説明

ナノコンポジット、ナノコンポジットの製造方法及び面発光素子

【課題】強い分子間力を有するポリイミド中に、粒子自体の凝集性が高い高屈折率の無機粒子を均一に分散させることが可能な新規な手法を用いることにより、耐熱性や透明性に優れた高屈折率のナノコンポジットとその製造方法を提供し、さらには、このナノコンポジットを用いることで発光効率が向上した面発光素子を提供する。
【解決手段】ポリイミドからなるマトリックス樹脂11中に、イミド骨格を有する官能基12aで表面が修飾された無機酸化物微粒子12を分散させることで、屈折率が1.7以上であり、ヘイズ値が10%以下であり、かつ、示差熱重量分析装置で測定した5%重量減少温度が450℃以上であるナノコンポジット10を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機微粒子をマトリックス樹脂中に分散させたナノコンポジットとその製造方法、及び、ナノコンポジットを用いた面発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機樹脂材料は、軽量かつ加工が容易であるため、様々な分野で適用されている。これに対して、近年では、有機樹脂材料のもつ軽量かつ加工容易性という特性に加えて、電気的特性、機械的強度、光学特性といった付加特性が必要となってきた。そこで、従来の有機樹脂材料単独ではなしえない電気的特性、機械的強度、光学特性などの特性などを満たすため、これらの特性に優れた無機材料を有機材料に複合化させ、両者の特徴を併せ持ったコンポジット材料の研究が数多くなされてきている。例えば、ポリイミドの持つ耐熱性と無機粒子の持つ機械的強度を複合させた例として、末端をケイ素で修飾したポリアミック酸を用いて粒子径が10μm程度のシリカ粒子を被覆してイミド化処理を行った無機充填剤および半導体装置が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
一方で、コンポジット材料を光学分野へ適用する場合には、無機粒子を有機樹脂中にナノレベルで一次粒子の状態で凝集させることなく分散させる必要があり、特に、プラスチックレンズ、カメラモジュールなどの用途には、屈折率の高い無機粒子を樹脂中に分散させる必要がある。しかし、酸化ジルコニウム、酸化チタンに代表される屈折率の高い粒子は凝集力が高く、また、分散させる樹脂との屈折率差が大きくなるため、高屈折率かつ高い透明性の材料を作るためには、ナノレベルで凝集させることなく粒子を分散させる必要がある。
【0004】
有機樹脂中に無機粒子をナノレベルで分散させる方法としては、例えば、ゾル−ゲル法によるin situの合成法や、機械的手法によって分散された微粒子に対して分散剤を用いて粒子表面を被覆することにより二次凝集を抑制する手法、またはシランカップリング剤を用いて粒子表面に化学的な結合を形成することにより二次凝集を防ぐ手法等が採用されている。
【0005】
これらのうちで、分散された微粒子に対して分散剤を用いて粒子表面を被覆することにより二次凝集を抑制する手法については、例えば、特許文献2のように、金属酸化物微粒子に対して適当な分散剤を2〜50%加えて分散させた後、高分子バインダーと混合させる方法が提案されている。また、シランカップリング剤を用いて粒子表面に化学的な結合を形成することにより二次凝集を防ぐ手法は、例えば、特許文献3にあるように、フルオレン骨格、アントラセン環、ジベンゾチオフェン環、スチルベン環、ビフェニル骨格およびナフタレン環の内からなる群より選ばれる骨格を、シランカップリング剤を介して無機粒子表面に修飾する方法などが提案されている。
【0006】
また、ナノ微粒子を分散させた従来のナノコンポジット膜を光学デバイスの構成要素として応用することを考えた場合、実装工程において、金属の蒸着などの際に高温にさらされることが多い。したがって、高い耐熱性を有するナノコンポジット膜が必要であるが、従来のナノコンポジット膜に関する研究では、汎用性のポリマーを使用した例が大半であり、このようなポリマーを使用した場合、高温を伴う実装工程でナノコンポジット膜が劣化するという問題を解決できなかった。
【0007】
このような問題が解決するために、最近では、高い耐熱性を持つ透明性のポリマーを用いてナノコンポジット膜を作製する試みが行われており、高い耐熱性を持つ代表的なポリマーとしてポリイミドが検討されている。ポリイミドは、分子構造の繰り返し単位にイミド結合(C=O−NR−C=O)を持つポリマーの総称であり、芳香族化合物が直接イミド結合で連結された環状イミド構造を持つポリマーは、芳香族同士がイミド結合を介して共役構造を持つため、剛直で強固な分子構造を持つ。また、イミド結合は極性が高く、強い分子間力を有することから、分子鎖間の結合力も強固なものとなる。そのため、環状イミド構造をもつ芳香族ポリイミドは高分子中で高い熱的、機械的、化学的に安定で強固な性質を持っているため、工業的にも多く用いられている。このことから、ポリイミドに対して無機微粒子をナノレベルで分散させたナノコンポジット材料の開発が求められている。例えば、特許文献4に開示された技術があり、特定の骨格を有するポリイミドと無機酸化物、無機硫化物とを複合化させている。
【0008】
また、例えば、非特許文献1には、数μm程度のチタン酸バリウムの過酸化水素で処理し、アミノプロピルトリエトキシシランで修飾した後、ポリアミック酸で表面被覆する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平05−51541号公報
【特許文献2】特開2001−164136号公報
【特許文献3】特開2009−298955号公報
【特許文献4】特開2001−348477号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Macromolecular Research,Vol.18,No.2,pp.200−203(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載された手法により末端をケイ素で修飾したポリアミック酸を用いて無機充填剤を被覆しイミド化処理を行うと、ポリアミック酸が持つ強い分子間力によりナノレベルで無機微粒子を分散させることができない、という問題があった。
【0012】
また、特許文献2に記載のように、有機の分散剤を用いて微粒子の表面を被覆することにより、分散性を向上させることはできるが、用いた分散剤が高温での処理により揮発または劣化し、これにより作製した膜が劣化してしまう、という問題があった。さらに、特許文献3の技術に関しても、同様に有機樹脂としてエポキシ樹脂やアクリル樹脂を用いていることにより、高温での処理が必要な部材への適用は困難である、という問題があった。以上の検討から、耐熱性を持つコンポジット材料には、ポリイミド等のような高耐熱性の有機樹脂組成物を用いる必要があることがわかった。
【0013】
また、上述したように、ポリイミドと無機微粒子を混合するという技術は特許文献4に示されている。しかし、本発明者が検討したところ、特許文献4には、微粒子の分散方法について特別な記載はないが、強い分子間力を有するポリイミド中に、一般的な方法で無機粒子を分散させようとしても、無機粒子とポリイミドとの相互作用により粒子が凝集してしまい、ナノレベルでの分散性を向上させることはできない、ということがわかった。
【0014】
さらに、非特許文献1に記載されているチタン酸バリウムとポリイミドのナノコンポジットに関しては、この手法を用いた場合、チタン酸バリウムの粒子径が1μm程度と大きな状態であるため、膜内での光の散乱を防ぐことができず、光学用途に使用するには適していない。
【0015】
このように、高屈折率の無機粒子であるチタン酸バリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウムなどは粒子自体の凝集性が高く、従来の分散剤では耐熱性を維持したまま上記粒子をナノレベルで均一に分散させることは困難であり、また、分子間力が強く、耐熱性が高いポリイミドに対して特異的に分散性を向上させる手法については、これまでに提案されていなかった。
【0016】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、強い分子間力を有するポリイミド中に、粒子自体の凝集性が高い高屈折率の無機粒子を均一に分散させることが可能な新規な手法を用いることにより、耐熱性や透明性に優れた高屈折率のナノコンポジットとその製造方法を提供し、さらには、このナノコンポジットを用いることで発光効率が向上した面発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するために、高屈折率の無機酸化物微粒子を高い耐熱性を有するポリイミドまたはポリアミック酸中にナノレベルで均一に分散させる方法について鋭意検討を行った結果、高屈折率の無機酸化物微粒子の表面を、イミド骨格を有する官能基で修飾することにより、強い分子間力を有するポリイミドへの高屈折率の無機酸化物微粒子の分散性が特異的(選択的)に向上することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明のある観点によれば、ポリイミドからなるマトリックス樹脂中に、イミド骨格を有する官能基で表面が修飾された無機酸化物微粒子が分散しているナノコンポジットであって、屈折率が1.7以上であり、ヘイズ値が10%以下であり、かつ、示差熱重量分析装置で測定した5%重量減少温度が450℃以上である、ナノコンポジットが提供される。
【0019】
ここで、前記ナノコンポジットにおいて、前記無機酸化物微粒子が、酸化チタン、酸化ジルコニウム、及びチタン酸バリウムからなる群より選択される少なくとも1種の酸化物からなるものであることが好ましく、特に、チタン酸バリウムであることが好ましい。
【0020】
また、前記無機酸化物微粒子の平均粒子径が、2nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0021】
また、本発明の別の観点によれば、下記一般式(1)で示されるアミノ基を含有するシランカップリング剤又は下記一般式(2)で示されるアミノ基を含有するリン酸エステル化合物で無機酸化物微粒子の表面を修飾した後に、前記アミノ基の少なくとも一部をイミド化させ、無機酸化物微粒子の表面がイミド骨格を有する官能基で修飾された表面修飾無機酸化物微粒子を得る工程と、前記表面修飾無機酸化物微粒子をポリアミック酸と混合し、該混合物を加熱処理する工程と、を含むナノコンポジットの製造方法が提供される。
【0022】
【化1】


