ナノピンセット装置および微小試料の把持方法
【課題】 微小物体を正確に把持したり解放したりすることができるナノピンセット装置を提供すること。
【解決手段】 ナノピンセット1の静電アクチュエータ4a,4bを構成する固定電極5a,5bおよび可動電極6a,6bは、いずれも櫛歯形状を呈しており、相互に複数の櫛歯が噛み合うように対向配置されている。固定電極5a,5bは台座10に固定され、可動電極6a,6bは細いビーム状の支持部7によって台座10に弾性的に固定されている。電源回路2により固定電極5a,5bと可動電極6a,6bとの間に直流電圧を印加すると、クーロン力により可動電極6a,6bが移動してアーム3を駆動する。ナノピンセット装置50では、静電アクチュエータ4a,4bをロック状態とすることにより、微小物体を確実に把持することができる。
【解決手段】 ナノピンセット1の静電アクチュエータ4a,4bを構成する固定電極5a,5bおよび可動電極6a,6bは、いずれも櫛歯形状を呈しており、相互に複数の櫛歯が噛み合うように対向配置されている。固定電極5a,5bは台座10に固定され、可動電極6a,6bは細いビーム状の支持部7によって台座10に弾性的に固定されている。電源回路2により固定電極5a,5bと可動電極6a,6bとの間に直流電圧を印加すると、クーロン力により可動電極6a,6bが移動してアーム3を駆動する。ナノピンセット装置50では、静電アクチュエータ4a,4bをロック状態とすることにより、微小物体を確実に把持することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電力を利用して微小物体を把持、解放するナノピンセット装置、および、微小試料の把持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノピンセットは、一対のアームの先端部の開閉動作により、ナノオーダーあるいはミクロンオーダーサイズの微小物体を把持し、移送し、解放する機能を有する。従来、一対のアームの開閉を行わせるためのアクチュエータとしては、静電方式、熱方式、圧電方式など種々のものが提案されている。その中で、静電方式のアクチュエータとしては、噛合する2つの櫛歯電極を用いる方式のものが知られており、電極間に印加される電圧をオン・オフ制御することによりアームを開閉させている(例えば、特許文献1参照)。さらに、特許文献1に記載の装置では、往復運動する搬送子を用いてアームを所定量ずつ開閉させるようにしている。
【0003】
【特許文献1】特開平7−52072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の装置では、微小物体を把持する際に、その微小物体を正しく把持したか否かの判断が難しい。また、把持している微小物体を解放する際に、把持状態から解放状態への移行過程をチェックできないので、解放動作を正確に行うのが難しいという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)請求項1の発明に係るナノピンセット装置は、開閉自在な一対のアームと、一対のアームをクーロン力で開閉駆動する静電アクチュエータと、静電アクチュエータに所定の駆動電圧を印加する制御手段とを備え、制御手段は、一対のアームが対象物を把持したのち、静電アクチュエータで発生するクーロン力が、対象物を把持する際にアームが変形することによって生じる最大弾性力を上回るように決定されるロック駆動電圧を静電アクチュエータへ印加することを特徴とする。
(2)請求項2の発明は、請求項1に記載のナノピンセット装置において、制御手段は、ロック駆動電圧により一対のアームが対象物を把持したのち、静電アクチュエータで発生するクーロン力が弾性力と釣り合うように決定されるアンロック駆動電圧を静電アクチュエータへ印加するものである。
(3)請求項3の発明は、請求項1または2に記載のナノピンセット装置において、制御手段は、開放されている一対のアームで対象物を把持させる際に、一対のアームが所定の把持力で対称物を把持するように決定されるグリップ駆動電圧を静電アクチュエータへ印加する。
(4)請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のナノピンセット装置において、ロック駆動電圧の印加を指令するロックスイッチと、アンロック駆動電圧を指令するアンロックスイッチと、グリップ駆動電圧を指令するグリップスイッチとが操作者に操作されるように配設されている操作盤を備える。
(5)請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のナノピンセット装置において、静電アクチュエータは、櫛歯型の固定電極と、その固定電極に所定の間隔を開けて噛合する櫛歯型の可動電極とを有するものである。
(6)請求項6の発明は、請求項5に記載のナノピンセット装置において、固定電極の櫛歯と可動電極の櫛歯の少なくとも一方の噛合する対向面に、絶縁層が設けられている。
(7)請求項7の発明による微小試料の把持方法は、クーロン力で開閉駆動する静電アクチュエータにより一対のアームが対象物を把持したのち、クーロン力が、対象物を把持する際に変形するアームによる弾性力を上回るように、静電アクチュエータへ駆動電圧を印加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によるナノピンセット装置によれば、静電アクチュエータにロック駆動電圧を印加することにより、微小物体を確実に把持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態によるナノピンセット装置について図を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施の形態によるナノピンセット装置全体の概略を示す構成図である。ナノピンセット装置50は、ナノピンセット1と、電源回路2とを備えており、ナノピンセット1は、後述するようにSOI(Silicon on Insulator)ウエハから一体で作製される。SOIウエハは、2枚のSi単結晶板の一方にSiO2層を形成し、SiO2層を介して貼り合わせたものである。
【0008】
図1に示すように、ナノピンセット1は、一対のアーム3a,3bと、一対の静電アクチュエータ4a,4bと、一対の支持部7a,7bと、一対の連結部8a,8bと、一対のアーム支持部9a,9bと、台座10とを備える。静電アクチュエータ4aには、固定電極5aおよび可動電極6aが設けられ、静電アクチュエータ4bには固定電極5bおよび可動電極6bが設けられている。台座10は、不図示のホルダに着脱可能に取り付けられ、そのホルダは、不図示の移動機構により3次元方向に移動可能であり、これにより、ナノピンセット1全体が3次元方向に移動可能となっている。
【0009】
図2を参照しながら、ナノピンセット1の構造を詳しく説明する。図2は、図1に示すナノピンセット1を拡大して示す平面図である。図2以下では、ナノピンセット1の左右対称に設けられる構成部品については、主として左側についてのみ説明する。固定電極5aおよび可動電極6aは、いずれも櫛歯形状を呈しており、相互に複数の櫛歯が噛み合うように対向配置されている。固定電極5aは台座10に固定されているが、可動電極6aは、細いビーム状の支持部7aによって台座10に弾性的に固定されている。アーム3a,3bは、それぞれ細いビーム状のアーム支持部9a,9bを介して台座10に弾性的に固定されている。アーム3aと可動電極6aとは連結部8aによって連結され、アーム3bと可動電極6bとは連結部8bによって連結されている。
【0010】
図1および図2を参照すると、ナノピンセット1には、左側電極端子2a、左側電極端子2b、左アーム用電極端子2c、右アーム用電極端子2d、右側電極端子2e、右側電極端子2fおよびアース電極端子2gが形成されている。左側電極端子2aは固定電極5aに接続され、左側電極端子2bは可動電極6aに接続され、左アーム用電極端子2cはアーム3aに接続されている。右アーム用電極端子2dはアーム3bに接続され、右側電極端子2eは可動電極6bに接続され、右側電極端子2fは固定電極5bに接続され、アース電極端子2gは台座10に接続されている。これら7つの電極端子2a〜2gと電源回路2の7つの端子2a〜2gとが、対応する符号同士接続されている。
【0011】
左側電極2a,2bの間にはDC電源20aが接続され、右側電極2e,2fの間にはDC電源20bが接続されている。左側電極2a,2b間に直流電圧を印加することにより、固定電極5aと可動電極6aとの間にクーロン力による静電引力を発生させ、可動電極6aを固定電極5aに対して動かすことができる。右側の固定電極5b,可動電極6bについても同様に動作する。200はDC電源20a,20bを制御するコントローラであり、詳細は後述する。
【0012】
左アーム用電極端子2cと右アーム用電極端子2dは、アーム3a,3b間に作用する電気量などを検出するために設けられている。そのため、アーム3a,3bは、それぞれ可動電極6a,6bとは絶縁されている。アース電極端子2gは、台座10が浮遊電極になるのを防ぐために設けられている。また、チップ抵抗R1〜R6は、ナノピンセット1に人体が接触したり、ナノピンセット1と電源回路2とを結ぶケーブルが電磁波を受けたりしてノイズが混じるのを防ぐために設けられている。
【0013】
図3は、図1に示すナノピンセット1の要部を示す平面図である。可動電極6aと固定電極5aとの間に電圧を印加すると、可動電極6aが固定電極5aに対して、図3の右方向(x方向)に動くことにより、アーム3aがx方向に駆動される。電圧印加を解除すると、アーム3aは元の位置、つまり図3に示す位置へ復帰する。右側については動作が反転するだけであり、同様に、可動電極6bが固定電極5bに対して、図中、左方向に動くことにより、アーム3bが左方向に駆動される。したがって、アーム間隔Dを変えることができ、微小物体を把持したり解放することができる。
【0014】
