ナノカーボン及び当該ナノカーボンの製造方法
【課題】本発明は、構造欠陥が少ないナノカーボン材料を提供するとともに、高収率、かつ量産的に製造可能なナノカーボン材料の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のナノカーボンは、平均直径が100nm 〜1μmの範囲にある炭素微小球からなる。
【解決手段】本発明のナノカーボンは、平均直径が100nm 〜1μmの範囲にある炭素微小球からなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノカーボン材料、及び当該ナノカーボン材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノテクノロジーは、10億分の1メートルという極微な物質構造を扱う技術であり、製造技術を根本から変えるといわれる先端技術である。ナノテクノロジーにおいて、いわゆるフラーレン、カーボンナノチューブと呼ばれるナノカーボン材料が代表的素材である。
【0003】
このようなナノカーボン材料を製造する方法として、アーク放電法、レーザー蒸発法、化学気相成長法(CVD法)を挙げることができる。
【0004】
アーク放電法においては、大気圧よりやや低い圧力のアルゴンや水素雰囲気下、炭素棒の間に20V50A程度のアーク放電を行うと、陰極堆積物中にMWCNTが生成される。また、炭素棒中にニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜてアーク放電を行うと、容器の内側にすすとして付着する物質の中にSWCNTが生成される。また、触媒がないときは、多層式ナノチューブ(MWCNT)しか生成しないが、コバルトやニッケル、鉄などの金属触媒を加えると単層式ナノチューブ(SWCNT)が生成する。
【0005】
また、レーザー蒸発法においては、ニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜた炭素にYAGレーザーの強いパルス光を照射するとSWCNTが得られる。比較的高い純度のSWCNTを得ることをでき、また条件変更によりチューブ径の制御が可能である。この方法では、レーザー光強度、希ガス圧力、電気炉温度などいくつかの物理パラメータの制御が容易であり、CNTの形成と種々の物理パラメータの詳細な研究を可能とする。一般的な収率は、70重量%以下である。
【0006】
また、化学気相成長法(CVD法)によれば、炭素源となる炭素化合物を500〜1000℃で触媒金属微粒子と接触させることによりCNTが得られる。触媒金属の種類及びその配置の仕方、炭素化合物の種類などに種々のバリエーションがあり、条件の変更によりMWCNTとSWCNTのいずれも合成することが可能である。また、触媒を基板上に配置することにより基板面に垂直に配向したCNTを得ることも可能である。また、原料をガスとして供給できるために大量合成に最も向いている手法といわれている。
【0007】
また、Haoqing Hou等は、単一層カーボンナノチューブ(SWCNT)及び多層カーボンナノチューブ(MWCNT)のフェロセンからの合成に成功している。(Chem. Master. 2002, 14, 3990-3994)
【0008】
【非特許文献1】Chem. Master. 2002, 14, 3990-3994(2002 American Chemical Society published on Web 08/15/2002)
【非特許文献2】Xu J.-Z., et. al., Journal of the Science of Food and Agriculture, 83, 1617-1621,2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したアーク放電法によるものは、欠陥が少なく品質の良いCNTが得られるものの、量産的にナノカーボン材料を得るのは困難であるという問題点を有する。さらに、アーク放電法で作られたナノチューブは、種々なサイズのものが無秩序な方向へ堆積してしまい、一般的な収率は30重量%以下であるという欠点を有する。
【0010】
また、上記レーザー蒸発法は、収量が少なく、CNTの工業的製造技術としては困難である。また、装置が複雑で生産コストが高いという欠点を有する。
【0011】
また、上記CVD法においては、合成されたCNTは一般的に欠陥が多いという問題点を有する。すなわち、この方法においては、大量生産には向いているものの、SWNTの生成には向かず構造欠陥も多く、生成するナノチューブの質はあまり高いとはいえない。
【0012】
また、上述のHapqing 等によるものは、微小球にFeを含むことを前提とし、また製造方法はCVD法であるので、依然として生成物の構造欠陥が多いという欠点を有する。
【0013】
そこで、本発明は、構造欠陥が少ないナノカーボン材料を提供するとともに、高収率、かつ量産的に製造可能なナノカーボン材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、特定の出発原料を使用し、加熱処理を施すことにより本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明のナノカーボンは、平均直径が100nm 〜1μmの範囲にある炭素微小球からなることを特徴とする。
【0016】
また、本発明のナノカーボンは、繊維断面における平均直径が、10nm〜1μmの範囲にあるファイバーからなることを特徴とする。
【0017】
また、本発明のナノカーボンは、中空の平均内径が、10nm〜1μmの範囲にあるチューブからなることを特徴とする。
【0018】
また、本発明のナノカーボンの好ましい実施態様において、前記チューブが、多層であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明のナノカーボンの製造方法は、縮合多環多核芳香族樹脂と、ポリエチレングリコール(PEG)及び/又はフェロセン、100〜1000℃の温度範囲において、加熱処理することにより得られることを特徴とする。
【0020】
また、本発明のナノカーボンの製造方法の好ましい実施態様において、前記ポリエチレングリコール(PEG)の重量比が30重量%未満であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明のナノカーボンの製造方法の好ましい実施態様において、前記ポリエチレングリコール(PEG)の重量比が30重量%以上であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明のナノカーボンの製造方法の好ましい実施態様において、前記加熱処理を、常圧下で行うことを特徴とする。
