説明

ナノインプリント方法およびそれに用いられるナノインプリント装置

【課題】メサ型のモールドおよび/または被加工基板を用いたナノインプリントにおいて、硬化性樹脂塗布面に対する均等な圧力による押し付けを実現し、残膜ムラの発生を抑制する。
【解決手段】ナノインプリント方法において、表面全体が直接雰囲気に暴露可能な状態にあるアセンブリ8を、雰囲気による流体圧力Pが実質的にアセンブリ8の表面全体に作用するように、圧力容器110内において支持部材140で支持しながら、圧力容器110内に気体を導入し、この気体の流体圧力Pによって、モールド1と被加工基板7とを互いに押し付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の凹凸パターンを表面に有するナノインプリント用のモールドを用いたナノインプリント方法およびそれに用いられるナノインプリント装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディスクリートトラックメディア(DTM)やビットパターンドメディア(BPM)等の磁気記録媒体、及び半導体デバイスの製造等において、被加工基板上に塗布された硬化性樹脂にナノインプリントを行うパターン転写技術の利用が期待されている。
【0003】
ナノインプリントは、光ディスク製作では良く知られているエンボス技術を発展させたパターン形成技術である。具体的には、ナノインプリントは、凹凸パターンを形成した型(一般的にモールド、スタンパ、テンプレートとも呼ばれる)を被加工基板上に塗布された硬化性樹脂に押し付け、硬化性樹脂を力学的に変形または流動させて微細なパターンを精密に転写する技術である。モールドを一度作製すれば、ナノレベルの微細構造を簡単に繰り返して成型できるため経済的であるとともに、有害な廃棄物および排出物が少ない転写技術であるため、近年、さまざまな分野へも応用が期待されている。
【0004】
ナノインプリントにおいては、塗布された硬化性樹脂にモールドを押し付ける際に、硬化性樹脂塗布面に対して均等な圧力で押し付けることが重要であり、更なる微細化が進むにつれてその重要性は増している。圧力が均等でない場合、モールドの横ズレや回転ずれによってパターン転写の位置ずれが生じる要因となり、またモールドの凹凸パターンの破損に繋がる場合があるためである。
【0005】
そこで、例えば特許文献1は、図11に示すように、柔軟な封止カバー9を用いて、微細な凹凸パターンを表面に有するモールド5、および硬化性樹脂6が塗布された被加工基板7を、凹凸パターンを硬化性樹脂6に当てた状態で封止カバー9に入れて封止し、モールド5、硬化性樹脂6および被加工基板7から構成されたアセンブリ8を流体圧力に封止カバー9を介して曝すことにより、流体圧力の等方性を利用して均等な圧力でモールド5と被加工基板7とを互いに押し付ける方法を開示している。
【0006】
一方、上記のようなナノインプリントは通常、全面にわたって平坦な基板の表面に凹凸パターンが形成されたモールドを使用して実施されている。しかしながら、上記のようなモールドを使用した場合には、凹凸パターンが形成された面の全面が硬化性樹脂と密着してしまい剥離性(モールドの剥離のしやすさ)が低下する、凹凸パターンが形成された面の全面にわたって硬化性樹脂が流動するため硬化性樹脂の流動範囲を制限できない、といった問題が生じていた。
【0007】
そこで、例えば特許文献2に示されるように、近年、メサ型のモールドを使用したナノインプリントの開発が進められている。メサ型のモールドとは、例えば図12A〜図12Cに示すような台地(メサ)状の構造を有するようなモールド1および2をいう。図12Aはメサ型モールドの一形態を示す概略斜視図であり、図12Bは図12AにおけるA−A線での断面を示す概略切断部端面図であり、図12Cはメサ型モールドの他の形態の断面を示す概略切断部端面図である。具体的には、図12Aおよび図12Bに示すメサ型のモールド1(または、図12Cに示すメサ型モールド2)は、平板状の支持部11(21)と、この支持部11(21)の一面S1(基準面)にありかつこの基準面S1から所定の高さD2を有する台地状のメサ部12(22)とを備え、このメサ部12(22)が、微細な凹凸パターン13(23)が形成された凹凸パターン領域R1を有するような構造をなす。このようなメサ型のモールドを使用した場合には、被加工基板上に塗布された硬化性樹脂にモールドを押し付けた際に、硬化性樹脂の流動範囲を制限できるため、上記のような問題が解決される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3987795号公報
【特許文献2】特開2009−170773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、メサ型のモールドを用いたナノインプリントにおいても硬化性樹脂塗布面に対する均等な圧力による押し付けが重要であるところ、このようなナノインプリントに対して特許文献1に開示されている上記の方法を適用したとしても、均等な圧力でモールドと被加工基板とを互いに押し付けることができないという問題がある。これは、図13に示すように、メサ型モールド1のフランジ部15(支持部11のメサ部12がない部分)および被加工基板7の上記フランジ部15に対向する部分に一方向から流体圧力がかかることにより、モールド1および被加工基板7が湾曲して、硬化性樹脂塗布面とメサ部との間に圧力分布が生じるためである。このような圧力分布は、残膜ムラ(残膜の厚さのムラ)が生じる要因となる。
【0010】
また、上記のような問題は、被加工基板がメサ部を有する場合にも同様である。
【0011】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、メサ型のモールドおよび/または被加工基板を用いたナノインプリントにおいて、硬化性樹脂塗布面に対する均等な圧力による押し付けを実現し、残膜ムラの発生を抑制することを可能とするナノインプリント方法およびそれに用いられるナノインプリント装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係るナノインプリント方法は、
微細な凹凸パターンを表面に有するモールドおよび硬化性樹脂塗布面を有する被加工基板であって、凹凸パターンもしくは硬化性樹脂塗布面が形成されたメサ部をモールドおよび被加工基板の少なくとも一方が有するものを用い、
凹凸パターンと硬化性樹脂塗布面上に塗布された硬化性樹脂とを接着せしめて、モールド、硬化性樹脂および被加工基板から構成されるアセンブリを形成し、
表面全体が直接雰囲気に暴露可能な状態にあるアセンブリを、雰囲気による流体圧力が実質的にアセンブリの表面全体に作用するように、圧力容器内において支持部材で支持しながら、圧力容器内に気体を導入し、
この気体の流体圧力によって、モールドと被加工基板とを互いに押し付け、その後モールドと被加工基板とを剥離することを特徴とするものである。
【0013】
本明細書において、モールドおよび被加工基板に関し、「凹凸パターンもしくは硬化性樹脂塗布面が形成されたメサ部をモールドおよび被加工基板の少なくとも一方が有する」とは、モールドおよび被加工基板の少なくとも一方がメサ部を有し、かつ、モールドがメサ部を有する場合には当該メサ部上に凹凸パターンが形成されており、一方被加工基板がメサ部を有する場合には当該メサ部上に硬化性樹脂塗布面が形成されていることを意味する。
【0014】
アセンブリに関し「表面全体が直接雰囲気に暴露可能な状態にある」とは、アセンブリが、支持部材によって支持されていない状態を考えた場合において、アセンブリの全体或いはその一部が封止されておらず、当該アセンブリの表面(つまり、モールドと硬化性樹脂との接着面、硬化性樹脂と被加工基板との接着面、および、凹凸パターンと硬化性樹脂とによって形成される閉じられた空間を規定する面を除いた、モールド、硬化性樹脂および被加工基板の表面)全体を雰囲気に暴露することができる状態にあることを意味する。したがって、アセンブリを圧力容器内で実際に支持している段階においては、アセンブリと支持部材との接触点または接触面においてアセンブリの一部が雰囲気に暴露されない状態になることは許容される。
【0015】
「実質的にアセンブリの表面全体に作用するように」とは、アセンブリの大きさに対して比較的微小な領域(例えば点や線)でアセンブリと支持部材とが接触していることを意味する。
【0016】
そして、本発明に係るナノインプリント方法において、アセンブリのうち凹凸パターンに対応した部分であるパターン対応部以外の部分のみを支持部材で支持して、アセンブリを支持することが好ましい。
【0017】
本明細書において「パターン対応部」とは、アセンブリの所定の一部分であって、平面視(硬化性樹脂塗布面に垂直な方向からの視点)において、凹凸パターンが形成されている領域と投影範囲が共通する部分を意味する。
【0018】
