説明

ナノファイバー繊維を含む編地

【課題】ナノファイバー繊維とナノファイバー繊維と異なる染色性を示す繊維で構成された編地で、ナノファイバー繊維と異なる染色性を示す繊維のみを染色した編地を作成し、寸法変化率が少なく洗濯堅牢度特性に優れた編地を提供する。
【解決手段】熱可塑性ポリマーからなる数平均による単糸繊維直径が、10〜200nmであるナノファイバー繊維集合体を少なくとも10重量%含み、ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維を60重量%以上含む編地でナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維が染色されていて、寸法変化率がタテ、ヨコとも−8%以上、+4%以下、洗濯堅牢度の変退色が4級以上、汚染が4級以上であることを特徴とする編地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノファイバー繊維を含む染色された編地で、これまでになかった形態安定性と洗濯堅牢度に優れた編地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)に代表されるポリエステル繊維やナイロン6(N6)やナイロン66(N66)に代表されるポリアミド繊維は、衣料用途に用いられてきたこともあり、ポリマー改質だけでなく、繊維の断面形状や極細糸による性能向上の検討も活発に行われてきた。その一つとして、海島複合紡糸を利用したポリエステルの超極細糸が生み出され、編地においてもピーチタッチの衣料や、生活資材や産業資材用のワイピングクロスなどに使用されているが、より細い繊維が望まれていた。
【0003】
そこで、従来からミクロンレベルよりも細い繊維の検討が行われている。特許文献1には、1〜150nmのナノファイバーからなる繊維構造体が記載されているが、染色された編物についての開示はない。ナノファイバー繊維は、その名の通りナノレベルの単繊維直径を有する繊維であるため、ミクロン単位の一般的な染料サイズよりも小さく単繊維内部まで染色することが困難で、単糸繊維表面に保持された形で染色されてきたが、脱落しやすいため堅牢度が不良で、ナノファイバー繊維以外の繊維を汚染する危険性が大きく、ナノファイバー繊維を含んだ布帛で、染色されたものを展開することは困難であった。以上のことから、ナノファイバー繊維を含む布帛で染色されたものが求められていた。
【特許文献1】特開2004−162244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、ナノファイバー繊維とナノファイバー繊維と異なる染色性を示す繊維で構成された編地で、ナノファイバー繊維と異なる染色性を示す繊維のみを染色した編地を作成し、寸法変化率が少なく洗濯堅牢度特性に優れた編地を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。
【0006】
[1]熱可塑性ポリマーからなり、数平均による単繊維直径が、10〜200nmであるナノファイバー繊維集合体を全重量に対し少なくとも10重量%含み、該ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維を全重量に対し60重量%以上含む編地であって、かつ該ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維が染色されていて、寸法変化率がタテ、ヨコともに−8%以上、+4%以下、洗濯堅牢度の変退色が4級以上、かつ汚染が4級以上であることを特徴とする編地。
【0007】
[2]前記ナノファイバー繊維集合体を芯糸に、ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維を鞘糸とする複合糸を含む請求項1に記載の編地。
【0008】
[3]前記ナノファイバー繊維集合体が海島型複合繊維から得られたものであって、該海島型複合繊維の島成分が20重量%以上のポリアミド繊維、海成分がポリ乳酸であり、編物に編成後、海成分を溶出してなる請求項1または2に記載の編地。
【0009】
[4]前記ナノファイバー繊維集合体が染色されておらず、前記ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維がカチオン染料で染色されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の編地。
【0010】
[5]前記ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維が、カチオン可染ポリエステル、アクリル繊維、羊毛、絹からなる群から選ばれたいずれか一つであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の編地。
【0011】
[6]バイレック法による吸水高さのタテ及びヨコ平均が共に80mm以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の編地。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、染色された編地で寸法変化率が少なく堅牢度保特性や吸水性能に優れたナノファイバー繊維を含む編地を提供せんとするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明でいうナノファイバー繊維とは数平均による単繊維直径が1〜250nmの繊維を言うものであり、ナノファイバー繊維が集合したものをナノファイバー繊維集合体という。繊維のしなやかさは単繊維直径に大きく影響され、曲げに対する抵抗力の指標となる断面二次モーメントは直径の4乗に比例するため、単繊維直径が1/10になれば断面二次モーメントは1万分の1となる。すなわち、単繊維直径が1/10になれば、しなやかさは1万倍と考えられる。この点からナノファイバー繊維の数平均による単繊維直径はより小さい方が好ましく、本発明においては、ナノファイバーの数平均による単繊維直径が10〜200nmであることが好ましい。
【0014】
該ナノファイバー繊維集合体の単繊維直径は、従来の極細糸と比較して、1/10〜1/100以下であるため、繊維表面積が非常に大きくなり、吸着、吸収性能が増大する。特に水蒸気の吸着、すなわち吸湿性能は、通常のポリアミド極細糸の吸湿率が2.0%程度であるのに対し、ポリアミドナノファイバー繊維の吸湿率は6.0%程度であった。また、吸着性能の向上により消臭性能も向上する。すなわち、通常の繊維に比べナノファイバー繊維は表面積が大きいため、臭気ガスの吸着性に優れ100分後の消臭率が80%以上であった。
