説明

ナノ構造体の製造方法およびナノ構造体

【課題】加工対象物のガラス転移温度よりも低い温度雰囲気下にて微細パターン化されたブロック共重合体から成るマスクを介してナノ構造層を形成することができ、微細パターン化技術分野に貢献する。
【解決手段】2種類のポリマー成分から成りガラス転移温度が加工対象物よりも低いブロック共重合体を加工対象物の被ナノ加工面に被覆して被覆層を形成する。この被覆層を、選択的エッチングすることにより微細パターン化されたマスクを形成し、そのマスクを介して加工対象物をエッチングすることによりナノ構造層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ構造体およびナノ構造体の製造方法に関するものであって、2種類のポリマー成分による共重合体から成るマスクを介してナノ構造層を形成するものである。
【背景技術】
【0002】
各種産業部品に適用されているナノ構造体の微細パターン化技術(ナノ加工技術)においては、その産業部品の性能の高度化に伴って重要性が高まっている。例えば半導体素子製造分野の場合、光リソグラフィにより100nmレベルのナノ構造層を形成する微細パターン化技術が広く適用されてきたが、近年においては電子ビーム(または例えばイオンビーム)リソグラフィによる数nm〜数10nmレベルの微細パターン化技術も適用され始めている。
【0003】
前記のような微細パターン化技術で適用されるリソグラフィ用のマスクとしては、例えば2種類のポリマー成分が結合して成るブロック共重合体(いわゆるA−B型ブロック共重合体)を用いて成るマスクが知られている(例えば特許文献1)。このマスクは、前記のブロック共重合体を所望の溶媒に溶解させて加工対象物の被ナノ加工面に被覆し、その被覆層をアニール処理により自己組織化させて相分離し、その相分離されたうちの一方のエッチングレートの大きいポリマー相をエッチングすることによって微細パターン化されたものである。
【0004】
特許文献1では、まず、ポリスチレンとポリメタクリル酸メチルとのブロック共重合体をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶媒に溶解させて成るポリマー溶液を、加工対象物であるガラス基板の被ナノ加工面に対しスピンコート法により塗布し、温度110℃,90秒のプリベークにより溶剤を気化させて膜厚100nmの被覆層を形成している。そして、前記の被覆層において、窒素雰囲気下,温度210℃,4時間のアニール処理を施してポリスチレンとポリメタクリル酸メチルとに相分離させてから、エッチングレートの大きいポリメタクリル酸メチルを選択的エッチング(RIE)することにより、残存したポリスチレンによる微細パターンのマスクを形成している。
【0005】
前記のようにブロック共重合体を相分離および選択的エッチングしてマスクを形成する技術によれば、加工対象物の被ナノ加工面において数nm〜数10nmレベルのナノ構造層を形成できる実現性が高く、シリコン基板,ガラス基板等を加工対象物とするナノ構造体(半導体素子等)に適用され始めているが、その技術を他の分野(例えばシリコン基板よりも熱耐久性の低い樹脂基板等を加工対象物とするナノ構造体)に適用する試みは無かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−258380号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明者は、ブロック共重合体によるマスクを適用してナノ構造体を形成する微細パターン化技術において、アニール処理(例えば特許文献1のような比較的高温・長時間のアニール処理)を行わなくとも、加工対象物の被ナノ加工面を微細パターン化できるようにし、微細パターン化技術分野に貢献することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記の課題を解決すべく創作された技術的思想であり、具体的に、この発明によるナノ構造体の製造方法の一態様は、加工対象物の被ナノ加工面に対し、2種類のポリマー成分による共重合体であって当該加工対象物のガラス転移温度よりも低いガラス転移温度のブロック共重合体から成る被覆層を形成し、当該加工対象物のガラス転移温度よりも低い温度雰囲気下にて被覆層を相分離させた後、その被覆層を選択的エッチングすることにより当該被覆層における一方のポリマー相を除去してマスクを形成し、そのマスクを介して前記被ナノ加工面をエッチングすることを特徴とするナノ構造体の製造方法。
【0009】
なお、前記のブロック共重合体は、常温以下で相分離するもの、例えばポリブタジエン‐ポリエチレンオキサイド‐ブロック共重合体,ポリイソブチレン−ポリカプロラクタン−ブロック共重合体,ポリエチレンオキサイド−ポリラクタイド−ブロック共重合体のうち何れか一つから成るものでも良い。
