説明

ナノプリズムを形成するための2種類の成分からなるナノ粒子中における金の光誘起相分離

銀および金を含有するナノプリズムが開示される。そのナノプリズムは純粋な銀のナノプリズムの特性を示すが、その銀のナノプリズムは金の存在によって、純粋な銀のナノプリズムの場合よりも周囲の環境による変化や反応に対する影響を受けにくい。ナノプリズムの表面の金は、公知の金修飾技術を使用して、さらに修飾することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、そのすべてが本願の明細書に含まれている、2006年3月8日に出願された米国仮出願番号60/782,678に基づく優先権を主張する。本願発明は、国立科学基金(NSF-NSEC)の許可番号EEC-011-8025を得て、米国政府の援助を受けてなし得た。米国政府は、本願発明について特許を受ける権利を有している。
【背景技術】
【0002】
二十世紀の始めから、ナノスケールの金属の物理的特性および化学的特性を究明することに関するしっかりした研究が集中的に行われてきた。金(Au)および銀(Ag)のナノスケールの粒子は、ナノ粒子の大きさ、組成および形状に対して注目すべき依存性を示す光学的特性のために、そのような研究の主たる対象となっていた(Mie, Ann. Phys. 23:377(1908); Kreibig et al., Surface Science 156:678(1985); Lieber, Solid State Comm. 107:607(1998); El-Sayed, Acc. Chem. Res. 34(4):257(2001); Mayer et al., Colloid Polym. Sci. 276:769(1998))。現在まで、たいていの合成方法は、ナノ粒子の特性に関する形状の効果についての体系的な研究を排除している、ファセットカットおよび/又は擬似球形種を製造することに限定されていた。過去数年以上にわたって、立方体、リング、ディスク、ロッドおよび三角柱を含む、様々な形状の金および銀のナノ粒子の製造が可能である、新規の化学的および光化学的な合成方法が開発されてきた(立方体に関しては、Ahmadi et al., Science 272:1924-1926(1996); Ahmadi et al., Chem. Mater. 1161-1163(1998); Jin et al., J. Am. Chem. Soc. 126:9900-9901(2004); Sau et al., J. Am. Chem. Soc. 126:8648-8649(2004)、リングに関しては、Tripp et al., J. Am. Chem. Soc. 124:7914-7915(2002)、ディスクに関しては、Hao et al., J. Am. Chem. Soc. 14:15182-15183(2002)、ロッドに関しては、Yu et al., J. Phys. Chem. B 101:6661-6664(1997); Jana et al., J. Phys. Chem. B 105:4065-4067(2001); Kita et al., J. Am. Chem. Soc. 124:14316-14317(2002); Zhou et al., Adv. Mater. 11:850-852(1992); Puntes et al., Science 291:2115-2117(2001); Nikoobakht et al., Chem. Mater. 15:1957-1962(2003); Ah et al., J. Phys. Chem. B 1105:7871-7873(2001)、三角柱に関しては、Hulteen et al., J. Phys. Chem. B 103:3854-3863(1999); Bradley et al., J. Am. Chem. Soc. 122:4631-4636(2000); Chen et al., Nano Lett. 2:1003-1007(2002); Morales et al., Science 279:208-211(1998); Jin et al., Science 254:1901-1903(2001); Jin et al., Nature 425:487-490(2003); Metraux et al., Adv. Mater. 17:412-415(2005); Sun et al., Nano Lett. 2:165-168(2002); Callegari et al., Nano Lett. 3:1565-1568(2003); Millistone et al., J. Am. Soc. 127:5312-5313(2005); Turkevich et al., Discussions Faraday Soc. 11:55-75(1951); Shankar et al., Nature Mater. 3:492-488(2004))。これらの新規な技術は、ナノ粒子の形態制御を改善しようとするものであり、粒子の形状がナノスケールの材料の物理的特性および化学的特性にどのような影響を及ぼすかについて研究された。
【0003】
近年、小さい銀のナノ粒子を大きさが40nmから150nmにわたる三角柱のナノプリズムに変えようとする新規な光介在プロセスが開発された(Chen et al., Nano Lett. 2:1003-1007(2002); Morales et al., Science 279:208-211(1998))。その珍しい形状に加えて、銀のナノプリズムは、その構造上のパラメーターと直接的に関連があるプラズモン共鳴現象を起こす。実際、スペクトルの全可視領域および赤外線スペクトル近傍の一部にわたる共鳴を伴う構造を作製することができる。ナノプリズム規模の合成方法が様々な他のルートにより開発されたが、これまでの光介在プロセスによれば、構造および粒子の一様性について最大限の制御をすることが可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、今までの光介在方式は銀に限られていた。それゆえ、本願発明の目的は、価値ある新規なナノ粒子構造を得ることができる、1つ以上の金属から構成される複雑なナノ構造(例えば、非球状)を供給する新しい合成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