【0015】
本発明においては、数平均による単繊維直径が10〜200nmであるナノファイバー繊維集合体を全重量に対し少なくとも10重量%含むものである。
【0016】
また、ナノファイバー繊維集合体はナノファイバー繊維が集合したもので、特に束状(バンドル状)に集合したものが好ましいが、このような形態の場合、単繊維同士の間に数nm〜100nm程度の多数の隙間が発生するため、吸水性能が向上する。例えば、束状(バンドル状)のナノファイバー繊維集合体を10重量%以上含んだ編地にした場合、バイレック法による吸水性能は8cm以上であった。通常のポリアミド極細糸では吸水による糸長手方向の膨潤率が3%程度なのに比べ、ポリアミドナノファイバー繊維集合体100重量%では膨潤率が7%に達する場合もある。しかも、この吸水膨潤は乾燥すると元の長さに戻るため、可逆的な寸法変化が生じる。よって、寸法変化率をタテヨコとも−8%以上、+4%以下にするためには、吸水膨潤しないナノファイバー繊維以外の繊維が60重量%以上含むことが重要である。
【0017】
また、ナノファイバー繊維集合体は優れた吸水特性だけでなく優れた吸着特性をも示すため、さまざま機能性薬剤を担持することができ、その耐久性にも優れている。機能性薬剤とは、繊維の機能を向上し得る物質のことを言い、例えば、吸湿剤、難燃剤、撥水剤、保令剤、消臭剤、保温剤もしくは平滑剤なども対象として用いることができる。その性状も、微粒子状のものだけに限られず、ポリフェノールやアミノ酸、タンパク質、カプサイシン、ビタミン類等の健康・美容促進のための薬剤や、水虫等の皮膚疾患の薬剤なども対象として用いることができる。さらに、消毒剤、抗炎症剤、鎮痛剤等の医薬品なども用いることができる。ポリアミンや光触媒ナノ粒子というような有害物質の吸着・分解するための薬剤を用いることもできるものである。また、機能性薬剤の担持方法にも特に制限はなく、浴中処理やコーティング等により後加工でナノファイバー繊維集合体に担持させても良いし、ナノファイバー繊維の前駆体であるポリマーアロイ繊維に含有させておいても良い。また、機能性薬剤はそのものを直接ナノファイバー繊維集合体に担持させても良いし、機能性薬剤の前駆体物質をナノファイバー繊維集合体に担持させた後、その前駆体物質を所望の機能性薬剤に変換することもできる。後者の方法のより具体的な例としては、ナノファイバー繊維集合体に有機モノマーを含浸させ、その後それを重合する方法や、易溶解性物質を浴中処理によりナノファイバー繊維集合体に含浸させた後、酸化還元反応や配位子置換、カウンターイオン交換反応などにより難溶解性にする方法などがある。また、紡糸過程で機能性薬剤の前駆体を担持させる場合には、紡糸過程では耐熱性の高い分子構造にしておき、後加工により機能性が発現する分子構造に戻すという方法も採用可能である。
【0018】
また、本発明におけるナノファイバー繊維は、数平均による単繊維直径が10〜200nmであることに加えて、単繊維直径のばらつきや、ばらつき幅が少ないことが好ましい。単繊維直径が200nm以上の重量比率が3重量%以下であることが好ましい。すなわち、ナノファイバー繊維集合体の特徴を出すために、単繊維直径が200nmより大きいナノファイバーがゼロに近いことが重要である。特に、数平均による単繊維維直径が10〜150nmの場合は、単繊維直径150nmを超える重量比率が3重量%以下であることが好ましくより好ましくは、1重量%以下である。さらに、数平均による単繊維直径が10〜100nmの場合は、単繊維直径100nmを超える重量比率が3重量%以下であることが好ましくより好ましくは1重量%以下である。すなわち、これらは粗大単繊維の存在がゼロに近いことを意味するものであり、単繊維繊維のばらつきが少ないことにより、ナノファイバー繊維としての性能を発揮するものであり、編地の品質の安定性も良好にすることができる。
【0019】
ここで、ナノファイバー繊維の単繊維直径ばらつきの重量比率は以下の方法で計算する。すなわち、ナノファイバー繊維それぞれの測定した単繊維直径をdiとし、その2乗の総和(d1+d2+・・dn)=Σdi(i=1〜n)を算出する。また、200nmより大きい直径をDiとし、その2乗の総和(D1+D2+・・Dm)=ΣDi(i=1〜m)を算出する。Σdiに対するΣDiの割合を算出することで、全ナノファイバーに対する粗大繊維の面積比率、すなわち重量比率を求めることができる。また、ナノファイバーの数平均による単繊維直径は、単純な平均値((d1+d2+・・dn)/n=Σdi/n(i=1〜n))として算出した。なお、ナノファイバー繊維の単繊維直径は電子顕微鏡で撮影した写真から市販の画像処理ソフト等を使用して測定すればよい。
【0020】
ナノファイバー繊維のばらつきの指標として、単繊維直径幅差が30nmの幅に入る単繊維の繊度比率が50%以上であることが好ましい。より好ましくは70%以上である。単繊維の直径差の繊度比率は、中心繊度付近へのばらつきの集中度を意味しており、この繊度比率が大きいほどばらつきが小さいことを意味している。これも単繊維直径を求める時に使用したデータより算出することができる。
【0021】
本発明の編地に用いられるナノファイバー繊維集合体を構成するナノファイバー繊維のポリマーは、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)に代表されるポリエステルや、N6やN66に代表されるポリアミド、ポリオレフィンやポリフェニレンスルフィド(PPS)に代表される熱可塑性ポリマーが好ましい。中でも、ポリエステルやポリアミドに代表される重合系ポリマーは融点が高くより好ましい。ポリマーの融点は165℃以上であるとナノファイバー繊維の耐熱性が良好になり好ましい。例えば、ポリ乳酸(PLA)は170℃、N6は220℃、PTTおよびPBTは225℃、PETは255℃である。また、ポリマーは粒子、難燃剤、帯電防止剤などの添加物を含有させても良い。またポリマーの性質を損なわない範囲で他の成分等が共重合されていても良い。衣料用編地には、PETやN6、N66が融点、力学特性、風合の点からより好ましい。
【0022】
