説明

ナノ構造体及びこれを用いた光記録媒体

【課題】ナノメータサイズの金属微粒子分散構造を高度に秩序化された任意の有機高分子中に構築した新規なナノ構造体、及び、このナノ構造体を記録層とする光記録媒体を提供する。
【解決手段】互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖が脱離可能な置換基を有し、該置換基の脱離によって形成された空孔内に、2種以上の金属微粒子を含有しているナノ構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ構造体(ナノメータサイズの構造体)と該ナノ構造体を用いた光記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメータサイズの機能性材料を高分子内に導入して複合化することは、電子的性質、導電的性質、光学的性質、磁気的性質等の新たな機能を発揮する機能性複合材料を得るのに重要な技術である。
従来、機能性材料として金属超微粒子(金属ナノクラスター)を用いた金属−有機複合材料は研究開発が進められている。しかしながら金属超微粒子を任意の高分子内に秩序構造を制御して導入する複合材料の研究開発は未だ実用化には至っていない。
一方光メモリ分野では、基板上に反射層を有する光記録媒体であるCD規格、DVD規格に対応した記録可能なCD−R、DVD−R、DVD+Rが商品化されている。今後このような光記録媒体において、更なる記録容量と小型化が望まれており、記録密度の更なる向上が求められている。
【0003】
本発明に関連すると思われる公知文献としては、ミクロ相分離構造(又は類似の技術)を光記録媒体に用いているものとして特許文献1及び2がある。また、ミクロ相分離構造を磁気記録媒体に用いているものとして特許文献3がある。また、金属微粒子を記録材として用いているものとして特許文献4がある。更に、本出願人の先願に係る文献として、特許文献5〜16がある。このうち、特許文献6ではミクロ相分離構造の一方の相の表面を架橋することが記載されており、特許文献9ではミクロ相分離の一方の相を脱離させ、その孔に金属微粒子を含有させることが記載されている。
この他に、特許文献17には、ミクロ相分離構造のパターン形成方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−209330号公報
【特許文献2】特許第3229048号公報
【特許文献3】特開2001−151834号公報
【特許文献4】特開2000−1049号公報
【特許文献5】特開2003−89269号公報
【特許文献6】特開2003−94825号公報
【特許文献7】特開2004−306404号公報
【特許文献8】特開2004−347978号公報
【特許文献9】特開2005−112934号公報
【特許文献10】特開2005−288809号公報
【特許文献11】特開2006−172584号公報
【特許文献12】特開2006−241278号公報
【特許文献13】特開2006−241282号公報
【特許文献14】特開2006−312253号公報
【特許文献15】特開2007−15221号公報
【特許文献16】特開2007−242188号公報
【特許文献17】特許第3940546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ナノメータサイズの金属微粒子分散構造を高度に秩序化された任意の有機高分子中に構築した新規なナノ構造体を提供すること、また、従来の光ディスクでは実現不可能な、ピックアップレンズの回折限界を超えた記録密度で記録再生可能な光記録媒体を提供することを目的とする。また、金属微粒子を複数用いることにより、多波長での記録を可能とする光記録媒体を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、種々検討した結果、ブロック共重合体のミクロ相分離現象を利用し、その一方の相に2種類以上の金属微粒子を含有させることにより上記目的とするナノ構造体を得た。さらにそのナノ構造体を光記録媒体に利用することで、レーザピックアップの回折限界を超える記録密度で、しかも多波長で記録再生可能な光記録媒体を得るに至った。本発明はこのような知見によりなされたものである。
【0007】
本発明によれば、前記課題は下記(1)〜(9)によって解決される。
(1)互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖が脱離可能な置換基を有し、該置換基の脱離によって形成された空孔内に、2種以上の金属微粒子を含有していることを特徴とするナノ構造体。