ここで、静電アクチュエータ4aの動作原理を説明する。
図4は、ナノピンセット1の固定電極5aおよび可動電極6aの一部を模式的に示す斜視図である。印加電圧V=0の初期状態におけるアーム間隔DをD0とする。櫛歯型静電アクチュエータの典型的なモデルでは、固定電極5aと可動電極6aとの間に生じる静電容量Ccomb(x)は、可動電極6aの初期位置からの移動距離xの関数として式(1)で与えられる。但し、式(1)において、ε0は真空の誘電率、wは櫛歯の幅、l0は櫛歯先端と対向する電極の壁面との初期間隔、lは櫛歯の長さ、gは櫛歯間のギャップ、bは櫛歯の厚み、Vは印加電圧、Nは櫛歯の本数であり、これらは図4に対比させて示されている。
【数1】
【0015】
このとき、可動電極6a,固定電極5a間に蓄えられるエネルギーはCcomb(x)V2/2なので、電極間に発生するクーロン力(静電気力)Fcomb(x)は式(2)で与えられる。
【数2】
【0016】
次に、アーム3aが初期位置から閉じるように移動した場合の弾性力について説明する。図2に示すようにアーム3aと可動電極6aとは連結部8により一体とされ、それらは支持部7aおよびアーム支持部9aにより弾性的に支持されている。ただし、支持部7aの弾性力に対してアーム支持部9aの弾性力は比較的小さいので、以下ではアーム支持部9aの弾性力を無視して説明する。
【0017】
可動電極6aに設けられた一対の支持部7aを片持ち梁とみなして、モールの定理により導かれる応力の一般式を用いると、支持部7aの弾性力Fel(x)は、可動電極6aの移動距離xの関数として式(3)のように表される。式(3)において、Lは支持部7aの長さ、Bは支持部7aの幅、hは支持部7aの厚さ、E(GPa)はシリコンの横弾性係数、Nsは支持部7aの数である。
【数3】
【0018】
左右のアーム3a,3bが互いに接触してアーム間隔Dが0となったときの可動電極6aの移動距離をxdとすると、式(3)で表される支持部7aの弾性力Fe l (x)は、0≦x<xdの範囲で成り立つ。アーム間隔Dが0となった後に、さらに可動電極6aが移動してアーム3a,3bが変形すると、アーム3aと3bの変形による弾性力が上記Fe l (x)に加算されることになる。このとき、アーム3a,3bをアーム先端から連結部8の力点までを片持ち梁状構造体(バネ定数をkとする)と仮定すると、アーム3a,3bの変形による弾性力はk(x−xd)にて表され、xd ≦x<l0の範囲では、式(4)のように表される。l0は櫛歯の先端と谷部との隙間の初期値であり、x=l0のとき隙間はゼロとなる。
【数4】
【0019】
図5は、式(2)で表されるクーロン力Fcomb(x)と、式(3)、(4)で表される弾性力Fe l (x)を、可動電極6aの移動距離である櫛歯移動距離xに関して示したものである。図5において、縦軸はクーロン力または弾性力を、横軸は櫛歯移動距離xをそれぞれ表している。
【0020】
曲線C1,C2は印加電圧がV1,V2(V2>V1)の場合のクーロン力を示し、直線部E1は式(3)による弾性力を、直線部E2は式(4)による弾性力をそれぞれ示している。上述したようにxdはアーム3a,3bが互いに接触した時の移動距離であり、x>xdではアーム3a,3bの変形による弾性力が加わるため、直線部E2の傾きは直線部E1の傾きよりも大きくなっている。
【0021】
《動作説明》
次に、ナノピンセット1の開閉動作について説明する。上述したように、連結部8aにより一体となった可動電極6aおよびアーム3aは、支持部7aおよびアーム支持部9aにより弾性支持されている。そのため、電極5a,6aに電圧を印加すると、電極間に働くクーロン力(式(2)参照)によるアーム3aを閉じようとする力と、そのクーロン力に反してアーム3aを初期位置に戻そうとする弾性力とが釣り合う位置でまで可動電極6aおよびアーム3aが移動することになる。ただし、ここでは、上述したようにアーム支持部9aの弾性力は無視して考える。
【0022】
そして、印加電圧を大きくする程この櫛歯移動距離xは大きくなり、アーム間隔D(図3参照)が小さくなる。図5における曲線C1と直線部E1との交点は、印加電圧がV1のときにクーロン力と弾性力とが釣り合う位置を表しており、図17(a)に示すように櫛歯移動距離はxaでアーム間隔は(D0−2xa)となる。なお、D0は、櫛歯移動距離xがx=0のときのアーム間隔初期値である。
【0023】
図6は、印加電圧Vと櫛歯移動距離xとの関係を示す図である。印加電圧Vを0から徐々に大きくすると、曲線F1上を左端から右方向へと移動して櫛歯移動距離xが大きくなる。上述したように、印加電圧V1では櫛歯移動距離はxaとなり、印加電圧をV3に増加すると櫛歯移動距離がxdとなって図17(b)に示すようにアーム3a,3b同士が接触する。さらに印加電圧を増加させると、図18(a)に示すように可動電極6a,6bはアーム3a,3bを変形させつつ移動する。このとき、アーム3a,3bの変形による弾性力が加わるため、電圧変化に対する移動距離変化傾向がx=xdの前後で変化する。
【0024】
図5において、印加電圧を徐々に大きくすると、クーロン力を示す曲線は右上がりの傾向が大きくなると共に全体的に図示上方へと移動する。そのため、クーロン力の曲線と弾性力に関する直線部E1,E2との交点は右方向へ移動する。すなわち、印加電圧Vの増加に伴う交点の右方向への移動が、図6の曲線F1上における右方向への移動に対応している。
【0025】
(プルインに関する説明)
ところで、印加電圧をさらに増加させてV2とすると、図5の曲線C2のように直線部E1,E2よりも常に上側となる。すなわち、どのような櫛歯移動距離xであってもクーロン力が常に弾性力を上回る状態(クーロン力>弾性力)となり、印加電圧をそれ以上増加させなくても可動電極6が固定電極5aに引き寄せられて図18(b)に示すような密着状態となる。このような現象のことを、プルイン(Pull-in)現象と呼ぶ。
【0026】
このようなプルイン現象が発生する電圧は、クーロン力の曲線と弾性力の直線部E1,E2との接点が無くなる電圧Vpであって、ここでは電圧Vpをロック電圧と呼ぶことにする。なお、本実施の形態では、プルイン時に固定電極5aと可動電極6aとが短絡するのを防止するために、70nm程度の厚さの絶縁層が固定電極5aおよび可動電極6aの表面に形成されている。この場合、固定電極5aと可動電極6aとは140nm程度の距離でプルイン状態となっている。このときに働くクーロン力は、式(2)における真空の誘電率ε0の代わりに、絶縁層(例えば、シリコン酸化膜)の誘電率を用いて求めることができる。シリコン酸化膜の比誘電率は約4.2である。
【0027】
図6において、印加電圧VをV3からVpへと徐々に増加させると、櫛歯移動距離xはxdからxbへと移動する。そして、印加電圧がロック電圧Vpに達すると、xbからxpまで急激に移動して可動電極6aが固定電極5aに密着する。なお、プルイン状態における移動距離xpは櫛歯電極の初期間隔l0に等しい。
【0028】
印加電圧がVpとなる直前におけるアーム3a,3bの把持力は、アーム変形量(xb−xd)に対応した弾性力であるが、プルイン状態(V=Vp)になるとアーム変形量(xp−xd)に対応した弾性力へと増加するので、その弾性力増分はアーム3a,3bをさらに(xp−xb)だけ変形させるのに要する力に等しい。すなわち、わずかな電圧増加で把持力を大きく増加させることができる。アーム3a,3bが変形することによって生じる弾性力には構造上、上限があり、印加電圧Vpのとき、クーロン力は、その上限値(アーム3a,3bが変形することによって生じる最大弾性力)を上回っている。なお、上述した把持力は、図18(b)に示すようにアーム3a,3b間に試料を把持していない場合の値であり、試料を把持した場合には試料の寸法に応じて異なる。
【0029】
このように、プルイン状態では大きなクーロン力によって可動電極6aが固定電極5aに密着して固定状態となっているため、電極5a,6a同士が一体になっているとみなすことができる。その結果、ナノピンセット1に対して、搬送に伴う振動が加わったり、外部衝撃が加わったりしても、安定して試料を把持し続けることができ、試料搬送の信頼性を著しく向上させることができる。また、一旦、プルイン状態となると、可動電極6aと固定電極5aとの間に摩擦が生じることにより、櫛歯の突出方向と垂直な方向にも動き難くなる。
【0030】
(プルアウトに関する説明)
次に、プルイン状態の解除動作について説明する。プルイン状態を解除するためには、ロック電圧Vpとなっている印加電圧を減少させれば良い。実際に印加電圧をVpから減少させると、図6の直線F2に示すように印加電圧がVrとなるまでプルイン状態が継続され、可動電極6aは固定電極5aに密着したままである。そして、印加電圧がVrとなったときにプルイン状態が解除され、弾性力と印加電圧Vrにおけるクーロン力とが釣り合う櫛歯移動距離xrまで可動電極6aが移動する。図6に示す例では、xr<xdとなっているので、アーム3a,3bが開くことになる。ここでは、電圧Vrをアンロック電圧と呼ぶことにする。
【0031】
このように、プルイン状態となる電圧(ロック電圧Vp)とプルイン状態が解除される電圧(アンロック電圧Vr)とが異なる原因として、次のような理由が考えられる。図7はアンロック電圧Vrを説明する図であり、クーロン力または弾性力と櫛歯移動距離xとの関係を示したものである。なお、図7では、櫛歯移動距離xが小さい領域については、説明に必要ない領域であるので図示を省略した。
【0032】
図7において、曲線C(Vp)は印加電圧がロック電圧Vpのときのクーロン力を示しており、曲線C(Vr)は印加電圧がアンロック電圧Vrのときのクーロン力を示している。曲線C(Vr)は、櫛歯移動距離xrで直線部E1と交わっている。また、曲線C(V4)は印加電圧V4のときのクーロン力を示しており、Vp>V4>Vrである。
【0033】
