説明

ナノ分散ケイ素およびスズの複合材料ならびにその製造方法

リチウム含有マトリクス中にナノ分散したスズおよびケイ素を有する、スズおよびリチウム、ケイ素およびリチウム、または、スズ、ケイ素、およびリチウムの複合化合物は、充電式バッテリによる使用のための電極材料、特にアノード材料として使用できる。複合化合物を作製する方法は、合金の酸化、安定化されたリチウム金属粉末の酸化スズおよび酸化ケイ素との反応、ならびにリチウムの無機塩とスズおよびケイ素含有化合物との反応を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2004年4月15日に提出された米国仮出願第60/562,679号の利益を主張し、引用によりその全体を本明細書に組み入れ、開示の一部をなす。
【0002】
発明の分野
本発明は、バッテリの形成に使用できる化合物に、さらに詳細には電極の形成に使用される複合化合物に、そしてそのような化合物を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
グラファイトは現在、リチウムイオンバッテリにおけるアノード材料として使用されている。グラファイトアノードの最大理論容量は、372mAh/gである。アノードの容量を向上する試みにおいて、富士フイルムセルテック社の研究者らは、潜在的に大きな容量を示すアモルファススズベース複合酸化物ガラスをアノード材料として利用する、リチウムイオン電池の新たな型に関する研究を実施した(Y.Idota,A.Matsufuji,Y.Maekawa,and T.Miyasaki,Science,276,1395(1997))。それ以来、多くの研究活動がスズ含有アノード材料に集中している。しかしながら、そのような全ての努力にもかかわらず、なおグラファイトが市販のリチウムイオンバッテリで使用される好ましい材料である。
【0004】
富士フイルム社の材料は本質的に、他の不活性酸化物中の各種の活性酸化スズの複合材であるということが我々の見解である。対象に関する初期の研究に従って(例えばI.A.Courtney and J.R.Dahn,J.Electrochem.Soc.,144,2045(1997);I.A.Courtney,W.R.McKinnon and J.R.Dahn,J.Electrochem.Soc.,146,59(1999)を参照)、バッテリの最初の充電中にリチウムがそのような材料から形成されたアノードに電気化学的に進入するときに、リチウムは酸化スズ中の酸素と反応して酸化リチウムを形成し、酸化スズ中のスズは酸化リチウムの骨格内にてインサイチュー(in situ)でナノ分散した元素状態のスズとなる。しかしながら最初の充填中に酸素と反応するリチウムは失われ、バッテリの実際の電圧ウィンドウ内での任意のさらなる電気化学循環には関与しないであろう。消費されたリチウムは、バッテリの不可逆的な容量損失を引き起こす。次の循環の間、バッテリの容量は、合金化プロセスにおいて合金化および脱合金化されるナノ分散スズによって供給される。ガラス中の関与しない原子(いわゆる「傍観型」原子)は、合金化プロセスに関連する大きな容積変化を吸収する骨格を提供する。したがって最初の充電サイクル中に材料内のリチウムと反応する酸素が多ければ多いほど、不可逆的容量は大きくなる。複合材料中の不活性な関与しない原子(傍観型原子)が多くなればなるほど、サイクル寿命は良好となる。しかしながら得られる可逆容量は低くなる。
【0005】
例えば以前に報告されたスズ含有ガラス材料は通例50%を超える不可逆容量を示し、B25およびP25クラスタなどの酸化物ガラスへの大量の不活性原子の添加によって、容量がグラファイトに非常に類似したレベルまで低減されない限り、非常に劣ったサイクル寿命を有する。そのような材料によって示される大きな不可逆容量および劣った構造安定性のために、これらの材料は通例、市販のリチウムイオン電池では使用されない。
【0006】
近年、スズベースアノード材料研究の焦点は、金属間合金材料、例えばCu−Sn系、Fe−Sn−C系、Mo−Sn合金などを支持して、酸化物材料から離れてきた。しかしながら金属間合金は、不可逆容量損失を制御するために、酸素を含まない環境で製造する必要がある。加えてそのような材料は、費用のかかるアルゴン環境内での高エネルギーボールミル粉砕によって通例製造される。そのような材料の容量は通例、グラファイトと非常に類似しているか、またはグラファイトよりも低いことさえある。これらの材料の潜在的な利点は、a)スズとリチウムとの間の結合エネルギーがグラファイトとリチウムとの間の結合エネルギーよりも大きく、それゆえスズベース材料は、充電状態でのバッテリの熱的酷使の間に電解質の反応性がより低いので、スズベース材料はグラファイトより安全であることと;そしてb)スズ合金の真の密度は一般にグラファイトの真の密度の約2倍であり、したがってバッテリの容積エネルギー密度は、そのような材料を利用することによって、材料の比容量がグラファイトと同じであっても改善可能なことである。
【0007】
アノード材料を形成するための別の提案された手法は、Li2O中にナノ分散されたスズの複合材を得るために、Li3NをSnOと反応させることを含む(D.L.Foster,J.Wolfenstine,J.R.Read,and W.K.Behl,Electrochem.Solid−state Lett.3,203(2000))。しかしながらLi3NとSnOとの間の低い反応性のために(Li−N結合が切断される必要がある)、反応を生じさせるために約5日間の高エネルギーボールミル粉砕が必要とされ、このことは商業的加工の観点から望ましくない。
【0008】
スズおよびケイ素は4.4Liとそれぞれ合金化可能であり、それらはそれぞれ990mAh/gおよび4200mAh/gの非常に大きい理論容量をそれぞれ示す。したがって、充電式バッテリで使用するために、そのような材料を電極に包含させる方法を開発することは望ましい。電極によって使用できるスズおよびケイ素含有組成物を製造できるプロセスを開発することも望ましい。
【発明の開示】
【0009】
本発明の一部の実施形態により、電極、例えばアノードおよびカソードの形成に使用できる化合物は、ナノ分散したスズを有するリチウム含有化合物(例えば酸化リチウム)、ナノ分散したケイ素を有するリチウム含有化合物、ならびにナノ分散したスズおよびケイ素を有するリチウム含有化合物を含む。ナノ分散したスズ、ケイ素、またはスズおよびケイ素を有する複合酸化リチウム化合物を電極材料としての使用の前に形成できる。