【0010】
また、この発明によるナノ構造体の一態様は、前記のナノ構造体の製造方法により、樹脂製基板の被ナノ加工面にナノ構造層を形成して成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上、この発明に係るナノ構造体の製造方法およびナノ構造体によれば、加工対象物のガラス転移温度よりも低い温度雰囲気下にて微細パターン化されたブロック共重合体から成るマスクを介してナノ構造層を形成することができ、微細パターン化技術分野に貢献することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】マスク(被覆層)なしの場合のSEM顕微鏡による正面図。
【図2】O2エッチング0.5分の場合のSEM顕微鏡による正面図(A)および断面図(B)。
【図3】O2エッチング1分の場合のSEM顕微鏡による正面図(A)および断面図(B)。
【図4】O2エッチング2分の場合のSEM顕微鏡による正面図(A)および断面図(B)。
【図5】O2エッチング0〜2分の場合の光波長に対する反射率特性図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態に係るナノ構造体の製造方法およびナノ構造体は、2種類のポリマー成分から成りガラス転移温度が加工対象物よりも低いブロック共重合体(非相溶のポリマー鎖が化学結合によって繋がれたブロック共重合体)を適用した微細パターン化技術に関するものである。
【0014】
このようなブロック共重合体においては、例えばアニール処理を行わなくとも、ブロック共重合体のガラス転移温度雰囲気下(かつ加工対象物のガラス転移温度よりも低い温度雰囲気下)であれば2種類のポリマー間のエネルギー的相互作用がエントロピー因子を超えて自己組織的に分離し、鎖長程度のミクロな相分離構造が形成されることとなる。
【0015】
このように相分離するブロック共重合体から成る被覆層を被ナノ加工面に形成し選択的エッチングすることにより、当該相分離されたうちの一方のエッチングレートの大きいポリマー相がエッチングされ、他方のエッチングレートの低いポリマー相が残存するため、微細パターンのマスクが形成される。そして、前記のマスクを介して被ナノ加工面をエッチングすることにより、ナノ構造層(多孔質層)を有するナノ構造体を形成することが可能となる。
【0016】
例えば、シリコン基板等よりも低いガラス転移温度のブロック共重合体自体は種々のものが存在し一般的に知られているものであるが、従来の微細パターン化技術においてはアニール処理によって相分離するブロック共重合体(例えば、ポリスチレンとポリメタクリル酸メチルとのブロック共重合体のようにガラス転移温度が比較的高いブロック共重合体)を適用してシリコン基板等にマスクを形成するという発想しか存在せず、本実施形態のようにガラス転移温度が加工対象物(例えば樹脂製基板)よりも低いブロック共重合体を適用してナノ構造層を形成して微細パターン化技術分野に貢献(例えば、アニール処理を省略してエネルギー消費を抑制)するという技術的思想は無かった。
【0017】
本実施形態に係るナノ構造体の製造方法およびナノ構造体においては、前述のようにガラス転移温度が加工対象物よりも低いブロック共重合体から成る被覆層を当該加工対象物のガラス転移温度よりも低い温度雰囲気下にて相分離させ、その被覆層を選択的エッチングして微細パターン化されたマスクを介してナノ構造層を形成できるものであれば良く、目的とするナノ構造体に応じて技術常識を適宜適用した種々の形態のものが考えられる。
【0018】
例えば、ブロック共重合体は、2種類のポリマー成分から成るものであって、比較的高温・長時間のアニール処理等を施さなくても、加工対象物のガス転移温度よりも低い温度雰囲気下(例えば常温)で所定時間放置して相分離するものであれば良く、目的とするナノ構造体に応じて適宜適用可能である。例えば、ポリブタジエン−ポリエチレンオキサイド−ブロック共重合体(PBd−b−PEO),ポリイソブチレン−ポリカプロラクタン−ブロック共重合体(PIB−b−PCL),ポリエチレンオキサイド−ポリラクタイド−ブロック共重合体(PEO−b−PLA)が挙げられる。
【0019】
加工対象物においては、前記ブロック共重合体よりもガラス転移温度が高いものであれば、当該ガラス転移温度が比較的高いシリコン基板,ガラス基板等だけでなく、ガラス転移温度が比較的低い樹脂製基板等のように、熱耐久性が高くないものを適用することも可能である。
【0020】
ブロック共重合体から成る被覆層を形成する方法としては、例えばブロック共重合体を溶剤に溶解させ、その溶液をスピンコート法等により被ナノ加工面に対し所定厚さ被覆してから、前記の溶剤を気化させて形成する方法が挙げられる。
【0021】