前述したように、固定電極5aおよび可動電極6aには、プルイン状態のときに電極5a,6a同士が短絡しないように表面に絶縁層が形成されている。また、電極5a,6aの接触面は理想的な平面ではなく微少な凹凸が有るため、プルイン状態のときに電極5a,6a間の距離は厳密にはゼロになっていない。そのため、プルイン状態となっていても、電極5a,6a間には絶縁層の厚さΔx0に相当する隙間が形成されている。すなわち、プルイン状態の時の櫛歯移動距離xpはxp=l0−Δx0となっている。
【0034】
仮に、絶縁層が無く、固定電極5aと可動電極6aとが厳密に密着していた場合、櫛歯移動距離xはx=l0となるので、電極5a,6aに僅かでも電圧が印加されていれば、プルイン状態のx=l0ではクーロン力が無限大となる。しかし、実際には接触面に凹凸や自然酸化膜があったり、上述したように絶縁層が形成されていたりするため、プルイン状態となっていてもクーロン力が無限大になることはない。
【0035】
例えば、図7に示す例では厚さΔx0の絶縁層が形成されているので、プルイン状態(x=xp)であっても、曲線C(Vp),C(V4),C(Vr)で示したクーロン力は無限大になっていない。このとき、ロック電圧Vpのプルイン状態から印加電圧VをV4まで減少させた場合を考えると、図7のクーロン力曲線C(V4)からも分かるように、櫛歯移動距離xpにおいてはクーロン力>弾性力となっている。そのため、可動電極6aが固定電極5aから離れることはなく、プルイン状態が維持される。
【0036】
ところが、さらに印加電圧Vを下げてV=Vrとすると、櫛歯移動距離xpにおけるクーロン力曲線C(Vr)の位置が弾性力を表す直線部E2よりも下側となって、クーロン力<弾性力となる。その結果、弾性力によりアーム3a,3bは開く方向に駆動されて櫛歯移動距離xrまで戻り、その位置でクーロン力と弾性力とが釣り合う。すなわち、可動電極6aのプルイン状態が解除されてアンロック状態となり、アーム3a,3bが開いた状態となる。
【0037】
このように、印加電圧Vを制御することにより、アーム3a,3bの開閉、プルインおよびプルイン解除を行うことができる。ところで、図6に示すように、プルインの際の可動電極6aの移動量は(xp−xb)であり、絶縁層の膜厚Δx0を調整することによりプルイン時の把持力増分を調整することができる。また、絶縁層の膜厚Δx0を大きくすることにより、プルイン解除時の可動電極6aの移動量(xp−xr)を小さくすることも可能である。
【0038】
例えば、図7において絶縁層膜厚を(l0−xc)のように大きくした場合、プルイン時のアーム3a,3bの変形量増加(xp−xc)は、膜厚Δx0の場合の変形増加量=xp−xdよりも小さくなる。その結果、プルイン状態における把持力の増加を小さくすることができ、例えば、生物試料のような強く把持したくない試料に好適である。
【0039】
印加電圧をロック電圧VpからV=V4へと減少させると、クーロン力曲線C(V4)の位置が弾性力を表す直線部E2よりも下側となって、クーロン力<弾性力となる。その結果、弾性力によりアーム3a,3bは開く方向に駆動されて櫛歯移動距離xeまで戻り、その位置でクーロン力と弾性力とが釣り合う。上述した膜厚=l0−xpの場合には、印加電圧をVrまで下げないとプルインを解除できなかったが、膜厚=l0−xc(>l0−xp)の場合にプルイン解除に必要な印加電圧減少量を小さくできる。さらに、プルイン解除時の可動電極移動量を小さくすることができ、図7の場合にはxe>xdであるためアーム3a,3bは開かない。
【0040】
上述した例では、絶縁層の膜厚を大きくすることにより、より高い印加電圧でプルイン解除ができるようにしたが、複数ある櫛歯の一部にストッパー構造を設けて、プルイン時に実際に接触する櫛歯(すなわち、プルイン状態の櫛歯)の数を減らすようにしても良い。図19はそのような櫛歯アクチュエータの例を示したものであり、台形状の固定電極25aおよび可動電極26aを示したものである。プルイン時において、固定電極25aに形成された櫛歯250は可動電極26aの谷部に設けられたストッパー部260と密着してプルイン状態となり、他の櫛歯251は可動電極26aの谷部との間に隙間が生じることになる。可動電極26aの谷部に絶縁層、例えば酸化シリコンを形成することにより、ストッパー部260を設けてもよいし、可動電極26aの谷部に外部から構造体を挿入することにより、ストッパー部260を設けてもよい。
【0041】
ストッパー部260の溝深さ方向厚さをt2とすると、櫛歯251の隙間寸法もt2となる。櫛歯は台形状をしているので可動電極26aが移動すると櫛歯側面の間隔である櫛歯間隔gも変化し、櫛歯間隔gは櫛歯移動距離xの関数g(x)となる。ここで、プルイン状態における櫛歯間隔をgx3とし、印加電圧オフ時の櫛歯間隔をg0とすると、関数g(x)は次式(5)で与えられる。
【数5】
【0042】
櫛歯250の数をN1、櫛歯251の数をN2とすると、クーロン力Fcom2(x)は次式(6)で与えられる。式(6)において、w2は台形状櫛歯の先端部の幅であり、θは櫛歯側面の傾斜角である(図19参照)。式(6)においてθ=0、g0=gx3とおけば、矩形状の櫛歯に対する式となる。
【数6】
【0043】
台形状櫛歯の場合、実際にクーロン力に寄与する櫛の先端部の幅w2は、面積、初期ギャップ、櫛歯長、櫛歯間隔に関して同一条件で形成した矩形状の櫛歯の幅wに比べて小さくなる。しかし、移動距離が大きくなるほど櫛歯のギャップgが狭くなり、かつ、傾斜角θがあるため櫛歯のオーバラップを大きくすることができ、w2が小さくなることによるクーロン力の低下を補うことが可能となる。
【0044】
また、図20に示すように固定電極35aおよび可動電極36aの櫛歯先端を山形状にして、プルイン状態における接触面積を小さくするようにしても良い。図20の例では、段付の櫛歯にすることで、櫛歯移動とともに入れ子状態となってギャップgが狭くなる。この場合、ギャップの変化率が櫛歯移動距離xの変化に対して一様でないため、クーロン力の変化も入れ子状態になる前と後とでは大きく変化する。
【0045】
なお、上述した開閉動作の際の印加電圧Vの変更は手動で行っても良いが、本実施の形態では図1に示したコントローラ200に設けられたスイッチを操作することによりアーム開閉やプルイン、プルイン解除に必要な電圧変更を自動で行わせることにより、操作性の向上を図ることができる。図21はコントローラ200の操作パネルを示す図であり、201は電源スイッチ、202はオープンスイッチ、203はロック・アンロックスイッチ、204はグリップスイッチであり、205は電圧調整ダイアルである。
【0046】
オープンスイッチ202を操作すると印加電圧Vがオープン電圧とされ、アーム3a,3bが開状態となる。初期状態ではオープン電圧はゼロボルトに設定されているので、全開状態となる。通常は、対象とする試料の大きさに合わせて開状態が設定され、全開状態から電圧調整ダイアル205により印加電圧を調整して適切なオープン状態となるようにする。一旦、オープン電圧Vopの調整を行えば、次回からは、オープンスイッチ202を操作すると印加電圧はオープン電圧Vopとされ、所定のオープン状態となる。
【0047】
また、ロック・アンロックスイッチ203は電源オン後に、最初に操作されるとロック動作が行われてプルイン(ロック)状態となり、再度操作するとアンロック動作が行われてプルイン解除状態となる。また、プルイン状態でオープンスイッチ202が操作されると、ロック・アンロックスイッチ203は電源オン直後の初期状態となる。すなわち、再びロック・アンロックスイッチ203を操作すれば、ロック動作が行われる状態となる。
【0048】
オープンスイッチ202を操作した後にグリップスイッチ204を操作すると、アーム3a,3bが閉じられて試料が把持される。この場合、所定の把持力で試料が把持されるように、グリップ電圧Vgはアーム間隔が試料寸法と同じになる印加電圧よりもやや大きく設定される。そして、ロック・アンロックスイッチ203を操作してロック電圧Vpを印加してプルイン状態とする。
【0049】
その後、ナノピンセット1による試料搬送を行って試料を所定位置に移動したならば、ロック・アンロックスイッチ203を操作してプルイン状態を解除し、さらにオープンスイッチ202を操作してアーム3a,3bをオープン状態とし、試料把持を解除する。上述したように、プルイン状態では可動電極6aが固定電極5aに強固に密着しているので、搬送中に振動等によって試料を落とすようなおそれがない。
【0050】
このように、コントローラ200の各スイッチを操作することにより、オープン状態、グリップ状態、プルイン状態(ロック状態)、プルイン解除状態(アンロック状態)との間の移行をスムーズに行わせることができる。
【0051】
次に、図8〜図16を参照して、SOI基板を用いてナノピンセット1を形成する場合の製造方法について説明する。SOI基板100としては、図8(a)に示すように<110>方位の単結晶シリコンから成るベース層101、SiO2から成る絶縁層102、<110>方位の単結晶シリコンから成るシリコン層103が順に積層された基板が用いられる。
【0052】
ナノピンセット1を形成する材料には、SOI基板だけでなく、ガラス基板上に単結晶シリコン層を有する基板、アモルファスシリコン基板、ポリシリコン基板上にSOI層を有する基板なども用いることができる。すなわち、最上層が<110>方位を有するシリコン層103であって、このシリコン層103の下層に絶縁層102が形成されているような層構造を有する基板であれば、ベース層101を多層構造としてもかまわない。
【0053】
SOI基板100の各層の厚さの一例を述べると、シリコン層103は25μm、絶縁層102は1μm、ベース層101は300μmである。また、SOI基板100上で1つのナノピンセット1を形成する領域は、縦、横ともに数mmの矩形状をしている。図8(a)に示す工程では、スパッタリング法や真空蒸着法などにより、厚さ約50nmのアルミ層104をシリコン層103の表面に形成する。
【0054】