(前記式(1)で、Rは、炭素数が1以上のアルキル基または炭素数が1以上のアリール基(アルキル基とアリール基のうちの少なくともいずれか一方は、N原子またはO原子を含む置換基により置換されていてもよい。)を示し、R’は、アルキル基、アリール基、−OCHまたは−OCを示し、R’’は、アルキル基またはアリール基を示す。)

【化2】


(前記式(2)で、Rは、炭素数2以上の有機基を示し、R’は、Hまたはアルキル基を示す。)

【0023】
また、本発明のさらに別の観点によれば、上記一般式(1)で示されるアミノ基を含有するシランカップリング剤又は上記一般式(2)で示されるアミノ基を含有するリン酸エステル化合物で無機酸化物微粒子表面を修飾した後に、前記アミノ基の少なくとも一部をイミド化させ、無機酸化物微粒子の表面がイミド骨格を有する官能基で修飾された表面修飾無機酸化物微粒子を得る工程と、前記表面修飾無機酸化物微粒子とジアミンと酸二無水物とを混合した後に、前記ジアミンと前記酸二無水物とを反応させ、前記表面修飾無機酸化物微粒子とポリアミック酸との混合物を生成し、該混合物を加熱処理する工程と、を含むナノコンポジットの製造方法が提供される。
【0024】
また、本発明のさらに別の観点によれば、透明基板上に上述したナノコンポジットからなる被覆層が被覆された透光性基板と、前記透光性基板上に積層された透明導電膜と、前記透明導電膜上に積層された有機EL層と、を備える面発光素子が提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、無機酸化物微粒子の表面を、イミド骨格を有する官能基で修飾することにより、強い分子間力を有するポリイミド中に、粒子自体の凝集性が高い高屈折率の無機粒子を均一に分散させることができ、これにより、耐熱性や透明性に優れた高屈折率のナノコンポジットとその製造方法を提供し、さらには、このナノコンポジットを用いることで発光効率が向上した面発光素子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の好適な実施形態に係るナノコンポジットの構成を示す説明図である。
【図2】同実施形態に係る表面修飾無機酸化物微粒子の構造を示す説明図である。
【図3】無機酸化物微粒子表面へアミノ基が導入される機構の一例を示す説明図である。
【図4】無機酸化物微粒子の表面に導入されたアミノ基をイミド化する機構の一例を示す説明図である。
【図5】本発明の好適な実施形態に係る面発光素子の断面構成を示す説明図である。
【図6】本発明の実施例と比較例の電流−電圧特性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0028】
(1.ナノコンポジットの構成)
まず、図1を参照しながら、本発明の好適な実施形態に係るナノコンポジットの構成について説明する。図1は、本発明の好適な実施形態に係るナノコンポジットの構成を示す説明図である。なお、ナノコンポジットとは、一般的に、ある素材を1〜100nm程度のオーダーで粒子化したものを、別の素材中に分散させた複合材料の総称をいう。以下、本発明に係るナノコンポジットの構成成分と物性について詳細に説明する。
【0029】
(1.1.ナノコンポジットの構成成分)
図1に示すように、本発明の好適な実施形態に係るナノコンポジット10は、マトリックス樹脂11中に、所定の官能基で表面が修飾された無機酸化物微粒子12を分散させたものである。
【0030】
<マトリックス樹脂11>
ナノコンポジット10の構成成分であるマトリックス樹脂11は、ポリイミドからなるものである。ポリイミドとは、例えば、下記一般式(3)および(4)で示されるような、(C=O−NR−C=O)で示されるイミド構造を有する物質の総称であるが、本実施形態におけるポリイミドとしては、耐熱性や化学的な安定性を考慮して、芳香族化合物が直接イミド結合で連結された環状イミド構造を持つ芳香族ポリイミドが好適に用いられる。また、光学的用途(例えば、有機EL素子のような面発光素子)への応用を考えた場合には、マトリックス樹脂11として、高い透明性を有し、かつ、高い屈折率を有するポリイミドを使用することが重要である。
【0031】
【化3】

【0032】
【化4】

【0033】
ここで、ポリイミドは、モノマーとして、下記一般式(5)で示されるジアミンと、下記一般式(6)で示される酸二無水物とを共重合させて得られるポリマーであり、これらモノマーであるジアミンおよび酸二無水物を幅広く選定できることから、分子設計が可能であり、用途に応じて、様々なポリイミドを合成することができる。
【0034】
【化5】