【0023】
また、本発明のナノカーボンの製造方法の好ましい実施態様において、前記加熱処理を、0.01〜1MPaの加圧下で行うことを特徴とする。
【0024】
また、本発明のナノカーボンの製造方法の好ましい実施態様において、さらに、Fe、Ni,Coからなる群から選択される少なくとも1種の触媒の存在下で行うことを特徴とする。
【0025】
また、本発明のナノカーボンの製造方法の好ましい実施態様において、前記樹脂が、コールタールピッチ系であることを特徴とする。
【0026】
また、本発明のナノカーボンの製造方法の好ましい実施態様において、前記樹脂が、ピレン系であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明のナノカーボン材料の製造方法によれば、設備が極めて簡便であるという利点を有する。すなわち、不活性雰囲気のもとで横型管状炉を用いて加熱処理を行うだけでナノカーボン材料を供給し得る。
【0028】
また、本発明によれば、カーボンナノファイバとカーボンナノスフィアとを、原料の樹脂と添加物の混合割合によって作り分けることができるという有利な効果を奏する。
【0029】
また、本発明のカーボンナノスフィアは最高1000℃でもその形状を保つことができるという有利な効果を奏する。
【0030】
さらに、本発明によれば、カーボンナノファイバーとカーボンナノスフィア、ツイストカーボンナノチューブのいずれにおいても原料樹脂と添加物の混合ペーストを薄いフィルム状にキャスティングするか、若しくは基板上に塗布して焼くだけそれぞれの形状のものをパターニングすることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明のナノカーボンは、主として、炭素微小球、ファイバー、及びチューブ(ツイスト状のものを含む)に分類される。これらのナノカーボンは、用途に応じて、適切に選択されて、ナノカーボン材料として選択される。
【0032】
本発明の炭素微小球は、平均直径が100nm 〜1μmの範囲にある。当該微小球の平均直径は、例えば、後述するような本発明のナノカーボンの製造方法を使用して、適宜変更することができる。本発明のファイバーは、繊維断面における平均直径が、10nm〜1μmの範囲にある。このようなファイバーの繊維断面における平均直径もまた、例えば、後述するような本発明のナノカーボンの製造方法を使用して、適宜変更することができる。そして、本発明のチューブは、中空の平均内径が、10nm〜1μmの範囲にある。このチューブの平均内径もまた、例えば、後述するような本発明のナノカーボンの製造方法を使用して、適宜変更することができる。そして本発明のチューブは、好ましい実施態様において、多層であることを特徴とする。さらに、本発明のチューブは、好適には、後述する本発明のナノカーボンの製造方法を使用して、ツイスト状とすることもできる。
【0033】
次に、本発明のナノカーボンの製造方法について説明する。本発明のナノカーボンの製造方法は、縮合多環多核芳香族樹脂と、ポリエチレングリコール(PEG)及び/又はフェロセンを混合し、不活性雰囲気下、100〜1000℃の温度範囲において、加熱処理することにより得られる。まず、縮合多環多核芳香族樹脂について説明すると、これは、通称COPNA樹脂(Condensed Polynuclear Aromatic Resin)とよばれ、原料となる縮合多環芳香族化合物の種類によって、例えば、ナフタレン系COPNA樹脂、ピレン系COPNA樹脂、コールタールピッチ系COPNA樹脂などがある。縮合多環多核芳香族樹脂を使用すれば、上述のナノカーボン、とりわけ、炭素微小球、ファイバー、チューブ(ツイスト状)を製造することができる。
【0034】
本発明のチューブを製造する場合には、COPNA樹脂以外に、液状有機化合物、例えば、アセトン、トルエン、エタノール、シクロヘキサン、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、オクタン、ノナンなどを挙げることができる。これらの異性体も液状であれば基本的に原料になり得る。なお、形状とか反応の制御の容易さなどからはヘキサン、シクロヘキサン(優先順位はヘキサン)が良いという結果が得られている。
【0035】
当該COPNA樹脂と、ポリエチレングリコール(PEG)及び/又はフェロセンを混合し、加熱処理することによりナノカーボンを製造することができる。当該COPNA樹脂と、ポリエチレングリコール(PEG)及び/又はフェロセンを混合比率は、特に限定されないが、好ましい実施態様において、前記ポリエチレングリコール(PEG)の重量比が30重量%以下である。これは、PEGの混合比が30重量%未満であれば、炭素微小球のナノカーボンを形成することが可能であるという観点からである。
【0036】
また、別の好ましい実施態様において、ファイバー状のナノカーボンを得るという観点から、前記ポリエチレングリコール(PEG)の重量比が30重量%を越えることを特徴とする。
【0037】
また、ナノカーボンの製造方法は、特に限定されるものではないが、空気、酸素などが混入すると、原料が燃焼する傾向があるという観点から、不活性雰囲気下で行うことが好ましい。温度範囲についても、特に限定されるものではないが、100〜1000℃の温度範囲において加熱処理することが好ましい。低限を100℃としたのは、ポリエチレングリコールなどの添加する高分子の融点が60℃以上であることとCOPNA樹脂の軟化温度が100℃前後であるという観点からであり、上限を1000℃としたのは、普及されている電気炉の上限は1000℃で、それ以上はシリコニット炉、超高温炉などの高額な設備が必要であるという観点からである。なお、100〜1000℃の範囲外であっても、所望の用途のナノカーボンを製造することができるので、用途に応じて適宜温度範囲を決定することができる。前記加熱処理は、常圧下で行うことができ、また、別の好ましい実施態様において、例えば、0.01〜1MPaの加圧下で行うこともできる。
【0038】
そして、好ましい実施態様において、さらに、Fe、Ni,Coからなる群から選択される少なくとも1種の触媒の存在下で加熱処理を行うことができる。触媒については、微小球では触媒があってもなくてもどちらでも生成することができるが、チューブでは触媒が不可欠のようである。また、ナノファイバーでは、触媒があると生成しない傾向にある。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定して解釈される意図ではない。
【0040】
実施例1
本実施例において、p-トルエンスルホン酸―水和物(以下、PTSと略)を酸触媒、縮合多環芳香族化合物とp−キシリレングリコール(カタログ名、以下、PXGと略。学術名1,4−ベンゼンジメタノール)の混合物を反応原料として無溶媒系で調製した熱硬化性樹脂を使用した。