そして、本発明に係るナノインプリント方法において、支持部材はリング形状であり、リング形状の内周の内側にパターン対応部が位置するように、パターン対応部以外の部分を支持部材で支持することが好ましい。
【0019】
本明細書において「リング形状」とは、リングが一部で断線したような形状も含む意味である。
【0020】
或いは、本発明に係るナノインプリント方法において、支持部材は3つ以上の突起部から構成されるものであり、パターン対応部以外の部分を3つ以上の突起部で支持することが好ましい。
【0021】
そして、本発明に係るナノインプリント方法において、モールドおよび被加工基板のいずれかのみを支持部材で支持して、アセンブリを支持することが好ましい。
【0022】
そして、本発明に係るナノインプリント方法において、流体圧力は0.1〜5MPaであることが好ましい。
【0023】
そして、本発明に係るナノインプリント方法において、硬化性樹脂の塗布時の厚さが被加工基板の表面高低差以上となるように、硬化性樹脂を塗布することが好ましい。
【0024】
本明細書において「表面高低差」とは、被加工基板の表面のうねりにより生じる、高い所と低い所との相対的な高さの差を表す指標を意味する。
【0025】
そして、本発明に係るナノインプリント方法において、硬化性樹脂を加熱しながらモールドと被加工基板とを剥離することが好ましい。
【0026】
さらに、本発明に係るナノインプリント装置は、
上記に記載のナノインプリント方法に使用されるナノインプリント装置であって、
微細な凹凸パターンを表面に有するモールドと、硬化性樹脂塗布面を有する被加工基板と、硬化性樹脂とから構成され、かつ凹凸パターンと硬化性樹脂塗布面上に塗布された硬化性樹脂とを接着せしめて形成されたアセンブリが収容され、気体が充満される圧力容器と、
圧力容器内に設けられた支持部材であって、表面全体が直接雰囲気に暴露可能な状態にあるアセンブリを、雰囲気による流体圧力が実質的にアセンブリの表面全体に作用するように圧力容器内で支持する支持部材と、
圧力容器に接続された、圧力容器内に気体を導入する気体導入手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0027】
そして、本発明に係るナノインプリント装置において、支持部材は、アセンブリのうち凹凸パターンに対応した部分であるパターン対応部以外の部分のみを支持するものであることが好ましい。
【0028】
そして、本発明に係るナノインプリント装置において、支持部材はリング形状であることが好ましく、或いは、3つ以上の突起部から構成されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係るナノインプリント方法は、特に、表面全体が直接雰囲気に暴露可能な状態にあるアセンブリを、雰囲気による流体圧力が実質的にアセンブリの表面全体に作用するように、圧力容器内において支持部材で支持しながら、圧力容器内に気体を導入し、この気体の流体圧力によって、モールドと被加工基板とを互いに押し付けることを特徴とする。これによりモールドのフランジ部、および被加工基板の上記フランジ部に対向する部分に、均等な流体圧力がかかることにより、モールドおよび被加工基板が湾曲することを防止することができる。そして、メサ型のモールドおよび/または被加工基板を用いたナノインプリントにおいて、硬化性樹脂塗布面に対する均等な圧力による押し付けが実現でき、残膜ムラの発生を抑制することが可能となる。
【0030】
また、本発明に係るナノインプリント装置は、微細な凹凸パターンを表面に有するモールドと、硬化性樹脂塗布面を有する被加工基板と、硬化性樹脂とから構成され、かつ凹凸パターンと硬化性樹脂塗布面上に塗布された硬化性樹脂とを接着せしめて形成されたアセンブリが収容され、気体が充満される圧力容器と、圧力容器内に設けられた支持部材であって、表面全体が直接雰囲気に暴露可能な状態にあるアセンブリを、雰囲気による流体圧力が実質的にアセンブリの表面全体に作用するように圧力容器内で支持する支持部材と、圧力容器に接続された、圧力容器内に気体を導入する気体導入手段とを備えたことを特徴とする。したがって、上記ナノインプリント方法を実施することが可能となり、そして、メサ型のモールドおよび/または被加工基板を用いたナノインプリントにおいて、硬化性樹脂塗布面に対する均等な圧力による押し付けが実現でき、残膜ムラの発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のナノインプリント装置の一実施形態を示す概略切断部端面図である。
【図2A】本発明のナノインプリント装置における被加工基板の設置台の一実施形態を示す概略平面図である。
【図2B】本発明のナノインプリント装置における被加工基板の設置台の他の実施形態を示す概略平面図である。
【図2C】本発明のナノインプリント装置におけるモールドの支持部材の一実施形態を示す概略平面図である。
【図3A】本発明のナノインプリント方法の一実施形態の工程を示す概略切断部端面図である。
【図3B】本発明のナノインプリント方法の一実施形態の工程を示す概略切断部端面図である。
【図4】本発明において、アセンブリに流体圧力が作用する様子を示す概略切断部端面図である。
【図5】本発明のナノインプリント装置における被加工基板の設置台の他の実施形態を示す概略平面図である。
【図6A】一実施形態の接着機構を備えた設置台を用いて、モールドと硬化性樹脂が塗布された被加工基板とを接着させる様子を示す概略切断部端面図である。
【図6B】他の実施形態の接着機構を備えた設置台を用いて、モールドと硬化性樹脂が塗布された被加工基板とを接着させる様子を示す概略切断部端面図である。
【図7】本発明のナノインプリント装置の他の実施形態を示す概略切断部端面図である。
【図8A】本発明のナノインプリント方法の他の実施形態の工程を示す概略切断部端面図である。
【図8B】本発明のナノインプリント方法の他の実施形態の工程を示す概略切断部端面図である。
【図9】本発明のナノインプリント装置の他の実施形態を示す概略切断部端面図である。
【図10】本発明のナノインプリント装置におけるモールドの支持部材の他の実施形態を示す概略底面図である。
【図11】通常のモールド、硬化性樹脂および被加工基板からなるアセンブリを封止カバーで封止し、流体圧力でナノインプリントを行う様子を示す概略切断部端面図である。
【図12A】メサ型モールドの一形態を示す概略斜視図である。
【図12B】図12AにおけるA−A線での断面を示す概略切断部端面図である。
【図12C】メサ型モールドの他の形態の断面を示す概略切断部端面図である。
【図13】メサ型のモールド、硬化性樹脂および被加工基板からなるアセンブリを封止カバーで封止し、流体圧力でナノインプリントを行う様子を示す概略切断部端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。なお、視認しやすくするため、図面中の各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0033】
「第1の実施形態」
(ナノインプリント装置)
まず、本実施形態のナノインプリント方法を実施するためのナノインプリント装置について説明する。本実施形態のナノインプリント方法は、図1に示すようなナノインプリント装置100を用いて実施される。図1に示すナノインプリント装置100は、圧力容器110、この圧力容器110に気体を導入する気体導入部120、この圧力容器110内を排気する排気部130、被加工基板7を支持する基板支持部材140を備えた被加工基板7を設置する設置台145、モールド1を支持するモールド支持部材150、凹凸パターンの位置合わせを行うための受光デバイス161、および、光硬化性樹脂を露光するための露光光源162を備えている。なお、図1には、微細な凹凸パターン13を表面に有するモールド1、および光硬化性樹脂塗布面に光硬化性樹脂6が塗布された被加工基板7も示している。アセンブリは、モールド1、および光硬化性樹脂6が塗布された被加工基板7を用いて、凹凸パターン13と光硬化性樹脂6とを接着せしめて形成される。
【0034】
(メサ型のモールド)
モールド1は、本実施形態では図12AおよびBに示すようなメサ型構造を有する。このようなメサ型のモールド1は、例えば、平板状の基板にメサ加工(メサ部を残すようにその周囲の基板材料を除去する加工)を施し、その後メサ部の表面に凹凸パターンを形成することにより製造することができる。例えば、凹凸パターン形成方法は下記の通りである。メサ加工されたSi基材上に、スピンコートによりPMMA(polymenthyl methacrylate)などを主成分とするフォトレジスト液を塗布し、フォトレジスト層を形成する。その後、Si基材をXYステージ上で走査しながら、所定のラインパターンに対応して変調した電子ビームを照射し、10mm角の範囲のフォトレジスト層全面に凹凸パターンを露光する。その後、フォトレジスト層を現像処理し、露光部分を除去して、除去後のフォトレジスト層のパターンをマスクにして所定の溝深さになるようにエッチングを行い、凹凸パターンを有するSiモールドを製造することができる。また、メサ部12の凹凸パターン領域以外の領域R2には、アライメントマーク等の転写用のパターン以外のパターンを形成することができる。