次に、図8(b)に示すように、アルミ層104の表面にレジスト層105を約2μmの厚さで形成し、フォトリソグラフィによりレジスト層105を露光・現像することにより、図8(c)に示すレジストパターン105aを形成する。図11は、SOI基板100の斜視図であり、アルミ層104の上面に、アーム3、静電アクチュエータ4等に対応するレジストパターン105aが形成されている。なお、図8(c)は、図11のI−I断面を示したものである。
【0055】
図8(d)に示すように、このレジストパターン105aをマスクとして混酸液によりアルミ層104をエッチングし、シリコン層103を露出させる。その後、ICP−RIE(Inductively Coupled Plasma - Reactive Ion Etching)によりシリコン層103を垂直方向に異方性エッチングする。このエッチングは絶縁層102が露出するまで行われ、エッチング終了後、硫酸・過酸化水素混合液によりレジストパターン105aおよびアルミ層104を除去する(図9(a)参照)。
【0056】
図12は、レジストパターン105aおよびアルミ層104を除去した後のSOI基板100を示す斜視図である。絶縁層102上には、シリコン層103による立体構造体が形成される。その立体構造体は、アーム3を構成する部分103aと、静電アクチュエータ4を構成する部分103bと、電極端子2a〜2fを構成する部分103cと、ガードを構成する部分103dとから成る。なお、ガードは、製造時にアーム3を損傷から防護するものであり、ナノピンセット1の構成部品ではないので、以下、その形成過程については説明を省略する。
【0057】
図9(b)に示すように、露出した絶縁層102およびシリコン層103(103a〜103c)を覆うようにレジスト106を塗布する。レジスト106の塗布厚さは10μm程度とする。その後、フォトリソグラフィによりレジスト106にマスクパターンを転写して現像することにより、図13に示すように、アーム構成部103aの先端部分におけるレジスト106が矩形状に除去されたレジストパターン106aを形成する。そして、レジストパターン106aをマスクとしてICP−RIEや通常のRIEなどを行い、アーム構成部103aの先端部分を所定の形状と寸法に加工する。また、ダイシングなどの機械的な切削加工によりその部分を所定の形状と寸法に加工することも可能である。
【0058】
次に、図9(c)に示すように、SOI基板100を表裏反転させて、スパッタリング法や真空蒸着法によりベース層101の表面にアルミ層107を形成する。アルミ層107の厚さは、約50nmとする。そして、アルミ層107の上にレジスト108を約2μmの厚さに形成した後に、フォトリソグラフィによりレジストパターンを形成し、そのレジスト108をマスクに用いてアルミ層107を混酸液によりエッチングする(図10(a)参照)。
【0059】
図14は、レジスト108およびアルミ層107の形状を示す斜視図である。図10(a)は、図14のII−II断面を示すものであり、絶縁層102の図示下側(表面側)にはシリコン層103によるアーム部103aの断面が図示されている。レジスト108は、連結部8に対応する部分111や台座10に対応する部分112などが残っており、逆に、アーム3の周辺領域が除去されてベース層101が露出している。
【0060】
その後、ベース層101の上に形成されたレジスト108およびアルミ層107をマスクとして、ベース層101をICP−RIEによりエッチングする。ベース層101は異方性エッチングにより垂直方向にエッチングされ、エッチングは絶縁層102が露出するまで行われる。図10(b)も図14のII−II断面を示すものであり、エッチング終了後に、硫酸・過酸化水素混液によりレジスト108,106およびアルミ層107を除去する。
【0061】
図15は、図10(b)に示すベース層101の裏面側を示す図である。エッチングにより、ベース層101には台座10、連絡部8などが形成される。次いで、台座10上に露出している酸化シリコンから成る絶縁層102を、緩衝フッ化水素溶液を用いてエッチングする。その結果、シリコン層103とベース層101とで挟まれた領域を除いて、絶縁層102が除去される(図10(c)参照)。
【0062】
図16は、ベース層101の表面側を示す斜視図であり、図10(c)は図16のIII−III断面を示したものである。上述したように、シリコン層103とベース層101との間には絶縁層102が介在している。その後、図10(d)に示すように、露出しているベース層101の上および各構造体を構成するシリコン層103の上に、真空蒸着法等によりアルミ等からなる導体膜109を形成する。導体膜109の厚さは500nm以下とする。このようにして、ナノピンセット1が完成するが、把持対象によってはFIBなどの加工装置によりアーム3を追加工しても良い。
【0063】
以上説明した実施の形態と特許請求の範囲の要素との対応において、電源回路2は制御手段を構成する。なお、本発明は、その特徴を損なわない限り、以上説明した実施の形態に何ら限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の形態に係るナノピンセット装置全体の概略を示す構成図である。
【図2】図1に示すナノピンセット1を拡大して示す平面図である。
【図3】図1に示すナノピンセット1の要部を示す平面図である。
【図4】ナノピンセット1の固定電極5aおよび可動電極6aの一部を模式的に示す斜視図である。
【図5】実施の形態に係るナノピンセット装置におけるクーロン力および弾性力の変化を示すグラフである。
【図6】実施の形態に係るナノピンセット装置における印加電圧Vと可動電極6aの移動距離xとの関係を示すグラフである。
【図7】アンロック電圧Vrを説明する図である。
【図8】実施の形態に係るナノピンセット1の製造工程を説明する図であり、図8(a)〜図8(d)の順に工程が進む。
【図9】図8に続く工程を示す図であり、図9(a)〜図9(c)の順に工程が進む。
【図10】図9に続く工程を示す図であり、図10(a)〜図10(d)の順に工程が進む。
【図11】図8(c)に示すSOI基板100の斜視図である。
【図12】図11に示すレジストパターン105aおよびアルミ層104を除去した後のSOI基板100の斜視図である。
【図13】レジストパターン106aの形状を示すSOI基板100の斜視図である。
【図14】図10(a)に示すレジストパターン108およびアルミ層107の形状を示すSOI基板100の斜視図である。
【図15】図10(b)に示すベース層101の裏面側を示すSOI基板100の斜視図である。
【図16】図10(c)に示すベース層101の表面側を示すSOI基板100の斜視図である。
【図17】櫛歯移動距離とアーム3a,3bとの関係を示す図であり、(a)はアーム3a,3bが開いている場合を示し、(b)アーム3a,3bが閉じている状態を示す。
【図18】櫛歯移動距離とアーム3a,3bとの関係を示す図であり、(a)はプルイン前の状態を示し、(b)プルイン状態を示す。
【図19】電極の歯形状を台形状櫛歯とした場合の固定電極25aおよび可動電極26aを示す図である。
【図20】電極の歯形状を段付きとした場合の固定電極35aおよび可動電極36aを示す図である。
【図21】コントローラ200を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
1:ナノピンセット 2:電源回路
3a,3b:アーム 4a,4b:静電アクチュエータ
5a,5b:固定電極 6a,6b:可動電極
7a,7b:支持部 8a,8b:連結部
9a,9b:アーム支持部 10:台座
50:ナノピンセット装置 100:SOIウエハ
101:ベース層 102:絶縁層
103:シリコン層 200:コントローラ
203:ロック・アンロックスイッチ
204:グリップスイッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電力を利用して微小物体を把持、解放するナノピンセット装置、および、微小試料の把持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノピンセットは、一対のアームの先端部の開閉動作により、ナノオーダーあるいはミクロンオーダーサイズの微小物体を把持し、移送し、解放する機能を有する。従来、一対のアームの開閉を行わせるためのアクチュエータとしては、静電方式、熱方式、圧電方式など種々のものが提案されている。その中で、静電方式のアクチュエータとしては、噛合する2つの櫛歯電極を用いる方式のものが知られており、電極間に印加される電圧をオン・オフ制御することによりアームを開閉させている(例えば、特許文献1参照)。さらに、特許文献1に記載の装置では、往復運動する搬送子を用いてアームを所定量ずつ開閉させるようにしている。
【0003】
【特許文献1】特開平7−52072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の装置では、微小物体を把持する際に、その微小物体を正しく把持したか否かの判断が難しい。また、把持している微小物体を解放する際に、把持状態から解放状態への移行過程をチェックできないので、解放動作を正確に行うのが難しいという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)請求項1の発明に係るナノピンセット装置は、開閉自在な一対のアームと、一対のアームをクーロン力で開閉駆動する静電アクチュエータと、静電アクチュエータに所定の駆動電圧を印加する制御手段とを備え、制御手段は、一対のアームが対象物を把持したのち、静電アクチュエータで発生するクーロン力が、対象物を把持する際にアームが変形することによって生じる最大弾性力を上回るように決定されるロック駆動電圧を静電アクチュエータへ印加することを特徴とする。
(2)請求項2の発明は、請求項1に記載のナノピンセット装置において、制御手段は、ロック駆動電圧により一対のアームが対象物を把持したのち、静電アクチュエータで発生するクーロン力が弾性力と釣り合うように決定されるアンロック駆動電圧を静電アクチュエータへ印加するものである。