2種類の金属のナノ粒子からナノプリズムを作製する方法が開示される。より具体的に言えば、2種類の金属の合金のナノ粒子またはコアシェル構造である2種類の金属のナノ粒子からナノプリズムを作製する方法が開示される。本願発明の方法は、2種類の金属のナノ粒子を作製する工程と、ナノプリズムを形成するために、その結果得られた2種類の金属のナノ粒子、または、例えば、金と銀の合金からなる2種類の金属の合金のナノ粒子に光源を照射する工程とを有している。その結果得られるナノプリズムは、その表面に金の粒子を有する銀のナノプリズムである。この方法によれば、純粋な銀のナノプリズムに類似する特性を有する2種類の金属のナノプリズムが得られる。
【0006】
本願で開示された方法によれば、ナノプリズムを形成するために、2種類の金属のナノ粒子に十分に長い時間光源を照射することによって2種類の金属のナノプリズムを作製することができる。その結果得られる2種類の金属のナノプリズムは、純粋な銀のナノプリズムより反応性が低い。2種類の金属のナノプリズム中の金成分は、周囲の環境と好ましくない相互作用をしないように銀成分を保護する。さらに、各種の治療および/又は診断用途において使用するために、公知の金修飾技術を使用して、金の存在下で、2種類の金属のナノプリズムの表面を修飾することができる。
【0007】
さらに、本願発明の目的は、対象化合物を識別するためにナノプリズムを使用する方法を提供することにある。本願発明の方法は、対象化合物と、表面を修飾された2種類の金属のナノプリズムとを相互作用させる。金成分の表面は、対象化合物と選択的に相互作用することができる部分で修飾されている。この相互作用は感知することができる。ある実施形態において、表面を修飾されたナノプリズムは、治療または診断用途において使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
2種類の金属の合金または2種類の金属のコアシェル構造から得られるナノプリズムが開示される。これらのナノプリズムは、表面プラズモン共鳴ラベル付けなどにおいて使用するために、ナノプリズムにおける銀の好ましい物理的特性を示す一方、周囲の環境における潜在的な試薬と反応しないように銀を保護する。これらのナノプリズムは、その表面の金によって保護された銀のナノプリズムにとっての有益な使用を示す。銀と金が本実施形態において使用されているが、あらゆる金属と銀の合金または銀の酸化物に溶解しない金属を伴う銀のコアシェル構造も本実施形態において使用することができる。そのような金属の限定されない一例として、銅を挙げることができる。
【0009】
2種類の金属のナノプリズムの表面の金は、自己核生成を妨げられるので、金の凝集を避けることができる。さらに、ナノプリズムの表面の金によって、公知の修飾方法を使用して、他の成分をナノプリズムと一体化するか、または、他の成分をナノプリズムに付着させることができる。その修飾は、米国特許第6,361,944号明細書、米国特許第6,506,564号明細書、米国特許第6,767,702号明細書、米国特許第6,750,016号明細書、米国特許出願公開第2002/0172953号明細書、国際公開第98/04740号パンフレット、国際公開第01/00876号パンフレット、国際公開第01/51665号パンフレットおよび国際公開第01/73123号パンフレットに開示されているような生体分子、オリゴヌクレオチド、タンパク質、抗体などの付着を含む。上記公報の開示のすべては本願明細書に含まれている。ナノプリズムの表面の金が修飾された後、ナノプリズムは当業者に公知の各種対象物、治療および/又は診断用途において使用することができる。
【0010】
本願において、用語“相分離”は、反応が熱力学的平衡に達したことを意味しないが、金属が光誘起反応中に互いに分離することを意味する。
【0011】
本願で使用する用語“ナノ粒子”は、プリズムの特性を示さない2種類の金属の組成を示すものである。ナノ粒子は、コアシェル構造または合金とすることができる。一般的に、ナノ粒子は、いずれの方向においても約1μm未満であるが、約500nm未満とすることができ、約200nm未満とすることができ、約100nm未満とすることができる。あるいはまた、ナノ粒子は約5μmまでとすることができる。
【0012】
本願で使用する用語“ナノプリズム”は、プリズムの特性を示す2種類の金属の組成を意味する。そのような特性は、公知の技術を使用して感知することができる。限定されるものではないが、プリズムの特性は、例えば、銀のナノプリズムに対して、約330nm(平面外四重極子共鳴に対応する)において、約450nm(平面内四重極子共鳴に対応する)において、および/又は約660nm(平面内双極子共鳴に対応する)において、特有の共鳴を起こす。
【0013】
〔2種類の金属のナノ粒子〕
銀対金の比率が異なる(銀対金の比率が20対1から5対1の範囲の)銀−金コアシェル構造の粒子が、(1)銀のコアを調製する工程と、(2)銀のコアに金を被覆する工程との2工程を使用して合成される(Cao et al., J. Am. Chem. Soc. 123:7961-7962(2001))。代表的な実験として、氷と、フッ化水素ナトリウム(NaBH4)のような還元剤の水溶液とを、硝酸銀およびクエン酸三ナトリウムのような銀の供給源の溶液に強烈に撹拌しながら速やかに注入することによって、まず、小さい銀の種が調製される。約5秒ないし約60秒後、好ましくは、約15秒後、ビス(スルホネートフェニル)フェニルホスフィンジポタシウムヒドレート(BSPP)またはポリ(ビニルピロリドン)(PVP)のような安定剤の水溶液が、滴下するようにして添加される。その結果得られる混合物は、約10分から約60分間、好ましくは約15分から約30分間、より好ましくは20分間、撹拌される。それから、銀の種を含有するフラスコは氷浴に浸漬され、約10分から約60分間、好ましくは、約15分から約45分間、より好ましくは約30分間、冷却される。その種が冷却された後、追加の還元剤が添加され、その結果得られるコロイドは、約3分から約15分間、好ましくは約5分間撹拌される。
【0014】