(2)前記ミクロ相分離構造が球状、柱状もしくは該各形状もしくは該各形状に類似の構造であることを特徴とする上記(1)に記載のナノ構造体。
(3)上記(1)又は(2)に記載のナノ構造体を記録層として利用したことを特徴とする光記録媒体。
(4)前記記録層を基板上に設けたことを特徴とする上記(3)に記載の光記録媒体。
(5)前記金属微粒子のプラズモン吸収波長が、記録再生用レーザの波長近傍にあることを特徴とする上記(3)又は(4)に記載の光記録媒体。
(6)前記プラズモン吸収波長が、金属微粒子ごとに異なることを特徴とする上記(5)に記載の光記録媒体。
(7)前記金属微粒子が金、銀、プラチナおよびその合金から選ばれる微粒子であることを特徴とする上記(3)〜(6)のいずれかに記載の光記録媒体。
(8)光のスポットで記録再生を行う光記録媒体において、前記ミクロ相分離構造の球状、柱状もしくは該各形状に類似の構造の断面の径が、記録再生光のスポットより小さいことを特徴とする上記(3)〜(7)のいずれかに記載の光記録媒体。
(9)前記ナノ構造体を基板上に形成する場合において、該基板上に溝を形成したものにナノ構造体を設けたことを特徴とする上記(3)〜(8)のいずれかに記載の光記録媒体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ナノメータサイズの金属微粒子を用いることにより、秩序構造内の任意の高分子に制御して導入、複合化することが可能となる、電子的性質、導電的性質、光学的性質等の新たな機能を発揮する機能性複合材料としてのナノ構造体、及びこのナノ構造体を光記録媒体として応用することにより、従来の光ディスクでは実現不可能なピックアップレンズの回折限界を超えた記録密度での記録再生が可能な光記録媒体を提供することができた。また、複数種の異なる吸収波長を示す金属微粒子を用いることにより、複数の記録システムで記録可能な光記録媒体を提供することができた。更に、上記のナノ構造体を光記録媒体に応用し、記録体の面積自体が照射光の回折限界よりも小さなドット列化した光記録媒体とすることで、従来では達成出来なかった超高密度光記録媒体を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明を更に詳細に説明する。
本発明のナノ構造体は、互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖が脱離可能な置換基を有し、該置換基の脱離によって形成された空孔内に、2種以上の金属微粒子を含有しているものである。即ち、このナノ構造体は、互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有しており、そのミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖には、最初、脱離可能な置換基が結合しており、薄膜化した後に置換基を脱離させて空孔を形成し、この空孔に2種以上の金属微粒子を含有させた構造からなる。なお、置換基は酸触媒により脱離されるものであることが好ましい。
【0010】
このナノ構造体の特徴は、複数の金属微粒子がナノメータサイズで、しかも高度に秩序化されて高分子マトリックスの空孔に含有されていることである。その秩序化されたナノメータサイズ構造の形成における原動力として、ブロック共重合体のミクロ相分離現象を利用するものである。ここで言う、秩序化とは、空孔同士の距離(周期)および大きさが揃っていることを意味する。
なお、本発明の方法によれば、最初の製膜はブロック共重合体の溶液から行うことができる。そのため、スピンコート法やキャスト法、ブレード塗布法等の簡便な方法を用いて製膜することができる。また、その後の一部の分離相の除去も加熱のみでよい。その結果、秩序化された空孔を持つナノ構造材料を形成する際、多段階の反応や溶媒浸漬、エッチング等の煩雑でコストもかかる手法を用いなくても良いので好ましい。
【0011】
ミクロ相分離構造としては、球状構造、柱状構造もしくはその類似構造が利用できる。図1に本発明における金属微粒子が含有される一方の分離相の代表的なミクロ相分離構造の模式図を示す。前記構造を用いると、空孔部分が球状、柱状もしくは該各形状に類似の構造となり、また、秩序化された構造を得ることが可能となる。ブロック共重合体として成分が2成分であるジブロック共重合体を用いた場合には球状(a)、柱状(b)、ラメラ状、共連続状の4種類の構造を作ることができるが、成分が3種類以上のブロック共重合体を用いると、構造の種類はほぼ無限に広がる(3種の成分が規則的に配列されている構造(c)、2種の球状部分を有する構造(d)等)。また、その構造を制御するために、他のポリマー(ブロック共重合体等を含む)および低分子を混合しても良い。