(3)請求項3の発明は、請求項1または2に記載のナノピンセット装置において、制御手段は、開放されている一対のアームで対象物を把持させる際に、一対のアームが所定の把持力で対称物を把持するように決定されるグリップ駆動電圧を静電アクチュエータへ印加する。
(4)請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のナノピンセット装置において、ロック駆動電圧の印加を指令するロックスイッチと、アンロック駆動電圧を指令するアンロックスイッチと、グリップ駆動電圧を指令するグリップスイッチとが操作者に操作されるように配設されている操作盤を備える。
(5)請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のナノピンセット装置において、静電アクチュエータは、櫛歯型の固定電極と、その固定電極に所定の間隔を開けて噛合する櫛歯型の可動電極とを有するものである。
(6)請求項6の発明は、請求項5に記載のナノピンセット装置において、固定電極の櫛歯と可動電極の櫛歯の少なくとも一方の噛合する対向面に、絶縁層が設けられている。
(7)請求項7の発明による微小試料の把持方法は、クーロン力で開閉駆動する静電アクチュエータにより一対のアームが対象物を把持したのち、クーロン力が、対象物を把持する際に変形するアームによる弾性力を上回るように、静電アクチュエータへ駆動電圧を印加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によるナノピンセット装置によれば、静電アクチュエータにロック駆動電圧を印加することにより、微小物体を確実に把持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態によるナノピンセット装置について図を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施の形態によるナノピンセット装置全体の概略を示す構成図である。ナノピンセット装置50は、ナノピンセット1と、電源回路2とを備えており、ナノピンセット1は、後述するようにSOI(Silicon on Insulator)ウエハから一体で作製される。SOIウエハは、2枚のSi単結晶板の一方にSiO2層を形成し、SiO2層を介して貼り合わせたものである。
【0008】
図1に示すように、ナノピンセット1は、一対のアーム3a,3bと、一対の静電アクチュエータ4a,4bと、一対の支持部7a,7bと、一対の連結部8a,8bと、一対のアーム支持部9a,9bと、台座10とを備える。静電アクチュエータ4aには、固定電極5aおよび可動電極6aが設けられ、静電アクチュエータ4bには固定電極5bおよび可動電極6bが設けられている。台座10は、不図示のホルダに着脱可能に取り付けられ、そのホルダは、不図示の移動機構により3次元方向に移動可能であり、これにより、ナノピンセット1全体が3次元方向に移動可能となっている。
【0009】
図2を参照しながら、ナノピンセット1の構造を詳しく説明する。図2は、図1に示すナノピンセット1を拡大して示す平面図である。図2以下では、ナノピンセット1の左右対称に設けられる構成部品については、主として左側についてのみ説明する。固定電極5aおよび可動電極6aは、いずれも櫛歯形状を呈しており、相互に複数の櫛歯が噛み合うように対向配置されている。固定電極5aは台座10に固定されているが、可動電極6aは、細いビーム状の支持部7aによって台座10に弾性的に固定されている。アーム3a,3bは、それぞれ細いビーム状のアーム支持部9a,9bを介して台座10に弾性的に固定されている。アーム3aと可動電極6aとは連結部8aによって連結され、アーム3bと可動電極6bとは連結部8bによって連結されている。
【0010】
図1および図2を参照すると、ナノピンセット1には、左側電極端子2a、左側電極端子2b、左アーム用電極端子2c、右アーム用電極端子2d、右側電極端子2e、右側電極端子2fおよびアース電極端子2gが形成されている。左側電極端子2aは固定電極5aに接続され、左側電極端子2bは可動電極6aに接続され、左アーム用電極端子2cはアーム3aに接続されている。右アーム用電極端子2dはアーム3bに接続され、右側電極端子2eは可動電極6bに接続され、右側電極端子2fは固定電極5bに接続され、アース電極端子2gは台座10に接続されている。これら7つの電極端子2a〜2gと電源回路2の7つの端子2a〜2gとが、対応する符号同士接続されている。
【0011】
左側電極2a,2bの間にはDC電源20aが接続され、右側電極2e,2fの間にはDC電源20bが接続されている。左側電極2a,2b間に直流電圧を印加することにより、固定電極5aと可動電極6aとの間にクーロン力による静電引力を発生させ、可動電極6aを固定電極5aに対して動かすことができる。右側の固定電極5b,可動電極6bについても同様に動作する。200はDC電源20a,20bを制御するコントローラであり、詳細は後述する。
【0012】
左アーム用電極端子2cと右アーム用電極端子2dは、アーム3a,3b間に作用する電気量などを検出するために設けられている。そのため、アーム3a,3bは、それぞれ可動電極6a,6bとは絶縁されている。アース電極端子2gは、台座10が浮遊電極になるのを防ぐために設けられている。また、チップ抵抗R1〜R6は、ナノピンセット1に人体が接触したり、ナノピンセット1と電源回路2とを結ぶケーブルが電磁波を受けたりしてノイズが混じるのを防ぐために設けられている。
【0013】
図3は、図1に示すナノピンセット1の要部を示す平面図である。可動電極6aと固定電極5aとの間に電圧を印加すると、可動電極6aが固定電極5aに対して、図3の右方向(x方向)に動くことにより、アーム3aがx方向に駆動される。電圧印加を解除すると、アーム3aは元の位置、つまり図3に示す位置へ復帰する。右側については動作が反転するだけであり、同様に、可動電極6bが固定電極5bに対して、図中、左方向に動くことにより、アーム3bが左方向に駆動される。したがって、アーム間隔Dを変えることができ、微小物体を把持したり解放することができる。
【0014】
ここで、静電アクチュエータ4aの動作原理を説明する。
図4は、ナノピンセット1の固定電極5aおよび可動電極6aの一部を模式的に示す斜視図である。印加電圧V=0の初期状態におけるアーム間隔DをD0とする。櫛歯型静電アクチュエータの典型的なモデルでは、固定電極5aと可動電極6aとの間に生じる静電容量Ccomb(x)は、可動電極6aの初期位置からの移動距離xの関数として式(1)で与えられる。但し、式(1)において、ε0は真空の誘電率、wは櫛歯の幅、l0は櫛歯先端と対向する電極の壁面との初期間隔、lは櫛歯の長さ、gは櫛歯間のギャップ、bは櫛歯の厚み、Vは印加電圧、Nは櫛歯の本数であり、これらは図4に対比させて示されている。
【数1】
【0015】
このとき、可動電極6a,固定電極5a間に蓄えられるエネルギーはCcomb(x)V2/2なので、電極間に発生するクーロン力(静電気力)Fcomb(x)は式(2)で与えられる。
【数2】
【0016】
次に、アーム3aが初期位置から閉じるように移動した場合の弾性力について説明する。図2に示すようにアーム3aと可動電極6aとは連結部8により一体とされ、それらは支持部7aおよびアーム支持部9aにより弾性的に支持されている。ただし、支持部7aの弾性力に対してアーム支持部9aの弾性力は比較的小さいので、以下ではアーム支持部9aの弾性力を無視して説明する。
【0017】
可動電極6aに設けられた一対の支持部7aを片持ち梁とみなして、モールの定理により導かれる応力の一般式を用いると、支持部7aの弾性力Fel(x)は、可動電極6aの移動距離xの関数として式(3)のように表される。式(3)において、Lは支持部7aの長さ、Bは支持部7aの幅、hは支持部7aの厚さ、E(GPa)はシリコンの横弾性係数、Nsは支持部7aの数である。
【数3】
【0018】
左右のアーム3a,3bが互いに接触してアーム間隔Dが0となったときの可動電極6aの移動距離をxdとすると、式(3)で表される支持部7aの弾性力Fe l (x)は、0≦x<xdの範囲で成り立つ。アーム間隔Dが0となった後に、さらに可動電極6aが移動してアーム3a,3bが変形すると、アーム3aと3bの変形による弾性力が上記Fe l (x)に加算されることになる。このとき、アーム3a,3bをアーム先端から連結部8の力点までを片持ち梁状構造体(バネ定数をkとする)と仮定すると、アーム3a,3bの変形による弾性力はk(x−xd)にて表され、xd ≦x<l0の範囲では、式(4)のように表される。l0は櫛歯の先端と谷部との隙間の初期値であり、x=l0のとき隙間はゼロとなる。
【数4】
【0019】
図5は、式(2)で表されるクーロン力Fcomb(x)と、式(3)、(4)で表される弾性力Fe l (x)を、可動電極6aの移動距離である櫛歯移動距離xに関して示したものである。図5において、縦軸はクーロン力または弾性力を、横軸は櫛歯移動距離xをそれぞれ表している。
【0020】
曲線C1,C2は印加電圧がV1,V2(V2>V1)の場合のクーロン力を示し、直線部E1は式(3)による弾性力を、直線部E2は式(4)による弾性力をそれぞれ示している。上述したようにxdはアーム3a,3bが互いに接触した時の移動距離であり、x>xdではアーム3a,3bの変形による弾性力が加わるため、直線部E2の傾きは直線部E1の傾きよりも大きくなっている。
【0021】
《動作説明》
次に、ナノピンセット1の開閉動作について説明する。上述したように、連結部8aにより一体となった可動電極6aおよびアーム3aは、支持部7aおよびアーム支持部9aにより弾性支持されている。そのため、電極5a,6aに電圧を印加すると、電極間に働くクーロン力(式(2)参照)によるアーム3aを閉じようとする力と、そのクーロン力に反してアーム3aを初期位置に戻そうとする弾性力とが釣り合う位置でまで可動電極6aおよびアーム3aが移動することになる。ただし、ここでは、上述したようにアーム支持部9aの弾性力は無視して考える。