【0010】
本発明の他の実施形態により、スズまたはケイ素ナノ分散リチウム含有化合物は、リチウム金属粉末と、酸化スズ、酸化ケイ素、または酸化スズおよび酸化ケイ素の両方との反応によって形成される。得られた化合物は単相、2相、または多相化合物であり得る。
【0011】
本発明のなお他の実施形態において、電極の形成に使用できる化合物は、ナノ分散したスズ、ケイ素、またはスズおよびケイ素の両方を有するリチウム含有化合物を含む。リチウム含有化合物としては、フッ化リチウム、炭酸リチウム、ケイ酸リチウム、リン酸リチウム、および硫酸リチウムが挙げられる。
【0012】
本発明の他の実施形態により、リチウムおよびスズ、リチウムおよびケイ素、またはリチウム、スズ、およびケイ素の合金粉末に制御酸化を受けさせて、分散したスズ、ケイ素、またはスズおよびケイ素を有する酸化リチウムのマトリクスを形成する。
【0013】
本発明のなお他の実施形態において、電極はスズ、ケイ素、またはスズおよびケイ素含有リチウムマトリクス材料から形成され、該リチウムマトリクスは電極の形成の前に形成される。例えば、酸化リチウムのようなリチウムマトリクスは、電極形成プロセスのエクスサイチュー(ex situ)での安定化されたリチウム金属粉末と酸化スズまたは酸化ケイ素との反応から形成できる。
【0014】
本発明は、添付図面と併せて読んだときに、本発明の以下の説明からより容易に確認できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
ここで本発明を、本発明の実施形態が示されている添付図面を参照して以下でより十分に説明する。しかしながら本発明は、多くの各種形態で具現でき、本明細書で示す実施形態に限定されるものとして解釈すべきではない。むしろこれらの実施形態は、この開示が徹底かつ完全となるように提供され、本発明の範囲を当業者に十分に伝えるであろう。
【0016】
本発明の一部の実施形態により、電極、例えばアノードおよびカソードの形成に使用できる化合物は、ナノ分散したスズを有する酸化リチウム化合物と、ナノ分散したケイ素を有する酸化リチウム化合物と、ナノ分散したスズおよびケイ素を有する酸化リチウム化合物とを含むリチウム含有化合物を含む。ナノ分散したスズ、ケイ素、またはスズおよびケイ素を有する複合酸化リチウム化合物は、電極材料としての使用の前に形成できる。
【0017】
本発明の実施形態により、リチウムイオンバッテリでの使用のための電極、例えばアノードは、懸濁したスズナノ粒子を有する酸化リチウムなどのリチウムの複合化合物を含む。懸濁したスズナノ粒子を有する酸化リチウムの複合化合物を用いた電極の形成は、スズナノ粒子が可逆容量ベースでリチウムバッテリ内にて利用可能なリチウムと反応できる電極を生成する。分散したスズナノ粒子を有する酸化リチウムの複合化合物を含有する電極は、電極を使用してバッテリの改善された容量を提供し、また、酸化スズ化合物によって形成された電極が被る可逆容量損失の著しい低下により、改善された容量を提供する。加えて酸化リチウムマトリクスの存在は、電極に安定構造を提供して、電極が著しい劣化を伴わずに反復してサイクルされるようにする。
【0018】
他の実施形態において、電極は、ナノ粒子が懸濁されたケイ素を有する酸化リチウムなどのリチウムの複合化合物を含む。スズナノ粒子含有酸化リチウム材料と同様に、ケイ素ナノ粒子含有酸化リチウムは、そのような材料を使用して電極の改善された容量を提供する。懸濁したケイ素ナノ粒子を有する酸化リチウムの複合化合物によって形成された電極は、それらが使用されるバッテリに改善された容量を提供する。加えて酸化リチウムマトリクスの存在は、電極に安定構造を提供して、電極が著しい劣化を伴わずに反復してサイクルされるようにする。
【0019】
なお他の実施形態において、電極は、懸濁したスズおよびケイ素ナノ粒子を有する酸化リチウムの複合化合物を含む。懸濁したスズおよびケイ素ナノ粒子の両方を有する酸化リチウムの複合化合物によって形成された電極は、それらが使用されるバッテリに改善された容量を提供する。加えて酸化リチウムマトリクスの存在は、電極に安定構造を提供して、電極が著しい劣化を伴わずに反復してサイクルされるようにする。
【0020】
本発明の実施形態は、懸濁したスズナノ粒子、ケイ素ナノ粒子、またはスズおよびケイ素ナノ粒子を有する酸化リチウムの複合化合物から形成された電極を利用するバッテリも含む。バッテリの例は、携帯電話、ポータブルコンピュータ、デジタルカメラ、携帯情報端末、動力工具、ハイブリッド電子自動車などのためのバッテリを含む。一部の実施形態において、本発明の実施形態の化合物から形成された電極は好ましくはアノードである。
【0021】
本発明の他の実施形態により、スズまたはケイ素ナノ分散酸化リチウム化合物は、リチウム金属粉末と、酸化スズ、酸化ケイ素、または酸化スズおよび酸化ケイ素の両方との反応によって形成される。得られた化合物は単相、2相、または多相化合物であり得る。
【0022】
分散したスズナノ粒子を有する酸化リチウムの複合化合物は、リチウム金属を酸化スズ材料と反応させることによって形成できる。リチウム金属は、FMC,Inc.によって製造され、その開示が引用によりその全体で本明細書に組み入れられ、開示の一部をなす米国特許第5,776,369号および第5,567,474号で述べられているような安定化されたリチウム金属粉末を含み得る。酸化スズ材料は、酸化スズ、例えばスズ(II)またはスズ(IV)、あるいはリチウム含有酸化スズ材料を含み得る。分散または懸濁したスズナノ粒子を含む酸化リチウムを形成するための、リチウム金属と酸化スズとの反応は、リチウム金属を酸化スズと混合することによって実施される。酸化スズは混合されるとリチウム金属と反応して、懸濁したスズナノ粒子を有する酸化リチウムを形成する。例えば以下の反応式は、懸濁したスズナノ粒子を有する酸化リチウムを形成するために、本発明の実施形態によって使用される反応の例である。
2Li+SnO→Sn:Li2
4Li+SnO2→Sn:2Li2
4Li+Li2SnO3→Sn:3Li2
先行する反応式それぞれにおいて、得られた複合組成物は、酸化リチウム(Li2O)の骨格内にナノ分散されたスズ(Sn)を含む。