【0041】
この熱硬化性樹脂は、縮合多環多核芳香族樹脂(Condensed Polynuclear Aromatic Resin)、通称COPNA樹脂とよばれ、原料となる縮合多環芳香族化合物の種類によって、例えば、ナフタレン系COPNA樹脂、ピレン系COPNA樹脂、コールタールピッチ系COPNA樹脂などとよばれている。
【0042】
まず、コールタールピッチにα―メチレンナフタレンを相溶化剤として添加し、これにPXG、PTSに加えてコールタールピッチ系COPNA樹脂を調製した。原料の混合割合は、コールタールピッチ約24g、PXG約13g、PTS約2.4g、αメチルナフタレン約6mlであった。室温で固体状のCOPNA樹脂を粉砕した後、ポリエチレングリコール(PEG)を加えて、混合した。ついでこれを不活性雰囲気下で数百℃から1000℃までの温度で加熱処理した。用いた装置の概略図を図4に示す。図4は、横型管状炉を用いたカーボンナノ材料の調製を示す図である。基本的に、炭素微小球、ファイバー、チューブを含め本発明のナノカーボンは、いずれも図4に示すような簡易な電気式管状炉の均熱部に試料を挿入した状態で、不活性ガスを流しながら、加熱処理を行うことによって生成させることができる。
【0043】
PEGとコールタールピッチ系COPNA樹脂との混合比、加熱処理温度を変えることで図1と図2に示すような形状のナノカーボンが生成した。具体的に、COPNA樹脂に対してポリエチレングリコールを重量比で約30wt%前後より少なくない範囲で加えて加熱すると、150℃以上で数十から数百nmまでの直径を持つ炭素微小球を得ることが確認された。
【0044】
さらに、図1の炭素微小球は、小さいものでは直径100nm以下で大きいものは1μmを越えるものまで調製できることが判明した。
【0045】
一方、ポリエチレングリコールを重量比で約30wt%を越えた範囲で加えて図に示した横型管状炉で加熱処理すると、数十から数百までの直径をもつカーボンナノファイバー(フィラメント)が生成することが判明した(図2)。
【0046】
実施例2
また、PEGの代わりにフェロセンを用いて実施例1と同様に実験を行った。その結果、図3に示すようなツイスト状のナノカーボンが生成した。このツイスト状ナノカーボンは、直径10〜20nm前後から数百nmまで調製できることが判明した。
【0047】
次に、SEMを用いて、試料の実体を観察し、TEMを用いて、試料の内部組織の様子を観察した。図2(a)は、SEM像を示す。図中のスケールは、1μmを示す(倍率で換算すれば、約20000倍)。図2(b)及び(c)は、TEM像を示す。図2(b)のスケールは、50nmであり、図2(c)のスケールは、10nmである。
【0048】
同様に、図3(a)は、SEM像を示す。図中のスケールは、1μmを示し(倍率で換算すれば、約10000倍)。図3(b)及び(c)は、TEM像を示す。図3(b)のスケールは、200nmであり、図3(c)のスケールは、100nmである。図2及び図3の試料について、透過型電子顕微鏡を用いて観察したところ、図2のものは、フィラメントであるが、図3のものは軸方向に中空になっておりチューブであることが判明した。
【0049】
実施例3
次に、フェロセンをヘキサンのような有機溶媒に溶解させた状態のものを原料とする以外、実施例1又は2と同様の手法により試験した。
【0050】
具体的に、原料の有機化合物としては、ヘキサン、シクロヘキサン、アセトン、エタノール、トルエンなどの極性又は無極性液状有機化合物とフェロセンとの混合物を調製した。これらは、有機溶媒として極めて安価な試薬でもある。
【0051】
1000℃付近まで上げた横型の管状炉に石英ガラス製の試験管のようなものを入れておき、この間の中に原料溶液をスプレイする。この様子を図5に示す。図5は、カーボンナノチューブを製造するための装置の一例を示す。生成物が取りだせるように予め管には黒鉛板を入れておく。スプレイ後から約5分後に石英管を炉から取り出す。取り出したものはストレートであるが、非常に多量のファイバーが生成する。
【0052】
これらの結果、カーボンナノチューブの生成状況を総合的に判断するとヘキサンが最もよく、ついでシクロヘキサンであった。アセトンではチューブは太く、エタノールでは繊維長が短いのが特徴であった。トルエンではチューブはツイストする傾向にあり、塊状のアモルファスカーボンも生成してくるという特徴があった。
【0053】
実施例4
次に、電気炉の石英管内部の温度変化を調べた。
図5に示すような装置を再び用いた。工程は、まず、一端を閉じた石英管の内部に黒鉛基板を置き、石英管内部をアルゴンがスで十分に置換した。置換しながら石英管を1000℃まで予熱した。ついで黒鉛基板上に試料溶液を注入した。
【0054】
また、液状試料溶液と固体状試料では試料の調製方法が異なっていた。液状試料溶液はフェロセンを該当する有機化合物に溶解させた後注射器に適量をとり、黒鉛基板状に噴霧した。原料有機化合物が常温で固体の場合はシリンジを使用しないで黒鉛基板上に直接混合物を置き、1000℃に予熱しておいた電気炉に石英管を挿入して急速に加熱した。
【0055】
具体的には、ヘキサンまたはシクロヘキサンなどに10%のフェロセンを溶解した試料溶液を調製した。これを注射器に適当量取り、図5に示した電気炉に噴霧して急速加熱分解を行わせた。
【0056】
その結果、石英管のみを図5の電気炉で急速に加熱した場合の石英管内部の温度変化は図6のようになった。
【0057】
この結果、噴霧した試料は数分内で1000℃近くまで加熱されて熱分解を受けることが分かる。図7にヘキサン、図8にシクロヘキサンから生成したカーボンナノチューブのSEM像を示す。このときの加熱時間は10秒以上であることが好ましい。図7は、ヘキサンとフェロセンを用いたときのSEMの写真を示す。図7(a)及び(b)の倍率は10000倍であり、スケールはともに1μmである。図7(c)の倍率は、1000倍であり、スケールは10μmである。図7(a)及び(b)から分かるように、本発明のナノカーボンファイバーの繊維径は、白抜きのスケールの長さ(1μm2)より短く細い。図7(c)は、今回行った実験で1回の試料導入で成長した固まりの一部を撮影したものである。おおよそ100μmくらいまで成長しているのが分かる。どのくらい成長するかは、試料の供給量などによって調製することが可能である。図示しないが、TEMの観察では、細いファイバーは、繊維径が8nmのものも観察された。
【0058】
また、図8は、シクロヘキサンとフェロセンを用いたときのSEMの写真を示す。倍率は左の写真(図8(a))は2,000倍であり、右の写真(図8(b)は500倍である。図8(a)において、白抜きのスケールの長さが10μmになっているので、繊維径はその長さより細いことがわかる。両方の写真はだいたい130μmくらいまで成長しているのも分かる。ただし、これらの数字は試料の供給量等によってさらに大きくなる。TEMで観察した際には細いものは繊維径が8nmであった。