被覆層を選択的エッチングしてマスクを形成する方法としては、例えば適用するブロック共重合体における一方のポリマー相を選択的に酸化(例えば、金属含有の強酸化性物質により酸化)することにより、2種類のポリマー相において所望のエッチングレート比に設定してから、エッチングレートの大きいポリマー相をプラズマエッチング等により選択的に除去する方法が挙げられる。
【0022】
本実施形態によれば、例えば数nm〜数10nmレベルの多孔質のナノ構造層が形成されるため、その多孔質の度合いを調整、すなわち被覆層の選択的エッチング度合い等を調整してナノ構造層を形成することによって、例えば光反射防止作用,フィルタ作用等を有するナノ構造体を製造することが可能となる。例えば、反射防止作用を有するガラスとして窓,モニター画面,レンズ,太陽電池等や、フィルタ作用を有する気液分離膜等や、広表面積の触媒,ガスセンサー等に適用することが挙げられる。
【0023】
<実施例>
まず、ポリブタジエン−ポリエチレンオキサイド−ブロック共重合体(PBd−b−PEO)を2wt%となるようにトルエン(特級99.5%,キシダ化学社製)に溶解して、その溶液をスピンコート(回転数3000rpm,回転時間30秒)により石英ガラス板上に被覆し、前記トルエンを乾燥により気化させて被覆層を形成した。次に、前記被覆層を室温雰囲気下で放置して相分離させた後、0.5wt%四酸化ルテニウム水溶液の蒸気に3分間暴露することによりポリブタジエン相のエッチングレートを小さくしてから、酸素プラズマエッチング(ガス圧力0.2Torr,放電出力30W,エッチング時間0〜2分)によってポリエチレンオキサイド相を選択的に除去することによりマスクを形成した。
【0024】
そして、前記のマスクを介して石英ガラス板をCF4エッチング(ガス流量比CF4:O2:N2=250:300:80/sccm,放電出力800W,エッチング時間1分)して、石英ガラスの被ナノ加工面にナノ構造層(不規則なナノ構造層)を形成することによりナノ構造体を得た。
【0025】
ここで、前記の酸素プラズマエッチングを0分〜2分に設定して得た種々のナノ構造体のナノ構造層をSEM顕微鏡(サーマル電界放出形走査電子顕微鏡;JEOL社製のJSM−7600F)で観察して比較したところ、図1(マスク(被覆層)なし),図2(O2エッチング0.5分),図3(O2エッチング1分),図4(O2エッチング2分)に示すように当該酸素プラズマ時間に応じて数nm〜数10nmレベルの多孔質のナノ構造層が形成されていることを確認できた。
【0026】
また、前記のナノ構造体のナノ構造層に対し300〜800nm波長の光を照射した際の反射率を観測したところ、
図5の曲線l1(マスク(被覆層)なし),l2(O2エッチング0.5分),l3(O2エッチング1分),l4(O2エッチング2分)に示すように、酸素プラズマ時間に応じた光反射防止作用を有することを確認できた。
【0027】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変更等が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変更等が特許請求の範囲に属することは当然のことである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象物の被ナノ加工面に対し、2種類のポリマー成分による共重合体であって当該加工対象物のガラス転移温度よりも低いガラス転移温度のブロック共重合体から成る被覆層を形成し、当該加工対象物のガラス転移温度よりも低い温度雰囲気下にて被覆層を相分離させた後、その被覆層を選択的エッチングすることにより当該被覆層における一方のポリマー相を除去してマスクを形成し、そのマスクを介して前記被ナノ加工面をエッチングすることを特徴とするナノ構造体の製造方法。
【請求項2】
前記のブロック共重合体は、常温以下で相分離することを特徴とする請求項1記載のナノ構造体の製造方法。
【請求項3】
前記のブロック共重合体は、ポリブタジエン‐ポリエチレンオキサイド‐ブロック共重合体,ポリイソブチレン−ポリカプロラクタン−ブロック共重合体,ポリエチレンオキサイド−ポリラクタイド−ブロック共重合体のうち何れか一つから成ることを特徴とする請求項1記載のナノ構造体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のうち何れかの製造方法により、樹脂製基板の被ナノ加工面にナノ構造層を形成して成ることを特徴とするナノ構造体。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−218968(P2012−218968A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85227(P2011−85227)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】