【0023】
同様に、分散したケイ素ナノ粒子を有する酸化リチウムの複合化合物は、リチウム金属を酸化ケイ素材料と反応させることによって形成できる。リチウム金属は、FMC,Inc.によって製造されたような安定化されたリチウム金属粉末を含み得る。酸化ケイ素材料は、酸化ケイ素またはリチウム含有酸化ケイ素を含み得る。分散または懸濁したケイ素ナノ粒子を含む酸化リチウムを形成するための、リチウム金属と酸化ケイ素との反応は、リチウム金属を酸化ケイ素と混合することによって実施される。酸化ケイ素は混合されるとリチウム金属と反応して、懸濁したケイ素ナノ粒子を有する酸化リチウムを形成する。例えば以下の反応式は、その中に懸濁したケイ素ナノ粒子を有する酸化リチウムを形成するために、本発明の実施形態によって使用される反応の例である。
4Li+4SiO→3Si:Li4SiO4
先行する反応式それぞれにおいて、得られた複合組成物は、酸化リチウム(Li2O)の骨格内にナノ分散されたケイ素(Si)を含む。
【0024】
分散したスズおよびケイ素ナノ粒子の両方を有する複合化合物は、リチウム金属を酸化スズ材料および酸化ケイ素材料と反応させることによって形成できる。リチウム金属は、FMC,Inc.によって製造されたような安定化されたリチウム金属粉末を含み得る。酸化スズ材料は酸化スズまたはリチウム含有酸化スズを含み得る。同様に、酸化ケイ素材料は酸化ケイ素またはリチウム含有酸化ケイ素を含み得る。分散または懸濁したスズおよびケイ素ナノ粒子を含む酸化リチウムを形成するための、リチウム金属と酸化スズおよび酸化ケイ素との反応は、リチウム金属を酸化スズおよび酸化ケイ素と混合することによって実施される。酸化スズおよび酸化ケイ素は混合されるとリチウム金属と反応して、分散したスズおよびケイ素ナノ粒子を有する酸化リチウムを形成する。例えば以下の反応式は、懸濁したスズおよびケイ素ナノ粒子を有する酸化リチウムを形成する、本発明の実施形態による反応の例である。
6Li+SiSnO3→SiSn:3Li2
4Li+SnF2+SiO→Si:Sn:2LiF:Li2
先行する反応式において、得られた複合組成物は、酸化リチウムの骨格内にナノ分散されたスズおよびケイ素を含む。
【0025】
本発明の実施形態によって形成されたスズナノ粒子、ケイ素ナノ粒子、およびスズ−ケイ素ナノ粒子含有酸化リチウム化合物は、そのような化合物から形成された電極のサイクル寿命にも寄与する。化合物の酸化リチウムマトリクスは、サイクリングの間に電極で発生する容量変化を吸収することができる。そのような変化を吸収するこの能力は、そのような材料から形成された電極の完全性を維持するのに役立つ。加えて、化合物の酸化リチウムは、化合物が電極を形成するために使用されるときに、傍観型原子として作用する。電極内の傍観型原子は、化合物から作製された電極のサイクリングの間にリチウムと反応しない原子である。傍観型原子の存在は、電極が良好なサイクル寿命を維持する能力に関連している。加えて、化合物の酸化リチウムは比較的軽量であり、本発明の化合物から作製された電極に軽量の骨格を提供する。
【0026】
本発明の実施形態の一部の化合物の例を表1に列挙する。化合物の理論容量(mAh/g)および化合物中に存在する傍観型原子の数も列挙する。化合物は、電極、特にアノードの形成に使用される一般的な材料であるグラファイトとも比較する。
【0027】
【表1】

【0028】
本発明の実施形態により、化合物は、他のスズおよびケイ素含有混合酸化物または合金化合物も含み得る。例えば下記式:
Sn1-xSix:αLi2
(上式中、0≦x≦1および1≦α≦3)
によって表される構造を有する単相複合化合物は、本発明の実施形態によって形成できる。加えて、下記式:
Sn1-xSix:αLi2O+γSn1-ySiy:βLi2
(式中、0≦x≦1、1≦α≦3、0≦y≦1、1≦β≦3、および0<γ<1)
によって表される化合物などの2相複合化合物も形成できる。本発明のなお他の実施形態において、化合物は、各種のスズ、ケイ素、および酸化リチウムの要素を含む多相を含み得る。
【0029】
本発明の一部の実施形態において、懸濁したスズナノ粒子、ケイ素ナノ粒子、またはスズおよびケイ素ナノ粒子を有する複合酸化リチウム化合物を形成するために、酸化スズ、酸化ケイ素、または酸化スズおよび/または酸化ケイ素の両方と反応したリチウム金属は、好ましくは安定化されたリチウム金属粉末である。例えばFMC,Inc.によって製造されたような安定化されたリチウム金属粉末。酸化スズおよび酸化ケイ素との反応の間の安定化されたリチウム金属粉末の使用は、不安定化されたリチウム金属を使用する他のプロセスより改善された安全性を提供する。加えて安定化されたリチウム金属粉末は、リチウム金属が反応環境に対して不都合に反応しないようにするための特殊な処理ステップを必要とせずに、本発明の実施形態によって使用できる。
【0030】
本発明の実施形態による複合組成物の表面は、複合組成物が安全に取扱および使用されるように不動態化することもできる。例えば複合組成物の不動態化は、炭酸リチウム不動態化層を形成するために複合組成物を二酸化炭素と反応させることによって実施できる。不動態化層の存在は、複合化合物を電極製造プロセスの間により容易に、そして安全に取扱いできるようにする。
【0031】
本発明の実施形態による化合物に対する実験は、本発明の化合物から形成された電極が、酸化スズおよび酸化ケイ素によって形成された電極が被った大規模な非可逆容量損失を受けないことを示している。加えて本発明の実施形態による化合物から形成された電極は、大規模な可逆容量を有し、このことはバッテリ中のリチウムに、本発明の実施形態による化合物中のスズナノ粒子、ケイ素ナノ粒子、またはスズおよびケイ素ナノ粒子と合金または脱合金させる。
【0032】