【0059】
ヘキサンとシクロヘキサンとを用いたときの違いですが、SEMのレベルではあまり差は見られなかった。一方、TEMの場合、ヘキサンの方がより直線的に成長しており中空部もほぼ一定であることが分かった。
【0060】
また、アセトンではチューブは長いが太く、エタノールでは繊維長が短い。トルエンではチューブはツイストする傾向にあり、塊状のアモルファスカーボンも生成してくる。フェロセンの混合割合が低くなると、チューブと塊状の炭化物が生成した。
【0061】
COPNA樹脂やフェノール樹脂、コールタールピッチなどとフェロセンとの混合物は黒鉛基板状にあらかじめ載せておいてから1000℃の炉の中に入れて急速に加熱した。COPNA樹脂とフェロセン混合物ではツイストカーボンナノチューブが生成する傾向にあり、フェノール樹脂やコールタールピッチとフェロセンとの混合物では短いツイストカーボンナノチューブと長いカーボンナノチューブの混合物が生成し、なかにはφ1μm以下のナノスフィアの生成も認められた。
【0062】
実施例5
次に、ヘキサンとフェロセンを用いて、上記実施例と同様にナノカーボンを製造した。
ヘキサンとフェロセンの混合割合を0.01wt%とするとナノスフィアが生成するのが確認された。図9は、フェロセンとヘキサンで生成した微小球を示す写真である。左が20000倍、右が5000倍である。
図10は、ヘキサンとフェロセンの混合割合を3%とした場合であって、注入直後の写真を示す。注入直後であっても生成し始めているのが分かる。
図11は、フェロセンの濃度を1wt%として注入したときの写真を示す。1000℃で一定にしている電気炉中に、フェロセンの濃度を1wt%とした溶液10mlを入れたところチューブ長は約250μm2となった。したがって、チューブ長を長くすることが可能であることが判明した。
実施例6
次に、種々の溶媒を用いた場合のナノカーボンの様子を、上記実施例に記載の要領で、調べた。
図12は、ヘキサン系のTEM写真を示す。図13は、シクロヘキサン系のTEM写真を示す。図14は、エタノール系のTEM写真を示す。図15は、アセトン系のTEM写真を示す。いずれもナノファイバー又はナノチューブが生成されているのが確認できる。
【0063】
以上の結果、以下の点が判明した。まず、1)装置が簡便であること、2)ナノチューブの生成時間はほぼ瞬間であるので、迅速に量産可能であること、3)原料のヘキサンやシクロヘキサンは極めて安価であるので、コストを低減することが可能であること、4)生成したナノチューブは細いもので8nmくらいで繊維長を制御できること、5)1本のバンドルを形作るナノチューブはほぼ揃っって直線的であること、6)1本のバンドルを形作るナノチューブの長さはほぼ同じであること、7)この技術が非常に工業向きであること、など多くの利点を有することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明により製造されるナノカーボンを、例えば、黒鉛基板上に成長させることで、電気二重層キャパシタなどの電極に使用することができる。また、本発明のナノカーボンチューブは、液晶のバックライトなどナノカーボン材料に使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、本発明の一実施態様におけるナノカーボンの顕微鏡写真を示す図である。
【図2】図2は、本発明の一実施態様におけるナノカーボンの顕微鏡写真を示す図である。
【図3】図3は、本発明の一実施態様におけるナノカーボンの顕微鏡写真を示す図である。
【図4】図4は、横型管状炉を用いたカーボンナノ材料の調製の一例を示す図である。
【図5】図5は、カーボンナノチューブを製造するための装置の一例を示す。
【図6】図6は、石英管のみを図5の電気炉で急速に加熱した場合の石英管内部の温度変化を示す図である。
【図7】図7は、ヘキサンから生成したカーボンナノチューブのSEM像を示す。
【図8】図8は、シクロヘキサンから生成したカーボンナノチューブのSEM像を示す。
【図9】図9は、フェロセンとヘキサンで生成した微小球を示す写真である。左が20000倍、右が5000倍である。
【図10】図10は、ヘキサンとフェロセンの混合割合を3%とした場合であって、注入直後の写真を示す。
【図11】図11は、フェロセンの濃度を1wt%として注入したときの写真を示す。
【図12】図12は、ヘキサン系のTEM写真を示す。
【図13】図13は、シクロヘキサン系のTEM写真を示す。
【図14】図14は、エタノール系のTEM写真を示す。
【図15】図15は、アセトン系のTEM写真を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノカーボン材料、及び当該ナノカーボン材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノテクノロジーは、10億分の1メートルという極微な物質構造を扱う技術であり、製造技術を根本から変えるといわれる先端技術である。ナノテクノロジーにおいて、いわゆるフラーレン、カーボンナノチューブと呼ばれるナノカーボン材料が代表的素材である。
【0003】
このようなナノカーボン材料を製造する方法として、アーク放電法、レーザー蒸発法、化学気相成長法(CVD法)を挙げることができる。
【0004】
アーク放電法においては、大気圧よりやや低い圧力のアルゴンや水素雰囲気下、炭素棒の間に20V50A程度のアーク放電を行うと、陰極堆積物中にMWCNTが生成される。また、炭素棒中にニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜてアーク放電を行うと、容器の内側にすすとして付着する物質の中にSWCNTが生成される。また、触媒がないときは、多層式ナノチューブ(MWCNT)しか生成しないが、コバルトやニッケル、鉄などの金属触媒を加えると単層式ナノチューブ(SWCNT)が生成する。
【0005】
また、レーザー蒸発法においては、ニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜた炭素にYAGレーザーの強いパルス光を照射するとSWCNTが得られる。比較的高い純度のSWCNTを得ることをでき、また条件変更によりチューブ径の制御が可能である。この方法では、レーザー光強度、希ガス圧力、電気炉温度などいくつかの物理パラメータの制御が容易であり、CNTの形成と種々の物理パラメータの詳細な研究を可能とする。一般的な収率は、70重量%以下である。
【0006】