【0035】
モールド1の材料として、石英基板を用いてもよい。石英基板に微細パターンを加工する場合は、基板加工時のマスクとして金属層とフォトレジスト層の積層構造にする必要がある。石英基板の加工法は例えば以下に示す通りである。フォトレジスト層をマスクにして、ドライエッチングを行い、フォトレジスト層に形成された凹凸パターンに対応した凹凸パターンを当該金属層に形成し、その金属薄層をエッチストップ層にして石英基板にさらにドライエッチングを行い、凹凸パターンを石英基板上に形成する。これにより、所定のパターンを有する石英モールドを得る。また、パターン形成法として、電子ビーム描画だけでなく、インプリントによるパターン転写を行ってもよい。
【0036】
さらにモールド1は、モールドと光硬化性樹脂とを互いに剥離する剥離処理を容易にするため、その表面に離型処理を行ったものを用いてもよい。このような離型処理は、シリコーン系やフッ素系などのシランカップリング剤を用いて実施される。シランカップリング剤としては、例えばダイキン工業株式会社製のオプツールDSXおよび住友スリーエム株式会社製のNovec EGC-1720が挙げられる。またその他市販の離型剤も好適に用いることができる。
【0037】
モールド1および2において、平板状の基板がメサ加工されることにより、支持部11およびメサ部12は一体的に形成されている。モールド1の材料は、上記に挙げた石英の他、例えばシリコン、ニッケル、アルミニウム、クロム、鉄、タンタルおよびタングステン等の金属材料、それらの酸化物、窒化物および炭化物、並びに樹脂とすることができる。具体的には、モールド1の材料としては、酸化シリコン、酸化アルミニウム、石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラスおよびソーダガラス等を挙げることができる。図1に示される本実施形態では特に、モールド1を通して露光する実施形態であるため、モールド1の材料は光透過性材料である。被加工基板7側から露光する場合、モールド1の材料は光透過性材料である必要はない。
【0038】
支持部11および21の厚さD1は、300μm〜10mmであり、より好ましくは350μm〜1mmであり、特に好ましくは400〜500μmである。厚さD1が、300μmよりも薄いと剥離処理の際にモールドが破断する恐れがあるためであり、10mmよりも厚いと流体圧力に従うような柔軟性が喪失されるためである。また、メサ部12および22の厚さD2は、100nm〜10mmであり、より好ましくは1〜500μmであり、特に好ましくは10〜50μmである。メサ型のモールドを用いてステップアンドリピート方式でナノインプリントを行う場合、メサ部12および22の厚さD2は、形成された光硬化性樹脂パターンより高い必要がある。ナノインプリントプロセスで線幅が数十nmである光硬化性樹脂パターンを形成する場合、残膜と光硬化性樹脂パターンの凸部とを合わせた高さが一般的に100nm程度であることを考慮し、上記厚さD2の下限を100nmとした。一方、厚さD2が厚すぎると流体圧力に従うような柔軟性が喪失されるため、上記厚さD2の上限を10mmとした。
【0039】
(被加工基板)
被加工基板7は、モールド1が光透過性を有する場合、その形状、構造、大きさ、材質等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。被加工基板7のパターン転写の対象となる面が光硬化性樹脂塗布面となる。例えば被加工基板7が情報記録媒体の製造向けのものである場合には、被加工基板7の形状は通常円板状である。構造としては、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。材質としては、基板材料として公知のものの中から、適宜選択することができ、例えば、シリコン、ニッケル、アルミニウム、ガラス、樹脂、などが挙げられる。これらの基板材料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。被加工基板の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましい。被加工基板の厚みが0.05mm未満であると、被加工基板7とモールド1との接着時に基板側に撓みが発生し、均一な接着状態を確保できない可能性がある。一方、モールド1が光透過性を有しない場合は、光硬化性樹脂の露光を可能とするために石英基板を用いる。石英基板は、光透過性を有し、厚みが0.3mm以上であれば、特に制限されることなく、目的に応じて適宜選択される。石英基板は例えばシランカップリング剤で被覆したものを用いてもよい。また石英基板はその表面上にCr、W、Ti、Ni、Ag、Pt、Auなどからなる金属層および/またはCrO、WO、TiOなどからなる金属酸化膜層を積層したものを用いてもよい。また石英基板は上記積層体の表面をシランカップリング剤で被覆したものを用いてもよい。石英基板の厚みは、通常0.3mm以上が好ましい。0.3mm以下では、ハンドリングやインプリント中の押圧で破損しやすい。
【0040】
(凹凸パターン)
凹凸パターン13の形状は、特に限定されず、ナノインプリントの用途に応じて適宜選択される。例えば典型的なパターンとして図12Bに示すようなライン&スペースパターンである。そして、ライン&スペースパターンのラインの長さ、ラインの幅、ライン同士の間隔(スペースの幅)およびスペース底面からのラインの高さは適宜設定される。例えば、ラインの幅は10〜100nm、より好ましくは20〜70nmであり、ライン同士の間隔は10〜500nm、より好ましくは20〜100nmであり、ラインの高さ(スペースの深さ)は10〜500nm、より好ましくは30〜100nmである。
【0041】
(圧力容器)
圧力容器110は、容器本体111と蓋112とからなる。容器本体111は、気体導入部120から気体を導入するための導入口と、排気部130によって排気を行うための排気口とを備え、導入口および排気口はそれぞれ気体導入部120と排気部130とに接続されている。蓋112は、蓋112を閉じた状態で位置合わせや露光を行えるようにガラス窓113を備える。しかし、ガラス窓113は、蓋112を開けた状態で位置合わせや露光を行う場合には不要である。
【0042】
(気体導入手段)
気体導入部120は、例えば、気体の導入管121、バルブ122および導入管121の他端に接続された気体導入源(図示省略)等から構成され、排気部130は、例えば、排気管131、バルブ132および排気用のポンプ(図示省略)等から構成される。導入する気体としては、空気や不活性気体を挙げることができる。不活性気体としては、N、He、Ar等を挙げることができる。本実施形態において、気体導入部120および排気部130が、本発明における気体導入手段として機能している。
【0043】
(被加工基板の設置台と基板支持部材)
設置台145は、被加工基板7を設置するためのものである。設置台145は、モールド1の凹凸パターンとの位置合わせが可能となるように、x方向(図1における左右方向)、y方向(図1における紙面垂直方向)、z方向(図1における上下方向)およびθ方向(z方向の軸を中心とした回転方向)に移動可能(本明細書において回転も含む)となっている。また、設置台145は、z方向に移動可能な基板支持部材140を備える。基板支持部材140は、設置台145に置かれた被加工基板7を設置台145から離して持ち上げる際、およびアセンブリを支持する際に使用される。設置台145は、被加工基板7を吸着固定するための吸着口や被加工基板7を加熱するための加熱器を備えるように構成することもできる。
【0044】
図2Aは、平面視(z方向下向きの視点)における本実施形態の被加工基板7の設置台145を示す概略平面図であり、図2Bは、平面視における設置台145の他の実施形態を示す概略平面図である。
【0045】
図2Aに示された設置台145は、複数(本実施形態では4つ)のドット状の突起部から構成される基板支持部材140および吸着口146を備える。ドット状の突起部は、表面全体が直接雰囲気に暴露可能な状態にあるアセンブリ8を、雰囲気による流体圧力が実質的にアセンブリ8の表面全体に作用するように圧力容器110内で支持することを可能とするため、アセンブリ8との接触面が小さくなるように構成することが好ましい。具体的には、ドット状の突起部の先端形状に曲率を持たせることにより、限りなく点で接触するように構成する。接触面の面積が大きくなると、その分だけ流体圧力以外の外力がアセンブリ8に働くことになり、アセンブリ8が変形しやすくなるためである。ドット状の突起部の個数は、特に限定されないが、8個であることが好ましく、6個であることがより好ましく、3個であることが特に好ましい。