【0035】
【化6】

【0036】
本実施形態に係るナノコンポジット10の用途としては特に限定されるものではないが、有機EL素子のような面発光素子のような光学用途にナノコンポジット10を用いることを考慮すると、マトリックス樹脂11として用いるポリイミドとしては、高屈折率を有し、高い透明性や耐熱性を有するものを使用することが好適である。
【0037】
以上のような観点から、本実施形態で用いるポリイミドの原料となるポリマーのうち、ジアミンとしては、芳香族環を含むジアミンであれば特に制限されず、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、ベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、オクタフルオロベンジジン、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジフルオロ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,6−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(2−メチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(2−メチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(2−メチル−4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(2−メチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)エーテル、ビス(4−(2−メチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)エーテル、ビス(4−(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)エーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−メチル−4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(2−メチル−4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(3−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(3−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)4−メチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)ノルボルナン、1,1−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)ノルボルナン、1,1−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)ノルボルナン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)アダマンタン、1,1−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)アダマンタン、1,1−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)アダマンタン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンなどを使用することができる。ただし、高屈折率の材料で高い透明性を発現させるためには、ポリイミドの分子内に芳香環を有し、さらに非対称を与える(−O−や−SO−)のような分子内に非対称性を与える置換基の導入が効果的であることから、S原子を含有するビス(3−アミノフェニル)スルホンなどを用いることが好ましい。
【0038】
また、酸二無水物としては、一般的に芳香族環を有する酸無水物であれば特に限定されず、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(p−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4’−(m−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物、3−カルボキシメチル−1,2,4−シクロペンタントリカルボン酸二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物等が挙げられる。
【0039】
これらのジアミンや酸二無水物は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
また、ポリイミドやポリアミック酸の原料として、上述したジアミンや酸二無水物の他に、屈折率や透明性を低下させない程度に基材に対する接着性を向上させる成分として、シリコーンのジアミンや側鎖にアルキル基、酸などを含んだジアミンまたは酸二無水物を用いてもよい。具体的には、シリコーンを含んだジアミンとして、KF8010、X−22−161A、X−22−161B(信越シリコーン社製)、側鎖にアルキル基を含んだジアミンとして、4,4’−ジアミノ−3−ドデシルジフェニルエーテル、1−オクタデカノキシ−2,4ジアミノベンゼンなどがある。
【0041】
<無機酸化物微粒子12>
ナノコンポジット10の構成成分である無機酸化物微粒子12としては、特に限定されず、例えば、酸化ジルコニウム、イットリア添加酸化ジルコニウム、ジルコン酸鉛、チタン酸ストロンチウム、チタン酸スズ、酸化スズ、酸化ビスマス、酸化ニオブ、酸化タンタル、タンタル酸カリウム、酸化タングステン、酸化セリウム、酸化ランタン、酸化ガリウム等、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム等が挙げられる。これらのうち、ナノコンポジット10を光学用途に用いる場合には、無機酸化物微粒子12として、屈折率の高い酸化チタン、チタン酸バリウム(屈折率=2.4)、酸化ジルコニウム(屈折率=2.1)を用いることが好ましい。酸化チタンは、主にルチル型(屈折率=2.7)とアナターゼ型(屈折率=2.5)の2種類の結晶構造を有するが、アナターゼ型の酸化チタンは光触媒活性が高く、光学的な用途への使用にはあまり適さない。一方、上記に挙げた無機酸化物微粒子の中で、チタン酸バリウムは、屈折率が高く、かつ、光触媒活性が低いため、無機酸化物微粒子12として好適に用いられる。
【0042】
また、無機酸化物微粒子12の平均粒子径は、2nm以上100nm以下であることが好ましい。平均粒子径が2nm未満であると、粒子が不安定になり、二次凝集が生じやすく、ナノコンポジット10の塗膜作製時に白化するおそれがある。また、平均粒子径が2nm未満でかつ結晶性の高い粒子を得ることは困難である。一方、平均粒子径が100nmを超えると、粒子径が大きすぎて、ナノコンポジット10の塗膜に均一性を得ることができず、塗膜の透明性が得られないおそれがあり、また、光の散乱が大きくなるため、光学的に透明なコンポジットを得ることが困難である。なお、本実施形態に係る平均粒子径は、1次粒子の数平均粒子径を意味する。また、無機酸化物微粒子12の平均粒子径の測定方法としては、一次粒子の粒径を直接測定する方法として、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて粒子径を直接測定する直接観察法を用いる。本発明のナノコンポジットでは、無機酸化物微粒子の一次粒子の粒子径としては、前述したとおりに、2nm以上100nm以下であること好ましいが、一次粒子径がこの範囲にあっても、無機酸化物微粒子のマトリックス樹脂への分散がうまくいかない場合には、無機酸化物微粒子同士が凝集状態となる。このような状態は、一次粒子同士が会合した二次粒子の粒子径も含めた測定を行う動的光散乱法を用いて測定した二次粒子径が極端に大きく観測されることによって確認できる。すなわち、動的光散乱法による粒子径の測定は、好ましい分散状態となっているかの指標として参考とすることができる。好ましい分散状態になっているか否かの判断としては、例えば、以下のような基準で判断することができる。動的光散乱法により測定した無機酸化物微粒子12の平均粒子径が、直接観察法により測定した平均粒子径の10倍以下となっている場合には、好ましい分散状態となっていると判断することができる。
【0043】
ここで、無機粒子の結晶性や粒径の制御範囲は合成法によって大きく変化するが、無機酸化物微粒子12の合成法としては、例えば、金属アルコキシド重合法(ゾル−ゲル法)や水熱合成法などの液相法を用いることができる。金属アルコキシド重合法では、BaやTi等の金属アルコキシドを加水分解した後に、脱アルコール反応または脱水反応により、重縮合を行うことで、金属酸化物を生成する。そして、重縮合の際に用いる溶媒種の組成、重合開始時の水濃度や反応温度を調整することで、無機酸化物微粒子12の粒子径を制御することができる。また、生成される無機酸化物微粒子12の結晶性は、反応温度が高いほど高く、低温ではアモルファスの粒子が合成されやすい。また、水熱合成法は、高温および高圧条件下で酸化物微粒子を合成する手法であり、密閉系で合成される。なお、水熱合成法は、比較的低温で酸化物微粒子を合成できる一方、反応時間が長い、装置のランニングコストが高い、純度が金属アルコキシド重合法に比べて低いなどの問題があるため、金属アルコキシド重合法を用いることが好ましい。
【0044】
また、本実施形態に係る無機酸化物微粒子12は、その表面がイミド骨格を有する置換基で修飾されている。ここで、図2を参照しながら、無機酸化物微粒子12の表面がイミド骨格を有する官能基で修飾された表面修飾無機酸化物微粒子の構造及び機能について説明する。図2は、本実施形態に係る表面修飾無機酸化物微粒子の構造を示す説明図である。
【0045】
図2に示すように、無機酸化物微粒子12は、その表面が、図2において四角で囲ったイミド骨格(イミド構造)を有する置換基12aで修飾されている。このように、無機酸化物微粒子12が表面にイミド構造を有していることにより、酸化物微粒子12表面のイミド構造と、マトリックス樹脂11に用いられるポリイミド中のイミド構造とが相互作用により安定化する。そのため、無機酸化物微粒子12の表面がイミド骨格を有する官能基で修飾された表面修飾無機酸化物微粒子は、ポリイミドに対して選択的に分散性を向上させることができる。
【0046】
すなわち、無機酸化物微粒子12の表面にイミド骨格を有する置換基12aを修飾することにより、ポリイミド(およびその前駆体であるポリアミック酸)との親和性が向上し、無機酸化物微粒子12の凝集抑制に効果的に働く。このように、ポリイミド等との親和性が向上した理由として、本発明者は、以下のように考えている。すなわち、イミド構造を無機酸化物微粒子12の表面に導入することにより、無機酸化物微粒子12表面のイミドカルボニル酸素と、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸のアミド結合およびカルボキシル基の水素との間で、水素結合を形成することで、無機酸化物微粒子12とポリアミック酸との親和性が向上する。
【0047】
また、置換基12aが、イミド構造中にベンゼン環(フェニル基)を有することにより、無機酸化物微粒子12と、ポリイミドまたはポリアミック酸中のベンゼン環との間に、スタッキングまたは電荷移動相互作用が生じ、無機酸化物微粒子12の凝集抑制に効果があるものと考えられる。
【0048】
なお、置換基12aの修飾は、アミノ基を有するシランカップリング剤または、アミノ基を含有するリン酸エステル化合物で表面処理を行うことにより導入されるアミノ基に対して酸無水物を反応させ、アミノ基をイミド化することによりなされる。この表面修飾の方法の詳細や、アミノ基を有するシランカップリング剤およびアミノ基を含有するリン酸エステル化合物の具体例については後述する。
【0049】
(1.2.ナノコンポジットの物性)
本実施形態に係るナノコンポジット10は、以下の(A)〜(C)の物性を兼ね備えることが必要である。
(A)屈折率が1.7以上であること。
(B)ヘイズ(Haze)値が10%以下であること。
(C)示差熱重量分析装置で測定した5%重量減少温度が450℃以上であること。
【0050】
<屈折率>
ナノコンポジット10は、主に光学用途に適用するために高屈折率を有することが必要であり、具体的には、ナノコンポジット10の屈折率は1.7以上である。ナノコンポジット10は、マトリックス樹脂11中に高屈折率の無機酸化物微粒子12が分散されており、かつ、マトリックス樹脂11の屈折率も高くなるように設計できることから、ナノコンポジット10の屈折率を1.7以上にすることができる。
【0051】