また、化学気相成長法(CVD法)によれば、炭素源となる炭素化合物を500〜1000℃で触媒金属微粒子と接触させることによりCNTが得られる。触媒金属の種類及びその配置の仕方、炭素化合物の種類などに種々のバリエーションがあり、条件の変更によりMWCNTとSWCNTのいずれも合成することが可能である。また、触媒を基板上に配置することにより基板面に垂直に配向したCNTを得ることも可能である。また、原料をガスとして供給できるために大量合成に最も向いている手法といわれている。
【0007】
また、Haoqing Hou等は、単一層カーボンナノチューブ(SWCNT)及び多層カーボンナノチューブ(MWCNT)のフェロセンからの合成に成功している。(Chem. Master. 2002, 14, 3990-3994)
【0008】
【非特許文献1】Chem. Master. 2002, 14, 3990-3994(2002 American Chemical Society published on Web 08/15/2002)
【非特許文献2】Xu J.-Z., et. al., Journal of the Science of Food and Agriculture, 83, 1617-1621,2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したアーク放電法によるものは、欠陥が少なく品質の良いCNTが得られるものの、量産的にナノカーボン材料を得るのは困難であるという問題点を有する。さらに、アーク放電法で作られたナノチューブは、種々なサイズのものが無秩序な方向へ堆積してしまい、一般的な収率は30重量%以下であるという欠点を有する。
【0010】
また、上記レーザー蒸発法は、収量が少なく、CNTの工業的製造技術としては困難である。また、装置が複雑で生産コストが高いという欠点を有する。
【0011】
また、上記CVD法においては、合成されたCNTは一般的に欠陥が多いという問題点を有する。すなわち、この方法においては、大量生産には向いているものの、SWNTの生成には向かず構造欠陥も多く、生成するナノチューブの質はあまり高いとはいえない。
【0012】
また、上述のHapqing 等によるものは、微小球にFeを含むことを前提とし、また製造方法はCVD法であるので、依然として生成物の構造欠陥が多いという欠点を有する。
【0013】
そこで、本発明は、構造欠陥が少ないナノカーボン材料を提供するとともに、高収率、かつ量産的に製造可能なナノカーボン材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、特定の出発原料を使用し、加熱処理を施すことにより本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明のナノカーボンは、平均直径が100nm 〜1μmの範囲にある炭素微小球からなることを特徴とする。
【0016】
また、本発明のナノカーボンは、繊維断面における平均直径が、10nm〜1μmの範囲にあるファイバーからなることを特徴とする。
【0017】
また、本発明のナノカーボンは、中空の平均内径が、10nm〜1μmの範囲にあるチューブからなることを特徴とする。
【0018】
また、本発明のナノカーボンの好ましい実施態様において、前記チューブが、多層であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明のナノカーボンの製造方法は、縮合多環多核芳香族樹脂と、ポリエチレングリコール(PEG)及び/又はフェロセン、100〜1000℃の温度範囲において、加熱処理することにより得られることを特徴とする。
【0020】
また、本発明のナノカーボンの製造方法の好ましい実施態様において、前記ポリエチレングリコール(PEG)の重量比が30重量%未満であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明のナノカーボンの製造方法の好ましい実施態様において、前記ポリエチレングリコール(PEG)の重量比が30重量%以上であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明のナノカーボンの製造方法の好ましい実施態様において、前記加熱処理を、常圧下で行うことを特徴とする。
【0023】
また、本発明のナノカーボンの製造方法の好ましい実施態様において、前記加熱処理を、0.01〜1MPaの加圧下で行うことを特徴とする。
【0024】
また、本発明のナノカーボンの製造方法の好ましい実施態様において、さらに、Fe、Ni,Coからなる群から選択される少なくとも1種の触媒の存在下で行うことを特徴とする。
【0025】
また、本発明のナノカーボンの製造方法の好ましい実施態様において、前記樹脂が、コールタールピッチ系であることを特徴とする。
【0026】
また、本発明のナノカーボンの製造方法の好ましい実施態様において、前記樹脂が、ピレン系であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明のナノカーボン材料の製造方法によれば、設備が極めて簡便であるという利点を有する。すなわち、不活性雰囲気のもとで横型管状炉を用いて加熱処理を行うだけでナノカーボン材料を供給し得る。
【0028】
また、本発明によれば、カーボンナノファイバとカーボンナノスフィアとを、原料の樹脂と添加物の混合割合によって作り分けることができるという有利な効果を奏する。
【0029】
また、本発明のカーボンナノスフィアは最高1000℃でもその形状を保つことができるという有利な効果を奏する。
【0030】
さらに、本発明によれば、カーボンナノファイバーとカーボンナノスフィア、ツイストカーボンナノチューブのいずれにおいても原料樹脂と添加物の混合ペーストを薄いフィルム状にキャスティングするか、若しくは基板上に塗布して焼くだけそれぞれの形状のものをパターニングすることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明のナノカーボンは、主として、炭素微小球、ファイバー、及びチューブ(ツイスト状のものを含む)に分類される。これらのナノカーボンは、用途に応じて、適切に選択されて、ナノカーボン材料として選択される。
【0032】
本発明の炭素微小球は、平均直径が100nm 〜1μmの範囲にある。当該微小球の平均直径は、例えば、後述するような本発明のナノカーボンの製造方法を使用して、適宜変更することができる。本発明のファイバーは、繊維断面における平均直径が、10nm〜1μmの範囲にある。このようなファイバーの繊維断面における平均直径もまた、例えば、後述するような本発明のナノカーボンの製造方法を使用して、適宜変更することができる。そして、本発明のチューブは、中空の平均内径が、10nm〜1μmの範囲にある。このチューブの平均内径もまた、例えば、後述するような本発明のナノカーボンの製造方法を使用して、適宜変更することができる。そして本発明のチューブは、好ましい実施態様において、多層であることを特徴とする。さらに、本発明のチューブは、好適には、後述する本発明のナノカーボンの製造方法を使用して、ツイスト状とすることもできる。