【0046】
一方、図2Bに示された設置台145は、リングを形成するようなライン状の突起部から構成される基板支持部材140および吸着口146を備える。図2Bでは、基板支持部材140は断線したリング形状となっているが完全なリング形状であってもよい。ライン状の突起部も、上記同様に、表面全体が直接雰囲気に暴露可能な状態にあるアセンブリ8を、雰囲気による流体圧力が実質的にアセンブリ8の表面全体に作用するように圧力容器110内で支持することを可能とするため、アセンブリ8との接触面が小さくなるように構成することが好ましい。この場合にも、ライン状の突起部の先端形状に曲率を持たせることにより、限りなく線で接触するように構成する。ライン状の突起部は1つのリング形状が形成できるような程度の個数あれば充分である。
【0047】
突起部は、アセンブリ8のパターン対応部以外の部分のみを支持するように配置されることが好ましい。例えば、図2Aに示すような基板支持部材140の場合、複数の突起部から構成される基板支持部材140は、当該複数の突起部がパターン対応部の周りに均等に配置され、かつパターン対応部以外の部分でアセンブリ8を支持するように配置される。図2Bに示すような基板支持部材140の場合、リング形状の基板支持部材140は、当該リング形状の内周の内側にパターン対応部が位置するように、パターン対応部以外の部分でアセンブリ8を支持するように配置される。パターン対応部に流体圧力以外の外力を与えないようにするためである。
【0048】
(モールド支持部材)
モールド支持部材150は、圧力容器110内で、設置台145に置かれた被加工基板7に対向してモールド1を支持するものである。図2Cは、平面視におけるモールド支持部材150の一実施形態を示す概略平面図である。本実施形態におけるモールド支持部材150は、図2Cに示されるように、リング部151および支柱部152から構成される。リング部151は、一部が断線したような形状であってもよい。
【0049】
(受光デバイス)
受光デバイス161は、モールド1がモールド支持部材150に支持され、光硬化性樹脂6が光硬化性樹脂塗布面に塗布された被加工基板7が設置台145に設置された状態で、凹凸パターンと被加工基板7との位置合わせを行う際に使用される。つまり、受光デバイス161で凹凸パターン13を観察しながら、蓋112を開けた状態でもしくはガラス窓113を通して、xyzθ方向に移動可能な設置台145を調節することにより位置合わせが実施される。受光デバイス161も、装置の操作性の観点からxyzθ方向に移動させることができるように構成される。受光デバイス161としては、CCDを搭載した光学顕微鏡を使用することができる。光学顕微鏡は、例えば株式会社キーエンス製のデジタルマイクロスコープ(型番 VH−5500シリーズ)を使用することができる。
【0050】
(露光光源)
露光光源162は、光硬化性樹脂6を露光するために使用される。露光光源162も、装置の操作性の観点からxyzθ方向に移動させることができるように構成される。露光光源162としては、例えばセン特殊光源株式会社製の波長300nm〜700nmの光源を使用することができる。
【0051】
(ナノインプリント方法)
図3AおよびBは、本実施形態のナノインプリント方法の工程を示す概略切断部端面図である。図3AおよびBは、装置の駆動手順を分かりやすくするために、図1のナノインプリント装置100のうち、設置台145およびモールド支持部材150、並びにこれらを用いた手順の説明に必要な部分のみを示す。
【0052】
本実施形態のナノインプリント方法は、以下の通りである。まず、圧力容器110の蓋112を開け、光硬化性樹脂6が光硬化性樹脂塗布面に塗布された被加工基板7を設置台145に設置し、凹凸パターン13が光硬化性樹脂6に対向するようにモールド1をモールド支持部材150に設置する(図3Aa)。そして、受光デバイス161を用いて凹凸パターンの被加工基板7上での位置合わせを行う。そして、圧力容器110の蓋112を閉め、圧力容器110内を排気部130によって排気する。この時、圧力容器110の蓋112を閉めた後、Heを圧力容器110内に導入してもよい。そして、光硬化性樹脂6がモールド1の凹凸パターン13に適度に接着するまで設置台145をz方向上向きに移動させて、モールド1、光硬化性樹脂6および被加工基板7から構成されるアセンブリ8を形成する(図3Ab)。この際、モールド1の凹凸パターン13内に光硬化性樹脂6が完全には充填されておらず、一部で未充填箇所を伴っている。また、このアセンブリ8は、モールド1、光硬化性樹脂6および被加工基板7が単に組み合わされたままの状態であるから、表面全体が直接雰囲気に暴露可能な状態である。その後、さらにアセンブリ8をz方向上向きに持ち上げるように基板支持部材140を移動させる(図3Ac)。これにより、モールド1はモールド支持部材150から離れ、アセンブリ8は基板支持部材140のみによって支持された状態となる。基板支持部材140は4つのドット状の突起部のみから構成されており、突起部とアセンブリ8との接触面は極微細であるから、アセンブリ8は、雰囲気による流体圧力が実質的にアセンブリ8の表面全体に作用するように支持されることとなる。そして、雰囲気による流体圧力が実質的にアセンブリ8の表面全体に作用するようにアセンブリ8が支持されている状態で、気体導入部120から気体を導入する。この結果、モールド1および被加工基板7は、この気体による流体圧力の作用により互いに押し付けられ、凹凸パターン内に光硬化性樹脂6が完全に充填される(図3Bd)。そして、アセンブリ8中の光硬化性樹脂6に紫外光を照射して、光硬化性樹脂6を硬化させる。光硬化性樹脂6への転写および露光が終了したら、基板支持部材140を設置台145に収納する(図3Be)。このとき、アセンブリ8はモールド支持部材150および設置台145によって支持される。そして、設置台145によって被加工基板7の裏面(光硬化性樹脂塗布面の反対側)を吸着固定する。最後に、被加工基板7を吸着固定しまま、設置台145をz方向下向きに移動させて、モールド1および光硬化性樹脂6を互いに剥離する(図3Bf)。
【0053】
(硬化性樹脂)
光硬化性樹脂6は、特に制限されるものではないが、本実施形態では例えば重合性化合物に、光重合開始剤(2質量%程度)、フッ素モノマー(0.1〜1質量%)を加えて調製された光硬化性樹脂を用いることができる。また、必要に応じて酸化防止剤(1質量%程度)を添加することもできる。上記の手順により作成した光硬化性樹脂6は波長360nmの紫外光により硬化することができる。溶解性の悪いものについては少量のアセトンまたは酢酸エチルを加えて溶解させた後、溶媒を留去することが好ましい。なお、本実施形態では硬化性樹脂膜は光硬化性の材料であるが、本発明はこれに限られず他に熱硬化性の材料を適用することもできる。
【0054】
上記重合性化合物としては、ベンジルアクリレート(ビスコート(登録商標)#160:大阪有機化学株式会社製)、エチルカルビトールアクリレート(ビスコート#190:大阪有機化学株式会社製)、ポリプロピレングリコールジアクリレート(アロニックス(登録商標)M−220:東亞合成株式会社製)、トリメチロールプロパンPO変性トリアクリレート(アロニックスM−310:東亞合成株式会社製)等の他、下記構造式(1)で表される化合物A等を挙げることができる。
【0055】
【化1】

【0056】
また、上記重合開始剤としては、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン(IRGACURE 379:豊通ケミプラス株式会社製)等のアルキルフェノン系光重合開始剤を挙げることができる。
【0057】
また、上記フッ素モノマーとしては、下記構造式(2)で表される化合物B等を挙げることができる。
【0058】
【化2】

【0059】
インクジェット法により光硬化性樹脂を塗布する場合には、例えば、上記構造式(1)で示される化合物、アロニックスM−220、IRGACURE 379および上記構造式(2)で示されるフッ素モノマーをそれぞれ質量比48:48:3:1の割合で混合し形成された光硬化性樹脂を使用することが好ましい。一方、スピンコート法により光硬化性樹脂を塗布する場合には、例えば、重合性化合物をPGMEA(Propylene Glycol Methyl Ether Acetate)で1質量%に希釈した光硬化性樹脂を使用することが好ましい。
【0060】
(硬化性樹脂の塗布方法)
