と最小値を表1に示す。また、当該50点の25℃における線熱膨張係数の最大値と最小値も表1に示す。
【0049】
更に、残りのインゴットBの両端より152.4mm×152.4mm角、厚さ10mmで切り出し、チタニア濃度、フッ素濃度、仮想温度、OH基濃度及び塩素濃度を図2に示した25点においてそれぞれ測定した。測定した結果を表2に示す。
【0050】
得られたチタニアドープ石英ガラスは、25℃における線熱膨張係数分布、チタニア濃度、チタニア濃度分布、仮想温度とも良好であり、更に、フッ素を含有することで、より0〜250℃における線熱膨張係数の最大値と最小値の差が小さくなり、より広い温度域で低熱膨張化した。また、OH基濃度が低いことで、樹脂材料との離型が容易であり、ナノインプリントモールド用材料として好適なものが得られた。
【0051】
[比較例1]
水素ガス5.6m3/hr、酸素ガス8m3/hrを石英製バーナーに供給した。原料としての四塩化ケイ素及び四塩化チタンを加熱してそれぞれ四塩化ケイ素1000g/hr、四塩化チタン90g/hrの速度で気化させて、石英製バーナーの別々のノズルに供給し、酸水素炎による四塩化ケイ素、四塩化チタンの加水分解反応により生成したSiO2及びTiO2の微粒子を、石英製バーナーの先方に設置した50rpmで回転しながら10mm/hrで後退するターゲット材に付着させることで、チタニアドープの多孔質シリカ母材を製造した。
【0052】
当該チタニアドープの多孔質シリカ母材を、ヘリウムガス及び四フッ化ケイ素ガスからなる混合雰囲気下で1520℃に加熱により、透明ガラス化して直径150mm、成長方向の長さ1000mmのチタニアドープ石英ガラスインゴットを得た。
【0053】
得られたチタニアドープ石英ガラスインゴットを、電気炉にて155mm×155mm角柱状に1700℃で6時間加熱することにより熱間成型した。その後、大気中で1300℃、10時間保持してアニール後、700℃まで5℃/hrの速度で徐冷した。
【0054】
アニール−徐冷後のチタニアドープ石英ガラスを152.4mm×152.4mm角、厚さ100mm(インゴットC)に研削した。インゴットCの6面を研磨剤として酸化セリウムを使用して鏡面研磨した。20万ルクスの白色光源を使用して、鏡面研磨したチタニアドープ石英ガラス内を観察したが、内包物は見られなかった。
【0055】
次に、インゴットCの両端より図1に示した25点から線熱膨張係数測定用サンプル(4mmφ×25mm)を作製し、0〜250℃における線熱膨張係数を測定した。計50点の測定結果のうち、0〜250℃における線熱膨張係数の最大値と最小値を表1に示す。また、当該50点の25℃における線熱膨張係数の最大値と最小値も表1に示す。
【0056】
更に、残りのインゴットCの両端より152.4mm×152.4mm角、厚さ10mmで切り出し、チタニア濃度、フッ素濃度、仮想温度、OH基濃度及び塩素濃度を図2に示した25点においてそれぞれ測定した。測定した結果を表2に示す。
【0057】
得られたチタニアドープ石英ガラスはチタニア濃度の分布が大きく、0〜250℃における線熱膨張係数、25℃における線熱膨張係数の分布が大きい結果となった。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接火炎加水分解法により得られ、0〜250℃における線熱膨張係数が−300〜300ppb/℃の範囲内であって、25℃における線熱膨張係数分布が100ppb/℃以下であるナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
【請求項2】
チタニアドープ石英ガラスのチタニア含有量が、5〜12質量%であることを特徴とする請求項1記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
【請求項3】
チタニアドープ石英ガラスのチタニアの濃度分布が、3質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
【請求項4】
チタニアドープ石英ガラスが、内包物を含まないことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
【請求項5】
チタニアドープ石英ガラスが、フッ素を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
【請求項6】
チタニアドープ石英ガラスの仮想温度が、1200℃以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
【請求項7】
チタニアドープ石英ガラスの塩素濃度が、500ppm以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。
【請求項8】
チタニアドープ石英ガラスのOH基濃度が、1000ppm以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載のナノインプリントモールド用チタニアドープ石英ガラス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−51893(P2011−51893A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264462(P2010−264462)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【分割の表示】特願2007−150534(P2007−150534)の分割
【原出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】