本発明で用いるナノファイバー繊維集合体の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、難溶解性ポリマーと易難解性ポリマーからなるポリマーアロイ繊維を前駆体とし、このポリマーアロイ繊維から易溶融ポリマーを除去することにより得ることができる。ここで、易溶融ポリマーとしては上述したナノファイバー繊維を構成するのに好ましいポリマーを使用すればよい。上記ポリマーアロイ繊維の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば下記のような方法を採用することができる。すなわち、2種類以上の溶剤に対する溶解性の異なるポリマーをアロイ化したポリマーアロイ溶融体となし、これを紡糸した後、冷却固化して繊維化する。そして必要に応じて延伸・熱処理を施しポリマーアロイ繊維を得る。そして、易溶解性ポリマーを溶剤で除去することにより本発明のナノファイバー繊維集合体を得ることができる。ここで、ナノファイバー繊維集合体の前駆体であるポリマーアロイ繊維中で易溶解性ポリマーが海(マトリックス)、難溶解性ポリマーが島(ドメイン)となし、その島サイズを制御することが重要である。ここで、島サイズは、ポリマーアロイ繊維の横断面を透過型電子顕微鏡(TEM)観察し、直径換算で評価したものである。前駆体中での島サイズによりナノファイバー繊維の直径がほぼ決定されるため、島サイズの分布は本発明のナノファイバー繊維の直径分布に準じて設計される。このため、アロイ化するポリマーの混練が非常に重要であり、本発明では混練押出機や静止混練器等によって高混練することが好ましい。なお、単純なチップブレンドでは混練が不足するため、本発明のような数十nmサイズで島を分散させることは困難である。具体的に混練を行う際の目安としては、組み合わせるポリマーにもよるが、混練押出機を用いる場合は、2軸押出混練機を用いることが好ましく、静止混練器を用いる場合は、その分割数は100万以上とすることが好ましい。また、ブレンド斑や経時的なブレンド比率の変動を避けるため、それぞれのポリマーを独立に計量し、独立にポリマーを混練装置に供給することが好ましい。このとき、ポリマーはペレットとして別々に供給しても良く、あるいは、溶融状態で別々に供給しても良い。また、2種以上のポリマーを押出混練機の根本に供給しても良いし、あるいは、一成分を押出混練機の途中から供給するサイドフィードとしても良い。混練装置として二軸押出混練機を使用する場合には、高度の混練とポリマー滞留時間の抑制を両立させることが好ましい。スクリューは、送り部と混練部から構成されているが、混練部長さをスクリュー有効長さの20%以上とすることで高混練とすることができ好ましい。また、混練部長さがスクリュー有効長さの40%以下とすることで、過度の剪断応力を避け、しかも滞留時間を短くすることができ、ポリマーの熱劣化やポリアミド成分等のゲル化を抑制することができる。また、混練部はなるべく二軸押出機の吐出側に位置させることで、混練後の滞留時間を短くし、島ポリマーの再凝集を抑制することができる。加えて、混練を強化する場合は、押出混練機中でポリマーを逆方向に送るバックフロー機能のあるスクリューを設けることもできる。さらに、ベント式として混練時の分解ガスを吸引したり、ポリマー中の水分を減じることによってポリマーの加水分解を抑制し、ポリアミド中のアミン末端基やポリエステル中のカルボン酸末端基量も抑制することができる。
【0023】
また、島を数十nmサイズで超微分散させるには、ポリマーの組み合わせも重要である。島ドメイン(ナノファイバー断面)を円形に近づけるためには、島ポリマーと海ポリマーは非相溶であることが好ましい。しかしながら、単なる非相溶ポリマーの組み合わせでは島ポリマーが充分超微分散化し難い。このため、組み合わせるポリマーの相溶性を最適化することが好ましいが、このための指標の一つが溶解度パラメータ(SP値)である。SP値とは(蒸発エネルギー/モル容積)1/2で定義される物質の凝集力を反映するパラメータであり、SP値が近い物同士では相溶性が良いポリマーアロイが得られる可能性がある。SP値は種々のポリマーで知られているが、例えば「プラスチック・データブック」旭化成アミダス株式会社/プラスチック編集部共編、189ページ等に記載されている。2つのポリマーのSP値の差が1〜9(MJ/m1/2であると、非相溶化による島ドメインの円形化と超微分散化が両立させやすく好ましい。例えばN6とPETはSP値の差が6(MJ/m1/2程度であり好ましい例であるが、N6とPEはSP値の差が11(MJ/m1/2程度であり好ましくない例として挙げられる。
【0024】
また、ポリマー同士の融点差が20℃以下であると、特に押出混練機を用いた混練の際、押出混練機中での融解状況に差を生じにくいため高効率混練しやすく、好ましい。また、熱分解や熱劣化し易いポリマーを1成分に用いる際は、混練や紡糸温度を低く抑える必要があるが、これにも有利となるのである。ここで、非晶性ポリマーの場合は融点が存在しないためガラス転移温度あるいはビカット軟化温度あるいは熱変形温度でこれに代える。
【0025】
さらに、溶融粘度も重要であり、島を形成するポリマーの方を低く設定すると剪断力による島ポリマーの変形が起こりやすいため、島ポリマーの微分散化が進みやすくナノファイバー化の観点からは好ましい。ただし、島ポリマーを過度に低粘度にすると海化しやすくなり、繊維全体に対するブレンド比を高くできないため、島ポリマー粘度は海ポリマー粘度の1/10以上とすることが好ましい。また、海ポリマーの溶融粘度は紡糸性に大きな影響を与える場合があり、海ポリマーとして100Pa・s以下の低粘度ポリマーを用いると島ポリマーを分散させ易く好ましい。また、これにより紡糸性を著しく向上できるのである。この時、溶融粘度は紡糸の際の口金面温度で剪断速度1216sec−1での値である。
【0026】
ポリマーアロイ中では、島ポリマーと海ポリマーが非相溶であるため、島ポリマー同士は凝集した方が熱力学的に安定である。しかし、島ポリマーを無理に超微分散化するために、このポリマーアロイでは通常の分散径の大きいポリマーブレンドに比べ、非常に不安定なポリマー界面が多くなっている。このため、このポリマーアロイを単純に紡糸すると、不安定なポリマー界面が多いため、口金からポリマーを吐出した直後に大きくポリマー流が膨らむ「バラス現象」が発生したり、ポリマーアロイ表面の不安定化による曳糸性不良が発生し、糸の太細斑が過大となるばかりか、紡糸そのものが不能となる場合がある(超微分散ポリマーアロイの負の効果)。このような問題を回避するため、口金から吐出する際の、口金孔壁とポリマーとの間の剪断応力を低くすることが好ましい。ここで、口金孔壁とポリマーとの間の剪断応力はハーゲンポワズユの式(剪断応力(dyne/cm)=R×P/2L)から計算する。ここでR:口金吐出孔の半径(cm)、P:口金吐出孔での圧力損失(dyne/cm)、L:口金吐出孔長(cm)である。またP=(8LηQ/πR)であり、η:ポリマー粘度(poise)、Q:吐出量(cm/sec)、π:円周率である。また、CGS単位系の1dyne/cmはSI単位系では0.1Paとなる。