光硬化性樹脂6の塗布は、スピンコート法、ディップコート法およびインクジェット法等を使用して実施することができる。また、光硬化性樹脂6の塗布は、光硬化性樹脂6の塗布時の厚さが被加工基板7の光硬化性樹脂塗布面における表面高低差以上となるように実施することが好ましい。光硬化性樹脂6の厚さを被加工基板7の光硬化性樹脂塗布面における表面高低差以上とすることで、ナノインプリントを実施した後残留気体が残りにくくなる。これにより、光硬化性樹脂6がモールド1の凹凸パターン13内に充填されないことにより発生する欠陥(未充填欠陥)が起こりにくくなる。なお、「光硬化性樹脂の厚さ」とは、スピンコート法およびディップコート法等のように膜の状態で均一に基板上に光硬化性樹脂が塗布される場合は、その膜の塗布時の厚さを意味し、インクジェット法等のように液滴の状態で基板上に光硬化性樹脂が塗布される場合には、その液滴の塗布時の高さを意味する。光硬化性樹脂6の厚さは、6nm〜10μmであり、より好ましくは10nm〜1μmであり、特に好ましくは15〜100nmである。下限を6nmとしたのは、平面性に優れた基板の表面高低差が6nm程度であるため、厚さはその値以上である必要があるためである。一方、上限を10μmとしたのは、ナノインプリントでスペース幅が200nm以下の凹凸パターンを形成する場合、厚さが10μmを超えると光硬化性樹脂パターンの残膜が厚くなり過ぎるためである。このような場合、光硬化性樹脂塗布面の加工において、光硬化性樹脂パターンに対応した凹凸パターン形状を光硬化性樹脂塗布面に形成することが困難になる。
【0061】
「表面高低差」とは、基板の表面のうねりにより生じる、高い所と低い所との相対的な高さの差を表す指標を意味し、当該指標として基板の「高低差分布に関する3σ値」を用いるものとする。「高低差分布」とは、表面形状の高さに関する平均値を基準とした高低差の分布を意味する。そして、「3σ値」とは、高低差分布をガウス分布で近似したときの平均値から±3σにおける値の絶対値を意味する。ここで、σはガウス分布における標準偏差である。「高低差分布に関する3σ値」は、基板の表面(本実施形態においては光硬化性樹脂塗布面)をZYGO社製のNewView6300によって計測することによって求める。
【0062】
3σ値は、少なくとも30mm四方の範囲について表面形状の測定が行われた結果、算出された値であることが好ましい。ここで、上記測定範囲は、より好ましくは40mm四方であり、特に好ましくは50mm四方である。これは、一般的な半導体チップの1つあたり大きさが26mm×33mmであることを考慮すると、1チップ領域全体に相当する範囲における光硬化性樹脂の膜の厚みムラや未充填欠陥の評価は、上記のような広さの範囲を評価対象とすることでより信頼性を確保することができるためである。
【0063】
光硬化性樹脂6をインクジェット法により塗布する場合には、液適量(配置された液滴1つ当たりの量)や吐出速度の調整が可能なピエゾ方式が好ましい。基板上に光硬化性樹脂の液滴を配置する前には、あらかじめ液滴量や吐出速度を設定及び調整する。例えば、液適量は、凹凸パターンの凹部の空間体積が大きい領域では多くしたり、凹部の空間体積が小さい領域や凹部がない領域では少なくしたりして調整することが好ましい。このような調整は、液滴吐出量(吐出された液滴1つ当たりの量)に応じて適宜制御される。
【0064】
(圧力容器内の圧力)
気体の圧力容器110への充満は、圧力容器110内の圧力が、0.1〜5MPaとなり、より好ましくは0.5〜3MPaとなり、特に好ましくは1〜2MPaとなるように実施することが好ましい。下限を0.1MPaとしたのは、圧力が0.1MPaより小さいと、凹凸パターン13と光硬化性樹脂6とが接着されている時に、凹凸パターン領域R1の残留気体が押し出されにくくなる、残留気体(気体がHeの場合)が石英基板から透過しにくくなる、残留気体が光硬化性樹脂6に溶けにくくなるといった問題が起こって、未充填欠陥が生じてしまうためである。また、0.1MPaより小さいと、被加工基板7が流体圧力に従いにくくなるので、残膜ムラも生じやすくなる。一方、上限を5MPaとしたのは、5MPaを超えると、モールド1と被加工基板7の間にかみこんだ異物によって、モールド1と被加工基板7を傷つけてしまう恐れがあるためである。
【0065】
(モールドの剥離)
モールド1と被加工基板7との剥離は、加熱手段(図示省略)によってアセンブリ8を加熱しながら実施することが好ましい。加熱時のアセンブリ8の設定温度Tr(℃)は、Tp−5<Tr<{(Tp+20)およびTgのいずれか小さい方}の式を満たし、より好ましくはTp−3<Tr<{(Tp+15)およびTgのいずれか小さい方}の式を満たし、特に好ましくはTp−1<Tr<{(Tp+10)およびTgのいずれか小さい方}の式を満たすように設定される。なお、上記式において、Tpは流体圧力による加圧時の最高温度(℃)(およそ25〜50℃の範囲である。)、Tgは硬化性樹脂のガラス転移温度(℃)である。設定温度Trの範囲は以下の理由による。流体圧力によりモールド1と硬化性樹脂を塗布した被加工基板7とを互いに押し付ける際、断熱圧縮により圧力容器110内の温度が上がる。そして、それに応じてアセンブリ8の温度も上がる。また、紫外光により露光している間も、アセンブリ8の温度は上がる。しかしながら、剥離処理は大気圧下または減圧下で実施されるため、剥離処理の際、加圧時に比べて圧力容器110内の温度は下がる。このとき、設定温度TrがTp−5℃より低いもしくはTp+20℃より高い場合、モールド1、硬化性樹脂および被加工基板7が熱収縮もしくは熱膨張することによって、硬化性樹脂の剥がれによる欠陥(剥がれ欠陥)が発生する。また、設定温度Trが、硬化性樹脂のガラス転移温度Tgより高いと硬化性樹脂パターンの形状が剥離処理時に変形してしまう。したがって、剥離処理時には熱収縮、熱膨張および熱変形の影響を抑えるため、モールド1、硬化性樹脂および被加工基板7の温度を、流体圧力によって押し付けを行った時の温度とできるだけ等しくすることが好ましい。アセンブリ8の加熱は、設置台145内部またはその近傍に設けられた電熱ヒーターやハロゲンヒーター等によって実施することができる。
【0066】
図4は、図3Acの段階において、気体が充満された圧力容器110内でアセンブリ8に流体圧力P1およびP2が作用する様子を示す概略切断部端面図である。図4中のP1はモールド1の表面にかかる流体圧力を示し、図4中のP2は被加工基板7および光硬化性樹脂6の表面にかかる流体圧力を示す。図4に示されるように図3Acの段階において、アセンブリ8は、表面全体が直接雰囲気に暴露可能な状態にあり、かつ、ドット状の突起部から構成される基板支持部材140によって、雰囲気による流体圧力が実質的にアセンブリの表面全体に作用するように圧力容器内において支持されている。つまり、アセンブリ8の表面、特にモールド1のフランジ部15に均等な流体圧力P1がかかり、被加工基板7の上記フランジ部15に対向する部分に均等な流体圧力P2がかかることにより、メサ型のモールド1が湾曲することを防止している。また、アセンブリ8のパターン対応部8a以外の部分を基板支持部材140によって支持することにより、パターン対応部8aに流体圧力P1およびP2以外の外力が実質的に働くことを防止している。
【0067】
以上より、本発明に係るナノインプリント方法は、特に、表面全体が直接雰囲気に暴露可能な状態にあるアセンブリを、雰囲気による流体圧力が実質的にアセンブリの表面全体に作用するように、圧力容器内において支持部材で支持しながら、圧力容器内に気体を導入し、この気体の流体圧力によって、モールドと被加工基板とを互いに押し付けることを特徴とする。これによりモールドのフランジ部、および被加工基板の上記フランジ部に対向する部分に、均等な流体圧力がかかることにより、モールドおよび被加工基板が湾曲することを防止することができる。そして、メサ型のモールドおよび/または被加工基板を用いたナノインプリントにおいて、硬化性樹脂塗布面に対する均等な圧力による押し付けが実現でき、残膜ムラの発生を抑制することが可能となる。
【0068】
また、本発明に係るナノインプリント装置は、微細な凹凸パターンを表面に有するモールドと、硬化性樹脂塗布面を有する被加工基板と、硬化性樹脂から構成され、かつ凹凸パターンと硬化性樹脂塗布面上に塗布された硬化性樹脂とを接着せしめて形成されたアセンブリが収容され、気体が充満される圧力容器と、圧力容器内に設けられた支持部材であって、表面全体が直接雰囲気に暴露可能な状態にあるアセンブリを、雰囲気による流体圧力が実質的にアセンブリの表面全体に作用するように圧力容器内で支持する支持部材と、圧力容器に接続された、圧力容器内に気体を導入する気体導入手段とを備えたことを特徴とする。したがって、上記ナノインプリント方法を実施することが可能となり、そして、メサ型のモールドおよび/または被加工基板を用いたナノインプリントにおいて、硬化性樹脂塗布面に対する均等な圧力による押し付けが実現でき、残膜ムラの発生を抑制することが可能となる。
【0069】
<第1の実施形態の設計変更>
第1の実施形態においては、モールドのみがメサ部を有する場合について説明したが、被加工基板のみがメサ部を有する場合やその両方がメサ部を有する場合についても、本発明のナノインプリント方法およびナノインプリント装置を適用することができる。
