説明

ナノツールエクスチェンジャーシステム

【課題】ナノツールの交換を、試料の環境変化を起こさずに、例えば真空の試料室を大気開放せずに試料室内で、短時間かつ高精度に自動化するためのナノエクスチェンジャーシステムを提供する。
【解決手段】ナノエクスチェンジャーシステムは、異なるナノツール2に対しても固定・リリースを可能とするナノツールアダプター3と、ナノツールアダプター3を単数もしくは複数の収容が可能なナノツールホルダー1と、ナノツール2を使用するために位置決めを行うナノツール取り付け機構4のいずれかもしくは全てを備えた方法及び装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノツールエクスチャンジャーシステムと呼ぶ、ナノツールを交換するための、ナノツールアダプター・ナノツールホルダー・ナノツール取り付け機構の方法及び装置に関する。
【0002】
このナノツールエクスチェンジャーシステムは、ナノツールアダプター、ナノツールホルダー、ナノツール取り付け機構のうち、いずれかもしくは全て、から成る。
【0003】
従来まで手作業で交換していたナノツールを、本発明のナノツールエクスチャンジャーシステムを用いることで、短時間かつ高精度に交換することができる。
【0004】
また、従来までナノツールを交換する際に必要となる、試料の環境変化を起こさずに、例えば電子顕微鏡では試料室を真空から大気開放せず真空状態の試料室内で、例えば光学顕微鏡では試料の温度やpHなどの調整を行わずに、ナノツールを交換するために、本発明のナノツールエクスチャンジャーシステムを用いることで、短時間かつ高精度に交換することができる。
【0005】
また、異なるナノツールに対しても、ナノツールアダプターを用いることで、ナノツールの交換を自動化することができる。
【背景技術】
【0006】
ナノツールと呼んでいる、微小なツールは、原子間顕微鏡用プローブやバイオ解析用プローブなどとして様々なものが提案されている。
【0007】
特許文献1では、インジェクション時の操作容易性を向上させ、しかも細胞への損傷を最小に抑え、細胞の生存率を高めることができる、微小立体構造バイオナノツールの製造方法及びその微小立体構造バイオナノツールが提案された。
この発明では、モデルに応じて、集束イオンビームによりガラスキャピラリーの先端部に加工を施すものであるが、異なるバイオナノツールの交換については全く述べていない。
【0008】
特許文献2では、SPMプローブまたはナノツールを有するMEMSカンチレバーの周囲への気体(または流体)の導入に関して、化学的活性、例えば酸化を促進する酸素、酸化を阻止するアルゴン、または水分による静帯電の制御を阻止するクリーンドライエアーを制御することが提案されているが、異なるナノツールの交換に関しては全く述べられていない。
【0009】
また各種対象物を交換・回収するエクスチェンジャーシステムについても様々なものが提案されている。
【0010】
特許文献3では、半導体ウエハーなどを運搬するコンテナの内部の大気を窒素ガスなどに置換する装置を対象としている。コンテナやコンテナの蓋を製造しなおす必要がなく、置換時間が短くて済むものを提供しているが、対象が気体であり本発明とは異なる。
【0011】
特許文献4では、ロボットまたはマニピュレータのためのツール上の一つまたはそれ以上のアクチュエータを、ワイヤレスで電力を供給し、且つ無線で制御され、ツールの交換をロボットで自動的に実施することが可能であるが、産業用ロボットのためのツールを対象としており、本発明とは対象及び手法が異なる。
【0012】
本発明のナノエクスチェンジャーシステムは、ナノスケールの操作を可能とした様々なナノマニピュレーションシステムに実装することで、高効率かつ多様な作業を実現することが出来る。
【0013】
特許文献5では、サブナノメートルの分解能およびミリニュートンの力のアウトプットの両方を達成できるMEMSベース形ナノマニピュレータが提案されているが、本発明で提案するナノエクスチェンジャーシステムは、例えば、このような高精度な移動機構に導入することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2005−81503
【特許文献2】特表2005−538855
【特許文献3】特開2003−168727
【特許文献4】特表2007−514558
【特許文献5】特表2009−541079
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