【0027】
通常のポリエステルの単成分における溶融紡糸では口金孔壁とポリマーとの間の剪断応力は1MPa以上で計量性と曳糸性を確保できる。しかし、本発明のポリマーアロイは、通常のポリエステルと異なり、口金孔壁とポリマーとの間の剪断応力が大きいと、ポリマーアロイの粘弾性バランスが崩れ易いため、通常のポリエステル溶融紡糸の場合よりも剪断応力を低くする必要がある。剪断応力を0.2MPa以下にすると、口金孔壁側の流れと口金吐出孔中心部のポリマー流速が均一化し、剪断歪みが少なくなることによってバラス現象が緩和され、良好な曳糸性が得られることから好ましい。一般に剪断応力をより小さくするには、口金吐出孔径を大きく、口金吐出孔長を短くすることであるが、過度にこれを行うと口金吐出孔でのポリマーの計量性が低下し、孔間での繊度斑や発生する傾向になることから、口金吐出孔より上部に口金吐出孔より孔径を小さくしたポリマー計量部を設けた口金を用いることが好ましい。剪断応力は0.01MPa以上にすると、ポリマーアロイ繊維を安定に溶融紡糸でき、糸の太細斑の指標であるウースター斑(U%)を15%以下とできることから好ましい。
【0028】
また、溶融紡糸での曳糸性や紡糸安定性を十分確保する観点から、口金面温度は海ポリマーの融点から25℃以上とすることが好ましい。上記したように、本発明で用いる超微分散化したポリマーアロイを紡糸する際は、紡糸口金設計が重要であるが、糸の冷却条件も重要である。上記したようにポリマーアロイは非常に不安定な溶融流体であるため、口金から吐出した後に速やかに冷却固化させることが好ましい。このため、口金から冷却開始までの距離は1〜15cmとすることが好ましい。ここで、冷却開始とは糸の積極的な冷却が開始される位置のことを意味するが、実際の溶融紡糸装置ではチムニー上端部でこれに代える。紡糸速度は特に限定されないが、紡糸過程でのドラフトを高くする観点から高速紡糸ほど好ましい。紡糸ドラフトとしては100以上とすることが、得られるナノファイバー直径を小さくする観点から好ましい。
【0029】
また、紡糸されたポリマーアロイ繊維には延伸・熱処理を施すことが好ましいが、延伸の際の予熱温度は島ポリマーのガラス転移温度(T)以上の温度することで、糸斑を小さくすることができ、好ましい。
本製造方法は、以上のようなポリマーの組み合わせ、紡糸・延伸条件の最適化を行うことで、島ポリマーが数十nmに超微分散化し、しかも糸斑の小さなポリマーアロイ繊維を得ることを可能にするものである。このようにして糸長手方向に糸斑の小さなポリマーアロイ繊維を前駆体とすることで、ある断面だけでなく長手方向のどの断面をとっても単糸繊度ばらつきの小さなナノファイバー繊維集合体とすることができるのである。前駆体であるポリマーアロイ繊維のウースター斑は15%以下とすることが好ましく、より好ましくは5%以下である。
【0030】
このようにして得られたポリマーアロイ繊維から海ポリマーである易溶解ポリマーを溶剤で溶出することで、ナノファイバー繊維集合体を得るのであるが、その際、溶剤としては水溶液系のものを用いることが環境負荷を低減する観点から好ましい。具体的にはアルカリ水溶液や熱水を用いることが好ましい。このため、易溶解ポリマーとしては、ポリエステルやポリカーボネート(PC)等のアルカリ加水分解されるポリマーやポリアルキレングリコールやポリビニルアルコールおよびそれらの誘導体等の熱水可溶性ポリマーが好ましい。このような製造方法により繊維長が数十μmから場合によってはcmオーダー以上のナノファイバーがところどころ接着したり絡み合った紡績糸形状のナノファイバー繊維集合体が得られるのである。また、上記製造方法において、特に口金直上に静止混練器を位置させた場合にはナノファイバーが理論上無限に伸びた長繊維形状のナノファイバー繊維集合体が得られる場合もある。
【0031】
本発明では、従来のナノファイバーとは全く異なり、前駆体であるポリマーアロイ繊維を延伸・熱処理することによりナノファイバーも延伸・熱処理することが初めて可能となったため、引っ張り強度や収縮率を自由にコントロールできるようになった。ここで、本発明のナノファイバー繊維集合体の強度は1cN/dtex以上であれば繊維製品の力学物性を向上できるため好ましい。ナノファイバー繊維の強度は、より好ましくは2cN/dtex以上である。また、本発明のナノファイバー繊維集合体の収縮率は用途に応じて調整可能であるが、衣料用途に用いる場合は140℃、乾熱収縮は10%以下であることが好ましい。さらに、前駆体であるポリマーアロイ繊維を捲縮加工することも可能である。
ナノファイバー繊維集合体は通常の染色は可能であるが、洗濯による変退色が不良なため、洗濯ごとにナノファイバー繊維集合体の色あせが発生しやすく、他の繊維へ汚染を起こす問題があり、これまでナノファイバー繊維集合体を用いた堅牢度を満足する染色された編地は実現されていなかった。本発明者らは、ナノファイバー繊維集合体とナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維を交編し、ナノファイバー繊維集合体を染色せず、ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維のみを染色することにより、編地とした時に全体として染色性を示す製品を提供することが可能となることを見出した。
【0032】
ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維としては、公知の合成繊維、半合成繊維および天然繊維を用いることができる。
【0033】