出願人から入手でき、引用によりその全体が本明細書に組み入れられて開示の一部をなす米国特許第5,567,474号、第5,776,369号、および第5,976,403号に例示されている安定化されたリチウム金属粉末は、スズ(II)、スズ(IV)、ケイ素(II)、およびケイ素(IV)酸化物を含む、酸化スズおよび酸化ケイ素との広範囲の化学反応を受ける。安定化されたリチウム金属粉末の酸化物との化学反応は、「ほぼ制御できない(酸化スズ(II)と)」から、室温での酸化ケイ素(IV)との反応が「ほぼまたは全く見られない」までであった。反応の制御に役立てるために、反応条件は変更できる。例えば反応条件を制御するためには、反応温度を変更できるか、または選択した反応調節剤を反応物に添加できる。例えば高い反応性の酸化スズ(II)を酸化ケイ素(IV)と混合して、混合物を安定化されたリチウム金属粉末と反応させることができる。混合物と安定化されたリチウム金属粉末との反応は、酸化スズ(II)が酸化ケイ素(IV)の反応のプロモータとして作用するため、より良好に制御できる。反応条件、反応成分、および反応パラメータの注意深い選択により、安定化された酸化リチウムマトリクス中にスズおよびケイ素ナノ粒子の特定の混合物を有する、本発明の実施形態による化合物を形成できる。
【0033】
本発明の実施形態により、スズおよび/またはケイ素前駆化合物は、リチウムの無機塩と反応して、無機リチウム塩のマトリクス中に懸濁または分散したスズまたはケイ素ナノ粒子を有する複合化合物を生成できる。本発明の実施形態によって形成された複合化合物は、バッテリでの使用のための電極、例えばアノードを形成するために使用できる。
【0034】
本発明の実施形態によって使用される前駆化合物としては、スズの無機塩、ケイ素の無機塩、またはスズおよびケイ素の無機塩などのスズおよび/またはケイ素含有化合物を挙げることができる。本発明の実施形態によって使用できる前駆化合物の一部の例としては、これに限定されるわけではないが、スズ、フッ化スズ、炭酸スズ、ケイ素、フッ化ケイ素、および炭酸ケイ素が挙げられる。
【0035】
本発明の実施形態によって使用されるリチウムの無機塩は好ましくは、電解質溶媒に不溶性であり、バッテリで使用される電解質溶媒に特に不溶性である、強酸アニオンを有するリチウムの無機塩を含む。アニオンの例としては、これに限定されるわけではないが、O2-、(CO32-、F-、PO43-、SiO42-、SO42-が挙げられる。例えば本発明の実施形態によって使用されるリチウムの無機塩としては、フッ化リチウム、炭酸リチウム、リン酸リチウム、ケイ酸リチウム、または硫酸リチウムが挙げられる。リチウムの無機塩は1つ以上の前駆化合物と反応でき、無機リチウム塩のマトリクス中に懸濁または分散したスズおよび/またはケイ素ナノ粒子を有する複合化合物を形成する。
【0036】
例えばスズおよび/またはケイ素の前駆化合物を含有するフッ化物はリチウム含有化合物と反応して、下記式:
Sn1-xSix:αLiF
(式中、0≦x≦1および2≦α≦4)
によって表される複合化合物を形成できる。他の実施形態において、スズおよびケイ素の前駆化合物を含有する炭酸塩はリチウム含有化合物と反応して、下記式:
Sn1-xSix:αLi2CO3
(式中、0≦x≦1および1≦α≦3)
によって表される複合化合物を形成できる。本発明の実施形態による複合化合物の構造は、様々なスズ、ケイ素、およびリチウム含有化合物の要素を有する、構造的に単相または複数相であり得る。
【0037】
本発明の実施形態による炭酸塩ベース複合化合物も、本発明の実施形態による酸化リチウムベース複合化合物を二酸化炭素と反応させて、それにより酸化リチウム化合物を炭酸リチウム化合物に変化させることによって形成できる。
【0038】
本発明の他の実施形態により、リチウムおよびスズ、リチウムおよびケイ素、またはリチウム、スズ、およびケイ素の合金粉末に制御酸化を受けさせて、分散したスズ、ケイ素、またはスズおよびケイ素を有する酸化リチウムのマトリクスを形成させる。
【0039】
本発明の実施形態で使用できるリチウムおよびスズ、リチウムおよびケイ素、またはリチウム、スズ、およびケイ素の合金粉末は、合金の形成で既知であるかなり多数の方法で、例えば合金を形成するための化合物のボールミル粉砕または溶融合金混合物の噴霧スプレーの工業的慣行によって形成できる。例えば下記式:
Sn1-xSixLi2α
(式中、0≦x≦1、および1≦α≦4)
で表されるスズ、ケイ素、およびリチウムの合金粉末は、本発明の実施形態によって形成できる。本発明の実施形態によって形成および使用される合金の組成は、合金を形成するのに使用される各種化合物の量を制御することによって制御できる。加えて本発明の実施形態によって形成された合金の表面は、粉末の取扱品質および安全性を向上させるために、二酸化炭素と反応させることなどによって、不動態化することができる。
【0040】
リチウム金属およびケイ素の混合物の1つの実施形態において、スズ、またはケイ素−スズ粉末の混合物をアルゴンなどの不活性ガス下の容器内で激しく撹拌しながら800℃まで加熱して、溶融合金を形成する。合金粉末は、ノズルを通じて溶融合金をアルゴン充填チャンバーにスプレーすることによってスプレー噴霧器を通じて作製され、冷却した粉末は平皿に収集される。リチウムおよびケイ素スズ、またはケイ素−スズの混合物のモル比は、最終生成物の所望の組成に応じて調節できる。
【0041】
例えば最終生成物がSi:3Li2OまたはSi:3Li2CO3を目的とする場合、溶融合金中の最初のリチウム対ケイ素比を6:1とするのがよい。最終生成物がLi4,4Si:3Li2OまたはLi4,4Si:3Li2CO3を目的とする場合、溶融合金中の最初のリチウム対ケイ素は10.4:1とするのがよい。溶融液滴の飛翔中に温度が約630℃以下に降下するため、Li4,4Si相が最初に固化して、溶融リチウム中にナノ粒子として沈殿する。温度が飛翔中にリチウム融点の約180℃以下にさらに降下するので、液滴全体が固化して、リチウム中に埋め込まれたナノLi4,4Siを有する粒子を形成する。
【0042】
固体粉末が収集されると、固気相リアクターまたは固液相リアクターのどちらかにおいて制御された雰囲気下での変換または適切な化学薬品を使用することによって、それをLiySi:αLi2O、LiySi:αLi2CO3、LiySi:2αLiF(0≦y≦4.4、および1≦α≦4)またはナノリチウムケイ素または他のリチウム塩に埋め込まれたケイ素に変換することができる。
【0043】
リチウム含有マトリクス中に分散したスズ、ケイ素、またはスズおよびケイ素を有する複合化合物は、本発明の実施形態によるスズ、ケイ素、およびリチウム含有合金から形成できる。複合化合物は、スズおよびリチウム含有合金、ケイ素およびリチウム含有合金、またはスズ、ケイ素、およびリチウム含有合金に制御酸化を受けさせて、合金の成分を選択的に酸化することによって形成できる。合金の酸化は、リチウムの一部のみ、リチウムの全て、スズまたはケイ素の一部、もしくはリチウムの全ておよびスズおよび/またはケイ素の一部が酸化されるように制御できる。あるいはフッ化リチウムまたは炭酸リチウムをそれぞれ形成するための制御フッ素化または制御炭酸化を使用できる。