ナノコンポジット10の屈折率は、マトリックス樹脂11中の無機酸化物微粒子12の充填率により制御することができる。好適な無機酸化物微粒子12の充填率は、マトリックス樹脂11に用いられるポリイミドの組成等によっても異なるが、用いたポリイミドの組成等に応じて、適切な屈折率となるように無機酸化物微粒子12の充填率を調整すればよい。一方、無機酸化物微粒子12の充填率を高くすれば、ナノコンポジット10の屈折率も高くすることができるが、無機酸化物微粒子12の充填率が高すぎると、膜特性が低下するため、無機酸化物微粒子12の充填率は、屈折率と粒子の分散性とのバランスを考慮して決定することが好ましい。充填率については、特に規定されないが、球状の微粒子が最密充填された場合、その充填率は√2π/6×100(≒74)%となり、したがって、実際の無機酸化物微粒子12の充填率はそれ以下となる。本発明での無機酸化物微粒子12の充填率は体積分率で5%〜70%が好ましく、10〜65%がさらに好ましい。無機酸化物微粒子12の充填率が5%以下であると、無機酸化物微粒子12を加える効果が見られず、また、70%以上であると、有機樹脂の成分が少なすぎて、膜の作成が困難になるおそれがある。
【0052】
<透明性>
また、ナノコンポジット10を光学用途に適用するためには、ナノコンポジット10が高い透明性を有することも必要である。ナノコンポジット10が高い透明性を有するためには、マトリックス樹脂11自体の透明性が高いことも必要であるが、その他に、無機酸化物微粒子12の分散性が高いことも必要である。上述したように、無機酸化物微粒子12の表面は、イミド骨格を有する置換基12aにより修飾されていることから、マトリックス樹脂11に用いられるポリイミドとの相互作用により、選択的に分散性を高めることができる。したがって、ナノコンポジット10では、高い透明性を実現することができる。具体的には、本実施形態では、透明性の指標として濁度(ヘイズ値)を用い、ナノコンポジット10のヘイズ値が10%以下であることが必要としている。なお、本実施形態におけるヘイズ値とは、ナノコンポジット10を製膜したナノコンポジット膜と垂直に入射した光の透過光に対して、垂直でない透過光成分の割合を数値化(百分率)したものである。ヘイズ値は、市販の積分球付透過率測定計やヘイズメーターにより容易に測定することができる。
【0053】
<耐熱性>
また、ナノコンポジット10を光学用途に適用するためには、ナノコンポジット10が実装工程において高温にさらされることから、高い耐熱性を有することも必要である。ナノコンポジット10が高い耐熱性を有するためには、マトリックス樹脂11自体の耐熱性を高くすることが必要であり、このような観点から、本実施形態では、マトリックス樹脂11として耐熱性の高いポリイミドを用いている。具体的には、本実施形態では、耐熱性の指標として示差熱重量分析装置で測定した5%重量減少温度を用い、この5%重量減少濃度が450℃以上であることが必要としている。5%重量減少温度は、示差熱重量分析装置(TG/DTA)を使用し、窒素雰囲気化で試料であるナノコンポジット10の重量が5%減少したときの温度を読み取ることにより、測定することができる。
【0054】
(1.3.ナノコンポジットの構造の確認方法)
無機酸化物微粒子12の表面が実際にイミド構造で修飾されているかどうかについての確認は、示差熱重量分析装置(TG/DTA)、FT−IRなどの分析装置を用いて確認することができる。具体的には、TG/DTAを用いる場合には、表面修飾されていない無機酸化物微粒子12と、上記方法によりイミド基で表面を修飾した無機酸化物微粒子12の所定温度(例えば、350℃)での重量差を測定し、表面を修飾した酸化物微粒子12の方が表面修飾されていないものよりも重量が大きいことにより、無機酸化物微粒子12の表面が修飾されていることを確認することができる。また、上記FT−IRを用いる場合には、1390cm−1付近にイミド環のC−N伸縮振動、1550cm−1付近にベンゼン骨格振動等が観測された場合に、無機酸化物微粒子12の表面がイミド骨格を有する表面修飾剤で修飾されていることを確認することができる。
【0055】
また、ポリイミド中に表面修飾無機酸化物微粒子が分散されているかの確認については動的光散乱法を用いて測定できることが可能であるし、また、ナノコンポジットを透過型電子顕微鏡(TEM)により観察することによっても簡便に確認することができる。
【0056】
(2.ナノコンポジットの製造方法)
以上、本実施形態に係るナノコンポジット10の構成について詳細に説明した。続いて、上述した構成を有するナノコンポジット10の製造方法について詳細に説明する。以下、無機酸化物微粒子表面の修飾方法、ポリイミドの合成方法、ナノコンポジットの作製方法の順に説明する。
【0057】
初めに、無機酸化物微粒子表面の修飾方法について説明する前に、本実施形態に係るナノコンポジット10の製造に用いる原料の概要について説明する。
【0058】
本実施形態係るナノコンポジット10のように屈折率を1.7以上とするためには、有機成分だけではS原子やベンゼン環、ナフタレン環などを有するような限定された樹脂でしか達成することは困難である。従って、高屈折率とするには、有機成分中に高屈折率の無機微粒子を含有させる必要がある。さらに、ベース(マトリックス)となる有機成分(ポリイミド)の屈折率が高いことも高屈折率化には効果的であるため、ポリイミドの構造としては、芳香族骨格、S原子を有する酸無水物、ジアミンを用いることが好ましい。
【0059】
また、ヘイズは膜の透明性、散乱に起因しているためヘイズを10%以下にするためには、高屈折率の無機粒子をマトリックス樹脂11中にナノレベルで分散させる必要がある。従って、本実施形態では、高屈折率の無機粒子として、ナノオーダーの粒子径を有する無機酸化物微粒子12を用いる。
【0060】
また、通常の有機物は300℃程度で分解や劣化が始まるため、マトリックス樹脂11としてアクリル樹脂やエポキシ樹脂を用いると、重量減少温度が450℃という条件を達成することはできない。これに対して、ポリイミドはイミド結合が強い分子間力を持つため、耐熱性が高くなる。また、芳香族環を含むことでイミド部分と芳香族環で共役構造をもち、さらに剛直な骨格となるため耐熱性は向上する。従って、本実施形態で用いるポリイミドは、芳香族環を持つ成分を含むことが好ましい。
【0061】
以下、本実施形態に係るナノコンポジット10の製造方法の詳細について説明する。
【0062】
(2.1.無機酸化物微粒子表面の修飾方法)
【0063】
まず、上述したようにして合成された無機酸化物微粒子12の表面をアミノ基を有するシランカップリング剤、または、アミノ基を含有するリン酸エステル化合物で表面処理を行い、無機酸化物微粒子12の表面にアミノ基を導入する。無機酸化物微粒子12の表面にアミノ基を導入するためには、上記一般式(1)で表されるようなアミノ基を有するシランカップリング剤、または、上記一般式(2)で表されるようなアミノ基を含有するリン酸エステル化合物が用いられる。シランカップリング剤は、それ自体が自己縮合して、オリゴマーの状態になる可能性があるが、リン酸エステルは自己縮合はしないため、単層で酸化物無機微粒子12に配位すると考えられる。
【0064】
この際に使用されるアミノ基を有するシランカップリング剤としては、上記一般式(1)で表されるものであれば特に限定はされないが、例えば、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロジプトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロジプトリエトキシシラン等が用いられ、これらの中でも、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシランが好適に用いられる。
【0065】
アミノ基を含有するリン酸エステル化合物としては、上記一般式(2)で表される化合物を使用できるが、このような化合物としては、例えば、O−ホスホリルエタノールアミン等が挙げられる。
【0066】
シランカップリング剤やリン酸エステル化合物を用いて無機酸化物微粒子の表面を修飾する手法は従来から試みられている方法であるが、例えば、アミノ基のような極性基を末端に持つシランカップリング剤を使用した場合、NHの水素の部分がポリイミドまたは、無機酸化物微粒子の表面の‐OH基と水素結合を形成することにより、無機酸化物微粒子とポリイミドまたは無機酸化物微粒子との相互作用が強くなりすぎるため、無機酸化物微粒子の凝集が発生しやすくなる。また、有機成分の分子鎖の長いシランカップリング剤や分散剤を用いて粒子同士の距離を遠ざけて凝集を抑制する手法もあるが、有機成分が多くなることで耐熱性が低下してしまい、高温での処理工程では膜の劣化が生じるおそれがある。
【0067】
そこで、高温での処理に耐え、かつポリイミドに対する分散性を高めるため、本実施形態では、アミノ基に対して酸無水物を反応させ、適当な脱水縮合剤を加えることでアミノ基の部分をイミド化するという手法を採用している。この手法により、イミド基を無機酸化物微粒子12の表面に修飾させ、ポリイミドに対する相溶性を向上させることができた結果、微粒子の凝集を抑え、ナノレベルで無機酸化物微粒子12を溶液中に均一に分散させることが可能となった。従来用いられている両末端がケイ素のポリアミック酸やポリイミドを使用して無機微粒子を被覆する方法では、ポリアミック酸自体が高い分子間力を持つために、粒子同士の凝集を促進してしまい、無機酸化物微粒子をナノレベルで分散させることが不可能であった。それに対し、本実施形態では、前段階でアミノ基を有するシランカップリング剤またはアミノ基を有するリン酸エステル化合物で被覆した後にイミド化を行っているため、粒子表面のアミノ基と一対一でイミド化反応させることが可能となり、粒子の凝集を引き起こす余分なポリマー成分が生成することを回避できる。
【0068】
上記イミド化の際に使用される酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、グルタル酸等の酸無水物などがあるが、高い耐熱性を有する芳香族ポリイミドに対して分散性をより向上させるためには、芳香族環を有する酸無水物を使用することが好ましく、このような観点から、無水フタル酸が好適に用いられる。
【0069】
以上のようにして、上記一般式(1)で示されるアミノ基を含有するシランカップリング剤又は上記一般式(2)で示されるアミノ基を含有するリン酸エステル化合物で無機酸化物微粒子表面を修飾した後に、アミノ基の少なくとも一部をイミド化させ、無機酸化物微粒子の表面がイミド骨格を有する官能基で修飾された表面修飾無機酸化物微粒子を得ることができる。
【0070】
ここで、図3及び図4を用いて、無機酸化物微粒子12表面へのイミド骨格を有する置換基12aの修飾機構について説明する。図3は、無機酸化物微粒子12表面へアミノ基が導入される機構の一例を示す説明図である。図4は、無機酸化物微粒子12の表面に導入されたアミノ基をイミド化する機構の一例を示す説明図である。なお、ここでは、無機酸化物微粒子12としてチタン酸バリウム(BT)粒子を、無機酸化物微粒子12の表面にアミノ基を導入するためのシランカップリング剤として3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)を、無機酸化物微粒子12の表面に導入されたアミノ基をイミド化する酸無水物として無水フタル酸を使用した場合を例に挙げて説明する。
【0071】
まず、図3に示すように、シランカップリング剤(APTES)が、無機酸化物微粒子12(BT粒子)表面に存在する水酸基と加水分解して縮合することにより、無機酸化物微粒子12の表面にアミノ基を導入することができる。
【0072】
次に、無機酸化物微粒子12の表面に導入されたアミノ基のイミド化は、図4に示すように、2つの反応を経ることによりなされる。まず、酸無水物(無水フタル酸)が、シランカップリング剤(APTES)で修飾された無機酸化物微粒子12の表面のアミノ基と付加反応し、粒子表面で、アミノ基がアミド酸(N−プロピルアミド酸:NPPAA)が生成する。続いて、生成したアミド酸を脱水環化試薬(無水フタル酸およびピリジン)により、化学的にイミド化させることで、無機酸化物微粒子12の表面にイミド構造(この例では、N−プロピルフタルイミド:NPPI)を導入することができる。ここで、無水フタル酸は、粒子表面のアミノ基と反応するフタルイミドの原料としてだけではなく、ピリジンとともにイミド化を生じさせるための脱水環化試薬としての役割も果たしている。
【0073】
(2.2.ポリイミドの合成方法)
マトリックス樹脂11に用いるポリイミドの合成方法としては特に限定されないが、前駆体であるポリアミック酸を経由して作製する二段合成方法と、ポリアミック酸を経由しない一段合成方法が挙げられる。これらのうち、二段合成方法が工業的観点より好適に用いられる。この方法を用いることで、250℃以上に加熱するだけでイミド化できるという利点がある。また、得られたポリアミック酸を無水酢酸やピリジンなどを用いて、ポリアミック酸の一部を化学的に縮合させたイミド化物としてもよい。以下、二段合成方法と一段合成方法の詳細を説明する。
【0074】
<二段合成方法>
二段合成方法は、有機溶媒への溶解性および加工性に優れたポリアミック酸(PAA)を合成した後、PAAをイミド化させることによりポリイミド(PI)を合成する方法である。PAAは、下記反応式1に示すように、非プロトン性の有機溶媒中において、PAAのモノマーとなる、上記一般式(5)で示されるジアミンと上記一般式(6)で示される酸二無水物とを混合することによって得られる。この際、大気中の水分および酸素との接触を避けるために、窒素雰囲気化で上記モノマーを順次溶媒に溶解させ、室温で長時間(例えば、15時間程度)撹拌することで、PAAを容易に合成することができる。
【0075】
【化7】