この時点で、塩化水素金(III)(HAuCl4)の溶液(5ミリモル(mM))のような適量の金の供給源がコロイド性の銀の混合物に添加される。金の供給源は、他の金の塩または金の水和物でもよい。添加される金の供給源の量は、銀対金の好ましいモル比率による。例えば、銀対金のモル比率が約20対1のものに対しては、5mMの金の供給源の水溶液約100マイクロリットル(μL)が添加され、銀対金のモル比率が約10対1のものに対しては、5mMの金の供給源の水溶液200μLが添加され、銀対金のモル比率が約5対1のものに対しては、5mMの金の供給源の水溶液400μLが添加される。銀対金のモル比率が他のものに対しては、ここに開示したものに基づいて求めることができる。銀対金のモル比率は、約1対1から約50対1、好ましくは約2対1から約30対1、より好ましくは約5対1から約20対1の範囲である。添加される金の量が多くなるほど、銀のコアを囲むシェルは厚くなり、銀をその周囲の環境から保護する効果が大きくなる。もし、金のシェルが厚すぎれば、銀は完全に覆われて、照射によって銀のコアをナノプリズムに変換するのが難しくなる。もし、金のシェルが薄すぎれば、銀は十分に周囲の環境から保護されない。銀を保護するために十分な金が銀の表面に析出する限り、銀のナノ粒子上への金の析出は連続的でも、不連続的でもよい。
【0015】
調製されたナノ粒子の溶液は暗黄色であり、UV-Visのスペクトルにおいて、400nmに中心のある単一の表面プラズモンバンドを示す。コアシェル構造の粒子の表面プラズモンバンドの位置(400nm)は、純粋な銀のナノ粒子の表面プラズモン共鳴(395nm)に比べて、それほどシフトしていないし、広がってもいない。それは、ナノ粒子が合金構造とは対照的にコアシェル構造の粒子であることを確信させるものである(Cao et al., J. Am. Chem. Soc. 123:7961-7962(2001); Rivas et al., Langmuir 16:9722-9728(2000); Link et al., J. Phys. Chem. B 103:3529-3533(1999); Freeman et al., J. Phys. Chem. 100:718-724(1996); Shibata et al., J. Synchrotron Rad 8:545-547(2001))。
【0016】
金の粒子の自己核生成は、本願に開示した2段階成長プロセスでは十分に抑制される。TEMおよびUV-Vis分光法によると、純粋な金のナノ粒子の存在は分からないが、500−520nmの範囲においてプラズモン共鳴を示す。小さい金のナノ粒子がTEMにおいて明らかに分かるが、大きい金のナノ粒子(>4nm)は、UV-Visスペクトルにおいて強烈なプラズモン共鳴を示す。
【0017】
その結果得られる合金またはコア−シェル構造のナノ粒子は、光源を照射することによって2種類の金属のナノプリズムに変換することができる。光源は、一般的に可視光線のスペクトル内の波長(例えば、350−750nm)を有しているが、ナノ粒子をナノプリズムに変換するに十分な波長の光源であればよい。照射時間の長さは、ナノプリズムに変換するに十分な時間であればよい。一般的に、照射は約4時間から約500時間、約24時間から約500時間、約72時間から約450時間、または約120時間から約400時間である。
【0018】
開示されたコアシェル構造の粒子を含有するコロイドは、40Wの蛍光管(ジェネラルエレクトリック社製)を使用して約2週間、可視光線(350−700nm)を照射された。金の含有量が高い(例えば、(銀/金)<(10/1))粒子は安定したコロイド状態にあったが、光変換反応は起こらなかった。光変換反応が起こらなかったのは、銀のコアが金で完全に被覆されたことによるのであり、その結果、銀の表面における光化学反応が妨げられたのであると考えることができる。
【0019】
銀対金の比率が20対1から10対1のナノ粒子は、そのナノ粒子に対する約400nmにおける表面プラズモンバンドの崩壊およびそれに付随する330nm(平面外四重極子共鳴に対応する)、450nm(平面内四重極子共鳴に対応する)、および660nm(平面内双極子共鳴に対応する)における新しいバンドの成長によって明示されるように、ナノプリズムに変換される(図1A)。このプロセスには、銀のナノプリズムの形成を示す、黄色から青色/緑色へのコロイドのゆっくりとした色の変化が伴われた。その変換は光線に2週間さらされる間にわたって起こり、約3日間であった純粋な銀のシステムよりずっとゆっくりであった。
【0020】
TEMによる解析で、ナノプリズムの形成を確認できた。銀対金の比率が10対1のコロイドから得られる2種類の金属のナノプリズムは、純粋な銀のシステムより広く分散したサイズ分布(例えば、平均端部長さが96nm±28nmで、N数が700)を有しているが、純粋な銀の粒子(例えば、厚さが16nm)から得られるものよりかなり薄い(例えば、厚さが8.4nm±1.7nmで、N数が77)。厚さにおいて観察される差違は、溶液中におけるナノ構造の成長の差違による。その結果得られるナノプリズムの表面は、滑らかで均質であるけれども、ナノプリズムの端部はTEMで観察すると、ぎざぎざである。2種類の金属のナノプリズムの表面は小さい球形のナノ粒子を有しているが、TEM像では明るい点として現れ、組成に差違があることを示している(図1B)。
【0021】
エネルギー分散型X線放射分光法とともに使用されたSTEM(STEM−EDS)は、ナノプリズムが純粋な銀であり、スポットは主に金であることを明らかにした(図2)。これは、2種類の金属相が光変換プロセス中に分離することを意味している。追加のTEM解析によれば、金のナノ粒子は銀のナノプリズムのマトリックスに埋設されるのではなく、そのナノプリズムの表面に析出することを示している。これはナノプリズムの端部において最も明瞭に観察され、小さい金のナノ粒子が銀のプリズムの頂部(または底部)表面から伸びている。理論に拘束されるものではないが、金のナノ粒子がTEM試料の調製中(乾燥中)ナノプリズムの表面に析出するが、溶液中に分散したままであるということが前提条件である。この仮定に矛盾することなく、ナノプリズムのいくらかは、その表面に球形粒子を有さず、多くの分散した金の粒子をTEM格子に見出すことができた。銀のプリズムが可視領域において強い吸収剤であり、コロイド中の金粒子の濃度は比較的低いので、約5nmの金の粒子に関連するプラズモン共鳴は観察することができない。
【0022】