【0044】
リチウムは、スズおよびケイ素よりも化学ポテンシャルの大きな変化を示し、それゆえスズおよびケイ素の前に酸化する。したがって本発明の実施形態による合金粉末の酸化、フッ素化または炭酸化は、合金が暴露される酸素、フッ素化、または炭酸化の量を制限することによって制御できる。合金粉末の組成および続いての合金粉末の酸化、フッ素化または炭酸化の度合いを制御することによって、本発明の実施形態の複合化合物の構造および化学的構成を制御できる。酸化リチウム、フッ化リチウムまたは炭酸リチウム、スズおよびケイ素の特定の量を有する複合化合物を形成できる。
【0045】
例えば下記式:
Sn1-xSixLi2α
(式中、0≦x≦1および1≦α≦4)
によって表されるリチウム、スズ、およびケイ素合金粉末は、合金粉末中のリチウムのみが酸化されて、Sn1-xSix(0≦x≦1)が酸化リチウムマトリクス中に分散したままであるように、酸素欠乏制御環境にて酸化できる。
【0046】
別の例において、下記式:
Sn1-xSixLi2α
(式中、0≦x≦1および1≦α≦4)
によって表されるリチウム、スズ、およびケイ素合金粉末は、合金粉末中のリチウムの部分のみが酸化されるように酸化できる。本発明の実施形態によって得られた複合化合物は、下記式:
LiySn1-xSix:αLi2
(式中、0≦y≦4.4、0≦x≦1、および1≦α≦4)
によって表される。電極を形成するために使用されるとき、この複合化合物は、良好な機械的およびサイクル安定性を有する不活性酸化リチウムマトリクスを用いた電極を提供する。加えて複合化合物中の追加のリチウムは、電極にバッテリ中で使用できるリチウム源を提供する。
【0047】
本発明の実施形態による複合組成物の表面は、複合組成物が安全に取扱および使用されるように不動態化することもできる。例えば複合組成物の不動態化は、炭酸リチウム不動態化層を形成するために複合組成物を二酸化炭素と反応させることによって実施できる。不動態化層の存在は、複合化合物を電極製造プロセスの間により容易に、そして安全に取扱いできるようにする。
【0048】
本発明の複合化合物は、バッテリによる使用のための電極、例えばアノードを形成するために使用できる。本発明の実施形態による複合化合物から形成された電極は、電極を形成するための既知の方法およびプロセスを使用して形成できる。例えばその開示が引用によりその全体で本明細書に組み入れられて、開示の一部をなす米国特許第6,706,447号および米国公開特許出願第20040002005号で開示されたプロセスなどの、電極を形成するためのプロセスを使用できる。
【0049】
本発明の実施形態による複合化合物から形成された電極は、酸化スズまたは酸化ケイ素を用いて形成された他の電極よりも小さい不可逆容量を経験し、化合物のリチウム含有マトリクスに分散したスズナノ粒子、ケイ素ナノ粒子、またはスズおよびケイ素のナノ粒子によって供給される大きな可逆容量を有する。大きな可逆容量は、本発明の実施形態による化合物から形成された電極を使用するバッテリに、改善された容量および性能を提供する。
【0050】
以下の実施例は、本発明の各種の実施形態を例示するために提供されているが、本発明の実施形態を決して制限するものではない。
【実施例1】
【0051】
Sn:2LiF複合材は、下記反応式:
2Li+SnF2→2LiF+Sn
に従って生成された。
【0052】
材料調製:SnF2(99%、Aldrich社)をFMC社による安定化されたリチウム金属粉末(SLMP)と共に使用した。
【0053】
最初にSnF2(1.0g)をSLMP(0.093g)と合せた。SLMP粒子表面への保護コーティングに相当し、それによって反応の完了を確実にする、5%過剰のSLMPが存在した。材料を秤量して、アルゴン充填グローブボックス内で予備混合した。予備混合は、接触時に反応を一切開始させないように、軟質ブラシを用いて行った。予備混合後、材料を10mmステンレス鋼ボール10個(各4g)と共に50mlステンレス鋼ボールミルジャーに装填した。グローブボックス内でジャーを密閉して、Retsch PM100プラネタリボールミルに移した。材料を400rpmにて10分間ボールミル粉砕した。熱を散逸させるために、2分ごとに1分間の休止があった。ボールミル粉砕の後、ジャーをグローブボックスに戻して、開封した。得られた暗灰色粉末を200メッシュスクリーンでふるいにかけた。この反応済み材料を、次のステップでのより大規模な反応の希釈材料として使用した。
【0054】
次にSnF2(2.0g)をSLMP(0.21g)および反応済み複合材料と合せた。混合物を第1のステップに述べたのと同じ方法でボールミル粉砕して、グローブボックスに戻し、200メッシュスクリーンでふるいにかけた。次にふるった材料をXRD(X線回折)および電気化学試験のためにグローブボックスから取り出した。
【0055】
相の同定:相の同定は、回転アノードおよび回折ビームモノクロメータを装備したRigaku RINT 2500X線回折装置で実施した。サンプルをゼロバックグランドプレートに取り付けた。Cu K−α線を使用した。図1に示すように、反応生成物の主ピークは、LiFおよびSnによってインデックスできる。
【0056】
電気化学試験:複合粉末の電極は、85%活性(サンプル)、10%Super Pカーボンブラック(Comilog)および5%PVDF 461(Atofina)の組成のスラリーをコーティングすることによって作製した。材料をNMP(1−メチル−2−ピロリジノン)と合せて、所望の粘稠度のスラリーを生成した。スラリーを1000rpmにて15分間混合して、1%シュウ酸によって処理した銅箔上にキャストした。キャスティングの後、電極を〜80℃にてホットプレート上で乾燥させて溶媒を除去し、次に110℃にてさらに一晩乾燥させた。電極に乾燥したコーティングから穴を開けて、2000lbsにてプレスした。次に、プレスした電極は電池組立ての前に真空下で110℃にて乾燥させた。
【0057】