【0076】
このときに用いられるジアミンとしては、上述したように、芳香族環を含むジアミンであれば特に制限されず、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、ベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、オクタフルオロベンジジン、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジフルオロ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,6−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(2−メチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(2−メチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(2−メチル−4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(2−メチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)エーテル、ビス(4−(2−メチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)エーテル、ビス(4−(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)エーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−メチル−4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(2−メチル−4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(3−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(3−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)4−メチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)ノルボルナン、1,1−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)ノルボルナン、1,1−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)ノルボルナン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)アダマンタン、1,1−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)アダマンタン、1,1−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)アダマンタン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンなどを使用することができる。ただし、高屈折率の材料で高い透明性を発現させるためには、ポリイミドの分子内に芳香環を有し、さらに非対称を与える(−O−や−SO−)のような分子内に非対称性を与える置換基の導入が効果的であることから、S原子を含有するビス(3−アミノフェニル)スルホンなどを用いることが好ましい。
【0077】
また、酸二無水物としては、上述したように、一般的に芳香族環を有する酸無水物であれば特に限定されず、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(p−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4’−(m−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物、3−カルボキシメチル−1,2,4−シクロペンタントリカルボン酸二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物等を使用できる。
【0078】
また、上記ポリマーの他に、ポリアミック酸およびポリイミドの原料として屈折率、透明性を低下させない程度に基材に対する接着性を向上させる成分としてシリコーン、カルボン酸などを分子内に含んだジアミンや酸二無水物を用いてもよい。具体的には、シリコーンを含んだジアミンとして、KF8010、X−22−161A、X−22−161B(信越シリコーン社製)、側鎖にアルキル基を含んだジアミンとして、4,4’−ジアミノ−3−ドデシルジフェニルエーテル、1−オクタデカノキシ−2,4ジアミノベンゼンなどがある。
【0079】
さらに、PAA溶液の合成に使用される有機溶媒の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドなどのホルムアミド系や、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアセトアミド系や、N−メチル‐2‐ピロリドンなどのピロリドン系などの非プロトン性極性溶媒を上げることができ、これらを単独または混合して用いることができる。
【0080】
また、二段合成方法は、イミド化の方法により加熱イミド化と化学イミド化の2つの場合に分けられる。
【0081】
加熱イミド化は、PAAを窒素雰囲気化で250℃以上に加熱することで、イミド化を生じさせる方法である。このとき、昇温条件は物理的構造変化を伴うイミド化反応において重要な要素である。加熱イミド化は、250℃以上に加熱するだけで容易にイミド化できるという利点がある。また、必要に応じて3−ヒドロキシピリジン、4−ヒドロキシピリジン、フタラジン、ベンズイミダゾールなどの反応触媒を添加することにより、より低温で加熱イミド化を進行させることが可能となる。化学イミド化は、無水酢酸およびピリジンなどの脱水環化試薬(酸無水物および第三級アミンの混合物)を用いて、室温〜100℃で処理することで、イミド化を生じさせる方法である。本実施形態では、加熱イミド化と化学イミド化のいずれを用いてもよく、それぞれの目的に応じて適切な方法を選択してポリイミドを作成することが可能である。
【0082】
<一段合成方法>
一段合成方法は、アミド系またはフェノール系溶媒に可溶なPIを、PAAを経由せずに合成する方法である。一例を挙げれば、等モル量のモノマーをm−クレゾールなどの溶媒に溶解させ、イソキノリンのような塩基性溶媒の存在下、200℃程度で数時間反応させることで、PIを合成できる。
【0083】
(2.3.ナノコンポジットの作製方法)
以上にあげた手法により、ナノレベルで分散された高屈折率の無機酸化物微粒子と高屈折率のポリアミック酸およびポリイミドを得ることができる。これら二つの成分を適当な手法を用いて混合することで、凝集を抑制した状態で耐熱性に優れたポリアミック酸およびポリイミドの溶液内に高屈折率の無機酸化物微粒子を高い充填率で分散させることができ、屈折率が1.7以上の高屈折率のナノコンポジットが作製可能となる。
【0084】
なお、ナノコンポジットの作製の際には、上述した成分以外の成分として、必要に応じて密着助剤、界面活性剤、熱酸発生剤などを用いてもよい。
【0085】
以下に、無機酸化物微粒子とポリイミドまたはポリアミック酸を用いたナノコンポジットの作製方法の例について説明する。
【0086】
第1の方法は、以下の2つの工程を含む方法である。まず、第1の工程では、上述した手法により表面修飾無機酸化物微粒子を得る。続いて、第2の工程では、第1の工程で得られた表面修飾無機酸化物微粒子を、上述した二段合成方法により得られたポリアミック酸と混合し、この混合物を加熱処理する。加熱処理の条件としては、上述したように、ポリアミック酸がイミド化される250℃以上とすることが好ましい。
【0087】
このように、第1の方法は、表面修飾無機酸化物微粒子とポリアミック酸を直接混合することにより、無機酸化物微粒子がポリイミドからなるマトリックス樹脂中に分散したナノコンポジットを製造する方法(以下、この方法を「直接混合法」と称する。)である。しかしながら、直接混合法では、粘性が高いポリアミック酸溶液中に無機酸化物微粒子を投入することから、急激な粘度変化が生じ、無機酸化物微粒子が凝集しやすい傾向にある。このとき形成された凝集体は、超音波照射すること等により再分散させることは可能であるが、再分散には長時間を要してしまう。
【0088】
そこで、本発明者は、第2の方法として、表面修飾無機酸化物微粒子の懸濁液中でポリアミック酸の重合反応を行うことにより、無機酸化物微粒子とポリアミック酸とを混合する方法(以下、この方法を「in situ重合法」と称する。)に想到した。より詳細には、第2の方法(in situ重合法)は、第1の工程では、直接混合法と同様に表面修飾無機酸化物微粒子を得る。続いて、第2の工程では、表面修飾無機酸化物微粒子とジアミンと酸二無水物とを混合した後に、ジアミンと酸二無水物とを反応させ、表面修飾無機酸化物微粒子とポリアミック酸との混合物を生成し、この混合物を加熱処理する。加熱処理の条件については、直接混合法と同様である。
【0089】
以上のようなin situ重合法を用いることで、粘度を徐々に上昇させながら混合することができ、急激な粘度変化を生じずに、混合時の無機酸化物微粒子の凝集を抑制することができる。また、in situ重合法を用いれば、ポリアミック酸のイミド化まで含めた無機酸化物微粒子とポリイミドとの複合化に要する時間を、大幅に短縮することもできる。
【0090】
(3.面発光素子の構成)
次に、図5を参照しながら、上述した本実施形態に係るナノコンポジット10を利用した面発光素子の構成について説明する。図5は、本実施形態に係る面発光素子の断面構成を示す説明図である。
【0091】
図5に示すように、本実施形態に係る面発光素子100は、透光性基板110と、透明導電膜(透明電極)120と、有機EL層130と、陰極140とを主に備える。
【0092】
このような有機EL素子等の面発光素子100において、通常、発光層である有機EL層130中の蛍光体から放射される光は、蛍光体を中心とした全方位に出射され、正孔輸送層(図示せず)、陽極である透明導電膜120、透光性基板110を経由して空気中へ放射される。或いは、一旦、光取り出し方向(透光性基板110方向)とは逆方向へ向かい、陰極140で反射され、有機EL層130、正孔輸送層、透明導電膜120、透光性基板110を経由して、空気中へ放射される。しかし、光が各媒質の境界面を通過する際、入射側の媒質の屈折率が出射側の屈折率より大きい場合には、屈折波の出射角が90°となる角度、つまり臨界角よりも大きな角度で入射する光は、境界面を透過することができず、全反射され、光は空気中へ取り出されない。
【0093】
異なる媒質間の境界面における、光の屈折角と媒質の屈折率との関係は、一般に、スネルの法則に従う。スネルの法則によれば、屈折率n1の媒質1から屈折率n2の媒質2へ光が進行する場合、入射角θ1と屈折角θ2の間に、n1sinθ1=n2sinθ2という関係式が成り立つ。この関係式において、n1>n2が成り立つ場合、θ2=90°となる入射角θ1=Arcsin(n2/n1)は、臨界角と呼ばれており、入射角がこの臨界角よりも大きな場合には、光は媒質1と媒質2との間の境界面において全反射されることとなる。従って、等方的に光が放射される面発光素子において、この臨界角よりも大きな角度で放射される光は、境界面における全反射を繰り返し、素子内部に閉じ込められ、空気中へ放射されなくなる。
【0094】
このような理由で面発光素子は光の取り出し効率が低いことから、本実施形態では、透光性基板110を、凹凸面を有する透明基板111上に、高屈折率のナノコンポジット10で形成された被覆層113を形成し、光の出射角度を変換する手段を設けることにより、スネルの法則によると各層間の境界面で全反射してしまって素子内から取り出すことができない光を素子の外部(空気中)に取り出すことができる。以下、本実施形態に係る面発光素子100の各構成要素について詳細に説明する。
【0095】
<透光性基板110>
透光性基板110は、透明基板111上に、上述したナノコンポジットからなる被覆層113が被覆された基板である。
【0096】
透明基板111は、例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラス等のガラスや、透明なプラスチックなどの透明な材料で形成される基板である。透光性基板110を形成するための透明なプラスチックとしては、絶縁性の有機物が挙げられるが、例えば、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアクリレート(PAR)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等を使用することができる。
【0097】
透明基板111の一方の表面には、凹凸面が設けられる。凹凸面の作成方法としては特に限定されず、例えば、サンドブラスト法、熱インプリント法、ケミカルエッチングなどの方法が用いられる。この凹凸面は、有機EL層130で発生した光が透明導電膜120を通過して透光性基板110に入射する際の入射光の屈折角に乱れを生じさせるようなランダムな凹凸を有する面であってもよく、レンズ構造やピラミッド構造などの均一な構造単位を有していてもよい。このように、透明基板111の表面に凹凸面を設けると、この凹凸面に入射される光は散乱することになるので、透明基板111と垂直に進行する光のうち、方向を変えずに透明基板111を透過する光の割合は減少する。このように散乱する成分(垂直でない透過光成分)が多いと、面発光素子100における光の取り出し効率を向上させることができる。
【0098】
また、透明基板111上に被覆層113を形成する方法としては特に限定されないが、例えば、表面修飾無機酸化物微粒子とポリアミック酸と混合溶液を透明基板111上に塗布して、乾燥後、加熱処理によりイミド化を行うことで、透明基板111上にナノコンポジット膜を形成することができる。このときの塗布方法としても特に限定はされず、スピンコート、ドクターブレード、アプリケーター、キャスト法、ディップ法、スプレー塗布等の公知の方法を用いることができる。