前駆体ナノ粒子の外形、形態、構造または分布はナノプリズムの最終構造にそれほどの影響を与えない。例えば、上記コアシェル構造のナノ粒子に匹敵する条件下で照射された金と銀の合金のナノ粒子は類似する相分離構造を生み出した。銀対金の比率が50対1から10対1の範囲である合金のナノ粒子は、共還元法で調製され(図3A)、プリズム形成反応が研究された。合金のナノ粒子からナノプリズムへの光変換プロセスは、高濃度の金を含有するコロイドのために、ゆっくりであった。銀対金の比率が50対1である試料は、完全にプリズムを形成するのに約4日間を必要とした。一方、銀対金の比率が約10対1である試料は2週間を要した。合金のナノ粒子の表面プラズモンバンドは、3つの新しいバンドの成長とともに、強さが減少する。銀対金の比率がそれぞれ、約50対1、約20対1、約10対1のものから製造されたナノ粒子は、330nm(平面外四重極子共鳴)と430nm(平面内四重極子共鳴)に中心がある2つのバンドを有していた。平面内双極子共鳴は前駆体の金の含有量の影響を受けやすく、約640nmから約660nmの範囲であった。銀対金の比率が約50対1から約10対1の範囲にある合金ナノ粒子から得られるナノプリズムは、コアシェルシステムに対して観察されるものと類似する光誘起相分離を示し、純粋な銀のナノプリズムおよび主として金から構成されるナノ粒子を生み出す。TEM検鏡によると、銀のナノプリズムは端部長さが約92nm(±3nm、N数が800)で、厚さが約8.2nm(±1.6nm、N数が361)であった(図3C)。合金のナノ粒子から得られる銀のナノプリズムの端部は、コアシェル構造のナノ粒子から得られるものと同じように、相当でこぼこしている。バルクのコロイドのSEMとバルクのコロイドのEDSを結びつけることによって、光変換の前後の銀対金の正確な比率が分かった(図3D)。
【0023】
理論に拘束されるものではないが、本願によって開示された方法によって2種類の混合することができる金属(例えば、銀と金)が相分離する理由は、光および酸素に対する両金属の反応性に差違があるからであるということを前提条件とする。純粋な銀のナノ粒子のプラズモン励起が大きなナノプリズムへの変換を誘発することが分かった。対照的に、金について実行した類似の実験によると、ナノ粒子のサイズや外形は変化しなかったが、これは2種類の金属の還元力の差違によるものである。金が銀よりもずっと酸化されにくいことは知られている(AuCl4/Au0=0.99V, vs. SHE;Ag+/Ag0=0.8V vs. SHE)(CRC Handbook of Chemistry and Physics(Ed:D.R. Lide)CRC Press:Boca Raton, Fl,(1999))。
【0024】
純粋な銀のナノプリズムに対して、光化学反応は酸素がない場合には起こらず、酸素濃度が増加すると光化学反応は相関的に増加することが分かった。酸素依存性は、銀の選択的酸化の結果である。2種類の金属のナノ粒子の場合、金のシェルが非常に厚いとき(例えば、コア−シェル構造に対して銀対金の比率が10対1より小さいとき)または金の含有量が非常に多いとき(例えば、合金に対して銀対金の比率が10対1より小さいとき)、ナノプリズムへのプラズモン変換は開始することができない。これらの結果を考慮すると、選択酸化によって銀成分が溶解されて、部分的に酸化状態にある銀のクラスターが得られるということが考えられる。この酸化プロセスは、(a)銀に接触しうる限り、(b)酸素が存在する限り、および(c)試料に光が照射される限り、続く。銀の種は引き続いてナノプリズムを形成するために還元される。一方、相分離した金成分は凝集し、純粋な金のナノ粒子が成長する(図4)。
【0025】
〔2種類の金属のナノ粒子の使用〕
本願で開示された2種類の金属のナノ粒子は、様々な用途に使用することができる。コアの銀のナノプリズムはプラズモン共鳴のラベル付けに使用することができる。銀のナノプリズムの使用は、米国特許第7,135,054号明細書および米国特許第7,033,415号明細書に開示されており、そのすべてが本願明細書に含まれている。
【0026】
限定されるものではないが、タンパク質のラベル付け、オリゴヌクレオチドの検出、治療用途、RNAインタフェアなどを含む様々な用途で使用するために、2種類の金属のナノ粒子の表面の金は、ナノ粒子の表面を修飾するために使用することができる。そのような用途は、例えば、米国特許出願公開第09/344,667号明細書、米国特許出願公開第09/603,830号明細書、米国特許出願公開第09/760,500号明細書、米国特許出願公開第09/820,279号明細書、および米国特許出願公開第09/927,777号明細書ならびに国際公開第98/04740号パンフレット、国際公開第01/00876号パンフレット、国際公開第01/51665号パンフレットおよび国際公開第01/73123号パンフレットに開示されており、そのすべてが本願明細書に含まれている。
【0027】
これらの表面を修飾されたナノプリズムは、対象化合物の検出に使用することができる。各種の実施形態において、対象化合物は少なくとも2つの部分を含んでいる。それらの部分の長さと、それらの部分の間の距離は、表面を修飾されたナノプリズムが対象化合物と反応するとき、検出可能な変化が起こるように選択される。これらの長さと距離は実験的に決定することができ、使用される粒子の種類ならびに実験で使用される溶液に存在する電解質の大きさ及び種類に依存する。また、対象化合物がオリゴヌクレオチドであり、他のオリゴヌクレオチドまたは非対象化合物の存在下でその対象化合物が検出されるとき、オリゴヌクレオチドで修飾されたナノプリズム上のオリゴヌクレオチドが束縛される部分は、核酸の検出が明確となるように、十分にユニークなシーケンスを含むように選択されなければならない。これらの技術は公知であり、例えば、米国特許第6,986,989号明細書、米国特許第6,984,491号明細書、米国特許第6,974,669号明細書、米国特許第6,969,761号明細書、米国特許第6,962,786号明細書、米国特許第6,903,207号明細書、米国特許第6,902,895号明細書、米国特許第6,878,814号明細書、米国特許第6,861,221号明細書、米国特許第6,828,432号明細書、米国特許第6,827,979号明細書、米国特許第6,818,753号明細書、米国特許第6,812,334号明細書、米国特許第6,777,186号明細書、米国特許第6,773,884明細書、米国特許第6,767,702号明細書、米国特許第6,759,199号明細書、米国特許第6,750,016号明細書、米国特許第6,740,491明細書、米国特許第6,730,269号明細書、米国特許第6,726,847号明細書、米国特許第6,720,411号明細書、米国特許第6,720,147明細書、米国特許第6,709,825号明細書、米国特許第6,682,895号明細書、米国特許第6,677,122号明細書、米国特許第6,673,548明細書、米国特許第6,645,721号明細書、米国特許第6,635,311明細書、米国特許第6,610,491号明細書、米国特許第6,582,921号明細書、米国特許第6,506,564号明細書、米国特許第6,495,324明細書、米国特許第6,417,340号明細書および米国特許第6,361,944号明細書に開示されており、そのすべてが本願明細書に含まれている。