【0022】
そして、印加電圧を大きくする程この櫛歯移動距離xは大きくなり、アーム間隔D(図3参照)が小さくなる。図5における曲線C1と直線部E1との交点は、印加電圧がV1のときにクーロン力と弾性力とが釣り合う位置を表しており、図17(a)に示すように櫛歯移動距離はxaでアーム間隔は(D0−2xa)となる。なお、D0は、櫛歯移動距離xがx=0のときのアーム間隔初期値である。
【0023】
図6は、印加電圧Vと櫛歯移動距離xとの関係を示す図である。印加電圧Vを0から徐々に大きくすると、曲線F1上を左端から右方向へと移動して櫛歯移動距離xが大きくなる。上述したように、印加電圧V1では櫛歯移動距離はxaとなり、印加電圧をV3に増加すると櫛歯移動距離がxdとなって図17(b)に示すようにアーム3a,3b同士が接触する。さらに印加電圧を増加させると、図18(a)に示すように可動電極6a,6bはアーム3a,3bを変形させつつ移動する。このとき、アーム3a,3bの変形による弾性力が加わるため、電圧変化に対する移動距離変化傾向がx=xdの前後で変化する。
【0024】
図5において、印加電圧を徐々に大きくすると、クーロン力を示す曲線は右上がりの傾向が大きくなると共に全体的に図示上方へと移動する。そのため、クーロン力の曲線と弾性力に関する直線部E1,E2との交点は右方向へ移動する。すなわち、印加電圧Vの増加に伴う交点の右方向への移動が、図6の曲線F1上における右方向への移動に対応している。
【0025】
(プルインに関する説明)
ところで、印加電圧をさらに増加させてV2とすると、図5の曲線C2のように直線部E1,E2よりも常に上側となる。すなわち、どのような櫛歯移動距離xであってもクーロン力が常に弾性力を上回る状態(クーロン力>弾性力)となり、印加電圧をそれ以上増加させなくても可動電極6が固定電極5aに引き寄せられて図18(b)に示すような密着状態となる。このような現象のことを、プルイン(Pull-in)現象と呼ぶ。
【0026】
このようなプルイン現象が発生する電圧は、クーロン力の曲線と弾性力の直線部E1,E2との接点が無くなる電圧Vpであって、ここでは電圧Vpをロック電圧と呼ぶことにする。なお、本実施の形態では、プルイン時に固定電極5aと可動電極6aとが短絡するのを防止するために、70nm程度の厚さの絶縁層が固定電極5aおよび可動電極6aの表面に形成されている。この場合、固定電極5aと可動電極6aとは140nm程度の距離でプルイン状態となっている。このときに働くクーロン力は、式(2)における真空の誘電率ε0の代わりに、絶縁層(例えば、シリコン酸化膜)の誘電率を用いて求めることができる。シリコン酸化膜の比誘電率は約4.2である。
【0027】
図6において、印加電圧VをV3からVpへと徐々に増加させると、櫛歯移動距離xはxdからxbへと移動する。そして、印加電圧がロック電圧Vpに達すると、xbからxpまで急激に移動して可動電極6aが固定電極5aに密着する。なお、プルイン状態における移動距離xpは櫛歯電極の初期間隔l0に等しい。
【0028】
印加電圧がVpとなる直前におけるアーム3a,3bの把持力は、アーム変形量(xb−xd)に対応した弾性力であるが、プルイン状態(V=Vp)になるとアーム変形量(xp−xd)に対応した弾性力へと増加するので、その弾性力増分はアーム3a,3bをさらに(xp−xb)だけ変形させるのに要する力に等しい。すなわち、わずかな電圧増加で把持力を大きく増加させることができる。アーム3a,3bが変形することによって生じる弾性力には構造上、上限があり、印加電圧Vpのとき、クーロン力は、その上限値(アーム3a,3bが変形することによって生じる最大弾性力)を上回っている。なお、上述した把持力は、図18(b)に示すようにアーム3a,3b間に試料を把持していない場合の値であり、試料を把持した場合には試料の寸法に応じて異なる。
【0029】
このように、プルイン状態では大きなクーロン力によって可動電極6aが固定電極5aに密着して固定状態となっているため、電極5a,6a同士が一体になっているとみなすことができる。その結果、ナノピンセット1に対して、搬送に伴う振動が加わったり、外部衝撃が加わったりしても、安定して試料を把持し続けることができ、試料搬送の信頼性を著しく向上させることができる。また、一旦、プルイン状態となると、可動電極6aと固定電極5aとの間に摩擦が生じることにより、櫛歯の突出方向と垂直な方向にも動き難くなる。
【0030】
(プルアウトに関する説明)
次に、プルイン状態の解除動作について説明する。プルイン状態を解除するためには、ロック電圧Vpとなっている印加電圧を減少させれば良い。実際に印加電圧をVpから減少させると、図6の直線F2に示すように印加電圧がVrとなるまでプルイン状態が継続され、可動電極6aは固定電極5aに密着したままである。そして、印加電圧がVrとなったときにプルイン状態が解除され、弾性力と印加電圧Vrにおけるクーロン力とが釣り合う櫛歯移動距離xrまで可動電極6aが移動する。図6に示す例では、xr<xdとなっているので、アーム3a,3bが開くことになる。ここでは、電圧Vrをアンロック電圧と呼ぶことにする。
【0031】
このように、プルイン状態となる電圧(ロック電圧Vp)とプルイン状態が解除される電圧(アンロック電圧Vr)とが異なる原因として、次のような理由が考えられる。図7はアンロック電圧Vrを説明する図であり、クーロン力または弾性力と櫛歯移動距離xとの関係を示したものである。なお、図7では、櫛歯移動距離xが小さい領域については、説明に必要ない領域であるので図示を省略した。
【0032】
図7において、曲線C(Vp)は印加電圧がロック電圧Vpのときのクーロン力を示しており、曲線C(Vr)は印加電圧がアンロック電圧Vrのときのクーロン力を示している。曲線C(Vr)は、櫛歯移動距離xrで直線部E1と交わっている。また、曲線C(V4)は印加電圧V4のときのクーロン力を示しており、Vp>V4>Vrである。
【0033】
前述したように、固定電極5aおよび可動電極6aには、プルイン状態のときに電極5a,6a同士が短絡しないように表面に絶縁層が形成されている。また、電極5a,6aの接触面は理想的な平面ではなく微少な凹凸が有るため、プルイン状態のときに電極5a,6a間の距離は厳密にはゼロになっていない。そのため、プルイン状態となっていても、電極5a,6a間には絶縁層の厚さΔx0に相当する隙間が形成されている。すなわち、プルイン状態の時の櫛歯移動距離xpはxp=l0−Δx0となっている。
【0034】
仮に、絶縁層が無く、固定電極5aと可動電極6aとが厳密に密着していた場合、櫛歯移動距離xはx=l0となるので、電極5a,6aに僅かでも電圧が印加されていれば、プルイン状態のx=l0ではクーロン力が無限大となる。しかし、実際には接触面に凹凸や自然酸化膜があったり、上述したように絶縁層が形成されていたりするため、プルイン状態となっていてもクーロン力が無限大になることはない。
【0035】
例えば、図7に示す例では厚さΔx0の絶縁層が形成されているので、プルイン状態(x=xp)であっても、曲線C(Vp),C(V4),C(Vr)で示したクーロン力は無限大になっていない。このとき、ロック電圧Vpのプルイン状態から印加電圧VをV4まで減少させた場合を考えると、図7のクーロン力曲線C(V4)からも分かるように、櫛歯移動距離xpにおいてはクーロン力>弾性力となっている。そのため、可動電極6aが固定電極5aから離れることはなく、プルイン状態が維持される。
【0036】
ところが、さらに印加電圧Vを下げてV=Vrとすると、櫛歯移動距離xpにおけるクーロン力曲線C(Vr)の位置が弾性力を表す直線部E2よりも下側となって、クーロン力<弾性力となる。その結果、弾性力によりアーム3a,3bは開く方向に駆動されて櫛歯移動距離xrまで戻り、その位置でクーロン力と弾性力とが釣り合う。すなわち、可動電極6aのプルイン状態が解除されてアンロック状態となり、アーム3a,3bが開いた状態となる。
【0037】
このように、印加電圧Vを制御することにより、アーム3a,3bの開閉、プルインおよびプルイン解除を行うことができる。ところで、図6に示すように、プルインの際の可動電極6aの移動量は(xp−xb)であり、絶縁層の膜厚Δx0を調整することによりプルイン時の把持力増分を調整することができる。また、絶縁層の膜厚Δx0を大きくすることにより、プルイン解除時の可動電極6aの移動量(xp−xr)を小さくすることも可能である。
【0038】
例えば、図7において絶縁層膜厚を(l0−xc)のように大きくした場合、プルイン時のアーム3a,3bの変形量増加(xp−xc)は、膜厚Δx0の場合の変形増加量=xp−xdよりも小さくなる。その結果、プルイン状態における把持力の増加を小さくすることができ、例えば、生物試料のような強く把持したくない試料に好適である。
【0039】
印加電圧をロック電圧VpからV=V4へと減少させると、クーロン力曲線C(V4)の位置が弾性力を表す直線部E2よりも下側となって、クーロン力<弾性力となる。その結果、弾性力によりアーム3a,3bは開く方向に駆動されて櫛歯移動距離xeまで戻り、その位置でクーロン力と弾性力とが釣り合う。上述した膜厚=l0−xpの場合には、印加電圧をVrまで下げないとプルインを解除できなかったが、膜厚=l0−xc(>l0−xp)の場合にプルイン解除に必要な印加電圧減少量を小さくできる。さらに、プルイン解除時の可動電極移動量を小さくすることができ、図7の場合にはxe>xdであるためアーム3a,3bは開かない。
【0040】
上述した例では、絶縁層の膜厚を大きくすることにより、より高い印加電圧でプルイン解除ができるようにしたが、複数ある櫛歯の一部にストッパー構造を設けて、プルイン時に実際に接触する櫛歯(すなわち、プルイン状態の櫛歯)の数を減らすようにしても良い。図19はそのような櫛歯アクチュエータの例を示したものであり、台形状の固定電極25aおよび可動電極26aを示したものである。プルイン時において、固定電極25aに形成された櫛歯250は可動電極26aの谷部に設けられたストッパー部260と密着してプルイン状態となり、他の櫛歯251は可動電極26aの谷部との間に隙間が生じることになる。可動電極26aの谷部に絶縁層、例えば酸化シリコンを形成することにより、ストッパー部260を設けてもよいし、可動電極26aの谷部に外部から構造体を挿入することにより、ストッパー部260を設けてもよい。