【0099】
<透明導電膜120>
透明導電膜(透明電極)120は、面発光素子100の陽極として機能する層であり、導電性を有するとともに、光を面発光素子100の外部に取り出すために透明な材料が使用される。具体的には、透明導電膜120を形成する材料としては、透明な酸化物半導体、特に、仕事関数の高いITO、IZO(InZnO)、ZnO、In等が好適に使用される。
【0100】
<有機EL層130>
有機EL層130は、少なくとも、正孔輸送層と発光層とを含む。また、有機EL層130はさらに、正孔注入層を含んでいてもよい。有機EL層130が、正孔輸送層及び正孔注入層のいずれをも含む場合には、正孔注入層が正孔輸送層よりも透明導電膜120に近い側に配置される。また、発光層は、正孔輸送層よりも透明導電膜120から遠い側に配置される。
【0101】
正孔輸送層を形成する正孔輸送材料としては、例えば、α−NPD(NPB)、TPD、TACP、トリフェニル四量体などの公知の材料を使用することができる。また、正孔注入層を形成する正孔注入材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、銅フタロシアニン(CuPc)、PEDOT:PSSなどの公知の材料を使用することができる。
【0102】
有機発光層としては、赤色発光層、緑色発光層及び青色発光層のうち、1種または2種以上を含むことができる。
【0103】
赤色発光層を形成する材料としては、例えば、テトラフェニルナフタセン(ルブレン:Rubrene)、トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム(III)(Ir(piq)3)、ビス(2−ベンゾ[b]チオフェン−2−イル−ピリジン)(アセチルアセトネート)イリジウム(III)(Ir(btp)2(acac))、トリス(ジベンゾイルメタン)フェナントロリンユウロピウム(III)(Eu(dbm)3(phen))、トリス[4,4’−ジ−tert−ブチル−(2,2’)−ビピリジン]ルテニウム(III)錯体(Ru(dtb−bpy)3*2(PF6))、DCM1、DCM2、Eu(テノイルトリフルオロアセトン)3(Eu(TTA)3,ブチル−6−(1,1,7,7−テトラメチルジュロリジル−9−エニル)−4H−ピラン)(DCJTB)などを使用することができ、その他にも、ポリフルオレン系高分子、ポリビニル系高分子などの高分子発光物質を使用することができる。
【0104】
また、緑色発光層を形成する材料としては、例えば、Alq3、3−(2−ベンゾチアゾリル)−7−(ジエチルアミノ)クマリン(Coumarin6)、2,3,6,7−テトラヒドロ−1,1,7,7,−テトラメチル−1H,5H,11H−10−(2−ベンゾチアゾリル)キノリジン−[9,9a,1gh]クマリン(C545T)、N,N’−ジメチル−キナクリドン(DMQA)、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)(Ir(ppy)3)などを使用することができ、その他にも、ポリフルオレン系高分子、ポリビニル系高分子などの高分子発光物質を使用することもできる。
【0105】
また、青色発光層を形成する材料としては、例えば、オキサジアゾールダイマー染料(Bis−DAPOXP)、スピロ化合物(Spiro−DPVBi、Spiro−6P)、トリアリールアミン化合物、ビス(スチリル)アミン(DPVBi、DSA)、4,4’−ビス(9−エチル−3−カルバゾビニレン)−1,1’−ビフェニル(BCzVBi)、ペリレン、2,5,8,11−テトラ−tert−ブチルペリレン(TPBe)、9H−カルバゾール−3,3’−(1,4−フェニレン−ジ−2,1−エテン−ジイル)ビス[9−エチル−(9C)](BCzVB)、4,4−ビス[4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル]ビフェニル(DPAVBi)、4−(ジ−p−トリルアミノ)−4’−[(ジ−p−トリルアミノ)スチリル]スチルベン(DPAVB)、4,4’−ビス[4−(ジフェニルアミノ)スチリル]ビフェニル(BDAVBi)、ビス(3,5−ジフルオロ−2−(2−ピリジル)フェニル−(2−カルボキシピリジル)イリジウムIII(FIrPic)などを使用することができ、その他にも、ポリフルオレン系高分子、ポリビニル系高分子などの高分子発光物質を使用することができる。
【0106】
さらに、有機EL層130は、発光層よりも陰極140に近い側から順に、電子輸送層や電子注入層を含んでいてもよい。電子輸送層を形成する電子輸送材料としては、オキサゾール誘導体(PBD、OXO−7)、トリアゾール誘導体、ボロン誘導体、シロール誘導体、Alq3などの公知の材料を使用することができる。また、電子注入材料としては、例えば、LiF、LiO、CaO、CsO、CsFなどの公知の材料を使用することができる。
【0107】
<陰極140>
陰極140を形成する材料としては、金属、特に、仕事関数の小さな金属である、Ag、Mg、Al、Pt、Pd、Au、Ni、Nd、Ir、Cr、Li、Ca及びこれらの化合物などを使用することができる。
【0108】
(4.面発光素子の製造方法)
以上、本実施形態に係る面発光素子100の構成について詳細に説明したが、続いて、本実施形態に係る面発光素子100の製造方法について詳細に説明する。
【0109】
まず、ソーダライムガラス、無アルカリガラス等の透明基板111の表面にサンドブラスト法などを用いて凹凸面を形成し、形成された凹凸面上に、ドクターブレード等を用いて、表面修飾無機酸化物微粒子とポリアミック酸と混合溶液をコーティング(塗布)する。次いで、混合溶液をコーティングした透明基板111を熱風乾燥機等に移して溶媒を除去する。その後、溶媒が除去された透明基板111を焼成炉に移し、250℃以上の温度で加熱してイミド化反応を生じさせることにより、ポリイミド中に表面修飾無機酸化物微粒子が分散したナノコンポジットからなる被覆層113が透明基板111の表面に形成された透光性基板110を形成する。
【0110】
次に、透光性基板110上に、スパッタリング等によりITO、IZO(InZnO)、ZnO、In等を製膜して、透明導電膜(透明電極)120を形成する。さらに、透明導電膜120上に正孔輸送材料や発光材料等を蒸着することにより有機EL層130を形成した後に、有機EL層130上に、Ag、Mg、Al等の金属を蒸着して陰極140を形成し、有機EL層130を備える面発光素子100を製造することができる。なお、有機EL層130や陰極140の形成方法としては、真空蒸着、キャスト法(スピンキャスト法、ディッピング法等)、インクジェット法、印刷法(活版印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷等)などの公知の方法を用いることができる。
【0111】
以上のようにして製造された面発光素子100は、透光性基板110に高屈折率で高い透明性を有するナノコンポジット膜が形成されているため、面発光素子の発光効率を向上させることができ、表示装置や照明器具などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0112】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明が、以下の実施例により限定されるものではない。
【0113】
(合成例1)
初めに、表面修飾無機酸化物微粒子の一例として、イミド基を修飾したチタン酸バリウムの合成方法について示す。
【0114】
まず、グローブボックス内に反応容器を準備し、金属バリウム(ナカライテクス(株)社製)2.64gを2−メトキシエタノール(和光純薬工業(株)社製)111.66g中に溶解させた。金属バリウムが完全に溶解した後チタンテトラエトキシド(東京化成工業(株)社製)4.64gを加え、蓋をしてグローブボックス内から取り出した。
【0115】
次に、冷却機、温度計、窒素導入管を上記反応容器に設置し、窒素雰囲気下で二時間還流させることにより、チタン酸バリウムのコンプレックスを得た。
【0116】
得られたチタン酸バリウムのコンプレックスを70℃に加温し、あらかじめ70℃に加温しておいた2−メトキシエタノール45.2gと水64.8gの混合溶液を一度に加え、蓋をして70℃で5時間撹拌させることによりチタン酸バリウムの粒子を生成させ、粒子を超音波で30分処理することで微粒子化されたチタン酸バリウム(BT)のスラリーを得た。得られたチタン酸バリウムの平均粒径を、動的光散乱光度計(DLS;大塚電子株式会社製)を用いて測定したところ186nmであった。
【0117】
得られたチタン酸バリウムのスラリーにアミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)(信越シリコーン(株)社製)を粒子の粒径と最小被服面積から算出した必要量の1.3倍量である0.8gを加え、蓋をして70℃で1時間撹拌することによりチタン酸バリウムの表面をアミノ基で修飾した後、室温まで冷却し遠心分離により固形分を分取し20mlのNMPを加え、超音波洗浄機により解砕した。上記の遠心分離と超音波洗浄機による工程を2度繰り返すことでアミノ基を表面に修飾したチタン酸バリウムのNMPのスラリー(BT−APTES)を得た。得られたスラリーの平均粒径は、直接観察法で20nm、動的光散乱法で59nmであった。
【0118】
次に、上記スラリーに無水フタル酸(和光純薬工業(株)社製)2.12g、ピリジン0.85gを加え窒素雰囲気化で15時間撹拌し、アミノ基の部分をイミド化した。再度遠心分離により固形分を分取し固形分濃度が15%となるようにNMPを加え超音波洗浄により解砕し、イミド基変性チタン酸バリウム(BT−Imd)のNMPスラリーを得た。得られたスラリーの平均粒径は直接観察法で20nm、動的光散乱法で41nmであった。
【0119】
(合成例2)
合成例1の表面被覆剤をアミノプロピルトリエトキシシランからO−ホスホリルエタノールアミンとした以外は、同様の手法によりリン酸エステルを介したイミド基修飾チタン酸バリウム(BT−NPEPI)のNMPスラリーを得た。得られた粒子の平均粒径は直接観察法で21nm、動的光散乱法で68nmであった。
【0120】
(合成例3)
次に、表面修飾無機酸化物微粒子の他の例として、イミド基修飾酸化チタンの合成方法について示す。
【0121】
冷却機、温度計、窒素導入管を備えた反応容器に表面修飾がされていない酸化チタン(平均粒子径7nm)のメチルエチルケトン(MEK)溶液(堺化学工業(株))社製(固形分濃度15%)50gとAPTES2.8gを加え、70℃で1時間撹拌し、表面をアミノ基で修飾した酸化チタン溶液を得た。その後の工程は、合成例1に示した方法と同様に行い、固形分濃度が15%であるイミド基変性酸化チタン(TiO−Imd(1))のNMPスラリーを得た。得られた粒子の平均粒径は、直接観察法で7nm、動的光散乱法で51nmであった。
【0122】
(合成例4)
合成例3の酸化チタンを平均粒子径が80nmである酸化チタン(テイカ(株)社製 MT−700B)とした以外は同様の手法により固形分濃度が15%であるイミド基変性酸化チタン(TiO2−Imd(2))のNMPスラリーを得た。得られた粒子の平均粒径は、直接観察法で80nm、動的光散乱法で186nmであった。
【0123】
(合成例5)
合成例2の酸化チタンを酸化ジルコニウムのMEK溶液(堺化学工業(株))社製(固形分濃度30%)50g、APTES7.99gとした以外は同様の手法により、固形分濃度が15%であるイミド基変性酸化ジルコニウム(ZrO−Imd)のNMPスラリーを得た。得られた粒子の平均粒径は、直接観察法で3nm、動的光散乱法で20nmであった。
【0124】
(合成例6)
酸化チタンのメチルエチルケトン(MEK)溶液(堺化学工業(株))社製(固形分濃度15%)50gを円心分離により固形分を分取し50mlのNMPを加え、超音波洗浄機により解砕し、固形分濃度が15%である酸化チタン粒子(TiO)のNMPスラリーを得た。得られた粒子の平均粒径は、直接観察法で7nm、動的光散乱法で85nmであった。
【0125】
(合成例7)
グローブボックス内に反応容器を準備し、金属バリウム(ナカライテクス(株)社製)2.64gを2−メトキシエタノール(和光純薬工業(株)社製)111.66g中に溶解させた。金属バリウムが完全に溶解した後チタンテトラエトキシド(東京化成工業(株)社製)4.64gを加え、蓋をしてグローブボックス内から取り出した。
【0126】
次に、冷却機、温度計、窒素導入管を上記反応容器に設置し、窒素雰囲気下で二時間還流させることにより、チタン酸バリウムのコンプレックスを得た。
【0127】
得られたチタン酸バリウムのコンプレックスを70℃に加温し、あらかじめ70℃に加温しておいた2−メトキシエタノール45.2gと水64.8gの混合溶液を一度に加え、蓋をして70℃で5時間撹拌させることによりチタン酸バリウムの粒子を生成させ、粒子を超音波で30分処理することで微粒子化されたチタン酸バリウム(BT)のスラリーを得た。
【0128】
得られたBT粒子のスラリーを遠心分離により固形分を分取しN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を加え、超音波洗浄機により解砕した。上記の遠心分離と超音波洗浄機による工程を2度繰り返し、NMP置換されたBT粒子のスラリーを得た。
【0129】
得られたBT粒子のスラリーに、下記式(7)で示される両末端がトリエトキシシランであるポリアミック酸を添加し、70℃で1時間撹拌し超音波処理を30分することで、ポリアミック酸で表面処理されたBT粒子(BT−SiPAA)を得た。得られた粒子の平均粒径は、直接観察法で23nm、動的光散乱法で1000nmであった。このようにポリアミック酸のような高分子状化合物でナノ粒子を直接表面処理しようとすると、一次粒子の粒径が大きくなることはないが、粒子同士が凝集して大きな二次粒子を形成してしまうことが分かった。
【0130】
【化8】