2325コイン型電池をAr充填グローブボックス(NRCからのコイン型電池ハードウェア)内で組立てた。Celguard 3501膜(Hoechst Celanese)を、バインダーを含まないグラスウール一片と共にセパレータとして使用した。電解質は1:1 EC/DMCに溶解させた1M LiPF6(三菱化学社)であり、対極はリチウム金属箔(FMC社)であった。電池は0.1mAの定電流を用いて試験し、Maccor Series 4000サイクラーで1.5V〜0.0Vの間で充電および放電した。試験電極は約10mgの活性材料を含有していた。
【0058】
Sn:2LFサンプルおよびSnF2自体の両方の最初のサイクルのサイクリックボルタモグラムを図2に示す。示したように、ピークはSnを形成するためにSnF2と反応するLiによるものであり、LiFは複合Sn:2LiFサンプルには非存在である。
【実施例2】
【0059】
Sn:Li2O複合材は、下記反応式:
2Li+SnO→Li2O+Sn
に従って生成された。
【0060】
材料調製:SnO(10μm99%、Aldrich社)をFMC社による安定化されたリチウム金属粉末(SLMP)と共に使用した。
【0061】
最初にSnO(1.0g)をSLMP(0.101g)と合せた。SLMP粒子表面への保護コーティングに相当し、それによって反応の完了を確実にする、5%過剰のSLMPが存在した。材料を秤量して、アルゴン充填グローブボックス内で予備混合した。予備混合は、接触時に反応を一切開始させないように、軟質ブラシを用いて行った。予備混合後、材料を10mmステンレス鋼ボール10個(各4g)と共に50mlステンレス鋼ボールミルジャーに装填した。グローブボックス内でジャーを密閉して、Retsch PM100プラネタリボールミルに移した。材料を400rpmにて10分間ボールミル粉砕した。熱を散逸させるために、2分ごとに1分間の休止があった。ボールミル粉砕の後、ジャーをグローブボックスに戻して、開封した。得られた暗灰色粉末を200メッシュスクリーンでふるいにかけた。この反応済み材料を、次のステップでのより大規模な反応の希釈材料として使用した。
【0062】
次にSnO(2.0g)をSLMP(0.24g)および反応済み複合材料と合せた。混合物を第1のステップに述べたのと同じ方法でボールミル粉砕して、グローブボックスに戻し、200メッシュスクリーンでふるいにかけた。次にふるった材料の一部をXRD(X線回折)のためにグローブボックスから取り出した。
【0063】
相の同定:相の同定は、回転アノードおよび回折ビームモノクロメータを装備したRigaku RINT 2500X線回折装置で実施した。サンプルをゼロバックグランドプレートに取り付けた。Cu K−α線を使用した。図3に示すように、反応生成物の主ピークは、非常に微量の未反応のSnOと共に、Li2OおよびSnによってインデックスできる。
【0064】
電気化学試験:複合粉末の電極はアルゴン充填グローブボックス内で、85%活性、12%Super Pカーボンブラック(Comilog)および3%SBR(Europrene R72613)の組成のスラリーをコーティングすることによって作製した。SBRをp−キシレン(Aldrich社)中に予備溶解させた。過剰のp−キシレンを使用して、所望の粘稠度のスラリーを生成した。スラリーを1000rpmにて15分間混合して、1%シュウ酸によって処理した銅箔上にキャストした。キャスティングの後、電極を〜55℃にてグローブボックスアンチチャンバー内で乾燥させて溶媒を除去し、110℃にてさらに一晩乾燥させた。電極に乾燥したコーティングから穴を開けた。
【0065】
2325コイン型電池をアルゴン充填グローブボックス(NRCからのコイン型電池ハードウェア)内で組立てた。Celguard 3501膜(Hoechst Celanese)を、バインダーを含まないグラスウール一片と共にセパレータとして使用した。電解質は1:1 EC/DMCに溶解させた1M LiPF6(三菱化学社)であり、対極はリチウム金属箔(FMC社)であった。電池は0.1mAの定電流を用いて試験し、Maccor Series 4000サイクラーで1.5V〜0.0Vの間で充電および放電した。試験電極は約7mgの活性材料を含有していた。
【0066】
Sn:Li2OサンプルおよびSnO自体の両方の最初のサイクルのサイクリックボルタモグラムを図4に示す。示したように、ピークはSnを形成するためにSnOと反応するLiによるものであり、Li2Oは複合Sn:Li2Oサンプルには非存在である。
【実施例3】
【0067】
Sn:2Li2O複合材は、下記反応式:
4Li+SnO2→2Li2O+Sn
に従って生成された。
【0068】
材料調製:SnO2(99.9%、Aldrich社)をFMC社による安定化されたリチウム金属粉末(SLMP)と共に使用した。
【0069】
最初にSnO2(1.0g)をSLMP(0.19g)と合せた。SLMP粒子表面への保護コーティングに相当し、それによって反応の完了を確実にする、5%過剰のSLMPが存在した。材料を秤量して、アルゴン充填グローブボックス内で予備混合した。予備混合は、接触時に反応を一切開始させないように、軟質ブラシを用いて行った。予備混合後、材料を10mmステンレス鋼ボール10個(各4g)と共に50mlステンレス鋼ボールミルジャーに装填した。グローブボックス内でジャーを密閉して、Retsch PM100プラネタリボールミルに移した。材料を400rpmにて10分間ボールミル粉砕した。熱を散逸させるために、2分ごとに1分間の休止があった。ボールミル粉砕の後、ジャーをグローブボックスに戻して、開封した。得られた暗灰色粉末を200メッシュスクリーンでふるいにかけた。この反応済み材料を、次のステップでのより大規模な反応の希釈材料として使用した。
【0070】
次にSnO2(2.0g)をSLMP(0.4g)および反応済み複合材料と合せた。混合物を第1のステップに述べたのと同じ方法でボールミル粉砕して、グローブボックスに戻し、200メッシュスクリーンでふるいにかけた。次にふるった材料の一部をXRD(X線回折)のためにグローブボックスから取り出した。
【0071】
相の同定:相の同定は、回転アノードおよび回折ビームモノクロメータを装備したRigaku RINT 2500X線回折装置で実施した。サンプルをゼロバックグランドプレートに取り付けた。Cu K−α線を使用した。図5に示すように、反応生成物の主ピークは、Li2OおよびSnによってインデックスできる。