【0070】
また、第1の実施形態においては、被加工基板7を設置台145で移動させながら、モールド1と光硬化性樹脂6とを接着させた。しかし、図5および図6Aに示されるように、上記の設置台145の中央部分に、接着時に被加工基板7の中央部分を押し付けるピン147を設けた構成にすることもできる。モールド1と光硬化性樹脂6との接着は、被加工基板7の外周を吸着しながら、このピン147で被加工基板7の中央部分を押し付けることにより実施される。なお、ピン147は、圧力容器110内に気体を導入して、アセンブリ8に流体圧力を作用させるときは収納される。また、接着時に被加工基板7の中央部分を押し付ける方法は、この他に図6Bに示されるように、設置台145の中央部分に第2の気体導入部148を設けて、この第2の気体導入部148から導入された気体を被加工基板7に吹き付ける方法とすることもできる。
【0071】
また、第1の実施形態においては、モールド1および被加工基板7をそれぞれモールド支持部材150および設置台145に設置したが、予めモールド1と被加工基板7上に塗布された光硬化性樹脂6とを軽く接着させた状態で、つまりアセンブリ8の状態で設置台145に設置してもよい。
【0072】
「第2の実施形態」
本発明のナノインプリント方法およびナノインプリント装置の第2の実施形態について図7〜図8Bを用いて説明する。図7は本実施形態のナノインプリント装置を示す概略切断部端面図であり、図8Aおよび図8Bは本実施形態のナノインプリント方法の工程を示す概略切断部端面図である。なお、本実施形態は、第1の実施形態と、被加工基板の設置台および基板支持部材についての構成が異なる。したがって、本実施形態において第1の実施形態と同様の構成要素についての詳細な説明は、特に必要のない限り省略する。
【0073】
(ナノインプリント装置)
まず、本実施形態のナノインプリント方法を実施するためのナノインプリント装置について説明する。本実施形態のナノインプリント方法は、図7に示すようなナノインプリント装置200を用いて実施される。図7に示すナノインプリント装置200は、圧力容器210、この圧力容器210に気体を導入する気体導入部220、この圧力容器210内を排気する排気部230、被加工基板7を支持する基板支持部材240、被加工基板7を設置する設置台245、モールド1を支持するモールド支持部材250、凹凸パターンの位置合わせを行うための受光デバイス261、および、光硬化性樹脂を露光するための露光光源262を備えている。
【0074】
(被加工基板の設置台)
設置台245は、被加工基板7を設置するためのものである。設置台245は、モールド1の凹凸パターン13との位置合わせが可能となるように、x方向(図7における左右方向)、y方向(図7における紙面垂直方向)、z方向(図7における上下方向)およびθ方向(z方向の軸を中心とした回転方向)に移動可能となっている。設置台245は、被加工基板7を吸着固定するための吸着口や被加工基板7を加熱するための加熱器を備えるように構成することもできる。
【0075】
(基板支持部材)
基板支持部材240は、設置台245に置かれた被加工基板7を設置台245から離して持ち上げる際、およびアセンブリ8を支持する際に使用される。したがって、基板支持部材240も、設置台245と同様に少なくともz方向に移動可能なように構成される。本実施形態における基板支持部材240は、図7および図8Aに示されるようにモールド支持部材250と同様に、リング部241および支柱部242から構成される。リング部241は、一部が断線したような形状であってもよい。
【0076】
(ナノインプリント方法)
図8AおよびBは、装置の駆動手順を分かりやすくするために、図7のナノインプリント装置200のうち、設置台245、基板支持部材240およびモールド支持部材250、並びにこれらを用いた手順の説明に必要な部分のみを示す。
【0077】
本実施形態のナノインプリント方法は、以下の通りである。まず、圧力容器210の蓋212を開け、光硬化性樹脂6が光硬化性樹脂塗布面に塗布された被加工基板7を設置台245に設置し、凹凸パターンが光硬化性樹脂6に対向するようにモールド1をモールド支持部材250に設置する(図8Aa)。そして、受光デバイス261を用いて凹凸パターンの被加工基板7上での位置合わせを行う。そして、圧力容器210の蓋212を閉め、圧力容器210内を排気部230によって排気する。この時、圧力容器210の蓋212を閉めた後、Heを圧力容器210内に導入してもよい。そして、光硬化性樹脂6がモールド1の凹凸パターン13に適度に接着するまで設置台245をz方向上向きに移動させて、モールド1、光硬化性樹脂6および被加工基板7から構成されるアセンブリ8を形成する(図8Ab)。この際、モールド1の凹凸パターン13内に光硬化性樹脂6が完全には充填されておらず、一部で未充填箇所を伴っている。また、このアセンブリ8は、モールド1、光硬化性樹脂6および被加工基板7が単に組み合わされたままの状態であるから、表面全体が直接雰囲気に暴露可能な状態である。その後、さらにアセンブリ8をz方向上向きに持ち上げるように基板支持部材240を移動させる(図8Ac)。これにより、モールド1はモールド支持部材250から離れ、アセンブリ8は基板支持部材240のみによって支持された状態となる。基板支持部材240はリング部241および支柱部242から構成されており、リング部241とアセンブリ8との接触面は外縁部のわずかな部分であるから、アセンブリ8は、雰囲気による流体圧力が実質的にアセンブリの表面全体に作用するように支持されることとなる。そして、雰囲気による流体圧力が実質的にアセンブリの表面全体に作用するようにアセンブリ8が支持されている状態で、気体導入部220から気体を導入する。この結果、モールド1および被加工基板7は、この気体による流体圧力の作用により互いに押し付けられ、凹凸パターン13内に光硬化性樹脂6が完全に充填される(図8Bd)。そして、アセンブリ8中の光硬化性樹脂6に紫外光を照射して、光硬化性樹脂6を硬化させる。光硬化性樹脂6への転写および露光が終了したら、基板支持部材240をz方向下向きに移動させて元の位置に戻す(図8Be)。このとき、アセンブリ8はモールド支持部材250および設置台245によって支持される。その後は、第1の実施形態と同様にして、モールド1および光硬化性樹脂6を互いに剥離する。
【0078】
以上より、本実施形態に係るナノインプリント方法も、特に、表面全体が直接雰囲気に暴露可能な状態にあるアセンブリを、雰囲気による流体圧力が実質的にアセンブリの表面全体に作用するように、圧力容器内において支持部材で支持しながら、圧力容器内に気体を導入し、この気体の流体圧力によって、モールドと被加工基板とを互いに押し付けることを特徴とするから、第1の実施形態のナノインプリント方法と同様の効果を奏する。
【0079】
また、本実施形態に係るナノインプリント装置も、微細な凹凸パターンを表面に有するモールドと、硬化性樹脂塗布面を有する被加工基板と、硬化性樹脂から構成され、かつ凹凸パターンと硬化性樹脂塗布面上に塗布された硬化性樹脂とを接着せしめて形成されたアセンブリが収容され、気体が充満される圧力容器と、圧力容器内に設けられた支持部材であって、表面全体が直接雰囲気に暴露可能な状態にあるアセンブリを、雰囲気による流体圧力が実質的にアセンブリの表面全体に作用するように圧力容器内で支持する支持部材と、圧力容器に接続された、圧力容器内に気体を導入する気体導入手段とを備えたことを特徴とするから、第1の実施形態のナノインプリント装置と同様の効果を奏する。
【0080】
「第3の実施形態」
本発明のナノインプリント方法およびナノインプリント装置の第3の実施形態について図9および図10を用いて説明する。図9は本実施形態のナノインプリント装置を示す概略切断部端面図であり、図10は本実施形態のナノインプリント装置におけるモールドの支持部材を示す概略底面図である。なお、本実施形態は、第1の実施形態と、モールド支持部材についての構成が異なる。したがって、本実施形態において第1の実施形態と同様の構成要素についての詳細な説明は、特に必要のない限り省略する。
【0081】
(ナノインプリント装置)
まず、本実施形態のナノインプリント方法を実施するためのナノインプリント装置について説明する。本実施形態のナノインプリント方法は、図9に示すようなナノインプリント装置300を用いて実施される。図9に示すナノインプリント装置300は、圧力容器310、この圧力容器310に気体を導入する気体導入部320、この圧力容器310内を排気する排気部330、被加工基板7を支持する基板支持部材340を備えた被加工基板7を設置する設置台345、モールド1を支持するモールド支持部材350、凹凸パターン13の位置合わせを行うための受光デバイス361、および、光硬化性樹脂を露光するための露光光源362を備えている。