本発明で用いるナノファイバー繊維集合体とナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維との組み合わせは、特に限定されるものはないが、ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維を染色した時、ナノファイバー繊維集合体が染色されないことや汚染されないことが重要である。また、ナノファイバー繊維集合体を得るためにポリマーアロイ繊維から海成分のポリマーを溶出除去する時に、ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維が溶出されないことが重要である。
【0034】
たとえば、海成分のポリ乳酸を溶出し残存した島成分のナノファイバー繊維集合体がポリアミドの場合、もう一方の繊維はカチオン可染ポリエステルが好ましい。ポリアミドによるナノファイバー繊維集合体とカチオン可染ポリエステルとの交編編地を作製し、カチオン染色を行うことにより、ポリアミドからなるナノファイバー繊維集合体は染色されず、洗濯堅牢度の変退色4級、汚染4級をクリアすることができる。
【0035】
その他の組み合わせ例として、海成分がポリ乳酸、ナノファイバー繊維集合体がPBTまたは、PTTの場合、ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維はナイロンまたは、カチオン可染ポリエステルが好ましい。ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性示す繊維がナイロンの場合、酸性染料、含金酸性染料または、反応染料で染色することができるが、PBTやPTTは染色されない。また、ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性示す繊維がカチオン可染ポリエステルの場合、カチオン可染料で染色することができるが、PBTやPTTは染色されることがない。カチオン染料は、染料イオンがカチオンである水溶性の染料で塩基性染料といい、綿、絹、アクリルや塩基性染料可染型の改質ポリエステルが(カチオン可染ポリエステル)が染色される。PET、PBT、PTTは分散染料で染色され、カチオン染料では染色されないものである。
【0036】
また、ナノファイバー繊維集合体がいずれの染色性を示す繊維であっても、ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維として原着糸や先染め糸を使用し、編成後には染色しないという組み合わせも可能である。
【0037】
なお、ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維は編地全重量に対して60重量%以上であることが必要である。60重量%以上であることによりナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維を染色した時に染色されたものと評価でき、また寸法変化の少ない形態安定性に優れた編地を得ることができる。
ナノファイバー繊維集合体とナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維との交編方法は特に限定されるものではない。交編方法として、糸で複合する方法として、ナノファイバー繊維集合体の長繊維とナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す長繊維との複合糸の場合、杢調の編地となり、製品にした場合杢調のきれいな編地になる。また、ナノファイバー繊維集合体の長繊維とナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す短繊維との長短複合糸による編地。また、ナノファイバー繊維集合体の短繊維と、ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す長繊維との長短複合糸による編地。また、ナノファイバー繊維集合体の短繊維と、ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す短繊維との紡績糸による編地。いずれの場合も、芯側にナノファイバー繊維集合体、鞘側にナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維であると、染色されていないナノファイバー繊維集合体がカバーされてより好ましい。また、編地の裏面にナノファイバー繊維集合体が、表面にナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維による交編のリバーシブル編地を構成することも可能である。また、ナノファイバー繊維集合体とナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維との組み合わせによる交編された編地でもよい。編地の10重量%以上にナノファイバー繊維集合体を配置し、ナノファイバー繊維集合体を染色せず、ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維のみを染色することにより編地としては染色された製品となり、一般的な衣料用途への編地の展開が可能となる。
【0038】
本発明の編地は、特に編組織等には限定されるものではない。例えば、丸編地であれば、シングル丸編地、ダブル丸編地、あるいは成形丸編地でもよく、また、経編地であれば、シングルトリコット地、ダブルトリコット地、シングルラッセル地、あるいはダブルラッセル地を使用することができ、横編地であれば、シングル横編地、ダブル横編地、あるいは成形横編地を使用することができる。
【0039】
また、編組織は、丸編地の天竺組織、天竺リバーシブル組織、フライス組織、インターロック組織、リバーシブル組織、その他変化組織、経編地のハーフ組織、バックハーフ組織、クインズコート組織、サテン組織、サテンネット組織、パワーネット組織、あるいはその他変化組織等、特に限定されることはない。また用途によりストレッチ性が要求される場合は、ポリウレタン系弾性を交編させることが好ましい。その時、ポリウレタン系弾性糸は、低温度でのセットが可能な高セット性タイプのポリウレタンがより好ましい。尚、ポリウレタン系弾性糸は、染色されていても、染色されていなくてもよい。ポリウレタン弾性糸がオペロンテックス社製の“ライクラ”(登録商標)で、ナノファイバー繊維集合体がポリアミド、ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維がカチオン可染ポリエステルの場合、カチオン染色を行うことにより、ナノファイバー繊維集合体であるポリアミドは染色されず、ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示すカチオン可染ポリエステルは染色され、“ライクラ”は染色されないことから、汚染の原因となることがないのでより好ましい。