【0012】
このように一方の分離相に空孔を形成し、この空孔にナノメータサイズの金属微粒子を導入し、三次元的に高度に構造制御化して複合化することにより、電子的性質、導電的性質、光学的性質等の新たな機能が発現するナノ構造体を作製することが出来る。なお、ナノ構造体を光記録媒体に適用する場合には、金属微粒子としては、光または熱によりその光学特性を変化させる機能を有するものからなることが好ましい。
【0013】
本発明のナノ構造体におけるミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖に結合した脱離基は、脱離した後に気化することが好ましく、その沸点はブロック共重合体のTg(ガラス転移点)以下であることが好ましい。本発明においてはミクロ相分離構造を形成した後に酸触媒反応を進行させるためにさらに加熱をする必要があるが、その際ミクロ相分離構造を崩さないためにはブロック共重合体のTg以下で(短時間)加熱することが好ましいためである。さらに脱離した置換基が気化することにより、ミクロ相分離したブロック共重合体中に空孔ができ、その空孔に金属微粒子を効率よく埋め込むことができる。
【0014】
脱離可能な置換基の好ましい例としては、下記〔化1〕、〔化2〕で示される基が挙げられる。
【0015】
【化1】


【0016】
【化2】


【0017】
本発明におけるブロック共重合体は、互いに非相溶である各ポリマーを組み合わせて合成することができる。2種以上のポリマーの組合せであってもよい。
本発明に用いるブロック共重合体の合成法としては、例えば、スチレン、イソプレン、α−メチルスチレン、クロロメチルスチレン、2ビニルピリジン、アミノスチレン、4−ビニルピリジン、メタクリレート類、ε−カプロラクトン、ブタジエン、ビニルメチルエーテル、1、3−シクロヘキサンジエン、エチレンオキシドや、酸触媒により脱離可能な置換基で保護されたビニルフェノールやアクリル酸、メタクリル酸等の各種モノマーを用いて得られる、当該互いに非相溶のポリマー鎖の末端から重合するリビング重合法(アニオン重合、リビングラジカル重合)、あるいは鎖の中央から合成するリビング重合(アニオン重合)、または末端官能性ポリマーの末端を結合させる合成法(アニオン重合、リビングラジカル重合等)などの重合方法によって合成することができる。
例えば、リビングラジカル重合法によって、酸触媒により脱離する置換基を有するポリスチレンと、ポリメチルメタクリレートとのブロック共重合体、あるいはポリスチレンと、酸触媒により脱離する置換基を有するポリメタクリル酸とのブロック共重合体が合成できる。
【0018】
本発明において好ましく用いられる酸触媒としては、所望のポリマー鎖に結合した置換基を脱離することができるものであり、空孔形成を阻害せず、またミクロ相分離構造を壊すものでなければ、特に制約はなく使用することができる。このような酸触媒としては、酸化合物、あるいは光照射もしくは加熱により酸化合物を発生する化合物(光酸発生剤、熱酸発生剤)を用いることができる。
酸化合物としては、例えば、p−トルエンスルホン酸等の公知の化合物を用いることができる。また、酸化合物を発生する化合物としては、例えば、トリフェニルスルホニウムトリフレート等のスルホニウム化合物、ジフェニルヨードニウムトリフレート等のヨードニウム化合物、ニトロベンジルエステル化合物等いずれも公知の化合物を用いることができる。
上記酸触媒は、適用対象物や、それに応用するナノ構造体の製造工程などに応じて適宜選択される。
【0019】
また、本発明のナノ構造体に用いられるナノメータサイズの金属微粒子(金属ナノクラスター)は、通常有機溶媒中に金属化合物とその還元剤を溶解し加熱することにより得られる。本発明の金属微粒子は、分散安定化剤により保護されたものも用いることができる。分散安定化剤により保護された金属微粒子を得るには、例えば金属化合物とその還元剤を有機溶媒中に溶解し、分散安定化剤を加えた後、熱処理(加熱)することにより得られる。有機溶媒としては、金属化合物を溶解させるもので、還元を阻害しないものであれば特に制約はなくどのようなものでも使用できる。また、金属化合物の還元剤としては、例えば、アルカリ金属水素化ホウ素塩、ヒドラジン化合物、クエン酸及びその塩、コハク酸及びその塩、アミン類など一般に用いられているものが使用できる。