これまでナノスケールのツールの交換は手作業であった。例えば、走査型電子顕微鏡の試料室を大気開放し、ナノツールの交換作業を行う場合は、2時間以上(大気開放:約5分、真空引き:約2時間、真空度:約10−4Pa)の交換時間が必要であった。
【0016】
また、例えば、環境制御型電子顕微鏡の試料室を大気開放し、ナノツールの交換作業を行う場合は、15分以上(大気開放:約5分、真空引き:約10分、真空度(低真空モード):約600Pa、真空度(高真空モード):約10−4Pa)の交換時間が必要であった。この際、生物試料を用いた場合、環境変化に伴う経時的な損傷を受け、生物試料の活性が低下してしまうことが問題であった。
【0017】
このため、▲1▼交換作業のミスによるナノツールの破損が起き得る、▲2▼交換作業に手間と時間を要する、▲3▼ナノツールの交換作業に熟練を要する、といった課題があった。
【0018】
したがって、試料室を開放などのナノツールの環境を変更することなく、短時間かつ高精度にナノツールを自動的に交換する方法及び装置が求められている。
【0019】
このような装置は、原子間力顕微鏡用プローブやバイオナノプローブのみでなく、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡内でのナノマニピュレーションシステムのエンドエフェクタなどの交換に対しても、短時間かつ高精度にナノツールを交換する方法及び装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねてきた結果、次なる構成の本発明に想到した。
本発明のナノツールエクスチェンジャーシステムは、ナノツールアダプターと、ナノツールホルダーと、ナノツール取り付け機構の一部もしくは全てから構成され、異なるナノツールであっても一貫した方法及び装置でナノツールアダプターに取り付けることが可能であり、ナノツールホルダーによりナノツールアダプターを容易に交換可能な位置決めを行うことが可能であり、ナノツール取り付け機構により用途に応じてナノツールを取り付ける位置決めが可能である。
【0021】
本発明のナノツールアダプターは、例えば、全体が数ミリメートル立方の構造体からなり、ナノツールを取り付けることが出来るための固定・リリース機構を有する。
【0022】
このために、例えば、低融点金属とヒータからなる固定及びリリース機構では、数秒の短時間で低融点金属を溶解しナノツールを設置し固形化することで固定することができ、低コストかつ高精度に位置決めする方法である。
【0023】
また、例えば、固定及びリリース機構とは、形状記憶合金、感熱応答ポリマー、熱膨張・収縮、圧電素子、静電気駆動素子、MEMS型デバイス、NEMS型デバイス、マイクログリッパー、ナノグリッパー、などの各種手法により、ナノツールを固定及びリリースする。
【0024】
本発明のナノツールアダプターは、例えば、簡便且つ低コストに組み立てることが可能であり、例えば、ディスポーザブルに使用できる。
【0025】
本発明のナノツールアダプターは、例えば、異なるナノツールに対しても、同様の固定及びリリース機構により、ナノツールホルダー及びナノツール取り付け機構に対して、固定・リリースする。
【0026】
前記ナノツールホルダーは、例えば、サイズとしては数センチメートル程度であり、ナノツールアダプターの取り付け部を複数有しており、ナノツール交換または回収を行う構造である。
【0027】
前記ナノツール取り付け機構は、ナノツールを使用の用途に応じて、位置決めするための機構である。
【0028】
本発明のプローブ型装置は、請求項1〜5のいずれか1項に記載のナノツールアダプターと、前記ナノツールアダプターを交換・回収するナノツールホルダーと、を備え、前記ナノツール取り付け機構によりナノツールを使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
上記のように構成された装置によれば、ナノツールの劣化や異なる機能を有したナノツールを利用したい場合に短時間かつ連続的に交換することが可能となる。また、光学顕微鏡などの装置において、試料を温度やpHなどを制御した試料室内に設置している場合には、試料の設置環境を変化させることなく、電子顕微鏡などの装置の場合には、真空状態の試料室を大気開放することなく、交換が可能となるため、ナノツールの交換時間が飛躍的に短縮される。
【0030】
また、生物試料などを対象とする場合には、上記の試料の環境を変化させることにより損傷が入る可能性があるが、本発明によりこの損傷を回避することが出来る。
【0031】