【0033】
次に、本発明のナノカーボンの製造方法について説明する。本発明のナノカーボンの製造方法は、縮合多環多核芳香族樹脂と、ポリエチレングリコール(PEG)及び/又はフェロセンを混合し、不活性雰囲気下、100〜1000℃の温度範囲において、加熱処理することにより得られる。まず、縮合多環多核芳香族樹脂について説明すると、これは、通称COPNA樹脂(Condensed Polynuclear Aromatic Resin)とよばれ、原料となる縮合多環芳香族化合物の種類によって、例えば、ナフタレン系COPNA樹脂、ピレン系COPNA樹脂、コールタールピッチ系COPNA樹脂などがある。縮合多環多核芳香族樹脂を使用すれば、上述のナノカーボン、とりわけ、炭素微小球、ファイバー、チューブ(ツイスト状)を製造することができる。
【0034】
本発明のチューブを製造する場合には、COPNA樹脂以外に、液状有機化合物、例えば、アセトン、トルエン、エタノール、シクロヘキサン、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、オクタン、ノナンなどを挙げることができる。これらの異性体も液状であれば基本的に原料になり得る。なお、形状とか反応の制御の容易さなどからはヘキサン、シクロヘキサン(優先順位はヘキサン)が良いという結果が得られている。
【0035】
当該COPNA樹脂と、ポリエチレングリコール(PEG)及び/又はフェロセンを混合し、加熱処理することによりナノカーボンを製造することができる。当該COPNA樹脂と、ポリエチレングリコール(PEG)及び/又はフェロセンを混合比率は、特に限定されないが、好ましい実施態様において、前記ポリエチレングリコール(PEG)の重量比が30重量%以下である。これは、PEGの混合比が30重量%未満であれば、炭素微小球のナノカーボンを形成することが可能であるという観点からである。
【0036】
また、別の好ましい実施態様において、ファイバー状のナノカーボンを得るという観点から、前記ポリエチレングリコール(PEG)の重量比が30重量%を越えることを特徴とする。
【0037】
また、ナノカーボンの製造方法は、特に限定されるものではないが、空気、酸素などが混入すると、原料が燃焼する傾向があるという観点から、不活性雰囲気下で行うことが好ましい。温度範囲についても、特に限定されるものではないが、100〜1000℃の温度範囲において加熱処理することが好ましい。低限を100℃としたのは、ポリエチレングリコールなどの添加する高分子の融点が60℃以上であることとCOPNA樹脂の軟化温度が100℃前後であるという観点からであり、上限を1000℃としたのは、普及されている電気炉の上限は1000℃で、それ以上はシリコニット炉、超高温炉などの高額な設備が必要であるという観点からである。なお、100〜1000℃の範囲外であっても、所望の用途のナノカーボンを製造することができるので、用途に応じて適宜温度範囲を決定することができる。前記加熱処理は、常圧下で行うことができ、また、別の好ましい実施態様において、例えば、0.01〜1MPaの加圧下で行うこともできる。
【0038】
そして、好ましい実施態様において、さらに、Fe、Ni,Coからなる群から選択される少なくとも1種の触媒の存在下で加熱処理を行うことができる。触媒については、微小球では触媒があってもなくてもどちらでも生成することができるが、チューブでは触媒が不可欠のようである。また、ナノファイバーでは、触媒があると生成しない傾向にある。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定して解釈される意図ではない。
【0040】
実施例1
本実施例において、p-トルエンスルホン酸―水和物(以下、PTSと略)を酸触媒、縮合多環芳香族化合物とp−キシリレングリコール(カタログ名、以下、PXGと略。学術名1,4−ベンゼンジメタノール)の混合物を反応原料として無溶媒系で調製した熱硬化性樹脂を使用した。
【0041】
この熱硬化性樹脂は、縮合多環多核芳香族樹脂(Condensed Polynuclear Aromatic Resin)、通称COPNA樹脂とよばれ、原料となる縮合多環芳香族化合物の種類によって、例えば、ナフタレン系COPNA樹脂、ピレン系COPNA樹脂、コールタールピッチ系COPNA樹脂などとよばれている。
【0042】
まず、コールタールピッチにα―メチレンナフタレンを相溶化剤として添加し、これにPXG、PTSに加えてコールタールピッチ系COPNA樹脂を調製した。原料の混合割合は、コールタールピッチ約24g、PXG約13g、PTS約2.4g、αメチルナフタレン約6mlであった。室温で固体状のCOPNA樹脂を粉砕した後、ポリエチレングリコール(PEG)を加えて、混合した。ついでこれを不活性雰囲気下で数百℃から1000℃までの温度で加熱処理した。用いた装置の概略図を図4に示す。図4は、横型管状炉を用いたカーボンナノ材料の調製を示す図である。基本的に、炭素微小球、ファイバー、チューブを含め本発明のナノカーボンは、いずれも図4に示すような簡易な電気式管状炉の均熱部に試料を挿入した状態で、不活性ガスを流しながら、加熱処理を行うことによって生成させることができる。
【0043】
PEGとコールタールピッチ系COPNA樹脂との混合比、加熱処理温度を変えることで図1と図2に示すような形状のナノカーボンが生成した。具体的に、COPNA樹脂に対してポリエチレングリコールを重量比で約30wt%前後より少なくない範囲で加えて加熱すると、150℃以上で数十から数百nmまでの直径を持つ炭素微小球を得ることが確認された。
【0044】
さらに、図1の炭素微小球は、小さいものでは直径100nm以下で大きいものは1μmを越えるものまで調製できることが判明した。
【0045】
一方、ポリエチレングリコールを重量比で約30wt%を越えた範囲で加えて図に示した横型管状炉で加熱処理すると、数十から数百までの直径をもつカーボンナノファイバー(フィラメント)が生成することが判明した(図2)。
【0046】
実施例2
また、PEGの代わりにフェロセンを用いて実施例1と同様に実験を行った。その結果、図3に示すようなツイスト状のナノカーボンが生成した。このツイスト状ナノカーボンは、直径10〜20nm前後から数百nmまで調製できることが判明した。
【0047】