【0041】
ストッパー部260の溝深さ方向厚さをt2とすると、櫛歯251の隙間寸法もt2となる。櫛歯は台形状をしているので可動電極26aが移動すると櫛歯側面の間隔である櫛歯間隔gも変化し、櫛歯間隔gは櫛歯移動距離xの関数g(x)となる。ここで、プルイン状態における櫛歯間隔をgx3とし、印加電圧オフ時の櫛歯間隔をg0とすると、関数g(x)は次式(5)で与えられる。
【数5】
【0042】
櫛歯250の数をN1、櫛歯251の数をN2とすると、クーロン力Fcom2(x)は次式(6)で与えられる。式(6)において、w2は台形状櫛歯の先端部の幅であり、θは櫛歯側面の傾斜角である(図19参照)。式(6)においてθ=0、g0=gx3とおけば、矩形状の櫛歯に対する式となる。
【数6】
【0043】
台形状櫛歯の場合、実際にクーロン力に寄与する櫛の先端部の幅w2は、面積、初期ギャップ、櫛歯長、櫛歯間隔に関して同一条件で形成した矩形状の櫛歯の幅wに比べて小さくなる。しかし、移動距離が大きくなるほど櫛歯のギャップgが狭くなり、かつ、傾斜角θがあるため櫛歯のオーバラップを大きくすることができ、w2が小さくなることによるクーロン力の低下を補うことが可能となる。
【0044】
また、図20に示すように固定電極35aおよび可動電極36aの櫛歯先端を山形状にして、プルイン状態における接触面積を小さくするようにしても良い。図20の例では、段付の櫛歯にすることで、櫛歯移動とともに入れ子状態となってギャップgが狭くなる。この場合、ギャップの変化率が櫛歯移動距離xの変化に対して一様でないため、クーロン力の変化も入れ子状態になる前と後とでは大きく変化する。
【0045】
なお、上述した開閉動作の際の印加電圧Vの変更は手動で行っても良いが、本実施の形態では図1に示したコントローラ200に設けられたスイッチを操作することによりアーム開閉やプルイン、プルイン解除に必要な電圧変更を自動で行わせることにより、操作性の向上を図ることができる。図21はコントローラ200の操作パネルを示す図であり、201は電源スイッチ、202はオープンスイッチ、203はロック・アンロックスイッチ、204はグリップスイッチであり、205は電圧調整ダイアルである。
【0046】
オープンスイッチ202を操作すると印加電圧Vがオープン電圧とされ、アーム3a,3bが開状態となる。初期状態ではオープン電圧はゼロボルトに設定されているので、全開状態となる。通常は、対象とする試料の大きさに合わせて開状態が設定され、全開状態から電圧調整ダイアル205により印加電圧を調整して適切なオープン状態となるようにする。一旦、オープン電圧Vopの調整を行えば、次回からは、オープンスイッチ202を操作すると印加電圧はオープン電圧Vopとされ、所定のオープン状態となる。
【0047】
また、ロック・アンロックスイッチ203は電源オン後に、最初に操作されるとロック動作が行われてプルイン(ロック)状態となり、再度操作するとアンロック動作が行われてプルイン解除状態となる。また、プルイン状態でオープンスイッチ202が操作されると、ロック・アンロックスイッチ203は電源オン直後の初期状態となる。すなわち、再びロック・アンロックスイッチ203を操作すれば、ロック動作が行われる状態となる。
【0048】
オープンスイッチ202を操作した後にグリップスイッチ204を操作すると、アーム3a,3bが閉じられて試料が把持される。この場合、所定の把持力で試料が把持されるように、グリップ電圧Vgはアーム間隔が試料寸法と同じになる印加電圧よりもやや大きく設定される。そして、ロック・アンロックスイッチ203を操作してロック電圧Vpを印加してプルイン状態とする。
【0049】
その後、ナノピンセット1による試料搬送を行って試料を所定位置に移動したならば、ロック・アンロックスイッチ203を操作してプルイン状態を解除し、さらにオープンスイッチ202を操作してアーム3a,3bをオープン状態とし、試料把持を解除する。上述したように、プルイン状態では可動電極6aが固定電極5aに強固に密着しているので、搬送中に振動等によって試料を落とすようなおそれがない。
【0050】
このように、コントローラ200の各スイッチを操作することにより、オープン状態、グリップ状態、プルイン状態(ロック状態)、プルイン解除状態(アンロック状態)との間の移行をスムーズに行わせることができる。
【0051】
次に、図8〜図16を参照して、SOI基板を用いてナノピンセット1を形成する場合の製造方法について説明する。SOI基板100としては、図8(a)に示すように<110>方位の単結晶シリコンから成るベース層101、SiO2から成る絶縁層102、<110>方位の単結晶シリコンから成るシリコン層103が順に積層された基板が用いられる。
【0052】
ナノピンセット1を形成する材料には、SOI基板だけでなく、ガラス基板上に単結晶シリコン層を有する基板、アモルファスシリコン基板、ポリシリコン基板上にSOI層を有する基板なども用いることができる。すなわち、最上層が<110>方位を有するシリコン層103であって、このシリコン層103の下層に絶縁層102が形成されているような層構造を有する基板であれば、ベース層101を多層構造としてもかまわない。
【0053】
SOI基板100の各層の厚さの一例を述べると、シリコン層103は25μm、絶縁層102は1μm、ベース層101は300μmである。また、SOI基板100上で1つのナノピンセット1を形成する領域は、縦、横ともに数mmの矩形状をしている。図8(a)に示す工程では、スパッタリング法や真空蒸着法などにより、厚さ約50nmのアルミ層104をシリコン層103の表面に形成する。
【0054】
次に、図8(b)に示すように、アルミ層104の表面にレジスト層105を約2μmの厚さで形成し、フォトリソグラフィによりレジスト層105を露光・現像することにより、図8(c)に示すレジストパターン105aを形成する。図11は、SOI基板100の斜視図であり、アルミ層104の上面に、アーム3、静電アクチュエータ4等に対応するレジストパターン105aが形成されている。なお、図8(c)は、図11のI−I断面を示したものである。
【0055】
図8(d)に示すように、このレジストパターン105aをマスクとして混酸液によりアルミ層104をエッチングし、シリコン層103を露出させる。その後、ICP−RIE(Inductively Coupled Plasma - Reactive Ion Etching)によりシリコン層103を垂直方向に異方性エッチングする。このエッチングは絶縁層102が露出するまで行われ、エッチング終了後、硫酸・過酸化水素混合液によりレジストパターン105aおよびアルミ層104を除去する(図9(a)参照)。
【0056】
図12は、レジストパターン105aおよびアルミ層104を除去した後のSOI基板100を示す斜視図である。絶縁層102上には、シリコン層103による立体構造体が形成される。その立体構造体は、アーム3を構成する部分103aと、静電アクチュエータ4を構成する部分103bと、電極端子2a〜2fを構成する部分103cと、ガードを構成する部分103dとから成る。なお、ガードは、製造時にアーム3を損傷から防護するものであり、ナノピンセット1の構成部品ではないので、以下、その形成過程については説明を省略する。
【0057】
図9(b)に示すように、露出した絶縁層102およびシリコン層103(103a〜103c)を覆うようにレジスト106を塗布する。レジスト106の塗布厚さは10μm程度とする。その後、フォトリソグラフィによりレジスト106にマスクパターンを転写して現像することにより、図13に示すように、アーム構成部103aの先端部分におけるレジスト106が矩形状に除去されたレジストパターン106aを形成する。そして、レジストパターン106aをマスクとしてICP−RIEや通常のRIEなどを行い、アーム構成部103aの先端部分を所定の形状と寸法に加工する。また、ダイシングなどの機械的な切削加工によりその部分を所定の形状と寸法に加工することも可能である。
【0058】
次に、図9(c)に示すように、SOI基板100を表裏反転させて、スパッタリング法や真空蒸着法によりベース層101の表面にアルミ層107を形成する。アルミ層107の厚さは、約50nmとする。そして、アルミ層107の上にレジスト108を約2μmの厚さに形成した後に、フォトリソグラフィによりレジストパターンを形成し、そのレジスト108をマスクに用いてアルミ層107を混酸液によりエッチングする(図10(a)参照)。
【0059】
図14は、レジスト108およびアルミ層107の形状を示す斜視図である。図10(a)は、図14のII−II断面を示すものであり、絶縁層102の図示下側(表面側)にはシリコン層103によるアーム部103aの断面が図示されている。レジスト108は、連結部8に対応する部分111や台座10に対応する部分112などが残っており、逆に、アーム3の周辺領域が除去されてベース層101が露出している。
【0060】
その後、ベース層101の上に形成されたレジスト108およびアルミ層107をマスクとして、ベース層101をICP−RIEによりエッチングする。ベース層101は異方性エッチングにより垂直方向にエッチングされ、エッチングは絶縁層102が露出するまで行われる。図10(b)も図14のII−II断面を示すものであり、エッチング終了後に、硫酸・過酸化水素混液によりレジスト108,106およびアルミ層107を除去する。
【0061】
図15は、図10(b)に示すベース層101の裏面側を示す図である。エッチングにより、ベース層101には台座10、連絡部8などが形成される。次いで、台座10上に露出している酸化シリコンから成る絶縁層102を、緩衝フッ化水素溶液を用いてエッチングする。その結果、シリコン層103とベース層101とで挟まれた領域を除いて、絶縁層102が除去される(図10(c)参照)。