【0040】
また、用途により、ナノファイバー繊維集合体とナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維の他に、溶出により溶解しないポリアミド系繊維や綿、麻などと交編することも好ましい。
【0041】
本発明においてのアルカリ溶出処理、精練や染色などの加工は、通常の編地の加工法に準じて行えばよく、特に特別な設備などは必要ではない。この染色段階での付帯加工として柔軟仕上げ加工が好ましい。
【0042】
本発明の編地において、海成分溶出により糸と糸の隙間が大きくなることによりワライと言われる現象が起きる場合には、シリコン系柔軟仕上げ剤などにより加工をほどこすことが好ましい。これにより、糸と糸が滑りやすくなりワライの現象は解消される。また、軽起毛やバフ加工やモミ加工によりナノファイバー繊維集合体からナノファイバーを開繊させることにより、従来では得られなかったソフトでピーチな編地を得ることができる。その他用途により撥水加工、防汚加工、抗菌加工、消臭加工、防臭加工、難燃加工、吸汗加工、吸湿加工、防カビ加工、紫外線吸収加工など、さらに、後加工としてカレンダー加工、エンボス加工、シワ加工、起毛加工、プリント加工、あるいはオパール加工など、要求特性に応じて適宜付与することが望ましい。
【0043】
本発明の編地は、次のように幅広い用途に展開可能である。例えば、運動着類、インナーウエア類、ホームウエア類、ユニフォームウエア類、アウターウエア類に、資材用ではサポーター類、靴下類などに好ましく使用することができる。また、その他、裏地類、靴材類、手袋類などにも問題なく使用できる。運動着類ならば、ランニングシャツ・パンツ、競技シャツ・パンツ、ゴルフシャツ、テニスシャツ、サイクルシャツ、アウトドアシャツ、ポロシャツ、Tシャツ、野球用アンダーシャツ、トレーニングウエア、スエットシャツ・パンツなど。インナーウエア類ならば、一般婦人用のスリップ、キャミソール、ペチコート、ショーツ、アンダーパンツ、タイツ、Tシャツ、丸首シャツ、U首シャツ、ボディスーツ、ガードルなどや、一般紳士用のTシャツ、丸首シャツ、U首シャツ、ランニングシャツ、アンダーパンツ、タイツ、ブリーフ、トランクス等、さらに、また、これらのインナーの転用を含めたアスレチック、アウトドア、スキーなどのスポーツ用インナー類、さらには、屋外作業、屋内作業などの作業用インナー類など。ホームウエア類ならば、室内着、パジャマ、ネグリジェ、ガウンなど。アウターウエア類ならば、婦人服、紳士服、子供服、作業服など。裏地類ならば、スポーツウエア用、婦人服用、紳士服用、子供服用、礼服用、学生服用、作業服用裏地などに好ましく使用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本発明中の各評価は次の方法で行った。
【0045】
(1)ナノファイバー繊維の数平均による単繊維直径
ナノファイバー繊維の横断面方向に超薄切片を切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM 日立社製H−7100FA型)にて繊維横断面写真を撮影し、画像ソフト(WINROOF)を用いて、円換算により単繊維直径を計算し、その単純な平均値を「数平均による単繊維直径」とした。計測したナノファイバーの個数は、同一横断面内で無作為に抽出した100本で、5箇所(計500本)について行った。
なお、ポリマーアロイ繊維の島直径の測定も同様にして行った。
【0046】
(2)寸法変化率
JIS L1909「繊維製品の寸法変化測定方法」(1995)6.1に従って編地の試料にマーキングを行い、洗濯処理方法は、JIS L0217「繊維製品の取扱いに関する表示記号及びその表示方法」(1995)の103法(40℃)に従って家庭洗濯を行った後、平干し乾燥を行った。下記の方法で寸法変化率を測定した。
寸法変化率(%)=(L2−L1)/L1×100
L1:処理前の長さ(mm)、L2:処理後の長さ(mm)
(3)洗濯堅牢度(変退色、汚染)
JIS L0844「洗濯に対する染色堅ろう度試験方法」(1997)に従い、A−2法(50±2℃)で洗濯処理を行った。変退色と汚染の判定は、JIS L0801「染色堅ろう度試験方法通則」(1995)10.染色堅ろう度の判定、に従い等級付けを行った。尚、汚染の判定は、添付白布の綿とナイロンの悪い方を記載した。
【0047】
(4)吸水性(バイレック法)
JIS L1907「繊維製品の吸水性試験方法」(2004)に従い、10分後のタテ5枚、ヨコ5枚の高さを求め、それぞれ平均値を算出した。(mm)
実施例1
溶融粘度212Pa・s(262℃、剪断速度121.6sec−1)、融点220℃のN6と重量平均分子量12万、溶融粘度30Pa・s(240℃、剪断速度2432sec−1)、融点170℃のポリL乳酸(光学純度99.5%以上)を用い、N6の含有率を40重量%とし、2軸押し出し混練機で220℃で混練してポリマーアロイチップを得た。尚、ポリ乳酸の重量平均分子量は以下のようにして求めた。試料のクロロホルム溶液にTHF(テトラヒドロフラン)を混合し測定溶液とした。これをWaters社製ゲルパーミテーションクロマトグラフィー(GPC)Water2690を用いて25℃で測定し、ポリスチレン概算で重量平均分子量を求めた。また、このポリL乳酸の215℃、1216sec−1での溶融粘度は86Pa・sであった。このときの混練条件は以下のとおりであった。
スクリュー型式 同方向完全噛合型 2条ネジ
スクリュー 直径37mm、有効長さ1670mm、L/D=45.1
混練部長さはスクリュー有効長さの28%
混練はスクリュー有効長さの1/3より吐出側に位置させた。
途中3箇所のバックフロー部有
ポリマー供給 N6とポリL乳酸を別々に軽量し、別々に混練機に供給した。
温度 220℃
ベント 2箇所