【0020】
分散安定化剤としては、金属微粒子に多点吸着するような主鎖に窒素を含有する高分子化合物が好ましい。また、溶媒中に均一に分散させるために、側鎖に溶媒と親和性が高くなるような置換基を有することが好ましい。
【0021】
本発明のナノ構造体には、金、銀、プラチナ、銅、錫、ロジウム、イリジウム等を用いることが出来るが、保存安定性及び光学特性から、金、銀、プラチナ及びその合金の分散安定化剤で保護された金属微粒子が特に好ましい。
【0022】
また金属微粒子の径は、5nm〜500nm、好ましくは10nm〜200nmが適当である。微粒子の形状は球状、ロッド状等、様々なものをあげることができる。また、プラズモンに由来する吸収を示すものが好ましい。
本発明は、金属微粒子を2種以上用いるものであり、複数の吸収波長の異なる金属微粒子を用いることにより、複数の記録光、すなわち複数のシステムで記録することが可能となる。
【0023】
次に、前記ナノ構造体を、記録材料(記録層)として応用した光記録媒体について説明する。
従来の光記録媒体は、連続した記録材料から構成された記録層(記録材料が存在する層)を備えており、この記録層にレーザビームを照射し、レーザビームの形状に相応した何らかの変化(光学的な変化を伴う物理的、化学的等の変化)を記録材料に対して形成して記録するものである。したがって、最小記録ピットのサイズは、光学系の発振波長とレンズのNAで決定されるレーザビーム径に依存するため、従来の記録再生システムでは、高密度化は基本的にレーザの発振波長やレンズのNAの実用化技術力に左右されてきた。
また、ビーム形状がガウス分布した形状であることと、記録材料として熱または光に対し、明瞭なしきい値で変化する材料はほとんど存在ないこととから、形成されるピットの最外周の大きさや変化量は均一とはならず、その再生信号品質にもバラツク要因が必ず存在し、高品質の信号特性を得るにも限界があった。
【0024】
これに対して、本発明の光記録媒体は、上記従来の光記録媒体の課題を克服した新しい構造の光記録媒体である。すなわち、本発明のナノ構造体を応用した光記録媒体は、連続した層中に、金属微粒子が形成するナノメータサイズの記録層ドットがマトリックスを介して高度に秩序化され、非連続して存在する構造である。この記録層ドットのサイズは、10〜500nmであり、均一に形成されている。
したがって、このような予め形成されたナノメータサイズの記録層ドットを利用することにより、レーザ発振波長やレンズのNAで決定されることなく、最小記録ピットのサイズは、形成する記録層ドットのみで決定されるため、任意の記録密度の記録媒体が設計可能となる。更に、記録ピットの最外周のエッジもこのナノ構造体の構造体で決定されているため、この記録層ドット全体を変化させるように記録することで、ピットのバラツキのない、高品質の信号特性を得ることが可能となる。
【0025】
つぎに、本発明の光記録媒体の構成及びその必要物性について以下に説明する。
【0026】
〈記録媒体構成〉
本発明の光記録媒体は、基板上に前記ナノ構造体からなる記録層を設けるものであるが、その他必要により構成層として、下引き層、金属反射層、保護層、基板面ハードコート層などを設けることができ、目的や要求特性に応じて構成層の形態が選ばれる。本発明の光記録媒体について図面を参考にして説明する。
本発明の光記録媒体は、例えば図2(a)〜(d)や図3(a)〜(e)の概略断面図に示す例のような構成を有するものである。すなわち、図2(a)〜(d)の場合には、基板上に金属反射層を設けずに構成した例を示す。また、図3(a)〜(e)の場合には、金属反射層を設けて構成した例を示す。
本発明の光記録媒体の構成としては、追記型光ディスクの構造(基板上に記録層を設けたものを2枚貼り合わせたいわゆるエアーサンドイッチ構造)としてもよく、CD−R構造(基板上に記録層、反射層、保護層を設ける)としてもよく、CD−R構造を貼り合わせたDVD構造でもよい。なお、上記構成は実施の形態を説明するための例であって他の構成でもよい。
以下に光記録媒体の各構成層について説明する。
【0027】
〈基板〉
本発明の光記録媒体に用いる基板としては、基板側より記録再生を行なう場合のみ使用レーザに対して透明でなければならず、記録層側(基板と反対側)から記録、再生を行なう場合には基板は透明である必要はない。
基板材料としては、例えば、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミドなどのプラスチック、またはガラス、セラミック、あるいは金属などを用いることができる。なお、基板の表面にトラッキング用の案内溝や、案内ピット、更にアドレス信号などのプリフォーマットなどが形成されていてもよい。