次に、SEMを用いて、試料の実体を観察し、TEMを用いて、試料の内部組織の様子を観察した。図2(a)は、SEM像を示す。図中のスケールは、1μmを示す(倍率で換算すれば、約20000倍)。図2(b)及び(c)は、TEM像を示す。図2(b)のスケールは、50nmであり、図2(c)のスケールは、10nmである。
【0048】
同様に、図3(a)は、SEM像を示す。図中のスケールは、1μmを示し(倍率で換算すれば、約10000倍)。図3(b)及び(c)は、TEM像を示す。図3(b)のスケールは、200nmであり、図3(c)のスケールは、100nmである。図2及び図3の試料について、透過型電子顕微鏡を用いて観察したところ、図2のものは、フィラメントであるが、図3のものは軸方向に中空になっておりチューブであることが判明した。
【0049】
実施例3
次に、フェロセンをヘキサンのような有機溶媒に溶解させた状態のものを原料とする以外、実施例1又は2と同様の手法により試験した。
【0050】
具体的に、原料の有機化合物としては、ヘキサン、シクロヘキサン、アセトン、エタノール、トルエンなどの極性又は無極性液状有機化合物とフェロセンとの混合物を調製した。これらは、有機溶媒として極めて安価な試薬でもある。
【0051】
1000℃付近まで上げた横型の管状炉に石英ガラス製の試験管のようなものを入れておき、この間の中に原料溶液をスプレイする。この様子を図5に示す。図5は、カーボンナノチューブを製造するための装置の一例を示す。生成物が取りだせるように予め管には黒鉛板を入れておく。スプレイ後から約5分後に石英管を炉から取り出す。取り出したものはストレートであるが、非常に多量のファイバーが生成する。
【0052】
これらの結果、カーボンナノチューブの生成状況を総合的に判断するとヘキサンが最もよく、ついでシクロヘキサンであった。アセトンではチューブは太く、エタノールでは繊維長が短いのが特徴であった。トルエンではチューブはツイストする傾向にあり、塊状のアモルファスカーボンも生成してくるという特徴があった。
【0053】
実施例4
次に、電気炉の石英管内部の温度変化を調べた。
図5に示すような装置を再び用いた。工程は、まず、一端を閉じた石英管の内部に黒鉛基板を置き、石英管内部をアルゴンがスで十分に置換した。置換しながら石英管を1000℃まで予熱した。ついで黒鉛基板上に試料溶液を注入した。
【0054】
また、液状試料溶液と固体状試料では試料の調製方法が異なっていた。液状試料溶液はフェロセンを該当する有機化合物に溶解させた後注射器に適量をとり、黒鉛基板状に噴霧した。原料有機化合物が常温で固体の場合はシリンジを使用しないで黒鉛基板上に直接混合物を置き、1000℃に予熱しておいた電気炉に石英管を挿入して急速に加熱した。
【0055】
具体的には、ヘキサンまたはシクロヘキサンなどに10%のフェロセンを溶解した試料溶液を調製した。これを注射器に適当量取り、図5に示した電気炉に噴霧して急速加熱分解を行わせた。
【0056】
その結果、石英管のみを図5の電気炉で急速に加熱した場合の石英管内部の温度変化は図6のようになった。
【0057】
この結果、噴霧した試料は数分内で1000℃近くまで加熱されて熱分解を受けることが分かる。図7にヘキサン、図8にシクロヘキサンから生成したカーボンナノチューブのSEM像を示す。このときの加熱時間は10秒以上であることが好ましい。図7は、ヘキサンとフェロセンを用いたときのSEMの写真を示す。図7(a)及び(b)の倍率は10000倍であり、スケールはともに1μmである。図7(c)の倍率は、1000倍であり、スケールは10μmである。図7(a)及び(b)から分かるように、本発明のナノカーボンファイバーの繊維径は、白抜きのスケールの長さ(1μm2)より短く細い。図7(c)は、今回行った実験で1回の試料導入で成長した固まりの一部を撮影したものである。おおよそ100μmくらいまで成長しているのが分かる。どのくらい成長するかは、試料の供給量などによって調製することが可能である。図示しないが、TEMの観察では、細いファイバーは、繊維径が8nmのものも観察された。
【0058】
また、図8は、シクロヘキサンとフェロセンを用いたときのSEMの写真を示す。倍率は左の写真(図8(a))は2,000倍であり、右の写真(図8(b)は500倍である。図8(a)において、白抜きのスケールの長さが10μmになっているので、繊維径はその長さより細いことがわかる。両方の写真はだいたい130μmくらいまで成長しているのも分かる。ただし、これらの数字は試料の供給量等によってさらに大きくなる。TEMで観察した際には細いものは繊維径が8nmであった。
【0059】
ヘキサンとシクロヘキサンとを用いたときの違いですが、SEMのレベルではあまり差は見られなかった。一方、TEMの場合、ヘキサンの方がより直線的に成長しており中空部もほぼ一定であることが分かった。
【0060】
また、アセトンではチューブは長いが太く、エタノールでは繊維長が短い。トルエンではチューブはツイストする傾向にあり、塊状のアモルファスカーボンも生成してくる。フェロセンの混合割合が低くなると、チューブと塊状の炭化物が生成した。
【0061】
COPNA樹脂やフェノール樹脂、コールタールピッチなどとフェロセンとの混合物は黒鉛基板状にあらかじめ載せておいてから1000℃の炉の中に入れて急速に加熱した。COPNA樹脂とフェロセン混合物ではツイストカーボンナノチューブが生成する傾向にあり、フェノール樹脂やコールタールピッチとフェロセンとの混合物では短いツイストカーボンナノチューブと長いカーボンナノチューブの混合物が生成し、なかにはφ1μm以下のナノスフィアの生成も認められた。
【0062】
実施例5
次に、ヘキサンとフェロセンを用いて、上記実施例と同様にナノカーボンを製造した。
ヘキサンとフェロセンの混合割合を0.01wt%とするとナノスフィアが生成するのが確認された。図9は、フェロセンとヘキサンで生成した微小球を示す写真である。左が20000倍、右が5000倍である。
図10は、ヘキサンとフェロセンの混合割合を3%とした場合であって、注入直後の写真を示す。注入直後であっても生成し始めているのが分かる。
図11は、フェロセンの濃度を1wt%として注入したときの写真を示す。1000℃で一定にしている電気炉中に、フェロセンの濃度を1wt%とした溶液10mlを入れたところチューブ長は約250μm2となった。したがって、チューブ長を長くすることが可能であることが判明した。
実施例6
次に、種々の溶媒を用いた場合のナノカーボンの様子を、上記実施例に記載の要領で、調べた。
図12は、ヘキサン系のTEM写真を示す。図13は、シクロヘキサン系のTEM写真を示す。図14は、エタノール系のTEM写真を示す。図15は、アセトン系のTEM写真を示す。いずれもナノファイバー又はナノチューブが生成されているのが確認できる。
【0063】