また、ナノツールアダプターを用いることで、ナノツールの交換作業の手間を低減し、また高精度にナノツールを位置決めすることが可能となる。
【0032】
また、ナノツールは非常に小さく容易に破損する恐れがあり、手作業の交換では操作のミスによるエンドエフェクタの破損が起きる場合が多々あるが、本手法によりナノツールの交換を自動化することが出来るため、交換時の破損の可能性を飛躍的に低減することが出来る。
【0033】
また、通常ナノツールの交換作業は熟練を要するものであるが、本発明によりナノツール交換を自動化することにより、熟練度を低減し、容易かつ確実なナノツール交換を行うことが出来る、
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、本発明のナノツールエクスチェンジャーシステムの構成を示す。
【図2】図2は、本発明のナノツールエクスチェンジャーシステムのフローチャートを示す。
【図3】図3は、本発明のナノツールホルダーのナノツールの取り付け例を示す。
【図4】図4は、本発明のナノツールアダプターによるナノツール固定・リリース機構の構成を示す。
【図5】図5は、本発明のナノツールホルダーによるナノツール固定・リリース機構の構成を示す。
【図6】図6は、本発明のナノツール取り付け機構の構成を示す。
【図7】図7は、本発明の実施例である、環境制御型電子顕微鏡内でのナノツールの交換作業例の構成を示す。
【図8】図8は、本発明の実施例である、ステンレス薄板を用いた、ナノツールホルダーの寸法と外観写真を示す。
【図9】図9は、本発明の実施例である、低融点金属を用いたナノツール取り付け機構の寸法と外観写真を示す。
【図10】図10は、本発明の実施例である、環境制御型電子顕微鏡内でのナノツールの交換作業例のセットアップの写真を示す。
【図11】図11は、本発明の実施例である、環境制御型電子顕微鏡内でのナノツールの交換作業例の結果を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明のナノツールエクスチェンジャーシステムの構成を図1に示す。ナノツール(2)はナノツールアダプター(3)に装着され、1つもしくは複数のナノツールは、ナノツールホルダー(1)に格納されている。
【0036】
ナノツールホルダー(1)のナノツールアダプター(3)の配置は、水平・垂直などに限定することはなく、図2に示すように、交換に適した配置(例えば、半円状(図2 配置例(1))、盤目状(図2配置例(2)、円状(図2 配置例(3))など)にすることで、ナノツールの交換効率を向上できる。
【0037】
ナノツール交換のフローチャートを図3に示す。基本的に、本フローチャートに従って、ナノツールを交換する。
【0038】
図4に示すように、ナノツールアダプター(3)を用いることによって、異なるナノツールに対しても、ナノツールアダプター(3)が有する固定・リリース機構により交換する。
【0039】
図5に示すように、ナノツールアダプター(3)により、ナノツールホルダー(1)に装着された状態から、ナノツール(2)を固定・リリースすることでナノツールを交換する。
【0040】
図6に示すように、ナノツールアダプター(3)を用いることによって、異なるナノツールに対しても、同様の固定・リリース機構により、ナノツールホルダー及びナノツール取り付け機構に対して、ナノツールを交換する。
【0041】
図7に示すように、ナノツール(2)をエンドエフェクタとして利用するため、移動ステージ(5)により、ナノツール取り付け機構(4)を用いてナノツールを交換する。
【0042】
図1に示すように、試料ステージ(7)上の試料(6)に対して、移動ステージを用いることにより、試料に対する操作を行う。
【実施例】
【0043】
次に、上記のナノエクスチェンジャーシステムの実施例を示す。図6に示すように、ナノツールホルダー(1)にナノツール(2)と一体型のナノツールアダプター(3)を用いて、環境制御型電子顕微鏡(10)内で移動ステージ(5)を用いてナノツールの交換を行う。
【0044】
図8に示すように、ナノツールホルダー(1)は、ステンレス製の薄板を2枚固定した構造を持ち、それらの隙間にナノツールアダプター(3)を固定する。
【0045】
図9に示すように、ナノツール取り付け機構(4)を作製し、ナノツールアダプターの固定・リリースは低融点金属(8)の加熱・冷却による溶解・固形を利用する。
【0046】
低融点金属(8)として、本実施例では、インジウムを用いた。インジウムの融点は156℃である。
【0047】
低融点金属(8)の加熱は、セラミックヒーター(9)を用いて行う。
【0048】