このポリマーアロイを230℃で溶融し、紡糸温度230℃のスピンブロックに導いた。そして、限界ろ過径15μmの金属不織布でポリマーアロイ溶融体を濾過した後、口金面温度215℃とした口金から、紡糸速度350m/分で溶融防止した。この時、口金として口金孔径0.3mm、孔長0.55mmの通常の紡糸口金を使用したが、バラス現象はほとんど観察されなかった。この時の単孔吐出量は0.94g/分とした。これにより、92デシテックス、30フィラメントの高配向未延伸糸を得た後、延伸温度90℃、延伸倍率1.3倍、熱セット温度130℃で延伸処理した。得られた延伸糸は78デシテックス、30フィラメント、強度3.6cN/dtex、伸度40%、沸騰水収縮率9%、U%=0.7%の優れた特性を示した。N6が島成分、ポリL乳酸が海成分の海島構造のポリマーアロイ繊維を得た。得られたポリマーアロイ繊維の横断面をTEMで観察したところ、数平均による単繊維直径(島直径)は80nmであり、N6が超微分散化したポリマーアロイ繊維が得られた。
【0048】
ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維として、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を2重量%、ポリエチレングリコールを1重量%含む改質ポリエステル繊維であるカチオン可染ポリエステルを使用する。
【0049】
22ゲージ、33インチ(83.82cm)ダブル丸編機で、表に84デシテックス、36フィラメントのカチオン可染ポリエステルの生糸を、中層に22デシテックスのポリウレタン弾性糸(“ライクラ”(登録商標)、オペロンテックス社製127Cタイプ)をプリーティングし、裏に、ナイロン6のナノファイバー繊維集合体の前駆体である(島成分として40重量%含む)ポリマーアロイ繊維78デシテックス、30フィラメントと、カチオン可染ポリエステル84デシテックス、72フィラメントの仮より加工糸を1本交互に編成し、ウエル38本/2.54cm、コース48本/2.54cmの生機を得た。ポリウレタン弾性糸交編編物の通常の精練を行った後、1.5%水酸化ナトリウム溶液で95℃、30分間減量を行い、ポリマーアロイ繊維の海成分であるポリL乳酸を99%以上溶出除去した。その後、185℃で中間セットを行った後、カチオン染料である日本化薬社製 Karacryl Blue 2RL−ED 0.1%omfで90℃で30分間染色を行った。明成化学社製 ラッコールPSK 2g/L、水酸化ナトリウム 1g/L で80℃で10分間ソーピングを行った後、浴中吸汗加工としてラノゲンTNT(高松油脂(株))を3%omf、100℃で60分処理を行い、170℃で仕上げセットを行った。表、裏のカチオン可染糸のみ染色され、裏のナノファイバー繊維集合体は染色されていない編地が得られた。仕上がり密度はウエル43本/2.54cm、コース65本/2.54cm、目付け180g/mであった。
【0050】
得られた製品編地から、ナノファイバー繊維の横断面をTEMで観察したところ、数平均による単繊維直径は84nmであり、直径200nm以上の粗大繊維は0.1重量%以下であり、ばらつきの少ないナノファイバー繊維集合体が得られた。ナノファイバー繊維集合体の混率は、12重量%、ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維としてカチオン可染ポリエステル混率が82重量%、いずれにも相当しないポリウレタン混率が6重量%であった。寸法変化率、洗濯堅牢度、バイレックによる吸水性能を表1に示す。
【0051】
実施例2
実施例1と同じ条件で、ナイロン6のナノファイバー繊維集合体を含む78デシテックス、30フィラメントのポリマーアロイ繊維を得た。上記で得たポリマーアロイ繊維を芯に、カチオン可染ポリエステル84デシテックス36フィラメントの生糸を鞘にして流体噴射(タスラン)加工により複合糸を作製した。芯糸のポリマーアロイ繊維の混率を40重量%としてカチオン可染ポリエステルとの糸長差は10%で、トータル繊度162デシテックス、ナノアロイ繊維集合体の表面露出率が30%の複合加工糸を得た。
【0052】
22ゲージ、33インチ(83.82cm)ダブル丸編機で、表に162デシテックスのタスラン加工糸を、中層に28デシテックスのポリウレタン弾性糸(“ライクラ”(登録商標)、オペロンテックス社製 178Cタイプ)をプリーティングし、フライスタイプの編地を編成し、ウエル45本/2.54cm、コース40本/2.54cmの生機を得た。実施例1と同様の方法で精錬後、ポリマーアロイ繊維の海成分であるポリL乳酸を99%以上溶出除去した。その後、実施例1と同じ方法で中間セット、カチオン染料による染色、ソーピング、浴中吸汗加工及び仕上げセットを行った。表、裏のカチオン可染糸のみ染色された杢調の編地が得られた。仕上がり密度はウエル53本/2.54cm、コース40本/2.54cm、目付け261g/mであった。
【0053】
得られた編地から、ナノファイバー繊維の横断面をTEMで観察したところ、数平均による単繊維直径は86nmであり、直径200nm以上の粗大繊維は0.1重量%以下であり、ばらつきの少ないナノファイバー繊維集合体が得られた。ナノファイバー繊維集合体の混率は20重量%、ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維としてカチオン可染ポリエステル混率が74重量%、いずれにも相当しないポリウレタン混率が6重量%であった。寸法変化率、洗濯堅牢度、バイレックによる吸水性能を表1に示す。
【0054】
実施例3
実施例1と同じ条件で、ナイロン6のナノファイバー繊維集合体を含む78デシテックス、30フィラメントのポリマーアロイ繊維を得た。ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維として、芯に22デシテックスのポリウレタン弾性糸(“ライクラ”(登録商標)、オペロンテックス社製127Cタイプ)を用い、鞘として56デシテックス、24フィラメントのカチオン可染ポリエステルでカバーリングしたFTY糸およびカチオン可染ポリエステルの加工糸を使用した。28ゲージ、30インチ(76.2cm)シングル丸編機で、カチオン可染ポリエステルによるFTYと、カチオン可染ポリエステルの加工糸84デシテックス、36フィラメントを表糸として1本交互に、N6ナノファイバー繊維集合体の前駆体であるポリマーアロイ繊維のナノファイバー繊維集合体を裏糸に天竺リバーシブルを編成する。ウエル32本/2.54cm、コース40本/2.54cmの生機を得た。実施例1と同じ方法で精練、減量を行い、ポリマーアロイ繊維の海成分であるポリL乳酸を99%以上溶出除去した。その後、実施例1と同じ方法で中間セットを行った後、実施例1と同じ方法でカチオン染料で染色、ソーピング、浴中吸汗加工及び仕上げセットを行った。カチオン可染糸のみ染色され、ナノファイバー繊維集合体は染色されていない編地が得られた。仕上がり密度はウエル45本/2.54cm、コース44本/2.54cm、目付け195g/mであった