以上の結果、以下の点が判明した。まず、1)装置が簡便であること、2)ナノチューブの生成時間はほぼ瞬間であるので、迅速に量産可能であること、3)原料のヘキサンやシクロヘキサンは極めて安価であるので、コストを低減することが可能であること、4)生成したナノチューブは細いもので8nmくらいで繊維長を制御できること、5)1本のバンドルを形作るナノチューブはほぼ揃っって直線的であること、6)1本のバンドルを形作るナノチューブの長さはほぼ同じであること、7)この技術が非常に工業向きであること、など多くの利点を有することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明により製造されるナノカーボンを、例えば、黒鉛基板上に成長させることで、電気二重層キャパシタなどの電極に使用することができる。また、本発明のナノカーボンチューブは、液晶のバックライトなどナノカーボン材料に使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、本発明の一実施態様におけるナノカーボンの顕微鏡写真を示す図である。
【図2】図2は、本発明の一実施態様におけるナノカーボンの顕微鏡写真を示す図である。
【図3】図3は、本発明の一実施態様におけるナノカーボンの顕微鏡写真を示す図である。
【図4】図4は、横型管状炉を用いたカーボンナノ材料の調製の一例を示す図である。
【図5】図5は、カーボンナノチューブを製造するための装置の一例を示す。
【図6】図6は、石英管のみを図5の電気炉で急速に加熱した場合の石英管内部の温度変化を示す図である。
【図7】図7は、ヘキサンから生成したカーボンナノチューブのSEM像を示す。
【図8】図8は、シクロヘキサンから生成したカーボンナノチューブのSEM像を示す。
【図9】図9は、フェロセンとヘキサンで生成した微小球を示す写真である。左が20000倍、右が5000倍である。
【図10】図10は、ヘキサンとフェロセンの混合割合を3%とした場合であって、注入直後の写真を示す。
【図11】図11は、フェロセンの濃度を1wt%として注入したときの写真を示す。
【図12】図12は、ヘキサン系のTEM写真を示す。
【図13】図13は、シクロヘキサン系のTEM写真を示す。
【図14】図14は、エタノール系のTEM写真を示す。
【図15】図15は、アセトン系のTEM写真を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均直径が100nm 〜1μmの範囲にある炭素微小球からなるナノカーボン。
【請求項2】
繊維断面における平均直径が、10nm〜1μmの範囲にあるファイバーからなるナノカーボン。
【請求項3】
中空の平均内径が、10nm〜1μmの範囲にあるチューブからなるナノカーボン。
【請求項4】
前記チューブが、多層である請求項3記載のナノカーボン。
【請求項5】
縮合多環多核芳香族樹脂と、ポリエチレングリコール(PEG)及び/又はフェロセンを混合し、不活性雰囲気下、100〜1000℃の温度範囲において、加熱処理することにより得られることを特徴とするナノカーボンの製造方法。
【請求項6】
前記ポリエチレングリコール(PEG)の重量比が30重量%未満である請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記ポリエチレングリコール(PEG)の重量比が30重量%以上である請求項5記載の方法。
【請求項8】
前記加熱処理を、常圧下で行う請求項5〜7項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記加熱処理を、0.01〜1MPaの加圧下で行う請求項5〜7項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
さらに、Fe、Ni,Coからなる群から選択される少なくとも1種の触媒の存在下で行う請求項5〜9項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記樹脂が、コールタールピッチ系である請求項5〜10項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記樹脂が、ピレン系である請求項5〜10項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項1】
平均直径が100nm 〜1μmの範囲にある炭素微小球からなるナノカーボン。
【請求項2】
繊維断面における平均直径が、10nm〜1μmの範囲にあるファイバーからなるナノカーボン。
【請求項3】
中空の平均内径が、10nm〜1μmの範囲にあるチューブからなるナノカーボン。
【請求項4】
前記チューブが、多層である請求項3記載のナノカーボン。
【請求項5】
縮合多環多核芳香族樹脂と、ポリエチレングリコール(PEG)及び/又はフェロセンを混合し、不活性雰囲気下、100〜1000℃の温度範囲において、加熱処理することにより得られることを特徴とするナノカーボンの製造方法。
【請求項6】
前記ポリエチレングリコール(PEG)の重量比が30重量%未満である請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記ポリエチレングリコール(PEG)の重量比が30重量%以上である請求項5記載の方法。
【請求項8】
前記加熱処理を、常圧下で行う請求項5〜7項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記加熱処理を、0.01〜1MPaの加圧下で行う請求項5〜7項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
さらに、Fe、Ni,Coからなる群から選択される少なくとも1種の触媒の存在下で行う請求項5〜9項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記樹脂が、コールタールピッチ系である請求項5〜10項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記樹脂が、ピレン系である請求項5〜10項のいずれか1項に記載の方法。
【図4】
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−219358(P2006−219358A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−36645(P2005−36645)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】
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