【0131】
上記合成例で合成した粒子の粒子径を一覧にして表1に示す。
【0132】
【表1】

【0133】
(合成例8)
次に、ポリアミック酸の合成方法について示す。
【0134】
窒素導入管を設置した反応容器に、ビス(3−アミノフェニル)スルホン7.08g、NMP65.12gを加え室温で完全に溶解させた。次に3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸を8.83g添加し、室温、窒素雰囲気化で15時間撹拌することにより固形分濃度が20%であるポリアミック酸のNMP溶液(PAA‐1)を得た。
【0135】
(合成例9)
次にin situ法でのナノコンポジットの合成方法について示す。窒素同入管を設置した反応容器に合成例2で作成したBT−NPEPI(固形分15%)77.6gを加えた。次に、ビス(3−アミノフェニル)スルホン2.05gを加え、完全に溶解させた。次に、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸を2.43g添加し、室温、窒素雰囲気化で15時間撹拌することによりBT−NPEPI含有NMP溶液中でポリアミック酸を合成し、in situ法によるBTナノコンポジットを合成した。
【0136】
(実施例1)
合成例1で合成したBT−Imd(固形分15%)3.67gと合成例8で合成したPAA−1(固形分20%)6.34gを泡とり練太郎(シンキー社製)を用いて5分間混練し、3時間超音波照射することで混合溶液を調製した。得られた混合溶液をガラス基板にスピンコートにより塗布した。その後、100℃×1時間ホットプレートで処理し、さらに窒素導入可能なオーブンにより窒素雰囲気下で100℃×30分、150℃×30分、250℃×30分、300℃×1時間段階的に加温することで、BT−Imdの充填率が12vol%であるナノコンポジット膜を得た。得られた膜のアルバック社製触針式膜厚計(DEKTAK)にて測定したところ2.9μmであった。膜の屈折率は1.73、ヘイズ1.3%.550nmの透過率85%であった。
【0137】
(実施例2〜7)
実施例2〜7は、表2に示すように、酸化物微粒子の種類、およびポリアミック酸との比率を変更して、ナノコンポジット膜を作製した。
【0138】
(実施例8)
合成例8でin situ法により製造したナノコンポジット溶液を実施例1と同様の手法によりBTナノコンポジット膜を作製した。
【0139】
(比較例1)
合成例1で合成した中間体アミノ基修飾BT粒子(BT−APTES)(固形分15%)1.57gと合成例7で合成したPAA−1(固形分20%)4.37gを泡とり練太郎(シンキー社製)を用いて、5分間混練し、3時間超音波照射することで混合溶液を調製した。得られた混合溶液をガラス基板にスピンコートにより塗布した。その後、100℃×1時間ホットプレートで処理し、さらに窒素導入可能なオーブンにより窒素雰囲気下で100℃×30分、150℃×30分、250℃×30分、300℃×1時間段階的に加温することで、BT−APTESの充填率が45vol%であるナノコンポジット膜を得た。得られた膜のアルバック社製触針式膜厚計(DEKTAK)にて測定したところ1.2μmであった。膜の屈折率は1.84、ヘイズ16.8%.透過率70%であった。
【0140】
(比較例2〜5)
比較例2,3は、それぞれ粒子の種類を変更した以外は、比較例1と同様にしてナノコンポジット膜を得た。また、比較例4は、PAAの代わりにPMMA(ポリメタクリル酸メチル)を用いた以外は比較例1と同様にしてナノコンポジット膜を得た。比較例5は、PAAのみを硬化させ、比較例2〜5それぞれの特性を評価した。
【0141】
(評価方法)
屈折率の測定は、Metricon社製 Model2010プリズムカプラーおよび、J.A.Woollam社製 M−2000U分光エリプソメーターを使用した。
【0142】
熱重量分析には、示差熱重量分析装置(TG/DTA;Seiko社製SSC5200 TA station TG/DTA220型)を使用し、5%重量減少温度を用いた。
【0143】
ヘイズ値の測定には東洋精機製Hazemeter HazeガードIIを用いた。
【0144】
透過率の測定には紫外可視分光光度計(UV/Vis;日立製作所製 UV−3010型)を用いた。
【0145】
光は屈折率の異なる層の界面を通過する際にそれぞれの屈折率差によって反射が起こり、透過率が低下する。その低下する度合いは、対象となる物質の屈折率、測定時の補正によって決定され、空気層をリファレンスとして樹脂単独で測定した場合では計算式1、ガラス基板上で測定した場合には計算式2でそれぞれ示される。
【0146】
【数1】