【0082】
(モールド支持部材)
モールド支持部材350は、図10に示されるように吸着口356を有し、モールド1の裏面(メサ部12がない側の支持部11の面)を吸着固定しながら、凹凸パターン13が被加工基板上7の光硬化性樹脂6に対向するように保持するものである。モールド支持部材350は、圧力容器310の蓋312に取りつけられている。また、モールド支持部材350は蓋312を開けずに露光可能となるようにリング形状となっており、リング形状の内周円は少なくともモールド1の凹凸パターン領域R1よりも大きな径を有する。また、図9および図10に示されるように、モールド支持部材350の内周の内側の領域にガラス窓313が配置されており、このガラス窓313を通して露光が実施される。
【0083】
(ナノインプリント方法)
本実施形態のナノインプリント方法は、以下の通りである。まず、圧力容器310の蓋312を開け、光硬化性樹脂6が光硬化性樹脂塗布面に塗布された被加工基板7を設置台345に設置し、モールド1をモールド支持部材350により吸着固定し、圧力容器310の蓋312を閉める。そして、受光デバイス361を用いて凹凸パターン13の被加工基板7上での位置合わせを行う。そして、圧力容器310内を排気部330によって排気する。この時、圧力容器310の蓋312を閉めた後、Heを圧力容器310内に導入してもよい。そして、光硬化性樹脂6がモールド1の凹凸パターン13に適度に接着するまで設置台345をz方向上向きに移動させて、モールド1、光硬化性樹脂6および被加工基板7から構成されるアセンブリ8を形成する。アセンブリ8が形成できたら、モールド1の吸着固定を止め、設置台345がz方向下向きに移動する。このとき、アセンブリ8は設置台345によって支持されている。その後、被加工基板7が設置台345に接触しない程度に基板支持部材340をz方向上向きに移動させる。この際、モールド1の凹凸パターン13内に光硬化性樹脂6が完全には充填されておらず、一部で未充填箇所を伴っている。また、このアセンブリ8は、モールド1、光硬化性樹脂6および被加工基板7が単に組み合わされたままの状態であるから、表面全体が直接雰囲気に暴露可能な状態である。また、モールド1はモールド支持部材350から離れ、アセンブリ8は基板支持部材340のみによって支持された状態となる。基板支持部材340は4つのドット状の突起部のみから構成されており、突起部とアセンブリ8との接触面は極微細であるから、アセンブリ8は、雰囲気による流体圧力が実質的にアセンブリの表面全体に作用するように支持されることとなる。そして、雰囲気による流体圧力が実質的にアセンブリの表面全体に作用するようにアセンブリ8が支持されている状態で、気体導入部320から気体を導入する。この結果、モールド1および被加工基板7は、この気体による流体圧力の作用により互いに押し付けられ、凹凸パターン内に光硬化性樹脂6が完全に充填される。そして、アセンブリ8中の光硬化性樹脂6に紫外光を照射して、光硬化性樹脂6を硬化させる。光硬化性樹脂6への転写および露光が終了したら、基板支持部材340を設置台345に収納する。そして、アセンブリ8がモールド支持部材350に接触する程度にまで設置台345をz方向上向きに移動させる。その後、被加工基板7の裏面を設置台345により吸着固定し、モールド1の裏面をモールド支持部材350により吸着固定する。最後に、モールド1および被加工基板7を吸着固定したまま、設置台345をz方向下向きに移動させて、モールド1および光硬化性樹脂6を互いに剥離する。
【0084】
本実施形態のナノインプリント方法および装置は、被加工基板7がモールド1よりも大きい場合に有用である。
【0085】
以上より、本実施形態に係るナノインプリント方法も、特に、表面全体が直接雰囲気に暴露可能な状態にあるアセンブリを、雰囲気による流体圧力が実質的にアセンブリの表面全体に作用するように、圧力容器内において支持部材で支持しながら、圧力容器内に気体を導入し、この気体の流体圧力によって、モールドと被加工基板とを互いに押し付けることを特徴とするから、第1の実施形態のナノインプリント方法と同様の効果を奏する。
【0086】
また、本実施形態に係るナノインプリント装置も、微細な凹凸パターンを表面に有するモールドと、硬化性樹脂塗布面を有する被加工基板と、硬化性樹脂から構成され、かつ凹凸パターンと硬化性樹脂塗布面上に塗布された硬化性樹脂とを接触せしめて形成されたアセンブリが収容され、気体が充満される圧力容器と、圧力容器内に設けられた支持部材であって、表面全体が直接雰囲気に暴露可能な状態にあるアセンブリを、雰囲気による流体圧力が実質的にアセンブリの表面全体に作用するように圧力容器内で支持する支持部材と、圧力容器に接続された、圧力容器内に気体を導入する気体導入手段とを備えたことを特徴とするから、第1の実施形態のナノインプリント装置と同様の効果を奏する。
【実施例】
【0087】
本発明に係るナノインプリント方法の実施例を以下に示す。
<実施例>
直径4インチの石英基板(表面高低差=30nm)に光硬化性樹脂を塗布し、厚さ60nmの光硬化性樹脂層によって石英基板を被覆した。メサ部を有するモールドは、直径6インチの石英基板を基に作製されており、当該メサ部の表面には、深さ100nmの複数のスペースパターンの存在によってライン&スペースパターンが形成されている。当該スペースパターンの幅およびスペース同士の間隔(ラインの幅)は、それぞれ100nmおよび100nmである。また、当該石英モールドに離型処理を施した。ナノインプリント装置として第3の実施形態において説明した装置を使用した。まず、光硬化性樹脂層が形成された石英基板を設置台に設置し、ライン&スペースパターンを光硬化性樹脂層に向けてモールドをモールド支持部材に吸着固定した。その後、モールドを光硬化性樹脂層に軽く接着させて、アセンブリを形成した。そして、アセンブリを基板支持部材で持ち上げて、雰囲気による流体圧力が実質的にアセンブリの表面全体に作用するようにアセンブリを支持した。次に、圧力容器内の圧力が1MPaとなるように空気を圧力容器内に導入した。空気の流体圧力の作用により、モールドが光硬化性樹脂層中に押し込まれた。そして、光硬化性樹脂層を露光した。この際、基板表面は45℃であった。大気圧まで減圧した後、圧力容器内の設置台を加熱して基板表面を50℃まで加熱した後に、モールドおよび光硬化性樹脂を互いに剥離した。その他、使用した光硬化性樹脂、石英基板および装置、並びに各工程の詳細については以下の通りである。
【0088】
(光硬化性樹脂)
上記構造式(1)で示される化合物、アロニックスM220、IRGACURE 379および上記構造式(2)で示されるフッ素モノマーをそれぞれ質量比48:48:3:1の割合で混合し形成された光硬化性樹脂を使用した。
【0089】
(石英基板)
光硬化性樹脂との接着性に優れるシランカップリング剤により表面処理された石英基板を使用した。表面処理は、シランカップリング剤を溶剤で希釈し、スピンコート法により基板表面に塗布し、アニールすることにより行った。
【0090】
(光硬化性樹脂の塗布工程)
ピエゾ方式のインクジェットプリンターであるFUJIFILM Dimatix社製DMP−2831を使用した。インクジェットヘッドには専用の10plヘッドを使用した。液滴量が所定の値となるように、あらかじめ吐出条件を設定及び調整した。その後、所定の液滴高さになるように、液滴を配置した。
【0091】
(モールドの接着工程)
モールドおよび光硬化性樹脂の位置合わせをするため、モールドおよび石英基板を互いに近接させ、モールドの背面から光学顕微鏡でアライメントマークを観察しながら、アライメントマークが所定の位置にくるように位置合わせをした。
【0092】
(露光工程)
360nmの波長を含む紫外光により、照射量が300mJ/cmとなるように、ガラス窓およびモールドを通して露光した。
【0093】
<比較例1>
直径6インチの石英基板(表面高低差=30nm)に光硬化性樹脂を塗布し、厚さ60nmの光硬化性樹脂層によって石英基板を被覆した。メサ部を有するモールドは、実施例と同様のものである。モールドを光硬化性樹脂層に軽く接着させて、アセンブリを形成した後、当該アセンブリ全体を透明なシリコーンゴムで封止した。そして、当該封止されたアセンブリを設置台に設置した。次に、封止されたアセンブリを基板支持部材で支持しながら、圧力容器内の圧力が1MPaとなるように空気を圧力容器内に導入した。空気の流体圧力の作用により、モールドが光硬化性樹脂層中に押し込まれた。そして、光硬化性樹脂層を透明なシリコーンゴムを透して露光した。この際、基板表面は45℃であった。大気圧まで減圧した後、圧力容器内の設置台を加熱して基板表面を50℃まで加熱した後に、一度アセンブリを圧力容器から取り出し、封止を解除した。再度、アセンブリを圧力容器内に設置し、モールドおよび光硬化性樹脂を互いに剥離した。その他、使用した光硬化性樹脂、石英基板および装置等の詳細については、実施例と同様である。