ナノツール(2)交換前、ナノツール(2)はナノツールアダプター(1)内に収納されている。
【0049】
低融点金属(8)及びセラミックヒーター(9)は、ナノスケールの高精度な位置決めが可能な移動ステージ(5)上に固定する。
【0050】
ナノツール(2)の交換作業を行うために、本実施例では、図6に示すように、環境制御型電子顕微鏡(11)により実時間観察環境下で、移動ステージ(5)を操作することにより行う。図10に実際に行ったセットアップの例を示す。
【0051】
はじめに、セラミックヒーター(9)を加熱することで、低融点金属(8)を溶解させる。低融点金属(8)を用いることで、加熱時間は約10秒の短時間で溶解する。
【0052】
次に、図11(左図)に示すように、低融点金属(8)を溶解させた状態で、ナノツール(2)の固定部を、低融点金属(8)内に挿入する。
【0053】
次に、図11(中図)に示すように、低融点金属(8)を冷却し固定する。実施例では、放熱により冷却を行い、冷却時間は約100秒程度である。低融点金属(8)の固形化することで、ナノツール(2)を固定する。
【0054】
次に、図11(右図)に示すように、低融点金属(8)を再加熱し、リリースする。これにより、低融点金属(8)が溶解する。この状態で、移動ステージ(5)を用いて、ナノツール(2)をナノツールホルダー(1)に挿入し固定することで、ナノツール取り付け機構(3)からナノツール(2)をリリースする。
【0055】
本実施例では、環境制御型電子顕微鏡(10)を用いており、試料室を減圧する必要がある。このため、15分以上(大気開放:約5分、真空引き:約10分、真空度(低真空モード):600Pa、真空度(高真空モード):10−4Pa)の交換時間が必要であった。実施例では、交換時間は3分程度に短縮することができた。
【0056】
また、環境制御型電子顕微鏡(10)内に設置した試料(6)では、手動によるナノツール交換では、試料室を大気開放する必要があり、例えば生物試料を対象とした場合、大気開放により経時的な損傷を受け、生物試料の活性が低下してしまうことが問題であったが、本実施例では、試料室を大気開放することなく、ナノツールの交換が可能となった。
【符号の説明】
【0057】
1 ナノツールホルダー
2 ナノツール
3 ナノツールアダプター
4 ナノツール取り付け機構
5 移動ステージ
6 試料
7 試料ステージ
8 低融点金属
9 セラミックヒーター
10 環境制御型電子顕微鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノツールを、
容器内に格納するためのナノツールアダプターと、
前記ナノツールアダプターを回収するための
ナノツールホルダーと、
を備え、
前記ナノツール取り付け機構を用いて、ナノツールを使用することが出来ることを特徴とする装置
【請求項2】
ナノツールの交換は、
試料の環境変化を起こさずにさせずに、
例えば真空の試料室を大気開放せずに試料室内で
ナノツール交換をすることが出来ることを特徴とする装置
【請求項3】
前記ナノツールアダプターは
ナノツールが異なる場合であっても、ナノツールの固定・リリースをすることができ、ナノツールホルダー及びナノツール取り付け機構に固定・リリースをすることができることを特徴とする請求項1記載のナノツールアダプター。
【請求項4】
前記ナノツールホルダーは
ナノツールアダプターを複数固定・リリースすることが出来ることを特徴とする請求項1に記載のナノツールホルダー。
【請求項5】
前記ナノツール取り付け機構は
ナノツール取り付け機構に固定・リリースする方式とすることにより、
目的応じた作業を可能とすることを特徴とする請求項2に記載のナノツール取り付け機構。
【請求項6】
請求項1、2のいずれか1項に記載のナノツールアダプターと、
前記1、3のいずれか1項に記載のナノツールホルダーと、
前記1、4のいずれか1項に記載のナノツール取り付け機構と、
のいずれか、もしくは全てを備え、
前記ナノツールの交換を自動化するための方法及び装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−242372(P2012−242372A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122711(P2011−122711)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(591240157)
【出願人】(506276099)
【出願人】(510310749)
【Fターム(参考)】