【0147】
【数2】

【0148】
上記計算式1,2において、nはナノコンポジットの屈折率、nガラスの屈折率、Fはファクターであり、樹脂中を透過する際の光の減衰率を示す。
【0149】
上記式より、屈折率が高くなることにより、それぞれの界面での屈折率差が大きくなるため透過率は低下する傾向にあるため、高い透過率を得るためにはナノコンポジット自体が高い透明性を有していることが必要であることがわかる。
【0150】
以上の実施例1〜8、比較例1〜5の評価結果を下記表2に示す。
【0151】
【表2】



【0152】
表2を見ればわかるように、実施例1〜8のナノコンポジット膜は、いずれも、高い透明性、屈折率、耐熱性を有していることがわかる。
【0153】
(有機EL素子での実施例)
本発明のナノコンポジットを用いて透光性基板を製造し、有機EL素子を作製した。具体的には以下のようにして評価した。
【0154】
厚み0.7mm、50×50のソーダライムガラスに#800のアルミナ粉を0.5kPaの条件で噴射して凹凸付基板を得た。凹凸基板の表面をKeyence社製Laser顕微鏡VK9510で観察したところ、Ra=0.7μmの凹凸が形成されていた。東洋精機製Hazemeter HazeガードIIで測定したところこの基板の透過率は82%、Haze値は91%であり光散乱層が形成されていることが分かった。
【0155】
実施例4で製造したナノコンポジット材料を、作製した凹凸付基板および凹凸無し基板(サンドブラスト加工をしていないソーダライムガラス基板)にそれぞれドクターブレードを用いてコーティングし100℃×1時間ホットプレートで処理し、さらに窒素導入可能なオーブンにより窒素雰囲気下で100℃×30分、150℃×30分、250℃×30分、300℃×1時間段階的に加温し、ナノコンポジット層を形成した。
【0156】
凹凸なしの基板上に形成したコンポジット層の膜厚をアルバック社製触針式膜厚計(DEKTAK)にて測定したところ15μmであった。また、ナノコンポジットで形成された基板のRaは30nm以下であり平滑なコンポジット層が形成されていることが分かった。凹凸なし基板上に高屈折率コンポジット層を形成した基板の全光線透過率は83%、Haze8%であった。
【0157】
一方、凹凸あり基板上にコンポジット層を形成した基板の全光線透過率は75%、Hazeは90%であり、表面粗さRaは30nm以下であった。このようにして基板内部に散乱層が存在するが表面は平滑である透光性基板が作製できた。その後、DCマグネトロンスパッタリング装置を用いてソーダライムガラス、上記で作成した3種類のガラス基板にITOを120nm製膜した。凹凸基板上にコンポジット層を形成した基板を用いたものを基板(A)、凹凸無し基板上にコンポジット層を形成した基板を用いたものを基板(B)、ソーダライムガラスを用いたものを基板(C)とした(表3を参照)。
【0158】
次に、本発明のナノコンポジットを用いて製造した基板を用いて有機EL素子を作製した。ITO付基板(A)〜(C)をIPAと純水で洗浄した後、UVオゾンクリーナーにて処理した。正孔注入層としてHIL−1を60nm、正孔輸送層としてNPDを20nm、緑色発光層としてAlq3を60nm真空蒸着により形成した。更に電子注入層としてLiFを3nm、陰極としてAlを200nm蒸着して有機EL素子を作製した。上記のように作製した有機EL素子を、周囲大気に暴露することなしに、乾燥窒素雰囲気のグローブボックス中に搬送し、有機EL素子を、酸化バリウム粉末を含有する吸水材を貼付された封止板と紫外線硬化樹脂製シール剤を用いて貼り合わせ、紫外線照射によりシール剤を硬化させて、有機EL素子を封止した。
【0159】
KEITHLEY社ソースメータ2400、積分球および照度計を組み合わせた測定系で電流−電圧−全光束特性を測定した。電流−電圧特性はいずれの素子でもほぼ同様の結果が得られた。結果は、表3および図6に示した。本発明を適用した透光性基板を用い、同消費電力で比較した場合に、本発明を適用していない比較例と比べて、約1.6倍の光取り出し効率の改善が得られることが、EL素子において確認された。
【0160】
【表3】



【0161】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0162】
10 ナノコンポジット
11 マトリックス樹脂
12 無機酸化物微粒子
12a イミド骨格を有する官能基
100 面発光素子
110 透光性基板
120 透明導電膜
130 有機EL層



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドからなるマトリックス樹脂中に、イミド骨格を有する官能基で表面が修飾された無機酸化物微粒子が分散しているナノコンポジットであって、
屈折率が1.7以上であり、ヘイズ値が10%以下であり、かつ、示差熱重量分析装置で測定した5%重量減少温度が450℃以上であることを特徴とする、ナノコンポジット。
【請求項2】
前記無機酸化物微粒子が、酸化チタン、酸化ジルコニウム、及びチタン酸バリウムからなる群より選択される少なくとも1種の酸化物からなるものであることを特徴とする、請求項1に記載のナノコンポジット。
【請求項3】
前記無機酸化物微粒子が、チタン酸バリウムからなるものであることを特徴とする、請求項2に記載のナノコンポジット。
【請求項4】
前記無機酸化物微粒子の平均粒子径が、2nm以上100nm以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のナノコンポジット。
【請求項5】
下記一般式(1)で示されるアミノ基を含有するシランカップリング剤又は下記一般式(2)で示されるアミノ基を含有するリン酸エステル化合物で無機酸化物微粒子の表面を修飾した後に、前記アミノ基の少なくとも一部をイミド化させ、無機酸化物微粒子の表面がイミド骨格を有する官能基で修飾された表面修飾無機酸化物微粒子を得る工程と、
前記表面修飾無機酸化物微粒子をポリアミック酸と混合し、該混合物を加熱処理する工程と、
を含むことを特徴とする、ナノコンポジットの製造方法。
【化1】


(前記式(1)で、Rは、炭素数が1以上のアルキル基または炭素数が1以上のアリール基(アルキル基とアリール基のうちの少なくともいずれか一方は、N原子またはO原子を含む置換基により置換されていてもよい。)を示し、R’は、アルキル基、アリール基、−OCHまたは−OCを示し、R’’は、アルキル基またはアリール基を示す。)

【化2】


(前記式(2)で、Rは、炭素数2以上の有機基を示し、R’は、Hまたはアルキル基を示す。)

【請求項6】
下記一般式(1)で示されるアミノ基を含有するシランカップリング剤又は下記一般式(2)で示されるアミノ基を含有するリン酸エステル化合物で無機酸化物微粒子の表面を修飾した後に、前記アミノ基の少なくとも一部をイミド化させ、無機酸化物微粒子の表面がイミド骨格を有する官能基で修飾された表面修飾無機酸化物微粒子を得る工程と、
前記表面修飾無機酸化物微粒子とジアミンと酸二無水物とを混合した後に、前記ジアミンと前記酸二無水物とを反応させ、前記表面修飾無機酸化物微粒子とポリアミック酸との混合物を生成し、該混合物を加熱処理する工程と、
を含むことを特徴とする、ナノコンポジットの製造方法。
【化1】


(前記式(1)で、Rは、炭素数が1以上のアルキル基または炭素数が1以上のアリール基(アルキル基とアリール基のうちの少なくともいずれか一方は、N原子またはO原子を含む置換基により置換されていてもよい。)を示し、R’は、アルキル基、アリール基、−OCHまたは−OCを示し、R’’は、アルキル基またはアリール基を示す。)

【化2】

(前記式(2)で、Rは、炭素数2以上の有機基を示し、R’は、Hまたはアルキル基を示す。)

【請求項7】
透明基板上に請求項1〜4のいずれか1項に記載のナノコンポジットからなる被覆層が被覆された透光性基板と、
前記透光性基板上に積層された透明導電膜と、
前記透明導電膜上に積層された有機EL層と、
を備えることを特徴とする、面発光素子。



【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−40239(P2013−40239A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176358(P2011−176358)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(598045058)株式会社サムスン横浜研究所 (294)
【Fターム(参考)】