得られた編地から、ナノファイバー繊維の横断面をTEMで観察したところ、数平均による単繊維直径は85nmであり、直径200nm以上の粗大繊維は0.1%重量以下で、ばらつきの少ないナノファイバー繊維が得られた。ナノファイバー繊維の混率は22重量%、ナノファイバー繊維集合体以外の染色性を示す繊維としてカチオン可染ポリエステル混率が65重量%、いずれにも相当しない繊維としてポリウレタン混率が13重量%であった。寸法変化率、洗濯堅牢度、バイレックによる吸水性能を表1に示す。
【0055】
比較例1
実施例1と同じ条件で、ナイロン6のナノファイバー繊維集合体を含む78デシテックス、30フィラメントのポリマーアロイ繊維を得た。40ゲージ、30インチ(76.2cm)ダブル丸編機で、ポリマーアロイ繊維100%でスムースを編成した。ナイロン編物の通常の精練を行った後、実施例1と同じ方法で減量を行い、ポリマーアロイ繊維の海成分であるポリL乳酸を99%以上溶出除去した。ナノファイバー繊維集合体を含金属酸性染料(PM Blue 2R 松浦株式会社(製))0.5owf%、均染剤としてユニバダインMCニュー(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ(株)製)を3.0owf%、PH調整剤として硫安(住友化学工業(株)製)1.0owf%を用いて、昇温速度1℃/分、染色温度90℃、染色時間30分で染色後、実施例1と同様の方法でソーピング及び浴中吸汗加工を実施した後、ディマフィックスESB(明成化学工業(株)製)3.0owfを80℃で20分FIX処理を実施し、180℃で仕上げセットを行い、ウエル71本/2.54cm、コース58本/2.54cm、のナイロン6のナノファイバー繊維集合体100重量%編地が得られた。
【0056】
得られた編地から、ナノファイバー繊維の横断面をTEMで観察したところ、数平均による直径は84nmであり、直径200nm以上の粗大繊維は0.1重量%以下であり、ばらつきの少ないナノファイバー繊維が得られた。ナノファイバー繊維の混率は、100重量%であった。寸法変化率、洗濯堅牢度、バイレックによる吸水性能を表1に示す。
【0057】
比較例2
実施例1と同じ条件で、ナイロン6のナノファイバー繊維集合体を含む78デシテックス、30フィラメントのポリマーアロイ繊維を得た。実施例1と同じく22ゲージ、33インチ(83.82cm)丸編機で、表に84デシテックス、36フィラメントのカチオン可染ポリエステルの生糸を、中層に22デシテックスのポリウレタン弾性糸(“ライクラ”(商標登録)、オペロンテックス社製127Cタイプ)をプレーティングし、裏にナイロン6のナノファイバー繊維集合体の前駆体である(島成分40重量%含む)ポリマーアロイ繊維78デシテックス、30フィラメントとカチオン可染ポリエステル84デシテックス、72フィラメントの仮より加工糸を1:2の割合で編成し、ウエル38本/2.54cm、コース46本/2.54cmの生機を得た。実施例1と同様の方法で精錬、ポリマーアロイ繊維の海成分であるポリL乳酸を99%以上溶出除去し、実施例1と同様の方法で中間セット、カチオン可染染色、ソーピング、浴中吸汗加工及び仕上げセットを行った。表、裏のカチオン可染糸のみ染色された編地が得られた。仕上がり密度はウエル43本/2.54cm、コース63本/2.54cm、目付けが175g/mであった。得られた編地のナノファイバー繊維混率は8重量%、ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維としてカチオン可染ポリエステル混率が86重量%、いずれにも相当しないポリウレタン混率が6重量%であった。その他、寸法変化率、洗濯堅牢度、バイレックによる吸水性能を表1に示す。
【0058】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリマーからなり、数平均による単繊維直径が10〜200nmであるナノファイバー繊維集合体を全重量に対し少なくとも10重量%含み、該ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維を全重量に対し60重量%以上含む編地であって、かつ、該ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維が染色されていて、寸法変化率がタテ、ヨコともに−8%以上、+4%以下、洗濯堅牢度の変退色が4級以上、かつ汚染が4級以上であることを特徴とする編地。
【請求項2】
前記ナノファイバー繊維集合体を芯糸に、ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維を鞘糸とする複合糸を含む請求項1に記載の編地。
【請求項3】
前記ナノファイバー繊維集合体が海島型複合繊維から得られたものであって、該海島型複合繊維の島成分が20重量%以上のポリアミド繊維、海成分がポリ乳酸であり、編物に編成後、海成分を溶出してなる請求項1または2に記載の編地。
【請求項4】
前記ナノファイバー繊維集合体が染色されておらず、前記ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維がカチオン染料で染色されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の編地。
【請求項5】
前記ナノファイバー繊維集合体と異なる染色性を示す繊維が、カチオン可染ポリエステル、アクリル繊維、羊毛、絹からなる群から選ばれたいずれか一つであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の編地。
【請求項6】
バイレック法による吸水高さのタテ及びヨコ平均が共に80mm以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の編地。

【公開番号】特開2008−75194(P2008−75194A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−253973(P2006−253973)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】