【0072】
電気化学試験:複合粉末の電極はアルゴン充填グローブボックス内で、85%活性(サンプル)、12%Super Pカーボンブラック(Comilog)および3%SBR(スチレン−ブタジエンゴム)(Europrene R72613)の組成のスラリーをコーティングすることによって作製した。SBRをp−キシレン(Aldrich社)中に予備溶解させた。過剰のp−キシレンを使用して、所望の粘稠度のスラリーを生成した。スラリーを1000rpmにて15分間混合して、1%シュウ酸によって処理した銅箔上にキャストした。キャスティングの後、電極を〜55℃にて加熱されたグローブボックスアンチチャンバー内で乾燥させて溶媒を除去し、110℃アンチチャンバーにてさらに一晩乾燥させた。電極に乾燥したコーティングから穴を開けた。
【0073】
2325コイン型電池をAr充填グローブボックス(NRCからのコイン型電池ハードウェア)内で組立てた。Celguard 3501膜(Hoechst Celanese)を、バインダーを含まないグラスウール一片と共にセパレータとして使用した。電解質は1:1 EC/DMCに溶解させた1M LiPF6(三菱化学社)であり、対極はリチウム金属箔(FMC社)であった。電池は0.1mAの定電流を用いて試験し、Maccor Series 4000サイクラーで1.5V〜0.0Vの間で充電および放電した。試験電極は約18mgの活性材料を含有していた。
【0074】
Sn:2Li2OサンプルおよびSnO2自体の両方の最初のサイクルのサイクリックボルタモグラムを図6に示す。示したように、ピークはSnを形成するためにSnO2と反応するLiによるものであり、Li2Oは複合Sn:2Li2Oサンプルには非存在である。
【実施例4】
【0075】
Si:Sn:2LiF:Li2O複合材は、下記反応式:
4Li+SnF2+SiO→2LiF+Li2O+Sn+Si
に従って生成された。
【0076】
材料調製:SnF2(99%、Aldrich社)およびSiO(−325メッシュ Aldrich)をFMC社による安定化されたリチウム金属粉末(SLMP)と共に使用した。
【0077】
最初にSnF2(2.8g)およびSiO(0.8g)をSLMP(0.53g)と合せた。SLMP粒子表面への保護コーティングに相当し、それによって反応の完了を確実にする、5%過剰のSLMPが存在した。材料を秤量して、アルゴン充填グローブボックス内で予備混合した。予備混合は、接触時に反応を一切開始させないように、軟質ブラシを用いて行った。予備混合後、材料を10mmステンレス鋼ボール10個(各4g)と共に50mlステンレス鋼ボールミルジャーに装填した。グローブボックス内でジャーを密閉して、Retsch PM100プラネタリボールミルに移した。材料を400rpmにて10分間ボールミル粉砕した。熱を散逸させるために、2分ごとに1分間の休止があった。ボールミル粉砕の後、ジャーをグローブボックスに戻して、開封した。得られた暗灰色粉末を200メッシュスクリーンでふるいにかけた。次にふるった材料の一部をXRD(X線回折)のためにグローブボックスから取り出した。
【0078】
相の同定:相の同定は、回転アノードおよび回折ビームモノクロメータを装備したRigaku RINT 2500x線回折装置で実施した。サンプルをゼロバックグランドプレートに取り付けた。Cu K−α線を使用した。図7に示すように、反応生成物の主ピークは、Sn、Si、LiFおよびLi2Oによってインデックスできる。
【0079】
電気化学試験:複合粉末の電極はアルゴン充填グローブボックス内で、85%活性(サンプル)、12%Super Pカーボンブラック(Comilog)および3%SBR(スチレン−ブタジエンゴム)(Europrene R72613)の組成のスラリーをコーティングすることによって作製した。SBRをp−キシレン(Aldrich社)中に予備溶解させた。過剰のp−キシレンを使用して、所望の粘稠度のスラリーを生成した。スラリーを1000rpmにて15分間混合して、1%シュウ酸によって処理した銅箔上にキャストした。キャスティングの後、電極を〜55℃にて加熱されたグローブボックスアンチチャンバー内で乾燥させて溶媒を除去し、110℃にてさらに一晩乾燥させた。電極に乾燥したコーティングから穴を開けた。
【0080】
2325コイン型電池をAr充填グローブボックス(NRCからのコイン型電池ハードウェア)内で組立てた。Celguard 3501膜(Hoechst Celanese)を、バインダーを含まないグラスウール一片と共にセパレータとして使用した。電解質は1:1 EC/DMCに溶解させた1M LiPF6(三菱化学社)であり、対極はリチウム金属箔(FMC社)であった。電池は0.1mAの定電流を用いて試験し、Maccor Series 4000サイクラーで1.5V〜0.0Vの間で充電および放電した。試験電極は約7.5mgの活性材料を含有していた。
【0081】
Sn:Si:2LiF:Li2O複合サンプルの最初のサイクルのサイクリックボルタモグラムを図8に示す。示したように、ピークはSnを形成するためにSnF2およびSiOそれぞれと反応するLiによるものであり、Si、LiFおよびLi2Oは非存在である。
【実施例5】
【0082】
3Si:Li4SiO4複合材は、下記反応式:
4Li+4SiO→Li4SiO4+3Si
に従って生成された。
【0083】
材料調製:SiO(−325メッシュ、Aldrich社)をFMC社による安定化されたリチウム金属粉末(SLMP)と共に使用した。
【0084】
SiO(1.0g)をSLMP(0.17g)と合せた。SLMP粒子表面への保護コーティングに相当し、それによって反応の完了を確実にする、5%過剰のSLMPが存在した。材料を秤量して、アルゴン充填グローブボックス内で混合した。予備混合は、接触時に反応を一切開始させないように、軟質ブラシを用いて行った。予備混合後、材料をアルミナ乳鉢に移した。反応は材料をアルミナ乳棒で粉砕することによって開始した。得られた暗灰色粉末を200メッシュスクリーンでふるいにかけた。次にふるった材料をXRD(X線回折)のためにグローブボックスから取り出した。
【0085】