【0028】
対象化合物がオリゴヌクレオチドを有する実施形態において、オリゴヌクレオチドで修飾されたナノプリズム上における対象化合物の複合化において起こる検出可能な変化は、色の変化、オリゴヌクレオチドで修飾されたナノプリズムの凝集物の形成、および/又は凝集したオリゴヌクレオチドで修飾されたナノプリズムの析出である。色の変化は裸眼または分光器で観察することができる。オリゴヌクレオチドで修飾されたナノプリズムの凝集物の形成は、電子顕微鏡、比濁分析または肉眼で観察することができる。凝集したオリゴヌクレオチドで修飾されたナノプリズムの析出は裸眼または顕微鏡で観察することができる。好ましいのは裸眼で観察できる変化である。特に好ましいのは裸眼で観察できる色の変化である。
【0029】
対象化合物を特定する方法の使用例としては、限定されるものではないが、法廷において、DNAシーケンスにおいて、出生の試験のために、細胞の真正証明のために、遺伝子治療を監視するため、および他の多くの目的のために、ウィルス性の病気(例えば、ウィルス性免疫不全、ウィルス性肝炎、ウィルス性ヘルペス、ウィルス性細胞肥大、エプスタイン−バールウィルス)、細菌による病気(例えば、結核、ライム病、ヘリコバクターピロリ、大腸菌感染、レジオネラ菌感染、マイコプラズマ感染、サルモネラ感染)、性的伝染病(例えば、淋病)、遺伝性の疾患(例えば、膀胱線維症、デュシェンヌ型筋萎縮症、フェニルケトン尿症、鎌型赤血球性貧血)、およびガン(例えば、ガンの成長を伴う遺伝子)の診断および/又は監視を含む。
【0030】
各種の実施形態において、対象化合物の検出は、薬品の発見、DNAまたはオリゴヌクレオチド相互作用化合物(例えば、挿入剤およびバインダー)と関連して使用される。対象化合物は、特に公知のオリゴヌクレオチドと結び付く能力を評価される。オリゴヌクレオチドは本願で開示されたナノプリズムの表面を修飾する。
【0031】
本願において、用語“オリゴヌクレオチド”は、200以下のヌクレオベースの単一ストランドのオリゴヌクレオチドを意味する。所定のシーケンスのオリゴヌクレオチドを製造する方法は、よく知られている。例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2nd ed. 1989) および F. Eckstein (ed.) Oligonucleotides and Analogues, 1st Ed.(Oxford Universiry Press, New York, 1991)を参照して下さい。固相合成方法は、オリゴリボヌクレオチドおよびオリゴデオキシリボヌクレオチドの両方にとって好ましい(DNAを合成する公知の方法は、RNAを合成するためにも有用である)。オリゴリボヌクレオチドおよびオリゴデオキシリボヌクレオチドは酵素で調製することができる。
【0032】
本願で開示したナノプリズムの表面を修飾するオリゴヌクレオチドは、長さが約5から約100のヌクレオチド、長さが約5から約90のヌクレオチド、長さが約5から約80のヌクレオチド、長さが約5から約70のヌクレオチド、長さが約5から約60のヌクレオチド、長さが約5から約50のヌクレオチド、長さが約5から約45のヌクレオチド、長さが約5から40のヌクレオチド、長さが約5から約35のヌクレオチド、長さが約5から約30のヌクレオチド、長さが約5から約25のヌクレオチド、長さが約5から約20のヌクレオチド、長さが約5から約15のヌクレオチド、または、長さが約5から10のヌクレオチドである。オリゴヌクレオチドがDNAオリゴヌクレオチド、RNAオリゴヌクレオチドまたはDNAオリゴヌクレオチドもしくはRNAオリゴヌクレオチドの修飾形態である方法が開示される。
【0033】
その方法は、対象オリゴヌクレオチドに対して100%補完的であるオリゴヌクレオチド、すなわち好一対のオリゴヌクレオチドの使用を含む一方、そのオリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの長さについて対象化合物に対して少なくとも約95%補完的(95%に等しいか又はそれより大きいことを意味する)であり、オリゴヌクレオチドが対象遺伝子生産物を好ましく抑制できるように、オリゴヌクレオチドの長さについて対象化合物に対して少なくとも約90%補完的、少なくとも約85%補完的、少なくとも約80%補完的、少なくとも約75%補完的、少なくとも約70%補完的、少なくとも約65%補完的、少なくとも約60%補完的、少なくとも約55%補完的、少なくとも約50%補完的、少なくとも約45%補完的、少なくとも約40%補完的、少なくとも約35%補完的、少なくとも約30%補完的、少なくとも約25%補完的、少なくとも約20%補完的である。
【0034】
本願発明の方法によって検出できる対象化合物の例は、限定されるものではないが、遺伝子(例えば、特別の病気と結びつく遺伝子)、ウイルス性のRNAおよびDNA、バクテリアのDNA、菌性のDNA、cDNA、mRNA、RNAおよびDNA断片、オリゴヌクレオチド、合成オリゴヌクレオチド、修飾されたオリゴヌクレオチド、単一ストランドおよび二重ストランドの核酸、天然および合成の核酸などを含む。対象化合物は、公知の方法によって分離することができる。また、当業者によって知られているように、対象化合物は、細胞、組織試料、生物学上の流体(例えば、唾液、尿、血液、血清)、PCR成分を含有する溶液、大過剰量のオリゴヌクレオチドまたは高分子量のDNAを含有する溶液および他の試料中において直接的に検出できる。例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2nd ed. 1989) および B.D. Hames and S.J. Higgins, Eds., Gene Probes 1(IRL Press, Newyork, 1995)を参照して下さい。