【0028】
〈記録層〉
記録層は、レーザ光の照射により何らかの変化(光学特性の変化または形状の変化)を生じさせ、その変化により情報を記録し、光学的に再生可能なものであって、その記録層は、前記のように互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖は、脱離可能な置換基(例えば、酸触媒により脱離する置換基)を有し、該置換基の脱離によって形成された空孔に複数の金属微粒子を含有する構成からなる。
ここで、金属超微粒子として、プラズモン吸収を示す金属超微粒子を用いることがより好ましい。金属超微粒子に光を照射すると金属中の自由電子が光電場により分極され、金属超微粒子表面に電荷が発生して非線形分極が生じる。これによって、電子のプラズマ振動に起因するプラズモン吸収と呼ばれる発色機構に基づく特有の吸収を示す(なお、吸収特性は、金属の種類、粒径、形状などに依存する)。このような金属超微粒子を用いることによって、例えば光記録媒体の光吸収波長を制御することができ、効果的な記録、再生を可能とすることができる。このため、各金属微粒子の光学特性としては、記録再生用レーザ波長近傍にプラズモン吸収を発現するように波長制御することが好ましい。
また、光のスポットで記録再生を行う本発明の光記録媒体においては、前記ミクロ相分離構造の球状、柱状もしくは該各形状に類似の構造の断面の径を、記録再生光のスポットより小さく設定しておくことで、確実な記録再生を行うことができる。
【0029】
〈下引き層〉
下引き層は、(1)接着性の向上、(2)水またはガスなどのバリアー、(3)記録層の保存安定性の向上、(4)反射率の向上、(5)溶剤からの基板の保護、(6)案内溝、案内ピット、プレフォーマットの形成などを目的として設ける。
(1)の目的に対しては、高分子材料、例えば、アイオノマー樹脂、ポリアミド樹脂、ビニル樹脂、天然樹脂、天然高分子、シリコーン、液状ゴムなどの種々の高分子化合物、及びシランカップリング剤などを用いることができる。(2)あるいは(3)の目的に対しては、上記高分子材料以外に無機化合物、例えば、SiO、MgF、SiO、TiO、ZnO、TiN、SiNなどがあり、更に金属あるいは半金属、例えば、Zn、Cu、Ni、Cr、Ge、Se、Au、Ag、Al、などを用いることができる。(4)の目的に対しては、金属、例えば、Al、Au、Ag等や、金属光沢を有する有機薄膜、例えば、メチン染料、キサンテン系染料などを用いることができる。(5)あるいは(6)の目的に対しては、紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂、熱可塑性樹脂等を用いることができる。
上記下引き層の膜厚としては0.01〜30μm、好ましくは0.05〜10μmが適当である。
【0030】
〈金属反射層〉
金属反射層は、要求される反射率に応じて必要な場合に設けられる。
反射層材料としては、単体で高反射率が得られる腐食されにくい金属あるいは半金属等が用いられ、このような材料例としては、Au、Ag、Cr、Ni、Al、Fe、Snなどが挙げられる。これら材料の中で、反射率、生産性の点からAu、Ag、Alが最も好ましい。これらの金属、半金属は、単独で使用してもよく、2種の合金として用いてもよい。
反射層の膜形成法としては、限定するものではないが、蒸着、スッパタリングなどが挙げられる。
反射層の膜厚としては、50〜5000Åが好ましく、更には100〜3000Åが好ましい。
【0031】
〈保護層、基板面ハードコート層〉
保護層及び基板面ハードコート層は、(1)記録層(反射吸収層)を傷、ホコリ、汚れ等から保護する、(2)記録層(反射吸収層)の保存安定性の向上、(3)反射率の向上等を目的として設けられる。これらの目的に対しては、前記下引き層に示した材料を用いることができる。
また、無機材料として、SiO、SiOなども用いることができ、有機材料としてポリメチルアクリレート、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、ポリスチレン、ポリエステル樹脂、ビニル樹脂、セルロース、脂肪族炭化水素樹脂、天然ゴム、スチレンブタジエン樹脂、クロロプレンゴム、ワックス、アルキッド樹脂、乾性油、ロジン等の熱軟化性、熱溶融性樹脂も用いることができる。
上記材料のうち最も好ましい例としては、生産性に優れた紫外線硬化樹脂である。