【0094】
<比較例2>
表面高低差80nmの石英基板を使用した点以外は実施例と同様の方法によりナノインプリントを実施した。
【0095】
<比較例3>
大気圧まで減圧した後圧力容器内の設置台を加熱しなかった点以外は実施例と同様の方法によりナノインプリントを実施した。
【0096】
<比較例4>
アセンブリを基板支持部材により持ち上げず、設置台に直接設置された状態で空気を圧力容器内に導入した点以外は実施例と同様の方法によりナノインプリントを実施した。
【0097】
<比較例5>
圧力容器内の圧力が0.05MPaとなるように空気を圧力容器内に導入した点以外は実施例と同様の方法によりナノインプリントを実施した。
【0098】
<評価方法>
【0099】
(残膜ムラ)
光硬化性樹脂の石英基板の中心からメサ部のエッジ付近までのライン&スペースパターンの残膜の厚さを測定した。光硬化性樹脂のパターン領域の一部を、スクラッチまたはテープ剥離等により剥離することにより石英基板を露出させ、当該剥離領域とパターン領域の境界部をAFM(原子間力顕微鏡)で測定することにより、残膜の厚さhを測定した。厚さhについて、半径方向に任意の5箇所を測定した。厚さhのうち最大値hmaxと最小値hminとの差(hmax−hmin)が10nm未満の場合を残膜ムラは未発生、10nm以上の場合を残膜ムラが発生と評価した。
(剥がれ欠陥および未充填欠陥)
上記実施例および比較例1〜5において得られた光硬化性樹脂のライン&スペースパターンを、受光デバイス(倍率50倍〜1,500倍)の暗視野測定で検査した。具体的には、以下の通りである。まず、顕微鏡の測定視野が倍率50倍で2mm角となるように設定した。次に測定視野を1cm角の範囲内で走査し、石英基板表面の剥がれ欠陥および未充填欠陥によるインプリント欠陥の有無を測定した。剥がれ欠陥および未充填欠陥は、正常なパターンで見られない散乱光を検出した場合を対象とした。剥がれ欠陥および未充填欠陥の発生個所をカウントし、1cm角当たりの発生数が0個の場合を欠陥が未発生、1個以上の場合を欠陥が発生と評価した。
【0100】
<評価結果>
評価結果を下記の表1に示す。実施例および比較例1の対比から、本発明では、光硬化性樹脂塗布面に対する均等な圧力による押し付けが実現できた。この結果本発明により、残膜ムラの発生と剥がれ欠陥および未充填欠陥の発生とを抑制することが可能であることが確認された。
【0101】
また、実施例および比較例2の対比から、特に、光硬化性樹脂の厚さを被加工基板の光硬化性樹脂塗布面における表面高低差以上とすることにより、ナノインプリントにおいて、残膜ムラの発生と剥がれ欠陥および未充填欠陥の発生とを抑制することができることが確認された。
【0102】
また、実施例および比較例3の対比から、特に、光硬化性樹脂を加熱しながらモールドと被加工基板とを互いに剥離することにより、ナノインプリントにおいて剥がれ欠陥および未充填欠陥の発生を抑制することができることが確認された。
【0103】
また、実施例および比較例4の対比から、特に、雰囲気による流体圧力が実質的にアセンブリの表面全体に作用するようにアセンブリを基板支持部材により支持した状態で加圧することにより、ナノインプリントにおいて、残膜ムラの発生と剥がれ欠陥および未充填欠陥の発生とを抑制することができることが確認された。
【0104】
また、実施例および比較例5の対比から、特に、圧力容器内の圧力を所定の範囲内に設定することにより、残膜ムラの発生と剥がれ欠陥および未充填欠陥の発生とを抑制することができることが確認された。
【0105】
【表1】

【符号の説明】
【0106】
1、2 メサ型モールド
5 従来のモールド
6 光硬化性樹脂
7 被加工基板
8 アセンブリ
8a パターン対応部
9 封止カバー
11、21 支持部
12、22 メサ部
13、23 凹凸パターン
15、25 フランジ部
100、200、300 ナノインプリント装置
110、210、310 圧力容器
120、220、320 気体導入部
130、230、330 排気部
140、240、340 基板支持部材
145、245、345 設置台
150、250、350 モールド支持部材
161、261、361 受光デバイス
162、262、362 露光光源
D1 メサ型モールドの支持部の厚さ
D2 メサ型モールドのメサ部の高さ
P1 モールドの表面にかかる流体圧力
P2 被加工基板および硬化性樹脂の表面にかかる流体圧力
R1 メサ部の凹凸パターン領域
R2 凹凸パターン領域以外のメサ部の領域
S1 基準面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細な凹凸パターンを表面に有するモールドおよび硬化性樹脂塗布面を有する被加工基板であって、前記凹凸パターンもしくは前記硬化性樹脂塗布面が形成されたメサ部を前記モールドおよび前記被加工基板の少なくとも一方が有するものを用い、
前記凹凸パターンと前記硬化性樹脂塗布面上に塗布された硬化性樹脂とを接着せしめて、前記モールド、前記硬化性樹脂および前記被加工基板から構成されるアセンブリを形成し、
表面全体が直接雰囲気に暴露可能な状態にある前記アセンブリを、雰囲気による流体圧力が実質的に前記アセンブリの表面全体に作用するように、圧力容器内において支持部材で支持しながら、該圧力容器内に気体を導入し、
該気体の流体圧力によって、前記モールドと前記被加工基板とを互いに押し付け、その後前記モールドと前記被加工基板とを剥離することを特徴とするナノインプリント方法。
【請求項2】
前記アセンブリのうち前記凹凸パターンに対応した部分であるパターン対応部以外の部分のみを前記支持部材で支持して、前記アセンブリを支持することを特徴とする請求項1に記載のナノインプリント方法。
【請求項3】
前記支持部材がリング形状であり、
該リング形状の内周の内側に前記パターン対応部が位置するように、前記パターン対応部以外の部分を前記支持部材で支持することを特徴とする請求項2に記載のナノインプリント方法。
【請求項4】
前記支持部材が3つ以上の突起部から構成されるものであり、
前記パターン対応部以外の部分を前記3つ以上の突起部で支持することを特徴とする請求項2に記載のナノインプリント方法。
【請求項5】
前記モールドおよび前記被加工基板のいずれかのみを前記支持部材で支持して、前記アセンブリを支持することを特徴とする請求項1から4いずれかに記載のナノインプリント方法。
【請求項6】
前記流体圧力が0.1〜5MPaであることを特徴とする請求項1から5いずれかに記載のナノインプリント方法。
【請求項7】
前記硬化性樹脂の塗布時の厚さが前記被加工基板の表面高低差以上となるように、前記硬化性樹脂を塗布することを特徴とする請求項1から6いずれかに記載のナノインプリント方法。
【請求項8】
前記硬化性樹脂を加熱しながら前記モールドと前記被加工基板とを剥離することを特徴とする請求項1から7いずれかに記載のナノインプリント方法。
【請求項9】
請求項1から8いずれかに記載のナノインプリント方法に使用されるナノインプリント装置であって、
微細な凹凸パターンを表面に有するモールドと、硬化性樹脂塗布面を有する被加工基板と、硬化性樹脂とから構成され、かつ前記凹凸パターンと前記硬化性樹脂塗布面上に塗布された前記硬化性樹脂とを接着せしめて形成されたアセンブリが収容され、気体が充満される圧力容器と、
該圧力容器内に設けられた支持部材であって、表面全体が直接雰囲気に暴露可能な状態にある前記アセンブリを、雰囲気による流体圧力が実質的に前記アセンブリの表面全体に作用するように前記圧力容器内で支持する前記支持部材と、
前記圧力容器に接続された、前記圧力容器内に気体を導入する気体導入手段とを備えたことを特徴とするナノインプリント装置。
【請求項10】
前記支持部材が、前記アセンブリのうち前記凹凸パターンに対応した部分であるパターン対応部以外の部分のみを支持するものであることを特徴とする請求項9に記載のナノインプリント装置。
【請求項11】
前記支持部材がリング形状であることを特徴とする請求項9または10に記載のナノインプリント装置。
【請求項12】
前記支持部材が3つ以上の突起部から構成されたものであることを特徴とする請求項9または10に記載のナノインプリント装置。

【図1】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図13】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図5】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−190877(P2012−190877A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51031(P2011−51031)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】