【0035】
各種の方法によって、複数のオリゴヌクレオチドをナノプリズムに付着することができる。その結果、各オリゴヌクレオチドで修飾されたナノプリズムを複数の対象化合物に取り付けることができる。各種の方法において、複数のオリゴヌクレオチドを同一にすることができる。それらの方法では、複数のオリゴヌクレオチドは約10から約100000のオリゴヌクレオチド、約10から約90000のオリゴヌクレオチド、約10から約80000のオリゴヌクレオチド、約10から約70000のオリゴヌクレオチド、約10から約60000のオリゴヌクレオチド、約10から約50000のオリゴヌクレオチド、約10から約40000のオリゴヌクレオチド、約10から約30000のオリゴヌクレオチド、約10から約20000のオリゴヌクレオチド、約10から約10000のオリゴヌクレオチドを含むと考えられ、すべての数のオリゴヌクレオチドはオリゴヌクレオチドで修飾されたナノプリズムが好ましい結果を達成できるように本願で特に開示された数値の中間である。
【0036】
各種の方法において、少なくとも1つのオリゴヌクレオチドは5の連鎖によってナノプリズムに結び付けられるか、および/又はオリゴヌクレオチドは3の連鎖によってナノプリズムに結び付けられる。各種の方法において、少なくとも1つのオリゴヌクレオチドはスペーサーによってナノプリズムに結び付けられる。その場合において、スペーサーは半有機質、ポリマー、水溶性ポリマー、核酸、ポリペプチド、および/又はオリゴ糖である。オリゴヌクレオチドをナノ粒子の表面に取り付ける方法は当業者によく知られている。Whitesides, Proceedings of the Robert A. Welch Foundation 39th Conference On Chemical Research Nanophase Chemistry, Houston, Tex., pages 109-121(1995) を参照して下さい。また、Mucic et al., Chem. Comm. 555-557(1996)を参照して下さい。(3チオールDNAを平坦な金の表面に取り付ける方法を記載している。この方法を使用して、オリゴヌクレオチドをナノ粒子に取り付けることができる)。アルカンチオール法を使用して、オリゴヌクレオチドを他の金属、半導体、磁性コロイド、および上記の他のナノ粒子に取り付けることができる。オリゴヌクレオチドを固体の表面に取り付けるための他の官能基には、ホスホロチオエート基(例えば、オリゴヌクレオチド−ホスホロチオエートを金の表面に取り付けるものとしては、米国特許第5.472,881号明細書参照)、置換型アルキルシロキサン(例えば、シリカおよびガラス表面へのオリゴヌクレオチドの取り付けに関しては、Burwell, Chemical Technology, 4:370-377(1974) および Matteucci and Caruthers, J. Am. Chem. Soc., 103:3185-3191(1981); アミノアルキルシロキサンの取り付けおよびメルカプトアルキルシロキサンの取り付けに関しては、Grabaretal., Anal. Chem., 67:735-743 を参照)が含まれる。5連鎖のチオヌクレオシドまたは3連鎖のチオヌクレオシドで終わるオリゴヌクレオチドを使用して、オリゴヌクレオチドを固体の表面に取り付けることができる。以下の文献は、オリゴヌクレオチドをナノ粒子に取り付けるために使用できる他の方法を開示している。:Nuzzo et al., J. Am. Chem. Soc., 109-2358(1987)(金に二硫化物);Allara and Nuzzo, Langmuir, 1:45(1985)(アルミニウムにカルボン酸);Allara and Tompkins, J. Colloid Interface Sci., 49:410-421(1974)(銅にカルボン酸);Iler, The Chemistry Of Silica, Chapter 6, (Wiley 1979)(シリカにカルボン酸) ; Timmons and Zisman, J. Phys. Chem., 69:984-990(1965)(白金にカルボン酸) ; Soriage and Hubbard, J. Am. Chem. Soc., 104:3937(1982)(白金に芳香環化合物): Hubbard, Acc. Chem. Res., 13:177(1980)(白金に スルホラン、スルホキシドおよび他の官能溶媒); Hickman et al., J. Am. Chem. Soc., 111:7271(1989)(白金にイソニトリル); Maoz and Sagiv, Langmuir, 3:1045(1987)(シリカにシラン) ; Maoz and Sagiv, Langmuir, 3:1034(1987)(シリカにシラン) ; Wasserman et al., Langmuir, 5:1074(1989)(シリカにシラン) ; Eltekova and Eltekov, Langmuir, 3:951(1987)(二酸化チタンおよびシリカに芳香族カルボン酸、アルデヒド、アルコールおよびメトキシ基) ; Lec et al., J. Phys. Chem., 92:2597(1988)(金属に剛体リン酸塩)。
【0037】
オリゴヌクレオチドで修飾されたナノプリズムと対象化合物との接触は、オリゴヌクレオチドで修飾されたナノプリズムと対象化合物のシーケンスとの複合化に効果的な条件の下で起こる。“複合化”とは、当業者に知られているWatson-Crick DNA相補性の規則、Hoogstein結合、または他のシーケンス特有の結合と関連する水素結合による核酸の2つのストランドの間の相互作用を意味する。複合化は、当業者に知られている異なる厳格条件の下で実行することができる。これらの複合化条件は当業者によく知られており、知られている特別のシステムに対して最適化できる。例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd ed. 1989)を参照して下さい。厳格な複合化条件を使用することが好ましい。適当な厳格複合化条件の下で、2つの相補性ストランドの間の複合化は、その反応において、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約95%以上、約96%以上、97%以上、約98%以上、または約99%以上に達することができる。