保護層または基板面ハードコート層の膜厚は、0.01〜30μm、好ましくは0.05〜10μmが適当である。
本発明において、前記下引き層、保護層及び基板面ハードコート層には、記録層の場合と同様に、安定剤、分散剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、可塑剤等を含有させることができる。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0033】
〔実施例1、2〕
ポリ(p−tert−ブトキシカルボニルオキシスチレン)(PBOCST)とポリメチルメタクリレート(PMMA)からなり、PBOCSTの体積分率がそれぞれ16vol%(実施例1)、33vol%(実施例2)で、数平均分子量が約5万のブロック共重合体をリビングラジカル法で合成した。
これらの共重合体をシクロヘキサノンに溶解し、マイカ上にキャスト膜を形成した。さらにこのキャスト膜を140℃で8時間加熱処理したところ、その相分離構造は、SAXS(小角X線散乱)測定、TEM(透過型電子顕微鏡)観察により、それぞれ数十nm以下の球状構造(実施例1)、柱状構造(実施例2)であることが確認された。
次に作製されたキャスト膜をp−トルエンスルホン酸の1wt%イソプロピルアルコール溶液に浸漬させた後に引上げ、90℃で5分間加熱処理を行った。そのキャスト膜をAFM(原子間力顕微鏡)により観察したところ、元PBOCSTの部分に孔があいていることが確認された。この孔は、PBOCSTのp−tert−ブトキシカルボニル基が脱離して、ポリp−ヒドロキシスチレン(PHS)に変化したことにより生じたものである。
さらにこれらの膜に、最大吸収波長がそれぞれ600nmを示す金微粒子と420nmを示す銀微粒子を含むエタノール溶液を滴下し、乾燥した。これらの構造体の表面層のTEM観察により、金属微粒子はPHS部分に偏析していることが確認された。
【0034】
〔実施例3〕
ポリスチレン(PSt)とポリtert−ブチルメタクリレート(PtBMA)からなり、PtBMAの体積分率が28vol%で、数平均分子量が約7万のブロック共重合体をリビングラジカル法で合成した。
この共重合体とトリフェニルスルホニウムトリフレートとを重量比で100:3となるようにシクロヘキサノンに溶解し、マイカ上にキャスト膜を形成した。さらにこのキャスト膜を140℃で10時間加熱処理したところ、このキャスト膜の相分離構造は、SAXS測定、TEM観察により、数十nm以下の柱状構造であることが確認された。
次に、このキャスト膜に光照射を行い、その後に100℃で3分間加熱し、AFM観察を行ったところ、元PtBMAの部分に孔があいていることが確認された。この孔は、PtBMAのtert−ブチル基が離脱して、ポリメタクリル酸(PMAA)に変化したことにより生じたものである。
さらにこの膜を、最大吸収波長がそれぞれ600nmを示す金微粒子と420nmを示す銀微粒子を含むエタノール溶液の中に浸漬し、乾燥した。この構造体の表面層のTEM観察により、金属微粒子は柱状構造(PMAA部分)に偏析していることが確認された。
【0035】
〔実施例4〕
実施例3において、銀微粒子の代わりに780nmの最大吸収波長を示す金微粒子(ナノロッド)を用いたこと以外は、実施例3と同様にして構造体を形成した。この構造体の表面層のTEM観察により、金属微粒子は柱状構造(PMAA部分)に偏析していることが確認された。
【0036】
〔比較例1〕
実施例3において、トリフェニルスルホニウムトリフレートの代わりにp−トルエンスルホン酸を用いたところ、柱状構造は確認されたが、孔は確認されなかった。
【0037】
実施例1〜4の結果からナノメータサイズの球状、柱状の金属微粒子分散構造を有機ポリマー中に構築された薄膜を作製できた。金属微粒子の機能および高度に秩序化された構造とから新たな電子的性質、導電的性質、光学的性質の発現が期待される。
これに対し、比較例1では孔は確認されなかったが、これは、ミクロ相分離構造を構築するために加熱する際に脱離基も一緒に外れてしまい、そのために最初からPSTとPMAAのブロック共重合となってしまっていたためであると考えられる(隙間が埋まった形になってしまう)。
【0038】
〔実施例5〕
実施例3で合成したブロック共重合体のシクロヘキサノン溶液を、厚さ1mm、5cm四方の石英基板上にスピンコートした。ただしスピンコートは溶媒が均一に広がったところで回転を停止した。その後乾燥し、さらに130℃で5時間加熱処理を行った。こうして得られた有機薄膜の相分離構造がTEM観察によりラメラ構造であることを確認した後に、p−トルエンスルホン酸の1wt%メタノール溶液を滴下し、100℃で3分間加熱した。さらに実施例3と同様に金微粒子と銀微粒子の混合溶液に浸漬し、金微粒子および銀微粒子をPMAAからなるラメラ構造内に埋め込み光記録媒体とした。