【0062】
図16は、ベース層101の表面側を示す斜視図であり、図10(c)は図16のIII−III断面を示したものである。上述したように、シリコン層103とベース層101との間には絶縁層102が介在している。その後、図10(d)に示すように、露出しているベース層101の上および各構造体を構成するシリコン層103の上に、真空蒸着法等によりアルミ等からなる導体膜109を形成する。導体膜109の厚さは500nm以下とする。このようにして、ナノピンセット1が完成するが、把持対象によってはFIBなどの加工装置によりアーム3を追加工しても良い。
【0063】
以上説明した実施の形態と特許請求の範囲の要素との対応において、電源回路2は制御手段を構成する。なお、本発明は、その特徴を損なわない限り、以上説明した実施の形態に何ら限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の形態に係るナノピンセット装置全体の概略を示す構成図である。
【図2】図1に示すナノピンセット1を拡大して示す平面図である。
【図3】図1に示すナノピンセット1の要部を示す平面図である。
【図4】ナノピンセット1の固定電極5aおよび可動電極6aの一部を模式的に示す斜視図である。
【図5】実施の形態に係るナノピンセット装置におけるクーロン力および弾性力の変化を示すグラフである。
【図6】実施の形態に係るナノピンセット装置における印加電圧Vと可動電極6aの移動距離xとの関係を示すグラフである。
【図7】アンロック電圧Vrを説明する図である。
【図8】実施の形態に係るナノピンセット1の製造工程を説明する図であり、図8(a)〜図8(d)の順に工程が進む。
【図9】図8に続く工程を示す図であり、図9(a)〜図9(c)の順に工程が進む。
【図10】図9に続く工程を示す図であり、図10(a)〜図10(d)の順に工程が進む。
【図11】図8(c)に示すSOI基板100の斜視図である。
【図12】図11に示すレジストパターン105aおよびアルミ層104を除去した後のSOI基板100の斜視図である。
【図13】レジストパターン106aの形状を示すSOI基板100の斜視図である。
【図14】図10(a)に示すレジストパターン108およびアルミ層107の形状を示すSOI基板100の斜視図である。
【図15】図10(b)に示すベース層101の裏面側を示すSOI基板100の斜視図である。
【図16】図10(c)に示すベース層101の表面側を示すSOI基板100の斜視図である。
【図17】櫛歯移動距離とアーム3a,3bとの関係を示す図であり、(a)はアーム3a,3bが開いている場合を示し、(b)アーム3a,3bが閉じている状態を示す。
【図18】櫛歯移動距離とアーム3a,3bとの関係を示す図であり、(a)はプルイン前の状態を示し、(b)プルイン状態を示す。
【図19】電極の歯形状を台形状櫛歯とした場合の固定電極25aおよび可動電極26aを示す図である。
【図20】電極の歯形状を段付きとした場合の固定電極35aおよび可動電極36aを示す図である。
【図21】コントローラ200を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
1:ナノピンセット 2:電源回路
3a,3b:アーム 4a,4b:静電アクチュエータ
5a,5b:固定電極 6a,6b:可動電極
7a,7b:支持部 8a,8b:連結部
9a,9b:アーム支持部 10:台座
50:ナノピンセット装置 100:SOIウエハ
101:ベース層 102:絶縁層
103:シリコン層 200:コントローラ
203:ロック・アンロックスイッチ
204:グリップスイッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開閉自在な一対のアームと、
前記一対のアームをクーロン力で開閉駆動する静電アクチュエータと、
前記静電アクチュエータに所定の駆動電圧を印加する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記一対のアームが対象物を把持したのち、前記静電アクチュエータで発生するクーロン力が、前記対象物を把持する際に前記アームが変形することによって生じる最大弾性力を上回るように決定されるロック駆動電圧を前記静電アクチュエータへ印加することを特徴とするナノピンセット装置。
【請求項2】
請求項1に記載のナノピンセット装置において、
前記制御手段は、前記ロック駆動電圧により前記一対のアームが対象物を把持したのち、前記静電アクチュエータで発生するクーロン力が前記弾性力と釣り合うように決定されるアンロック駆動電圧を前記静電アクチュエータへ印加することを特徴とするナノピンセット装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のナノピンセット装置において、
前記制御手段は、開放されている前記一対のアームで対象物を把持させる際に、前記一対のアームが所定の把持力で対称物を把持するように決定されるグリップ駆動電圧を前記静電アクチュエータへ印加することを特徴とするナノピンセット装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のナノピンセット装置において、
前記ロック駆動電圧の印加を指令するロックスイッチと、前記アンロック駆動電圧を指令するアンロックスイッチと、前記グリップ駆動電圧を指令するグリップスイッチとが操作者に操作されるように配設されている操作盤を備えることを特徴とするナノピンセット装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のナノピンセット装置において、
前記静電アクチュエータは、櫛歯型の固定電極と、その固定電極に所定の間隔を開けて噛合する櫛歯型の可動電極とを有することを特徴とするナノピンセット装置。
【請求項6】
請求項5に記載のナノピンセット装置において、
前記固定電極の櫛歯と可動電極の櫛歯の少なくとも一方の噛合する対向面に、絶縁層が設けられていることを特徴とするナノピンセット装置。
【請求項7】
クーロン力で開閉駆動する静電アクチュエータにより前記一対のアームが対象物を把持したのち、前記クーロン力が、前記対象物を把持する際に変形するアームによる弾性力を上回るように、前記静電アクチュエータへ駆動電圧を印加することを特徴とする微小試料の把持方法。
【請求項1】
開閉自在な一対のアームと、
前記一対のアームをクーロン力で開閉駆動する静電アクチュエータと、
前記静電アクチュエータに所定の駆動電圧を印加する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記一対のアームが対象物を把持したのち、前記静電アクチュエータで発生するクーロン力が、前記対象物を把持する際に前記アームが変形することによって生じる最大弾性力を上回るように決定されるロック駆動電圧を前記静電アクチュエータへ印加することを特徴とするナノピンセット装置。
【請求項2】
請求項1に記載のナノピンセット装置において、
前記制御手段は、前記ロック駆動電圧により前記一対のアームが対象物を把持したのち、前記静電アクチュエータで発生するクーロン力が前記弾性力と釣り合うように決定されるアンロック駆動電圧を前記静電アクチュエータへ印加することを特徴とするナノピンセット装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のナノピンセット装置において、
前記制御手段は、開放されている前記一対のアームで対象物を把持させる際に、前記一対のアームが所定の把持力で対称物を把持するように決定されるグリップ駆動電圧を前記静電アクチュエータへ印加することを特徴とするナノピンセット装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のナノピンセット装置において、
前記ロック駆動電圧の印加を指令するロックスイッチと、前記アンロック駆動電圧を指令するアンロックスイッチと、前記グリップ駆動電圧を指令するグリップスイッチとが操作者に操作されるように配設されている操作盤を備えることを特徴とするナノピンセット装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のナノピンセット装置において、
前記静電アクチュエータは、櫛歯型の固定電極と、その固定電極に所定の間隔を開けて噛合する櫛歯型の可動電極とを有することを特徴とするナノピンセット装置。
【請求項6】
請求項5に記載のナノピンセット装置において、
前記固定電極の櫛歯と可動電極の櫛歯の少なくとも一方の噛合する対向面に、絶縁層が設けられていることを特徴とするナノピンセット装置。
【請求項7】
クーロン力で開閉駆動する静電アクチュエータにより前記一対のアームが対象物を把持したのち、前記クーロン力が、前記対象物を把持する際に変形するアームによる弾性力を上回るように、前記静電アクチュエータへ駆動電圧を印加することを特徴とする微小試料の把持方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2007−44804(P2007−44804A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−231377(P2005−231377)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(390022471)アオイ電子株式会社 (85)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(390022471)アオイ電子株式会社 (85)
【Fターム(参考)】
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