【0038】
急速な複合化は、検出されるオリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチドで修飾されたナノプリズムを含有する溶液を冷凍および解凍することによって達成することができる。その溶液は、冷凍するに十分な時間(一般的に100マイクロリットルの溶液に対して約1分間)ドライアイスとアルコールの浴に静置するというような便利な方法で冷凍することができる。その溶液は、熱変性温度未満の温度で解凍しなければならない。その解凍温度は、好都合なことに、オリゴヌクレオチドで修飾されたナノプリズムおよび対象オリゴヌクレオチドのたいていの組み合わせに対して室温とすることができる。複合化は完全であり、その溶液を解凍した後、検出可能な変化を観察することができる。複合化率は、対象化合物およびオリゴヌクレオチドで修飾されたナノプリズムを、オリゴヌクレオチドで修飾されたナノプリズムおよび対象化合物上のオリゴヌクレオチドに形成される複合物に対する解離温度(Tm)未満の温度まで暖めることによって増加することができる。その代わりに、急速な複合化は、その溶液を解離温度(Tm)超まで加熱した後冷却することによって達成することができる。複合化率は、また、塩の濃度を増すことによって向上させることができる(例えば、塩化ナトリウムを0.1モルから0.3モルへ)。
【0039】
本願発明の他の実施形態として、国際公開第2005/003394号パンフレットに開示された方法の変形である方法が提供される。そのすべてが本願明細書に含まれている。本願に開示された方法の変形として、すでに開示された方法で使用されている粒子の1つ以上を本願発明のナノプリズムに置き換えることができる。その代わりに、国際公開第2005/003394号パンフレットで開示された方法で使用された基板を本願発明のナノプリズムに置き換えることができる。
【実施例】
【0040】
硝酸銀(AgNO3)、クエン酸三ナトリウム、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)、およびフッ化水素ナトリウム(NaBH4)は、アルドリッチ社(米国ウィスコンシン州ミルウォーキー)から購入した。ビス(パラ−スルホネートフェニル)フェニルホスフィンジポタシウムジヒドレート塩(BSPP)は、ストレムケミカル社(米国マサチューセッツ州ニューベリーポート)から購入した。すべての化学薬品は受け入れた状態で使用された。すべての水はナノピュア水システム(電気抵抗値=18.2MΩ、Barnstead Ins.)を使用して浄化された。
【0041】
〔Ag−Auコアシェル構造のナノ粒子〕
AgNO3の水溶液(0.1ミリモルの100ミリリットル)およびクエン酸三ナトリウム(0.3ミリモル)が、空気雰囲気の室温下で、丸底フラスコの中で十分に撹拌された。この混合物に対して、新たに調製されて氷冷された(約0℃の)0.5ミリリットルのNaBH4(100ミリモル)が速やかに注がれた。その反応混合物は薄い黄色に変わり、1ミリリットルのビス(パラ−スルホネートフェニル)フェニルホスフィンジポタシウム塩(BSSP,5ミリモル)の添加の前に、10ないし15秒間撹拌された。BSPPは、30秒間にわたって滴下するようにして添加された。ポリ(ビニル−2−ピロリドン)(0.7ミリモルの1ミリリットル溶液)で保護されたコアシェル構造のナノ粒子は、BSPPで保護されたものと同じような光学的特性と化学的反応性を示した。表面プラズモンバンド(約395nm)が最大強さに達して安定したとき(強さ及び位置の両方において)、銀の種の溶液の撹拌は停止された。
【0042】
それに続いて、銀の種を含有するフラスコは、氷浴に浸漬されて約30分間冷却された。種が冷却されると、追加のNaBH4(100ミリモルの0.2ミリリットル)が加えられた。そして、コロイドは5分間撹拌された。この時点で、HAuCl4水溶液(5ミリモル)が撹拌中のコロイドに添加されて、金で被覆された銀のナノ粒子を得た。銀対金の比率が20対1、10対1、および5対1に対して、使用されたHAuCl4の容積はそれぞれ100マイクロリットル、200マイクロリットルおよび400マイクロリットルであった。まず、金の溶液が1ミリリットルのナノピュア水(電気抵抗値=18.2MΩ)で希釈され、それからゆっくりと(5分間)滴下するようにしてコロイドに添加された。最終的に得られた金で被覆された銀のナノ粒子のコロイドは暗黄色であり、UV-Visのスペクトルで400nmに中心がある単一のバンドを示した。
【0043】
〔Ag−Au合金のナノ粒子〕
代表的な実施例として、AgNO3(0.1ミリモルの100ミリリットル)、HAuCl4(0.01ないし0.005ミリモル)およびクエン酸三ナトリウム(0.3ミリモル)の水溶液が、空気雰囲気の室温下で、速やかに撹拌された。引き続いて、NaBH4(100ミリモルの0.5ミリリットル)を注ぐことによって銀が還元されて、10ないし15秒間撹拌された。そのコロイドは速やかに暗黄色になった。BSPP(1ミリリットル)が20秒ないし30秒間にわたって撹拌中のコロイドに滴下するようにして添加された。そのコロイドは20分ないし30分間攪拌された後、小型のガラスビンに静置された。Au−Ag合金のナノ粒子の色は、金(Au)の含有量に応じて変化し、暗黄色(低Au含有量)から橙色/黄色(高Au含有量)までにわたった。初期のナノ粒子の双極子共鳴は、金の含有量が増加するとともに(銀対金の比率が50対1の400nmから銀対金の比率が10対1の415nmまで)、赤色にシフトする。スペクトル中の(金の含有量に依存する)400−415nmの唯一のバンドの存在によって、分離した純粋な金と銀の粒子よりむしろ、合金のナノ粒子が共還元反応で形成されたことを確認できた。表面プラズモンの吸収バンドは、合金のナノ粒子中の金の比率が増加するとともに、強さが減少して赤色にシフトした(図3A)。銀対金の比率が約10対1よりも低い銀対金の比率を有する(例えば、銀対金の比率が5対1または1対1)銀のナノ粒子のコロイドは、数日間光源に晒された後、析出した。
【0044】