相の同定:相の同定は、回転アノードおよび回折ビームモノクロメータを装備したRigaku RINT 2500x線回折装置で実施した。サンプルをゼロバックグランドプレートに取り付けた。Cu K−α線を使用した。図9に示すように、反応生成物の主ピークは、SiおよびLi4SiO4によってインデックスできる。
【0086】
より大きいLi対SiO比を用いて上述のサンプル調製手順を繰り返したとき、XRDは、Siピークを犠牲にして、リチウムケイ素合金相に属するピークを検出した。
【0087】
より小さいLi対SiO比を用いて上述のサンプル調製手順を繰り返したとき、SiおよびLi4SiO4に属するXRDピークはより小さく、未反応SiOに属する可視ピークを伴っていた。
【0088】
このように本発明のある実施形態について述べたが、添付請求項によって定義された本発明は、以下で請求されるような多くの明らかな変形がその精神または範囲から逸脱することなく可能であるため、上の説明で述べた特定の詳細事項によって制限されないことが理解されるはずである。以下の請求項は、本出願が全ての管轄において優先権出願と同様に法的要件を確実に満足するように提供され、本発明の全範囲を述べているとして解釈されないものとする。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】実施例1のSn:2LiF複合材料のXRDパターンを示す。
【図2】本発明の実施形態によって形成された電極および実施例1に従ってフッ化スズから形成された電極のサイクリックボルタモグラムを示す。
【図3】実施例2によるSn:Li2O複合材料のXRDパターンを示す。
【図4】実施例2に従って形成された電極および実施例2に従って酸化スズから形成された電極のサイクリックボルタモグラムを示す。
【図5】実施例3によるSn:Li2O複合材料のXRDパターンを示す。
【図6】実施例3に従って形成された電極および実施例3に従って酸化スズから形成された電極のサイクリックボルタモグラムを示す。
【図7】実施例4によるSi:Sn:2LiF:Li2O複合材料のXRDパターンを示す。
【図8】実施例4に従って形成された電極および実施例4に従ってSnF2およびSiOから形成された電極のサイクリックボルタモグラムを示す。
【図9】実施例5による3Si:L4SiO4複合材料のXRDパターンを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム含有骨格内にナノ分散したケイ素および/またはスズを含む化合物。
【請求項2】
前記化合物が単相または多相である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記化合物がSi:Li2O、Si:2Li2O、Si:3Li2O、およびSiSn:3Li2Oからなる群より選択される請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
前記化合物が下記式:
Sn1-xSix:αLi2
(式中、0≦x≦1および1≦α≦3)
によって表される化合物を含む請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
前記化合物が下記式:
Sn1-xSix:αLi2O+γSn1-ySiy:βLi2
(式中、0≦x≦1、1≦α≦3、0≦y≦1、1≦β≦3、および0<γ<1)
によって表される化合物を含む請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
前記リチウム含有骨格の少なくとも一部が安定化されたリチウム金属粉末から形成される請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
前記リチウム含有骨格の少なくとも一部が酸化リチウムから形成される請求項1に記載の化合物。
【請求項8】
前記化合物が単相または多相である請求項6に記載の化合物。
【請求項9】
前記化合物がSn:Li2O、Sn:2Li2O、Sn:3Li2O、およびSiSn:3Li2Oからなる群より選択される請求項6に記載の化合物。
【請求項10】
前記化合物が下記式:
Sn1-xSix:αLi2
(式中、0≦x≦1および1≦α≦3)
によって表される化合物を含む請求項6に記載の化合物。
【請求項11】
前記化合物が下記式:
Sn1-xSix:αLi2O+γSn1-ySiy:βLi2
(式中、0≦x≦1、1≦α≦3、0≦y≦1、1≦β≦3、および0<γ<1)
によって表される請求項7に記載の化合物。
【請求項12】
前記リチウム含有骨格が、酸化リチウム、フッ化リチウム、炭酸リチウム、リン酸リチウム、ケイ酸リチウム、および硫酸リチウムからなる群より選択されるマトリクスを含む請求項1に記載の化合物。
【請求項13】
ケイ素および/またはスズの酸化物をリチウム含有化合物と反応させるステップを含む、リチウム含有構造中にナノ分散したケイ素および/またはスズを含む化合物を形成する方法。
【請求項14】
前記リチウム含有化合物が安定化されたリチウム金属粉末である請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ケイ素および/またはスズならびにリチウムを含む合金を酸素、フッ素または炭素に暴露して、リチウムの少なくとも一部を酸化、フッ素化または炭酸化するステップを含む、酸化リチウム、フッ化リチウムまたは炭酸リチウム構造中にナノ分散したケイ素またはスズを含む化合物を形成する方法。
【請求項16】
酸化リチウムマトリクス中に分散したスズまたはケイ素ナノ粒子を有するアノードを含むバッテリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−535459(P2007−535459A)
【公表日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−508565(P2007−508565)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【国際出願番号】PCT/US2005/012848
【国際公開番号】WO2006/078269
【国際公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(506346750)エフエムシー・コーポレイション (1)
【Fターム(参考)】