この光記録媒体に発振波長650nm、ビーム径1μmの半導体レーザを水平方向に1.5μm間隔で1.0cmスキャンさせた。さらに一部重なるように発振波長405nmの半導体レーザでも同様にスキャンさせた。この照射部および未照射部をTEM、光学顕微鏡による観察、顕微分光法による反射率および透過率の測定を行った。観察及び測定の評価結果を表1に示す。
【0039】
〔比較例2〕
金微粒子と銀微粒子の混合溶液に浸漬しないこと以外は、実施例5と同様にして光記録媒体を形成し、記録を行った。これの観察及び測定の評価結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
また、実施例5のキャスト膜はレーザにより記録可能なことが明らかになった。比較例2の評価結果から、PMMA内に埋め込まれた金属微粒子に記録がなされたことは明らかである。
本実験では、金属微粒子ドット径(数十nm)に比較し、大きなビーム径(1μm)の光源で記録したため多数の金属微粒子ドットを一度に記録したが、金属微粒子ドットと同程度のビーム径で記録することで、金属微粒子ドットを個別に記録することが可能なことは明らかである。
なお、記録信号が透過率変化・反射率変化として再生できることから、この現象を利用して再生する方式では、記録再生用レーザの発振波長近傍に、金属微粒子のプラズモン吸収波長を制御することが最も好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】ミクロ相分離構造を示す模式図であって、(a)は球状構造、(b)は柱状構造、(c)は3種類の成分からなる場合の一例、(d)は3種類の成分からなる場合の他の例である。
【図2】(a)〜(d)は本発明の光記録媒体の層構成(金属反射層無し)を示す図である。
【図3】(a)〜(d)は本発明の光記録媒体の層構成(金属反射層有り)を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1 基板
2 記録層
3 下引き層
4 保護層
5 基板面ハードコート層
6 金属反射層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに非相溶であるポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖が脱離可能な置換基を有し、該置換基の脱離によって形成された空孔内に、2種以上の金属微粒子を含有していることを特徴とするナノ構造体。
【請求項2】
前記ミクロ相分離構造が球状、柱状もしくは該各形状もしくは該各形状に類似の構造であることを特徴とする請求項1に記載のナノ構造体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のナノ構造体を記録層として利用したことを特徴とする光記録媒体。
【請求項4】
前記記録層を基板上に設けたことを特徴とする請求項3に記載の光記録媒体。
【請求項5】
前記金属微粒子のプラズモン吸収波長が、記録再生用レーザの波長近傍にあることを特徴とする請求項3又は4に記載の光記録媒体。
【請求項6】
前記プラズモン吸収波長が、金属微粒子ごとに異なることを特徴とする請求項5に記載の光記録媒体。
【請求項7】
前記金属微粒子が金、銀、プラチナ又はその合金から選ばれる微粒子であることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の光記録媒体。
【請求項8】
光のスポットで記録再生を行う光記録媒体において、前記ミクロ相分離構造の球状、柱状もしくは該各形状に類似の構造の断面の径が、記録再生光のスポットより小さいことを特徴とする請求項3〜7に記載の光記録媒体。
【請求項9】
前記ナノ構造体を基板上に形成する場合において、該基板上に溝を形成したものにナノ構造体を設けたことを特徴とする請求項3〜7のいずれかに記載の光記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−49741(P2010−49741A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212842(P2008−212842)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】