上記は本願発明の実施例を記載したに過ぎず、特許請求の範囲によって特定される発明を限定することを意図したものではない。本願で開示した方法および特許請求の範囲に記載された方法のすべては、本願の開示に照らして、不当な実験を伴うことなく実行することができる。本願発明の材料および方法を特定の実施形態の用語で記載したけれども、当業者であれば、本願発明の概念、精神および範囲を逸脱しない範囲において、材料および/又は方法に対して変形を加え得ることは明らかであり、本願発明に係る方法の工程またはシーケンスに対して変形を加え得ることは明らかである。特に、化学的および生理学的に関連する薬剤を、本願で開示した薬剤の代わりに用い得ることは明らかであり、その関連薬剤によっても同じまたは類似の効果が得られることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1(A)は各種の銀対金の比率のコアシェル構造のナノ粒子に由来するナノプリズムの紫外線−可視光線(UV-Vis)のスペクトルであり、図1(B)は2種類の金属(銀対金の比率が10対1)のナノプリズムの透過電子顕微鏡(TEM)の像であり、挿入物は同試料の高解像度TEM(HRTEM)の像である。
【図2】図2はコアシェル構造のナノ粒子に由来するナノプリズムの走査透過電子顕微鏡(STEM)およびエネルギー分散型X線分光法(EDS)の解析結果であり、図2(A)はSTEM像であり、図2(B)は銀のナノプリズムマトリックスのEDS解析結果であり(スポット1)、図2(C)は金の析出後の表面構造のEDS解析結果である(スポット2)。スポット2の銀の信号は内在する銀のナノプリズムマトリックスから生じる。
【図3】図3は、合金のナノ粒子の光変換反応を示し、図3(A)は各種の銀対金の比率の合金のナノ粒子の初期のUV-Visのスペクトルであり、図3(B)は光変換が完了した後に生成するナノプリズムのUV-Visのスペクトルであり、図3(C)は合金のナノ粒子に由来する2種類の金属(銀対金の比率が10対1)のナノプリズムのTEMの像であり、図3(D)は両方の金属がその試料に存在することを証明するナノプリズム(銀対金の比率が10対1)の最終の走査電子顕微鏡(SEM)−EDS解析結果である。
【図4】図4は、2種類の金属のナノ粒子において、銀から金を光誘起により相分離する様子を説明する図である。銀は、陽イオンクラスターを形成するために、溶解した酸素によって部分的に酸化される。これらのクラスターはナノ粒子の表面から解離し、成長するナノプリズムを覆う。銀は基本的に2種類の金属の種から分離される。金は還元された状態で残り、初期の種のマトリックスから分離されない。
【図5】図5(A)はナノプリズムに光変換する前のコアシェル構造のナノ粒子のSEM−EDS解析結果であり、図5(B)はナノプリズムに光変換した後のコアシェル構造のナノ粒子のSEM−EDS解析結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)2種類の金属のナノ粒子を形成するために、銀のナノ粒子の表面に金を析出させるという条件の下で、銀のナノ粒子と金を混合する工程と、
(b)ナノプリズムを形成するために、上記2種類の金属のナノ粒子に光源を照射する工程と
を有するナノプリズムの作製方法。
【請求項2】
ナノプリズムを形成するために、銀と金の合金のナノ粒子に光源を照射する工程を有するナノプリズムの作製方法。
【請求項3】
照射は、約4時間から約500時間行われる請求項1または2記載のナノプリズムの作製方法。
【請求項4】
照射は、約400nmから約700nmの波長を有する光源により行われる請求項1または2記載のナノプリズムの作製方法。
【請求項5】
銀対金のモル比率は、約1対1から約50対1の範囲である請求項1または2記載のナノプリズムの作製方法。
【請求項6】
銀対金のモル比率は、約2対1から約30対1の範囲である請求項1または2記載のナノプリズムの作製方法。
【請求項7】
銀対金のモル比率は、約10対1から約20対1の範囲である請求項1または2記載のナノプリズムの作製方法。
【請求項8】
2種類の金属のナノ粒子は、約375nmから約425nmの表面プラズモン共鳴を起こす請求項1記載のナノプリズムの作製方法。
【請求項9】
ナノプリズムは、約325nmから約335nmの平面外四重極子共鳴、約445nmから約455nmの平面内四重極子共鳴、約640nmから約660nmの平面内双極子共鳴、又はこれらを組み合わせた現象を起こす請求項1または2記載のナノプリズムの作製方法。
【請求項10】
ナノプリズムの表面の金をタンパク質、オリゴヌクレオチド、またはこれらを組み合わせたもので修飾する請求項1または2記載のナノプリズムの作製方法。
【請求項11】
銀のプリズム特性が、金によって周囲の環境から保護される請求項1または2記載のナノプリズムの作製方法によって作製されたナノプリズム。
【請求項12】
ナノプリズムは、その表面に金のナノ粒子を有する銀のナノプリズムである請求項1または2記載のナノプリズムの作製方法。
【請求項13】
約325nmから約335nmの平面外四重極子共鳴、約445nmから約455nmの平面内四重極子共鳴、約640nmから約660nmの平面内双極子共鳴、又はこれらを組み合わせた現象を起こすナノプリズムである請求項11または12記載のナノプリズム。
【請求項14】
約70nmから約120nmの端部長さと、約6.5nmから約10.5nmの厚みを有する請求項11または12記載のナノプリズム。
【請求項15】
約90nmから約100nmの端部長さを有する請求項11または12記載のナノプリズム。
【請求項16】
約8.0nmから約9.0nmの厚みを有する請求項11または12記載のナノプリズム。
【請求項17】
表面が、オリゴヌクレオチド、タンパク質、またはこれらを組み合わせたもので修飾された請求項11または12記載のナノプリズム。
【請求項18】
その表面に金のナノ粒子を有する銀のナノプリズム。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−533545(P2009−533545A)
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558406(P2008−558406)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際出願番号】PCT/US2007/005988
【国際公開番号】WO2007/103536
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(596057893)ノースウエスタン ユニバーシティ (35)
【Fターム(参考)】